hellog〜英語史ブログ     ChangeLog 最新     カテゴリ最新     1 2 3 4 5 6 7 8 9 次ページ / page 1 (9)

syntax - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-11-19 17:34

2019-10-23 Wed

#3831. なぜ英語には冠詞があるのですか? [article][sobokunagimon][typology][linguistic_area][geolinguistics][information_structure][word_order][syntax]

 英語史の授業にて尋ねられた質問.まさに直球.答えるのが難しい.
 まず英語史的にいえることは,古英語や中英語では,現代的な使い方での「冠詞」 (article) は未発達だったということです.thea(n) という素材そのものは古英語からあったのですが,それぞれ現代風の定冠詞や不定冠詞としては用いられていませんでした.つまり,古英語にも thea(n) という単語のご先祖様は確かにいたけれども,当時はまだ名詞に添えるべき必須の項目というステータスは獲得していなかったということです.
 ということは,日々私たちが使い分けに苦労している現代英語の「冠詞」という項目は,英語の歴史の歩みのなかで,徐々に獲得されてきたものということになります.冠詞は英語の歴史の最初からあったわけではない.まず,この事実を押さえておく必要があります.
 冠詞なるものが歴史のなかで獲得されてきたというのは,なにも英語に限りません.そもそも英語を含めたヨーロッパからインドに及ぶ多くの言語のルーツである印欧祖語には冠詞はありませんでした.しかし,印欧語族に属する古典ギリシア語,アルメニア語,アイルランド語という個別の言語をはじめ,ロマンス語派,ゲルマン語派,ケルト語派の諸言語やバルカン言語連合でも冠詞がみられることから,いずれも歴史の過程で冠詞を発達させてきたことがわかります(「#2855. 世界の諸言語における冠詞の分布 (1)」 ([2017-02-19-1]) を参照).
 また,印欧語族から離れて世界の諸言語に目を向けてみても,冠詞という言語項目は世界各地に確認されます(全体としては少数派ではありますが).ただし,地理的にはヨーロッパ,アフリカ,南西太平洋などにある程度偏在しているようで,類型論や地理言語学の立場からは興味深い話題となっています.
 さて,英語に話しを戻しましょう.古英語にも冠詞の種となるものはあったにせよ,なぜその後それが現代風の冠詞的な機能を発達させることになったのでしょうか.1つには,英語が中英語以降に語順を固定化させてきたという事実が関係しているように思われます.「#2856. 世界の諸言語における冠詞の分布 (2)」 ([2017-02-20-1]) でも述べたように「語順が厳しく定まっている言語では一般的に名詞的要素の置き場所を利用して定・不定を標示するのが難しいために,冠詞という手段が採用されやすいという事情がある」のではないかと考えられます.
 定・不定とは,その表現の指しているものが文脈上話し手や聞き手にとって既知か未知か,特定されるかされないかといった区別のことです.談話の典型的なパターンは,定の要素をアンカーとし,それに不定の要素を引っかけながら新情報を導入していくというものですが,このような情報の流れは情報構造 (information_structure) と呼ばれます.言語は情報構造を標示するための手段をもっていると考えられますが,語順や冠詞もそのような手段の候補となります.語順が自由であれば,定の要素を先頭にもってきたり,不定の要素を後置するなどの方法を利用できるでしょう(cf. 「#3211. 統語と談話構造」 ([2018-02-10-1])).しかし,語順の自由度が低くなると別の手段に訴える必要が生じてきます.英語は中英語期にかけて語順の自由度を失っていった結果,情報構造を標示するための新たな道具として,素材として手近にあった thea(n) などを利用したのではないかと考えられます.
 ただし,これも1つの仮説にすぎません.標題の質問にズバリ答えているわけではなく,我ながらもどかしいところです.
 冠詞の発生に関する統語理論上の扱いは,「#2144. 冠詞の発達と機能範疇の創発」 ([2015-03-11-1]) を参照してください.関連して,英語史における語順の固定化について「#3131. 連載第11回「なぜ英語はSVOの語順なのか?(前編)」」 ([2017-11-22-1]),「#3160. 連載第12回「なぜ英語はSVOの語順なのか?(後編)」」 ([2017-12-21-1]),「#3733.『英語教育』の連載第5回「なぜ英語は語順が厳格に決まっているのか」」 ([2019-07-17-1]) をご覧ください.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-09-17 Tue

#3795. 『英語教育』の連載第7回「なぜ不定詞には to 不定詞 と原形不定詞の2種類があるのか」 [rensai][notice][infinitive][syntax][[sobokunagimon]

 9月14日に,『英語教育』(大修館書店)の10月号が発売されました.英語史連載「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」の第7回となる今回の話題は,「なぜ不定詞には to 不定詞 と原形不定詞の2種類があるのか」です.
 そもそも不定詞とは何か,なぜそのような呼び名がついているのかから始まり,to 不定詞と原形不定詞の2種類が区別されている歴史的理由,それぞれの用法の守備範囲とその変遷,そして現在にまで続く両不定詞のせめぎ合いを扱いました.後半では,She made me laugh. のように能動態の使役文に用いられる原形不定詞が,受動態の文になると I was made to laugh by her. のように to 不定詞に変わるのはなぜかという素朴な疑問にも迫ります.

『英語教育』2019年10月号


 本ブログでも,不定詞については infinitive の各記事ですでに取り上げてきましたので,連載記事と合わせてご覧ください.

 ・ 堀田 隆一 「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ 第7回 なぜ不定詞には to 不定詞 と原形不定詞の2種類があるのか」『英語教育』2019年10月号,大修館書店,2019年9月14日.62--63頁.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-08-29 Thu

#3776. 機能語の強音と弱音 (2) [phonetics][lexicology][syntax]

 「#3713. 機能語の強音と弱音」 ([2019-06-27-1]) でみたように,機能語には単音節で強形と弱形をもっているものが多い.各々がどのような場合に用いられるかは,主としてその統語的な役割に応じて決定される.具体的にいえば,単体で用いられるときや文末に起こるときには強形が,それ以外の場合には弱形が用いられるのが原則である.ここから,弱形が頻度として圧倒的に勝っていることがわかるだろう.典型的な用例を菅原 (121) から挙げよう.

 単体文末文中
am[æm]Indeed I am [æm].I am [əm/m] leaving today.
is[ɪz]I think she is [ɪz].The grass is [əz/z] wet.
do[duː]You earn more than I do [duː].What do [də] they know?
will[wɪl]No more than you will [wɪl].That will [wəl/wl̩/əl/l̩] do.
can[kæn]But you can [kæn].George can [kən/kn̩] go.
at[æt]Who're you looking at [æt]?Look at [ət] that.
for[fɔr]What did you do it for [fɔr]?They did it for [fər/fr̩] fun.
to[tuː]The one we are talking to [tuː].They're going to [tə] Spain.
of[ɑːv]What are you thinking of [ɑːv]?a lot of [əv/ə] apples


 文末というのは統語的には厳密ではない.正確にいえば,直後に空範疇 (empty category) がある場合である.したがって,"Readyi I am ___i [æm] to help you." や "I left the meetingi she stayed at [æt] ___i till then." においては強形が現われることになる.

 ・ 菅原 真理子 「第3章 句レベルの音韻論」菅原 真理子(編)『音韻論』朝倉日英対照言語学シリーズ 3 朝倉書店,2014年.106--32頁.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-08-18 Sun

#3765.『英語教育』の連載第6回「なぜ一般動詞の疑問文・否定文には do が現われるのか」 [rensai][notice][word_order][syntax][syntax][do-periphrasis][grammaticalisation][interrogative][negative][auxiliary_verb][sociolinguistics][sobokunagimon]

 8月14日に,『英語教育』(大修館書店)の9月号が発売されました.英語史連載「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」の第6回となる今回の話題は,「なぜ一般動詞の疑問文・否定文には do が現われるのか」です.この do の使用は,英語統語論上の大いなる謎といってよいものですが,歴史的にみても,なぜこのような統語表現(do 迂言法と呼びます)が出現したのかについては様々な仮説があり,今なお熱い議論の対象になっています.

『英語教育』2019年9月号


 中英語期までは,疑問文や否定文を作る規則は単純でした.動詞の種類にかかわらず,疑問文では主語と動詞を倒置し,否定文では動詞のあとに否定辞を添えればよかったのです.現代英語の be 動詞や助動詞は,いまだにそのような統語規則を保ち続けていますので,中英語期までは一般動詞も同じ規則に従っていたと理解すればよいでしょう.しかし,16世紀以降,一般動詞の疑問文や否定文には,do 迂言法を用いるという新たな規則が発達し,確立していったのです.do の機能に注目すれば,do が「する,行なう」を意味する本動詞から,文法化 (grammaticalisation) という過程を経て助動詞へと発達した変化ともとらえられます.
 記事ではなぜ do 迂言法が成立し拡大したのか,なぜ16世紀というタイミングだったのかなどの問題に触れましたが,よく分かっていないことも多いのが事実です.記事の最後では「もしエリザベス1世が結婚し継嗣を残していたならば」 do 迂言法はどのように発展していただろうかという,歴史の「もし」も想像してみました.どうぞご一読ください.
 本ブログ内の関連する記事としては,「#486. 迂言的 do の発達」 ([2010-08-26-1]),「#491. Stuart 朝に衰退した肯定平叙文における迂言的 do」 ([2010-08-31-1]) を始めとして do-periphrasis の記事をご覧ください.

 ・ 堀田 隆一 「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ 第6回 なぜ一般動詞の疑問文・否定文には do が現われるのか」『英語教育』2019年9月号,大修館書店,2019年8月14日.62--63頁.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-08-18 Sun

#3765.『英語教育』の連載第6回「なぜ一般動詞の疑問文・否定文には do が現われるのか」 [rensai][notice][word_order][syntax][syntax][do-periphrasis][grammaticalisation][interrogative][negative][auxiliary_verb][sociolinguistics][sobokunagimon]

 8月14日に,『英語教育』(大修館書店)の9月号が発売されました.英語史連載「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」の第6回となる今回の話題は,「なぜ一般動詞の疑問文・否定文には do が現われるのか」です.この do の使用は,英語統語論上の大いなる謎といってよいものですが,歴史的にみても,なぜこのような統語表現(do 迂言法と呼びます)が出現したのかについては様々な仮説があり,今なお熱い議論の対象になっています.

『英語教育』2019年9月号


 中英語期までは,疑問文や否定文を作る規則は単純でした.動詞の種類にかかわらず,疑問文では主語と動詞を倒置し,否定文では動詞のあとに否定辞を添えればよかったのです.現代英語の be 動詞や助動詞は,いまだにそのような統語規則を保ち続けていますので,中英語期までは一般動詞も同じ規則に従っていたと理解すればよいでしょう.しかし,16世紀以降,一般動詞の疑問文や否定文には,do 迂言法を用いるという新たな規則が発達し,確立していったのです.do の機能に注目すれば,do が「する,行なう」を意味する本動詞から,文法化 (grammaticalisation) という過程を経て助動詞へと発達した変化ともとらえられます.
 記事ではなぜ do 迂言法が成立し拡大したのか,なぜ16世紀というタイミングだったのかなどの問題に触れましたが,よく分かっていないことも多いのが事実です.記事の最後では「もしエリザベス1世が結婚し継嗣を残していたならば」 do 迂言法はどのように発展していただろうかという,歴史の「もし」も想像してみました.どうぞご一読ください.
 本ブログ内の関連する記事としては,「#486. 迂言的 do の発達」 ([2010-08-26-1]),「#491. Stuart 朝に衰退した肯定平叙文における迂言的 do」 ([2010-08-31-1]) を始めとして do-periphrasis の記事をご覧ください.

 ・ 堀田 隆一 「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ 第6回 なぜ一般動詞の疑問文・否定文には do が現われるのか」『英語教育』2019年9月号,大修館書店,2019年8月14日.62--63頁.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-08-07 Wed

#3754. ケルト語からの構造的借用,いわゆる「ケルト語仮説」について [celtic][borrowing][syntax][contact][substratum_theory][celtic_hypothesis][substratum_theory][do-periphrasis][reflexive_pronoun][be][nptr][fricative_voicing]

 この20数年ほどの間に,「ケルト語仮説」 ("the Celtic hypothesis") に関する研究が著しく増えてきた.英語は語彙以外の部門においても,従来考えられていた以上に,ブリテン諸島の基層言語であるケルト諸語から強い影響を受けてきたという仮説だ.1種の基層言語影響説といってよい(cf. 「#1342. 基層言語影響説への批判」 ([2012-12-29-1])).非常に論争の的になっている話題だが,具体的にどのような構造的な言語項がケルト語からの影響とみなされているのか,挙げてみよう.以下,Durkin (87--90) による言及を一覧にするが,Durkin 自身もケルト語仮説に対してはやんわりと懐疑的な態度を示していることを述べておこう.

 ・ 古英語における be 動詞の bēon 系列を未来時制,反復相,継続相を示すために用いる用法.ウェールズ語に類似の be 動詞が存在する.
 ・ -self 形の再帰代名詞の発達(cf. 「#1851. 再帰代名詞 oneself の由来についての諸説」 ([2014-05-22-1]))
 ・ be + -ing の進行形構造の発達
 ・ do を用いた迂言的構造 (do-periphrasis) の発達
 ・ 外的所有者構造から内的所有者構造への移行 (ex. he as a pimple on the nosehe has a pimple on his nose)
 ・ "Northern Subject Rule" の発達(cf. 「#689. Northern Personal Pronoun Rule と英文法におけるケルト語の影響」 ([2011-03-17-1]))
 ・ ゼロ関係詞あるいは接触節の頻度の増加
 ・ it を用いた分裂文 (cleft sentence) の発達 (ex. It was a bike that he bought (not a car).) .なお,フランス語の対応する分裂文もケルト語の影響とする議論があるという (Durkin 87) .
 ・ /f/ と /v/, /θ/ と /ð/ の音韻的対立の発達と保持(cf. 「#3386. 英語史上の主要な子音変化」 ([2018-08-04-1]) の2点目)

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

Referrer (Inside): [2019-08-08-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-07-18 Thu

#3734. 島嶼ケルト語の VSO 語順の起源 [word_order][syntax][celtic][generative_grammar][world_languages][reanalysis]

 印欧祖語の基本語順は SOV だったと考えられているが,そこから派生した諸言語では基本語順が変化したものもある.英語も印欧祖語からゲルマン祖語を経て歴史時代に及ぶ長い歴史のなかで,基本語順を SVO へと変化させてきた.生成文法流にいえば,O の移動 (movement) ,とりわけ前置 (fronting) の結果としての語順が,デフォルトとして定着したものと考えることができるだろう.

 ・ 「#3127. 印欧祖語から現代英語への基本語順の推移」 ([2017-11-18-1])
 ・ 「#3131. 連載第11回「なぜ英語はSVOの語順なのか?(前編)」」 ([2017-11-22-1])
 ・ 「#3160. 連載第12回「なぜ英語はSVOの語順なのか?(後編)」」 ([2017-12-21-1])
 ・ 「#3733.『英語教育』の連載第5回「なぜ英語は語順が厳格に決まっているのか」」 ([2019-07-17-1])

 O ではなく V が前置された VSO という変異的な語順が,やがてデフォルトとして定着した言語がある.島嶼ケルト語 (Insular Celtic) だ.Fortson (144) が次のように述べている.

If verb-initial order generated in this way [= by fronting] becomes stereotyped, it can be reanalyzed by learners as the neutral order; and in fact in Insular Celtic, VSO order became the norm for precisely this reason (the perhaps older verb-final order is still the rule in the Continental Celtic language Celtiberian). A similar reanalysis happened in Lycian . . . .


 この解釈でいくと,おそらく語用論的な要因による変異語順の1つにすぎなかったものが,デフォルトの語順として再分析 (reanalysis) され,定着したということになろうか.すると,個々の印欧語における基本語順は,およそ基底の SOV から導き出せることになる.
 平叙文で VSO という語順に馴染みのない身としては,いきなり動詞で始まるという感覚はイマイチつかめないところだが,「#3128. 基本語順の類型論 (3)」 ([2017-11-19-1]) でみたように,VSO 語順は世界の言語のなかでも決して稀な語順ではない.世界の言語の基本語準については以下も参照.

 ・ 「#137. 世界の言語の基本語順」 ([2009-09-11-1])
 ・ 「#3124. 基本語順の類型論 (1)」 ([2017-11-15-1])
 ・ 「#3125. 基本語順の類型論 (2)」 ([2017-11-16-1])
 ・ 「#3128. 基本語順の類型論 (3)」 ([2017-11-19-1])
 ・ 「#3129. 基本語順の類型論 (4)」 ([2017-11-20-1])

 ・ Fortson IV, Benjamin W. Indo-European Language and Culture: An Introduction. Malden, MA: Blackwell, 2004.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-07-17 Wed

#3733.『英語教育』の連載第5回「なぜ英語は語順が厳格に決まっているのか」 [rensai][notice][word_order][old_norse][syntax][contact][synthesis_to_analysis][sociolinguistics][sobokunagimon]

 7月14日に,『英語教育』(大修館書店)の8月号が発売されました.英語史連載記事「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」の第5回「なぜ英語は語順が厳格に決まっているのか」が掲載されています.ご一読ください.

『英語教育』2019年8月号


 標題の問いに端的に答えるならば, (1) 古英語の屈折が言語内的な理由で中英語期にかけて衰退するとともに,(2) 言語外的な理由,つまりイングランドに来襲したヴァイキングの母語である古ノルド語との接触を通じて,屈折の衰退が促進されたから,となります.
 これについては,拙著『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』(中央大学出版部,2011年)の第5章第4節でも論じましたので,そちらもご参照ください.言語は,そのような社会的な要因によって大きく様変わりすることがあり得るのです.
 関連して,以下の記事もどうぞ.

 ・ 「#1170. 古ノルド語との言語接触と屈折の衰退」 ([2012-07-10-1])
 ・ 「#3131. 連載第11回「なぜ英語はSVOの語順なのか?(前編)」」 ([2017-11-22-1])
 ・ 「#3160. 連載第12回「なぜ英語はSVOの語順なのか?(後編)」」 ([2017-12-21-1])

 ・ 堀田 隆一 「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ 第5回 なぜ英語は語順が厳格に決まっているのか」『英語教育』2019年8月号,大修館書店,2019年7月14日.62--63頁.
 ・ 堀田 隆一 『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』 中央大学出版部,2011年.

Referrer (Inside): [2019-10-23-1] [2019-07-18-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-06-05 Wed

#3691. ローマ字でも日本人名は姓→名の順序で [romaji][syntax][onomastics][personal_name][japanese]

 私の名前は「堀田隆一」だが,英語を習い始めたときからローマ字書きでは Ryuichi Hotta と書き続けてきた.英語の教科書でも日本人名はそのような書き方だったし,英語圏では「名→姓」という順序が原則だとなれば,特に疑問を抱くこともなかった.だが,後年になってよく考えてみると,私の名前は「隆一堀田」ではなくあくまで「堀田隆一」である.ローマ字で書くにせよ,並び順も含めた Hotta Ryuichi という全体が自らの名前なのではないかという,しごく当たり前のことに気づいた.もちろん人名には正式な名前を崩したニックネームなどの別名があってもよいし,その点でいえば姓・名の順序を入れ替えたヴァリアントがあってもよい.しかし,正式な名前となれば,やはり Hotta Ryuichi なのだろうなと,今では思っている.
 先週,文化庁が日本人名のローマ字表記を姓→名の順で書くようにと官公庁や報道機関などに通知を出したという新聞記事をいくつか読んだ.実は,かつても似たようなお触れが出されたことがあった.2000年に当時の文部省・国語審議会が,人類の言語の多様性を意識し生かしていくべきだという方針のもとに,姓→名のローマ字表記が望ましいと答申したのである.しかし,2000年に示されたこの方向性は定着しなかった.この問題の最近の再燃は,河野太郎外相の持論に端を発するようだ.中国の習近平 (Xi Jinping) や韓国の文在寅 (Moon Jae-in) などは英語でも姓→名と表記しているのに,日本人だけ欧米式に合わせているのは妙ではないか,というわけだ.外相自身は,名刺などでは持論通りの姓→名にしているが,一人で頑張っていても無意味だとして,検討を進めることにしたという.
 日本人名のローマ字表記の名→姓の慣行は,予想通り,明治時代の欧化主義の一環だったらしい.幕末の日米和親条約 (1854) では姓→名でサインされていたが,明治に入ると岩倉具視宛ての英語の手紙に Tomomi Iwakura が確認されるなど,名→姓も現われるようになった.それでも1870年代まではまだ姓→名が多かったようで,名→姓が増えてきたのは,続く80年代,90年代になってからという.
 近年の動向としては,2001年度以前の中学英語教科書では名→姓で自己紹介するような英文が普通だったが,2002年度以後は先の2000年の答申を受けて姓→名となっているという.また,団体によっても慣行は異なるようだ.たとえば日本サッカー協会では2012年に姓→名にすることを発表したが,クレジットカードなどでは名→姓がいまだ一般的である.楽天やトヨタ自動車のような国際企業も名→姓だという.
 2000年の答申では定着しなかったが,今回の文化庁の再挑戦は奏功するのだろうか.ちなみに,私自身は姓であることを示すために大文字書きして HOTTA Ryuichi などとすることが多いが,正直なところをいえば中学時代に刷り込まれた慣習からは脱しがたく,ついつい Ryuichi Hotta と書いていることもしばしばである.
 そもそも英語と日本語とでなぜ姓と名の順序が異なるのかという問題は,ある意味で統語論の話題といえる.これについては「#2366. なぜ英語人名の順序は「名+姓」なのか」 ([2015-10-19-1]) をどうぞ.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-03-17 Sun

#3611. なぜ He is to blame.He is to be blamed. とならないのか? [infinitive][syntax][passive][voice][construction][sobokunagimon]

 標題の He is to blame. は「彼は責められるべきだ;彼には責任がある」という意味のフレーズだが,厳密に態 (voice) を考慮すれば,「彼」は「責められる」立場であるから He is to be blamed. と不定詞も受け身になるべきだと思われるかもしれない.実際,後者でも意味は通じるし,もちろん文法的なのだが,慣習的なフレーズとしては前者が用いられる.なぜだろうか.
 これは,動名詞について解説した「#3604. なぜ The house is building. で「家は建築中である」という意味になるのか?」 ([2019-03-10-1]) と「#3605. This needs explaining. --- 「need +動名詞」の構文」 ([2019-03-11-1]) とも関係する.動名詞と同様に不定詞 (infinitive) も動詞の名詞化という機能をもっている.動名詞や不定詞により動詞が名詞化すると,もともとの動詞がもっていた態の対立は中和し,能動・受動の区別なく用いられるようになる.to blame は,したがってこの形で能動的に「非難すべき」ともなり得るし,受動的に「非難されるべき」ともなり得るのである.区別が中和されているということは,文脈によりいずれにも解釈し得るということでもある.He is to blame. の場合には,意味上,受け身として解釈されるというわけだ.There is a house to let.I have something to say. のような「形容詞的用法」の不定詞も,態の中和という発想に由来する(中島,p. 238).
 ただし,不定詞(や動名詞)の態の中和は,あくまでそれが強い名詞性を保っていた時代の特徴である.近代以降,不定詞(や動名詞)はむしろ動詞的な性格を強めてきており,中和されていた態の対立が復活してきている.その結果,慣習的ではないとはいえ He is to be blamed. も文法的に許容されるようになった.標題のような構文は,古い時代の特徴を伝える生きた化石のような存在なのである.

 ・ 中島 文雄 『英語発達史 改訂版』岩波書店,2005年.

Referrer (Inside): [2019-05-22-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-03-10 Sun

#3604. なぜ The house is building. で「家は建築中である」という意味になるのか? [syntax][gerund][participle][passive][voice][category][construction][sobokunagimon]

 標題の文は古風な表現ではあるが,現在でも使われることがある.「家が建てられているところだ」という受動的な意味に対応させるには,受動進行形を用いて The house is being built. となるべきではないのかと疑問に思われるかもしれない.この疑問はもっともであり,確かに後者の受動進行形の構文が標準的ではある.しかし,それでもなお,標題の The house is building. は可能だし,歴史的にはむしろ普通だった.能動態と受動態という態 (voice) の区別にうるさいはずの英語で,なぜ標題の文が許されるのだろうか.
 歴史的には,The house is building.building は現在分詞ではなく動名詞である.同じ -ing 形なので紛らわしいが,両者は機能がまったく異なる.The house is building. の前段階には The house is a-building. という構文があり,さらにその前段階には The house is on building. という構文があった.つまり,buildingbuild の動名詞であり,それが前置詞 on の目的語となっているという統語構造なのである.意味的にはまさに「建築中」ということになる.前置詞 on が弱化して接頭辞的な a- となり,それがさらに弱化し最終的には消失してしまったために,あたかも現在進行形構文のような見栄えになってしまったのである.
 動名詞は動詞由来であるから動詞的な性質を色濃く残しているとはいえ,統語上の役割としては名詞である.態とは本質的に動詞にかかわる文法範疇であり,名詞には関与しない.したがって,動「名詞」としての building では,「建てる」と「建てられる」の態の対立が中和されている.まさに日本語の「建築」がぴったりくるような意味をもっているのだ.前置詞 on を伴って「建築中」の意となるのは自然だろう.
 このような構文は,古風とはいえ現在でも用いられることがあるし,近代英語まで遡ればよくみられた.類例として,以下を挙げておこう(中島,pp. 229--30).

 ・ The whilst this play is playing --- Hamlet, III. ii. 93.
 ・ While grace is saying -- Merch. V., II. ii. 202
 ・ What's doing here?
 ・ The dinner is cooking.
 ・ The book is printing.
 ・ The tea is drawing.
 ・ The history which is making about us.

 標題の問いに戻ろう.主語の the house と,building のなかに収まっているもともとの動詞 build とは,歴史的にいえば直接的な統語関係にあるわけではない.言い方をかえれば,build the house という動詞句を前提とした構文ではないということだ.一方,現代の標準的な The house is being built. は,その動詞句を前提とした構文である.つまり,2つの構文は起源がまったく異なっており,比べて合ってもしかたない代物なのである.
 現在分詞と動名詞が,まったく異なる機能をもちながらも,同じ -ing 形となっている歴史的経緯については,「#2421. 現在分詞と動名詞の協働的発達」 ([2015-12-13-1]) を参照されたい.

 ・ 中島 文雄 『英語発達史 改訂版』岩波書店,2005年.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-02-11 Mon

#3577. 黒人英語 (= AAVE) の言語的特徴 --- 文法 [aave][variation][variety][morphology][syntax][negative][be][auxiliary_verb][tense][aspect][inversion]

 昨日の記事「#3576. 黒人英語 (= AAVE) の言語的特徴 --- 発音」 ([2019-02-10-1]) に引き続き,McArthur に依拠して AAVE の言語的特徴について.今回は文法に注目する.

 (1) 他の英語変種にもみられるが,多重否定は普通に用いられる.No way no girl can't wear no platform shoes to no amusement park.

 (2) 存在構文に there ではなく it を用いる.It ain't no food here.

 (3) 複数形,所有格形,3単現の -s,過去の -ed などが省略されることがある.He got three cent. / That's my brother book. / She like new clothes. / They talk all night.

 (4) 疑問文で倒置がなされないことがある.What it is? / How you are?

 (5) be 動詞の否定で do が用いられることがある.It don't all be her fault.

 (6) be の習慣相の用法.They be fightin. / He be laughing.

 (7) 強勢のある been により遠い過去の習慣的な行為を表わす.I béen see dat movie. / She béen had dat hat.

 (8) 時に小辞 a により意志を表わす.I'm a shoot you. (= I'm going to shoot you.)

 (9) steady が,進行形の前位置や,文末の位置において強勢を伴って相的な意味を表わす.We be steady rappin. / We steady be rappin. / We be rappin stéady. (= We are always talking.) / They steady be high. / They be stady high. / They be high stéady.. (= They are always intoxicated.)

 (10) Come が時に準助動詞として用いられる.He come tellin me some story. (= He told me a lie.) / They come comin in here like they own de place. (= They came in here like they owned the place.)

 (11) like を「ほとんど」の意味で副詞的に用いる.I like to die(d). (= I almost died.) / He like to hit his head on that branch. (= He almost hit his head on that branch.)

 確かにこのような英語で話しかけられれば,わかるはずの文も聞き取れないだろうと思われる.しかし,異なる言語というほどの距離感ではないのも事実である.AAVE の位置づけの論争も熱を帯びるわけだ.

 ・ McArthur, Tom, ed. The Oxford Companion to the English Language. Oxford: OUP, 1992.

Referrer (Inside): [2019-02-12-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-01-26 Sat

#3561. 丁寧さを示す語用標識 please の発達 (3) [pragmatic_marker][pragmatics][historical_pragmatics][politeness][syntax][impersonal_verb][reanalysis][adverb][comment_clause]

 [2019-01-24-1], [2019-01-25-1] に引き続いての話題.丁寧な依頼・命令を表わす語用標識 (pragmatic_marker) としての please の発達の諸説についてみてきたが,発達に関する2つの仮説を整理すると (1) Please (it) you that . . . などが元にあり,主節動詞である please が以下から切り離されて語用標識化したという説と,(2) if you please, . . . などが元にあり,条件を表わす従属節の please が独立して語用標識化したという説があることになる.(1) は主節からの発達,(2) は従属節からの発達ということになり,対照的な仮説のようにみえる.
 Brinton (21) も,どちらかを支持するわけでもなく,Allen の研究に基づいて両説を対比的に紹介している.

An early study looking at an adverbial comment clause is Allen's argument that the politeness marker please originated in the adverbial clause if you please (1995; see also Chen 1998: 25--27). Traditionally, please has been assumed to originate in the impersonal construction please it you 'may it please you' > please you > please (OED: s.v. please, adv. and int.; cf. please, v., def. 3b). Such a structure would suggest the existence of a subordinate that-clause (subject) and argue for a version of the matrix clause hypothesis. However, the OED allows that please may also be seen as a shortened form of if you please (s.v. please, adv. and int.; cf. please, v., def. 6c). Allen notes that the personal construction if/when you please does not arise through reanalysis of the impersonal if it please you; rather, the two constructions exist independently and are already clearly differentiated in Shakespeare's time. The impersonal becomes recessive and is lost, while the personal form is routinized as a polite formula and ultimately (at the beginning of the twentieth century) shortened to please.


 語用標識 please の原型はどちらなのだろうか,あるいは両方と考えることもできるのだろうか.この問題に迫るには,初期近代英語期における両者の具体例や頻度を詳しく調査する必要がありそうだ.

 ・ Brinton, Laurel J. The Evolution of Pragmatic Markers in English: Pathways of Change. Cambridge: CUP, 2017.
 ・ Allen, Cynthia L. "On Doing as You Please." Historical Pragmatics: Pragmatic Developments in the History of English. Ed. Andreas H. Jucker. Amsterdam: John Benjamins, 1995. 275--309.
 ・ Chen, Guohua. "The Degrammaticalization of Addressee-Satisfaction Conditionals in Early Modern English." Advances in English Historical Linguistics. Ed. Jacek Fisiak and Marcin Krygier. Berlin: Mouton de Gruyter, 1998. 23--32.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-01-25 Fri

#3560. 丁寧さを示す語用標識 please の発達 (2) [pragmatic_marker][pragmatics][historical_pragmatics][politeness][syntax][impersonal_verb][reanalysis][adverb]

 昨日の記事 ([2019-01-24-1]) に引き続いての話題.現代の語用標識 (pragmatic_marker) としての please は,次に動詞の原形が続いて丁寧な依頼・命令を表わすが,歴史的には please に後続するのは動詞の原形にかぎらず,様々なパターンがありえた.OED の please, v. の 6d に,人称的な用法として,様々な統語パターンの記述がある.

d. orig. Sc. In imperative or optative use: 'may it (or let it) please you', used chiefly to introduce a respectful request. Formerly with bare infinitive, that-clause, or and followed by imperative. Now only with to-infinitive (chiefly regional).

Examples with bare infinitive complement are now usually analysed as please adv. followed by an imperative. This change probably dates from the development of the adverb, which may stand at the beginning of a clause modifying a main verb in the imperative.


1543 in A. I. Cameron Sc. Corr. Mary of Lorraine (1927) 8 Mademe..pleis wit I have spokin with my lord governour.
1568 D. Lindsay Satyre (Bannatyne) 3615 in Wks. (1931) II. 331 Schir pleis ȝe that we twa invaid thame And ȝe sell se vs sone degraid thame.
1617 in L. B. Taylor Aberdeen Council Lett. (1942) I. 144 Pleis ressave the contract.
1667 Milton Paradise Lost v. 397 Heav'nly stranger, please to taste These bounties which our Nourisher,..To us for food and for delight hath caus'd The Earth to yeild.
1688 J. Bloome Let. 7 Mar. in R. Law Eng. in W. Afr. (2001) II. 149 Please to procure mee weights, scales, blow panns and sifters.
1716 J. Steuart Let.-bk. (1915) 36 Please and forward the inclosed for Hamburg.
1757 W. Provoost Let. 25 Aug. in Beekman Mercantile Papers (1956) II. 659 Please to send me the following things Vizt. 1 Dozen of Black mitts. 1 piece of Black Durant fine.
1798 T. Holcroft Inquisitor iv. viii. 49 Please, Sir, to read, and be convinced.
1805 E. Cavanagh Let. 20 Aug. in M. Wilmot & C. Wilmot Russ. Jrnls. (1934) ii. 183 Will you plaise to tell them down below that I never makes free with any Body.
1871 B. Jowett tr. Plato Dialogues I. 88 Please then to take my place.
1926 N.E.D. at Way sb.1 There lies your way, please to go away.
1973 Punch 3 Oct. Please to shut up!
1997 P. Melville Ventriloquist's Tale (1998) ii. 140 Please to keep quiet and mime the songs, chile.


 例文からもわかるように,that 節, to 不定詞,原形不定詞,and do などのパターンが認められる.このうち原形不定詞が続くものが,現代の一般的な丁寧な依頼・命令を表わす語法として広まっていったのである.

Referrer (Inside): [2019-01-26-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-01-24 Thu

#3559. 丁寧さを示す語用標識 please の発達 (1) [pragmatic_marker][pragmatics][historical_pragmatics][politeness][syntax][comment_clause][impersonal_verb][reanalysis][adverb]

 丁寧な依頼・命令を表わす副詞・間投詞としての please は,機能的にはポライトネス (politeness) を果たす語用標識 (pragmatic_marker) といってよい.もともとは「〜を喜ばせる,〜に気に入る」の意の動詞であり,動詞としての用法は現在も健在だが,それがいかにして語用標識化していったのか.OED の please, adv. and int. の語源解説によれば,道筋としては2通りが考えられるという.

As a request for the attention or indulgence of the hearer, probably originally short for please you (your honour, etc.) (see please v. 3b(b)), but subsequently understood as short for if you please (see please v. 6c). As a request for action, in immediate proximity to a verb in the imperative, probably shortened from the imperative or optative please followed by the to-infinitive (see please v. 6d).


 考えられる道筋の1つは,非人称動詞として用いられている please (it) you などが約まったというものであり,もう1つは,人称動詞として用いられている if you please が約まったというものである.起源としては前者が早く,後者は前者に基づいたもので,1530年に初出している.人称動詞としての please の用法は,15世紀にスコットランドの作家たちによって用いられ出したものである.これらのいずれかの表現が約まったのだろう,現代的な語用標識の副詞として初めて現われるのは,OED によれば1771年である.

1771 P. Davies Let. 26 Sept. in F. Mason John Norton & Sons (1968) 192 Please send the inclosed to the Port office.


 現代的な用法の please が,いずれの表現から発達したのかを決定するのは難しい.原型となりえた表現は上記の2種のほかにも,そこから派生した様々な表現があったからである.例えば,ほぼ同じ使い方で if it please you (cf. F s'il vous plaît), may it please you, so please you, please to, please it you, please you などがあった.現代の用法は,これらのいずれ(あるいはすべて)に起源をもつという言い方もできるかもしれない.

Referrer (Inside): [2019-01-26-1] [2019-01-25-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-01-15 Tue

#3550. 日本語用論学会関東地区講演会で may 祈願文について話します [notice][optative][auxiliary_verb][syntax][word_order][academic_conference][may]

 とある経緯により,今週末の1月19日(土)の15時より慶應義塾大学三田キャンパス(南校舎446番教室)にて,日本語用論学会関東地区の講演会にてお話しすることになっています.タイトルは「英語の may 祈願文の起源と発達」です.事前申込不要,参加費無料ですので,ご関心の向きはお運びください.
 May the Force be with you! (フォースが共にあらんことを!)に代表される may を用いた祈願文の歴史については,ここ数年間,関心を持ち続けてきました.拙著『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』(研究社,2016年)の4.5節でも取り上げましたし,本ブログでも「#1867. May the Queen live long! の語順」 ([2014-06-07-1]),「#2256. 祈願を表わす may の初例」 ([2015-07-01-1]),「#2484. 「may 祈願文ができるまで」」 ([2016-02-14-1]) など optative の各記事で話題にしてきた通りです.
 なぜよりによって may という助動詞が用いられているのか,なぜ VS 語順になる必要があるのかなど,共時的に謎が多い問題なのですが,通時的にみるとある程度は理由が分かってきます.しかし,通時的にみても依然として不明な部分が多々残っており,研究の余地があります.本格的に調べてみようと思い立ったのは比較的最近ですので,今度の講演会ではこれまでに分かっていることをまとめたり,目下考えているところをお話しするということになりますが,この不可思議で魅力的な構文について,語用論的な視点も含めつつ議論してみたいと思っています.
 自身の拙い発表の宣伝はしにくいのですが,慶應大学文学部の同僚であり,日本語用論学会関東地区を仕切られている井上逸兵先生からのプッシュもあり紹介してみました.ちなみに井上先生は,昨年12月1--2日に開催の日本語用論学会第21回全国大会の2日目に行なわれた第1回 語用論グランプリにて,なんと総合優勝されました.強者です.こちらの右下の勝利の写真を参照.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2018-12-24 Mon

#3528. 法助動詞を重ねられた時代 [auxiliary_verb][grammaticalisation][speed_of_change][syntax]

 現代英語では,will, shall, can, may などの法助動詞を重ねて用いることはできない.法助動詞は1つのみで用いられ,その後に本動詞の原形が続くという形式しか許容されない.しかし,かつて法助動詞を2つ重ねることができた時代があった.
 中尾 (350) を参照した縄田 (89--90) より,中英語からの例を示そう.

a. Shall 「未来」 + Will 「意志」
   whase wilenn shall þiss boc efft oþerr sitþe written
   'whoever shall wish to write this book afterwards another time' (?c1200 Orm D. 95)
b. Shall 「未来」 + Can 「能力」
   I shal not konne answere.
   'I shall not be able to answer.' (c1386 Chaucer, C. T. B 2902)
c. Shall 「未来」 + May 「能力」
   Hu sal ani man ðe mugen deren?
   'How shall any man be able to injure thee?' (c1250 Gen & Ex 1818)
d. May 「可能性」 + Can 「能力」
   it may not kon worche þis work bot ȝif it be illuminid by grace
   'it may not be able to do this work unless it be illumined by grace' (?a1400 Cloud 116, 14)


 現在の法助動詞はもともとは一般動詞にすぎなかったが,歴史的に法助動詞へと文法化 (grammaticalisation) してきた経緯がある.しかし,一般動詞から法助動詞への範疇の移行は,一夜にして切り替えが生じたわけではなく,グラジュアルな過程だったために,その移行期においては上記のように両範疇の特性を合わせもったような「2つ重ね」が許容されたということだろう.しかし,近代英語以降,この構造は廃れていく.
 縄田論文では,この2重法助動詞を巡る問題について,個々の助動詞間で法助動詞化の速度が異なっていたことが背景にあると議論されている.異なる立場からの関連する議論としては,「#1406. 束となって急速に生じる文法変化」 ([2013-03-03-1]),「#1670. 法助動詞の発達と V-to-I movement」 ([2013-11-22-1]) を参照.

  ・ 中尾 俊夫 『英語史 II』 英語学大系第9巻,大修館書店,1972年.
  ・ 縄田 裕幸 「第4章 分散形態論による文法化の分析 --- 法助動詞の発達を中心に ---」『文法化 --- 新たな展開 ---』秋元 実治・保坂 道雄(編) 英潮社,2005年.75--108頁.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2018-12-18 Tue

#3522. 英語史における語順倒置の機能の変遷 [syntax][word_order][inversion][pragmatics]

 Stein は英語の2種類の倒置 (inversion) をとりあげ,それぞれが歴史的にいかなる機能上の変化を遂げてきたかを論じている.Stein (135, 139) の扱った倒置構造は,次の type A と type B である .type A は新しい何かを導入する役割を果たし,type B は否定や限定を強める役割を果たす.いずれも近代英語期に台頭してきたものであり,古英語期の倒置構造が直接に受け継がれたものではない.

[ type A ]

 ・ In came Chomsky.
 ・ Down with the rebound comes . . .
 ・ Beyond it rose the peopled hills.
 ・ Developing offshore drilling in California are two Texas oil men.

[ type B ]

 ・ Rarely did I hear such overtones of gratitude as went into the utterance of this compound noun.
 ・ Not until the Book of Splendour did appear in Spain in the thirteenth century did a formidable metaphysical text on cabalism appear.
 ・ Often did she visit the inhabitants of that gloomy village
 ・ Only of late have I learned about the complexities of subjectivity
 ・ Never did I hear about cabalism.

 これらの倒置構造の歴史的推移は,Stein (146--47) によれば次の通りである.

Prior to the central structural process, the grammaticalisation of SVO, inversion (or not) did have non-propositional meaning, which is best described as 'textual' or discourse meaning, but no affective meaning. . . After the dissolution of the Old English types of inversions, the late Middle English situation shows an incipient tendency for use as a focussing device. The modern developments include the rise of the B type (the emotional type), expressive and subjective in meaning, as well as the rise of the A type, with a discourse-cum-affective type of meaning. The latter type is in part a renaissance of a discourse meaning that was present in the Old English (VSO) pattern, which did not have the affective component. To that extent the development has gone full circle.


 以上をまとめれば,一般的に語順が比較的自由だった古英語では,倒置の機能は談話的なものに特化していたが,SVO語順を指向した中英語では談話的機能は失われて焦点化の機能が発達し,SVO語順が確立した近代にかけては感情的な機能が前面で出てくるとともに,部分的に談話的な機能が復活してきたという流れだ.
 語順倒置の形式ではなく機能の歴史的推移というのも,突っ込んでいくとおもしろそう(だが,難しそう)だ.

 ・ Stein, Dieter. "Subjective Meanings and the History of Inversions." Subjectivity and Sbujectivisation: Linguistic Perspective. Ed. Dieter Stein and Susan Wright. Cambridge: CUP, 129--50.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2018-12-15 Sat

#3519. 感嘆文と疑問文の近さ [optative][interrogative][exclamation][tag_question][syntax][word_order][construction_grammar][inversion]

 この2日間の記事「#3517. if を使わずに V + S とする条件節」 ([2018-12-13-1]),「#3518. 条件節と疑問文の近さ」 ([2018-12-14-1]) で,統語的・意味論的な観点から「疑問」「接続法」「願望」「条件」の接点を探ってきた.この仲間に,もう1つ「感嘆」というキーワードも参加させたい.
 感嘆文では,疑問文で典型的に起こる V + S の語順がしばしば採用される.Jespersen (499) から例文を挙げよう.

 ・ Sh Merch II. 2. 106 Lord, how art thou chang'd
 ・ Sh Merch II. 3.16 Alacke, what heinous sinne is it in me To be ashamed to be my Fathers childe
 ・ BJo 3.133 what a vile wretch was I
 ・ Farquhar B 321 What a rogue is my father!
 ・ Defoe G 44 what fool must he be now that they have given him a place!
 ・ Goldsm 658 What a fool was I, to think a young man could learn modesty by travelling
 ・ Macaulay H 2.209 What a generation of vipers do we live among!
 ・ Thack N 180 What a festival is that day to her | What (how great) was my surprise when they were engaged!
 ・ Bennett C 2.12 What a night, isn't it?


 最後の例文では付加疑問がついているが,これなどはまさに感嘆文と疑問文の融合ともいうべき例だろう.感嘆と疑問が合わさった「#2258. 感嘆疑問文」 ([2015-07-03-1]) も例が豊富である.
 また,感嘆と願望が互いに近しいことは説明を要しないだろう.may 祈願文が V + S 語順を示すのも,感嘆の V + S 語順と何らかの関係があるからかもしれない.
 may 祈願文と関連して,Jespersen (502) に,Dickinson, European Anarchy 74 からの興味深い例文があったので挙げておこう.

"The war may come", says one party. "Yes", says the other; and secretly mutters, "May the war come!"


 may 祈願は,疑問文に典型的な V + S 語順を,願望や感嘆のためにリクルートした例と考えてみるのもおもしろそうだ.

 ・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part 5. Copenhagen: Munksgaard, 1954.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2018-12-14 Fri

#3518. 条件節と疑問文の近さ [conditional][word_order][syntax][assertion][construction_grammar]

 昨日の記事「#3517. if を使わずに V + S とする条件節」 ([2018-12-13-1]) で,V + S の条件節(動詞は典型的に接続法)の発達について取りあげた.現代英語で最も普通に V + S の語順をとるのは疑問文である.とすると,条件節と疑問文の間に何らかの接点があるのかないのかという疑問が湧くだろう.これについて考えてみよう.
 条件節と疑問文は,確かに近い関係にある.まず,間接疑問を導く接続詞に if が用いられることを思い起こしたい.He asked if I liked Chinese food. (彼は私に中華料理が好きかと尋ねた」や Let me know if she is coming 「彼女が来るか知らせてください」など.後者では if が「〜かどうか」の名詞節を導くのか,「〜ならば」の副詞節を導くのかは文脈に応じて異なり得るという点で両義的だが,まさにこの両義性こそが「条件」と「疑問」の接点となるのである.日本語訳に現われる係助詞「か」も,典型的に疑問を表わすことに注意.
 意味論的あるいは論理的にいえば,条件節も疑問文も "nonassertive" であるという点で共通している.つまり,ある命題について断定していないということである.命題とは別の可能性も含意するという点で,"alternative possible worlds" を前提としていると言い換えてもよいだろう.両者が異なるのは,条件節はそれだけでは何の発話行為にもならないが,疑問文ではそれだけで「疑問・質問」という発話行為となることだ.ついでにいえば,「願望」も命題の表わす事態がまだ起こっていないことを前提とするので nonassertion のもう1つの典型である.may 祈願文などは単独で「願望」の発話行為となる点で疑問文と共通する.
 このように考えてくると,なぜ条件節が疑問文と同様に V + S の語順をとるのか,おぼろげながら両者の接点が見えてくるのではないか.昨日の記事でも示唆した通り,「疑問」「接続法」「願望」「条件」というキーワードは互いにリンクしているようだ.
 (non)assertion については,「#679. assertion and nonassertion (1)」 ([2011-03-07-1]),「#680. assertion and nonassertion (2)」 ([2011-03-08-1]),「#950. Be it never so humble, there's no place like home. (3)」 ([2011-12-03-1]) の記事を参照されたい.

 ・ Leuschner, Torsten and Daan Van den Nest. "Asynchronous Grammaticalization: V1-Conditionals in Present-Day English and German." Languages in Contrast 15 (2015): 34--63.

Referrer (Inside): [2018-12-15-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow