最近 7 日分を以下に表示中 / 今月の一覧
2025-11-02 Sun
■ #6033. 「なぜ英語を学ばなければならないの?」を動画にしてみました by Google NotebookLM [hel_education][voicy][heldio][elt][notice][youtube][heltube][ai][helkatsu]
昨日の記事「#6032. なぜ英語を学ばなければならないの? --- 中高生に向けて」 ([2025-11-01-1]) は,2023年5月30日の heldio 配信回「#729. なぜ英語を学ばなければならないの? --- 中学生のための英語史」に基づいた文章である旨を述べました.話し言葉は書き言葉とは異なり,独特の勢いがありますので,ぜひ音声でもお聴きいただければ.
さらに,この同じコンテンツを動画化できないかと思案していたところ,Google NobebookLM で簡単にできることを知り,生成AIの力でアニメ+ナレーションの形に仕立て上げることにしました.細かいチューニングはできなかったので,出来上がりにはツッコミどころがいくつもありますが,初めての試みとして公開してみます.YouTube 「heltube --- 英語史チャンネル」に上げました.動画「なぜ英語を学ばなければならないの? --- 中高生に向けて」(6分49秒)をご覧ください.
どんなものでしょうか? 今後も「hel活×生成AI」はいろいろと試していきたいと思っています.
2025-11-01 Sat
■ #6032. なぜ英語を学ばなければならないの? --- 中高生に向けて [hel_education][voicy][heldio][elt][notice]
中高生に向けて英語と英語史について話すセミナーがあり,何をどう語ろうかと考えていました.2年半ほど前の2023年5月30日に Voicy heldio で「#729. なぜ英語を学ばなければならないの? --- 中学生のための英語史」と題する回を配信し,反響が大きかったことを思い出したので,そのときの内容を,さらにかみ砕いて話したらどうだろうかと思いつきました.そのためにも一度その概要を(自分のために)文章化しておこうということで,以下の文章となりました.議論の順番を多少組み替えたり,2025年時点での生成AIの発展などを意識して議論に組み込んだりしてありますが,主張したいことは変わっていません.
小中高で英語を学んでいる生徒たちや,ビジネスの現場で奮闘する大人たちまで,多くの日本人が抱く共通の疑問があります.それは「なぜ英語を学ばなければならないの?」という純粋な問いです.
特に生成AIによる翻訳・通訳の技術が目覚ましい進化を遂げ,瞬時に,そしてかなり正確に言語の壁を取り払ってくれるようになった現代において,この問いはかつてないほど切実な重みを増しています.膨大な時間とエネルギーを投じる語学学習は,はたして「コスパが悪い」と言わざるを得ないのだろうか,と.
長らく英語史という分野を専攻してきた研究者の視点から,この疑問に対し,絶対的な「答え」ではなく,中高生の皆さんが自ら考えるための3つの「英語史・言語学的ヒント」を提供したいと思います.
1.英語の世界的な地位は「たまたま」である --- 400年前はわずか600万人の言語
まず,英語の世界語としての地位を相対化する必要があります.今でこそ,英語は世界最強の lingua_franca と見なされていますが,この地位は,英語が言語として本質的に優れていたから得られたものではありません.単に,歴史的な「たまたま」の結果です.驚くべきことに,今から400年ほど前の近代英語期,すなわちシェイクスピアが活躍していた頃の英語話者は,イングランドの人口とほぼ同じ,わずか600万人程度でした.これが,後のイギリス帝国による世界的な植民地拡大と,その後のアメリカ合衆国の台頭という,一連の出来事によって,今日の20億人規模へと爆発的に増加したのです.
この歴史的事実は,英語が絶対不変の覇権言語ではないことを示唆しています.将来,中国語やスペイン語,あるいは今ではまだ目立っていない言語が,この地位を脅かすことは十分にあり得ます.英語学習を考える際,まずはその地位が歴史上の偶然の産物であるという冷静な視点をもつことが大事です.
2.世界「4分の1」のリアル --- 万能ではないが,人類史上最大の言語
では,現在の英語の実力はどのくらいなのでしょうか.「英語ができれば世界中の人と話せる」という言説は,残念ながら過大な期待を含んでいます.現在の世界人口約80億人のうち,母語話者と非母語話者を含め英語でコミュニケーションが取れる人は,せいぜい約20億人.つまり,世界の4分の1ほどにすぎません.私自身,学生時代に世界を旅し,観光地から一歩離れると英語が全く通じないという現実には何度となく直面しました.今でも英語は決して万能ではありません.
