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by-name - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-05-22 11:34

2024-05-18 Sat

#5500. 中英語の職業名ベースの姓の分類 [onomastics][personal_name][name_project][by-name][occupational_term][address_term]

 職業名ベースの姓については,これまで occupational_term の記事群で取り上げてきた.Fransson (27--28) が一般的な分類を与えているので,そちらを掲げておきたい

1. dignitaries and officers
   1. Sheriff, mayor, judge, clerk, etc.
   2. Military officers
   3. Ecclesiastical officers
2. occupations belonging to the country
   1. Agricultural occupations
   2. Pastoral occupations
   3. Forestal and venary occupations
3. those who manufacture or sell different articles


 1つめの「高位」の職業名は,そのまま呼称・尊称 address_term ともなり得る場合が多いことに注意を要する.2つめは農業・牧畜・林務・狩猟に関する「田舎」の職業である.3つめがおおよそ都市と商業の職業であり,職業名ベースの姓としてこれまで取り上げてきた例のほぼすべてがここに属する.
 職業名(ベースの姓)の本格的な研究のためには,3種類のいずれをも対象に含める必要があるだろう.

 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.

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2024-05-16 Thu

#5498. 中英語期で最もよくある職業名ベースの姓は何? [onomastics][personal_name][name_project][by-name][occupational_term][ranking][voicy][heldio]

 Fransson (33) が,中英語期の職業名ベースの姓をめぐる研究において,調査資料のなかで100回以上現われる姓 (by-name) を抜き出し,そのランキングを25位まで挙げている.中英語の綴字で示そう.

 ・ Taillour (仕立屋)
 ・ Chapman (行商人)
 ・ Marescal (馬丁)
 ・ Carpenter (大工)
 ・ Mason (石工)
 ・ Smyth (鍛冶屋)
 ・ Coke (料理人)
 ・ Coupere (おけ屋)
 ・ Tannere (なめし皮職人)
 ・ Fullere (縮絨工)
 ・ Turnour (旋盤工)
 ・ Milner (粉屋)
 ・ Muleward (粉屋)
 ・ Keu (料理人)
 ・ Mouner (粉屋)
 ・ Bakere (パン屋)
 ・ Barber (床屋)
 ・ Ferrour (鍛冶屋)
 ・ Pottere (陶器職人)
 ・ Coliere (石炭商)
 ・ Mercer (服地屋)
 ・ Feuere (鍛冶屋)
 ・ Skynnere (皮職人)
 ・ Deyer (染物屋)
 ・ Leche (医者)

 英語本来語のものもあればフランス語由来のものもある.現代でも広く用いられている名前もあれば,そうでもないものもある.英語でも日本語でも時代によって人気のある first name が移り変わってきたことはよく知られているが,姓にも通時的な分布の変化があるのだろうか.中英語期は姓が導入され固まった時代ではあるが,特にその前期には,まだ流動的な代物にすぎなかったということも考え合わせたい.
 なお,今回の話題については,すでに先日の5月11日の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」配信回にて取り上げている.「#1076. 「中英語の職業名の姓」人気ランキング」をお聴きいただければ.



 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.

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2024-05-12 Sun

#5494. 中英語期には同じ職業を表わすにも様々な名前があった [onomastics][personal_name][name_project][by-name][occupational_term][morphology][word_formation][compound][compounding][derivation][suffix]

 中英語期の職業名を帯びた姓 (by-name) について調べている.Fransson や Thuresson の一覧を眺めていると,同一の職業とおぼしきものに,様々な呼称があったことがよく分かってくる.とりわけ呼び方の種類の多いものを,ピックアップしてみた.確認された初出年代と当時の語形を一覧してみよう.

 ・ チーズを作る(売る)人 (Fransson 66--67): Cheseman (1263), Cheser (1332), Chesemakere (1275), Chesewright (1293), Chesemonger (1186), Furmager (1198), Chesewryngere (1281), Wringer (1327)
 ・ 織り手,織工 (Fransson 87--88): Webbe (1243), Webbester (1275), Webbere (1340), Weuere (1296)
 ・ 小袋を作る人 (Fransson 95--96): Pouchemaker (1349), Poucher (1317), Pocheler, Poker (1314)
 ・ 金細工職人 (Fransson 133--34): Goldsmyth/Gildsmith (125), Gilder/Golder (1281), Goldbeter (1252), Goldehoper (1327)
 ・ 車(輪)大工 (Fransson 161--62): Whelere (1249), Whelster (1327), Whelwright (1274), Whelsmyth (1319), Whelemonger (1332)
 ・ ブタ飼い (Thuresson 65--67): Swynherde (1327), Swyneman (1275), Swyner (1257), Swyndriuere (1317), Swon (c1240)
 ・ 猟師 (Thuresson 75--76): Hunte (1203), Hunter (1301), Hunteman (1235)

 このような異形態は,とりわけ語彙論,意味論,形態論の観点から興味をそそられる.しかしそれ以上に,当時の職業の多様性や,人々の自称・他称へのこだわりが感じられ,何かしら感動すら覚える.

 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.
 ・ Thuresson, Bertil. Middle English Occupational Terms. Lund Studies in English 19. Lund: Gleerup, 1968.

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2024-05-08 Wed

#5490. なぜ職業名を表わす姓の種類は近代英語期にかけて減少したのか? [onomastics][personal_name][name_project][by-name][me][mode][occupational_term]

 「#5488. 中英語期の職業名(を表わす姓)の種類は驚くほど細分化されていて多様だった」 ([2024-05-06-1]) および「#5489. 古英語の職業名の種類は中英語と同じくらい多様だったか否か」 ([2024-05-07-1]) を受けての話題.前者の記事で,中英語期には多様だった職業名が,近代英語期にかけて種類を減らしていった事実に触れた.
 同様に,職業名を表わす姓 (by-name) も,近代英語期にかけて種類を減らしていったという.これはなぜだろうか.Fransson (32) によれば,"by-name" が世襲の "family name" へ発展していく際に,一般的で短めの職業名が選択されたからではないかという.

As regards surnames of occupation we can notice that they become less specialized towards the end of the period, and if we examine rolls after 1350, we shall be surprised at the rarity of specialized names as compared with the earlier period. The reason for this has nothing to do with what has been said above about trades; it is connected with the heredity of surnames, which now begins to become prevalent. The specialized surname of occupation coincided with the trade of a person and, as a rule, does not seem to have been hereditary, which is probably due to its length and to the fact that it very easily calls to mind the trade itself. The surnames that became hereditary were usually short and denoted common trades, e.g. Smith, Cook, Tailor, Turner, etc.; it is almost exclusively names of this kind that one finds in later rolls. It is true that there are surnames of the specialized type that have survived to modern times, e.g. Arrowsmith, Cheesewright, but they are probably very rare; they owe their existence to the fact that the corresponding trade has died out or that the corresponding substantive has become extinct and its signification been forgotten, e.g. Billiter (= ME Belleyetere), Jenner (= ME Gynour), etc.


 本来的には個人に属していた by-name が家に属する family name へ発展していくにつれて,硬直化し多様性が失われたということだろう.時代は多様性の中世から画一性の近代へと変化していった,とも議論できそうだ.

 ・ Fransson, G.
Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames''. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.

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2024-05-07 Tue

#5489. 古英語の職業名の種類は中英語と同じくらい多様だったか否か [onomastics][personal_name][name_project][by-name][doublet][me][oe][anglo-saxon][norman_conquest][occupational_term]

 昨日の記事「#5488. 中英語期の職業名(を表わす姓)の種類は驚くほど細分化されていて多様だった」 ([2024-05-06-1]) の内容から,新たな疑問が浮かんでくる.先立つ古英語期には,職業名の種類は中英語期と同じくらい細分化されていて多様だったのだろうか? あるいは,もっと貧弱だったのだろうか.これは言語の話題にとどまらず,文化の問題,アングロサクソン文明のトピックとなる.
 昨日も参照した Fransson (31) は,おそらく古英語期には職業名はもっと貧弱だったろうと推測している.もっと言えば,多くの職業とその名前は,ノルマン征服 (norman_conquest) の影響のもとに,イングランド/英語にもたらされたのだろうと考えている.

Did this specialization exist before the Middle English period? The trade-names that are recorded in the Old English literature have been collected by Klump (Die altengl. Handwerkernamen). It is noteworthy that these are comparatively few in number; they are chiefly general names of trades, usually not specialized. A great number of the names in the present treatise are not represented there. To infer from this that all these did not exist in OE, is of course premature. The case is that we have no documents from that time in which trade-names are common. Much speaks in favour of the opinion, however, that many names of occupation did not come into existence until after the Norman conquest.


 古英語に多くの職業名が文証されないということは,古英語に多くの職業がなかったことを必ずしも意味するわけではない.しかし,Fransson の見立てでは,そのように解釈してよいのではないかということだ.
 中英語期の職業(名)の爆発が,ますますおもしろいテーマに思えてきた.

 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.

Referrer (Inside): [2024-05-08-1]

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2024-05-06 Mon

#5488. 中英語期の職業名(を表わす姓)の種類は驚くほど細分化されていて多様だった [onomastics][personal_name][name_project][by-name][doublet][me][occupational_term]

 中英語の職業名を帯びた姓 (by-name) について調べていると,当時の職業の細分化されている様に驚く.こんなに細かく職業が分かれているのかと圧倒されると同時に,種類の多さに驚嘆せざるを得ないのだ.
 例えば Fransson (30) の研究によると,調査したサンプルのうち「布」産業に関する職業名に対応する姓は,なんと165種類あるという.「染め物屋」関連や「織物」業界も多く,後者と関連して25の姓がみつかるという.「冶金」方面にも108の姓が見出され,「物作り」や「物売り」も予想されるとおり種類が豊富で,関連付けられた姓は107に及ぶという.
 おもしろいことに,次の近代英語の時代には,ここまでの職業名の細分化や多様性は確認されないという.諸々の事情で通時的な比較は必ずしも単純ではないものの,Fransson (31) は "we can say that --- with the exception of modern factories -- specialization of trades was considerably greater in the Middle Ages than in modern times." と結論づけている.
 では,なぜ中英語期には職業(名)がこのように細分化されているのだろうか.Fransson (31) は,次の4点ほどを指摘し,議論している.

 (1) 中世の技術の著しい発展(製品改良の欲求と,そのための競争ゆえ)
 (2) 職業の名前について英語名と対応するフランス語名が併存していることが多く,一見して名前の種類が豊富に見えることが多い
 (3) ある職業名を帯びた人物が,狭い意味でその職業だけに従事していたわけではない,という事情がある.例えば girdler は「ガードル職人」だが,実際にはガードルだけを作っているわけではなく,同時に他の製品も作っていることが多い.つまり,広く金属製品の職人でもあった.
 (4) 上記と関連して,本業とともにマイナーな副業を営んでいた場合,後者の名前を姓として採用するほうが,姓としては識別能力が高いだろう.Blodleter 「瀉血人」(=床屋)や Vershewere 「韻文刻み」(=石切り)などが,そのような例に当たる.

 中英語期に職業名が細分化されていて多様だという事実を受け止めよう.では,古英語期ではどうだったのだろうか.そして,なぜ近代英語期以降には,この細分化や多様性が見られなくなったのだろうか.興味深い問題である.

 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.

Referrer (Inside): [2024-05-08-1] [2024-05-07-1]

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2024-04-26 Fri

#5478. 中英語における職業を表わす by-name とともに現われる定冠詞や前置詞とその脱落 [article][preposition][onomastics][personal_name][name_project][methodology][eme][by-name][latin][french][evidence][translation][me_dialect][sobokunagimon][occupational_term]

 英語の姓には,原則として定冠詞 the の付くものがない.また,前置詞 of を含む名前もほとんどない.この点で,他のいくつかのヨーロッパ諸語とは異なった振る舞いを示す.
 しかし歴史を振り返ると,中英語期には,職業名などの一般名詞に由来する姓は一般名詞として用いられていた頃からの惰性で定冠詞が付く例も皆無ではなかったし,of などの前置詞付きの名前なども普通にあった.中英語期の姓は,しばしばフランス語の姓の慣用に従ったこともあり,それほど特別な振る舞いを示していたわけでもなかったのだ.
 ところが,中英語期の中盤から後半にかけて,地域差もあるようだが,この定冠詞や前置詞が姓から切り落とされるようになってきたという.Fransson (25) の説明を読んでみよう.

   Surnames of occupation and nicknames are usually preceded by the definite article, le (masc.) or la (fem.); the two forms are regularly kept apart in the earlier rolls, but in the 15th century they are often confused. Those names in this book that are preceded by the have all been taken from rolls translated into English, and the has been inserted by the editor instead of le or la. The case is that the hardly ever occurs in the manuscripts; cf the following instances, which show the custom in reality: Rose the regratere 1377 (Langland: Piers Plowman 226). Lucia ye Aukereswoman 1275 1.RH 413 (L. la Aukereswomman ib. 426).
   Sometimes de occurs instead of le; this is due to an error made either by the scribe or the editor. The case is that de has an extensive use in local surnames, e.g. Thom. de Selby. Other prepositions (in, atte, of etc.) are not so common, especially not in early rolls.
   The article, however, is often left out; this is rare in the 12th and 13th centuries, but becomes common in the middle of the 14th century. There is an obvious difference between different parts of England: in the South the article precedes the surname almost regularly during the present period, while in the North it is very often omitted. The final disappearance of le takes place in the latter half of the 14th century; in most counties one rarely finds it after c1375, but in some cases, e.g. in Lancashire, le occurs fairly often as late as c1400. De is often retained some 50 years longer than le: in York it disappears in the early 15th century, in Lancashire it sometimes occurs c1450, while in the South it is regularly dropped at the end of the 14th century.


 歴史的な過程は理解できたが,なぜ定冠詞や前置詞が切り落とされることになったのかには触れられていない.検討すべき素朴な疑問が1つ増えた.名前における前置詞については「#2366. なぜ英語人名の順序は「名+姓」なのか」 ([2015-10-19-1]) で少しく触れたことがある.そちらも参照されたい.

 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.

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2024-04-22 Mon

#5474. 中英語における職業を表わす by-name の取り扱い (3) --- フランス語形の干渉 [onomastics][personal_name][name_project][methodology][eme][by-name][latin][french][evidence][translation][occupational_term]

 昨日の記事「#5473. 中英語における職業を表わす by-name の取り扱い (2) --- ラテン語形の干渉」 ([2024-04-21-1]) に続き,今回は英語の by-name に対するフランス語形からの干渉について.Fransson (24--25) より引用する.

   Besides in English, surnames also occur very frequently in French; I have made a calculation and found that one third of the surnames of occupation treated in this book is of French origin. The reason for this is to be found in the predominating position that the French language had during this period. French was spoken by all educated people, and English by the lower classes. Those who spoke French had, of course, surnames in French, and probably also used the French forms of English names when speaking with each other. It is possible, too, that those people who spoke English were influenced by this and used the French forms of their names, which, of course, were finer. During this period a large number of French names came into the language, and a great many of these have survived to the present day, whereas the corresponding substantives have often died out.
   There is also another reason, however, for the frequent occurrence of French names; the case is that the scribe often translated English names into French, especially in early rolls. These translations, which are most common in assize rolls, are principally due to the fact that the court proceedings were generally held in French. I have found some instances in which both the English and French forms occur of the same person's surname, e.g.: Humfrey le Syur 1270 Ass 144, H. le Sawyere ib. 139 (So). --- Ric. le Charpentir 1327 SR 211, R. le Wryth 1332 SR 96 (St).


 当時のイングランド人の姓が職業名に基づくものであり,かつそれがフランス語に語源をもつ単語だった場合,その取り扱い方は少なくとも3種類ある.

 (1) 英単語として取り入れられておらず,生粋のフランス単語の使用例である
 (2) 英単語として取り入れられているが,ここではフランス単語の使用例である
 (3) 英単語として取り入れられており,ここでは英単語の使用例である

 (1) であると確信をもって述べるためには,当時の英語文献のどこを探しても,英単語として取り込まれている形跡がないことを示す必要がある.しかし,今後の調査によって英単語として取り込まれている形跡が1例でも見つかれば,確信が揺らぐことになろう.
 (2) か (3) のケースでは,英単語として取り入れられていることは確認できたとしても,当該箇所におけるその単語が,フランス語単語として使用されているのか,あるいは英単語として使用されているのかを判別するのは難しい.というのは,その語形はフランス語の語形かフランス語に由来する語形かであり,いずれにせよきわめて似ているからである.
 職業名に限らず,法律・裁判・税金に関する公的な文書のなかに現われるフランス単語らしきものについては,常にこの問題が生じることに注意しておきたい.今目にしている単語は,フランス単語なのか,あるいはフランス語に由来する英単語なのか.あるいは,その両方であるという答えもあるのか.悩ましい問題である.

 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.

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2024-04-21 Sun

#5473. 中英語における職業を表わす by-name の取り扱い (2) --- ラテン語形の干渉 [onomastics][personal_name][name_project][methodology][eme][by-name][latin][french][evidence][translation][occupational_term][occupational_term]

 「#5470. 中英語における職業を表わす by-name の取り扱い」 ([2024-04-18-1]) で,英語の by-name の取り扱いの難しさは,ラテン語やフランス語からの干渉にあることを紹介した.今回はラテン語との関わりについて,Fransson (23--24) を引用して事情を解説したい.

   The medieval rolls were written in Latin, and Christian names and surnames were also, when practicable, often translated into Latin. This was especially the case in the early Middle Ages (12--13th cent.), and surnames in English are therefore rarely met with so early. The surnames that appear in Latin are chiefly those names that are in common use, e.g. Carpentarius, Cissor, Cocus, Faber, Fullo, Marescallus, Medicus, Mercator, Molendinarius, Pelliparius, Pistor, Sutor, Tannator, Textor, Tinetor. The surnames, however, that were rare and difficult to translate, e.g. Wirdragher, Chesewright, Heyberare, Geldehirde, generally occur in English, even in early rolls.
   In the 14th century these translations gradually pass out of use, and the native or French form becomes predominant. Thus, for instance, there is a considerable difference between SR [= Lay Subsidy Rolls] 1275 and SR 1327 (Wo); in the former there are a large number of names in Latin, but in the latter there are hardly any translations at all.
   There surnames in Latin seem to have had some influence on the later development; the case is that some of them still exist as surnames, e.g. Faber, Pistor, Sutor.


 初期中英語の公的名簿などはラテン語で書かれることが多かったために,本来は英語の語形としての姓が,しばしばラテン語に翻訳された形で記載されているという複雑な事情がある.英語としての姓を知りたい私のような研究者にとっては,なぜわざわざラテン語に翻訳してくれてしまっているのか,と実に歯がゆい.うまくラテン語に翻訳できないという場合にのみ,運よく英語名がしみ出てきて表面化している,という次第なのだ.
 それが14世紀以降,後期中英語に入ると,ラテン語へ翻訳するという慣習は影を潜め,背後に隠れていた本来の英語名が浮上してくるのだ.私のような研究者にとっては,ニヤニヤせざるを得ない時代となる.
 しかし,安心するのはまだ早い.ラテン語の干渉という問題は解決していくものの,中英語期にはもっとややこしいフランス語の干渉という別の問題があるのだ.この頭の痛い事情については明日の記事で.

 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.

Referrer (Inside): [2024-04-22-1]

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2024-04-20 Sat

#5472. 中英語期に英語人名へ姓が導入された背景 (3) [onomastics][personal_name][name_project][norman_conquest][sociolinguistics][by-name][german]

 「#5346. 中英語期に英語人名へ姓が導入された背景」 ([2023-12-16-1]) と「#5451. 中英語期に英語人名へ姓が導入された背景 (2)」 ([2024-03-30-1]) に続き,この話題についての第3弾.昨日の記事「#5471. 中英語の職業 by-name 研究の価値」 ([2024-04-19-1]) で引用・参照した Fransson が,"The Rise of Surnames" と題する節でこの問題を取り上げている.古英語から初期中英語にかけて surname (あるいは by-name)の使用が一般化してきた経緯と背景を読んででみよう (20--21) .

   In Old English times people generally had only one name, the Christian name, and there were a great many such names. But already during this period the need of a second name began to be felt, and a number of such names have been delivered to us . . . . How common these by-names were, is impossible to decide, as we have not sufficient material for this. What we especially want are rolls or books containing the names of the lower people. It is possible, therefore, that by-names were in fairly common use at the end of the Old English period. In the Charters, however, people usually appear without any second names throughout the period.
   In Domesday Book there are many instances of second names, but most persons still appear with a Christian name only. In the beginning of the Middle English period the development advances rapidly, and in the documents from this time second names become more and more common; in the 13th century one rarely finds a person mentioned only by his Christian name.
   The reason why the need of second names became stronger after the conquest is that Christian names were completely changed. Most of those that existed in Old English died out, and instead the Christian names of the Normans came into common use, but there were not so numerous. Thus there were only about 25 male names that were common: it is true that others existed, but they rarely occurred. Within the same village, therefore, one very often meets with persons who have the same Christian name. Owing to this an extra name was required to distinguish such persons; the next stage was to give other persons, too, a second name.
   The Normans had second names when they came to England, and these were added to those that already existed, thus accelerating the development.


 先の記事で触れたのとおおよそ同じ点が指摘されている.ノルマン征服後,洗礼名が英語系からノルマン系に置き換わったが,後者の種類が貧弱だったことが大きく影響している.ある村をランダムに取り上げた調査によると,Willelmus (7回),Robertus (5回),Johannes (3回),Ricardus (3回),Radulphus (3回),Adam (3回),Petrus (3回)等の状況である (Fransson 21fn) .
 また,古英語期より姓を付す習慣は思いのほか定着していた可能性が高く,そこへ同じ習慣をもつノルマン文化が入ってきて,その習慣をより強固なものとした,という事情もあったろう.
 ちなみに,姓を付す慣習の発達は,イングランドでは上記の通り初期中英語期のことだったが,ドイツではもっとずっと遅く,地域によっては14世紀まで稀だったというから驚きだ (Fransson 20fn) .改めてノルマン征服の大きな効果を感じさせる.

 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.

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2024-04-19 Fri

#5471. 中英語の職業 by-name 研究の価値 [onomastics][personal_name][name_project][eme][by-name][occupational_term]

 昨日の記事「#5470. 中英語における職業を表わす by-name の取り扱い」 ([2024-04-18-1]) に続く話題.中英語の職業 by-name の分野で影響力のある単著を出した Fransson によると,同分野を研究する意義は多岐にわたる (18--19) .

The value of an investigation such as the present one is manifold. Besides explaining modern surnames, as has already been mentioned, it gives us many new words not previously found and furthermore early and often numerous instances of other common or rare words. By means of these early examples new light is not seldom thrown on the etymology, and the signification may sometimes be altered. In contradistinction to the literature of this period, the time and the place of the occurrence of each instance of a surname are well fixed, and thus the material gives a contribution to Middle English phonology. This material has hitherto not been used by linguists, but it is of the greatest value for the determination of the extension of the different dialects, as the same word can be followed in the different parts of England; there is hardly any other material that can be compared with that of surnames in this respect. --- The distribution is also shown not only of surnames, but also of the various names that a trade may have; the case is that a trade often had different names in different parts of England. Last, but not least, the civilization of this period is elucidated; we are informed what trades existed, how common they were in relation to each other, in what parts of England they flourished, and how specialized they were.


 まとめると次の7点.

 ・ 現代の by-name を説明する
 ・ 新語の発見,あるいはすでに知られている語の早期の文証例の発掘が見込める
 ・ 早期の例を通じて,語源や語義の理解が深まることがある
 ・ 生起例の時期と場所が分かっているので,中英語の音韻論研究に寄与する
 ・ 同一の名前が異なる方言に現われるので,中英語方言研究に資する
 ・ 同一の職業名も異なる地域で異なる呼ばれ方をするので,やはり中英語方言研究に貢献する
 ・ 当時の職業文化が明らかになる

 同分野の研究は,言語学的な観点に限っても,上記のほかに形態論,意味論,語彙論,統語論,言語接触,多言語使用状況などに新たな光を与えてくれると期待される.

 ・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.

Referrer (Inside): [2024-04-20-1]

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2024-04-18 Thu

#5470. 中英語における職業を表わす by-name の取り扱い [onomastics][personal_name][name_project][methodology][eme][by-name][latin][french][med][evidence][loan_word][occupational_term]

 「#5452. 英語人名史における by-namefamily name の違い」 ([2024-03-31-1]) などで取り上げてきた,英語人名を構成する by-name の歴史研究について.初期中英語期に by-name を付ける慣習が徐々に発達していたとき,典型的な名付けのパターンの1つが職業名 (occupational terms) を利用するものだった.この方面の研究は,尽くされてはいないものの,それなりに知見の蓄積がある.Clark (294--95) は,カンタベリーにおける by-name を調査した論文のなかで,文証された by-name の解釈にまつわる難題に触れている.証拠をそのまま信じることは必ずしもできない理由が多々あるという.

The simplest of these Canterbury surnames offer supplementary records, mainly antedatings, of straightforward occupational terms. Yet all is not wholly straightforward. To begin with, we cannot be sure whether the occupational terms used in administrative documents were in fact all current as surnames, that is, in daily use among neighbours, or whether some were supplied by the scribes as formal specifiers, just as occupations and addresses are in legal documents of the present day. Nor can we be sure in what form neighbours would have used such terms as they did. With those examples that are latinized --- a proportion varying in the present material from three-quarters to nine-tenths --- scribal intervention is patent, although sometimes reconstruction of the vernacular base seems easy (such forms, and other speculative cases, are cited in square brackets). With those given in a French form matters are more complex. On the one hand, scribes had a general bias away from English and towards French, as though the latter were, as has been said, 'a sort of ignoble substitute for Latin'; therefore, use of a French occupational term guarantees neither its currency in the English speech of the time nor, alternatively, any currency of French outside the scriptorium: in so far as such terms appear neither in literary sources nor as modern surnames MED is justified in excluding them. On the other hand, many 'French' terms were adopted into English very early; use of these would by no means imply currency of French as such, either in the community at large or in the scriptorium itself.


 証拠解釈が難題である背景は多様だが,とりわけラテン語やフランス語が関わってくる状況が厄介である.この時代の税金名簿などに記されている人名はラテン語化されているものが多く,英語名はその陰に隠されてしまっている.また,フランス語で書かれていることも多く,問題の職業名そのものがフランス語由来の場合,それがすでに英語に同化している単語なのか,それともフランス単語のままなのかの判断も難しい.
 職業を表わす by-name は,そもそも文献学的に扱いにくい素材なのである.そして,これは職業を表わす by-name に限らず,中英語の固有名全般に関わる厄介な事情でもある.

 ・ Clark, Cecily. "Some Early Canterbury Surnames." English Studies 57.4 (1976): 204--309.

Referrer (Inside): [2024-04-21-1] [2024-04-19-1]

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2024-03-31 Sun

#5452. 英語人名史における by-namefamily name の違い [onomastics][personal_name][name_project][terminology][by-name]

 昨日の記事「#5451. 中英語期に英語人名へ姓が導入された背景 (2)」 ([2024-03-30-1]) その他の記事で説明抜きに使ってきた英語人名史上の by-name という用語について,一言述べておきたい.
 現代英語人名の first name, middle name, family name (あるいは last name, surname などとも)の区別はよく知られている.日本語母語話者にとって middle name (中間名)は比較的馴染みが薄いが,family name は「姓」(上の名前),first name は「名」(下の名前)として,対応物があるので理解しやすい.
 一方,英語人名史の文脈において,特に古英語期や中英語期における人名を論じる文脈において使われる by-name は,文字通りには「準ずる名前;2次的な名前」ほどの意味であり,first name だけでは識別力が弱い場合に付け加える補足的な名前をさす.ある意味では by-name は,現代の family name に対応する機能をもっているとはいえる.しかし,歴史的な観点からは,by-namefamily name は一応のところ区別しておいたほうがよい.
 この用語の問題について,Clark (567) に耳を傾けよう.

Although this generalised by-naming was what underlay the development of family naming, the two types of system must not be confused; for a by-name works differently from a family name. A by-name is literally descriptive (and therefore often translatable) and, in actual usage, applies only to one specific individual (to say which is not in the least, however, to deny the existence of conventional stocks of such descriptive phrases). It is, therefore, unstable and thus interchangeable with other formulations, as context or even whim might dictate, so that one and the same man might be specified in documents either as 'John son of William' or as 'John the tanner', probably according to whether his inheritance or his trade was in question, and might also perhaps have been known among his cronies as 'John with the beard' . . . . Such literal and shifting descriptions were no more than embryonically onomastic; and some of the more elaborate thirteenth-century formulas, such as Robertus filius Simonis ad crucem de Wytherington, were hardly even that. Yet, by showing how identity was being defined, even these artificial formulas contribute to onomastic history; and they may be supposed to have reflected, albeit distantly, everyday naming practices.


 人の名前という最も身近な言語表現にすら,徐々に形成されてきた歴史があることを銘記しておきたい.

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 2. Ed. Olga Fischer. Cambridge: CUP, 1992. 542--606.

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2024-03-30 Sat

#5451. 中英語期に英語人名へ姓が導入された背景 (2) [onomastics][personal_name][name_project][norman_conquest][prestige][sociolinguistics][by-name]

 標題に関する以前の記事「#5346. 中英語期に英語人名へ姓が導入された背景」 ([2023-12-16-1]) と重なる部分も多いが,Clark (566--67) に初期近代英語期に "by-name" 「姓」が導入されることになった理由がいくつか述べられている

The most salient contrast between the English personal-name patterns of ca 1100 and those of ca 1300 involves the universalisation of by-naming; for, whereas in tenth- and eleventh-century records by-names scarcely appeared except when needed for distinguishing between individuals of like idionym, late-thirteenth-century documentary practices seldom allowed any baptismal name to stand unqualified. As observed, several convergent causes were at work here: need to compensate for over-reliance on just a few of the baptismal names available, and that at a time when communities were expanding; growth of bureaucracy, and a consequent drive towards onomastic precision; and imitation of the new aristocracy's customs. The precise aetiology of the process is probably undiscoverable, in so far as virtually the only twelfth- and thirteenth-century usages accessible are administrative ones, from which the underlying colloquial ones have to be inferred . . . .


 列挙すると次のようになるだろう.

 ・ 洗礼名の選択肢が少数に限られており,それを by-name で補う必要があったこと
 ・ 共同体が拡大している時期(すなわち多数の人々を名前で区別する必要が高まった時期)だったこと
 ・ お役所的手続きが増し,名前の正確さが求められるようになったこと
 ・ 新しい貴族の習慣が模倣の対象となったこと

 言語的(主に語彙的)要因および社会的要因が複合的に作用して,by-name の慣習が確立していったということである.

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 2. Ed. Olga Fischer. Cambridge: CUP, 1992. 542--606.

Referrer (Inside): [2024-04-20-1] [2024-03-31-1]

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2024-01-31 Wed

#5392. 中英語の姓と職業名 [name_project][me][onomastics][personal_name][occupational_term][etymology][oe][morphology][lexicology][word_formation][agentive_suffix][by-name]

 「名前プロジェクト」 (name_project) との関連で,中英語期の人名 (personal_name),とりわけ現代の姓 (last name) に相当する "by-name" あるいは "family name" に関心を抱いている.古英語や中英語にみられる by-name の起源は,Clark (567) によれば4種類ある(ただし,古中英語に限らず,おおよそ普遍的な分類だと想像される).

 (a) familial ones, viz. those defining an individual by parentage, marriage or other tie of kinship
 (b) honorific and occupational ones (categories that in practice overlap)
 (c) locative ones, viz. those referring to present or former domicile
 (d) characteristic ones, often called 'nicknames'

 このうち (b) は名誉職名・職業名ととらえられるが,中英語におけるこれらの普通名詞としての使用,そして by-name として転用された事例に注目している.中英語の職業名は多々あるが,Clark (570--71) を参照しつつ,語源的・形態論的に分類すると以下のようになるだろうか.

 1. フランス語(あるいはラテン語?)からの借用語 (French loanword)
   barber, butcher, carpenter, cordwainer/cordiner, draper, farrier, mason, mercer, tailor; fourbisseur, pestour
 2. 本来語 (native word)
   A. 単一語 (simplex)
     cok, herde, smith, webbe, wrighte
   B. 複素語 (complex),すなわち派生語や複合語
     a. 動詞ベース
       bruere/breuster, heuere, hoppere/hoppestre; bokebynder, bowestrengere, cappmaker, lanternemaker, lymbrenner, medmowere, rentgaderer, sylkthrowster, waterladestre
     b. 名詞ベース
       bureller, glovere, glasier, madrer, nailere, ropere, skinnere; burelman, candelwif, horseknave, maderman, plougrom, sylkewymman; couherde, swynherde, madermongere, stocfisshmongere, ripreve, bulleward, wodeward, wheelewrighte

 古中英語の人名をめぐる話題については,以下の hellog 記事でも取り上げてきたので要参照.

 ・ 「#590. last name はいつから義務的になったか」 ([2010-12-08-1])
 ・ 「#2365. ノルマン征服後の英語人名の姓の採用」 ([2015-10-18-1])
 ・ 「#5231. 古英語の人名には家系を表わす姓 (family name) はなかったけれど」 ([2023-08-23-1])
 ・ 「#5297. 古英語人名学の用語体系」 ([2023-10-28-1])
 ・ 「#5338. 中英語期に人名にもたらされた2つの新機軸とその時期」 ([2023-12-08-1])
 ・ 「#5346. 中英語期に英語人名へ姓が導入された背景」 ([2023-12-16-1])
 ・ 「#5299. 中英語人名学の用語体系」 ([2023-10-30-1])

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 2. Ed. Olga Fischer. Cambridge: CUP, 1992. 542--606.

Referrer (Inside): [2024-03-09-1]

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2023-12-16 Sat

#5346. 中英語期に英語人名へ姓が導入された背景 [onomastics][personal_name][name_project][norman_conquest][prestige][sociolinguistics][by-name]

 標記の話題については,いくつかの hellog 記事で取り上げてきた.

 ・ 「#590. last name はいつから義務的になったか」 ([2010-12-08-1])
 ・ 「#2365. ノルマン征服後の英語人名の姓の採用」 ([2015-10-18-1])
 ・ 「#5231. 古英語の人名には家系を表わす姓 (family name) はなかったけれど」 ([2023-08-23-1])
 ・ 「#5338. 中英語期に人名にもたらされた2つの新機軸とその時期」 ([2023-12-08-1])

 ノルマン征服後,英語人名に姓に相当する要素 (last name, family name, surname, by-name) が導入された背景として,一般的には2点が指摘されている.1つは first name の種類が限定された結果,それだけでは個人を特定できなくなったこと.もう1つは,課税や法的書類記載に関わる政治的・官僚的な要因である.
 もう1つ付け加えるならば,ノルマン征服以前も大陸では(そして部分的にはイングランドでも)すでに姓を用いる習慣があるにはあったという事実を指摘しておくことは重要である.上記を含めこの辺りの事情について,Clark (553) が簡潔に説明してくれている.

Patently, such baptismal-name patterns were scarcely adequate for social identification, far less for administrative and legal purposes. By-naming --- that is, supplementation of baptismal names by phrases specifying their bearers in genealogical, residential, occupational or characteristic terms --- became, in England as elsewhere, a general necessity. Such specifying phrases had been in occasional use among English people since well before the Conquest . . . , and all signs are that shrinkage of the name-stock would in any case have soon compelled their general adoption. The Norman Conquest may well, however, have acted as a catalyst to the process, in so far as it brought in a new aristocracy among whom, as is clear not only from Domesday Book but also from the early records surviving from the settlers' homelands in Normandy, France and Flanders, use of by-names, and of territorial ones especially, was already widespread, with even more tentative movements towards family naming . . . . The prestige thus accruing to use of a by-name would hardly have hindered wider adoption of them among the general native population.


 引用の最後にある通り,貴族が採用したことにより姓に威信 (prestige) が付与され,それが庶民の姓の採用を促すことになった,という社会言語学的要因も,もう1つの背景として押さえておきたいところである.

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 2. Ed. Olga Fischer. Cambridge: CUP, 1992. 542--606.

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2023-12-08 Fri

#5338. 中英語期に人名にもたらされた2つの新機軸とその時期 [name_project][me][oe][onomastics][personal_name][by-name]

 「#5299. 中英語人名学の用語体系」 ([2023-10-30-1]) で,Clark に拠って,古英語から中英語にかけて人名のあり方が大きく変わったことを確認した(cf. 「#5297. 古英語人名学の用語体系」 ([2023-10-28-1])).(1) かつての "idionym" が "baptismal name" へと変容していったこと,そして (2) オプションだった "by-name" が徐々に現代的な "family name" へと発展していったことの2点が重要である.
 中英語人名の新機軸ともいえるこの2点が中英語期のどのぐらいのタイミングで定着・確立したのかを明確に述べることはできない.あくまで徐々に発展した特徴だからだ.しかし,Clark (552) は,1点目は1250年頃,2点目は1450年頃とみている.

This twofold shift in English personal naming was a specifically Middle English process. Among the mass of the population, the name system of ca 1100 was still virtually the classic Late Old English one, modified only by somewhat freer use of ad hoc by-names . . .; but ca 1450 a structure prefiguring the present-day one had been established, with hereditary family names in widespread use, though not yet universally adopted. As for the ousting of pre-Conquest baptismal names by what were virtually the present-day ones, that had been accomplished by ca 1250. This series of changes involved several convergent processes.


 大雑把にいえば,1点目の新機軸は初期中英語期 (1100--1300) の間に固まっていき,2点目の新機軸は主に後期中英語期 (1300--1500) に発展していったと言えそうだ.アングロサクソン的な名付けから現代的な名付けへの変化の中心となる時代は,ほぼきれいに中英語期 (1100--1500) といっておいてよいことになる.

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 2. Ed. Olga Fischer. Cambridge: CUP, 1992. 542--606.

Referrer (Inside): [2024-01-31-1] [2023-12-16-1]

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2023-10-30 Mon

#5299. 中英語人名学の用語体系 [name_project][me][onomastics][personal_name][terminology][by-name]

 「#5297. 古英語人名学の用語体系」 ([2023-10-28-1]) の中英語版をお届けする.中英語になると,人名のあり方がガクンと変わり,それに伴って人名学の用語使いも変わる.Clark (551--52) より,関連する箇所を引用する.

Neither the structure nor the content of the Present-Day English personal-name system owes much to pre-Conquest styles. The typical Old English personal designation consisted of a single distinctive name (or 'idionym'), such as Dudda, Godgifu or Wulfstan; and only occasionally was this supplemented by a qualifying by-name (usually postposed), such as sēo dæge 'the dairymaid' or sē hwīta 'the white(-haired man)' . . . . A Present-Day English 'full name', on the other hand, necessarily involves two components; the second denoting a patrilinear family group and the first (which may consist of one unit or or several), an individual within that group. In Present-Day English usage, moreover, the familial, hereditary component is the crucial one for close identification, whereas in Old English usage, as in early Germanic ones generally, the idionym was central, any addition being optional. Beside this total change of structure, it is trivial that, out of the hundreds of Old English idionyms, only a handful, and those mainly ones which, like Edith, Edmund and Edward, were associated with widely venerated saints, are today represented among Present-Day English first-names.
   The change of system demands a change of terminology. The special term 'idionym', no longer appropriate, will be replaced by 'baptismal name' ('Christian name' is needed for a more specific sense, neither 'forename' nor 'first name' is appropriate until family naming is well established, and 'font name' is unidiomatic). For an optional identifying component, the term 'by-name' will be retained. Only when continuity between generations is demonstrable will the term 'family name' be used ('surname' is rejected as insufficiently precise).


 古英語と異なり,中英語では2つの種類を組み合わせた人名が一般的になってくる.つまり,現代的な「名+姓」という構成が一般的となってくるわけだ.この点で,古英語からの idionym という概念・用語は廃れていくことになる.むしろ,キリスト教社会における名前として baptismal name という概念・用語がふさわしくなってくる.この baptismal name に加える形で,それを限定するために by-name が加えられるようになった,と考えられる.この by-name は実際上家族・家系を表わす役割を果たすことが多い.こうして中英語に,現代に続く人名システムが定まったのである.

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 2. Ed. Olga Fischer. Cambridge: CUP, 1992. 542--606.

Referrer (Inside): [2024-01-31-1] [2023-12-08-1]

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2023-10-28 Sat

#5297. 古英語人名学の用語体系 [name_project][oe][onomastics][personal_name][terminology][by-name]

 「名前プロジェクト」 (name_project) との関連で,英語史の各時代を対象にした名前学 (name-study, or onomastics) を学んでいる.目下,人名 (personal_name) に関心を寄せているが,時代によって人名のあり方も変わるので,それに応じて用語も異なってくる.今回は Clark (456) を参照して,古英語の人名学において使われる用語体系を確認しておきたい.

Early Germanic custom required that each individual should have single, distinctive name . . . . The system was therefore geared to constant provision of fresh forms. For students of it, the first problem is one of terminology: in this context, 'forename' and 'first-name' become meaningless, 'baptismal name' and the artificial 'font-name' are both inapplicable to pagan tradition, and 'Christian name', as well as also being inapplicable, will later be needed for a different sense. The term 'personal name' favoured for this purpose by some scholars is over-general, because 'by-names' and family-names are no less 'personal'. For convenience, the terminology adopted here will be knowingly inconsistent: simply to distinguish anthroponym from toponym, 'personal name' will be used, but where greater precision is needed the technical term 'idionym' will be brought in. A supplementary name of whatsoever kind --- genealogical, honorific, occupational, locative or characteristics --- collocated with an idionym will be called a 'by-name' . . . . The term 'nickname' will denote any characterising terms whether used as by-name or as idionym . . . .


 アングロサクソン人の名前は典型的に「個名」というべき idionym のみからなる.現代の英語名や日本語名のように,姓+名の2種類からなるものではない.したがって,first-namelast-name のような用語は馴染まない.また,キリスト教以前の伝統を汲む名前を主に扱うので baptismal name などの呼称も適さない.
 古英語の人名は典型的に idionym の1種類からなるとはいえ,もう1つの名前要素が任意で付される場合もある.これを指し示すのに by-name という用語が導入される.by-name には,その人物の家系,職業,居住地,性格・特徴を示すものなど様々な種類がある.
 まとめれば,古英語人名のフォーマットは「idionym (+ by-name)」ということになる.

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 452--89.

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2023-08-23 Wed

#5231. 古英語の人名には家系を表わす姓 (family name) はなかったけれど [oe][anglo-saxon][onomastics][name_project][personal_name][alliteration][patronymy][by-name]

 古英語の人名には,現代の family name や last name に相当する「姓」はない.「#590. last name はいつから義務的になったか」 ([2010-12-08-1]) で触れたように,姓が現われるようになるのはノルマン征服後のことである.
 しかし,家系や所属を標示する発想がまるでなかったわけではない.特に王家の系統については,男性の名前を同じ子音で始める頭韻 (alliteration) の傾向が見られるという.いわば音象徴 (sound_symbolism) で家系を示唆してしまおうという,なんとも雅びで奥ゆかしい伝統ではないか.
 Clark (458) が次のように説明し,例を挙げている.

Despite the lack of 'family-names' in the modern sense, kinship-marking was a main motive behind old Germanic naming . . . . Thus, royal genealogies, whose partly mythical character makes them likely to show idealised forms, regularly exhibit runs of alliteration, as in the West Saxon sequence: Cerdic, Cynric, Ceawlin, Cuða, Ceada, Benbeorht, Ceadwalla . . . .


 ほかに,男性名について,規則的ではないものの,父や兄弟の名前に含まれる要素を共有する傾向がみられるという (cf. 父称 (patronymy)) .
 女性名については,いかんせん記録が少なく,一般的な傾向は指摘しにくいようである.例えば Bede に挙げられている名前一覧でいえば,古英語女性人名は全体の1/7以下にとどまるという.

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 452--89.

Referrer (Inside): [2024-01-31-1] [2023-12-16-1]

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