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oe - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2025-01-22 08:04

2025-01-10 Fri

#5737. 語源,etymology, veriloquium [etymology][terminology][greek][latin][oe][aelfric]

 下宮忠雄(著)『歴史比較言語学入門』(開拓社,1999年)の第9章は「語源学」と題されている.『スタンダード英語語源辞典』の編者の1人でもあるし,思い入れの強い章かと想像される.下宮 (131) は第9章の冒頭でこう書いている.

 言語学概論の1年間の授業が終わったあとで,何が印象に残っているか,何が面白かったかを試験問題の最後に問うと,語源と意味論という返事が圧倒的に多い.言語の研究は古代ギリシアに始まるが,そこでは,文法 (grammar) と語源 (etymology) が言語研究の2つの柱だった.
 単語は一つ一つが歴史を持っている.語源 (etymology) は単語の本来の意味(これをギリシア語では etymon という)を探り,その歴史を記述する.したがって,意味論とも大いに関係をもっている.Cicero (キケロー)はギリシア語の etymologia を vēriloquium (vērum 「真実」,loquium 「語ること,ことば」)とラテン語に訳したが,修辞学者 Quintilianus [クウィンティリアーヌス]が etymologia にもどし,これが西欧諸国に伝わって今日にいたっている.grammar も etymology も2千年以上も前のギリシア人が創造した用語である.


 「語源」を意味する語が,西洋語の歴史において変遷してきたというのは知らなかった.ギリシア語由来の etymology の響きは高尚で好きだが,キケローのラテン語 vēriloquium も味わいがある.いずれも英語本来語でいえば true word ほどである.そこに日本語あるいは漢語の「語源」に含まれる「みなもと」の意味要素が(少なくとも明示的には)含まれていない点がおもしろい.
 ちなみに,ギリシア語由来ながらもラテン語に取り込まれていた ethymologia の単語は,古英語でも術語として受容されていたようで,OED によると Ælfric, Grammar (St. John's Oxford MS.) 293 に文証される.

Sum þæra [sc. divisions of the art of grammar] hatte ETHIMOLOGIA, þæ is namena ordfruma and gescead, hwi hi swa gehatene sind.


 この時点ではあくまでラテン単語としての受容にすぎなかったとはいえ,英語文化において etymology は相当に長い歴史をもっているといえる.

(以下,後記:2025/01/12(Sun))

 ・ heltalk 「ラテン語で「語源」を意味する veriloquium もカッコいいですね」 (2025/01/10)
 ・ heldio 「#1322. word-lore 「語誌」っていいですよね」 (2025/01/11)

 ・ 下宮 忠雄 『歴史比較言語学入門』 開拓社,1999年.
 ・ 下宮 忠雄・金子 貞雄・家村 睦夫(編) 『スタンダード英語語源辞典』 大修館,1989年.

Referrer (Inside): [2025-01-19-1] [2025-01-12-1]

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2024-12-23 Mon

#5719. ギリシア語が英語に影響を与えた3つの型 [greek][latin][borrowing][loan_word][lexicology][word_formation][derivation][compounding][oe][prestige][combining_form][morphology][scientific_name][scientific_english][link]

 ギリシア語が英語に与えた語彙的影響は,ラテン語やフランス語のそれに比べると見劣りするように思われるかもしれないが,実際にはきわめて大きい.語彙そのものというより,むしろ語形成 (word_formation) に与えた影響が大きい,といったほうが適切かもしれない.とりわけ連結形 (combining_form) を用いた科学系の複合語の形成は,ギリシア語の偉大な貢献である.
 Durkin (231) は,英語史におけるギリシア語の影響について,広い視野から次のように述べている.

Between C5 and C8-9, the Greek liberal arts education was revived, first by the Ostrogoths, later by the Carolingians, and Greek gained special prestige. Writers liberally sprinkled their woks with Greek words, many of which found their way into other languages of Europe, including Old English. Particularly noteworthy are the glossarial poems from Canterbury with words like apoplexis, liturgia, spasmus. Since then, Greek medical doctrine and the terms associated with it became the major part of English medical lexis . . . . More general scientific vocabulary from Greek has mushroomed since C18 . . . .
. . . .
   Greek influence on English, then, is restricted to the lexicon, (limited) derivation, and compounding. Words entered English initially through Roman borrowings, then through direct borrowing from Ancient Greek writers, more recently through word formation (combining roots and affixes) in English.


 ギリシア語の英語への影響には,3パターンあるいは3段階があったとまとめてよいだろう.

 (1) ラテン語を経由して(中世から)
 (2) 直接ギリシア語から(近代以降)
 (3) ギリシア語「要素」を用いた英語内での造語(近代以降,特に18世紀以降;「科学用語新古典主義的複合語」 (neo-classical compounds) あるいは「英製希語」と呼んでもよいか)

 いずれのパターンについても,ギリシア語に付された威信 (prestige) を反映して学術用語の造語が圧倒的である.関連する話題として,以下の hellog 記事も参照.

 ・ 「#516. 直接のギリシア語借用は15世紀から」 ([2010-09-25-1])
 ・ 「#552. combining form」 ([2010-10-31-1])
 ・ 「#616. 近代英語期の科学語彙の爆発」 ([2011-01-03-1])
 ・ 「#617. 近代英語期以前の専門5分野の語彙の通時分布」 ([2011-01-04-1])
 ・ 「#1694. 科学語彙においてギリシア語要素が繁栄した理由」 ([2013-12-16-1])
 ・ 「#3014. 英語史におけるギリシア語の真の存在感は19世紀から」 ([2017-07-28-1])
 ・ 「#3013. 19世紀に非難された新古典主義的複合語」 ([2017-07-27-1])
 ・ 「#3166. 英製希羅語としての科学用語」 ([2017-12-27-1])
 ・ 「#3179. 「新古典主義的複合語」か「英製羅語」か」 ([2018-01-09-1])
 ・ 「#3368. 「ラテン語系」語彙借用の時代と経路」 ([2018-07-17-1])
 ・ 「#4191. 科学用語の意味の諸言語への伝播について」 ([2020-10-17-1])
 ・ 「#4449. ギリシア語の英語語形成へのインパクト」 ([2021-07-02-1])
 ・ 「#5718. ギリシア語由来の主な接尾辞,接頭辞,連結形」 ([2024-12-22-1])

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2024-12-08 Sun

#5704. 朝カルシリーズ講座の第8回「英語,オランダ語と交流する」をマインドマップ化してみました [asacul][oe][dutch][mindmap][notice][kdee][etymology][hel_education][lexicology][vocabulary][heldio][link]

 11月30日に,今年度の朝日カルチャーセンター新宿教室でのシリーズ講座の第8回が開講されました.今回は「英語,オランダ語と交流する」と題して,英語史ではあまり注目されることのないオランダ語との言語接触について論じました.企画時には90分の講義に値するテーマかどうか自問していましたが,資料を準備する段になって,それが杞憂であることがわかりました.対面およびオンラインで,多くの方々にご参加いただき,ありがとうございました.
 講座の内容を,markmap というウェブツールによりマインドマップ化して整理してみました(画像としてはこちらからどうぞ).受講された方は復習用に,そうでない方は講座内容を垣間見る機会としてご活用ください.



 今回のシリーズ第8回については hellog と heldio の過去回でも取り上げていますので,ご参照ください.

 ・ hellog 「#5689. 11月30日(土)の朝カルのシリーズ講座第8回「英語,オランダ語と交流する」のご案内」 ([2024-11-23-1])
 ・ heldio 「#1277. 11月30日(土)の朝カル講座「英語,オランダ語と交流する」に向けて」 (2024/11/27)

 また,シリーズ過去回のマインドマップについては,以下もご参照ください.
 
 ・ 「#5625. 朝カルシリーズ講座の第1回「英語語源辞典を楽しむ」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-20-1])
 ・ 「#5629. 朝カルシリーズ講座の第2回「英語語彙の歴史を概観する」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-24-1])
 ・ 「#5631. 朝カルシリーズ講座の第3回「英単語と「グリムの法則」」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-26-1])
 ・ 「#5639. 朝カルシリーズ講座の第4回「現代の英語に残る古英語の痕跡」をマインドマップ化してみました」 ([2024-10-04-1])
 ・ 「#5646. 朝カルシリーズ講座の第5回「英語,ラテン語と出会う」をマインドマップ化してみました」 ([2024-10-11-1])
 ・ 「#5650. 朝カルシリーズ講座の第6回「英語,ヴァイキングの言語と交わる」をマインドマップ化してみました」 ([2024-10-15-1])
 ・ 「#5669. 朝カルシリーズ講座の第7回「英語,フランス語に侵される」をマインドマップ化してみました」 ([2024-11-03-1])

 次回の朝カル講座は.12月21日(土)17:30--19:00に開講予定です.第9回「英語,ラテン・ギリシア語に憧れる」と題して,主に初期近代英語期の古典語からの語彙借用に注目します.ご関心のある方は,朝日カルチャーセンター新宿教室の「語源辞典でたどる英語史」のページよりお申し込みください.

 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.

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2024-12-06 Fri

#5702. 古英語単語の意味変化 [oe][semantic_change][christianity][latin][metaphor][semantic_borrowing][contact]

 いずれの言語においても,語彙の意味変化 (semantic_change) はきわめてありふれたタイプの言語変化であり,常に起こっている.このことは「#1955. 意味変化の一般的傾向と日常性」 ([2014-09-03-1]) でも論じた通りである.古英語の単語にも,多くの意味変化が起こっていたことだろう.
 しかし,たくさんあったであろう古英語単語の意味変化を,文献学的に文証できるかどうかは別問題である.そもそも古英語の現存する資料は少ないため,ある単語の意味変化が古英語期中に起こったのかどうかを確かめるのに十分な情報が得られないことも多い.また,意味変化が確かに起こったと言えるためには,変化前と変化後の語義の各々の出典となるテキストが,時間的に前後していることを確言できなければならない.しかし,これにはテキスト年代や写本年代をめぐる諸問題がつきまとう.
 このような事情で古英語期の単語の意味変化を論じるには困難が生じるのだが,それでもある程度言えることはある.アングロサクソン事典の "semantic change" の項目 (p. 415) より関連する箇所を引用する.

One area of vocabulary in which semantic change clearly took place during the Old English period is religious terminology. God 'God', heofon 'heaven', and helle 'hell', for example, necessarily adopted new meanings when they were applied to Christian rather than pagan concepts. Semantic change can also take the form of the development of a metaphorical meaning. In Old English this sometimes took place under the influence of Latin. Examples include tunge 'tongue', which was extended to mean 'language', possibly modelled on Latin lingua, and wit(e)ga 'wise man', used for 'prophet', perhaps influenced by Latin propheta. After the establishment of the Danelaw, OE terms also underwent semantic development under the influence of their Old Norse cognates. Modern English bloom 'flower' takes its form from either Old English bloma 'ingot of iron' or Old Norse blom 'flower', but its sense is clearly from Old Norse. In Old English, plog (ModE plough) was used for the measure of land which a yoke of oxen could plough in a day; its use with reference to an agricultural implement developed under the influence of Old Norse plogr. Similarly, Old English eorl 'man, warrior' (ModE earl) developed the sense 'chief, ruler of a shire' under the influence of Old Norse jarl.


 ラテン語のキリスト教用語の影響による意味変化や古ノルド語の対応語の影響による意味変化が取り上げられているが,これは歴史言語学では意味借用 (semantic_borrowing) として言及されることの多いタイプのものである.他言語における当該の単語の意味が分かっており,かつ言語接触の時期などが特定できれば,このような意味変化の議論も可能になるということだ.歴史言語学や文献学の方法論上のトピックとしてもおもしろい.

 ・ Lapidge, Michael, John Blair, Simon Keynes, and Donald Scragg, eds. The Blackwell Encyclopaedia of Anglo-Saxon England. Malden, MA: Blackwell, 1999.

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2024-12-02 Mon

#5698. royal we の起源と古英語・中英語 [greek][latin][royal_we][monarch][sociolinguistics][oe][me]

 昨日の記事「#5697. royal we は「君主の we」ではなく「社会的不平等の複数形」?」 ([2024-12-01-1]) に引き続き「君主の we」 (royal_we) に注目する.術語としては "plural of majesty", "plural of inequality" なども用いられているが,いずれも1人称複数代名詞の同じ用法を指している.
 Mustanoja (124) は,"plural of majesty" という用語を使いながら,ラテン語どころかギリシア語にまでさかのぼる用例の起源を示唆している.その上で,英語史における古い典型例として,中英語より「ヘンリー3世の宣言」での用例に言及していることに注目したい.

PLURAL OF MAJESTY. --- Another variety of the sociative plural (pluralis societatis) exists as the plural of majesty (pluralis majestatis), likewise characterised by the use of the pronoun of the first person plural for the first person singular. The plural of majesty originates in a living sovereign's habit of thinking of himself as an embodiment of the whole community. As the use of the plural becomes a mere convention, the original significance of this plurality tends to disappear. The plural of majesty is found in the imperial decrees of the later Roman Empire and in the letters of the early Roman bishops, but it can be traced to even earlier times, to Greek syntactical usage (cf. H. Zilliacus, Selbstgefühl und Servilität: Studien zum unregelmâssigen Numerusgebrauch im Griechischen, SSF-GHL XVIII, 3, Helsinki 1953). The plural of majesty is extensively used in medieval Latin. In OE it does not seem to be attested. OE royal charters, for example, have the singular (ic Offa þurh Cristes gyfe Myrcena kining; ic Æþelbald cincg, etc.). The plural of majesty begins to be used in ME. A typical ME example is the following quotation from the English proclamation of Henry III (18 Oct., 1258), a characteristic beginning of a royal charter: --- Henry, thurȝ Gode fultume king of Engleneloande, Lhoaverd on Yrloande, Duk on Normandi, on Aquitaine, and Eorl on Anjow, send igretinge to alle hise holde, ilærde ond ileawede, on Huntendoneschire: thæt witen ȝe alle þæt we willen and unnen þæt . . ..


 引用中の "the English proclamation of Henry III (18 Oct., 1258)" (「ヘンリー3世の宣言」)での用例について,ナルホドと思いはする.しかし「#5696. royal we の古英語からの例?」 ([2024-11-30-1]) の最後の方で触れたように,この例ですら確実な royal we の用法かどうかは怪しいのである.この宣言の原文については「#2561. The Proclamation of Henry III」 ([2016-05-01-1]) を参照.

 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

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2024-12-01 Sun

#5697. royal we は「君主の we」ではなく「社会的不平等の複数形」? [terminology][oe][me][royal_we][monarch][personal_pronoun][pronoun][sociolinguistics][politeness][t/v_distinction][honorific][number][shakespeare]

 数日間,「君主の we」 (royal_we) 周辺の問題について調べている.Jespersen に当たってみると「君主の we」ならぬ「社会的不平等の複数形」 ("the plural of social inequality") という用語が挙げられていた.2人称代名詞における,いわゆる "T/V distinction" (t/v_distinction) と関連づけて we を議論する際には,確かに便利な用語かもしれない.

   4.13. Third, we have what might be called the plural of social inequality, by which one person either speaks of himself or addresses another person in the plural. We thus have in the first person the 'plural of majesty', by which kings and similarly exalted persons say we instead of I. The verbal form used with this we is the plural, but in the 'emphatic' pronoun with self a distinction is made between the normal plural ourselves and the half-singular ourself. Thus frequently in Sh, e.g. Hml I. 2.122 Be as our selfe in Denmarke | Mcb III. 1.46 We will keepe our selfe till supper time alone. (In R2 III. 2.127, where modern editions have ourselves, the folio has our selfe; but in R2 I. 1,16, F1 has our selues). Outside the plural of majesty, Sh has twice our selfe (Meas. II. 2.126, LL IV. 3.314) 'in general maxims' (Sh-lex.).
   . . . .
   In the second person the plural of social inequality becomes a plural of politeness or deference: ye, you instead of thou, thee; this has now become universal without regard to social position . . . .
   The use of us instead of me in Scotland and Ireland (Murray D 188, Joyce Ir 81) and also in familiar speech elsewhere may have some connexion with the plural of social inequality, though its origin is not clear to me.


 ベストな用語ではないかもしれないが,社会的不平等における「上」の方を指すのに「敬複数」 ("polite plural") などの術語はいかがだろうか.あるいは,これではやや綺麗すぎるかもしれないので,もっと身も蓋もなく「上位複数」など? いや,一回りして,もっとも身も蓋もない術語として「君主複数」でよいのかもしれない.

 ・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part 2. Vol. 1. 2nd ed. Heidelberg: C. Winter's Universitätsbuchhandlung, 1922.

Referrer (Inside): [2024-12-02-1]

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2024-11-30 Sat

#5696. royal we の古英語からの例? [oe][me][royal_we][monarch][personal_pronoun][pronoun][beowulf][aelfric][philology][historical_pragmatics][number]

 「君主の we」 (royal_we) について「#5284. 単数の we --- royal we, authorial we, editorial we」 ([2023-10-15-1]) や「#5692. royal we --- 君主は自身を I ではなく we と呼ぶ?」 ([2024-11-26-1]) の記事で取り上げてきた.
 OED の記述によると,古英語に royal we の古い例とおぼしきものが散見されるが,いずれも真正な例かどうかの判断が難しいとされる.Mitchell の OES (§252) への参照があったので,そちらを当たってみた.

§252. There are also places where a single individual other than an author seems to use the first person plural. But in some of these at any rate the reference may be to more than one. Thus GK and OED take we in Beo 958 We þæt ellenweorc estum miclum, || feohtan fremedon as referring to Beowulf alone---the so-called 'plural of majesty'. But it is more probably a genuine plural; as Klaeber has it 'Beowulf generously includes his men.' Such examples as ÆCHom i. 418. 31 Witodlice we beorgað ðinre ylde: gehyrsuma urum bebodum . . . and ÆCHom i. 428. 20 Awurp ðone truwan ðines drycræftes, and gerece us ðine mægðe (where the Emperor Decius addresses Sixtus and St. Laurence respectively) may perhaps also have a plural reference; note that Decius uses the singular in ÆCHom i. 426. 4 Ic geseo . . . me . . . ic sweige . . . ic and that in § ii. 128. 6 Gehyrsumiað eadmodlice on eallum ðingum Augustine, þone ðe we eow to ealdre gesetton. . . . Se Ælmihtiga God þurh his gife eow gescylde and geunne me þæt ic mote eoweres geswinces wæstm on ðam ecan eðele geseon . . . , where Pope Gregory changes from we to ic, we may include his advisers. If any of these are accepted as examples of the 'plural of majesty', they pre-date that from the proclamation of Henry II (sic) quoted by Bøgholm (Jespersen Gram. Misc., p. 219). But in this too we may include advisers: þæt witen ge wel alle, þæt we willen and unnen þæt þæt ure ræadesmen alle, oþer þe moare dæl of heom þæt beoþ ichosen þurg us and þurg þæt loandes folk, on ure kyneriche, habbeþ idon . . . beo stedefæst.


 ここでは royal we らしく解せる古英語の例がいくつか挙げられているが,確かにいずれも1人称複数の用例として解釈することも可能である.最後に付言されている初期中英語からの例にしても,royal we の用例だと確言できるわけではない.素直な1人称複数とも解釈し得るのだ.いつの間にか,文献学と社会歴史語用論の沼に誘われてしまった感がある.
 ちなみに,上記引用中の "the proclamation of Henry II" は "the proclamation of Henry III" の誤りである.英語史上とても重要な「#2561. The Proclamation of Henry III」 ([2016-05-01-1]) を参照.

 ・ Mitchell, Bruce. Old English Syntax. 2 vols. New York: OUP, 1985.

Referrer (Inside): [2024-12-02-1]

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2024-11-22 Fri

#5688. イングランドに定住したヴァイキングのキリスト教化 [helquiz][christianity][anglo-saxon][oe][old_norse][history][alfred][notice][link]

 heldio/helwa リスナーの川上さんが,ご自身の X アカウントにて「英語史クイズ」を展開し始めています.第2問は(すでに解答と解説も公開されていますが)なかなか難しいこちらのクイズでした.


kawakami_helquiz_02.png



 アルフレッド大王に関する記述として誤ったものを選んでください,という4択問題でした.その4つめの選択肢として「デーン人(ヴァイキング)にキリスト教を信仰させた」がありました.この選択肢は多くの回答者に選ばれていたのですが,解説を読めば分かる通り,これは正解ではないのです.つまり「デーン人(ヴァイキング)にキリスト教を信仰させた」は事実なのです.
 厳密にいえば,この辺りの事情については複雑で不明なことも多いのですが,概ね事実であると考えてよい根拠や推論を,『ヴァイキングからノルマン人へ』より2カ所を引用したいと思います.まず第2章「ヴァイキング」の pp. 86--87 より.

 しかしながらこのプロセス([引用者注]ヴァイキングのイングランド定住のプロセス)は,ヴァイキングをイングランド人にとっての単なる襲撃者から共生する隣人へと変えるにあたって特筆すべき意味をもっていた.移動を繰り返している段階のデーン人は,現地集団に敗北したときに,現地社会から課されるべき道徳上や商業上の慣習を受けいれることはできなかったであろう.しかしいったん彼らが土地を与えられて定住し,軍隊秩序ではなく現地の政治秩序にしたがって生活せざるをえなくなると,ある種の強制を受けいれることになる.宗教的強制はその最たるものであり,改宗がアルフレッド大王の主たる目的の一つであったことは明白である.彼ら異教を奉ずる厄介者が,洗礼を受け入れキリスト教的行動様式という道徳コードーー神と王への恭順ならびに隣人を愛する責務ーーを学んだのであれば,やがて平和な共生が実現することになるだろう.
 私たちはすでに,アルフレッド王がガスルムに洗礼を受け入れるようにいかに要求したのかを知っている.彼は十数年後に同様の改宗をヘステンにも試みたが,うまくはいかなかった.ただしヘステンの息子たちは,アルフレッド王と〔王の娘婿でマーシアの主人〕エアルドールマン・エセルレッドが後押しすることによって改宗を受け入れた.このようにしてキリスト教徒となった指導者たちは,異教を打ち捨てるように彼らの部下たちにすすんで強制したかもしれない.それでは彼らは実際に実行したのだろうか.そしてこのような改宗プログラムを推し進める試みは,どれほどの成功を収めたのだろうか.キリスト教を受け入れるプロセスに関して,イングランド東部にはほとんど何の証拠もない.しかしキリスト教がスカンディナヴィア人にどのような影響を与えたのかを測る基準がないわけではない.第一の証拠は墓地である.異教の墓地が確認される範囲は限られており,イングルビーとレプトンを別にすれば南部と東部には皆無に近かった.そのため,八七〇年代にその地域に定住したものですら異教の埋葬慣行を維持することができなかったことがわかる.第二の証拠は銭貨である.イースト・アングリアには九〇〇年以前に聖エドマンドの銭貨が出現するが,それはおそらくデーン人支配者の一人の手になるものである.この事実は,エドマンド崇敬が彼の死から一世代もたたないうちに盛んになっていたという事実を伝えると同時に,「大軍勢」の指導者の子孫のあいだにもキリスト教の殉教者に対する尊崇の念が現れていたことを教えてくれる.そしてデーンローでも,一〇世紀半ばまでには教会組織が復活し機能していたと考えられる.この事実は,一〇世紀の前半にアルフレッド王の後継者たちがデーンローを征服することにより,デーン人系の新参の定住者がキリスト教信仰とその慣習を受容し現地社会に急速に同化することになったという説明の裏付けともなるだろう.


 続いて,古英語期のキリスト教の浸透を論じる5章の p. 213 より引用します.

ヴァイキングたちがなぜ,どのようにキリスト教を受け入れたのかはよくわかっていない.政治的に強制されたから,というのが一つの答えではある.ガスルム〔「大軍勢」の王,八九〇年死去〕とその配下の主だった者たちは,八七八年の敗戦の後,アルフレッド王との間の和平の条件の一つとして洗礼を受けた.ダブリンとヨークを断続的に支配したオーラフ(アムリーブ)・クアラーン(九八一年死去)は,九四三年にイングランドで,エドマンド王を代父として洗礼を受けた.そして,オークニー伯シガードは,改宗したばかりのノルウェー王オーラフ・トリュッグヴァソンにより九九五年に洗礼を受けることを強制された.これら政治的リーダーたちの改宗は,彼らに従う者たちがそれに倣って改宗するという点で重要ではあった.しかしながら,定住者のあるコミュニティ全体に対して司牧を行うためには,その定住者たちに洗礼を施す司祭が必要であり,したがって教会の存在が必要であった.つまり,ヴァイキングの改宗は,それを可能にした教会組織の存在を暗示しているかに見える,ということである.しかしながら,逆説的に,ダブリンのようなアイルランドのスカンディナヴィア人飛び領地よりも,デーンロー地域東部の方が,改宗はより迅速に行われたのである.後者の教会組織の方が,アイルランド(ダブリン近郊も含む)のそれよりも,明らかにより混乱していたにもかかわらず,である.このことは,デーンロー地域では,司教座教会やミンスターが途絶や移転の憂き目を見た後も地方教会が存続しており,その司祭らが伝道活動を行った,ということを示すのかもしれない.またあるいは,ウェセックスから聖職者が送り込まれて,伝道活動を行ったのかもしれない.対照的に,アイルランドの聖職者たちには(そしてまた,ヴァイキングと同盟を結ぶことに何の痛痒も感じていなかったアイルランドの王たちにも),異教の「よそ者たち」を改宗させようという気がおそらくなかった.ノーサンブリアや,マーシア東部,そしてイースト・アングリアと比べて,それら「よそ者」の定住地域ははるかに狭く,その数も少なかったのである.加えるに,改宗時期の違いは,ヴァイキングたちが異教とキリスト教とのせめぎあいに対して,グループごとに異なった対応をしたのだということを示している,ということも言えよう.


 アルフレッド大王が,ヴァイキングたち全体の改宗にどれだけ直接の影響を及ぼしたかを正確に測ることは難しいものの,相当なインパクトがあったことは確かのようです.今後の川村さんの英語史クイズにも注目していきましょう!

 ・ デイヴィス,ウェンディ(編)・鶴島 博和(日本語版監修・監訳) 『ヴァイキングからノルマン人へ』 オックスフォード ブリテン諸島の歴史 第3巻.慶應義塾大学出版会,2025年.

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2024-11-03 Sun

#5669. 朝カルシリーズ講座の第7回「英語,フランス語に侵される」をマインドマップ化してみました [asacul][oe][french][norman_conquest][mindmap][notice][kdee][etymology][hel_education][lexicology][vocabulary][heldio][link]

 1週間ほど前の10月26日に,今年度の朝日カルチャーセンター新宿教室でのシリーズ講座の第7回が開講されました.今回は「英語,フランス語に侵される」と題して,主に中英語期の英仏語の言語接触に注目しました.90分の講義では足りないほど,話題が盛りだくさんでした.対面およびオンラインで,多くの方々にご参加いただき,ありがとうございました.
 その盛りだくさんの内容を,markmap というウェブツールによりマインドマップ化して整理してみました(画像としてはこちらからどうぞ).受講された方は復習用に,そうでない方は講座内容を垣間見る機会としてご活用ください.



 シリーズ第6回「英語,ヴァイキングの言語と交わる」については hellog と heldio の過去回でも取り上げていますので,ご参照ください.

 ・ hellog 「#5619. 9月28日(土)の朝カル新シリーズ講座第6回「英語,ヴァイキングの言語と交わる」のご案内」 ([2024-09-14-1])
 ・ heldio 「#1210. 9月28日(土)の朝カル講座「英語,ヴァイキングの言語と交わる」に向けて」 (2024/09/21)

 シリーズ過去回のマインドマップについては,以下を参照.
 
 ・ 「#5625. 朝カルシリーズ講座の第1回「英語語源辞典を楽しむ」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-20-1])
 ・ 「#5629. 朝カルシリーズ講座の第2回「英語語彙の歴史を概観する」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-24-1])
 ・ 「#5631. 朝カルシリーズ講座の第3回「英単語と「グリムの法則」」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-26-1])
 ・ 「#5639. 朝カルシリーズ講座の第4回「現代の英語に残る古英語の痕跡」をマインドマップ化してみました」 ([2024-10-04-1])
 ・ 「#5646. 朝カルシリーズ講座の第5回「英語,ラテン語と出会う」をマインドマップ化してみました」 ([2024-10-11-1])

 次回の朝カル講座から,秋期クールに入ります.10月26日(土)17:30--19:00に開講予定です.第7回「英語,フランス語に侵される」と題し,いよいよ英語語彙史上に強烈なインパクトを与えたフランス語の登場です.ご関心のある方は,ぜひ朝日カルチャーセンター新宿教室の「語源辞典でたどる英語史」のページよりお申し込みください.

 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.

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2024-10-11 Fri

#5646. 朝カルシリーズ講座の第5回「英語,ラテン語と出会う」をマインドマップ化してみました [asacul][oe][old_norse][mindmap][notice][kdee][etymology][hel_education][lexicology][vocabulary][heldio][link]

 8月24日に開講した,標記のシリーズ講座第5回「英語,ラテン語と出会う」について,その要旨を markmap というウェブツールによりマインドマップ化しました(画像としてはこちらからどうぞ).受講された方は復習用に,そうでない方は講座内容を垣間見る機会としてご活用ください.



 シリーズ第5回「英語,ラテン語と出会う」については hellog と heldio の過去回でも取り上げています.

 ・ hellog 「#5591. 8月24日(土)の朝カル新シリーズ講座第5回「英語,ラテン語と出会う」のご案内」 ([2024-08-17-1])
 ・ heldio 「#1177. 英語とラテン語の言語接触 --- 今週末の朝カル講座「英語,ラテン語と出会う」に向けて」 (2024/08/19)

 シリーズ過去回のマインドマップについては,以下を参照.
 
 ・ 「#5625. 朝カルシリーズ講座の第1回「英語語源辞典を楽しむ」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-20-1])
 ・ 「#5629. 朝カルシリーズ講座の第2回「英語語彙の歴史を概観する」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-24-1])
 ・ 「#5631. 朝カルシリーズ講座の第3回「英単語と「グリムの法則」」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-26-1])
 ・ 「#5639. 朝カルシリーズ講座の第4回「現代の英語に残る古英語の痕跡」をマインドマップ化してみました」 ([2024-10-04-1])

 次回の朝カル講座から,秋期クールに入ります.10月26日(土)17:30--19:00に開講予定です.第7回「英語,フランス語に侵される」と題し,いよいよ英語語彙史上に強烈なインパクトを与えたフランス語の登場です.ご関心のある方は,ぜひ朝日カルチャーセンター新宿教室の「語源辞典でたどる英語史」のページよりお申し込みください.

 ・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.

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2024-10-06 Sun

#5641. 「ゼロから学ぶはじめての古英語」 Part 10 with 小河舜さん&まさにゃん at 「英語史ライヴ2024」 [voicy][heldio][hellive2024][masanyan][ogawashun][oe][oe_text][beowulf][hajimeteno_koeigo][hel_education][notice][popular_passage][literature][helkatsu][instagram][khelf]



 9月8日(日)に12時間の公開収録生配信として開催された「英語史ライヴ2024」(hellive2024) の目玉企画の1つとして,人気シリーズ「はじめての古英語」(hajimeteno_koeigo) の第10弾「#1219. 「はじめての古英語」第10弾 with 小河舜さん&まさにゃん --- 「英語史ライヴ2024」より」が実現しました.講師はいつものように,小河舜さん(上智大学),「まさにゃん」こと森田真登さん(武蔵野学院大学),そして堀田隆一の3名です.
 多くのギャラリーの方々を前にしての初めての公開収録となり,3名とも興奮のなかで34分ほどの古英語講座を展開しました.冒頭のコールを含め,これほど古英語で盛り上がる集団なり回なりは,かつて存在したでしょうか? おそらく歴史的なイベントになったのではないかと思います(笑).
 今回の第10弾は,小河さん主導で古英詩の傑作 Beowulf の冒頭にほど近い ll. 24--25 の1文に注目しました(以下 Jack 版より).

 lofdǣdum sceal
in mǣgþa gehwǣreman geþēon.


 忍足による日本語訳によれば「いかなる民にあっても,人は名誉ある/行いをもって栄えるものである」となります.古英語の文法や語彙の詳しい解説は,上記配信回をじっくりお聴きください.
 実は上記の公開収録は Voicy heldio のほか,khelf(慶應英語史フォーラム)の公式 Instagram アカウント @khelf_keioでインスタ動画としても生配信・収録しております.ヴィジュアルも欲しいという方は,ぜひこちらよりご覧ください.会場の熱気が感じられると思います.
 シリーズ過去回は hajimeteno_koeigo よりご訪問ください.

 ・ Jack, George, ed. Beowulf: A Student Edition. Oxford: Clarendon, 1994.
 ・ 忍足 欣四郎(訳) 『ベーオウルフ』 岩波書店,1990年.

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2024-10-04 Fri

#5639. 朝カルシリーズ講座の第4回「現代の英語に残る古英語の痕跡」をマインドマップ化してみました [asacul][oe][mindmap][notice][kdee][etymology][hel_education][lexicology][vocabulary][heldio][link]

 7月27日に開講した,標記のシリーズ講座第4回「現代の英語に残る古英語の痕跡」について,その要旨を markmap というウェブツールによりマインドマップ化しました(画像としてはこちらからどうぞ).受講された方は復習用に,そうでない方は講座内容を垣間見る機会としてご活用ください.