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syntax - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2022-10-02 19:12

2022-09-08 Thu

#4882. 統語的な「省略」には様々な解釈があり得る [syntax][masanyan][subjunctive][auxiliary_verb][ame_bre][terminology]

 昨日の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」では「#464. まさにゃんとの対談 ー 「提案・命令・要求を表わす動詞の that 節中では should + 原形,もしくは原形」」と題し,「仮定法現在」と should の問題について,日本初の古英語系 YouTuber (?)であるまさにゃん (masanyan) とインフォーマルに歓談しました.(この問題については,補足的にこちらの hellog 記事セットもご覧ください.)



 この問題の典型的な例文を挙げると,次のようになります.

 ・ I suggest that John go to see a doctor. (アメリカ英語では「仮定法現在」,すなわち形式的には「原形」)
 ・ I suggest that John should go to see a doctor. (イギリス英語では「should + 原形」)

 この事情を端的に1行で記述すれば,

 ・ I suggest that John (should) go to see a doctor. (イギリス英語では should を用いるがアメリカ英語では should を用いない)

となるでしょうか.さらに端的に説明しようと思えば「アメリカ英語では should を省略する」と言って済ませることもできます.
 今回の簡略化した説明に当たって「省略」という表現を用いてみましたが,統語論を扱っている文脈で「省略」という場合には,理論的立場によって様々な意味合いが付されているので注意が必要です.
 上記のように英文法教育の立場から使い分けの分布を簡略に伝えるに当たっては,「should の省略」という表現は妥当だと私は考えています.共時的な英米差をきわめて端的に記述・指摘できますし,1つの合理的な行き方だと思います.「仮定法現在」という比較的マイナーな用語を出さずに済ませられるという利点もあります.英文法教育の対象レベルにもよりますし,英文法全体の体系的記述の観点からは議論があり得ますが,1つの行き方ではあるという立場です.
 一方,私自身が専攻する英語史の立場,あるいは歴史的・通時的英語学の立場からすると「省略」とは言えません.対談内でも触れているように,英語史の当初より,類似した統語的文脈で「仮定法現在」と should の両方が文証されており,どちらが時間的に先立つ表現なのか,はっきりと確かめることができないからです.歴史的過程として,should が省略されたのか,あるいは逆に挿入されたのか,というような時系列を追いかけることができないのです.もっといえば,英語史や比較言語学の視点からいえば,一方から他方が派生したとは考えられていません.「仮定法現在」は形態的な現象,should を用いた表現は統語的な現象として別々の話題であり,直接的な接点はないと考えるのが一般的です.両表現は相互に代替可能だった時代が長く,そのような variation の関係だったと解釈します.つまり,一方から他方が派生したわけではないと解釈します.ですから,通時的過程としての「省略」はなかった,最も控えめにいっても,はっきりと確認されていない,という立場を取ります.
 さらに,共時的な統語理論の立場からみるとどうでしょうか,例えば生成文法による分析を念頭におくと,アメリカ英語流の「仮定法現在」は IP の主要部 V の位置に生起するけれど,イギリス英語流の should は IP の主要部 I の位置に生起するとして両者の違いを表現するのだと想定されます.生成過程でこの違いを生み出している原動力が何なのかは生成文法家ではない私には分かりませんが,少なくとも「省略」と呼ばれ得るものではないと想像されます.
 ほかにも異なる立ち位置や解釈があるはずです.
 日本で統語的な文脈の英文法用語としてしばしば用いられる「省略」は,理論的立ち位置によって多義となり得るものと理解しておくことが重要だろうと思われます.少なくとも,共時的変異を記述する便法としての「省略」が用いられている一方で,歴史的・通時的過程として時系列を念頭に置いた「省略」もあり得ます.どのような立ち位置から「省略」と述べているのかが重要だと考えています.そして,各々の立ち位置の考え方の癖を理解しておくことも同様に重要だと考えています.

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2022-08-24 Wed

#4867. 英語の文構造を見る2つの視点 --- 通信スクーリング「英語学」 Day 3 [english_linguistics][syntax][generative_grammar][word_order][voicy][2022_summer_schooling_english_linguistics][cognitive_linguistics]

 「英語学」スクーリングの Day 3 では,英語の統語論 (syntax) に注目します.1950年代後半に Noam Chomsky が現われて以来,それまではさほど注目されていなかった統語論研究が,とみに活発化しました.生成文法 (generative_grammar) が一世を風靡すると,次いでそのアンチとして George Lakoff と Ronald W. Langacker が主導する形で1980年代後半より認知文法が興隆しましたが,統語論はそこでも注目され続けました(cf. 「#3532. 認知言語学成立の系譜」 ([2018-12-28-1])).
 とりわけ英語は「語順の言語」なので統語論は重要です.英語統語論という膨大な領域を短時間で一望しようとするのも無理があるのですが,具体的な問題の扱いを通じて統語論の力を味わってみたいと思います.



1. 生成文法
  1.1 統語ツリーを描く
  1.2 「#1820. c-command」 ([2014-04-21-1])
  1.3 「#2136. 3単現の -s の生成文法による分析」 ([2015-03-03-1])
  1.4 「#4860. 生成文法での受動文の作られ方」 ([2022-08-17-1])
2. 機能的構文論
  2.1 情報構造と冠詞: 「#3831. なぜ英語には冠詞があるのですか?」 ([2019-10-23-1])
  2.2 「#4641. 副詞句のデフォルトの順序 --- 観点,過程,空間,時間,付随」 ([2022-01-10-1])
  2.3 「#4864. 相互動詞と視点」 ([2022-08-21-1])
3. 英語の語順とその歴史: 「#4527. 英語の語順の歴史が概観できる論考を紹介」 ([2021-09-18-1])
4. 本日の復習は heldio 「#450. 英語学・英語史と統語論」,およびこちらの記事セットより




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2022-08-17 Wed

#4860. 生成文法での受動文の作られ方 [generative_grammar][passive][syntax][case][case_filter]

 学校文法では,能動文(ここではSVOの文型を仮定)から受動文を派生させる際に,もとの能動文の主語と目的語をクロスさせ,be 動詞を補ったり,動詞を過去分詞にしたり,前置詞 by を補ったりと,いろいろなことが起こると解説される.



   the teacher scolded John
     │    │  │
       │        │    │
   ┌─┼────┼──┘
   │  └────┼────┐
   │            │        │
   │      ┌──┘        │
   ↓      ↓              ↓
   John was scolded by the teacher



 生成文法では,このように能動文から受動文を派生させることはしない.深層構造 (D-structure) においてすでに独自の構造を想定し,そこから目的語に相当する要素を主語位置に移動させるという過程を考える.



