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comparison - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2021-10-23 21:31

2021-08-17 Tue

#4495. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第6回「なぜ形容詞の比較級には -er と more があるの?」 [notice][sobokunagimon][rensai][comparison][adjective][adverb][suffix][periphrasis][link]

 NHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」の9月号のテキストが発売となりました.連載している「英語のソボクな疑問」も第6回となりましたが,今回の話題は「なぜ形容詞の比較級には -er と more があるの?」です.

『中高生の基礎英語 in English』2021年9月号



 これは素朴な疑問の定番といってよい話題ですね.短い形容詞なら -er,長い形容詞なら more というように覚えている方が多いと思いますが,何をもって短い,長いというのかが問題です.原則として1音節語であれば -er,3音節語であれば more でよいとして,2音節語はどうなのか,と聞かれるとなかなか難しいですね.同じ2音節語でも early, happy は -er ですが,afraid, famousmore を取ります.今回の連載記事では,この辺りの複雑な事情も含めて,なるべく易しく歴史的に謎解きしてみました.どうぞご一読を.
 定番の話題ということで,本ブログでも様々な形で取り上げてきました.連載記事よりも専門的な内容も含まれますが,こちらもどうぞ.

 ・ 「#4234. なぜ比較級には -er をつけるものと more をつけるものとがあるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-11-29-1])
 ・ 「#3617. -er/-estmore/most か? --- 比較級・最上級の作り方」 ([2019-03-23-1])
 ・ 「#4442. 2音節の形容詞の比較級は -ermore か」 ([2021-06-25-1])
 ・ 「#3032. 屈折比較と句比較の競合の略史」 ([2017-08-15-1])
 ・ 「#2346. more, most を用いた句比較の発達」 ([2015-09-29-1])
 ・ 「#403. 流れに逆らっている比較級形成の歴史」 ([2010-06-04-1])
 ・ 「#2347. 句比較の発達におけるフランス語,ラテン語の影響について」 ([2015-09-30-1])
 ・ 「#3349. 後期近代英語期における形容詞比較の屈折形 vs 迂言形の決定要因」 ([2018-06-28-1])
 ・ 「#3619. Lowth がダメ出しした2重比較級と過剰最上級」 ([2019-03-25-1])
 ・ 「#3618. Johnson による比較級・最上級の作り方の規則」 ([2019-03-24-1])
 ・ 「#3615. 初期近代英語の2重比較級・最上級は大言壮語にすぎない?」 ([2019-03-21-1])
 ・ 「#456. 比較の -er, -est は屈折か否か」 ([2010-07-27-1])

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2021-06-25 Fri

#4442. 2音節の形容詞の比較級は -ermore [comparison][sobokunagimon][adjective][adverb][suffix][periphrasis][-ly]

 形容詞・副詞の比較 (comparison) の話題は,本ブログでも様々に扱ってきた.現代英語でも明確に決着のついていない,比較級が -er (屈折比較)か more (句比較)かという問題の歴史的背景については,「#2346. more, most を用いた句比較の発達」 ([2015-09-29-1]),「#2347. 句比較の発達におけるフランス語,ラテン語の影響について」 ([2015-09-30-1]),「#3032. 屈折比較と句比較の競合の略史」 ([2017-08-15-1]),「#3617. -er/-estmore/most か? --- 比較級・最上級の作り方」 ([2019-03-23-1]),「#3703.『英語教育』の連載第4回「なぜ比較級の作り方に -ermore の2種類があるのか」」 ([2019-06-17-1]),「#4234. なぜ比較級には -er をつけるものと more をつけるものとがあるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-11-29-1]) などで取り上げてきた.
 短い語には -er 語尾をつけ,長い語には more を前置きするというのが原則である.しかし,短くもあり長くもある2音節語については,揺れが激しくてきれいに定式化できない.実際,辞書や文法書をいろいろ繰ってみると,単語ごとにどちらの比較級の形式を取るのか普通なのかについて記述が微妙に異なるのである.今回は,ひとまず LGSWE の §7.7.2 を参照して,2音節の形容詞について考えてみたい.
 2音節の形容詞がいずれの比較級の形式を採用するかは,その音韻形態的構成に大きく依存することが知られている.-y で終わるものについては,-er が普通のようだ.例を挙げると,

angry, bloody, busy, crazy, dirty, easy, empty, funny, gloomy, happy, healthy, heavy, hungry, lengthy, lucky, nasty, pretty, ready, sexy, silly, tidy, tiny


 -y で終わる形容詞ということでいえば,何らかの接頭辞がついて3音節になっても,比較級に -er をとる傾向がある (ex. unhappier) .英語史の観点からは,250年ほど前には状況が異なっていたらしいことが注目に値する (cf. 「#3618. Johnson による比較級・最上級の作り方の規則」 ([2019-03-24-1])) .
 一方 -ly で終わる形容詞は揺れが激しいようで,例えば early の比較級は earlier が普通だが,likely については more likely のほうが普通である.ほかに揺れを示す例としては,

costly, deadly, friendly, lively, lonely, lovely, lowly, ugly


などが挙げられる.同じく揺れを示し得るものとして,以下のように弱音節で終わる2音節の形容詞も挙げておこう.

mellow, narrow, shallow, yellow; bitter, clever, slender, tender; able, cruel, feeble, gentle, humble, little, noble, simple, subtle; sever, sincere; secure, obscure


 両方の形式で揺れを示しているということは,一方から他方へと乗り換えが進んでいるということ,つまり変化の最中であることを(確証するわけではないが,少なくとも)示唆する.両形式の競合・併存はかれこれ1000年ほど続いているわけだが,いまだに結論が見えない.

 ・ Biber, Douglas, Stig Johansson, Geoffrey Leech, Susan Conrad, and Edward Finegan. Longman Grammar of Spoken and Written English. Harlow: Pearson Education, 1999.

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2021-06-19 Sat

#4436. 形容詞のプロトタイプ [comparison][adjective][adverb][category][prototype][pos][comparison]

 品詞 (part of speech = pos) というものは,最もよく知られている文法範疇 (category) の1つである.たいていの言語学用語なり英文法用語なりは,文法範疇につけられたラベルである.主語,時制,数,格,比較,(不)可算,否定などの用語が出てきたら,文法範疇について語っているのだと考えてよい.
 英語の形容詞(および副詞)という品詞について考える場合,比較 (comparison) という文法範疇が話題の1つとなる.日本語などでは「比較」を文法範疇として特別扱いする慣習はなく,せいぜい格助詞「より」の用法の1つとして論じられる程度だが,印欧語族においては言語体系に深く埋め込まれた文法範疇として,特別視されることになっている.私はいまだにこの感覚がつかめていないのだが,英語学において比較という文法範疇が通時的にも共時的にも重要視されてきたことは確かである.
 比較はまずもって形容詞(および副詞)の文法範疇ということだが,ある語が形容詞であるからといって,必ずしもこの範疇が関与するわけではない.本当に形容詞らしい形容詞は比較の範疇に適合するが,さほど形容詞らしくない形容詞は比較とは相容れない.逆に見れば,ある形容詞を取り上げたとき,比較の範疇に適合するかどうかで,形容詞らしい形容詞か,そうでもない形容詞かが判明する.これは,とりもなおさず形容詞に関するプロトタイプ (prototype) の問題である.
 Crystal (92) が,形容詞のプロトタイプについて分かりやすい説明を与えてくれている.

   The movement from a central core of stable grammatical behaviour to a more irregular periphery has been called gradience. Adjectives display this phenomenon very clearly. Five main criteria are usually used to identify the central class of English adjectives:

(A) they occur after forms of to be, e.g. he's sad;
(B) they occur after articles and before nouns, e.g. the big car;
(C) they occur after very, e.g. very nice;
(D) they occur in the comparative or superlative form e.g. sadder/saddest, more/most impressive; and
(E) they occur before -ly to form adverbs, e.g. quickly.

We can now use these criteria to test how much like an adjective a word is. In the matrix below, candidate words are listed on the left, and the five criteria are along the top. If a word meets a criterion, it is given a +; sad, for example, is clearly an adjective (he's sad, the sad girl, very sad, sadder/saddest, sadly). If a word fails the criterion, it is given a - (as in the case of want, which is nothing like an adjective: *he's want, *the want girl, *very want, *wanter/wantest, *wantly).

 ABCDE
happy+++++
old++++-
top+++--
two++---
asleep+----
want-----


The pattern in the diagram is of course wholly artificial because it depends on the way in which the criteria are placed in sequence; but it does help to show the gradual nature of the changes as one moves away from the central class, represented by happy. Some adjectives, it seems, are more adjective-like than others.


 形容詞という文法範疇について,特にその比較という文法範疇については,以下の記事を参照.

 ・ 「#3533. 名詞 -- 形容詞 -- 動詞の連続性と範疇化」 ([2018-12-29-1])
 ・ 「#3835. 形容詞などの「比較」や「級」という範疇について」 ([2019-10-27-1])
 ・ 「#3843. なぜ形容詞・副詞の「原級」が "positive degree" と呼ばれるのか?」 ([2019-11-04-1])
 ・ 「#3844. 比較級の4用法」 ([2019-11-05-1])

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of Language. Cambridge: CUP, 1995. 2nd ed. 2003. 3rd ed. 2019.

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2021-06-19 Sat

#4436. 形容詞のプロトタイプ [comparison][adjective][adverb][category][prototype][pos][comparison]

 品詞 (part of speech = pos) というものは,最もよく知られている文法範疇 (category) の1つである.たいていの言語学用語なり英文法用語なりは,文法範疇につけられたラベルである.主語,時制,数,格,比較,(不)可算,否定などの用語が出てきたら,文法範疇について語っているのだと考えてよい.
 英語の形容詞(および副詞)という品詞について考える場合,比較 (comparison) という文法範疇が話題の1つとなる.日本語などでは「比較」を文法範疇として特別扱いする慣習はなく,せいぜい格助詞「より」の用法の1つとして論じられる程度だが,印欧語族においては言語体系に深く埋め込まれた文法範疇として,特別視されることになっている.私はいまだにこの感覚がつかめていないのだが,英語学において比較という文法範疇が通時的にも共時的にも重要視されてきたことは確かである.
 比較はまずもって形容詞(および副詞)の文法範疇ということだが,ある語が形容詞であるからといって,必ずしもこの範疇が関与するわけではない.本当に形容詞らしい形容詞は比較の範疇に適合するが,さほど形容詞らしくない形容詞は比較とは相容れない.逆に見れば,ある形容詞を取り上げたとき,比較の範疇に適合するかどうかで,形容詞らしい形容詞か,そうでもない形容詞かが判明する.これは,とりもなおさず形容詞に関するプロトタイプ (prototype) の問題である.
 Crystal (92) が,形容詞のプロトタイプについて分かりやすい説明を与えてくれている.

   The movement from a central core of stable grammatical behaviour to a more irregular periphery has been called gradience. Adjectives display this phenomenon very clearly. Five main criteria are usually used to identify the central class of English adjectives:

(A) they occur after forms of to be, e.g. he's sad;
(B) they occur after articles and before nouns, e.g. the big car;
(C) they occur after very, e.g. very nice;
(D) they occur in the comparative or superlative form e.g. sadder/saddest, more/most impressive; and
(E) they occur before -ly to form adverbs, e.g. quickly.

We can now use these criteria to test how much like an adjective a word is. In the matrix below, candidate words are listed on the left, and the five criteria are along the top. If a word meets a criterion, it is given a +; sad, for example, is clearly an adjective (he's sad, the sad girl, very sad, sadder/saddest, sadly). If a word fails the criterion, it is given a - (as in the case of want, which is nothing like an adjective: *he's want, *the want girl, *very want, *wanter/wantest, *wantly).

 ABCDE
happy+++++
old++++-
top+++--
two++---
asleep+----
want-----


The pattern in the diagram is of course wholly artificial because it depends on the way in which the criteria are placed in sequence; but it does help to show the gradual nature of the changes as one moves away from the central class, represented by happy. Some adjectives, it seems, are more adjective-like than others.


 形容詞という文法範疇について,特にその比較という文法範疇については,以下の記事を参照.

 ・ 「#3533. 名詞 -- 形容詞 -- 動詞の連続性と範疇化」 ([2018-12-29-1])
 ・ 「#3835. 形容詞などの「比較」や「級」という範疇について」 ([2019-10-27-1])
 ・ 「#3843. なぜ形容詞・副詞の「原級」が "positive degree" と呼ばれるのか?」 ([2019-11-04-1])
 ・ 「#3844. 比較級の4用法」 ([2019-11-05-1])

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of Language. Cambridge: CUP, 1995. 2nd ed. 2003. 3rd ed. 2019.

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2021-01-25 Mon

#4291. 実は not so ... as より not as ... as が多い [comparison][presupposition][negative][antonymy]

 as ... as の同等比較の否定が not so ... as となることは,学校文法でよく知られている.副詞としての最初の as が,否定の文脈では so になるということだ.このこと自体は,歴史的には不思議はない.「#693. as, so, also」 ([2011-03-21-1]) でみたように,as は語源的に so の強調の形態ともいえ,so ... as は歴史的には破格でも何でもないからだ.
 しかし,厳密にいえば現代英語においても not as ... as は普通に見られる.つまり,正確を期していえば not as ... as は,not so ... as と言い換えることが可能というにすぎない.単純に頻度だけでいえば,実は not as ... as のほうが使用例としては多いのである.荒削りながらも,試しに BNCweb で"not as (_{ADJ} | _{ADV}) as" と "not so (_{ADJ} | _{ADV}) as" で検索してみると,それぞれ1,355件,313件と前者が圧倒的となる(81.24%) .
 Quirk et al (§15.71) に詳しいが,not so ... が特に好まれるのは,最後の as 以下が省略されるときだという(つまり not so ... as とならないとき!).以下を参照.

 He's not as naughty as he was.
 He's not so naughty as he was.
 He's not so naughty (now).


 また,同節によれば,話者によって解釈は異なるようだが,not so ... as は前提 (presupposition) の点で特殊な振る舞いを示すという.

Some prefer to use so . . . as with negative clauses. But for some people so tends to carry the absurd implication of a possibility that is then negated, and they therefore find it odd to say:

   (?)Her baby is not so old as I thought.

The reason is that for them the sentence implies that a baby can be old. In other words, an unmarked term old . . . cannot be used in this context to cover the whole scale.


 反意語と有標性と前提の問題については「#1804. gradable antonym の意味論」 ([2014-04-05-1]) を参照されたい.
 同等比較の構文の問題に関しては,関連して「#3346. A is as . . . as B. は「A ≧ B」」 ([2018-06-25-1]) も参照.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2020-11-29 Sun

#4234. なぜ比較級には -er をつけるものと more をつけるものとがあるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][comparison][adjective][adverb]

 短い形容詞・副詞を比較級・最上級にするには -er, -est を付す.しかし,長い形容詞・副詞を比較級・最上級にするには,その語の前に more, most を付す.これが,現代英語の規範文法が教える規則です.しかし,これは英語の歴史において比較的新しい規則というべきであり,古くから適用されていた規則ではありません.語の長さによっていずれの比較級・最上級の方法を取るかという規則は,せいぜい数世紀の歴史しかないのです.では,音声の解説をお聴きください.



 そもそも英語の比較級・最上級には -er, -est を付けるという方法しかありませんでした.more, most を前置する方法は,おそらくフランス語やラテン語という外来の方法として中英語期に取り入れられ,近代英語期において確立した新しい方法なのです.
 要するに英語の立場からみると,それまで -er, -est を用いて形態的に処理していたものを,歴史の途中でフランス語やラテン語からの影響により,more/most を用いて統語的に表現するようになったという点が重要です.
 今回の疑問に関連する個々の話題としては,##3617,3032,456,2346,403,2347,3349,3619,3618,3615,3703の記事セットを是非ご覧ください.

Referrer (Inside): [2021-08-17-1] [2021-06-25-1]

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2020-08-02 Sun

#4115. なぜ「the 比較級,the 比較級」で「〜すればするほど〜」の意味になるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][article][comparison][adjective][instrumental]

 hellog ラジオ版の第12回は,1つの公式として学習することの多い標題の構文について.

 ・ The longer you work, the more you will earn. (長く働けば働くほど,多くのお金を稼げます.)
 ・ The older we grow, the weaker our memory becomes. (年をとればとるほど,記憶力は衰えます.)
 ・ The sooner, the better. (早ければ早いほどよい.)

 この構文では,比較級を用いた節が2つ並列されるので「〜すればするほど〜」という意味になることは何となく分かる気がするのですが,なぜ定冠詞 the が出てくるのかしょうか.この the の役割はいったい何なのでしょうか.今回は,その謎解きをしていきます.



 実は驚くほど歴史の古い構文なのですね.しかも,the が副詞 (adverb) として機能しているとは! 考え方としては,when . . . then, if . . . then, although . . . yet, as . . . so のような相関構文と同列に扱えばよいということになります.
 この問題について詳しく理解したい方は,##812,811の記事セットをご覧ください.

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2020-07-30 Thu

#4112. なぜ careless の反対は *caremore ではなく careful なのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][suffix][comparison]

 hellog ラジオ版の第11回.今回は,昨年の英語史の授業から飛び出してきた,驚くほどセンスのよい素朴な疑問です.こういうセンスが欲しいと羨ましくなるほどの良問.これについて簡単に音声で解説してみました.



 つまり,語源をひもとけば,形容詞(の比較級) less と接尾辞 -less とはまったくの別物ということになるのです.これは驚きですね.類例として,かの形容詞の able と接尾辞 -able もなんと別物です.まさにひっくり返りそうな驚愕の事実.
 この辺りの話題を文章でじっくり読みたい方は,##3699,4071の記事セットをどうぞ.

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2019-11-05 Tue

#3844. 比較級の4用法 [comparison][adjective][adverb][semantics]

 昨日の記事「#3843. なぜ形容詞・副詞の「原級」が "positive degree" と呼ばれるのか?」 ([2019-11-04-1]) や「#3835. 形容詞などの「比較」や「級」という範疇について」 ([2019-10-27-1]) で,形容詞・副詞の比較 (comparison) について調べている.以下は『新英語学辞典』の comparison の項からの要約にすぎないが,Kruisinga (Handbook, Vol. 4, §§1734--41) による比較級の4用法を紹介しよう.

(i) 対照比較級 (comparative of contrast)
 a younger son における比較級 younger は,an elder son の elder を念頭に,それと対照的に用いられている.How slow you are! Try and be a little quicker. のように,テキスト中に明示的に対照性が示される場合もある.一方,unique, real, right, wrong などの形容詞は本来的に対照的な意味を有しており,それゆえに対照比較級をとることはない.

(ii) 優勢比較級 (comparative of superiority)
 2者について同じ特徴をもつが,一方が他方よりも高い程度を表わす場合に用いられる.He worked harder than most men. のような一般的な比較文がこれである.対照比較級の特別な場合と考えることもできる.

(iii) 比例比較級 (comparative of proportion)
 平行する2つの節で用いられることが多く,同じ比率で増加・減少する性質を表現する.The more he contemplated the thing the greater became his astonishment.You grow queerer as you grow older.Life seemed the better worth living because she had glimpsed death. などの例があがる.

(iv) 漸層比較級 (comparative of graduation)
 ある性質が漸次増加・減少することを表わすのに and を用いて比較級を重ねるもの.The road got worse and worse until there was none at all. など.worse and worse とする代わりに even worse などと副詞を添える場合もあるし,worse 1つを単独で用いる場合もある.

 比較級を意味論的に分類してみると興味深い.これらの歴史的発達も調べてみるとおもしろそうだ.

 ・ 大塚 高信,中島 文雄 監修 『新英語学辞典』 研究社,1987年.

Referrer (Inside): [2021-06-19-1]

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2019-11-04 Mon

#3843. なぜ形容詞・副詞の「原級」が "positive degree" と呼ばれるのか? [comparison][terminology][adjective][adverb][sobokunagimon]

 「#3835. 形容詞などの「比較」や「級」という範疇について」 ([2019-10-27-1]) で,形容詞・副詞にみられる比較 (comparison) という範疇 (category) について考えた.一般に英語の比較においては,3つの級 (grade) が区別される.原級 (positive degree),比較級 (comparative degree),最上級 (superlative degree) である.ここで英語の用語に関して comparativesuperlative はよく分かるのだが,positive というのがイマイチ理解しにくい.何がどう positive だというのだろうか.
 OED で positive, adj. and n. を引いてみると,この文法用語としての意味は,語義12に挙げられている.

12. Grammar. Designating the primary degree of an adjective or adverb, which expresses simple quality without qualification; not comparative or superlative. . . .


 この positivenegative の反対というわけではない.それは特に何も修正や小細工が施されていない形容詞・副詞そのもののあり方をいう.換言すれば absolute (絶対的), intrinsic (本質的), independent (独立的)といってもよいほどの意味だろう.比較的・相対的な級である comparativesuperlative に対して,比較しない絶対的な級だから positive というわけだ.ある意味で,否定的に定義されている用語・概念といえる.
 文法用語としての初例は1434年頃となっている.用語の理解に資する歴史的な例文をいくつか引こう.

 ・ c1434 J. Drury Eng. Writings in Speculum (1934) 9 79 Þe positif degre..be-tokenyth qualite or quantite with outyn makyng more or lesse & settyth þe grownd of alle oþere degreis of Comparison.
 ・ 1704 J. Harris Lexicon Technicum I Positive Degree of Comparison in Grammar, is that which signifies the Thing simply and absolutely, without comparing it with others; it belongs only to Adjectives.
 ・ 1930 Frederick (Maryland) Post 15 Jan. 4/2 The Positive degree is used when no comparison is made with any other noun or pronoun, except as to their class; it is expressed by the simple unchanged form of the adjective; it expresses a certain idea to an ordinary extent.


 上記を考えると,日本語の「原級」という訳語も決して悪くない.

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2019-10-27 Sun

#3835. 形容詞などの「比較」や「級」という範疇について [comparison][adjective][adverb][category][terminology][fetishism]

 英語の典型的な形容詞・副詞には,原級・比較級・最上級の区別がある.日本語の「比較」や「級」という用語には,英語の "comparison", "degree", "gradation" などが対応するが,そもそもこれは言語学的にどのような範疇 (category) なのか.Bussmann の用語辞典より,まず "degree" の項目をみてみよう.

degree (also comparison, gradation)
All constructions which express a comparison properly fall under the category of degree; it generally refers to a morphological category of adjectives and adverbs that indicates a comparative degree or comparison to some quantity. There are three levels of degree: (a) positive, or basic level of degree: The hamburgers tasted good; 'b) comparative, which marks an inequality of two states of affairs relative to a certain characteristic: The steaks were better than the hamburgers; (c) superlative, which marks the highest degree of some quantity: The potato salad was the best of all; (d) cf. elative (absolute superlative), which marks a very high degree of some property without comparison to some other state of affairs: The performance was most impressive . . . .
   Degree is not grammaticalized in all languages through the use of systematic morphological changes; where such formal means are not present, lexical paraphrases are used to mark gradation. In modern Indo-European languages, degree is expressed either (a) synthetically by means of suffixation (new : newer : (the) newest); (b) analytically by means of particles (anxious : more/most anxious); or (c) through suppletion . . . , i.e. the use of different word stems: good : better : (the) best.


 同様に "gradation" という項目も覗いてみよう.

gradation
Semantic category which indicates various degrees (i.e. gradation) of a property or state of affairs. The most important means of gradation are the comparative and superlative degrees of adjectives and some (deadjectival) adverbs. In addition, varying degrees of some property can also be expressed lexically, e.g. especially/really quick, quick as lightning, quicker and quicker.


 上の説明にあるように "degree" や "gradation" が「意味」範疇であることはわかる.英語のみならず,日本語でも「より良い」「ずっと良い」「最も良い」「最良」などの表現が様々に用意されており,「比較」や「級」に相当する機能を果たしているからだ.しかし,通言語的にはそれが常に形態・統語的な「文法」範疇でもあるということにはならない.いってしまえば,たまたま印欧諸語では文法化し(=文法に埋め込まれ)ているので文法範疇として認められているが,日本語では特に文法範疇として設定されていないという,ただそれだけのことである.
 個々の文法範疇は,通言語的に比較的よくみられるものもあれば,そうでないものもある.文法範疇とは,ある意味で個別言語におけるフェチというべきものである.この見方については「#2853. 言語における性と人間の分類フェチ」 ([2017-02-17-1]) をはじめ fetishism の各記事を参照されたい.

 ・ Bussmann, Hadumod. Routledge Dictionary of Language and Linguistics. Trans. and ed. Gregory Trauth and Kerstin Kazzizi. London: Routledge, 1996.

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2019-06-17 Mon

#3703.『英語教育』の連載第4回「なぜ比較級の作り方に -er と more の2種類があるのか」 [notice][hel_education][elt][sobokunagimon][adjective][adverb][comparison][rensai][latin][french][synthesis_to_analysis][link]

 6月14日に,『英語教育』(大修館書店)の7月号が発売されました.英語史連載記事「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」の第4回目として拙論「なぜ比較級の作り方に -er と more の2種類があるのか」が掲載されています.是非ご覧ください.

『英語教育』2019年7月号



 形容詞・副詞の比較表現については,本ブログでも (comparison) の各記事で扱ってきました.以下に,今回の連載記事にとりわけ関連の深いブログ記事のリンクを張っておきますので,あわせて読んでいただければ,-ermore に関する棲み分けの謎について理解が深まると思います.

 ・ 「#3617. -er/-estmore/most か? --- 比較級・最上級の作り方」 ([2019-03-23-1])
 ・ 「#3032. 屈折比較と句比較の競合の略史」 ([2017-08-15-1])
 ・ 「#456. 比較の -er, -est は屈折か否か」 ([2010-07-27-1])
 ・ 「#2346. more, most を用いた句比較の発達」 ([2015-09-29-1])
 ・ 「#403. 流れに逆らっている比較級形成の歴史」 ([2010-06-04-1])
 ・ 「#2347. 句比較の発達におけるフランス語,ラテン語の影響について」 ([2015-09-30-1])
 ・ 「#3349. 後期近代英語期における形容詞比較の屈折形 vs 迂言形の決定要因」 ([2018-06-28-1])
 ・ 「#3619. Lowth がダメ出しした2重比較級と過剰最上級」 ([2019-03-25-1])
 ・ 「#3618. Johnson による比較級・最上級の作り方の規則」 ([2019-03-24-1])
 ・ 「#3615. 初期近代英語の2重比較級・最上級は大言壮語にすぎない?」 ([2019-03-21-1])

 ・ 堀田 隆一 「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ 第4回 なぜ比較級の作り方に -er と more の2種類があるのか」『英語教育』2019年7月号,大修館書店,2019年6月14日.62--63頁.

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2019-06-13 Thu

#3699. なぜ careless の反対は *caremore ではなくcareful なのですか? [sobokunagimon][suffix][comparison]

 英語史の授業で寄せられた大変おもしろい質問です.carefulcareless のような対義の形容詞において,しばしば接尾辞として -ful と -less が対置されていますが,なぜ -ful に対して -less なのでしょうか.-less は -more の逆だったのではないでしょうか.
 確かに,とうならされました.考えたこともなかった質問です.この質問をさらに一歩進めることもできそうです.接頭辞 -ful は形容詞 full に由来することは分かりますが,その形態はあくまで原級ですね.ところが,対義の接尾辞 -less は形容詞の比較級の形態を取っています.この辺りの非平行性も不可解です.
 種明かしをすると,比較級の less と接尾辞の -less とは同じものではなく,まったくの別語源なのです.現在では綴字が同じなのでだまされてしまいますが,古英語では前者は lǣs(sa),後者は -lēas のように異なる形態を示していました.後に起こった音変化の結果,両者が偶然にも同じ形態に収斂してしまったというわけなのです.
 比較級の less は「小さい」を意味する印欧語根 *leis- にさかのぼります.一方,接尾辞 -less はゲルマン祖語 *lausaz に由来します.後者は loose, lose, loss などと関連し「〜がない,欠如している」を意味します.「〜が十分にある,満ちている」を意味する full, -ful と正に対義の関係にあることが分かるかと思います.
 ということで,言語学用語を用いて堅めに答えますと「自由形態素 less と拘束形態素 -less は互いに無関係の別語源に由来するから」となります.

Referrer (Inside): [2020-03-22-1]

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2019-03-28 Thu

#3622. latter の形態を説明する古英語・中英語の "Pre-Cluster Shortening" [consonant][vowel][shortening][adjective][comparison][sound_change][etymology][shocc]

 「#3616. 語幹母音短化タイプの比較級に由来する latter, last, utter」 ([2019-03-22-1]) で取り上げたように,中英語では,形容詞の比較級において原級では長い語幹母音が短化するケースがあった.これを詳しく理解するには,古英語および中英語で生じた "Pre-Cluster Shortening" なる音変化の理解が欠かせない.
 "Pre-Cluster Shortening" とは,特定の子音群の前で,本来の長母音が短母音へと短化する過程である.音韻論的には,音節が「重く」なりすぎるのを避けるための一般的な方略と解釈される.原理としては,feed, keep, meet, sleep などの長い語幹母音をもつ動詞に歯音を含む過去(分詞)接辞を加えると fed, kept, met, slept と短母音化するのと同一である.あらためて形容詞についていえば,語幹に長母音をもつ原級に対して,子音で始まる古英語の比較級接尾辞 -ra (中英語では -er へ発展)を付した比較級の形態が,短母音を示すようになった例のことを話題にしている.Lass (102) によれば,

Originally long-stemmed adjectives with gemination in the comparative and superlative showing Pre-Cluster Shortening: great 'great'/gretter, similarly reed 'red', whit 'white', hoot 'hot', late. (The old short-vowel comparative of late has been lexicalised as a separate form, later, with new analogical later/latest.)


 長母音に子音群が後続すると短母音化する "Pre-Cluster Shortening" は,ありふれた音変化の1種と考えられ,実際に英語音韻史では異なる時代に異なる環境で生じている.Lass (71) によれば,古英語で生じたものは以下の通り(gospel については「#2173. gospel から d が脱落した時期」 ([2015-04-09-1]) を参照).

About the seventh century . . . long vowels shortened before /CC/ if another consonant followed, either in the coda or the onset of the next syllable, as in bræ̆mblas 'branbles' < */bræːmblɑs/, gŏdspel 'gospel' < */goːdspel/. This removes one class of superheavy syllables.


 この古英語の音変化は3子音連続の前位置で生じたものだが,初期中英語で生じたバージョンでは2子音連続の前位置で生じている.今回取り上げている形容詞語幹の長短の交替に関与するのは,この初期中英語期のものである (Lass 72--73) .

