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comparison - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-05-20 20:18

2024-05-20 Mon

#5502. 注意すべき古英語の比較級・最上級 [superlative][comparison][adjective][adverb][suppletion][morphology][inflection][oe][i-mutation]

 現代英語の形容詞・副詞の比較級・最上級には不規則なものがいくつかある.good -- better -- bestbad -- worse --worst などの補充法 (suppletion) を示すものが知られているが,これらは古英語にも存在した.むしろ古英語では現代よりも多くの不規則な比較級・最上級があった.Sweet's Anglo-Saxon Primer (19--20) より,注意すべきものを列挙する.

[ i-mutation を含む形容詞の比較級・最上級 ]

MeaningPositiveComparativeSuperlative
"old"ealdieldraieldest
"young"ġeongġingraġingest
"long"langlengralengest
"strong"strangstrengrastrengest
"high"hēahhīerrahīehst


[ suppletion を含む形容詞の比較級・最上級 ]

MeaningPositiveComparativeSuperlative
"good"gōdbetera, betrabetst
  sēlrasēlest
"bad"yfelwiersawier(re)st
"great"miċelmāramǣst
"little"lȳtellǣssalǣst


[ 原級が副詞である形容詞の比較級・最上級 ]

MeaningPositiveComparativeSuperlative
"formerly"(ǣr)ǣrraǣrest
"far"(feorr)fierrafierrest
"before"(fore) forma, fyrmest, fyr(e)st
"near"(nēah)nēarranīehst
"outside"(ūte)ūterraūt(e)mest
  ȳterraȳt(e)mest


[ suppletion を含む副詞の比較級・最上級 ]

MeaningPositiveComparativeSuperlative
"well"welbetbet(e)st
  sēlsēlest
"badly"yflewierswier(re)st
"much"miclemǣst
"little"lȳtlǣslǣst


 ・ Davis, Norman. Sweet's Anglo-Saxon Primer. 9th ed. Oxford: Clarendon, 1953.

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2024-02-29 Thu

#5421. 最上級の -est は比較級の -er にもう1要素付け加わっただけ [superlative][comparison][adjective][suffix][reconstruction][indo-european][analogy]

 へぇ,そうだったのか,という話題.
 Fertig (34) によると,標題の通り,形容詞・副詞の最上級を標示する接尾辞 -est は,比較級の -er を基にした発展版ということらしい.

The superlative suffix -est, for example, is historically a combination of the ancestor of the -er comparative suffix (*-ôz-/*-iz- in proto-Germanic) followed by an originally separate *-to-.


 もともとは *-ôz-/*-iz- と *-to- は別々の役割を果たす別々の接尾辞だったが,これが合わさる機会も多かったので,合わさった結果の形が1つの新しい接尾辞として理解されるようになったということだ.
 これはちょうど現代英語で -ist と -ic が別々の接尾辞とみなされているが,合わさった -istic も1つの独立した接尾辞ととらえられ得る状況に比べられる.例えば cannibalistic において,切り出すべき接尾辞は -ist と -ic の2つと分析するよりも,-istic の1つと分析するほうが実際的だろう.というのは,*cannibalist という単語はないからだ.
 これを教訓とすれば,比較級の -er は -ist に,最上級の -est は -istic に相当するということになろう.分かりやすいような分かりにくいような.

 ・ Fertig, David. Analogy and Morphological Change. Edinburgh: Edinburgh UP, 2013.

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2023-05-22 Mon

#5138. 句比較の発達と言語接触 [comparison][adjective][suffix][superlative][contact][synthesis_to_analysis][latin][french][grammaticalisation][german][dutch]

 形容詞・副詞の比較級・最上級の作り方には, -er/-est 語尾を付す形態的な方法と more/most を前置する統語的な方法がある.それぞれを「屈折比較」と「句比較」と呼んでおこう.これについては,hellog,heldio,その他でも様々に紹介してきた.「#4834. 比較級・最上級の歴史」 ([2022-07-22-1]) に関連リンクをまとめているので参照されたい.
 英語やロマンス諸語の歴史では,屈折比較から句比較への変化が生じてきた.印欧語族に一般に観察される「総合から分析へ」 (synthesis_to_analysis) の潮流に沿った事例として見られることが多い.この変化は,比較構文の成立という観点からは文法化 (grammaticalisation) の1例ともとらえられる.
 今回は Heine and Kuteva による言語接触に関わる議論を紹介したい.英語やいくつかの言語において歴史的に句比較が発達した1要因として,ロマンス諸語との言語接触が関係しているのではないかという仮説だ.英語がフランス語やラテン語の影響のもとに句比較を発達させたという仮説自体は古くからあり,上記のリンク先でも論じてきた通りである.Heine and Kuteva は,英語のみならず他の言語においても言語接触の効果が疑われるとし,言語接触が決定的な要因だったとは言わずとも "an accelerating factor" (96) と考えることは可能であると述べている.英語を含めて4つの事例が挙げられている (96) .

a. Analytic forms were still rare in Northern English in the fifteenth century, while in Southern English, which was more strongly exposed to French influence, these forms had become current at least a century earlier . . . .
b. In German, the synthetic comparative construction is still well established, e.g. schön 'beautiful', schön-er ('beautiful-COMP') 'more beautiful'. But in the dialect of Luxembourg, which has a history of centuries of intense contact with French, instances of an analytic comparative can be found, e.g. mehr schön ('more beautiful', presumably on the model of French plus beau ('more beautiful') . . . .
c. The Dutch varieties spoken in Flanders, including Algemeen Nederlands, have been massively influenced by French, and this influence has also had the effect that the analytic pattern with the particle meer 'more' is used increasingly on the model of French plus, at the expense of the inherited synthetic construction using the comparative suffix -er . . . .
d. Molisean has a 500-years history of intense contact with the host language Italian, and one of the results of contact was that the speakers of Molisean have given up the conventional Slavic synthetic construction by replicating the analytic Italian construction, using veče on the model of Italian più 'more' as degree marker. Thus, while Standard Croatian uses the synthetic form lyepši 'more beautiful', Molisean has più lip ('more beautiful') instead . . . .


