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passive - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-11-17 12:29

2019-10-15 Tue

#3823. show の元来の意味は「見せる」ではなく「見る」 [verb][semantic_change][causative][passive][voice]

 現在 show の中心的な語義は「見せる,示す」だが,古英語では基本的に「見る」 を意味した.Hall の古英語辞書で ±scēawian をみると,"look, gaze, see, behold, observe; inspect, examine, scrutinize; have respect to,look favourably on; look out, look for, choose; decree, grant" などの訳語が与えられている.最後の "decree, grant" には現代風の語義の気味も感じられるが,古英語の主たる意味は「見る」だった.
 それが,中英語にかけて「見える」や「見せる」など,受動的な語義 (passive) や使役的な語義 (causative) が発展してきた.「見せる人」「見る人」「見られる物」という,この動詞の意味に関わる参与者 (participants) 3者とその態 (voice) を取り巻く語義変化とみることができるが,なぜそのように発展することになったのかはよく分かっていない.語根は印欧祖語にさかのぼり,ゲルマン諸語でもすべて「見る」を意味してきたので,英語での発展は独自のものである.OEDshow, v. に,この件について解説がある.

In all the continental West Germanic languages the verb has the meaning 'to look at' (compare sense 1), and the complex sense development shown in English, in particular the development of the causative sense 'to cause to be seen' (which may be considered the core meaning of all the later sense branches), is unparalleled. Evidence for this development in Old English is comparatively late (none of the later sense branches is attested before the first half of the 12th cent.); however, similar uses are attested earlier (albeit rarely) for the Old English prefixed form gescēawian, especially in the phrase āre gescēawian to show respect or favour (compare quot. OE at sense 26a(a)), but also in senses 'to present, exhibit' (one isolated and disputed attestation; compare sense 3a) and 'to grant, award' (compare sense 18). The details of the semantic development are not entirely clear; perhaps from 'to look at' to 'to cause to be looked at or seen' (compare branch II.), 'to present, exhibit, display' (compare branches II. and IV.), 'to make known formally', 'to grant, award' (compare branch III.), although all of the latter senses could alternatively show a development via sense 2 ('to look for, seek out, to choose, select'). Compare also quot. OE at showing n. 2a, but it is uncertain whether this can be taken as implying earlier currency of sense 24.


 引用にもある通り,古英語にも「見せる;与える」の例は皆無ではない.OED からいくつか拾ってみると,次の如くである.

 ・ [OE Genesis A (1931) 1581 Þær he freondlice on his agenum fæder are ne wolde gesceawian.]
 ・ lOE Extracts from Gospels: John (Vesp. D.xiv) xiv. 9 in R. D.-N. Warner Early Eng. Homilies (1917) 77 Se mann þe me gesicð, he gesicð eac minne Fæder. Hwu segst þu, Sceawe us þone Fæder?
 ・ lOE Anglo-Saxon Chron. (Laud) anno 1048 Þa..sceawede him mann v nihta grið ut of lande to farenne.


 中英語になると,MEDsheuen v.(1) が示す通り,元来の「見る」の語義も残しつつ「見せる」の語義も広がってくる.初期中英語から例は挙がってくるようだ.
 非常に重要な動詞なだけに,意味変化の原因が知りたいところである.ちなみに,show は,意味だけでなくスペリング,発音,活用についても歴史的に興味深い変化を経てきた動詞だ.以下の記事を参照.

 ・ 「#1415. shewshow (1)」 ([2013-03-12-1])
 ・ 「#1416. shewshow (2)」 ([2013-03-13-1])
 ・ 「#1716. shewshow (3)」 ([2014-01-07-1])
 ・ 「#1806. ARCHER で shewshow」 ([2014-04-07-1])
 ・ 「#1727. /ju:/ の起源」 ([2014-01-18-1])
 ・ 「#3385. 中英語に弱強移行した動詞」 ([2018-08-03-1])

 ・ Hall, John R. C. A Concise Anglo-Saxon Dictionary. Rev. ed. by Herbert T. Merritt. Toronto: U of Toronto P, 1996. 1896.

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2019-03-17 Sun

#3611. なぜ He is to blame.He is to be blamed. とならないのか? [infinitive][syntax][passive][voice][construction][sobokunagimon]

 標題の He is to blame. は「彼は責められるべきだ;彼には責任がある」という意味のフレーズだが,厳密に態 (voice) を考慮すれば,「彼」は「責められる」立場であるから He is to be blamed. と不定詞も受け身になるべきだと思われるかもしれない.実際,後者でも意味は通じるし,もちろん文法的なのだが,慣習的なフレーズとしては前者が用いられる.なぜだろうか.
 これは,動名詞について解説した「#3604. なぜ The house is building. で「家は建築中である」という意味になるのか?」 ([2019-03-10-1]) と「#3605. This needs explaining. --- 「need +動名詞」の構文」 ([2019-03-11-1]) とも関係する.動名詞と同様に不定詞 (infinitive) も動詞の名詞化という機能をもっている.動名詞や不定詞により動詞が名詞化すると,もともとの動詞がもっていた態の対立は中和し,能動・受動の区別なく用いられるようになる.to blame は,したがってこの形で能動的に「非難すべき」ともなり得るし,受動的に「非難されるべき」ともなり得るのである.区別が中和されているということは,文脈によりいずれにも解釈し得るということでもある.He is to blame. の場合には,意味上,受け身として解釈されるというわけだ.There is a house to let.I have something to say. のような「形容詞的用法」の不定詞も,態の中和という発想に由来する(中島,p. 238).
 ただし,不定詞(や動名詞)の態の中和は,あくまでそれが強い名詞性を保っていた時代の特徴である.近代以降,不定詞(や動名詞)はむしろ動詞的な性格を強めてきており,中和されていた態の対立が復活してきている.その結果,慣習的ではないとはいえ He is to be blamed. も文法的に許容されるようになった.標題のような構文は,古い時代の特徴を伝える生きた化石のような存在なのである.

 ・ 中島 文雄 『英語発達史 改訂版』岩波書店,2005年.

Referrer (Inside): [2019-05-22-1]

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2019-03-11 Mon

#3605. This needs explaining. --- 「need +動名詞」の構文 [gerund][participle][passive][voice][construction]

 昨日の記事「#3604. なぜ The house is building. で「家は建築中である」という意味になるのか?」 ([2019-03-10-1]) と関連する構文の話題.標題のように,need が動名詞(能動態)を従える構文がある.論理的に考えれば Thisexplain されるべき対象であるから,動名詞の受動態 being explained が用いられてしかるべきところだが,一般には標題の通りでよい.これは,昨日も述べたように,(動)名詞にあっては,もとの動詞には備わっていた態 (voice) の対立が中和されているからである.つまり,動詞 explain から動名詞 explaining となったことにより,「説明する」と「説明される」の意味的対立が薄まり,純正の名詞 explanation (説明)と同じように,態について無関心となっていると考えればよい.
 need のほかに want, require, deserve, bear, escape などの動詞や,形容詞 worth も動名詞を従える構文をとる(中島,p. 232).例を挙げよう.

 ・ This machine wants repairing.
 ・ The fence requires painting.
 ・ A person who steals deserves punishing.
 ・ It doesn't bear thinking about.
 ・ Use every man after his desert, and who should 'scape whipping? --- Hamlet, II. ii. 555--6
 ・ What is worth doing at all is worth doing well.

 もちろん各々に動名詞の受動態を用いても,それはそれで意味論的にも統語的にも適格ではあるが,「構文としての響き」というべきものは失われるのかもしれない.いずれにせよニッチに生き残ってきた構文である.

 ・ 中島 文雄 『英語発達史 改訂版』岩波書店,2005年.

Referrer (Inside): [2019-03-17-1]

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2019-03-10 Sun

#3604. なぜ The house is building. で「家は建築中である」という意味になるのか? [syntax][gerund][participle][passive][voice][category][construction][sobokunagimon]

 標題の文は古風な表現ではあるが,現在でも使われることがある.「家が建てられているところだ」という受動的な意味に対応させるには,受動進行形を用いて The house is being built. となるべきではないのかと疑問に思われるかもしれない.この疑問はもっともであり,確かに後者の受動進行形の構文が標準的ではある.しかし,それでもなお,標題の The house is building. は可能だし,歴史的にはむしろ普通だった.能動態と受動態という態 (voice) の区別にうるさいはずの英語で,なぜ標題の文が許されるのだろうか.
 歴史的には,The house is building.building は現在分詞ではなく動名詞である.同じ -ing 形なので紛らわしいが,両者は機能がまったく異なる.The house is building. の前段階には The house is a-building. という構文があり,さらにその前段階には The house is on building. という構文があった.つまり,buildingbuild の動名詞であり,それが前置詞 on の目的語となっているという統語構造なのである.意味的にはまさに「建築中」ということになる.前置詞 on が弱化して接頭辞的な a- となり,それがさらに弱化し最終的には消失してしまったために,あたかも現在進行形構文のような見栄えになってしまったのである.
 動名詞は動詞由来であるから動詞的な性質を色濃く残しているとはいえ,統語上の役割としては名詞である.態とは本質的に動詞にかかわる文法範疇であり,名詞には関与しない.したがって,動「名詞」としての building では,「建てる」と「建てられる」の態の対立が中和されている.まさに日本語の「建築」がぴったりくるような意味をもっているのだ.前置詞 on を伴って「建築中」の意となるのは自然だろう.
 このような構文は,古風とはいえ現在でも用いられることがあるし,近代英語まで遡ればよくみられた.類例として,以下を挙げておこう(中島,pp. 229--30).

 ・ The whilst this play is playing --- Hamlet, III. ii. 93.
 ・ While grace is saying -- Merch. V., II. ii. 202
 ・ What's doing here?
 ・ The dinner is cooking.
 ・ The book is printing.
 ・ The tea is drawing.
 ・ The history which is making about us.

 標題の問いに戻ろう.主語の the house と,building のなかに収まっているもともとの動詞 build とは,歴史的にいえば直接的な統語関係にあるわけではない.言い方をかえれば,build the house という動詞句を前提とした構文ではないということだ.一方,現代の標準的な The house is being built. は,その動詞句を前提とした構文である.つまり,2つの構文は起源がまったく異なっており,比べて合ってもしかたない代物なのである.
 現在分詞と動名詞が,まったく異なる機能をもちながらも,同じ -ing 形となっている歴史的経緯については,「#2421. 現在分詞と動名詞の協働的発達」 ([2015-12-13-1]) を参照されたい.

 ・ 中島 文雄 『英語発達史 改訂版』岩波書店,2005年.

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2018-02-18 Sun

#3219. 中英語に関する歴史語用論の話題 [me][pragmatics][historical_pragmatics][syntax][passive][grammaticalisation][invited_inference][implicature][subjunctive][auxiliary_verb][standardisation]

 古英語に関する歴史語用論の話題として,最近の2つの記事で触れた(cf. 「#3208. ポライトネスが稀薄だった古英語」 ([2018-02-07-1]),「#3211. 統語と談話構造」 ([2018-02-10-1])).およそ speech_act, politeness, discourse_analysis, information_structure に関する問題だった.今回は Traugott の概説にしたがって,中英語に関する歴史語用論の話題として,どのようなものがあるかを覗いてみたい.
 Traugott は,ハンドブックの冒頭で3つを指摘している (466) .

 (1) "the shift from information-structure-oriented word order in Old English to 'syntacticized' order in Middle English; this in tern led, at the end of the period, to new strategies for marking topic and focus in special ways."
 (2) "the development of auxiliary verbs in contexts where implied abstract temporal, modal, or aspectual meanings of certain concrete verbs became salient"
 (3) "the appearance of a large set of new discourse types, from romances to drama, scientific writings, and letters"

 (1) は語用論と統語論のインターフェースに関わる精緻な問題といってよい.古英語から中英語にかけて屈折が衰退し,語順が固定化していったことにより,以前は比較的自由な語順を利用して情報構造を整えるという方略をもっていたものが,今や語順に頼ることができなくなったために,別の手段に訴えかけなければならなくなったということである.例えば,後期中英語に,行為者を標示する by 句を伴う受動態の構文が発達してきたことは,このような情報構造上の要請に起因する部分があるかもしれない.もしこの仮説が受け入れられるのであれば,語用論的な要因こそがくだんの統語変化の引き金となったと言えることになろう.
 (2) も統語的な含みをもち,(1) と間接的に関連すると思われるが,主に本動詞から助動詞への発達(いわゆる典型的な文法化 (grammaticalisation) の事例)を説明するのに,文脈に助けられた含意 (implicature) や誘導推論 (invited_inference) などの道具立てをもってする研究を指す.中英語期には屈折の衰退による接続法・仮定法の衰退により,統語的な代替手段として法助動詞が発達するが,この発達にも語用論的なメカニズムが関与している可能性がある.
 (3) は新種の談話の出現である.時代が下るにつれ,以前の時代にはなかったジャンルやテキスト・タイプが現われてくることは中英語期に限った現象ではないが,中英語でも確かに新種が生み出された.Traugott はロマンス,演劇,科学的文章,手紙といったジャンルを指摘しているが,その他にもフランス語(およびラテン語)の影響を受けた,あるいは混合した多言語使用の散文や韻文なども挙げられるだろう.
 ほかに中英語後期には英語の書き言葉の標準化 (standardisation) も起こり始めており,誰がいつどこで標準変種を用いたのか,用いなかったのかといった社会語用論的な問題も議論の対象となるだろう.

 ・ Traugott, Elizabeth Closs. "Middle English: Pragmatics and Discourse" Chapter 30 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 466--80.

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2017-08-11 Fri

#3028. She is believed to have done it. の構文と古英語モーダル sceolde の関係 [syntax][auxiliary_verb][passive][ecm][passive][information_structure][grammaticalisation]

 I believe that she has done it. という文は that 節を用いずに I believe her to have done it. とパラフレーズすることができる.前者の文で「それをなした」主体は she であり,当然ながら主格の形を取っているが,後者の文では動作の主体は同じ人物を指しながら her と目的格の形を取っている.これは,不定詞の意味上の主語ではあり続けるものの,統語上1段上にある believe の支配下に入るがゆえに,主格ではなく目的格が付与されるのだと説明される.統語論では,後者のような格付与のことを Exceptional Case-Marking (= ECM) と呼んでいる.また,believe の取るこのような構文は,対格付き不定詞の構文とも称される.
 上の believe の例にみられるようなパラフレーズは,thinkdeclare に代表される「思考」や「宣言」を表わす動詞で多く可能だが,興味深いのは,ECM 構文は受動態で用いられるのが普通だということである.上記の例はあえて能動態の文を取り上げたが,She is believed to have done it. のように受動態で現われることのほうが圧倒的に多い.実際 say などでは,能動態での ECM 構文は許容されず,The disease is said to be spreading. のようにもっぱら受動態で現われる.
 この受動態への偏りは,なぜなのだろうか.
 1つには,「思考」や「宣言」において重要なのは,その内容の主題である.上の例文でいえば,shethe disease が主題であり,それが文頭で主語として現われるというのは,情報構造上も自然で素直である.
 もう1つの興味深い観察は,is believed to なり is said to の部分が,全体として evidentiality を表わすモーダルな機能を帯びているというものだ.つまり,reportedly ほどの副詞に置き換えることができそうな機能であり,古い英語でいえば sceolde "should" という法助動詞で表わされていた機能である.Los (151) によれば,

Another interesting aspect of passive ECMs is that they renew a modal meaning of sceolde 'should' that had been lost. Old English sceolde could be used to indicate 'that the reporter does not believe the statement or does not vouch for its truth' . . . :

Þa wæs ðær eac swiðe egeslic geatweard, ðæs nama sceolde bion Caron <Bo 35.102.16>
'Then there was also a very terrible doorkeeper whose name is said to be Caron'


The most felicitous PDE translation has a passive ECM.


 ある意味では,be believed tobe said to が,be going to などと同じように法助動詞へと文法化 (grammaticalisation) している例とみることもできるだろう.

 ・ Los, Bettelou. A Historical Syntax of English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2015.

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2017-08-11 Fri

#3028. She is believed to have done it. の構文と古英語モーダル sceolde の関係 [syntax][auxiliary_verb][passive][ecm][passive][information_structure][grammaticalisation]

 I believe that she has done it. という文は that 節を用いずに I believe her to have done it. とパラフレーズすることができる.前者の文で「それをなした」主体は she であり,当然ながら主格の形を取っているが,後者の文では動作の主体は同じ人物を指しながら her と目的格の形を取っている.これは,不定詞の意味上の主語ではあり続けるものの,統語上1段上にある believe の支配下に入るがゆえに,主格ではなく目的格が付与されるのだと説明される.統語論では,後者のような格付与のことを Exceptional Case-Marking (= ECM) と呼んでいる.また,believe の取るこのような構文は,対格付き不定詞の構文とも称される.
 上の believe の例にみられるようなパラフレーズは,thinkdeclare に代表される「思考」や「宣言」を表わす動詞で多く可能だが,興味深いのは,ECM 構文は受動態で用いられるのが普通だということである.上記の例はあえて能動態の文を取り上げたが,She is believed to have done it. のように受動態で現われることのほうが圧倒的に多い.実際 say などでは,能動態での ECM 構文は許容されず,The disease is said to be spreading. のようにもっぱら受動態で現われる.
 この受動態への偏りは,なぜなのだろうか.
 1つには,「思考」や「宣言」において重要なのは,その内容の主題である.上の例文でいえば,shethe disease が主題であり,それが文頭で主語として現われるというのは,情報構造上も自然で素直である.
 もう1つの興味深い観察は,is believed to なり is said to の部分が,全体として evidentiality を表わすモーダルな機能を帯びているというものだ.つまり,reportedly ほどの副詞に置き換えることができそうな機能であり,古い英語でいえば sceolde "should" という法助動詞で表わされていた機能である.Los (151) によれば,

Another interesting aspect of passive ECMs is that they renew a modal meaning of sceolde 'should' that had been lost. Old English sceolde could be used to indicate 'that the reporter does not believe the statement or does not vouch for its truth' . . . :

Þa wæs ðær eac swiðe egeslic geatweard, ðæs nama sceolde bion Caron <Bo 35.102.16>
'Then there was also a very terrible doorkeeper whose name is said to be Caron'


The most felicitous PDE translation has a passive ECM.


 ある意味では,be believed tobe said to が,be going to などと同じように法助動詞へと文法化 (grammaticalisation) している例とみることもできるだろう.

 ・ Los, Bettelou. A Historical Syntax of English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2015.

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2017-07-06 Thu

#2992. 中英語における不定詞補文の発達 [me][infinitive][syntax][tense][passive]

 中英語期では,不定詞補文が著しく発達した.Los (Los, Bettelou. The Rise of the to-Infinitive. Oxford: OUP, 2005.) を参照した Sawada (28) に簡潔にまとめられているように,その発達には,(1) 原形不定詞の生起する環境が狭まる一方で to 不定詞の頻度が顕著に増したという側面と,(2) 古英語では見られなかった種々の新しい不定詞構造が現われたという側面がある.(2) については,5種類の新構造が指摘される.以下に,現代英語からの例文とともに示そう.

 (a) 受動態の to 不定詞: The clothes need to be washed.
 (b) 完了の have を伴う to 不定詞: He expected to have finished last Wednesday.
 (c) 独立して否定される to 不定詞: They motioned to her not to come any further.
 (d) いわゆる不定詞付き対格構文における to 不定詞: They believed John to be a liar.
 (e) 分離不定詞 (split infinitive): to boldly go where no one has gone before.

 このような近現代的な to 不定詞構造が生まれた背景には,対応する that 節による補語の衰退も関与している.というよりは,結果的には that 節の果たした節として種々の機能が,複雑な構造をもつ to 不定詞に取って代わられた過程と理解すべきだろう.しかし,この置換は一気に生じたわけではなく,受動態などの複雑な意味・構造が関わる場合には that 節の補文がしばらく保たれたことに注意すべきである.

 ・ Sawada, Mayumi. "The Development of a New Infinitival Construction in Late Middle English: The Passive Infinitive after Suffer." Studies in Middle and Modern English: Historical Variation. Ed. Akinobu Tani and Jennifer Smith. Tokyo: Kaitakusha, 2017. 27--47.

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2015-09-01 Tue

#2318. 英語史における他動詞の増加 [verb][syntax][case][reanalysis][impersonal_verb][passive][reflexive_pronoun]

 英語史には,大規模な他動詞化 (transitivization) の潮流が確認される.古英語では相対的に他動詞(として用いられる動詞)は自動詞よりも少なかったが,中英語にかけて,そしてとりわけ初期近代英語にかけて,その数が増加した.他動詞化という過程は,動詞の意味・用法にかかわることだが,むしろ形式的な要因が大きく関与している.中尾・児馬 (100) によれば,3種類の要因が想定される.
 1つは,中英語期に屈折語尾の衰退が進行し,名詞や代名詞において格の形態的な区別がつかなくなったことがある.これにより,古英語では与格目的語や属格目的語をとっていた自動詞が,それらの格と形態上融合した歴史的な対格をとることになった.つまり,目的語はすべて対格であると分析され,動詞そのものも他動詞であると認識されるようになったのである.1200年頃から与格を主語とする受動態構文が現われるようになることも,この再分析と密接な関係にあると考えられる.
 2点目として,古英語の動詞にしばしば付加された ġe- などの接頭辞が,中英語までに消失したことがある.古英語では,例えば自動詞 restan (休む),grōwan (生じる)に対して,接頭辞を付加した ġerestan (休ませる),ġegrōwan (生み出す)が他動詞として機能するなど,接辞によって自他を切り替える場合があった.接頭辞が消失し両語の形態的区別が失われると,元来の自動詞の形態に他動詞の機能が付け加わることになった.
 3点目に,古英語の動詞には語幹の母音変異によって自他用法を区別するものがあった.brinnan / bærnan (burn), springan / sprengan (spring), stincan / stencan (stink) などがその例である.しかし,その後の変化により両語が形態的に一致するに及んで,後に伝わった唯一の語形が自他の両用法を担うようになった.
 上記は,いずれも形式的な変化が原因で,2次的に動詞の意味・用法が変化したというシナリオだが,もちろん動詞自体が内的に意味・用法を変化させたという直接的なシナリオがあった可能性も否定できない.むしろ,形式と機能の両側からの圧力によって,動詞の他動性が強化してきたと考えるほうが無理はないように思われる.līcian のような非人称動詞 (impersonal_verb) の人称化なども,動詞の他動詞化という潮流のなかに位置づけることができそうだが,これは音韻,形態,統語,意味,語用のすべてに関わる現象であり,いずれの要因が変化の引き金となり,推進力となったのかを区別することは容易ではない.また,「#995. The rose smells sweet.The rose smells sweetly.」 ([2012-01-17-1]) で触れた英語史における linking verb の拡大という問題も,動詞をとりまく統語変化と意味変化とが融合したような様相を呈する.
 いずれにせよ,他動詞化の潮流は中英語期に諸要因が集中していたことは言えそうだ.
 動詞の自他の転換については,受動態 (passive) の発達や再帰動詞 (reflexive_pronoun) の振る舞いも関連してくるだろう.後者については,「#2185. 再帰代名詞を用いた動詞表現の衰退」 ([2015-04-21-1]),「#2206. 再帰代名詞を用いた動詞表現の衰退 (2)」 ([2015-05-12-1]),「#2207. 再帰代名詞を用いた動詞表現の衰退 (3)」 ([2015-05-13-1]) も参照.また,他動詞という用語については,「#1258. なぜ「他動詞」が "transitive verb" なのか」 ([2012-10-06-1]) を参照されたい.

 ・ 中尾 俊夫・児馬 修(編著) 『歴史的にさぐる現代の英文法』 大修館,1990年.

Referrer (Inside): [2016-07-02-1]

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2015-07-14 Tue

#2269. 受動態の動作主に用いられた byof の競合 [preposition][passive][grammaticalisation][hc]

 標記の問題について直接,間接に「#1333. 中英語で受動態の動作主に用いられた前置詞」 ([2012-12-20-1]),「#1350. 受動態の動作主に用いられる of」 ([2013-01-06-1]),「#1351. 受動態の動作主に用いられた throughat」 ([2013-01-07-1]) で取り上げてきた.後期中英語から初期近代英語にかけての時期の byof の競合について,Peitsara の論文を読んだので,その結論部 (398) を引用しておきたい.

   I hope to have shown, firstly, that the by-agent prevailed in English in the 15th century, i.e. two centuries earlier than suggested so far. . . . The necessary consequence of the first conclusion is that agentive by can hardly have been rare before 1400.
   Secondly, it appears that there has not been a development from a general agentive of into a general agentive by in Middle English, but the two variants have existed side by side (possibly together with some others excluded from this study) fro some time. They were, however, not in free variation in the 15th and 16th centuries but had become specialized, partly according to the type of text and partly according to the semantic fields of the participles in the passive clause. This specialization was more complicated than, and partly different from, that described by some scholars, and it apparently involved foreign influence.
   Thirdly, the Middle English period was particularly favourable for the gradual grammaticalization of by in agentive function because of the heavier functional load of the preposition of and the lack of special grammaticalization for by.


 この論文は1992年のものであり,2015年の現在からすると最新というわけではないのだが,当時のハイテクツールといってよい Helsinki Corpus を利用した事例研究として,注目すべきものではある.先行研究を批判的に評価し,新しいツールに依拠しながら,by が15世紀までに受動態の動作主を表わす前置詞として一般化しつつあった(そして含意としては後に文法化した)こと,一方で of は同じ頃,同様の用法を有しながらも複数の要因によって使い分けられるマイナーな代替物として機能していたことを明らかにした.
 引用の第2段落の最後の文にあるように,Peitsara は英語での前置詞の選択がラテン語やフランス語の語法に影響を受けた可能性にも言い及んでいる.ラテン語 deof に,フランス語 parby に相当し,それぞれの関与が考えられそうだが,実際には Peitsara はこの方向での突っ込んだ調査はしていないし,特別な意見を述べているわけではない.今後の研究が期待されるところだ.同様に,前置詞の選択が,動詞(過去分詞)の意味にも依存しているらしいと述べているが,これについても今後の調査が待たれる.

 ・ Peitsara, Kirsti. "On the Development of the by-Agent in English." History of Englishes: New Methods and Interpretations in Historical Linguistics. Ed. Matti Rissanen, Ossi Ihalainen, Terttu Nevalainen, and Irma Taavitsainen. Berlin: Mouton de Gruyter, 1992. 379--99.

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2015-05-13 Wed

#2207. 再帰代名詞を用いた動詞表現の衰退 (3) [reflexive_pronoun][verb][personal_pronoun][passive][voice]

 「#2185. 再帰代名詞を用いた動詞表現の衰退」 ([2015-04-21-1]) と「#2206. 再帰代名詞を用いた動詞表現の衰退 (2)」 ([2015-05-12-1]) に引き続いての話題.近代英語期以降,再帰代名詞を伴う動詞の表現が衰退してきている.この現象を関連表現との競合という観点から調査した研究に,秋元 (118--48) がある.秋元は,content oneself with などの「動詞+再帰代名詞+前置詞」というパターンとその関連表現に的を絞って,OED から1700年以降の用例を収集し,それぞれの分布を取った.
 content oneself with でいえば,このパターンは現代英語では減少してきており,代わって各種の競合形,とりわけ be content to V や be content with NP が増えてきているという.be contented with NP や be contented to V という競合形も低頻度ながら用いられており,全体として再帰代名詞を用いた表現は各種の競合形に抑えこまれる形で目立たなくなってきているという.content oneself with のほかにもいくつかの表現が扱われており,例えば apply oneself to もやはり着実に減少してきており,代わって自動詞用法の apply to NP や受動態の be applied to NP が増えてきているようだ.8種類の動詞について用例数を数え挙げた結果は,以下の通りである(秋元,p. 134) .時代別ではなくひっくるめた数値だが,再帰表現ではない競合形が相対的に優勢であることがよくわかる.

  reflexivepassiveintransitiveother rival forms
(1)content oneself with10830 136
(2)avail oneself of144  
(3)devote oneself to70191  
(4)apply oneself to42653548 
(5)attach oneself to93100171 
(6)address oneself to6220711 
(7)confine oneself to69592  
(8)concern oneself with/about/in69822  


 概して再帰代名詞を用いた表現は確かに頻度が低くなってきているが,その背後には受動態その他の競合形の躍進というもう一つの言語変化が関与しているということだろう.

 ・ 秋元 実治 『増補 文法化とイディオム化』 ひつじ書房,2014年.

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2013-11-05 Tue

#1653. be 完了の歴史 [syntax][be][auxiliary_verb][grammaticalisation][tense][aspect][passive][perfect][participle]

 現代英語で「be + 動詞の過去分詞」は典型的に受動態を作る構造だが,一部の変移動詞 (mutative verb) では完了を表わす.

