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family_tree - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-01-18 05:57

2018-01-14 Sun

#3184. イラン語派の系統図 [family_tree][indo-european_sub-family][indo-european][iranian][sogdian]

 昨日の記事でイラン語派に属する「#3183. ソグド語」 ([2018-01-13-1]) について紹介した.この語派については「#1452. イラン語派(印欧語族)」 ([2013-04-18-1]) で扱ったが,系統図を示していなかったので,American Heritage Dictionary の裏表紙にある印欧語族の系統図に従って,ここに示しておきたい.(「#1146. インドヨーロッパ語族の系統図(Fortson版)」 ([2012-06-16-1]) でもイラン語派の樹形図を示したが,系統関係を表わすというよりは,時代別の区分を表わすものだった.)

Family Tree of the Iranian Languages

 語族の分類は考え方によって様々にあり得るため,別のソースでは上記と異なる場合がある.Ethnologue の仕分けによれば,現在 Iranian には86の言語が確認され,上のように3区分ではなく,Eastern と Western へ2区分する方法を採っている.
 いずれにせよ現在でもイランから中央アジアにかけて存在感を示している語派である.

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2018-01-05 Fri

#3175. group thinking と tree thinking [history_of_linguistics][family_tree][methodology][metaphor][metonymy][diachrony][causation][language_change][comparative_linguistics][linguistic_area][contact][borrowing][variation][terminology][how_and_why]

 「#3162. 古因学」 ([2017-12-23-1]) や「#3172. シュライヒャーの系統図的発想はダーウィンからではなく比較文献学から」 ([2018-01-02-1]) で参照してきた三中によれば,人間の行なう物事の分類法は「分類思考」 (group thinking) と「系統樹思考」 (tree thinking) に大別されるという.横軸の類似性をもとに分類するやり方と縦軸の系統関係をもとに分類するものだ.三中 (107) はそれぞれに基づく科学を「分類科学」と「古因科学」と呼び,両者を次のように比較対照している.

分類科学分類思考メタファー集合/要素認知カテゴリー化
古因科学系統樹思考メトニミー全体/部分比較法(アブダクション)


 上の表の最後に触れられているアブダクションについては「#784. 歴史言語学は abductive discipline」 ([2011-06-20-1]) を参照.
 三中は生物分類学の専門家だが,その分野では,たとえモデル化された図像が同じようなツリーだったとしても,観念論的に解釈された場合と系統学的に解釈された場合とではメッセージが異なりうるという.前者が分類思考に,後者が系統樹思考に対応すると思われるが,これについても上記と似たような比較対照表「観念論的な体系学とその系統学的解釈の対応関係」が著書の p. 172 に挙げられているので示そう(ただし,この表のもとになっているのは別の研究者のもの).

観念論的解釈 系統学的解釈
体系学 (Systematik)系統学 (Phylogenetik)
形態類縁性 (Formverwandtschaft)血縁関係 (Blutsverwandtschaft)
変容 (Metamorphose)系統発生 (Stammesentwicklung)
体系学的段階系列 (systematischen Stufenreihen)祖先系列 (Ahnenreihen)
型 (Typus)幹形 (Stammform)
型状態 (typischen Zuständen)原始的状態 (ursprüngliche Zuständen)
非型的状態 (atypischen Zuständen)派生的状態 (abgeänderte Zuständen)


 このような group thinking と tree thinking の対照関係を言語学にも当てはめてみれば,多くの対立する用語が並ぶことになるだろう.思いつく限り自由に挙げてみた.

分類科学古因科学
構造主義言語学 (structural linguistics)比較言語学 (comparative linguistics)
類型論 (typology)歴史言語学 (historical linguistics)
言語圏 (linguistic area)語族 (language family)
接触・借用 (contact, borrowing)系統 (inheritance)
空間 (space)時間 (time)
共時態 (synchrony)通時態 (diachrony)
範列関係 (paradigm) 連辞関係 (syntagm)
パターン (pattern)プロセス (process)
変異 (variation)変化 (change)
タイプ (type)トークン (token)
メタファー (metaphor)メトニミー (metonymy)
HowWhy


 最後に挙げた How と Why の対立については,三中 (238) が生物学に即して以下のように述べているところからのインスピレーションである.

進化思考をあえて看板として高く掲げるためには,私たちは分類思考に対抗する力をもつもう一つの思考枠としてアピールする必要がある.たとえば,目の前にいる生きものたちが「どのように」生きているのか(至近要因)に関する疑問は実際の生命プロセスを解明する分子生物学や生理学の問題とみなされる.これに対して,それらの生きものが「なぜ」そのような生き方をするにいたったのか(究極要因)に関する疑問は進化生物学が取り組むべき問題だろう.


 言語変化の「どのように」と「なぜ」の問題 (how_and_why) については,「#2123. 言語変化の切り口」 ([2015-02-18-1]),「#2255. 言語変化の原因を追究する価値について」 ([2015-06-30-1]),「#2642. 言語変化の種類と仕組みの峻別」 ([2016-07-21-1]),「#3133. 言語変化の "how" と "why"」 ([2017-11-24-1]) で扱ってきたが,生物学からの知見により新たな発想が得られた感がある.

 ・ 三中 信宏 『進化思考の世界 ヒトは森羅万象をどう体系化するか』 NHK出版,2010年.

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2018-01-02 Tue

#3172. シュライヒャーの系統図的発想はダーウィンからではなく比較文献学から [history_of_linguistics][family_tree][comparative_linguistics][reconstruction][manuscript][textual_transmission]

 言語学における比較法 (the comparative method) の起源はドイツ人 Friedrich Schlegel (1772--1828) に遡るが,その定着に重要な貢献をなしたのはドイツ人 August Schleicher (1821--68) である.シュライヒャーはダーウィンの理論に傾倒して,1860年代前半に「#1118. Schleicher の系統樹説」 ([2012-05-19-1]) で示したような言語系統図を提示したが,その系統図的発想の源泉はおそらくダーウィンではなかった.むしろシュライヒャーが長らく属していた比較文献学の伝統,すなわち写本系統 (stemma, stemmatology) の考え方に起因するものだった可能性が高い.
 三中 (99-100) は,ホーニグズワルドを参照しながらシュライヒャーの学問的背景について次のように述べている.

彼はイエナ大学の同僚であり,ダーウィンの進化学をドイツに普及させた最大の功労者であるヘッケルに導かれて,一八六〇年代にダーウィン理論に基づく歴史言語学に傾倒する.しかし,シュライヒャーを言語系統学に導いたのはダーウィンやヘッケルではない.むしろ,それ以前に比較文献学の教育を長く受けてきたことが,彼に言語系統樹の重要性を認識させた根本原因であるとホーニグズワルドは指摘している.
 比較文献学では,現存する複数の古写本(異本)間の比較を通じてうしなわれた祖本の構築を目指す.その際,異本のもつ派生的ミス(字句の欠落・重複あるいは段落順の移動など)の共有性を手がかりにして,写本系図 (manuscript stemma) を構築する.シュライヒャーは,この方法論を言語にも適用し,言語間での派生的な特徴(とりわけ音韻論に着目して)の共有に基づく言語系統樹を一八五三年に――すなわち,ダーウィンの『種の起原』の出版(一八五九年)よりもかなり前に――早くも公表している.したがって,シュライヒャーの比較法は,ダーウィンやヘッケルではなく,それ以前の一八世紀に比較文献学においてすでに確立されていた写本系図の構築法の拡大適用とみなすべきであろう.