しかし,この4分の1という割合は,人類史上,単一の言語が達成した最も高いシェアであることは間違いありません.ギリシア語,ラテン語,アラビア語,中国語など,歴史上「世界語」と呼ばれ得る立場にあった他の言語と比較しても,現代世界における英語の通用度は群を抜いています.
過大評価も過小評価もせず,この「80億分の20億」というリアルな実力を知ること.そして,1つの外国語を選ぶとすれば,史上最大のリーチを持つ英語こそが,最大限の実益を伴う選択肢であることもまた事実なのです.
3.英語(外国語)学習から得られる「発想の転換」
生成AIによる言語技術が発達した現代,労力に見合う英語学習の真の価値はどこにあるのでしょうか.それは,コミュニケーションの便にあるというよりも,むしろ私たちの思考生活を豊かにしてくれる点にあるのではないでしょうか.英語を学ぶことは,私たちが普段,無意識のうちに縛られている日本語の「思考の枠組み」から一時的に解放される機会を与えてくれます.
例えば,日本語では親族を「兄,弟,姉,妹」と年齢の上下関係で厳密に区別するのに対し,英語では brother, sister と性別でしか区別しません.また,日本語では「米,稲,ご飯」などと状況に応じて語彙を使い分けるものを,英語では基本的に rice 一語で表現します.こうした言葉の構造的な違いに触れるとき,「なぜ?」という驚きやショックが生じます.この驚きこそが,日本語という非常に強い束縛から抜け出し,もう1つの視点,つまり英語的な思考法を手に入れるということに他なりません.これは単なる翻訳知識では得られない,世界認識の転換です.
日本語と英語は構造的に非常に隔たりが大きい言語です.だからこそ,発想の転換の恩恵を最大限に受けることができるのです.日本語母語話者にとって,状況はむしろ「ラッキー」であると言えます.得られる知的な恩恵の大きさを考えれば,英語学習のコスパは決して悪くありません.
4. 答えは,あなた自身の中に
英語を学ぶべきか否か.その答えは,大人や先生や大人が与える単純なものではなく,学習者1人ひとりが自らの価値観と目標に基づき,主体的に見つけ出す必要があります.歴史的偶然性,リアルな通用度,そして思考を転換する力.これらの多角的な視点から英語と向き合い,中高生の皆さん自身が答えを見つけてください.最後に,この問いを投げかけたいと思います.生成AIが言葉の壁を取り払うかもしれない未来に向けて,あなたはなぜ,あるいは何を求めて英語(やその他の外国語)を学びますか?
関連して,中高生に向けた heldio 配信回として,以下もお聴きください.
・ 「#510. 中高生に向けて モヤり続けることが何よりも大事です」(2022年10月23日)
・ 「#633. 答えを出すより問いを立てよ」(2023年2月23日)
・ 「#1577. helwa メンバー発信!中高生のあなたへ,私は今こうやって英語(外国語)とつきあっています --- 「英語史ライヴ2025」より」
2025-10-31 Fri
■ #6031. ウェブ月刊誌 Helvillian の11月号が公開されました [helwa][heldio][notice][helmate][helkatsu][helvillian][link][hellive2025]

10月28日,helwa メンバー有志による毎月の hel活 (helkatsu) の成果をまとめたウェブマガジン『月刊 Helvillian 〜ハロー!英語史』の2025年11月号が公開されました.今号で通算第13号となります.
まずは今回も編集委員としてご尽力くださった Galois さん,Lilimi さん,Grace さん,umisio さん,そして多彩な記事を寄稿してくださった執筆者の皆さんに,心より感謝と労いの言葉を申し上げます.多忙な日々のなか,これだけの知的好奇心と熱意のこもった記事を世に出し続けているという事実は,驚嘆に値します!
今号の表紙デザインは Galois さんがご担当されており,掲げられているカンタベリー大聖堂の写真は lacolaco さんによる撮影です.そして,今号のトップを飾るのは,その lacolaco さんが寄せられた「表紙のことば」.lacolaco さんが9月にロンドン訪問した折に行なった「英語史的な聖地巡礼 "helgrimage (hel + pilgrimage)" あるいは "hel旅"」について,素直な感想が綴られています.そのhel旅の詳しい紀行は,別途 note 記事の形でも寄稿されていますので,ぜひお読みください.まさに英語史は「英語の歴史」というよりも「英語と歴史」!