 ・ The cookies are all gone.
 ・ All my lectures are finished.
 ・ The sun is set.
 ・ How he is grown up!
 ・ Babylon is fallen.
 ・ Everything is changed.


 共時的にはこれらの例文の gonefinished などは形容詞と考えられており,完了を表わす統語構造の一部とはとらえられていない.be の代わりに have を用いることができることからもわかるとおり,be 完了は絶滅したとはいわずとも,相当に周辺的な構造といわざるを得ない.だが,behave が対立する場合には,be 完了は状態を表わし,have 完了は行為を表わすといわれる.be 完了はこのように瀕死の状態ではあるが,「#752. 他動詞と自動詞の特殊な過去分詞形容詞」 ([2011-05-19-1]),「#1347. a lawyer turned teacher」 ([2013-01-03-1]) で見たように,過去分詞形容詞の用法のなかにも一定の命脈を保っている.以下,be 完了の歴史を,『英語史IIIA』 (432--33) に拠って概説しよう.
 英語における be 完了の例は古英語期から広く見られる.古英語では,自動詞,とりわけ変移動詞について wē sindon ȝecumene のような構造は一般的だった.後期古英語になると,よくいわれるように「have + 目的語 + 過去分詞」→「have + 過去分詞 + 目的語」の語順変化を経て have 完了が文法化 (grammaticalisation) し,他動詞一般に広がった.すでに早いこの時期に have 完了はまれに自動詞にも拡張していたので,be 完了が圧迫されてゆく歴史はすでに始まっていたともいえる.しかし,変移動詞の be 完了は,その後も18世紀後半に至るまで優勢を保っていた.18世紀末になってようやく,behave に優位を明け渡すこととなった.現代における be 完了が状態を表わしているように,歴史的にも状態を表わす用法が主だったが,一方で行為を表わす用法も少なくなかった.現代的な状態の用法は,初期近代英語にかけて確立したものである.
 中英語から近代英語にかけての時期のスナップショットを見てみよう.以下は,Fridén による,Spenser の全作品,Marlowe の5作品,Shakespeare の全戯曲を対象にし,7個の主要自動詞 (come, go, arrive, fall, flee; become, grow) について,be 完了と have 完了の分布を調査したものである.なお,表下段の 's は,has あるいは is のいずれかの操作詞の前接形 (enclitic) を指す.(表は,G. Fridén. Studies on the tenses of the English Verb from Chaucer to Shakespeare: With Special Reference to the Late Sixteenth Century. Uppsala: Almqvist & Wiksells Boktryckeri Ab., 1948. Rpr. Nendeln/Liechtenstein: Kraus, 1973. に基づいた『英語史IIIA』,p. 432 より.)

動詞comegoarrivefallfleebecomegrow
作家SpMarShakSpMarShakSpMarShakSpMarShakSpMarShakSpMarShakSpMarShak
be9288789195799289836767656567828650901008990
have86139098111133332735077030113
's0690512006008033117507007


 この段階では,まだ be 完了は完全に健在であり,have 完了は fall を例外とすれば,10%ほどのシェアを占めるにすぎない.とりわけ「生成」を意味する become, grow では have 完了の割合が少ない.
 18世紀末に have 完了が be 完了を凌駕していった歴史については,Visser (2043) や Rissanen (215) を参照.

 ・ 荒木 一雄,宇賀治 正朋 『英語史IIIA』 英語学大系第10巻,大修館書店,1984年.
 ・ Visser, F. Th. An Historical Syntax of the English Language. 3 vols. Leiden: Brill, 1963--1973.
 ・ Rissanen, Matti. "Syntax." The Cambridge History of the English Language. Vol. 3. Cambridge: CUP, 1999. 187--331.

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2013-06-25 Tue

#1520. なぜ受動態の「態」が voice なのか [terminology][verb][passive][category][sobokunagimon]

 英語で受動態を "passive voice",能動態を "active voice" と呼ぶが,なぜ「態」が "voice" と対応するのだろうか.この文法範疇は主語や目的語などの文の要素が動詞の表わす動作とどのように関わるかを表わすものであり,いわば動作の姿や有様(=態)を標示する機能をもっている.このように日本語の「態」という用語はかろうじて理解されるかもしれないが,なぜ英語では "voice" と表現されるのかは謎である.そこで,調べてみることにした.
 まずは,OED から.voice, n. の語義13によると,文法用語としての "voice" の初例は15世紀前半である(大陸の文献では初出が16世紀なので,英語での使用のほうが早いことになる).最初期の用例を2つ挙げよう.

c1425 in C. R. Bland Teaching Gram. in Late Medieval Eng. (1991) 160 (MED), Þo secund coniugaciun..of passyf wowus, þat as -e- long befor þo -ris indecatyf, as doceris.

a1450 (a1397) Prol. Old Test. in Bible (Wycliffite, L.V.) (Cambr. Mm. II. 15) (1850) xv. 57 A participle of a present tens, either preterit, of actif vois, eithir passif.


 次に MED voice (n.) 6(a) によれば,15世紀の文法用語として,用例が続々と挙がる.興味深いことに,名詞の「格」 (case) を表わすのに voice が用いられている例がある.また,先の OED の voice, n. の語義14には,廃用ではあるが「人称」 (person) との定義もある.つまるところ,voice は,中世後期から近代初期にかけて,しばしば動詞の「態」を表わすほか,ときには名詞や動詞の屈折範疇をも広く表わすことができたらしい.
 関連して,ラテン文法で「態」は "genus" と呼ばれるが,これは名詞の範疇である "gender" とも同根である.ある用語が,品詞にかかわらず,ある種の分類に貼り付けられるラベルとして共用されることがある,もう1つの例として解釈できる.これらの文法用語の使い方は文法家の属する流派にも依存するため,近代期の一般的な用語と語義を同定するには文法史の知識が必要となるだろうが,私にはその知識はないので,詳細に立ち入ることができない.
 この問題について,ほかに手がかりはないかと言語学辞典その他に当たってみた.そして行き当たったのが,意外なところで Lyons (371--72) だ.

8.3.1 The term 'voice'
The term 'voice' (Latin vox) was originally used by Roman grammarians in two distinguishable, but related, senses: (i) In the sense of 'sound' (as used in the 'pronunciation' of human language: translating the Greek term phōnē, especially of the 'sounds' produced by the vibration of the 'vocal cords': hence the term 'vowel' (from Latin sonus vocalis, 'a sound produced with voice', via Old French vowel). (ii) Of the 'form' of a word (that is, what it 'sounded' like) as opposed to its 'meaning' . . . . the first of these two senses is still current in linguistics in the distinction between voiced and voiceless 'sounds' (whether as phonetic or phonological units . . .). In the second sense, 'voice' has disappeared from modern linguistic theory. Instead, the term has developed a third sense, derived ultimately from (ii) above, in which it refers to the active and passive 'forms' of the verb. (the traditional Latin term for this third sense was species or genus. In the course of time, genus was restricted to the nominal category of 'gender'; and the somewhat artificial classification of the 'forms' of the different parts of speech in terms of genera and species was abandoned.) The traditional Greek term for 'voice' as a category of the verb was diathesis, 'state', 'disposition', 'function', etc.; and some linguists prefer to use 'diathesis', rather than 'voice', in this sense of the term. However, the risk of confusion between the phonetic or phonological sense of 'voice' and its grammatical sense is very small.


 voice にせよ,case にせよ,gender にせよ,文法範疇の用語の語源や意味を探ってもあまり納得がゆかないのは,結局のところ,それぞれの文法範疇の機能が一言では記述できない代物であり,それならば「種類」や「形」を表わす類義語で代えてしまえ,という名付けに対する緩い態度があるからかもしれない.
 なお,上の引用にもある通り,「態」という文法範疇を表わすのに,voice のほかにギリシア語由来の diathesis という用語が使われることもある.これは dia- (between) + thesis (position) という語形成で「配置」ほどの原義である.

 ・ Lyons, John. Introduction to Theoretical Linguistics. Cambridge: CUP, 1968.

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2013-01-07 Mon

#1351. 受動態の動作主に用いられた throughat [preposition][passive]

 昨日の記事「#1350. 受動態の動作主に用いられる of」 ([2013-01-06-1]) や「#1333. 中英語で受動態の動作主に用いられた前置詞」 ([2012-12-20-1]) で触れなかったが,もう2つばかり取り上げるべき前置詞があった.throughat である.
 through については,OED の through, prep. and adv. 7b に,すでに廃用としてであるが,受動態の動作主としての語義が与えられている.初例は c900 の Bede の Historia Ecclesiastica Gentis Anglorum の翻訳から,最終例は1598年のもので,全部で8例しか挙げられていない.また,MED は,受動態の動作主の用法としては語義を立てていない.中英語での用法について,いくぶんか詳しいのは Mustanoja (408) である.

Indicating the agent of a passive verb through is not particularly common in OE, and in ME it loses ground steadily: --- þuruh me ne schulde hit never more beon iupped (Ancr. 38); --- in Rome throu an þat hight Neron . . . Naild on þe rod he [Peter] was (Cursor 20909, Cotton MS); --- alle cristen folk been fled fro that contree Thurgh payens (Ch. CT B ML 542; it is impossible to say for certain whether been fled is an active or passive form).


 一方,at については,中尾 (355) によれば,中英語で「きわめてまれだが受動構造の動作主 (passive agent) をあらわす Prp として起こることがある」.MED では,語義9に "Of means or agency: by means of, through; by (sb.)." とあるが,例を眺めてみると,いずれも受動態の動作主として解釈できるかどうかは必ずしも明確ではない.OED では語義は立てられておらず,Mustanoja にも記述がない.at が受動態の動作主の用法をもっていたかどうか,疑わしくなってきた.
 なお,15世紀における ofby の競合について,中尾 (358) より興味深い記述を付け加えておく.「15世紀になるととくに口語では by が of を圧倒して行くようになる (Cely/PL/Shillingford/Stonor では of:by≒1:14)。」

 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.
 ・ 中尾 俊夫 『英語史 II』 英語学大系第9巻,大修館書店,1972年.38頁.

Referrer (Inside): [2015-07-14-1]

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2013-01-06 Sun

#1350. 受動態の動作主に用いられる of [preposition][passive]

 「#1333. 中英語で受動態の動作主に用いられた前置詞」 ([2012-12-20-1]) で紹介した前置詞のうち,of に注目したい.of は,古英語の終わりから1600年頃まで,動作主の前置詞として広く使われた.その後 ofby に置換されていったが,近現代英語のいくつかの表現にかつての用法の痕跡をとどめている.細江 (277) に挙げられている例を引こう.

 ・ Then was Jesus led up of the spirit into the wilderness to be tempted of the devil. --- Matthew, iv. 1.
 ・ The poor sinner is forsaken of all. --- Eliot.
 ・ . . . while bream, beloved of our ancestors, cannot be recommended highly. --- Clifford Cordley. (in Chambers's Journal, Feb., 1916)
 ・ The observed of all observers --- Shakespeare Hamlet, III. i. 162
 ・ Thus she drew quite near to Clare, still unobserved of him --- Hardy Tess, XIX


 OED の of, prep. の該当箇所を引用しよう.

14. Introducing the agent after a passive verb.

The usual word for this is now by (BY prep. 33), which was prevalent by the 15th cent.; of was used alongside by until c1600. Of is subsequently found as a stylistic archaism in biblical, poetic, and literary use, and in certain constructions, e.g. 'on the part of'. In Old English of was less used than from (both of which, however, retain connotations of separation or origin): cf. German von from, of.

The use of of is most frequent after past participles expressing a continued non-physical action (as in admired, loved, hated, ordained of), or a condition resulting from a definite action (as in abandoned, deserted, forgotten, forsaken of, which approach branch II.). It is also occasional with participial adjectives in un-, as unseen of, unowned of. Of often shows an approach to the subjective genitive: cf. 'he was chosen of God to this work' with 'he was the chosen of the electors'. In other senses the agent has passed into the cause, as in afeard, afraid, frightened, terrified of; or the source or origin, as in born of. English of and by correspond somewhat to French de and par.


 be afraid of は,現代でこそ熟語として捉えられているが,中英語期にフランス語から入った「おびえさせる」を意味する動詞 affray を用いた典型的な受け身表現の名残にすぎない.また,引用の終わりのほうに触れられている born(e) of については,「#966. borne of」 ([2011-12-19-1]) を参照.

 ・ 細江 逸記 『英文法汎論』3版 泰文堂,1926年.

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2013-01-03 Thu

#1347. a lawyer turned teacher [passive][adjective][perfect]

 標題は「教師に転身した法律家」あるいは「法律家から転身した教師」の意味の句である.一般に,A turned B で「Bに転身したA」あるいは「Aから転身したB」となる.この句の turned は不完全自動詞 turn の過去分詞形で,直前の名詞を修飾しているが,一方で補語を後続させているのが特徴である.自動詞が過去分詞として名詞を修飾する用法は,「#752. 他動詞と自動詞の特殊な過去分詞形容詞」 ([2011-05-19-1]) で触れたように,いくつかある.状態の変化を表わす動詞の自動詞は古くは be により完了形を作ったので,a lawyer turned teacher は,"a lawyer who is turned teacher" (現代英語としては "a lawyer who has turned teacher")に対応することになる.B に相当する名詞は,通常,無冠詞で用いられる.an activist-turned-leader, an actor-turned-President, an engineer-turned-psychologist, a failed Kentucky lawyer turned smuggler, a lawyer-turned-legislator, a peeler-turned-pol, a writer-turned-governor などハイフンを伴う用例も多い.

 OED の turn, v. の関連する語義の記述と例文のいくつかをのぞいてみよう.

39. intr. with compl. To change so as to be, to become.
. . . .
b. with n. compl. (most commonly without article). Freq. as pa. pple. modifying a n.
. . . .
1945 Times 4 Aug. 5/2 Mr. Aneurin Bevan at the Ministry of Health..is conspicuously the poacher turned gamekeeper.
1964 Eng. Studies 45 382 Their Scandinavian conquerors-turned-neighbors.
1973 E. F. Schumacher Small is Beautiful i. iii. 44 The economist-turned-econometrician is unwilling..to face the question.
1982 Times Lit. Suppl. 10 Sept. 968/3 Jerome's father was a Nonconformist preacher, turned architect, turned mine-owner.


 「#752. 他動詞と自動詞の特殊な過去分詞形容詞」 ([2011-05-19-1]) では,自動詞の過去分詞が名詞に前置される例を挙げたが,今回の A turned B のように,自動詞の過去分詞が名詞に後置される例はそれほどお目にかからない.だが,ないわけではない.細江 (92--93) の挙げている例を掲載しよう.

