hellog〜英語史ブログ     ChangeLog 最新    

context - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-11-17 12:29

2019-08-25 Sun

#3772. Wittgenstein の「言語ゲーム」 (2) [function_of_language][language-game][context][speech_act][pragmatics][semantics][terminology][philosophy_of_language]

 昨日の記事 ([2019-08-24-1]) で Wittgenstein の言語ゲーム (Sprachspiel, language-game) に触れた.Bussmann (262) の用語辞典の定義によると次の通り.

language game
L. Wittgenstein's term referring to complex units of communication that consist of linguistic and non-linguistic activities (e.g. the giving of and complying with commands in the course of collaborating on the building of a house). Signs, words, and sentences as 'tools of language' have in and of themselves no meaning; rather meaning is derived only from the use of these items in particular contexts of language behavior.


 論理実証主義 (logical positivism) から転向した後の Wittgenstein の,このような コンテクスト重視の言語観や意味観は,後の日常言語哲学 (ordinary language philosophy) に大きな影響を与え,発話行為 (speech_act) を含めた語用論 (pragmatics) の発展にも貢献した."the meaning of a word is its use in the language" という意味のとらえ方は,なお問題があるものの,1つの見解とみなされている.
 意味の意味に関連して「#1782. 意味の意味」 ([2014-03-14-1]),「#1990. 様々な種類の意味」 ([2014-10-08-1]),「#2199. Bloomfield にとっての意味の意味」 ([2015-05-05-1]),「#2794. 「意味=定義」説の問題点」 ([2016-12-20-1]),「#2795. 「意味=指示対象」説の問題点」 ([2016-12-21-1]) などの内容とも比較されたい.

 ・ Bussmann, Hadumod. Routledge Dictionary of Language and Linguistics. Trans. and ed. Gregory Trauth and Kerstin Kazzizi. London: Routledge, 1996.

Referrer (Inside): [2019-08-26-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2018-03-17 Sat

#3246. 制限コードと精密コード [sociolinguistics][terminology][context][style]

 標題は,現在でも社会言語学においてたまに出会う用語・概念である.制限コード (restricted code) と洗練コード (elaborated code) は,対立する2つの言語使用形態を表わす.制限コードは,比較的少ない語彙や単純な文法構造を用いた,文脈依存性の高い言葉遣いである.一方,精密コードは,豊富な語彙と洗練された文法構造を用いた,文脈依存性の低い言葉遣いである.極端ではあるが,子供の用いるインフォーマルな話し言葉と,大人の用いるフォーマルな書き言葉の対立をイメージすればよい.
 この用語がある種の問題を帯びたのは,用語の導入者であるイギリスの社会言語学者 Basil Bernstein が,異なる階級の子供たちの言葉遣いを区別するのにそれを用いたからである.中流階級の子供は両コードを使えるが,労働者階級の子供は制限コードしか使えないという点を巡って,それが各階級の言語習慣の問題なのか,あるいは知性そのものの問題なのかという議論が持ち上がり,教育上の論争に発展した.現在では知性とは関係ないとされているものの,用語のインパクトは強く,いまなお健在である.
 Crystal の用語集より,"restricted" と "elaborated" の説明をみておこう.

restricted (adj.) A term used by British sociologist Basil Bernstein (1924--2000) to refer to one of two varieties (or codes) of language use, introduced as part of a general theory of the nature of social systems and social roles, the other being elaborated. Restricted code was thought to be used in relatively informal situations, stressing the speaker's membership of a group, was very reliant on context for its meaningfulness (e.g. there would be several shared expectations and assumptions between the speakers), and lacked stylistic range. Linguistically, it was highly predictable, with a relatively high proportion of such features as pronouns, tag questions, and use of gestures and intonation to convey meaning. Elaborated code, by contrast, was thought to lack these features. The correlation of restricted code with certain types of social-class background, and its role in educational settings (e.g. whether children used to this code will succeed in schools where elaborated code is the norm --- and what should be done in such cases), brought this theory considerable publicity and controversy, and the distinction has since been reinterpreted in various ways.


elaborated (adj.) A term used by the sociologist Basil Bernstein (1924--2000) to refer to one of two varieties (or codes) of language use, introduced as part of a general theory of the nature of social systems and social rules, the other being restricted. Elaborated code was said to be used in relatively formal, educated situations; not to be reliant for its meaningfulness on extralinguistic context (such as gestures or shared beliefs); and to permit speakers to be individually creative in their expression, and to use a range of linguistic alternatives. It was said to be characterized linguistically by a relatively high proportion of such features as subordinate clauses, adjectives, the pronoun I and passives. Restricted code, by contrast, was said to lack these features. The correlation of elaborated code with certain types of social-class background, and its role in educational settings (e.g. whether children used to a restricted code will succeed in schools where elaborated code is the norm --- and what should be done in such cases), brought this theory considerable publicity and controversy, and the distinction has since been reinterpreted in various ways.


 英語史上,制限コードに関連して取り上げられ得る話題は,「#3043. 後期近代英語期の識字率」 ([2017-08-26-1]) で見たような識字率の問題だろう.両コードの区別を念頭に,書き言葉というメディアと識字教育の歴史を再検討してみるとおもしろいかもしれない.

 ・ Crystal, David, ed. A Dictionary of Linguistics and Phonetics. 6th ed. Malden, MA: Blackwell, 2008. 295--96.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2017-01-28 Sat

#2833. PC の変質と拡大 [political_correctness][sociolinguistics][taboo][euphemism][context]

 「#2827. PC の歴史」 ([2017-01-22-1]),「#2832. PC の特異な点」 ([2017-01-27-1]) に関連して,political_correctness という社会言語学上の運動について.今回は,誕生から半世紀ほどを経た PC が時間のなかでどのように変質・拡大してきたか,Hughes に従って考えてみたい.
 3点ほど指摘できるように思われる.1つは,PC がいくつかの段階を経て社会に受容されてきたという点である.PC は当初はあるイデオロギーをもった内集団で用いられ始めた.それが,内集団の外へも広がっていき,社会的に認知されるようになった.例えば,"political correctness" などのキーワードそれ自体が広く知れ渡ることになった.次に,批判的な反応が,とりわけ皮肉やパロディなどの形で目立つようになってきた.さらに,反抗的な反応として,あえて "politically incorrect language" を用いる "shock jocks" や "rappers" のような存在も現われてきた.このように,PC は受容の拡大と否定的な反応という段階を経ながら成長してきた.しかし,おもしろいのは否定的な反応が目立つようになったとはいえ,PC それ自体は決して失われていないことだ.Hughes (283) は,"Although discredited and mocked, it refuses to go away but appears in new guises." と述べ,これを "the paradox of political correctness" と呼んでいる.
 2つ目に,PC が流行に乗るにつれ,カバーする領域が拡散し,明確に定義できなくなってきたということがある.性や職業名などの問題に始まったが,新しいところでは外見,動物の権利,環境に関する問題まで,広く PC の問題として内包されるようになった.Hughes (284) が挙げている PC の対象となる分野のリストによれば,"fatness, appearance, stupidity, diet, crime, prostitution, race, homosexuality, disability, animal rights, the environment, and still others" が含まれている.別の言い方をすれば,言語や態度や行動のタブー (taboo) の領域が以前と比べて拡大してきた,ということだろう.PC とは,1つの見方によれば,タブー領域の拡大だったのである!
 3つ目に,PC の焦点が,PC 用語のもつ意味的・形態的な側面よりも,誰が誰に対して,いつ,どのような状況でそれを用いるかというコンテクストに当てられるようになってきた.Hughes (286) 曰く,"political correctness has increasingly become less absolute and more contextual, that is to say the emphasis is increasingly less on what is said, but more on who said it and when." 例えば,白人が黒人を指すのに侮蔑的な用語を使うのと,黒人が自らを指すのに同じ用語を使うのとでは,その効果はまったく異なる.用語そのものの問題ではなく,語用的な問題が意識されるようになってきたということだろう.
 このように,PC とは社会とともに成長してきた概念である.

 ・ Hughes, Geoffrey. Political Correctness: A History of Semantics and Culture. Malden, ML: Wiley Blackwell, 2010.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2016-12-19 Mon

#2793. コンテクストの種類 (2) [context][register][pragmatics][communication]

 「#2122. コンテクストの種類」 ([2015-02-17-1]) で扱った話題について再考する.言語におけるコンテクスト (context) と一言でいっても,その内容や分類法については様々な立場がある.今回は,Crystal (322--23) の与えている3要素を紹介しよう.

 ・ Setting: The time and place in which a communicative act occurs, such as in church, during a meeting, at a distance, or upon leave-taking.
 ・ Participants: The number of people who take part in an interaction, and the relationships between them, such as the addressee(s) and bystander(s).
 ・ Activity: The type of activity in which a participant is engaged, such as cross-examining, debating or having a conversation.


 それぞれ,言語行動に関する when/where, who, what におよそ相当すると考えてよいだろう.これら3要素の組み合わせにより広い意味での「文脈」が定まり,それにより,話者は言語使用に際して何らかの制限が課されることになる.どのような点について制限されるかといえば,例えば次の4項目が考えられる.

 ・ Channel: They influence the medium chosen for the communication (e.g. speaking, writing, signing, whistling, singing, drumming) and the way it is used.
 ・ Code: They influence the formal systems of communication shared by the participant, such as spoken English, written Russian, American Sign Language, or some combination of these.
 ・ Message form: They influence the structural patterns that identify the communication, both small-scale (the choice of specific sounds, words, or grammatical constructions) and large-scale (the choice of specific genres).
 ・ Subject matter: They influence the content of the communication, both what is said explicitly and what is implied.


 これらを総合すると,例えばキリスト教の説教師が置かれる典型的なコンテクストは,次のようなものとなる.説教師 (participant) が,日曜日の朝に教会 (setting) で,信徒の集団 (participants) に向かって,英語の独り言 (code) という話し言葉 (channel) で,説教 (activity) を行なう.その際,宗教を語るにふさわしい文体や構成 (message form) で,精神的な話題 (subject matter) について語るだろう.逆からみれば,このようなすべての要件が合わさると,いかにも「説教」というコンテクストができあがるともいえる.
 当然ながら,コンテクストは,使用域 (register) やジャンル (genre) の問題とも不可分である(「#839. register」 ([2011-08-14-1]) を参照).また,より広い立場から,「#1996. おしゃべりに関わる8要素 SPEAKING」 ([2014-10-14-1]) や「#1326. 伝え合いの7つの要素」 ([2012-12-13-1]) も関連するだろう.

 ・ Crystal, David. How Language Works. London: Penguin, 2005.

Referrer (Inside): [2016-12-20-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2015-02-17 Tue

#2122. コンテクストの種類 [context][pragmatics][terminology][deixis][cooperative_principle][discourse_marker][demonstrative]

 言語使用の現場において,聞き手は話し手の発した発話に伴う意味論的な意味の上に,コンテクスト (context) などを参照して得られる語用論的な意味を付加して,全体としての意味を把握すると考えられている.コンテクスト参照のほかにも協調の原則,前提,含意など種々の語用論的演算に依拠して意味全体をとらえているものと想定されるが,ここではコンテクストに的を絞って,その種類を分類しておこう.
 東森 (13--15) によれば,発話に伴うコンテクスト (context) あるいは状況 (situation) には4つが区別されるという.

 (1) 発話状況 (utterance situation) あるいは物理的状況 (physical environment) .発話が行われている時間,場所.話者の動作や目配せなどのノンバーバル・コミュニケーション.例えば,発話しているのが朝か晩かにより Good morning.Good evening. かで挨拶を代える必要があるだろうし,発話している場所に応じて herethere の指示対象も変異する.また,ある飲み物を注ぎながら I'll pour. と言うとき,物理的状況から明らかなので,動詞の目的語を省略することが可能である.
 (2) 談話状況 (discourse situation) .談話は前後する発話の連続体であり,その流れのなかで理解されるべき事項がある.前の発話を参照して代名詞の内容を復元したり,省略された語句を補うようなこと.また,談話標識 (discourse marker) は前後の談話を何らかの関係で結ぶ働きをする点で,談話状況に敏感である.
 (3) 認知状況 (cognitive environment) .「世界についての話し手,聞き手の情報,そしてその情報のどれだけの部分がお互いの間で共有されているかといったことに関する認知状況」(東森,p. 14).皮肉や推論などの高度な語用論的言語使用では,しばしば聞き手には百科事典的な知識が豊富に求められる.例えば,談話のなかで一見指示対象のなさそうな she が突然用いられた場合,それは世間で今話題をさらっている女性を指している可能性がある.
 (4) 社会的状況 (social environment) .呼称語 (address term) や敬語を含むポライトネス (politeness) 表現は,話し手と聞き手の社会的な関係がわかっていなければ,正しく理解することができない.

 発話はそれだけで意味論的に理解されて終わっているわけではなく,多様で豊富なコンテクストからの入力を参照して語用論的にも解析されている.上にも示唆したが,この語用論的解析がとりわけ直接に関与するのが直示性 (deixis) の表現だ.人称詞や指示詞が典型だが,例えば this という指示詞の内容は,発話状況,談話状況,認知状況のいずれかを参照しなければ理解できないだろうし,後期中英語の thou は,発話状況や社会的状況を考慮せずには正しく理解できないだろう.

 ・ 東森 勲 「意味のコンテキスト依存性」 『語用論』(中島信夫(編)) 朝倉書店,2012年,13--32頁.

Referrer (Inside): [2016-12-20-1] [2016-12-19-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow