hellog〜英語史ブログ     ChangeLog 最新    

americanism - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-11-21 08:03

2016-12-28 Wed

#2802. John Witherspoon --- Americanism の生みの親 [ame][americanism][terminology][webster][lexicography][witherspoon]

 「アメリカ語法」を表わす Americanism という語を初めて用いたのは,初期のプリンストン大学の学長 John Witherspoon (1723--94) である.Witherspoon はスコットランド出身で,アメリカにて聖職者・教育者として活躍しただけでなく,独立宣言の署名者の1人でもある.
 この語が造られた経緯について Baugh and Cable (380--81) に詳しいが,Witherspoon は1781年に Pennsylvania Journal 9 May 1/2 において Americanism という語を初めて用いたという.彼がこの表現に与えた定義は "an use of phrases or terms, or a construction of sentences, even among persons of rank and education, different from the use of the same terms or phrases, or the construction of similar sentences in Great-Britain." である.定義に続けて,Witherspoon は,"The word Americanism, which I have coined for the purpose, is exactly similar in its formation and signification to the word Scotticism." と述べている.実際,Scotticism という語は,OED によると時代的には1世紀半近く遡った1648年の Mercurius Censorius No. 1. 4 に,"It seemes you are resolved to..entertain those things which..ye have all this while fought against, the Scotticismes, of the Presbyteriall government and the Covenant." として初出している.
 Witherspoon は Americanism という語を最初に用いたとき,そこに結びつけられがちな「卑しいアメリカ語法」という含意を込めてはいなかった.彼曰く,"It does not follow, from a man's using these, that he is ignorant, or his discourse upon the whole inelegant; nay, it does not follow in every case, that the terms or phrases used are worse in themselves, but merely that they are of American and not of English growth." ここには,イギリス(英語)に対して決して卑下しない,独立宣言の署名者らしい独立心を読み取ることができる.
 タイトルに Americanism の語こそ含まれていなかったが,最初のアメリカ語法辞書が著わされたのは,造語から35年後の1816年のことである.John Pickering による A Vocabulary, or Collection of Words and Phrases which have been supposed to be Peculiar to the United States of America である.しかし,この辞書はむしろイギリス(英語)寄りの立場を取っており,アメリカ語法が正統なイギリス英語から逸脱していることを示すために用意されたとも思えるものである.同じアメリカ人ではあるが愛国主義者だった Noah Webster が,Pickering の態度に業を煮やしたことはいうまでもない.この Pickering と Webster の立場の違いは,後世に続く Americanism を巡る議論の対立を予感させるものだったといえる.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

Referrer (Inside): [2017-10-10-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2011-12-18 Sun

#965. z の文字の発音 (2) [z][alphabet][ame_bre][alphabet][new_zealand_english][americanism]

 昨日の記事「#964 z の文字の発音 (1)」 ([2011-12-17-1]) の話題について,もう少し調べてみたので,その報告.
 アメリカ英語での zee としての発音について,Mencken (445) が次のように述べている.

The name of the last letter of the alphabet, which is always zed in England and Canada, is zee in the United States. Thornton shows that this Americanism arose in the Eighteenth Century.


 この記述だと,zee の発音はアメリカ英語独自の刷新ということになるが,昨日も触れたように,zee の発音は周辺的ではあったが近代英語期のイギリス英語にれっきとして存在していたのだから,誤った記述,少なくとも誤解を招く記述である.より正しくは,Cassidy and Hall (191) の記述を参考にすべきだろう.

Though zed is now the regular English form, z had also been pronounced zee from the seventeenth century in England. Both forms were taken to America, but evidently New Englanders favored zee. When, in his American Dictionary of the English Language (1828), Noah Webster wrote flatly, "It is pronounced zee," he was not merely flouting English preference for zed but accepting an American fait accompli. The split had already come about and continues today.


 昨日も記した通り,歴史的には z の発音の variation は英米いずれの変種にも存在したが,近代以降の歴史で,各変種の標準的な発音としてたまたま別の発音が選択された,ということである.アメリカ英語独自あるいはイギリス英語独自という言語項目は信じられているほど多くなく,むしろかつての variation の選択に際する相違とみるべき例が多いことに注意したい.
 なお,ニュージーランド英語では,近年,若年層を中心に,伝統的なイギリス発音 zed に代わって,アメリカ発音 zee が広がってきているという.Bailey (492) より引用しよう.

In data compiled in the 1980s, children younger than eleven offered zee as the name of the last letter of the alphabet while all those older than thirty responded with zed.


 ・ Mencken, H. L. The American Language. Abridged ed. New York: Knopf, 1963.
 ・ Cassidy Frederic G. and Joan Houston Hall. "Americanisms." The Cambridge History of the English Language. Vol. 6. Cambridge: CUP, 2001. 184--252.
 ・ Bailey, Richard W. "American English Abroad." The Cambridge History of the English Language. Vol. 6. Cambridge: CUP, 2001. 456--96.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2010-04-21 Wed

#359. American English or British English? の解答 [ame_bre][quiz][hel_education][americanism]

 今回は,[2010-04-19-1]の英米差クイズの正解を公表する.こちらのPDFからどうぞ.
 クイズは,英米差の目安である.英米差と一口にいっても,どちらかの変種でしか使われない表現というのは少ない.多くの場合,相対的な頻度として英米間に差があると考えるのが妥当だろう.近年のアメリカ語法 ( Americanism ) がイギリス英語(のみならず世界中の英語)に与えている影響の大きさを考えると,英米差は日々小さくなっているのであり,特に語彙対照リストなどは今後あまり意味をなさなくなってくるのかもしれない.この点について,"Americanism" ではなく "Americanization" を語るほうが適切だとする Svartvik and Leech の主張を引用しよう.

The notion of 'Americanism' itself is a moving target, and it is no longer practical to try to list Americanisms as in a glossary. Perhaps, indeed, the concept of 'Americanism' has had its day, and is giving way to the concept of 'Americanization' --- the ongoing and often unnoticed influence of the New World on the Old. (159)


 ・ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2009-09-17 Thu

#143. Thomas Jefferson の造語 [americanism][suffix]

 造語能力の高さはアメリカ英語の主な特徴の一つだが,そうしてできたアメリカ語法 ( Americanism ) はときにアメリカ内外の英語話者から非難されることがある.「アメリカかぶれだ」とか「品位がない」とか主観的な理由であることが多く,時とともにそれが浸透し,知らず知らずのうちに皆が日常的に使っているということも多々ある.
 このような Americanism の一つとして,後にアメリカの第3代大統領となる Thomas Jefferson が1782年に造語した belittle 「?を小さくする;?の価値を下げる」の例を紹介しよう.彼がこの語を初めて用いたとき,政敵から激しい非難があった.この非難は,このような語を作り出してしまう Jefferson の自由主義思想に対する非難であって,純粋に言語的な根拠に基づいた非難ではなかった.
 例えば,Americanism を研究した Robley Dunglison は,アメリカ語法 ( Americanism ) ではなく個人語法 ( indivisualism ) だといって,まじめに取り扱っていない.また,The American Dictionary of the English Language を著した Noah Webster も,本来は Americanism びいきであるはずだが,1828年出版の辞書のなかで,"rare in America, not used in England" と言っており,Jefferson の造語を評価してないようだ.しかし,Mencken によれば,実際にはその頃すでに belittle はアメリカでは一般的な語となっていたようである.そればかりか,その語はイギリスにも渡りつつあったという.
 現在では,この動詞は広く一般に受け入れられており,当時の非難は一体なんだったのかと思わせるほどである.新語の運命というのは,現れた当初には正しく評価できないもののようだ.
 形容詞に接尾辞 be- がついて動詞を作る例は多くはないが,他には befoul 「汚す;けなす」や benumb 「しびれさせる」がある.例が少ないということは一般的な造語法ではなかったということだが,それではなぜ Jefferson が be- という接頭辞で造語したのか.この辺りは個人の造語のセンスということになるのだろう.確かに indivisualism と呼びたくなる気もわからないではない.

 ・Mencken, H. L. The American Language. Abridged ed. New York: Knopf, 1963. Pages 5 and 50.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow