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australian_english - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-08-23 07:45

2015-11-10 Tue

#2388. 世界の主要な英語変種の音韻的分類 [world_englishes][model_of_englishes][ame_bre][ame][bre][irish_english][australian_english][new_zealand_english][scots_english][map]

 世界の主要な英語変種を分類する試みは,主として社会言語学的な視点から様々になされてきた.本ブログでも,model_of_englishes の記事で取り上げてきた通りである.言語学的な観点からの分類としては,Trudgill and Hannah による音韻に基づくものが知られている.概論的にいえば,大きく 'English' type と 'American' type に2分する方法であり,直感的で素人にも理解しやすい.この常識的に見える分類が,結論としては,専門的な見地からも支持されるということである.この 'American' type と 'English' type の2分法は,より積極的に歴史的な視点を取れば,大雑把にいってイングランド内の 'northern' type と 'southern' type の2分法に相当することに注意したい.
 Trudgill and Hannah (10) は,音韻論的に注目すべき鍵として以下の10点を挙げて,英語諸変種を図式化した.

Key
1. /ɑː/ rather than /æ/ in path etc.
2. absence of non-prevocalic /r/
3. close vowels for /æ/ and /ɛ/, monophthongization of /ai/ and /ɑu/
4. front [aː] for /ɑː/ in part etc.
5. absence of contrast of /ɒ/ and /ɔː/ as in cot and caught
6. /æ/ rather than /ɑː/ in can't etc.
7. absence of contrast of /ɒ/ and /ɑː/ as in bother and father
8. consistent voicing of intervocalic /t/
9. unrounded [ɑ] in pot
10. syllabic /r/ in bird
11. absence of contrast of /ʊ/ and /uː/ as in pull and pool

10  9   8   7   6   5        6   7   8   9   11         10         11  5   1   2

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|   |   |   |   |   |        |   |   |   |   | Northern |          |   |   |   |
|   |   |   |   |   | Canada |   |   |   |   | Ireland  | Scotland |   |   |   |
|   |   |   |   |   |        |   |   |   |   `----------+----------'   |   |   |
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|   |   |   |   |   `--------+---+---+---+--------------+--------------'   |   |
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|   |   |   |   |            |   |   |   `----------,   |                  |   |
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|   |   |   |   |   USA      |   |   |   ,----------+---+------------------'   |
|   |   |   |   |            |   |   |   | Republic |   |                      |
|   |   |   |   `------------'   |   |   |   of     |   |   ,------------------'
|   |   |   |                    |   |   | Ireland  |   |   |
|   |   |   `--------------------'   |   |          |   |   |  England  ,--------------------------------- 3
|   |   |                            |   |          |   |   |           | 
|   |   |                            |   |          |   |   |  Wales    |         ,----------------------- 4
|   |   |                            |   |          |   |   |           | South   | Australia   New
|   |   `----------------------------'   |          |   |   |           | Africa  |             Zealand
|   |                                    |          |   |   |           |         `----------------------- 4
|   |                                    |          |   |   |           |
|   `------------------------------------+----------'   |   |           `--------------------------------- 3
|                                        |              |   |
`----------------------------------------+--------------'   `--------------------------------------------- 2
                                         |
                                         `---------------------------------------------------------------- 1

 この図の説明として,Trudgill and Hannah (10) を引こう.

We have attempted to portray the relationships between the pronunciations of the major non-Caribbean varieties in [this] Figure 1.1. This diagram is somewhat arbitrary and slightly misleading (there are, for example, accents of USEng which are close to RP than to mid-western US English), but it does show the two main types of pronunciation: an 'English' type (EngEng, WEng, SAfEng, AusEng, NZEng) and an 'American' type (USEng, CanEng), with IrEng falling somewhere between the two and ScotEng being somewhat by itself.


 最後に触れられているように,Irish English が2大区分にまたがること,古い歴史をもつ Scots English が独自路線を行っていることは興味深い.

 ・ Trudgill, Peter and Jean Hannah. International English: A Guide to the Varieties of Standard English. 5th ed. London: Hodder Education, 2008.

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2014-03-30 Sun

#1798. Australia における英語の歴史 [history][australian_english][rp][map]

 「#1715. Ireland における英語の歴史」 ([2014-01-06-1]),「#1718. Wales における英語の歴史」 ([2014-01-09-1]),「#1719. Scotland における英語の歴史」 ([2014-01-10-1]),「#1733. Canada における英語の歴史」 ([2014-01-24-1]) に続き,オーストラリアの英語の歴史を概観する.以下,Fennell (246--47) 及び Svartvik and Leech (98--105) に依拠する.

Map of Australia

 ヨーロッパ人として最初にオーストラリア大陸にたどり着いたのは16世紀のポルトガル人とオランダ人の船乗りたちで,当初,この大陸は Nova Hollandia と呼ばれた(Australia は,ラテン語の terra australis incongita (unknown southern land) より).その後の歴史に重要な契機となったのは,1770年に Captain Cook (1728--79) が Endeavour 号でオーストラリアの海岸を航行したときだった.Cook はこの地のイギリスの領有を宣言し,New South Wales と名づけた.1788年,11隻からなる最初のイギリス囚人船団 the First Fleet が Arthur Phillip 船長の指揮のもと Botany Bay に投錨した.ただし,上陸したのは天然の良港とみなされた Port Jackson (現在の Sydney)である.この日,1月26日は Australia Day として知られることになる.
 この最初の千人ほどの人々とともに,Sydney は流刑地としての歩みを始めた.19世紀半ばには13万人もの囚人がオーストラリアに送られ,1850年にはオーストラリア全人口は40万人に達し,1900年には400万人へと急増した(現在の人口は約2千万人).この急増は,1851年に始まったゴールドラッシュに負っている.移民の大多数がイギリス諸島出身者であり,とりわけロンドンとアイルランドからの移民が多かったため,オーストラリア英語にはこれらの英語方言の特徴が色濃く残っており,かつ国内の方言差が僅少である.この言語的均一性は,アメリカやカナダと比してすら著しい(「#591. アメリカ英語が一様である理由」 ([2010-12-09-1]) を参照).
 1940年代までは,オーストラリアのメディアでは RP (Received Pronunciation) が広く用いられていた.しかし,それ以降,南西太平洋の強国としての台頭と相まって,オーストラリア英語が自立 (autonomy) を獲得してきた.Australian National Dictionary, Macquarie Dictionary, Australian Oxford Dictionary の出版も,自国意識を高めることになった.その一方で,ここ数十年間は,間太平洋の関係を反映して,オーストラリア英語にアメリカ英語の影響が,特に語彙の面で,顕著に見られるようになってきた.第2次世界大戦後には,南欧,東欧,アジアなどの非英語国からの移民も増加し,こうした移民たちがオーストラリア英語の民族的変種を生み出すことに貢献している.
 オーストラリア英語の特徴は,主として語彙に見られる.植民者や土着民との接触を通じて,オーストラリア特有の動物や文化の項目について多くの語彙が加えられてきた.オーストラリアに起源を有する語彙項目や語彙は1万を超えるといわれるが,いくつかを列挙してみよう.dinkum (genuine, right), ocker (the archetypal uncultivated Australian man), sheila (girl), beaut (beautiful), arvo (afternoon), tinnie (a can of beer), barbie (barbecue), bush (uncultivated expanse of land remote from settlement), esky (portable icebox), footpath (pavement), g'day (good day), lay-by (buying an article on time payment), outback (remote, sparsely inhabited Australian hinterland), walkabout (a period of wandering as a nomad), weekender (a holiday cottage).
 発音の特徴の一端については,「#402. Southern Hemisphere Shift」 ([2010-06-03-1]) を参照.オーストラリアにおける言語事情については,Ethnologue より Australia を参照.

 ・ Fennell, Barbara A. A History of English: A Sociolinguistic Approach. Malden, MA: Blackwell, 2001.
 ・ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006. 144--49.

Referrer (Inside): [2014-03-31-1]

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2013-09-11 Wed

#1598. kilometre の強勢位置をめぐるオーストラリアでの論争 [pronunciation][stress][australian_english]

 英語には,[2010-08-28-1][2011-06-05-1]で一覧したように,発音の揺れを示す語が多い.同様に強勢位置の揺れも頻繁で,「#321. controversy over controversy」 ([2010-03-14-1]) や「#366. Caribbean の綴字と発音」 ([2010-04-28-1]) などに見られるように,どちらが正しい発音かを巡って議論に発展することすらある.今日は,かつてオーストラリアで政治問題にまで発展し,議会に持ち込まれた kilometer の強勢位置を巡る論争を紹介する.
 1972年,オーストラリアでは23年ぶりに労働党が自由党保守政権に代わって政治の主導権を握った.政権運営に慣れていない労働党は,内部での指導権争いを許したが,とりわけホイットラム総理大臣とカメロン科学技術大臣との間に生じた確執の原因が何ともおもしろい.科学技術(用語)の守護者を辞任するカメロンが,総理大臣の kilómetre との発音が間違っているとして,公開で論争を仕掛けたのである.カメロン曰く,「オーストラリアはメートル法を早々と採用した先進国であり,総理大臣が誤った kilómetre などという発音を続けているというのは恥ずかしいことである.私は,教育大臣に対しても正しい kílometre を徹底するように要請するつもりだし,郵便大臣に対してもラジオやテレビを通して国民に正しい発音を教えることを求めるつもりだ.」
 ここまで非難されては,ホイットラム総理大臣も黙ってはいない.何しろ,彼はかつてギリシア語学・哲学を教えていた学者である.徹底的に文献を調査して反論した.英語の metre はギリシア語 metron に遡るという語源の云々かんぬん,それが後にフランス語の影響を受けることになったという語史的背景,強勢の位置は penult に含まれる母音が長母音か短母音かによって決まるという規則,その後世界で最初にメートル法を採用したペルシャのゲリラ兵は metre のつく語にはきまって antepenult に強勢を置いたこと等々を主張した.もちろん,論争の発端もホイットラムの応戦の内容も,多分に政治的な色彩を含んだものであり,言語学的な観点からはそれほど有意味とは思えない.アクセント問題が政争に利用されたと解釈すべきだろう.ホイットラムは,一見すると言語学的なこれらの主張のかたわら,さすがは文化多元主義を積極的に推し進めた首相とだけあって,政治的な主張も忘れていない.「オーストラリアの将来を担う子供たちといっても出身母国はさまざまである.たとえばイタリア人,ギリシャ人,チモール人などはいずれも母国語でメーターとつくことばには,うしろから三番目の母音にアクセントを置いている」 (堀,p. 89).
 さて,この問題は,Australian Broadcasting Corporation (ABC) と,さらにはイギリスの BBC を巻き込んだ論争に発展した.放送局は,総理大臣のような kilómetre も一部に出てきているが,正式には科学技術大臣の kílometre が正しいという判断に至った.なお,カメロンは強勢位置の論争には勝ったわけが,後にスキャンダルに巻き込まれ政争には負けることになった.人々は,母音の長短に引っかけて "Short or long---it is still a kilometre." と嘲ったとのことである.
 では,実際のところ,kilometre の強勢の現状はどうなのだろうか.LPD によると,次のような記述と Preference polls の結果が示されている.

On the analogy of ˈcentiˌmetre, ˈmilliˌmetre, it is clear that the stressing ˈkiloˌmetre is logical and might be expected to predominate. Nevertheless, it does not. Preference polls, British English: -ˈlɒm- 63%, ˈkɪl- 37%; American English: -ˈlɑːm- 84%, ˈkɪl- 16% -ˈlɒm- 57%.


Stress Fluctuation of

 いまだに kílometre を正当とする保守的な論者もいるが,英米ともにホイットラム総理大臣型の kilómetre のほうが優勢ということになる.この発音は barómetre, speedóometre, thermómetre などからの類推だろうと考えられる.語の初出は1810年だが,AmE ではそのすぐ後から kilómetre が記録されており,いまや歴史の長い発音といってもよい.

 ・ 堀 武昭 『オーストラリア A to Z』 丸善〈丸善ライブラリー〉,1993年.
 ・ Wells, J C. ed. Longman Pronunciation Dictionary. 3rd ed. Harlow: Pearson Education, 2008.

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2010-06-03 Thu

#402. Southern Hemisphere Shift [gvs][vowel][language_change][new_zealand_english][australian_english][south_africa]

 [2010-05-28-1]の記事で米国の北部都市で起こっている短母音の体系的推移である Northern Cities Shift に触れた.NCS は非常に稀な短母音推移の例として英語史的な意義を付与されることがあるが,実のところ体系的な短母音推移は英語の他の変種でも起こっている.例えば Australian English ( AusE ), New Zealand English ( NZE ), South African English ( SAE ) の主要変種に共通して生じている短母音推移 ( Southern Hemisphere Shift ) が挙げられる.SHS では,以下のような連鎖的な推移 ( chain shift ) が認められる.

/æ/ -> /e/ -> /ɪ/ -> /i/ or /ə/


 /ɪ/ が推移する先は,AusE では /i/,NZE では /ə/ になるという差異はあるが,全体として南半球としてまとめてよい程度に共通している.電話口で父親を出してくれと言われて父親に受話器を渡すとき,Here's Dad というところが He's dead の発音になってしまうので注意が必要である.
 個人的な体験としては,しばらく New Zealand に滞在していたときに,bread が /brɪd/ あるいは /bri:d/ とすら発音されているのにとまどった.パンのことを言っているのだと気付くまでにしばらくかかった.また,滞在先にいた小学生に Sega のテレビゲームを一緒にやろうと誘われているのを cigar と聞き違えて,何か麻薬の誘いだろうかと驚いたこともある.
 英語史上に有名な,長母音に生じた大母音推移 Great Vowel Shift ([2009-11-18-1]) の陰で,短母音系列の推移は目立たない.確かに長母音に比べると安定しているのは確かなようだが,標準的な変種から一歩離れてみてみると NCS や SHS の例がみられる.稀な単母音推移として NCS や SHS に付与される英語史上の意義というのも,どの変種を英語史の代表選手と考えるかによって価値が変わってくる相対的な意義であることを確認しておく必要があるだろう.

 ・ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006. 108--09.

Referrer (Inside): [2014-03-30-1]

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