hellog〜英語史ブログ     ChangeLog 最新    

cleft_sentence - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-09-19 08:56

2016-01-03 Sun

#2442. 強調構文の発達 --- 統語的現象から語用的機能へ [syntax][agreement][pragmatics][construction_grammar][discourse_marker][relative_pronoun][expletive][cleft_sentence]

 先日,掲示板にて "It is . . . that . . . ." の型をもつ分裂文 (cleft sentence),いわゆる強調構文の歴史について質問が寄せられた.これについて,以下のように粗々に回答した.

分裂文(いわゆる強調構文)の発展や,要素間の統語的一致の推移については,複雑な経緯と種々の説があり,一言では説明できません.相当するものは古英語からあり,主語には it のみならず that やゼロ形が用いられていました.現代英語における分裂文という現象を,共時的な観点にこだわらず,あえて通時的な観点から分析するのであれば,that は関係詞であり,it はその先行詞であると述べておきたいと思います.つまり,"It is father that did it." という例文でいえば,「それを為したところのもの,それは父です.」ということになります.人でありながら中性の it を用いるのも妙な感じはしますが,"Who is it?" の it などからも理解できると思います(古英語でも同じでした).ところが,後に "It is I that am wrong." にみられるように,that の先行詞は文頭の It ではなく直前の I であるかのような一致を示すに至りました.以上,取り急ぎ,かつ粗々の回答です.


 この問題について,細江 (245--46) が次のように論じている.

注意を引くために用いられた It is... の次に来る関係代名詞が主格であるとき,その従文における動詞は It is I that am wrong. おようにこれに対する補語と人称数で一致する。たとえば,

   It is you who make dress pretty, and not dress that makes you pretty.---Eliot
   But it's backwaters that make the main stream. ---Galsworthy.
   It is not I that bleed---Binyon.

 これは今日どんな文法家でも,おそらく反対するものはないでえあろう。しかも that の先行詞は明らかに It である。それではなぜこの一致法が行なわれるかといえば,〔中略〕It は文法の形式上 that の先行詞ではあるけれども,一度言者の脳裏にはいってみれば,それは決して次に来る叙述中に含まれる動作もしくは状態などの主たり得る性質のものではない。すなわち,換言すれば It is I that am wrong. と言うとき,言者の脳裏にある事実は I am wrong. にほかならないからである。


 細江は p. 246 の注で,フランス語の "Nous, nous n'avons pas dit cela." と "Ce n'est pas nous qui avons dit cela." の2つの強調の型においても,上記と同じことが言えるとしている.関連して,「#1252. Bailey and Maroldt による「フランス語の影響があり得る言語項目」」 ([2012-09-30-1]) を参照.
 私の回答の最後に述べたことは,歴史の過程で統語的一致の様式が変化してきたということである.これを別の観点からみれば,元来,統語的な型として出発したものが,強調や対比という語用的・談話的な役割を担う手段として発達し,その結果として,統語的一致の様式も変化にさらされたのだ,と解釈できるかもしれない.細江の主張を,回答内の例文において繰り返せば,話者の頭の中には did it (それを為した)のは明らかに father (父)という観念があるし,wrong (間違っている)のは明らかに I という観念があるはずである.それゆえに,この観念に即した統語的一致が求められるようになったのだろう.そして,現代英語までに,この一致の様式をもつ統語的な型そのものが,語用的な機能を果たす構造として確立してきたのである.

 ・ 細江 逸記 『英文法汎論』3版 泰文堂,1926年.

Referrer (Inside): [2019-05-08-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-09-30 Sun

#1252. Bailey and Maroldt による「フランス語の影響があり得る言語項目」 [french][celtic][old_norse][contact][cleft_sentence]

 ##1223,1249,1250,1251 の記事で,Bailey and Maroldt によって始められた中英語=クレオール語の仮説を巡る論争を見てきた.Bailey and Maroldt を批判する内容ばかりだったが,彼らの論文には示唆的な考察もあることを付け加えておきたい.
 [2012-09-28-1]の記事「#1250. 中英語はクレオール語か? (3)」の (5) で取り上げた「英語とフランス語との間に平行関係が観察される言語項目」 (Bailey and Maroldt 51--52) を,「フランス語の影響があり得る言語項目」のリストとして捉えれば,英仏語言語接触の研究課題を提供してくれているという点で有用かもしれない.[2012-09-01-1]の記事「#1223. 中英語はクレオール語か?」で紹介したように,Görlach は,以下のほとんどの項目に異議を唱えるだろうが,一覧にしておくことはなにがしかの意味があるだろう.

A. Anglo-Saxon elements in French functions:
 1) the -līce deadjectival adverb-formative;
 2) the use of wh-interrogatives as relative pronouns; cf. French qu-interrogatives and relatives;
 3) progressive formations and other tense/aspect/diathesis formations;
 4) prepositions of the pattern exemplified by outside of, or Anglo-Saxon prepositions in French uses;
 5) French-like uses of the pronoun cases;
 6) the cleft-sentence formation;
 7) case functions of the of-"genitive" and the to-"dative";
 8) second-person informal/formal distinction in forms of address;
 9) Middle English calques that got lost later; e.g. the which;
 10) analytical comparison.

B. French-influenced developments, the first of which is essentially universal:
 1) loss of inflections, especially case and gender distinctions;
 2) word order, especially after negative elements; but not the order of adjectives.

C. French elements:
 1) vocabulary --- quantitatively as well as qualitatively very considerable;
 2) a huge part of English derivational morphology;
 3) most phonomorphological rules;
 4) certain sounds; e.g. initial [v dž] and the diphthong [ɔ].


 また,これまであまり聞いたことのないケルト語あるいは古ノルド語からの影響の可能性として,次の言及も目に留まったので付け加えておく."The fact that clear [l] as well as non-aspirated [p t k] are widespread in the North could be due to either Keltic or Nordic influence" (25).

 ・ Bailey, Charles James N. and Karl Maroldt. "The French Lineage of English." Langues en contact --- Pidgins --- Creoles --- Languages in contact. Ed. Jürgen M. Meisel. Tübingen: Narr, 1977. 21--51.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow