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future_of_english - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-01-17 06:51

2017-08-07 Mon

#3024. 「帝国のサイクル」と英語の未来 [future_of_english][linguistic_imperialism][historiography]

 Harari は Sapiens (邦題『サピエンス全史』)のなかで「帝国のサイクル」 ("The Imperial Cycle") を提案している (226--27) .それは以下の6段階からなる.

 1. A small group establishes a big empire.
 2. An imperial culture is forged.
 3. The imperial culture is adopted by the subject peoples
 4. The subject peoples demand equal status in the name of common imperial values
 5. The empire's founders lose their dominance
 6. The imperial culture continues to flourish and develop

 このサイクルが,ローマ,イスラム世界,ヨーロッパの帝国主義において繰り返し現われたという.また,ヨーロッパの帝国主義にみられる同サイクルは,現在,第4段階辺りにたどり着いているらしい.Harari (225) 曰く,

During the twentieth century, local groups that had adopted Western values claimed equality with their European conquerors in the name of these very values. Many anti-colonial struggles were waged under the banners of self-determination, socialism and human rights, all of which are Western legacies. Just as Egyptians, Iranians and Turks adopted and adapted the imperial culture that they inherited from the original Arab conquerors, so today's Indians, Africans and Chinese have accepted much of the imperial culture of their former Western overlords, while seeking to mould it in accordance with their needs and traditions.


 言語帝国主義 (linguistic_imperialism) の英語批評によれば,英語も帝国(主義的な存在)であるということなので,その展開には「帝国のサイクル」が観察されて然るべきだろう.
 英語はアングロサクソン人の小さな集団から始まり,1500年ほどかけて帝国主義的な言語へと発展してきた(第1段階).その過程で英語文化が育まれ(第2段階),英米の(旧)植民地の人々に受け入れられてきた(第3段階).現在,それら(旧)植民地の人々は,自分たちの使う英語変種を宗主国の英語変種と同等に扱うように求め始めている(第4段階).これにより,将来,宗主国は歴史的に保持してきた自らの英語変種の優位性を手放さざるを得なくなるだろう(第5段階).そして,英語文化そのものは繁栄と発展を続けていくことになる(第6段階).
 「帝国のサイクル」というモデルを,このように単純に英語史に当てはめることが妥当かはわからない.しかし,英語の過去,現在,未来を考えるうえで非常に示唆に富むモデルである.

 ・ Harari, Yuval Noah. Sapiens: A Brief History of Humankind. 2011. London: Harvill Secker, 2014.

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2016-11-23 Wed

#2767. 自動翻訳機の英語史的意義 [machine_translation][elt][future_of_english][sociolinguistics]

 自動翻訳機の開発が英語やその他の言語に与える衝撃については,いまだ本格的に議論されていないように思われる.ドラえもんの秘密道具の1つ「ほんやくコンニャク」,あるいは英語圏で知られる Babel fish のような夢の翻訳ツールは,数十年前にはSF小説の世界の話しにすぎないと思われていたが,21世紀に入った現在,日進月歩の技術発展により実用化が進みつつある.
 11月17日付の朝日新聞夕刊1面に「ほんやくコンニャク実用化?」と題する,音声自動翻訳機の使用実験に関する記事が掲載されていた.東京オリンピックにむけて,しゃべった日本語がそのまま英語などの他言語に翻訳されて音声として出力される,パナソニックの開発したメガホン「メガホンヤク」が,空港をはじめとする交通機関で実験的に使用され始めているという.技術的には,例えば日英語翻訳の場合には,日本語音声認識→単語ごとに英語へ変換→統計を用いた語順の並び替え→音声合成,という手続きを踏むようで,この全体が1秒ほどで済むという.ほかに,東京メトロでは音声自動翻訳アプリをインストールしたタブレットも試用されるなど,すでに実用化への動きは進んでいる.これらの施策が官民一体となって進められている.
 今世紀初頭には,自動翻訳機の翻訳の精度はまだまだであり,少なくとも数十年はかかるだろうと言われてきたが,その後の技術の進歩は飛躍的である.この問題に詳しい専門家は,「大半の日本人の英語力が機械に負ける日も遠くないだろう」と述べている.立教大学名誉教授の鳥飼玖美子氏も「簡単な内容は機械任せでよくなり,今の英会話中心の授業は不要だろう.小学校からやる必要があるのかも再検討することになるのでは.」「全員が英語を習得する必要はなく,異文化理解のための学習に軸足が移るだろう」とコメントしている.私は,この予測はおよそ当たるだろうと考えている.
 英語教育を始めとする語学教育のあり方も根本的に変わる可能性がある.多くの学習者の動機づけが変化するとともに教員の意識改革が必要となってくるだろうし,語学とはそもそも何のためにあるのかという本質的な議論もなされなければならない.私自身も一英語教員として首がかかっているのでまったく他人事ではないのだが,この問題には,英語史研究者としてワクワクするものを感じている.自動翻訳機の完成と普及は,社会における英語の位置づけを大きく変化させる可能性があり,英語史上,画期的な出来事として刻まれるはずだからである.技術革新は,いつの時代も,言語を言語学的側面においても社会言語学的側面においても変えてきたのである.

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