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disguised_compound - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-11-19 17:34

2019-10-10 Thu

#3818. 古英語における「自明の複合語」 [lexicology][word_formation][oe][kenning][compound][disguised_compound]

 「#3801. gan にみる古英語語彙の結合的性格」 ([2019-09-23-1]) では,主として古英語の派生語 (derivative) の広がりをみたが,古英語語彙の結合的性格は,複合語 (compound) によって一層よく示される.複合語とは,自立した2つ以上の単語をつなぎ合わせて新たに1つの単語を作ったもので,現代英語でも girlfriendconvenience store などでお馴染みのタイプの単語である.
 したがって,現代英語でも複合 (compounding) という語形成はおおいに活躍しているのだが,古英語ではその活躍の幅が広く,また天真爛漫,天衣無縫ですらある.複合語の各要素の意味を知っていれば,それらをつなぎ合わせた複合語自体の意味もおよそ容易に理解できることから,"self-explaining compounds" と呼ばれることもある.Crystal (22) より,古英語からの「自明の複合語」の例をいくつか挙げてみよう.

 ・ gōdspel < gōd 'good' + spel 'tidings': gospel
 ・ sunnandæg < sunnan 'sun's' + dæg 'day': Sunday
 ・ stæfcræft < stæf 'letters' + cræft 'crat': grammar
 ・ mynstermann < mynster 'monastery' + mann 'man': monk
 ・ frumweorc < frum 'beginning' + weorc 'work': creation
 ・ eorþcræft < eorþ 'earth' + cræft 'craft': geometry
 ・ rōdfæstnian < rōd 'cross' + fæstnian 'fasten': crucify
 ・ dægred < dæg 'day' + red 'red': dawn
 ・ lēohtfæt < lēoht 'light' + fæt 'vessel': lamp
 ・ tīdymbwlātend < tīd 'time' + ymb 'about' + wlātend 'gaze': astronomer


 もちろん「自明の」といっても程度の差はあり,最後の tīdymbwlātend などは本当に自明かどうかは疑わしい.また,形式的な変形により本来の自明度が失われた偽装複合語 (disguised_compound) なるものもあれば,あえて自明さを封じ込めることで文学的効果やナゾナゾ効果を醸し出す隠喩的複合語 (kenning なるものもある(各々「#260. 偽装合成語」 ([2010-01-12-1]),「#472. kenning」 ([2010-08-12-1]) を参照).ただし,いずれも「自明の複合語」という基礎があった上での応用編ともいうべきものではあろう.「自明の複合語」は,古英語の語形成における際立った特徴の1つといってよい.

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 3rd ed. Cambridge: CUP, 2019.

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2011-08-07 Sun

#832. everyeach [etymology][compound][i-mutation][disguised_compound]

 every は「あらゆる,ことごとくの,どの…も」を表わす形容詞で,単数名詞が後続することは英文法でもよく知られている.多くのものについて個々にみてこれを総括するという点で,all よりも意味が強いといわれる.every を強調するときに single が付くことからも,個別に数えての「すべて」であることが分かる.
 単数名詞を従え,個別化の機能を担う形容詞といえば「各々の,めいめいの」を表わす each が思い出される.everyeach は統語や意味の点で語法が似ているが,それもそのはず,語源的には前者は後者の強めに過ぎない.each は古英語の ǣlc に遡り,語形成上は ā "aye, always" + ġelīc "alike" と分析される.「いつも似ている(各々の)」ほどの原義である.個別的でありながら総括的な each の含意は,「いつも」にかかっていると考えられる.
 ā ġelīc が融合し,語頭母音が i-mutation ([2009-10-01-1]) により変化し,偽装合成語 (disguised compound; [2010-01-12-1]) ともいえる ǣlc が生じると,ā の担当していた「いつも」の原義が稀薄となったため,改めて「いつも」を強調する必要が生じた.この目的で前置されたのが ǣfre "ever" である.古英語では ǣfre ǣlc は2語で分かち書きされていたが,10世紀頃よりすでに複合語として認識されていたようで,中英語期には ev(e)rilc, æv(e)ric, everi などの形態が現われ始めた.
 現代英語の every はいわば2段階の偽装合成語ともいえる.every の最後の文字 <y> に each が詰め込まれており,その音価 [i] は「いつも」を意味する ā "aye, always" の i-mutation 形である.つまるところ,every の原義は "ever always" ということになる.
 everyeach はその個別的総括という性質ゆえに,不定冠詞 a(n) を従えることのできた時代がある.MED entry for "everi" (pron.) の 3 や MED entry for "ech" (pron.) の 3 に例があるが,OED によれば前者は14--15世紀,後者は12--15世紀に文証される.この用法は,many a(n) と比較されるだろう.[2010-11-12-1]の記事「Many a little makes a mickle」を参照.

Referrer (Inside): [2014-03-05-1] [2011-11-28-1]

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2010-01-13 Wed

#261. 偽装合成語が生まれる背景 [compound][stress][disguised_compound]

 昨日の記事[2010-01-12-1]偽装合成語 ( disguised compound ) の例をいくつか挙げた.偽装合成語は,もともと透明度の高い合成語だったものが,音声変化やその他の形態変化を経て,もはや合成語と認識されなくなった形態である.偽装合成語が生まれる背景を二つ述べる.
 一つ目は,特に英語について言える事情である.ゲルマン語の特徴の一つ「第一音節アクセントの原則」を思い出したい ([2009-10-26-1]).合成語は通常,第一要素と第二要素からなるが,アクセントの原則により語尾に来る第二要素は相対的に発音が弱化・消失しやすい.皮肉なことに,合成語の主要部 ( head ) は通常,第二要素が担うので,第二要素の形態的な弱化は合成語そのものの意味と形態の関連を不透明にする方向に働く.Christmas は元来 mass 「ミサ」の一種だが,現代ではそのような意識は希薄であるし,lady は元来 diġe 「こねる人」だが,この語源を知っていたとしても現代の文脈で「こねる人」を想像するということはないだろう.ゲルマン語の一種たる英語では,必然的に第二要素が弱化する類の偽装合成語が生まれやすいことになる.
 偽装合成語が生まれやすいもう一つの背景は,合成語の表す概念が独立した概念として頻繁に必要とされるようになると,いちいち構成要素に分析されずに産出・知覚されることが多くなることである.lady ( OE hlǣfdiġe ) の原義は「パンをこねる人」だが,すでに古英語の段階でも意味は「女主人」へと変化しており,原義の連想は働いていなかったろう.現役の意味が「女主人」である以上,むしろ原義の連想の働かないほうが言語運用上は望ましいとも言える.もし原義を意識していたら,運用上の意味である「女主人」にたどり着くまでに,(1) 二要素への分解,(2) 各要素の意味の認識,(3) 各要素の意味の結合,(4) 意味の比喩的拡張,という長いステップを経なければならないからである.
 そこで,合成語としての過去の歴史をご破算にして,新しく lady = 「女主人」という記号 ( sign ) に作りかえてしまえばよい,ということになる.「いっそのことかつての各構成要素の意味など忘れてしまえ」という方針が,偽装合成語の生成を助長しているといえるだろう.
 Bradley の言葉を借りて,上二段落の趣旨をまとめる.

A compound word is a description, often an imperfect description; and when an object of perception or thought is familiar to us, we desire that its name shall suggest the thing to our minds directly, and not through the intervention of irrelevant ideas. Accordingly, a compound word for a simple notion gives a certain sense of inconvenience, unless we are able to forget its literal meaning. It is true that we frequently succeed in doing this: we use multitudes of compound words without mentally analysing them at all. In such cases the compound often undergoes processes of phonetic change which a distinct consciousness of its etymological meaning would not have allowed to take place. (83)


 ・Bradley, Henry. The Making of English. New York: Dover, 2006. New York: Macmillan, 1904.

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2010-01-12 Tue

#260. 偽装合成語 [compound][etymology][disguised_compound]

 偽装合成語(または仮装合成語)とは妙な用語だが,定義は「昔は合成語であったものが,音声変化や要素の孤立化などで構造が不明瞭になり,派生語・単一語に」なったもの(『新英語学辞典』 p. 236l).disguised compound の訳語だが,他にも ex-compound 「既往合成語」,obscured compound 「曖昧合成語」,amalgamated compound 「融合合成語」,verdunkelte Zusammensetzung などの呼び名がある.理解するには,例をみるのが早い.

 abed < LOE on bedde "on bed"
 about < OE onbūtan < on + bi "by" + ūtan "out"
 as < OE ealswā "all so"
 Christmas < LOE Crīstes mæsse "Christ's mass"
 daisy < OE dæġes-ēage "day's eye"
 gossip < LOE godsibb < "God relationship"
 holiday < OE hāliġdæġ "holy day"
 hussy < ModE housewife
 lady < OE hlǣfdiġe "loaf kneader" (see [2009-05-21-1])
 lord < OE hlāford "loaf ward"
 window < ME windoȝe < ON vindauga "wind eye"

 その他,breakfast ([2009-12-04-1]) は綴字でみる限り break + fast と合成の透明度が高いが,発音上は /ˈbrɛkfəst/ と第一,第二音節で音の短化・弱化が生じており,全体として形態が変形しているという点では偽装合成語と呼べるかもしれない.spelling-pronunciation 「綴り字発音」 ([2009-11-24-1]) ではなく伝統的な発音としての cupboard, forehead なども同様である.

 ・大塚 高信,中島 文雄 監修 『新英語学辞典』 研究社,1987年.
 ・中尾 俊夫,寺島 廸子 『英語史入門』 大修館書店,1988年.207頁.

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