hellog〜英語史ブログ     ChangeLog 最新     カテゴリ最新     1 2 3 4 次ページ / page 1 (4)

conjugation - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2020-05-25 07:01

2020-03-31 Tue

#3991. なぜ仮定法には人称変化がないのですか? (2) [oe][verb][subjunctive][inflection][number][person][sound_change][analogy][sobokunagimon][conjugation][paradigm]

 昨日の記事 ([2020-03-30-1]) に引き続き,標記の問題についてさらに歴史をさかのぼってみましょう.昨日の説明を粗くまとめれば,現代英語の仮定法に人称変化がないのは,その起源となる古英語の接続法ですら直説法に比べれば人称変化が稀薄であり,その稀薄な人称変化も中英語にかけて生じた -n 語尾の消失により失われてしまったから,ということになります.ここでもう一歩踏み込んで問うてみましょう.古英語という段階においてすら直説法に比べて接続法の人称変化が稀薄だったというのは,いったいどういう理由によるのでしょうか.
 古英語と同族のゲルマン語派の古い姉妹言語をみてみますと,接続法にも直説法と同様に複雑な人称変化があったことがわかります.現代英語の to bear に連なる動詞の接続法現在の人称変化表(ゲルマン諸語)を,Lass (173) より説明とともに引用しましょう.Go はゴート語,OE は古英語,OIc は古アイスランド語を指します.

   (iii) Present subjunctive. The Germanic subjunctive descends mainly from the old IE optative; typical paradigms:

(7.24)
GoOEOIc
sg1baír-a-iber-eber-a
2baír-ai-s   "ber-er
3baír-ai   "ber-e
pl1baír-ai-maber-enber-em
2baírai-þ   "ber-eþ
3baír-ai-na   "ber-e


   The basic IE thematic optative marker was */-oi-/, which > Gmc */-ɑi-/ as usual; this is still clearly visible in Gothic. The other dialects show the expected developments of this diphthong and following consonants in weak syllables . . . , except for the OE plural, where the -n is extended from the third person, as in the indicative. . . .
   . . . .
   (iv) Preterite subjunctive. Here the PRET2 grade is extended to all numbers and persons; thus a form like OE bǣr-e is ambiguous between pret ind 2 sg and all persons subj sg. The thematic element is an IE optative marker */-i:-/, which was reduced to /e/ in OE and OIc before it could cause i-umlaut (but remains as short /i/ in OS, OHG).


 ここから示唆されるのは,古いゲルマン諸語では接続法でも直説法と同じように完全な人称変化があり,表の列を構成する6スロットのいずれにも独自の語形が入っていたということです.一般的に古い語形をよく残しているといわれる左列のゴート語が,その典型となります.ところが,古英語ではもともとの複雑な人称変化が何らかの事情で単純化しました.
 では,何らかの事情とは何でしょうか.上の引用でも触れられていますが,1つにはやはり音変化が関与していました.古英語の前史において,ゴート語の語形に示される類いの語尾の母音・子音が大幅に弱化・消失するということが起こりました.その結果,接続法現在の単数は bere へと収斂しました.一方,接続法現在の複数は,3人称の語尾に含まれていた n (ゴート語の語形 baír-ai-na を参照)が類推作用 (analogy) によって1,2人称へも拡大し,ここに beren という不変の複数形が生まれました.上記は(強変化動詞の)接続法現在についての説明ですが,接続法過去でも似たような類推作用が起こりましたし,弱変化動詞もおよそ同じような過程をたどりました (Lass 177) .結果として,古英語では全体として人称変化の薄い接続法の体系ができあがったのです.

 ・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2020-03-30 Mon

#3990. なぜ仮定法には人称変化がないのですか? (1) [oe][verb][be][subjunctive][inflection][number][person][sound_change][sobokunagimon][conjugation][3ps][paradigm]

 現代英語の仮定法では,各時制(現在と過去)内部において直説法にみられるような人称変化がみられません.仮定法現在では人称(および数)にかかわらず動詞は原形そのものですし,仮定法過去でも人称(および数)にかかわらず典型的に -ed で終わる直説法過去と同じ形態が用いられます.
 もっとも,考えてみれば直説法ですら3人称単数現在で -(e)s 語尾が現われる程度ですので,現代英語では人称変化は全体的に稀薄といえますが,be 動詞だけは人称変化が複雑です.直説法においては人称(および数)に応じて現在時制では is, am, are が区別され,過去時制では were, were が区別されるからです.一方,仮定法においては現在時制であれば不変の be が用いられ,過去時制となると不変の were が用いられます(口語では仮定法過去で If I were you . . . ならぬ If I was you . . . のような用例も可能ですが,伝統文法では were を用いることになっています).be 動詞をめぐる特殊事情については,「#2600. 古英語の be 動詞の屈折」 ([2016-06-09-1]),「#2601. なぜ If I WERE a bird なのか?」 ([2016-06-10-1]),「#3284. be 動詞の特殊性」 ([2018-04-24-1]),「#3812. waswere の関係」 ([2019-10-04-1]))を参照ください.
 今回,英語史の観点からひもといていきたいのは,なぜ仮定法には上記の通り人称変化が一切みられないのかという疑問です.仮定法は歴史的には接続法 (subjunctive) と呼ばれるので,ここからは後者の用語を使っていきます.現代英語の to love (右表)に連なる古英語の動詞 lufian の人称変化表(左表)を眺めてみましょう.

古英語 lufian直説法接続法 → 現代英語 love直説法接続法
単数複数単数複数単数複数単数複数
現在時制1人称lufielufiaþlufielufien現在時制1人称lovelovelove
2人称lufast2人称
3人称lufaþ3人称loves
過去時制1人称lufodelufodenlufodelufoden過去時制1人称lovedloved
2人称lufodest2人称
3人称lufode3人称


 古英語でも接続法は直説法に比べれば人称変化が薄かったことが分かります.実際,純粋な意味での人称変化はなく,数による変化があったのみです.しかし,単数か複数かという数の区別も念頭においた広い意味での「人称変化」を考えれば,古英語の接続法では現代英語と異なり,一応のところ,それは存在しました.現在時制では主語が単数であれば lufie,複数であれば lufien ですし,過去時制では主語が単数で lufode, 複数で lufoden となりました.いずれも単数形に -n 語尾を付したものが複数となっています.小さな語尾ですが,これによって単数か複数かが区別されていたのです.
 その後,後期古英語から中英語にかけて,この複数語尾の -n 音は弱まり,ゆっくりと消えていきました.結果として,複数形は単数形に飲み込まれるようにして合一してしまったのです.
 以上をまとめしょう.古英語の動詞の接続法には,数によって -n 語尾の有無が変わる程度でしたが,一応,人称変化は存在していたといえます.しかし,その -n 語尾が中英語にかけて弱化・消失したために,数にかかわらず同一の形態が用いられるようになったということです.現代英語の仮定法に人称変化がないのは,千年ほど前にゆっくりと起こった小さな音変化の結果だったのです.

Referrer (Inside): [2020-03-31-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2020-03-25 Wed

#3985. 言語学でいう法 (mood) とは何ですか? (3) [mood][verb][terminology][inflection][conjugation][subjunctive][morphology][category][indo-european][sobokunagimon][latin]

 2日間の記事 ([2020-03-23-1], [2020-03-24-1]) に引き続き,標題の疑問について議論します.ラテン語の文法用語 modus について調べてみると,おやと思うことがあります.OED の mode, n. の語源記事に次のような言及があります.

In grammar (see sense 2), classical Latin modus is used (by Quintilian, 1st cent. a.d.) for grammatical 'voice' (active or passive; Hellenistic Greek διάθεσις ), post-classical Latin modus (by 4th-5th-cent. grammarians) for 'mood' (Hellenistic Greek ἔγκλισις ). Compare Middle French, French mode grammatical 'mood' (feminine 1550, masculine 1611).


 つまり,modus は古典時代後のラテン語でこそ現代的な「法」の意味で用いられていたものの,古典ラテン語ではむしろ別の動詞の文法カテゴリーである「態」 (voice) の意味で用いられていたということになります.文法カテゴリーを表わす用語群が混同しているかのように見えます.これはどう理解すればよいでしょうか.
 実は voice という用語自体にも似たような事情がありました.「#1520. なぜ受動態の「態」が voice なのか」 ([2013-06-25-1]) で触れたように,英語において,voice は現代的な「態」の意味で用いられる以前に,別の動詞の文法カテゴリーである「人称」 (person) を表わすこともありましたし,名詞の文法カテゴリーである「格」 (case) を表わすこともありました.さらにラテン語の用語事情を見てみますと,「態」を表わした用語の1つに genus がありましたが,この語は後に gender に発展し,名詞の文法カテゴリーである「性」 (gender) を意味する語となっています.
 以上から見えてくるのは,この辺りの用語群の混同は歴史的にはざらだったということです.考えてみれば,現在でも動詞や名詞の文法カテゴリーを表わす用語を列挙してみると,法 (mood),相 (aspect),態 (voice),性 (gender),格 (case) など,いずれも初見では意味が判然としませんし,なぜそのような用語(日本語でも英語でも)が割り当てられているのかも不明なものが多いことに気付きます.比較的分かりやすいのは時制 (tense),(number),人称 (person) くらいではないでしょうか.
 英語の mood/mode, aspect, voice, gender, case や日本語の「法」「相」「態」「性」「格」などは,いずれも言葉(を発する際)の「方法」「側面」「種類」程度を意味する,意味的にはかなり空疎な形式名詞といってよく,kind, type, class,「種」「型」「類」などと言い換えてもよい代物です.ということは,これらはあくまで便宜的な分類名にすぎず,そこに何らかの積極的な意味が最初から読み込まれていたわけではなかったという可能性が示唆されます.
 議論をまとめましょう.2日間の記事で「法」を「気分」あるいは「モード」とみる解釈を示してきました.しかし,この解釈は,用語の起源という観点からいえば必ずしも当を得ていません.mode は語源としては「方法」程度を意味する形式名詞にすぎず,当初はそこに積極的な意味はさほど含まれていなかったと考えられるからです.しかし,今述べたことはあくまで用語の起源という観点からの議論であって,後付けであるにせよ,私たちがそこに「気分」や「モード」という積極的な意味を読み込んで解釈しようとすること自体に問題があるわけではありません.実際のところ,共時的にいえば「法」=「気分」「モード」という解釈はかなり奏功しているのではないかと,私自身も思っています.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2020-03-24 Tue

#3984. 言語学でいう法 (mood) とは何ですか? (2) [mood][verb][terminology][inflection][conjugation][subjunctive][morphology][category][indo-european][sobokunagimon][etymology]

 昨日の記事 ([2020-03-23-1]) に引き続き,言語の法 (mood) についてです.昨日の記事からは,moodmode はいずれも「法」の意味で用いられ,法とは「気分」でも「モード」でもあるからそれも合点が行く,と考えられそうに思います.しかし,実際には,この両単語は語源が異なります.昨日「moodmode にも通じ」るとは述べましたが,語源が同一とは言いませんでした.ここには少し事情があります.
 mode から考えましょう.この単語はラテン語 modus に遡ります.ラテン語では "manner, mode, way, method; rule, rhythm, beat, measure, size; bound, limit" など様々な意味を表わしました.さらに遡れば印欧祖語 *med- (to take appropriate measures) にたどりつき,原義は「手段・方法(を講じる)」ほどだったようです.このラテン単語はその後フランス語で mode となり,それが後期中英語に mode として借用されてきました.英語では1400年頃に音楽用語として「メロディ,曲の一節」の意味で初出しますが,1450年頃には言語学の「法」の意味でも用いられ,術語として定着しました.その初例は OED によると以下の通りです.moode という綴字で用いられていることに注意してください.

mode, n.
. . . .
2.
a. Grammar. = mood n.2 1.
   Now chiefly with reference to languages in which mood is not marked by the use of inflectional forms.
c1450 in D. Thomson Middle Eng. Grammatical Texts (1984) 38 A verbe..is declined wyth moode and tyme wtoute case, as 'I love the for I am loued of the' ... How many thyngys falleth to a verbe? Seuene, videlicet moode, coniugacion, gendyr, noumbre, figure, tyme, and person. How many moodes bu ther? V... Indicatyf, imperatyf, optatyf, coniunctyf, and infinityf.


 次に mood の語源をひもといてみましょう.現在「気分,ムード」を意味するこの英単語は借用語ではなく古英語本来語です.古英語 mōd (心,精神,気分,ムード)は当時の頻出語といってよく,「#1148. 古英語の豊かな語形成力」 ([2012-06-18-1]) でみたように数々の複合語や派生語の構成要素として用いられていました.さらに遡れば印欧祖語 *- (certain qualities of mind) にたどりつき,先の mode とは起源を異にしていることが分かると思います.
 さて,この mood が英語で「法」の意味で用いられたのは,OED によれば1450年頃のことで,以下の通りです.

mood, n.2
. . . .
1. Grammar.
a. A form or set of forms of a verb in an inflected language, serving to indicate whether the verb expresses fact, command, wish, conditionality, etc.; the quality of a verb as represented or distinguished by a particular mood. Cf. aspect n. 9b, tense n. 2a.
   The principal moods are known as indicative (expressing fact), imperative (command), interrogative (question), optative (wish), and subjunctive (conditionality).
c1450 in D. Thomson Middle Eng. Grammatical Texts (1984) 38 A verbe..is declined wyth moode and tyme wtoute case.


 気づいたでしょうか,c1450の初出の例文が,先に挙げた mode のものと同一です.つまり,ラテン語由来の mode と英語本来語の mood が,形態上の類似(引用中の綴字 moode が象徴的)によって,文法用語として英語で使われ出したこのタイミングで,ごちゃ混ぜになってしまったようなのです.OED は実のところ「心」の mood, n.1 と「法」の mood, n.2 を別見出しとして立てているのですが,後者の語源解説に "Originally a variant of mode n., perhaps reinforced by association with mood n.1." とあるように,結局はごちゃ混ぜと解釈しています.意味的には「気分」「モード」辺りを接点として,両単語が結びついたと考えられます.したがって,「法」を「気分」「モード」と解釈する見方は,ある種の語源的混同が関与しているものの,一応のところ1450年頃以来の歴史があるわけです.由緒が正しいともいえるし,正しくないともいえる微妙な事情ですね.昨日の記事で「法」を「気分」あるいは「モード」とみる解釈が「なかなかうまくできてはいるものの,実は取って付けたような解釈だ」と述べたのは,このような背景があったからです.
 では,標題の疑問に対する本当の答えは何なのでしょうか.大本に戻って,ラテン語で文法用語としての modus がどのような意味合いで使われていたのかが分かれば,「法」 (mood, mode) の真の理解につながりそうです.それは明日の記事で.

Referrer (Inside): [2020-03-25-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2020-03-23 Mon

#3983. 言語学でいう法 (mood) とは何ですか? (1) [mood][verb][terminology][inflection][conjugation][subjunctive][morphology][category][indo-european][sobokunagimon]

 印欧語言語学では「法」 (mood) と呼ばれる動詞の文法カテゴリー (category) が重要な話題となります.その他の動詞の文法カテゴリーとしては時制 (tense),相 (aspect),態 (voice) がありますし,統語的に関係するところでは名詞句の文法カテゴリーである数 (number) や人称 (person) もあります.これら種々のカテゴリーが協働して,動詞の形態が定まるというのが印欧諸語の特徴です.この作用は,動詞の活用 (conjugation),あるいはより一般的には動詞の屈折 (inflection) と呼ばれています.
 印欧祖語の法としては,「#3331. 印欧祖語からゲルマン祖語への動詞の文法範疇の再編成」 ([2018-06-10-1]) でみたように直説法 (indicative mood),接続法 (subjunctive mood),命令法 (imperative mood),祈願法 (optative mood) の4種が区別されていました.しかし,ずっと後の北西ゲルマン語派では最初の3種に縮減し,さらに古英語までには最初の2種へと集約されていました(現代における命令法の扱いについては「#3620. 「命令法」を認めず「原形の命令用法」とすればよい? (1)」 ([2019-03-26-1]),「#3621. 「命令法」を認めず「原形の命令用法」とすればよい? (2)」 ([2019-03-27-1]) を参照).さらに,古英語以降,接続法は衰退の一途を辿り,現代までに非現実的な仮定を表わす特定の表現を除いてはあまり用いられなくなってきました.そのような事情から,現代の英文法では歴史的な「接続法」という呼び方を続けるよりも,「仮定法」と称するのが一般的となっています(あるいは「叙想法」という呼び名を好む文法家もいます).
 さて,現代英語の法としては,直説法 (indicative mood) と仮定法 (subjunctive mood) の2種の区別がみられることになりますが,この対立の本質は何でしょうか.一般には,機能的にデフォルトの直説法に対して,仮定法は話者の命題に対する何らかの心的態度がコード化されたものだといわれます.何らかの心的態度というのも曖昧な言い方ですが,先に触れた例でいうならば「非現実的な仮定」が典型です.If I were a bird, I would fly to you. における仮定法過去形の were は,話者が「私は鳥である」という非現実的な仮定の心的態度に入っていることを示します.言ってみれば,妄想ワールドに入っていることの標識です.
 同様に,仮定法現在形 go を用いた I suggest that she go alone. という文においても,話者の頭のなかで希望として描いているにすぎない「彼女が一人でいく」という命題,まだ起こっていないし,これからも確実に起こるかどうかわからない命題であることが,その動詞形態によって示されています.先の例ほどインパクトは強くないものの,これも一種の妄想ワールドの標識です.
 「法」という用語も「心的態度」という説明も何とも思わせぶりな表現ですが,英語としては mood ですから,話者の「気分」であるととらえるのもある程度は有効な解釈です.つまり,法とは話者がある命題をどのような「気分」で述べているのか(たいていは「妄想的な気分」)を標示するものである,という見方です.あるいは moodmode 「モード,様態」にも通じ,実際に両単語とも言語学用語としての法の意味で用いられますので,話者の「モード」と言い換えてもよさそうです.仮定法は,妄想モードを標示するものということです.
 法については上記のような「気分」あるいは「モード」という解釈で大きく間違いはないと思います.ただし,この解釈は,用語の歴史を振り返ってみると,なかなかうまくできてはいるものの,実は取って付けたような解釈だということも分かってきます.それについては明日の記事で.

Referrer (Inside): [2020-03-25-1] [2020-03-24-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-08-30 Fri

#3777. set, put, cut のほかにもあった無変化活用の動詞 [verb][conjugation][inflection][-ate][analogy][conversion][adjective][participle][conversion]

 set, put, cut の類いの無変化活用の動詞について「#1854. 無変化活用の動詞 set -- set -- set, etc.」 ([2014-05-25-1]),「#1858. 無変化活用の動詞 set -- set -- set, etc. (2)」 ([2014-05-29-1]) の記事で取り上げてきた.そこでは,これらの動詞の振る舞いが,英語の音韻形態論の歴史に照らせば,ある程度説得力のある説明が与えられることをみた.
 語幹末に td が現われる単音節語である,というのがこれらの動詞の共通項だが,歴史的には,この条件を満たしている限りにおいて,ほかの動詞も同様に無変化活用を示していたことがあった.たとえば,fast, fret, lift, start, waft などである.Jespersen (36) から引用例を再現しよう.

   4.42. The influence of analogy has increased the number of invariable verbs. Especially verbs ending in -t tend in this direction. The tendency perhaps culminated in early ModE, when several words now regular had unchanged forms, sometimes side by side with forms in -ed:
   fast. Sh Cymb IV. 2.347 I fast and pray'd for their intelligense. || fret. More U 75 fret prt. || lift (from ON). AV John 8.7 hee lift vp himselfe | ib 8.10 when Iesus had lift vp himselfe (in AV also regular forms) | Mi PL 1. 193 With Head up-lift above the wave | Bunyan P 19 lift ptc. || start. AV Tobit 2.4 I start [prt] vp. || waft. Sh Merch. V. 1.11 Stood Dido .. and waft her Loue To come again to Carthage | John II. 1.73 a brauer choice of dauntlesse spirits Then now the English bottomes haue waft o're.


 Jespersen のいうように,これらは歴史的に,あるいは音韻変化によって説明できるタイプの無変化動詞というよりは,あくまで set など既存の歴史的な無変化動詞に触発された,類推作用 (analogy) の結果として生じた無変化動詞とみるべきだろう.その点では2次的な無変化動詞と呼んでもよいかもしれない.これらは現代までには標準英語からは消えたとはいえ,重要性がないわけではない.というのは,それらが新たな類推のモデルとなって,次なる類推を呼んだ可能性もあるからだ.つまり,語幹が -t で終わるが,従来の語のように単音節でもなければゲルマン系由来でもないものにすら,同現象が拡張したと目されるからだ.ここで念頭に置いているのは,過去の記事でも取りあげた -ate 動詞などである(「#3764. 動詞接尾辞 -ate の起源と発達」 ([2019-08-17-1]) を参照).
 同じく Jespersen (36--37) より,この旨に関する箇所を引用しよう.

4.43. It was thus not at all unusual in earlier English for a ptc in -t to be = the inf. The analogy of these cases was extended even to a series of words of Romantic origin, namely such as go back to Latin passive participle, e. g. complete, content, select, and separate. These words were originally adopted as participles but later came to be used also as infinitives; in older English they were frequently used in both functions (as well as in the preterit), often with an alternative ptc. in -ed; . . . A contributory cause of their use as verbal stems may have been such Latin agent-nouns as corruptor and editor; as -or is identical in sound with -er in agent-nouns, the infinitives corrupt and edit may have been arrived at merely through subtraction of the ending -or . . . . Finally, the fact that we have very often an adj = a vb, e. g. dry, empty, etc . . ., may also have contributed to the creation of infs out of these old ptcs (adjectives).


 引用の後半で,類推のモデルがほかにも2つある点に触れているのが重要である.corruptor, editor タイプからの逆成 (back_formation),および dry, empty タイプの動詞・形容詞兼用の単語の存在である.「#1748. -er or -or」 ([2014-02-08-1]),「#438. 形容詞の比較級から動詞への転換」 ([2010-07-09-1]) も参照.

 ・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part VI. Copenhagen: Ejnar Munksgaard, 1942.

Referrer (Inside): [2019-08-31-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-08-19 Mon

#3766. なぜ send -- sent -- sent なのか? [verb][conjugation][inflection][consonant][tense][preterite][participle][sobokunagimon][degemination]

 標題は bend -- bent -- bent, lend -- lent -- lent, rend -- rent -- rent, wend -- went -- went などとともに語末が -nd -- -nt -- -nt となるタイプの不規則動詞だが,なぜ過去・過去分詞形において無声の -t が現われるのかは,歴史的には必ずしも明らかにされていない.feel -- felt -- felt, keep -- kept -- kept など,過去・過去分詞形として -t を示す他の動詞からの類推 (analogy) によるものと説かれることもあるが,さほど説得力があるわけでもない.
 音韻論的には,send の過去・過去分詞形が sent となる理由はない.古英語において,sendan の過去形は典型的に sende であり sent(en) には発展し得ない.同様に,過去分詞形は (ge)send(ed) であり,やはり sent にはなり得ないのだ.したがって,この -t は音韻過程の結果とみることはできず,類推なり何なりの形態過程によってもたらされた新機軸ということになる.
 実際 -t を示す過去・過去分詞形が現われるのは,13世紀になってからのことである.古英語でも3単現形 sendeþ が縮約 (contraction) を起こして sent となるケースは頻繁にあったが,それはあくまで3単現形であり,過去形でも過去分詞形でもない.Jespersen (33--34) は以下のように,この頻用された3単現の形態が過去・過去分詞にも転用されたのではないかという説に消極的に与している.しかし,苦しい説と言わざるを得ないように思われる.今のところ,謎というよりほかない.

In the send--sent group OE suppressed the d of the stem before the ending: sendan, sende, gesend(ed). I have often thought that the ME innovation sent(e) may originally have stood for sendd with a long, emphatic d to distinguish it from the prs form. This explanation, however, does not account for felt, meant, left, etc.
   There is a remarkably full treatment of Origin and Extension of the Voiceless Preterit and the Past Participle Inflections of the English Irregular Weak Verb Conjugation by Albert H. Marckwardt in Essays and Studies in English and Comparative Literature by Members of the English Department of the Univ. of Michigan (Ann Arbor 1935). He traces the beginning of these t-forms back to the eleventh century and then follows their chronological and geographical spreading from century to century up to the year 1400, thus just the period where the subject-matter of my own work begins. There is accordingly no occasion here to deal with details in Marckwardt's exposition, but only to mention that according to him the first germ of these 't'-forms lay in stems in -nd, -ld and -rd. The third person sg of the present of such a verb as OE sendan was often shortened into sent from sendeþ. On the analogy of such very frequently occurring syncopated presents the t was transferred to the prt and ptc. It must be admitted that this assumption is more convincing than the analogy adduced by previous scholars, but it is rather difficult to explain why the t-forms spread, e.g., to such verbs as leave : left. From the point of view of Modern English Grammar, however, we must be content to leave this question open: we must take forms as we find them in the period with which we are concerned.

 ・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part VI. Copenhagen: Ejnar Munksgaard, 1942.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-07-21 Sun

#3737. 「今日の不規則は昨日の規則」 --- 歴史形態論の原則 [morphology][language_change][reconstruction][comparative_linguistics][indo-european][sobokunagimon][3ps][plural][conjugation]

 標題は,英語の歴史形態論においても基本的な考え方である.現代英語で「不規則」と称される形態的な現象の多くは,かつては「規則」の1種だったということである.しばしば逆もまた真なりで,「今日の規則は昨日の不規則」ということも多い.規則 (regular) か不規則 (irregular) かという問題は,共時的には互いの分布により明らかに区別できることが多いので絶対的とはいえるが,歴史的にいえばポジションが入れ替わることも多いという点で相対的な区別である.
 この原則を裏から述べているのが,次の Fortson (69--70) の引用である.比較言語学 (comparative_linguistics) の再建 (reconstruction) の手法との関連で,教訓的な謂いとなっている.

A guiding principle in historical morphology is that one should reconstruct morphology based on the irregular and exceptional forms, for these are most likely to be archaic and to preserve older patterns. Regular or predictable forms (like the Eng. 3rd singular present takes or the past tense thawed) are generated using the productive morphological rules of the language, and have no claim to being old; but irregular forms (like Eng. is, sang) must be memorized, generation after generation, and have a much greater chance of harking back to an earlier stage of a language's history. (The forms is and sang, in fact, directly continue forms in PIE itself.


 英語において不規則な現象を認識したら「かつてはむしろ規則的だったのかもしれない」と問うてみるとよい.たいてい歴史的にはその通りである.逆に,普段は何の疑問も湧かない規則的な現象に思いを馳せてみてほしい.場合によっては,それはかつての不規則な現象が,どういうわけか歴史の過程で一般化し,広く受け入れられるようになっただけかもしれないと.ここに歴史言語学的発想の極意がある.もちろん,この原則は英語にも,日本語にも,他のどの言語にもよく当てはまる.
 「今日の不規則は昨日の規則」の例は,枚挙にいとまがない.上でも触れた例について,英語の歴史から次の話題を参照.

 ・ 「不規則」な名詞の複数形 (ex. feet, geese, lice, men, mice, teeth, women) (cf. 「#3638.『英語教育』の連載第2回「なぜ不規則な複数形があるのか」」 ([2019-04-13-1]))
 ・ 「不規則」な動詞の活用 (ex. sing -- sang -- sung) (cf. 「#3670.『英語教育』の連載第3回「なぜ不規則な動詞活用があるのか」」 ([2019-05-15-1]))
 ・ 3単現の -s (cf. 英語史連載第2回「なぜ3単現に -s を付けるのか?」)

 ・ Fortson IV, Benjamin W. "An Approach to Semantic Change." Chapter 21 of The Handbook of Historical Linguistics. Ed. Brian D. Joseph and Richard D. Janda. Blackwell, 2003. 648--66.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-06-07 Fri

#3693. 言語における時制とは何か? [tense][category][preterite][future][verb][conjugation][historic_present][historic_present][sobokunagimon]

 昨日の記事「#3692. 英語には過去時制と非過去時制の2つしかない!?」 ([2019-06-06-1]) を受けて,今回は言語における時制 (tense) という文法範疇 (grammatical category) について考えてみる.
 『新英語学辞典』の定義によれば,tense とは「動詞における時間的関係を示す文法範疇をいう.一般的には,時の関係は話者が話している時を中心とする時間領域を現在として,過去と未来に分けられる」とある.
 言語における時制を考える際に1つ注意しておきたいのは,昨日の記事でも述べたように,現実における「時」と言語の範疇としての「時制」とは,必ずしもきれいに対応するわけではないということだ.形態的には「過去形」を用いておきながら,意味的には「現在」を指し示している What was your name? などの例があるし,その逆の関係が成り立つ歴史的現在 (historic_present) なる用法も知られている.このようなチグハグにみえる時と時制との対応関係は,ちょうど古英語の stān (= stone) が,現実的には男性でも女性でもなく中性というべきだが,文法上は男性名詞ということになっている,文法性 (grammatical gender) の現象に似ている.現実世界と言語範疇は,必ずしも対応するわけではないのである.また,言語表現上,範疇を構成する各成員間の境目,たとえば現在と過去,現在と未来との境目が,必ずしもはっきりと区別されているわけではないことにも注意を要する.
 時制の分類法には様々なものがあるが,英語の時制に関していえば,形態的な観点に立ち,過去時制 (preterite tense) と現在時制(present tense) (あるいは非過去時制)(non-preterite tense) の2種とみる見解が古くからある.これは他のゲルマン諸語も然りなのだが,動詞の形態変化によって標示できるのは,たとえば sing (現在形あるいは非過去形)に対して sang (過去形)しかないからだ.一見すると「未来形」であるかのようにみえる will/shall sing は動詞の形態変化によるものではないから,未来時制は認めないという立場だ.
 一方,意味的な観点に立つのであれば,sing, sang に対して will/shall sing は独自の時を指し示しているのだから,時制の1つとして認めるべきだという考え方もある.つまり,英語の時制は,立場によって2種とも3種とも言い得ることになる.
 英語の時制について厄介なのは,動詞のとる時制形は,しばしば純粋に時制を標示するわけではなく,相 (aspect) や法 (mood) といった他の文法範疇の機能も合わせて標示することだ.各々の機能が互いに絡み合っており,時制だけをきれいに選り分けることができないという事情がある.
 英語の時制の問題は,生成文法などで理論的な分析も提案されてきたが,今なお未解決といってよいだろう.今ひとつ重要な理論的貢献として「#2747. Reichenbach の時制・相の理論」 ([2016-11-03-1]) も参照されたい.

 ・ 大塚 高信,中島 文雄 監修 『新英語学辞典』 研究社,1987年.
 ・ Crystal, David, ed. A Dictionary of Linguistics and Phonetics. 6th ed. Malden, MA: Blackwell, 2008. 295--96.

Referrer (Inside): [2019-07-02-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-05-28 Tue

#3683. 自動詞 lie と他動詞 lay を混同したらダメ (2) [verb][prescriptive_grammar][conjugation][preterite][participle][lowth]

 昨日の記事 ([2019-05-27-1]) に引き続き,自動詞 lie と他動詞 lay の問題について.現代の標準英語の世界において,両者の混同がタブー的といっていいほど白眼視されるようになったのは,規範文法家が活躍した18世紀の後,19世紀以降のことだろう.18世紀にそのような種を蒔いた規範文法家の代表選手が Robert Lowth (1710--87) である.
 Lowth (56) は「#3036. Lowth の禁じた語法・用法」 ([2017-08-19-1]) で触れたように,直接にこの2つの動詞の混同について言及している(cf. 「#2583. Robert Lowth, Short Introduction to English Grammar」 ([2016-05-23-1])).次のように Pope からの「誤用」例を示しつつ,明らかに読者に注意喚起をしている.

   This Neuter Verb is frequently confounded with the Verb Active to lay, [that is, to put or place;] which is Regular, and in the Past Time and Participle layed or laid.
         "For him, thro' hostile camps I bent my way,
         For him, thus prostrate at thy feet I lay;
         Large gifts proportion'd to thy wrath I bear." Pope, Iliad xxiv. 622.
Here lay is evidently used for the present time, instead of lie.


 Lowth が両動詞の混用にダメ出ししたことは英語史上よく知られているが,意外と指摘されていないことがある.上の引用からも分かる通り,両動詞の自・他の区別と時制の使い分けについては注意喚起しているが,layedlaid の間の形態・綴字の揺れについては特に問題視している様子はないことだ.
 関連して Lowth は自動詞 lie を議論のために初めて登場させている箇所で,"Lie,  lay,  lien, or lain" と活用を示している.過去分詞形に揺れが見られるばかりか,lien という,標準的には今は亡き形態のほうをむしろ先に挙げているのが驚きだ.Lowth がこの揺れを意に介している様子はまったく感じられない.規範文法の目指すところが「唯一の正しい答え」であるとするならば,lie を巡る Lowth の議論はいかにも自家撞着に陥っているようにみえる.
 ここから判断するに,規範文法家 Lowth の目指すところは「唯一の正しい答え」ではなかったととらえるべきだろう.18世紀の規範文法家は,しばしば言われるようにそれほどガチガチだったわけではなく,相当な寛容さを示していたのである.現代の文法家たちが,彼らをどのように評価してきたか,あるいは利用してきたか,という点のほうが,ずっと重要な問題なのかもしれない.
 実際,近年,18世紀の規範文法家について再評価の気運が生じてきている.「#3035. Lowth はそこまで独断と偏見に満ちていなかった?」 ([2017-08-18-1]),「#2815. 18世紀の規範主義の再評価について (1)」 ([2017-01-10-1]) も参照されたい.

 ・ Lowth, Robert. A Short Introduction to English Grammar. 1762. New ed. 1769. (英語文献翻刻シリーズ第13巻,南雲堂,1968年.9--113頁.)

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-05-27 Mon

#3682. 自動詞 lie と他動詞 lay を混同したらダメ (1) [verb][prescriptive_grammar][conjugation][preterite][participle][taboo][complaint_tradition][lowth]

 自動詞 lie (横たわる)と他動詞 lay (横たえる)の区別をつけるべし,という規範文法上の注意は,日本の受験英語界でも有名である(「#124. 受験英語の文法問題の起源」 ([2009-08-29-1]) を参照).自動詞は lie -- lay -- lain と活用し,他動詞は lay -- laid -- laid と活用する.前者のの過去形と後者の原形が同じ形になるので,混乱を招くのは必至である.私もこれを暗記してきた英語学習者の1人だが,英語使用においてこの知識を活用する機会に恵まれたことは,あまりない.
 だが,英語圏でも両者の混同に対する風当たりは非常に強く,正しく使い分けられないと「無教養」とのレッテルを貼られるほどなので,抜き差しならない.たとえ間違えても文脈の支えによりほとんど誤解は生じないと思われるが,それをやってしまったらアウトというNGワードに選ばれてしまっているのである.他にもっと誤解を誘うペアも多々あるはずだが,見せしめのようにして,このペアが選ばれているように思われる.この区別が,英語共同体において教養の有無を分けるリトマス試験紙となっているのだ.lielay のペアは,後期近代以降,そのような見せしめのために選ばれてきた語法の代表選手といってよい.
 現在でもリトマス試験紙として作用するということは,今でも混同する者が跡を絶たないということである.歴史的にいえば17, 18世紀にも混用は日常茶飯であり,当時は特に破格とみなされていたわけではなかったが,現代にかけて規範主義の風潮が強まるにつれて,忌むべき誤用とされてきた,という経緯がある.
 Fowler (445) に,ずばり lay and lie という項目が立てられているので,そこから引用しておこう.

Verbs. In intransitive uses, coinciding with or resembling those of lie, except in certain nautical expressions, lay 'is only dialectal or an illiterate substitute for lie' (OED). Its identity of form with the past tense of lie no doubt largely accounts for the confusion. In the 17c. and 18c. the alternation of lay and lie seems not to have been regarded as a solecism. Nowadays confusion of the two is taken to be certain evidence of imperfect education or is accepted in regional speech as being a deep-rooted survival from an earlier period. . . .
   The paradigm is merciless, admitting no exceptions in standard English. Incorrect uses: She layed hands on people and everybody layed hands on each other and everybody spoke in tongues---T. Parks, 1985 (read laid); Laying back some distance from the road . . . it was built in 1770 in the Italian style---Fulham Times, 1987 (read lying); Where's the glory in . . . leaving people out with their medals all brushed up laying under the rubble, dying for the glory of the revolution?--New Musical Express, 1988 (read lying); We are going to lay under the stars by the sea---Sun, 1990 (read lie); They may have lost the last fight [sc. the final of a ruby tournament], but how narrow it was, and they can still be proud of all the battle honours that will lay for ever in their cathedral in Twickenham--(sport column in) Observer, 1991 (read lie).


 両動詞の混同がいかにタブー的であるかは,"The paradigm is merciless, admitting no exceptions in standard English." という1文によって鮮やかに示されている.現代に至るまで,その「誤用」は跡を絶たないようだ.
 このタブーの伝統を創始したのは,Robert Lowth (1710--87) を始めとする18世紀の規範主義文法家といわれる(cf. 「#2583. Robert Lowth, Short Introduction to English Grammar」 ([2016-05-23-1]),「#3036. Lowth の禁じた語法・用法」 ([2017-08-19-1])).しかし,彼らが創始したとしても,それが受け継がれていかなければ「伝統」とはならない.この伝統を受け継いできた人々,そして今も受け継いでいる人々の総体が,このタブーを維持してきたのである.昨日の記事「#3681. 言語の価値づけの主体は話者である」 ([2019-05-26-1]) や「#3672. オーストラリア50ドル札に responsibility のスペリングミス (2)」 ([2019-05-17-1]) の議論に従えば,私もその1人かもしれないし,あなたもその1人かもしれない.

 ・ Burchfield, Robert, ed. Fowler's Modern English Usage. Rev. 3rd ed. Oxford: OUP, 1998.

Referrer (Inside): [2019-05-28-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-05-15 Wed

#3670.『英語教育』の連載第3回「なぜ不規則な動詞活用があるのか」 [notice][hel_education][elt][sobokunagimon][verb][conjugation][tense][preterite][participle][rensai][link]

 『英語教育』の6月号が発売されました.英語史連載記事「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」の第3回目となる「なぜ不規則な動詞活用があるのか」が掲載されています.是非ご一読ください.

『英語教育』2019年6月号


 日常的な単語ほど不規則な振る舞いを示すというのは,言語にみられる普遍的な性質です.これは英語の動詞の過去・過去分詞形についてもいえます.大多数の動詞は規則的な語尾 -ed を付して過去・過去分詞形を作りますが,日常的な少数の動詞は,buy -- bought -- bought, cut -- cut -- cut, go -- went -- gone, sing -- sang -- sung, write -- wrote -- written などのように個別に暗記しなければならない不規則な変化を示します.今回の連載記事では,これら不規則な動詞活用の歴史をたどります.そして,「不規則」動詞の多くは歴史的には「規則」動詞であり,その逆もまた真なり,という驚くべき真実が明らかになります.
 動詞の不規則変化については,本ブログでも関連記事を書きためてきましたので,以下をご参照ください.

 ・ 「#3339. 現代英語の基本的な不規則動詞一覧」 ([2018-06-18-1])
 ・ 「#178. 動詞の規則活用化の略歴」 ([2009-10-22-1])
 ・ 「#527. 不規則変化動詞の規則化の速度は頻度指標の2乗に反比例する?」 ([2010-10-06-1])
 ・ 「#528. 次に規則化する動詞は wed !?」 ([2010-10-07-1])
 ・ 「#1287. 動詞の強弱移行と頻度」 ([2012-11-04-1])
 ・ 「#3135. -ed の起源」 ([2017-11-26-1])
 ・ 「#3345. 弱変化動詞の導入は類型論上の革命である」 ([2018-06-24-1])
 ・ 「#3385. 中英語に弱強移行した動詞」 ([2018-08-03-1])
 ・ 「#492. 近代英語期の強変化動詞過去形の揺れ」 ([2010-09-01-1])
 ・ 「#1854. 無変化活用の動詞 set -- set -- set, etc.」 ([2014-05-25-1])
 ・ 「#1858. 無変化活用の動詞 set -- set -- set, etc. (2)」 ([2014-05-29-1])
 ・ 「#2200. なぜ *haves, *haved ではなく has, had なのか」 ([2015-05-06-1])
 ・ 「#1345. read -- read -- read の活用」 ([2013-01-01-1])
 ・ 「#2084. drink--drank--drunkwin--won--won」 ([2015-01-10-1])
 ・ 「#2210. think -- thought -- thought の活用」 ([2015-05-16-1])
 ・ 「#2225. hear -- heard -- heard」 ([2015-05-31-1])
 ・ 「#3490. dreamt から dreamed へ」 ([2018-11-16-1])
 ・ 「#439. come -- came -- come なのに welcome -- welcomed -- welcomed なのはなぜか」 ([2010-07-10-1])
 ・ 「#43. なぜ go の過去形が went になるか」 ([2009-06-10-1])
 ・ 「#1482. なぜ go の過去形が went になるか (2)」 ([2013-05-18-1])
 ・ 「#764. 現代英語動詞活用の3つの分類法」 ([2011-05-31-1])

 連載のバックナンバーとして,第1回記事「なぜ3単現に -s をつけるのか」第2回記事「なぜ不規則な複数形があるのか」の案内もご覧ください.

 ・ 堀田 隆一 「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ 第3回 なぜ不規則な動詞活用があるのか」『英語教育』2019年6月号,大修館書店,2019年5月13日.62--63頁.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-02-06 Wed

#3572. 謎の多い be 動詞の否定形 ain't (2) [be][conjugation][negative][compensatory_lengthening]

 昨日の記事 ([2019-02-05-1]) に続き,ain't について.今回はその起源に関するいくつかの説を紹介しよう.
 昨日も述べたように ain't は,am not, isn't, aren't のいずれの代用としても用いられることから,これらのいずれかに起源をもつと考えるのが自然だろう.しかし,これら標準的な3つのいずれかからの発達と仮定する場合,n の前に来る子音の消失に関する問題と,第1音節の母音 /eɪ/ に関する問題を解決しなければならない.これが,なかなか難しい.
 1人称単数 I に対応する ain't に関しては,Crystal (35) は,歴史的な amn't, amna, amnae, ammot, am't などからの子音脱落によるものとみている.

. . . from the sixteenth century on, we see forms dropping the m appear---first an't, then ain't, again with many regional variants such as een't in Suffolk, yunt in Worcestershire, yent in Berkshire, ant in New England, and ent in African-American usage.


 次に,OED の be, v. を引いてみると,語源解説の2.1に詳しい記述がある.それによると,ain't は,amn't からの発達という可能性もあるが,aren't からも,そして isn't からも同様に発達し得たことが示唆されている.

The forms an't and ain't, when functioning as 1st singular, perhaps represent a contraction of am with the negative particle rather than levelling from the 2nd singular and plural (i.e. corresponding to aren't with simplification of final consonant group; compare discussion of ain't below and see discussions in E. J. Dobson Eng. Pronunc. 1500-1700 (ed. 2, 1968) II. §238, W. N. Francis in Focus on: Eng. & Wales (1985) 141-151; a third possible source (for ain't) is by compensatory lengthening after loss of s from isn't; compare discussion of en't at Forms 2c(iv)ζ). However, if so, an't and ain't were subsequently reanalysed as equivalent to are not, and the spelling aren't superseded an't in standard English, leading to avoidance not only of I aren't but also of aren't I by some speakers of current English. A similar problem arises with the early modern English form wan't, which when used for the singular, may represent either a contraction of was with not or show levelling of a variant of weren't. Compare also the concurrent development of similar contracted forms shan't (contracted form of SHALL v.) and han't, hain't, ain't (contracted forms of HAVE v.).


 数・人称ごとに場合分けして発達を探るということが必要かもしれない.また,子音の問題は,いずれの場合にも「脱落」で片付けることができるかもしれないが,母音の問題については積極的なコメントはない.方言形であるとか,単に異形であるとか,そのような説明で済ませている場合が多いようだ.やはり,ain't は歴史的に謎である.

 ・ Crystal, David. The Story of Be. Oxford: OUP, 2017.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-02-05 Tue

#3571. 謎の多い be 動詞の否定形 ain't (1) [be][conjugation][negative][register]

 be 動詞の否定形の1形態として ain't がある.非標準的とみなされるが,口語ではしばしば用いられる.am not, aren't, isn't のいずれにも相当するため,性と数を考慮しない,ある意味で「夢のような」 be 動詞の形態である.いな be 動詞にとどまらず,have not, has not の非標準的な異形としても用いられ,実に守備範囲が広い.黒人英語,いわゆる AAVE では,don't, doesn't, didn't の代用ともなり,著しい万能性を示す.今回は be 動詞の否定形としての ain't に話しを絞る.
 ain't は非標準的とされており,その使用は規範的な立場から非難されることが多い.しかし,口語では教養ある人々の間でも頻用され,とりわけ1人称単数の疑問形 am I not? の代わりとしての ain't I は許容される度合いが高い (ex. I'm going too, ain't I?) .また,100年ほど前には,上流階級でも普通に用いられていた旨が Crystal (35) に述べられている.

Today, ain't is considered non-standard, but it's widespread throughout the English-speaking world---probably used far more often than the standard equivalent---and a century ago it was actually acceptable upper-class speech, turning up frequently in the novels of the period. Here's the lawyer Mr Wharton arguing with his sister-in-law over his daughter's future, in Anthony Trollope's The Prime Minister (1875): 'I ain't thinking of her marrying'. And towards the end of the novel the Duke of Omnium himself asks someone: 'I hope you ain't cold'.


 ain't は18世紀後半より広く用いられているが,その起源については諸説ある.共時的な用法に関しても,通時的な発達に関しても謎の多い魅力的なトピックである.関連して American Heritage Dictionary の Notes より,ain't を参照.

 ・ Crystal, David. The Story of Be. Oxford: OUP, 2017.

Referrer (Inside): [2019-02-06-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-01-22 Tue

#3557. 世界英語における3単現語尾の変異 [variation][variety][world_englishes][new_englishes][3sp][verb][agreement][conjugation][inflection][link][nptr][hypercorrection]

 古今東西の○○英語において,3単現の動詞はどのように屈折しているのか.長らく追いかけている問題で,本ブログでも以下の記事をはじめとして 3sp の各記事で取り上げてきた.

 ・ 「#790. 中英語方言における動詞屈折語尾の分布」 ([2011-06-26-1])
 ・ 「#1850. AAVE における動詞現在形の -s」 ([2014-05-21-1])
 ・ 「#1889. AAVE における動詞現在形の -s (2)」 ([2014-06-29-1])
 ・ 「#1852. 中英語の方言における直説法現在形動詞の語尾と NPTR」 ([2014-05-23-1])
 ・ 「#2310. 3単現のゼロ」 ([2015-08-24-1])
 ・ 「#2112. なぜ3単現の -s がつくのか?」 ([2015-02-07-1])
 ・ 「#2136. 3単現の -s の生成文法による分析」 ([2015-03-03-1])
 ・ 「#2566. 「3単現の -s の問題とは何か」」 ([2016-05-06-1])
 ・ 「#2857. 連載第2回「なぜ3単現に -s を付けるのか? ――変種という視点から」」 ([2017-02-21-1])

 現在の世界中の○○英語においては,3単現の語尾はどのようになっているのか,Methrie and Bhatt (66--67) の記述をまとめておきたい.
 3単現で -s 語尾とゼロ語尾が交替するケースは,数多く報告されている.ナイジェリア変種や東アフリカ諸変種をはじめ,アメリカ・インディアン諸変種,インド変種,インド系南アフリカ変種,黒人南アフリカ変種,フィリピン変種 (e.g. He go to school.),シンガポール変種,ケープ平地変種などがある.
 標準英語の反対を行く興味深い変種もある.単数でゼロとなり,複数で -s を取るという分布だ.アメリカ・インディアン変種のなかでもイスレタ族変種 (Isletan) では,次のような文例が確認されるという.

 ・ there are some parties that goes on over there.
 ・ Some peoples from the outside comes in.
 ・ All the dances that goes on like that occur in the spring.
 ・ The women has no voice to vote.

 ・ Maybe the governor go to these parents' homes.
 ・ About a dollar a day serve out your term.
 ・ This traditional Indian ritual take place in June.
 ・ By this time, this one side that are fast have overlapped.
 ・ The governor don't take the case.


 イスレタ族変種と同様の傾向が,ケープ平地変種でも確認されるという (e.g. They drink and they makes a lot of noise.) .
 標準英語の逆を行くこれらの変種の文法もある意味では合理的といえる.主語が単数であれば主語の名詞にも述語の動詞にも -s が現われず,主語が複数であればいずれにも -s が付加されるという点で一貫しているからだ.Methrie and Bhatt (66) は,この体系を "-s plural symmetry" と呼んでいる.
 ただし,"-s plural symmetry" を示す変種は inherent variety なのか,あるいは話者個人が標準英語などを目標として過剰修正 (hypercorrection) した結果の付帯現象なのかは,今後の調査を待たなければならない.また,これらの変種が,北部イングランドの歴史的な Northern Present Tense Rule (nptr) と歴史的因果関係があるのかどうかも慎重に検討しなければならないだろう.

 ・ Mesthrie, Rajend and Rakesh M. Bhatt. World Englishes: The Study of New Linguistic Varieties. Cambridge: CUP, 2008.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2018-11-17 Sat

#3491. dreamtdreamed の用法の差 [bible][shakespeare][johnson][verb][conjugation][preterite][participle]

 昨日の記事「#3490. dreamt から dreamed へ」 ([2018-11-16-1]) と関連して,標記の話題について.両形の用法の差を調べた研究があるようだが,明確な差はないようである.用法の差というよりも英米差といわれることが多い.アメリカ英語では dreamed が好まれ,イギリス英語では両形ともに用いられるといわれる(小西,p. 422).
 一方,Fowler's (231) によると "Dreamed, esp. as the pa.t. form, tends to be used for emphasis and in poetry." とあり,使用域による差があり得ることを示唆している.
 中英語の状況を MED で覗いてみると,過去形として「規則的な」 drēmed(e と「不規則的な」 drempte の両形が用いられてことがわかるが,過去分詞形としては規則形の記載しかない.なお,不規則形に語中音添加 (epenthesis) の p が加えられていることに注意 (cf. 「#739. glide, prosthesis, epenthesis, paragoge」 ([2011-05-06-1])) .
 初期近代英語で興味深いのは,Shakespeare では両形が用いられているが,AV には dreamt の例はないという事実だ(『英語語源辞典』).AV は Shakespeare に比べて文語的で古風な語法をよく保持しているといわれるので,当時は dreamed のほうが正統で正式という感覚があったのかもしれない.逆にいえば,dreamt が口語で略式的にすぎ,聖書にはふさわしくないと考えられたのかもしれない.
 なお,1775年の Johnson の辞書では "preter. dreamed, or dreamt" とあり,dreamed が筆頭に挙げられていることに触れておこう.

 ・ 小西 友七 編 『現代英語語法辞典』 三省堂,2006年.
 ・ Burchfield, Robert, ed. Fowler's Modern English Usage. Rev. 3rd ed. Oxford: OUP, 1998.
 ・ 寺澤 芳雄 (編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.

Referrer (Inside): [2019-02-14-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2018-11-16 Fri

#3490. dreamt から dreamed [clmet][corpus][lmode][verb][conjugation][preterite][participle]

 Is it 'Dreamed' or 'Dreamt'? と題する Merriam-Webster の語法記事を読んだ.dream の過去形(および過去分詞形)が dreamt から dreamed へと規則化してきた近現史に焦点が当てられている.
 『メリアム・ウェブスター英英辞典』を含むいくつかの辞書では,dreamed の綴字のもとに /ˈdrɛmt, ˈdriːmd/ の2つの発音が記載されている.これは,動詞 dream の過去形・過去分詞形として dreamt/dreamed の両形態が交替可能であることを反映した併用・混用といえるだろうか.さすがに dreamt と綴って /ˈdriːmd/ と発音する旨の記述はない.(dreamt の発音の短母音については,「#2290. 形容詞屈折と長母音の短化」 ([2015-08-04-1]) を参照.)
 上の語法記事には,19世紀前半にはすでに dreamed が優勢となっていたとの記述があったので,これを確かめるべく後期近代英語コーパス CLMET3.0 で例文を集めてみた(検索結果のテキストファイルはこちら).頻度を集計した結果は次の通り.

Period (subcorpus size)dreamtdreamed
1710--1780 (10,480,431 words)5554
1780--1850 (11,285,587)75137
1850--1920 (12,620,207)71242


 18世紀の大半を含む第1期には両形は互角だったが,確かに19世紀前半を中心とする第2期に dreamed が大きく伸張している.そして,19世紀後半以降には dreameddreamt をさらに圧倒していった.
 とはいえ,現在に至るまで dreamt が「抹殺」されずにきたという事実を認識しておくことも重要である.言語変化は,個々の事例にもよるが,これほどゆっくり進むものである.
 動詞の「規則化」あるいは「強弱移行」については,「#178. 動詞の規則活用化の略歴」 ([2009-10-22-1]) ,「#527. 不規則変化動詞の規則化の速度は頻度指標の2乗に反比例する?」 ([2010-10-06-1]) ,「#528. 次に規則化する動詞は wed !?」 ([2010-10-07-1]),「#764. 現代英語動詞活用の3つの分類法」 ([2011-05-31-1]),「#1287. 動詞の強弱移行と頻度」 ([2012-11-04-1]) を参照.逆の「不規則化」「弱強移動」については「#3385. 中英語に弱強移行した動詞」 ([2018-08-03-1]) を参照.

Referrer (Inside): [2019-05-15-1] [2018-11-17-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2018-08-03 Fri

#3385. 中英語に弱強移行した動詞 [me][verb][conjugation][inflection][tense][preterite][participle]

 動詞の「強弱移行」の過程は,英語の形態論の歴史においてメジャーな話題である.これについて,「#178. 動詞の規則活用化の略歴」 ([2009-10-22-1]) ,「#527. 不規則変化動詞の規則化の速度は頻度指標の2乗に反比例する?」 ([2010-10-06-1]) ,「#528. 次に規則化する動詞は wed !?」 ([2010-10-07-1]),「#764. 現代英語動詞活用の3つの分類法」 ([2011-05-31-1]),「#1287. 動詞の強弱移行と頻度」 ([2012-11-04-1]) などで取り上げてきた.
 しかし,この大きな潮流に逆らう小さな逆流,すなわち「弱強移行」の事例もしばしば指摘されてきた.イギリス英語の dive -- dived (-- dived) に対するアメリカ英語の dive -- dove (-- dived) の例がよく知られているが,歴史的にはその他の例も散見される.
 たとえば,Wełna (425) によれば,中英語期に弱強移行し,今なお過去形か過去分詞形において強変化(不規則)形が用いられ続けているものとして,次のような例があるという(中英語の語形で挙げる).

INFINITIVEPASTPAST PARTICIPLE
chidechidde, chōdechidden
ringringde, rongen (PL)runge
sawesawed, sewsawid, sown
sewsowedsewed, sowen
shew, showshowedshowed, showen
styckestiked, stackesticked, stōken
weerwēred, wōrewēred, worn


 ほかにも,強変化形としては現代まで生き延びなかったものの,中英語期に短期的に弱強移行した経験のある動詞はいくつかあったようだ.珍しい例としては,通常は間違いなく弱変化動詞となるはずのフランス借用語が,過去形において弱変化形のみならず強変化形を取るようになった strive -- strōve/strīved がある.
 主流派に抵抗するこのような反乱分子の存在は,言語史において最も興味深い話題の1つである.

 ・ Wełna, Jerzy. "Middle English: Morphology." Chapter 27 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 415--34.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2018-06-24 Sun

#3345. 弱変化動詞の導入は類型論上の革命である [oe][verb][conjugation][inflection][suffix][tense][preterite][germanic][morphology]

 ゲルマン語派の最も際立った特徴の1つに,弱変化動詞の存在がある.「#182. ゲルマン語派の特徴」 ([2009-10-26-1]),「#3135. -ed の起源」 ([2017-11-26-1]) で触れたように歯音接尾辞 (dental suffix) を付すことで,いとも単純に過去形を形成することができるようになった.形態論に基づく類型論の観点からみると,これによって古英語を含むゲルマン諸語は,屈折語 (inflecting languages) から逸脱し,膠着語 (agglutinating language) あるいは孤立語 (isolating language) へと一歩近づいたことになる (cf. 「#522. 形態論による言語類型」 ([2010-10-01-1])) .その意味では,弱変化動詞の導入は,やや大袈裟にいえば「類型論上の革命的」だったといえる.von Mengden (287) の解説を聞いてみよう.

It is remarkable that in a strongly inflecting language like Old English (in contrast to both agglutinating and to analytic), there is a suffix (-d-) which is an unambiguous marker of the tense value past. The fact that this suffix -d- is the only morphological marker in all the paradigms of Old English with a truly distinctive one-to-one relation between form and value may indicate that this morpheme is rather young.


 形態と機能が透明度の高い1対1の関係にあるということは,現代英語や日本語のようなタイプの言語を普段相手にしていると,当たり前すぎて話題にもならないのだが,そのようなタイプではなかった古英語の屈折形態論を念頭に置きつつ改めて考えてみると,確かに極めて珍しいことだったろう.-d- が引き起こした革命の第1波は,その後も連鎖的に革命の波を誘発し,英語の類型を根本的に変えていくことになったのである.

 ・ von Mengden, Ferdinand. "Old English: Morphology." Chapter 18 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 272--93.

Referrer (Inside): [2019-05-15-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2018-06-22 Fri

#3343. drink--drank--drank の成立 [verb][conjugation][inflection][vowel][emode]

 現在,アメリカ英語の口語で,過去分詞として標準的な drunk ではなく過去形と同じ drank が用いられることがあるが,これは誤用というよりは,歴史的な用法の継続と見るべきである.
 「#2084. drink--drank--drunkwin--won--won」 ([2015-01-10-1]) や「#492. 近代英語期の強変化動詞過去形の揺れ」 ([2010-09-01-1]) で取り上げてきたように,現在形・過去形・過去分詞形(3主要形)の間で母音変異を示す歴史的な強変化動詞の取る活用パターンは,個々の動詞によって異なり,英語史的にも一般的な規則を抽出することが難しい.実際に,古英語,中英語,近代英語を通じて様々な3主要形のパターンが興亡を繰り広げてきた.Cowie (608) と,そこに引用されている Lass のコメントを覗いてみよう.

Tense marking on strong verbs in Early Modern English often had a different pattern for the form of the preterit and the past participle to both Middle English and Modern English. Different verbs go through different patterns, taking some time to stabilize . . . As Lass says, "it seems as if each verb has its own history" (1999: 168--70), which can be illustrated by changes in the paradigm for DRINK:

late 15thdrink, drank, drunk
end of 16th to 19thdrink, drunk, drunk
17th to 19thdrink, drank, drank


 3つのパターンのうち,標準変種では最初のものが選択されたが,非標準変種では最後のものが選択されたことになる.このように,一見「誤用」と思われるものは,かつて存在した複数の選択肢からの異なる選択に基づくものが多い.
 関連して,sing の過去形に標準的な sang のほか sung が用いられるケースもあるが,同様に考えるべきである.

 ・ Cowie, Claire. "Linguistic Levels: Morphology." Chapter 38 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 604--20.
 ・ Lass, Roger. "Phonology and Morphology." The Cambridge History of the English Language. Vol. 3. Cambridge: CUP, 1999. 56--186.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow