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morphology - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-05-20 08:12

2019-02-13 Wed

#3579. 現代英語の基本的特徴の1つとしての「機能の柔軟さ」 [pde_characteristic][conversion][morphology][inflection]

 Encyclopaedia Britannica の "English language" の記事の冒頭に,現代英語の基本的特徴が3つ挙げられている.屈折の単純さ (simplicity of inflection) ,機能の柔軟さ (flexibility of function) ,語彙の開放性 (openness of vocabulary) である.屈折の単純さと語彙の開放性については「#151. 現代英語の5特徴」 ([2009-09-25-1]) をはじめ pde_characteristic の記事などで取り上げてきたが,機能の柔軟さを現代英語の基本的特徴の1つに数え上げる見解は比較的珍しいのではないかと思う.以下,Britannica より引用する.

Flexibility of function has grown over the last five centuries as a consequence of the loss of inflections. Words formerly distinguished as nouns or verbs by differences in their forms are now often used as both nouns and verbs. One can speak, for example, of "planning a table" or "tabling a plan," "booking a place" or "placing a book," "lifting a thumb" or "thumbing a lift." In the other Indo-European languages, apart from rare exceptions in Scandinavian, nouns and verbs are never identical because of the necessity of separate noun and verb endings. In English, forms for traditional pronouns, adjectives, and adverbs can also function as nouns; adjectives and adverbs as verbs; and nouns, pronouns, and adverbs as adjectives. One speaks in English of the Frankfurt Book Fair, but in German one must add the suffix -er to the place-name and put attributive and noun together as a compound, Frankfurter Buchmesse. In French one has no choice but to construct a phrase involving the use of two prepositions: Foire du Livre de Francfort. In English it is now possible to employ a plural noun as adjunct (modifier), as in "wages board" and "sports editor"; or even a conjunctional group, as in "prices and incomes policy" and "parks and gardens committee."

 ここで話題になっている「機能の柔軟さ」とは,言語学用語を使えば,要するに品詞転換 (conversion) あるいはゼロ派生 (zero derivation) のことである.形態をいじらずに機能・意味を自由に変えられてしまうという性質は,確かに英語のきわだった特徴といってよい.英語のこの融通無碍な性質は,屈折の衰退に起因する「語根主義」とも深く関係し,英語の諸部門に深く染み込んだ特質となっている(cf. 「#655. 屈折の衰退=語根の焦点化」 ([2011-02-11-1])).
 関連して,「#190. 品詞転換」 ([2009-11-03-1]) を筆頭に conversion の記事を参照されたい.

 ・ Encyclopaedia Britannica. Encyclopaedia Britannica 2008 Ultimate Reference Suite. Chicago: Encyclopaedia Britannica, 2008.

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2019-02-11 Mon

#3577. 黒人英語 (= AAVE) の言語的特徴 --- 文法 [aave][variation][variety][morphology][syntax][negative][be][auxiliary_verb][tense][aspect][inversion]

 昨日の記事「#3576. 黒人英語 (= AAVE) の言語的特徴 --- 発音」 ([2019-02-10-1]) に引き続き,McArthur に依拠して AAVE の言語的特徴について.今回は文法に注目する.

 (1) 他の英語変種にもみられるが,多重否定は普通に用いられる.No way no girl can't wear no platform shoes to no amusement park.

 (2) 存在構文に there ではなく it を用いる.It ain't no food here.

 (3) 複数形,所有格形,3単現の -s,過去の -ed などが省略されることがある.He got three cent. / That's my brother book. / She like new clothes. / They talk all night.

 (4) 疑問文で倒置がなされないことがある.What it is? / How you are?

 (5) be 動詞の否定で do が用いられることがある.It don't all be her fault.

 (6) be の習慣相の用法.They be fightin. / He be laughing.

 (7) 強勢のある been により遠い過去の習慣的な行為を表わす.I béen see dat movie. / She béen had dat hat.

 (8) 時に小辞 a により意志を表わす.I'm a shoot you. (= I'm going to shoot you.)

 (9) steady が,進行形の前位置や,文末の位置において強勢を伴って相的な意味を表わす.We be steady rappin. / We steady be rappin. / We be rappin stéady. (= We are always talking.) / They steady be high. / They be stady high. / They be high stéady.. (= They are always intoxicated.)

 (10) Come が時に準助動詞として用いられる.He come tellin me some story. (= He told me a lie.) / They come comin in here like they own de place. (= They came in here like they owned the place.)

 (11) like を「ほとんど」の意味で副詞的に用いる.I like to die(d). (= I almost died.) / He like to hit his head on that branch. (= He almost hit his head on that branch.)

 確かにこのような英語で話しかけられれば,わかるはずの文も聞き取れないだろうと思われる.しかし,異なる言語というほどの距離感ではないのも事実である.AAVE の位置づけの論争も熱を帯びるわけだ.

 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.

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2018-11-14 Wed

#3488. 膠着と滲出 [terminology][morphology][morpheme][suffix][metanalysis][neologism][word_formation]

 通時的現象としての標題の術語群について理解を深めたい.いずれも,拘束形態素 (bound morpheme) と自由形態素 (free morpheme) の間の行き来に関する用語・概念である.輿石 (111--12) より引用する.

 膠着 [通時現象として] (agglutination) とは,独立した語が弱化し独立性を失って他の要素に付加する接辞になる過程を指す.たとえば,英語の friendly の接尾辞 -ly の起源は独立した名詞の līc 「体,死体」であった.
 一方,この逆の過程が Jespersen (1922: 284) の滲出(しんしゅつ)(secretion) であり,元来形態論的に分析されない単位が異分析 (metanalysis) の結果,形態論的な地位を得て,接辞のような要素が創造されていく.英語では,「〜製のハンバーガー」を意味する -burger,「醜聞」を意味する -gate などの要素がこの過程で生まれ,それぞれ cheeseburger, baconburger 等や Koreagate, Irangate 等の新語が形成されている.

 注意したいのは,「膠着」という用語は共時形態論において,とりわけ言語類型論の分類において,別の概念を表わすことだ(「#522. 形態論による言語類型」 ([2010-10-01-1]) を参照).今回取り上げるのは,通時的な現象(言語変化)に関して用いられる「膠着」である.例として挙げられている līc → -ly は,語として独立していた自由形態素が,拘束形態素化して接尾辞となったケースである.
 「滲出」も「膠着」と同じ拘束形態素化の1種だが,ソースが自由形態素ではなく,もともといかなる有意味な単位でもなかったものである点に特徴がある.例に挙げられている burger は,もともと Hamburg + er である hamburger から異分析 (metanalysis) の結果「誤って」切り出されたものだが,それが拘束形態素として定着してしまった例である.もっとも,burger は hamburger の短縮形としても用いられるので,拘束形態素からさらに進んで自由形態素化した例としても挙げることができる (cf. hamburger) .
 形態素に関係する共時的術語群については「#700. 語,形態素,接辞,語根,語幹,複合語,基体」 ([2011-03-28-1]) も参照されたい.また,上で膠着の例として触れた接尾辞 -ly については「#40. 接尾辞 -ly は副詞語尾か?」 ([2009-06-07-1]),「#1032. -e の衰退と -ly の発達」,「#1036. 「姿形」と -ly」 ([2012-02-27-1]) も参考までに.滲出の他の例としては,「#97. 借用接尾辞「チック」」 ([2009-08-02-1]),「#98. 「リック」や「ニック」ではなく「チック」で切り出した理由」 ([2009-08-03-1]),「#105. 日本語に入った「チック」語」 ([2009-08-10-1]),「#538. monokinitrikini」 ([2010-10-17-1]) などを参照.

 ・ 輿石 哲哉 「第6章 形態変化・語彙の変遷」服部 義弘・児馬 修(編)『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.106--30頁.
 ・ Jespersen, Otto. Language: Its Nature, Development, and Origin. 1922. London: Routledge, 2007.

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2018-07-10 Tue

#3361. 「名前動後」の出現は英語形態論史における小さな逆流 [diatone][typology][morphology][conversion][stress]

 récord (名詞)と recórd (動詞)のように,名詞と動詞を掛けもつ2音節語において強勢位置が「名前動後」となる現象 (diatone) について「#803. 名前動後の通時的拡大」 ([2011-07-09-1]),「#804. 名前動後の単語一覧」 ([2011-07-10-1]) などで取り上げてきた.「名前動後」を示す単語は16世紀後半から現代にかけて徐々に増えてきたが,この問題を,連日取り上げてきた英語形態論の類型的なシフトという観点から眺めてみるとおもしろい (cf. [2018-07-07-1], [2018-07-08-1], [2018-07-09-1]) .英語形態論は概略としては古英語から現代英語にかけて stem-based morphology → word-based morphology とシフトしてきたと解釈できるが,「名前動後」はこの全般的な潮流に対する小さな逆流とみることもできるからだ.
 record の例で考えていくと,中英語では名詞は recórd,動詞は recórd(en) であり,強勢位置は第2音節で一致していた.動詞の語尾 -en は消失しかかっていたが,その有無にかかわらず名詞・動詞ともに recórd という共通にして不変の語幹をもっていたので,両語の関係は事実上の品詞転換 (conversion) という形態過程により生じたものと考えることができる.ここで作用している形態論は,word-based morphology といってよいだろう.
 ところが,16世紀後半以降に名詞において強勢移動が生じたために,それまで共有されていた1つの語幹が,名詞語幹 récord と動詞語幹 recórd の2つに分かれることになった(現代の音形はそれぞれ /ˈrɛkəd/, /rɪˈkɔːd/).いまや可変の語幹に基づく stem-based morphology が機能していることになる.
 英語形態論の歴史は,全般的な潮流としては stem-based morphology → word-based morphology と解釈できるが,歴史の各段階で生じてきた個々の変化の結果として,部分的に word-based morphology → stem-based morphology の逆流を示すものもありうるということだろう.「古英語は stem-based morphology の時代,現代英語は word-based morphology の時代」のようにカテゴリカルに分類するのではなく,混在の程度の問題としてとらえるのが妥当である.

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2018-07-09 Mon

#3360. 印欧祖語は語根ベース,ゲルマン祖語は語幹ベース,古英語以降は語ベース (3) [gradation][i-mutation][indo-european][oe][morphology][vowel][word_formation]

 2日間の記事 ([2018-07-07-1], [2018-07-08-1]) に引き続き,root-based morphology (印欧祖語)→ stem-based morphology (ゲルマン祖語)→ word-based morphology (古英語以降)という英語形態論の大きな潮流について.
 古英語はこの類型的シフトにおいて stem-based morphology から word-based morphology へと移り変わろうとする最初期段階といえるが,いまなお stem-based morphology は濃厚に残っていた.Lass (191) は古英語の語形成法の種類が豊富なことについて,Kastovsky を引用しつつ次のように述べている.

One of the most striking features of the OE lexicon is the extensive involvement in WF, not only of transparent affixation, compounding, and conversion, but of other devices of varying ages: ancient ones like ablaut, and newer ones like i-umlaut. This results in what Kastovsky (1992: 294) calls 'large morphologically related word-families'; considerable portions of the lexicon 'cohere' in a rather special way, characteristic of older IE and to some extent more archaic modern languages like German, but quite alien to Modern English.

 1例として,印欧祖語の語根 *bhVr- "carry, bear" が,古英語の単語にどのように反映されているかを考えてみよう (Lass 191--92) .この印欧語根には ablaut シリーズとして,*bher- (e-grade), *bhor- (o-grade), *bhe:r- (lengthened e-grade), *bhr̥- (zero-grade) の4つの音形があった.
 まず,e-grade の *bher- に関しては,*bher- > *βer- > ber- と経て,古英語の ber-an (不定詞), ber-ende (現在分詞), ber-end "bearer",ber-end-nes "fertility" に至っている.
 次に,o-grade の *bhor- については,*bhor > *βαr- > bær- を経て古英語の bær (第1過去)に終着したほか,さらに bær- から割れ (breaking) の過程を経て bear-we "barrow, basket", bear-m "lap, bosom" に至ったものもある.
 続けて lengthened e-grade の *bhe:r- については,*bhe:r- > *βe:r- > bǣr を経て古英語 bǣr-on (第2過去), bǣr "bier", bǣr-e "manner, behaviour" などが帰結した.
 最後に zero-grade の *bhr̥- からは,*βur- へと変化した後,a-umlaut により bor- と *bur- が出力されたが,前者からは古英語 bor-en (過去分詞), bor-a "carrier" が,後者からはさらに i-umlaut を経て古英語 byrðenn "burden", byr-ele "cup-bearer" などgが生み出された.
 古英語では /bVr-/ という抽象的な語幹 (root) から具現化した数種類の母音を示す複数の語幹 (stems) が基準となり,共時的な屈折形態論と派生形態論が展開しているとみることができ,これを指して "stem-based morphology" あるいは "variable-stem morphology" と呼ぶことができるだろう (Lass 192) .
 ただし,古英語期にも,新たな時代の到来,すなわち word-based morphology あるいは invariable-stem morphology の到来を予感させる要素が,すでに部分的に現われ出していたことにも注意しておきたい.

 ・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.
 ・ Kastovsky, Dieter. "Semantics and Vocabulary." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 290--408.

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2018-07-08 Sun

#3359. 印欧祖語は語根ベース,ゲルマン祖語は語幹ベース,古英語以降は語ベース (2) [synthesis_to_analysis][indo-european][germanic][oe][morphology][typology]

 昨日の記事 ([2018-07-07-1]) に引き続いての話題.Kastovsky の提案する類型論の見方によれば,英語形態論の歴史は概略的に root-based morphology (印欧祖語)→ stem-based morphology (ゲルマン祖語)→ word-based morphology (古英語以降)ととらえることができる.
 ただし,古英語期など過渡期においては新旧のタイプが共存しているために,いずれか1つの類型にきっちりはめられるというわけではなく,あくまでグラデーションとしてとらえるべき問題だろう.現代英語ですら強変化動詞の語幹交替は stem-based morphology を示すし,借用語に典型的な sane : sanity, serene : serenity, Japán : Jàpanése などの語幹交替も同様である (cf. 「#3341. ラテン・フランス借用語は英語の強勢パターンを印欧祖語風へ逆戻りさせた」 ([2018-06-20-1])) .
 Kastovsky (129) より,この類型的シフトの潮流に関する濃密な要約文を引用しよう.

Modern English morphology is the result of a long-range typological restructuring, triggered by phonological changes in connection with the emergence of the Germanic language family, leading to an erosion of unstressed final syllables. As a result, the originally root-based morphology became stem-based and finally word-based. Also morphology was originally characterized by pervasive phonologically conditioned morphophonemic alternations, which gradually became morphologically conditioned, because of phonological changes. This was replaced by a simplified system with base invariancy and phonologically conditioned alternations of inflectional endings as a default case characterizing the regular inflection of nouns, verbs and adjectives. The irregular patterns continue properties of the original system and can be interpreted as stem-based with morphologically conditioned alternations of the base form. This is also true of many non-native word-formation patterns, which have been borrowed from stem-based languages such as French, Latin or Greek and have re-introduced base alternation into English derivational morphology.


 ・ Kastovsky, Dieter. "Linguistic Levels: Morphology." Chapter 9 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 129--47.

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2018-07-07 Sat

#3358. 印欧祖語は語根ベース,ゲルマン祖語は語幹ベース,古英語以降は語ベース (1) [synthesis_to_analysis][indo-european][germanic][oe][morphology][typology]

 「#3340. ゲルマン語における動詞の強弱変化と語頭アクセントの相互関係」 ([2018-06-19-1]) と「#3341. ラテン・フランス借用語は英語の強勢パターンを印欧祖語風へ逆戻りさせた」 ([2018-06-20-1]) で引用・参照した Kastovsky の論考では,印欧祖語からゲルマン祖語を経て現代英語に至るまでの(拡大版)英語史において,形態論 (morphology) の類型的な変化が生じてきたことが主張されている.通常,統語形態論における類型的な変化といえば「総合から分析へ」 (synthesis_to_analysis) のシフトが思い浮かぶが,それとは関連しつつも独立した潮流として root-based morphology → stem-based morphology → word-based morphology という類型的な変化が見られるという.それぞれについて Kastovsky (131) の説明を引こう.

a) word-based morphology: The base form can function as a word (free from) in an utterance without the addition of additional morphological (inflectional or derivational) material, e.g. ModE cat(-s), cheat(-ed), beat(-ing), sleep(-er).
b) stem-based morphology: The base form does not occur as an independent word, but requires additional inflectional and/or derivational morphological material in order to function as a word. It is a bound form (= stem), cf. OE luf- (-ian, -ast, -od-e, etc.), luf-estr-(-e) 'female lover', Grmc. *dag-(-az) 'day, NOM SG', ModE scient-(-ist) vs. science, dramat-(-ic) vs. drama, ast-ro-naut, tele-pathy; thus luf-, luf-estr-, *dag-, dramat-, ast-, -naut, tele-, -pathy are stems.
c) root-based morphology: Here the input to morphological processes is even more abstract and requires additional morphological material to become a stem, to which the genuinely inflectional endings can be added in order to produce a word.

 形態論のこのような類型を念頭に,Kastovsky (132) は root-based morphology (印欧祖語)→ stem-based morphology (ゲルマン祖語)→ word-based morphology (古英語以降)という緩やかな潮流を指摘している.

The ultimate starting point of English was a root-based morphology (indo-European), which became stem-based in the transition to Germanic. In the transition from Germanic to Old English, inflection became partly word-based, and this eventually became the dominant typological trait of Modern English.

 実際には古英語ではまだ stem-based morphology が濃厚で,word-based morphology の気味が多少みられるようになってきた段階にすぎないが,大きな流れとしてとらえるのであれば word-based morphology を示す最初期段階とみなすこともできるだろう.英語形態論の歴史を大づかみする斬新な視点である.

 ・ Kastovsky, Dieter. "Linguistic Levels: Morphology." Chapter 9 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 129--47.

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2018-06-29 Fri

#3350. 後期近代英語期は新たな秩序を目指した時代 [lmode][morphology][synthesis_to_analysis]

 昨日の記事「#3349. 後期近代英語期における形容詞比較の屈折形 vs 迂言形の決定要因」 ([2018-06-28-1]) に続いて,後期近代英語期に形成されてきたという「新たな秩序」について.一般に,後期近代英語期は一応の英語の標準化が成し遂げられたものの,いまだ変異や揺れが観察され,現代英語に比べれば「混乱した状況」を呈していたと言われる.しかし,Mondorf (843) は,そのような表面的な混乱の背後には,新たな均衡を目指す機能的な動機づけが隠されており,むしろ後期近代英語から現代英語にかけて新たな秩序が形成されつつあるのだと説く.

When LModE morphology and morphosyntax are addressed, this is often done in reference to a "confused situation" (Poldauf 1948: 240), by portraying this period as undergoing regularization processes that are triggered by standardization or by relating the high degree of simplification of morphology achieved by that time . . . . The present overview sets out to show that what at first sight look like divergent developments of individual morphological structures can occasionally be shown to form part of a larger development towards a new equilibrium governed by functionally motivated requirements.

 後期近代英語期にも,古英語期(あるいはそれ以前)に始まった「総合から分析へ」 (synthesis_to_analysis) の大きな潮流が継続していたと単純に解釈するにとどまらず,機能的な側面という別の観点を持ち込むことで,一見したところ反例のように思われる事例がきちんと説明できるようになるということだ.新たな秩序や均衡が――これまでとはその種類こそ異なれ――後期近代英語期に芽生え,現代英語にかけて確立してきたとみることができる.

 ・ Mondorf, Britta. "Late Modern English: Morphology." Chapter 53 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 843--69.
 ・ Poldauf, Ivan. On the History of Some Problems of English Grammar before 1800. Prague: Nákladem Filosofické Fakulty University Karlovy, 1948.

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2018-06-24 Sun

#3345. 弱変化動詞の導入は類型論上の革命である [oe][verb][conjugation][inflection][suffix][tense][preterite][germanic][morphology]

 ゲルマン語派の最も際立った特徴の1つに,弱変化動詞の存在がある.「#182. ゲルマン語派の特徴」 ([2009-10-26-1]),「#3135. -ed の起源」 ([2017-11-26-1]) で触れたように歯音接尾辞 (dental suffix) を付すことで,いとも単純に過去形を形成することができるようになった.形態論に基づく類型論の観点からみると,これによって古英語を含むゲルマン諸語は,屈折語 (inflecting languages) から逸脱し,膠着語 (agglutinating language) あるいは孤立語 (isolating language) へと一歩近づいたことになる (cf. 「#522. 形態論による言語類型」 ([2010-10-01-1])) .その意味では,弱変化動詞の導入は,やや大袈裟にいえば「類型論上の革命的」だったといえる.von Mengden (287) の解説を聞いてみよう.

It is remarkable that in a strongly inflecting language like Old English (in contrast to both agglutinating and to analytic), there is a suffix (-d-) which is an unambiguous marker of the tense value past. The fact that this suffix -d- is the only morphological marker in all the paradigms of Old English with a truly distinctive one-to-one relation between form and value may indicate that this morpheme is rather young.

 形態と機能が透明度の高い1対1の関係にあるということは,現代英語や日本語のようなタイプの言語を普段相手にしていると,当たり前すぎて話題にもならないのだが,そのようなタイプではなかった古英語の屈折形態論を念頭に置きつつ改めて考えてみると,確かに極めて珍しいことだったろう.-d- が引き起こした革命の第1波は,その後も連鎖的に革命の波を誘発し,英語の類型を根本的に変えていくことになったのである.

 ・ von Mengden, Ferdinand. "Old English: Morphology." Chapter 18 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 272--93.

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2018-06-20 Wed

#3341. ラテン・フランス借用語は英語の強勢パターンを印欧祖語風へ逆戻りさせた [rsr][gsr][stress][germanic][indo-european][gradation][vowel][morphology]

 中英語期以降,ラテン語やフランス語からの借用語が英語語彙に大量に取り込まれたことにより,英語の強勢パターンが大きく変容したことについて「#718. 英語の強勢パターンは中英語期に変質したか」 ([2011-04-15-1]) や「#200. アクセントの位置の戦い --- ゲルマン系かロマンス系か」 ([2009-11-13-1]) で取り上げてきた.
 この変容は,Germanic Stress Rule (gsr) の上に新たに Romance Stress Rule (rsr) が付け加わったものと要約することができるが,さらに広い歴史的視点からみると,印欧祖語的な強勢パターンへの回帰の兆しともみることができる.印欧祖語では可変だった語の強勢位置が,ゲルマン祖語では語頭音節に固定化したが,ラテン語やフランス語との接触により,再び可変となってきた,と解釈できるからだ.そして,その可変の強勢は,基体と派生語の間で母音の質と量をも変異させることにもなった.最後の現象は,印欧祖語の形態論を特徴づける母音変異 (gradation or ablaut) にほかならない.
 Kastovsky (129--30) が,濃密な文章でこの見方について紹介している.

[T]here are . . . typological innovations like the vowel and/or consonant alternations in sane : sanity, serene : serenity, Japán : Jàpanése, hístory : históric : hìstorícity, eléctric : elètrícity, close : closure resulting from the integration of non-native (Romance, Latin and Net-Latin) word-formation patterns into English with a concomitant variable stress system, which reverses the original typological drift towards a non-alternating relation between bases and derivatives and is reminiscent of Indo-European, where variable stress/accent produced variable vowel quality/quantity (ablaut).

 Kastovsky は,英語の形態論の歴史を類型論的に捉えるべきことを主張しているが,これは単なる共時的な類型論にとどまらず,歴史類型論ともいうべき壮大な視点の提案でもあるように思われる.
 上で触れた2つの強勢規則については,「#1473. Germanic Stress Rule」 ([2013-05-09-1]) と「#1474. Romance Stress Rule」 ([2013-05-10-1]) を参照.

 ・ Kastovsky, Dieter. "Linguistic Levels: Morphology." Chapter 9 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 129--47.

Referrer (Inside): [2018-07-08-1] [2018-07-07-1]

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2016-09-23 Fri

#2706. 接辞の生産性 [productivity][word_formation][affixation][hapax_legomenon][lexicology][morphology][neologism][academic_conference]

 先日,東北大学大学院情報科学研究科「言語変化・変異研究ユニット」主催の第3回ワークショップ「内省判断では得られない言語変化・変異の事実と言語理論」に参加してきた(主催の先生方,大変お世話になりました!).形態論がご専門の東北大学の長野明子先生の発表「英語の接頭辞 a- の生産性の変化について」では,接辞の生産性 (productivity) の諸問題や測定法について非常に分かりやすく説明していただいた.今回の記事では,長野先生の許可を得て,そのときのハンドアウトから「生産性に関する仮説」を要約したい.
 接辞の生産性には availability と profitability が区別される.前者は,その接辞を用いた語形成規則が存在することを指し,それにより形成される潜在的な語がある状態をいう.それに対して後者は,その語形成規則が実際に使用され,単語として具現化している状態をいう.つまり,接辞の生産性を考える際には,新語を作る潜在能力と実際に新語を作った顕在能力を区別しておく必要がある.
 接辞の生産性の測定ということになると,潜在能力たる availability の測定は難しい.実際の単語として具現化されていないのだから,客観的に測りようがないのである.したがって,せめて顕在能力である profitability を測り,そこから availability を推し量ってみよう,ということになる.profitability の主要な測定法として3つほどが提案されている.いずれも,コーパスや辞書を用いることが前提となっている.

 (1) その接辞をもつ派生語のタイプ数.端的には辞書に登録されていたり,コーパスで文証される単語の語彙素 (lexeme) レベルで数えた個数.
 (2) 特定期間での,その接辞をもつ新語の数.
 (3) その接辞の派生語が hapax_legomenon である確率.ある程度の規模のコーパスにある派生語が1度しか現われないということと,その語形成の生産性の高さとは相関関係にあるとされている(see 「#938. 語形成の生産性 (4)」 ([2011-11-21-1])).

 (1), (2), (3) の測定法には一長一短あり,どれが最も優れているかを決めることはたやすくない.また,これらで測定できる profitability と最終的に求めたい availability との間にいかなる関係があるのかもよく分かっていない.例えば,(1) の値が高くとも availability は高くないとみなせる例がある.例えば,接尾辞 -th, -ment をもつ単語のタイプ数は多いが,現在,生産性のある接辞とはみなすことができないだろう (cf. 「#1787. coolth」 ([2014-03-19-1])) .逆に,(2) の値が低かったとしても,それをもってすぐに availability も低いだろうと予測するのは早計と考えられるケースもある(名詞+動詞の複合など).また,(3) で高い値を示すとしても,母語話者の直観的な生産性とは矛盾するケースがあるようだ.
 生産性の問題については,本ブログでも以下の記事その他で扱ってきたので要参照.「#935. 語形成の生産性 (1)」 ([2011-11-18-1]),「#936. 語形成の生産性 (2)」 ([2011-11-19-1]),「#937. 語形成の生産性 (3)」 ([2011-11-20-1]),「#938. 語形成の生産性 (4)」 ([2011-11-21-1]),「#876. 現代英語におけるかばん語の生産性は本当に高いか?」 ([2011-09-20-1]),「#940. 語形成の生産性と創造性」 ([2011-11-23-1]),「#2363. hapax legomenon」 ([2015-10-16-1]) .

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2016-08-01 Mon

#2653. 形態論を構成する部門 [terminology][morphology][morpheme][compound][derivation][inflection]

 形態論 (morphology) という部門は,屈折形態論 (inflectional morphology) と派生形態論 (derivational morphology) に分けられるのが慣例である.この2分法は,「#456. 比較の -er, -est は屈折か否か」 ([2010-07-27-1]),「#1761. 屈折形態論と派生形態論の枠を取っ払う「高さ」と「高み」」 ([2014-02-21-1]) で触れたように,理論的な問題もなしではないが,現代言語学では広く前提とされている.
 この2分法を基準にさらに細分化してゆくことができるが,Bauer (33) が基本的な用語群を導入しつつ形態論を構成する部門や区分を概説してくれているので,それを引用しよう.ここには,昨日の記事「#2652. 複合名詞の意味的分類」 ([2016-07-31-1]) で紹介した区分も盛り込まれている.

Morphology deals with the internal structure of word-forms. In morphology, the analyst divides word-forms into their component formatives (most of which are morphs realizing roots or affixes), and attempts to account for the occurrence of each formative. Morphology can be divided into two main branches, inflectional morphology and word-formation (also called lexical morphology). Inflectional morphology deals with the various forms of lexemes, while word-formation deals with the formation of new lexemes from given bases. Word-formation can, in turn, be subdivided into derivation and compounding (or composition). Derivation is concerned with the formation of new lexemes by affixation, compounding with the formation of new lexemes from two (or more) potential stems. Derivation is sometimes also subdivided into class-maintaining derivation and class-changing derivation. Class-maintaining derivation is the derivation of new lexemes which are of the same form class ('part of speech') as the base from which they are formed, whereas class-changing derivation produces lexemes which belong to different form classes from their bases. Compounding is usually subdivided according to the form class of the resultant compound: that is, into compound nouns, compound adjectives, etc. It may also be subdivided according to the semantic criteria . . . into exocentric, endocentric, appositional and dvandva compounds.

 上の文章で説明されている形態論の分類のうち,主要な諸部門について図示しよう(Bauer (34) を少々改変して示した).

                                    [ The Basic Divisions of Morphology ]

                 ┌─── INFLECTIONAL                                                
                 │       (deals with forms                                   ┌─── CLASS-MAINTAINING
                 │       of individual lexemes)                              │
MORPHOLOGY ───┤                                ┌─── DERIVATION  ───┤
                 │                                │       (affixation)      │
                 │                                │                         └─── CLASS-CHANGING
                 └─── WORD-FORMATION ─────┤
                          (deals with              │                         ┌─── COMPOUND NOUNS
                          formation of             │                         │
                          new lexemes)             └─── COMPOUNDING ───┼─── COMPOUND VERBS
                                                            (more than one    │
                                                            root)             └─── COMPOUND ADJECTIVES

 形態論に関連する重要な術語については,「#700. 語,形態素,接辞,語根,語幹,複合語,基体」 ([2011-03-28-1]) も参照.

 ・Bauer, Laurie. English Word-Formation. Cambridge: CUP, 1983.

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2016-07-31 Sun

#2652. 複合名詞の意味的分類 [compound][word_formation][morphology][terminology][semantics][hyponymy][metonymy][metaphor][linguistics]

 「#924. 複合語の分類」 ([2011-11-07-1]) で複合語 (compound) の分類を示したが,複合名詞に限り,かつ意味の観点から分類すると,(1) endocentric, (2) exocentric, (3) appositional, (4) dvandva の4種類に分けられる.Bauer (30--31) に依拠し,各々を概説しよう.

 (1) endocentric compound nouns: beehive, armchair のように,複合名詞がその文法的な主要部 (hive, chair) の下位語 (hyponym) となっている例.beehivehive の一種であり,armchairchair の一種である.
 (2) exocentric compound nouns: redskin, highbrow のような例.(1) ように複合名詞がその文法的な主要部の下位語になっているわけではない.redskinskin の一種ではないし,highbrowbrow の一種ではない.むしろ,表現されていない意味的な主要部(この例では "person" ほど)の下位語となっているのが特徴である.したがって,metaphormetonymy が関与するのが普通である.このタイプは,Sanskrit の文法用語をとって,bahuvrihi compound とも呼ばれる.
 (3) appositional compound nouns: maidservant の類い.複合名詞は,第1要素の下位語でもあり,第2要素の下位語でもある.maidservantmaid の一種であり,servant の一種でもある.
 (4) dvandva: Alsace-Lorraine, Rank-Hovis の類い.いずれが文法的な主要語が判然とせず,2つが合わさった全体を指示するもの.複合名詞は,いずれの要素の下位語であるともいえない.dvandva という名称は Sanskrit の文法用語から来ているが,英語では 'copulative compound と呼ばれることもある.

 ・Bauer, Laurie. English Word-Formation. Cambridge: CUP, 1983.

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2016-06-28 Tue

#2619. 古英語弱変化第2類動詞屈折に現われる -i- の中英語での消失傾向 [inflection][verb][oe][eme][conjugation][morphology][owl_and_nightingale][speed_of_change][schedule_of_language_change][3sp][3pp]

 古英語の弱変化第2類に属する動詞では,屈折表のいくつかの箇所で "medial -i-" が現われる (「#2112. なぜ3単現の -s がつくのか?」 ([2015-02-07-1]) の古英語 lufian の屈折表を参照) .この -i- は中英語以降に失われていくが,消失のタイミングやスピードは方言,時期,テキストなどによって異なっていた.方言分布の一般論としては,保守的な南部では -i- が遅くまで保たれ,革新的な北部では早くに失われた.
 古英語の弱変化第2類では直説法3人称単数現在の屈折語尾は -i- が不在の - となるが,対応する(3人称)複数では -i- が現われ -iaþ となる.したがって,中英語以降に -i- の消失が進むと,屈折語尾によって3人称の単数と複数を区別することができなくなった.
 消失傾向が進行していた初期中英語の過渡期には,一種の混乱もあったのではないかと疑われる.例えば,The Owl and the Nightingale の ll. 229--32 を見てみよう(Cartlidge 版より).

Vor eurich þing þat schuniet riȝt,
Hit luueþ þuster & hatiet liȝt;
& eurich þing þat is lof misdede,
Hit luueþ þuster to his dede.

 赤で記した動詞形はいずれも古英語の弱変化第2類に由来し,3人称単数の主語を取っている.したがって,本来 -i- が現われないはずだが,schuniethatiet では -i- が現われている.なお,上記は C 写本での形態を反映しているが,J 写本での対応する形態はそれぞれ schonyeþ, luuyeþ, hateþ, luueþ となっており,-i- の分布がここでもまちまちである.
  schuniet については,先行詞主語の eurich þing が意味上複数として解釈された,あるいは本来は alle þing などの真正な複数主語だったのではないかという可能性が指摘されてきたが,Cartlidge の注 (Owl 113) では,"it seems more sensible to regard these lines as an example of the Middle English breakdown of distinctions made between different forms of Old English Class 2 weak verbs" との見解が示されている.
 Cartlidge は別の論文で,このテキストにおける -i- について述べているので,その箇所を引用しておこう.

In both C and J, the infinitives of verbs descended from Old English Class 2 weak verbs in -ian always retain an -i- (either -i, -y, -ye, -ie, -ien or -yen). However, for the third person plural of the indicative, J writes -yeþ five times, as against nine cases of - or -þ; while C writes -ieþ or -iet seven times, as against seven cases of -, -ed, or -et. In the present participle, both C and J have medial -i- twice beside eleven non-conservative forms. The retention of -i in some endings also occurs in many later medieval texts, at least in the south, and its significance may be as much regional as diachronic. (Cartlidge, "Date" 238)

 ここには,-i- の消失の傾向は方言・時代によって異なっていたばかりでなく,屈折表のスロットによってもタイミングやスピードが異なっていた可能性が示唆されており,言語変化のスケジュール (schedule_of_language_change) の観点から興味深い.

 ・ Cartlidge, Neil, ed. The Owl and the Nightingale. Exeter: U of Exeter P, 2001.
 ・ Cartlidge, Neil. "The Date of The Owl and the Nightingale." Medium Aevum 65 (1996): 230--47.

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2016-04-30 Sat

#2560. 古英語の形容詞強変化屈折は名詞と代名詞の混合パラダイム [adjective][ilame][terminology][morphology][inflection][oe][germanic][paradigm][personal_pronoun][noun]

 古英語の形容詞の強変化・弱変化の区別については,ゲルマン語派の顕著な特徴として「#182. ゲルマン語派の特徴」 ([2009-10-26-1]),「#785. ゲルマン度を測るための10項目」 ([2011-06-21-1]),「#687. ゲルマン語派の形容詞の強変化と弱変化」 ([2011-03-15-1]) で取り上げ,中英語における屈折の衰退については ilame の各記事で話題にした.
 強変化と弱変化の区別は古英語では名詞にもみられた.弱変化形容詞の強・弱屈折は名詞のそれと形態的におよそ平行しているといってよいが,若干の差異がある.ことに形容詞の強変化屈折では,対応する名詞の強変化屈折と異なる語尾が何カ所かに見られる.歴史的には,その違いのある箇所には名詞ではなく人称代名詞 (personal_pronoun) の屈折語尾が入り込んでいる.つまり,古英語の形容詞強変化屈折は,名詞屈折と代名詞屈折が混合したようなものとなっている.この経緯について,Hogg and Fulk (146) の説明に耳を傾けよう.

As in other Gmc languages, adjectives in OE have a double declension which is syntactically determined. When an adjective occurs attributively within a noun phrase which is made definite by the presence of a demonstrative, possessive pronoun or possessive noun, then it follows one set of declensional patterns, but when an adjective is in any other noun phrase or occurs predicatively, it follows a different set of patterns . . . . The set of patterns assumed by an adjective in a definite context broadly follows the set of inflexions for the n-stem nouns, whilst the set of patterns taken in other indefinite contexts broadly follows the set of inflexions for a- and ō-stem nouns. For this reason, when adjectives take the first set of inflexions they are traditionally called weak adjectives, and when they take the second set of inflexions they are traditionally called strong adjectives. Such practice, although practically universal, has less to recommend it than may seem to be the case, both historically and synchronically. Historically, . . . some adjectival inflexions derive from pronominal rather than nominal forms; synchronically, the adjectives underwent restructuring at an even swifter pace than the nouns, so that the terminology 'strong' or 'vocalic' versus 'weak' or 'consonantal' becomes misleading. For this reason the two declensions of the adjective are here called 'indefinite' and 'definite' . . . .

 具体的に強変化屈折のどこが起源的に名詞的ではなく代名詞的かというと,acc.sg.masc (-ne), dat.sg.masc.neut. (-um), gen.dat.sg.fem (-re), nom.acc.pl.masc. (-e), gen.pl. for all genders (-ra) である (Hogg and Fulk 150) .
 強変化・弱変化という形態に基づく,ゲルマン語比較言語学の伝統的な区分と用語は,古英語の形容詞については何とか有効だが,中英語以降にはほとんど無意味となっていくのであり,通時的にはより一貫した統語・意味・語用的な機能に着目した不定 (definiteness) と定 (definiteness) という区別のほうが妥当かもしれない.

 ・ Hogg, Richard M. and R. D. Fulk. A Grammar of Old English. Vol. 2. Morphology. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2011.

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2016-04-24 Sun

#2554. 固有屈折と文脈屈折 [terminology][inflection][morphology][syntax][derivation][compound][word_formation][category][ilame]

 屈折 (inflection) には,より語彙的な含蓄をもつ固有屈折 (inherent inflection) と,より統語的な含蓄をもつ文脈屈折 (contextual inflection) の2種類があるという議論がある.Booij (1) によると,

Inherent inflection is the kind of inflection that is not required by the syntactic context, although it may have syntactic relevance. Examples are the category number for nouns, comparative and superlative degree of the adjective, and tense and aspect for verbs. Other examples of inherent verbal inflection are infinitives and participles. Contextual inflection, on the other hand, is that kind of inflection that is dictated by syntax, such as person and number markers on verbs that agree with subjects and/or objects, agreement markers for adjectives, and structural case markers on nouns.

 このような屈折の2タイプの区別は,これまでの研究でも指摘されることはあった.ラテン語の単数形 urbs と複数形 urbes の違いは,統語上の数の一致にも関与することはするが,主として意味上の数において異なる違いであり,固有屈折が関係している.一方,主格形 urbs と対格形 urbem の違いは,意味的な違いも関与しているが,主として統語的に要求される差異であるという点で,統語の関与が一層強いと判断される.したがって,ここでは文脈屈折が関係しているといえるだろう.
 英語について考えても,名詞の数などに関わる固有屈折は,意味的・語彙的な側面をもっている.対応する複数形のない名詞,対応する単数形のない名詞(pluralia tantum),単数形と複数形で中核的な意味が異なる(すなわち異なる2語である)例をみれば,このことは首肯できるだろう.動詞の不定形と分詞の間にも類似の関係がみられる.これらは,基体と派生語・複合語の関係に近いだろう.
 一方,文脈屈折がより深く統語に関わっていることは,その標識が固有屈折の標識よりも外側に付加されることと関与しているようだ.Booij (12) 曰く,"[C]ontextual inflection tends to be peripheral with respect to inherent inflection. For instance, case is usually external to number, and person and number affixes on verbs are external to tense and aspect morphemes".
 では,言語変化の事例において,上で提起されたような固有屈折と文脈屈折の区別,さらにいえば前者の後者に対する優越は,どのように表現され得るのだろうか.英語史でもみられるように,種々の文法的機能をもった名詞,形容詞,動詞などの屈折語尾が消失していったときに,いずれの機能から,いずれの屈折語尾の部分から順に消失していったか,その順序が明らかになれば,それと上記2つの屈折タイプとの連動性や相関関係を調べることができるだろう.もしかすると,中英語期に生じた形容詞屈折の事例が,この理論的な問題に,何らかの洞察をもたらしてくれるのではないかと感じている.中英語期の形容詞屈折の問題については,ilame の各記事を参照されたい.

 ・ Booij, Geert. "Inherent versus Contextual Inflection and the Split Morphology Hypothesis." Yearbook of Morphology 1995. Ed. Geert Booij and Jaap van Marle. Dordrecht: Kluwer, 1996. 1--16.

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2016-01-07 Thu

#2446. 形態論における「補償の法則」 [morphology][category][functionalism][redundancy][information_theory][markedness][category]

 昨日の記事「#2445. ボアズによる言語の無意識性と恣意性」 ([2016-01-06-1]) で引用した,樋口(訳)の Franz Boaz に関する章の最後 (p. 98) に,長らく不思議に思っていた問題への言及があった.

多くの言語が単数形で示しているほど複数形では明確で論理的な区別をしていないのはなぜか,という疑問を,解答困難なものとしてボアズは引用している。しかし,ヴィゴ・ブレンダル (Viggo Bröndal) は,形態論的形成の中の角の複雑さを避けるための手段が一般的に講じられている傾向があることを指摘した。しばしば分類上の一つの範疇に関して複雑である形式は他の範疇に関しては比較的単純である。この「補償の法則」によって,単数形よりも完全に特定されている複数形は,通例は比較的少数の表現形式を持っている。

 英語史でいえば,この問題はいくつかの形で現われる.古英語において,名詞や形容詞の性や格による屈折形は,概して複数系列よりも単数系列のほうが多種で複雑である.3人称代名詞でもも,単数では (he), hēo (she), hit (it) と性に応じて3種類の異なる語幹が区別されるが,複数では性の区別は中和して hīe (they) のみと簡略化する.動詞の人称語尾も,単数主語では人称により異なる形態を取るのが普通だが,複数主語では人称にかかわらず1つの形態を取ることが多い.つまり,文法範疇の構成員のうち有標なものに関しては,おそらく意味・機能がそれだけ複雑である補償あるいは代償として,対応する形式は比較的単純なものに抑えられる,ということだろう.
 しかし,考えてみれば,これは言語が機能的な体系であることを前提とすれば当前のことかもしれない.有標でかつ複雑な体系は,使用者に負担がかかりすぎ,存続するのが難しいはずだからだ.「補償の法則」は,頻度,余剰性,費用といった機能主義的な諸概念とも深く関係するだろう (see 「#1091. 言語の余剰性,頻度,費用」 ([2012-04-22-1])) .

 ・ 樋口 時弘 『言語学者列伝 −近代言語学史を飾った天才・異才たちの実像−』 朝日出版社,2010年.

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2015-06-07 Sun

#2232. High Vowel Deletion [high_vowel_deletion][phonetics][vowel][syllable][inflection][morphology]

 標記の音韻過程について「#1674. 音韻変化と屈折語尾の水平化についての理論的考察」 ([2013-11-26-1]),「#2017. foot の複数はなぜ feet か (2)」 ([2014-11-04-1]),「#2225. hear -- heard -- heard」 ([2015-05-31-1]) で触れてきたが,今回はもう少し詳しく説明したい.この過程は,i-mutation よりも後に,おそらく前古英語 (pre-OE) の後期に生じたとされる音韻変化であり,古英語の音韻形態論に大きな影響を及ぼした.Lass (98) の端的な説明によれば,HVD (High Vowel Deletion) は以下のようにまとめられる.

The fates of short high */i, u/ in weak positions are largely determined by the weight of the preceding strong syllable. In outline, they deleted after a heavy syllable, but remained after a light one, in the case of */i/ usually lowering to /e/ at a later stage.

 語幹音節が重い(rhyme が3モーラ以上からなる)場合に,続く弱い音節の高母音 (/i/, /u/) が消失するという過程である.先行する語幹音節が重い場合には,すでに全体として重いのだから,さらに高母音を後続させて余計に重くするわけにはいかない,と解釈してもよい.かくして,語幹音節の軽重により,続く高母音の有無が切り替わるケースが生じることとなった.Lass (99--100) を参考に,古英語からの例を挙げよう.HVD が作用した例は赤で示してある.

Syllable weightpre-OEOE
heavy*ðα:ð-idǣd 'deed'
heavy*wurm-iwyrm 'worm'
light*win-iwin-e 'friend'
heavy*flo:ð-uflōd 'flood'
heavy*xαnð-uhand 'hand'
light*sun-usun-u 'son'
heavy*xæur-i-ðæhīer-de 'heard'
light*nær-i-ðæner-e-de 'saved'

 古英語の形態論では,以下の屈折において HVD の効果が観察される (Lass 100) .

(i) a-stem neuter nom/acc sg: light scip-u 'ships' vs. heavy word 'word(s)', bān 'bone(s)'.
(ii) ō-stem feminine nom sg: light gief-u 'gift' vs. heavy lār 'learning'.
(iii) i-stem nom sg: light win-e 'friend' vs. heavy cwēn 'queen'
(iv) u-stem nom sg: light sun-u 'son' vs. heavy hand 'hand'.
(v) Neuter/feminine strong adjective declension: light sum 'a certain', fem nom sg, neut nom/acc sg sum-u vs. heavy gōd 'good', fem nom sg gōd.
(vi) Thematic weak verb preterites . . . .

 これらのうち,現代英語にまで HVD の効果が持続・残存している例はごくわずかである.しかし,過去・過去分詞形 heard や複数形 sheep に何らかの不規則性を感じるとき,そこではかつての HVD の影響が間接的にものを言っているのである.

 ・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.

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2015-05-24 Sun

#2218. concrete vs abstract word [word][morphology][inflection][terminology][generative_grammar]

 Ullmann (43--44) に,語 (word) をみる視点として,標記の対立が挙げられている.一見すると,この対立は語の意味が具体的か抽象的か,名詞でいえば具体名詞か抽象名詞かという対立のことかと想像されるが,実際には Ullmann は形態的な観点から concrete と abstract という形容詞を用いている.Ullmann (43--44) の "the contrast between 'concrete' and 'abstract' word-structure" に関する説明をみてみよう.

In Latin and other highly inflected languages it often happens that a word does not exist in an abstract state, as a pure designation of the thing it stands for: there is annus, nominative singular, annum, accusative singular, annorum, genitive plural, etc., but no single form denoting the idea of 'year' as such, without specifying its function in the sentence. In this sense, the Latin word is concrete, i.e. grammatically determined, whereas the French an or the English year are abstract, grammatically neutral until they are embedded in a specific utterance.

 この観点からすると,ラテン語に比較される形態論を有する古英語の語はたいてい concrete であり,対する現代英語の語はたいてい abstract ということになる.現代英語の stone は形態論的に抽象的に「石」(日本語の語もたいてい抽象的なのでそのままパラレルに訳を当てることができる)を表わすことができるが,古英語の stān は「石」を表わすのみならず,統語的な情報,すなわち主格(あるいは対格)であることを同時に示している.むしろ,統語的な情報を示すことなく,単に抽象的に「石」を表わす方法がないと言ってもよい.常により具体的な多くの情報をも含まざるを得ないという点で,古英語の stān なり,その屈折形である stānes, stāne, stānas, stāna, stānum なりは,具体的な語であるといえる.
 考えてみれば,現代英語の語も古英語と比較すれば抽象的であるというだけで,名詞には複数屈折もあるし,動詞には各種の屈折形がある.したがって,見出しの形には,やはりある程度具体的な語が選ばれているとも考えられる.例えば,stone は,単数の非所有格を示している限りにおいて,具体的である.この点では,完璧に抽象的な語というのは得がたいのかもしれない.生成文法家であれば,言語にかかわらず concrete word とは surface form のことであり,abstract word とは underlying form のことであると一般的に理解するのだろう.

 ・ Ullmann, Stephen. Semantics: An Introduction to the Science of Meaning. 1962. Barns & Noble, 1979.

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2015-05-16 Sat

#2210. think -- thought -- thought の活用 [verb][inflection][i-mutation][oe][morphology][phonetics][compensatory_lengthening][sobokunagimon]

 標題の think の活用のみならず,bring, buy, seek, teach などの活用では,過去(分詞)形に原形とは異なる母音が現われる.異なる母音に加えて,綴字の上で ght なる子音字連続が現われ,「不規則」との印象は決定的である.しかし,歴史的には規則的な動詞であり,-ed を付して過去(分詞)形を作る大多数の動詞の仲間である.ただ,大多数のものよりも多くの音変化を歴史的に経験してきたために,結果として,不規則きわまりない見栄えのする活用を示すことになっている.
 Mitchell and Robinson (48--49) に従って,歴史的経緯を解説しよう.まず,think 型の動詞の古英語での形を表に示す.現在までに廃語となったもの,純粋な規則変化へと移行したものも含まれている.

Inf.Pret. Sg.Past Ptc.
brenġan 'bring'brōhtebrōht
bycgan 'buy'bohteboht
cwellan 'kill'cwealdecweald
reċċan 'tell'rōhterōht
sēċan 'seek'sōhtesōht
sellan 'give'sealdeseald
streċċan 'stretch'strōhtestrōht
tǣċan 'teach'tǣhte, tāhtetǣt, tāht
þenċan 'think'þōhteþōht
þynċan 'seem'þūhteþūht
wyrċan 'work'worhteworht

 これらの動詞は,古英語の分類によれば弱変化第1類に属する.このクラスの動詞の特徴は,先立つゲルマン祖語の時代に,接尾辞の前位置に前舌高半母音 j をもっていたことである.これにより語幹母音は i-mutation の作用を被り,一段前寄りあるいは高い母音へと変化した.i-mutation を引き起こした j は,その後,消失したり,母音 i として引き継がれたりした.
 弱変化第1類の大部分の動詞においては,上記 i-mutation の作用が現在,過去,過去分詞を含む屈折パラダイムの全体に見られたが,語幹末に l あるいは歴史的な軟口蓋子音をもつ,上に一覧した一部の動詞においては現在形の屈折にのみ作用した.この一部の動詞では,過去や過去分詞において i-mutation を引き起こす問題の半母音 j が欠けていたのである.結果として,古英語における現在幹と過去(分詞)幹を比較すると,後者は前者よりも一段後ろ寄りあるいは低い母音,少なくともその痕跡を示すことになった.上表で e vs oy vs u の対立を確認されたい.
 cwellann, sellan について,現在と過去(分詞)では e vs ea の対立を示すが,これは本来的には e vs æ の規則的な対立とみてよい.æ が,過去(分詞)形にのみ生じた子音結合 ld の前で割れ (breaking) を起こし,ea と変化したにすぎない.
 また,þenċċan, þynċan, brenġan に関して,過去(分詞)形で ht の子音結合を示すが,これは *nċt の結合が規則的に発達したものである.破擦音的な ċt の前で摩擦音 h へと変化し,n は消失するとともに代償延長 (compensatory_lengthening) により先行する母音を長化させた.
 bycgan, wyrċan については,予想される y vs u の対立を示さず,y vs o となっている.過去(分詞)形に o が現われるのは,本来の u が特定の音環境において下げを経たからだ.下げの生じる前に i-mutation が起こったために,現在形では予想される y が現われているが,過去(分詞)形においては下げの結果である u がみられるというわけだ.
 このように先立つ時代に様々な音変化が生じたために,古英語の共時態としては,あたかも強変化動詞のごとく母音の gradation (Ablaut) を示すようにみえるが,結果としてそのようにみえているにすぎず,起源をたどれば歯音接尾辞 (dental suffix) を付して過去(分詞)形を作る通常の弱変化動詞にすぎないといえる.
 これらの動詞の詳しい歴史については,Hogg and Fulk (273--75) も参照.seek については,「#2015. seekbeseech の語尾子音」 ([2014-11-02-1]) でも触れた.

 ・ Mitchell, Bruce and Fred C. Robinson. A Guide to Old English. 8th ed. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2012.
 ・ Hogg, Richard M. and R. D. Fulk. A Grammar of Old English. Vol. 2. Morphology. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2011.

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