そして,今号の特集は「英語史ライヴ2025の余韻に浸る」です.去る9月13日に開催された「英語史ライヴ2025」の興奮と感動を,参加者やリスナーの各々の視点から振り返っています.Galois さんは,ライヴ当日の昼食時に,ジャーゴンの話題で盛り上がった旨を文章にされています.Grace さんは,ライヴと連動して提出された数々の「helwa コンテンツ」への再挑戦の意味を込めて,自身で編まれたコーパスに基づく本格的な調査として「学長式辞の言葉遣いを辿る」を寄稿されています.camin さんは「英語史ライヴ2025レポート:朝から晩まで英語史に浸る一日」として,ライヴ当日の様子を伝えてくださいました.「知的好奇心でつながるコミュニティの熱量と心地よさを改めて感じた一日でした」と締めくくられています.
川上さんは「helwa メンバーのお話を聴きました」と題する記事を前後編に分けて寄稿されており,ライブ参加者へのインタビューを通して,英語を学ぶ意義についての議論を深められています.これを受けて umisio さんは「私は今英語とこうやって付き合っています~」と題する記事で,大人になってからの学びは楽しい,と結論しています.さらに ykagata さんもこの話題を受けて「「英語を学ぶ意義」を中高生に問われても困らないよう備える」として,この問題についての議論と対話を続けられました.ライヴに参加された方も,残念ながら参加できなかった方も,ぜひこの特集記事を読んで,ライヴの熱量とその余韻を味わっていただければと思います.
充実した特集記事群の後には,連載や個別の寄稿記事が続きます.こちらも同じように充実しています.『英語語源ハンドブック』に取材した記事では,ykagata さんによる連載「『英語語源ハンドブック』にこじつけて学ぶドイツ語」が取り上げられています.川上さんによる,すっかりお馴染みの「やってます通信」も健在です.lacolaco さんの「連載 英語語源辞典通読ノート C (cross-crystal)」も順調で,一昨日の hellog 記事でお伝えした通り,C の項目を完走したとのことです(祝).
「無職さん」こと佐久間さんは,今回も「「ご遺体」Leiche/lich と「好き」 like の不思議な関係(英語史)」と「歯科での英語診療科名の語源(英語史)」という,専門分野と英語史をユニークに結びつけた記事を2本寄稿されています.ari さんの連載・寄稿は今回も精力的で,英語史クイズ,通読 DEPN,hel-manga,古英語学習ノートなど,ヴァラエティ豊かな記事が並びます.川上さんは,昨今,助動詞に注目しているようで,must 関連の記事を複数寄稿されています.
フランス語史を研究されている camin さんの「スイスのフランス語圏のフランス語」を書かれています.インドの諸言語や印欧祖語に並々ならぬ関心を寄せる mozhi gengo さんも,語源をめぐる多彩な記事を継続的に公開されており,その日頃からの熱量には頭が下がります.金田拓さんによる Essays の精読シリーズも健在です.古参の umisio さんも,いつもながらの新鮮な視点から英語史や言語問題について数々の記事を寄稿されています.
直近1ヶ月のヘルメイトによる活動を報告する「Helwa のあゆみ」は,編集委員の Grace さんがまとめてくださいました.最後は,お楽しみの編集後記.編集委員4名が,Helvillian が2年目に入ったことを祝い,1年前の立ち上げのことを懐かしみ,今後の展開に期待しつつ,和気藹々とおしゃべりしている様子が,文章から伝わります.
今号も,英語史という専門分野を軸にしながらも,読者の知的好奇心を刺激する多様な話題が揃っています.ウェブ月刊誌 Helvillian は,単なる英語史の知識の集積に留まらず,執筆者それぞれの「英語や言語との付き合い方」を垣間見せてくれます.hellog 読者の皆さんにおかれましては,ぜひ本誌を隅々まで読んでお楽しみください.そして,ぜひ helwa にお入りいただき,一緒にhel活を盛り上げていっていただければ.
2025-10-30 Thu
■ #6030. 「3文字規則」まとめ --- 短い単語に隠された正書法とアイデンティティの問題 [three-letter_rule][orthography][spelling][personal_name][onomastics][sociolinguistics]
本ブログでも何度か取り上げてきた「3文字規則」 (three-letter_rule) についてポイントをまとめます.もっとも基本となる記事は「#2235. 3文字規則」 ([2015-06-10-1])です.
英単語を眺めていると,ごく短い2文字からなるものがいくつかあることに気づきます.an, is, of などです.このような短い語は,いずれも文法的機を帯びた「機能語」 (function word) であり,具体的な意味をもつ名詞や動詞に代表される「内容語」 (content word) ではありません.英語には,機能語は2文字以下の短さが許されるけれども,内容語については必ず3文字以上で綴られなければならないという「3文字規則」 (three-letter_rule) なる珍妙なルールがあります.
繰り返しますが,「3文字規則」が適用されるのは,内容語についてのみです.機能語,すなわち代名詞,助動詞,前置詞,接続詞などに代表される文法機能を担う語で,典型的に頻度がきわめて高い語類については,この規則は適用されません.たとえば,電子メールなどで頻繁に使われる2文字の単語 re (= about) は,頻度が高いものの,機能語であるため「3文字規則」の例外とはみなされません.
では,なぜ内容語は3文字を下限とするのでしょうか.この規則は,単語機能の効率性という実用的な尺度が関わっていると考えられます.一般的に,よく読み書きする単語の綴字は短いほうが効率的です.日常的によく使うわけですから,出番が多く,語形としては短い方に越したことはありません.これは統計的に考えても合理的な方策と言えます.
もちろん「規則」には例外が付きものです.ax (斧), ox (雄牛)のような一般的な例外がすぐに挙がってきますが,ほかにも専門的な例外として Od (ドイツの科学者 K. von Reichenbach が1845年に創成した仮説上の物理学的力)もあります.その他のエキゾチックな語として aa, ai, ba, bo, bu など,ほとんど知られていない例外も挙げられますが,これらの見慣れない例外こそが,むしろ当該規則の一般性を裏付けているとも言えます.
「3文字規則」のパロディと言えるものに,人名に見られる「4文字規則」なるものがあります.人名の綴字には,通常の英単語の正書法に照らせば余分と見なされる文字が含まれることが,しばあります.Anne, Kidd, Locke, Smythe, Webb のような事例です.これは,人名がアイデンティティや存在感を示すための手段であり,視覚的に「盛る」傾向があるためと考えられます.
上記のように,英語の「3文字規則」は,内容語の綴字の下限を定める,実用的な正書法のルールと言えます,一方,人名においては,アイデンティティを強調し,視覚的な存在感を示すために,あえて綴字を長くする「4文字規則」のような副次的な慣習が存在します.
これら2つの規則は,英語の綴字が単なる音の記録ではなく,頻度,効率,視覚性,そして社会的アイデンティティといった多様な要因を組み込んだ記号であることを示唆しているのです.
2025-10-29 Wed
■ #6029. rice with oat crackers から考える,穀物 oat の英語史と食文化史 --- 食レポ from NZ [etymology][loan_word][johnson][countability]

NZ滞在も4週間が経ちました.現地のスーパーマーケット PAK'n'SAVE の特売コーナーを覗くのが日課となりつつあります.先日,店に入ってすぐの特売棚に見つけたのが,「おっ」と思わせる一品,rice with oat crackers でした(なぜ?).要するに,私の好物である「お煎餅」が,日本から1万キロほど離れた地で格安で手に入るとなれば,買わない手はありません.1パック49セント(=約43円)という破格の安さ!
しかし,この名前に一抹の不安を覚えたのも事実です.上記のパッケージの写真に見えるように,純粋な rice crackers ではなく rice with oat crackers となっています.oat 「カラスムギ,燕麦」が混じっているのです.しばしばスコットランドと結びつけられる穀物で,粥状の porridge として食されることが多いものです.私もスコットランド留学中,朝食に食べていた時期がありました(cf. 「#61. porridge は愛情をこめて煮込むべし」 ([2009-06-28-1])).
そんな oat 入りの煎餅を一口食べてみて,ナルホドと頷きました.パリッとした歯応えはまさしく煎餅ながらも,飲み込んだ後に鼻に抜ける香りで,米100%ではないことがすぐに分かりました.この風味が oat なのでした.ただし,若干の違和感がある程度で,決してまずいわけではなく,煎餅としては食べられる代物です.しかも破格のお値段とあれば,及第点といってよいと思います.
さて,oat と聞けば,英語史を学んだことのある者は,ある有名なエピソードを思い浮かべることでしょう.1755年に「ジョンソン博士」こと Samuel Johnson がほぼ独力で編纂した,英語史上に名高い辞書 A Dictionary of the English Language における oat の定義です.Dr. Johnson といえば,18世紀イギリスの大文豪であり,辞書制作の功績もさることながら,当時のスコットランドへの偏見と嫌悪を隠さない人物としても知られています.その辞書で oat を引くと,次のように定義されているのです.
grain, which in England is generally given to horses, but in Scotland supports the people
この定義は,イングランドでは馬の飼料扱いであるにもかかわらず,スコットランドでは人が食っている,という皮肉を効かせた記述となっています.Johnson らしさが炸裂していますね.辞書という公器に個人的な偏見を盛り込んでしまうところに,大文豪のユーモアと傲慢さが見てとれます.このくだりについては「#1420. Johnson's Dictionary の特徴と概要」 ([2013-03-17-1]) でも取り上げていますので,そちらもご覧ください.
さて,この oat について興味深い記述を,ふと手に取った OALD (= Oxford Advanced Learner's Dictionary) 8版における oat の語源欄に見つけました.これは語源そのものの話題というよりも,文化史的な意義をもつ指摘で,想像力を掻き立てる記述でした.
oat Old English āte, plural ātan, of unknown origin. Unlike other names of cereals (such as wheat, barley, etc.), oat is not an uncountable noun and may originally have denoted the individual grain, which may imply that oats were eaten in grains and not as meal.
他の主要な穀物 (barley, corn, rye, wheat) が不可算名詞扱いであるのに対し,oat だけが可算名詞であるという洞察に富む指摘です.barley や wheat などの穀物は,通常,粉に挽くことが多いので,食物としてとらえる際には不定冠詞も複数形の -s もつかない不可算名詞として扱われます.ところが,oat は可算名詞であり,通常 oats のように複数形で用いられます.OALD8 のこの指摘によれば,他の穀物が「粉に挽いてから食べるもの」だったのに対して,oat は少なくともかつては「粒のまま食べるもの」だった可能性が示唆されるというのです.つまり,日本人が米を粉にせず粒のまま炊いて食するのが普通であるように,かつての英語話者たちは oat を粒としてカウントできる形で食べていたのではないか,という食文化史的な考察にまで話が及ぶのです.
統語・形態・意味論上のカテゴリーである可算名詞・不可算名詞の区別が,遥か昔の食習慣にまで思いを馳せるきっかけを与えてくれるとは驚きです.この OALD8 の記述はサラッと書かれていますが,これを読んだとき,鳥肌が立ちました.中世の食文化史に踏み込むにはさらなる調査と裏付けが必要でしょうが,たいへんに魅力のある洞察です.
この rice with oat crackers の食レポを兼ねた話題は,10月23日の helwa で「【英語史の輪 #358】oat 「カラスムギ」について --- NZ食レポ」としてお話ししたものです.
2025-10-28 Tue
■ #6028. hel活の新たな基地が完成 --- ポータルサイト「The HEL Hub」 [helhub][helkatsu][notice][hel_education][hellog]

ここ数日,集中的に取り組んでいたことが一段落し,hellog 読者の皆さんにご報告できる運びとなりました.私の英語史を広める諸々の活動,すなわち「hel活」 (helkatsu) のポータルサイトとして構想していた「The HEL Hub」がおおよそ完成し,先日ウェブ上で公開されました.
これまでのhel活の「基地」といえば,今お読みいただいている「hellog~英語史ブログ」がその役割を果たしていました.16年半ほど毎日更新し,英語史関連の情報を発信してきました.その hellog から派生した音声ヴァージョンが毎日更新の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」で,こちらもおかげさまで4年と5ヶ月ほど継続しています.この2つの媒体が,私の日々のhel活の両輪となっています.
しかし,昨今,私の発信のプラットフォームやメディアが多様化してきており,hellog と heldio に加えて,heldio のプレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪 (helwa)」(有料チャンネル),YouTube 「heltube --- 英語史チャンネル」での heldio 再放送,同僚の井上逸兵さんとともに週2回お届けしている YouTube 「いのほた言語学チャンネル」,そして X(旧 Twitter),Instagram,知識共有サービス Mond といった各種のSNS媒体,さらには講演,インタビュー,雑誌記事,書籍に至るまで,種類も量も随分と増えてきました(おかげさまです).読者やリスナーの皆さんが,これらの英語史コンテンツに容易にアクセスできるように,また私自身にとっても情報発信の整理という意味合いもあり,新たなhel活の基地を作りたいという希望をずっと抱いていました.
そこで今回,突貫工事的な集中作業を経て作ったのが The HEL Hub です.お察しの通り,ここにも私の活動のキーワードである HEL (= History of the English Language)が組み込まれています.英語史をめぐるあらゆる活動の「ハブ」となれば,という願いを込めての名付けです.
この「ヘルハブ」 (helhub) は,今のところトップページ1枚のみの構成です.このシンプルなページから,上に挙げたすべてのhel活の新着コンテンツや新着情報にアクセスすることができます.ページを訪れていただければお分かりになるかと思いますが,helhub はhel活関連情報の最新の「フロー」を重視した作りになっています.「お知らせ」「新着コンテンツ」「hel活メディア一覧」の各セクションでは,生成AIの助けを借りて半自動化されたシステムにより,数時間おきに更新がなされ,常に最新の情報が流れるようになっています.
一方,これまでのようにhel活情報を「ストック」として記録していく役割は,引き続き hellog が担っていくことになります.様々な媒体からの英語史コンテンツのなかでも特に重要な話題は,hellog 記事としても公開・記録し,これまで通りにストック情報を充実させていく方針に変わりはありません.
つまり,日々の最新情報をざっと確認したいという場合には helhub へ,じっくりと英語史の話題を掘り下げたい場合には hellog を訪れていただければと思います.ぜひ hellog とともに helhub も,皆さんの「お気に入り」に登録していただければ幸いです.今後 helhub が皆さんにとって有益な存在となるよう,機能改善や発信方法の工夫などに努めていきます.ぜひ The HEL Hub をよろしくお願いします!
2025-10-27 Mon
■ #6027. lacolaco さん×NotebookLM による英語語源クイズに唸る [heldio][helwa][helmate][helkatsu][kdee][ai][notebooklm][hel_education][etymology][notice][helquiz][kenkyusha]

heldio/helwa のコアリスナー lacolaco さんが,1年9ヶ月ほど前に始められた「英語語源辞典通読ノート」を順調に継続されています.この試みは開始当初に hel活 (helkatsu) 界隈で話題を呼びました.lacolaco さんの挑戦に焚き付けられて,英語史関連の各種辞典を「通読」するシリーズを始められたり,定期的な発信を開始される方々が複数現われてきたのです.
その火付け役の lacolaco さんが,昨日,レギュラーシリーズとしての最新回となる「英語語源辞典通読ノート C (cuckoo-cynical)」を公開され,ついに C の項目をコンプリートされました.おめでとうございます! 一昨日開かれた helwa 北千住オフ会(私はリモートで参加)で,lacolaco さんより記事公開に先立って C 完走の報告を受けたため,皆でお祝いと労いと励ましの言葉を掛けました.
そして,lacolaco さんは,ご自身の C コンプリートの機会に,驚くべき企画を打ち出されました.これまでの記事を Google NotebookLM に読み込ませ,「KDEE通読ノートまとめ-C」と題して,それを「語源クイズ」に仕立て上げてしまったのです.学術的な知識を生成AIという最新のツールに渡し,遊び心に満ちたコンテンツに変える.これは,まさに現代におけるhel活の新しい形を示す,素晴らしい試みです(NotebookLM を利用した別の試みについては,「#5850. 英語語彙史概論の講義内容を NotebookLM でポッドキャスト対談に仕立て上げました」 ([2025-05-03-1]) を参照).
私も早速この C の項目をめぐる語源クイズに挑戦してみましたが,出題の妙に唸らされました.4択問題で出題されるのですが,難易度はかなり高めです.34問中22点,正解率は65%という結果です.中には当てずっぽうで正解したものもあったので,私の実力はもっと低かったということになります.英語史研究者や英語語源愛好家を標榜している者としては,心もとない点数でしたが,1つひとつの問いがたいへん勉強になりました.出題ソースが『英語語源辞典』(研究社)に基づいているので,安心して遊び,学ぶことができます.
このクイズは,単に語源の知識を問うだけでなく,知的好奇心をも刺激してくれます.生成AIが,遊びにも学びにも,これほどまでに有効活用できるとは思いもよりませんでした.現代ならでは語源の楽しみ方ですね.
lacolaco さんのアイディアそのものが秀逸なのですが,それ以前に「英語語源辞典通読ノート」の継続という「仕込み」があったからこそ可能になった試みである点が重要だと考えています.もちろん A と B の項目に関するクイズもすでに作られていますので,lacolaco さんの特別記事「英語語源辞典通読ノートまとめ NotebookLM」経由で訪れていただければ.
lacolaco さん,改めて C の項目の完走,おめでとうございます.そして,今後 D の項目に入っていくとのことですが,引き続き応援いたします!
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
| このページへのアクセス数 | |
| 最終更新時間 | 2025-11-02 10:28 |
Copyright (c) Ryuichi Hotta, 2009--


















