01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31
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今年も1年間,本ブログ hellog および姉妹版の音声ブログ Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 を通じて英語史情報を発信し続けることができました.皆様におかれましては,日々お届けする話題を読んで/聴いていただきましてありがとうございました.
hellog は開始14周年を目指して安定走行していますが,heldio は2021年6月2日に始めたばかりで,まだ1年半余りが過ぎたにすぎません.ですので,さほどの安定感はありませんが,熱心なリスナーさんのサポートにより何とか継続してくることができました.フォロワーさんの数も,昨年の年末には1,200人ほどでしたが,本日までに3,000人超となっています.それでもモットーである「英語史をお茶の間に」の領域に到達したとは到底言えません.皆様のますますの応援に期待しています.これからもよろしくお願いいたします.
大晦日ということですし,比較的最近リスナーとなられた方も少なくありませんので,この1年間の heldio 放送を振り返りたいと思います.とりわけよく聴かれたトップ50回をランキングで示します(再生回数ではなく再生リスナー数という指標に基づくランキングです).ぜひこの年末年始のお時間のあるときに,最新回のみならず過去の放送もたくさん聴いてみてください.
皆様からの各放送回への感想,意見,質問をお待ちしています.過去回へのコメントも含めまして,なるべく最新放送内で「コメント返し」したいと思います.また,これを機にチャンネルをフォローしていただければ幸いです.さらに,「差し入れ」も歓迎しております!
Voicy 放送は以下からダウンロードできるアプリ(無料)を使うとより快適に聴取できます.ぜひご利用ください.
1. 「#406. 常識は非常識,非常識は常識 ― 私の海外体験の最大の成果」(2022/07/11(月) 放送)
2. 「#408. 自己紹介:英語史研究者の堀田隆一です」(2022/07/13(水) 放送)
3. 「#233. this,that,theなどのthは何を意味するの?」(2022/01/19(水) 放送)
4. 「#299. 曜日名の語源」(2022/03/26(土) 放送)
5. 「#281. 大母音推移(前編)」(2022/03/08(火) 放送)
6. 「#326. どうして古英語の発音がわかるのですか?」(2022/04/22(金) 放送)
7. 「#327. 新年度にフランス語を学び始めている皆さんへ,英語史を合わせて学ぶと絶対に学びがおもしろくなると約束します!」(2022/04/23(土) 放送)
8. 「#321. 古英語をちょっとだけ音読 マタイ伝「岩の上に家を建てる」寓話より」(2022/04/17(日) 放送)
9. 「#282. 大母音推移(後編)」(2022/03/09(水) 放送)
10. 「#343. 前置詞とは何?なぜこんなにいろいろあるの?」(2022/05/09(月) 放送)
11. 「#271. ウクライナ(語)について」(2022/02/26(土) 放送)
12. 「#358. 英語のスペリングを研究しているのにスペリングが下手になってきまして」(2022/05/24(火) 放送)
13. 「#388. 暗号技術と言語学」(2022/06/23(木) 放送)
14. 「#300. なぜ Wednesday には読まない d があるの?」(2022/03/27(日) 放送)
15. 「#464. まさにゃんとの対談 ー 「提案・命令・要求を表わす動詞の that 節中では should + 原形,もしくは原形」」(2022/09/07(水) 放送)
16. 「#222. キリスト教伝来は英語にとっても重大事件だった!」(2022/01/08(土) 放送)
17. 「#479. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック(矢冨弘&堀田隆一) --- Part 14」(2022/09/22(木) 放送)
18. 「#374. ラテン語から借用された前置詞 per, plus, via」(2022/06/09(木) 放送)
19. 「#399. 英語学習は「毒を食わば皿まで」で行こう!」(2022/07/04(月) 放送)
20. 「#288. three にまつわる語源あれこれ ― グリムの法則!」(2022/03/15(火) 放送)
21. 「#411. 英仏独語教育間の微妙な関係」(2022/07/16(土) 放送)
22. 「#486. 英語と他の主要なヨーロッパ言語との関係 ー 仏西伊葡独語」(2022/09/29(木) 放送)
23. 「#226. 英語の理屈ぽい文法事項は18世紀の産物」(2022/01/12(水) 放送)
24. 「#344. the virtual world of a virile werewolf 「男らしい狼男のヴァーチャルな世界」 --- 同根語4連発」(2022/05/10(火) 放送)
25. 「#360. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- Part 5」(2022/05/26(木) 放送)
26. 「#448. 言語学の6つの基本構成部門」(2022/08/22(月) 放送)
27. 「#359. 総合的な古英語から分析的な現代英語へ --- 英文法の一大変化」(2022/05/25(水) 放送)
28. 「#301. was と were の関係について整理しておきましょう」(2022/03/28(月) 放送)
29. 「#357. 英語の単語間にスペースを置くことを当たり前だと思っていませんか?」(2022/05/23(月) 放送)
30. 「#413. 本を表わす英単語の語源」(2022/07/18(月) 放送)
31. 「#368. 英語とフランス語で似ている単語がある場合の5つのパターン」(2022/06/03(金) 放送)
32. 「#432. なぜ短縮形 that's はあるのに *this's はないの?」(2022/08/06(土) 放送)
33. 「#383. 本来語に負けてしまったフランス語の例?」(2022/06/18(土) 放送)
34. 「#377. suggest, collect, direct ー なぜ英語はラテン語の過去分詞を動詞原形として取り入れているの?」(2022/06/12(日) 放送)
35. 「#318. can't, cannot, can not ー どれを使えばよいの?」(2022/04/14(木) 放送)
36. 「#375. 接尾辞 -ing には3種類あるって知っていましたか?」(2022/06/10(金) 放送)
37. 「#230. very はフランス語から借りてきた形容詞だった!」(2022/01/16(日) 放送)
38. 「#253. なぜ who はこの綴字で「フー」と読むのか?」(2022/02/08(火) 放送)
39. 「#450. 英語学・英語史と統語論」(2022/08/24(水) 放送)
40. 「#490. 近代以降のフランス借用語」(2022/10/03(月) 放送)
41. 「#364. YouTube での「go/went 合い言葉説」への反応を受けまして」(2022/05/30(月) 放送)
42. 「#437. まさにゃんとの対談 ― メガフェップスとは何なの?」(2022/08/11(木) 放送)
43. 「#322. butter, cheese, pepper ー 大陸時代に英語に入っていたラテン単語たち」(2022/04/18(月) 放送)
44. 「#218. shall とwill の使い分け規則はいつからあるの?」(2022/01/04(火) 放送)
45. 「#410. 「腕」 arm と「武器」 arms の関係」(2022/07/15(金) 放送)
46. 「#423. 寺澤盾先生との対談 英語の標準化の歴史と未来を考える」(2022/07/28(木) 放送)
47. 「#250. ノルマン征服がなかったら英語はどうなっていたでしょうか?」(2022/02/05(土) 放送)
48. 「#527. right の多義性 --- 「正しい」「右」「権利」」(2022/11/09(水) 放送)
49. 「#227. なぜ規範文法は18世紀に流行ったの?」(2022/01/13(木) 放送)
50. 「#329. フランス語を学び始めるならば,ぜひ英語史概説も合わせて!」(2022/04/25(月) 放送)
昨日の記事「#4994. There is no accounting for tastes 「蓼食う虫も好き好き」」 ([2022-12-29-1]) で取り上げた諺は,よく知られた there is no ---ing 「---することはできない」の動名詞構文の例となっている.One cannot account for tastes. や It is impossible to account for tastes. と言い換えられる意味だ.
この諺は18世紀末に初出し,後期近代の比較的新しいものといえるが,there is no ---ing の動名詞構文そのものは,どのくらい古くまで歴史を遡れるのだろうか.OED の no, adj. によると,13世紀の修道女マニュアル Ancrene Riwle に初出する.構文としては it is no ---ing などの変異形もみられる (cf. 「#4790. there や they に相当する中英語の it の用法」 ([2022-06-08-1])) .以下 OED からの引用だが,構文上興味深い部分を赤で示してみた.
4. Modifying a verbal noun or gerund used as the predicate, denoting the impossibility of the action specified. Chiefly with non-referential there (also †it) as subject.
[c1230 (?a1200) Ancrene Riwle (Corpus Cambr.) (1962) 149 Hwen þe delit iþe lust is igan se ouerforð þet ter nere nan wiðseggunge ȝef þer were eise to fulle þe dede.]
a1400 (a1325) Cursor Mundi (Vesp.) 23812 (MED) Quen we it proue þat es to late, Es þar na mending þan þe state.
1523 Ld. Berners tr. J. Froissart Cronycles I. ccclxxxvi. 657 It is no goynge thyder, without ye wyll lose all.
1560 Bible (Geneva) Nahum iii. 19 There is no healing of thy wounde.
a1593 C. Marlowe Edward II (1594) sig. D4v Cosin it is no dealing with him now.
a1616 W. Shakespeare Two Gentlemen of Verona (1623) ii. i. 146 Val. No, beleeue me. Speed. No beleeuing you indeed sir.
a1643 J. Shute Sarah & Hagar (1649) 108 So the people were so impetuously set upon their lusts, that there was no speaking to them.
1719 D. Defoe Farther Adventures Robinson Crusoe 39 There was no keeping Friday in the Boat.
1753 Gray's Inn Jrnl. No. 54 There is no going any where without meeting Pretenders in this Way.
1820 W. Irving Sketch Bk. vii. 117 Do what they might, there was no keeping down the butcher.
1849 W. M. Thackeray Pendennis (1850) I. xv. 138 There's no accounting for tastes, sir.
1895 A. I. Shand Life E. B. Hamley I. ii. 21 There was no mistaking the meaning of the invitation, and there was no declining it.
1954 A. Thirkell What did it Mean? 87 There would be no getting hold of the girls as the evenings got longer.
1975 Times 6 Dec. 8/5 Try Village Prospects..R 3 again, I fear, but no avoiding it.
2001 Financial Times 27 Jan. 8/4 There is no mistaking African anger at the external barriers they confront.
古英語からすでに発達していた存在文 (existential_sentence) と,中英語期にようやく発達し始めた動名詞が,合体して生まれた構文といってよいだろう.存在文については「#1565. existential there の起源 (1)」 ([2013-08-09-1]) と「#1566. existential there の起源 (2)」 ([2013-08-10-1]),「#4473. 存在文における形式上の主語と意味上の主語」 ([2021-07-26-1]) を参照.
「#4992. absence 「不在」に関する英語の諺2つ」 ([2022-12-27-1]) で述べたとおり,スキマ時間に英語の諺辞典を A から順に読み進めている.読み始めて間もなく accounting をキーワードとする標記の有名な諺に出会った.「蓼食う虫も好き好き」,他人の好みを説明することはできない,とりわけ自分にとって魅力を感じない嗜好をもっている人の考えていることはわらかない,という教訓だ.ラテン語 de gustibus non est disputandum "There is no disputing about tastes" にきれいに対応する.
ODP6 によると英語での初例は1794年となっている.
1794 A. Radcliffe Mysteries of Udolpho I. xi. I have often thought the people he disapproved were much more agreeable than those he admired; --- but there is no accounting for tastes. 1889 Gissing Nether World II. viii. There is no accounting for tastes. Sidney . . . not once . . . congratulated himself on his good fortune. 1985 R. Reeves Doubting Thomas iv. 'You're usually in here with a little guy, wears a rug. Looks like he gets his suits from Sears. Paisley ties. . . . There's no accounting for taste.' 2014 Spectator 13 Dec. 75 I read of an ornament which is 'a plywood cutout of a giant boiled egg', but there's no accounting for taste, even bad taste.
近年では単数形(不可算名詞) taste を用いる例も多いようだ.語感としては,複数形の tastes の場合には,人々の嗜好がバラバラで多様であることをそのまま容認する感じ(相対主義)で,単数形の taste の場合には,自分の嗜好も含めて人間の嗜好というものは説明できないものだという達観した感じ(絶対主義)が強いように思われるが,どうだろうか.前文を受けて but の後に用いられることが多いようで,多かれ少なかれ「仕方がないね」という含意があるようだ.
この諺の異形としては単純な Tastes differ もあり,こちらもほぼ同時期の19世紀初頭に初出している.
・ Speake, Jennifer, ed. The Oxford Dictionary of Proverbs. 6th ed. Oxford: OUP, 2015.
呼称 (address_term) や称号の類いは音形が短くなりやすいという.言われてみればそのように思われる.Bybee (42) の短い説明だが,なるほどと思った.
Terms of address also tend to undergo special reduction. Spanish usted 2nd person singular developed out of the longer and more elegant phrase vuestra merced 'your grace'. Old English hlafweard which contains the roots hlaf 'loaf' and weard 'keeper' is reduced to hlaford and eventually lord. Both Mrs. [mɪsɨz] or [mɪzɨz] and Miss [mɪs] are reduced forms of mistress.
呼称が短化しやすいのは,1つには日常的によく発せられる表現だからだろう.人々の口に頻繁にのぼるからこそ,音形に弱化や短縮が起こりやすいといえそうだ.一般に英語の人称代名詞(一種の呼称といってよい語類)には弱形と強形があるが,高頻度だからこそ短化にさらされやすいわけだし,極端に短化する,つまりゼロになることを嫌い,かえって強化する必要にもさらされるのだろう (cf. 「#3713. 機能語の強音と弱音」 ([2019-06-27-1]),「#1198. ic → I」 ([2012-08-07-1]),「#2076. us の発音の歴史」 ([2015-01-02-1]),「#2077. you の発音の歴史」 ([2015-01-03-1]).
もう1つは,特に Lord や Mrs. のように称号として用いられ,次に人名が続く場合には,個人を強く特定する力をもつ人名の部分にこそ強勢が置かれるのが自然で,前置される称号が相対的に弱く発音されやすいという事情があるのではないか.
ところで,上記の lord (古英語の原義は「パンを守る男」)のみならず,lady も古英語の原義が「パンをこねる女」だったように,実は複合語だった.現代英語の共時的な観点からは複合語に見えないため,このような語を偽装複合語 (disguised_compound) と呼んでいる (cf. 「#23. "Good evening, ladies and gentlemen!"は間違い?」 ([2009-05-21-1]),「#260. 偽装合成語」 ([2010-01-12-1])).英語史ではおもしろい語源の話題としてよく知られているが,なぜこの2語がここまで短化したのかという理由を考えたことはなかった.今回,Bybee の指摘にハッとした次第.呼称は短化しやすいのだ.
今回の話題と関連して,「#895. Miss は何の省略か?」 ([2011-10-09-1]),「#1950. なぜ Bill が William の愛称になるのか?」 ([2014-08-29-1]),「#1951. 英語の愛称」 ([2014-08-30-1]),「#3408. Elizabeth の数々の異名」 ([2018-08-26-1]),「#4404. 日本語由来の敬称 san」 ([2021-05-18-1]) なども参照.
・ Bybee, Joan. Language Change. Cambridge: CUP, 2015.
手持ちの The Oxford Dictionary of Proverbs (6th ed.) を A から順に眺めている.この年末年始にでも少しずつ読み進めていこうと思っている.英語の諺 (proverb) には古い文法や語法が残っていることが多く,英語史と親和性があるのだ.
早速,1ページ目に absence 「不在」に関する諺が2つ出てきた.absence と聞けば,諺にふさわしいどのような人生の知恵を思い浮かべるだろうか.私には想像できなかったが,たいへん異なる2つの諺が飛び出してきて驚いた.
1つめは Absence makes the heart grow fonder である.ある人が不在だと,その人をますます好きになってしまうという教訓だ.ODP を読んでいておもしろいのは,他言語での関連する表現や,英語史上での変異形とその用例を示してくれる点だ.この諺について関連するラテン語の表現が記されている.
Cf. PROPERTIUS elegies II. xxxiiib. I. 43 semper in absentes felicior aestus amantes, passion [is] always warmer towards absent lovers.
英語史上の用例もいくつか挙げられており,最初の例はc1850年のものである.興味深く感じたのは,1923年の Observer 11 Feb. 9 からの用例である.反意の諺として有名な Out of sight, out of mind が言及されている.
These saws are constantly cutting one another's throats. How can you reconcile the statement that 'Absence makes the heart grow fonder' with 'Out of sight, out of mind'?
2つめの諺は He who is absent is always in the wrong である.いわゆる欠席裁判のことだ.欠席者は悪者にされ,不利な立場に追い込まれるというものだ.1640年の諺辞典に "The absent partie is still faultie" と現われているのが初出だが,関連する表現は15世紀の Lydgate に出ている.フランス語にも対応表現があるようだ.
If a person is not present to defend himself it is easy for others to say he is the person at fault. Cf. Fr. les absents ont toujours tort; c 1440 J. LYDGATE Fall of Princes (EETS) m. l. 3927 For princis ofte . . . Wil cachche a qu[a]rel . . . Ageyn folk absent.
1736年の例も機知に富んでいる.
1736 B. FRANKLIN Poor Richard's Almanack (July) The absent are never without fault, nor the present without excuse.
1つのキーワードから様々な発想を引き出すことができた.諺辞典の新たな用途をみつけた感がある.ちなみに今朝の Voicy の「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」でも「#575. 英語諺辞典を A から読み始めています!」と題して連動するおしゃべりをしています.ぜひお聴きください.
・ Speake, Jennifer, ed. The Oxford Dictionary of Proverbs. 6th ed. Oxford: OUP, 2015.
昨日の記事「#4990. 動詞を作る -ize/-ise 接尾辞の歴史」 ([2022-12-25-1]),および以前の「#305. -ise か -ize か」 ([2010-02-26-1]),「#314. -ise か -ize か (2)」 ([2010-03-07-1]) の記事と合わせて,改めて -ise か -ize かの問題について考えたい.今回は文献参照を通じて2つほど論点を追加する.
昨日の記事で,OED が -ize の綴字を基本として採用している旨を紹介した.<z> を用いるほうがギリシア語の語源に忠実であり,かつ <z> ≡ /z/ の関係がストレートだから,というのが採用の理由である.しかし,この OED の主張について,Carney (433) が -ise/-ize 問題を解説している箇所で疑問を呈している.有用なので解説全体を引用しておこう.
17 /aɪz/ in verbs as <-ise>, <-ize>
The <-ize> spelling reflects a Greek verbal ending in English words, such as baptize, organize, which represent actual Greek verbs. There are also words that have been made up to imitate Greek, in later Latin or in French (humanise), or within English itself (bowdlerise). Some printers adopt a purist approach and spell the first group with <-ize> and the second group with <-ise>, others have <-ize> for both.
Since this difference is opaque to the ordinary speller, there is pressure to standardize on the <s> spelling, as French has done. To standardize with a <z> spelling as American spelling has done has disadvantages, because there are §Latinate verbs ending in <-ise> which have historically nothing to do with this suffix: advertise, apprise, circumcise, comprise, supervise, surmise, surprise. If you opt for a scholarly <organize>, you are likely to get an unscholarly *<supervize>. The OED argues that the pronunciation is /z/ and that this justifies the <z> spelling. But this ignores the fact that <s>≡/z/ happens to be the commonest spelling of /z/. To introduce more <z> spellings would probably complicate matters for the speller.
もう1つの論点は,イギリス英語の -ise はフランス語式の綴字を真似たものと理解してよいが,その歴史的な詳細については調査の必要があるという点だ.というのは,フランス語でも長らく -ize は使われていたようだからだ.ここで,フランス語でいつどのように -ise の綴字が一般化したのかが問題となる.また,(イギリス)英語がいつどのように,そのようなフランス語での -ise への一般化に合わせ,-ise を好むようになったのかも重要な問いとなる.Upward and Davidson (170--71) の解説の一部がヒントになる.
The suffix -IZE/-ISE
There are some 200 verbs in general use ending in the suffix -ISE/-IZE, spelt with Z in American usage and s or z in British usage. The ending originated in Gr with z, which was transmitted through Lat and OFr to Eng beginning in the ME period.
・ Three factors interfered with the straightforward adoption of z for all the words ending in /aɪz/:
- The increasing variation of z/s in OFr and ME.
- The competing model of words like surprise, always spelt with s (-ISE in those words being not the Gr suffix but part of a Franco-Lat stem).
- Developments in Fr which undermined the z-spelling of the Gr -IZE suffix; for example, the 1694 edition of the authoritative dictionary of the Académie Française standardized the spelling of the Gr suffix with s (e.g. baptiser, organiser, réaliser) for ModFr in accordance with the general Fr rule for the spelling of /z/ between vowels as s, and the consistent use of -ISE by ModFr from then on gave weight to a widespread preference for it in British usage. American usage, on the other hand, came down steadfastly on the side of -IZE, and BrE now allows either spelling.
英語の -ise/-ize 問題の陰にアカデミー・フランセーズの働きがあったというのはおもしろい.さらに追求してみたい.
・ Carney, Edward. A Survey of English Spelling. Abingdon: Routledge, 1994.
・ Upward, Christopher and George Davidson. The History of English Spelling. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2011.
動詞を作る接尾辞 -ize/-ise について,いずれのスペリングを用いるかという観点から,「#305. -ise か -ize か」 ([2010-02-26-1]),「#314. -ise か -ize か (2)」 ([2010-03-07-1]) で話題にしてきた.今回は OED の記述を要約しながら,この接尾辞の歴史を概説する.
-ize/-ise はギリシア語の動詞を作る接尾辞 -ίζειν に遡る.人や民族を表わす名詞について「~人(民族)として(のように)振る舞う」の意味の動詞を作ることが多かった.現代英語の対応語でいえば barbarianize, tyrannize, Atticize, Hellenize のような例だ.
この接尾辞は3,4世紀にはラテン語に -izāre として取り込まれ,そこで生産力が向上していった.キリスト教や哲学の用語として baptizāre, euangelizāre, catechiizāre, canōnizāre, daemonizāre などが生み出された.やがて,ギリシア語の動詞を借用したり,模倣して動詞を造語する際の一般的な型として定着した.
この接尾辞は,中世ラテン語やヴァナキュラーにおいて,やがて一般的にラテン語の形容詞や名詞から動詞を作る機能をも発達させた.この機能の一般化はおそらくフランス語において最初に生じ,そこでは -iser と綴られるようになった.civiliser, cicatriser, humaniser などである.
英語は中英語期よりフランス語から -iser 動詞を借用する際に,接尾辞をフランス語式に基づいて -ise と綴ることが多かった.この接尾辞は,後に英語でも独自に生産性を高めたが,その際にラテン語やフランス語の要素を基体として動詞を作る場合には -ise を,ギリシア語の要素に基づく場合にはギリシア語源形を尊重して -ize を用いるなどの傾向も現われた.しかし,この傾向はあくまで中途半端なものだったために,-ize か -ise かのややこしい問題が生じ,現代に至る.OED の方針としては,語源的であり,かつ /z/ 音を文字通りに表わすスペリングとして -ize に統一しているという.
なお,英語のこの接尾辞に2重母音が現われることについて,OED は次のように述べている.
In the Greek -ιζ-, the i was short, so originally in Latin, but the double consonant z (= dz, ts) made the syllable long; when the z became a simple consonant, /-idz/ became īz, whence English /-aɪz/.
2022年のクリスマス・イヴです.この時期の英語での「時候の挨拶」は,いわずとしれた Merry Christmas! ですね.オリジナルの形は (I wish you a) merry Christmas! ほどで,挨拶 (greetings) のために先行する部分が省略された事例です.イギリス英語ではしばしば Happy Christmas! ともいわれ,宗教色を控えてHappy Holidays! なども用いられます.関連して「#4284. 決り文句はほとんど無冠詞」 ([2021-01-18-1]),「#4259. クリスマスの小ネタ5本」 ([2020-12-24-1]) もご一読ください.
Merry Christmas について OED を調べてみると,この挨拶の初出は初期近代英語期の1534年のことです.1534年といえば,ヘンリー8世がローマ教会と決別して英国国教会 (Church of England) を成立させた年ですね.16世紀からの最初期の3例文を挙げましょう.
1534 J. Fisher Let. 22 Dec. in T. Fuller Church Hist. Eng. (1837) v. iii. 47 And thus our Lord send yow a mery Christenmas, and a comfortable, to yowr heart desyer.
1565 J. Scudamore Let. 17 Dec. in Hereford Munic. MSS (transcript) (O.E.D. Archive) I. ii. 209 And thus I comytt you to god, who send you a mery Christmas & many.
1600 W. Shakespeare Henry IV, Pt. 2 v. iii. 36 Welcome mery shrouetide.
最初期は,共起する動詞は wish よりも send が普通だったのでしょうか.Lord 「主」から贈られる言葉だったようですね.
中英語期までは,代わりにアングロノルマン語由来の Nowell が「クリスマス」の意味および挨拶のために用いられていました (cf. フランス語 (Je souhaite un) joyeux No&etrema;l!) .OED の Nowell, int. and n. の第1語義と初例を覗いてみましょう.初例はジェフリー・チョーサー (Geoffrey Chaucer) の『カンタベリ物語』 (The Canterbury Tales) からです.
A. int.
A word shouted or sung: expressing joy, originally to commemorate the birth of Christ. Now only as retained in Christmas carols (cf. NOEL n.).
c1395 G. Chaucer Franklin's Tale 1255 Biforn hym stant brawen of tosked swyn, And Nowel crieth euery lusty man.
ちなみに,Nowell は「クリスマスの饗宴」の語義もあり,これは『ガウェイン卿と緑の騎士』 (Sir Gawain and the Green Knight) の冒頭に近いアーサー王の宮廷の場面での使用が初例となっています.
c1400 (?c1390) Sir Gawain & Green Knight (1940) 65 (MED) Loude crye watz þer kest of clerkez & o綻er, Nowel nayted o-newe, neuened ful ofte.
クリスマス関連の語彙については,OED ブログより A Christmassy Lexicon の記事をお勧めします.
ということで,今日は中世風に Nowell!
「#4986. 日本語で増えてきている感嘆符」 ([2022-12-21-1]),「#4987. 英語の感嘆符の使いすぎ批判は19世紀から」 ([2022-12-22-1]) と続けて感嘆符 "!" の話題を取り上げてきた.日本語では「感嘆符」のほか「びっくりマーク」「雨だれ」「しずく」「エクスクラメーションマーク」「エクスクラメーションポイント」などの呼び名があるようだが,英語でもいくつかの呼称がある.OED の exclamation, n. と admiration, n. より次の通り.合わせて初例も示す.
4c. note of exclamation, point of exclamation, also (originally U.S.) exclamation mark, exclamation point: a punctuation mark (!) indicating an exclamation; ; cf. note (also mark, point, †sign) of admiration at ADMIRATION n. Phrases 2. Also figurative.
1656 J. Smith Myst. Rhetorique Unvail'd 271 A note of Exclamation or Admiration, thus noted!
P2. note (also mark, point, †sign) of admiration: = exclamation mark at EXCLAMATION n. 4c.
1611 R. Cotgrave Dict. French & Eng. Tongues at Admiratif Th' admirative point, or point of admiration (and of detestation) marked, or made thus !
admiration 系列の呼称は現在ではほとんど使われないようだが,英語史での初出は exclamation 系列よりも早い.フランス語 admiratif からのインスピレーションのようだ.
1755年の Johnson の辞書では,感嘆符は EXCLAMATION の項の第3語義として挙げられている.
呼び名と連動して,英語におけ感嘆符の使用の歴史もやはり近代以降のことである.さほど古いわけではない.これは現代的な句読点に一般的にいえることである.関連して「#575. 現代的な punctuation の歴史は500年ほど」 ([2010-11-23-1]),「#2666. 初期近代英語の不安定な句読法」 ([2016-08-14-1]) などを参照されたい.
昨日の記事「#4986. 日本語で増えてきている感嘆符」 ([2022-12-21-1]) で,日本語における感嘆符の用法を確認した.昨今のネット上での日本語使用では感嘆符が飽きるほど使われているが,そういう私自身もついつい用いてしまう.しかし,この傾向は,昨日の記事にも記した通り,山田美妙の生きた19世紀後半からあったにはあったのだ.
英語ではどうかといえば,やはり感嘆符を多用してしまう傾向は避けがたかったようで,使いすぎ批判は現代を待たずとも19世紀からあったという.Crystal (177) が英語の句読点に関する本で次のように述べている.Mark Twain (1835-1910) も登場してくる.
No other punctuation mark has attracted such criticism in modern times as the exclamation mark. The antagonism isn't restricted to pedantic stylists. Some very well-known authors have taken against them. Mark Twain opens his essay 'How to Tell a Story' (1897) by warning comic writers against the depressing habit of shouting at the reader, including the use of 'whooping exclamation-points', which, he says, makes him 'want to renounce joking and lead a better life'. And there's a much-quoted remark attributed to F Scott Fitzgerald: 'Cut out all these exclamation points', adding 'An exclamation point is like laughing at your own joke.' Repeated marks attract particular criticism. One of the characters in Terry Pratchett's Discworld novel Eric (1990) insists that 'Multiple exclamation marks are a sure sign of a diseased mind.'
The antipathy seems to have set in during the late nineteenth century, as part of a general feeling that writers, editors, and printers had rather overdone their preference for heavy punctuation. We see exclamation marks littering the pages in editions of Shakespeare, for instance. Take this line from Romeo and Juliet when the Nurse tries to wake Juliet (4.5.12). Modern editions (such as Arden, Oxford, Penguin) print it thus:
What, dressed, and in your clothes, and down again?
The Albion edition of the plays (1889) prints it thus:
What, dress'd! and in your clothes! and down again!
感嘆符は,読み手としては目に付いてうるさく感じるのだが,書き手の立場になると容易に使ってしまう.感嘆符は書き手に過剰使用を促すような性質をもっているのだろうか.
・ Crystal, David. Making a Point: The Pernickety Story of English Punctuation. London: Profile Books, 2015.
12月12日の朝日新聞の「番外天声人語」にて,日本語における感嘆符 (exclamation_mark) の頻用が議論されていた.たいへんおもしろかったので抜粋して引用する. *
これから日本語の世界で感嘆符がより存在感を増すかもしれない.
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成蹊大の大橋崇行・准教授(43)によると,日本で感嘆符が盛んに使われ始めたのは1887(明治20)年あたりから.とりわけ若手の人気作家だった山田美妙(びみょう)が駆使した.当時は!に定訳がなく,美妙は「ホコ」と呼んだとか.
. . . .
代表作『蝴蝶(こちょう)』と『いちご姫』を読んでみた.迎え!良心!思わぬ!どうしたら!擁護擁護!たしかに感嘆符が多すぎる.しかも打ち方に規則性がなく,物語のヤマ場では乱れ打ちも.読みながらやや目に疲れを覚えた.
そんな美妙にも節度はあった.1マスに打つのは1個まで.手もとの小説に!!は見られない.若き作家が感嘆符を広めて約135年.もしいま,わがスマホの画面を飛び交う!の山を見たらいかに驚くことか!!!
日本語における感嘆符の使用について『句読点,記号,符号活用辞典』で調べてみたが,ますますおもしろい.詳しくは『辞典』の (pp. 32--35) を見て欲しいのだが,この辞典の素晴らしさを知ってしまった.感嘆符(エクスクラメーションマーク,エクスクラメーションポイント,びっくりマーク,雨だれ,しずく)の使用法のポイントの部分を抜き出して以下に引用する.
[1] 欧文の句読点の1つ.文末や間投詞に付けて,声や感情の高まりを表す.
(A) その言葉が声を高めて発せられたことを表す.
(B) 感嘆文の末尾に付ける.
(C) 命令文,また,禁止・警告などを表す文言の末尾に付けて,強い命令・禁止・警告を表す.
(D) 平叙文の末尾や間投詞などに付けて,感動・詠嘆・興奮・驚き・怒りなど,書き手や作中人物の感情・思い入れを表す.
(E) 擬声語などに付けて,音や動きを強調する."Bang!" など.
(F) 広告・宣伝文,新聞・雑誌の見出しなどで,その事柄を強く押しだし,強調する.
[2] 和文で,[1] と同様に用いる.明治20(1887)年ごろから使われだした.
(A) その言葉が声を高めて発せられたことを表す.
(B) 感動・詠嘆・興奮・驚き・怒り・焦燥・断定など,書き手や作中人物の感情・思い入れを強調する.
(C) 音響,速い動き,動揺などを表す擬声語・擬態語に付けて,音や動きを強調する.
(D) 広告・宣伝文,標語,新聞・雑誌の見出しなどで,その事柄を強く押しだし,強調する.「世紀の巨編 いよいよ完成!」「忽ち増刷!」「××法改悪反対!」など.
[3] 文中の語句のあとに挿入して,驚き・皮肉などの気分を表す.( )に入れて挿入するが,( )なしでそのまま挿入することもある.
[4] 小説・漫画などで,会話のカギかっこや吹き出しの中に感嘆符だけ示して,驚きなどの気持ちの表現とする.
[5] 多く,三角形のなかに「!」を描いて,注意を呼びかけるマークとする.道路標識(本標識)では,「その他の危険」を表す警戒標識.
[6] 商標・商品名などの要素として文字列に付けて使われる."YAHOO!®" など.
[7] 数学で,「n!」と標記して階乗を表す.1から n までの連続する自然数をすべて掛け合わせる.「5!」 (=5×4×3×2×1) など.
[8] チェスの棋譜で,好手を表す.
補注
1 強調形として「!!」(二重感嘆符),「!!!」(三重感嘆符)も使われる.
2 疑問府を感嘆符を合わせて「抑揚符」ともいう.
「番外天声人語」と『句読点,記号,符号活用辞典』を通じて,西洋語由来の感嘆符について学ぶことが多かった.感嘆符の話題と関連して「#574. punctuation の4つの機能」 ([2010-11-22-1]) や「#3891. 現代英語の様々な句読記号の使用頻度」 ([2019-12-22-1]) も参照.
・ 小学館辞典編集部(編) 『句読点,記号,符号活用辞典』 小学館,2007年.
京都大学の家入葉子先生と堀田の共著となる,英語史研究のハンドブック『文献学と英語史研究』が開拓社より出版されます.発売は新年の1月中旬辺りになりますが,Amazon ではすでに予約可能となっています(A5版,264ページ,税込3,960円).
本書は,開拓社の最新英語学・言語学シリーズ(全22巻の予定)の第21巻としての位置づけで,それ自体が変化と発展を続けるエキサイティングな分野である「英語史」と「英語文献学」の過去40年ほどの研究動向を振り返りつつ,未来への新たな方向を提案するという趣旨となっています.なお,本書の英文タイトルは Current Trends in English Philology and Historical Linguistics です.
本書で取り上げている話題は,英語史研究の潮流と展望,資料とデータ,音韻論,綴字,形態論,統語論が主です.英語史分野で研究テーマを探すためのレファレンスとして利用できるほか,通読すれば昨今の英語史分野で何が問題とされ注目されているのかの感覚も得られると思います.本の扉にある【本書の内容】は以下の通りです.
文献資料の電子化が進んだ20世紀の終盤以降は,英語史研究においてもコーパスや各種データベースが標準的に利用されるようになり,英語文献研究は飛躍的な展開を遂げた.英語史研究と現代英語研究が合流して英語学の分野間の連携が進んだのも,この時代の特徴である.本書はこの潮流の変化を捉えながら,音韻論・綴字・形態論・統語論を中心に最新の英語史研究を紹介するとともに,研究に有用な電子的資料についても情報提供する.
章立ては以下の通りです.章ごとに執筆者は分かれていますが,互いに原稿を交換し検討が加えられています.
第1章 英語史研究の潮流 (執筆者:家入)
第2章 英語史研究の資料とデータ (堀田,家入)
第3章 音韻論・綴字 (堀田)
第4章 形態論 (堀田)
第5章 統語論 (家入)
第6章 英語史研究における今後の展望にかえて (家入)
家入先生がウェブ上ですでに本書の紹介をされていますので,リンクを張っておきます.
・ 研究・授業関連の投稿ページ
・ 「コトバと文化のフォーラム - Castlecliffe」のブログ記事
本書については,今後 hellog や Voicy の「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」などの媒体で情報発信していく予定です.長く参照され続ける本になればと思っています.どうぞよろしくお願いいたします.
・ 家入 葉子・堀田 隆一 『文献学と英語史研究』 開拓社,2022年.
開拓社より,英語史研究会の出版シリーズ企画となる論文集第9号が出版されました.Variational Studies on Pronominal Forms in the History of English です.英語史における代名詞をテーマに,8名の著者による7本の論文が収められています.ご献本いただきました,ありがとうございます.
著者は私がいつもお世話になっている方々ばかりなので,それだけでも興奮してしまう論文集なのですが,テーマが英語史における(主に人称)代名詞 (pronoun, personal_pronoun) であるという点でも読み応えがあります.英語史研究では,代名詞は様々な角度から迫ることのできる「問題の多い」語類です.今回の論文集では後期中英語から現代英語期にかけての代名詞の諸問題が取り上げられており,英語史における代名詞研究の多様性と魅力に改めて気づかされます.序章の冒頭 (1) に次のようにあります.
The English pronoun is a complex category in terms of form and function, and its history provides numerous opportunities for the exploration of processes involved in linguistic evolution. This booklet has been compiled as part of this exploration, focusing on English pronouns in their historical context.
論文集のラインナップは次の通りです.
Introduction
Yoko Iyeiri, Jeremy Smith, Hiroshi Yadomi & David Selfe
Syntactic Function and Pronominal Form in Late Middle English
Jeremy J. Smith
From Tho to Those in Fifteenth-Century English
Yoko Iyeiri
Wh to-infinitive Constructions in Early Modern English Drama with Special Reference to Shakespeare
Shota Kikuchi
Strategies of Power and Distance in the Trial Record of King Charles I: Combinations of Personal Pronouns and Modality in Speech Acts
Michi Shiina & Minako Nakayasu
Macro- and Micro-Pragmatic Approaches to Thou and You in John Donne's Sermons
Hiroshi Yadomi
Thou and Ye in Nineteenth-Century American Novels
Masami Nakayama
The Use of THOU in George Bernard Shaw's Plays
Ayumi Nonomiya
後半の3本は,英語史上著名な thou/you の区別の問題を扱っています.本ブログでも関連した話題を cat:t/v_distinction の各記事で取り上げてきましたので参考までに.
・ Iyeiri, Yoko, Hiroshi Yadomi, David Selfe, and Jeremy Smith, eds. Variational Studies on Pronominal Forms in the History of English. Studies in the History of the English Language 9. Tokyo: Kaitakusha, 2022.
Voicy の「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」を始めて1年半ほどになります.日々多くのリスナーの皆さんに聴いていただいています.ありがとうございます.
数ヶ月前,夏の時期だったと思いますが,Voicy のパーソナリティサクセスの「えのちゃん」(榎本彩花さん)より連絡があり,heldio のコンテンツを YouTube 化して音声を聴くきっかけを広げる企画に挑戦しているとの話しを伺いました.多様な形式で届けることで,Voicy の存在をより広く知ってもらいたい,ということです.拙チャンネル heldio は教育・学術系ということもあり,まずは無難に動画化に着手しやすいジャンルということなのでしょうか,毎月いくつかの放送回を選んで YouTube に載せていただくということになりました(私自身は何も働いていないのですが).
まだ試験的な雰囲気ではありますが,すでにいくつかの放送回が YouTube に挙がっています.私自身が確認できた範囲内でのお知らせですが,以下にリンクを張っておきます.普段 Voicy でお聴きのリスナーの皆さんにとっては,動画で観る(聴く)といっても特に新しいことはないのですが,えのちゃんチョイスの放送回という付加価値はあるかもしれません.
- 【ラジオで豆知識】なんで曜日の英単語は天体なのか(based on heldio 「#299. 曜日名の語源」)
- 【深夜ラジオ】なんで英語とフランス語って似てるの?(based on heldio 「#368. 英語とフランス語で似ている単語がある場合の5つのパターン」
- 【ラジオで豆知識】英語の動詞のあの秘密(based on heldio 「#380. なぜ英語の動詞の原形は特定の語尾で終わらないの?」
- 【英語雑学を聞き流し】面白い英語の語源を覚えるラジオ(ドライブ,リラックス,移動用/睡眠用bgm)(based on heldio 「#396. なぜ I と eye が同じ発音になるの?」)
- 【お風呂入りながら深夜ラジオ】「私の海外体験での最大の成果」(based on heldio 「#406. 常識は非常識,非常識は常識 ― 私の海外体験の最大の成果」
- 【英語雑学を聞き流し】面白い英語の語源を覚えるラジオ(ドライブ,リラックス,移動用/睡眠用bgm)(based on heldio 「#413. 本を表わす英単語の語源」])
各回に付けられたカテゴリーが【ラジオで豆知識】【深夜ラジオ】【英語雑学を聞き流し】【お風呂入りながら深夜ラジオ】というのもいいですね.皆さんにどのように聴いていただいているのか,興味津々です.引き続きよろしくお願いいたします.
名詞 (noun) と代名詞 (pronoun) は2つの異なる品詞とみなすべきか,あるいは後者は前者の一部ととらえるべきか.品詞分類はなかなか厳密にはいかないのが常であり,見方によってはいずれも「正しい」という結論になることが多い.昨今は明確に白黒をつけるというよりは,プロトタイプ (prototype) としてファジーに捉えておくのがよい,という見解が多くなっているのかもしれない.しかし,最終的にはケリをつけないと気持ちが悪いと思うのも人間の性であり,やっかいなテーマだ.
Aarts が両陣営の議論をまとめているので引用する.
[ 名詞と代名詞は異なるカテゴリーとみなすべきである (Aarts, p. 25) ]
・ Pronouns show nominative and accusative case distinctions (she/her, we/us, etc.); common nouns do not.
・ Pronouns show person and gender distinctions; common nouns do not.
・ Pronouns do not have regular inflectional plurals in Standard English.
・ Pronouns are more constrained than common nouns in taking dependents.
・ Noun phrases with common or proper nouns as head can have independent reference, i.e. they can uniquely pick out an individual or entity in the discourse context, whereas the reference of pronouns must be established contextually.
[ 名詞と代名詞は同一のカテゴリーとみなすべきである (Aarts, p. 26) ]
・ Although common nouns indeed do not have nominative and accusative case inflections they do have genitive inflections, as in the doctor's garden, the mayor's expenses, etc., so having case inflections is not a property that is exclusive to pronouns.
・ Indisputably, only pronouns show person and arguably also gender distinctions, but this is not a sufficient reason to assign them to a different word class. After all, among the verbs in English we distinguish between transitive and intransitive verbs, but we would not want to establish two distinct word classes of 'transitive verbs' and 'intransitive verbs'. Instead, it would make more sense to have two subcategories of one and the same word class. If we follow this reasoning we would say that pronouns form a subcategory of nouns that show person and gender distinctions.
・ It's not entirely true that pronouns do not have regular inflectional plurals in Standard English, because the pronoun one can be pluralized, as in Which ones did you buy? Another consideration here is that there are regional varieties of English that pluralize pronouns (for example, Tyneside English has youse as the plural of you, which is used to address more than one person . . . . And we also have I vs. we, mine vs. ours, etc.
・ Pronouns do seem to be more constrained in taking dependents. We cannot say e.g. *The she left early or *Crazy they/them jumped off the wall. However, dependents are not excluded altogether. We can say, for example, I'm not the me that I used to be. or Stupid me; I forgot to take a coat. As for PP dependents: some pronouns can be followed by prepositional phrases in the same way as nouns can. Compare: The shop on the corner and one of the students.
・ Although it's true that noun phrases headed by common or proper nouns can have independent reference, while pronouns cannot, this is a semantic difference between nouns and pronouns, not a grammatical one.
この討論を経た後,さて,皆さんは異なるカテゴリー派,あるいは同一カテゴリー派のいずれでしょうか?
・ Aarts, Bas. "Syntactic Argumentation." Chapter 2 of The Oxford Handbook of English Grammar. Ed. Bas Aarts, Jill Bowie and Gergana Popova. Oxford: OUP, 2020. 21--39.
「#4976. 「分離不定詞」事始め」 ([2022-12-11-1]),「#4977. 分離不定詞は14世紀からあるも増加したのは19世紀半ば」 ([2022-12-12-1]),「#4979. 不定詞の否定として to not do も歴史的にはあった」 ([2022-12-14-1]) の流れを受け,分離不定詞 (split_infinitive) について英語史上のおもしろい事実を1つ挙げたい.
分離不定詞を使用する罪深い人間は infinitive-splitter という呼称で指さされることを,先の記事 ([2022-12-11-1]) で確認した.OED が1927年にこの呼称の初出を記録している.infinitive-splitter という呼称が初めて現われるよりずっと前,5世紀も遡った時代に,英語史上の真の "infinitive-splitter" が存在した.ウェールズの神学者 Reginald Pecock (1395?--1460) である.
分離不定詞の事例は14世紀(あるいは13世紀?)より見出されるといわれるが,後にも先にも Pecock ほどの筋金入りの infinitive-splitter はいない.彼に先立つ Chaucer はほとんど使わなかったし,Layamon や Wyclif はもう少し多く使ったものの頻用したわけではない.後の Shakespeare や Kyd も不使用だったし,18世紀末にかけてようやく頻度が高まってきたという流れだ.中英語期から初期近代英語期にかけての時代に,Pecock は infinitive-splitter として燦然と輝いているのだ.しかし,なぜ彼が分離不定詞を多用したのかは分からない.Visser (II, § 977; p. 1036) も,次のように戸惑っている.
Quite apart, however, stands Reginald Pecock, who in his Reule (c 1443), Donet (c 1445), Repressor (c. 1449), Folewer (c 1454) and Book of Faith (c 1456) not only makes such an overwhelmingly frequent use of it that he surpasses in this respect all other authors writing after him, but also outdoes them in the boldness of his 'splitting'. For apart from such patterns as 'to ech dai make him ready', 'for to in some tyme, take', 'for to the better serve thee', which are extremely common in his prose, he repeatedly inserts between to and the infinitive adverbial adjuncts and even adverbial clauses of extraordinary length, e.g. Donet 31, 17, 'What is it for to lyue þankingly to god ...? Sone, it is forto at sum whiles, whanne oþire profitabler seruycis of god schulen not þerbi be lettid, and whanne a man in his semyng haþ nede to quyke him silf in þe seid lovis to god and to him silf and nameliche to moral desires (whiche y clepe here 'loves' or 'willingnis') vpon goodis to come and to be had, seie and be aknowe to god ... þat he haþ receyued benefte or benefetis of god.') . . .
It is not ascertainable what it was that brought Pecock, to this consistent deliberate and profuse use of the split infinitive, which in his predecessors and contemporaries only occurred occasionally, and more or less haphazardly. Neither can the fact be accounted for that he had no followers in this respect, although his works were widely read and studied.
上に挙げられている例文では,不定詞マーカーの forto と動詞原形 seie and be の間になんと57語が挟まれている.Pecock に史上最強の infinitive-splitter との称号を与えたい.
・ Visser, F. Th. An Historical Syntax of the English Language. 3 vols. Leiden: Brill, 1963--1973.
『中高生の基礎英語 in English』の1月号が発売されました.連載「歴史で謎解き 英語のソボクな疑問」の第22回として「なぜヨーロッパの人は英語が上手なの?」に答えています.
この素朴な疑問は,大雑把でナイーヴな問いに響くかもしれません.ヨーロッパ人がみな英語が上手なわけではありませんし,アジアやアフリカを含めた世界の各地に英語が上手な人はたくさんいます.このことは承知の上で,今回の記事をなるべく多くの中高生に届けたいという思いから,あえてこのような表題を掲げた次第です.
中高生に英語学習の早い段階でぜひとも知ってもらいたい重要なことがあります.それは,英語とヨーロッパの主要言語との関係です.将来大学などに進学して英語以外の言語を学ぶことになったとき,あるいは独学で他言語に挑んでみようと思い立ったとき,もしヨーロッパの諸言語を念頭においているのであれば,ぜひ英語,ドイツ語,オランダ語,フランス語,スペイン語,イタリア語などの相互関係について言語学・言語史的な観点から理解しておいてください.学習言語を選択する上で,とても大事な知識だからです.
大学教員である私は日常的に大学生と付き合っていますが,彼らのなかには,英語史の授業などで英語とヨーロッパの諸言語との関係を初めて知ると,第2外国語として○○語ではなくフランス語/ドイツ語を選択しておけばよかった,などと口にする学生がいます.もう1年か2年早く諸言語間の関係を知っていたら△△語を選んでいたのに,と後悔しているようなのです.
中高生の皆さんは,いずれ英語以外の言語を学ぶ可能性があるのであれば,英語と他の言語との関係について知っていたほうが得です.主体的に学習言語を選択できることになるからです.最終的にどの言語を選ぶにせよ,事前に多くの情報をもっておくに越したことはありません.
英語やヨーロッパの主要言語は,いずれもインドヨーロッパ語族と呼ばれる言語家族の一員です.おおまかにいえば言語が互いに似ているのです.しかし,英語と比較してどの点でどのくらい似ているのか,あるいは似ていないのかは,言語ごとに異なります.
ドイツ語とオランダ語は,英語とともにインドヨーロッパ語族のなかでもゲルマン語派という派閥に属しており,文法や発音において互いに似ているところがあります.しかし,実際にドイツ語やオランダ語に触れてみると,英語と同じ派閥に属しているわりには,それほど似ていないという印象を受けるかもしれません.似ているけれども似ていない,似ていないけれども似ている,といった妙な距離感です.
一方,フランス語,スペイン語,イタリア語などは,長らくヨーロッパの共通語だったラテン語とともにインドヨーロッパ語族のなかでもイタリック語派という派閥に属しています.英語とは大きく異なる派閥なのですが,英語は歴史を通じてフランス語やラテン語から多くの単語を借りてきた経緯があるため,語彙に関しては実は共通しているものが非常に多いのです.したがって,これらの言語を学んでみると,表面的には英語とよく似ているという印象を受けます.
英語は,ゲルマン語派にルーツをもつけれどもイタリック語派の影響を大きく受けながら発展してきた言語なのです.単純化していえば,英語はヨーロッパのいくつかの言語を混ぜ合わせたような混合言語といってよいでしょう.皆さんが英語の次に学ぶ言語を選択する際には,ぜひこのことを参考にしてみてください.
今回の話題と関連する Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の放送回としては「#486. 英語と他の主要なヨーロッパ言語との関係 ー 仏西伊葡独語」がお勧めです.ぜひお聴きください.
「#4976. 「分離不定詞」事始め」 ([2022-12-11-1]),「#4977. 分離不定詞は14世紀からあるも増加したのは19世紀半ば」 ([2022-12-12-1]) と続けて分離不定詞 (split_infinitive) の話題を取り上げてきた.その関連で Jespersen を紐解いていて,to と動詞原形の間に否定の副詞 not や never が割って入るタイプの分離不定詞の事例が歴史的にあったことを知った.規範文法では not to do の語順が規則とされているが,必ずしもそうではなかったことになる.Jespersen より解説を引用する.
§20.48. Not and never are often placed before to: Wilde P 38 one of the things I shall have to teach myself is not to be ashamed of it (but to not be would have been clearer) | she wished never to see him again (here never belongs to the inf., but in she never wished . . . it would belong to wished; the sentences are parallel to wished not to . . . : did not wish to . . .) | Maugham MS 140 I trained myself never to show it | Hardy L 77 they thought it best to accept, so as not to needlessly provoke him (note the place of the second adverb) | Macaulay H 1.84 he bound himself never again to raise money without the consent of the Houses | Bromfield ModHero 154 long since she had come never to speak of her at all.
But the opposite word-order is also found: Lewis MS 140 having the sense to not go out | id B 137 I might uv expected you to not stand by me | Browning l.521 And make him swear to never kiss the girls (rhythm!).
数日前に分離不定詞の話題を持ち出したわけだが,この問題はもしかすると,不定詞に限らず準動詞の否定や副詞(句)修飾の語順まで広く見渡してみると,もっとおもしろくなるのではないか.さらにいえば,否定辞の置き場所という英語統語論史上の大きな問題にも,必然的に関わってくるに違いない.
・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part 5. Copenhagen: Munksgaard, 1954.
標記の話題は,本ブログでも Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」でも何度か取り上げてきましたが,改めて YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」で扱ったので,こちらで広報させていただきます.第83弾「ロバート・コードリー(Robert Cawdrey)の英英辞書はゆるい辞書」です.今回はこれまでで一番おもしろおかしく取り上げたと思います.英語史上最初の英英辞書 A Table Alphabeticall (1604) の編纂者である Robert Cawdrey (1537/38--1604) さんに恨まれないとよいのですが.
ABC順に単語が並べられる辞書の本体の最初のページの話しです.aberration の後に abbreuiat が続き,さらにその4語下に再び aberration が現われるという「アルファベット順」のユルユルさ.これはページを眺めているだけで笑ってしまいますね.Cawdrey さんは,序文で辞書の引き方を指南する箇所で,単語の1文字目も2文字目も3文字目もABC順になっているので注意しましょうと懇切丁寧に解説しているだけに,おかしみがさらに増します.愛すべき Cawdrey さん! このユルさ,憎めませんね.
hellog および heldio の関連する話題にリンクを張っておきますので,英国ルネサンスの辞書編纂者 Cawdrey さんとその周辺についてもっと学んでみませんか?
[ hellog ]
・ 「#603. 最初の英英辞書 A Table Alphabeticall (1)」 ([2010-12-21-1])
・ 「#604. 最初の英英辞書 A Table Alphabeticall (2)」 ([2010-12-22-1])
・ 「#586. 辞書の表紙にあるまじき(?)綴字の揺れ」 ([2010-12-04-1])
・ 「#726. 現代でも使えるかもしれない教育的な Cawdrey の辞書」 ([2011-04-23-1])
・ 「#609. 難語辞書の17世紀」 ([2010-12-27-1])
・ 「#4324. 最初の英英辞書は Coote の The English Schoole-maister?」 ([2021-02-27-1])
・ 「#4325. 最初の英英辞書へとつなげた Coote の意義」 ([2021-02-28-1])
・ 「#4326. 最初期の英英辞書のラインは Coote -- Cawdrey -- Bullokar」 ([2021-03-01-1])
・ 「#4327. 羅英辞書から英英辞書への流れ」 ([2021-03-02-1])
・ 「#2930. 以呂波引きの元祖『色葉字類抄』」 ([2017-05-05-1])
・ 「#3365. 以呂波引きの元祖『色葉字類抄』 (2)」 ([2018-07-14-1])
[ heldio ]
・ 「#337. 英語史上最初の英英辞書は Robert Cawdrey の A Table Alphabeticall (1604)」
昨日の記事「#4976. 「分離不定詞」事始め」 ([2022-12-11-1]) で紹介した分離不定詞 (split_infinitive) について,Jespersen が次のような導入を与えている.本当は "split" ではないこと,20世紀前半の Jespersen の時代にあっては分離不定詞への風当たりは緩和されてきていること,用例は14世紀からみられるが増加したのは19世紀半ばからであることなどが触れられている.
§20.41. The term 'split infinitive' is generally accepted for the insertion of some word or words between to and an infinitive---which thus is not really 'split', but only separated from the particle that usually comes immediately before it.
While the phenomenon was formerly blamed by grammarians ("barbarous practice" Skeat in Ch MP 355) and rigorously persecuted in schools, it is now looked upon with more lenient eyes ("We will split infinitives sooner than be ambiguous or artificial" Fowler MEU 560), and even regarded as an improvement (Curme). It is as old as the 14th c. and is found sporadically in many writers of repute, especially after the middle of the 19th c.; examples abound in modern novels and in serious writings, not perhaps so often in newspapers, as journalists are warned against it by their editors in chief and are often under the influence of what they have learned as 'correct' at school. Curme is right in saying that it has never been characteristic of popular speech.
分離不定詞において to と動詞原形の間に割って入る要素は,ほとんどの場合,副詞(句)だが,中英語からの初期の例については,動詞の目的語となる名詞(句)が前置され「to + 目的語 + 動詞」となるものがあったことに注意したい.この用例を Jespersen よりいくつかみてみよう.この語順は近現代ではさすがにみられない.
§20.44. In ME we sometimes find an object between to and the infinitive: Ch MP 6.128 Wel lever is me lyken yow and deye Than for to any thing or thinke or seye That mighten yow offende in any tyme | Nut-Brown Maid in Specimens III. x. 180 Moche more ought they to god obey, and serue but hym alone.
This seems never to be found in ModE, but we sometimes find an apposition to the subject inserted: Aumonier Q 194 Then they seemed to all stop suddenly.
一口に分離不定詞といっても,英語史的にみると諸相があっておもしろそうだ.
・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part 5. Copenhagen: Munksgaard, 1954.
「#301. 誤用とされる英語の語法 Top 10」 ([2010-02-22-1]) でも言及したように分離不定詞 (split_infinitive) は規範文法のなかでも注目度(悪名?)の高い語法である.これは,to boldly go のように,to 不定詞を構成する to と動詞の原形との間に副詞など他の要素が入り込んで,不定詞が「分離」してしまう用法のことだ."cleft infinitive" という別名もある.
歴史的には「#2992. 中英語における不定詞補文の発達」 ([2017-07-06-1]) でみたように中英語期から用例がみられ,名だたる文人墨客によって使用されてきた経緯があるが,近代の規範文法 (prescriptive_grammar) により誤用との烙印を押され,現在に至るまで日陰者として扱われている.OED によると,分離不定詞の使用には infinitive-splitting という罪名が付されており,その罪人は infinitive-splitter として後ろ指を指されることになっている(笑).
infinitive-splitting n.
1926 H. W. Fowler Dict. Mod. Eng. Usage 447/1 They were obsessed by fear of infinitive-splitting.
infinitive-splitter n.
1927 Glasgow Herald 1 Nov. 8/7 A competition..to discover the most distinguished infinitive-splitters.
なぜ規範文法家たちがダメ出しするのかというと,ラテン文法からの類推という(屁)理屈のためだ.ラテン語では不定詞は屈折により īre (to go) のように1語で表わされる.したがって,英語のように to と動詞の原形の2語からなるわけではないために,分離しようがない.このようにそもそも分離し得ないラテン文法を模範として,分離してはならないという規則を英語という異なる言語に当てはめようとしているのだから,理屈としては話にならない.しかし,近代に至るまでラテン文法の威信は絶大だったために,英文法はそこから自立することがなかなかできずにいたのである.そして,その余波は現代にも続いている.
しかし,現代では,分離不定詞を誤用とする規範主義的な圧力はどんどん弱まってきている.特に副詞を問題の箇所に挿入することが文意を明確にするのに有益な場合には,問題なく許容されるようになってきている.2--3世紀のあいだ分離不定詞に付されてきた傷痕 (stigma) が少しずつそぎ落とされているのを,私たちは目の当たりにしているのである.まさに英語史の一幕.
分離不定詞については,American Heritage Dictionary の Usage Notes より split infinitive に読みごたえのある解説があるので,そちらも参照.
昨日の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて,まさにゃんと対談した.「#557. まさにゃん対談:supply A with B の with って要りますか? --- 『ジーニアス英和辞典』新旧版の比較」と題して,supply や provide などの動詞が give と同じように SVOO,すなわち2重目的語構文を作る動詞 (ditransitive_verb) になりつつあるという統語変化について,辞書の新旧版を比較しながら歓談した.
この放送と関連して,現代英語で2重目的語を取る動詞,および取れそうで取れない動詞(前置詞を用いる必要のある動詞など)を整理してみたい.ただし,網羅的な一覧を作ることを目指すわけではなく,Huddleston and Pullum (309) の分類と事例を引用するにすぎない.
まず補文に2つの項を取る give タイプの動詞を,構文ごとに5種類に分類する.
Oi + Od | Od + NON-CORE COMP | |
i a. I gave her the key. | b. I gave the key to her. | [Oi or to] |
ii a. *I explained her the problem. | b. I explained the problem to her. | [to only] |
iii a. I bought her a hat. | b. I bought a hat for her. | [Oi or for] |
iv a. *I borrowed her the money. | b. I borrowed the money for her. | [for only] |
v a. I spared her the trouble. | b. *I spared the trouble to/for her. | [Oi only] |
pay, provide, serve, tell; bring, deny, give, grant, hand, leave, lend, offer, owe, promise, read, send, show, teach, throw; do, find, make, order, reserve, save, spare; ask, envy, excuse, forgive; allow, charge, fine, refuse, wish
・ Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum, eds. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: CUP, 2002.
・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.
「#3157. 華麗なる splendid の同根類義語」 ([2017-12-18-1]),「#4969. splendid の同根類義語のタイムライン」 ([2022-12-04-1]) で,初期近代英語期を中心とする時期に splendid の同根類義語が多数生み出された話題を取り上げた.
そのなかでもとりわけ短命に終わった,3つの酷似した語尾をもつ †splendidious, †splendidous, †splendious について,EEBO corpus で検索し,頻度を確認してみた.参考までに,現在もっとも普通の splendid の頻度も合わせて,半世紀ごとに数値をまとめてみた.
word | current by OED | C16b | C17a | C17b | total |
---|---|---|---|---|---|
†splendidious | ?a1475 (?a1425)--1653 | 2 | 14 | 1 | 17 |
†splendidous | 1607--1640 | 0 | 5 | 1 | 6 |
†splendious | 1609--1654 | 0 | 1 | 1 | 2 |
splendid | 1624-- | 15 | 116 | 2534 | 2665 |
・ 1609: Ilands besides of much hostillitie, which are as sun-shine, sometimes splendious, anon disposed to altering frailtie
・ 1656: imagin madam, what a delicious life i lead, in so noble company, so splendious entertainment, and so magnificent equipage
この splendious などは,事実上その場で即席にフランス単語らしく造語された使い捨ての臨時語 (nonce word) といってよく,「#478. 初期近代英語期に湯水のように借りられては捨てられたラテン語」 ([2010-08-18-1]) で解説した当時の時代精神をよく表わす事例ではないだろうか.「輝かしい」はずの形容詞だが,実際にはかりそめの存在だった.
goblin mode: a type of behaviour which is unapologetically self-indulgent, lazy, slovenly, or greedy, typically in a way that rejects social norms or expectations.
今年の Oxford Word of the Year に輝いたのは goblin mode なる語(複合名詞)だった.The Guardian の速報をご覧ください.今回からは一般投票も受け付けての選語だったようで,世界中の34万人を超える英語話者が投票し,次点を大きく突き放しての圧勝だったとのこと(次点は Metaverse, #IStandWith).
2022年,長いコロナ禍の生活における規範遵守に疲れ果てた人々が,SNSなどに理想の自分の姿をアップするのに飽き,むしろだらしない本当の自分をさらけ出す傾向が現われ,共感を呼んだ.ここにはウクライナ戦争も影を落としているかもしれない."goblin mode" に入った自堕落な人々の姿が人気を博す時代が来るとは!
この語は2009年にツイッター上に初出していたが,今年の2月に一気にバズワードとなった.Oxford University Press は,この語の流行の背景について次のようにコメントしており興味深い.時代を映す鏡というわけだ.
Seemingly, it captured the prevailing mood of individuals who rejected the idea of returning to 'normal life', or rebelled against the increasingly unattainable aesthetic standards and unsustainable lifestyles exhibited on social media.”
goblin は人間にいたずらを働く,醜い小人の妖精のことである.今回の流行語は「小人物である自らの堕落した醜い姿」を goblin に重ね合わせたという理解でよいだろうか.ただし,完全にゴブリンになってしまうわけではなく,ゴブリン風のモードに一時的に入っているだけ,という含みがあり,希望が見えなくもない.
goblin 自体の語源には諸説あるようだ.OED の語源解説を読んでみよう.
Apparently < Old French gobelin (late 12th cent. in an isolated attestation; subsequently in Middle French (a1506 as gobellin); French gobelin), apparently ultimately < ancient Greek κόβαλος rogue, knave, κόβαλοι (plural) mischievous sprites invoked by rogues, probably via an unattested post-classical Latin form; the suffix is probably either Old French -in or its etymon classical Latin -īnus -INE suffix1. Compare later (apparently < Greek) post-classical Latin cobalus, covalus, kind of demon (16th cent.).
Compare (apparently < French) post-classical Latin gobelinus (first half of the 12th cent. in a British source).
おそらく究極的にはギリシア語の「ごろつき」を意味する語に遡り,(ラテン語を経て)フランス語から英語に入ってきたものだろうという.英語での初出は1350年以前.
『英語語源辞典』によると,異説とともにおもしろい解説が与えられている.
1100年ごろフランスの町 Evreux に出没したという妖精は,中世ラテン語で gobelīnus と名付けられたが,これは (O)F gobelin による造語とも考えられる.ほかに,人名 Gobel (cobalt と同根か)に指小辞 -et のついたものとする説や,MHG kobolt (G Kobold) 'kobold' が OF を通じて借用されたとする説などがある.
まさか中世のゴブリンたちも現代の人間界でバズワードになるとは思っていなかっただろうなぁ.
・ 寺澤 芳雄(編) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.
「#2233. 統語的な橋渡しとしての I not say.」 ([2015-06-08-1]) で一度取り上げた,英語史上目立たない否定の語順に関する話題に再び注目したい.
古英語から中英語にかけて,否定辞として ne が用いられる場合には「S + ne + V」の語順が規則的だった.しかし,否定辞として not が用いられるようになると「S + V + not」の語順が規則となり,「S + not + V」は非常にまれな構造となった."Jespersen's cycle" と称される否定構造の通時的変化のなかでも「S + not + V」はうまく位置づけられておらず,よくても周辺的な扱いにとどまる.
しかし,Visser (III, §1440) は,Type 'He not spoke (those words)' の構造についてもう少し丁寧にコメントしており,例文も50件以上集めている.コメントを引用しよう.
Before 1500 this type is only sporadically met with, but after 1500 its currency increases and it becomes pretty common in Shakespeare's time. After c1700 a decline sets in and in Present-day English, where the type 'he did not command' is the rule, the idiom is chiefly restricted to poetry. . . . According to Smith (Mod. Språ 27, 1933) it is still used in Modern literary English in order to contrast a verb with a preceding one, e.g. 'The wise mother suggests the duty, not commands it'. The frequency of the use of this type in the 16th and 17th centuries seems to have escaped the attention of grammarians. Thus 1951 Söderlind (p. 218) calls a quotation from Dryden's prose containing this construction "a unique instance of not preceding the finite verb", and 1953 (Ellegård (p. 198) states: "not hardly ever occurred before the finite verb." Poutsma's earliest example (1928 I, i p. 102) is a quotation from Shakespeare. The following statement is interesting, ignoring as it does the occurrence of the idiom between "O.E." (=?perhaps: Middle English) and modern poetry: 1876 Ernest Adams, The Elements of the English Language p. 217: "Frequently in O.E. and, rarely, in modern poetry, do and the infinitive are not employed in negative propositions: I not repent my courtesies---Ford; I not dislike the course.---Ibid.; I swear it would not ruffle me so much As you that not obey me---Tennyson."
このコメントの後に1400年頃から20世紀に至るまでの例文が数多く列挙されている.とりわけ初期近代英語期に注目して EEBO などの巨大コーパスで調査すれば,かなりの例文が集められるのではないだろうか.
・ Visser, F. Th. An Historical Syntax of the English Language. 3 vols. Leiden: Brill, 1963--1973.
一昨日公開された YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」の最新回となる第81弾で「often の t を発音する人が増加傾向!?なぜ? ー often だけの謎」と題して often の t について考察しています.
先月発売された『ジーニアス英和辞典』第6版に,私が執筆させていただいた「英語史Q&A」というコラムが新設されており,そこに often についてのコラムも含まれているので,今回の YouTube ではこの話題を深掘りしようと思い立った次第です(cf. 「#4892. 今秋出版予定の『ジーニアス英和辞典』第6版の新設コラム「英語史Q&A」の紹介」 ([2022-09-18-1])).YouTube の収録仕様をリニューアルしたお披露目の回ということもありまして,ぜひご視聴していただければと.
近年 often の /t/ を spelling_pronunciation の原理に従って響かせる発音が増えてきているという話しですが,この問題については hellog でも直接・間接に多く取り上げてきました.以下をご参照ください.
・ 「#4146. なぜ often は「オフトゥン」と発音されることがあるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-09-02-1])
・ 「#379. often の spelling pronunciation」 ([2010-05-11-1])
・ 「#211. spelling pronunciation」 ([2009-11-24-1])
・ 「#2121. 英語史における /t/ の挿入と脱落の例」 ([2015-02-16-1])
・ 「#380. often の <t> ではなく <n> こそがおもしろい」 ([2010-05-12-1])
・ 「#381. oft と often の分布の通時的変化」 ([2010-05-13-1])
・ 「#3662. "Recency Illusion" と "Frequency Illusion"」 ([2019-05-07-1])
参考までに American Heritage Dictionary 5th ed. による often の Usage Note を引用しておきます.歴史的な経緯が要約されています.
Usage Note: The pronunciation of often with a (t) is a classic example of what is known as a spelling pronunciation. During the 1500s and 1600s, English experienced a widespread loss of certain consonant sounds within consonant clusters, as the (d) in handsome and handkerchief, the (p) in consumption and raspberry, and the (t) in chestnut and often. In this way the consonant clusters were simplified and made easier to articulate. But with the rise of public education and literacy in the 1800s, people became more aware of spelling, and sounds that had become silent were sometimes restored. This is the case with the (t) in often, which is acceptably pronounced with or without the (t). In similar words, such as soften and listen, the t has generally remained silent.
現在すでに多くの英語母語話者が often について /t/ の響かない伝統的な発音と響く革新的な発音の両方をもっているようで,特に後者に卑しい響き (stigma) が付されているわけでもなさそうです.ただし,前者がより正統で威信 (prestige) のある発音だという意識はまだ多少残っているかもしれません.革新的な発音が市民権を得るには,多少時間がかかるものです.
この点でおもしろいのは,16--17世紀にはむしろ /t/ を響かせない発音こそが革新的だったことです.そして,Dobson (§405) の見解によれば,実際に威信も低かったらしいのです.
§405. Loss of [t] after [f] is common only in often, where assimilation to the following [n̩] assists the loss, but occurs in other cases (see Wyld, p. 302, on Toft's and Shaftesbury). In often [t] is kept by Hart, Bullokar, Robinson, Gil, Hodges, and the shorthand-writer Hopkins (as often in PresE; Wyld, loc. cit., is surely wide of the mark in calling this 'a new-fangled innovation'), but shown as lost by the 'phonetically spelt' lists of Coles and his successors (Strong, Young, and Brown); despite its use by Queen Elizabeth, the pronunciation without [t] seems to have been avoided in careful speech in the seventeenth century, for record in these 'phonetically spelt' lists and nowhere else generally indicates a vulgarism.
なお,18世紀末の規範発音の決定版といえる「#1456. John Walker の A Critical Pronouncing Dictionary (1791)」 ([2013-04-22-1]) によれば,/t/ なし発音のみが掲載されています.
・ Dobson, E. J. English Pronunciation 1500--1700. 2nd ed. 2 vols. Oxford: OUP, 1968.
「#3157. 華麗なる splendid の同根類義語」 ([2017-12-18-1]) および「#4969. splendid の同根類義語のタイムライン」 ([2022-12-04-1]) で splendid とその類義語の盛衰をみてきた.類義語間の語義については互いに重なるところも多いのだが,そもそもどのような語義があり得るのだろうか.現在最も普通の形容詞である splendid に注目して語義の拡がりを確認しておきたい.
先月発売されたばかりの『ジーニアス英和辞典』第6版によると,次のように3つの語義が与えられている.
(1) 《やや古》すばらしい,申し分のない (excellent, great) || a splendid idea すばらしい考え / a splendid achievement 立派な業績 / We had a splendid time at the beach. ビーチですばらしい時を過ごした.
(2) 美しい,強い印象を与える (magnificent); 豪華な,華麗な || a splendid view 美しい眺め / a splendid jewel 豪華な宝石.
(3) 《やや古》[間投詞的に]すばらしい!,大賛成!.
splendid は,昨日の記事 ([2022-12-04-1]) でも触れたように,語源としてはラテン語の動詞 splendēre "to be bright or shining" に由来する.その形容詞 splendidus が,17世紀に英語化した形態で取り込まれたということである.原義は「明るい,輝いている」ほどだが,英語での初出語義はむしろ比喩的な語義「豪華な,華麗な」である.原義での例は,その少し後になってから確認される.さらに,時を経ずして「偉大な」「有名な」「すぐれた,非常によい」の語義も次々と現われている.19世紀後半の外交政策である in splendid isolation 「光栄ある孤立」に表わされているような皮肉的な語義・用法も,早く17世紀に確認される.このような語義の通時的発展と共時的拡がりは,いずれもメタファー (metaphor),メトニミー (metonymy),良化 (amelioration),悪化 (pejoration) などの観点から理解できるだろう.参考までに OED の語義区分を挙げておく.
1.[ 固定リンク | 印刷用ページ ]
a. Marked by much grandeur or display; sumptuous, grand, gorgeous.
b. Of persons: Maintaining, or living in, great style or grandeur.
2.
a. Resplendent, brilliant, extremely bright, in respect of light or colour. rare.
b. Magnificent in material respects; made or adorned in a grand or sumptuous manner.
c. Having or embodying some element of material grandeur or beauty.
d. In specific names of birds or insects.
3.
a. Imposing or impressive by greatness, grandeur, or some similar excellence.
b. Dignified, haughty, lordly.
4. Of persons: Illustrious, distinguished.
5. Excellent; very good or fine.
6. Used, by way of contrast, to qualify nouns having an opposite or different connotation. splendid isolation: used with reference to the political and commercial uniqueness or isolation of Great Britain; . . . .
すでに「#3157. 華麗なる splendid の同根類義語」 ([2017-12-18-1]) で取り上げた話題ですが,一ひねり加えてみました.splendid (豪華な,華麗な;立派な;光り輝く)というラテン語の動詞 splendēre "to be bright or shining" に由来する形容詞ですが,英語史上,数々の同根類義語が生み出されてきました.先の記事で触れなかったものも含めて OED で調べた単語を列挙すると,廃語も入れて13語あります.
resplendant, resplendent, resplending, splendacious, †splendant, splendent, splendescent, splendid, †splendidious, †splendidous, splendiferous, †splendious, splendorous
OED に記載のある初出年(および廃語の場合は最終例の年)に基づき,各語の一生をタイムラインにプロットしてみたのが以下の図です.とりわけ16--17世紀に新類義語の登場が集中しています.
ほかに1796年に初出の resplendidly という副詞や1859年に初出の many-splendoured という形容詞など,合わせて考えたい語もあります.いずれにせよ英語による「節操のない」借用(あるいは造語)には驚かされますね.
母音字 <u> の綴字が短母音 /ʊ/ の発音に対応するのは一見すると素直だが,英語では短母音に関する限り <u> ≡ /ʌ/ の対応のほうが普通である (ex. but, hundred, much, run, sung) .
では,少数派である <u> ≡ /ʊ/ を示す例にはどのような単語があるのだろうか.すでに標題に挙げたものも含めて,音韻環境ごとに例を挙げてみよう(単語によっては /ʊ/ 以外の母音の発音もあり得る).Carney (145--46) を参照する.
・ /ʃ/ の前位置:push, bush, cushion, bushel, ambush, cushy
・ /tʃ/ の前位置:butcher
・ /s/ の前位置:pussy, brusque
・ /z/ の前位置:hussar
・ /f/ の前位置:buffet
・ /l/ の前位置:full (and suffix -ful), pull, bull, bullet, bulletin, bully, pulley, pullet, bullion
音韻環境は別にして,その他 put, cuckoo, pudding などがある.また,古い,あるいは外来の固有名詞では Beowulf, Ethelwulf; Bruckner, Budda, Gluck, Grundig, Innsbruck, Irkutsk, Kuwait, Krupp, Lund, Mogul, Muslim, Mustapha, Uppsala などでも /ʊ/ を示す(あるいは示し得る).
ちなみに今回話題になっている短母音 /ʊ/ は現代標準英語において最も生起頻度の低い音素であることを付け加えておく(see 「#1022. 英語の各音素の生起頻度」 ([2012-02-13-1])).この短母音に関する話題として,次の記事も参照.
・ 「#1866. put と but の母音」 ([2014-06-06-1])
・ 「#3822. 『英語教育』の連載第8回「なぜ bus, bull, busy, bury の母音は互いに異なるのか」」 ([2019-10-14-1])
・ 「#4048. much, shut, such, trust の母音と中英語方言学」 ([2020-05-27-1])
・ Carney, Edward. A Survey of English Spelling. Abingdon: Routledge, 1994.
昨日午後1時より Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて,khelf(慶應英語史フォーラム)主催の生放送「英語に関する素朴な疑問 千本ノック(矢冨弘&菊地翔太&堀田隆一) 第3弾」をお届けしました.ライヴでお聴きくださったり,生で質問を投げ込んでいただいたリスナーの皆さん,ありがとうございました!
今朝,生放送を収録した音声を公開しました.60分弱の本編に続いて10分の振り返りトークがあります.長めですので,ゆっくりお時間を取れるときにどうぞ.
今回の千本ノックは矢冨弘先生(熊本学園大学),菊地翔太先生(専修大学),堀田隆一(慶應義塾大学)の3名で臨みました.3名いると答え方も多様となり,そこに化学反応も生まれ,かつ生放送のほどよい緊張感もあり,答えている側がおおいに勉強になりました.最後のほうには,Zoom 越しではありましたが矢冨先生のギャラリーとして控えていた学生さんにも参加してもらい,交流することができました.また,過去2回にもまして,司会のまさにゃんによる質問チョイスが光っていました.良問揃いです.以下に,質問と本編(第2チャプター)の分秒を一覧しておきます.
(1) 03:36 --- good の比較級・最上級が gooder, goodest ではなく better, best なのはなぜですか?
(2) 07:00 --- なぜ助動詞 must には過去形がないのですか?
(3) 10:50 --- 主格 I に対して属格・対格が my, me になるのは対応が取れていないように思いますが,これも補充法でしょうか?
(4) 12:20 --- なぜ英語は日本語よりも正確性を求める言語なのですか?
(5) 17:09 --- なぜ英語圏では brother や sister のように年上,年下を重要視しないのでしょうか?
(6) 22:02 --- 日本語でいう「よろしくお願いします」とまったく同じ意味の英単語,英語表現はないのですか?
(7) 23:50 --- なぜ one という綴りで「ワン」と読むのですか?
(8) 27:52 --- once, twice なのに three times, four times となるのはなぜですか?
(9) 32:07 --- 洋楽のタイトルや歌詞などで she don't などが出てくるのですが,文法をあまり気にしないネイティヴなどは気にならないのでしょうか?
(10) 36:57 --- 英語には疑問文につく助動詞の do がありますが,この文法事項について教えてください.
(11) 42:25 --- 英語は語順が厳格に定められているのに,一方で倒置のような表現が可能なのはなぜですか?
(12) 45:08 --- 英語は多数の言語から語彙を借用してきましたが,借用の過程で優位を占める言語はどのような基準で決まりますか?
(13) 51:18 --- 英語母語話者が英語を学ぶ際に,一番苦労する文法の分野は何だと思いますか?
(14) 56:14 --- 仮定法の if I were と if I was の使い分けはあるのですか?
このように様々な素朴な疑問が飛び出しましたが,補充法 (suppletion) をめぐる話題に注目が集まりました.この問題については,例えば以下の記事や heldio をご参照ください.
・ 「#43. なぜ go の過去形が went になるか」 ([2009-06-10-1])
・ 「#1482. なぜ go の過去形が went になるか (2)」 ([2013-05-18-1])
・ 「#4094. なぜ go の過去形は went になるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-07-12-1])
・ 「#4403. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第3回「なぜ go の過去形は went になるの?」」 ([2021-05-17-1])
・ 「#4774. go/went は社会言語学的リトマス試験紙である」 ([2022-05-23-1])
・ 「#1585. 閉鎖的な共同体の言語は複雑性を増すか」 ([2013-08-29-1])
・ 「#764. 現代英語動詞活用の3つの分類法」 ([2011-05-31-1])
・ 「#4479. 不規則動詞の過去形は直接記憶保存されている」 ([2021-08-01-1])
・ 「#2600. 古英語の be 動詞の屈折」 ([2016-06-09-1])
・ 「#2090. 補充法だらけの人称代名詞体系」 ([2015-01-16-1])
・ 「#67. 序数詞における補充法」 ([2009-07-04-1])
・ 「#3859. なぜ言語には不規則な現象があるのですか?」 ([2019-11-20-1])
・ 「#765. 補充法は古代人の実相的・質的・単一的な観念の表現か」 ([2011-06-01-1])
・ 「#1580. 補充法研究の限界と可能性」 ([2013-08-24-1])
・ heldio 「#9. first の -st は最上級だった!」
・ heldio 「#10. third は three + th の変形なので準規則的」
・ heldio 「#11. なぜか second 「2番目の」は借用語!」
・ heldio 「#364. YouTube での「go/went 合い言葉説」への反応を受けまして」
・ heldio 「#483. be動詞の謎 (1)」
また,YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」の第25弾「新説! go の過去形が went な理由」もよく視聴されていますので,ご覧ください.
最後に矢冨弘先生(熊本学園大学)と菊地翔太先生(専修大学),そして司会のまさにゃん(慶應義塾大学大学院)の運営するウェブリソースへのリンクを以下に張っておきます.ぜひ英語史の学びのために訪問してみてください.
・ 矢冨弘先生のホームページ:英語史関連のブログ記事や YouTube 講義動画が公開されています
・ 菊地翔太先生のホームページ: 英語史関連の授業資料や講習会資料が公開されています
・ まさにゃんによる YouTube チャンネル「まさにゃんチャンネル【英語史】」: 「毎日古英語」や「語源で学ぶ英単語」のシリーズなど英語史や英語学習に関する動画が満載です
英語語彙史を鳥瞰すると,いかにして新語が導入されたてきたかという観点から大きな潮流をつかむことができる.新語導入の方法として,大雑把に (1) 借用 (borrowing) と (2) 語形成 (word_formation) の2種類を考えよう.借用は他言語(方言)から単語を借り入れることである.語形成は既存要素(それが語源的には本来語であれ借用語であれ)をもとにして派生 (derivation),複合 (compounding),品詞転換 (conversion),短縮 (shortening) などの過程を経て新たな単語を作り出すことである.
・ 古英語期:主に語形成による新語導入が主.ただし,ラテン語や古ノルド語からの借用は多少あった.
・ 中英語期:フランス語やラテン語からの新語導入が主.ただし,語形成も継続した.
・ 初期近代英語期:ラテン語やギリシア語からの新語導入が主.ただし,それまでに英語に同化していた既存要素を用いた語形成も少なくない.
・ 後期近代英語期・現代英語期:語形成が主.ただし,世界の諸言語からの借用は継続している.
時代によって借用と語形成のウェイトが変化してきた点が興味深い.大雑把にいえば,古英語期は語形成偏重,次の中英語期は借用偏重,近代英語来以降は両者のバランスがある程度回復してきたとみることができる.それぞれの時代背景には征服,ルネサンス,帝国主義など社会・文化的な出来事が確かに対応している.
しかし,上記はあくまで大雑把な潮流である.借用と語形成のウェイトの変化こそあったが,見方を変えれば,英語史を通じて常に両方法が利用されてきたとみることもできる.また,これはあくまで標準英語の語彙史にみられる潮流であることにも注意を要する.他の英語変種の語彙史を考えるならば,例えばインド英語などの ESL (= English as a Second Language) を念頭に置くならば,近代・現代では現地の諸言語からの語彙のインプットは疑いなく豊富だろう.激しい言語接触の産物ともいえる英語ベースのピジンやクレオールではどうだろうか.逆に言語接触の少ない環境で育まれてきた英語変種の語彙史にも興味が湧く.
英語語彙史に関する話題は hellog でも多く取り上げてきたが,歴史を俯瞰した内容のもののみを以下に示す.
・ 「#873. 現代英語の新語における複合と派生のバランス」 ([2011-09-17-1])
・ 「#1526. 英語と日本語の語彙史対照表」 ([2013-07-01-1])
・ 「#1956. Hughes の英語史略年表」 ([2014-09-04-1])
・ 「#2966. 英語語彙の世界性 (2)」 ([2017-06-10-1])
・ 「#4130. 英語語彙の多様化と拡大の歴史を視覚化した "The OED in two minutes"」 ([2020-08-17-1])
・ 「#4133. OED による英語史概説」 ([2020-08-20-1])
・ 「#4716. 講座「英語の歴史と語源」のダイジェスト「英語語彙の歴史」を終えました --- これにて本当にシリーズ終了」 ([2022-03-26-1])
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最終更新時間: 2024-11-26 08:10
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