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最終更新時間: 2024-03-19 08:07

2024-03-19 Tue

#5440. 川添愛(著)『世にもあいまいなことばの秘密』(筑摩書房〈ちくまプリマー新書〉,2023年) [review][toc][syntax][semantics][pragmatics][youtube][inohota][notice]


川添 愛 『世にもあいまいなことばの秘密』 筑摩書房〈ちくまプリマー新書〉,2023年.



 昨年12月に出版された,川添愛さんによる言葉をおもしろがる新著.表紙と帯を一目見るだけで,読んでみたくなる本です.くすっと笑ってしまう日本語の用例を豊富に挙げながら,ことばの曖昧性に焦点を当てています.読みやすい口調ながらも,実は言語学的な観点から言語学上の諸問題を論じており,(物書きの目線からみても)書けそうで書けないタイプの希有の本となっています.
 どのような事例が話題とされているのか,章レベルの見出しを掲げてみましょう.



 1. 「シャーク関口ギターソロ教室」 --- 表記の曖昧さ
 2. 「OKです」「結構です」 --- 辞書に載っている曖昧さ
 3. 「冷房を上げてください」 --- 普通名詞の曖昧さ
 4. 「私には双子の妹がいます」 --- 修飾語と名詞の関係
 5. 「政府の女性を応援する政策」 --- 構造的な曖昧さ
 6. 「二日,五日,八日の午後が空いています」 --- やっかいな並列
 7. 「二〇歳未満ではありませんか」 --- 否定文・疑問文の曖昧さ
 8. 「自分はそれですね」 --- 代名詞の曖昧さ
 9. 「なるはやでお願いします」 --- 言外の意味と不明確性
 10. 「曖昧さとうまく付き合うために」



 言語学的な観点からは,とりわけ統語構造への注目が際立っています.等位接続詞がつなげている要素は何と何か,否定のスコープはどこまでか,形容詞が何にかかるのか,助詞「の」の多義性,統語的解釈における句読点の役割等々.ほかに語用論的前提や意味論的曖昧性の話題も取り上げられています.
 本書は日本語を読み書きする際に注意すべき点をまとめた本としては,実用的な日本語の書き方・話し方マニュアルとして読むこともできると思います.むしろ実用的な関心から本書を手に取ってみたら,言語学的見方のおもしろさがジワジワと分かってきた,というような読まれ方が想定されているのかもしれません.曖昧性の各事例については「問題」と「解答」(巻末)が付されています.
 本書のもう1つの読み方は,例に挙げられている日本語の事例を英語にしたらどうなるか,英語だったらどのように表現するだろうか,などと考えながら読み進めることによって,両言語の言語としての行き方の違いに気づくというような読み方です.両言語間の翻訳の練習にもなりそうです.
 本書については YouTube 「いのほた言語学チャンネル」にて「#205. 川添愛さん『世にもあいまいなことばの秘密』のご紹介」の回で取り上げています.ぜひご覧ください.



 言語の曖昧性については hellog より「#2278. 意味の曖昧性」 ([2015-07-23-1]),「#4913. 両義性にもいろいろある --- 統語的両義性から語彙的両義性まで」 ([2022-10-09-1]) の記事もご一読ください.

 ・ 川添 愛 『世にもあいまいなことばの秘密』 筑摩書房〈ちくまプリマー新書〉,2023年.

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2024-01-28 Sun

#5389. 語用論的な if you like 「こう言ってよければ」の発展 (2) [pragmatics][discourse_marker][lmode][construction_grammar][politeness][comment_clause][syntax][constructionalisation][corpus][speed_of_change]

 先日 Voicy heldio にて「#961. 評言節 if you like 「そう呼びたければ」と題して,口語の頻出フレーズ if you like の話題をお届けした.



 実は私自身も忘れていたのだが,この問題については hellog で「#4593. 語用論的な if you like 「こう言ってよければ」の発展」 ([2021-11-23-1]) として取り上げていた.その過去の記事でも参照・引用した Brinton の論文を改めて読み直し,if you like および類義表現について興味深い歴史的事実を知ったので,ここに記しておきたい.
 Brinton は挿入的に用いられる if you choose/like/prefer/want/wish の類いを "if-ellipitical clauses" (= "if-ECs") と名付けている (273) .意味論・語用論の観点から,2種類の if-ECs が区別される.1つめは省略されている目的語が前後のテキストから統語的に補えるタイプである ("elliptical form") .2つめは目的語を前後のテキストから補うことはできず,もっぱらメタ言語的な挿入説として用いられるタイプである ("metalinguistic parenthetical") .各タイプについて,Brinton (281) が歴史コーパスから拾った例を1つずつ挙げてみよう.

 1. I said no, they are copper, but if you choose, you shall have them (1763 John Routh, Violent Theft; OBP)
 2. I ought to occupy the foreground of the picture; that being the hero of the piece, or (if you choose) the criminal at the bar, my body should be had into court. (1822 De Quincy, Confessions of an English Opium Eater; CLMETEV)

 いずれも choose という動詞を用いた例である.前者は if you choose to have them のようにテキストに基づいて目的語を補うことができるが,後者はそのようには補えない.あくまでメタ言語的に if you choose to say so ほどが含意されている用法だ.
 歴史的には,前者のタイプの用例が,動詞を取り替えつつ18--19世紀に初出している.そして,おもしろいことに,後者のタイプの用例がその後数十年から100年ほど遅れて初出している.全体としては,類義の動詞が束になって,ゆっくりと似たような用法の拡張を遂げていることになる.Brinton (282) の "Dating of if-ECs" と題する表を掲げよう.近代英語期の様々なコーパスを用いた初出年調査の結果である.

 Earliest elliptical formEarliest metalinguistic parenthetical
if you choose17631822
if you like17231823
if you wish18191902/PDE
if you prefer18481900
if you want1677/18241934



 さらにおもしろいのは,メタ言語的な用法の初例を誇る if you choose は,現在までに人気を失っていることだ.一方,最も新しい if you want もメタ言語的な用法としての頻度は目立たない.安定感のあるのはその他の3種,like, wish, prefer 辺りのである.類義の動詞が束になって当該表現と用法を発展させてきたとしても,後の安定感に差が出たのはなぜなのだろうか.とても興味深い.

 ・ Brinton, Laurel J. "If you choose/like/prefer/want/wish: The Origin of Metalinguistic and Politeness Functions." Late Modern English Syntax. Ed. Marianne Hundt. Cambridge: CUP, 2014.

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2024-01-24 Wed

#5385. methinks にまつわる妙な語形をいくつか紹介 [3ps][impersonal_verb][verb][syntax][inflection][hc][agreement][analogy][shakespeare][methinks]

 非人称動詞 (impersonal_verb) の methinks については「#4308. 現代に残る非人称動詞 methinks」 ([2021-02-11-1]),「#204. 非人称構文」 ([2009-11-17-1]) などで触れてきた.非人称構文 (impersonal construction) では人称主語が現われないが,文法上その文で用いられている非人称動詞はあたかも3人称単数主語の存在を前提としているかのような屈折語尾をとる.つまり,大多数の用例にみられるように,直説法単数であれば,-s (古くは -eth) をとるということになる.
 ところが,用例を眺めていると,-s などの子音語尾を取らないものが散見される.Wischer (362) が,Helsinki Corpus から拾った中英語の興味深い例文をいくつか示しているので,それを少々改変して提示しよう.

(10) þe þincheð þat he ne mihte his sinne forlete.
       'It seems to you that he might not relinquish his sin.'
       (MX/1 Ir Hom Trin 12, 73)

(11) Thy wombe is waxen grete, thynke me.
       'Your womb has grown big. You seem to be pregnant.'
       (M4 XX Myst York 119)
     
(12) My lord me thynketh / my lady here hath saide to you trouthe and gyuen yow good counseyl [...]
       (M4 Ni Fict Reynard 54)
     
(13) I se on the firmament, Me thynk, the seven starnes.
       (M4 XX Myst Town 25)


 子音語尾を伴っている普通の例が (10) と (12),伴っていない例外的なものが (11) と (13) である.(11) では論理上の主語に相当する与格代名詞 me が後置されており,それと語尾の欠如が関係しているかとも疑われたが,(13) では Me が前置されているので,そういうことでもなさそうだ.OEDmethinks, v. からも子音語尾を伴わない用例が少なからず確認され,単純なエラーではないらしい.
 では語尾欠如にはどのような背景があるのだろうか.1つには,人称構文の I think (当然ながら文法的 -s 語尾などはつかない)との間で混同が起こった可能性がある.もう1つヒントとなるのは,当該の動詞が,この動詞を含む節の外部にある名詞句に一致していると解釈できる例が現われることだ.OED で引用されている次の例文では,methink'st thou art . . . . というきわめて興味深い事例が確認される.

a1616 Meethink'st thou art a generall offence, and euery man shold beate thee. (W. Shakespeare, All's Well that ends Well (1623) ii. iii. 251)


 さらに,動詞の過去形は3単「現」語尾をとるはずがないので,この動詞の形態は事実上 methought に限定されそうだが,実際には現在形からの類推 (analogy) に基づく形態とおぼしき methoughts も,OED によるとやはり Shakespeare などに現われている.
 どうも methinks は,動詞としてはきわめて周辺的なところに位置づけられる変わり者のようだ.中途半端な語彙化というべきか,むしろ行き過ぎた語彙化というべきか,分類するのも難しい.

 ・ Wischer, Ilse. "Grammaticalization versus Lexicalization: 'Methinks' there is some confusion." Pathways of Change: Grammaticalization in English. Ed. Olga Fischer, Anette Rosenbach, and Dieter Stein. Amsterdam: John Benjamins, 2000. 355--70.

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2024-01-20 Sat

#5381. 文法化の道筋と文法化の程度を図るパラメータ [grammaticalisation][language_change][syntax][morphology][phonology][unidirectionality]

 言語変化のメカニズムとして研究が深まってきている文法化 (grammaticalisation) については「#417. 文法化とは?」 ([2010-06-18-1]) をはじめ多くの記事で取り上げてきた.今回は,多くの先行研究を参照した Wischer 論文の冒頭部分を参考に,文法化の典型的な道筋と文法化の程度を図るパラメータを紹介する.
 まず Wischer (356) は Givón (1979: 209) を参照しつつ,文法化の1つの典型的な経路として以下のパターンを導入する.

discourse → syntax → morphology → morphophonemics → zero


文法化の理論では,ここの矢印に示される言語変化の一方向性 (unidirectionality) がしばしば問題となる.
 続けて Wischer (356) は,Lehmann (1985: 307--08) を参照しつつ,文法化の程度を図るパラメータを示す.

1. "attrition": the gradual loss of semantic and phonological substance;
2. "paradigmaticization": the increasing integration of a syntactic element into a morphological paradigm;
3. "obligatorification": the choice of the linguistic item becomes rule-governed;
4. "condensation": the shrinking of scope;
5. "coalescence": once a syntactic unit has become morphological, it gains in bondedness and may even fuse with the constituent it governs;
6. "fixation": the item loses its syntagmatic variability and becomes a slot filler.


 要約していえば,文法化とは,拘束されない統語的単位が高度に制限された文法的形態素へ変容していく過程ととらえることができる.

 ・ Wischer, Ilse. "Grammaticalization versus Lexicalization: 'Methinks' there is some confusion." Pathways of Change: Grammaticalization in English. Ed. Olga Fischer, Anette Rosenbach, and Dieter Stein. Amsterdam: John Benjamins, 2000. 355--70.
 ・ Givón, Talmy. On Understanding Grammar. New York: Academic P, 1979.
 ・ Lehmann, Chr. "Grammaticalisation: Synchronic Variation and Diachronic Change." Lingua e stile 20 (1985): 303--18.

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2023-10-25 Wed

#5294. 情報構造旧情報, 新情報 [information_structure][pragmatics][discourse_analysis][khelf][syntax][article][khelf-conference-2023][seminar][hel_education][voicy][heldio][notice]

 昨日の Voicy heldio にて「#873. ゼミ合宿収録シリーズ (7) --- 情報構造入門」を配信しました.khelf (慶應英語史フォーラム)のメンバー3名による収録で,ご好評いただいています(ありがとうございます).「桃太郎」を題材に,情報構造 (information_structure) という用語・概念の基本が丁寧に解説されています.



 情報構造に関する基本的事項の1つに,「旧情報」 (given information) と「新情報」 (new information) の対立があります.談話は原則として,話し手と聞き手にとって既知の旧情報の提示に始まり,その上に未知の新情報を加えることで,段階的に共有知識が蓄積されていきます.つまり,旧情報→新情報と進み,次にこの蓄積全体が旧情報となって,その上に新情報が積み上げられ,さらにこれまでの蓄積全体が旧情報となって次の新情報が加えられる,等々ということです.
 Cruse の用語辞典より "given vs new information" (74--75) の項目を引用します.

given vs new information These notions are concerned with what is called the 'information structure' of utterances. In virtually all utterances, some items are assumed by the speaker to be already present in the consciousness of the hearer, mostly as a result of previous discourse, and these constitute a platform for the presentation of new information. As the discourse proceeds, the new information of one utterance can become the given information for subsequent utterances, and so on. The distinction between given and new information can be marked linguistically in various ways. The indefinite article typically marks new information, and the definite article, given information: A man and a woman entered the room. The man was smoking a pipe. A pronoun used anaphorically indicates given information: A man entered the room. He looked around for a vacant seat. The stress pattern of an utterance can indicate new and given information (in the following example capitals indicate stress):

   PETE washed the dishes. (in answer to Who washed the dishes?)
   Pete washed the DISHES. (in answer to What did Pete do?)

Givenness is a matter of degree. Sometimes the degree of givenness is so great that the given item(s) can be omitted altogether (ellipsis):

   A: What did you get for Christmas?
   B: A computer. (The full form would be I got a computer for Christmas.)


 談話は旧情報の上に新情報を付け加えることで流れていく,という情報構造の基本事項を導入しました.

 ・ Cruse, Alan. A Glossary of Semantics and Pragmatics. Edinburgh: Edinburgh UP, 2006.

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2023-09-14 Thu

#5253. 日英語における「無生物主語構文」の歴史と疑問 [genbunicchi][syntax][style][sobokunagimon][japanese]

 「#5112. 江利川春雄(著)『英語と日本人 --- 挫折と希望の二〇〇年』(筑摩書房〈ちくま選書〉,2023年)」 ([2023-04-26-1]) で紹介した著書に「島崎藤村の英語的文体」と小見出しの立てられた一節がある.言文一致の確立に貢献した藤村の近代的文体について,英語らインスピレーションを受けた表現形式について,次のように述べている (57) .

 藤村は作品の文体を斬新で豊かなものにするために,英語の表現を意識的に移植した.たとえば,『家』(一九一〇)では英語の find oneself にあたる「宿へ戻って,またお種は自分一人を部屋の内に見出した」といった表現を使っている.この作品を英訳した William Naff は,この部分を Returning to the inn, Otane found herself all alone again. と訳している.藤村の原文は,そのまま英文に直訳できたのである.
 日本語にはない「無生物主語構文」も多用されている.たとえば『春』(一九〇八)には「追想は岸本を楽しい高輪の学生時代へ連れて行った」,「絶望は彼を不思議な決心に導いた」といった英語的な文体が登場する.
 無生物主語の使用は藤村にとどまらない.たとえば国木田独歩は『武蔵野』(一八九八)で「その路が君を妙なところへ導く」などの表現を使っている.こうした清新な文体が日本語表現を豊かにし,日本人の間に浸透する.昭和に入ると,藤森成吉の戯曲「何が彼女をそうさせたか」(一九二七)が大評判となり,一九三〇年には映画化されて『キネマ旬報』の優秀映画第一位に輝いた.英訳タイトルは "What made her do it?" で,英語に直訳できた.


 無生物主語構文は,現在の日本語でも英語からの直訳調できざっぽい響きは感じられるものの,英語教育のおかげか,英語普及のたまものか,許容できる表現形式とはなっているといってよいだろう.
 英語史側からの問題は,ここで英語的とされている無生物主語構文は,はたして英語でも古くから普通の表現だったかどうかということである.この観点から英語史を眺めてきたことはなかったため判然としないが,少なくとも印象としては現代英語のようには頻繁に使われていなかったのではないか.本当に「英語的」な表現なのかどうか,この辺りは調べてみたい.

 ・ 江利川 春雄 『英語と日本人 --- 挫折と希望の二〇〇年』 筑摩書房〈ちくま選書〉,2023年.

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2023-09-13 Wed

#5252. 絶対格的見方と能格的見方 [ergative][case][voice][semantic_role][syntax][transitivity]

 言語学には,絶対格性 (absolutive) と能格性 (ergativity) という,言語に表出する世界観の重要な違いがある.同じ過程 (process) であっても,各々の見方を通してみると,まったく異なる解釈がなされ,まったく異なる(統語)表現が現われてくる.
 トムが目を閉じるシーンを見たとしよう.これを「トムの目が閉じた」と描写するか,「トムは目を閉じた」と描写するかは視点の違いといわれる.日本語でも英語でも,統語的にはそれぞれを自動詞文,他動詞文と呼ぶことが多い.いずれの文でも過程 (Process) は「閉じる」で一致しているが,前者の文では主語(意味役割としては Agent)は「トムの目」,後者の文では「トム」となる.また,後者の文では「(トムの)目」という目的語 (Goal) が現われる.これが絶対格性の言語観である.
 ところが,能格性の言語観によると,いずれの文においても「閉じる」が過程 (Process) であることは異ならないが,「トムの目」が媒体 (Medium) として同じ意味役割を担っているものと解釈される.それは,いずれにせよ「閉じる」という過程が成立するためになければならない「媒体」だからだ.この言語観によれば,後者の文における「トム」は媒体を発動させる主体 (Agent) とみなされる.
 つまり,2つの文のペアについて,絶対格的見方と能格的見方があることになる.Halliday (341) より,いくつかの英語の短文を挙げつつ,2つの言語観を比較してみよう.

(a) transitive interpretation
the boatsailed vs. Marysailedthe boat
the clothtore vs. the nailtorethe cloth
Tom's eyesclosed vs. Tomclosedhis eyes
the ricecooked vs. Patcookedthe rice
my resolveweakened vs. the newsweakenedmy resolve
ActorProcess vs. ActorProcessGoal
(b) ergative interpretation
the boatsailed vs. Marysailedthe boat
the clothtore vs. the nailtorethe cloth
Tom's eyesclosed vs. Tomclosedhis eyes
the ricecooked vs. Patcookedthe rice
my resolveweakened vs. the newsweakenedmy resolve
MediumProcess vs. AgentProcessMedium


 能格については「#4314. 能格言語は言語の2割を占める」 ([2021-02-17-1]),「#4315. 能格言語の発想から英語をみる」 ([2021-02-18-1]) も参照.

 ・ Halliday, M. A. K. Halliday's Introduction to Functional Grammar. 4th ed. Rev. Christian M. I. M. Matthiessen. Abingdon: Routledge, 2004.

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2023-09-10 Sun

#5249. 川端朋広先生と現代英語の言語変化をいかに研究するかについて対談しました [voicy][heldio][review][corpus][pde][syntax][philology][methodology][link]


秋元 実治(編),片見 彰夫・福元 広二・田辺 春美・山本 史歩子・中山 匡美・川端 朋広・秋元 実治(著) 『近代英語における文法的・構文的変化』 開拓社,2023年.



 『近代英語における文法的・構文的変化』が,6月に開拓社より出版されています.15--20世紀の英文法およびその変化が実証的に記述されています.本書のユニークな点は,6名の研究者の各々が各世紀の言語事情を定点観測的に調査していることです.個々の章を読むのもよいですし,ある項目に注目して章をまたいで読むのもよいと思います.
 本書については,本ブログ,Voicy heldio,YouTube で様々にご紹介してきました.昨日の heldio では川端朋広先生(愛知大学)との対談回の第2弾「#831. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 川端朋広先生との対談 (2)」を配信しました.今回は,現代英語の言語変化を研究する際の難しさ,悩み,魅力などに注目し,最終的には研究法をめぐる談義に発展しました.35分ほどの音声となります.お時間のあるときにどうぞ.



 こちらの回をもって,本書紹介シリーズが出そろったことになります.改めてこれまでの関連コンテンツへのリンクを張っておきます.著者の先生方の声を聴きつつ本書を読んでいくというのも,一つの味わい方かと思います.



 ・ YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」より「#137. 辞書も規範文法も18世紀の産業革命富豪が背景に---故山本史歩子さん(英語・英語史研究者)に捧ぐ---」

 ・ hellog 「#5166. 秋元実治(編)『近代英語における文法的・構文的変化』(開拓社,2023年)」 ([2023-06-19-1])
 ・ hellog 「#5167. なぜ18世紀に規範文法が流行ったのですか?」 ([2023-06-20-1])
 ・ hellog 「#5182. 大補文推移の反対?」 ([2023-07-05-1])
 ・ hellog 「#5186. Voicy heldio に秋元実治先生が登場 --- 新刊『近代英語における文法的・構文的変化』についてお話しをうかがいました」 ([2023-07-09-1])
 ・ hellog 「#5208. 田辺春美先生と17世紀の英文法について対談しました」 ([2023-07-31-1])
 ・ hellog 「#5224. 中山匡美先生と19世紀の英文法について対談しました」 ([2023-08-16-1])
 ・ hellog 「#5235. 片見彰夫先生と15世紀の英文法について対談しました」 ([2023-08-27-1])
 ・ hellog 「#5242. 川端朋広先生と20世紀の英文法について対談しました」 ([2023-09-03-1])
 ・ hellog 「#5249. 川端朋広先生と現代英語の言語変化をいかに研究するかについて対談しました」 ([2023-09-09-1])

 ・ heldio 「#769. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 秋元実治先生との対談」
 ・ heldio 「#772. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 16世紀の英語をめぐる福元広二先生との対談」
 ・ heldio 「#790. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 田辺春美先生との対談」
 ・ heldio 「#806. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 中山匡美先生との対談」
 ・ heldio 「#824. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 川端朋広先生との対談 (1)」
 ・ heldio 「#831. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 川端朋広先生との対談 (2)」
 ・ heldio 「#837. 18世紀の英語の文法変化 --- 秋元実治先生との対談」(←こちらは 2023/09/15(Fri) の後記)




 ・ 秋元 実治(編),片見 彰夫・福元 広二・田辺 春美・山本 史歩子・中山 匡美・川端 朋広・秋元 実治(著) 『近代英語における文法的・構文的変化』 開拓社,2023年.

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2023-09-03 Sun

#5242. 川端朋広先生と20世紀の英文法について対談しました [voicy][heldio][review][corpus][pde][syntax][phrasal_verb][subjunctive][complementation][preposition]


秋元 実治(編),片見 彰夫・福元 広二・田辺 春美・山本 史歩子・中山 匡美・川端 朋広・秋元 実治(著) 『近代英語における文法的・構文的変化』 開拓社,2023年.



 こちらの本は6月に開拓社より出版された『近代英語における文法的・構文的変化』です.6名の研究者の各々が,15--20世紀の各世紀の英文法およびその変化について執筆されています.
 本書については本ブログや Voicy heldio で何度かご紹介してきましたが,今回は,第6章「20世紀の文法的・構文的変化」を執筆された川端朋広先生(愛知大学)との heldio 対談をご案内します.「#824. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 川端朋広先生との対談 (1)」と題し,40分超でじっくりお話しをうかがっています.



 2023年の現在,20世紀の英語は正確にいえば「過去の英語」となりますが,事実上は私たちが日常的に触れている英語と同じものと考えられます.しかし,100年余の時間を考えれば,当然ながら細かな言語変化はたくさん起こってきたはずです.1901年と2023年の英語とでは,お互いに通じないことはないにせよ,やはり微妙なズレはあるはずです.現代英語の文法にも確かに変化が生じてきたのです.
 英語史ときくと,古英語や中英語のような古文を研究する分野という印象があるかもしれませんが,直近数十年に生じた英語の変化を追うのも立派な英語史研究の一部です.今回の川端先生のお話しからも,言語変化のダイナミックさと複雑さが伝わるのではないでしょうか.
 本書についてご関心をもった方は,ぜひ以下のコンテンツも訪問していただければと思います.



 ・ YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」より「#137. 辞書も規範文法も18世紀の産業革命富豪が背景に---故山本史歩子さん(英語・英語史研究者)に捧ぐ---」

 ・ hellog 「#5166. 秋元実治(編)『近代英語における文法的・構文的変化』(開拓社,2023年)」 ([2023-06-19-1])
 ・ hellog 「#5167. なぜ18世紀に規範文法が流行ったのですか?」 ([2023-06-20-1])
 ・ hellog 「#5182. 大補文推移の反対?」 ([2023-07-05-1])
 ・ hellog 「#5186. Voicy heldio に秋元実治先生が登場 --- 新刊『近代英語における文法的・構文的変化』についてお話しをうかがいました」 ([2023-07-09-1])
 ・ hellog 「#5208. 田辺春美先生と17世紀の英文法について対談しました」 ([2023-07-31-1])
 ・ hellog 「#5224. 中山匡美先生と19世紀の英文法について対談しました」 ([2023-08-16-1])
 ・ hellog 「#5235. 片見彰夫先生と15世紀の英文法について対談しました」 ([2023-08-27-1])

 ・ heldio 「#769. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 秋元実治先生との対談」
 ・ heldio 「#772. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 16世紀の英語をめぐる福元広二先生との対談」
 ・ heldio 「#790. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 田辺春美先生との対談」
 ・ heldio 「#806. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 中山匡美先生との対談」
 ・ heldio 「#817. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 片見彰夫先生との対談」




 ・ 秋元 実治(編),片見 彰夫・福元 広二・田辺 春美・山本 史歩子・中山 匡美・川端 朋広・秋元 実治(著) 『近代英語における文法的・構文的変化』 開拓社,2023年.

Referrer (Inside): [2023-09-10-1]

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2023-08-27 Sun

#5235. 片見彰夫先生と15世紀の英文法について対談しました [voicy][heldio][review][corpus][lme][syntax][phrasal_verb][subjunctive][complementation][caxton][malory][negative][impersonal_verb][preposition][periodisation]


秋元 実治(編),片見 彰夫・福元 広二・田辺 春美・山本 史歩子・中山 匡美・川端 朋広・秋元 実治(著) 『近代英語における文法的・構文的変化』 開拓社,2023年.



 6月に開拓社より出版された『近代英語における文法的・構文的変化』について,すでに何度かご紹介してきました.6名の研究者の各々が,15--20世紀の各世紀の英文法およびその変化について執筆するというユニークな構成の本です.
 本書の第1章「15世紀の文法的・構文的変化」の執筆を担当された片見彰夫先生(青山学院大学)と,Voicy heldio での対談が実現しました.えっ,15世紀というのは伝統的な英語史の時代区分では中英語期の最後の世紀に当たるのでは,と思った方は鋭いです.確かにその通りなのですが,対談を聴いていただければ,15世紀を近代英語の枠組みで捉えることが必ずしも無理なことではないと分かるはずです.まずは「#817. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 片見彰夫先生との対談」をお聴きください(40分超の音声配信です).



 私自身も,片見先生と対談するまでは,15世紀の英語はあくまで Chaucer に代表される14世紀の英語の続きにすぎないという程度の認識でいたところがあったのですが,思い違いだったようです.近代英語期への入り口として,英語史上,ユニークで重要な時期であることが分かってきました.皆さんも15世紀の英語に関心を寄せてみませんか.最初に手に取るべきは,対談の最後にもあったように,Thomas Malory による Le Morte Darthur 『アーサー王の死』ですね(Arthur 王伝説の集大成).
 時代区分の話題については,本ブログでも periodisation のタグのついた多くの記事で取り上げていますので,ぜひお読み下さい.
 さて,今回ご案内した『近代英語における文法的・構文的変化』については,これまで YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」,hellog, heldio などの各メディアで紹介してきました.以下よりご参照ください.



 ・ YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」より「#137. 辞書も規範文法も18世紀の産業革命富豪が背景に---故山本史歩子さん(英語・英語史研究者)に捧ぐ---」

 ・ hellog 「#5166. 秋元実治(編)『近代英語における文法的・構文的変化』(開拓社,2023年)」 ([2023-06-19-1])
 ・ hellog 「#5167. なぜ18世紀に規範文法が流行ったのですか?」 ([2023-06-20-1])
 ・ hellog 「#5182. 大補文推移の反対?」 ([2023-07-05-1])
 ・ hellog 「#5186. Voicy heldio に秋元実治先生が登場 --- 新刊『近代英語における文法的・構文的変化』についてお話しをうかがいました」 ([2023-07-09-1])
 ・ hellog 「#5208. 田辺春美先生と17世紀の英文法について対談しました」 ([2023-07-31-1])
 ・ hellog 「#5224. 中山匡美先生と19世紀の英文法について対談しました」 ([2023-08-16-1])

 ・ heldio 「#769. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 秋元実治先生との対談」
 ・ heldio 「#772. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 16世紀の英語をめぐる福元広二先生との対談」
 ・ heldio 「#790. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 田辺春美先生との対談」
 ・ heldio 「#806. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 中山匡美先生との対談」
 ・ heldio 「#817. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 片見彰夫先生との対談」




 ・ 秋元 実治(編),片見 彰夫・福元 広二・田辺 春美・山本 史歩子・中山 匡美・川端 朋広・秋元 実治(著) 『近代英語における文法的・構文的変化』 開拓社,2023年.

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2023-08-16 Wed

#5224. 中山匡美先生と19世紀の英文法について対談しました [voicy][heldio][review][corpus][lmode][syntax][phrasal_verb][subjunctive][complementation]


秋元 実治(編),片見 彰夫・福元 広二・田辺 春美・山本 史歩子・中山 匡美・川端 朋広・秋元 実治(著) 『近代英語における文法的・構文的変化』 開拓社,2023年.



 6月に開拓社より近代英語期の文法変化に焦点を当てた『近代英語における文法的・構文的変化』が出版されました.秋元実治先生(青山学院大学名誉教授)による編著です.6名の研究者の各々が,15--20世紀の各世紀の英文法およびその変化について執筆しています.
 このたび,本書の第5章「19世紀の文法的・構文的変化」の執筆を担当された中山匡美先生(神奈川大学ほか)と,Voicy heldio での対談が実現しました.19世紀は,英語史全体からみると現代に非常に近い時期ですので,それほど大きな違いはないと思われがちです.確かに現代英語を読めるのであれば19世紀の英語もおおよそ読めてしまうというのは事実です.しかし,それだからこそ,小さな違いを見過ごしてしまい,大きな誤解に陥ってしまう危険性があるのです.似ているだけに,落とし穴にはまらないよう,注意深く意識的な観察が必要ということにもなります.この辺りの事情を,19世紀の英語の専門家にお聴きしました.「#806. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 中山匡美先生との対談」です.どうぞご聴取ください(27分ほどの音声配信です).



 中山先生とは,これまでも2回の heldio 対談を行ない,配信しています.

 ・ 「#803. 中山匡美先生にとって英語とは何ですか? --- 「英語は○○です」企画の関連対談回」(2023/08/12 配信)
 ・ 「#323. 中山匡美先生との対談 singular "they" は19世紀でも普通に使われていた!」 (2022/04/19 配信)

 今回ご案内した『近代英語における文法的・構文的変化』については,すでに YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」,hellog, heldio などの各メディアで紹介してきましたので,以下よりご参照いただければ幸いです.



 ・ YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」より「#137. 辞書も規範文法も18世紀の産業革命富豪が背景に---故山本史歩子さん(英語・英語史研究者)に捧ぐ---」

 ・ hellog 「#5166. 秋元実治(編)『近代英語における文法的・構文的変化』(開拓社,2023年)」 ([2023-06-19-1])
 ・ hellog 「#5167. なぜ18世紀に規範文法が流行ったのですか?」 ([2023-06-20-1])
 ・ hellog 「#5182. 大補文推移の反対?」 ([2023-07-05-1])
 ・ hellog 「#5186. Voicy heldio に秋元実治先生が登場 --- 新刊『近代英語における文法的・構文的変化』についてお話しをうかがいました」 ([2023-07-09-1])
 ・ hellog 「#5208. 田辺春美先生と17世紀の英文法について対談しました」 ([2023-07-31-1])

 ・ heldio 「#769. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 秋元実治先生との対談」
 ・ heldio 「#772. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 16世紀の英語をめぐる福元広二先生との対談」
 ・ heldio 「#790. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 田辺春美先生との対談」
 ・ heldio 「#806. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 中山匡美先生との対談」




 ・ 秋元 実治(編),片見 彰夫・福元 広二・田辺 春美・山本 史歩子・中山 匡美・川端 朋広・秋元 実治(著) 『近代英語における文法的・構文的変化』 開拓社,2023年.

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2023-08-01 Tue

#5209. 他動性 (transitivity) とは何か? (3) [transitivity][termonology][verb][grammar][syntax][construction][semantic_role][semantics]

 他動性 (transitivity) について,2回にわたって論じてきた.

 ・ 「#5202. 他動性 (transitivity) とは何か?」 ([2023-07-25-1])
 ・ 「#5204. 他動性 (transitivity) とは何か? (2)」 [2023-07-27-1]

 今回は Bussmann (494--95) の用語辞典より transitivity の項を引用する.

Valence property of verbs which require a direct object, e.g. read, see, hear. Used more broadly, verbs which govern other objects (e.g. dative, genitive) can also be termed 'transitive'; while only verbs which have no object at all (e.g. sleep, rain) would be intransitive. Hopper and Thompson (1980) introduce other factors of transitivity in the framework of universal grammar, which result in a graduated concept of transitivity. In addition to the selection of a direct object, other semantic roles as well as the properties of adverbials, mood, affirmation vs negation, and aspect play a role. A maximally transitive sentence contains a non-negated resultive verb in the indicative which requires at least a subject and direct object; the verb complements function as agent and affected object, are definite and animate . . . . Using data from various languages, Hopper and Thompson demonstrate that each of the factors listed above as affecting transitivity is important for making transivtivity through case, adpositions, or verbal inflection. Thus in many languages (e.g. Lithuanian, Polish, Middle High German) affirmation vs negation correlates with the selection of case for objects in such a way that in affirmative sentences the object is usually in the accusative, while in negated sentences the object of the same verb occurs in the genitive or in another oblique case.


 他動性とは,(1) グラデーションであること,(2) 言語によってその具現化の方法は様々であること,が分かってきた.理論的には,対格目的語を要求する,結果を表わす直説法の肯定動詞が,最大限に "transitive" であるということだ.

 ・ Bussmann, Hadumod. Routledge Dictionary of Language and Linguistics. Trans. and ed. Gregory Trauth and Kerstin Kazzizi. London: Routledge, 1996.

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2023-07-31 Mon

#5208. 田辺春美先生と17世紀の英文法について対談しました [voicy][heldio][review][corpus][emode][syntax][phrasal_verb][subjunctive][complementation]


秋元 実治(編),片見 彰夫・福元 広二・田辺 春美・山本 史歩子・中山 匡美・川端 朋広・秋元 実治(著) 『近代英語における文法的・構文的変化』 開拓社,2023年.



 6月に開拓社より近代英語期の文法変化に焦点を当てた『近代英語における文法的・構文的変化』が出版されました.秋元実治先生(青山学院大学名誉教授)による編著です.6名の研究者の各々が,15--20世紀の各世紀の英文法およびその変化について執筆しています.
 このたび,本書の第3章「17世紀の文法的・構文的変化」の執筆を担当された田辺春美先生(成蹊大学)と,Voicy heldio での対談が実現しました.17世紀は英語史上やや地味な時代ではありますが,着実に変化が進行していた重要な世紀です.ことさらに取り上げられることが少ない世紀ですので,今回の対談はむしろ貴重です.「#790. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 田辺春美先生との対談」をお聴き下さい(21分ほどの音声配信です).



 田辺先生の最後の台詞「17世紀も忘れないでね~」が印象的でしたね.
 本書については,すでに YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」,hellog, heldio などの各メディアで紹介してきましたので,そちらもご参照いただければ幸いです.

 ・ YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」より「#137. 辞書も規範文法も18世紀の産業革命富豪が背景に---故山本史歩子さん(英語・英語史研究者)に捧ぐ---」

 ・ hellog 「#5166. 秋元実治(編)『近代英語における文法的・構文的変化』(開拓社,2023年)」 ([2023-06-19-1])
 ・ hellog 「#5167. なぜ18世紀に規範文法が流行ったのですか?」 ([2023-06-20-1])
 ・ hellog 「#5182. 大補文推移の反対?」 ([2023-07-05-1])
 ・ hellog 「#5186. Voicy heldio に秋元実治先生が登場 --- 新刊『近代英語における文法的・構文的変化』についてお話しをうかがいました」 ([2023-07-09-1])

 ・ heldio 「#769. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 秋元実治先生との対談」
 ・ heldio 「#772. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 16世紀の英語をめぐる福元広二先生との対談」
 ・ heldio 「#790. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 田辺春美先生との対談」

 ・ 秋元 実治(編),片見 彰夫・福元 広二・田辺 春美・山本 史歩子・中山 匡美・川端 朋広・秋元 実治(著) 『近代英語における文法的・構文的変化』 開拓社,2023年.

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2023-07-27 Thu

#5204. 他動性 (transitivity) とは何か? (2) [transitivity][termonology][verb][grammar][syntax][construction][semantic_role][semantics][philosophy_of_language]

 「#5202. 他動性 (transitivity) とは何か?」 ([2023-07-25-1]) ひ引き続き,他動性 (transitivity) について.
 Halliday の機能文法によると,他動性を考える際には3つのパラメータが重要となる.過程 (process),参与者 (participant),状況 (circumstance) の3つだ.このうち,とりわけ過程 (process) が支配的なパラメータとなる.
 「過程」と称されるものには大きく3つの種類がある.さらに小さくいえば3つの種類が付け足される.それぞれを挙げると,物質的 (material),精神的 (mental),関係的 (relational),そして 行為的 (behavioural), 言語的 (verbal), 存在的 (existential) の6種となる.

Transitivity A term used mainly in systemic functional linguistics to refer to the system of grammatical choices available in language for representing actions, events, experiences and relationships in the world . . . .
   There are three components in a transitivity process: the process type (the process or state represented by the verb phrase in a clause), the participant(s) (people, things or concepts involved in a process or experiencing a state) and the circumstance (elements augmenting the clause, providing information about extent, location, manner, cause, contingency and so on). So in the clause 'Mary and Jim ate fish and chips on Friday', the process is represented by 'ate', the participants are 'Mary and Jim' and the circumstances are 'on Friday'.
   Halliday and Mtthiesen (2004) identify three main process types, material, mental and relational, and three minor types, behavioural, verbal and existential. Associated with each process are certain kinds of participants. 1) Material processes refer to actions and events. The verb in a material process clause is usually a 'doing' word . . .: Elinor grabbed a fire extinguisher; She kicked Marina. Participants in material processes include actor ('Elinor', 'she') and goal ('a fire extinguisher', 'Marina'). 2) Metal processes refer to states of mind or psychological experiences. The verb in a mental process clause is usually a mental verb: I can't remember his name; Our party believes in choice. Participants in mental processes include senser(s) ('I'; 'our party') and phenomenon ('his name'; 'choice'). 3) Relational processes commonly ascribe an attribute to an entity, or identify it: Something smells awful in here; My name is Scruff. The verb in a relational processes include token ('something', 'my name')) and value ('Scruff', 'awful'). 4) Behavioural processes are concerned with the behaviour of a participant who is a conscious entity. They lie somewhere between material and mental processes. The verb in a behavioural process clause is usually intransitive, and semantically it refers to a process of consciousness or a physiological state: Many survivors are sleeping in the open; The baby cried. The participant in a behavioral process is called a behaver. 5) Verbal processes are processes of verbal action: 'Really?', said Septimus Coffin; He told them a story about a gooseberry in a lift. Participants in verbal processes include sayer ('Septimus Coffin', 'he'), verbiage ('really', 'a story') an recipient ('them'). 6) Existential processes report the existence of someone or something. Only one participant is involved in an existential process: the existent. There are two main grammatical forms for this type of process: existential there as subject + copular verb (There are thousands of examples.); and existent as subject + copular verb (Maureen was at home.)


 これらは,言語活動においてとりわけ根源的な意味関係の6種を選び取ったものといってよいだろう.言語哲学的にいえば,これらのパラメータがどこまで根源的な言語カテゴリーを構成するのかは分からない.考え方一つである.
 しかし,機能文法的には当面これらを前提として「過程」が定義され,さらにいえば「他動性」の程度も決まってくる,ということになっている.他動性とはすぐれて相対的な概念・用語ではあるが,このような言語観・文法観の枠組みから出てきた発想であることは知っておきたい.

 ・ Pearce, Michael. The Routledge Dictionary of English Language Studies. Abingdon: Routledge, 2007.

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2023-07-25 Tue

#5202. 他動性 (transitivity) とは何か? [transitivity][termonology][verb][mood][grammar][syntax][construction]

 『新英語学辞典』 (1267) によると,他動性 (transitivity) は Halliday の文法理論における用語で,法 (mood) と主題 (theme) とともに Halliday 文法における3つの大きな体系網を構成する.他動性とは,他動詞 (transitive verb) と自動詞 (intransitive verb) の区別に対応する概念というよりも,むしろ節に参与する要素間の「関与性」ととらえるほうが適切だろう.
 例えば Sir Chirstopher Wren built this bridge. といった典型的な SVO の文においては,行為者,過程,目標の3者が互いに関与し合っており,他動的であるといわれる.しかし,これは単純で典型的な例にすぎない.いくつの参与者がどのように関与し合っているかのパターンは様々であり,細分化していくと最終的には一つひとつの個別具体的な過程を区別しなければならなくなるだろう.この細分化の尺度を delicacy と呼んでいる.他動性は,したがって,動詞がいくつの項を取り得るかという問題や,伝統文法における「文型」の話題とも関連してくる.
 英文法に引きつけて考えるために,Crystal の言語学辞典より transitivity を引いて,例とともに理解していこう.

transitivity (n.) A category used in the grammatical analysis of clause/sentence constructions, with particular reference to the verb's relationship to dependent elements of structure. The main members of this category are transitive (tr, trans), referring to a verb which can take a direct object (as in he saw the dog), and intransitive (intr, intrans), where it cannot (as in *he arrived a ball). Many verbs can have both a transitive and an intransitive use (cf. we went a mile v. we went), and in some languages this distinction is marked morphologically. More complex relationships between a verb and the elements dependent upon it are usually classified separately. For example, verbs which take two objects are sometimes called ditransitive (as opposed to monotransitive), as in she gave me a pencil. There are also several uses of verbs which are marginal to one or other of these categories, as in pseudo-intranstive constructions (e.g. the eggs are selling well, where an agent is assumed --- 'someone is selling the eggs' --- unlike normal intransitive constructions, which do not have an agent transform: we went, but not *someone went us). Some grammarians also talk about (in)transitive prepositions. For example, with is a transitive preposition, as it must always be accompanied by a noun phrase complement (object), and along can be transitive or intransitive: cf. She arrived with a dog v. *She arrived with and She was walking along the river v. She was walking along.


 他動性については,今後も考えていきたい.

 ・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.
 ・ Crystal, David, ed. A Dictionary of Linguistics and Phonetics. 6th ed. Malden, MA: Blackwell, 2008. 295--96.

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2023-07-09 Sun

#5186. Voicy heldio に秋元実治先生が登場 --- 新刊『近代英語における文法的・構文的変化』についてお話しをうかがいました [voicy][heldio][review][mode][corpus][syntax][phrasal_verb][subjunctive][complementation][periodisation]

 6月に開拓社より近代英語期の文法変化に焦点を当てた書籍が出版されました.『近代英語における文法的・構文的変化』です.秋元実治先生(青山学院大学名誉教授)が編者を務められ,他に6名の研究者が執筆に加わっています.本書については,すでにこのブログや YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」で紹介する機会がありました.

 ・ hellog 「#5166. 秋元実治(編)『近代英語における文法的・構文的変化』(開拓社,2023年)」 ([2023-06-19-1])
 ・ hellog 「#5167. なぜ18世紀に規範文法が流行ったのですか?」 ([2023-06-20-1])
 ・ hellog 「#5182. 大補文推移の反対?」 ([2023-07-05-1])
 ・ YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」より「#137. 辞書も規範文法も18世紀の産業革命富豪が背景に---故山本史歩子さん(英語・英語史研究者)に捧ぐ---」

 このたび,本書をめぐって編者の秋元実治先生とじきじきに対談する機会に恵まれました.対談の様子は,今朝の Voicy チャンネル「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて「#769. 『近代英語における文法的・構文的変化』 --- 秋元実治先生との対談」として配信しています.対談本体は27分ほどとなっています.お時間のあるときにゆっくりお聴きいただければ.



 エンディングチャプター(第5チャプター)では,秋元先生から対談収録後にうかがった,本書の表紙下部のビッグベンの写真についての貴重な裏話を紹介しています.
 皆さん,ぜひ近代英語の文法変化について関心を寄せていただければ!


秋元 実治(編),片見 彰夫・福元 広二・田辺 春美・山本 史歩子・中山 匡美・川端 朋広・秋元 実治(著) 『近代英語における文法的・構文的変化』 開拓社,2023年.



 ・ 秋元 実治(編),片見 彰夫・福元 広二・田辺 春美・山本 史歩子・中山 匡美・川端 朋広・秋元 実治(著) 『近代英語における文法的・構文的変化』 開拓社,2023年.

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2023-06-19 Mon

#5166. 秋元実治(編)『近代英語における文法的・構文的変化』(開拓社,2023年) [review][mode][corpus][syntax][phrasal_verb][subjunctive][complementation][periodisation][youtube]

 近代英語の文法変化についてコーパスを用いて実証的に研究した論考集が開拓社より出版されました.英語史分野の一線で活躍されている著者7名(片見彰夫氏,福元広二氏,田辺春美氏,山本史歩子氏,中山匡美氏,川端朋広氏,秋元実治氏)による書籍です.著者の方々よりご献本いただきました由,ここに感謝致します.


秋元 実治(編),片見 彰夫・福元 広二・田辺 春美・山本 史歩子・中山 匡美・川端 朋広・秋元 実治(著) 『近代英語における文法的・構文的変化』 開拓社,2023年.



 この本の最大の特徴は,各章が15--20世紀の各世紀を考察範囲としていることです.注目する話題は半ば固定されており,その点で定点観測となっているのですが,全体として整理された通時的な統語論の研究となっています.「はしがき」の冒頭に次のようにあります (v) .

 本書は近代英語(1500--Present)における文法的・構文的変化についてコーパス等の使用による実証的研究である.
 これまで英語史の記述において世紀別に述べることはあまりなかったように思われる.ひとつにはほとんどの言語変化は世紀を横断するため,各世紀の記述が難しいことがある.しかしながら,文学史などでは世紀別はきわめて普通であり(例えば,Oxford History of English Literature 12 volumes),このこともあってか英語史においても最近 Kytö et al. (2006), Mair (2006) などが出版され,それぞれ19世紀,20世紀の英語における変化・特徴に焦点をあてている.
 本書では近代英語における上記のような変化の連続性と各世紀の特徴を捉えるために,以下の点を執筆者の間で共有した.

  1. 全ての執筆者は共通項目,句動詞,仮定法,補文について述べる.
  2. それ以外の項目で,その世紀の特徴と考えられる文法的・構文的変化について述べる.
  3. 電子コーパス,テキスト等を使って,実証的に記述する.


 英語史の時代区分 (periodisation) については,最近では「#5140. 「英語史の時代区分」月間の振り返り」 ([2023-05-24-1]) で取り上げるなどし,私自身も長らく考えてきました.「古英語」や「近代英語」などとラベルを貼るのではなく,きっぱりと世紀単位で切る,あるいは言及するというのは確かに一般的ではありませんでしたが,Curzan (33) が述べるように,ラベルを避けたい立場の論者は世紀単位を好むようです.一見すると無機質な時代区分のようでいて,むしろ読み手に世紀をまたいだ言語の連続性と断絶性を意識させるという効果があるのではないでしょうか.
 本書ではコーパスを用いた具体的で実証的な研究が紹介されており,この分野を研究する学生や研究者には,手法も含めて直接参考になります.また,文法変化・構文変化といっても扱うべき話題は多岐にわたるものですが,各章では各世紀の英語を考察する上でとりわけ重要な項目が選ばれており,たいへん有用です.
 最終章は全体のまとめとなっており,いったん各章のために世紀別に分けられたものが建て直され,読み手の視界がすっきりします.参考文献も充実しており,中英語末期から現代に至るまでの文法変化に関心のある方には,ぜひ手に取ってもらいたい一冊です.私も学生に薦めたいと思います.
 著者の一人,山本史歩子さん(青山学院大学)におかれましては,本書の出版を見る前にご逝去されたとの報に接しました.悲しみでいっぱいです.ご冥福をお祈りいたします.

 ・ 秋元 実治(編),片見 彰夫・福元 広二・田辺 春美・山本 史歩子・中山 匡美・川端 朋広・秋元 実治(著) 『近代英語における文法的・構文的変化』 開拓社,2023年.
 ・ Curzan, Anne. "Periodization in the History of the English Language." Chapter 12 of The History of English. 1st vol. Historical Outlines from Sound to Text. Ed. Laurel J. Brinton and Alexander Bergs. Berlin: Mouton de Gruyter, 2017. 8--35.

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2023-05-30 Tue

#5146. 強調構文の歴史に関するコンテンツを紹介 [hel_contents_50_2023][khelf][syntax][cleft_sentence][number][agreement][link]

 khelf(慶應英語史フォーラム)が企画し展開してきた「英語史コンテンツ50」も,終盤戦に入りつつあります.休日を除く毎日,khelf メンバーが英語史コンテンツを1つずつウェブ公開していく企画です.
 最近のコンテンツのなかでよく閲覧されているものを1つ紹介します.5月26日に公開された「#35. 「強調構文の英語史 ~ "It ARE John and Anne that are married."はアリ!? ~」です.
 強調構文と呼ばれる統語構造は,英語学では「分裂文」 (cleft_sentence) として言及されます.コンテンツではこの分裂文の歴史の一端が説明されていますが,とりわけ数の一致 (number agreement) をめぐる議論に焦点が当てられています.


「#35. 「強調構文の英語史 ---



 コンテンツの巻末には,関連するリソースへのリンクが張られています.分裂文に関する hellog 記事としては,以下を挙げておきます.

 ・ 「#1252. Bailey and Maroldt による「フランス語の影響があり得る言語項目」」 ([2012-09-30-1])
 ・ 「#2442. 強調構文の発達 --- 統語的現象から語用的機能へ」 ([2016-01-03-1])
 ・ 「#3754. ケルト語からの構造的借用,いわゆる「ケルト語仮説」について」 ([2019-08-07-1])
 ・ 「#4595. 強調構文に関する「ケルト語仮説」」 ([2021-11-25-1])
 ・ 「#4785. It is ... that ... の強調構文の古英語からの例」 ([2022-06-03-1])

Referrer (Inside): [2024-01-01-1]

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2023-05-28 Sun

#5144. 英語史における内的所有構造の発展と「ケルト語仮説」 [celtic_hypothesis][celtic][borrowing][substratum_theory][syntax][construction][linguistic_area][welsh][cornish]

 「#5139. 英語史において「ケルト語仮説」が取り沙汰されてきた言語項」 ([2023-05-23-1]) で紹介した項目の1つに "Lack of external possessor construction" がある.現代英語には「外的所有構造」が欠けており,原則として「内的所有構造」 (internal possessor construction) のみがあるとされる.そして,後者の特徴はケルト諸語との言語接触によって誘引されたものではないかという仮説が唱えられている.
 内的所有構造とは my head のように,属格(所有格)により直接名詞を修飾して所有関係を示す構造のことである.一方,外的所有構造とは,*the head to me のような表現にみられるように,典型的には与格により間接的に名詞を修飾し,名詞句の外側から所有関係を示す構造のことである.
 現代英語では内的所有構造が原則だが,古英語ではむしろ外的所有構造がみられた.例えば,Hickey (499) は古英詩 Poem of Judith より以下の例を挙げている.

þæt him þæt heafod wand forð on ða flore
lit.: that him-DATIVE that head ...
'that his head rolled forth on the floor'


 古英語に限らず大多数のヨーロッパの諸言語では,外的所有構造が好まれてきた.バスク語,ハンガリー語,マルタ語などの非印欧諸語でも外的所有構造が用いられていることから,汎ヨーロッパ的な言語特徴とみなすことができる.
 その稀な例外が,現代英語であり,ウェールズ語であり,コーンウォール語だという.これらのイギリス諸島に分布する(した)少数の言語では,内的所有構造が好まれる.他に内的所有構造が現われるのは,遠く離れたヨーロッパの東の外縁であり,トルコ語やレズギン語(カフカス諸語の1つ)にみられるが,これとイギリス諸島の諸言語が関係しているとは考えにくい.つまり,英語,ウェールズ語,コーンウォール語は内的所有構造を示す言語として地理的に孤立しているのである.
 さて,英語史においては上記で示したとおり,古英語では外的所有構造を用いていたが,後に内的所有構造へと鞍替えした経緯がある.ここにウェールズ語やコーンウォール語などケルト諸語にみられた内的所有構造が,英語の所有構造に影響を及ぼした可能性が浮上する.
 Hickey (500) は,この仮説の解説を次のように締めくくっている.

This transfer did not affect the existence of a possessor construction, but it changed the exponence of the category, a frequent effect of language contact, especially in language shift situations.


 「#5134. 言語項移動の主な種類を図示」 ([2023-05-18-1]) の類型論でいえば,この場合の "transfer" は "Rearrangement" に該当するのだろうか.興味深い仮説ではある.

 ・ Hickey, Raymond. "Early English and the Celtic Hypothesis." Chapter 38 of The Oxford Handbook of the History of English. Ed. Terttu Nevalainen and Elizabeth Closs Traugott. New York: OUP, 2012. 497--507.

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2023-05-23 Tue

#5139. 英語史において「ケルト語仮説」が取り沙汰されてきた言語項 [celtic_hypothesis][contact][borrowing][substratum_theory][syntax][be][progressive][do-periphrasis][nptr][th][vowel][voicy][heldio]

 英語史における「ケルト語仮説」 (celtic_hypothesis) について,これまでいくつかの記事で取り上げてきた.

 ・ 「#689. Northern Personal Pronoun Rule と英文法におけるケルト語の影響」 ([2011-03-17-1])
 ・ 「#1254. 中英語の話し言葉の言語変化は書き言葉の伝統に掻き消されているか?」 ([2012-10-02-1])
 ・ 「#1342. 基層言語影響説への批判」 ([2012-12-29-1])
 ・ 「#1851. 再帰代名詞 oneself の由来についての諸説」 ([2014-05-22-1])
 ・ 「#3754. ケルト語からの構造的借用,いわゆる「ケルト語仮説」について」 ([2019-08-07-1])
 ・ 「#3755. 「ケルト語仮説」の問題点と解決案」 ([2019-08-08-1])
 ・ 「#3969. ラテン語,古ノルド語,ケルト語,フランス語が英語に及ぼした影響を比較する」 ([2020-03-09-1])
 ・ 「#4528. イギリス諸島の周辺地域に残る3つの発音」 ([2021-09-19-1])
 ・ 「#4595. 強調構文に関する「ケルト語仮説」」 ([2021-11-25-1])
 ・ 「#5129. 進行形に関する「ケルト語仮説」」 ([2023-05-13-1])

 近年の「ケルト語仮説」では,(主に語彙以外の)特定の言語項がケルト諸語から英語へ移動した可能性について検討が進められてきた.Hickey (505) によりケルト語の影響が取り沙汰されてきた言語項を一覧してみよう.ただし,各項目について,注目されている地域・変種や文献に現われるタイミングなどはバラバラであること,また言語接触によらず言語内的な要因のみで説明もし得るものがあることなど,一覧の読み方には注意が必要である.

Table 3. Possible transfer features from Celtic (Brythonic) to English

1.Lack of external possessor constructionMorphosyntactic
2Twofold paradigm of to be 
3.Progressive verb forms 
4.Periphrastic do 
5.Northern subject rule 
6.Retention of dental fricativesPhonological
7.Unrounding of front vowels 



 1 は,英語で My head is sore. のように体の部位などに関して所有格で表現し,The head is sore. のように冠詞を用いない用法を指す.
 2 は,古英語(主にウェストサクソン方言)において be 動詞が,母音あるいは s- で始まる系列と,b- で始まる系列の2種類の系列が併存していた状況を指す.
 3 は,「#5129. 進行形に関する「ケルト語仮説」」 ([2023-05-13-1]) を参照.
 4 は,「#486. 迂言的 do の発達」 ([2010-08-26-1]),「#3755. 「ケルト語仮説」の問題点と解決案」 ([2019-08-08-1]) を参照.
 5 は,「#689. Northern Personal Pronoun Rule と英文法におけるケルト語の影響」 ([2011-03-17-1]) を参照.
 6 は,th = [θ] という比較的稀な子音が現代まで残っている事実を指す.
 7 は,古英語に円唇前舌母音 [y, ø] があったことを指す.

 今回の Hickey の一覧と類似するリストについては「#3754. ケルト語からの構造的借用,いわゆる「ケルト語仮説」について」 ([2019-08-07-1]) も参照.
 関連して,Voicy heldio より「#715. ケルト語仮説」もどうぞ.



 ・ Hickey, Raymond. "Early English and the Celtic Hypothesis." Chapter 38 of The Oxford Handbook of the History of English. Ed. Terttu Nevalainen and Elizabeth Closs Traugott. New York: OUP, 2012. 497--507.

Referrer (Inside): [2024-01-01-1] [2023-05-28-1]

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