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perfect - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-04-27 09:58

2023-06-12 Mon

#5159. 英語史を通じて時制はいかに表現されてきたか [sobokunagimon][tense][future][preterite][progressive][perfect][verb][aspect][grammaticalisation]

 英語史において時制カテゴリーの成因や対応する表現はしばしば変化してきた.例えば,未来のことを指示するのにどのような表現が用いられてきたかを歴史に沿ってたどってみると,古英語から中英語にかけては現在時制を用いていたが,中英語から現代英語にかけては shall/will などを用いた迂言的な表現を用いるようになった等々.
 Görlach (100) は,時制カテゴリーをめぐる英語史上の変化の概略を表にまとめている.以下に引用する.

Tense Expressions in HEL by Goerlach



 ざっくりとした見取り図として参考にされたい.

 ・ Görlach, Manfred. The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997.

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2022-01-24 Mon

#4655. 動詞の「相」って何ですか? [aspect][tense][category][sobokunagimon][verb][terminology][perfect][progressive]

 多くの言語には,時間 (time) に関連する概念を標示する機能があります.まず,日本語にも英語にもあって分かりやすいのは時制 (tense) という範疇 (category) ですね.過去,現在,未来という時間軸上のポイントを示すアレです.
 もう1つ,よく聞くのが (aspect) です.aspect という英単語は「局面,側面,様態,視座,相」ほどを意味し,いずれで訳してもよさそうですが,最も分かりにくい「相」が定訳となっているので困ります.難しそうなほうが学術用語としてありがたがられるという目論見だったのでしょうかね.あまり感心できませんが,定着してしまったものを無視するわけにもいきませんので,今回は「相」で通します.
 さて,aspect や「相」について参考書を調べてみると,様々な定義や解説が挙げられていますが,互いに主旨は大きく異なりません.

動詞に関する文法範疇の一つで,動詞の表わす動作・状態の様相のとらえ方およびそれを示す文法形式をいう.(『新英語学辞典』, p. 96)


The grammatical category (expressed in verb forms) that refers to a way of looking at the time of a situation: for example, its duration, repetition, completion. Aspect contrasts with tense, the category that refers to the time of the situation with respect to some other time: for example, the moment of speaking or writing. There are two aspects in English: the progressive aspect ('We are eating lunch') and the perfect aspect ('We have eaten lunch'). (McArthur 86)


A grammatical category concerned with the relationship between the action, state or process denoted by a verb, and various temporal meanings, such as duration and level of completion. There are two aspects in English: the progressive and the perfect. (Pearce 18)


 半年ほど前のことですが,オンライン授業の最中に,学生よりズバリ「相」って何ですかという質問がチャットで寄せられました.そのときに次の即席の回答をしたことを思い出しましたので,こちらに再現します.授業中ということもあり,その場での分かりやすさを重視し,カジュアルで私的な解説にはなっていますが,かえって分かりやすいかもしれません.

相が時制とどう違うか,という内容の問題でしょうかね? そうするとけっこう難しいのですが,よく言われるのは「相」は動詞の表わす動作の内部時間の問題,「時制」は動詞の表わす動作の外部時間の問題とか言われます.
 例えば jump 「跳ぶ」の外部時間は分かりやすくて「跳んだ」「跳ぶ」「跳ぶだろう」ですね.内部時間というのは,「跳ぶ」と一言でいっても,脚の筋肉を緊張させて跳び始めようかなという段階(=相)もあれば,実際跳び始めてるよという段階(=相)もあるし,跳んでいて空中にいる最中の段階(=相)もあれば,跳び終わって着時寸前の段階(=相)もあれば,跳び終わっちゃった段階(=相)もあるというように,今の例では少なくとも5段階くらいあるわけです.スローモーションの画像のどこで止めようかという話しです.この細かい段階を表わすのが「相」です.時間が関わってくる点では共通していますが,「時制」とは別次元の時間の捉え方ですよね.


 言語における「相」の概念の一部のみをつかんだ取り急ぎの解説にすぎませんが,参考になれば.
 もう少し本格的には「#2747. Reichenbach の時制・相の理論」 ([2016-11-03-1]) も参照.

 ・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.
 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.
 ・ Pearce, Michael. The Routledge Dictionary of English Language Studies. Abingdon: Routledge, 2007.

Referrer (Inside): [2022-08-19-1]

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2021-07-31 Sat

#4478. 頻度でみる be 完了の衰退の歴史 [perfect][be][verb][aspect][tense][auxiliary_verb][frequency]

 英語史では,早くも古英語期より,完了を表わすのに have 完了と be 完了の2種類が行なわれてきた.ただし,be 完了は自動詞,およそ移動動詞に限定され,have 完了に比べればもとより目立たない存在ではあった.近代英語期にかけて have 完了がますます勢いを増すにおよび,移動動詞も have 完了へと乗り換えていった.
 上記は,be 完了の衰退の歴史の教科書的な概観である.関連する記事として「#1653. be 完了の歴史」 ([2013-11-05-1]),「#1814. 18--19世紀の be 完了の衰退を CLMET で確認」 ([2014-04-15-1]),「#3031. have 完了か be 完了か --- Auxiliary Selection Hierarchy」 ([2017-08-14-1]) も参照されたい.
 最近 be 完了と have 完了の比率の通時的推移を明らかにした Smith (2012: 1537) の調査をみつけたので,紹介しておこう.時代ごとに type 頻度と token 頻度の比率(および括弧内に頻度)が示されている(基となっているのは Smith の別の2001年の "Role" 論文).

TypeToken
BehaveBehave
OE16% (11)84% (57)21% (18)79% (85)
EME11% (12)89% (92)24% (69)76% (214)
LME11% (9)89% (70)11% (12)89% (96)
EModE8% (10)92% (115)4% (13)96% (319)
19th C3% (8)97% (311)4% (38)96% (839)


 have 完了をとる動詞の種類も生起頻度も,もとより圧倒的多数派だったことが分かるが,時代が下るにつれて徐々に増えてきたこともよく分かる.あくまで徐々に増えてきたという点が重要である.逆からみれば,もともと be 完了をとっていた少数の動詞が,have 完了化にそれだけ頑強に抵抗していたということになるからだ.
 現代までに be 完了は be gone のような定型句として用いられるにとどまり,事実上ほぼ完全に衰退してしまったといってよい.ちなみに,He is gone.He has gone. の違いについてだが,前者の be 完了では,行ってしまった現在の結果,すなわち「今はもういない」という側面に焦点が当てられるとされる.一方,後者の have 完了は,時間的に先行する行くという動作そのもの,およびその現在への関与という側面に焦点が当てられられ,およそ「行ったことがある」に近い意味となる.完了相のもともとの意味は「結果」であり,その点では形式的に古い be gone が意味的に古い「結果」を担っており,形式的に新しい have gone が意味的に新しい「先行性」を担っているという平行性はおもしろい (Smith, "New" 1537--38) .関連して「#3631. なぜ「?に行ったことがある」は have gone to . . . ではなく have been to . . . なのか?」 ([2019-04-06-1]) も参照.

 ・ Smith, K. Aaron. "New Perspectives, Theories and Methods: Frequency and Language Change." Chapter 97 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1531--46.
 ・ Smith, K. Aaron. "The Role of Frequency in the Specialization of the English Anterior." Frequency and the Emergence of Linguistic Structure. Ed. by Joan Bybee and Paul Hopper. Amsterdam/Philadelphia: Benjamins, 2001. 361--82.

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2021-01-17 Sun

#4283. many years ago などの過去の時間表現に用いられる ago とは何ですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hellog_entry_set][adjective][adverb][participle][reanalysis][be][perfect]

 標題は皆さんの考えたこともない疑問かもしれません.ago とは「?前に」を表わす過去の時間表現に用いる副詞として当たり前のようにマスターしていると思いますが,いったいなぜその意味が出るのかと訊かれても,なかなか答えられないのではないでしょうか.そもそも ago の語源は何なのでしょうか.音声解説をお聴きください.



 いかがでしたでしょうか.ago は,動詞 go に意味の薄い接頭辞 a- が付いただけの,きわめて簡単な単語なのです.歴史的には "XXX is/are agone." 「XXXの期間が過ぎ去った」が原型でした.be 動詞+過去分詞形 agone の形で現在完了を表わしていたのですね.やがて agone は語末子音を失い ago の形態に縮小していきます.その後,文の一部として副詞的に機能させるめに,be 動詞部分が省略されました.XXX (being) ago のような分詞構文として理解してもけっこうです.
 この成り立ちを考えると,I began to learn English many years ago. は,言ってみれば I began to learn English --- many years (being) gone (by now). といった表現の仕方だということです.この話題について,もう少し詳しく知りたい方は「#3643. many years agoago とは何か?」 ([2019-04-18-1]) の記事をどうぞ.

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2020-07-05 Sun

#4087. なぜ現在完了形は過去を表わす副詞と共起できないのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][perfect][verb][aspect][tense][adverb][present_perfect_puzzle]

 日曜日なので気軽に英語史ネタを.ということでhellog ラジオ版の第4弾です.今回は学校文法でも必ず習う,現在完了形と yesterday のような時の副詞との相性の悪さについて,なぜなのかを考えてみました.
 英語の(現在)完了というのは,イマイチ理解しにくい文法事項の代表格ですね.現在完了は「?した」とか「?してしまった」と訳すことが多いので,過去と区別がつきにくいのですが,両者は時制・相としてまったく異なるのだと説諭されるわけです.だから,過去の世界に属する yesterday のような時の副詞は,現在完了と同居してはいけないのだと説明を受けるわけですが,やはりよく理解できません.
 この問題は,理論的にも厄介で "Present Perfect Puzzle" とも呼ばれています.私たちがピンと来ないのも無理はないといえます.今回の音声でも,スッキリと解決ということにはなりませんので,あしからず.その上で,以下の音声をどうぞ.



 今回の内容を含め,そもそも完了形とは何かという問題について詳しく知りたいという方は,ぜひ##2633,2492,2749,534,2750,2763,2747,2490,2634,2635の記事セットをご覧ください.

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2020-04-02 Thu

#3993. 印欧語では動詞カテゴリーの再編成は名詞よりも起こりやすかった [verb][category][exaptation][tense][aspect][perfect][case][dative][instrumental]

 印欧語比較言語学と印欧諸語の歴史をみていると,文法カテゴリーやそのメンバーの縮減や再編成が著しい.古英語とその前史を念頭においても,たとえば動詞の過去時制の形態は,前史の印欧祖語における完了 (perfect) と無限定過去 (aorist) の形態にさかのぼる.動詞の時制・相カテゴリーにおける再編成が起こったということだ (cf. 「#2152. Lass による外適応」 ([2015-03-19-1]),「#2153. 外適応によるカテゴリーの組み替え」 ([2015-03-20-1]),「#3331. 印欧祖語からゲルマン祖語への動詞の文法範疇の再編成」 ([2018-06-10-1])).
 ほかには,印欧祖語の動詞の祈願法 (optative) と接続法 (subjunctive) ではもともと異なる形態をとっていたが,古英語までに前者の形態が後者を飲み込む形で代表となった.その新しい形態に付けられた名称が「接続法」だから,ややこしい(cf. 「#3538. 英語の subjunctive 形態は印欧祖語の optative 形態から」 ([2019-01-03-1])).
 名詞にも同様の現象がみられる.古英語の与格 (dative) は,前代の与格,奪格,具格 (instrumental),位格などを機能的に吸収したものだが,形態上の起源には議論がある.古英語の形容詞,決定詞,疑問代名詞などにわずかに痕跡を残す具格も,形態的には前代の具格を受け継いだものではないという (Marsh 14) .変遷が実にややこしいのだ.
 Clackson (114) は,印欧語において動詞カテゴリーの再編成は名詞よりも起こりやすかったという.その理由は以下の通り.

   In the documented history of many IE languages, the verbal system has undergone complex restructuring, while the nominal system remains largely unaltered. . . . It appears, in Indo-European languages at least, that verbal systems undergo greater changes than nouns. If this is the case, it is not difficult to see why. Verbs typically refer to processes, actions and events, whereas nouns typically refer to entities. Representations of events are likely to have more salience in discourse, and speakers seek new ways of emphasising different viewpoints of events in discourse.
   It is certainly true that . . . the verbal systems of the earliest IE languages are less congruent to each other than the nominal paradigms. The reconstruction of the PIE verb is correspondingly less straightforward, and there is greater room for disagreement. Indeed, there is no general agreement even about what verbal categories should be reconstructed for PIE, let alone the ways in which these categories were expressed in the verbal morphology. The continuing debate over the PIE verb makes it one of the most exciting and fast-moving topics in comparative philology.


 ということは,意味論的にも動詞カテゴリーのほうが複雑で扱いが難しいということが予想されそうだ.確かに一般的にいって,静的な名詞より動的な動詞のほうが扱いにくそうだというのは合点がいく.

 ・ Marsh, Jeannette K. "Periods: Pre-Old English." Chapter 1 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1--18.
 ・ Clackson, James. Indo-European Linguistics. Cambridge: CUP, 2007.

Referrer (Inside): [2020-04-03-1]

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2019-04-18 Thu

#3643. many years agoago とは何か? [adjective][adverb][participle][reanalysis][be][perfect][sobokunagimon]

 現代英語の副詞 ago は,典型的に期間を表わす表現の後におかれて「?前に」を表わす.a moment ago, a little while ago, some time ago, many years ago, long ago などと用いる.
 この ago は語源的には,動詞 go に接頭辞 a- を付した派生動詞 ago (《時が》過ぎ去る,経過する)の過去分詞形 agone から語尾子音が消えたものである.要するに,many years ago とは many years (are) (a)gone のことであり,be とこの動詞の過去分詞 agone (後に ago)が組み合わさって「何年もが経過したところだ」と完了形を作っているものと考えればよい.
 OED の ago, v. の第3項には,"intransitive. Of time: to pass, elapse. Chiefly (now only) in past participle, originally and usually with to be." とあり,用例は初期古英語という早い段階から文証されている.早期の例を2つ挙げておこう.

 ・ eOE Anglo-Saxon Chron. (Parker) Introd. Þy geare þe wæs agan fram Cristes acennesse cccc wintra & xciiii uuintra.
 ・ OE West Saxon Gospels: Mark (Corpus Cambr.) xvi. 1 Sæternes dæg wæs agan [L. transisset].


 このような be 完了構文から発達した表現が,使われ続けるうちに be を省略した形で「?前に」を意味する副詞句として再分析 (reanalysis) され,現代につらなる用法が発達してきたものと思われる.別の言い方をすれば,独立分詞構文 many years (being) ago(ne) として発達してきたととらえてもよい.こちらの用法の初出は,OED の ago, adj. and adv. によれば,14世紀前半のことである.いくつか最初期の例を挙げよう.

 ・ c1330 (?c1300) Guy of Warwick (Auch.) l. 1695 (MED) It was ago fif ȝer Þat he was last þer.
 ・ c1415 (c1395) Chaucer Wife of Bath's Tale (Lansd.) (1872) l. 863 I speke of mony a .C. ȝere a-go.
 ・ ?c1450 tr. Bk. Knight of La Tour Landry (1906) 158 (MED) It is not yet longe tyme agoo that suche custume was vsed.


 MED では agōn v. の 5, 6 に類例が豊富に挙げられているので,そちらも参照.

Referrer (Inside): [2021-01-17-1] [2019-05-22-1]

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2019-04-06 Sat

#3631. なぜ「?に行ったことがある」は have gone to . . . ではなく have been to . . . なのか? [sobokunagimon][perfect][be]

 「行く」は go であり,「?したことがある」という経験の意味は現在完了「have + 過去分詞」で表わすということであれば,「?に行ったことがある」は普通に考えて have gone to . . . となりそうだが,一般的には have been to . . . であると習う.これは私もずっと不思議に思っていた.だが,フレーズとして,構文としてそのようになっているのだと言い聞かされてきたので,それ以上の質問はしてこなかった.だが,改めて考えてみて,やはり謎である.
 have gone to . . . は「行ったことがある」という経験ではなく,「行ってしまった(その結果,ここにはいない)」という結果の意味になると,しばしば言われる.ここから,現在完了の経験用法と結果用法の形式がバッティングしないよう,前者には区別された形式 have been to . . . が用いられるのだ,という理屈が成立しそうである.もちろんこの説明はある程度まで納得できる.しかし,構文上の "blocking" とでも呼ぶべき,このような共時的かつ機能的な説明原理は,アドホックのきらいがあるように思われる.1つの機能に対して1つの形式を対応させようという言語の一般的指向については理解できるとしても,その形式がなぜとりわけ have been to . . . でなければならなかったのかという個別の問題については,何もヒントを与えてくれないからだ.また,アメリカ英語における事実として,have gone to . . . が経験の意味を表わすケースもある.たとえば,小西 (568) より I took a scuba course in college and I've gone a few times to the Caribbean. なる例文をあげておこう.
 もちろん,歴史的にひもとけば疑問が解消するかといえば,ことはそう簡単ではないようだ.今のところ,(少なくとも私には)答えらしきものは見出せていない.しかし,歴史の事実を与えられれば,疑問をみる視点は明らかに変わってくる.というのは,そもそも「?に行ったことがある」を意味する have been to . . . という形式は比較的新しい18世紀の産物であり,それ以前には用いられていなかったようだからだ.なぜ18世紀に現われたのか,そしてなぜとりわけその形式が選ばれることになったのか.これは共時的な理論英語学ではなく通時的な歴史英語学の話題である.
 OED は be, v. の 8c に,この用法が取り上げられている.

c. With to and a noun: to have been present (in a place, esp. for some purpose, or at an event or special occasion); to have gone to visit (and returned from) a place.
   Apparently rare before the second half of the 18th cent. (when it occurs frequently in the usage of Fanny Burney).
1712 R. Laurence Bishop of Oxford's Charge Consider'd 則xlviii. 73 Publickly Baptiz'd a Child in the Meeting-house; which was carried thither in as great Form and Order, as if it had been to Church.
1763 F. Brooke Hist. Lady Julia Mandeville I. 178 We have been to the parish church, to hear Dr. H. preach.
1773 F. Burney Early Diary (1889) I. 186 She had been to these rehearsals.
1778 F. Burney Evelina I. xvii. 115 Miss will think us very vulgar..to live in London, and never have been to an Opera.
1802 C. Wilmot Irish Peer on Continent (1920) 39 We have been to the Opera Buffa or the Italian Opera.
1829 R. Sharp Diary 21 June (1997) 209 This understrapping Parson of ours has been to Cambridge the last week to vote for who? why for Mr. Bankes.
1892 E. Reeves Homeward Bound 205 Hadji is his title, and means that he has been to Mecca.
1902 Westm. Gaz. 25 Aug. 2 His Majesty has been to Westminster Abbey, and the Crystal Palace,..and Madame Tussaud's.
1915 T. S. Eliot Let. 3 Jan. (1988) I. 77 I have just been to a cubist tea.
1977 J. Lees-Milne Diary 27 Sept. in Through Wood & Dale (2001) 195 I have not been to the lav since I left Salonika on Friday.
2007 S. Worboyes Lipstick & Powder iii. 91 This wasn't the first time she had been to the flat so she knew where everything was kept.


 説明にあるとおり,18世紀後半に Fanny Burney (1752--1840) が頻繁に用いたことが,この用法の実質的な走りとなったようだ.これは今後追いかけていく必要がありそうだ.いずれにせよ,静的な be と,移動およびその目的地を含意する動的な to とが直接結びつくという違和感はぬぐいきれない.当面の仮説として,顕在化していない go の亡霊を想定せざるを得ないのではないかとだけ述べておきたい.

 ・ 小西 友七 編 『現代英語語法辞典』 三省堂,2006年.

Referrer (Inside): [2021-07-31-1] [2019-05-22-1]

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2017-08-14 Mon

#3031. have 完了か be 完了か --- Auxiliary Selection Hierarchy [perfect][auxiliary_verb]

 標題は,英語史における完了を表わす構造の変異と変化を巡る大きな問題の1つである.本ブログでも「#2490. 完了構文「have + 過去分詞」の起源と発達」 ([2016-02-20-1]),「#1653. be 完了の歴史」 ([2013-11-05-1]),「#1814. 18--19世紀の be 完了の衰退を CLMET で確認」 ([2014-04-15-1]) などの記事で取り上げてきた.英語に限らず他の言語にも,have 完了と be 完了の分布やその変化を巡って類似した状況があり,「#2634. ヨーロッパにおける迂言完了の地域言語学 (1)」 ([2016-07-13-1]) で紹介したように通言語的な研究もなされてきた.
 もう1つの通言語的で類型論的な研究として,Sorace を挙げよう.Sorace は西ヨーロッパの諸言語を比較し,have 完了と be 完了の変異や変化はランダムではなく,動詞の意味的特性により予測できるとして "Auxiliary Selection Hierarchy" を提案した.手短にいえば,相 (aspect) と主題 (theme) の観点から,自動詞に関して "controlled process" (統御された過程)を表わす動詞であればあるほど完了の助動詞として have を取りやすく,統御性が低いと be を取りやすくなるという.Sorace (863) のオリジナルの図を見やすくした Los (76) による改変版を再現しよう.

