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toponym - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-01-18 05:57

2018-09-27 Thu

#3440. ローマ軍の残した -chester, -caster, -cester の地名とその分布 [toponym][latin][loan_word][oe_dialect][roman_britain]

 「#1437. 古英語期以前に借用されたラテン語の例」 ([2013-04-03-1]) や「#2578. ケルト語を通じて英語へ借用された一握りのラテン単語」 ([2016-05-18-1]) で触れたように,ローマン・ブリテン時代にローマ軍が建設したと考えられる町の名には,ラテン語 castrum (野営地)に由来する要素を含むものが少なくない.このラテン単語は,すでに大陸時代にゲルマン諸語に借用されていたと考えられる.
 標題のように,英語の地名要素としてはいくつかの異形があり,その異形の分布には傾向がある.サクソン系が定住したイングランドの比較的南部の地域では,-chester となるものが多い (ex. Colchester, Dorchester, Manchester, Rochester, Winchester) .
 一方,アングル系が定住し,後にデーン人が入り込んだ北部・北西部・東部では -caster となるところが多い (ex. Doncaster, Lancaster, Tadcaster) .
 また,サクソン系とアングル系が融合したとされる中部地域では -cester が多く,発音はつづまって /-stə/ となる (ex. Bichester, Gloucester, Leicester, Worcester) .『英語語源辞典』によると,この発音は Anglo-French の発音を反映しているといわれる.さらに,ウェールズとの境界近くでは語頭子音が x となり,Exeter, Wroxeter などの例が見られる.
 上記の分布は,あくまで傾向を示すにすぎず,必ずしもきれいにはいかないようだが,地名学,方言(音声)学,歴史学の交差点を見ているようで興味が尽きない.以上,デイヴィスとレヴィットの25--26ページを参照して執筆した.

 ・ デイヴィス,C. S.・J. レヴィット(著),三輪 伸春(監訳),福元 広二・松元 浩一(訳) 『英語史でわかるイギリスの地名』 英光社,2005年.

Referrer (Inside): [2018-10-11-1]

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2018-09-26 Wed

#3439. St. Ives の「通り」の表現 [toponym][loan_word][french][latin][old_norse][italian]

 英語の通りの名前に用いられる「通り」に相当する名詞は,種類が豊富である.日本語では「〜通り」「〜道」「〜街道」がある程度だが,英語では様々な語源に由来する種々の名前が用いられる.以下は,デイヴィスとレヴィットの英語地名の著書 (8--9) で紹介されている Cambridgeshire の町,St. Ives に見られる数々の「通り」を表わす語を語源ごとに整理した一覧である.

[ 英語 ]
  mews (うま屋,あるいは鳥小屋のあった通り),road (馬場,ride の母音交替による名詞形),lane (小路),yard,row (家の列),hill,way,walk,drove (家畜の群を追う際に通る道,drive の名詞形),grove (小森,神の森),lea,ley (共に,農地,耕地)

[ フランス語(<ラテン語<ギリシア語) ]
  place, gardens, court, avenue, square, crescent (三日月形の通り),close (袋小路),terrace (山の手に建てられた家並み),passage,market (市場のある通り)

[ ラテン語 ]
  street, circus (そこから道が放射状に延びている広場)

[ 古ノルド語 ]
  gate (通り,あるいは門)

[ イタリア語 ]
  villa (領主の邸宅のある通り)

 St. Ives では,1つの町のなかに様々な言語に由来する「通り」の表現が混在している.St. Ives が特別なわけではなく,むしろイギリスの町並みと地名を象徴する1例にすぎないととらえるべきだろう.地名の1つひとつに,その土地の歴史が刻まれているのだ.地名学の魅力を感じさせる.

 ・ デイヴィス,C. S.・J. レヴィット(著),三輪 伸春(監訳),福元 広二・松元 浩一(訳) 『英語史でわかるイギリスの地名』 英光社,2005年.

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2017-11-04 Sat

#3113. アングロサクソン人は本当にイングランドを素早く征服したのか? [anglo-saxon][celtic][history][sociolinguistics][toponym]

 標記は,近年のブリテン島の古代史における論争の的となっている話題である.伝統的な歴史記述によれば,アングロサクソン人は5世紀半ばにイングランドを侵略し,原住民のブリトン人を根絶やしにするか,ブリテン島の周辺部へ追いやるかし,いわばアングロサクソン人の電撃的な圧勝だったという.しかし,近年はこの従来の説に対して修正的な見方が現われており,「電撃的な圧勝」ではなかったという説を見聞きする機会が増えた.
 現実はアングロサクソン人によるもう少し穏やかな移住だったのではないかという見解については,ケルト研究の第1人者である原 (219) も,イングランドの考古学や地名学などの成果を参照するなどして,以下のように支持している.

 従来,アングロサクソン人の侵入は,比較的短期間での大規模な組織的移住と考えられてきたが,現実はそうではなく,かなり長期にわたる,独立の小戦士団による来寇だった.五〜六世紀の墳墓や葬制に関する考古学調査でうかがえるのは,小戦士団による主要なローマ街道沿いの,戦略的要地での点在的な定住地の形成であり,ついで河川に沿った内陸への広い拡大である.地名学の研究成果でも,たとえば「ハエスティンガス(ヘイスティングズ)」は,従来考えられてきたように「ハエストの一族,子孫たち」ではなく,「ハエストに従う人々」であり,「レアディンガス(レディング)」も「レアダに従う人々」である.つまり,アングロサクソンの初期集落に特徴的な「インガス語尾」の地名は,部族集団に由来するのではなく,小戦士団にもとづいているのである.
 これも移住と伝播という歴史の基本的問題となるが,ローマに比べるとアングロサクソンの文化的権威は決して高くはなかった.したがってサクソン人の文化,その後の英語がブリテン島の支配的言語となっていくことについては,権威が拮抗的だとすれば,支配関係がキーポイントになる.つまり,サクソン人が支配権を握ることで,文化的にも覇権を獲得していくことになるのである.これはその後の歴史資料,物語でも確認される.


 ここで,「文化的権威」と「支配関係」とを異なる社会言語学的パラメータと考えている点が注目に値する.この例において具体的にいえば,「文化的権威」とは技術,経済,学問,宗教などに関わる威信を指し,「支配関係」といえば政治や軍事などにかかわる優勢を指すとみなせるだろうか.文化軸と政治軸は,ともに社会的なパラメータではあるが,分けて考えることで見えてくることもありそうだ.
 アングロサクソンのブリテン島の侵攻については,「#33. ジュート人の名誉のために」 ([2009-05-31-1]),「#389. Angles, Saxons, and Jutes の故地と移住先」 ([2010-05-21-1]),「#1013. アングロサクソン人はどこからブリテン島へ渡ったか」 ([2012-02-04-1]),「#2353. なぜアングロサクソン人はイングランドをかくも素早く征服し得たのか」 ([2015-10-06-1]),「#2443. イングランドにおけるケルト語地名の分布」 ([2016-01-04-1]),「#2493. アングル人は押し入って,サクソン人は引き寄せられた?」 ([2016-02-23-1]),「#2900. 449年,アングロサクソン人によるブリテン島侵略」 ([2017-04-05-1]),「#3094. 449年以前にもゲルマン人はイングランドに存在した」 ([2017-10-16-1]) を参照.

 ・ 原 聖 『ケルトの水脈』 講談社,2007年.

Referrer (Inside): [2018-05-27-1] [2017-11-05-1]

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2017-06-23 Fri

#2979. Chibanian はラテン語? [eponym][toponym][suffix][waseieigo][word_formation][etymology][latin]

 6月7日,国立極致研究所や茨城大学などの研究チームが,約77万〜12万6千年前の時代を代表する千葉県市原市の地層を国際的な基準地にするよう国際組織に申請した.来年にかけて,地球の磁気が反転した証拠をとどめる同時代の地層として,イタリアの強力なライバルと競い合うことになるという.申請された時代名は「チバニアン」 (Chibanian) であり,もし認められれば,日本由来の地質時代の名前としては初めてのものになるという.
 「チバニアン」を「ラテン語で「千葉の時代」」と注釈をつけている新聞記事があった.この注釈に少なからぬ違和感を感じたので,その違和感の所在をここに記しておきたい.
 「チバ」 (Chiba) の部分と「ニアン」 (-nian) の部分に分けて論じよう.まず,最初に第2要素「ニアン」 (-nian) から.-nian は,確かに起源としてはラテン語の形容詞語尾に遡るとは言える(厳密には,最初の n は先行する語幹に属するものと考える必要があるが).しかし,本当のラテン語であれば -nian で終わることはありえず,性・数・格に応じた何らかの屈折語尾が付加して,-nianus や -niana などとして現われるはずである.しかし,そのような語尾がないということは,-nian で終わる語形は,ラテン語としての語形ではないということになる.それは現代ヨーロッパ語の語形であり,諸事情から国際語としての英語の語形と考えるのが妥当だろう.-nian は,歴史的にはラテン語に由来するということができても,新語が作られた現代の共時的観点からは,ラテン語に属しているとは言えず,おそらく英語に属しているというべきだろう.「ラテン語で「千葉の時代」」という注釈は,歴史(語源・由来)と共時態の事実(現在の所属)を混同していることになる.
 「チバニアン」をラテン単語とみなすことの違和感は,「シーチキン」などの和製英語を英単語とみなす違和感と同一のものである(「#1624. 和製英語の一覧」 ([2013-10-07-1]) を参照).「シー」 (sea) も「チキン」 (chicken) も,歴史的には明らかに英語由来の単語である.しかし,それを組み合わせた「シーチキン」 (sea chicken) は,いかに英単語風の体裁をしているにせよ,(英語へ逆輸入されない限り)英語の語彙には存在しない以上は日本語の単語と言わざるを得ない.起源は英語であっても,現在の共時的な所属は日本語なのである.
 次に,第1要素の「チバ」 (Chiba) について.こちらは,-nian と異なり,歴史的にも現在の共時態としてれっきとした日本語の単語であると言い切ってよさそうだが,必ずしもそうではないと議論することは不可能ではない.歴史的に日本語であるということに異論はないが,今回の造語の背景,すなわち国際的な地質学に供するという目的をもった文脈を考慮すれば,それは世界の一角を占める地名としての「チバ」を指すに違いない.命名者の日本人研究者や(私を含めて)多くの日本人は,日本の地名としての「千葉(県市原市)」を意識するに違いないが,世界に受け入れられたあかつきには,むしろ受け入れられたというその理由により,「チバ」は世界の地名となるだろう.地名は,世界に開かれたものとしてとらえるとき,たとえその語源や語形成が明らかに○○語のものだったとしても,共時的には○○語のものではないと論じることができそうである.では,○○語ではなく何語の単語なのかといえば,よく分からないのだが,ある種の普遍語の単語と述べるにとどめておきたい.固有名詞は特定の言語に属さないのではないかという問題については,「#2212. 固有名詞はシニフィエなきシニフィアンである」 ([2015-05-18-1]),「#2397. 固有名詞の性質と人名・地名」 ([2015-11-19-1]) を参照されたい.
 以上より,「チバニアン」 を構成すると考えられる2つの要素のいずれについても,共時的な観点からは,「ラテン語である」とは決して言えない.なお,この新聞記者に目くじらを立てているというよりは,違和感を説明しようとして考えたことを文章にしてみただけである.卑近な話題で言語学してみたということで,あしからず.
 結局のところ,「チバニアン」は英語なのだろうか,そうでなければ何語なのだろうか・・・.

Referrer (Inside): [2017-12-26-1]

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2017-02-06 Mon

#2842. 固有名詞から生まれた語 [eponym][toponym][onomastics][etymology][metonymy][semantic_change][lexicology]

 シップリー (722--39) に「固有名詞から生まれた言葉」の一覧がある.以下では,その一覧を参照用に再現する.各表現の故事来歴について詳しくは直接シップリーに,あるいは各種の辞書に当たっていただきたい.とりあえず,このような表現がたくさんあるものだということを示しておきたい.

Adonis
agaric
agate
Alexandrine
Alice blue
America
ammonia
ampere
Ananias
Annie Oakley
aphrodisiac
areopagus
argosy
Argus-eyed
arras
artesian well
astrachan
Atlantic
atlas
babbitt
bacchanals
bakelite
barlett (pear)
battology
bayonet
begonia
bellarmine
bergamask
bison
blanket
bloomers
bobby
bohemian
bowdlerize
bowie
boycott
braille
brie
Brithg's disease
bronze
brougham
Brownian movement
brummagem
bunsen (burner)
Casarean
camembert
cantaloup
cardigan
caryatid
Cassandra
cereal
chalcedony
cherrystone clams
Chippendale
coach
Colombia, Columbia
cologne
colophony
colt
copper
coulomb
cravat
cupidity
currant
daguerreotype
dauphin
derby
diesel (engine)
diddle
doily
dollar
dumdum bullet
Duncan Phyfe
Dundreary (whiskers)
echo
epicurean
ermine
erotic
euhemerism
euphuism
Fabian
Fahrenheit
faience
Fallopian
farad
Ferris (wheel)
fez
forsythia
frankfurter
frieze
galvanize
gamboges
gardenia
gargantuan
gasconade
gauss
gavotte
gibus
Gilbertian
gladstone (bag)
Gobelin
gongorism
Gordian knot
gothite
greengage
Gregorian (calendar/chant)
guillotine
hamburger
havelock
Heaviside layer
hector
helot
henry
hermetically
hiddenite
Hitlerism
Hobson's choice
hyacinth
indigo
iridium
iris
jacinth
Jack Ketch
Jack Tar
jeremiad
jobation
Jonah
joule
jovial
Julian calendear
laconic
lambert
landau
Laputan, Laputian
lavalier
lazar
leather-stocking
Leninism
Leyden jar
lilliputian
limousine
loganberry
Lothario
lyceum
lynch
macadamize
machiavellian
machinaw
mackintosh
magnet
magnolia
malapropism
Malpighian tubes
manil(l)a
mansard roof
marcel
martinet
Marxist
maudlin
mausoleum
maxim (gun)
mayonnaise
mazurka
McIntosh (apple)
Melba toast
Mendelian
mentor
Mercator projection
mercerize
mercurial
meringue
mesmerism
mho
milliner
mnemonic
morphine
morris chair
morris dance
Morse code
negus
nicotine
Nestor
Occam's razor
odyssey
ogre
ohm
Olympian
panama (hat)
panic
parchment
Parthian glance, Parthian shot
pasteurize
peach
peeler
peony
percheron
philippic
pinchbeck
Platonic
Plimsoll line [mark]
poinsettia
polka
polonaise
pompadour
praline
Prince Albert
procrustean
protean
prussic (acid)
Ptolemaic system
Pullman
pyrrhic victory
pyrrhonism
quisling
quixotic
raglan
rhinestone
rodomontade
Roentgen ray
roquefort
Rosetta Stone
Rosicrucian
Salic (law)
Sally Lunn
Samaritan
sandwich
sardine
sardonic
sardonyx
satire
saxophone
scrooge
Seidlitz
sequoia
shanghai
Sheraton
shrapnel
silhouette
simony
sisyphean
socratic
solecism
spaniel
Spencer
spinach
spruce
Stalinism
stentorian
Steve Brodie
sybarite
tabasco
tangerine
tarantella
tarantula
thrasonical
timothy
titanic
tobacco
Trotskyte
trudgen
Vandyke
vaudeville
venery
Victoria
volcano
volt
vulcanize
watt
Wedgwood ware
Wellington (boot)
Winchester rifle
wulfenite
Xant(h)ippe
Zeppelin

 場所や人の名前をもとに,その来歴や何らかの特徴を反映した普通名詞が生まれるのは,主に metonymy の作用と考えられる.また,本来は固有の指示対象をもっていたものが,一般的に用いられるようになったという点で,意味の拡大の事例ともいえるだろう.
 シップリーの語源に関するリストとしては,ほかに「#1723. シップリーによる2重語一覧」 ([2014-01-14-1]) でも話題にしたので参照を.

 ・ ジョーゼフ T. シップリー 著,梅田 修・眞方 忠道・穴吹 章子 訳 『シップリー英語語源辞典』 大修館,2009年.

Referrer (Inside): [2017-02-13-1]

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