 このようなケースでは,句発達の発達は,言語接触によって必ずしも推進 ("propel") されたとは言えないものの,加速 ("accelerate") したとは言えるのではないか,というのが Heine and Kuteva の見解である.

 ・ Heine, Bernd and Tania Kuteva. "Contact and Grammaticalization." Chapter 4 of The Handbook of Language Contact. Ed. Raymond Hickey. 2010. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2013. 86--107.

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2022-10-20 Thu

#4924. クジラ構文と斎藤秀三郎 [syntax][history_of_linguistics][prescriptive_grammar][comparison][adjective][adverb][english_in_japan]

 つい先日,ゼミの学生と「クジラ構文」の発祥について議論になった.そのときは,調べてみる価値があるね,おもしろそうだね,と話していた.そもそも「クジラ構文」とは,いかにも日本の英語教育(受験英語業界)に特有の jargon ぽい.ある段階で不動の地位を得たのだろうなと思っていたのだが,導入したのは斎藤秀三郎先生の Practical English Grammar (1898--99) らしい.斎藤浩一著『日本の「英文法」ができるまで』の p. 112 に次のようにあった.前後の文脈も合わせて引用する.

 つづく形容詞論,副詞論においても,従来の枠組みや形式規則群が踏襲されたうえで,これに含まれる個別表現の意味が重視された.例えば「不定」を表す certain や some, any の違いのほか,(a) few や (a) little の用法,さらには every, each, all, ever, always, since, ago, often, either, nearly, almost, still, same などの用法がその類義語と対比されるかたちで解説されたのである.
 くわえて,例えば形容詞 other の用法と連動して,'one after the other' や 'one after another' などの表現が紹介されたことに象徴されるように,個々の表現に関連するイディオムや構文も大量に体系化されることになった.この結果,現代のわれわれにとってもなじみ深い 'would rather A than B' や 'no / not more /less than' をはじめ,'A whale is no more a fish than a horse is.', 'He saves what little money he earns.' といった定番の例文も導入された


 日本の英文法史に燦然と輝くクジラ構文の登場である.
 こうしたものを「定番構文」とくくってみると,改めてその具体性に驚く.暗記すべき1つの構文として目の前に現われるので,影響力が大きいのだ.「英語の規範文法」という概念こそ18世紀イングランドからの借り物だが,それ自体は大雑把で抽象的である.それを,斎藤秀三郎流の「イディオモモロジー」という装置に流し込むと,ミンチのように細かくされ,個々の具体的な「定番構文」となって出てくる.ここまで具体的な単位に落とし込まない限り,英語を母語としない学習者にとって「規範文法」などをまともに学ぶことはできないだろう.そんな日本人学習者の心理を汲み取って斎藤秀三郎が定式化した数々の「定番構文」の最も有名なものの1つ,それが「クジラ構文」なのではないか.

 ・ 斎藤 浩一 『日本の「英文法」ができるまで』 研究社,2022年.

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2022-10-03 Mon

#4907. 副詞の no は形容詞比較級と相性がよいし,もっといえば the の仲間ではないか! [negative][comparison][adverb][adjective][article]

 「#1904. 形容詞の no と副詞の no は異なる語源」 ([2014-07-14-1]) でみたように,副詞の no の起源をたどると原義は "never" に近い.副詞の no といえば yes/nono を挙げれば通りがよさそうだが,先の記事の例文で示したとおり,別の使い方もある.
 例えば Their way of life is no different from ours.I am no good at tennis. のような,特定の形容詞が叙述的に用いられる場合に,それを否定する副詞 no が用いられることがある.しかし,これはきわめて慣用的な例であり,どんな叙述形容詞を否定する際にも no が用いられるわけではない.
 典型的な副詞としての no の用例は,形容詞の比較級と絡むものが多い.no better, no longer, no more などの例から,すぐに理解できるだろう.これらは実質的な意味としては as good, as short, as little と同等となる点が重要である.
 no といえば no one, no problem, no way のように形容詞として用いられる場合があり,むしろ形容詞の比較級と結びつく副詞としての no の兼任については,言われてハッとする向きもあるかもしれない.しかし,この点でさらなる驚きをもって気づかされるのは,the というすぐれて形容詞(冠詞)的な語が,やはり形容詞の比較級とタッグを組んで「その分だけ」の意味で副詞的に用いられることとの平行関係である.詳しくは「#811. the + 比較級 + for/because」 ([2011-07-17-1]),「#812. The sooner the better」 ([2011-07-18-1]) を参照されたい.
 このことに気づかせてくれたのは,Quirk et al. (§10.58) のきわめて短いコメントである.

Except for a few fixed phrases (no good, no different), the adverb no modifies adjectives only when they are comparatives (by inflection or by periphrasis): no worse, no tastier, no better behaved, no more awkward, no less intelligent. (Compare the positive with the: He is the worse for it.)


 nothe は平行的なのか! この視点はありそうでなかった.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2022-07-22 Fri

#4834. 比較級・最上級の歴史 [comparison][category][adjective][adverb][youtube][notice][link][grammaticalisation]

 一昨日,YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」の第42弾が公開されました.「英語の比較級・最上級はなぜ多様なのか?」と題して,英語の比較級・最上級の形式の歴史についてお話ししています.



 英語を含む印欧諸語では日本語と異なり,形容詞や副詞に比較級 (comparative degree) や最上級 (superlative degree) といった「級」の文法カテゴリーがあります.比較・最上の概念が文法化 (grammaticalisation) されているのです.そのため英語では比較に関する語法や構文が様々に発達しています.
 形式に注目しても,例えば比較級は -er 語尾を付けるもの,more を前置するもの,betterworse のように補充法 (suppletion) に訴えるものなど,種類が豊富です.
 このように「級」については英語史・英語学的に論点が多いこともあり,hellog その他でもしばしば関連する話題に触れてきました.以下はこの問題に関心をもった方へのお薦め記事・放送です.より広く記事を読みたい方は comparison の記事群をどうぞ.

[ hellog 記事 ]

 ・ 「#3835. 形容詞などの「比較」や「級」という範疇について」 ([2019-10-27-1])
 ・ 「#3843. なぜ形容詞・副詞の「原級」が "positive degree" と呼ばれるのか?」 ([2019-11-04-1])
 ・ 「#3844. 比較級の4用法」 ([2019-11-05-1])
 ・ 「#4616. 形容詞の原級と比較級を巡る意味論」 ([2021-12-16-1])

 ・ 「#403. 流れに逆らっている比較級形成の歴史」 ([2010-06-04-1])
 ・ 「#2346. more, most を用いた句比較の発達」 ([2015-09-29-1])
 ・ 「#2347. 句比較の発達におけるフランス語,ラテン語の影響について」 ([2015-09-30-1])
 ・ 「#3032. 屈折比較と句比較の競合の略史」 ([2017-08-15-1])
 ・ 「#3349. 後期近代英語期における形容詞比較の屈折形 vs 迂言形の決定要因」 ([2018-06-28-1])
 ・ 「#3617. -er/-estmore/most か? --- 比較級・最上級の作り方」 ([2019-03-23-1])
 ・ 「#3618. Johnson による比較級・最上級の作り方の規則」 ([2019-03-24-1])
 ・ 「#4234. なぜ比較級には -er をつけるものと more をつけるものとがあるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-11-29-1])
 ・ 「#4442. 2音節の形容詞の比較級は -ermore か」 ([2021-06-25-1])
 ・ 「#4495. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第6回「なぜ形容詞の比較級には -er と more があるの?」」 ([2021-08-17-1])

[ heldio & hellog-radio (← heldio の前身) ]

 ・ hellog-radio 「#46. なぜ比較級には -er をつけるものと more をつけるものとがあるのですか?」
 ・ heldio 「#97. unhappyの比較級に -er がつくのは反則?」

Referrer (Inside): [2023-05-22-1]

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2021-12-30 Thu

#4630. Shakespeare の比較級・最上級の例をもっと [shakespeare][emode][comparison][superlative][adjective][adverb][suffix][periphrasis][suppletion]

 昨日の記事「#4629. Shakespeare の2重比較級・最上級の例」 ([2021-12-29-1]) で,現代英語の規範文法では許容されない2重比較級・最上級が Shakespeare によって使われていた事例を見た.
 それとは異なるタイプだが,現代では普通 more, most を前置する迂言形が用いられるところに Shakespeare では -er, -est を付す屈折形が用いられていた事例や,その逆の事例も観察される.さらには,現代では比較級や最上級になり得ない「絶対的」な意味をもつ形容詞・副詞が,Shakespeare ではその限りではなかったという例もある.現代と Shakespeare には400年の時差があることを考えれば,このような意味・統語論的な変化があったとしても驚くべきことではない.
 Shakespeare と現代の語法で異なるものを Crystal and Crystal (88--90) より列挙しよう.

[ 現代英語では迂言法,Shakespeare では屈折法の例 ]

Modern comparative Shakespearian comparative Example
---------------------- ----------------------------- -----------
more honest honester Cor IV.v.50
more horrid horrider Cym IV.ii.331
more loath loather 2H6 III.ii.355
more often oftener MM IV.ii.48
more quickly quicklier AW I.i.122
more perfect perfecter Cor II.i.76
more wayward waywarder AY IV.i.150

Modern superlative Shakespearian superlative Example
---------------------- ----------------------------- ---------------
most ancient ancient'st WT Iv.i10
most certain certain'st TNK V.iv.21
most civil civilest 2H6 IV.vii.56
most condemned contemned'st KL II.ii.141
most covert covert'st R3 III.v.33
most daring daring'st H8 II.iv.215
most deformed deformed'st Sonn 113.10
most easily easil'est Cym IV.ii.206
most exact exactest Tim II.ii.161
most extreme extremest KL V.iii.134
most faithful faithfull'st TN V.i.112
most foul-mouthed foul mouthed'st 2H4 II.iv.70
most honest honestest AW III.v.73
most loathsome loathsomest TC II.i.28
most lying lyingest 2H6 II.i.124
most maidenly maidenliest KL I.ii.131
most pained pained'st Per IV.vi.161
most perfect perfectest Mac I.v.2
most ragged ragged'st 2H4 I.i.151
most rascally rascalliest 1H4 I.ii.80
most sovereign sovereignest 1H4 I.iii.56
most unhopeful unhopefullest MA II.i.349
most welcome welcomest 1H6 II.ii.56
most wholesome wholesom'st MM IV.ii.70

[ 現代英語では屈折法,Shakespeare では迂言法の例 ]

Modern comparative Shakespearian comparative Example
---------------------- ----------------------------- ---------------
greater more great 1H4 IV.i77
longer more long Cor V.ii.63
nearer more near AW I.iii.102

[ 現代英語では比較級・最上級を取らないが,Shakespeare では取っている例 ]

Modern word Shakespearian comparison Example
---------------------- ----------------------------- ---------------
chief chiefest 1H6 I.i.177
due duer 2H4 III.ii.296
just justest AC II.i.2
less lesser R2 II.i.95
like liker KJ II.i.126
little littlest [cf. smallest] Ham III.ii.181
rather ratherest LL IV.ii.18
very veriest 1H4 II.ii.23
worse worser [cf. less bad] Ham III.iv.158

 現代と過去とで比較級・最上級の作り方が異なる例については「#3618. Johnson による比較級・最上級の作り方の規則」 ([2019-03-24-1]) も参照.

 ・ Crystal, David and Ben Crystal. Shakespeare's Words: A Glossary & Language Companion. London: Penguin, 2002.

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2021-12-29 Wed

#4629. Shakespeare の2重比較級・最上級の例 [shakespeare][emode][comparison][double_comparative][superlative][adjective][adverb]

 本ブログの以下の記事で書いてきたが,Shakespeare が most unkindest cut of all (JC III.ii.184) のような,現代の規範文法では破格とされる2重最上級(および2重比較級 (double_comparative))を用いたことはよく知られている.実際には,Shakespeare がこのような表現をとりわけ頻用したわけではないのだが,使っていることは確かである.

 ・ 「#195. Shakespeare に関する Web resources」 ([2009-11-08-1])
 ・ 「#3615. 初期近代英語の2重比較級・最上級は大言壮語にすぎない?」 ([2019-03-21-1])
 ・ 「#3619. Lowth がダメ出しした2重比較級と過剰最上級」 ([2019-03-25-1])

 では,Shakespeare は他のどのような2重比較級・最上級を使ったのか.Crystal and Crystal (88) が代表的な例を列挙してくれているので,それを再現したい.

[ Double comparatives ]

 ・ more better (MND III.i.18)
 ・ more bigger-looked (TNK I.i.215)
 ・ more braver (Tem I.ii.440)
 ・ more corrupter (KL II.ii.100)
 ・ more fairer (E3 II.i.25)
 ・ more headier (KL II.iv.105)
 ・ more hotter (AW IV.v.38)
 ・ more kinder (Tim IV.i.36)
 ・ more mightier (MM V.i.235)
 ・ more nearer (Ham II.i.11)
 ・ more nimbler (E3 II.ii.178)
 ・ more proudlier (Cor IV.vii.8)
 ・ more rawer (Ham V.ii.122)
 ・ more richer (Ham III.ii.313)
 ・ more safer (Oth I.iii.223)
 ・ more softer (TC II.ii.11)
 ・ more sounder (AY III.ii.58)
 ・ more wider (Oth I.iii.107)
 ・ more worse (KL II.ii.146)
 ・ more worthier (AY III.iii.54)
 ・ less happier (R2 II.i.49)

[ Double superlatives ]

 ・ most boldest (JC III.i.121)
 ・ most bravest (Cym IV.ii.319)
 ・ most coldest (Cym II.iii.2)
 ・ most despiteful'st (TC IV.i.33)
 ・ most heaviest (TG IV.ii.136)
 ・ most poorest (KL II.iii.7)
 ・ most stillest (2H4 III.ii.184)
 ・ most unkindest (JC III.ii.184)
 ・ most worst (WT III.ii.177)

 このなかで more nearer の事例はおもしろい.語源を振り返れば,まさに3重比較級 (triple comparative) である.「#209. near の正体」 ([2009-11-22-1]), および「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」より「near はもともと比較級だった!」をどうそ.



 ・ Crystal, David and Ben Crystal. Shakespeare's Words: A Glossary & Language Companion. London: Penguin, 2002.

Referrer (Inside): [2021-12-30-1]

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2021-12-16 Thu

#4616. 形容詞の原級と比較級を巡る意味論 [adjective][semantics][comparison]

 形容詞の原級 (positive degree) と比較級 (comparative degree) の意味論的な関係は一見すると自明のようにみえる.以下の (1) と (2) を比べてみよう.

 (1) John is tall.
 (2) John is taller than Peter.

 原級を用いた基本的な文 (1) から,比較級を用いた応用的な文 (2) が二次的に派生されたかのようにみえる.しかし,事はそう簡単ではない.(1) はジョンは文句なしに背の高いことが含意されるが,(2) ではジョンはピーターより長身だが,二人ともさほど背が高くないケースにも使える.換言すれば,(1) の主題はジョンの絶対的身長であるのに対し,(2) の主題はジョンの相対的身長である.(2) は (1) から単純に派生されたものではなさそうだ.
 次に,形容詞 tall の原級の意味に注目してみよう.上で (1) はジョンの絶対的身長を主題としていると述べたが,よく考えてみると,これも疑わしい.というのは,「背が高い」という性質は絶対的に規定されるものではなく,あくまで相対的に規定されるものだからだ.(1) が意味していることは,ジョンが平均的な人(あるいは大多数の人)よりも背が高いという事実であり,そこには比較が暗黙裏に持ち込まれているのである.同様に「象は大きい」「ネズミは小さい」も,それぞれ話者である人間のサイズを暗黙の基準としており「象は(人間よりも)大きい」「ネズミは(人間よりも)小さい」ほどを含意していると考えられる.
 すると,tall の基本的な意味から taller の応用的な意味が二次的に派生されるというストレートな見方は改めなければならくなる.むしろ逆に taller の意味こそがプリミティヴであり,tall はそこから二次的に派生された意味であると理解しなければならなくなるだろう.まさに逆転の発想だ (Klein 2) .
 しかし,意味論的に taller のほうが tall よりも基本的であるという見方は,直観に著しく反する.英語を含めた多くの言語で形態論的に無標なのは比較級ではなく原級のほうであり,実際「原級」という用語がこのことを示唆している (cf. 「#3843. なぜ形容詞・副詞の「原級」が "positive degree" と呼ばれるのか?」 ([2019-11-04-1])).
 一見して何も問題がなさそうな talltaller を巡る意味論が,思いのほか込み入っていることに気づくだろう.

 ・ Klein, Ewan. "A Semantics for Positive and Comparative Adjectives." Linguistics and Philosophy 4.1 (1980): 1--45.

Referrer (Inside): [2022-07-22-1]

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2021-08-17 Tue

#4495. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第6回「なぜ形容詞の比較級には -er と more があるの?」 [notice][sobokunagimon][rensai][comparison][adjective][adverb][suffix][periphrasis][link]

 NHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」の9月号のテキストが発売となりました.連載している「英語のソボクな疑問」も第6回となりましたが,今回の話題は「なぜ形容詞の比較級には -er と more があるの?」です.

『中高生の基礎英語 in English』2021年9月号



 これは素朴な疑問の定番といってよい話題ですね.短い形容詞なら -er,長い形容詞なら more というように覚えている方が多いと思いますが,何をもって短い,長いというのかが問題です.原則として1音節語であれば -er,3音節語であれば more でよいとして,2音節語はどうなのか,と聞かれるとなかなか難しいですね.同じ2音節語でも early, happy は -er ですが,afraid, famousmore を取ります.今回の連載記事では,この辺りの複雑な事情も含めて,なるべく易しく歴史的に謎解きしてみました.どうぞご一読を.
 定番の話題ということで,本ブログでも様々な形で取り上げてきました.連載記事よりも専門的な内容も含まれますが,こちらもどうぞ.

 ・ 「#4234. なぜ比較級には -er をつけるものと more をつけるものとがあるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-11-29-1])
 ・ 「#3617. -er/-estmore/most か? --- 比較級・最上級の作り方」 ([2019-03-23-1])
 ・ 「#4442. 2音節の形容詞の比較級は -ermore か」 ([2021-06-25-1])
 ・ 「#3032. 屈折比較と句比較の競合の略史」 ([2017-08-15-1])
 ・ 「#2346. more, most を用いた句比較の発達」 ([2015-09-29-1])
 ・ 「#403. 流れに逆らっている比較級形成の歴史」 ([2010-06-04-1])
 ・ 「#2347. 句比較の発達におけるフランス語,ラテン語の影響について」 ([2015-09-30-1])
 ・ 「#3349. 後期近代英語期における形容詞比較の屈折形 vs 迂言形の決定要因」 ([2018-06-28-1])
 ・ 「#3619. Lowth がダメ出しした2重比較級と過剰最上級」 ([2019-03-25-1])
 ・ 「#3618. Johnson による比較級・最上級の作り方の規則」 ([2019-03-24-1])
 ・ 「#3615. 初期近代英語の2重比較級・最上級は大言壮語にすぎない?」 ([2019-03-21-1])
 ・ 「#456. 比較の -er, -est は屈折か否か」 ([2010-07-27-1])

Referrer (Inside): [2022-07-22-1]

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2021-06-25 Fri

#4442. 2音節の形容詞の比較級は -ermore [comparison][sobokunagimon][adjective][adverb][suffix][periphrasis][-ly]

 形容詞・副詞の比較 (comparison) の話題は,本ブログでも様々に扱ってきた.現代英語でも明確に決着のついていない,比較級が -er (屈折比較)か more (句比較)かという問題の歴史的背景については,「#2346. more, most を用いた句比較の発達」 ([2015-09-29-1]),「#2347. 句比較の発達におけるフランス語,ラテン語の影響について」 ([2015-09-30-1]),「#3032. 屈折比較と句比較の競合の略史」 ([2017-08-15-1]),「#3617. -er/-estmore/most か? --- 比較級・最上級の作り方」 ([2019-03-23-1]),「#3703.『英語教育』の連載第4回「なぜ比較級の作り方に -ermore の2種類があるのか」」 ([2019-06-17-1]),「#4234. なぜ比較級には -er をつけるものと more をつけるものとがあるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-11-29-1]) などで取り上げてきた.
 短い語には -er 語尾をつけ,長い語には more を前置きするというのが原則である.しかし,短くもあり長くもある2音節語については,揺れが激しくてきれいに定式化できない.実際,辞書や文法書をいろいろ繰ってみると,単語ごとにどちらの比較級の形式を取るのか普通なのかについて記述が微妙に異なるのである.今回は,ひとまず LGSWE の §7.7.2 を参照して,2音節の形容詞について考えてみたい.
 2音節の形容詞がいずれの比較級の形式を採用するかは,その音韻形態的構成に大きく依存することが知られている.-y で終わるものについては,-er が普通のようだ.例を挙げると,

angry, bloody, busy, crazy, dirty, easy, empty, funny, gloomy, happy, healthy, heavy, hungry, lengthy, lucky, nasty, pretty, ready, sexy, silly, tidy, tiny


 -y で終わる形容詞ということでいえば,何らかの接頭辞がついて3音節になっても,比較級に -er をとる傾向がある (ex. unhappier) .英語史の観点からは,250年ほど前には状況が異なっていたらしいことが注目に値する (cf. 「#3618. Johnson による比較級・最上級の作り方の規則」 ([2019-03-24-1])) .
 一方 -ly で終わる形容詞は揺れが激しいようで,例えば early の比較級は earlier が普通だが,likely については more likely のほうが普通である.ほかに揺れを示す例としては,

costly, deadly, friendly, lively, lonely, lovely, lowly, ugly


などが挙げられる.同じく揺れを示し得るものとして,以下のように弱音節で終わる2音節の形容詞も挙げておこう.

mellow, narrow, shallow, yellow; bitter, clever, slender, tender; able, cruel, feeble, gentle, humble, little, noble, simple, subtle; sever, sincere; secure, obscure


 両方の形式で揺れを示しているということは,一方から他方へと乗り換えが進んでいるということ,つまり変化の最中であることを(確証するわけではないが,少なくとも)示唆する.両形式の競合・併存はかれこれ1000年ほど続いているわけだが,いまだに結論が見えない.

 ・ Biber, Douglas, Stig Johansson, Geoffrey Leech, Susan Conrad, and Edward Finegan. Longman Grammar of Spoken and Written English. Harlow: Pearson Education, 1999.

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2021-06-19 Sat

#4436. 形容詞のプロトタイプ [comparison][adjective][adverb][category][prototype][pos][comparison]

 品詞 (part of speech = pos) というものは,最もよく知られている文法範疇 (category) の1つである.たいていの言語学用語なり英文法用語なりは,文法範疇につけられたラベルである.主語,時制,数,格,比較,(不)可算,否定などの用語が出てきたら,文法範疇について語っているのだと考えてよい.
 英語の形容詞(および副詞)という品詞について考える場合,比較 (comparison) という文法範疇が話題の1つとなる.日本語などでは「比較」を文法範疇として特別扱いする慣習はなく,せいぜい格助詞「より」の用法の1つとして論じられる程度だが,印欧語族においては言語体系に深く埋め込まれた文法範疇として,特別視されることになっている.私はいまだにこの感覚がつかめていないのだが,英語学において比較という文法範疇が通時的にも共時的にも重要視されてきたことは確かである.
 比較はまずもって形容詞(および副詞)の文法範疇ということだが,ある語が形容詞であるからといって,必ずしもこの範疇が関与するわけではない.本当に形容詞らしい形容詞は比較の範疇に適合するが,さほど形容詞らしくない形容詞は比較とは相容れない.逆に見れば,ある形容詞を取り上げたとき,比較の範疇に適合するかどうかで,形容詞らしい形容詞か,そうでもない形容詞かが判明する.これは,とりもなおさず形容詞に関するプロトタイプ (prototype) の問題である.
 Crystal (92) が,形容詞のプロトタイプについて分かりやすい説明を与えてくれている.

   The movement from a central core of stable grammatical behaviour to a more irregular periphery has been called gradience. Adjectives display this phenomenon very clearly. Five main criteria are usually used to identify the central class of English adjectives:

(A) they occur after forms of to be, e.g. he's sad;
(B) they occur after articles and before nouns, e.g. the big car;
(C) they occur after very, e.g. very nice;
(D) they occur in the comparative or superlative form e.g. sadder/saddest, more/most impressive; and
(E) they occur before -ly to form adverbs, e.g. quickly.

We can now use these criteria to test how much like an adjective a word is. In the matrix below, candidate words are listed on the left, and the five criteria are along the top. If a word meets a criterion, it is given a +; sad, for example, is clearly an adjective (he's sad, the sad girl, very sad, sadder/saddest, sadly). If a word fails the criterion, it is given a - (as in the case of want, which is nothing like an adjective: *he's want, *the want girl, *very want, *wanter/wantest, *wantly).

 ABCDE
happy+++++
old++++-
top+++--
two++---
asleep+----
want-----


The pattern in the diagram is of course wholly artificial because it depends on the way in which the criteria are placed in sequence; but it does help to show the gradual nature of the changes as one moves away from the central class, represented by happy. Some adjectives, it seems, are more adjective-like than others.


 形容詞という文法範疇について,特にその比較という文法範疇については,以下の記事を参照.

 ・ 「#3533. 名詞 -- 形容詞 -- 動詞の連続性と範疇化」 ([2018-12-29-1])
 ・ 「#3835. 形容詞などの「比較」や「級」という範疇について」 ([2019-10-27-1])
 ・ 「#3843. なぜ形容詞・副詞の「原級」が "positive degree" と呼ばれるのか?」 ([2019-11-04-1])
 ・ 「#3844. 比較級の4用法」 ([2019-11-05-1])

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of Language. Cambridge: CUP, 1995. 2nd ed. 2003. 3rd ed. 2019.

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2021-06-19 Sat

#4436. 形容詞のプロトタイプ [comparison][adjective][adverb][category][prototype][pos][comparison]

 品詞 (part of speech = pos) というものは,最もよく知られている文法範疇 (category) の1つである.たいていの言語学用語なり英文法用語なりは,文法範疇につけられたラベルである.主語,時制,数,格,比較,(不)可算,否定などの用語が出てきたら,文法範疇について語っているのだと考えてよい.
 英語の形容詞(および副詞)という品詞について考える場合,比較 (comparison) という文法範疇が話題の1つとなる.日本語などでは「比較」を文法範疇として特別扱いする慣習はなく,せいぜい格助詞「より」の用法の1つとして論じられる程度だが,印欧語族においては言語体系に深く埋め込まれた文法範疇として,特別視されることになっている.私はいまだにこの感覚がつかめていないのだが,英語学において比較という文法範疇が通時的にも共時的にも重要視されてきたことは確かである.
 比較はまずもって形容詞(および副詞)の文法範疇ということだが,ある語が形容詞であるからといって,必ずしもこの範疇が関与するわけではない.本当に形容詞らしい形容詞は比較の範疇に適合するが,さほど形容詞らしくない形容詞は比較とは相容れない.逆に見れば,ある形容詞を取り上げたとき,比較の範疇に適合するかどうかで,形容詞らしい形容詞か,そうでもない形容詞かが判明する.これは,とりもなおさず形容詞に関するプロトタイプ (prototype) の問題である.
 Crystal (92) が,形容詞のプロトタイプについて分かりやすい説明を与えてくれている.

   The movement from a central core of stable grammatical behaviour to a more irregular periphery has been called gradience. Adjectives display this phenomenon very clearly. Five main criteria are usually used to identify the central class of English adjectives:

(A) they occur after forms of to be, e.g. he's sad;
(B) they occur after articles and before nouns, e.g. the big car;
(C) they occur after very, e.g. very nice;
(D) they occur in the comparative or superlative form e.g. sadder/saddest, more/most impressive; and
(E) they occur before -ly to form adverbs, e.g. quickly.

We can now use these criteria to test how much like an adjective a word is. In the matrix below, candidate words are listed on the left, and the five criteria are along the top. If a word meets a criterion, it is given a +; sad, for example, is clearly an adjective (he's sad, the sad girl, very sad, sadder/saddest, sadly). If a word fails the criterion, it is given a - (as in the case of want, which is nothing like an adjective: *he's want, *the want girl, *very want, *wanter/wantest, *wantly).

 ABCDE
happy+++++
old++++-
top+++--
two++---
asleep+----
want-----


The pattern in the diagram is of course wholly artificial because it depends on the way in which the criteria are placed in sequence; but it does help to show the gradual nature of the changes as one moves away from the central class, represented by happy. Some adjectives, it seems, are more adjective-like than others.


 形容詞という文法範疇について,特にその比較という文法範疇については,以下の記事を参照.

 ・ 「#3533. 名詞 -- 形容詞 -- 動詞の連続性と範疇化」 ([2018-12-29-1])
 ・ 「#3835. 形容詞などの「比較」や「級」という範疇について」 ([2019-10-27-1])
 ・ 「#3843. なぜ形容詞・副詞の「原級」が "positive degree" と呼ばれるのか?」 ([2019-11-04-1])
 ・ 「#3844. 比較級の4用法」 ([2019-11-05-1])

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of Language. Cambridge: CUP, 1995. 2nd ed. 2003. 3rd ed. 2019.

