hellog〜英語史ブログ     ChangeLog 最新    

cockney - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-09-17 10:36

2018-10-15 Mon

#3458. 標準口語英語の確立 [speech][standardisation][variety][sociolinguistics][cockney][shakespeare][bible][emode]

 英語史における標準化 (standardisation) の話題といえば,第1義的に書き言葉の標準化が念頭に置かれているように思われる.本ブログでも,書き言葉の標準化については様々に紹介してきたが,話し言葉の標準化については扱いが薄かった.「#3356. 標準発音の整備は18世紀後半から」 ([2018-07-05-1]) では発音の標準化を取り上げており,これは話し言葉の標準化の話題の一部を成しはするものの,「話し言葉」と「発音」とは同一ではない.話し言葉には,発音以外に文法や語彙などその他の側面もある.
 話し言葉の標準化について,松浪ほかの「標準口語英語の確立」 (93) に記されている概要を引用する.

書き言葉の標準英語は既に15世紀前半頃までに,ロンドンを中心に形成され,その後教育の普及にともなって急速に広まったと考えられているが,話し言葉の標準語はまだその頃にはなく,EModE 期になって確立した.16世紀になって宮廷を中心に上流階級,文人,大学等で使われた話し言葉が標準語として確立した.これはロンドンで活躍した支配階級の言葉であるから階級方言であって,同じロンドンでも,下層階級の言葉は標準語とは別物で,後にコックニー (Cockney) として発達した.まだ,文法も辞書もない時代のことで,この標準語は,現代語からみれば発音・文法両面で統一性に欠けた,ある意味で自由奔放な英語でもあった.このような英語の状況を背景に登場し,活躍したのが,いうまでもなく英文学史上最大の作家シェイクスピア (William Shakespeare, 1564--1616) である.この大詩人の英語は〔中略〕欽定訳聖書と並んで,近代英語の2つの源泉と呼ばれている.


 ポイントは,話し言葉の標準化が,書き言葉の標準化よりも1世紀ほど遅れて始まったことである.また,その基盤となった変種がロンドンの支配階級の口語だったことも重要である.標準化の最初期には,その変種とて一様ではなく,相当程度の変異を許容する「緩い」ものだったといってよいが,少なくとも現代の標準口語英語の源泉をそこに見出すことができる.私たちの学んでいる「英会話」は,500年前のロンドンの上流サークルのおしゃべりに起源をもつということである.

 ・ 松浪 有 編,小川 浩,小倉 美知子,児馬 修,浦田 和幸,本名 信行 『英語の歴史』 大修館書店,1995年.

Referrer (Inside): [2018-11-20-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2013-04-25 Thu

#1459. Cockney rhyming slang [cockney][slang][rhyme][word_play]

 昨日の記事「#1458. cockney」 ([2013-04-24-1]) で予告したとおり,今日は cockney 変種を特徴づけるとされる Cockney rhyming slang を紹介する.導入にあたっては,この3月に出版された井口・寺澤による放送大学教材『英語の軌跡をたどる旅 ― Adventure of English を読む ―』の文章を引用したい (159) .

コックニーが話されているロンドンのイーストエンドでは,19世紀半ばからしばしば「押韻スラング」([Cockney] rhyming slang) といわれるものが用いられてきました。これは,たとえば head(頭)のことを言うのに head と韻を踏む loaf of bread(一個のパン)のような語句を使う語法を指します。ほかには,garden gate (=eight), apple and pears (=stairs), white mice (=ice) などが押韻スラングとしてよく知られています。こうした押韻スラングは,しばしば押韻部分が省かれて loaf だけで head(頭),garden だけで eight の意味で用いられたりすることもあります。そのため,それを知っている人以外には理解不能なので,もともとはイーストエンドの「闇の世界」だけで通用する暗号または隠語として使われていました。以下の押韻スラングがどのような語を表わしているか調べてみましょう。

(1) cock and hen(ヒント:数字)
(2) bacon and eggs(ヒント:身体の一部)
(3) daisy roots(ヒント:履物)
(4) gold watch(ヒント:酒の種類)
(5) Tony Blair(ヒント:身体の一部)


 それぞれ答えは, (1) ten, (2) legs (3) boots (4) Scotch (5) hair である(←クリック).
 Cockney rhyming slang の起源や歴史はよく知られていないが,犯罪者の隠語から始まった可能性がある.17--18世紀にはその形跡が見られ,1930年代にはロンドンの West End で流行し,第2次世界大戦後はメディアによって一般に広く知れわたるようになった.
 イギリス留学中,とある余興のクイズ大会で Cockney rhyming slang の問題を出されたことがある.どんな問題だったかは失念したが,これがイギリスにおいて典型的な英語の言葉遊びであるということがわかった.
 ウェブサイトとしては,Cockney Rhyming Slang from London を参照.そのイントロの What is Cockney rhyming slang? も読んでおきたい.

 ・ 井口 篤,寺澤 盾 『英語の軌跡をたどる旅 ― Adventure of English を読む ―』 放送大学,2013年.

Referrer (Inside): [2014-08-29-1] [2013-04-26-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2013-04-24 Wed

#1458. cockney [cockney][variety][sociolinguistics][estuary_english][walker][popular_passage]

 cockney とは,本来はロンドンの Cheapside にある St Mary-le-Bow 教会(先日ロンドンで撮った写真を下掲)の鐘 (Bow bells) の音が聞こえる地域で生まれ育ったロンドン子とその言葉を指した.現在は,ロンドンの下町方言,特に East End に住む労働者階級の俗語的な変種を指す.

St Mary-le-Bow

 cockney は社会的には低く見られてきた変種であり,「#1456. John Walker の A Critical Pronouncing Dictionary (1791)」 ([2013-04-22-1]) で触れたように,規範主義の時代の正音学者 John Walker (1732--1807) などは cockney 訛りを何にもまして非難したほどだ.George Bernard Shaw (1856--1950) による Pygmalion (1913) のミュージカル版 My Fair Lady で,Higgins 教授が cockney 訛りのきつい Eliza に発音矯正するシーンを思い出す人もいるだろう([2010-11-19-1]の記事「「#571. orthoepy」を参照).
 さて,cockney という語は,14世紀後半の Piers Plowman A に Cokeneyes として初出するが,当時の語義は「鶏の卵」である.cock (おんどり)の複数属格形 cokenei (卵)を加えた複合語である(おんどりは卵を産まないから,冗談語として生じたのだろう; ei の語形については,[2010-03-30-1]の記事「#337. egges or eyren」を参照).ここから,「できそこないの卵」,「甘ったれの軟弱な子」,「都会人」へと意味が発展した.「ロンドン子」の語義は1600年に初出し,1617年には J. Minsheu が Ductor in linguas: The guide into tongues で先にも触れた有名な「定義」を与える.以下,OED の用例より.

A Cockney or Cockny, applied only to one borne within the sound of Bow-bell, that is, within the City of London, which tearme came first out of this tale: That a Cittizens sonne riding with his father..into the Country..asked, when he heard a horse neigh, what the horse did his father answered, the horse doth neigh; riding farther he heard a cocke crow, and said doth the cocke neigh too? and therfore Cockney or Cocknie, by inuersion thus: incock, q. incoctus i. raw or vnripe in Country-mens affaires.


 英語の変種としての cockney は,主として標準変種とは異なる発音をもつものとして言及される.例えば,近年イギリスで影響力を広げつつある変種 Estuary English (see [2010-08-04-1], [2010-08-05-1]) の発音とも関連づけられている.しかし,cockney の特徴は発音にとどまらない.伝統的に有名なのは Cockney rhyming slang である.これについては,明日の記事で.

Referrer (Inside): [2013-04-26-1] [2013-04-25-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2010-08-05 Thu

#465. Estuary English で進行中の母音推移 [estuary_english][bre][gvs][phonetics][cockney]

 昨日の記事[2010-08-04-1]で取り上げた Estuary English で進行中といわれている母音推移 ( vowel shift ) がある.1400--1700年頃に起こったとされる大母音推移 ( Great Vowel Shift; see [2009-11-18-1]) と同様に,長母音・二重母音系列に起こっているが,推移の方向は下から上ではなく,むしろ上から下である.結果として Cockney と結びつけられることの多い長母音・二重母音の音価と重なっており,この点では Estuary English と Cockney との境目は曖昧である.以下は Aitchison, p. 193 の図をもとに作成した.

Vowel Shift in Estuary English

 結果として,伝統的な発音に慣れている古い世代や EFL 学習者の聴き手にとっては,以下のような誤解や意味不明な表現が生じてしまうので注意が必要である.

Don't be meanDon't be main [mein]
The main roadThe mine [main] road
It's mineIt's moyne [moin]
See the moonSee the moun [maun]
Don't moanDon't moun [maun]
A little moundA little meund [meund]


 ・ Aitchison, Jean. Language Change: Progress or Decay. 3rd ed. Cambridge: CUP, 2001.

Referrer (Inside): [2013-04-24-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2010-08-04 Wed

#464. Estuary English [estuary_english][bre][rp][cockney][variety]

 近年イギリスに出現して影響力を広げつつある英語の変種がある.1983年に Rosewarne によって Estuary English 「河口英語」と名付けられた新しい変種で,伝統的な RP (Received Pronunciation) でもなく Cockney でもない独特な中間的な発音をもち,テムズ河口からロンドンへと勢力を広げている.1994年にイギリスの教育長官が学童に Estuary English の発音をやめさせるキャンペーンを張ったくらいだから,その拡大力の強さが知れる.名付け親の Rosewarne によれば,Estuary English は次のように説明されている.

Estuary English, a new accent variety I first described in 1984, is neither Cockney nor RP, but in the middle between these two. 'Estuary English . . . is to be found in its purest form along the seaward banks of the Thames, whither it has drifted from the eastern end of the capital' (leader article in the Independent on Sunday of 18 June 1995). The heartland still lies by the banks of the Thames and its estuary, but it has spread to other areas, as the Sunday Times announced on 14 March 1993 in a front-page headline 'Estuary English sweeps Britain'. Experts on British English agree that it is currently the strongest influence on the standard spoken form and that it could replace RP as the most influential accent in the British Isles. (Rosewarne 1996: 15 quoted in Jenkins 130--31)



 英語のお膝元のイギリスで生じている変種なだけに,議論も活発だ.Rosewarne はいずれ RP が Estuary English を飲み込むかあるいは逆のことが起こるのではないかと予想しているが,論者のなかには Estuary English は話者個人内の文体にすぎず,社会的な変種としては存在しないという者も少なくない.University College London の Estuary English では多くの情報や議論が得られる.Varieties of English の "British English" のページにも Estuary English の言語的な特徴などの有用な情報がある.

 ・ Jenkins, Jennifer. World Englishes: A Resource Book for Students. 2nd ed. London: Routledge, 2009.
 ・ Rosewarne, D. "Changes in English Pronunciation and Some Implications for Teachers and Non-Native Learners." Speak Out! Newsletter of the IATEFL Pronunciation Special Interest Group. No. 18 (1996): 15--21.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow