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slavic - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-11-20 09:36

2019-04-04 Thu

#3629. ウクライナにおけるロシア語 [map][russian][ukrainian][sociolinguistics][slavic][language_shift]

 クリミア半島情勢を巡ってウクライナ共和国が揺れている.目下,ウクライナは大統領選の最中だが,争っている候補者たちは反ロシア,新欧米の路線という点では一致している.
 ウクライナとロシアの問題は,互いにスラヴという言語・民族・文化上の共通点があるがゆえに厄介だ.このような構図は古今東西ありふれているが,ありふれているからといって解決がたやすいわけではない.むしろ逆のことが多いだろう.
 ウクライナ語とロシア語の関係についていえば,「#1469. バルト=スラブ語派(印欧語族)」 ([2013-05-05-1]) で触れたとおり「Ukrainian はウクライナで約5000万人によって話されている大言語だが,国内では歴史的に威信のあるロシア語と競合しており,民族主義的な運動によりロシア語からの区別化が目指されている」というように,ウクライナ語話者の意識的なロシア語からの離反がある."sociolinguistic distancing" の典型例といってよいだろう.一方,歴史的にはウクライナ語からロシア語への言語交替 (language_shift) が生じてきたために,現在まで状況が複雑化してきたのである(「#1540. 中英語期における言語交替」 ([2013-07-15-1]) で関連した事情に一言触れてある).
 現代のウクライナにおける言語分布について,やや古いが2001年の国税調査の結果が3月29日の読売新聞朝刊に掲載されていた.リビウ,イワノ・フランコフスク,キエフなどの中部・西部諸州ではウクライナ語が圧倒しているが,南部のオデッサ州ではほぼ半々であり,東部のドネツク州や目下問題のクリミア自治共和国ではロシア語が圧倒している.国家全体としてみれば,,ウクライナ語が約2/3と上回っているが,社会言語学的不安定さは容易に予想される比率である.  *
 ウクライナといえば,印欧祖語の故地の有力候補ともなっており,歴史言語学の世界でも名の知られた国である(cf. 「#637. クルガン文化印欧祖語」 ([2011-01-24-1])).また,英語語彙との絡みでいえば,「#834. ウクライナ語からの借用語」 ([2011-08-09-1]) にも注意したいところである.そして,上にも述べたように,意外かもしれないが,母語話者人口でいえば3千万人を超える,世界30位程度にランクインする大言語であることも銘記しておきたい.
 ウクライナ大統領選の行方も要注目だ.

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2013-11-11 Mon

#1659. マケドニア語の社会言語学 [linguistic_area][map][slavic][history][dialect_continuum][sociolinguistics][ethnic_group]

 バルカン諸国 (the Balkans) における民族・宗教・言語の分布が複雑なことはよく知られている.バルカン半島は,「#1314. 言語圏」 ([2012-12-01-1]) を形成しており,「#1374. ヨーロッパ各国は多言語使用国である」 ([2013-01-30-1]) の好例となっており,「#1636. Serbian, Croatian, Bosnian」 ([2013-10-19-1]) という社会言語学的な問題を提供しているなどの事情により,社会言語学上,有名にして重要な地域となっている.以下,Encylopædia Britannica 1997 より同地域の民族分布図を以下に掲載する.言語分布図については,今回の話題に関するところとして Ethnologue より Greece and The Former Yugoslav Republic of Macedonia と,「#1469. バルト=スラブ語派(印欧語族)」 ([2013-05-05-1]) で言及した Distribution of the Slavic languages in Europe を挙げておこう.

Ethnic Map of the Balkans

 マケドニア共和国 (The Former Yugoslav Republic of Macedonia) は,人口約200万を擁するバルカン半島中南部の内陸国である.国民の2/3以上がマケドニア語 (Macedonian) を用いており,公用語となっているが,国内で最大の少数民族であるアルバニア人によりアルバニア語 (Albanian) も話されている(人口統計等は Ethnologue より Macedonia を参照されたい).マケドニア語は South Slavic 語群の言語で,Serbian や Bulgarian と方言連続体を形成している.後述するように,マケドニア語は,この南スラヴの方言連続体と,従属の歴史ゆえに,現在に至るまで言語の autonomy の問題に苦しめられている.
 マケドニア人とこの土地の歴史は古い.Alexander the Great (356--23 BC) を輩出した古代マケドニア王国は西は Gibraltar から東は Punjab までの広大な帝国を支配した.古代マケドニア語 (Ancient Macedonian) は南スラヴ系の現代マケドニア語 (Macedonian) とはまったく系統が異なり,またギリシア語とも区別されると言われるが,ギリシア人は古代マケドニア語をギリシア語の1方言とみなしてきた経緯がある.ギリシアはギリシア語の autonomy に対する古代マケドニア語の heteronomy という主従関係を政治的に利用して,マケドニアを自らに従属するものとみなしてきたのである.ギリシア北部には歴史的に Makedhonia を名乗る州もあり,マケドニアにとっては南に隣接するギリシアから大きな政治的圧力を感じながら,国を運営していることになる.実際,ギリシアはマケドニア共和国の独立を,主権侵害とみなしている.
 さて,紀元後の話しに移る.マケドニアは6世紀にビザンティン帝国の一部であったが,550--630年の間に,この地にカルパチア山脈の北からスラヴ民族が侵入した.以来,マケドニアの支配的な言語はギリシア語とスラヴ語の間で交替したが,15世紀末にはオスマン帝国の一部に組み込まれた.1912--13年のバルカン戦争ではセルビア人の支配下に入り,1944年にはユーゴスラヴィア共和国へ統合された.この従属の歴史の過程で,マケドニアで話されていた南スラヴ語は,セルビア人にとってはセルビア語の1方言とみなされ,ブルガリア人にとってはブルガリア語の1方言とみなされ,自らの言語的な autonomy を獲得する機会をもつことができなかった.現在でも,セルビア人やブルガリア人はマケドニア語の自立性を,すなわちその存在を認めていない.マケドニアにおいては,政治的従属の歴史は言語的従属の歴史だったといってよい.
 このように複雑な歴史をたどってきたにもかかわらず,マケドニアという呼称が土地名,国名,民族名,言語名に共通に用いられていることが問題を見えにくくしている.古代マケドニア語(民族)と現代マケドニア語(民族)は指示対象が異なるというのもややこしい.周辺の3国は,この混乱を利用してマケドニアへの政治的圧力をかけてきたのであり,マケドニア語は,その後ろ盾となるはずの独立国家が成立した後となっても,いまだ不安定な立場に立たされている.autonomy 獲得に向けての道のりは険しい.
 以上,Romain (15--17) を参照して執筆した.

 ・ Romain, Suzanne. Language in Society: An Introduction to Sociolinguistics. 2nd ed. Oxford: OUP, 2000.

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2013-05-05 Sun

#1469. バルト=スラブ語派(印欧語族) [indo-european][family_tree][balto-slavic][slavic][indo-european_sub-family][map]

 印欧語族の語派解説シリーズ (see indo-european_sub-family) の第6弾で,Baugh and Cable (30--32) により,バルト=スラブ語派 (Balto-Slavic or Balto-Slavonic) について解説する.
 この語派は,ヨーロッパ東部の大域を覆う語派である.その名の示すとおりバルト語群 (the Baltic subfamily) とスラブ語群 (the Slavic subfamily) に大別されるが,互いに多くの共通の特徴を有しており,他の語派に比べて内部の近親性は高い.
 バルト語群には,Old Prussian, Latvian, Lithuanian の3言語が属する.Old Prussian は17世紀にドイツ語によって置換され,現在では死語となっている.一方,Latvia はラトビア共和国の約200万人の言語,Lithuanian はリトアニア共和国の約300万人の言語として健在である.やや誇張して言われることだが,とりわけ Lithuanian は古い語法をよく保っており,リトアニアの農夫は単純な Sanskrit の語句を理解することすらできるという.
 次に,スラブ語群に移ろう.スラブ語群の諸言語は7--8世紀まではおよそ一様だったと想定されている.スラブ語群に関する最も古い文献は,9世紀に兄弟宣教師 Cyril (827--69) と Methodius (825?--84) によって翻訳された聖書の一部と祈祷文に残されている.この言語は南スラブ語群に属し,Old Church Slavonic や Old Bulgarian として言及されるが,スラブ語群の共通の祖語にかなり近いとされる.中世から近代に至るまで正教会の言語として権威を保っていた.
 スラブ語群は大きく East Slavic, West Slavic, South Slavic に3区分される.East Slavic に属する主要な言語は,Russian, Belorussian, Ukrainian である.Russian は約1億7500万人に話されている大言語で,ロシアの公用語,文学語である.Belorussian はベラルーシや隣接するポーランドの地域で約900万人よって話される言語である.Ukrainian はウクライナで約5000万人によって話されている大言語だが,国内では歴史的に威信のあるロシア語と競合しており,民族主義的な運動によりロシア語からの区別化が目指されている.
 West Slavic には,4つの主要な言語が属する.Polish は語群内で最大の話者を有している.話者はポーランド国内の約3600万人にとどまらず,米国その他へ移民した約500万人以上をも含む.次に,Czech と Slovak はそれぞれ100万人,500万人ほどの話者を有し,互いに理解可能である.最後に,Sorbian はドイツの Dresden の北東部という限られた地方で10万人ほどによって話されている小さい言語である.
 East Slavic と West Slavic は地理的に連続して分布しているが,South Slavic の地域はイタリック語派の Romanian や非印欧語族の Hungarian によって他のスラブ語派から分断されている.また,South Slavic は旧ユーゴスラビアの諸言語として,その分裂以降,相互に複雑な社会言語学的状況を呈している.South Slavic に属する主要な言語は Bulgarian, Serbian, Croatian, Slovene, Macedonian (古代マケドニア語と系統的に区別される現代マケドニア語)である.Bulgarian は歴史的にはバルカン半島の東部で話されていた言語で,その地が他民族に征服された後にもかえって征服者の言語を逆征服して生き残った言語である.日常語としての現代ブルガリア語はトルコ語からの多くの借用語を含んでいるが,文学語としての変種はロシア語に近い.Serbian と Croatian は互いに文字体系は異なっているものの言語的には同一であり,政治的分裂以前には Serbo-Croatian と一括して呼称されていた.さらに,政治・宗教・民族的な対立により,やはり言語的にはほぼ同一の Bosnian も区別されるようになってきた.Slovenia は,スロベニアの約150万人によって話されている.
 スラブ語群の分布図は,Distribution of the Slavic languages in Europe を参照.  *

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.

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2011-04-12 Tue

#715. Britannica Online で参照できる言語地図 [indo-european][germanic][slavic][me_dialect][oe_dialect][comparative_linguistics][map][link]

 Encyclopedia - Britannica Online Encyclopedia より,英語史に関連する有益な言語地図がいくつか参照できる.ズームできるのでプレゼンに便利.以下にリンクを張っておく.

 ・ Approximate locations of Indo-European languages in contemporary Eurasia (関連して印欧語族の系統図は,[2009-06-17-1], [2010-07-26-1]を参照.)  *  
 ・ Distribution of the Germanic languages in Europe (関連してゲルマン語派の系統図は,[2009-10-26-1]を参照.)  *
 ・ Distribution of Romance languages in Europe  *
 ・ Distribution of the Slavic languages in Europe  *
 ・ The distribution of Old English dialects  *
 ・ The distribution of Middle English dialects (中英語方言区分については,[2009-09-04-1]を参照.)  *
 ・ English Language Imperialism: The English Language Across the World (世界における英語の広がりについては,[2010-05-08-1]を参照.)  *

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