Long vowels shortened before sequences of only two consonants . . . , and --- variably--- certain ones like /st/ that were typically ambisyllabic . . . . So shortening in kĕpte 'kept' < cēpte (inf. cēpan), mĕtte met < mētte'' (inf. mētan), brēst 'breast' < breŏst 'breast' < brēost. Shortening failed in the same environment in priest < prēost; in words like this it may well be the reflex of an inflected form like prēostas (nom./acc.pl.) that has survived, i.e. one where the /st/ could be interpreted as onset of the second syllable; the same holds for beast, feast from French. This shortening accounts for the 'dissociation' between present and past vowels in a large class of weak verbs, like those mentioned earlier and dream/dreamt, leave/left, lose/lost, etc. (The modern forms are even more different from each other due to later changes in both long and short vowels that added qualitative dissociation to that in length: ME /keːpən/ 〜 /keptə/, now /kiːp/ 〜 /kɛpt/, etc.)


 latter (および last) は,この初期中英語の音変化による出力が,しぶとく現代まで生き残った事例として銘記されるべきものである.

 ・ Lass, Roger. "Phonology and Morphology." The Cambridge History of the English Language. Vol. 2. Cambridge: CUP, 1992. 23--154.

Referrer (Inside): [2020-07-13-1] [2020-02-29-1]

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2019-03-25 Mon

#3619. Lowth がダメ出しした2重比較級と過剰最上級 [comparison][double_comparative][superlative][lowth][prescriptive_grammar][adjective]

 「#2583. Robert Lowth, Short Introduction to English Grammar」 ([2016-05-23-1]) や「#3036. Lowth の禁じた語法・用法」 ([2017-08-19-1]) で紹介したように,規範文法化の第一人者 Robert Lowth による1762年の文法書には様々な語法の禁止条項がみえるが,連日取り上げている形容詞の比較についても,2重比較級 (double_comparative) と,意味的に過剰な最上級へのダメ出しがなされている.Lowth (34--35) より関連箇所を抜き出そう.

[4] Double Comparatives and Superlatives are improper.

"The Duke of Milan, / And his more braver Daughter could controul thee." "After the most straitest sect of our religion I lived a Pharisee." Shakespeare, Tempest. Acts xxvi. 5. So likewise Adjectives, that have in themselves a Superlative signification, admit not properly the Superlative form superadded: "Whosoever of you will be chiefest, shall be servant of all." Mark x. 44. "One of the first and chiefest instances of prudence." Atterbury, Serm. IV. "While the extremest parts of the earth were meditating a submission." Ibid. I. 4.

"But first and chiefest with thee bring
Him, that you soars on golden wing,
Guiding the fiery-wheeled throne,
The Cherub Contemplation." Milton, Il Penseroso.
"That on the sea's extremest border stood." Addison, Travels.

   But poetry is in possession of these two improper Superlatives, and may be indulged in the use of them.
. . . .
[5] "Lesser, says Mr. Johnson, is a barbarous corruption of Less, formed by the vulgar from the habit of terminating comparisons in er."
      "Attend to what a lesser Muse indites." Addison.
   Worser sounds much more barbarous, only because it has not been so frequently used:

"Chang'd to a worser shape thou canst not be." Shakespeare, 1 Hen. VI.
"A dreadful quiet felt, and worser far / Than arms, a sullen interval of war." Dryden.


 ダメだしされているのは more braver, lesser, worser のような2重比較級,most straitest のような2重最上級,そして chiefest, extremest のようにもともと最上級に相当する意味をもっている形容詞をさらに最上級化する過剰最上級の例である.しかも,槍玉にあがっているのは Shakespeare, Milton, Addison, Dryden などの大物揃いだから読み応えがある(この戦略も Lowth の常套手段である).なお,lesser は現在では普通に用いられていることに注意.
 Shakespeare の worser 使用については「#195. Shakespeare に関する Web resources」 ([2009-11-08-1]) を参照されたい.また,Dryden はここで worser の使用ゆえに Lowth によって断罪されているが,「#3220. イングランド史上初の英語アカデミーもどきと Dryden の英語史上の評価」 ([2018-02-19-1]) で触れたように,実は Dryden 自身が2重比較を非難していたのである.
 近代英語における2重比較については「#3615. 初期近代英語の2重比較級・最上級は大言壮語にすぎない?」 ([2019-03-21-1]) も要参照.

 ・ Lowth, Robert. A Short Introduction to English Grammar. 1762. New ed. 1769. (英語文献翻刻シリーズ第13巻,南雲堂,1968年.9--113頁.)

Referrer (Inside): [2021-08-17-1] [2019-06-17-1]

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2019-03-24 Sun

#3618. Johnson による比較級・最上級の作り方の規則 [johnson][dictionary][prescriptive_grammar][comparison][superlative][adjective][suffix][lexical_diffusion]

 1755年の Johnson の辞書の序文に "Grammar of the English Tongue" と題する英文法記述の章がある.そこで形容詞の比較についてもスペースが割かれているが,-er/-est 比較か more/most 比較かという使い分けの問題は,当時も規則に落とし込むのが難しい問題だったようだ.Johnson なりの整理の仕方を見てみよう.
 

          The Comparison of Adjectives.

   The comparative degree of adjectives is formed by adding er, the superlative by adding est, to the positive; as, fair, fairer, fairest; lovely, lovelier, loveliest; sweet, sweeter, sweetest; low, lower, lowest; high, higher, highest.
   Some words are irregularly compared; as good, better, best; bad, worse, worst; little, less, least; near, nearer, next; much, more, most; many (or moe), more for moer), most (for moest); late, latter, latest or last.
   Some comparatives form a superlative by adding most, as nether, nethermost; outer, outmost; under, undermost; up, upper, uppermost; fore, former, foremost.
   Many adjectives do not admit of comparison by terminations, and are only compared by more and most, as benevolent, more benevolent, most benevolent.
   All adjectives may be compared by more and most, even when they have comparatives and superlatives regularly formed; as fair; fairer, or more fair; fairest, or most fair.
   In adjectives that admit a regular comparison, the comparative more is oftener used than the superlative most, as more fair is oftener written for fairer, than most fair for fairest.
   The comparison of adjectives is very uncertain; and being much regulated by commodiousness of utterance, or agreeableness of sound, is not easily reduced to rules.
   Monosyllables are commonly compared.
   Polysyllables, or words of more than two syllables, are seldom compared otherwise than by more and most, as deplorable, more deplorable, most deplorable.
   Disyllables are seldom compared if they terminate in some, as fulsome, toilsome; in ful, as careful, spleenful, dreadful; in ing, as trifling, charming; in ous, as porous; in less, as careless, harmless; in ed, as wretched; in id, as candid; in al, as mortal; in ent, as recent, fervent; in ain, as certain; in ive, as missive; in dy, as woody; in fy, as puffy; in ky, as rocky, except lucky; in my, as roomy; in ny, as skinny; in py, as ropy, except happy; in ry, as hoary.


 Johnson はこのように整理した上で,なおこれらの規則に沿わない例も散見されるとして,Milton や Ben Jonson からの実例を挙げている.
 それでも上に引用した記述には,興味深い点が多々含まれている.たとえば,位置・方角を表わす語では most が接尾辞として付加されるというのは語源的におもしろい (ex. nethermost, outmost, undermost, uppermost, foremost) .outer については「#3616. 語幹母音短化タイプの比較級に由来する latter, last, utter」 ([2019-03-22-1]) を参照.また,foremost については「#1307. mostmest」 ([2012-11-24-1]) を参照.
 加えて,句比較を許す形容詞について most を用いる最上級よりも more を用いる比較級のほうが高頻度だというのも興味深い指摘だ.比較級と最上級ではそもそも傾向が異なるかもしれないという視点は,示唆に富む.
 Milton の時代には許された virtuousest, famousest, pow'rfullest などが Johnson (の時代)では許容されなくなっているという点も見逃せない.Johnson がすでに現代的な感覚をもっていたことになるからだ.使い分けの細部を除けば,Johnson の時代までに現代の分布の大枠はできあがっていたと考えてよさそうだ.
 一方,そのような「細部」の1点について,Lass が指摘していることも示唆的である.Lass (157) は,Johnson では許容されていない woody, puffy, rocky, roomy などの屈折比較が現在では許容されている事実を考えると,当時から現代までに屈折比較の適用範囲が拡大してきた可能性があると述べている.もしそうならば,一種の語彙拡散 (lexical_diffusion) の例としてみることもできるだろう.
 18世紀の規範文法の読み直しは,後期近代英語から現代英語にかけての言語変化の「発見」を促してくれる.

 ・ Lass, Roger. "Phonology and Morphology." 1476--1776. Vol. 3 of The Cambridge History of the English Language. Ed. Roger Lass. Cambridge: CUP, 1999. 56--186.

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2019-03-23 Sat

#3617. -er/-estmore/most か? --- 比較級・最上級の作り方 [comparison][adjective][suffix][superlative]

 現代英語における標記の問いは,いまだ決着のついていない問題である.英語史的にも,その発達や現状について単純に記述することは難しく,いまなお研究が進められている.屈折比較と句比較の競合の歴史的な背景については,「#403. 流れに逆らっている比較級形成の歴史」 ([2010-06-04-1]),「#2346. more, most を用いた句比較の発達」 ([2015-09-29-1]),「#3032. 屈折比較と句比較の競合の略史」 ([2017-08-15-1]),「#3349. 後期近代英語期における形容詞比較の屈折形 vs 迂言形の決定要因」 ([2018-06-28-1]),「#3614. 初期近代英語の2重比較級・最上級は大言壮語にすぎない?」 ([2019-03-21-1]) などで紹介してきたので,そちらをご覧ください.
 今回は,現代標準英語における比較級・最上級の両タイプの形成法の分布に関して,Lass による概観 (156) をもって整理しておこう.

(i) Monosyllabic bases take suffixes: bigg-er, bigg-est, etc. Periphrasis is usually not available (**more big), though there are exceptions, e.g. when two adjectives are predicated of a single head (more dead than alive). Suffixed participles must take periphrasis (**smashed-er).
(ii) Disyllables preferentially take suffixes, though periphrasis is available for many (hairy, hairi-er/more hairy). Some suffix(oid)s however require periphrasis: e.g. -ish (**greenish-er), -est (**honest-er), -ous (**grievous-er), -id (**rigid-er), as well as -less, -ful, and some others. Participles cannot be suffixed (**hidden-er). This may be a function of the somewhat ambiguous status of the comparative and superlative endings, somewhere between inflections proper and derivational affixes. (The former are normally terminal in the word: care-less-ness-es.)
(iii) Trisyllabic and longer forms take periphrasis (**beautiful-er, **religiously-er); hence the comic effect of Alice's 'curiouser and curiouser'. But suffixation of longer forms is available for special stylistic purposes . . . .


 このように基体の音節数で場合分けしても各々に例外が発生してしまい,完全な整理は難しい.(ii) で問題点として挙げられているように,-er/-est は屈折接辞なのか派生接辞なのかという問いも,理論的に重要な問題である (cf. 「#456. 比較の -er, -est は屈折か否か」 ([2010-07-27-1])) .英語学にとっても英語史にとっても,たかが比較,されど比較なのである.

 ・ Lass, Roger. "Phonology and Morphology." 1476--1776. Vol. 3 of The Cambridge History of the English Language. Ed. Roger Lass. Cambridge: CUP, 1999. 56--186.

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2019-03-22 Fri

#3616. 語幹母音短化タイプの比較級に由来する latter, last, utter [etymology][comparison][vowel][adjective]

 初期近代英語までは,形容詞の語幹母音を短くした上で接尾辞 -er を付すタイプの比較級形成法があった.たとえば great の比較級が gretter となったり,whitewhitter となったりするような例だ.しかし,語幹母音が長く保たれる形態も併存していたので,大多数の形容詞においては,やがてそちらが優勢となり,語幹母音短化タイプの比較級形態は存在感を薄めていった.
 ところが,それでも生き延びたものがいた.late の語幹母音短化タイプの比較級である latter と最上級の last だ.共時的には late の比較級・最上級とはみなされておらず,別の語彙項目と受け取られているが,歴史的には密接に関わっている.なお,母音を長く保った形態は各々 later, latest となり,現在の標準的な late の比較級・最上級となっている.
 同様に,out の語幹母音短化タイプの比較級形態が現在の utter に連なっている.この場合も,utterout と関連しているという共時的な感覚はなくなっており,独立した別の語となっている.だからこそ,utterly のように,さらなる派生接尾辞を付けることができる.一方,長い母音を保ったタイプは outer となったが,これはこれでやはり out の比較級形態としては意識されず,別の形容詞として受け取られているのがおもしろい.
 latterlater,あるいは utterouter のように,同機能を果たす変異形にすぎなかったものが,互いに役割を分化させ,独立した語へと発展していくという事例は少なくない.比較される例について「#55. through の語源」 ([2009-06-22-1]),「#86. one の発音」 ([2009-07-22-1]),「#693. as, so, also」 ([2011-03-21-1]) を参照.
 以上,Lass (156) を参照して執筆した.

 ・ Lass, Roger. "Phonology and Morphology." 1476--1776. Vol. 3 of The Cambridge History of the English Language. Ed. Roger Lass. Cambridge: CUP, 1999. 56--186.

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2019-03-21 Thu

#3615. 初期近代英語の2重比較級・最上級は大言壮語にすぎない? [double_comparative][comparison][shakespeare][style][prescriptive_grammar][hc][adjective][superlative]

 初期近代に worser, more larger, more better, most worst, most unkindest などの2重比較級 (double_comparative) や2重最上級が用いられていたことは,英語史ではよく知られている.「#195. Shakespeare に関する Web resources」 ([2009-11-08-1]) でみたように,Shakespeare にも用いられており,英語史上の1つのネタである.
 しかし,注目度は高いものの,実際の使用頻度としては,たいしたことはないらしい.Kytö and Romaine (337) による Helsinki Corpus を用いた実証的な調査によると,2重比較級は全体の1%にすぎず,2重最上級でも2%にとどまるという.また,1640年より後には一切起こらないという.もちろん Helsinki Corpus もそれほど巨大なコーパスではないので別途確認が必要だろうが,どうやら実力以上に注目度が高いということのようだ.
 Adamson (552--53) は,Shakespeare や Jonson からの例を取り上げながら,2重比較級・最上級は,彼らの時代ですら,文体的効果を狙って意図的に用いられる類いの表現だったのではないかと勘ぐっている.

It's notable that such forms [= double comparatives and superlatives] can be found in consciously grandiloquent discourse, as with the double comparative of (16a), and that Ben Jonson explicitly claims the usage as an 'Englishe Atticisme, or eloquent Phrase of speech', perorating, as if to prove his point, on the double superlative of (16b):

(16) a) The Kings of Mede and Lyconia
        With a more larger list of sceptres (Shakespeare 1623/1606--7)

     b) an Englishe Atticisme, or eloquent Phrase of speech, imitating the manner of the most ancientest, and finest Grecians, who, for more emphasis, and vehemencies sake used [so] to speake. (Jonson 1640)


 その後,この用法は17後半から18世紀にかけての英語の評論家や規範文法家に断罪され,日の目を見ることはなくなった (cf. 「#2999. 標準英語から二重否定が消えた理由」 ([2017-07-13-1]),「#3036. Lowth の禁じた語法・用法」 ([2017-08-19-1]),「#3220. イングランド史上初の英語アカデミーもどきと Dryden の英語史上の評価」 ([2018-02-19-1])) .
 しかし,そうとは気付かれずに現在まで使い続けられている lesser や nearer などは,実は歴史的には2重比較級というべきものである (cf. 「#209. near の正体」 ([2009-11-22-1])) .

 ・Kytö, Merja and Suzanne Romaine. "Competing Forms of Adjective Comparison in Modern English." To Explain the Present: Studies in the Changing English Language in Honour of Matti Rissanen. Mémoires de la Société Néophilologique de Helsinki. 52. Ed. Terttu Nevalainen and Leena Kahlas-Tarkka. Helsinki: Société Néophilologique, 329--52.
 ・ Adamson, Sylvia. "Literary Language." 1476--1776. Vol. 3 of The Cambridge History of the English Language. Ed. Roger Lass. Cambridge: CUP, 1999. 539--653.

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2018-06-28 Thu

#3349. 後期近代英語期における形容詞比較の屈折形 vs 迂言形の決定要因 [lmode][comparison][synthesis_to_analysis][variation]

 近代英語は,比較級や最上級を作るのに -er, -est などの屈折を用いるか,more, most などの迂言的方法に頼るかの選択について,一見して整理されていない様相を示していた.その余波は現代英語まで続いているといってよい.しかし,Mondorf (863) は,機能的な観点からみれば後期近代英語期の状況は「整理されていない」とみなすことはできず,むしろ新しい秩序が形成されつつあると主張する.

The distribution of comparative variants in Late Modern English reveals an emergent functionally-motivated division of labor, with the analytic form becoming the domain of cognitively complex environments (e.g. if the adjective is accompanied by a prepositional or infinitival complement or if it is poly- rather than monomorphemic, etc.), while the synthetic form increases its range of application in easier-to-process environments . . . .


 つまり,形容詞比較の変異は,単純に「総合から分析へ」 (synthesis_to_analysis) という英語史の大きな潮流のなかでとらえるべきではなく,認知的なプロセスの難易を含めた機能的な側面に注意して眺めるべき問題であるという.変異は混乱を表わすものではなく分業 ("division of labor") の結果であり,むしろそれは1つの秩序なのだ.Mondorf (864) の結論の要約部を引用する.

The system of comparison in Late Modern English develops a remarkably clear pattern of reorganization. Comparative alternation becomes more systematic by exploiting the options offered by the availability of morphosyntactic variants. As regards processing requirements it makes the best possible use of each variant: cognitively complex environments (such as adjectives accompanied by a complement) consistently increase their share of the analytic comparative to such an extent that the analytic form can even become obligatory. By contrast, easy-to-process environments can afford to use the synthetic comparative. What is at stake in the diachronic development of comparative alternation is an economically-motivated division of labor, in which each variant assumes the task it is best suited to. This division of labor emerges in the LModE period, around the 18th century . . . . The benefit of creating a typologically consistent, uniform synthetic or analytic language systems is outweighed by forces following functional motivations. The older synthetic form can stand its ground (or even reconquer formerly lost domains) in easy-to-process environments, while the analytic form prevails in cognitively-demanding contexts.


 関連して「#3032. 屈折比較と句比較の競合の略史」 ([2017-08-15-1]),「#403. 流れに逆らっている比較級形成の歴史」 ([2010-06-04-1]),「#2346. more, most を用いた句比較の発達」 ([2015-09-29-1]) も参照.

 ・ Mondorf, Britta. "Late Modern English: Morphology." Chapter 53 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 843--69.

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