change of location verbs (arrive)most likely to select be
change of state verbs (become)
continuation of pre-existing state (remain)
existence of state (be, sit, lie)
uncontrolled process (tremble, skid, sneeze)
controlled process (motional) (swim, run, cycle)
controlled process (nonmotional) (work, play)most likely to select have


 この階層関係はそのまま類型論上の含意 (typological implication) をも表わしており,例えば図のある階層の動詞が have 完了を取っていれば,それ以下の動詞もすべて have 完了を取るはずである,と読むことができる.これは have 完了化という言語変化の順序の予測にもつながる.もちろん,言語によって,また同一言語でも歴史段階によって,階層のどこに分割線が引かれているのかは異なるだろうが,両完了構造の分布について一般的な予測を可能にするモデルとして注目に値する.

 ・ Sorace, A. "Gradients in Auxiliary Selection with Intransitive Verbs." Language 76 (2000): 859--90.

Referrer (Inside): [2021-07-31-1]

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2016-11-19 Sat

#2763. 中英語からの過去形と現在完了形の並列の例 (2) [perfect][preterite][aspect][tense][present_perfect_puzzle][prosody][poetic_license][rhyme]

 「#2750. "Present Perfect Puzzle" --- 中英語からの過去形と現在完了形の並列の例」 ([2016-11-06-1]) に引き続いての話題.Visser は,中英語における過去形と現在完了形の並列について,フランス語などからの影響もありうるとは述べているものの,主たる理由は詩的許容 (poetic_license) にあると考えている.というのは,両者の並列や交替が脚韻 (rhyme) や韻律 (metre) に動機づけられているとおぼしき例が,実際に少なくないからだ.脚韻の動機づけが感じられる例として,Visser (713) の挙げているものの中からいくつかを抜き出してみる.

 ・ c1386 Chaucer, C. T. H264: His bowe he bente, and sette ther-inne a flo, / And in his ire his wyf thanne hath he slayn, - / This is theffect, ther is namoore to sayn.
 ・ c1390 Gower Conf. Am. (ed. Morley) V p. 245: Wherof this lord hath hede nome / And did hem bothe for to come.
 ・ c1390 Gower Conf. Am. (ed. Morley) V p. 277: whan it came unto the grounde, / A great serpent it hath bewounde.
 ・ c1400 Syr Tryamowre (ed. Erdman Schmidt) 1030: The messengere ys come and gone. / But tydyngys of Tryamowre herde he none.

 同様に,韻律によると考えられる例のいくつかを Visser (717--18) より示す.

 ・ c1250 Floris & Bl. 985: Clarice, joie hire mot bitide, / Aros up in þe moreȝentide, / And haþ cleped Blauncheflur.
 ・ c1386 Chaucer, C. T. B628: This gentil kyng hath caught a greet motyf / Of this witnesse, and thoghte he wolde enquere / Depper in this.
 ・ c1386 Chaucer, C. T. H203: And so befel, whan Phebus was absent, / His wyf anon hath for hir lemman sent.
 ・ c1390 Gower, C. A. (ed. Morley) p. 277: And he, which understood his tale, / Betwene him and his asse all softe / Hath drawe and set him up a lofte.

 過去形と現在完了形の並列が主として詩的許容に起因するという説は,それが現われる時期や環境によっても支持される.このような並列の例は,14--15世紀の韻文にほぼ限られているのである.それ以前の古英語や初期中英語では,韻文にせよ散文にせよ,ごく僅かな例しか確認されない.また,後期中英語でも,散文では普通みられない.さらに,過去形と現在完了形の並列がみられる環境では,過去形と現在形の並列も同様にみられるという事実も,詩的許容による説に追い風となる.近現代にかけて,時制・相は論理的なカテゴリーとして重視されるようになり,過去と現在(完了)の区別もうるさくなっていくが,後期中英語では,時制・相のカテゴリーとその形式の問題は,韻律上の要請があれば,当面は棚上げしてもよい程度の重要さでとらえられていたのだろう.
 では,近現代にかけて,この寛容さが失われ,理詰めになっていったのはなぜなのだろうか.これは,言語と社会をめぐる非常に大きな英語史上の問題である.

 ・ Visser, F. Th. An Historical Syntax of the English Language. 3 vols. Leiden: Brill, 1963--1973.

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2016-11-06 Sun

#2750. "Present Perfect Puzzle" --- 中英語からの過去形と現在完了形の並列の例 [perfect][preterite][aspect][tense][adverb][present_perfect_puzzle][me][french][prosody][poetic_license]

 「#2492. 過去を表わす副詞と完了形の(不)共起の歴史 」 ([2016-02-22-1]),「#2633. なぜ現在完了形は過去を表わす副詞と共起できないのか --- Present Perfect Puzzle」 ([2016-07-12-1]),及び昨日の記事「#2749. "Present Perfect Puzzle" --- 近現代英語からの「違反」例」 ([2016-11-05-1]) に引き続き,"Present Perfect Puzzle" について.中英語には,このパズルと関連する事例として,過去形と現在完了形の動詞が統語的あるいは文脈的に並列・共起して現われるケースが散見される.両者の間に際立った機能的な区別は感じられないことから,いまだ現代英語のような明確な区別はなかったことを示す例と解釈できる.Visser (2198) から,いくつか例を挙げよう.

 ・ c1386 Chaucer, C. T. E 1956, Adoun by olde Januarie she lay, That sleep til that the coughe hath hym awaked.
 ・ c1386 Chaucer, C. T. F 1082, His brother . . . Up caughte hym, and to bedde hath hym broght.
 ・ c1386 Chaucer, C. T. E 2132, er that dayes eighte Were passed . . . Januarie hath caught so greet a wille . . . hym for to pleye In his gardyn . . . That . . . unto this May seith he: Rys up, my wif!
 ・ c1390 Gower, Conf. Am. (Morley) II p. 107, And whan it came into the night, This wife with her hath to bedde dight Where that this maiden with her lay.
 ・ c1430 Syr Tryamowre (ed. Erdman Schmidt) 830, [he] bare hym downe of hys hors, And hath hym hurted sare.

 これらは,"epic (present) perfect" という事例とも解することができるし,韻律の要請による詩的許容 (poetic_license) も関与しているかもしれない.Visser (2198) は,フランス語にも同様の揺れが見られることから,その影響の可能性もありそうだと述べている.

It is not difficult to concur with 1960 Mustanoja and 1970 Bauer in assuming French influence as very likely. (As a matter of fact Modern colloquial French often prefers the type 'Je l'ai vu tomber' to that with the 'passé défini': 'Je le vis tomber.)'


 ・ Visser, F. Th. An Historical Syntax of the English Language. 3 vols. Leiden: Brill, 1963--1973.

Referrer (Inside): [2016-11-19-1]

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2016-11-05 Sat

#2749. "Present Perfect Puzzle" --- 近現代英語からの「違反」例 [perfect][aspect][tense][adverb][present_perfect_puzzle][mode]

 「#2492. 過去を表わす副詞と完了形の(不)共起の歴史 」 ([2016-02-22-1]),「#2633. なぜ現在完了形は過去を表わす副詞と共起できないのか --- Present Perfect Puzzle」 ([2016-07-12-1]) で紹介したように,現代英語には,現在完了と過去の特定の時点を表わす副詞語句は共起できないという規則がある.ところが,近代英語やとりわけ中英語では,このような共起の例が散見される.現代英語にかけて,なぜこのような制限規則が定まったのかという問題,いわゆる "Present Perfect Puzzle" については,様々な提案がなされてきたが,完全には解明されていない.
 Visser (2197) より,近代英語期,さらに20世紀を含む時代からの例をいくつか引こう.

 ・ 1601 Shakesp., All's Well IV, iii, 3, I have delivered it an hour since.
 ・ 1669 Pepys's Diary April 11th, which I have forgot to set down in my Journal yesterday.
 ・ 1777 Sheridan, School f. Sc. I, i, I am told he has had another execution in the house yesterday.
 ・ 1820 Scott. Monastery XXX, The Englishman . . . has murdered young Halbert . . . yesterday morning.
 ・ 1847 Ch. Brontë, Jane Eyre XVI, Indeed I have seen Blanche, six or seven years ago, when she was a girl of eighteen.
 ・ 1912 Standard, Aug. 16, Prince Henry has decided to travel to Tokio by the overland route. Twice already he has visited Japan, in 1892 and 1900 (Kri).
 ・ 1920 Galsworthy, In Chancery IV, I have been to Richmond last Sunday.
 ・ 1962 Everyman's Dictionary of Literary Biography p. 609--10, He [sc. Shakespeare] is, of course, unmeasurably the greatest of all English writers, and has been so recognized even in those periods that were antipathetic to the Elizabethan genius.

 このような現代的な規則から逸脱している例について,Visser (2197) は他の研究者を参照しつつ次のように述べている.

Several scholars (e.g. 1958 F. T. Wood; 1926 Poutsma) account for these idioms by suggesting that the writer or speaker has embarked on the given form before the idea of a temporal adjunct comes into his mind, and then adds this adjunct as a kind of afterthought. Another explanation is based on the assumption that instances like those quoted here may be seen as survivals of a usage that formerly---when there was not yet the strict line of demarcation between the different uses---occurred quite normally.


 ここでは2つの提案がなされているが,前者の "afterthought" 説は理解しやすい.しかし,上記の例のすべてが,後から思いついての付け足しとして説明できるかどうかは,客観的に判断できないように思われる.第2の「古くからの残存」説は,その通りなのかもしれないが,現代英語にかけてくだんの共起制限が課されたのはなぜかという "Present Perfect Puzzle" に直接に迫るものではない.
 このパズルは未解決と言わざるを得ない.

 ・ Visser, F. Th. An Historical Syntax of the English Language. 3 vols. Leiden: Brill, 1963--1973.

Referrer (Inside): [2016-11-06-1]

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2016-11-03 Thu

#2747. Reichenbach の時制・相の理論 [tense][aspect][deixis][perfect][preterite][future][semantics]

 言語における時制・相を理論化する有名な試みに,Reichenbach のものがある.3つの参照時点を用いることで,主たる時制・相を統一的に説明しようとするものだ.その3つの参照時点とは,以下の通り(Saeed (128) より引用).

S = the speech point, the time of utterance;
R = the reference point, the viewpoint or psychological vantage point adopted by the speaker;
E = event point, the described action's location in time.


 この S, R, E の時間軸上の相対的な位置関係を,先行する場合には "<",同時の場合には "=",後続する場合には ">" の記号で表現することにする.例えば,過去の文 "I saw Helen", 過去完了の文 "I had seen Helen",未来の文 "I will see Helen" のそれぞれの時制は,以下のように表わすことができるだろう.

                                           
"I saw Helen"        ───┴───────┴───>
(R = E < S)               R, E             S
                                           
"I had seen Helen"   ───┴───┴───┴───>
(E < R < S)                E       R       S
                                           
"I will see Helen"   ───┴───────┴───>
(S < R = E)                S              R, E

 この SRE の分析によると,英語の時制体系は以下の7つに区分される (Saeed 132) .

Simple past(R = E < S)"I saw Helen"
Present perfect(E < S = R)"I have seen Helen"
Past perfect(E < R < S)"I had seen Helen"
Simple present(S = R = E)"I see Helen"
Simple future(S < R = E)"I will see Helen"
Proximate future(S = R < E)"I'm going to see Helen"
Future perfect(S < E < R)"I will have seen Helen"


 SRE の3時点の関係は様々だが,S = R となるのが現在完了,単純現在,近接未来の3つの場合のみであることは注目に値する.非英語母語話者には理解しにくい現在完了の「現在への関与」 (relevance to "now") という側面は,Reichenbach の理論では「S = R」として表現されるのである.

 ・ Reichenbach, Hans. Elements of Symbolic Logic. London: Macmillan, 1947.
 ・ Saeed, John I. Semantics. 3rd ed. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2009.

Referrer (Inside): [2022-01-24-1] [2019-06-07-1]

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2016-07-14 Thu

#2635. ヨーロッパにおける迂言完了の地域言語学 (2) [perfect][syntax][wave_theory][linguistic_area][geolinguistics][geography][contact][grammaticalisation][preterite][french][german][tense][aspect]

 昨日の記事 ([2016-07-13-1]) で,ヨーロッパ西側の諸言語で共通して have による迂言的完了が見られるのは,もともとギリシア語で発生したパターンが,後にラテン語で模倣され,さらに後に諸言語へ地域的に拡散 (areal diffusion) していったからであるとする Drinka の説を紹介した.昨日の記事で (3) として触れた,もう1つの関連する主張がある.「フランス語やドイツ語などで,迂言形が完了の機能から過去の機能へと変化したのは,比較的最近の出来事であり,その波及の起源はパリのフランス語だった」という主張である.
 ここでは,まずパリのフランス語で迂言的完了が本来の完了の機能としてではなく過去の機能として用いられるようになったことが主張されている.Drinka (22--24) によれば,パリのフランス語では,すでに12世紀までに,過去機能としての用法が行なわれていたという.

It is here, then, in Parisian French, that I would claim the innovation actually began. In the 12th century, the OF periphrastic perfect generally had an anterior meaning, but a past sense was already evident in vernacular Parisian French in the 12th and 13th c., connected with more vivid and emphatic usage, similar to the historical present . . . . During the 16th c., perfects had already begun to emerge in French literature in their new function as pasts, and during the 17th and 18th centuries, the past meaning came to replace the anterior meaning completely in the language of the French petite bourgeoisie . . . .


 他のロマンス諸語や方言は遅れてこの流れに乗ったが,拡散の波は,語派の境界を越えてドイツ語にも広がった.特に文化・経済センターとして早くから発展したドイツ南部都市の Augsburg や Nürnberg では,15世紀から16世紀にかけて,完了が過去を急速に置き換えていった事実が指摘されている (Drinka 25) .フランスに近い Cologne や Trier などの西部都市では,12--14世紀というさらに早い段階で,完了が過去として用いられ出していたという証拠もある (Drinka 26) .
 もしこのシナリオが事実ならば,威信をもつ12世紀のパリのフランス語が,完了の過去機能としての用法を一種の流行として近隣の言語・方言へ伝播させていったということになろう.地域言語学 (areal linguistics) や地理言語学 (geolinguistics) の一級の話題となりうる.

 ・ Drinka, Bridget. "Areal Factors in the Development of the European Periphrastic Perfect." Word 54 (2003): 1--38.

Referrer (Inside): [2016-07-15-1]

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2016-07-13 Wed

#2634. ヨーロッパにおける迂言完了の地域言語学 (1) [perfect][syntax][wave_theory][linguistic_area][geolinguistics][geography][contact][grammaticalisation][preterite][greek][latin][tense][aspect]

 英語を含むヨーロッパ諸語では,havebe に相当する助動詞と動詞の過去分詞形を組み合わせて「完了」を作ることが,広く見られる.ヨーロッパ内でのこの言語項の地域的な分布を地域言語学 (areal linguistics) や地理言語学 (geolinguistics) の立場から調査して,その発生と拡大を歴史的に明らかにしようとした論文を見つけた.
 論者の Drinka は,まずヨーロッパの言語地図を見渡したうえで,(1) have による完了を発達させたのは西側であり,東側では be が優勢であることを指摘した.次に,(2) 西側の have 完了の発生と,過去分詞形が受動的な意味から能動的な意味へと再解釈された過程の起源は,ともに古代ギリシア語に遡り,それをラテン語が真似たことにより,後のロマンス諸語やその他の言語へも広がっていったと議論している.最後に,(3) フランス語やドイツ語などで,迂言形が完了の機能から過去の機能へと変化したのは,比較的最近の出来事であり,その波及の起源はパリのフランス語だったと論じている.
 (2) について,もう少し述べよう.ギリシア語では元来,迂言的完了は「be +完了分詞」で作っていた.しかし,「have + 中間分詞」の共起がときに完了に近い意味を表わすことがあったために,徐々に文法化のルートに乗っていった.紀元前5世紀までには「have +アオリスト分詞」という型が現われ,それまでは構文を作らなかった他動詞も参入するほどの勢いを示し,隆盛を極めた.ラテン語や後の西側の言語にとっては,このギリシア語ですでに文法化していた「have + 分詞」のパターンが,文語レベルで模倣の対象となったという.have 完了が世界の言語では比較的まれな構造であることを考えると,ラテン語(やその他の西側の言語)で独立して発生したと考えるよりは,ギリシア語との接触によるものと考えるほうが自然だろうと述べられている (16) .Drinka (20) が have 完了のギリシア語起源論について以下のように要約している.

My claim, then, is that the actual concept of HAVE periphrasis owes its existence largely to the Greek model, that the development of the HAVE perfect in Latin is tied closely to that of Greek, that it arose especially in literary contexts and in the language of educated speakers, and continued to be connected to the formal register in its later history. As a result of this learned calquing of the HAVE perfect from Greek into Latin, including ecclesiastical Latin, the Western European languages were, in turn, given a model to aspire to, a more elaborate temporal-aspectual system to imitate. The Romance languages, of course, all inherited these perfect structures, and, as I will argue elsewhere, most of the Germanic languages appear to have developed their HAVE perfect categories on the basis of this elaborated model, as well . . . . What is particularly fascinating to note is that the western languages have preserved and innovated upon this pattern to different extents, but continually show patterns of areal diffusion as these innovations spread from one language to another.


 英語史との関連で気になるのは,英語の have による迂言的完了の起源と発展について,Drinka が明示的にはほとんど述べていないことである.Drinka は,英語での例も,ヨーロッパ西側の「地域的な拡散」 (areal diffusion) の一環と見ているのだろうか.とすると,従来の説とは異なる,かなり大胆な仮説ということになる.英語史上の関連する話題としては,「#2490. 完了構文「have + 過去分詞」の起源と発達」 ([2016-02-20-1]) と「#1653. be 完了の歴史」 ([2013-11-05-1]) も参照されたい.
 また,上の議論では,ラテン語が迂言用法をギリシア語から「借用」したという言い方ではなく,"model" という「模倣」に近い用語が用いられている.この点については「#2010. 借用は言語項の複製か模倣か」 ([2014-10-28-1]) の議論も参考にされたい.

 ・ Drinka, Bridget. "Areal Factors in the Development of the European Periphrastic Perfect." Word 54 (2003): 1--38.

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2016-07-12 Tue

#2633. なぜ現在完了形は過去を表わす副詞と共起できないのか --- Present Perfect Puzzle [perfect][aspect][preterite][tense][adverb][present_perfect_puzzle][pragmatics][sobokunagimon]

 「#2492. 過去を表わす副詞と完了形の(不)共起の歴史 」 ([2016-02-22-1]) で取り上げた Present Perfect Puzzle と呼ばれる英文法上の問題がある.よく知られているように,現在完了は過去の特定の時点を指し示す副詞とは共起できない.例えば Chris has left York. という文法的な文において,Chris が York を発ったのは過去のはずだが,過去のある時点を指して *Yesterday at ten, Chris has left York とすると非文法的となってしまう.この "past-adverb constraint" がなぜ課されているのかを説明することは難しく,"puzzle" とされているのだ.
 1つの解決法として提案されているのが,"scope solution" である.現在完了を作る助動詞 have が現在を指し示しているときに,過去を指し示す副詞の作用域 (scope) がその部分を含む場合には,時制の衝突が起こるという考え方だ.素直な説のように見えるが,いくつかの点で難がある.例えば,Chris claims to have left York yesterday. では,副詞 yesterday の使用域は to have left York までを含んでおり,その点では先の非文の場合の使用域と違いがないように思われるが,実際には許容されるのである.また,この説では,現在完了は,過去どころか現在の時点を指し示す副詞とも共起し得ないことを説明することができない.つまり,*Chris has been in Pontefract last year. が非文である一方で,*Chris has been in Pontefract at present. も非文であることを説明できない.
 次に,根強く支持されているい説として "current relevance solution" がある.現在完了とは,現在との関連性を標示する手段であるという考え方だ.あくまで過去から現在への継続を示すのが主たる機能なのであるから,過去を明示する副詞との共起は許されないとされる.母語話者の直感にも合う説といわれるが,過去と現在の関連性は,実は過去形によって表わすこともできるではないかという反論がある.例えば,Why is Chris so cheerful these days? --- Well, he won a million in the lottery. では,現在と過去の関連性がないとは言えないだろう.また,過去と現在の関連性が明らかであっても,*Chris has been dead. は許されず,Chris was dead. は許される.
 Klein (546) は従来の2つの説を批判して,語用論的な観点からこの問題に迫った.TT (= "topic time" = "the time for which, on some occasion, a claim is made" (535)) と TSit (= time of situation) という2種類の時間指示を導入して,1つの発話のなかで,TT と TSit の表現が,ともに独立して過去の定的な時点を明示 (p-definite (= point-definite)) してはならない制約があると仮定した.

P-DEFINITENESS CONSTRAINT
   In an utterance, the expression of TT and the expression of TSit cannot both be independently p-definite.


 ここで Klein の議論を細かく再現することはできないが,主張の要点は Present Perfect Puzzle を解く鍵は,統語論にはなく,語用論にこそあるということだ.上に挙げてきた非文は,統語的に問題があるのではなく,語用的にナンセンスだからはじかれているのである."p-definite constraint" は,このパズルを解くことができるだけではなく,例えば *Today, four times four makes sixteen. がなぜ許容されないのか(あるいはナンセンスか)をも説明できる.ここでは,動詞 makes (TT) と副詞 Today (TSit) の両方が独立して,現在の時点を表わしている (p-definite) ために,語用論的に非文となるのだという.
 "p-definiteness constraint" は,もう1つのパズルの解き方の提案である.

 ・ Klein, Wolfgang. "The Present Perfect Puzzle." Language 68 (1992): 525--52.

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2016-02-22 Mon

#2492. 過去を表わす副詞と完了形の(不)共起の歴史 [perfect][preterite][tense][aspect][syntax][auxiliary_verb][adverb][generative_grammar][present_perfect_puzzle]

 「#2490. 完了構文「have + 過去分詞」の起源と発達」 ([2016-02-20-1]) で触れたように,中英語期に完了構文が統語的に確立した後も,機能的には過去形との分化は初期近代英語までそれほど明確な形で見られなかった.その証拠に,近代以前には過去の時点を指示する副詞(句)と完了形が共起する例が少なからず文証される.この件について,Mustanoja (504) を引用しよう.

In ME and early Mod. E the functional distinction between the preterite and the compound tenses of the past is not, however, nearly so clear-cut as it is today, and the perfect, for example, may occur in conjunction with adverbs of past time: --- and homward he shal tellen othere two [tales], Of aventures that whilom han bifalle (Ch. CT A Prol. 795).


 しかし,16--17世紀になるとこの状況は変化し,現代英語のように完了形と過去の副詞(句)の共起が許されなくなっていく.フランス語やドイツ語など近隣の諸言語が,同様の複合形を単純過去時制を表わすのに保持してきたのと対照的に,英語ではこの時期を境に完了時制と過去時制が形態・機能ともに明確に区別されるようになったのである.なぜ英語の歴史においては,このような区別が生じたのだろうか.そして,なぜとりわけこの時期に生じたのだろうか.この辺りの問題は,生成文法の理論的な立場から "present perfect puzzle" と呼ばれている.
 英語と近隣諸言語を比較した Yanagi によれば,have に相当する助動詞に V-to-T movement が生じる言語(古い英語,フランス語,ドイツ語,アイスランド語など)については過去分詞も平行して移動するが,そうでない言語(現代英語や大陸スカンディナヴィア語)については過去分詞も移動しない.そして,この各項の統語的な移動の有無が,時制を構成する3要素 (Event Point, Speech Point, Reference Point) の相互関係と連動しており,機能的に過去時制に近づくか,完了時制に近づくかを決定するという.V-to-T movement については,名前こそ異なれ,実質的にほぼ同じ現象について扱った「#1670. 法助動詞の発達と V-to-I movement」 ([2013-11-22-1]) を参照していただきたいが,この一見してきわめて統語的な現象が,時制という機能と密接に関連している可能性があるということは,実に興味深い.とりわけ重要な点は,V-to-T movement が起こったとされる時期と,過去を表わす副詞と完了形の共起が許されなくなり始める時期が,16世紀で符合することである.
 Yanagi の結論部 (96) を引用しよう.

Here it has been argued that the obsolescence of the present perfect puzzle in the history of English can be attributed to the loss of overt verb movement by using the following assumptions: (a) In a language with independent V-to-T movement, perfect participles can move overtly; (b) In a language without independent V-to-T movement, perfect participles cannot move overtly. In addition, the viability of the present analysis was further supported by applying it to modern Germanic and Romance languages. As a theoretical contribution, it is semantically motivated.


 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.
 ・ Yanagi, Tomohiro. "A Syntactic Approach to the Present Perfect Puzzle in the History of English." 『近代英語研究』 第20号,2004年.73--103頁.

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2016-02-20 Sat

#2490. 完了構文「have + 過去分詞」の起源と発達 [auxiliary_verb][syntax][reanalysis][word_order][tense][aspect][perfect][grammaticalisation][agreement][participle][generative_grammar]

 標記の問題は,英語歴史統語論ではよく知られた再分析 (reanalysis) の例として,また文法化 (grammaticalisation) の例として取り上げられてきた.以下,中尾・児馬 (110--17) に従って,教科書的な記述を施そう.
 古英語では,現代英語の They had their enclosure closed. に相当する「have + 目的語 + 過去分詞」の構文が存在した (þā hīe tō Ðǣm ġemǣre cōmon . . ., þā hæfdon hīe hiera clūsan belocene [Or, ed. Sweet 112/34]) .その構文の意味は現代と異ならず「(目的語)を(過去分詞)の表わす状態としてもつ」ほどであり,目的語と過去分詞は統語的,形態的,意味的に密接な関係にあった.その証拠に,過去分詞は目的語の性・数・格に一致して屈折語尾を伴っていた(上の例では,男性・単数・対格).この段階では,特に新しい時制・相の含意はもっていなかった.
 しかし,8世紀末までに,統語的な変異が現われてきた.目的語と過去分詞の位置が逆転した「have + 過去分詞 + 目的語」構文の登場である.新旧の語順はしばらく共存していたものの,それは現代英語のように They had closed their enclosure.They had their enclosure closed. の意味上の対立を表わすものでは必ずしもなかった.だが,徐々に新しい語順「have + 過去分詞 + 目的語」が多く用いられるようになり,これまで他動詞の過去分詞に限られていたものが自動詞(ただし変異動詞以外)の過去分詞にまで拡がるなどして,「過去分詞+目的語」のつながりよりも「have + 過去分詞」のつながりが意識されるようになった.
 中英語に入ると,過去分詞と目的語の関係が薄れて統語形態的な一致は標示されなくなり,「have + 過去分詞」の塊が複合的な述語動詞として捉えられるに至った.この段階で,「have + 過去分詞」は現代英語につながる統語構文として確立したといってよい.しかし,意味的にいえば,いまだ現在時制や過去時制と明確に区別される新しい時制や相が獲得されたわけではなかった.実際,whilomlong ago など過去を表わす副詞と現在完了構文が共起することは,これ以降 Shakespeare 辺りまで続いており,現代英語の現在完了にみられる「現在との関与性」という時制・相の特徴が確立してきたといえるのは16世紀以降である.
 この構文の起源と発達を,文法化という観点から図式的に記述すると次のようになる(保坂, p. 14 の図を参考にした).

         OE                        ME                    ModE

  have   + NP + pp ----->  have  +   pp   + NP -----> have + pp + NP ===> 完了形
所有動詞                  助動詞   本動詞

 統語ツリーで同じ発達を表現すれば,以下の通り(保坂,p. 149 の構造を参考にした;SC は "Small Clause" を表わす).

Grammaticalisation of Have Perfect

 完了構造には have 完了だけでなく be 完了もある.後者については,「#1653. be 完了の歴史」 ([2013-11-05-1]),「#1814. 18--19世紀の be 完了の衰退を CLMET で確認」 ([2014-04-15-1]) を参照.Chaucer の用いた完了形について,「#534. The General Prologue の冒頭の現在形と完了形」 ([2010-10-13-1]) も参照されたい.

 ・ 中尾 俊夫・児馬 修(編著) 『歴史的にさぐる現代の英文法』 大修館,1990年.
 ・ 保坂 道雄 『文法化する英語』 開拓社,2014年.

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2014-04-15 Tue

#1814. 18--19世紀の be 完了の衰退を CLMET で確認 [perfect][clmet][corpus][syntax][be][auxiliary_verb][aspect][participle][lmode]

 「#1653. be 完了の歴史」 ([2013-11-05-1]) で,変移動詞 (mutative verb) は,18世紀末まで,通常 be + 過去分詞というかたちで完了形を作っていたことを見た.英語史では,この be 完了が18世紀末辺りを境に衰退の一途をたどることになったとされている.「#1637. CLMET3.0 で betweenbetwixt の分布を調査」 ([2013-10-20-1]) で紹介した CLMET3.0 は,1710--1920年をカバーする約3,400万語からなる大型バランスコーパスであり,この種の言語変化を追うには最適なリソースと思われるので,これを用いて be 完了の衰退を確認してみた.
 今回は,先の記事でも取り上げた7つの変移動詞 (arrive, become, come, fall, flee, grow; go) に限定し,CLMET3.0 の3つの時代区分 (1710--1780, 1780--1850, 1850--1920) と6つのジャンル分け (Narrative fiction, Narrative non-fiction, Drama, Letters, Treatise, Other) にしたがって,コーパスから用例を拾った.3つの時期のサブコーパスの規模はおよそ同程度だが,ジャンル別のサブコーパスは,[2013-10-20-1]の表で示したように,Narrative fiction に大きく偏っているので,その解釈には注意を要する.以下,(1)--(7) に各動詞に関する推移の積み上げ棒グラフ,(8), (9) に7動詞をひっくるめたジャンル別,動詞別のシェアを示す積み上げ棒グラフを示す.(1)--(6) については,比較のためにY軸の最大値を揃えてある.データファイルと頻度表はソースHTMLを参照されたい.

Be Perfect with Seven Verbs


 動詞によって衰退のスピードに若干の違いがみられるが,全体として急激に衰退したというよりは,比較的穏やかに,着実に衰退していったという印象を受ける.ただし,(7) の go は(現代英語でも be gone がイディオム化して残っていることから分かるように)後期近代英語期中にはそれほど落ち込んでおらず,しかも用例数が他の動詞よりも大きく上回っているために,(8) や (9) に示されるような be 完了の衰退の全体像を多少なりとも歪めていることには注意する必要がある.

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2013-11-05 Tue

#1653. be 完了の歴史 [syntax][be][auxiliary_verb][grammaticalisation][tense][aspect][passive][perfect][participle]

 現代英語で「be + 動詞の過去分詞」は典型的に受動態を作る構造だが,一部の変移動詞 (mutative verb) では完了を表わす.

 ・ The cookies are all gone.
 ・ All my lectures are finished.
 ・ The sun is set.
 ・ How he is grown up!
 ・ Babylon is fallen.
 ・ Everything is changed.


 共時的にはこれらの例文の gonefinished などは形容詞と考えられており,完了を表わす統語構造の一部とはとらえられていない.be の代わりに have を用いることができることからもわかるとおり,be 完了は絶滅したとはいわずとも,相当に周辺的な構造といわざるを得ない.だが,behave が対立する場合には,be 完了は状態を表わし,have 完了は行為を表わすといわれる.be 完了はこのように瀕死の状態ではあるが,「#752. 他動詞と自動詞の特殊な過去分詞形容詞」 ([2011-05-19-1]),「#1347. a lawyer turned teacher」 ([2013-01-03-1]) で見たように,過去分詞形容詞の用法のなかにも一定の命脈を保っている.以下,be 完了の歴史を,『英語史IIIA』 (432--33) に拠って概説しよう.
 英語における be 完了の例は古英語期から広く見られる.古英語では,自動詞,とりわけ変移動詞について wē sindon ȝecumene のような構造は一般的だった.後期古英語になると,よくいわれるように「have + 目的語 + 過去分詞」→「have + 過去分詞 + 目的語」の語順変化を経て have 完了が文法化 (grammaticalisation) し,他動詞一般に広がった.すでに早いこの時期に have 完了はまれに自動詞にも拡張していたので,be 完了が圧迫されてゆく歴史はすでに始まっていたともいえる.しかし,変移動詞の be 完了は,その後も18世紀後半に至るまで優勢を保っていた.18世紀末になってようやく,behave に優位を明け渡すこととなった.現代における be 完了が状態を表わしているように,歴史的にも状態を表わす用法が主だったが,一方で行為を表わす用法も少なくなかった.現代的な状態の用法は,初期近代英語にかけて確立したものである.
 中英語から近代英語にかけての時期のスナップショットを見てみよう.以下は,Fridén による,Spenser の全作品,Marlowe の5作品,Shakespeare の全戯曲を対象にし,7個の主要自動詞 (come, go, arrive, fall, flee; become, grow) について,be 完了と have 完了の分布を調査したものである.なお,表下段の 's は,has あるいは is のいずれかの操作詞の前接形 (enclitic) を指す.(表は,G. Fridén. Studies on the tenses of the English Verb from Chaucer to Shakespeare: With Special Reference to the Late Sixteenth Century. Uppsala: Almqvist & Wiksells Boktryckeri Ab., 1948. Rpr. Nendeln/Liechtenstein: Kraus, 1973. に基づいた『英語史IIIA』,p. 432 より.)

動詞comegoarrivefallfleebecomegrow
作家SpMarShakSpMarShakSpMarShakSpMarShakSpMarShakSpMarShakSpMarShak
be9288789195799289836767656567828650901008990
have86139098111133332735077030113
's0690512006008033117507007


 この段階では,まだ be 完了は完全に健在であり,have 完了は fall を例外とすれば,10%ほどのシェアを占めるにすぎない.とりわけ「生成」を意味する become, grow では have 完了の割合が少ない.
 18世紀末に have 完了が be 完了を凌駕していった歴史については,Visser (2043) や Rissanen (215) を参照.

 ・ 荒木 一雄,宇賀治 正朋 『英語史IIIA』 英語学大系第10巻,大修館書店,1984年.
 ・ Visser, F. Th. An Historical Syntax of the English Language. 3 vols. Leiden: Brill, 1963--1973.
 ・ Rissanen, Matti. "Syntax." The Cambridge History of the English Language. Vol. 3. Cambridge: CUP, 1999. 187--331.

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