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pragmatics - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-11-20 09:36

2019-08-25 Sun

#3772. Wittgenstein の「言語ゲーム」 (2) [function_of_language][language-game][context][speech_act][pragmatics][semantics][terminology][philosophy_of_language]

 昨日の記事 ([2019-08-24-1]) で Wittgenstein の言語ゲーム (Sprachspiel, language-game) に触れた.Bussmann (262) の用語辞典の定義によると次の通り.

language game
L. Wittgenstein's term referring to complex units of communication that consist of linguistic and non-linguistic activities (e.g. the giving of and complying with commands in the course of collaborating on the building of a house). Signs, words, and sentences as 'tools of language' have in and of themselves no meaning; rather meaning is derived only from the use of these items in particular contexts of language behavior.


 論理実証主義 (logical positivism) から転向した後の Wittgenstein の,このような コンテクスト重視の言語観や意味観は,後の日常言語哲学 (ordinary language philosophy) に大きな影響を与え,発話行為 (speech_act) を含めた語用論 (pragmatics) の発展にも貢献した."the meaning of a word is its use in the language" という意味のとらえ方は,なお問題があるものの,1つの見解とみなされている.
 意味の意味に関連して「#1782. 意味の意味」 ([2014-03-14-1]),「#1990. 様々な種類の意味」 ([2014-10-08-1]),「#2199. Bloomfield にとっての意味の意味」 ([2015-05-05-1]),「#2794. 「意味=定義」説の問題点」 ([2016-12-20-1]),「#2795. 「意味=指示対象」説の問題点」 ([2016-12-21-1]) などの内容とも比較されたい.

 ・ Bussmann, Hadumod. Routledge Dictionary of Language and Linguistics. Trans. and ed. Gregory Trauth and Kerstin Kazzizi. London: Routledge, 1996.

Referrer (Inside): [2019-08-26-1]

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2019-06-02 Sun

#3688. 日本語の感動詞の分類 [interjection][speech_act][pragmatics]

 『図解日本語』 (107) に,日本語の感動詞(あるいは間投詞)の分類例が示されていた.機能に着目した分類である.

                               ┌── 第一種〈あいさつ〉───── 「こんにちわ」「ごめんなさい」
┌── 第 I 類〔行為相当〕──┤
│                             └── 第二種〈呪文・まじない〉── 「アーメン」「ちちんぷいぷい」
│
├── 第 II類〔行為添加〕───── 〈かけ声・はやし声〉──── 「どっこいしょ」「ハァコリャコリャ」
│
├── 第III類〔発始記号〕──┬── 第一種〈呼びかけ〉───── 「やあ」「おい」「こら」
│                             │
│                             ├── 第二種〈起動〉─────── 「さあ」「ほら」
│                             │
│                             ├── 第三種〈持ちかけ〉───── 「ねえ」「なあ」
│                             │
│                             ├── 第四種〈応答〉─────── 「はい」「うん」「ええ」「いいえ」
│                             │
│                             └── 第五種〈反応〉─────── 「あっ」「ほう」「おっと」
│
└── 第 IV類〔遊びことば〕─────────────────── 「えーと」「あー,うー」「そのー」

 ほぼそのまま英語にも応用できると思われるので,参考になる.英語の間投詞については「#2041. 談話標識,間投詞,挿入詞」 ([2014-11-28-1]) も参照.近年は語用論や発話行為というトピックへの関心が高まっておきており,それに伴って感動詞の注目度も上がってきているように思われる.

 ・ 沖森 卓也,木村 義之,陳 力衛,山本 真吾 『図解日本語』 三省堂,2006年.

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2019-05-03 Fri

#3658. 歴史語用論の分類と課題 (2) [pragmatics][historical_pragmatics][hisopra][methodology][corpus]

 「#2000. 歴史語用論の分類と課題」 ([2014-10-18-1]) に引き続いて.歴史語用論 (historical_pragmatics) は,ここ数年の間に国際的にも国内的にも知名度をあげてきた.国内では私も HiSoPra* (= HIstorical SOciolinguistics and PRAgmatics) 研究会に参加させてもらっているし,周囲の学生や研究者をみてみても確実に関心が広まってきているのを感じる.
 歴史語用論の扱う領域は広く,従来の主流派言語学では取りこぼされてきた「雑多な」話題をカバーすることが多い.歴史語用論の研究領域を整理しようとする試みは,前の記事 ([2014-10-18-1]) でも紹介したように,いくつかある.今回は,Arnovick (96) が英語歴史語用論を念頭に置きつつ挙げている3分法を紹介しよう.

   Pragmatic forms: discourse markers, terms of address, connectives, and interjections;
   Interactional pragmatics: speech acts, politeness, impoliteness;
   Discursive domains: scientific and medical discourse, journalism, religious and political discourse, courtroom discourse, literary discourse, public and private correspondence.


 Arnovick の同じ論文では,英語歴史語用論とコーパス利用の親和性についても説かれている.導入的な文章となっているので,英語歴史語用論に初めて関心をもったら,ぜひ読んでもらいたい.

 ・ Arnovick, Leslie K. "Historical Pragmatics in the Teaching of the History of English." Chapter 9 of Approaches to Teaching the History of the English Language: Pedagogy in Practice. Introduction. Ed. Mary Heyes and Allison Burkette. Oxford: OUP, 2017. 93--105.

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2019-04-12 Fri

#3637. 依頼を表わす Will you . . . ? の初例 (2) [oed][speech_act][politeness][interrogative][historical_pragmatics][pragmatics][implicature][auxiliary_verb][construction]

 [2019-04-07-1]の記事に引き続き,Will you . . . ? 依頼文の発生について.OED によると,この構文の初出は1300年以前の Vox & Wolf という動物寓話にあるとされる.Bennett and Smithers 版の The Fox and the Wolf より,問題の箇所 (l. 186) の前後の文脈 (ll. 171--97) を取り出してみよう.

'A!' quod þe wolf, 'gode ifere, 
Moni goed mel þou hauest me binome! 
Let me adoun to þe kome, 
And al Ich wole þe forȝeue.'175
'Ȝe!' quod þe vox, 'were þou isriue, 
And sunnen heuedest al forsake, 
And to klene lif itake, 
Ich wolde so bidde for þe 
Þat þou sholdest comen to me.'180
'To wom shuld Ich', þe wolf seide, 
'Ben iknowe of mine misdede?--- 
Her nis noþing aliue 
Þat me kouþe her nou sriue. 
Þou hauest ben ofte min ifere---185
Woltou nou mi srift ihere, 
And al mi liif I shal þe telle?' 
'Nay!' quod þe vox, 'I nelle.' 
'Neltou?' quod þe wolf, 'þin ore! 
Ich am afingret swiþe sore---190
Ich wot, toniȝt Ich worþe ded, 
Bote þou do me somne reed. 
For Cristes loue, be mi prest!' 
Þe wolf bey adoun his brest 
And gon to siken harde and stronge.195
'Woltou', quod þe vox, 'srift ounderfonge? 
Tel þine sunnen, on and on, 
Þat þer bileue neuer on.' 


 物語の流れはこうである.つるべ井戸に落ちてしまった狐が,井戸のそばを通りかかった知り合いの狼を呼び止めた.言葉巧みに狼をそそのかし,狼を井戸に落とし,自分は脱出しようと算段する.狼にこれまでの悪行について懺悔するよう説得すると,狼はその気になり,狐に懺悔を聞いて欲しいと願うようになる.そこで,Woltou nou mi srift ihere, / And al mi liif I shal þe telle? (ll. 168--69) という狼の発言になるわけだ.
 付近の文脈では全体として法助動詞が多用されており,狐と狼が掛け合いのなかで相手の意志や意図を確かめ合っているという印象を受ける.問題の箇所は,will を原義の意志の意味で取ると,「さあ,あなたには私の懺悔を聞こうという意志がありますか?そうであれば私は人生のすべてをあたなに告げましょう.」となる.しかし,ここでは文脈上明らかに狼は狐に懺悔を聞いてもらいたいと思っている.したがって,依頼の読みを取って「さあ,私の懺悔を聞いてくださいな.私は人生のすべてをあなたに告げましょう.」という解釈も可能となる.もとより相手の意志を問うことと依頼とは,意味論・語用論的には僅差であり,グラデーションをなしていると考えられるわけだから,ここでは両方の意味が共存しているととらえることもできる.
 しかし,直後の狐の返答は,依頼というよりは質問に答えるかのような Nay! . . . I nelle. である.現代英語でいえば Will you hear my shrift now? に対して No, I won't. と答えているようなものだ.少なくとも狐は,先の狼の発言を「懺悔を聞こうとする意志があるか?」という疑問と解釈(したふりを)し,その疑問に対して No と答えているのである.狼としては依頼のつもりで言ったのかもしれないが,相手には疑問と解釈されてしまったことになる.実際,狼はその答えに落胆するかのように,Neltou? (その意志がないというか?)と返している.
 もし狼の側に依頼の意味が込められていたとしても,その依頼という含意は,文脈に支えられて初めて現われる類いの特殊化された会話的含意 (particularized conversational implicature) であって,一般化された会話的含意 (generalized conversational implicature) ではないし,ましてや慣習的含意 (conventional implicature) でもないように思われる.今回の事例を Will you . . . ? 依頼文の初例とみなすことは相変わらず可能かもしれないが,慣習化された構文,あるいは独り立ちした表現とみなすには早すぎるだろう.

 ・ Bennett, J. A. W. and G. V. Smithers, eds. Early Middle English Verse and Prose. 2nd ed. Oxford: OUP, 1968.

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2019-04-07 Sun

#3632. 依頼を表わす Will you . . . ? の初例 [oed][speech_act][politeness][historical_pragmatics][pragmatics][implicature][construction][auxiliary_verb]

 現代英語には法助動詞 will を用いた依頼を表わす形式として,Will you do me a favor? などの表現がある.比較的親しい間柄で用いられることが多く,場合によっては Will you shut up? のようにややきつい命令となることもある.一方,公的な指示として Will you sign here, please? のようにも用いられ,ポライトネスの質や程度が状況に応じて変わるので,使いこなすのは意外と難しい.形式的には未来の意ともなり得るので,依頼の意図を明確にしたい場合には please を付すことも多い.
 この表現の起源は,2人称の意志を問う意志未来としての Will you . . . ? にあると考えられる.一方的に頼み事を押しつけるのではなく,あくまで相手の意志を尊重し,それを問うという体裁をとるので,その分柔らかく丁寧な言い方になるからだ.疑問文の外見をしていながら,実際に行なっているの依頼・命令・指示ということで,ポライトネスを考慮した典型的な間接発話行為 (indirect speech act) の事例といえる.
 
OED の will, v1. によると,I. The present tense will. のもとの6bに,依頼の用法が挙げられている.

b. In 2nd person, interrog., or in a subord. clause after beg or the like, expressing a request (usually courteous; with emphasis, impatient).

a1300 Vox & Wolf in W. C. Hazlitt Remains Early Pop. Poetry Eng. (1864) I. 64 Thou hauest ben ofte min i-fere, Woltou nou mi srift i-here?
a1400 Pistill of Susan 135 Wolt þou, ladi, for loue, on vre lay lerne?
1470--85 Malory Morte d'Arthur i. vi. 42 Sir said Ector vnto Arthur woll ye be my good and gracious lord when ye are kyng?
1592 R. Greene Philomela To Rdr. sig. A4 I..craue that you will beare with this fault.
1600 Shakespeare Henry V ii. i. 43 Will you shog off?
1608 Shakespeare King Lear vii. 313 On my knees I beg, That you'l vouchsafe me rayment, bed and food.
1720 A. Ramsay Young Laird & Edinb. Katy 1 O Katy wiltu gang wi' me, And leave the dinsome Town a while.
1823 Scott St. Ronan's Well III. iv. 96 I desire you will found nothing on an expression hastily used.
1878 T. Hardy Return of Native III. v. iii. 144 Oh, Oh, Oh,..Oh, will you have done!


 依頼表現としての Will you . . . ? が,依頼動詞の従属節内に現われる will から発達した可能性も確かに理論的にはありそうだが,OED の用例でいえば,従属節の例は4つめの1592年のものであり,時間の前後関係が逆のようにみえる.また,初例は1300年以前とかなり早い時期だが,おそらく表現として定着したのは近代英語に入ってからだろう.ただし,疑問ではなく依頼という語用論的な機能や含意 (implicature) がいつ一般化したといえるのかは,歴史語用論研究に常について回るたいへん微妙な問題であり,明確なことをいえるわけではない.関連して「#1976. 会話的含意とその他の様々な含意」 ([2014-09-24-1]),「#1984. 会話的含意と意味変化」 ([2014-10-02-1]) も参照.

Referrer (Inside): [2019-04-12-1]

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2019-01-26 Sat

#3561. 丁寧さを示す語用標識 please の発達 (3) [pragmatic_marker][pragmatics][historical_pragmatics][politeness][syntax][impersonal_verb][reanalysis][adverb][comment_clause]

 [2019-01-24-1], [2019-01-25-1] に引き続いての話題.丁寧な依頼・命令を表わす語用標識 (pragmatic_marker) としての please の発達の諸説についてみてきたが,発達に関する2つの仮説を整理すると (1) Please (it) you that . . . などが元にあり,主節動詞である please が以下から切り離されて語用標識化したという説と,(2) if you please, . . . などが元にあり,条件を表わす従属節の please が独立して語用標識化したという説があることになる.(1) は主節からの発達,(2) は従属節からの発達ということになり,対照的な仮説のようにみえる.
 Brinton (21) も,どちらかを支持するわけでもなく,Allen の研究に基づいて両説を対比的に紹介している.

An early study looking at an adverbial comment clause is Allen's argument that the politeness marker please originated in the adverbial clause if you please (1995; see also Chen 1998: 25--27). Traditionally, please has been assumed to originate in the impersonal construction please it you 'may it please you' > please you > please (OED: s.v. please, adv. and int.; cf. please, v., def. 3b). Such a structure would suggest the existence of a subordinate that-clause (subject) and argue for a version of the matrix clause hypothesis. However, the OED allows that please may also be seen as a shortened form of if you please (s.v. please, adv. and int.; cf. please, v., def. 6c). Allen notes that the personal construction if/when you please does not arise through reanalysis of the impersonal if it please you; rather, the two constructions exist independently and are already clearly differentiated in Shakespeare's time. The impersonal becomes recessive and is lost, while the personal form is routinized as a polite formula and ultimately (at the beginning of the twentieth century) shortened to please.


 語用標識 please の原型はどちらなのだろうか,あるいは両方と考えることもできるのだろうか.この問題に迫るには,初期近代英語期における両者の具体例や頻度を詳しく調査する必要がありそうだ.

 ・ Brinton, Laurel J. The Evolution of Pragmatic Markers in English: Pathways of Change. Cambridge: CUP, 2017.
 ・ Allen, Cynthia L. "On Doing as You Please." Historical Pragmatics: Pragmatic Developments in the History of English. Ed. Andreas H. Jucker. Amsterdam: John Benjamins, 1995. 275--309.
 ・ Chen, Guohua. "The Degrammaticalization of Addressee-Satisfaction Conditionals in Early Modern English." Advances in English Historical Linguistics. Ed. Jacek Fisiak and Marcin Krygier. Berlin: Mouton de Gruyter, 1998. 23--32.

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2019-01-25 Fri

#3560. 丁寧さを示す語用標識 please の発達 (2) [pragmatic_marker][pragmatics][historical_pragmatics][politeness][syntax][impersonal_verb][reanalysis][adverb]

 昨日の記事 ([2019-01-24-1]) に引き続いての話題.現代の語用標識 (pragmatic_marker) としての please は,次に動詞の原形が続いて丁寧な依頼・命令を表わすが,歴史的には please に後続するのは動詞の原形にかぎらず,様々なパターンがありえた.OED の please, v. の 6d に,人称的な用法として,様々な統語パターンの記述がある.

d. orig. Sc. In imperative or optative use: 'may it (or let it) please you', used chiefly to introduce a respectful request. Formerly with bare infinitive, that-clause, or and followed by imperative. Now only with to-infinitive (chiefly regional).

Examples with bare infinitive complement are now usually analysed as please adv. followed by an imperative. This change probably dates from the development of the adverb, which may stand at the beginning of a clause modifying a main verb in the imperative.


1543 in A. I. Cameron Sc. Corr. Mary of Lorraine (1927) 8 Mademe..pleis wit I have spokin with my lord governour.
1568 D. Lindsay Satyre (Bannatyne) 3615 in Wks. (1931) II. 331 Schir pleis ȝe that we twa invaid thame And ȝe sell se vs sone degraid thame.
1617 in L. B. Taylor Aberdeen Council Lett. (1942) I. 144 Pleis ressave the contract.
1667 Milton Paradise Lost v. 397 Heav'nly stranger, please to taste These bounties which our Nourisher,..To us for food and for delight hath caus'd The Earth to yeild.
1688 J. Bloome Let. 7 Mar. in R. Law Eng. in W. Afr. (2001) II. 149 Please to procure mee weights, scales, blow panns and sifters.
1716 J. Steuart Let.-bk. (1915) 36 Please and forward the inclosed for Hamburg.
1757 W. Provoost Let. 25 Aug. in Beekman Mercantile Papers (1956) II. 659 Please to send me the following things Vizt. 1 Dozen of Black mitts. 1 piece of Black Durant fine.
1798 T. Holcroft Inquisitor iv. viii. 49 Please, Sir, to read, and be convinced.
1805 E. Cavanagh Let. 20 Aug. in M. Wilmot & C. Wilmot Russ. Jrnls. (1934) ii. 183 Will you plaise to tell them down below that I never makes free with any Body.
1871 B. Jowett tr. Plato Dialogues I. 88 Please then to take my place.
1926 N.E.D. at Way sb.1 There lies your way, please to go away.
1973 Punch 3 Oct. Please to shut up!
1997 P. Melville Ventriloquist's Tale (1998) ii. 140 Please to keep quiet and mime the songs, chile.


 例文からもわかるように,that 節, to 不定詞,原形不定詞,and do などのパターンが認められる.このうち原形不定詞が続くものが,現代の一般的な丁寧な依頼・命令を表わす語法として広まっていったのである.

Referrer (Inside): [2019-01-26-1]

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2019-01-24 Thu

#3559. 丁寧さを示す語用標識 please の発達 (1) [pragmatic_marker][pragmatics][historical_pragmatics][politeness][syntax][comment_clause][impersonal_verb][reanalysis][adverb]

 丁寧な依頼・命令を表わす副詞・間投詞としての please は,機能的にはポライトネス (politeness) を果たす語用標識 (pragmatic_marker) といってよい.もともとは「〜を喜ばせる,〜に気に入る」の意の動詞であり,動詞としての用法は現在も健在だが,それがいかにして語用標識化していったのか.OED の please, adv. and int. の語源解説によれば,道筋としては2通りが考えられるという.

As a request for the attention or indulgence of the hearer, probably originally short for please you (your honour, etc.) (see please v. 3b(b)), but subsequently understood as short for if you please (see please v. 6c). As a request for action, in immediate proximity to a verb in the imperative, probably shortened from the imperative or optative please followed by the to-infinitive (see please v. 6d).


 考えられる道筋の1つは,非人称動詞として用いられている please (it) you などが約まったというものであり,もう1つは,人称動詞として用いられている if you please が約まったというものである.起源としては前者が早く,後者は前者に基づいたもので,1530年に初出している.人称動詞としての please の用法は,15世紀にスコットランドの作家たちによって用いられ出したものである.これらのいずれかの表現が約まったのだろう,現代的な語用標識の副詞として初めて現われるのは,OED によれば1771年である.

1771 P. Davies Let. 26 Sept. in F. Mason John Norton & Sons (1968) 192 Please send the inclosed to the Port office.


 現代的な用法の please が,いずれの表現から発達したのかを決定するのは難しい.原型となりえた表現は上記の2種のほかにも,そこから派生した様々な表現があったからである.例えば,ほぼ同じ使い方で if it please you (cf. F s'il vous plaît), may it please you, so please you, please to, please it you, please you などがあった.現代の用法は,これらのいずれ(あるいはすべて)に起源をもつという言い方もできるかもしれない.

Referrer (Inside): [2019-01-26-1] [2019-01-25-1]

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2019-01-02 Wed

#3537. 17世紀のネガティヴ・ポライトネス化の社会語用論的背景 [address_term][politeness][t/v_distinction][emode][title][sociolinguistics][pragmatics][historical_pragmatics][personal_pronoun]

 「#3527. 呼称のポライトネスの通時変化,代名詞はネガティヴへ,名詞はポジティヴへ」 ([2018-12-23-1]) でみたように,近代英語の呼称を用いたポライトネス戦略は,なかなか複雑なものだったようだが,椎名 (66--67) は,呼称を通時的に調べてみると貧弱化や単純化の方向が確認されるという.その社会語用論的な背景についてコメントされている箇所があるので,引用しよう.

通時的に見ると,使用される語彙や意味の変化,修飾語 (modification) の減少による address terms の構造の単純化など,幾つかの変化が見られる.原因としては,識字率の向上・郵便制度の整備・プライバシーの尊重・社会的階層構造の流動化があげられている.簡単に言うと,幅広い階級において識字率が向上すると同時に,郵便制度が完備することにより,上流階級に限られていた手紙を書く習慣が庶民にも広がり,多くの人によって頻繁に書かれるようになったことである.もう片方には,人々の階級の流動性が高まり,人々の敬称が複雑化したことがあげられる.そうした社会的・文化的な諸事情により address terms が単純化していったのである.つまり,人々の階級の変動が多い時代には,礼を失することのない安全策として negative politeness の度合いの高い address terms を使うようになっていったということである.


 「安全策として」説は,2人称単数代名詞 thou/you の対立が,近代英語期にネガティヴ・ポライトネスを表わす後者の you の方向へ解消されたのがなぜかを説明するのにも,しばしば引き合いに出される (cf. 「#1336. なぜ thou ではなく you が一般化したか? (2)」 ([2012-12-23-1])).当時の社会背景を汲み取った上で再訪してみたい問題である.

  ・ 椎名 美智 「第3章 歴史語用論における文法化と語用化」『文法化 --- 新たな展開 ---』秋元 実治・保坂 道雄(編) 英潮社,2005年.59--74頁.

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2018-12-20 Thu

#3524. 構文文法の3つの特徴 [construction_grammar][semantics][pragmatics][linguistics]

 昨日の記事「#3523. 構文文法における構文とは?」 ([2018-12-19-1]) で,構文文法の特徴を1つ挙げた.構文文法は,語彙と文法を明確に異なるものとしてとらえないという言語観に立つ.語の構造と統語の構造では確かに内部の複雑さは異なるものの,形式と機能をペアリングさせた単位である点で違いはない,と考えるのである.
 構文文法の言語観として,ほかにも特徴的なことがある.1つは,意味論と語用論のあいだに明確な区分を設けないということだ.意味論的な情報は,焦点,話題,使用域といった語用論的な情報とともに表現されているという立場をとる.
 構文文法の今ひとつの特徴は,一見すると意外なことに,生成文法風に「生成的」 (generative) な立場をとっていることだ.「生成的」とは,文法的に許容される無限の表現を説明しようとする一方で,許容されない無限の表現を排除しようとしていることを指す.ただし,生成文法のように「変形的」 (transformational) ではないことに注意が必要である.基底の統語・意味的な形式から,何らかの変形を経て表層の形式が生み出されるという過程は想定していない.
 明らかに,構文文法は生成文法寄りではなく認知文法寄りの立場のように見えるが,「#3511. 20世紀からの各言語学派を軸上にプロットする」 ([2018-12-07-1]) の図でみたように,形式にも十分なこだわりを示している点では中間的な文法ともいえそうだ.昨今注目されている文法だが,バランサー的な位置取りにいることが魅力的なのかもしれない.

 ・ Goldberg, Adele E. Constructions: A Construction Grammar Approach to Argument Structure. Chicago: U of Chicago P, 1995.

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2018-12-18 Tue

#3522. 英語史における語順倒置の機能の変遷 [syntax][word_order][inversion][pragmatics]

 Stein は英語の2種類の倒置 (inversion) をとりあげ,それぞれが歴史的にいかなる機能上の変化を遂げてきたかを論じている.Stein (135, 139) の扱った倒置構造は,次の type A と type B である .type A は新しい何かを導入する役割を果たし,type B は否定や限定を強める役割を果たす.いずれも近代英語期に台頭してきたものであり,古英語期の倒置構造が直接に受け継がれたものではない.

[ type A ]

 ・ In came Chomsky.
 ・ Down with the rebound comes . . .
 ・ Beyond it rose the peopled hills.
 ・ Developing offshore drilling in California are two Texas oil men.

[ type B ]

 ・ Rarely did I hear such overtones of gratitude as went into the utterance of this compound noun.
 ・ Not until the Book of Splendour did appear in Spain in the thirteenth century did a formidable metaphysical text on cabalism appear.
 ・ Often did she visit the inhabitants of that gloomy village
 ・ Only of late have I learned about the complexities of subjectivity
 ・ Never did I hear about cabalism.

 これらの倒置構造の歴史的推移は,Stein (146--47) によれば次の通りである.

Prior to the central structural process, the grammaticalisation of SVO, inversion (or not) did have non-propositional meaning, which is best described as 'textual' or discourse meaning, but no affective meaning. . . After the dissolution of the Old English types of inversions, the late Middle English situation shows an incipient tendency for use as a focussing device. The modern developments include the rise of the B type (the emotional type), expressive and subjective in meaning, as well as the rise of the A type, with a discourse-cum-affective type of meaning. The latter type is in part a renaissance of a discourse meaning that was present in the Old English (VSO) pattern, which did not have the affective component. To that extent the development has gone full circle.


 以上をまとめれば,一般的に語順が比較的自由だった古英語では,倒置の機能は談話的なものに特化していたが,SVO語順を指向した中英語では談話的機能は失われて焦点化の機能が発達し,SVO語順が確立した近代にかけては感情的な機能が前面で出てくるとともに,部分的に談話的な機能が復活してきたという流れだ.
 語順倒置の形式ではなく機能の歴史的推移というのも,突っ込んでいくとおもしろそう(だが,難しそう)だ.

 ・ Stein, Dieter. "Subjective Meanings and the History of Inversions." Subjectivity and Sbujectivisation: Linguistic Perspective. Ed. Dieter Stein and Susan Wright. Cambridge: CUP, 129--50.

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2018-09-03 Mon

#3416. 祈願の may と勧告の let の意味論的類似性 [pragmatics][semantics][syntax][word_order][speech_act][auxiliary_verb][optative][may]

 「#2478. 祈願の may と勧告の let の発達の類似性」 ([2016-02-08-1]) で,両構文の意外とも思える類似性について歴史的な観点から紹介した.現代英語の共時的観点からも,Huddleston and Pullum (944) が両者の意味論的な類似性に言及している.

[Optative may C]onstruction . . . , which belongs to somewhat formal style, has may in pre-subject position, meaning approximately "I hope/pray". There is some semantic resemblance between this specialised use of may and that of let in open let-imperatives, but syntactically the NP following may is clearly subject . . . . The construction has the same internal form as a closed interrogative, but has no uninverted counterpart.


 maylet が「意味論」的に似ているという点は首肯できる(ここでいう「意味論」は語用論も含んだ「意味論」だろう).発話行為としての「祈願」を行なえば,次に「勧告」したくなるのが人情だろうし,「勧告」の前段階として「祈願」は付きもののはずだ.
 一方,「統語」的には,続く名詞句が主格に置かれるか目的格に置かれるかという点で明らかに区別されると指摘されている.確かに,両者はおおいに異なる.しかし,maylet を,対応する発話行為を表わす語用標識ととらえ,その後に来る名詞句の格の区別は無視すれことにすれば,いずれも「語用標識+名詞句(+動詞の原形)」となっていることは事実であり,統語的にも似ていると議論することはできる.少なくとも表面的な統語論においては,そうみなせる.
 maylet も,文頭の動詞原形で命令を標示したり,文頭の Oh で感嘆を標示したりするのと同様の語用論的な機能を色濃くもっていると考えることができるかもしれない.「#2923. 左と右の周辺部」 ([2017-04-28-1]) という観点からも迫れそうな,語用論と統語論の接点をなす問題のように思われる.

 ・ Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: CUP, 2002.

Referrer (Inside): [2018-09-04-1]

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2018-08-21 Tue

#3403. presupposition の3つの特性 [presupposition][pragmatics][implicature]

 昨日の記事「#3402. presupposition trigger のタイプ」 ([2018-08-20-1]) で presupposition (前提)について取り上げたが,それにはとりわけ重要な特性が3つある.(1) constancy under negation, (2) defensibility or cancellability, (3) the projection problem である (Huang 67--75) .

 (1) constancy under negation

   文が否定されても,前提は無傷のままに残るという興味深い特性がある.昨日の記事の例でいえば,The king of France is bald. という文は,"There is a king of France" を前提とするが,同文を否定して The king of France isn't bald. としても前提は揺るがない.この重要な性質に基づいて,「前提」を改めて定義すると次のようになる.

An utterance of a sentence S presupposes a proposition p if and only if

     a. if S is true, then p is true
     b. if S is false, then p is still true


 (2) defeasibilty or cancellability

   前提には,背景となる想定,現実の知識,会話の含意 (conversational implicature),談話の文脈によっては無効となり得るという特性がある.例えば,John got an assistant professorship before he finished his Ph.D. では "John finished his Ph.D" の前提が成立するが,ほぼ同じ構文で John died before he finished his Ph.D. では同前提は成立しなくなる.死んだ後には何もできないという現実の知識があるからこそ,前提が否認されるのである.
   また,There is no king of France. Therefore the king of France isn't bald. では,第1文の存在により,第2文から通常生じるはずの "There is a king of France" という前提が成立しなくなる.
   ほかには,The president doesn't regret vetoing the bill (because in fact he never did so!) では,because 以下がない文では "The president vetoed the bill" が前提とされるが,because 以下を加えた文では,そこで明示的に前提が否定されることになる.
   発話動詞が使用される場合にも,前提が成立しないことがある.John said that Mary managed to speak with a broad Irish accent. では,"Mary managed to speak with a broad Irish accent" は前提とされない.

 (3) the projection problem

   単文が組み合わさって複文となるとき,単文によって生み出された前提は,複文においても投射 (projection) され,受け継がれるものと思われるかもしれない.確かにそのような場合も多いが,一方で (2) でも例をみたように,単文での前提が複文全体の趣旨と整合しない場合には,その前提が崩れることもある.どのようなケースで投射され,あるいは投射されないのかを公式化することは難しく,投射の問題は "the curse and the blessing of modern presupposition theory" とも呼ばれている.理論の構築が困難であることが "curse" であり,語用論的な発想をもってしなければ対処できないという点で,語用論の意味論からの独立性を支持するものとして "blessing" だというわけである.

 ・ Huang, Yan. Pragmatics. Oxford: OUP, 2007.

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2018-08-20 Mon

#3402. presupposition trigger のタイプ [presupposition][pragmatics]

 語用論の主要なトピックである presupposition (前提)とは,簡単にいえば,ある文を発したときに当然のように真として受け入れられる推論や命題のことである.例えば,「私の兄は独身です」では私に兄がいることが前提とされるし,「雨が降る前に洗濯物を取り込んだ」では雨が降ったことが前提とされる.これらの文において件の前提を生み出す言語項を presupposition trigger と呼ぶ.上の例では,「私の兄」という名詞句や「雨が降る前に」という統語構造が presupposition trigger となっている.
 Huang (67--68) は,英語の presupposition trigger としていくつかの種類を挙げている.以下で ">>" の記号は "presuppose" の意である.

(1) Definite descriptions

     The king of France is/isn't bald.
     >> There is a king of France

(2) Factive predicates

     a. Epistemic or cognitive factives

          John knows/doesn't know that Baird invented television.
          >> Baird invented television

     b. Emotive factives

          John regrets/doesn't regret that he has said the unsayable.
          >> John has said the unsayable

(3) Aspectual/change of state predicates

     Mary has/hasn't stopped beating her boyfriend.
     >> Mary has been beating her boyfriend

(4) Iteratives

     a. Iterative verbs

          John returned/didn't return to Cambridge.
          >> John was in Cambridge before

     b. Iterative adverbs

          The boy cried/didn't cry wolf again.
          >> The boy cried wolf before

(5) Implicative predicates

     John managed/didn't manage to give up smoking.
     >> John tried to give up smoking

(6) Temporal clauses

     After she shot to stardom in a romance film, Jane married/didn't marry a millionaire entrepreneur.
     >> Jane shot to stardom in a romance film.

(7) Cleft sentences

     a. Cleft

          It was/wasn't Baird who invented television.
          >> Someone invented television

     b. Pseudo-cleft
     
          What Baird invented/didn't invent was television
          >> Baird invented something

(8) Counterfactual conditionals

     If an ant were as big as a human being, it could/couldn't run five times faster than an Olympic sprinter.
     >> An ant is not as big as a human being


 (1)--(5) は語句を利用した lexical triggers,(6)--(8) は構文を利用した constructional/structural triggers の例である.

 ・ Huang, Yan. Pragmatics. Oxford: OUP, 2007.

Referrer (Inside): [2018-08-21-1]

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2018-04-08 Sun

#3268. 談話標識のライフサイクルは短い [discourse_marker][pragmatics][historical_pragmatics][language_change][intensifier][euphemism][sociolinguistics][speed_of_change]

 言語には変化の回転が速い領域というものがある.「#992. 強意語と「限界効用逓減の法則」」 ([2012-01-14-1]) や「#1219. 強意語はなぜ種類が豊富か」 ([2012-08-28-1]) で述べたように,強意語 (intensifier) や,タブー表現 (taboo) の響きをやわらげる婉曲表現 (euphemism) が次々と生まれては消えることは,よく知られている.視点を変えれば,これらの表現はライフサイクルが短いということになろう.
 同様に,昨日の記事「#3267. 談話標識とその形成経路」 ([2018-04-07-1]) で取り上げた談話標識も,比較的ライフサイクルが短いとされている.実際,談話標識は歴史的に新しい表現が生まれては消える過程を繰り返してきた.昨日の記事でも示したように,談話標識は特に話し言葉において頻度が高いこと,そして種々の源から形成されうることが,背景にあるのだろう.この点について Lewis (909) が次のように述べている.

Discourse markers are known for their frequent renewal. Particularly subject to sociolinguistic factors and fashion, they tend to be "caught" easily, spreading quickly among social networks. Choice of markers therefore can reflect age, social position, and so on. Discourse markers date quickly: many of the most frequent discourse markers and connectives of the 20th century arose only in the 18th or 19th century, including of course, after all, still, I say.


 ライフサイクルが速いといっても数世代以上の時間がかかるようであり,強意語や婉曲語法に見られるライフサイクルほど速いわけではなさそうだ.しかし,そのうちにきっと変わるにちがいないと言わしめるほどには「規則的な」言語変化の一種とみなせそうだ.また,引用の最初にあるように,談話標識に話者の世代を特徴づける性質があるというのも興味深い.歴史社会言語学的な観察対象になり得ることを意味するからだ.談話標識の流行としての側面は,もっと注目してもよいだろう.

 ・ Lewis, Diana M. "Late Modern English: Pragmatics and Discourse" Chapter 56 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 901--15.

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2018-04-07 Sat

#3267. 談話標識とその形成経路 [discourse_marker][pragmatics][language_change][terminology][subjectification][intersubjectification][grammaticalisation][historical_pragmatics]

 談話標識 (discourse marker, DM) について,「#2041. 談話標識,間投詞,挿入詞」 ([2014-11-28-1]) や discourse_marker の各記事で取り上げてきた.ここでは,種々の先行研究から要点をまとめた Archer に従って,談話標識の特徴と形成経路について紹介する.
 まず,談話標識の特徴から.Archer (660) は次の4点を上げている.

- DMs are phonologically short items that normally occur sentence-initially (but can occur in medial or final position . . .);
- DMs are syntactically independent elements (often constituting separate intonation units) which occur with high frequency (in oral discourse in particular);
- DMs lack semantic content (i.e. they are non-referential/non-propositional in meaning)
- DMs are non-truth-conditional elements, and thus optional (i.e. they may be deleted).


 たいていの談話標識は,歴史をたどれば,談話標識などではなかった.歴史の過程で,ある表現が談話標識らしくなってきたということである.では,どのような表現が談話標識へと発展しやすいのだろうか.典型的な談話標識の形成経路については,統語的な観点から記述したものと,意味論的な観点のものがある.まず,前者について (Archer 661) .

- adverb/preposition > conjunction > DM;
- predicate adverb > sentential adverb structure > parenthetical DM . . .;
- imperative matrix clause > indeterminate structure > parenthetical DM;
- relative/adverbial clause > parenthetical DM.


 意味論的な観点からの経路は,次の通り (Archer 661) .

- truth-conditional > non-truth conditional . . .,
- content > procedural, and nonsubjective > subjective > intersubjective meaning,
- scope within the proposition > scope over the proposition > scope over discourse.


 ・ Archer, Dawn. "Early Modern English: Pragmatics and Discourse" Chapter 41 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 652--67.

Referrer (Inside): [2018-04-08-1]

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2018-02-18 Sun

#3219. 中英語に関する歴史語用論の話題 [me][pragmatics][historical_pragmatics][syntax][passive][grammaticalisation][invited_inference][implicature][subjunctive][auxiliary_verb][standardisation]

 古英語に関する歴史語用論の話題として,最近の2つの記事で触れた(cf. 「#3208. ポライトネスが稀薄だった古英語」 ([2018-02-07-1]),「#3211. 統語と談話構造」 ([2018-02-10-1])).およそ speech_act, politeness, discourse_analysis, information_structure に関する問題だった.今回は Traugott の概説にしたがって,中英語に関する歴史語用論の話題として,どのようなものがあるかを覗いてみたい.
 Traugott は,ハンドブックの冒頭で3つを指摘している (466) .

 (1) "the shift from information-structure-oriented word order in Old English to 'syntacticized' order in Middle English; this in tern led, at the end of the period, to new strategies for marking topic and focus in special ways."
 (2) "the development of auxiliary verbs in contexts where implied abstract temporal, modal, or aspectual meanings of certain concrete verbs became salient"
 (3) "the appearance of a large set of new discourse types, from romances to drama, scientific writings, and letters"

 (1) は語用論と統語論のインターフェースに関わる精緻な問題といってよい.古英語から中英語にかけて屈折が衰退し,語順が固定化していったことにより,以前は比較的自由な語順を利用して情報構造を整えるという方略をもっていたものが,今や語順に頼ることができなくなったために,別の手段に訴えかけなければならなくなったということである.例えば,後期中英語に,行為者を標示する by 句を伴う受動態の構文が発達してきたことは,このような情報構造上の要請に起因する部分があるかもしれない.もしこの仮説が受け入れられるのであれば,語用論的な要因こそがくだんの統語変化の引き金となったと言えることになろう.
 (2) も統語的な含みをもち,(1) と間接的に関連すると思われるが,主に本動詞から助動詞への発達(いわゆる典型的な文法化 (grammaticalisation) の事例)を説明するのに,文脈に助けられた含意 (implicature) や誘導推論 (invited_inference) などの道具立てをもってする研究を指す.中英語期には屈折の衰退による接続法・仮定法の衰退により,統語的な代替手段として法助動詞が発達するが,この発達にも語用論的なメカニズムが関与している可能性がある.
 (3) は新種の談話の出現である.時代が下るにつれ,以前の時代にはなかったジャンルやテキスト・タイプが現われてくることは中英語期に限った現象ではないが,中英語でも確かに新種が生み出された.Traugott はロマンス,演劇,科学的文章,手紙といったジャンルを指摘しているが,その他にもフランス語(およびラテン語)の影響を受けた,あるいは混合した多言語使用の散文や韻文なども挙げられるだろう.
 ほかに中英語後期には英語の書き言葉の標準化 (standardisation) も起こり始めており,誰がいつどこで標準変種を用いたのか,用いなかったのかといった社会語用論的な問題も議論の対象となるだろう.

 ・ Traugott, Elizabeth Closs. "Middle English: Pragmatics and Discourse" Chapter 30 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 466--80.

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2018-02-10 Sat

#3211. 統語と談話構造 [syntax][discourse_analysis][oe][information_structure][pragmatics][tense][aspect][word_order][historical_pragmatics]

 近年,統語と談話構造の関係を探る研究が増えてきている.一般的にいって,統語論と語用論のインターフェースが注目されてきているようだ.英語史でいえば,例えば古英語に関して,時制・相と談話構造の関係を探ったり,語順と情報構造の相関を追求する研究が現われている.
 もう少し具体的に述べよう.古英語で,時制 (tense) と相 (aspect) は形態統語的に標示され,従来はもっぱら文法的な問題として扱われてきた.しかし,テキストの語りの中でそれらの表現が用いられる分布を調べてみると,完了相は情報の前景化を担い,未完了相は情報の背景化を担うという傾向が明らかになる.換言すれば,単一,動的,瞬時,有界の性質をもつ出来事は完了相で表わされ,持続,反復,習慣,無界の性質をもつ出来事は未完了相で表わされるという.以上は,Hopper による Anglo-Saxon Chronicle を対象とした分析結果であり,古英語一般に当てはまるかどうかは別問題だが,形態統語的な形式が談話構造の操作に利用される可能性を示すものとして興味深い.
 同じように,比較的自由とされる古英語の語順も情報構造の操作に一役買っていたとみなせる事例が指摘されている.現代英語の "then" に相当する副詞 þa, þonne は,談話のつなぎとして作用することが知られている.同時に,これらの副詞が置かれることにより,その他の文要素の統語的位置が影響を受けることもよく知られている.どうやら問題の副詞の出現,語順の変異,談話構造の3者は,複雑かつ密接に関連し合っているようなのだ.例えば,これらの副詞で文が始まり,その直後に onginnan (to begin) の定動詞形が置かれると,談話の継続が含意されることが多いという.一方,副詞が欠如していれば,談話の非継続が含意されるという.
 また,þa, þonne はときに "focus particles" とも称されるように,情報の焦点化にも関わっているとされる.文中に現われるとき,それより前の部分が話題 (topic) となり,後ろの部分が焦点 (focus) となる.
 通時的な視点から興味深いのは,古英語から中英語にかけて,形態的統語なヴァリエーションが減少し,語順も固定化していくにつれて,それらが担っていた談話構造を操作する機能も衰退していったはずであるということだ.では,談話構造を操作する機能は,他のいかなる手段によって補われたのか,あるいは補われなかったのか.統語論と語用論のインターフェースそのものに,ダイナミックな変化が生じた可能性がある.

 ・ Lenker, Ursula. "Old English: Pragmatics and Discourse" Chapter 21 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 325--340.

Referrer (Inside): [2019-10-23-1] [2018-02-18-1]

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2018-02-07 Wed

#3208. ポライトネスが稀薄だった古英語 [speech_act][politeness][solidarity][anglo-saxon][oe][face][pragmatics][historical_pragmatics]

 英語歴史語用論の研究者で,古英語の発話行為 (speech_act) を専門としている Thomas Kohnen によれば,アングロサクソン文化においては現代的な意味での negative politeness はほとんど存在しなかったという.特に命令や指令の発話行為において,古英語では現代的なポライトネス戦略は用いられず,直接的な Ic bidde eow þæt . . . (I ask you to . . . ) や þu scealt . . . (thou shalt . . .) が専ら用いられたという.アングロサクソン文化では,negative politeness は事実上確認されないようだ.
 一方,solidarity に訴えかける positive politeness の戦略は,uton (let us) などの表現がキリスト教的な文脈などである程度認められるが,それとて目立って使用されるわけではなかった.どうやらアングロサクソン文化や古英語では,いずれの様式のポライトネスであれ現代に比べて影が薄かったということだ.通言語的にある程度は普遍的だろうと想定されていたポライトネスが,英語の古い段階において事実上不在だったということは,ある意味でショッキングな発見である.Lenker (328) がこれについて,次のように述べている.

Politeness as face work may thus not have played a major role in Anglo-Saxon society. This highlights the intrinsically culture-specific nature of phenomena like politeness and suggests in accordance with other cross-cultural studies that the universal validity or significance of politeness theory --- as devised by Brown and Levinson . . . --- is a gross mistake. Negative politeness in particular is fundamentally culture-specific, reflecting the typical patterns of today's Western, or even more particular, Anglo-American, politeness culture . . . . The study of Anglo-Saxon pragmatics thus does not only affect our understanding of the historicity of verbal interaction but also challenges issues of universality.


 ・ Lenker, Ursula. "Old English: Pragmatics and Discourse" Chapter 21 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 325--340.

Referrer (Inside): [2018-02-18-1]

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2018-02-01 Thu

#3202. 英語歴史語用論における有望な分野 [pragmatics][historical_pragmatics][speech_act][discourse_analysis][corpus]

 英語歴史語用論の第1人者である Jucker が,ハンドブックの1節で,この分野において前途が明るいと考える話題を3つ挙げている.発話行為 (speech_act) の歴史的変化,対話 (dialogue) の形式の発展,談話の領域の発展である.研究課題を選ぶ際の参考となるよう,関連する箇所を引用しておきたい.

At present, three areas of research appear to be particularly promising. First, the research on the history of speech act has only just started to attract more than just occasional research efforts. . . .
   Second, the research of the evolution of forms of dialogue is still in its infancy. . . . Culpeper and Kytö (2010: 2) [= Culpeper, Jonathan and Merja Kytö:. Early Modern English Dialogues: Spoken Interaction as Writing. Cambridge: CUP, 2010.] ask: "what was the spoken face-to-face interaction of past periods like?" in a systematic way and approach this question from various angles. In particular they look at the structure of conversations, at what they call "pragmatic noise", i.e. pragmatic interjections or discourse markers, and social roles and gender in interaction.
   And third, the evolution of domains of discourse appears to be a very promising field of research. The existing work on courtroom discourse, the discourse of science and news discourse needs to be continued, and other domains should be tackled.


 特に今世紀に入ってから,英語歴史語用論の研究を念頭においた,あるいはその目的で利用できるコーパスの編纂も多く行なわれるようになってきた.例えば,Corpora of Early English Correspondence (CEEC), Corpus of Early English Medical Writing (CEEM), Corpus of English Dialogues 1560-1760 (CED), Corpus of English Religious Prose (COERP), Old Bailey Corpus (OBC), The Corpus of Early English Recipes (CoER) などを挙げておこう.ほかにも Corpus Resource Database (CoRD) を探索されたい.

 ・ Jucker, Andreas H. "Linguistic Levels: Pragmatics and Discourse." Chapter 13 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 197--212.

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