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2025-02-21 Fri
■ #5779. 連結形は語に対応する拘束形態素である [morphology][compound][latin][greek][word_formation][combining_form][terminology][derivation][affixation][morpheme][greek][latin]
接頭辞 (prefix) ぽい,あるいは接尾辞 (suffix) ぽい,それでいてどちらでもないという中途半端な位置づけの形態素 (morpheme) がある.連結形と訳される combining_form である.連結形についての説明や問題点は「#552. combining form」 ([2010-10-31-1]) で触れたとおりだが,『英語学要語辞典』での解説が分かりやすかったので,今回はその項目を引用したい.
combining form 〔言〕(連結形,造語形) 合成語 (COMPOUND) ときに派生語 (DERIVATIVE WORD) の形成に用いられる構成要素をいう.OED で aero- の定義にはじめて用いられたと考えられる.本来はギリシア語・ラテン語系に由来するものが多く,前部連結形(例 philo-)と後部連結形(例 -logy)の2種類がある.連結形は自由形式 (FREE FORM) をなす語 (WORD) の拘束異形態 (bound allomorph) ということができ,本来は独立語として用いられない.しかし,最近では anti (← anti-),graph (← -graph) のような例外的用法も増加している.また,連結形は接頭辞 (PREFIX)・接尾辞 (SUFFIX) に比べて意味が一層具象的であり,連結の関係も通例等位的である.ただし,最近では bio-degradable (= biologically ---) のような例外も認められる.さらに,接頭辞・接尾辞が通例直接互いに連結することがないのに対して,連結形は語や他の連結形のほか,接辞,特に接尾辞と連結することも可能である(例:-morphic (← -morph + -ic),heteroness (← hetero- + -ness)).
「連結形は語に対応する拘束形態素である」という捉え方は,とても分かりやすい.
なお,引用中にある OED への言及についてだが,combining form の項目に初例として以下が掲載されていた.
1884 Gr. ἀερο-, combining form of ἀήρ, ἀέρα
New English Dictionary (OED first edition) at Aero-
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語学要語辞典』 研究社,2002年.
2025-02-20 Thu
■ #5778. connection か connexion か? [x][webster][latin][french][spelling][orthography][ame_bre][voicy][heldio]
5日ほど前に Voicy heldio にて,リスナー lacolaco さん の「英語語源辞典通読ノート」の最新回に基づいて「#1357. 接頭辞 con- の単語はまだ続く --- lacolaco さんの「英語語源辞典通読ノート」最新回より」と題する音声配信をお届けした.
そこで話題の1つとして,「コネクション」に対応する英単語の綴字が connection と connexion の間で揺れを示す件が触れられた.前者の綴字が一般的だがイギリス式では後者の綴字も見られるという.deflection, inflection, reflection についても同様に,メジャーな <-ction> に対してマイナーな <-xion> も辞書に登録されている.一方,complexion については,むしろこちらの綴字のほうが一般的で complection は稀である.
上記の heldio の配信後,この問題に関心を抱かれたリスナーのり~みんさんが,「-ction v.s. -xion」と題して Google Ngram での調査と合わせて記事を書かれている.
私もこの問題が気になって,少し調べてみた.というのも,私自身の研究テーマが英語の屈折 (inflection) の歴史にあり,先行研究の文献内で inflexion の綴字をよく目にしてきたからだ.
Upward and Davidson (167--68) によれば,英語では本来的には <-xion> も普通に見られたが,アメリカの辞書編纂家かつ綴字改革者の Noah Webster (1758--1843) が <-ction> のほうを推奨したのだという.19世紀から現代にかけての <-ction> の一般化に,Webster の影響があったらしい.
-XION and -CTION
Complexion, crucifixion, fluxion are standard ModE forms, and connexion, deflexion, inflexion exist as alternatives to connection, etc.
・ Complexion derives from the past participle plexum from the Lat verb plectere; although ME and EModE used such alternatives as complection, complection, ModE is firm on the x-spelling.
・ Crucifixion derives from the participle fixum of figere 'to fix'; the form crucifixion has been consistently used in the Christian tradition, and *crucifiction is not attested.
・ Fluxion is similarly determined by the Lat participle fluxum; the verb fluere offers no -CT- alternative.
・ Uncertainty has arisen in the case of connexion, deflexion, inflexion because, despite the Lat participles nexum, flexum with x, the corresponding infinitives, nectere, flectere have given rise to the Eng verbs connect, deflect, inflect.
・ In his American Dictionary of the English Language (1828), the American lexicographer Noah Webster . . . recommended the -CT- forms, which (despite ModFr connexion, deflexion, inflexion are today found much more frequently.
単純化していえば <-xion> はラテン語の過去分詞に基づき,かつそれを採用したフランス語的な綴字であり,<-ction> はラテン語の不定詞に基づき,それを推奨したアメリカ英語的な綴字ということになる.crucifixion が <-xion> としか綴られないのは,十字架の表象たる <X> と関係があるのだろうか,謎である.
今回の問題と関連して「#2280. <x> の話」 ([2015-07-25-1]) も参照.
・ Upward, Christopher and George Davidson. The History of English Spelling. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2011.
2025-02-19 Wed
■ #5777. 形容詞から名詞への品詞転換 [adjective][noun][conversion][suffix][agentive_suffix]
Poutsma をパラパラめくっていると,興味深い単語一覧がたくさん見つかる.例えば,形容詞から名詞に品詞転換 (conversion) した主要語リストがおもしろい (Chapter XXIX, 1--3; pp. 368--76) .まず,そのリストの前書き部分を引用しよう.
A large group is made up by such as end in certain suffixes belonging to the foreign element of the language. Some of these seem to be (still) more or less unusual in their changed functions. In the following illustrations they are marked by † . . . . The suffixes referred to above are chiefly: a b l e, al, an, a n t, a r, a r y, a t e, end, e n t, (i) a l, (i) a n, ien, ible, i c, ile, ine, ior, ist, ite, i v e, ut, among which especially those printed in paced type afford many instances. (368)
特定の接尾辞をもつものが多いことは,以下のリストの具体例を眺めるとよく分かるだろう(ただし,Poutsma は1914年の著書であることに注意).
adulterant
aggressive
alien
annual
astringent
barbarian
captive
casual
ceremonial
classic
cleric
clerical
confidant
consumptive
constituent
contemporary
cordial
corrective
†degenerate
dependant
†detrimental
dissuasives
domestic
†eccentric
ecclesiastic
†electric
†effeminate
elastic
†epileptic
†exclusive
†expectant
†exquisite
†extravagant
familiar
fanatic
†fashionable
†flippant
†fundamental
gallants
†human
illiterate
†imaginative
imbecile
immortal
†incapable
†incidental
†incompetent
†inconstant
incurable
†indifferent
†inevitable
†infuriate
innocent
†inseparable
†insolent
†insolvent
†intellectual
†intermittent
intimate
†irreconcilable
†irrepressible
juvenile
†legitimate
lenitive
mandatory
mercenary
†miserable
†militant
moderate
mortal
†national
native
†natural
necessary
negative
†neutral
†notable
†obstructive
ordinary
orient
oriental
original
particular
peculiar
†pragmatic
†persuasive
†pertinent
†politic
†political
preliminary
private
proficient
progressive
reactionary
†regular
†religious
requisite
reverend
revolutionary
rigid
†romantic
†royal
†solitary
specific
stimulant
†ultimate
†undesirable
unfortunate
unseizable
†unusual
vegetable
visitant
voluntary
voluptuary
†vulgar
形容詞から品詞転換した名詞の意味論が気になってきた.もとの形容詞の意味論的特徴も影響してくるだろうし,接尾辞そのものの性質も関与してくるだろう.
・ Poutsma, H. A Grammar of Late Modern English. Part II, The Parts of Speech, 1A. Groningen, P. Noordhoff, 1914.
2025-02-18 Tue
■ #5776. 続,passers-by のような中途半端な位置に -s がつく妙な複数形 [plural][compound][morphology][inflection][phrasal_verb][french][syntax][noun][suffix]
昨日の記事「#5775. passers-by のような中途半端な位置に -s がつく妙な複数形」 ([2025-02-17-1]) に続き,複数形の -s が語中に紛れ込んでいる例について.今日も Poutsma を参照する (142--43) .
フランス語の慣用句に由来する複合名詞(句)の多くは,英語に入ってからもフランス語の統語論を反映して「名詞要素+形容詞要素」の順にとどまる.英語としては,これらの語句の複数形を作るにあたって,名詞要素に -s をつけるのが一般的である.attorneys general, cousins-german, book-prices current, battlesroyal, Governors-General, damsels-errant, heirs-apparent, knights-errant のようにだ(ただし,attorney generals, letters-patents 等もあり得る).
今回の話題の発端である passer(s)-by のタイプ,すなわち名詞要素の後ろに前置詞句・副詞が付く複合語も,名詞要素に -s を付して複数形を作るのが一般的だ.commanders-in-chef, fathers-in-law, heirs-at-law, quarters-of-an-hour, bills of fare; blowings-up, callings-over, hangers-n, knockers-up, lookers-on, lyings-in, standars-by, whippers-in, goers-in, comers-out, breakings-up, droppings asleep, fallings forward など (cf. men-at-arms) .
ただし,表記上ハイフンの有無などについてしばしば揺れが見られる通り,各々の表現について歴史や慣用があるものと思われ,一般化した規則を設けることは難しそうだ.形態論と統語論の交差点にある問題といえる.
・ Poutsma, H. A Grammar of Late Modern English. Part II, The Parts of Speech, 1A. Groningen, P. Noordhoff, 1914.
2025-02-17 Mon
■ #5775. passers-by のような中途半端な位置に -s がつく妙な複数形 [plural][compound][morphology][inflection][phrasal_verb][conversion][noun][suffix]
複数要素からなる複合語名詞について,その複数形は語末に,つまり最終要素に -s を付加すればよい,というのが一般的な規則である.brother-officers, penny-a-liners, forget-me-nots, go-between, ne'er-do-wells, three-year-olds, merry-go-rounds のようにである.
ところが,標記の passers-by のように,一部の句動詞 (phrasal_verb) にに由来し,それが品詞転換した類いの名詞に関しては,事情が異なるケースがある.最終要素となる小辞(前置詞や副詞と同形の語)が語末に来ることになって,そこに直接 -s を付けるのがためらわれるからだろうか,*passer-bys ではなく passers-by として複数形を作るのだ.
「#5215. 句動詞から品詞転換した(ようにみえる)名詞・形容詞の一覧」 ([2023-08-07-1]) を参考にすると,passers-by 型の複数形をとるものとして crossings-out, lookers-on, tellings-off, tickings-off, turn-ups を挙げることができる.
しかし,一筋縄では行かない.同じタイプに見えても,大規則に従って語末に -s を付ける turn-ups, hand-me-downs, lace-ups, left-overs, makeshifts, onlookers の例が出てくる.
関連して,接尾辞 -ful(l) を最後要素としてもつ複合語は,この点で揺れが見られる.現代英語ではなく後期近代英語の事情であることを断わりつつ,原則として handfuls (of marbles), bucketfulls (of fragrant milk) などと最後要素に -s を付して複数形を作るが,ときに (two) table-spoonsfull (of rum), (two) donkeysful (of children), bucketsfull (of tea) のように第1要素に -s をつける異形もみられた.
以上,Poutsma (141--43) を参照して執筆した.単語によって揺れがあるということは,意味的な考慮や通時的な側面の関与も疑われる.興味深い問題だ.
・ Poutsma, H. A Grammar of Late Modern English. Part II, The Parts of Speech, 1A. Groningen, P. Noordhoff, 1914.
2025-02-16 Sun
■ #5774. 朝カルシリーズ講座の第11回「英語史からみる現代の新語」をマインドマップ化してみました [asacul][mindmap][notice][kdee][etymology][hel_education][lexicology][cosmopolitan_vocabulary][pde][word_formation][morphology][neologism][borrowing][loan_word][shortening][link]
2月8日に,今年度の朝日カルチャーセンター新宿教室でのシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」の第11回が開講されました.今回は「英語史からみる現代の新語」と題して,様々な新語導入法を導入しつつ,具体的な現代の新語を紹介しました.また,歴史的な観点から現代英語の新語導入の特殊性に触れました.
現代の新語導入は他言語からの借用 (borrowing) にさほど依存しないという点で,英語史上特異な様相を呈します.一方,現代英語は,短縮 (shortening) という新しい語形成の型を獲得し,それへの依存度を高めてきました.直近100年ほどで,新語導入のトレンドが変わってきたと考えられます.21世紀の英語語彙は,どのように展開していくのでしょうか.
今回の講座は,対面で参加された方がいつも以上に多く,オンラインで参加された方からも質問をいただくなど,活発でインスピレーションに富む回となりました.感謝いたします.第11回の内容を markmap というウェブツールによりマインドマップ化して整理しました(画像としてはこちらからどうぞ).復習用にご参照いただければ.
今回のシリーズ第11回の話題に直接・間接に関わるコンテンツを,hellog と heldio の過去回で取り上げてきましたので,以下をご参照ください.
・ hellog 「#5764. 2月8日(土)の朝カルのシリーズ講座第11回「英語史からみる現代の新語」のご案内」 ([2025-02-06-1])
・ heldio 「#1345. 2月8日(土)の朝カル講座「英語史からみる現代の新語」に向けて」 (2025/02/03)
・ heldio 「#1349. 語根創成 --- ゼロから作る完全に任意の新語をめぐって」 (2025/02/07)
・ heldio 「#1350. CNN English Express 2025年2月号の特集「英語の新語30」」 (2025/02/08)
また,シリーズ過去回のマインドマップについては,以下もご参照ください.
・ 「#5625. 朝カルシリーズ講座の第1回「英語語源辞典を楽しむ」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-20-1])
・ 「#5629. 朝カルシリーズ講座の第2回「英語語彙の歴史を概観する」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-24-1])
・ 「#5631. 朝カルシリーズ講座の第3回「英単語と「グリムの法則」」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-26-1])
・ 「#5639. 朝カルシリーズ講座の第4回「現代の英語に残る古英語の痕跡」をマインドマップ化してみました」 ([2024-10-04-1])
・ 「#5646. 朝カルシリーズ講座の第5回「英語,ラテン語と出会う」をマインドマップ化してみました」 ([2024-10-11-1])
・ 「#5650. 朝カルシリーズ講座の第6回「英語,ヴァイキングの言語と交わる」をマインドマップ化してみました」 ([2024-10-15-1])
・ 「#5669. 朝カルシリーズ講座の第7回「英語,フランス語に侵される」をマインドマップ化してみました」 ([2024-11-03-1])
・ 「#5704. 朝カルシリーズ講座の第8回「英語,オランダ語と交流する」をマインドマップ化してみました」 ([2024-12-08-1])
・ 「#5723. 朝カルシリーズ講座の第9回「英語,ラテン・ギリシア語に憧れる」をマインドマップ化してみました」 ([2024-12-27-1])
・ 「#5760. 朝カルシリーズ講座の第10回「英語,世界の諸言語と接触する」をマインドマップ化してみました」 ([2025-02-02-1])
次回の朝カル講座は.3月15日(土)17:30--19:00に開講予定です.シリーズの最終回となる第12回で,「勘違いから生まれた英単語」と題して,オモシロ語源をもつ英単語を取り上げつつ,英語語彙史を総括する予定です.ご関心のある方は,ぜひ朝日カルチャーセンター新宿教室の「語源辞典でたどる英語史」のページよりお申し込みください.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
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2025-02-15 Sat
■ #5773. 品詞とは何か? --- 厳密に機能を基準にした分類の試み [pos][terminology][linguistics][category][semantics][function_of_language][functionalism][syntax]
昨日の記事「#5772. 品詞とは何か? --- 厳密に意味を基準にした分類は可能か」 ([2025-02-14-1]) で,1つの基準を厳密に適用した場合の品詞論について考え始めた.引き続き『新英語学辞典』の parts of speech の項に依拠しながら,今回は機能のみに基づいた品詞分類を思考実験してみよう.
(3) 機能を基準にした品詞分類. Fries (1952, ch. 6) は品詞を厳密に機能を基準にして分類すべきであると主張し,独自の品詞分類を提案した.語の位置[機能]を基準にして,同一の位置にくる語を一つの語類にまとめた.The concert was good (always). / The clerk remembered the tax (suddenly). / The team went there. の3種の代表的な検出枠 (test frame) を出発点として,文法構造を変えずに,これらの文のどの語の位置にくるかによって,次の4種の類語 (CLASS WORD) --- ほぼ内容語 (CONTENT WORD) に同じ --- を設定し,これらを品詞とした.
第一類語 (class 1 word): concert, clerk, tax, team の位置にくる語
第二類語 (class 2 word): was, remembered, went の位置にくる語
第三類語 (class 3 word): good の位置にくる語
第四類語 (class 4 word): always, suddenly, there の位置にくる語
これ以外は機能語 (FUNCTION WORD) として A から O まで15の群 (group) に分けた.注意すべきは,The poorest are always with us. の poorest は,その形態がどうであろうとその位置から第一類語とするし,また,I know the poorest man. の poorest は,第三類語とするのである.さらに,a boy friend と a good friend の boy も good も同じ第三類語に入れられるのは明らかである.従って a cannon ball の cannon が名詞であるか形容詞であるかの議論も生じてこない.〔もちろんこの場合の cannon は第三類語となる.〕 この分類によれば,一つの語がただ一つの品詞に入れられなくなるのは全くなつのことになり,ある環境にどんな語が現われるかと問われると,名詞とか代名詞とかでなく,1語ずつ現われうるすべての語を答えなければならない.このような分類は方法論の厳密さに価値はあるが,文法体系全体としては余り意味のない場合も生じるかもしれない.
ここまで読むと分かると思うが,「機能」とは「統語的機能」のことである.確かにこれはこれで理論的に一貫している.しかし,実用には供しづらい.『新英語学辞典』の記述の前提には,品詞分類の要諦は実用性にあり,という姿勢があることが確認できる.この点は重要だと思う.
・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.
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最終更新時間 | 2025-02-21 07:59 |
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