 シュライヒャーがダーウィンの進化論に傾倒していたという事実から,てっきり言語系統図のアイデアは生物進化の新説から得たものだろうと思い込んでいたが,そうではないようだ.むしろ,言語学の側から生物学へとアイデアが流れ込んだという可能性すらある.そして,シュライヒャーの系統図的なアイデアの源泉が,写本の transmission に関する研究の伝統にあっただろうということもたやすく首肯できる(cf. 「#730. 写本文化の textual transmission」 ([2011-04-27-1])).つまり,時間の前後関係と因果関係は,おそらく「写本系統図→言語系統図→生物系統図」だったことになる.
 言語学においては,構造主義の統語論で用いられるIC分析や生成文法の統語ツリーなども系統図を彷彿とさせるが,これもシュライヒャーからの伝統に基づくものかもしれない.あるいは,少なくともシュライヒャーから影響を受けた生物学からの2次的な影響によるものと考えることはできそうだ.関連して,「#2471. なぜ言語系統図は逆茂木型なのか」 ([2016-02-01-1]) も参照されたい.
 系統図的発想や比較法が異なる学問領域を横断して十分に通用するものであることについては,「#3162. 古因学」 ([2017-12-23-1]) の記事も参照.

 ・ 三中 信宏 『進化思考の世界 ヒトは森羅万象をどう体系化するか』 NHK出版,2010年.

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2017-12-10 Sun

#3149. なぜ言語を遺伝的に分類するのか? [family_tree][comparative_linguistics][sobokunagimon][linguistics][history_of_linguistics]

 「#3146. 言語における「遺伝的関係」とは何か? (1)」 ([2017-12-07-1]),「#3147. 言語における「遺伝的関係」とは何か? (2)」 ([2017-12-08-1]),「#3148. 言語における「遺伝的関係」の基本単位は個体か種か?」 ([2017-12-09-1]) で,言語における「遺伝」について考えた.この「遺伝」情報に従って,印欧語族の系統図のような family_tree が描かれてきたのだが,このような言語の「遺伝的分類」は,何の役に立つのだろうか.Noonan (51) がこの素朴な疑問に答えている.

. . . it might be worth asking what genetic classification is good for. It has already been stated that genetic classification is not always useful in providing information about the structure of a language or its morpheme inventory, the more so the higher up the taxonomic ladder one goes. Information about where in the world a language is spoken provides more useful information about grammatical structure, but we don't have classifications of languages by region that are comparable to genetic classifications. On the positive side, however, genetic classification has proven a boon to historical linguistics, providing the superstructure around which theories of language change have developed over the last two centuries. Such classifications also, potentially, provide information of considerable historical value. Typologists use genetic classifications to explain similarities among languages and as a consideration in constructing cross-linguistic samples. And, of course, most of us find satisfying the classification of familiar things: typically the first thing a linguist will ask on being told of an unfamiliar language is: "What family does it belong to?"


 1つめは,消極的ではあるが,もう1つの言語分類法である類型論 (typology) は,地域分布と言語特徴を関連づけようとする分類法として有望ではあるが,遺伝的分類に匹敵する質のものはいまなお得られていないという点である.
 2つめは,歴史言語学において言語変化を研究するための作業場として "superstructure" を与えてくれるという貢献である.印欧祖語からゲルマン祖語を経て,古英語,そして現代英語にまで及ぶ広い意味での英語史や英語の言語変化を研究しようとする際に,すでにこの大きな枠組みが前提となっていなければ研究しにくい.枠組み自体が仮説的なものではあるにせよ,それを設定することで見えてくることも多い.
 3つめの回答は,一般的なものである.人間は身の回りのものを分類したがる動物である.ましてや言葉という卑近なものを分類したがる性癖は避けがたい.

 ・ Noonan, Michael. "Genetic Classification and Language Contact." The Handbook of Language Contact. Ed. Raymond Hickey. 2010. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2013. 48--65.

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2017-12-09 Sat

#3148. 言語における「遺伝的関係」の基本単位は個体か種か? [linguistics][sobokunagimon][family_tree][comparative_linguistics]

 連日の記事 ([2017-12-07-1], [2017-12-08-1]) で,言語における「遺伝的関係」に注目している.言語学は19世紀以来,概念においても用語においても生物学から多大な影響を受けてきた.言語学は他の文化的所産を研究する分野と比べても,とりわけその傾向が強かったといえる.実際に,言語を生物に喩える言説は広く行なわれてきた(「#1578. 言語は何に喩えられてきたか」 ([2013-08-22-1]),「#1579. 「言語は植物である」の比喩」 ([2013-08-23-1]),「#1118. Schleicher の系統樹説」 ([2012-05-19-1]),「#807. 言語系統図と生物系統図の類似点と相違点」 ([2011-07-13-1]) などを参照).
 しかし,言語は生物ではない.したがって,比喩がどこまで通用し,どこから破綻するのかを見極めなければならない.例えば,生物における個体や種という概念は,言語ではそれぞれ何に相当するのだろうか.言語学の言説では,言語を生物の個体になぞらえる見方と種になぞらえる見方の両方がある.Noonan (52) の議論を引用しよう.

Within a biologically inspired framework, there are at least two possible classes of interpretations of genetic relatedness. One could conceive of languages as unitary organisms and consider relatedness in a way analogous to that of individual animals or plants, which can be related via lineages created through sexual or asexual reproduction. Alternatively, one could conceive of a language as a population, either of speakers or of linguistic constructs, or even of a population of speakers each with his/her idiolect and hence his/her own set of linguistic constructs. Population models of this sort might adopt a species analogy for understanding genetic relatedness.


 ここでは言語を "unitary organism" (個体)とみる立場と "population" (「種」の概念に近い)とみる立場が紹介されている.後者の見方は最近の一部の論者が唱えているものだが,一般には前者の解釈が受け入れられている.後者について,Noonan (52) はさらに説明を加える.

In linguistics, the unitary organism model was the one adopted by historical linguists in the early nineteenth century; this model has survived as the received mode of understanding genetic relations to the present day. Within this model, two languages are said to be genetically related if they descend from a common ancestor. Since it is at least possible that all languages descend from a common ancestor, languages are usually claimed to be related only if their relatedness can be established through the comparative method or some alternative procedure.
   In principle, a unitary organism model could adopt either an asexual (parthenogenetic) or a sexual model for conceptualizing genetic relatedness. The established model, known as the family tree or Stammbaum model, adopted parthenogenetic (asexual) reproduction as the mode for understanding genetic relationships among languages. The expressions mother/ancestor language and daughter language are components of the model and reflect the original analogy, as do the notions of language birth and language death.


 "unitary organism" とみる立場のなかにも,"asexual (parthenogenetic) model" と "sexual model" の2種が区別されるというのがおもしろい.言語学の言説では「母言語」「娘言語」のような女系用語が目立つが,これは歴史言語学では "unitary organism model" のなかでも "an asexual (parthenogenetic) model" が一般的に受け入れられてきたことと関係するのだろう.この女系用語の問題については「#2055. 「母音」という呼称」 ([2014-12-12-1]) も参照されたい.

 ・ Noonan, Michael. "Genetic Classification and Language Contact." The Handbook of Language Contact. Ed. Raymond Hickey. 2010. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2013. 48--65.

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2017-12-08 Fri

#3147. 言語における「遺伝的関係」とは何か? (2) [terminology][comparative_linguistics][family_tree][methodology][linguistics][wave_theory][creole][contact][sobokunagimon]

 昨日の記事 ([2017-12-07-1]) に引き続いての話題.言語間の「遺伝的関係」を語るとき,そこにはいかなる前提が隠されているのだろうか.
 その前提は実は論者によって様々であり,すべての言語学者が同意している前提というものはない.しかし,Noonan (50) は「遺伝的関係」が語られる前提として,大きく3種類の態度が区別されるとしている.

 (1) the generational transmission approach.大多数の言語学者が受け入れている,理解しやすい前提であり,それゆえに明示的に指摘されることが最も少ない考え方でもある.この立場にあっては,言語間の遺伝的関係とは,言語的伝統が代々受け継がれてきた歴史と同義である.親が習得したのとほぼ同じ言語体系を子供が習得し,それを次の世代の子供が習得するというサイクルが代々繰り返されることによって,同一の言語が継承されていくという考え方だ.このサイクルに断絶がない限り,時とともに多かれ少なかれ変化が生じたとしても,遺伝的には同一の言語が受け継がれているとみなすのが常識的である.現代英語の話者は,世代を遡っていけば断絶なく古英語の話者へ遡ることができるし,比較言語学の力を借りてではあるが,ゲルマン祖語の話者,そして印欧祖語の話者へも遡ることができる(と少なくとも議論はできる).したがって,現代英語と印欧祖語には,連綿と保持されてきた遺伝的関係があるといえる.

 (2) the essentialist approach.話者の連続的な世代交代ではなく,言語項の継承に焦点を当てる立場である.直接的に遺伝関係のある言語間では,ある種の文法的な形態素や形態統語的特徴が引き継がれるはずであるという前提に立つ.逆にいえば,そのような言語特徴が,母言語と目される言語から娘言語と目される言語へと引き継がれていれば,それは正真正銘「母娘」の関係にある,つまり遺伝的関係にあるとみなすことができる,とする.(1) と (2) の立場は,しばしば同じ分析結果を示し,ともに比較言語学の方法と調和するという共通点もあるが,前提の拠って立つ点が,(1) では話者による言語伝統の継承,(2) ではある種の言語項の継承であるという違いに注意する必要がある.

 (3) the hybrid approach.(1), (2) 以外の様々な考え方を様々な方法で取り入れた立場で,ここでは便宜的に "the hybrid approach" として1つのラベルの下にまとめている.波状理論,現代の比較言語学,クレオール論などがここに含まれる.これらの論の共通点は,少なくともいくつかの状況においては,複数の言語が混合し得るのを認めていることである(上記 (1), (2) の立場は言語の遺伝的混合という概念を認めず,たとえ "mixed language" の存在を認めるにせよ,それを「遺伝関係」の外に置く方針をとる).比較言語学の方法を排除するわけではないが,その方法がすべての事例に適用されるとは考えていない.また,言語は言語項の集合体であるとの見方を取っている.この立場の内部でも様々なニュアンスの違いがあり,まったく一枚岩ではない.

 このように歴史言語学の言説で日常的に用いられる「遺伝的関係」の背後には,実は多くの論点を含んだイデオロギーの対立が隠されているのである.関連して,「#1578. 言語は何に喩えられてきたか」 ([2013-08-22-1]) を参照.混成語の例については,「#1717. dual-source の混成語」 ([2014-01-08-1]) を参照.

 ・ Noonan, Michael. "Genetic Classification and Language Contact." The Handbook of Language Contact. Ed. Raymond Hickey. 2010. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2013. 48--65.

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2017-12-07 Thu

#3146. 言語における「遺伝的関係」とは何か? (1) [terminology][comparative_linguistics][family_tree][methodology][typology][borrowing][linguistics][sobokunagimon]

 歴史言語学において,共通祖語をもつ言語間の発生・発達関係は "genetic relationship" と呼ばれる.本来生物学に属する "genetics" という用語を言語に転用することは広く行なわれ,当然のものとして受け入れられてきた.しかし,真剣に考え出すと,それが何を意味するかは,まったく自明ではない.この用語遣いの背景には様々な前提が隠されており,しかもその前提は論者によって著しく異なっている.この問題について,Noonan (48--49) が比較的詳しく論じているので,参照してみた.今回の記事では,言語における遺伝的関係とは何かというよりも,何ではないかということを明らかにしたい.
 まず力説すべきは,言語の遺伝的関係とは,その話者集団の生物学的な遺伝的関係とは無縁ということである.現代の主流派言語学では,人種などの遺伝学的,生物学的な分類と言語の分類とは無関係であることが前提とされている.個人は,どの人種のもとに生まれたとしても,いかなる言語をも習得することができる.個人の習得する言語は,その遺伝的特徴により決定されるわけではなく,あくまで生育した社会の言語環境により決定される.したがって,言語の遺伝的関係の議論に,話者の生物学的な遺伝の話題が入り込む余地はない.
 また,言語類型論 (linguistic typology) は,言語間における言語項の類似点・相違点を探り,何らかの関係を見出そうとする分野ではあるが,それはあくまで共時的な関係の追求であり,遺伝的関係について何かを述べようとしているわけではない.ある2言語のあいだの遺伝的関係が深ければ,言語が構造的に類似しているという可能性は確かにあるが,そうでないケースも多々ある.逆に,構造的に類似している2つの言語が,異なる系統に属するということはいくらでもあり得る.そもそも言語項の借用 (borrowing) は,いかなる言語間にあっても可能であり,借用を通じて共時的見栄えが類似しているにすぎないという例は,古今東西,数多く見つけることができる.
 では,言語における遺伝的関係とは,話者集団の生物学的な遺伝的関係のことではなく,言語類型論が指摘するような共時的類似性に基づく関係のことでもないとすれば,いったい何のことを指すのだろうか.この問いは,歴史言語学においてもほとんど明示的に問われたことがないのではないか.それにもかかわらず日常的にこの用語が使われ続けてきたのだとすれば,何かが暗黙のうちに前提とされてきたことになる.英語は遺伝的にはゲルマン語派に属するとか,日本語には遺伝的関係のある仲間言語がないなどと言うとき,そこにはいかなる言語学上の前提が含まれているのか.これについて,明日の記事で考えたい.

 ・ Noonan, Michael. "Genetic Classification and Language Contact." The Handbook of Language Contact. Ed. Raymond Hickey. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2010. 2013. 48--65.

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2017-05-24 Wed

#2949. ロマンス語の分類 [family_tree][indo-european_sub-family][italic][map]

 イタリック語派の歴史的な分岐と分類については,「#1467. イタリック語派(印欧語族)」 ([2013-05-03-1]) で概要を説明した.現代のロマンス語を分類するに当たっても,(俗)ラテン語からの歴史的な分岐を考えるのが一般的だが,分岐に関わる言語的基準の選び方によって,複数の分類が可能となる.また,共時的には地理的な分布も無視できないため,やはり様々な分類が生じる.社会言語学的な考慮を含めると,さらに問題は複雑化し,「#1660. カタロニア語の社会言語学」 ([2013-11-12-1]) で触れたような政治的な側面が議論に関わってくる.
 このような言語の派生と区分についての一般的な議論としては,川口が非常に易しく解説しており,有用である.その上で,川口 (85) は,ロマンス語について歴史的観点と地理的観点を組み合わせた区分の1例を,以下のように提示している.

 ・ イベリア・ロマンス語群:イベリア半島のロマンス語(ポルトガル語,ガリシア語,スペイン語,カタルーニャ語...)
 ・ ガリア・ロマンス語群(フランス語,オック語(南フランス),ピエモンテ語(北イタリア)...)
 ・ イタリア・ロマンス語群(イタリアの諸地方語)
 ・ サルデーニャ語(ログドーロ語,カンピダーノ語)
 ・ ラエティア・ロマンス語群(フリウリ語(北イタリア),ラディン語(北イタリア),エンガディン語(北イタリア),ロマンシュ語(スイス))
 ・ ダルマティア・ロマンス語群(20世紀初頭に最後の話者が死亡したダルマティア語)
 ・ ダキア・ロマンス語(ルーマニア語等)

 サルデーニャ島で話される主要な地域語であるログドーロ語やカンピダーノ語は,イタリア語ではなくラテン語から直接派生した言語であり,ロマンス語のなかでは最も古い状態を残しているという.  *

 ・ 川口 順次 「ロマンス語をめぐって」『地中海の魅力2014,地中海の誘惑2015』 慶應大学文学部,2017年.81--86頁.

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2017-04-12 Wed

#2907. 西ゲルマン語群の分類 [germanic][family_tree][comparative_linguistics]

 「#2239. 古ゲルマン諸語の分類」 ([2015-06-14-1]) で触れたように,西ゲルマン語群の分類には議論が多い.伝統的には Ingvaeonic, Istvaeonic, Erminonic の3区分がなされてきたが,現在もある程度用いられている用語は Ingvaeonic くらいだろう.
 この伝統的な分類について,Lass (15) の系統樹を近似的に再現しておこう.図の左側の年代は,テキスト上の証拠などに基づいてはいるものの,あくまで近似的なものにすぎないことに注意.

                           * Proto-WGmn            
                                │
            ┌─────────┼──────┐
AD          │                  │            │
100    'Ingvaeonic'         'Istvaeonic    'Erminonic'    
200         │    \            │            │
300     'Angl-Fr'   \          │            │
400         │\      \        │            │
500         │  \     │       │            │
600         │   │    │       │            OHG    
700         OE   │    OS       │            │
800         │   │    │       OLF           │\
900         │   │    │       │            │  \
1000        ME   │    MLG      MDu           MHG  OYi
1100        │   │    │       │            │   │
1200        │   OFri  │       │            │   │
1300        │   │    │       │            │   │
1400        │   │    │       │            │   │
1500        │   │    │       │            │   │
1600        │   │    │       │\          │   │
1700       ModE  Fri    LG    Du  Afr         G    Yi
1800
1900

 ・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.

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2017-03-09 Thu

#2873. 生物進化に関する誤解と,その解消法の言語への応用 [evolution][language_myth][family_tree][indo-european]

 「#2863. 種分化における「断続平衡説」と「系統漸進説」」 ([2017-02-27-1]) でも触れたが,近年の言語学では,進化生物学における進化 (evolution) の概念がしばしば参照される.生物の進化と言語を進化を比較すると,興味深い洞察が得られることが多い.今回は,生物進化に関して人々が典型的に抱いている誤解を紹介しながら,対応する言語進化の誤解について考えてみたい.
 伊勢 (52--53) によると,生物進化について次のような誤解が蔓延しているという.進化のなかでヒトが最も上位であり,その次がサル,そしてその下にもろもろの生き物(獣や虫など)が位置づけられ,全体として序列がある,という見解である.しかし,進化生物学では,それぞれの生き物が各々の環境に適応してきたのであり,ヒトにしても,サルにしても,アリにしても,みな共通の祖先から枝分かれして,同じ時間だけ自然淘汰にさらされ,常に進化の最前線で生きてきたのだと考える.つまり,様々な種の間には,系統関係の遠近はあるにせよ,上下・優劣の差といった序列はない.
 ヒトが生物界の序列の頂点に鎮座しているという誤解を解きほぐすには,系統図の描き方を少々工夫すればよい.例えば,伊勢 (54) は以下の左図よりも右図の見方のほうが啓蒙的であるとしている.

アリ    ネコ   ゴリラ  チンパンジー  ヒト  │  アリ    ネコ  チンパンジー  ヒト    ゴリラ
 \     \     \     \    /   │   \     \     \    /     /
  \     \     \     \  /    │    \     \     \  /     /
   \     \     \     \/     │     \     \     \/     /
    \     \     \    /      │      \     \     \    /
     \     \     \  /       │       \     \     \  /
      \     \     \/        │        \     \     \/
       \     \    /         │         \     \    /
        \     \  /          │          \     \  /
         \     \/           │           \     \/
          \    /            │            \    /
           \  /             │             \  /
            \/              │              \/
            /               │              /
           /                │             /
          /                 │            /

 右図では,ヒトが「序列の頂点」の想起されやすい右端のポジションには置かれておらず,特別な存在ではないことが示される.さらに,チンパンジーが実はゴリラよりもヒトのほうに近い親戚であることが読み取りやすくなる.ヒトとそれ以外のサル(チンパンジーとゴリラ)という対立ではなく,ヒトとチンパンジーから成るグループと,ゴリラのグループとの対立である,という点が浮き彫りになるのだ.あるいは,チンパンジーにとって最も近縁の動物は何かという問い方をすれば,ゴリラではなくヒトである,というのが正しい答えであることも読み取りやすい.
 一般には,ヒトの立場から見れば,チンパンジーもゴリラも同じ「サル」として下等に見える.しかし,ゴリラの目線から見れば,ヒトとチンパンジーは「自分たちから外れていった変なサル」として同類に映るだろう.チンパンジーの目線からは,ヒトもゴリラも風変わりの度合いこそ異なるが,いずれにせよ風変わりな「どうしちゃったのチンパンジー」などと見えているかもしれないのだ.
 上の例は,言語に関する誤解と,その誤解の解消についても当てはめることができるのではないか.現代世界で最も国際的に有用で,広く使用されている英語という言語は,上等で偉い言語であると見なされがちである.言語系統図にしても,英語が最も重要と見なされやすい位置に描かれ,その他の言語とそれに至る進化の枝は二次的で周辺的な扱いを受けるように描かれることがある.しかし,相対化してみれば,英語も他の言語も各々に環境適応してきたという点では同格であり,いずれが上等ということはない.以下,粗っぽい図ではあるが,英語を含む諸言語の系統図,2種類を比べてみよう.

印欧祖語  独語    蘭語   フリジア語  英語  │  印欧祖語  独語   フリジア語  英語    蘭語
 \     \     \     \    /   │   \     \     \    /     /
  \     \     \     \  /    │    \     \     \  /     /
   \     \     \     \/     │     \     \     \/     /
    \     \     \    /      │      \     \     \    /
     \     \     \  /       │       \     \     \  /
      \     \     \/        │        \     \     \/
       \     \    /         │         \     \    /
        \     \  /          │          \     \  /
         \     \/           │           \     \/
          \    /            │            \    /
           \  /             │             \  /
            \/              │              \/
            /               │              /
           /                │             /
          /                 │            /

 英語を含む印欧語族の系統図については,cat:indo-european family_tree の各記事を参照.

 ・ 伊勢 武史 『生物進化とはなにか?』 ベレ出版,2016年.

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2017-03-02 Thu

#2866. 古人類学にみる纏めたがり屋と分けたがり屋 [world_languages][typology][family_tree][anthropology][homo_sapiens][timeline][chronology]

 連日,バーナード・ウッドの『人類の進化』を参照し,他領域からヒントを得て言語の進化について考察してきた.今回も引き続いてウッドを参照し,分類の目の粗さと細かさについての洞察を得てみたい.
 現代世界における言語の数については,研究者によって数え方の違いがあり,数千の幅がある.数え方の違いが何によって生じるかという問題は「#270. 世界の言語の数はなぜ正確に把握できないか」 ([2010-01-22-1]) や「#1060. 世界の言語の数を数えるということ」 ([2012-03-22-1]) などで論じたので繰り返さないが,原因の1つに「言語」と「方言」の区別が客観的につけられないという事情がある.互いに非常に近い関係にあるいくつかの言語変種を,1言語のもとにある諸方言と捉えるか,あるいは各々を独立した言語と捉えるかは,しばしば言語学的な基準のみで決定することができない.前者の捉え方は「纏めたがり屋」 (lumper) の研究者の立場で,後者は「分けたがり屋」 (splitter) の研究者の立場である.
 この "lumper" と "splitter" という呼称は,古人類学の分野で常用されているもののようだ.一般には人類の歴史は「猿人」「原人」「旧人」「新人」の4段階で進んできたと理解されているが,これは人類学者にとっては相当に粗い分類のようで,専門的にはもっと細かく分類されているという.しかし,「もっと細かく」にもレベルがあり,専門家の間でも,大きくまとめあげる lumper と,とことん細分化する splitter とで,タイプが分かれるらしい.究極的には人類学者が10人いれば10通りの分類があるともいえ,その状況は言語においても同じというところがおもしろい.
 参考までに,纏めたがり屋と分けたがり屋による,古人類の種名の対照表を,ウッド (99) より再現しよう.

通称纏めたがり屋の種名年代(万年前)分けたがり屋の分類に含まれる種名
初期猿人アルディピテクス・ラミダス(広義)700--450アルディピテクス・カダッパ,アルディピテクス・ラミダス,サヘラントロプス・チャデンシス,オロリン・トゥゲネンシス
猿人とホモ・ハビリスアウストラロピテクス・アファレンシス(広義)420--300アウストラロピテクス・アファレンシス,アウストラロピテクス・アナメンシス,アウストラロピテクス・バールエルガザリ,ケニアントロプス・プラティオプス
アウストラロピテクス・アフリカヌス300--240アウストラロピテクス・アフリカヌス
パラントロプス・ボイセイ(広義)250--130パラントロプス・ボイセイ,パラントロプス・エチオピクス,アウストラロピテクス・ガルヒ
パラントロプス・ロブストス200--150パラントロプス・ロブストス
原人と旧人ホモ・ハビリス(広義)240--160ホモ・ハビリス,ホモ・ルドルフェンシス
ホモ・エレクトス(広義)198--1.8ホモ・エレクトス,ホモ・エルガスター,ホモ・フロレンシエンシス
新人ホモ・サピエンス(広義)70--現在ホモ・アンテセッソル,ホモ・ハイデルベルゲンシス,ホモ・ネアンデルターレンシス,ホモ・サピエンス


 纏めたがり屋が広義で用いている「ホモ・サピエンス」には,分けたがり屋にとっての狭義での新人「ホモ・サピエンス」のみならず,通常「旧人」とされている「ホモ・ネアンデルターレンシス」も含まれることになるなど,素人にとっては実にややこしい.DNA という「物的証拠」があるにもかかわらず,客観的な線引きが難しいというのは,非常に示唆的である.実にこの難しさは,言語の分類に際してもほぼそのまま当てはまるのである.  *

 ・ バーナード・ウッド(著),馬場 悠男(訳) 『人類の進化――拡散と絶滅の歴史を探る』 丸善出版,2014年.

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2017-02-28 Tue

#2864. 分類学における系統段階 [family_tree][anthropology][homo_sapiens][diachrony][terminology][linguistic_area][typology][methodology][world_languages][evolution]

 世界の言語を分類する際の2つの基準である「系統」と「影響」は,言語どうしの関係の仕方を決定づける基準でもある.この話題については,本ブログでも以下の記事を始めとして,あちらこちらで論じてきた (see 「#369. 言語における系統影響」 ([2010-05-01-1]),「#807. 言語系統図と生物系統図の類似点と相違点」 ([2011-07-13-1]),「#371. 系統影響は必ずしも峻別できない」 ([2010-05-03-1]),「#1136. 異なる言語の間で類似した語がある場合」 ([2012-06-06-1]),「#1236. 木と波」 ([2012-09-14-1]),「#1930. 系統と影響を考慮に入れた西インドヨーロッパ語族の関係図」 ([2014-08-09-1])) .
 系統と影響は,それぞれ通時態と共時態の関係にも通じるところがある.系統とは時間軸に沿った歴史の縦軸を指し,影響とは主に地理的な隣接関係にある横軸を指す.言語における「系統」と「影響」という視点の対立は,生物分類学でいうところの「系統」と「段階」の対立に相似する.
 分岐分類学 (cladistics) では,時間軸に沿った種分化の歴史を基盤とする「系統」の視点から,種どうしの関係づけがなされる.系統としての関係が互いに近ければ,形態特徴もそれだけ似ているのは自然だろう.だが,形態特徴が似ていれば即ち系統関係が近いかといえば,必ずしもそうならない.系統としては異なるが,環境の類似性などに応じて似たような形態が発達すること(収斂進化)があり得る.このような系統とは無関係の類似を,成因的相同 (homoplasy) という.系統的な近さではなく,成因的相同に基づいて集団をくくる分類の仕方は,「段階」 (grade) による区分と呼ばれる.
 ウッド (70) を参考にして,現生高等霊長類を分類する方法を取り上げよう.「系統」の視点によれば,以下のように分類される.

ヒト族   チンパンジー族  ゴリラ族  オランウータン族
  \      /      /      /
   \    /      /      /
    \  /      /      /
     \/      /      /
      \     /      /
       \   /      /
        \ /      /
         \      /
          \    /
           \  /
            \/
             \
              \
               \

 一方,「段階」の視点によれば,以下のように「ヒト科」と「オランウータン科」の2つに分類される.

                           
ヒト科          オランウータン科
                │
      ┌─────────┼───────┐
      │                │              │
ヒト族   チンパンジー族  ゴリラ族  オランウータン族

 「段階」の区分法は,言語学でいえば,類型論 (typology) や言語圏 (linguistic_area) に基づく分類と似ているといえる.ただし,生物においても言語においても「段階」という用語とその含意には十分に気をつけておく必要がありそうだ.というのは,それは現時点における歴史的発達の「段階」によって区分するという考え方を喚起しやすいからだ.つまり,「段階」の上下や優劣という概念を生み出しやすい.「段階」の区分法は,あくまで共時的類似性あるいは成因的相同に基づく分類である,という点に留意しておきたい.

 ・ バーナード・ウッド(著),馬場 悠男(訳) 『人類の進化――拡散と絶滅の歴史を探る』 丸善出版,2014年.

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2017-02-08 Wed

#2844. 人類の起源と言語の起源の関係 (2) [language_family][world_languages][anthropology][family_tree][evolution][altaic][japanese][indo-european][origin_of_language]

 「#2841. 人類の起源と言語の起源の関係」 ([2017-02-05-1]) 及び「#2843. Ruhlen による世界の語族」 ([2017-02-07-1]) に引き続き,世界の語族分類について.Ruhlen 自身のものではないが,著書のなかで頻繁に参照・引用して支持している Cavalli-Sforza et al. が,遺伝学,考古学,言語学の知見を総合して作り上げた関係図がある.Ruhlen (33) で "Comparison of the Genetic Tree with the Linguistic Phyla" として掲げられている図は,Cavalli-Sforza らによるマッピングから少し改変されているようだが,いずれにせよ驚くべきは,遺伝学的な分類と言語学的な分類が,完全とは言わないまでも相当程度に適合していることだ.  *
 言語学者の多くは,昨日の記事 ([2017-02-07-1]) で触れたように,遺伝学と言語学の成果を直接結びつけることに対して非常に大きな抵抗を感じている.両者のこのような適合は,にわかには信じられないだろう.特に分類上の大きな問題となっているアメリカ先住民の諸言語の位置づけについて,この図によれば,遺伝学と言語学が異口同音に3分類法を支持していることになり,本当だとすればセンセーショナルな結果となる.
 ちなみに,ここでは日本語は朝鮮語とともにアルタイ語族に所属しており,さらにモンゴル語,チベット語,アイヌ語などとも同じアルタイ語族内で関係をもっている.また,印欧語族は,超語族 Nostratic と Eurasiatic に重複所属する語族という位置づけである.この重複所属については,ロシアの言語学者たちや Greenberg が従来から提起してきた分類から導かれる以下の構図も想起される (Ruhlen 20) .

            ┌─ Afro-Asiatic
            ├─ Kartvelian
            ├─ Elamo-Dravidian
NOSTRATIC ─┼─ Indo-European      ─┐
            ├─ Uralic-Yukaghir    ─┤
            ├─ Altaic             ─┤
            └─ Korean             ─┤
                 Japanese           ─┼─ EURASIATIC
                 Ainu               ─┤
                 Gilyak             ─┤
                 Chukchi-Kamchatkan ─┤
                 Eskimo-Aleut       ─┘

 Cavalli-Sforza et al. や Ruhlen にとって,遺伝学と言語学の成果が完全に一致しないことは問題ではない.言語には言語交替 (language_shift) があり得るものだし,その影響は十分に軽微であり,全体のマッピングには大きく影響しないからだという.
 素直に驚くべきか,短絡的と評価すべきか.

 ・ Ruhlen, Merritt. The Origin of Language. New York: Wiley, 1994.
 ・ Cavalli-Sforza, L. L, Alberto Piazza, Paolo Menozzi, and Joanna Mountain. "Reconstruction of Human Evolution: Bringing Together Genetic, Archaeological and Linguistic Data." Proceedings of the National Academy of Sciences 85 (1988): 6002--06.

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2017-02-04 Sat

#2840. 人類の脳容量の変化 [evolution][origin_of_language][homo_sapiens][anthropology][family_tree]

 「#2838. 新人の登場と出アフリカ」 ([2017-02-02-1]) と「#2839. 新人の出アフリカ後のヨーロッパとアメリカへの進出」 ([2017-02-03-1]) に引き続き,人類学の話題.人類の進化を脳容量の変化という観点からたどると,興味深いことに,類人猿までの進化には相当手間取ったらしい.
 ヒトに最も近いチンパンジーの脳の容量は400cc.霊長類の歴史では,ここから500ccの大台に乗るのまでに400万年という時間を要した.逆に,それ以降の進化は早い.300〜200万年前のアウストラロピテクス・アフリカヌスの段階で450ccになった後,230〜140万年前のホモ・ハビリスでついに550ccを記録.さらに,150〜20万年前のホモ・エレクトスでは1000ccとなり,40〜2万年前に生存したホモ・ネアンデルターレンシスでは1500ccにも達した.ちなみに現在まで続く新人たるホモ・サピエンスの脳容量はむしろ若干少なく,1350ccである.この進化の過程で,漸進的に顎が後退し,体毛が喪失した.
 霊長類という観点から進化をたどると,およそ次のような図式となる(谷合. p. 223 を参照).

3500万年前 ─┬──────── マーモセット
             │    
             │    
             │    
             │    
2500万年前   └┬─────── ニホンザル・メガネザル
               │  
               │  
               │  
1800万年前     └┬────── テナガザル
                 │
                 │
1200万年前       └┬───── オランウータン
                   │
                   │
700〜500万年前 ──┴┬──── ゴリラ
                     │
                     └─┬── チンパンジー
                         │
               サヘラントロプス・チャデンシス
                         │
                         └── ヒト
 その他,谷合より,脳容量の比較(231)や人類の進化系統樹(240)の図も有用.  *  *

 ・ 谷合 稔 『地球・生命――138億年の進化』 SBクリエイティブ,2014年.

Referrer (Inside): [2017-02-05-1]

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2016-09-02 Fri

#2685. イングランドとノルマンディの関係はノルマン征服以前から [norman_conquest][french][oe][monarch][history][family_tree]

 「#302. 古英語のフランス借用語」 ([2010-02-23-1]) で触れたように,イングランドとノルマンディの接触は,ノルマン人の征服 (norman_conquest) 以前にも存在したことはあまり知られていない.このことは,英語とフランス語の接触もそれ以前から少ないながらも存在したということであり,英語史上の意味がある.
 エゼルレッド無策王 (Ethelred the Unready) の妻はノルマンディ人のエマ (Emma) であり,彼女はヴァイキング系の初代ノルマンディ公ロロ (Rollo) の血を引く.エゼルレッドの義兄弟の孫が,実にギヨーム2世 (Guillaume II),後のウィリアム征服王 (William the Conqueror) その人である.別の観点からいうと,ウィリアム征服王は,エゼルレッドとエマから生まれた後のエドワード聖証王 (Edward the Confessor) にとって,従兄弟の息子という立場である.
 今一度ロロの時代にまで遡ろう.ロロ (860?--932?) は,後にノルマン人と呼ばれるようになったデーン人の首領であり,一族ともに9世紀末までに北フランスのセーヌ川河口付近に定住し,911年にはキリスト教化した.このときに,ロロは初代ノルマンディ公として西フランク王シャルル3世 (Charles III) に臣下として受けいれられた.それ以降,歴代ノルマンディ公は婚姻を通じてフランス,イングランドの王家と結びつき,一大勢力として台頭した.
 さて,その3代目リシャール1世 (Richard I) の娘エマは「ノルマンの宝石」と呼ばれるほどの美女であり,エゼルレッド無策王 (968--1016) と結婚することになった.2人から生まれたエドワードは,母エマの後の再婚相手カヌート (Canute) を嫌って母の郷里ノルマンディに引き下がり,そこで教育を受けたために,すっかりノルマン好みになっていた.そして,イングランドでデーン王朝が崩壊すると,このエドワードがノルマンディから戻ってきてエドワード聖証王として即位したのである.
 このような背景により,イングランドとノルマンディのつながりは,案外早く1000年前後から見られたのである.
 ロロに端を発するノルマン人の系統を中心に家系図を描いておこう.関連して,アングロサクソン王朝の系図については「#2620. アングロサクソン王朝の系図」 ([2016-06-29-1]) と「#2547. 歴代イングランド君主と統治年代の一覧」 ([2016-04-17-1]) で確認できる.

                                   ロロ
                                    │
                                    │
                              ギヨームI世(長剣公)               
                                    │
                                    │
                            リシャールI世(豪胆公)
                                    │
                                    │
                ┌─────────┴──────────┐
                │                                        │
                │                                        │
 クヌート===エマ===エゼルレッド無策王          リシャールII世
                    │                                    │
                    │                                    │
          ┌────┴────┐                          │
          │                  │                          │
          │                  │                          │
  エドワード聖証王       アルフレッド                     │
                                                          │
                    ┌──────────────────┘
                    │
          ┌────┴────┐
          │                  │
          │                  │
    リシャールIII世     ロベールI世(悪魔公)===アルレヴァ
                                               │
                                               │
                                  ギヨームII世(ウィリアム征服王)

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2016-06-29 Wed

#2620. アングロサクソン王朝の系図 [family_tree][oe][monarch][history][anglo-saxon]

 「#2547. 歴代イングランド君主と統治年代の一覧」 ([2016-04-17-1]) で挙げた一覧から,アングロサクソン王朝(古英語期)の系図,Egbert から William I (the Conqueror) までの系統図を参照用に掲げておきたい.

            Egbert (829--39) [King of Wessex (802--39)]
              │
              │
          Ethelwulf (839--56)
              │
              │
    ┌────┴──────┬──────────┬────────────┐
    │                      │                    │                        │
    │                      │                    │                        │
Ethelbald (856--60)   Ethelbert (860--66)   Ethelred I (866--71)   Alfred the Great (871--99)
                                                                            │
                                                                            │
                                                                   Edward the Elder (899--924)
                                                                            │
                                                                            │
                      ┌────────────┬─────────────┤
                      │                        │                          │
                      │                        │                          │                                    ┌────────┐
                  Athelstan (924--40)   Edmund I the Elder (945--46)   Edred (946--55)                            │HOUSE OF DENMARK│
                      │                        │                                                                └────────┘
                      │                        │
                  Edwy (955--59)        Edgar (959--75)                                                        Sweyn Forkbeard (1013--14)
                                                │                                                                    │
                                                │                                                                    │
                      ┌────────────┤                                                                    │
                      │                        │                                                                    │
                      │                        │                                                                    │
           Edward the Martyr (975--79)   Ethelred II the Unready (979--1013, 1014--16) === Emma (--1052)  === Canute (1016--35)
                                                │                                       │                    │     │
                                                │                                       │                    │     │
                                                │                                       │                    │     └─────┐
                                                │                                       │                    │                 │
                                                │                                       │             Hardicanute (1040--42)    │
                                                │                                       │                                       │
                                                │                                       │                                       │
                                     Edmund II Ironside (1016. 4--11)      Edward the Confessor (1042--66)             Harold I Harefoot (1035--40)
                                                │
                                                │
                                                │                            ┌─────────┐                  ┌────────┐
                                       Edward Atheling (--1057)               │HOUSE OF NORMANDY │                  │HOUSE OF GODWIN │
                                                │                            └─────────┘                  └────────┘
                                                │
                                                │
                                     Edgar Atheling (1066. 10--12)          William the Conqueror (1066--87)          Harold II (1066. 1--10)

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2016-02-01 Mon

#2471. なぜ言語系統図は逆茂木型なのか [family_tree][indo-european][metaphor][conceptual_metaphor][cognitive_linguistics][historiography]

 言語系統図に限らないが,いわゆる系統図では,過去のものが上方に描かれ,そこから現在に向かって枝が下へ降りてくるのが通例である.写本の系統図 (stemma),文法の構造木,生物の系統図,家系図など,いずれもこの方向だ.別名,樹形図とも呼ばれ,木になぞらえられるわりには,それは逆茂木なのである.多くの人はそれに見慣れているが,よく考えてみるとなぜそうなのかという疑問が生じる.試みに「#1339. インドヨーロッパ語族の系統図(上下反転版)」 ([2012-12-26-1]) で通常の印欧語族の系統図を上下反転させたものを提示してみたが,見慣れないと変な感じがする.
 認知言語学でいわれる概念メタファー (conceptual metaphor) によれば,通言語的によく観察される認知パターンの1つに "EARLIER IS UP" がある.日本語で「過去にさかのぼる」「時代をくだる」というように,古いほうが上で,新しいほうが下という感覚がある.この認識の根源には,川の流れ,さらに敷衍すれば重力の方向性があるだろう.山腹にあった水は,数時間後には山裾まで流れてきているはずである.川の水を念頭におけば,時間的に先行するものは上,後続するものは下というのは,ごく自然な認知の仕方である.
 川の流れや重力のような物理法則に則った自然物についていえば,"EARLIER IS UP" の概念メタファーは成立するが,一方,時間とともに成長する生物を念頭におくと,むしろ "LATER IS UP" という概念メタファーもあり得るのではないか.成長すれば,その分背が高くなるからである.人間や動物だけでなく,問題の樹木もどんどん背丈が伸びていくわけであり,根っこのある下方が古く,梢のある上方が新しいという認知法があってもよさそうだ.
 したがって,概念メタファーに依拠する限り,理屈上,言語系統図は両方向に描かれうるはずだが,実際には逆茂木型に描かれるのが普通である.ただの慣習といえばその通りだろうが,その慣習が定まった契機は何だったのだろうか.
 以下は憶測である.まず,先祖(過去のもの)を上に祀るという意味合いがあるのではないか.これは,先代の人々,年長者を持ち上げるという発想だ.これは東アジア的な儒教の発想であると言われそうだが,とりわけ儒教的であるというにすぎず,やはり直感的に理解されるくらいには普遍的であると思う.古いもの,年上の者は偉い,だから上に位置すべきなのだ,ということだ.政治的には,過去の栄光を強調し,そこから現在に連なる威信を間接的に示唆する,という効果もあるだろう.結果としては,過去を介した現在の強調となっているように思われる.
 このように述べた一方で,縁の下の力持ち,土台の重要さという発想もある.むしろ下に位置するものが上にあるすべてのものを支えている,だから下もののが偉いのだ,という考え方である.こちらは,むしろ現在を介した過去の強調という色彩が強いように感じられるが,どうだろうか.
 どちらを上にして言語系統図を描くかという問題は,言語観や歴史観に関わる問題である.関連して,この観点から英語史記述について論考した「#253. 英語史記述の二つの方法」 ([2010-01-05-1]),「#1340. Strang の英語史の遡及的記述」 ([2012-12-27-1]) を参照されたい.
 また,言語を樹木その他に喩えることについて様々な見解があるので,「#807. 言語系統図と生物系統図の類似点と相違点」 ([2011-07-13-1]),「#999. 言語変化の波状説」 ([2012-01-21-1]),「#1118. Schleicher の系統樹説」 ([2012-05-19-1]),「#1236. 木と波」 ([2012-09-14-1]),「#1722. Pisani 曰く「言語は大河である」」 ([2014-01-13-1]),「#1578. 言語は何に喩えられてきたか」 ([2013-08-22-1]),「#1579. 「言語は植物である」の比喩」 ([2013-08-23-1]) 辺りの記事をご覧頂きたい.
 今回の記事は,上下方向の概念メタファーを研究している学生からインスピレーションを得て,執筆した(ありがとう!).

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2016-01-27 Wed

#2466. インドヨーロッパ語族の系統図(Algeo and Pyles 版) [indo-european][family_tree]

 何度目かの印欧語系統図になるが,Algeo and Pyles (62--63) の図を参照して,横長版と縦長版の系統図を作成した.大きな大文字は主たる枝を,小さな大文字は下位の枝を,通常文字は個別言語を表わす.死語については,* を付してある.これまでに挙げてきた印欧語系統図については,indo-european family_tree の各記事を参照されたい.

[横長版](下の画像をクリック)
Indo-European Family Tree by Algeo and Pyles (Horizontal)

[縦長版](下の画像をクリック)
Indo-European Family Tree by Algeo and Pyles (vertical)

 ・ Algeo, John, and Thomas Pyles. The Origins and Development of the English Language. 5th ed. Thomson Wadsworth, 2005.

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2015-12-08 Tue

#2416. 文字の系統 (4) [grammatology][family_tree][alphabet]

 標題に関連しては,以下の記事で扱ってきた.

 ・ 「#2414. 文字史年表(ロビンソン版)」 ([2015-12-06-1])
 ・ 「#422. 文字の種類」 ([2010-06-23-1])
 ・ 「#423. アルファベットの歴史」 ([2010-06-24-1])
 ・ 「#1822. 文字の系統」 ([2014-04-23-1])
 ・ 「#1834. 文字史年表」 ([2014-05-05-1])
 ・ 「#1849. アルファベットの系統図」 ([2014-05-20-1])
 ・ 「#1853. 文字の系統 (2)」 ([2014-05-24-1])
 ・ 「#2389. 文字体系の起源と発達 (1)」 ([2015-11-11-1])
 ・ 「#2390. 文字体系の起源と発達 (2)」 ([2015-11-12-1])
 ・ 「#2398. 文字の系統 (3)」 ([2015-11-20-1])
 ・ 「#2399. 象形文字の年表」 ([2015-11-21-1])

 今回は,ロビンソンによる文字体系あるいは書記体系の系統図を示そう.

                                            絵
                                            │
                                            │
                                          絵文字
                                            │
                                            │
                        始原文字:氷河時代の洞窟壁画,アメリカ先住民の絵文字,多くの道路標識,数学と科学の記号,音譜
                                            │
始原文字                                    │
………………………………………………………判じ絵…………………………………………………………………………………………………………………………………………
完全文字                                    │
                                            │
                                          完全文字
                                            │
                                            ↓
                                        音節システム
                                            │
                    ┌───────────┴─────────────┐
                    │                                                  │
                    │                                              子音システム
                    │                                                  │
                    │                                  ┌───────┴────────────────┐
                    │                                  │                                                ↓
        ┌─────┴─────┐                      │                                      アルファベット・システム
        │                      │                      │                                                │
        │                      │                      │                      ┌────────────┼───────────────┐
        |                      |                      |                      |                        |                              |
        ↓                      ↓                      ↓                      ↓                        ↓                              ↓
┌────────┐  ┌─────────┐  ┌─────────┐  ┌─────────┐  ┌────────────┐  ┌────────────┐
│音節システム    │  │表語・音節システム│  │表語・子音システム│  │子音アルファベット│  │音素アルファベット      │  │表語・音素アルファベット│
│                │  │                  │  │                  │  │                  │  │                        │  │                        │
│線文字 B        │  │シュメール文字────→エジプト文字─────→フェニキア文字    │  │ギリシア文字            │┌→英語文字                │
│日本語のかな文字←──漢字              │  │                  │  │ヘブライ文字      │  │ラテン文字(ローマ文字)─┴→フランス語文字          │
│チェロキー文字  │  │マヤ文字          │  │                  │  │アラビア文字      │  │フィンランド語文字      │  │朝鮮語文字              │
└────────┘  └─────────┘  └─────────┘  └─────────┘  └────────────┘  └────────────┘

 この系統図の特徴は,書記体系が複数の文字体系の混合であるケースが多いという事実を,前提として取り込んでいる点である.書記体系の多くには,表語的な原理と表音的な原理とが混じっているのであり,片一方だけというのは非常に稀である.ここには代表的な文字体系しか挙げられていないのでプロトタイプとしての系統図・分類図にとどまるが,混合型書記体系を基本とした視点は注目すべきである.

 ・ ロビンソン,アンドルー(著),片山 陽子(訳) 『文字の起源と歴史 ヒエログリフ,アルファベット,漢字』 創元社,2006年.

Referrer (Inside): [2015-12-12-1]

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2015-11-20 Fri

#2398. 文字の系統 (3) [grammatology][family_tree][flash]

 文字の系統図はすでに 「#423. アルファベットの歴史」 ([2010-06-24-1]),「#1822. 文字の系統」 ([2014-04-23-1]),「#1834. 文字史年表」 ([2014-05-05-1]),「#1849. アルファベットの系統図」 ([2014-05-20-1]) でいろいろ示してきたが,たいてい言語に関わる系統図は,論者の数だけあるといっても過言ではない.
 言語そのものの系統関係を示す図も,様々な理論的な問題を含んでいるが,文字の系統図はさらに難しい.例えば,1446年に人工的に(したがって極めて合理的に)創作され,李朝第4代世宗によって「訓民正音」の名で公布されたハングルは,新たに生み出された文字体系であるという点で,主たる歴史的な文字体系のいずれにも属さないはずである.しかし,創作にあたって悉曇を参考としつつ,漢字とアルファベットなどからインスピレーションを得て創案された可能性が高いという点を斟酌して,多くの系統図では,それらの系列に連なるものとして表現されることが多いのである.しかし,実際のところ,そのインスピレーションが何だったかのは決定しがたく,系統図を編む者の推測が多分に含まれている.一方,日本語の仮名は,漢字からの漸次的な発達であることが文献学的,古文書学的にかなり正確に確かめうるので,系統図上,漢字のもとに連ねても異論は生じない.文字体系によって,このような歴史的な発達の確かさに差があるために,論者によって異なる系統図が描かれるのである.
 さて,そこで今回は『世界の文字の図典』 (p. 5) の文字系統図をもとに,マインドマップ風に改変したものを示したい.下図をクリックして大画像をご覧ください.あるいは,ノードを開閉できるFLASH 版もどうぞ.なお,見やすくするために配列などを相当いじっているので,原典ほどの信頼度はないことを前提に,手軽な参照用としてのご利用をお願いします.
文字の系統図(『世界の文字の図典』版を改変したもの)

 ・ 『世界の文字の図典 普及版』 世界の文字研究会(編),吉川弘文館,2009年.

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