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l - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-09-19 08:56

2019-08-28 Wed

#3775. 英語は開音節を目指して音変化を起こしている [sound_change][phonetics][phonology][r][l][consonant][syllable][vowel][stress][rhythm][prosody]

 「#3719. 日本語は開音節言語,英語は閉音節言語」 ([2019-07-03-1]) でみたように,英語は類型論的にいえば有標の音節タイプである閉音節を多くもつ言語であることは事実だが,それでも英語の音変化の潮流を眺めてみると,英語は無標の開音節を志向していると考えられそうである.
 安藤・澤田は現代英語にみられる r の弾音化 (flapping; city, data などの t が[ɾ] となる現象),l の咽頭化 (pharyngealization; feel, help などの l が暗い [ɫ] となる現象),子音の脱落(attem(p)t, exac(t)ly, mos(t) people など)といった音韻過程を取り上げ,いずれも音節末の子音が関わっており,その音節を開音節に近づける方向で生じているのではないかと述べている.以下,その解説を引用しよう (70) .

 弾音化は,阻害音の /t/ を,より母音的な共鳴音に変える現象であり,これは一種の母音化 (vocalization) と考えられる.非常に早い話し方では,better [bɛ́r] のように,弾音化された /t/ が脱落することもある.また,/l/ の咽頭化では,舌全体を後ろに引く動作が加えられるが,これは本質的に母音的な動作であり,/l/ は日本語の「オ」のような母音に近づく.実際,feel [fíːjo] のように,/l/ が完全に母音になることもある.したがって,/l/ の咽頭化も,共鳴音の /l/ をさらに母音に近づける一種の母音化と考えられる.子音の脱落は,母音化ではないが,閉音節における音節末の子音連鎖を単純化する現象である.
 このように,三つの現象は,いずれも,音節末の子音を母音化したり,脱落させることによって,最後が母音で終わる開音節に近づけようとしている現象であり,機能的には共通していることがわかる.〔中略〕本質的に開音節を志向する英語は,さまざまな音声現象を引き起こしながら,閉音節を開音節に近づけようとしていると考えられる.


 これは音韻変化の方向性が音節構造のあり方と関連しているという説だが,その音節構造のあり方それ自身は,強勢やリズムといった音律特性によって決定されているともいわれる.これは音変化に関する壮大な仮説である.「#3387. なぜ英語音韻史には母音変化が多いのか?」 ([2018-08-05-1]),「#3466. 古英語は母音の音量を,中英語以降は母音の音質を重視した」 ([2018-10-23-1]) を参照.

 ・ 安藤 貞雄・澤田 治美 『英語学入門』 開拓社,2001年.

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2019-05-29 Wed

#3684. lr はやっぱり近い音 [phonetics][phonology][dissimilation][l][r][japanese]

 日本語母語話者は英語その他の言語で区別される音素 /l/ と /r/ の区別が苦手である.日本語では異なる音素ではなく,あくまでラ行子音音素 /r/ の2つの異音という位置づけであるから,無理もない.英語を学ぶ以上,発音し分け,聴解し分ける一定の必要があることは認めるが,区別の苦手そのものを無条件に咎められるとすれば,それは心外である.生得的な苦手とはいわずとも準生得的な苦手だからである.どうしようもない.日本語母語話者が両音の区別が苦手なのは,音声学的な英語耳ができていないからというよりも,あくまで音韻論的な英語耳ができていないからというべきであり,能力の問題というよりは構造の問題として理解する必要がある.
 しかし,一方で音声学的な観点からいっても,lr は,やはり近い音であることは事実である.このことはもっと強調されるべきだろう.ともに流音 (liquid) と称され,聴覚的には母音に近い,流れるような子音と位置づけられる.調音的にいえば lr が異なるのは確かだが,特に r でくくられる音素の実際的な調音は実に様々である(「#2198. ヨーロッパ諸語の様々な r」 ([2015-05-04-1]) を参照).そのなかには [l] と紙一重というべき r の調音もあるだろう.実際,日本語母語話者でも,ラ行子音を伝統的な歯茎弾き音 [ɾ] としてでなく,歯茎側音 [l] として発音する話者もいる.lr は,調音的にも聴覚的にもやはり類似した音なのである.
 実は,/l/ と /r/ を区別すべき異なる音素と標榜してきた英語においても,歴史的には両音が交替しているような現象,あるいは両者がパラレルに発達しているような現象がみられる.よく知られている例としては,同根に遡る pilgrim (巡礼者)と peregrine (外国の)の lr の対立である.語源的には後者の r が正統であり,前者の l は,単語内に2つ r があることを嫌っての異化 (dissimilation) とされる.同様に,フランス語 marbre を英語が借用して marble としたのも異化の作用とされる.異化とは,簡単にいえば「同じ」発音の連続を嫌って「類似した」発音に切り替えるということである.
 したがって,上記のようなペアから,英語でも lr は確かに「同じ」音ではないが,少なくとも「類似した」音であることが例証される.英語の文脈ですら,lr は歴史的にやはり近かったし,今でも近い.
 関連して,以下の記事も参照.

 ・ 「#72. /r/ と /l/ は間違えて当然!?」 ([2009-07-09-1])
 ・ 「#1618. 英語の /l/ と /r/」 ([2013-10-01-1])
 ・ 「#1817. 英語の /l/ と /r/ (2)」 ([2014-04-18-1])
 ・ 「#1818. 日本語の /r/」 ([2014-04-19-1])
 ・ 「#1597. starstella」 ([2013-09-10-1])
 ・ 「#1614. 英語 title に対してフランス語 titre であるのはなぜか?」 ([2013-09-27-1])

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2014-04-19 Sat

#1818. 日本語の /r/ [phonetics][consonant][japanese][phoneme][r][l]

 「#1618. 英語の /l/ と /r/」 ([2013-10-01-1]) および昨日の記事「#1817. 英語の /l/ と /r/ (2)」 ([2014-04-18-1]) に引き続き,/r/ の話題.今回は日本語の /r/ の音声的実現についてである.
 日本語のラ行の子音 /r/ は,典型的には,有声歯茎はじき音 [ɾ] として実現される.特に「あられ」のように,母音に挟まれた環境ではこれが普通である.この音は,BrE の merry や AmE の letter の第2子音として典型的に現れる音でもある.調音音声学的には,この音は有声歯茎閉鎖音 /d/ にかなり近いが,[ɾ] では舌尖と歯茎による閉鎖が弱く,その時間も短いという特徴がある.「ライオン」などの語頭や「アッラー」などの促音の後では接触が強くなり,/d/ にさらに近づくが,閉鎖の開放は弱めである.
 意外と知られてないことだが,日本語母語話者の個人によっては,有声側面接近音 [l] に近い子音がラ行子音として用いられている.語頭や撥音の後で現われることが多いが,母音間でも側音に近くなる人もいる.ぴったりの音声標記はないが,有声そり舌破裂音 [ɖ] や 有声歯茎側面はじき音 [ɺ] や(接触が長い場合の)舌尖による有声歯茎側面接近音 [l̺] にも近いので,これらで代用する方法もある.有声歯茎側面はじき音 [ɺ] は,いわば [l] をはじき音化したものだが,タンザニアのチャガ語などで聞かれる子音である.
 ほかにも「べらんめえ口調」に典型的とされる有声歯茎ふるえ音 [r] が,日本語 /r/ の自由異音として現れることがある.
 以上,斉藤 (91) と佐藤 (43) を参照した.

 ・ 斉藤 純男 『日本語音声学入門』改訂版 三省堂,2013年.
 ・ 佐藤 武義 編著 『展望 現代の日本語』 白帝社,1996年.

Referrer (Inside): [2019-05-29-1] [2015-05-04-1]

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2014-04-18 Fri

#1817. 英語の /l/ と /r/ (2) [phonetics][consonant][rp][dialect][phoneme][r][l]

 英語の /l/ と /r/ については,「#72. /r/ と /l/ は間違えて当然!?」 ([2009-07-09-1]),「#1597. starstella」 ([2013-09-10-1]),「#1614. 英語 title に対してフランス語 titre であるのはなぜか?」 ([2013-09-27-1]) などで扱ってきた.とりわけ調音について「#1618. 英語の /l/ と /r/」 ([2013-10-01-1]) で概要を記したが,今回は一部重複するものの,それに補足する内容の記事を Crystal (245) に依拠して書く.
 前の記事でも見たように,英語の音素 /l/ は,様々な音声として実現される.[l] の基本的な調音は,舌先を歯茎に接し,舌の側面から呼気を抜けさせるものだが,舌のとる形に応じて大きく2種類が区別される.それぞれ "clear l" と "dark l" と呼ばれる.前者 [l] は,前舌が硬口蓋に向かって上がるもので,前母音の響きをもち,RP では母音や [j] の前位置で起こる (ex. leap) .後者 [ɫ] は,後舌が軟口蓋に向かって上がるもので,後母音の響きをもち,RP ではそれ以外の位置で起こる (ex. pool) .ただし,clear l と dark l の分布は,諸変種において様々であり,例えば,Irish の一部であらゆる位置で clear l が聞かれたり,Scots や AmE の多くであらゆる位置で dark l が聞かれる.また,please, sleep のような無声子音の後位置では無声化した [l] が用いられる.そのほか,bottle のように音節主音的な l では,先行する [t] の側面破裂を伴う.Cockney 方言や一部 RP ですら,peel などの dark l が母音化し,[piːo] などとなる.
 英語の音素 /r/ は,おそらく変種による差や個人差が最も多い子音だろう.最も普通には有声歯茎接近音 [ɹ] として実現される.d に後続する場合には,舌先が歯茎に限りなく接近し,摩擦音化が生じる (ex. drive) .母音に挟まれた位置やいくつかの子音の後位置で,日本語の典型的なラ行の子音と同じような有声歯茎はじき音 [ɾ] となる (ex. very, sorry, three) .気息を伴う [ph, th, kh] の後位置では無声摩擦音となる (ex. pry, try, cry) .
 変種による異音としては,最も有名なのが有声そり舌接近音の [ɻ] で,先行する母音の音色を帯びる.General American に典型的だが,ほかにもイングランド南西部や東南アジアの変種でも聞かれる.有声歯茎ふるえ音の [r] は,Scots や Welsh の一部で聞かれるが,その他の変種でも格調高い発音において現れることがある.そのほか,フランス語やドイツ語で一般的に聞かれる有声口蓋垂摩擦音 [ʁ] あるいは有声口蓋垂ふるえ音 [ʀ] が,イングランド北東方言や一部スコットランド方言でも聞かれ,"Northumbrian burr" と呼ばれることがある(「#1055. uvular r の言語境界を越える拡大」 ([2012-03-17-1]) を参照).最後に,19世紀前半のイングランドで,red を [wed] と発音するように /r/ を [w] で代用することがはやったことを付け加えておこう.
 なお,音素としては /r/ ではないが,AmE で mattert は有声歯茎はじき音 [ɾ] として実現されることが多く,partyt は有声そり舌はじき音 [ɽ] で発音される.

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.

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2009-07-09 Thu

#72. /r/ と /l/ は間違えて当然!? [consonant][phonetics][dissimilation][r][l]

 日本人の苦手とする発音のペアの代表選手として [r] と [l] がある.ricelice が同じ発音になったり,I love youI rub you になったりという報告が絶えない.そもそも,日本語には,両者に音素としての区別がないのだから,間違えても仕方がないともいえる.「仕方ない!」と開き直ってもよい理由を二つ挙げてみよう.
 一つ目は,そもそも [r] と [l] は音声学的に似ている音である.決して日本人の耳や口が無能なわけではない,音として間違いなく似ているのだ.この二音は「流音」と呼ばれ,ともに舌先と歯茎を用いて調音される.前後の音と合一して,母音のような音色に化ける点でも似ている.これくらい似ているのだから,間違えても当然,と開き直ることができる.
 二つ目は,[r] と [l] を使い分けている話者,例えば英語の母語話者ですら,両者を代替することがあった.一つの語のなかに [r] が二度も出てくると,口の滑らかな話者ですら舌を噛みそうになる.その場合には,ちょっと舌の位置をずらしてやるほうが,かえって発音しやすいということもありうる.そんなとき,一方の [r] を [l] で発音してはどうだろうか,あるいはその逆はどうだろうか,などという便法が現れた.発音の都合などによって,もともと同音だった二つの音が,あえて異なる音として発音されるようになることを「異化(作用)」 ( dissimilation ) という.
 異化の具体例を見てみよう.pilgrim 「巡礼者」は,<l> と <r> を含んでいるが,語源はラテン語の peregrīnum 「外国人」である.一つ目の <r> が異化を起こして <l> となり,それが英語に入った.関連語の peregrine 「遍歴中の」は異化を経ていず,いまだに二つの <r> を保っている.
 同様に marble 「大理石」も,ラテン語では marmor と <r> が二つあった.13世紀末に英語に入ってきたときには <r> が二つの綴りだったようだが,二つ目の <r> が <l> へと異化した綴りも早くから行われたようである.(二つ目の <m> が <b> へ変化したのは同化(作用)によるが,説明省略.)
 上で示したように,[r] と [l] は,音声的に近いだけでなく,ふだん使い分けをしている話者ですら,異化作用によって両音を交替させ得たほどに密接な関係なのである.
 これで,もう自信をもって /r/ と /l/ を間違えられる!?

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