 ・ A Daniel come to judgement! --- Shakespeare.
 ・ Everybody knows the treasure of the sailor arrived in port. --- Sir Walter Besant.
 ・ "My dear, you must ask Priscilla," he said in the once firm voice, now become rather broken. --- Eliot.
 ・ But Lottie staggered on the lowest verandah step like a bird fallen out of the nest. --- Mansfield.
 ・ The gallant old squire, lately gone to his rest. --- Thomas Hughes.
 ・ He looked at the little sister returned to him in her full womanly beauty. --- Eliot.
 ・ He looked as a man just risen from a long illness. --- William Morris.
 ・ The brave that are no more! / All sunk beneath the wave / Fast by their native shore. --- Cowper.
 ・ He led me to a place where I found a kind Englishman lived right in the midst of the natives. --- Mrs. Gaskell.
 ・ Here is a gentlemen come to see you. --- Bennett.
 ・ Ah, you are the young woman come to look after my birds? --- Hardy.


 ・ 細江 逸記 『英文法汎論』3版 泰文堂,1926年.

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2012-12-20 Thu

#1333. 中英語で受動態の動作主に用いられた前置詞 [preposition][passive][timeline]

 中英語で動作主を示すのに用いられた前置詞には,by, from, mid, of, with があった.すべてが同じような頻度で用いられていたわけではなく,時代により盛衰が見られた.
 古英語では,主として from が,またしばしば of が動作主を表わすのに用いられていた.このうち from は14世紀まで使用されたが,後に廃れていった.一方,of は古英語の終わりから中英語にかけて著しく伸張し,1600年辺りまでは最も広く用いられた.次に現代英語に連なる by をみてみると,動作主を示す用法は,古英語でもそれらしき例があったと指摘されてはいるが,はっきりしない(下の Mustanoja からの3番目の引用を参照).動作主の by が中英語で例証されるようになるのは14世紀終わりからであり,15--16世紀にかけて拡大し,of と肩を並べるほどになる.そのほか,動作主の前置詞としてはそれほど目立たないが,13世紀より文証される with や初期中英語で散見される mid の例もある.
 それぞれが廃用になった時期や各時代の相対頻度などの詳細は未調査だが,大雑把に時系列に並べてみると次のようになるだろう.

       1000      1100      1200      1300      1400      1500      1600      1700
from :************************************** - - -
of   :*************************************************************** - - -
bi   : - - -                                    *******************************
with :                        - - *** - -
mid  :                   - - *** - -

 Mustanoja より,各前置詞の関連する記述箇所を引用しておこう.

From its function to indicate a person as a source of an action, first as a giver or sender, from develops into a preposition of agency in OE. In this function it occurs down to the 14th century: --- he wæs gehalgod to biscop fram þone ærcebiscop Willelm of Cantwarabyri (OE Chron. an. 1129); --- I . . . am sett king from hym upon Sion (Wyclif Ps. ii 6; am maad of hym a kyng, Purvey). (385--86)


To express agency of is used less frequently than from in OE, but it begins to gain ground towards the end of this period and becomes the most popular preposition expressing agency in connection with a passive verb down to c 1600. It is possible that this use of of has been promoted by the influence of OF de. Examples: --- ich wolde þet heo weren of alle alse heo beoþ of ou iholden (Ancr. 21); --- is alle biset of helle muchares (Ancr. 67); --- if he wolde be slayn of Symkyn (Ch. CT A Rv. 3959); --- enformed whan the kyng was of that knyght (Ch. CT F Sq. 335). (397)  


Wülfing II, p. 338, quotes a doubtful OE instance of be denoting agency with a passive verb, and R. Gottweiss (Anglia XXVIII, 1905, 353--4) calls attention to what he calls 'signs of the use of be with the passive' in Ælfric's homilies. BTS, be 20, quotes an example from the OE Gospel of St Luke (þa þing þe be him wærun gewordene 'quae febant ab eo,' ix 7). Cf. active cases like þat was agan þære bi þan kaisere (Lawman A 27982). Unambiguous ME instances where by indicates the agent of a passive verb occur from the end of the 14th century on (I praye Jhesu shorte hir lyves That wol nat be governed by hir wyves, Ch. CT D WB 1262; --- ne hadde he ben holpen by the steede of brass, Ch. CT F Sq. 666). This use becomes increasingly common in the 15th and 16th centuries. In the Cloud (MSS of the early 15th---early 16th century) of is a little more frequently used to denote agency than by. It may be assumed that the use of by to indicate the agent of a passive expression is promoted by the influence of French par. (374--75)


With begins to occur as a preposition of agency in the 13th century: --- heder was þat mayde brouȝt With marchaundes þat hur had bouȝt (Flor. & Bl. 408); --- he was with þe prestes shrive (Havelok 2489); --- and with twenty knyghtes take, O persone allone, withouten mo (Ch. CT A Kn. 2724). (420)


. . . instrumental mid is occasionally used to express agency in early ME: --- a lefdi was þet was mid hire voan biset at abuten (Ancr. 177). (394)


 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

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2011-12-19 Mon

#966. borne of [spelling][verb][conjugation][passive]

 先日 Graddol を読んでいて,英語の未来予測に関連する章で,次のような英文に出くわした.

Futurologists inhabit a frontierland between historical facts and guesses about the future. Most of the practical techniques of strategic planning used by large corporations employ some kind of mix of empirical evidence together with the insight and judgement borne of practical experience. (16)


 問題は,赤字で示した borne の語義・用法である.現代英語の規範文法では,動詞 bear の過去分詞形は,語義・用法によって bornborne の2形が区別される.Fowler (113) によると,使い分けは以下の通りである.

born(e). The pa.pple of bear in all senses except that of birth is borne (I have borne with this too long; he was borne along by the wind); borne is also used, when the reference is to birth, (a) in the active (has borne no children), and (b) in the passive when by follows (of all the children borne by her only one survived). The pa.pple in the sense of birth, when used passively without by, or adjectivally, is born (he was born blind; a born fool; of all the children born to them; melancholy born of solitude; she was born in 1950).


 この動詞の過去分詞形の歴史的 variation を探ると,born, borne のほか過去形と同形の bore もありえた.OED "bear, v.1" 44 によると,17世紀前半には,3者のうち borne が語義にかかわらず優勢だったが,同世紀後半には torn, worn などとの類推のためか born が語義にかかわらず優勢となり,一方で bore も異形として頻度が増してきた.しかし,18世紀後半には,bore が廃され,borne が復活するという動きがあり,現在にまで続く語義・用法の使い分けが確立した.
 近代英語中期における激しい異形間の攻防戦の背景と,最終的に Fowler の示すような規範が確立した背景については未調査だが,borneborn の両形のあいだに発音上の区別はなく,あくまで綴字上のみの問題であることこそが,規範文法として生きながらえてきた理由なのかもしれない.
 さて,問題の borne of だが,文脈上の意味は「実際の経験から生まれた洞察力と判断力」と取れるが,「生まれた,生じた」という語義で用いられているのであれば born のほうが適切なはずではないかという疑問が浮かぶ.Fowler や OED の記述にもある通り,「生む」という物理的行為に焦点が当てられる場合には borne が適切となることはわかったが,その場合には,後続する典型的な前置詞は行為者を表わす by であり,起源を表わす of の例はどこにも触れられていない.of で修飾されている以上,「生む」行為が具体的にイメージされていることは確かで,それゆえに born ではなく borne が選ばれていると考えられそうだが,いろいろと辞書を参照しても明示的な説明が得られなかったので少々納得がいかなかった.
 それならばと BNCWebborne of を検索してみたら,10件がヒット.適宜省略した形でコンコーダンスラインを示そう.

(1) . . . with a set of expectations borne of years of reading about the Masters . . .
(2) . . . a legacy of bigotry borne of his wish to improve his family's social standing.
(3) . . . with an indifference borne of familiarity.
(4) . . . through instinct borne of experience.
(5) It was a confidence borne of a quarter-of-a century of growing medical ascendancy . . .
(6) With skill borne of long practice . . .
(7) by fears borne of self-selected memories and infused by a false jingoism . . .
(8) It was partially borne of English desperation . . .
(9) . . . ignorance through lack of education, and idleness borne of enforced unemployment . . .
(10) I have also come away with lasting friendships, borne of total trust, respect and deep affection.


 borne of に修飾される直前の名詞には傾向があることがわかる.期待,信念,直感,恐怖,怠惰など,主に心理作用を表わす名詞と共起しているようだ.コンコーダンスラインから湧き出てくる borne of の意味は,「〜から生じる」からもう一歩踏み込んで「〜によって生み育てられた」,さらには「〜に裏付けられた」とまで読み込んで然るべきではないか.用例は少ないわけだが,学習者辞書にぜひとも1行を付け加えたい語義・用法である.

 ・ Graddol, David. The Future of English? The British Council, 1997. Digital version available at http://www.britishcouncil.org/learning-research-futureofenglish.htm

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2011-05-19 Thu

#752. 他動詞と自動詞の特殊な過去分詞形容詞 [passive][adjective][perfect][participle]

 他動詞の過去分詞形容詞が受け身の意味になることは,英文法の基本事項である.a satisfied customer, a surprised look, written language など.しかし,例外が存在する.他動詞の過去分詞形容詞であるにもかかわらず,能動的な意味となる少数の例がある.

a drunken fellow ( = a fellow who has drunk much )
a well-read man ( = a man who has read much )
an out-spoken gentleman ( = a gentleman who speaks out his opinions )


 ここから「他動詞の過去分詞形容詞は受け身の意味になる」という原則は絶対ではないことが分かる.上の例では「受け身」ではなく「完了」の用法である.
 関連して,自動詞の過去分詞形容詞について考えてみる.自動詞は定義上受け身になることができないので,自動詞の過去分詞形容詞があるということは一見不可解かもしれない.種類も頻度も少ないので学校文法で明示的に取り上げられることはないが,以下の通り,確かにある.

a gone case ( = a case which has gone too far )
a departed guest ( = a guest who has departed )
a faded flower ( = a flower which has faded )
a fallen city ( = a city which has fallen )
a grown man ( = a man who has grown up )
a learned scholar ( = a scholar who has learned much )
a retired officer ( = an officer who has retired )
a returned soldier ( = a soldier who has returned )
a risen sun ( = a sun which has risen )
a well-behaved child ( = a child who behaves well )
a withered flower ( = a flower which has withered )


 関係代名詞を用いて言い換えた表現をみて明らかなとおり,ここでの過去分詞形容詞は「完了」の用法として機能していることがわかる.これらの自動詞の多くは往来発着や状態の変化を表わす動詞であり,古くは have ではなく be により完了形を作った.したがって,a fallen city とは a city which is fallen の統語的圧縮と考えることができる.
 これらの過去分詞形容詞については,細江 (46--48) を参照.

 ・ 細江 逸記 『英文法汎論』3版 泰文堂,1926年.

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2011-03-04 Fri

#676. コーパス研究の知見はどこまで解釈に役立つか? [semantics][corpus][semantic_prosody][passive]

 [2011-03-02-1], [2011-03-03-1]の記事で semantic prosody を取りあげた.ある共起表現が(主に否定的な)評価を帯びる現象である.semantic prosody は単なる語句のレベルにとどまらず,統語的なレベルにも見られる.例えば,Stubbs (163--68) では be-passive に対する get-passive の意味特性に関するコーパス利用研究が紹介されており,get を用いた受動態は主語が不利益を被るという文脈(さらに場合によっては主語がその不利益に自ら責任があるという文脈)で頻繁に見られるという結果が報告されている.
 get-passive が否定的な semantic prosody を帯びやすいということは,従来から文法書等で指摘されてきたことだが,コーパス研究の長所は具体的な数字を提供してくれる点にある.Stubbs の調査では,be-passive の約25%が "unpleasant" な結果を含意し,"pleasant" を含意するものも多いという.一方,get-passive では60%以上が "unpleasant" な結果を含意し,"pleasant" を含意するものはほんのわずかである.別のコーパスを用いた別の研究者による調査では,get-passage の "unpleasant" 含意率が話し言葉コーパスで約9割に達したという報告もあり,get-passive が否定的な semantic prosody をもっていることは明らかである.このような客観的な数値による裏付けが,corpus semantics の重要な特長であり役割である.
 しかし,コーパス研究によって得られた get-passive に関するこの知見は,get-passive を含む具体的な文の解釈にどのくらい役立つのだろうか.コーパスから得られたという次の文を考えよう.

I got praised for having a clean plate.


 一見したところ特に "unpleasant" を含意する語句は含まれていない.しかし,get-passive が用いられているということは,ここでは "unpleasant" を含意する解釈,おそらくは皮肉的な読みが要求されているということなのだろうか.コーパスによる知見から言えることは,「否定的な semantic prosody を伴っている get-passive が用いられている以上,高い確率で "unpleasant" の読みがふさわしいだろうが,"pleasant or neutral" な例も皆無ではなかったのだからここでは例外的に "pleasant or neutral" な読みかもしれない」ほどだろうか.しかし,これでは常識的に知っていることと差がない.コーパスの知見がほとんど活かされていない.コーパス研究のジレンマは,大量の用例から傾向を探り出すことは得意だが,個々の用例の解釈を保証してはくれないということである.英文解釈のためにコーパスで注目表現の有無や頻度を調べるということは日常的に行なっているが,そこでいつも思うのが,その表現があったから,高頻度だったからといって,それが必ずしも正しい英文解釈へ導いてくれるとは限らないということである.「参考までに」で止まってしまうことが多く,じれったい.「参考までに」では参考にならないことが多いのだ.
 この問題を semantic prosody の観点からとらえなおすと,ある共起表現において semantic prosody の含意する否定性がどの程度の強度,安定感,感染力をもっていれば,一見したところ中立的,肯定的な文脈が皮肉などの否定的な音色を帯びると考えられるのだろうか.それは probability の値として算出できるものなのだろうか.
 個々の文脈で判断すべしと言ってしまえばそれまでだが,コーパス研究の成果が英文解釈という現実的な問題に貢献し得ないとなると,その価値は大幅に制限されてしまうのではないか.Stubbs の論文は,コーパス研究と解釈の関係について上記の問題を提起しているが,解決策については無言である.

 ・ Stubbs, M. "Texts, Corpora, and Problems of Interpretation: A Response to Widdowson." Applied Linguistics 22.2 (2001): 149--72.

Referrer (Inside): [2011-03-20-1] [2011-03-11-1]

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