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pragmatics - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2021-01-24 07:11

2021-01-18 Mon

#4384. 決り文句はほとんど無冠詞 [greetings][interjection][formula][syntax][article][exclamation][pragmatics]

 正式な I wish you a merry Christmas! という挨拶を省略すると Merry Christmas! となり,I wish you a good morning. を省略すると Good morning! となる.身近すぎて気に留めることもないかもしれないが,挨拶のような決り文句 (formula) を名詞句へ省略する場合には,冠詞を切り落とすことが多い.前置詞句などを伴うケースで A merry Christmas to you! のように冠詞が残ることもあり,水を漏らさぬルールではないものの,決り文句性が高ければ高いほど冠詞まで含めて省略されるようだ.感嘆句的な Charming couple!, Dirty place!, Excellent meal!, Poor thing!, Good idea!, Lovely evening! とも通じ合うし,その他 Cigarette?, Good flight?, Next slide? などの疑問句にも通じる冠詞の省略といえる.代表的な決り文句を,Quirk et al (§11.54) より一覧しよう.

GREETINGS: Good morning, Good afternoon, Good evening <all formal>; Hello; Hi <familiar>
FAREWELLS: Goodbye, Good night, All the best <informal>, Cheers, Cheerio <BrE, familiar>, See you <familiar>, Bye(-bye) <familiar>, So long <familiar>
INTRODUCTIONS: How do you do? <formal>, How are you?, Glad to meet you, Hi <familiar>
REACTION SIGNALS:
   (a) assent, agreement: Yes, Yeah /je/; All right, OK <informal>, Certainly, Absolutely, Right, Exactly, Quite <BrE>, Sure <esp AmE>
   (b) denial, disagreement: No, Certainly not, Definitely not, Not at all, Not likely
THANKS: Thank you (very much), Thanks (very much), Many thanks, Ta <BrE slang>, Thanks a lot, Cheers <familiar BrE>
TOASTS: Good health <formal>, Your good health <formal>, Cheers <familiar>, Here's to you, Here's to the future, Here's to your new job
SEASONAL GREETINGS: Merry Christmas, Happy New Year, Happy Birthday, Many happy returns (of your birthday), Happy Anniversary
ALARM CALLS: Help! Fire!
WARNINGS: Mind, (Be) careful!, Watch out!, Watch it! <familiar>
APOLOGIES: (I'm) sorry, (I beg your) pardon <formal>, My mistake
RESPONSES TO APOLOGIES: That's OK <informal>, Don't mention it, Not matter <formal>, Never mind, No hard feelings <informal>
CONGRATULATIONS: Congratulations, Well done, Right on <AmE slang>
EXPRESSIONS OF ANGER OR DISMISSAL (familiar; graded in order from expressions of dismissal to taboo curses): Beat it <esp AmE>, Get lost, Blast you <BrE>, Damn you, Go to hell, Bugger off <BrE>, Fuck off, Fuck you
EXPLETIVES (familiar; likewise graded in order of increasing strength): My Gosh, (By) Golly, (Good) Heavens, Doggone (it) <AmE>, Darn (it), Heck, Blast (it) <BrE>, Good Lord, (Good) God, Christ Almighty, Oh hell, Damn (it), Bugger (it) <esp BrE>, Shit, Fuck (it)
MISCELLANEOUS EXCLAMATIONS: Shame <familiar>, Encore, Hear, hear, Over my dead body <familiar>, Nothing doing <informal>, Big deal <familiar, ironic>, Oh dear, Goal, Checkmate


 決り文句の多くは何らかの統語的省略を経たものであり,それだけでも不規則と言い得るが,加えて様々な統語的制約が課されるという特徴もある.例えば,過去形にすることはできない,主語を別の人称に変えることはできない,間接疑問に埋め込むことができない等々の性質をもつものが多い.ただし,決り文句性というのも程度問題で,(A) happy new year! のように,不定冠詞の有無などに関して variation を残すものもあるだろうと考えている.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2020-11-28 Sat

#4233. なぜ quite a few が「かなりの,相当数の」の意味になるのか? [sobokunagimon][phrase][ame][pragmatics][intensifier]

 quite という副詞は,用法が難しく厄介な語である.基本的には形容詞等の表わす程度を強調する副詞ととらえてよいが,コロケーション次第で様々な意味の陰影が生まれる.そのなかでも何とも理解しがたいフレーズが,標題の quite a few である.quite が程度の強調ということであれば「とても少ない」の意となりそうだが,実際には口語において「かなりの,相当数の」と予想外の意となる.quite a lot (of) が予想通り「とても多く(の)」を意味することを考えると,どうにも理解に困る.
 OED を開いてみよう,quite a few は,few, adj., pron., and n. の見出しのもとで Phrases の1つとして立てられている.

d. Originally U.S. quite a few.

(a) Used adjectivally: a considerable number of.

   1833 Nolan County (Sweetwater, Texas) News 26 Jan. Quite a few White Flat people attended the singing at Trent.
   1939 L. Hughes Let. 9 Dec. in Remember me to Harlem (2001) 159 That phase of Harlem's rise to culture and neo-culture seems to be of historical importance and interest to quite a few people.
   2014 Providence (Rhode Island) Jrnl. (Nexis) 22 July (News section) 1 I went fishing yesterday afternoon and caught quite a few spotted trout.
(Hide quotations)

(b) Used as noun: a considerable number; also with of-phrase as complement.

   1844 Christian Advocate Apr. 139/5 We were glad to find 'honorable brethren', quite a few 'tis true, prepared to go with us.
   1883 P. Robinson in Harper's Mag. Oct. 706/1 There's quite a few about among the rocks.
   1933 L. Bloomfield Language xi. 172 Quite a few of the present-day Indo-European languages agree with English in using an actor-action form as a favorite sentence-type.
   2006 S. M. Stirling Sky People ix. 204 Cries of welcome greeted them; quite a few had observed the shot from a distance, and fresh meat was always welcome.


 これによると,19世紀前半にアメリカ英語で生まれた比較的新しい表現であることが分かる.しかし,なぜ予想外の意味が生じたかについては,特に解説はない.
 考えられるのは,quite の語用論的な用法,たとえば緩和や皮肉を込めた言い方に由来する可能性である.日本語の「ちょっと(した)」を例にとろう.文字通りには「少量」を意味するが,「ちょっとマズい状況になってるなぁ」とか「それはちょっと値が張りますよ」という場合には「少量」では済まなさそうな含みがある.実質的に「多量」を意味するのに,表面上は「少量」の表現を用いる例だ.
 quite a bit, quite a little などの表現も,原義が反転して「多い」を表わすという点で,quite a few と同じグループに入るだろう.quite a little については,OED では little, adj., pron., and n., and adv. のもとに "10. Used as an (ironic) intensifier in various constructions, as quite a little ---, quite the little ---, a nice little ---, etc." と言及があり,初出が1763年となっている.何とも厄介な表現である.

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2020-10-27 Tue

#4201. 手紙の書き出しの Dear my friend [vocative][pragmatics][adjective][interjection][syntax][word_order][pragmatic_marker][coca]

 最近,大学院生の指摘にハッとさせられることが多く,たいへん感謝している.標記の話題も一種の定型文句とみなしており,とりたてて分析的に考えたこともなかったが,指摘を受けて「確かに」と感心した.dear は「親愛なる」を意味する一般の形容詞であるから,my dear friend ならよく分かる.しかし,手紙の冒頭の挨拶 (salutation) などでは,統語的に破格ともいえる Dear my friend が散見される.Dear Mr. Smith なども語順としてどうなのだろうか.
 共時的な感覚としては,冒頭の挨拶 Dear は純然たる形容詞というよりは,挨拶のための間投詞 (interjection) に近いものであり,語用標識 (pragmatic_marker) といってよいものかもしれない.つまり,正規の my dear friend と,破格の Dear my friend を比べても仕方ないのではないか,ということかもしれない.CGEL (775) でも,以下のように挨拶を導入するマーカーとみなして済ませている.

It is conventional to place a salutation above the body of the letter. The salutation, which is on a line of its own, is generally introduced by Dear;
   Dear Ruth   Dear Dr Brown   Dear Madam   Dear Sir


 しかし,通時的にみれば疑問がいろいろと湧いてくる.Dear my friend のような語順が初めて現われたのはいつなのだろうか? その語用標識化の過程はいかなるものだったのだろうか? 近代英語では Dear my lordDear my lady の例が多いようだが,これは milord, milady の語彙化とも関わりがあるに違いない,等々.
 ただし,現代英語の状況について一言述べておけば,COCA で検索してみた限り,実は「dear my 名詞」の例は決して多くない.歴史的にもいろいろな観点から迫れる,おもしろいテーマである(←Kさん,ありがとう!).

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2020-01-08 Wed

#3908. 「祈り」とは何だろうか? [sobokunagimon][speech_act][pragmatics][may][optative][religion]

 ここ数年の間,May the force be with you! のような祈願の may の発達について,主に統語的な立場から関心を寄せてきた.本ブログでも may あるいは optative の各記事で扱ってきた通りだし,1年ほど前の2018年12月15には,東京大学駒場キャンパスで開催された日本歴史言語学会のシンポジウム「認知と歴史言語学 --- 文法化・構文化と認知の関係性 ---」において,「英語における祈願の may の発達」という題目で少しく話しをさせていただいた.
 しかし,「祈願」,あるいは平たくいって「祈り」とは何ぞやという最重要の問題には,これまで手をつけずにきた.発話行為 (speech_act) の1種であるという理解でやってきたが,それはいったいどのような行為なのか.本質の理解が大事だとは知りながらも,きちんと整理せずに研究していたきらいがある.
 しかし,たいていの発話行為の研究は,もしかしたら似たような状況なのかもしれない.言語の問題をはるかに超えたところにある問題だからだ.いや,まさにこの点にこそ,語用論研究の発展の可能性が開けているといえるのかもしれない.
 とまれ「祈り」とは何か.『世界百科事典』第2版より,最も近いと思われる「祈禱」の項を参照してみた.

祈禱
きとう

祈禱は広義に解すれば,すべての宗教的祈願,祈念,祈りを意味する。この意味の祈禱は普遍的にみられる宗教現象である。この場合,祈禱とは,神や仏といった超自然的存在と信者との交流の一形態であると考えられる。祈禱はまず大別して,会話型と黙禱型の2類型に分けて考えることができよう。会話型とは声を用いて祈り言葉などを誦する祈禱であり,黙禱型とは心のなかで念じて祈る型である。もちろん両者とも付随的に,閉眼,合掌などさまざまな動作が並行的になされることもおおい。さらに祈禱を個人的タイプと集団的タイプに類別することも可能である。信者が聖像や宗教的シンボルの前で,あるいは心中にそれを思い浮かべて個人的に行うものが前者である。ところがそれが定型化され集団的になされるのが後者である。この場合,祈禱が宗教儀礼化されているといえよう。
 祈禱はあくまでも祈る対象があって成立する。そのため神や超自然的存在を立てない宗教には祈禱や祈りは存在しないという考え方もある。原始仏教や禅仏教がその例とされる。しかし座禅やヨーガといった修行のなかには,全人格をあげ宇宙の真理の体得をめざすといった広い意味での祈りの要素を見てとることもできる。研究者によっては,このような祈禱を神秘主義的祈禱とし,それに対して神をおき,それとの交流に中心をおく祈禱を預言者宗教的ないし対話的祈禱と名づけている。
 祈禱の内容には請願,感謝,懺悔,賛美などがある。この場合,神や仏に対して具体的な効果やなんらかの直接的働きを期待するのは,純粋な意味での祈禱や祈りではないとする立場もある。神学者や宗教家の見解にもよくみられるし,またかつては未開宗教の研究者にも同様の見解が有力だった。そこでは,具体的効果を期待するものは,呪術ないし呪文であるとされる。そして呪文から祈禱および祈りへという進化が論じられた。しかしその後の研究の結果,呪文に満ちているといわれた未開宗教にも,高等宗教にみられるような祈りが存在することが判明した。また高等宗教の祈禱も呪文的性格を持ちうることも指摘されるようになった。キリスト教の主の祈りにせよ仏教の念仏にせよ,それが形式化され機械的に繰り返されることによって呪文的に用いられていることも現実に存在する。それゆえ最近では,呪文から祈禱へという図式はあまり論ぜられない。
 日本語の祈禱の語は,とくにそれが〈御祈禱〉とされると,その意味がかなり限定されてくる。これは具体的な目的の成就達成を願って神仏に祈願する宗教行動をさす。家内安全,交通安全,病気平癒,五穀豊穣などいわゆる現世利益(げんぜりやく)を求めるものである。密教系寺院を中心に禅宗系や日蓮系寺院あるいは神社などで行われる。密教における護摩儀礼などがその代表例である。⇒加持祈禱   星野 英紀


 うーむ,呪文か.祈願の may に関する統語問題などと呑気に構えてきたが,どうやら抜き差しならない話しになってきた.発話行為の問題は,言語学の領域にとどまってはいられない果てしなく射程の広いテーマのようだ.形式ではなく機能から迫る傾向のある語用論の研究は,容易に cross-disciplinary となり得る.エキサイティングだが,正直にいって扱いにくいトピックではある.

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2019-08-25 Sun

#3772. Wittgenstein の「言語ゲーム」 (2) [function_of_language][language-game][context][speech_act][pragmatics][semantics][terminology][philosophy_of_language]

 昨日の記事 ([2019-08-24-1]) で Wittgenstein の言語ゲーム (Sprachspiel, language-game) に触れた.Bussmann (262) の用語辞典の定義によると次の通り.

language game
L. Wittgenstein's term referring to complex units of communication that consist of linguistic and non-linguistic activities (e.g. the giving of and complying with commands in the course of collaborating on the building of a house). Signs, words, and sentences as 'tools of language' have in and of themselves no meaning; rather meaning is derived only from the use of these items in particular contexts of language behavior.


 論理実証主義 (logical positivism) から転向した後の Wittgenstein の,このような コンテクスト重視の言語観や意味観は,後の日常言語哲学 (ordinary language philosophy) に大きな影響を与え,発話行為 (speech_act) を含めた語用論 (pragmatics) の発展にも貢献した."the meaning of a word is its use in the language" という意味のとらえ方は,なお問題があるものの,1つの見解とみなされている.
 意味の意味に関連して「#1782. 意味の意味」 ([2014-03-14-1]),「#1990. 様々な種類の意味」 ([2014-10-08-1]),「#2199. Bloomfield にとっての意味の意味」 ([2015-05-05-1]),「#2794. 「意味=定義」説の問題点」 ([2016-12-20-1]),「#2795. 「意味=指示対象」説の問題点」 ([2016-12-21-1]) などの内容とも比較されたい.

 ・ Bussmann, Hadumod. Routledge Dictionary of Language and Linguistics. Trans. and ed. Gregory Trauth and Kerstin Kazzizi. London: Routledge, 1996.

Referrer (Inside): [2019-08-26-1]

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2019-06-02 Sun

#3688. 日本語の感動詞の分類 [interjection][speech_act][pragmatics]

 『図解日本語』 (107) に,日本語の感動詞(あるいは間投詞)の分類例が示されていた.機能に着目した分類である.

                               ┌── 第一種〈あいさつ〉───── 「こんにちわ」「ごめんなさい」
┌── 第 I 類〔行為相当〕──┤
│                             └── 第二種〈呪文・まじない〉── 「アーメン」「ちちんぷいぷい」
│
├── 第 II類〔行為添加〕───── 〈かけ声・はやし声〉──── 「どっこいしょ」「ハァコリャコリャ」
│
├── 第III類〔発始記号〕──┬── 第一種〈呼びかけ〉───── 「やあ」「おい」「こら」
│                             │
│                             ├── 第二種〈起動〉─────── 「さあ」「ほら」
│                             │
│                             ├── 第三種〈持ちかけ〉───── 「ねえ」「なあ」
│                             │
│                             ├── 第四種〈応答〉─────── 「はい」「うん」「ええ」「いいえ」
│                             │
│                             └── 第五種〈反応〉─────── 「あっ」「ほう」「おっと」
│
└── 第 IV類〔遊びことば〕─────────────────── 「えーと」「あー,うー」「そのー」

 ほぼそのまま英語にも応用できると思われるので,参考になる.英語の間投詞については「#2041. 談話標識,間投詞,挿入詞」 ([2014-11-28-1]) も参照.近年は語用論や発話行為というトピックへの関心が高まっておきており,それに伴って感動詞の注目度も上がってきているように思われる.

 ・ 沖森 卓也,木村 義之,陳 力衛,山本 真吾 『図解日本語』 三省堂,2006年.

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2019-05-03 Fri

#3658. 歴史語用論の分類と課題 (2) [pragmatics][historical_pragmatics][hisopra][methodology][corpus]

 「#2000. 歴史語用論の分類と課題」 ([2014-10-18-1]) に引き続いて.歴史語用論 (historical_pragmatics) は,ここ数年の間に国際的にも国内的にも知名度をあげてきた.国内では私も HiSoPra* (= HIstorical SOciolinguistics and PRAgmatics) 研究会に参加させてもらっているし,周囲の学生や研究者をみてみても確実に関心が広まってきているのを感じる.
 歴史語用論の扱う領域は広く,従来の主流派言語学では取りこぼされてきた「雑多な」話題をカバーすることが多い.歴史語用論の研究領域を整理しようとする試みは,前の記事 ([2014-10-18-1]) でも紹介したように,いくつかある.今回は,Arnovick (96) が英語歴史語用論を念頭に置きつつ挙げている3分法を紹介しよう.

   Pragmatic forms: discourse markers, terms of address, connectives, and interjections;
   Interactional pragmatics: speech acts, politeness, impoliteness;
   Discursive domains: scientific and medical discourse, journalism, religious and political discourse, courtroom discourse, literary discourse, public and private correspondence.


 Arnovick の同じ論文では,英語歴史語用論とコーパス利用の親和性についても説かれている.導入的な文章となっているので,英語歴史語用論に初めて関心をもったら,ぜひ読んでもらいたい.

 ・ Arnovick, Leslie K. "Historical Pragmatics in the Teaching of the History of English." Chapter 9 of Approaches to Teaching the History of the English Language: Pedagogy in Practice. Introduction. Ed. Mary Heyes and Allison Burkette. Oxford: OUP, 2017. 93--105.

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2019-04-12 Fri

#3637. 依頼を表わす Will you . . . ? の初例 (2) [oed][speech_act][politeness][interrogative][historical_pragmatics][pragmatics][implicature][auxiliary_verb][construction]

 [2019-04-07-1]の記事に引き続き,Will you . . . ? 依頼文の発生について.OED によると,この構文の初出は1300年以前の Vox & Wolf という動物寓話にあるとされる.Bennett and Smithers 版の The Fox and the Wolf より,問題の箇所 (l. 186) の前後の文脈 (ll. 171--97) を取り出してみよう.

'A!' quod þe wolf, 'gode ifere, 
Moni goed mel þou hauest me binome! 
Let me adoun to þe kome, 
And al Ich wole þe forȝeue.'175
'Ȝe!' quod þe vox, 'were þou isriue, 
And sunnen heuedest al forsake, 
And to klene lif itake, 
Ich wolde so bidde for þe 
Þat þou sholdest comen to me.'180
'To wom shuld Ich', þe wolf seide, 
'Ben iknowe of mine misdede?--- 
Her nis noþing aliue 
Þat me kouþe her nou sriue. 
Þou hauest ben ofte min ifere---185
Woltou nou mi srift ihere, 
And al mi liif I shal þe telle?' 
'Nay!' quod þe vox, 'I nelle.' 
'Neltou?' quod þe wolf, 'þin ore! 
Ich am afingret swiþe sore---190
Ich wot, toniȝt Ich worþe ded, 
Bote þou do me somne reed. 
For Cristes loue, be mi prest!' 
Þe wolf bey adoun his brest 
And gon to siken harde and stronge.195
'Woltou', quod þe vox, 'srift ounderfonge? 
Tel þine sunnen, on and on, 
Þat þer bileue neuer on.' 


 物語の流れはこうである.つるべ井戸に落ちてしまった狐が,井戸のそばを通りかかった知り合いの狼を呼び止めた.言葉巧みに狼をそそのかし,狼を井戸に落とし,自分は脱出しようと算段する.狼にこれまでの悪行について懺悔するよう説得すると,狼はその気になり,狐に懺悔を聞いて欲しいと願うようになる.そこで,Woltou nou mi srift ihere, / And al mi liif I shal þe telle? (ll. 168--69) という狼の発言になるわけだ.
 付近の文脈では全体として法助動詞が多用されており,狐と狼が掛け合いのなかで相手の意志や意図を確かめ合っているという印象を受ける.問題の箇所は,will を原義の意志の意味で取ると,「さあ,あなたには私の懺悔を聞こうという意志がありますか?そうであれば私は人生のすべてをあたなに告げましょう.」となる.しかし,ここでは文脈上明らかに狼は狐に懺悔を聞いてもらいたいと思っている.したがって,依頼の読みを取って「さあ,私の懺悔を聞いてくださいな.私は人生のすべてをあなたに告げましょう.」という解釈も可能となる.もとより相手の意志を問うことと依頼とは,意味論・語用論的には僅差であり,グラデーションをなしていると考えられるわけだから,ここでは両方の意味が共存しているととらえることもできる.
 しかし,直後の狐の返答は,依頼というよりは質問に答えるかのような Nay! . . . I nelle. である.現代英語でいえば Will you hear my shrift now? に対して No, I won't. と答えているようなものだ.少なくとも狐は,先の狼の発言を「懺悔を聞こうとする意志があるか?」という疑問と解釈(したふりを)し,その疑問に対して No と答えているのである.狼としては依頼のつもりで言ったのかもしれないが,相手には疑問と解釈されてしまったことになる.実際,狼はその答えに落胆するかのように,Neltou? (その意志がないというか?)と返している.
 もし狼の側に依頼の意味が込められていたとしても,その依頼という含意は,文脈に支えられて初めて現われる類いの特殊化された会話的含意 (particularized conversational implicature) であって,一般化された会話的含意 (generalized conversational implicature) ではないし,ましてや慣習的含意 (conventional implicature) でもないように思われる.今回の事例を Will you . . . ? 依頼文の初例とみなすことは相変わらず可能かもしれないが,慣習化された構文,あるいは独り立ちした表現とみなすには早すぎるだろう.

 ・ Bennett, J. A. W. and G. V. Smithers, eds. Early Middle English Verse and Prose. 2nd ed. Oxford: OUP, 1968.

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2019-04-07 Sun

#3632. 依頼を表わす Will you . . . ? の初例 [oed][speech_act][politeness][historical_pragmatics][pragmatics][implicature][construction][auxiliary_verb]

 現代英語には法助動詞 will を用いた依頼を表わす形式として,Will you do me a favor? などの表現がある.比較的親しい間柄で用いられることが多く,場合によっては Will you shut up? のようにややきつい命令となることもある.一方,公的な指示として Will you sign here, please? のようにも用いられ,ポライトネスの質や程度が状況に応じて変わるので,使いこなすのは意外と難しい.形式的には未来の意ともなり得るので,依頼の意図を明確にしたい場合には please を付すことも多い.
 この表現の起源は,2人称の意志を問う意志未来としての Will you . . . ? にあると考えられる.一方的に頼み事を押しつけるのではなく,あくまで相手の意志を尊重し,それを問うという体裁をとるので,その分柔らかく丁寧な言い方になるからだ.疑問文の外見をしていながら,実際に行なっているの依頼・命令・指示ということで,ポライトネスを考慮した典型的な間接発話行為 (indirect speech act) の事例といえる.
 
OED の will, v1. によると,I. The present tense will. のもとの6bに,依頼の用法が挙げられている.

b. In 2nd person, interrog., or in a subord. clause after beg or the like, expressing a request (usually courteous; with emphasis, impatient).

a1300 Vox & Wolf in W. C. Hazlitt Remains Early Pop. Poetry Eng. (1864) I. 64 Thou hauest ben ofte min i-fere, Woltou nou mi srift i-here?
a1400 Pistill of Susan 135 Wolt þou, ladi, for loue, on vre lay lerne?
1470--85 Malory Morte d'Arthur i. vi. 42 Sir said Ector vnto Arthur woll ye be my good and gracious lord when ye are kyng?
1592 R. Greene Philomela To Rdr. sig. A4 I..craue that you will beare with this fault.
1600 Shakespeare Henry V ii. i. 43 Will you shog off?
1608 Shakespeare King Lear vii. 313 On my knees I beg, That you'l vouchsafe me rayment, bed and food.
1720 A. Ramsay Young Laird & Edinb. Katy 1 O Katy wiltu gang wi' me, And leave the dinsome Town a while.
1823 Scott St. Ronan's Well III. iv. 96 I desire you will found nothing on an expression hastily used.
1878 T. Hardy Return of Native III. v. iii. 144 Oh, Oh, Oh,..Oh, will you have done!


 依頼表現としての Will you . . . ? が,依頼動詞の従属節内に現われる will から発達した可能性も確かに理論的にはありそうだが,OED の用例でいえば,従属節の例は4つめの1592年のものであり,時間の前後関係が逆のようにみえる.また,初例は1300年以前とかなり早い時期だが,おそらく表現として定着したのは近代英語に入ってからだろう.ただし,疑問ではなく依頼という語用論的な機能や含意 (implicature) がいつ一般化したといえるのかは,歴史語用論研究に常について回るたいへん微妙な問題であり,明確なことをいえるわけではない.関連して「#1976. 会話的含意とその他の様々な含意」 ([2014-09-24-1]),「#1984. 会話的含意と意味変化」 ([2014-10-02-1]) も参照.

Referrer (Inside): [2019-04-12-1]

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2019-01-26 Sat

#3561. 丁寧さを示す語用標識 please の発達 (3) [pragmatic_marker][pragmatics][historical_pragmatics][politeness][syntax][impersonal_verb][reanalysis][adverb][comment_clause]

 [2019-01-24-1], [2019-01-25-1] に引き続いての話題.丁寧な依頼・命令を表わす語用標識 (pragmatic_marker) としての please の発達の諸説についてみてきたが,発達に関する2つの仮説を整理すると (1) Please (it) you that . . . などが元にあり,主節動詞である please が以下から切り離されて語用標識化したという説と,(2) if you please, . . . などが元にあり,条件を表わす従属節の please が独立して語用標識化したという説があることになる.(1) は主節からの発達,(2) は従属節からの発達ということになり,対照的な仮説のようにみえる.
 Brinton (21) も,どちらかを支持するわけでもなく,Allen の研究に基づいて両説を対比的に紹介している.

An early study looking at an adverbial comment clause is Allen's argument that the politeness marker please originated in the adverbial clause if you please (1995; see also Chen 1998: 25--27). Traditionally, please has been assumed to originate in the impersonal construction please it you 'may it please you' > please you > please (OED: s.v. please, adv. and int.; cf. please, v., def. 3b). Such a structure would suggest the existence of a subordinate that-clause (subject) and argue for a version of the matrix clause hypothesis. However, the OED allows that please may also be seen as a shortened form of if you please (s.v. please, adv. and int.; cf. please, v., def. 6c). Allen notes that the personal construction if/when you please does not arise through reanalysis of the impersonal if it please you; rather, the two constructions exist independently and are already clearly differentiated in Shakespeare's time. The impersonal becomes recessive and is lost, while the personal form is routinized as a polite formula and ultimately (at the beginning of the twentieth century) shortened to please.


 語用標識 please の原型はどちらなのだろうか,あるいは両方と考えることもできるのだろうか.この問題に迫るには,初期近代英語期における両者の具体例や頻度を詳しく調査する必要がありそうだ.

 ・ Brinton, Laurel J. The Evolution of Pragmatic Markers in English: Pathways of Change. Cambridge: CUP, 2017.
 ・ Allen, Cynthia L. "On Doing as You Please." Historical Pragmatics: Pragmatic Developments in the History of English. Ed. Andreas H. Jucker. Amsterdam: John Benjamins, 1995. 275--309.
 ・ Chen, Guohua. "The Degrammaticalization of Addressee-Satisfaction Conditionals in Early Modern English." Advances in English Historical Linguistics. Ed. Jacek Fisiak and Marcin Krygier. Berlin: Mouton de Gruyter, 1998. 23--32.

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2019-01-25 Fri

#3560. 丁寧さを示す語用標識 please の発達 (2) [pragmatic_marker][pragmatics][historical_pragmatics][politeness][syntax][impersonal_verb][reanalysis][adverb]

 昨日の記事 ([2019-01-24-1]) に引き続いての話題.現代の語用標識 (pragmatic_marker) としての please は,次に動詞の原形が続いて丁寧な依頼・命令を表わすが,歴史的には please に後続するのは動詞の原形にかぎらず,様々なパターンがありえた.OED の please, v. の 6d に,人称的な用法として,様々な統語パターンの記述がある.

d. orig. Sc. In imperative or optative use: 'may it (or let it) please you', used chiefly to introduce a respectful request. Formerly with bare infinitive, that-clause, or and followed by imperative. Now only with to-infinitive (chiefly regional).

Examples with bare infinitive complement are now usually analysed as please adv. followed by an imperative. This change probably dates from the development of the adverb, which may stand at the beginning of a clause modifying a main verb in the imperative.


1543 in A. I. Cameron Sc. Corr. Mary of Lorraine (1927) 8 Mademe..pleis wit I have spokin with my lord governour.
1568 D. Lindsay Satyre (Bannatyne) 3615 in Wks. (1931) II. 331 Schir pleis ȝe that we twa invaid thame And ȝe sell se vs sone degraid thame.
1617 in L. B. Taylor Aberdeen Council Lett. (1942) I. 144 Pleis ressave the contract.
1667 Milton Paradise Lost v. 397 Heav'nly stranger, please to taste These bounties which our Nourisher,..To us for food and for delight hath caus'd The Earth to yeild.
1688 J. Bloome Let. 7 Mar. in R. Law Eng. in W. Afr. (2001) II. 149 Please to procure mee weights, scales, blow panns and sifters.
1716 J. Steuart Let.-bk. (1915) 36 Please and forward the inclosed for Hamburg.
1757 W. Provoost Let. 25 Aug. in Beekman Mercantile Papers (1956) II. 659 Please to send me the following things Vizt. 1 Dozen of Black mitts. 1 piece of Black Durant fine.
1798 T. Holcroft Inquisitor iv. viii. 49 Please, Sir, to read, and be convinced.
1805 E. Cavanagh Let. 20 Aug. in M. Wilmot & C. Wilmot Russ. Jrnls. (1934) ii. 183 Will you plaise to tell them down below that I never makes free with any Body.
1871 B. Jowett tr. Plato Dialogues I. 88 Please then to take my place.
1926 N.E.D. at Way sb.1 There lies your way, please to go away.
1973 Punch 3 Oct. Please to shut up!
1997 P. Melville Ventriloquist's Tale (1998) ii. 140 Please to keep quiet and mime the songs, chile.


 例文からもわかるように,that 節, to 不定詞,原形不定詞,and do などのパターンが認められる.このうち原形不定詞が続くものが,現代の一般的な丁寧な依頼・命令を表わす語法として広まっていったのである.

Referrer (Inside): [2019-01-26-1]

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2019-01-24 Thu

#3559. 丁寧さを示す語用標識 please の発達 (1) [pragmatic_marker][pragmatics][historical_pragmatics][politeness][syntax][comment_clause][impersonal_verb][reanalysis][adverb]

 丁寧な依頼・命令を表わす副詞・間投詞としての please は,機能的にはポライトネス (politeness) を果たす語用標識 (pragmatic_marker) といってよい.もともとは「〜を喜ばせる,〜に気に入る」の意の動詞であり,動詞としての用法は現在も健在だが,それがいかにして語用標識化していったのか.OED の please, adv. and int. の語源解説によれば,道筋としては2通りが考えられるという.

As a request for the attention or indulgence of the hearer, probably originally short for please you (your honour, etc.) (see please v. 3b(b)), but subsequently understood as short for if you please (see please v. 6c). As a request for action, in immediate proximity to a verb in the imperative, probably shortened from the imperative or optative please followed by the to-infinitive (see please v. 6d).


 考えられる道筋の1つは,非人称動詞として用いられている please (it) you などが約まったというものであり,もう1つは,人称動詞として用いられている if you please が約まったというものである.起源としては前者が早く,後者は前者に基づいたもので,1530年に初出している.人称動詞としての please の用法は,15世紀にスコットランドの作家たちによって用いられ出したものである.これらのいずれかの表現が約まったのだろう,現代的な語用標識の副詞として初めて現われるのは,OED によれば1771年である.

1771 P. Davies Let. 26 Sept. in F. Mason John Norton & Sons (1968) 192 Please send the inclosed to the Port office.


 現代的な用法の please が,いずれの表現から発達したのかを決定するのは難しい.原型となりえた表現は上記の2種のほかにも,そこから派生した様々な表現があったからである.例えば,ほぼ同じ使い方で if it please you (cf. F s'il vous plaît), may it please you, so please you, please to, please it you, please you などがあった.現代の用法は,これらのいずれ(あるいはすべて)に起源をもつという言い方もできるかもしれない.

Referrer (Inside): [2019-01-26-1] [2019-01-25-1]

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2019-01-02 Wed

#3537. 17世紀のネガティヴ・ポライトネス化の社会語用論的背景 [address_term][politeness][t/v_distinction][emode][title][sociolinguistics][pragmatics][historical_pragmatics][personal_pronoun]

 「#3527. 呼称のポライトネスの通時変化,代名詞はネガティヴへ,名詞はポジティヴへ」 ([2018-12-23-1]) でみたように,近代英語の呼称を用いたポライトネス戦略は,なかなか複雑なものだったようだが,椎名 (66--67) は,呼称を通時的に調べてみると貧弱化や単純化の方向が確認されるという.その社会語用論的な背景についてコメントされている箇所があるので,引用しよう.

通時的に見ると,使用される語彙や意味の変化,修飾語 (modification) の減少による address terms の構造の単純化など,幾つかの変化が見られる.原因としては,識字率の向上・郵便制度の整備・プライバシーの尊重・社会的階層構造の流動化があげられている.簡単に言うと,幅広い階級において識字率が向上すると同時に,郵便制度が完備することにより,上流階級に限られていた手紙を書く習慣が庶民にも広がり,多くの人によって頻繁に書かれるようになったことである.もう片方には,人々の階級の流動性が高まり,人々の敬称が複雑化したことがあげられる.そうした社会的・文化的な諸事情により address terms が単純化していったのである.つまり,人々の階級の変動が多い時代には,礼を失することのない安全策として negative politeness の度合いの高い address terms を使うようになっていったということである.


 「安全策として」説は,2人称単数代名詞 thou/you の対立が,近代英語期にネガティヴ・ポライトネスを表わす後者の you の方向へ解消されたのがなぜかを説明するのにも,しばしば引き合いに出される (cf. 「#1336. なぜ thou ではなく you が一般化したか? (2)」 ([2012-12-23-1])).当時の社会背景を汲み取った上で再訪してみたい問題である.

  ・ 椎名 美智 「第3章 歴史語用論における文法化と語用化」『文法化 --- 新たな展開 ---』秋元 実治・保坂 道雄(編) 英潮社,2005年.59--74頁.

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2018-12-20 Thu

#3524. 構文文法の3つの特徴 [construction_grammar][semantics][pragmatics][linguistics]

 昨日の記事「#3523. 構文文法における構文とは?」 ([2018-12-19-1]) で,構文文法の特徴を1つ挙げた.構文文法は,語彙と文法を明確に異なるものとしてとらえないという言語観に立つ.語の構造と統語の構造では確かに内部の複雑さは異なるものの,形式と機能をペアリングさせた単位である点で違いはない,と考えるのである.
 構文文法の言語観として,ほかにも特徴的なことがある.1つは,意味論と語用論のあいだに明確な区分を設けないということだ.意味論的な情報は,焦点,話題,使用域といった語用論的な情報とともに表現されているという立場をとる.
 構文文法の今ひとつの特徴は,一見すると意外なことに,生成文法風に「生成的」 (generative) な立場をとっていることだ.「生成的」とは,文法的に許容される無限の表現を説明しようとする一方で,許容されない無限の表現を排除しようとしていることを指す.ただし,生成文法のように「変形的」 (transformational) ではないことに注意が必要である.基底の統語・意味的な形式から,何らかの変形を経て表層の形式が生み出されるという過程は想定していない.
 明らかに,構文文法は生成文法寄りではなく認知文法寄りの立場のように見えるが,「#3511. 20世紀からの各言語学派を軸上にプロットする」 ([2018-12-07-1]) の図でみたように,形式にも十分なこだわりを示している点では中間的な文法ともいえそうだ.昨今注目されている文法だが,バランサー的な位置取りにいることが魅力的なのかもしれない.

 ・ Goldberg, Adele E. Constructions: A Construction Grammar Approach to Argument Structure. Chicago: U of Chicago P, 1995.

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2018-12-18 Tue

#3522. 英語史における語順倒置の機能の変遷 [syntax][word_order][inversion][pragmatics]

 Stein は英語の2種類の倒置 (inversion) をとりあげ,それぞれが歴史的にいかなる機能上の変化を遂げてきたかを論じている.Stein (135, 139) の扱った倒置構造は,次の type A と type B である .type A は新しい何かを導入する役割を果たし,type B は否定や限定を強める役割を果たす.いずれも近代英語期に台頭してきたものであり,古英語期の倒置構造が直接に受け継がれたものではない.

[ type A ]

 ・ In came Chomsky.
 ・ Down with the rebound comes . . .
 ・ Beyond it rose the peopled hills.
 ・ Developing offshore drilling in California are two Texas oil men.

[ type B ]

 ・ Rarely did I hear such overtones of gratitude as went into the utterance of this compound noun.
 ・ Not until the Book of Splendour did appear in Spain in the thirteenth century did a formidable metaphysical text on cabalism appear.
 ・ Often did she visit the inhabitants of that gloomy village
 ・ Only of late have I learned about the complexities of subjectivity
 ・ Never did I hear about cabalism.

 これらの倒置構造の歴史的推移は,Stein (146--47) によれば次の通りである.

Prior to the central structural process, the grammaticalisation of SVO, inversion (or not) did have non-propositional meaning, which is best described as 'textual' or discourse meaning, but no affective meaning. . . After the dissolution of the Old English types of inversions, the late Middle English situation shows an incipient tendency for use as a focussing device. The modern developments include the rise of the B type (the emotional type), expressive and subjective in meaning, as well as the rise of the A type, with a discourse-cum-affective type of meaning. The latter type is in part a renaissance of a discourse meaning that was present in the Old English (VSO) pattern, which did not have the affective component. To that extent the development has gone full circle.


 以上をまとめれば,一般的に語順が比較的自由だった古英語では,倒置の機能は談話的なものに特化していたが,SVO語順を指向した中英語では談話的機能は失われて焦点化の機能が発達し,SVO語順が確立した近代にかけては感情的な機能が前面で出てくるとともに,部分的に談話的な機能が復活してきたという流れだ.
 語順倒置の形式ではなく機能の歴史的推移というのも,突っ込んでいくとおもしろそう(だが,難しそう)だ.

 ・ Stein, Dieter. "Subjective Meanings and the History of Inversions." Subjectivity and Sbujectivisation: Linguistic Perspective. Ed. Dieter Stein and Susan Wright. Cambridge: CUP, 129--50.

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2018-09-03 Mon

#3416. 祈願の may と勧告の let の意味論的類似性 [pragmatics][semantics][syntax][word_order][speech_act][auxiliary_verb][optative][may]

 「#2478. 祈願の may と勧告の let の発達の類似性」 ([2016-02-08-1]) で,両構文の意外とも思える類似性について歴史的な観点から紹介した.現代英語の共時的観点からも,Huddleston and Pullum (944) が両者の意味論的な類似性に言及している.

[Optative may C]onstruction . . . , which belongs to somewhat formal style, has may in pre-subject position, meaning approximately "I hope/pray". There is some semantic resemblance between this specialised use of may and that of let in open let-imperatives, but syntactically the NP following may is clearly subject . . . . The construction has the same internal form as a closed interrogative, but has no uninverted counterpart.


 maylet が「意味論」的に似ているという点は首肯できる(ここでいう「意味論」は語用論も含んだ「意味論」だろう).発話行為としての「祈願」を行なえば,次に「勧告」したくなるのが人情だろうし,「勧告」の前段階として「祈願」は付きもののはずだ.
 一方,「統語」的には,続く名詞句が主格に置かれるか目的格に置かれるかという点で明らかに区別されると指摘されている.確かに,両者はおおいに異なる.しかし,maylet を,対応する発話行為を表わす語用標識ととらえ,その後に来る名詞句の格の区別は無視すれことにすれば,いずれも「語用標識+名詞句(+動詞の原形)」となっていることは事実であり,統語的にも似ていると議論することはできる.少なくとも表面的な統語論においては,そうみなせる.
 maylet も,文頭の動詞原形で命令を標示したり,文頭の Oh で感嘆を標示したりするのと同様の語用論的な機能を色濃くもっていると考えることができるかもしれない.「#2923. 左と右の周辺部」 ([2017-04-28-1]) という観点からも迫れそうな,語用論と統語論の接点をなす問題のように思われる.

 ・ Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: CUP, 2002.

Referrer (Inside): [2018-09-04-1]

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2018-08-21 Tue

#3403. presupposition の3つの特性 [presupposition][pragmatics][implicature]

 昨日の記事「#3402. presupposition trigger のタイプ」 ([2018-08-20-1]) で presupposition (前提)について取り上げたが,それにはとりわけ重要な特性が3つある.(1) constancy under negation, (2) defensibility or cancellability, (3) the projection problem である (Huang 67--75) .

 (1) constancy under negation

   文が否定されても,前提は無傷のままに残るという興味深い特性がある.昨日の記事の例でいえば,The king of France is bald. という文は,"There is a king of France" を前提とするが,同文を否定して The king of France isn't bald. としても前提は揺るがない.この重要な性質に基づいて,「前提」を改めて定義すると次のようになる.

An utterance of a sentence S presupposes a proposition p if and only if

     a. if S is true, then p is true
     b. if S is false, then p is still true


 (2) defeasibilty or cancellability

   前提には,背景となる想定,現実の知識,会話の含意 (conversational implicature),談話の文脈によっては無効となり得るという特性がある.例えば,John got an assistant professorship before he finished his Ph.D. では "John finished his Ph.D" の前提が成立するが,ほぼ同じ構文で John died before he finished his Ph.D. では同前提は成立しなくなる.死んだ後には何もできないという現実の知識があるからこそ,前提が否認されるのである.
   また,There is no king of France. Therefore the king of France isn't bald. では,第1文の存在により,第2文から通常生じるはずの "There is a king of France" という前提が成立しなくなる.
   ほかには,The president doesn't regret vetoing the bill (because in fact he never did so!) では,because 以下がない文では "The president vetoed the bill" が前提とされるが,because 以下を加えた文では,そこで明示的に前提が否定されることになる.
   発話動詞が使用される場合にも,前提が成立しないことがある.John said that Mary managed to speak with a broad Irish accent. では,"Mary managed to speak with a broad Irish accent" は前提とされない.

 (3) the projection problem

   単文が組み合わさって複文となるとき,単文によって生み出された前提は,複文においても投射 (projection) され,受け継がれるものと思われるかもしれない.確かにそのような場合も多いが,一方で (2) でも例をみたように,単文での前提が複文全体の趣旨と整合しない場合には,その前提が崩れることもある.どのようなケースで投射され,あるいは投射されないのかを公式化することは難しく,投射の問題は "the curse and the blessing of modern presupposition theory" とも呼ばれている.理論の構築が困難であることが "curse" であり,語用論的な発想をもってしなければ対処できないという点で,語用論の意味論からの独立性を支持するものとして "blessing" だというわけである.

 ・ Huang, Yan. Pragmatics. Oxford: OUP, 2007.

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2018-08-20 Mon

#3402. presupposition trigger のタイプ [presupposition][pragmatics]

 語用論の主要なトピックである presupposition (前提)とは,簡単にいえば,ある文を発したときに当然のように真として受け入れられる推論や命題のことである.例えば,「私の兄は独身です」では私に兄がいることが前提とされるし,「雨が降る前に洗濯物を取り込んだ」では雨が降ったことが前提とされる.これらの文において件の前提を生み出す言語項を presupposition trigger と呼ぶ.上の例では,「私の兄」という名詞句や「雨が降る前に」という統語構造が presupposition trigger となっている.
 Huang (67--68) は,英語の presupposition trigger としていくつかの種類を挙げている.以下で ">>" の記号は "presuppose" の意である.

(1) Definite descriptions

     The king of France is/isn't bald.
     >> There is a king of France

(2) Factive predicates

     a. Epistemic or cognitive factives

          John knows/doesn't know that Baird invented television.
          >> Baird invented television

     b. Emotive factives

          John regrets/doesn't regret that he has said the unsayable.
          >> John has said the unsayable

(3) Aspectual/change of state predicates

     Mary has/hasn't stopped beating her boyfriend.
     >> Mary has been beating her boyfriend

(4) Iteratives

     a. Iterative verbs

          John returned/didn't return to Cambridge.
          >> John was in Cambridge before

     b. Iterative adverbs

          The boy cried/didn't cry wolf again.
          >> The boy cried wolf before

(5) Implicative predicates

     John managed/didn't manage to give up smoking.
     >> John tried to give up smoking

(6) Temporal clauses

     After she shot to stardom in a romance film, Jane married/didn't marry a millionaire entrepreneur.
     >> Jane shot to stardom in a romance film.

(7) Cleft sentences

     a. Cleft

          It was/wasn't Baird who invented television.
          >> Someone invented television

     b. Pseudo-cleft
     
          What Baird invented/didn't invent was television
          >> Baird invented something

(8) Counterfactual conditionals

     If an ant were as big as a human being, it could/couldn't run five times faster than an Olympic sprinter.
     >> An ant is not as big as a human being


 (1)--(5) は語句を利用した lexical triggers,(6)--(8) は構文を利用した constructional/structural triggers の例である.

 ・ Huang, Yan. Pragmatics. Oxford: OUP, 2007.

Referrer (Inside): [2018-08-21-1]

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2018-04-08 Sun

#3268. 談話標識のライフサイクルは短い [discourse_marker][pragmatics][historical_pragmatics][language_change][intensifier][euphemism][sociolinguistics][speed_of_change]

 言語には変化の回転が速い領域というものがある.「#992. 強意語と「限界効用逓減の法則」」 ([2012-01-14-1]) や「#1219. 強意語はなぜ種類が豊富か」 ([2012-08-28-1]) で述べたように,強意語 (intensifier) や,タブー表現 (taboo) の響きをやわらげる婉曲表現 (euphemism) が次々と生まれては消えることは,よく知られている.視点を変えれば,これらの表現はライフサイクルが短いということになろう.
 同様に,昨日の記事「#3267. 談話標識とその形成経路」 ([2018-04-07-1]) で取り上げた談話標識も,比較的ライフサイクルが短いとされている.実際,談話標識は歴史的に新しい表現が生まれては消える過程を繰り返してきた.昨日の記事でも示したように,談話標識は特に話し言葉において頻度が高いこと,そして種々の源から形成されうることが,背景にあるのだろう.この点について Lewis (909) が次のように述べている.

Discourse markers are known for their frequent renewal. Particularly subject to sociolinguistic factors and fashion, they tend to be "caught" easily, spreading quickly among social networks. Choice of markers therefore can reflect age, social position, and so on. Discourse markers date quickly: many of the most frequent discourse markers and connectives of the 20th century arose only in the 18th or 19th century, including of course, after all, still, I say.


 ライフサイクルが速いといっても数世代以上の時間がかかるようであり,強意語や婉曲語法に見られるライフサイクルほど速いわけではなさそうだ.しかし,そのうちにきっと変わるにちがいないと言わしめるほどには「規則的な」言語変化の一種とみなせそうだ.また,引用の最初にあるように,談話標識に話者の世代を特徴づける性質があるというのも興味深い.歴史社会言語学的な観察対象になり得ることを意味するからだ.談話標識の流行としての側面は,もっと注目してもよいだろう.

 ・ Lewis, Diana M. "Late Modern English: Pragmatics and Discourse" Chapter 56 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 901--15.

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2018-04-07 Sat

#3267. 談話標識とその形成経路 [discourse_marker][pragmatics][language_change][terminology][subjectification][intersubjectification][grammaticalisation][historical_pragmatics]

 談話標識 (discourse marker, DM) について,「#2041. 談話標識,間投詞,挿入詞」 ([2014-11-28-1]) や discourse_marker の各記事で取り上げてきた.ここでは,種々の先行研究から要点をまとめた Archer に従って,談話標識の特徴と形成経路について紹介する.
 まず,談話標識の特徴から.Archer (660) は次の4点を上げている.

- DMs are phonologically short items that normally occur sentence-initially (but can occur in medial or final position . . .);
- DMs are syntactically independent elements (often constituting separate intonation units) which occur with high frequency (in oral discourse in particular);
- DMs lack semantic content (i.e. they are non-referential/non-propositional in meaning)
- DMs are non-truth-conditional elements, and thus optional (i.e. they may be deleted).


 たいていの談話標識は,歴史をたどれば,談話標識などではなかった.歴史の過程で,ある表現が談話標識らしくなってきたということである.では,どのような表現が談話標識へと発展しやすいのだろうか.典型的な談話標識の形成経路については,統語的な観点から記述したものと,意味論的な観点のものがある.まず,前者について (Archer 661) .

- adverb/preposition > conjunction > DM;
- predicate adverb > sentential adverb structure > parenthetical DM . . .;
- imperative matrix clause > indeterminate structure > parenthetical DM;
- relative/adverbial clause > parenthetical DM.


 意味論的な観点からの経路は,次の通り (Archer 661) .

- truth-conditional > non-truth conditional . . .,
- content > procedural, and nonsubjective > subjective > intersubjective meaning,
- scope within the proposition > scope over the proposition > scope over discourse.


 ・ Archer, Dawn. "Early Modern English: Pragmatics and Discourse" Chapter 41 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 652--67.

Referrer (Inside): [2018-04-08-1]

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