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2021-01-25 Mon

#4291. 実は not so ... as より not as ... as が多い [comparison][presupposition][negative][antonymy]

 as ... as の同等比較の否定が not so ... as となることは,学校文法でよく知られている.副詞としての最初の as が,否定の文脈では so になるということだ.このこと自体は,歴史的には不思議はない.「#693. as, so, also」 ([2011-03-21-1]) でみたように,as は語源的に so の強調の形態ともいえ,so ... as は歴史的には破格でも何でもないからだ.
 しかし,厳密にいえば現代英語においても not as ... as は普通に見られる.つまり,正確を期していえば not as ... as は,not so ... as と言い換えることが可能というにすぎない.単純に頻度だけでいえば,実は not as ... as のほうが使用例としては多いのである.荒削りながらも,試しに BNCweb で"not as (_{ADJ} | _{ADV}) as" と "not so (_{ADJ} | _{ADV}) as" で検索してみると,それぞれ1,355件,313件と前者が圧倒的となる(81.24%) .
 Quirk et al (§15.71) に詳しいが,not so ... が特に好まれるのは,最後の as 以下が省略されるときだという(つまり not so ... as とならないとき!).以下を参照.

 He's not as naughty as he was.
 He's not so naughty as he was.
 He's not so naughty (now).


 また,同節によれば,話者によって解釈は異なるようだが,not so ... as は前提 (presupposition) の点で特殊な振る舞いを示すという.

Some prefer to use so . . . as with negative clauses. But for some people so tends to carry the absurd implication of a possibility that is then negated, and they therefore find it odd to say:

   (?)Her baby is not so old as I thought.

The reason is that for them the sentence implies that a baby can be old. In other words, an unmarked term old . . . cannot be used in this context to cover the whole scale.


 反意語と有標性と前提の問題については「#1804. gradable antonym の意味論」 ([2014-04-05-1]) を参照されたい.
 同等比較の構文の問題に関しては,関連して「#3346. A is as . . . as B. は「A ≧ B」」 ([2018-06-25-1]) も参照.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2020-11-29 Sun

#4234. なぜ比較級には -er をつけるものと more をつけるものとがあるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][comparison][adjective][adverb]

 短い形容詞・副詞を比較級・最上級にするには -er, -est を付す.しかし,長い形容詞・副詞を比較級・最上級にするには,その語の前に more, most を付す.これが,現代英語の規範文法が教える規則です.しかし,これは英語の歴史において比較的新しい規則というべきであり,古くから適用されていた規則ではありません.語の長さによっていずれの比較級・最上級の方法を取るかという規則は,せいぜい数世紀の歴史しかないのです.では,音声の解説をお聴きください.



 そもそも英語の比較級・最上級には -er, -est を付けるという方法しかありませんでした.more, most を前置する方法は,おそらくフランス語やラテン語という外来の方法として中英語期に取り入れられ,近代英語期において確立した新しい方法なのです.
 要するに英語の立場からみると,それまで -er, -est を用いて形態的に処理していたものを,歴史の途中でフランス語やラテン語からの影響により,more/most を用いて統語的に表現するようになったという点が重要です.
 今回の疑問に関連する個々の話題としては,##3617,3032,456,2346,403,2347,3349,3619,3618,3615,3703の記事セットを是非ご覧ください.

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2020-08-02 Sun

#4115. なぜ「the 比較級,the 比較級」で「?すればするほど?」の意味になるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][article][comparison][adjective][instrumental]

 hellog ラジオ版の第12回は,1つの公式として学習することの多い標題の構文について.

 ・ The longer you work, the more you will earn. (長く働けば働くほど,多くのお金を稼げます.)
 ・ The older we grow, the weaker our memory becomes. (年をとればとるほど,記憶力は衰えます.)
 ・ The sooner, the better. (早ければ早いほどよい.)

 この構文では,比較級を用いた節が2つ並列されるので「?すればするほど?」という意味になることは何となく分かる気がするのですが,なぜ定冠詞 the が出てくるのかしょうか.この the の役割はいったい何なのでしょうか.今回は,その謎解きをしていきます.



 実は驚くほど歴史の古い構文なのですね.しかも,the が副詞 (adverb) として機能しているとは! 考え方としては,when . . . then, if . . . then, although . . . yet, as . . . so のような相関構文と同列に扱えばよいということになります.
 この問題について詳しく理解したい方は,##812,811の記事セットをご覧ください.

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2020-07-30 Thu

#4112. なぜ careless の反対は *caremore ではなく careful なのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][suffix][comparison]

 hellog ラジオ版の第11回.今回は,昨年の英語史の授業から飛び出してきた,驚くほどセンスのよい素朴な疑問です.こういうセンスが欲しいと羨ましくなるほどの良問.これについて簡単に音声で解説してみました.



 つまり,語源をひもとけば,形容詞(の比較級) less と接尾辞 -less とはまったくの別物ということになるのです.これは驚きですね.類例として,かの形容詞の able と接尾辞 -able もなんと別物です.まさにひっくり返りそうな驚愕の事実.
 この辺りの話題を文章でじっくり読みたい方は,##3699,4071の記事セットをどうぞ.

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2019-11-05 Tue

#3844. 比較級の4用法 [comparison][adjective][adverb][semantics]

 昨日の記事「#3843. なぜ形容詞・副詞の「原級」が "positive degree" と呼ばれるのか?」 ([2019-11-04-1]) や「#3835. 形容詞などの「比較」や「級」という範疇について」 ([2019-10-27-1]) で,形容詞・副詞の比較 (comparison) について調べている.以下は『新英語学辞典』の comparison の項からの要約にすぎないが,Kruisinga (Handbook, Vol. 4, §§1734--41) による比較級の4用法を紹介しよう.

(i) 対照比較級 (comparative of contrast)
 a younger son における比較級 younger は,an elder son の elder を念頭に,それと対照的に用いられている.How slow you are! Try and be a little quicker. のように,テキスト中に明示的に対照性が示される場合もある.一方,unique, real, right, wrong などの形容詞は本来的に対照的な意味を有しており,それゆえに対照比較級をとることはない.

(ii) 優勢比較級 (comparative of superiority)
 2者について同じ特徴をもつが,一方が他方よりも高い程度を表わす場合に用いられる.He worked harder than most men. のような一般的な比較文がこれである.対照比較級の特別な場合と考えることもできる.

(iii) 比例比較級 (comparative of proportion)
 平行する2つの節で用いられることが多く,同じ比率で増加・減少する性質を表現する.The more he contemplated the thing the greater became his astonishment.You grow queerer as you grow older.Life seemed the better worth living because she had glimpsed death. などの例があがる.

(iv) 漸層比較級 (comparative of graduation)
 ある性質が漸次増加・減少することを表わすのに and を用いて比較級を重ねるもの.The road got worse and worse until there was none at all. など.worse and worse とする代わりに even worse などと副詞を添える場合もあるし,worse 1つを単独で用いる場合もある.

 比較級を意味論的に分類してみると興味深い.これらの歴史的発達も調べてみるとおもしろそうだ.

 ・ 大塚 高信,中島 文雄 監修 『新英語学辞典』 研究社,1987年.

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2019-11-04 Mon

#3843. なぜ形容詞・副詞の「原級」が "positive degree" と呼ばれるのか? [comparison][terminology][adjective][adverb][sobokunagimon]

 「#3835. 形容詞などの「比較」や「級」という範疇について」 ([2019-10-27-1]) で,形容詞・副詞にみられる比較 (comparison) という範疇 (category) について考えた.一般に英語の比較においては,3つの級 (grade) が区別される.原級 (positive degree),比較級 (comparative degree),最上級 (superlative degree) である.ここで英語の用語に関して comparativesuperlative はよく分かるのだが,positive というのがイマイチ理解しにくい.何がどう positive だというのだろうか.
 OED で positive, adj. and n. を引いてみると,この文法用語としての意味は,語義12に挙げられている.

12. Grammar. Designating the primary degree of an adjective or adverb, which expresses simple quality without qualification; not comparative or superlative. . . .


 この positivenegative の反対というわけではない.それは特に何も修正や小細工が施されていない形容詞・副詞そのもののあり方をいう.換言すれば absolute (絶対的), intrinsic (本質的), independent (独立的)といってもよいほどの意味だろう.比較的・相対的な級である comparativesuperlative に対して,比較しない絶対的な級だから positive というわけだ.ある意味で,否定的に定義されている用語・概念といえる.
 文法用語としての初例は1434年頃となっている.用語の理解に資する歴史的な例文をいくつか引こう.

 ・ c1434 J. Drury Eng. Writings in Speculum (1934) 9 79 Þe positif degre..be-tokenyth qualite or quantite with outyn makyng more or lesse & settyth þe grownd of alle oþere degreis of Comparison.
 ・ 1704 J. Harris Lexicon Technicum I Positive Degree of Comparison in Grammar, is that which signifies the Thing simply and absolutely, without comparing it with others; it belongs only to Adjectives.
 ・ 1930 Frederick (Maryland) Post 15 Jan. 4/2 The Positive degree is used when no comparison is made with any other noun or pronoun, except as to their class; it is expressed by the simple unchanged form of the adjective; it expresses a certain idea to an ordinary extent.


 上記を考えると,日本語の「原級」という訳語も決して悪くない.

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2019-10-27 Sun

#3835. 形容詞などの「比較」や「級」という範疇について [comparison][adjective][adverb][category][terminology][fetishism]

 英語の典型的な形容詞・副詞には,原級・比較級・最上級の区別がある.日本語の「比較」や「級」という用語には,英語の "comparison", "degree", "gradation" などが対応するが,そもそもこれは言語学的にどのような範疇 (category) なのか.Bussmann の用語辞典より,まず "degree" の項目をみてみよう.

degree (also comparison, gradation)
All constructions which express a comparison properly fall under the category of degree; it generally refers to a morphological category of adjectives and adverbs that indicates a comparative degree or comparison to some quantity. There are three levels of degree: (a) positive, or basic level of degree: The hamburgers tasted good; 'b) comparative, which marks an inequality of two states of affairs relative to a certain characteristic: The steaks were better than the hamburgers; (c) superlative, which marks the highest degree of some quantity: The potato salad was the best of all; (d) cf. elative (absolute superlative), which marks a very high degree of some property without comparison to some other state of affairs: The performance was most impressive . . . .
   Degree is not grammaticalized in all languages through the use of systematic morphological changes; where such formal means are not present, lexical paraphrases are used to mark gradation. In modern Indo-European languages, degree is expressed either (a) synthetically by means of suffixation (new : newer : (the) newest); (b) analytically by means of particles (anxious : more/most anxious); or (c) through suppletion . . . , i.e. the use of different word stems: good : better : (the) best.


 同様に "gradation" という項目も覗いてみよう.

gradation
Semantic category which indicates various degrees (i.e. gradation) of a property or state of affairs. The most important means of gradation are the comparative and superlative degrees of adjectives and some (deadjectival) adverbs. In addition, varying degrees of some property can also be expressed lexically, e.g. especially/really quick, quick as lightning, quicker and quicker.


 上の説明にあるように "degree" や "gradation" が「意味」範疇であることはわかる.英語のみならず,日本語でも「より良い」「ずっと良い」「最も良い」「最良」などの表現が様々に用意されており,「比較」や「級」に相当する機能を果たしているからだ.しかし,通言語的にはそれが常に形態・統語的な「文法」範疇でもあるということにはならない.いってしまえば,たまたま印欧諸語では文法化し(=文法に埋め込まれ)ているので文法範疇として認められているが,日本語では特に文法範疇として設定されていないという,ただそれだけのことである.
 個々の文法範疇は,通言語的に比較的よくみられるものもあれば,そうでないものもある.文法範疇とは,ある意味で個別言語におけるフェチというべきものである.この見方については「#2853. 言語における性と人間の分類フェチ」 ([2017-02-17-1]) をはじめ fetishism の各記事を参照されたい.

 ・ Bussmann, Hadumod. Routledge Dictionary of Language and Linguistics. Trans. and ed. Gregory Trauth and Kerstin Kazzizi. London: Routledge, 1996.

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