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sobokunagimon - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-03-19 07:57

2024-02-20 Tue

#5412. 原初の言語は複雑だったのか,単純だったのか? [origin_of_language][language_change][evolution][history_of_linguistics][language_myth][sobokunagimon][simplification][homo_sapiens]

 言語学史のハンドブックを読んでいる.Mufwene の言語の起源・進化に関する章では,これまでに提案されてきた様々な言語起源・進化論が紹介されており,一読の価値がある.
 私もよく問われる素朴な疑問の1つに,原初の言語は複雑だったのか,あるいは単純だったのか,という言語の起源に関するものがある.一方,言語進化の観点からは,原初の段階から現代まで言語は単純化してきたのか,複雑化してきたのか,という関連する疑問が生じてくる.
 真の答えは分からない.いずれの立場についても論者がいる.例えば,前者を採る Jespersen と,後者の論客 Bickerton は好対照をなす.Mufwene (31) の解説を引用しよう.

His [= Jespersen's] conclusion is that the initial language must have had forms that were more complex and non-analytic; modern languages reflect evolution toward perfection which must presumably be found in languages without inflections and tones. It is not clear what Jespersen's position on derivational morphology is. In any case, his views are at odds with Bickerton's . . . hypothesis that the protolanguage, which allegedly emerged by the late Homo erectus, was much simpler and had minimal syntax, if any. While Bickerton sees in pidgins fossils of that protolanguage and in creoles the earliest forms of complex grammar that could putatively evolve from them, Jespersen would perhaps see in them the ultimate stage of the evolution of language to date. Many of us today find it difficult to side with one or the other position.


 両陣営ともに独自の前提に基づいており,その前提がそもそも正しいのかどうかを確認する手段がないので,議論は平行線をたどらざるを得ない.また,言語の複雑性と単純性とは何かという別の難題も立ちはだかる.最後の問題については「#1839. 言語の単純化とは何か」 ([2014-05-10-1]),「#4165. 言語の複雑さについて再考」 ([2020-09-21-1]) などを参照.

 ・ Mufwene, Salikoko S. "The Origins and the Evolution of Language." Chapter 1 of The Oxford Handbook of the History of Linguistics. Ed. Keith Allan. Oxford: OUP, 2013. 13--52.

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2024-02-17 Sat

#5409. 最近 Mond で6件の質問に回答しました [mond][sobokunagimon][heldio][hel_education][notice][link]

 ここ数日間で,知識共有サービス Mond に寄せられてきた英語史系の質問に6件ほど回答しました.こちらでもリンクを共有します(質問文の原文を短文に要約・編集してあります).新しい順に並べています.
 今朝お答えした8歳の娘さんからの最新の質問は,とりわけ強力でしたね,パンチが効いています.これまで私が受けたことのなかった英語に関する素朴な疑問で,刺激的でした.ありがとうございます!

 (1) boss ってなんで s がふたつなの?と8歳娘に質問されました.なんでですか?


Mond answer 20240217 re boss



 (2) 英語がラテン語から動詞を借用するとき,完了分詞形に基づいた語形を採用するのはなぜなのでしょうか?
 (3) Japan という単語の語源は?
 (4) who, what, where, when などに対して,なぜ how だけが wh- でなく h- で始まるのでしょうか?
 (5) 5文型の SVO などの V は「動詞」とされますが,「述語」が正しいのではないでしょうか?
 (6) なぜ動作を表わすはずの動詞に「状態動詞」なるものがあるのでしょうか?

 今回お答えした質問は,本ブログや Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 で関連する話題を取り上げたり,詳しく解説してきたりしたものも多く,実際に回答のなかでいくつかリンクを張っていますので,合わせてご参照いただければと思います.

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2023-12-23 Sat

#5353. 2023年の heldio 配信回のランキング --- リスナー数編 [voicy][heldio][ranking][notice][khelf][sobokunagimon][link][yurugengogakuradio][note]

 本ブログの姉妹版・音声版というべき Voicy 「英語の語源が身につくラジオ」 (heldio)では,今年も1月1日から本日12月23日まで,毎朝6時に英語史の話題を声でお届けしてきました.元日配信の #580 から昨日配信の #935 までの計356回を2023年分の配信回とみなし,向こう数日をかけてランキング表や注目配信回のリストを提示していきます.そして,来週中,年末までの1週間で,リスナーの皆さんや hellog をお読みの皆さんに「2023年 heldio の推し配信回」を決めてもらう投票を行ないたいと思います.お付き合いの程よろしくお願いします.(過去のすべての配信回の一覧はこちらよりアクセスできます.)
 以下に掲げる一覧は,Voicy のアナリティクスより提供された,当該配信回を聴取した「合計リスナー」数に基づいたベスト30のランキング表です.今年は人気 YouTube/Podcast チャンネル「ゆる言語学ラジオ」に出演させていただいたこともあり,そちらから heldio へリスナーさんの流入があり,結果として「ゆる言語学ラジオ」関連回は多くの方々に聴いていただきました.この事情がランキング上位に反映しているようです.そのほか khelf(慶應英語史フォーラム)メンバーとの対談回や khelf による企画などにも注目が集まりました.「素朴な疑問」系の配信回も堅調でした.
 ぜひこちらのランキング表を参考に,年末にかけて聴き逃していた回,改めて興味を抱いた回などをお聴きいただければ幸いです.

1. 「#705. ゆる言語学ラジオにお招きいただき初めて出演することに!」 (2023/05/06)
2. 「#729. なぜ英語を学ばなければならないの? --- 中学生のための英語史」 (2023/05/30)
3. 「#595. heah/hih/high --- 「ゆる言語学ラジオ」から飛び出した通時的パラダイム」 (2023/01/16)
4. 「#698. 先生,アルファベットの歴史を教えてください! --- 寺澤志帆さんとの対談」 (2023/04/29)
5. 「#822. ゼロから学ぶはじめての古英語 --- Part 1 with 小河舜さん and まさにゃん」 (2023/08/31)
6. 「#689. 『言語沼』 --- ゆる言語学ラジオから飛び出した言語本」 (2023/04/20)
7. 「#711. なぜ be going to は未来を意味するの? --- khelf 広報の渡邉さんとの対談」 (2023/05/12)
8. 「#621. なぜ new something ではなく something new なの?」 (2023/02/11)
9. 「#779. 「ゆる言語学ラジオ」で evident (evidence) について触れなかったこと --- 現在分詞なのに受け身の意味になっているゾ!」 (2023/07/19)
10. 「#628. 古英語の単語はどれくらい現代英語に受け継がれているの?」 (2023/02/18)
11. 「#625. Turkey --- トルコと七面鳥の関係」 (2023/02/15)
12. 「#784. なぜ進行形は be + -ing なのですか? --- リスナーさんからの素朴な疑問」 (2023/07/24)
13. 「#725. なぜ命令文には主語が現われないの?」 (2023/05/26)
14. 「#707. 先生,なんで doubt には発音しないのに <b> が入ってるんですか? --- 寺澤志帆さんとの対談」 (2023/05/08)
15. 「#735. 古英語音読 --- マタイ伝「種をまく人の寓話」より毒麦の話」 (2023/06/05)
16. 「#606. 英語のスペリングは漢字である」 (2023/01/27)
17. 「#715. ケルト語仮説」 (2023/05/16)
18. 「#602. なぜ両足で歩くのに on feet ではなくて on foot なの?」 (2023/01/23)
19. 「#709. なぜ同一単語に多くのスペリングが存在し得たのか? --- 「ゆる言語学ラジオ」出演第2回で話題となった515通りの through の怪」 (2023/05/10)
20. 「#872. 変なアルファベット表を作ろうと思っています --- khelf 企画」 (2023/10/20)
21. 「#688. なぜ不定詞には to 不定詞 と原形不定詞の2種類があるの?」 (2023/04/19)
22. 「#684. 英語史でみる不規則動詞の仕組み --- 藤原郁弥さんとの対談」 (2023/04/15)
23. 「#618. 英語史の時代区分」 (2023/02/08)
24. 「#708. unmummied --- 「ゆる言語学ラジオ」初出演回で話題となった縦棒16連発を記録した単語」 (2023/05/09)
25. 「#724. -er は本当に行為者接尾辞なの?」 (2023/05/25)
26. 「#745. 日本人よ,文字論に目覚めよ」 (2023/06/15)
27. 「#687. 「子音字+y は y を i に変えて -ed」 --- その規則いったい何?」 (2023/04/18)
28. 「#598. メタファーとは何か? 卒業生の藤平さんとの対談」 (2023/01/19)
29. 「#626. 陶磁器の china と漆器の japan --- 産地で製品を表わす単語たち」 (2023/02/16)
30. 「#734. Japan, Japanese, Nippon の語源と英語での初出年代」 (2023/06/04)

 過去の heldio のランキングやその他の配信回一覧については,

 ・ 「#4996. 今年1年間でよく聴かれた放送 --- Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」より」 ([2022-12-31-1])
 ・ 「#5101. 2023年1月--3月の heldio 放送回ランキング」 ([2023-04-15-1])
 ・ note のランキング記事
 ・ リスナー umisio さんによる note での振り返り記事
   - 「令和5年 (2023年) の heldio を振り返る 第1四半期(1--3月)編」
   - 「令和5年 (2023年) の heldio を振り返る 第2四半期(4--6月)+7月 まるでカンブリア紀!?」
   - 「令和5年 (2023年) の heldio を振り返る 第3四半期(8--9月) ※7月は前回に含めた」

などもご参照ください.

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2023-12-22 Fri

#5352. なぜ英語を学ばなければならないの? --- 中学生からの反響 [sobokunagimon][voicy][heldio][helwa][notice][hel_education]



 本ブログの音声版というような位置づけで,毎朝 Voicy 「英語の語源が身につくラジオ」 (heldio)より英語史関連の話題を発信しています.目下 Voicy による音声配信に新しい可能性を見出しています.まず,上記2つの関連する配信回をお聴きいただければと思います(下に挙げるものは追加も含め3つの配信へのリンクです).

 (1) 「#729. なぜ英語を学ばなければならないの? --- 中学生のための英語史」(2023年5月30日配信.上記の左の配信回です.)
 (2) 「#929. なぜ英語を学ばなければならないの? --- 中学生からの反響」(2023年12月16日配信.上記の右の配信回です.)
 (3) 「【英語史の輪 #68】今朝の中学生からの生の声をもっとお届け!」(2023年12月16日配信.(2) の続編ですが,こちらは有料のプレミアムリスナー限定配信チャンネルでの配信となっています.)

 今年の5月末に,中学生のリスナーは事実上ゼロであることを知りながら,間接的に声が届く可能性に期待して (1) を配信しました.実際には,中学生のみならず一般リスナーの皆さんにも聴いて,考えていただきたい内容でお話ししました.配信直後よりリスナーの皆さんより多くの反響をいただき,これまでの heldio 配信回のなかでも飛び抜けてよく聴かれる回となりました.
 そんな折,先日英語教員のリスナーの方より連絡がありました.中学校の生徒たちにこの配信回を聴いてもらい,意見を書いてもらうという授業課題を出すことを考えている,とのことでした.ぜひどうぞ,むしろよろしくお願いしますと返答したところ,後日,同先生より,中学1年生120名からの回答・意見を得たとのことで,その匿名化された文章を共有させていただきました.
 私自身は(意外にも)多くの中学生に本当に声が届いた!という喜びを感じましたし,このような課題を思いつき実施した同先生の熱意にも感服しました.そして,何よりも生徒さん一人一人が,配信回を聴いた上で,じっくりと「なぜ英語を学ばなければならないの?」という問いに向き合った様子が,文章からはっきりと伝わってきことに,感動を覚えました.
 ぜひこの気持ちを生徒さんや先生にフィードバックしたいと思い,中学校の英語教員経験のある khelf(慶應英語史フォーラム)の寺澤志帆さんとともに,(2) の配信回を収録し,公開したという次第です.
 英語史研究者冥利,Voicy heldio パーソナリティ冥利に尽きる経験でした.ありがとうございました.
 英語の先生方,本ブログをお読みの方々,heldio リスナーの皆さん,ぜひ機会がありましたら中学生(のみならず小学生,高校生,大学生など)に上記の配信回を聴いてもらえるよう促していただければ幸いです.

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2023-11-14 Tue

#5314. どうして古英語の発音がわかるのですか? --- YouTube で答える素朴な疑問 [sobokunagimon][youtube][voicy][heldio]



 一昨日配信された YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」の最新回は「英語史研究は超絶推理ゲーム!!!」と題して,表記の素朴な疑問に答えています.
 なぜ書き言葉でしか残っていない古英語や中英語の発音がわかるのか? この問いは定期的に寄せられてくる素朴な疑問ですので,今回 YouTube チャンネルで答えてみました.
 本ブログを始めとして別の媒体でも同じ素朴な疑問に回答してきた経緯がありますので,そちらにもリンクを張っておきます.

 ・ hellog 「#437. いかにして古音を推定するか」 ([2010-07-08-1])
 ・ hellog 「#758. いかにして古音を推定するか (2)」 ([2011-05-25-1])
 ・ hellog 「#4015. いかにして中英語の発音を推定するか」 ([2020-04-24-1])
 ・ hellog 「#4499. いかにして Shakespeare の発音を推定するか」 ([2021-08-21-1])
 ・ heldio 「#326. どうして古英語の発音がわかるのですか?」(2022年4月22日)


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2023-11-12 Sun

#5312. 「ゆる言語学ラジオ」最新回は「不規則動詞はなぜ存在するのか?」 [yurugengogakuradio][verb][inflection][conjugation][sobokunagimon][frequency][voicy][heldio][youtube][link][notice][numeral][suppletion][analogy]

 昨日,人気 YouTube/Podcast チャンネル「ゆる言語学ラジオ」の最新回が配信されました.今回は英語史ともおおいに関係する「不規則動詞はなぜ存在するのか?【カタルシス英文法_不規則動詞】#280」です.



 ゆる言語学ラジオの水野太貴さんには,拙著,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ」 (heldio),および YouTube チャンネル「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」のいくつかの関連コンテンツに言及していただきました.抜群の発信力をもつゆる言語学ラジオさんに,この英語史上の第一級の話題を取り上げていただき,とても嬉しいです.このトピックの魅力が広く伝わりますように.
 概要欄に掲載していただいたコンテンツ等へのリンクを,こちらにも再掲しておきます.

 ・ 拙著 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』(研究社,2016年)
 ・ 拙著 『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』(中央大学出版部,2011年)
 ・ heldio 「#58. なぜ高頻度語には不規則なことが多いのですか?」
 ・ YouTube 「新説! go の過去形が went な理由」 (cf. 「#4774. go/went は社会言語学的リトマス試験紙である」 ([2022-05-23-1]))
 ・ YouTube 「英語の不規則活用動詞のひきこもごも --- ヴァイキングも登場!」 (cf. hellog 「#4810. sing の過去形は sang でもあり sung でもある!」 ([2022-06-28-1]))
 ・ YouTube 「昔の英語は不規則動詞だらけ!」 (cf. 「#4807. -ed により過去形を作る規則動詞の出現は革命的だった!」 ([2022-06-25-1]))
 ・ heldio 「#9. first の -st は最上級だった!」
 ・ heldio 「#10. third は three + th の変形なので準規則的」
 ・ heldio 「#11. なぜか second 「2番目の」は借用語!」

 「不規則動詞はなぜ存在するのか?」という英語に関する素朴な疑問から説き起こし,補充法 (suppletion) の話題(「ヴィヴァ・サンバ!」)を導入した後に,不規則形の社会言語学的意義を経由しつつ,全体として言語における「規則」あるいは「不規則」とは何なのかという大きな議論を提示していただきました.水野さん,堀元さん,ありがとうございました! 「#5130. 「ゆる言語学ラジオ」周りの話題とリンク集」 ([2023-05-14-1]) もぜひご参照ください.

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2023-10-17 Tue

#5286. 千葉慶友会で「英語はこんなにおもしろい」をお話ししてきました [notice][voicy][heldio][keiyukai][senbonknock][sobokunagimon][silent_letter][complementation][gerund][infinitive][impersonal_verb]

 先週末の10月14日(土)の午後,船橋の某所で開催された千葉慶友会の講演会にて「英語学習に役立つ英語史 --- 英語はこんなにおもしろい」をお話ししました.事前の準備から当日のハイブリッド開催の運営,そして講演会後の懇親会のアレンジまで,スタッフの皆さんにはたいへんお世話になり,感謝しております.ありがとうございました.とりわけ懇親会では千葉慶友会内外からの参加者の皆さんと直接お話しすることができ,実に楽しい時間でした.
 90分ほどの講演の後,その場で続けて Voicy heldio の生放送をお送りしました.前もって運営スタッフの方々と打ち合わせしていた企画なのですが,事前に参加予定者より「英語に関する素朴な疑問」を寄せていただき,当日の投げ込み質問も合わせて,私が英語史の観点から回答していくのを heldio でライヴ配信しようというものです.
 そちらの様子は,昨日 heldio のアーカイヴにて「#868. 千葉慶友会での「素朴な疑問」コーナー --- 2023年10月14日の生放送」として配信していますので,お時間のあるときにお聴きください(1時間弱の長尺となっています).



 6件ほどの素朴な疑問にお答えしました.以下に分秒を挙げておきますので,聴く際にご利用ください.

 (1) 02:25 --- 外国語からカタカナに音訳するときに何かルールはありますか.この質問をする理由は,例えば本によって「フロベール」だったり「フローベール」だったりすることがあるからです.また,カタカナを英語らしく発音するコツはありますか.
 (2) 14:43 --- 英語の「パラフレーズ」の歴史的遷移について,なにか参考資料をご存知でしたら教えていただければ嬉しいです.Academic Writing を勉強している途中で興味を持ちました.
 (3) 21:34 --- 英単語には island など読まない文字があるのはなぜですか?
 (4) 30:43 --- 世界における言語の多様性の問題,および諸言語は今後どのように展開(分岐か収束か)していくのかという問題
 (5) 39:05 --- 動詞によって目的語に -ing をとるか to 不定詞をとるかが決まっているのはなぜですか?
 (6) 44:05 --- なぜ英語には無生物主語構文があるのですか?

 時間内に取り上げられたのは6件のみですが,他にも多くの疑問をいただいていましたので,いずれ hellog/heldio で取り上げたいと思います.
 実は慶友会の講演と絡めての Voicy heldio ライブの千本ノックは初めてではありません.同様の雰囲気をさらに味わいたい方は,3ヶ月半ほど前の「#5179. アメリカ文学慶友会での千本ノック収録を公開しました」 ([2023-07-02-1]) もご訪問ください.

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2023-10-09 Mon

#5278. 久しぶりの千本ノック収録を公開しています [notice][voicy][heldio][sobokunagimon][senbonknock]

 10月5日(木)の午前11時過ぎより,事前に大学生より寄せられた英語に関する素朴な疑問に英語史の観点から回答する「千本ノック」 (senbonknock) のイベントを開催しました.その様子は Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の生放送でお届けしましたが,収録した音源をアーカイヴにも残してあります.「#859. 10月5日の「英語に関する素朴な疑問 千本ノック」生放送」です.60分ほどの長さですので,お時間のあるときにお聴きください.



 いずれもすぐれた「素朴な疑問」でした.疑問の抱き方が大事ですね.今回は10件の質問に回答しました.以下に本編(第2チャプター)の分秒を挙げておきます.

 (1) 01:00 --- なぜ疑問文の最後に ? をつけるのか.
 (2) 06:08 --- 人称代名詞について単数形と複数形では I → we,he/she/it → they と変わるのに,you は複数形になっても変わらないのはなぜか.また,なぜ3人称の複数形では同じ they になるのか.
 (3) 15:54 --- なぜイギリス英語とアメリカ英語で綴字が違うものがあるのか.同じ綴字を使ったほうが便利ではなかったのか.
 (4) 21:50 --- なぜ Good morning. というのか.
 (5) 25:44 --- なぜ英語ではアルファベットしか用いられないのか.
 (6) 35:17 --- なぜ be 動詞は主語によって使い分けるのか.
 (7) 39:45 --- なぜ Wednesday の d はなぜ発音しないのか.
 (8) 44:10 --- なぜ不定冠詞 a は「エイ」と発音することがあるのか.
 (9) 47:53 --- なぜ形容詞は名詞の後ではなく前につくのか.
 (10) 52:29 --- doctor はなぜ or で終わるのか.

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2023-09-18 Mon

#5257. 最近の Mond での回答,5件 [mond][sobokunagimon][politeness][simplification][contact][heldio][youtube][hel_education][phonetics][prestige][speed_of_change][language_myth][link]

 ここ数日間で,知識共有サービス Mond に寄せられてきた言語系の質問に5件ほど回答しました.こちらでもリンクを共有します.

 (1) 敬語の表現が少ない英語の話者には,日本人よりも敬意を示す機会が少ないのでしょうか?
 (2) 歴史的に見て「言語の変化=簡略化」なのでしょうか?
 (3) ブログ,ラジオ,YouTubeなど,様々なメディアを通じて英語の歴史や語源に関する情報を発信していらっしゃいますが,これらのメディアごとにアプローチやコンセプトを変えて情報を提供していますか?
 (4) なぜ人々は(もちろん個人差はあれど)イギリスやフランスなどのアクセントを“魅力的”とし,アジアやインドのアクセントを“魅力がない”とするのでしょうか?
 (5) 言語の変化は,どの程度の速度で起こりますか? 例えば,新しい言葉や表現は,どのくらいの頻度で生まれるものなのでしょうか?

 Mond に寄せられる言語系の質問は多様ですが,日本語と諸外国語との比較というジャンルの質問が目立ちます.今回も (1) や (4) がそのジャンルに属するかと思います.母語は万人にとって特別な存在であり,あまりに思い入れが強いために,他の言語と比べてきわめて特異な性質をもっているものと錯覚してしまうことがしばしば起こります.とりわけ語学を通じて理解の深まった他言語と比較するときに,母語の際立った言語特徴が目に付くことが多く,母語の特別視に拍車がかかります.
 長年言語学に触れてきた経験から感じることは,母語の特別視は往々にして行き過ぎる傾向があるということです.確かに各々の言語には固有の特徴があるもので,その点では日本語も例外ではないのですが,日本語のみに観察される言語特徴というのは,さほど多くあるわけではなく,広く古今東西の諸言語を見渡せば類例はおおよそ見つかるものです.言語の素朴な疑問に関する直感は,当たることもありますが,割と外れることも多いのです.
 今回の5件の質問のうちの3つ,(1), (2), (4) は,振り返ってみれば,言語にまつわる神話 (language_myth) に関わる質問だったように思います.言語学的な考察を通じて,言語の化けの皮を一枚一枚剥いでいくのが,何ともエキサイティングですね.

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2023-09-14 Thu

#5253. 日英語における「無生物主語構文」の歴史と疑問 [genbunicchi][syntax][style][sobokunagimon][japanese]

 「#5112. 江利川春雄(著)『英語と日本人 --- 挫折と希望の二〇〇年』(筑摩書房〈ちくま選書〉,2023年)」 ([2023-04-26-1]) で紹介した著書に「島崎藤村の英語的文体」と小見出しの立てられた一節がある.言文一致の確立に貢献した藤村の近代的文体について,英語らインスピレーションを受けた表現形式について,次のように述べている (57) .

 藤村は作品の文体を斬新で豊かなものにするために,英語の表現を意識的に移植した.たとえば,『家』(一九一〇)では英語の find oneself にあたる「宿へ戻って,またお種は自分一人を部屋の内に見出した」といった表現を使っている.この作品を英訳した William Naff は,この部分を Returning to the inn, Otane found herself all alone again. と訳している.藤村の原文は,そのまま英文に直訳できたのである.
 日本語にはない「無生物主語構文」も多用されている.たとえば『春』(一九〇八)には「追想は岸本を楽しい高輪の学生時代へ連れて行った」,「絶望は彼を不思議な決心に導いた」といった英語的な文体が登場する.
 無生物主語の使用は藤村にとどまらない.たとえば国木田独歩は『武蔵野』(一八九八)で「その路が君を妙なところへ導く」などの表現を使っている.こうした清新な文体が日本語表現を豊かにし,日本人の間に浸透する.昭和に入ると,藤森成吉の戯曲「何が彼女をそうさせたか」(一九二七)が大評判となり,一九三〇年には映画化されて『キネマ旬報』の優秀映画第一位に輝いた.英訳タイトルは "What made her do it?" で,英語に直訳できた.


 無生物主語構文は,現在の日本語でも英語からの直訳調できざっぽい響きは感じられるものの,英語教育のおかげか,英語普及のたまものか,許容できる表現形式とはなっているといってよいだろう.
 英語史側からの問題は,ここで英語的とされている無生物主語構文は,はたして英語でも古くから普通の表現だったかどうかということである.この観点から英語史を眺めてきたことはなかったため判然としないが,少なくとも印象としては現代英語のようには頻繁に使われていなかったのではないか.本当に「英語的」な表現なのかどうか,この辺りは調べてみたい.

 ・ 江利川 春雄 『英語と日本人 --- 挫折と希望の二〇〇年』 筑摩書房〈ちくま選書〉,2023年.

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2023-08-31 Thu

#5239. t の弾音化はいつから? --- Mond の質問 [mond][sobokunagimon][phonetics][r][ame]

 先日,知識共有サービス Mond でいただいた質問に回答しました.


[t] の弾音化はいつから? --- Mond の質問



 結論としては,t の弾音化 (flapping or tapping) は遅くとも中英語以降に生じていた,ということになります.イングランドで異音として行なわれていたものが,17世紀以降にアメリカを含む世界各地に移植・継承されたものと思われます.t の弾音化はアメリカ英語に典型的な特徴であるという印象が強いですが,その他の多くのアメリカ英語の特徴とともに,実際の起源は中世イングランドに求められそうです.
 回答記事では今回の調査に際して当たった典拠を記していませんでしたが,主に Dobson (Vol. 2, p. 956) と Minkova (147--48) に拠りました.Dobson の記述をメモとして残しておきます.

          (4) Intervocalic [t] becomes [r]
385. From early in the sixteenth century there appear the forms porridge, porringer, &c. for earlier pottage, potager (see OED, s.vv.), though the older forms also survived (thus Salesbury has potanger and Bullokar potage). Coles gives porridg and porringer as 'phonetic' spellings of pottage and pottinger, from which it appears that written forms with t may sometimes conceal spoken forms with [r].


 関連して「#61. porridge は愛情をこめて煮込むべし」 ([2009-06-28-1]),および rrhotic の記事群も参照.

 ・ Dobson, E. J. English Pronunciation 1500--1700. 2nd ed. 2 vols. Oxford: OUP, 1968.
 ・ Minkova, Donka. A Historical Phonology of English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2014.

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2023-08-13 Sun

#5221. 「祈り」とは何だろうか? (2) [sobokunagimon][optative][religion][terminology][etymology]

 『宗教学事典』をめくりながら言語に関係する事項をつまみ読みしていたところ,「祈り」の項目に行き当たった.祈りについては「#3908. 「祈り」とは何だろうか?」 ([2020-01-08-1]) で一度考えたことがあった.今回はこの項目の記述を頼りに,祈りを理解するための手がかりを得たい (260--61) .

 近代における宗教学の黎明期には,宗教の起源をめぐる問いが大きな関心を集め,宗教と呪術の区別に関する問題が盛んに議論された.この問題意識が,祈りと呪文・呪言の区別をめぐる問いへと通じている.祈りに関する包括的な研究の古典である『祈り』 (Das Gebet, 1918) を著した F. ハイラーによれば,高次の人格的な超越的存在へと向けられる祈りは呪術的な諸形式から区別され,称名(神仏など超自然的存在の名を唱えること),祝福,呪い,誓願,あるいは単に人間の願望の実現を求める祈願などにおいては,祈りと呪術的形式の融合が生じているという.また,祈りを人格的な超越的存在との交わりと考える立場からは,瞑想が祈りと区別されることもある.しかし,祈りとその周辺に置かれる宗教的な諸形式との間の境界線は流動的である.例えば,称名には言葉の力に頼る呪術的な契機だけでなく祈願や感謝・賛美などの性格もみられるし,占いや予言が超越的存在からの知らせという形をとる場合にも祈りと類似する構造が現れる.自らの健康維持を祈るような場合は,祈りがむしろ誓願に近づいているとも考えられる.
 「祈り」を意味する言葉の語源からは,祈りという現象の文化k的なコンテキストを垣間見ることができる.英語の "prayer" やドイツ語の "Gebet" など「祈り」を意味する西欧の言語はいずれも「頼む,願う」などの言葉に起源を持つのに対して,日本語の「いのり」は,「い」すなわち神聖なもの,ないし斎,忌などを表す語と「のる」すなわち告げる,ないし宣べるといった意味の語との組み合わせからできており,古くは「神“に”祈る」ではなく「神“を”祈る」という用法もみられたという.すなわち,頼み願う対象としての人格的な存在を前提とする西欧的な考え方とは異なり,日本語の「いのり」では,祈りの言葉自体に生命力や神聖なものが宿ると考えられていたことがわかるのである.


 祈りと他の関連する宗教形式との厳密な区別は難しそうである.とすれば,祈りの言葉と,他の関連する宗教形式の言葉との厳密な区別も難しいということになるだろう.
 宗教(学)と言語(学)の掛け算は,いずれの立場にとってもエキサイティングであり,沃野といってよい.本ブログからは「#1546. 言語の分布と宗教の分布」 ([2013-07-21-1]),「#2485. 文字と宗教」 ([2016-02-15-1]) を含め religion の各記事を参照.

 ・ 星野 英紀・池上 良正・氣田 雅子・島薗 進・鶴岡 賀雄(編) 『宗教学事典』 丸善株式会社,2010年.

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2023-07-06 Thu

#5183. なぜ「文法の謎」があるのか? [sobokunagimon][grammar]

 Calude and Bauer による Mysteries of English Grammar: A Guide to Complexities of the English Language という本の序章に,"Why are there grammatical mysteries?" という1節がある.言語学者の観点からみて「文法の謎」には4種類のあり方が認められるという.
(7--8)

 ・ We don't know what is going on; perhaps we are unable to determine any regular pattern --- things are messy; perhaps we can see some regularities, but do not understand what drives the patterns we find; perhaps we just do not yet know what the relevant patterns are. If there are genuinely no patterns, the system is presumably unknowable, so this is a situation we do not expect to f ind, and do not want to find. In such cases, we must try to find something that makes it in principle possible to learn the grammar. There is a big difference between the unknown and the unknowable.
 ・ We know what is going on, but it does not seem to be predictable. This might be because speakers can manipulate the patterns in subtle ways that we cannot fully discern.
 ・ We know what is going on, but we do not know how the mind determines what will actually be said.
 ・ We know more or less what is going on, but we do not know how to successfully capture the patterns we see within a neat theoretical framework (a grammatical model).


 それぞれにタイトルをつけるとすれば,(1) まったく手をつけられない謎,(2) 予測不可能という意味での謎,(3) 心の働きに関する謎,(4) 理論的にうまく説明できないという意味での謎,となろうか.

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 ・ Calude, Andreea S. and Laurie Bauer. Mysteries of English Grammar: A Guide to Complexities of the English Language. Abingdon: Routledge, 2022.

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2023-07-02 Sun

#5179. アメリカ文学慶友会での千本ノック収録を公開しました [notice][voicy][heldio][keiyukai][senbonknock][sobokunagimon]

 6月17日(土)の午後,アメリカ文学慶友会にてオンライン講演をさせていただきました.「文字と文学の英語史 --- letter(s) の系譜」と題して2時間ほどお話しした後,活発な質疑応答の時間を経て,講演会が終了しました.事前の準備から当日の運営まで労を執っていただいたスタッフの方々,そして参加いただいた皆様にお礼申し上げます.
 本セッションの終了後,続けてオンライン懇親会の場を設けていただきました.その懇親会のなかで,アメリカ文学慶友会のメンバーの皆さんのご協力を得まして,事前に打ち合わせしていたとおり,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」のために千本ノックを実施・収録いたしました.本日 heldio にて公開しましたので,お知らせします.「#762. アメリカ文学慶友会の懇親会での千本ノック」です.50分ほどの長さとなっていますので,お時間のあるときにお聴き下さい.



 9本ほどのノックを受けた形になります.以下に分秒を挙げておきますので,聴く際にご利用いただければ.

 (1) 00:19 --- 人称代名詞とジェンダーの問題
 (2) 12:24 --- 同族目的語風の表現
 (3) 15:34 --- 話し言葉と書き言葉における変化の量・速度
 (4) 21:50 --- 数万年前の言語の姿は?
 (5) 26:05 --- イタリック語派に属するフランス語には意外なことにゲルマン語的要素がある!
 (6) 29:17 --- 英語の主語省略
 (7) 33:28 --- 船や国を受ける she
 (8) 38:00 --- 名前隠し
 (9) 42:45 --- 単複同形の名詞

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2023-06-25 Sun

#5172. なぜ印欧祖語には母音交替があったのか? [gradation][vowel][indo-european][reconstruction][comparative_linguistics][yurugengogakuradio][sound_symbolism][sobokunagimon]

 1ヶ月半ほど前の5月6日(土)に,YouTube チャンネル「ゆる言語学ラジオ」に初めて出演させていただきました.「歴史言語学者が語源について語ったら,喜怒哀楽が爆発した【喜怒哀楽単語1】#227」というお題で,水野さんと私が日英語の語源の話題で盛り上がるという回でした(cf. 「#5122. 本日公開の「ゆる言語学ラジオ」に初ゲスト出演しています」 ([2023-05-06-1])).
 日英語に限らず言語には一般に母音交替がよくある,という話をしていたところ,動画の19分40秒付近で,堀元さんが,なぜそもそも母音を替えるというパターンがあるものなのか,という素朴な疑問を投げかけてきました.あまりに本質的で鋭い問いなので,水野さんも私もしばらく固まってしまいました.私もしどろもどろになりつつ,背後にある原理の1つとして音象徴 (sound_symbolism) がありそうだ,というところまでは述べたのですが,まったく納得できる回答にはなっていなかったと思います.



 先日,Comrie による論文を読んでいて,この究極の問いに関連する言及を見つけました.ゲルマン語派に生じたウムラウト (i-mutation or umlaut) の再建について論じた後で,印欧祖語の母音交替 (gradation or ablaut) の起源と再建を考察している箇所です (252) .

. . . if we go back to an earlier stage of the Indo-European ablaut --- for instance, some instances of the so-called zero grade, with complete loss of the vowel, can plausibly be attributed to shift of the accent away from that vowel --- there is no general explanation, so that ablaut remains a morphophonemic alternation for which we cannot reconstruct a plausible origin.


 なぜ印欧祖語(そして後代の印欧諸語の多く)に母音交替があるのかについて,やはり一般的な説明はないということです.この問いは「母音を替えることによって機能を替えるという言語上の工夫ががいかにして芽生えたか」と換言することができますが,これは確かに究極の問いのように思われます.調音・聴覚・音響音声学の観点からも,母音の変異が人類言語において利用しやすいデバイスだからなのではないかと想像していますが,はたしてどうなのでしょうか.

 ・ Comrie, Barnard. "Reconstruction, Typology and Reality." Motives for Language Change. Ed. Raymond Hickey. Cambridge: CUP, 2003. 243--57.

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2023-06-22 Thu

#5169. 人類言語は最初から複雑だったか? [sobokunagimon][evolution][origin_of_language]

 言語類型論で知られる Comrie (248) が,言語の起源と発展をめぐる考察において,人類言語は最初から複雑だったか否かという問題について議論している.ちなみに,ここでいう複雑さとは,主に形態(音韻)論的な複雑さを指している.

One question that then arises is how some languages come to have such complexities as complex morphologies and morphophonemics.
   One possible answer is that they have always had these complexities, i.e. that some languages, from the beginnings of human language, just started out being complex. After all, if languages with complex morphologies, like, say, the Eskimo languages, can be acquired with relatively little difficulty by children, then they are clearly within whatever limits exist on the acquisition and use of language by human beings in general, and as soon as humans attained the level necessary for dealing with such complexity they would have been able to deal with such a language. But although such a scenario cannot be excluded a priori, the nagging question keeps coming back of where such complexity could have come from, almost as if it were improbable to accept the complexity as always having been there and at least more tempting to try to explain its origin.


 引用の最後に示唆されているように,Comrie 自身は,人類言語が最初から複雑だったという説には否定的のようだ.当初は単純だったものが徐々に複雑化してきた,という正反対の説を声高に表明しているわけでもないが,何らかの複雑化説を念頭に置いていると考えられる.
 そもそも言語における複雑さという問題は難しい.上記では形態(音韻)論における複雑さのみが考慮されているにすぎないが,その他の部門の複雑さも含めて総合的に評価する必要があるからだ.そして,その評価の基準について研究者間での合意はない.この問題と関連して,以下の記事を参照.

 ・ 「#293. 言語の難易度は測れるか」 ([2010-02-14-1])
 ・ 「#1839. 言語の単純化とは何か」 ([2014-05-10-1])
 ・ 「#2820. 言語の難しさについて」 ([2017-01-15-1])
 ・ 「#4165. 言語の複雑さについて再考」 ([2020-09-21-1])

 ・ Comrie, Barnard. "Reconstruction, Typology and Reality." Motives for Language Change. Ed. Raymond Hickey. Cambridge: CUP, 2003. 243--57.

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2023-06-21 Wed

#5168. なぜアメリカで "spelling bee" が大人気なのか? [sobokunagimon][ame][spelling][spelling_bee][webster]

 「#3082. "spelling bee" の起源と発達」 ([2017-10-04-1]) で,アメリカでは "spelling bee" というスペリング競技会が国民的人気を誇っている.正式には Scripps National Spelling Bee と呼ばれる.イギリスなどその他の英語国でも対応する競技会はあるが,アメリカの熱狂的な人気には及ばないようだ.Horobin (199--200) より,spelling_bee の沿革を説明する箇所を引用する.

The spelling bee began in the 1700s, forming a key part of a child's education. By 1800 spelling bees came to be viewed more as social entertainment; such frivolous pleasures were frowned upon by the Puritans who rebranded them as spelling 'schools' in an attempt to re-assert their educational focus. Spelling bees gradually fell out of favour in New England society, but were preserved within a frontier culture for whom correct spelling was still considered an index of education and social status. The publication of The Hoosier Schoolmaster (1871) led to a craze in spelling contests, following which the term spelling bee was introduced. The use of the word bee to refer to a social gathering of this kind, often with a specific purpose in mind, such as apple-bee, husking bee, or the more sinister lynching-bee, is based upon an allusion to the social character of bees themselves. But while these gatherings were social, they were also highly competitive, as the alternative name 'spelling fight' makes clear. The first national spelling bee was introduced in 1925, subsequently rebranded the Scripps bee in 1941, and is still going strong today. . . . The popularity of the spelling bee is far greater in America than it is in Britain. The British equivalent, the BBC's Hard Spell, was a short-lived innovation, while British schools rarely engage in the spelling bees that are such an integral part of American society.


 では,なぜアメリカで spelling bee がここまで人気なのか.イギリス綴字と一線を画するアメリカ独自の綴字が,綴字改革者であり愛国者でもある Noah Webster (1758--1843) によって導入され推進されたことは,英語史ではよく知られている.独立前後から独自の綴字を作り上げてきたという国民的記憶と自負が,アメリカでのスペリング競技会人気の背景にあるのではないかと私は睨んでいる.さらにいえば,合衆国憲法がまさにそうであるように,spelling bee は多民族国家アメリカにとって,いわば「国民統合の象徴」に近いものなのではないか.アメリカは,Webster から spelling bee に至るまで,綴字という目に見えるものを国民の遵守すべき規範として掲げることによって,国民どうしの結束を固め,保とうとしているのではないか.イギリスで spelling bee への熱狂が見られないことと対比して,このように考えてみた次第である.

 ・ Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013.
 ・ サイモン・ホロビン(著),堀田 隆一(訳) 『スペリングの英語史』 早川書房,2017年.

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2023-06-20 Tue

#5167. なぜ18世紀に規範文法が流行ったのですか? [sobokunagimon][prescriptive_grammar][lmode][industrial_revolution][history][sociolinguistics][youtube][review][prescriptivism][hel_education]

 昨日の記事「#5166. 秋元実治(編)『近代英語における文法的・構文的変化』(開拓社,2023年)」 ([2023-06-19-1]) で,先日発売された本をご紹介しました.同書については,YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」の最新回でも取り上げています.「#137. 辞書も規範文法も18世紀の産業革命富豪が背景に---故山本史歩子さん(英語・英語史研究者)に捧ぐ---」です.どうぞご覧ください.



 YouTube では,同書の第4章「18世紀の文法的・構文的変化」(山本史歩子さんが執筆された章)の後半の記述にインスピレーションを得て,なぜ規範文法 (prescriptive_grammar) ,ひいては規範主義 (prescriptivism)が,18世紀というタイミングで盛り上がったのかについてお話しています.実際には様々な要因があるのですが,同章に基づき,とりわけ産業革命 (industrial_revolution) とそれに伴う社会変化に注目しています.詳しくは,ぜひ本書を読んでいただければと思います.



 第4章の執筆者である山本史歩子さん(青山学院大学)は,本書の出版を見る前にご逝去されました.英語史活動(hel活)の実践者にして,強力な理解者かつ応援者でもありました.昨年の春,2022年4月6日には,私の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にご出演いただきました.ぜひ「#310. 山本史歩子先生との対談 英語教員を目指す大学生への英語史のすすめ」をお聴きください.山本史歩子さんの英語史研究へのご貢献に深く感謝しつつ,心よりご冥福をお祈りいたします.



 ・ 秋元 実治(編),片見 彰夫・福元 広二・田辺 春美・山本 史歩子・中山 匡美・川端 朋広・秋元 実治(著) 『近代英語における文法的・構文的変化』 開拓社,2023年.

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2023-06-12 Mon

#5159. 英語史を通じて時制はいかに表現されてきたか [sobokunagimon][tense][future][preterite][progressive][perfect][verb][aspect][grammaticalisation]

 英語史において時制カテゴリーの成因や対応する表現はしばしば変化してきた.例えば,未来のことを指示するのにどのような表現が用いられてきたかを歴史に沿ってたどってみると,古英語から中英語にかけては現在時制を用いていたが,中英語から現代英語にかけては shall/will などを用いた迂言的な表現を用いるようになった等々.
 Görlach (100) は,時制カテゴリーをめぐる英語史上の変化の概略を表にまとめている.以下に引用する.

Tense Expressions in HEL by Goerlach



 ざっくりとした見取り図として参考にされたい.

 ・ Görlach, Manfred. The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997.

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2023-06-07 Wed

#5154. なぜ height はこの綴字でこの発音なの? [spelling_pronunciation_gap][sobokunagimon][gvs][analogy][vowel][consonant][spelling][pronunciation]

 形容詞 high と名詞 height は,それぞれ /haɪ/, /haɪt/ と発音されます.綴字と発音の関係について,前者は規則通りと考えられますが,後者は例外的です.これはなぜでしょうか.
 まず high の綴字と発音の発達を振り返ってみましょう.古英語 hēah は中英語にかけて hēh > hēih > heih/hīh と発達しました.最後の段階で異形が2つ現われますが,後者の hīh が大母音推移を経て現代英語の high /haɪ/ に至ります.前者の heih は中英語ではむしろ有力でしたが,後に high に首席を明け渡しました.
 ちなみに,古英語 nēah "near" もまったく同じ発達を遂げています.中英語にかけて nēh > nēih > neih/nīh と変化しました.最終段階の異形のうち前者は neighbour の第1要素に現われており,後者は nigh に連なります.
 さて,名詞 height の古英語の形態は hēhþu でした.これは形容詞 hēah と歩調を揃えて中英語にかけて語形を発達させていき,hēhþ > hēihþ > heiht に帰着しました.ただし,形容詞と異なり,最後の段階に予想される異形 *hīht はありませんでした.名詞接尾辞に含まれる þ が後続する環境では,形容詞には生じた音変化が抑止されたからです.
 こうして,名詞の綴字については,その後に綴字の若干の変化を経つつも height に落ち着きました.ところが,発音のほうは形容詞に引きつけられるようにして /haɪt/ で定着しました.こうして発音と綴字の複雑な発達過程と類推作用の結果, height ≡ /haɪt/ というちぐはぐな関係になってしまったのです.
 以上,Prins (97) を参照して執筆しました.関連して,heldio より「#595. heah/hih/high --- 「ゆる言語学ラジオ」から飛び出した通時的パラダイム」をご参照ください.

 ・ Prins, A. A. A History of English Phonemes. 2nd ed. Leiden: Leiden UP, 1974.

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