   [IP___[I'[I was][VP[V' scolded John] by the teacher]]]
                ↓
   [IP Johni [I'[I was][VP[V' scolded ti] by the teacher]]]



 このように考える理屈は次の通りである.深層構造では,能動文さながらに [V' scolded John] という構造が想定されている.通常であれば scold という他動詞が John に対格を付与するはずだが,scolded のように過去分詞になると格付与能力を失うと考えられ,John は格付与されないままに宙ぶらりんとなる.すると「John のような名詞句は必ず格付与されなければならない」という格フィルター (case filter) の原理に抵触してしまうため,これを回避するために John は格を付与してもらえる位置,つまり深層構造の先頭の ___ へと移動していく.この位置は,定動詞 was によって主格を付与してもらえる位置だからである.こうして,めでたく表層構造が導かれる.
 この生成文法流の仕掛けには様々な前提が設けられており,なぜその前提を据えることが妥当なのかは,おおいに議論しなければならない.しかし,この例から,生成文法の特徴の1つとして格付与を重視する伝統があることが分かるだろう.以上,三原 (79) を参照した.

 ・ 三原 健一 「第3章 生成文法」『日英対照 英語学の基礎』(三原 健一・高見 健一(編著),窪薗 晴夫・竝木 崇康・小野 尚久・杉本 孝司・吉村 あき子(著)) くろしお出版,2013年.

Referrer (Inside): [2022-08-24-1]

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2022-08-12 Fri

#4855. 複合語の認定基準 --- blackboard は複合語で black board は句 [word][compounding][compound][word_formation][phrase][morphology][syntax][terminology]

 独立した語を複数組み合わせて,新たな1つの語を作り出す語形成を複合 (compounding) といい,そのようにして形成されたものを複合語 (compound) という.複合(語)の分類については「#924. 複合語の分類」 ([2011-11-07-1]),「#2652. 複合名詞の意味的分類」 ([2016-07-31-1]) を参照されたい.
 今回は,複合語と句 (phrase) がどのように区別されるのかという問題を取り上げる.両者とも独立した語を複数組み合わせて作るという点では同じだが,一般に複合語は形態的な単位であり,句は統語的な単位であると区別してとらえられる.例えば,black board (黒い板)は句で blackboard (黒板)は複合語と判断されるが,どのように区別されるのだろうか.なお,綴字上2要素間にスペースが置かれているかどうかは慣習的な正書法の問題にすぎず,本質的な決め手とはならないことを先に述べておく.
 複合語の認定基準について,竝木 (39) より3点を示そう.

a. 意味に関する基準(普遍的なもの)
 2つ(またはそれ以上)の単語がまとまりをなすとき,全体の意味が部分の意味から合成的に得られない場合,そのまとまりは複合語である.(意味の非合成性)

b. 形態に関する基準(普遍的なもの)
 2つの単語がまとまりをなすとき,両者の間に他の要素を入れられない場合や,最初の単語のみを修飾する単語が付けられない場合,そのまとまりは複合語である.(形態的な緊密性)

c. 音韻的な基準(個別言語に特有で,ここでは英語の場合)
 2つの単語がまとまりをなすとき,第1強勢が最初の単語に置かれる場合,そのまとまりは複合語である.


 black boardblackboard の具体的なペアで上記の基準を確認してみよう.black (黒い)と board (板)という2つの独立した単語とその意味を知っていれば,意味の足し算により black board の意味「黒い板」を容易に割り出すことができる.しかし,blackboard は一般的な黒い板ではなく,学校教室での授業など特定の用途のために使われるモノにつけられた名前である.だから,実際には緑色に近かったとしても blackboard ということができる.blackboard は単純な意味の足し算によって予想することができない特殊な意味をもつのである(意味の非合成性).
 次に,句である black board については very black boardblacker board のように black の意味を強調・比較させることができるが,複合語である blackboard については *very blackboard や *blackerboard のようにすることは許されない.複合語を構成する2要素の関係があまりに緊密だからである(形態的な緊密性).
 最後に,句の blàck bóard と複合語の bláckbòard とでは,強勢の置かれる部分が異なる.前者は一般的な句の強勢パターンに従い,後者は一般的な語の強勢パターンに従っている.
 上記の複合語の認定基準は,当然ながら語 (word) そのものの認定基準と重なるところが多い.この関連する問題については「#910. の定義がなぜ難しいか (1)」 ([2011-10-24-1]),「#911. の定義がなぜ難しいか (2)」 ([2011-10-25-1]),「#912. の定義がなぜ難しいか (3)」 ([2011-10-26-1]),「#921. の定義がなぜ難しいか (4)」 ([2011-11-04-1]),「#922. の定義がなぜ難しいか (5)」 ([2011-11-05-1]) を要参照.

 ・ 竝木 崇康 「第2章 形態論」『日英対照 英語学の基礎』(三原 健一・高見 健一(編著),窪薗 晴夫・竝木 崇康・小野 尚久・杉本 孝司・吉村 あき子(著)) くろしお出版,2013年.

Referrer (Inside): [2022-08-13-1]

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2022-07-26 Tue

#4838. worth の形容詞的特徴 [adjective][preposition][pos][prototype][complementation][syntax]

 昨日の記事「#4837. worth, (un)like, due, near は前置詞ぽい形容詞」 ([2022-07-25-1]) に引き続き,worth の品詞分類の問題について.Huddleston and Pullum (607) によると,まず worth が例外的な形容詞であるとの記述が見える.

As an adjective, . . . worth is highly exceptional. Most importantly for present purposes, it licenses an NP complement, as in The paintings are [worth thousands of dollars]. In this respect, it is like a preposition, but overall the case for analysing it as an adjective is strong.


  では,Huddleston and Pullum は何をもって worth がより形容詞的だと結論づけているのだろうか.まず,機能的な特性として2点を指摘している.1つは,典型的な形容詞らしく become の補語になれるということ.もう1つは,(分詞構文的に)述語として機能できるということである.それぞれ以下の2つの例文によって示される,前置詞ではあり得ない芸当ということだ.

 ・ What might have been a $200 first edition suddenly became [worth perhaps 10 times that amount].
 ・ [Worth over a million dollars,] the jewels were kept under surveillance by a veritable army of security guards.


 一方,比較変化および修飾という観点からみると,worth は形容詞らしくない.It was more worth the effort than I'd expected it to be. のような比較級の文は可能ではあるが,worth それ自体の意味について比較しているのかどうかについては議論がある.同様に,It was very much worth the effort. のように worth が強調されているかのような文はあり得るが,この強調は本当に worth の程度を強調しているのだろうか,議論があり得る.
 もう1つ,精妙な統語論的な分析がある.worth が前置詞であれば関係代名詞の前に添えることができるが,形容詞であれば難しいと予想される.そして,その予想は当たっているのだ.

 ・ This was far less than the amount [which she thought the land was now worth].
 ・ *This was far less than the amount [worth which she thought the land was now].


 上記を検討した上で総合的に評するならば,worth は典型的な形容詞とはいえず,前置詞的な特徴を持つものの,それでもどちらかといえば形容詞だ,ということになりそうだ.奥歯に物が挟まった言い方であることは承知しつつ.

 ・ Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum, eds. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: CUP, 2002.

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2022-07-25 Mon

#4837. worth, (un)like, due, near は前置詞ぽい形容詞 [adjective][preposition][pos][prototype][complementation][syntax]

 先日 khelf(慶應英語史フォーラム)内で,worth は形容詞か前置詞かという問題が議論された.歴史的には古英語の形容詞・名詞 w(e)orþ に遡ることが分かっているが,現代英語の worth を共時的に分析するならば,どちらの分析も可能である.
 まず,「価値がある」という明確な語彙的な意味をもち,「価値」の意味をもつ対応する名詞もあることから,形容詞とみるのが妥当という意見がある.一方,後ろに原則として補語(目的語)を要求する点で前置詞のような振る舞いを示すことも確かだ.実際に,いくつかの英和辞書を参照すると,形容詞と取っているものもあれば,前置詞とするものもある.
 一般に英語学では,このような問題を検討するのに prototype のアプローチを取る.典型的な形容詞,および典型的な前置詞に観察される言語学的諸特徴をあらかじめリストアップしておき,問題の語,今回の場合であれば worth について,どちらの品詞の特徴を多く有するかによって,より形容詞的であるとか,より前置詞的であるといった判断をくだすのである.
 この分析自体がなかなかおもしろいのだが,当面は worth を,後ろに補語を要求するという例外的な特徴をもつ「異質な」形容詞とみておこう.Huddleston and Pullum (546--47) によれば,似たような異質な形容詞の仲間として (un)likedue がある.以下の例文で,角括弧に括った部分が,それぞれ補語を伴った形容詞句として分析される.

 ・ The book turned out to be [worth seventy dollars].
 ・ Jill is [very like her brother].
 ・ You are now [due $750]. / $750 is now [due you].

 さらにこのリストに near も加えることができるだろう.
 関連して「#947. 現代英語の前置詞一覧」 ([2011-11-30-1]),「#4436. 形容詞のプロトタイプ」 ([2021-06-19-1]),「#209. near の正体」 ([2009-11-22-1]) を参照.
 品詞分類を巡る英語の問題としては,形容詞と副詞の区分を巡る議論も有名だ.これについては「#981. 副詞と形容詞の近似」 ([2012-01-03-1]),「#995. The rose smells sweet. と The rose smells sweetly.」 ([2012-01-17-1]),「#1354. 形容詞と副詞の接触点」 ([2013-01-10-1]),「#2441. 副詞と形容詞の近似 (2) --- 中英語でも困る問題」 ([2016-01-02-1]) などを参照.

 ・ Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum, eds. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: CUP, 2002.

Referrer (Inside): [2022-07-26-1]

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2022-06-11 Sat

#4793. 多くの方に視聴していただいています!井上・堀田の YouTube 第30弾「英語の語順は大昔は SOV だったのになぜ SVO に変わったかいろいろ考えてみた」 [word_order][syntax][youtube][notice][link]

 6月8日(水)に,YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」 の第30弾が公開されました.「英語の語順は大昔は SOV だったのになぜ SVO に変わったかいろいろ考えてみた。祝!!30回!」です.過去数回と比べて多くの方に視聴していただいているようです.関心をもった方が多いと思われますので,今回はこの話題について情報を補足したいと思います.



 基本語順で考えると,ゲルマン祖語では SOV,古英語では SOV + SVO,中英語以降は SVO というのが大雑把な流れです.基本語順の通時的変化の問題については,これまでも hellog その他で様々に扱ってきましたので,以下にリンクなどを張っておきます.上記 YouTube 動画と合わせてご参照ください.

[ 英語史における語順の変化・変異とその原因 ]

 ・ 「#3127. 印欧祖語から現代英語への基本語順の推移」 ([2017-11-18-1])
 ・ 「#132. 古英語から中英語への語順の発達過程」 ([2009-09-06-1])
 ・ 「#4597. 古英語の6つの異なる語順:SVO, SOV, OSV, OVS, VSO, VOS」 ([2021-11-27-1])
 ・ 「#4385. 英語が昔から SV の語順だったと思っていませんか?」 ([2021-04-29-1])
 ・ 「#2975. 屈折の衰退と語順の固定化の協力関係」 ([2017-06-19-1])

[ 基本語順の類型論 ]

 ・ 「#137. 世界の言語の基本語順」 ([2009-09-11-1])
 ・ 「#3124. 基本語順の類型論 (1)」 ([2017-11-15-1])
 ・ 「#3125. 基本語順の類型論 (2)」 ([2017-11-16-1])
 ・ 「#3128. 基本語順の類型論 (3)」 ([2017-11-19-1])
 ・ 「#3129. 基本語順の類型論 (4)」 ([2017-11-20-1])
 ・ 「#4316. 日本語型 SOV 言語は形態的格標示をもち,英語型 SVO 言語はもたない」 ([2021-02-19-1])
 ・ 「#3734. 島嶼ケルト語の VSO 語順の起源」 ([2019-07-18-1])

[ 過去の連載記事などの紹介 ]

 ・ 英語史連載企画(研究社)「現代英語を英語史の視点から考える」の第11回と第12回
   - 「#3131. 連載第11回「なぜ英語はSVOの語順なのか?(前編)」」 ([2017-11-22-1]) (連載記事への直接ジャンプはこちら
   - 「#3160. 連載第12回「なぜ英語はSVOの語順なのか?(後編)」」 ([2017-12-21-1]) (連載記事への直接ジャンプはこちら
 ・ 知識共有サービス「Mond」での回答:「日本語ならSOV型,英語ならSVO型,アラビア語ならVSO型,など言語によって語順が異なりますが,これはどのような原因から生じる違いなのでしょうか?」
 ・ 「#3733.『英語教育』の連載第5回「なぜ英語は語順が厳格に決まっているのか」」 ([2019-07-17-1])
 ・ 「#4583. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第9回「なぜ英語の語順は SVO なの?」」 ([2021-11-13-1])
 ・ 「#4527. 英語の語順の歴史が概観できる論考を紹介」 ([2021-09-18-1])

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2022-06-08 Wed

#4790. therethey に相当する中英語の it の用法 [personal_pronoun][expletive][syntax][agreement][me][french][german]

 中英語を読んでいると,it の用法が現代英語よりも広くて戸惑うことがある.例えば there is 構文のような存在文における there の代わりに it が用いられることがある(cf. フランス語 il y a, ドイツ語 es gibt). Mustanoja (132) から解説と例文を示そう.動詞が it ではなく意味上の主語に一致していることに注意.

In many instances it occurs in a pleonastic function carried out by there in Pres. E: --- of hise mouth it stod a stem, Als it were a sunnebem (Havelok 591); --- of þe erth it groues tres and gress (Cursor 545, Cotton MS); --- it es na land þat man kan neven ... þat he ne sal do þam to be soght (Cursor 22169, Cotton MS); --- bot it were a fre wymmon þat muche of love had fonde (Harley Lyr. xxxii 3); --- hit arn aboute on þis bench bot berdles chylder (Gaw. & GK 280); --- bot hit ar ladyes innoȝe (Gaw. & GK 1251).


 関連して「#1565. existential there の起源 (1)」 ([2013-08-09-1]),「#1566. existential there の起源 (2)」 ([2013-08-10-1]),「#4473. 存在文における形式上の主語と意味上の主語」 ([2021-07-26-1]) を参照.
 もう1つは,事実上 they に相当するような it の用法だ.こちらも Mustanoja (132--33) より解説と例を示そう.

Another aspect in the ME use of the formal it is seen in the following cases where it is virtually equivalent to 'they:' --- holi men hit were beiene (Lawman B 14811; cf. hali men heo weoren bæien, A); --- it ben aires of hevene alle þat ben crounede (PPl. C vi 59); --- thoo atte last aspyed y That pursevantes and heraudes ... Hyt weren alle (Ch. HF 1323). --- to þe gentyl Lomb hit arn anioynt (Pearl 895); --- hit arn fettled in on forme, þe forme and þe laste ... And als ... hit arn of on kynde (Patience 38--40); --- þei ... cownseld hyr to folwyn hyr mevynggys and hyr steringgys and trustly belevyn it weren of þe Holy Gost and of noon evyl spyryt (MKempe 3). This use goes back to OE. Cf. also German es sind ... and French ce sont ...


 いずれもフランス語やドイツ語に類似した構文が見られるなど興味深い.中英語の構文は,フランス語からの言語接触という可能性はあり得るが,むしろ統語論的な要請に基づくものではないかと睨んでいる.どうだろうか.

 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

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2022-06-03 Fri

#4785. It is ... that ... の強調構文の古英語からの例 [syntax][cleft_sentence][personal_pronoun][oe]

 学校文法で「強調構文」と呼ばれる統語構造は,英語学では「分裂文」 (cleft_sentence) と称されることが多い.分裂文の起源と発達については「#2442. 強調構文の発達 --- 統語的現象から語用的機能へ」 ([2016-01-03-1]),「#3754. ケルト語からの構造的借用,いわゆる「ケルト語仮説」について」 ([2019-08-07-1]),「#4595. 強調構文に関する「ケルト語仮説」」 ([2021-11-25-1]) などで取り上げてきた.
 歴史的事実としては,使用例は古英語からみられる.ただし,古英語では,it はほとんど用いられず,省略されるか,あるいは þæt が用いられた.Visser (§63) より,いくつか例を示そう.

   63---g. The type 'It is father who did it.'
   This periphrastic construction is used to bring a part of a syntactical unit into prominence; it is especially employed when contrast has to be expressed: 'It is father (not mother) who did it'. In Old English hit is omitted (e.g. O. E. Gosp., John VI, 63, 'Gast is se þe geliffæst'; O. E. Homl. ii, 234, 'min fæder is þe me wuldrað') or its place is taken by þæt (e.g. Ælfred, Boeth. 34, II, 'is þæt for mycel gcynd þæt urum lichoman cymð eall his mægen of þam mete þe we þicgaþ'; Wulfstan, Polity (Jost) p. 127 則183, þæt is laðlic lif, þæt hi swa maciað; O. E. Chron. an. 1052, 'þæt wæs on þone monandæg ... þæt Godwine mid his scipum to suðgeweorce becom'). This pronoun þæt is still so used in: Orm 8465, 'þætt wass þe lond off Galileo þætt himm wass bedenn sekenn'.


 中英語以降は it がよく使用されるようになったようだ.
 名詞(句)ではなく時間や場所を表わす副詞(句)が強調される例も,上記にある通りすでに古英語からみられるが,それに対する Visser (§63) の解釈が注目に値する.そのような場合の is は意味的に happens に近いという.

When it was, it is has an adverbial adjunct of time or place as a complement, (as e.g. in 'It was on the first of May that I saw him first'), to be is not a copula, but the notional to be with the sense 'to happen', 'to take place' that also occurs in constructions of a different pattern, such as are found in e.g. C1350 Will. Palerne 1930, 'Manly on þe morwe þat mariage schuld bene; 1947 H. Eustis, The Horizontal Man (Penguin) 41, 'Keep your trap shut when you don't know what you're talking about, which is usually'; Pres. D. Eng.: 'The flower-show was last week' (OED).


 分裂文の起源と発達は,英語統語史上の重要な課題である.

 ・ Visser, F. Th. An Historical Syntax of the English Language. 3 vols. Leiden: Brill, 1963--1973.

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2022-06-01 Wed

#4783. 懸垂不定詞? [participle][syntax][dangling_participle][infinitive]

 「#4754. 懸垂分詞」 ([2022-05-03-1]),「#4764. 慣用的な懸垂分詞の起源と種類」 ([2022-05-13-1]),「#4765. 慣習化して前置詞に近づいた懸垂分詞」 ([2022-05-14-1]) の記事にて,judging from/by ... の事例を念頭に懸垂分詞 (dangling_participle) の話題を取り上げた.主節の主語の共有を前提とする分詞構文から独立し,慣習化し,前置詞に近づいたものと解釈することができる.
 似たような例は不定詞にもみられる.独立不定詞と呼ばれる用法だ.定型句としてよくみられるが,この場合は避難の意味を込めて「懸垂不定詞」などと呼ばれることはないようだ(なぜだろうか?).

 ・ to be frank
 ・ to be honest with you
 ・ to be sure
 ・ to begin with
 ・ to do someone justice
 ・ to make a long story short
 ・ to make matters worse
 ・ to say the least of it
 ・ to tell the truth
 ・ so to speak

 先の2つめの記事 ([2022-05-13-1]) で,懸垂分詞の先駆的表現は古英語に認められるということだったが,懸垂不定詞の例についてはどうだろうか.Visser (§987) によると,中英語と近代英語では "extremely frequent" だが,古英語からは Wulfstan's Homilies より hrædest to secganne ("for that matter" ほどの意か)という例しか確認できないという.その例文を挙げておこう.

Wulfstan, Hom. (Napier) 27, 1, ðyder sculon wiccan and wigleras, hrædest to secganne ealle ða manfullan, ðe ær yfel worhton and noldan geswican ne wið god ðingian. | Idem 36, 7, ðonne wyrð ðæt wæter mid ðam halgan gaste ðurhgoten, and, hrædest to secganne eal, ðæt se sacerd deð ðurh ða halgan ðenunge gesawenlice, eal hit fulfremeð se halga gast gerynelice. | Idem 115, 3, ðider sculan ðeofas ... and, hrædest to secganne ealle ða manfullan.


 その後の歴史をみてみると,分詞と不定詞の間で揺れがみられたようである.例えば,現代では分詞を用いる speaking of ... が普通だが,中英語や近代英語では to speak of ... のように不定詞を用いる言い方があった.また,judging from/by ... についても,後期近代英語などからは不定詞を用いた to judge from/by ... の用例も一定数あがってくる.この辺りはコーパスで通時的に調べてみるとおもしろそうだ.

 ・ Visser, F. Th. An Historical Syntax of the English Language. 3 vols. Leiden: Brill, 1963--1973.

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2022-05-14 Sat

#4765. 慣習化して前置詞に近づいた懸垂分詞 [participle][syntax][grammaticalisation][preposition][french][contact][dangling_participle][conjunction]

 昨日の記事「#4764. 慣用的な懸垂分詞の起源と種類」 ([2022-05-13-1]) に続き,懸垂分詞の起源について.
 この構文を Jespersen (407) は "dangling participle" や "loose participle" と呼び,数ページにわたって議論している.とりわけ pp. 409--10 では,"perfectly established" したものとして allowing for, talking of, speaking of, judging by, judging from, saving, begging your pardon, strictly speaking, generally speaking, counting, taking, considering の例が挙げられている.
 pp. 410--11 では,さらに慣習化して前置詞に近くなったものがあるとして,中英語以降からの豊富な例文とともに挙げられている.今後の考察のためにも,ここに引用しておきたい.

22.29. A loose participle sometimes approaches the value of a preposition. This use is with possibly doubtful justice ascribed to French influence by Ross, The Absolute Participle, 30. Examples: Ch B 4161 as touching daun Catoun | More U 64 Now as touchyng this question . . . But as concernyng this matter . . . | Caxton R 11 touchyng this complaint | Hawthorne S 247 I am utterly bewildered as touching the purport of your words | Caxton R 54 alle were there sauyng reynard | Gay BP 40 . . . a Jew; and bating their religion, to women they are a good sort of people | Hawthorne Sn 51 barring the casualties to which such a complicated piece of mechanism is liable | Quincey 116 one may bevouack decently, barring rain and wind, up to the end of October | Scott I 31 incapable of being removed, excepting by the use of the file | Di Do 239 Edith, saving for a curl of her lip, was motionless | Dreiser F 292 what chance would he have, presuming her faithfulness itself | Defoe R 2.190 his discourse was prettily deliver'd, considering his youth | Hope D 77 Considering his age, your conduct is scandalous | Thack N 5 there may be nothing new under and including the sun.
   Cf. also regarding, respecting (e.g. Ruskin S 1.291) | according to (Caxton R 57, etc.) | owing to | granting (Stevenson JHF 103 even granting some impediments, why was this gentleman to be received by me in secret?).
   Cf. pending, during, notwithstanding 6.34.
   On the transition of seeing, granting, supposing, notwithstanding with or without that to use as conjunctions, see ch. XXI; on being see above 6.35.


 これによると,慣習化した懸垂分詞はフランス語の対応構文からの影響の結果とみなす説もあるようだが,昨日の記事でもみたとおり古英語にルーツを探ることができる以上,少なくともフランス語からの影響のみに依拠する説明は妥当ではないだろう.
 引用の最後の部分にあるように,現代までに完全に前置詞化,あるいは接続詞化したものも数例あるので,judging from 問題を考察するに当たって,そのような事例にも目を配っていく必要がある.

 ・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part 5. Copenhagen: Munksgaard, 1954.

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2022-05-13 Fri

#4764. 慣用的な懸垂分詞の起源と種類 [participle][syntax][grammaticalisation][preposition][dangling_participle]

 「#4754. 懸垂分詞」 ([2022-05-03-1]) で取り上げたように,judging from のように慣用表現として定着している懸垂分詞 (dangling participle) の例がある.speaking of, strictly speaking, considering, including なども仲間だろう.もともと現在分詞句として始まった表現が,文法化 (grammaticalisation) を経て,機能的に前置詞に近いものへ発展してきたのだろうと考えることができる.
 この統語構造について,Visser (§1075) が1セクションを割いている.先駆的表現はすでに古英語にあったとのことだ.

>>
   1075 --- Types 'Speaking of daughters, I have seen Miss Dombey' 'This is, strictly speaking, no quibble'

   Here follow a number of instances of the use of non-related free -ing adjuncts which have nowadays begun to be generally considered established usage. In this case the adjunct never takes the having + past participle or the being + past participle form. Some of the adjuncts are more or less halfway in their development to prepositions, e.g. 'talking of' = 'apropos of'.
   It seems worth while to cite the following Old English passage as being a kind of forerunner of the idiom under discussion: Ælfric, Gen. 13, 10, 'eall se eard . . . wæs mirige mid wætere gemenged swa swa godes neorxna wang and swa swa Egipta land becumendum on Segor' (Auth. V.: as thou comest unto Zoar). A Middle English instance is: c1450 Cov. Myst. p. 387, 'My name is great and marveylous, treuly you telland.'


 Visser は同セクションで,近代英語期からの用例を多数引きつつ,16種類の関連表現を列挙している.allowing, begging, considering, counting, excluding, excusing, granting, including, judging, letting alone, reckoning, speaking, supposing, taking, talking, waiving
 同セクションには,この問題を掘り下げていくに当たって(必然的に古いものではあるが)有用な参考文献が数多く紹介されているので,その辺りからスタートするのがよさそうだ.

 ・ Visser, F. Th. An Historical Syntax of the English Language. 3 vols. Leiden: Brill, 1963--1973.

Referrer (Inside): [2022-06-01-1] [2022-05-14-1]

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2022-05-03 Tue

#4754. 懸垂分詞 [participle][syntax][khelf][dangling_participle]

 慶應英語史フォーラム (khelf) で,このGW中に盛り上がっている話題が1つある.英文法で「懸垂分詞」 (dangling participle) と呼ばれている現象だ.今後,議論が深まっていきそうなので,今回は用語辞典より基本的な解説をあげておきたい.まず『新英語学辞典』 (283) より.

 dangling participle 〔文〕(懸垂分詞)
 Curme (1931, pp. 159--60) の用語.分詞構文 (participial construction) において意味上の主語が主文の主語と異なるのに主語を表現していない分詞(句)をいう.Having walked two miles, I was tired. (2マイル歩いたので私は疲れた)はふつうの分詞構文であるが,Having walked two miles, the cabin was a welcome sight. (2マイル歩いた後で小屋が見えたので,嬉しかった)は懸垂分詞構文である.懸垂分詞は学者によって,hanging participle, loose participle, unrelated participle (非関連分詞),unattached participle, unrelated adjunct (非関連付加詞)などさまざまな呼び方をされている.
 懸垂分詞は正しくない用法であると見なす人も多いが,分詞の意味上の主語として総称人称の one を補いうる generally speaking, judging from [by] や慣用的に I を表わさない talking [speaking] of のようなものは,その使用が慣用的に確立している.また,形式的には整っていないが意味が不明確でない限り標準用法として認めようとする立場や,許容される段階に差をつけて考える立場もある.Quirk & Greenbaum (UGE, §11.35) によれば,?Since leaving her, life has seemed empty. では主文の seemed empty に to me を補いうるので分詞の意味上の主語として I が推定できるのに対し,*Reading the evening paper, a dog started barking. は主文に分詞の意味上の主語を推定させるものがないので許容されない.


 もう1つ,Crystal の用語辞典より.

dangling participle In traditional grammar, a term describing the use of a participle, or a phrase introduced by a participle, which has an unclear or ambiguous relationship to the rest of the sentence; also called a misrelated participle. If taken literally, the sentence often appears nonsensical or laughable: Driving along the street, a runaway dog gave John a fright. To avoid such inadvertent effects, manuals of style recommend that such sentence be rephrased, with the participial construction moved or replaced, as in When John was driving along the street, a runaway dog gave him a fright.


 目下 khelf 内で議論になっているのは,なぜ judging from のような懸垂分詞は慣用として認められているのか,という問題だ.歴史的な関心からは,いつ,どのように,なぜ慣用化するに至ったかという問いとなる.

 ・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.
 ・ Crystal, David, ed. A Dictionary of Linguistics and Phonetics. 6th ed. Malden, MA: Blackwell, 2008. 295--96.

Referrer (Inside): [2022-06-01-1] [2022-05-13-1]

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2022-05-01 Sun

#4752. which vs that --- 関係代名詞の選択の陰にひそむ使用域 [relative_pronoun][frequency][corpus][youtube][syntax][genre][ame_bre]

 4月27日(水)に公開された YouTube 番組「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」では「受験生のみなさーん!関係代名詞の文法問題を間違えた時の対処法ですよー【井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル # 18 】」と題して関係代名詞の話題を取り上げました.なかなか多く視聴されているようで,ありがたい限りですが,実際に2人でおもしろいことをしゃべっています(笑).ぜひご覧ください.



 標準英語で関係代名詞といえば which, who, whom, that, そしてゼロ(いわゆる関係代名詞の省略)辺りが挙げられますが,このいずれが用いられるかという選択には,複数のパラメータが複雑に関わってきます.関係代名詞節の内部での役割が主格なのか目的格なのかということはもちろん,制限/非制限用法の違い,先行詞が有性か無性かなどの統語意味論的パラメータが複雑に関与してきます.さらに,あまり注目されませんが,実は使用域 (register) という語用論的パラメータこそが,関係代名詞の選択にとても重要や役割を果たしているのです.
 Longman Grammar of Spoken and Written English (608--21) には,コーパスを用いた関係代名詞選択に関する調査結果が詳細に示されています.今回はそちらを参照しながら,全体として最も使用頻度の高いとされる whichthat に焦点を当て,両者の分布を比べてみましょう.
 whichthat は多くの場合入れ替え可能ですが,学校文法で教わるとおり,原則として which は先行詞が無性の場合に限られ,また制限用法のみならず非制限用法としても使えるという特徴がみられます.一方,that は先行詞を選びませんが,制限用法に限定されます.
 しかし,whichthat の分布の違いについておもしろいのは,そのような統語意味論的な要因と同じくらい使用域という要因も効いているということです.which は保守的で学術的な含みがあり,学術散文での非制限用法に限定すれば,70%を占め,that を圧倒しています.一方,that は口語的でくだけた含みがあり,例えばフィクションでの非制限用法に限定すると,75%を占めます.
 また,アメリカ英語かイギリス英語かという違いも,which vs that に絡んできます.ニュースでの非制限用法に注目すると,アメリカ英語のほうが明らかに that を好み,イギリス英語では which を好みます.会話で比べると,ますますアメリカ英語では that が好まれ,イギリス英語の2倍の頻度で用いられます.
 全体として,LGSWE (616) は which vs that 対決について次のように総括しています.

The AmE preference for that over which reflects a willingness to use a form with colloquial associations more widely in written contexts than BrE.


 関係代名詞の選択の陰には使用域というファクターがひそんでいたのです.
 ちなみに,今晩18:00に公開される YouTube #19 は関係代名詞の話題の続編となります.お楽しみに!

 ・ Biber, Douglas, Stig Johansson, Geoffrey Leech, Susan Conrad, and Edward Finegan, eds. Longman Grammar of Spoken and Written English. Harlow: Pearson Education, 1999.

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2022-04-21 Thu

#4742. Oxford Bibliographies による統語変化研究の概要 [hel_education][history_of_linguistics][bibliography][syntax][grammaticalisation][generative_grammar][language_change]

 分野別に整理された書誌を専門家が定期的にアップデートしつつ紹介してくれる Oxford Bibliographies より,"Syntactic Change" の項目を参照してみた(すべてを読むにはサブスクライブが必要).Acrisio Pires と David Lightfoot による選書で,最終更新は2013年,最終レビューは2017年となっている(そろそろ更新されないかと期待したい).  *
 英語史の分野では統語変化研究が非常に盛んであり,我が国でも先達のおかげで英語統語論の史的研究はよく進んでいる.しかし,学史を振り返ってみると,統語変化研究の隆盛は20世紀後半以降の現象といってよく,それ以前は音韻論や形態論の研究が主流だった.1950--60年代の生成文法の登場と,それに触発されたさまざまな統語研究のブームにより,英語史の分野でも統語への関心が高まってきたのである.21世紀に入ってからは,とりわけ文法化 (grammaticalisation) が注目され,統語変化研究は新局面に突入した.上記の "Syntactic Change" の項のイントロダクションより引用する.

Linguistics began in the 19th century as a historical science, asking how languages came to be the way they are. Almost all of the work dealt with the changing pronunciation of words and "sound change" more broadly. Much attention was paid to explaining why sounds changed the way they did, and that involved developing ideas about directionality. Work on syntax was limited to compiling how different languages expressed clause types differently, notably Vergleichende Syntax der Indogermanischen Sprachen, by Berthold Delbrück. With the greatly increased attention to syntax in the latter half of the 20th century, approaches to syntactic change were enriched significantly. Most of the work on change, both generative and nongenerative, continued the 19th-century search for an inherent directionality to language change, now in the domain of syntax, but other approaches were developed seeking to understand new syntactic systems arising through the contingent conditions of language acquisition.


 Oxford Bibliographies からの話題としては,「#4631. Oxford Bibliographies による意味・語用変化研究の概要」 ([2021-12-31-1]) と「#4634. Oxford Bibliographies による英語史研究の歴史」 ([2022-01-03-1]) も参照.

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2022-04-20 Wed

#4741. 倒置と受動態化の共通点と相違点 [word_order][passive][inversion][syntax][information_structure]

 倒置 (inversion) と受動態化 (passivisation) という2つの統語論的過程には共通した役割がある.本来的な主語以外の要素を,典型的に話題 (topic) を担う節頭の位置に動かすことができるということだ.換言すれば,2つの統語論的過程はともに話題化 (topicalisation) という語用論上の要求に応えてくれる手段なのである.
 一方,倒置と受動態化には,興味深い相違点がある.いや,相違というよりも相補といったほうが適切だろう.両者はタッグを組んで,うまいく問題を解決しているようなのである.Seoane (379) の議論を引用しよう.

. . . inversion and passivization operate in different syntactic environments: passivization applies to transitive verbs whereas inversion applies to intransitive and copular clauses. Empirical studies . . . have made manifest that the tendency of inversion to apply to intransitive clauses was already observed in OE, ME, and EModE, when intransitive verbs dominate in the inverted (XVS) order, while there is a predominance of transitive verbs in the non-inverted order (XSV, probably determined by the need to maintain the cohesion between V and O . . .). As argument-reversing constructions, therefore, passivization and inversion were in a nearly complementary distribution and passives were almost the only order-rearranging pattern available for transitive clauses.


 なるほど,倒置と受動態化は,それぞれ自動詞文と他動詞文を相手にするという違いはありながらも,語用論上の問題解決を目指しているという点では同じ方向をみているといえる.しかし,2つの過程には決定的に異なることが1つある.それは,倒置は有標な話題を作り出すが,受動態化が作り出す話題はあくまで無標であることだ.上の引用にすぐ続く1文を引用しよう (Seoane 379) .

However, the most significant difference between the two argument-reversing devices is that, even if they satisfy the same discourse constraints, inversion produces marked topics, while passivization is the only strategy reversing the order of clausal constituents and creating unmarked topics/subjects.


 これまで倒置と受動態化を結びつけて考えたことがなかったので,とても新鮮な見解だった.

 ・ Seoane, Elenna. "Information Structure and Word Order Change: The Passive as an Information-Rearranging Strategy in the History of English." Chapter 15 of The Handbook of the History of English. Ed. Ans van Kemenade and Bettelou Los. Malden, MA: Blackwell, 2006. 360--91.

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2022-01-11 Tue

#4642. 古英語の副詞句のデフォルトの順序は「いつどこで」 [oe][adverb][syntax][word_order][information_structure]

 昨日の記事「#4641. 副詞句のデフォルトの順序 --- 観点,過程,空間,時間,付随」 ([2022-01-10-1]) で,現代英語の副詞句の並び順について取り上げた.とりわけよく共起すると思われる「空間」と「時間」の並び順は,デフォルトではこの順序,つまり「どこでいつ」である.日本語では「いつどこで」が普通なので,反対の順序ということになる.
 では,古い英語ではどうだったのだろうか.現代英語と異なり,古英語では(副詞句に限らないが)語順が比較的自由だったという事情があったが,このことは副詞句のデフォルトの語順にも影響していたのだろうか.この問題に関して,古英語の分布について York-Toronto-Helsinki Parsed Corpus of Old English Prose を用いて調査した Chrambach の論文を読んでみた.様々なパラメータを設定した上で多因子解析を試みている.
 結論としては,現代英語の「どこでいつ」とは反対の(つまり日本語風の)「いつどこで」ということのようだ.この結論は,古英語内の各時期に関して支持され,翻訳テキストでも非翻訳テキストでも同様に確認され,ジャンルにも関係しないとのことだ (Chrambach 52) .
 では,なぜ古英語では「いつどこで」だったのだろうか.論文では「なぜ」までは踏み込んでいないが,副詞句の分布について明らかになったことはあるようだ.分布には REALIZATION FORM と OBLIGATORINESS の2つの要因が作用しているという.具体的にいえば「副詞句+前置詞句」あるいは「付加詞+補文」というつながりが現われることと,それが「いつどこで」の順序として現われることとが指摘されている (Chrambach 52--53) .
 古英語のコーパスからのデータに基づく統計を駆使した論文で,容易に解釈することはできないのだが,もしこの結論が正しいとすると,英語は古英語的な「いつどこで」タイプから,現代英語的な「どこでいつ」タイプにシフトしてきたことになる.それはなぜなのか.中英語や近代英語での順序はどうだったのか.これについて,通言語的に,あるいは類型論の立場から何か言えるのか.興味をそそられる問いである.

 ・ Chrambach, Susanne. "The Order of Adverbials of Time and Place in Old English." Contact, Variation, and Change in the History of English. Ed. Simone E. Pfenninger, Olga Timofeeva, Anne-Christine Gardner, Alpo Honkapohja, Marianne Hundt and Daniel Schreier. Amsterdam/Philadelphia: Benjamins, 2014. 39--59.

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2022-01-10 Mon

#4641. 副詞句のデフォルトの順序 --- 観点,過程,空間,時間,付随 [adverb][syntax][word_order][information_structure]

 標題は,現代英語の統語論でしばしば取り上げられる話題である.付加語 (adjunct) と呼ばれる副詞相当語句が連鎖するとき,どのような順序で配置されるのだろうか.Quirk et al. (§8.87) が "Relative positions of adjuncts" にて概説してくれているので,それを丸々引用したい.

In the relevant sections, we have given indications of the norms of position in respect of each class of adjunct. We turn now to consider the positions of adjunct classes in respect of each other. Two general principles can be stated, applying to relative order whether within a class or between classes:

   (i) The relative order, especially of sentence adjuncts, can be changed to suit the demands of information focus . . . .
   (ii) Shorter adjuncts tend to precede longer ones, and in practice this often means that adverbs precede noun phrases, which precede prepositional phrases, which precede nonfinite clauses, which precede finite clauses.

   Subject to these general principles, where adjuncts cluster in E [= end] position, the normal order is:
   
      respect --- process --- space --- time --- contingency

It would be highly unusual to find all such five at E (or indeed all such five in the same clause), but for the purposes of exemplification we might offer the improbable and stylistically objectional (sic). . .:

   John was working on his hobby [respect] with the new shears [process] in the rose garden [place] for the whole of his day off [time] to complete the season's pruning [contingency].

The same point could be made more acceptably (but at greater length) by forming a series of sentences, each with any two of these adjuncts.
   Adjuncts that can occur at I (= initial) are usually those that either have relatively little information value in the context (eg in reflecting what can be taken for granted) or are relatively inclusive or 'scene-setting' in their semantic role (eg an adjunct of time). Thus:

   That whole morning, he devoted himself to his roses.

Not only is the adjunct at I one of time, but the anaphoric that indicates that the period concerned has already been mentioned. It is unusual to have more than one adjunct at I except where one is realized by a pro-form (especially then), but they would tend to be in the reverse order to that observed at E. In practice, this usually means:

   space --- time      or     process --- time

For example:

   In America [A1], after the election [A2], trade began to improve.
   Slowly [A1] during this period [A2] people were becoming more prosperous.


 とりわけ空間と時間については現代英語ではこの順序で,すなわち「どこでいつ」の順に配置されるのが普通であることはよく知られている.日本語では通常「いつどこで」となるので,反対ということになる.
 この問題について英語史の観点からの関心は,昔からこの順序だったのだろうかという疑問である.おもしろいことに,どうやら違ったようなのである.明日の記事で.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

Referrer (Inside): [2022-08-24-1] [2022-01-11-1]

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2022-01-09 Sun

#4640. of/「の」をもつ名詞的繋辞構文の出現 [syntax][preposition][generative_grammar]

 英語の an angel of a girl 「天使のような少女」のような of を用いた構文について「#2461. an angel of a girl (1)」 ([2016-01-22-1]) や「#2462. an angel of a girl (2)」 ([2016-01-23-1]) で取り上げたことがあるが,日本語にも統語意味論的に類例があるという見解に出会った.小川 (83) によると,日本語と英語の様々なソースから集めた例として次のものが挙げられている.
 
 (1) a. 女性の運転手(=女性である運転手;cf. 女性運転手)
   b. 運転手の女性(=運転手である女性;cf. *運転手女性)
 (2) a. a village like a jewel
   b. a jewel *(of) a village
 (3) a. あの山は高さ(が)3000メートルだ/である。
   b. あの山は3000メートル*(の)高さだ/である。
 (4) a. It rose with great rapidity until it reached the height of 400 feet, ...
   b. Lead-glazed earthenware; height 7 feet, 10 1/2 inches over-all.
   c. Asher smiled quizzically, as he spread his broad brown hands before his face and drew himself up to his full six feet *(of) height.

 小川 (83) は,生成文法の枠組みに依拠し,このような構文を「名詞的繋辞構文」と呼んで分析している.名詞句内で意味的に主語と述語に相当する部分が倒置できる場合があり,その際に繋辞(of や「の」)が生じる構文のことである.(1a), (2a), (3a), (4a, b) では繋辞が生じない(あるいは義務的ではない)が,(1b), (2b), (3b), (4c) では繋辞が義務的となるという特徴がある.また,歴史的に後者グループは前者グループよりも後に生じているという共通点もあるという.小川は後者グループの歴史的な出現は統語構造が複雑化した結果とみており,この複雑化を「統語的構文化」と呼んでいる (92) .
 (3), (4) のように数量や単位に関する名詞句の統語構造(小川は p. 83 で「尺度名詞構文」と呼んでいる)は,日本語でも英語でも確かに複雑だと思っていたが,それと a jewel of a villagean angel of a girl の問題が結びつき得るとは予想もしなかった.統語理論がおもしろいのは,このような予想外の関連を示してくれる点にある.
 of が関わる統語論上の他の問題としては,「#4116. It's very kind of you to come.of の用法は?」 ([2020-08-03-1]),「#4117. It's very kind of you to come. の of の用法は歴史的には「行為者」」 ([2020-08-04-1]) 辺りも参照.

 ・ 小川 芳樹 「日英語の名詞的繋辞構文の通時的変化と共時的変異」『レキシコン研究の新たなアプローチ』岸本 秀樹・影山 太郎(編),くろしお出版,2019年,81--111頁.

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2022-01-08 Sat

#4639. 近代英語期にかけて増えてきた受動文 [passive][syntax][word_order][information_structure][statistics][hc]

 一般に言語において,情報構造 (information_structure) の観点から,主題となる項(主語とは限らない)は文頭,文の前寄りに置くのが望ましいとされる.日本語のような自由な語順をもつ言語であれば,これを実現することはたやすい.実際,日本語と同様に語順が比較的自由だった古英語でも,この情報構造上の要求に応えることは難しくなかった.
 しかし,近現代英語のようなおよそ固定化した語順をもつ言語の場合には,何らかの工夫をこらさなければならない.古英語から中英語期にかけて文の文法としてのV2規則が失われ,語順が固定化していくにつれて,主題となる項を文頭にもってくるための方法が手薄になった.このような状況にあって,重要な手段の1つと目されるようになったのが受動文である.能動文における目的語が主題となる場合,その能動文を受動文に換えることにより,元の目的語が主語となり,問題なく文頭に置けるようになるからだ.
 語順の固定化と受動文の多用化という一見すると独立した2つの統語的現象は,情報構造という語用論的な概念を仲立ちとして関連づけられ得るのである.これは「#4561. 語順問題は統語論と情報構造の交差点」 ([2021-10-22-1]) で論じた通りである.少なくとも仮説としては興味深い.
 この仮説を実証しようとした研究に Seoane がある.Helsinki Corpus の15世紀初期から18世紀初期までの部分(すなわちV2規則が失われた後の時代のサブコーパス)を用いた調査によれば,以下の通り,時代を追って受動文の比率が漸増していることが分かる (Seoane 371) .

 WordsActivesPercent activePassivesPercent passive
M4 (1420--1500)44,0002,92881.964718.0
E1 (1500--1570)50,0002,23678.561221.4
E2 (1570--1640)48,0002,55077.972222.0
E3 (1640--1710)55,0002,89378.52,90321.3
Total197,00010,60778.52,90321.3


 ただし,この表の背景にあるコーパスの扱い方,データの拾い方については注記が必要だろう.Seoane によれば,能動文の収集は受動文化できるタイプのものに限っているという.また,現代英語でもよく知られている通り,受動文の生起頻度はテキストタイプに大きく依存するため,その考慮も必要である.また,受動文で行為者を示す by 句の有無も,考慮すべきパラメータとなる(実際,Seoane 論文ではこれらの観点にも注意が払われている).
 この表はあくまで大雑把な調査結果と解釈すべきであり,上記の仮説を実証したとまではいえないだろう.しかし,コーパスを大きくし,種々のパラメータを検討することによって,実証に近づくことはできるかもしれない.だが,何よりもこの仮説のキモは,語順の固定化と受動文の多用化の関係だったことを思い出したい.両者の因果関係を実証するには,どの時代について何をどの程度明らかにすればよいのだろうか.

 ・ Seoane, Elenna. "Information Structure and Word Order Change: The Passive as an Information-Rearranging Strategy in the History of English." Chapter 15 of The Handbook of the History of English. Ed. Ans van Kemenade and Bettelou Los. Malden, MA: Blackwell, 2006. 360--91.

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