hellog〜英語史ブログ     ChangeLog 最新     カテゴリ最新     1 2 3 4 5 6 次ページ / page 1 (6)

germanic - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-02-20 19:55

2024-02-21 Wed

#5413. ゲルマン祖語と古英語の1人称単数代名詞 [comparative_linguistics][personal_pronoun][pronoun][person][germanic][reconstruction][paradigm][oe][indo-european][rhotacism][analogy][sound_change]

 Hogg and Fulk (202--203) を参照して,ゲルマン祖語 (Proto-Germanic) と古英語 (Old English) の1人称単数代名詞の格屈折を並べて示す.

 PGmcOE
Nom.*ik
Acc.*mek
Gen.*mīnōmīn
Dat.*miz



 表の左側の PGmc の各屈折が,いかにして右側の OE の形態へ変化したか.ここにはきわめて複雑な類推 (analogy や音変化 (sound_change) やその他の過程が働いているという.Hogg and Fulk (203) の解説をそのまま引用しよう.

nom.sg.: *ik must have been the unstressed form, with analogical introduction of its vowel into the stressed form, with only ON ek showing retention of the original stressed vowel amongst the Gmc languages (cf. Lat egō/ǒ).
acc.sg.: *mek is the stressed form; all the other Gmc languages show generalization of unstressed *mik. The root is *me-, with the addition of *-k borrowed from the nom. The form could be due to loss of *-k when *mek was extended to unstressed positions, with lengthening of the final vowel when it was re-stressed . . . . More likely it represents replacement of the acc. by the dat. . . . as happened widely in Gmc and IE . . . .
gen.sg.: To the root *me- was added the adj. suffix *-īn- (cf. stǣnen 'made of stone' < *stain-īn-a-z . . .), presumably producing *mein- > *mīn- . . . . To this was added an adj. ending, perhaps nom.acc.pl. neut. *-ō, as assumed here.
dat.sg.: Unstressed *miz developed in the same way as *hiz . . . .


 最後のところの PGmc *miz が,いかにして OE になったのかについて,Hogg and Fulk (198) を参照して補足しておこう.これはちょうど3人称男性単数主格の PGmc *hiz が OE * へ発達したのと平行的な発達だという.*hizz による下げの効果で *hez となり,次に語末子音が rhotacism を経て *her となった後に消失して *he となり,最後に強形として長母音化した に至ったとされる.
 人称代名詞は高頻度の機能語として強形と弱形の交替が激しいともいわれるし,次々に新しい強形と弱形が生まれ続けるともされる.上記の解説を事情を概観するだけでも,比較言語学の難しさが分かる.関連して,以下の記事も参照.

 ・ 「#1198. icI」 ([2012-08-07-1])
 ・ 「#2076. us の発音の歴史」 ([2015-01-02-1])
 ・ 「#2077. you の発音の歴史」 ([2015-01-03-1])
 ・ 「#3713. 機能語の強音と弱音」 ([2019-06-27-1])
 ・ 「#3776. 機能語の強音と弱音 (2)」 ([2019-08-29-1])

 ・ Hogg, Richard M. and R. D. Fulk. A Grammar of Old English. Vol. 2. Morphology. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2011.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2024-02-16 Fri

#5408. 3人称代名詞はゲルマン祖語の共通基語に遡れない [indo-european][comparative_linguistics][personal_pronoun][pronoun][person][germanic][german][reconstruction]

 英語の3人称代名詞 he, she, it, they (各々は主格の形)の屈折体系は現代でも複雑なほうだが,歴史的にも相当にかき混ぜられてきた経緯がある.対応する古英語の主格形を挙げれば,それぞれ , hēo, hit, hīe となるが,見た目だけでも現代との差が大きいことが分かる (cf. 「#155. 古英語の人称代名詞の屈折」 ([2009-09-29-1])).
 ゲルマン諸語の人称代名詞体系を比べると,全体として類似しているとはいえ,とりわけ3人称の個々の格形については,必ずしも同一の語源に遡るわけではない.ましてや印欧祖語まで遡らせることもできない.つまり,1つの共通基語を再建することができないということになる.3人称代名詞は,この点で1,2人称代名詞や,指示詞,疑問詞などとは事情が異なる.Lass (139) より関連する説明を引用しよう.

Proto-Germanic did not inherit a fully coherent pronoun or determiner system; nothing quite like this reconstructs even for Proto-IE. Rather the collections labelled 'pronouns' or 'articles' or 'demonstratives' in the handbooks represent dialect-specific selections out of a mass of inherited forms and systems. There are clear IE first-, second-person pronoun systems: we can easily identify a first-person nom sg root */H1egh-/ (l eg-o, Go ik, OE ic 'I') and a second-person root in */t-/ (L tu, OCS ty, OE þū). There is also an interrogative in */kw-/ (L qu-is, OE hw-ā 'who?') and a deictic in */to-/ (Go to 'def art, masc nom sg', OE þæ-s 'def art m/n gen sg'). There is no reconstructable third-person pronoun, however. The personal pronouns may be heterogeneous even across Germanic: Go is, OE 'he' are not cognate. But overall the main systems are related, at least in outline.


 これは何を意味するのだろうか? 3人称代名詞が他よりも後発であることを示唆するのだろうか? 冒頭に述べたように,英語史では歴史時代に限っても同語類は大きくかき混ぜられてきたという経緯がある.ということは,言語間・方言間の借用や体系内組み替えが頻繁な語類であるということなのだろうか?

 ・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2024-01-30 Tue

#5391. 「いのほたチャンネル」リニューアル初回は「グリムの法則」 [grimms_law][inohota][notice][comparative_linguistics][indo-european][germanic][sound_change]

 「#5388. YouTube 「いのほたチャンネル」で200回記念として初めてのライヴ配信を行ないました」 ([2024-01-27-1]) で紹介したように,記念すべき200回をライヴ配信でお届けしました.その後,300回に向けての新たな一歩として,一昨日の18時に第201回を配信しました.オープニングやエンディングを含め,いろいろとリニューアルしています(←すべて井上逸兵さんにお任せ)ので,ぜひご覧ください.
 言語学の古典・基本シリーズのつもりで,堀田がグリムの法則 (grimms_law) で有名なドイツの比較言語学者 Jacob Grimm (1785--1863) を紹介しています.「リニューアルしました!言語学者グリム兄弟の偉業とは?ーなぜ童話を収集?」です(14分ほどの動画).



 「グリムの法則」の入門というよりもグリム(兄弟)の入門という内容でしたが,今後は法則自体にも注目していきたいと思います.この hellog でも,すでに grimms_law の各記事で取り上げていますので,予習や復習に役立てていただければ.
 グリムの法則は,比較言語学的にも謎の多い音変化です.現代の比較言語学者 Ringe (93--94) の評を挙げておきましょう.

It remains unclear whether Grimm's Law was, in any sense, a unitary natural sound change, or a series of changes that need not have occurred together. It is true that no sound change can be shown to have occurred between any of the components of Grimm's Law; but since Grimm's Law was among the earliest Germanic sound changes, and since the other early changes that involved single non-laryngeal obstruents affected only the place of articulation and rounding of dorsals, that could be an accident. In any case, Grimm's Law is most naturally presented as a sequence of changes that counterfed each other.


 ・ Ringe, Don. From Proto-Indo-European to Proto-Germanic. Oxford: Clarendon, 2006.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2024-01-29 Mon

#5390. 印欧語における word, root, stem, theme, ending [morphology][indo-european][germanic][comparative_linguistics][reconstruction][terminology][inflection][oe]

 どの学問分野でもよくあることだが,印欧語比較言語学においても専門家にしか通じない類いの術語は多い.標題に掲げた形態論上の用語がその典型だろう.関連する話題は「#700. 語,形態素,接辞,語根,語幹,複合語,基体」 ([2011-03-28-1]) で取り上げたが,そこで挙げたもの以上に特化した学術用語という感がある.
 それぞれ word 「語」, root 「語根」, stem 「語幹」, theme 「語幹形成素」, ending 「語尾」と訳せるが,訳が与えられただけで理解が深まるわけでもない.これらは印欧祖語における以下の形態論的分析が前提となっている.

                  ┌─ ROOT
       ┌─ STEM ─┤
       │          └─ THEME
WORD ─┤
       │
       └─────── ENDING



 ROOT は語彙的意味を担う部分である.THEME はもとは何らかの文法的機能を担っていた可能性があるが,すでに印欧祖語の段階において,意味を担わない純粋な語幹形成要素として機能していた.直後の屈折語尾を形成する ENDING への「つなぎ」と考えておけばよい.ROOT + THEME が STEM となり,それに ENDING が付加されて,具体的な WORD の語形となる.
 例えば「馬」を意味するラテン語の単数主格形 equusequ (ROOT) + u (THEME) + s (ENDING) と分析され,同じくギリシア語の hipposhipp (ROOT) + o (THEME) + s (ENDING) と分析される.
 古英語以降の比較的新しい段階にあっては,印欧祖語における上記の形態的区分はすでに透明性を欠き,ROOT, THEME, ENDING が互いに融合してしまっていることも多い.したがって,上記の前提は厳密にいえば共時的な分析には不向きだ.しかし,通時的・歴史的には有意味であるし,比較言語学の分野における慣習的な前提となっているために,古英語文法の文脈でも(ほとんど説明がなされないままに)前提とされていることが多い.
 なお,THEME には母音幹と子音幹があり,ゲルマン祖語や古英語の名詞論において,前者は「強変化名詞」,後者は「弱変化名詞」と通称される.THEME を欠く "athematic" なる語類も存在するので注意を要する.
 以上,Lass (123--26) を参照して執筆した.

 ・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2023-12-19 Tue

#5349. the green-eyed monster にみられる名詞を形容詞化する接尾辞 -ed (2) [morphology][word_formation][compound][compounding][derivation][suffix][parasynthesis][adjective][participle][oed][germanic][old_saxon][old_norse][latin]

 昨日の記事 ([2023-12-18-1]) の続編で,green-eyed のタイプの併置総合 (parasynthesis) による合成語について.今回は OED を参照して問題の接尾辞 -ed そのものに迫る.
 OED では動詞の過去分詞の接尾辞としての -ed, suffix1 と,今回のような名詞につく接尾辞としての -ed, suffix2 を別見出しで立てている.後者の語源欄を引用する.

Cognate with Old Saxon -ôdi (not represented elsewhere in Germanic, though Old Norse had adjectives similarly < nouns, with participial form and i-umlaut, as eygðr eyed, hynrdr horned); appended to nouns in order to form adjectives connoting the possession or the presence of the attribute or thing expressed by the noun. The function of the suffix is thus identical with that of the Latin past participial suffix -tus as used in caudātus tailed, aurītus eared, etc.; and it is possible that the Germanic base may originally have been related to that of -ed, suffix1, the suffix of past participles of verbs formed upon nouns.


 この記述によると,ゲルマン語派内部でも(狭い分布ではあるが)対応する接尾辞があり,さらに同語派外のラテン語などにも対応する要素があるということになる.共通の祖形はどこまで遡れるのか,あるいは各言語(派)での独立平行発達なのか,あるいは一方から他方への借用が考えられるのかなど,たやすく解決しそうにない問題のようだ.
 もう1つ考慮すべき点として,この接尾辞 -ed が単純な名詞に付く場合 (ex. dogged) と複合名詞に付く場合 (ex. green-eyed) とを,語形成の形態論の観点から同じものとみてよいのか,あるいは異なるものと捉えるべきなのか.歴史的にも形態理論的にも,確かに興味深い話題である.

Referrer (Inside): [2023-12-20-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2023-12-10 Sun

#5340. 「ゲルマン征服」をめぐって Taku さんと対談精読実況生中継しました --- heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズ [voicy][heldio][hel_education][link][notice][bchel][anglo-saxon][oe][jute][history][germanic]

 一昨日12月8日(金)の夜に,帝京科学大学の金田拓さんとともに,Baugh and Cable の英語史書の「対談精読実況生中継」を Voicy heldio/helwa で配信しました.前半と後半を合わせて2時間弱の濃密なおしゃべり読書会となりました.ライヴでお聴きいただいた多くのリスナーの方々に感謝いたします.ありがとうございました.
 精読対象となったのはの同書の第32節 The Germanic Conquest (ゲルマン征服)です.伝統的に英語史の開始とされる449年とその前後の出来事にフォーカスしました.対談相手を務めていただいた Taku さんとともに,著者の英文に唸りつつ,内容についてもなるべく深く掘り下げて議論しました.当該の英文テキストは,先日の予告記事「#5335. 「ゲルマン征服」 --- Baugh and Cable の英語史より」([2023-12-05-1])に掲載しています.

 (1) 「#922. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (32) The Germanic Conquest --- Taku さんとの実況中継(前半)」


 (2) 「【英語史の輪 #65】英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (32) The Germanic Conquest --- Taku さんとの実況中継(後半)」(12月分のプレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪」 (helwa) に含まれる有料配信です)



 今回の対談精読実況生中継をお聴きになって,このオンライン精読シリーズに関心を持った方は,ぜひ本書を入手し,シリーズ初回からゆっくりと追いかけていただければと思います.間違いなく良書です.配信のバックナンバーは「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) よりご確認ください.今後も週1,2回のペースでシリーズを継続していきます!


Baugh, Albert C. and Thomas Cable. ''A History of the English Language''. 6th ed. London: Routledge, 2013.



 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2023-08-20 Sun

#5228. 古英語の人名の愛称には2重子音が目立つ [oe][anglo-saxon][onomastics][name_project][personal_name][consonant][phonetics][shortening][hypocorism][germanic][sound_symbolism]

 古英語の人名の愛称 (hypocorism) の特徴は何か,という好奇心をくするぐる問いに対して,Clark (459--60) が先行研究を参考にしつつ,おもしろいヒントを与えてくれている.主に音形に関する指摘だが,重子音 (geminate) が目立つのだという.

Clearly documented hypocoristics often show modified consonant-patterns . . . . Thus, the familiar form Saba (variant: Sæba) by which the sons of the early-seventh-century King Sǣbeorht (Saberctus) of Essex called their father showed the first element of the full name extended by the initial consonant of the second, in a way perhaps implying that medial consonants following a stressed syllable may have been ambisyllabic . . . . In the Germanic languages generally, a consonant-cluster formed at the element-junction of a compound name was often simplified in the hypocoristic form to a geminate, Old English examples including the masc. Totta < Torhthelm, the fem. Cille < Cēolswīð, and also the masc. Beoffa apparently derived from Beornfrið . . . .


 重子音化や子音群の単純化といえば,日本語の「さっちゃん」「よっちゃん」「もっくん」「まっさん」等々を想起させる.日本語の音韻論では重子音(促音)そのものの生起が比較的限定されているといってよいが,名前やその愛称などにはとりわけ多く用いられているような印象がある.音象徴 (sound_symbolism) の観点から,何らかの普遍的な説明は可能なのだろうか.

 ・ Clark, Cecily. "Onomastics." The Cambridge History of the English Language. Vol. 1. Ed. Richard M. Hogg. Cambridge: CUP, 1992. 452--89.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2023-08-10 Thu

#5218. スコットランド地名の強勢位置は数世紀を経ても変わらない? [onomastics][toponymy][stress][namae_project][germanic][celtic][scottish_gaelic][pictish][scots_english]

 「#5212. 地名学者はなぜフィールドワークをするのか?」 ([2023-08-04-1]) で言及した Taylor の論文の後半で,スコットランド地名の強勢位置に関する驚くべき見解に出くわした (82--83) .語源を提供した言語が話されなくなって数世紀の時間を経たとしても,地名の強勢位置は保たれる傾向があるということだ.規則ではなく傾向ということのようだが,逆にいえば強勢位置の確認によって語源提供言語がある程度の確率で特定できるということにもつながる.

It is very important to record how a place-name is pronounced, since this can yield vital clues for its correct analysis. For example it is a general, though by no means universal, rule that place-names which are stressed on the first element are in languages of Germanic origin, such as Scots or Norse, while place-names which are stressed on the second or third element are of Celtic origin, such as Pictish or Gaelic. It would be more accurate to say that in both language groups it is the specific element which bears the stress, but that in Scots and Norse names the specific usually comes first, the generic second, while in names of Celtic origin it is usually the other way round. It is a remarkable fact that the original stress pattern of a name tends to survive, even when the original language of coining has not been spoken locally for many hundreds of years.


 これはおもしろい.いろいろな疑問が頭に湧き上がってくる.

 ・ 通言語的に specific/generic の区別と統語位置や強勢位置は相関関係にあるものなのか
 ・ 地名と一般語とでは,歴史的な強勢位置の保持されやすさに差があるのかないのか
 ・ 同じ地名でも現地話者と外部話者との間で強勢位置や発音が異なることがあるが,これは通常語の地域方言による差違の問題と同一ととらえてよいのか

 ・ Taylor, Simon. "Methodologies in Place-name Research." Chapter 5 of The Oxford Handbook of Names and Naming. Ed. Carole Hough. Oxford: OUP, 2016. 69--86.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2023-07-19 Wed

#5196. 「ゆる言語学ラジオ」出演第4回 --- 『英単語ターゲット』より英単語語源を語る回 [yurugengogakuradio][notice][youtube][etymology][indo-european][germanic][latin][french][greek]


 「ゆる言語学ラジオ」からこちらの「hellog~英語史ブログ」に飛んでこられた皆さん,ぜひ

   (1) 本ブログのアクセス・ランキングのトップ500記事,および
   (2) note 記事,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の人気放送回50選
   (3) note 記事,「ゆる言井堀コラボ ー 「ゆる言語学ラジオ」×「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」×「Voicy 英語の語源が身につくラジオ (heldio)」」
   (4) 「ゆる言語学ラジオ」に関係するこちらの記事群

をご覧ください.



 昨日7月18日(火)に,YouTube/Podcast チャンネル「ゆる言語学ラジオ」の最新回がアップされました.これまで3回ゲストとして出演させていただきまして,今回は第4回目となります.「英単語帳の語源を全部知るために,研究者を呼びました【ターゲット1900 with 堀田先生】#247」です.どうぞご覧ください.



 最後のほうでも力説しているように,「英語史」は決して狭い学問領域ではなく,英語を学ぶ皆が英語に抱く疑問のほとんどについて,何か言うべきことをもっている頼もしい存在です.ぜひこの機会に英語史の存在を(再)認識していただければ.
 過去の3回の出演回も合わせてご視聴ください.
 
 ・ 第1弾 「#227. 歴史言語学者が語源について語ったら,喜怒哀楽が爆発した【喜怒哀楽単語1】」(5月6日)
 ・ 第2弾 「#228. 「英語史の専門家が through の綴りを数えたら515通りあった話【喜怒哀楽単語2】」(5月9日)
 ・ 第3弾:「#234. 英語史の専門家と辞書を読んだらすべての疑問が一瞬で解決した」(5月30日)

Referrer (Inside): [2024-01-01-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2023-06-01 Thu

#5148. ゲルマン祖語の強変化動詞の命令法の屈折 [germanic][imperative][inflection][paradigm][verb][person][number][subjunctive][mood][reconstruction][comparative_linguistics]

 現代英語の動詞の命令法の形態は,原形に一致する.一方,古英語に遡ると,命令法では原形(不定詞)とは異なる形態を取り,さらに2人称単数と複数とで原則として異なる屈折語尾を取った.
 しかし,さらに歴史を巻き戻してゲルマン祖語にまで遡ると,再建形ではあるにせよ,数・人称に応じて,より多くの異なる屈折語尾を取っていたとされる.以下に,ゲルマン祖語の大多数の強変化動詞について再建されている屈折語尾を示す (Ringe 237) .

 indicativesubjunctiveimperative 
active   infinitive -a-ną
sg.1 -ō-a-ų---participle -a-nd-
 2 -i-zi-ai-zø 
 3 -i-di-ai-ø-a-dau 
du.1 -ōz(?)-ai-w--- 
 2 -a-diz(?)-a-diz(?)-a-diz(?) 
pl.1 -a-maz-ai-m--- 
 2 -i-d-ai-d-i-d 
 3 a-ndi-ai-n-a-ndau 


 とりわけ imperative (命令法)の列に注目していただきたい.単数・両数・複数の3つの数カテゴリーについて,2・3人称に具体的な屈折語尾がみえる.数・人称に応じて異なる屈折が行なわれていたことが理論的に再建されているのだ.
 英語史も含め,その後のゲルマン語史は,命令法の形態の区別が徐々に弱まり,失われていく歴史といってよい.英語史内部での命令法の形態や,それと関連する話題については,以下の記事を参照.

 ・ 「#2289. 命令文に主語が現われない件」 ([2015-08-03-1])
 ・ 「#2475. 命令にはなぜ動詞の原形が用いられるのか」 ([2016-02-05-1])
 ・ 「#2476. 英語史において動詞の命令法と接続法が形態的・機能的に融合した件」 ([2016-02-06-1])
 ・ 「#2480. 命令にはなぜ動詞の原形が用いられるのか (2)」 ([2016-02-10-1])
 ・ 「#2881. 中英語期の複数2人称命令形語尾の消失」 ([2017-03-17-1])
 ・ 「#3620. 「命令法」を認めず「原形の命令用法」とすればよい? (1)」 ([2019-03-26-1])
 ・ 「#3621. 「命令法」を認めず「原形の命令用法」とすればよい? (2)」 ([2019-03-27-1])
 ・ 「#4935. 接続法と命令法の近似」 ([2022-10-31-1])

 ・ Ringe, Don. From Proto-Indo-European to Proto-Germanic. Oxford: Clarendon, 2006.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2023-01-08 Sun

#5004. 聖書で英語とフリジア語を比較 --- まさにゃんの note 記事の紹介 [notice][frisian][bible][link][masanyan][khelf][contrastive_linguistics][comparative_linguistics][contrastive_language_history][germanic][voicy][heldio]

 昨日の記事「#5003. 聖書で英語史 --- 寺澤盾先生の著書と講座のご案内」 ([2023-01-07-1]) で,聖書が英語の通時的な比較に適したテキストであることを述べました.内容が原則として古今東西同一だからです.ということは,聖書は通言語的な比較にも適しているということになります.ギリシア語,ラテン語,英語,フランス語,ドイツ語,中国語,日本語などの間で手軽に言語比較できてしまいます.つまり,聖書は対照言語学 (contrastive_linguistics),比較言語学 (comparative_linguistics),そして対照言語史 (contrastive_language_history) の観点からも有用なテキストとなります.
 年末に,khelf(慶應英語史フォーラム)の会長のまさにゃんが,自身の note にて「ゼロから始めるフリジア語(シリーズ企画)」を開始しました.フリジア語は年末から始めたにわか趣味とのことです(笑).1日目2日目3日目4日目と,4日分の記事が掲載されています.「創世記」より英語訳 In the beginning God created the heaven and the earth. とフリジア語訳 Yn it begjin hat God de himel en de ierde skepen. を主に比べながら,軽妙な口調でフリジア語超入門を展開しています.
 フリジア語 (Frisian) は,比較言語学的に英語と最も近親の言語とされています.この言語について hellog でも以下の記事で触れてきましたので,ぜひご覧ください.

 ・ 「#787. Frisian」 ([2011-06-23-1])
 ・ 「#2950. 西ゲルマン語(から最初期古英語にかけての)時代の音変化」 ([2017-05-25-1])
 ・ 「#3169. 古英語期,オランダ内外におけるフリジア人の活躍」 ([2017-12-30-1])
 ・ 「#3435. 英語史において低地諸語からの影響は過小評価されてきた」 ([2018-09-22-1])
 ・ 「#4670. アジェージュによる「フリジア語の再征服」」 ([2022-02-08-1])

 Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」でも「#40. 英語に最も近い言語は「フリジア語」」にて解説しています.ぜひお聴きください.


[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2022-12-15 Thu

#4980. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第22回「なぜヨーロッパの人は英語が上手なの?」 [notice][sobokunagimon][rensai][indo-european][comparative_linguistics][reconstruction][germanic][italic][french][latin][german][dutch][spanish][italian][heldio]

 『中高生の基礎英語 in English』の1月号が発売されました.連載「歴史で謎解き 英語のソボクな疑問」の第22回として「なぜヨーロッパの人は英語が上手なの?」に答えています.

『中高生の基礎英語 in English』2023年1月号



 この素朴な疑問は,大雑把でナイーヴな問いに響くかもしれません.ヨーロッパ人がみな英語が上手なわけではありませんし,アジアやアフリカを含めた世界の各地に英語が上手な人はたくさんいます.このことは承知の上で,今回の記事をなるべく多くの中高生に届けたいという思いから,あえてこのような表題を掲げた次第です.
 中高生に英語学習の早い段階でぜひとも知ってもらいたい重要なことがあります.それは,英語とヨーロッパの主要言語との関係です.将来大学などに進学して英語以外の言語を学ぶことになったとき,あるいは独学で他言語に挑んでみようと思い立ったとき,もしヨーロッパの諸言語を念頭においているのであれば,ぜひ英語,ドイツ語,オランダ語,フランス語,スペイン語,イタリア語などの相互関係について言語学・言語史的な観点から理解しておいてください.学習言語を選択する上で,とても大事な知識だからです.
 大学教員である私は日常的に大学生と付き合っていますが,彼らのなかには,英語史の授業などで英語とヨーロッパの諸言語との関係を初めて知ると,第2外国語として○○語ではなくフランス語/ドイツ語を選択しておけばよかった,などと口にする学生がいます.もう1年か2年早く諸言語間の関係を知っていたら△△語を選んでいたのに,と後悔しているようなのです.
 中高生の皆さんは,いずれ英語以外の言語を学ぶ可能性があるのであれば,英語と他の言語との関係について知っていたほうが得です.主体的に学習言語を選択できることになるからです.最終的にどの言語を選ぶにせよ,事前に多くの情報をもっておくに越したことはありません.
 英語やヨーロッパの主要言語は,いずれもインドヨーロッパ語族と呼ばれる言語家族の一員です.おおまかにいえば言語が互いに似ているのです.しかし,英語と比較してどの点でどのくらい似ているのか,あるいは似ていないのかは,言語ごとに異なります.
 ドイツ語とオランダ語は,英語とともにインドヨーロッパ語族のなかでもゲルマン語派という派閥に属しており,文法や発音において互いに似ているところがあります.しかし,実際にドイツ語やオランダ語に触れてみると,英語と同じ派閥に属しているわりには,それほど似ていないという印象を受けるかもしれません.似ているけれども似ていない,似ていないけれども似ている,といった妙な距離感です.
 一方,フランス語,スペイン語,イタリア語などは,長らくヨーロッパの共通語だったラテン語とともにインドヨーロッパ語族のなかでもイタリック語派という派閥に属しています.英語とは大きく異なる派閥なのですが,英語は歴史を通じてフランス語やラテン語から多くの単語を借りてきた経緯があるため,語彙に関しては実は共通しているものが非常に多いのです.したがって,これらの言語を学んでみると,表面的には英語とよく似ているという印象を受けます.
 英語は,ゲルマン語派にルーツをもつけれどもイタリック語派の影響を大きく受けながら発展してきた言語なのです.単純化していえば,英語はヨーロッパのいくつかの言語を混ぜ合わせたような混合言語といってよいでしょう.皆さんが英語の次に学ぶ言語を選択する際には,ぜひこのことを参考にしてみてください.
 今回の話題と関連する Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の放送回としては「#486. 英語と他の主要なヨーロッパ言語との関係 ー 仏西伊葡独語」がお勧めです.ぜひお聴きください.


[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2022-11-24 Thu

#4959. bright の音位転換 [metathesis][personal_name][indo-european][germanic][etymology]

 今朝の朝日新聞「天声人語」音位転換 (metathesis) が話題とされていた.日本語からの例がいくつか挙げられていたので挙げてみよう.

 ・ サンザカ(山茶花)→サザンカ
 ・ アラタシ→アタラシ
 ・ しだらがない→だらしがない
 ・ シタツヅミ(舌鼓)→シタヅツミ

 芥川龍之介が友人の「フトロコ」「コシャマクレル」という音位転換した発音にいらついたという逸話にも触れられていた.
 英語も音位転換の例には事欠かない.「#60. 音位転換 ( metathesis )」 ([2009-06-27-1]) や「#2809. 英語の音位転換は直接隣り合う2音に限られる」 ([2017-01-04-1]) を含む metathesis の多くの記事で事例を紹介してきたが,全体として /r/ と母音の転換例が比較的多いのが特徴的である.
 今回はこれまで /r/ と母音の関わる音位転換の例として取り上げてこなかったけれども,頻度の高い重要な語として bright (明るい)を紹介しよう.印欧語根 *bherəg- "to shine; bright, white" に遡り,ゲルマン祖語では *berχtaz の形が再建されている.古英語では beorht の形で,ここまでは一貫して「母音 + /r/」の順序であることがわかる.しかし,すでに古英語でも音位転換を経た breoht などの形も文証され,中英語期以降は「/r/ + 母音」型が一般化していく.
 音位転換を経ていないオリジナルの「母音 + /r/」は,いくつかの人名に化石的に残っている.Albert (nobly bright), Bertha (the bright one), Bertrand (bright raven), Herbert (army-bright) など.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2022-09-17 Sat

#4891. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第19回「なぜ単語ごとにアクセントの位置が決まっているの?」 [notice][sobokunagimon][rensai][stress][prosody][french][latin][germanic][gsr][rsr][contact][borrowing][lexicology][hellog_entry_set]

 『中高生の基礎英語 in English』の10月号が発売となりました.連載「歴史で謎解き 英語のソボクな疑問」の第19回は「なぜ単語ごとにアクセントの位置が決まっているの?」です.

『中高生の基礎英語 in English』2022年10月号



 英単語のアクセント問題は厄介です.単語ごとにアクセント位置が決まっていますが,そこには100%の規則がないからです.完全な規則がないというだけで,ある程度予測できるというのも事実なのですが,やはり一筋縄ではいきません.
 例えば,以前,学生より「naturemature は1文字違いですが,なんで発音がこんなに異なるのですか?」という興味深い疑問を受けたことがあります.これを受けて hellog で「#3652. naturemature は1文字違いですが,なんで発音がこんなに異なるのですか?」 ([2019-04-27-1]) の記事を書いていますが,この事例はとてもおもしろいので今回の連載記事のなかでも取り上げた次第です.
 英単語の厄介なアクセント問題の起源はノルマン征服です.それ以前の古英語では,アクセントの位置は原則として第1音節に固定で,明確な規則がありました.しかし,ノルマン征服に始まる中英語期,そして続く近代英語期にかけて,フランス語やラテン語から大量の単語が借用されてきました.これらの借用語は,原語の特徴が引き継がれて,必ずしも第1音節にアクセントをもたないものが多かったため,これにより英語のアクセント体系は混乱に陥ることになりました.
 連載記事では,この辺りの事情を易しくかみ砕いて解説しました.ぜひ10月号テキストを手に取っていただければと思います.
 英語のアクセント位置についての話題は,hellog よりこちらの記事セットおよび stress の各記事をお読みください.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2022-07-30 Sat

#4842. 英語は歴史の始まりからすでに混種言語だった? [variety][dialect][germanic][oe][jute][history][oe_dialect][anglo-saxon][dialect_contact][dialect_mixture]

 1860年代に出版された Marsh による英語史講義録をパラパラめくっている.Marsh によれば,アングロサクソン語,すなわち古英語は,大陸からブリテン島に持ち込まれた諸方言の混合体であり,その意味においてブリテン島に "aboriginal" な言語とは言えないものの "indigenous" な言語ではあると述べている.言語としては混合体ならではの "diversity" を示し,"obscure", "confused", "imperfect", "anomalous", "irregular" であるという.以下,関連する箇所を引用する.

§15. It has been already shown that the Anglo-Saxon conquerors consisted of several tribes. The border land of the Scandinavian and Teutonic races, whence the Anglo-Saxon invaders emigrated, has always been remarkable for the number of its local dialects. The Friesian, which bears a closer resemblance than any other linguistic group to the English, differs so much in different localities, that the dialects of Friesian parishes, separated only by a narrow arm of the sea, are often quite unintelligible to the inhabitants of each other. Moreover, the Anglo-Saxon language itself supplies internal evidence that there was a great commingling of nations in the invaders of our island. This language, in its obscure etymology, its confused and imperfect inflexions, and its anomalous and irregular syntax, appears to me to furnish abundant proof of a diversity, not of a unity, of origin. It has not what is considered the distinctive character of a modern, so much as of a mixed and ill-assimilated speech, and its relations to the various ingredients of which it is composed are just those of the present English to its own heterogeneous sources. It borrowed roots, and dropped endings, appropriated syntactical combinations without the inflexions which made them logical, and had not yet acquired a consistent and harmonious structure when the Norman conquest arrested its development, and imposed upon it, or, perhaps we should say, gave a new stimulus to, the tendencies which have resulted in the formation of modern English. There is no proof that Anglo-Saxon was ever spoken anywhere but on the soil of Great Britain; for the 'Heliand,' and other remains of old Saxon, are not Anglo-Saxon, and I think it must be regarded, not as a language which the colonists, or any of them, brought with them from the Continent, but as a new speech resulting from the fusion of many separate elements. It is, therefore, indigenous, if not aboriginal, and as exclusively local and national in its character as English itself.


 古英語の生成に関する Marsh のこの洞察は優れていると思う.しかし,評価するにあたり,この講義録がイギリス帝国の絶頂期に出版されたという時代背景は念頭に置いておくべきだろう.引用の最後にある "exclusively local and national in its character as English itself" も,その文脈で解釈する必要があるように思われる.
 古英語の生成については「#389. Angles, Saxons, and Jutes の故地と移住先」 ([2010-05-21-1]),「#2868. いかにして古英語諸方言が生まれたか」 ([2017-03-04-1]),「#4439. 古英語は混合方言として始まった?」 ([2021-06-22-1]) の記事も参照.

 ・ Marsh, George Perkins. Lectures on the English Language: Edited with Additional Lectures and Notes. Ed. William Smith. 4th ed. London: John Murray, 1866. Rpt. HardPress, 2012.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2022-06-25 Sat

#4807. -ed により過去形を作る規則動詞の出現は革命的だった! [youtube][notice][sobokunagimon][germanic][indo-european][verb][inflection]

 3日前の6月22日(水)に,YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」 の第34弾が公開されました.「昔の英語は不規則動詞だらけ!」です.



 -ed をつければ過去形になる,というのは単純で分かりやすいですね.大多数の動詞に適用される規則なので,このような動詞を「規則動詞」と呼んでいます.一方,日常的で高頻度の一握りの動詞はこの規則に沿わず,「不規則動詞」と呼ばれています.sing -- sang -- sungcome -- came -- come のような,暗記しなければならないアレですね.語幹母音を変化させるのが特徴です.
 上記の YouTube で話したことは,歴史的には不規則動詞のほうが先に存在しており,規則動詞は歴史のかなり遅い段階に初めて現われた新参者である,ということです.規則動詞は新参者として現われた当初は,例外的なものとして白眼視されていた可能性が高いのです.しかし,その合理性が受け入れられたのでしょうか,瞬く間に多くの動詞を飲み込んでいき,古英語期が始まるまでにはすっかり「規則的」たる地位を確立していました.逆に,オリジナルの語幹母音を変化させるタイプは,当時すでに「不規則的」な雰囲気を醸すに至っていたというわけです.
 このような動詞を巡る大変化は,ゲルマン語派に特有のものでした.つまり,この変化は英語,ドイツ語,アイスランド語などには生じましたが,フランス語,ロシア語,ギリシア語などには生じていないのです.すなわち,ゲルマン語派にのみ生じた印欧語形態論の大革命というべき事件でした.
 YouTube により関心をもった方は,専門的な話しにはなりますが,この重大事件について,ぜひ次の記事を通じて深く学んでみてください.英語史のおもしろさにハマること間違いなしです.

 ・ 「#3345. 弱変化動詞の導入は類型論上の革命である」 ([2018-06-24-1])
 ・ 「#182. ゲルマン語派の特徴」 ([2009-10-26-1])
 ・ 「#3135. -ed の起源」 ([2017-11-26-1])
 ・ 「#3339. 現代英語の基本的な不規則動詞一覧」 ([2018-06-18-1])
 ・ 「#764. 現代英語動詞活用の3つの分類法」 ([2011-05-31-1])
 ・ 「#178. 動詞の規則活用化の略歴」 ([2009-10-22-1])
 ・ 「#3385. 中英語に弱強移行した動詞」 ([2018-08-03-1])
 ・ 「#3670.『英語教育』の連載第3回「なぜ不規則な動詞活用があるのか」」 ([2019-05-15-1]) と,そこに示されている記事群

Referrer (Inside): [2023-11-12-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2022-05-21 Sat

#4772. Gotland と Gutnish [germanic][gutnish][map]

 5月18日,ロシアのウクライナ侵攻を受けて,スウェーデンとフィンランドが NATO への加盟を同時に申請した.本日の読売新聞朝刊7面に「対露最前線の島 強化急ぐ」と題する記事が掲載されていた.その島とは,バルト海に浮かぶスウェーデン領ゴットランド (Gotland) のことである.  *

Map of Sweden



 ゴットランドはスウェーデンの首都ストックホルムから約190キロの距離にある.一方,島からロシアの飛び地であるカリーニングラードまでの距離は約300キロである.古来ロシアと西欧をつなぐバルト海の要衝だったが,現在も地政学的な重要性は変わっていない.
 ゴットランドの歴史は古い.島は紀元900年頃からスウェーデンの一部を構成していたが,住民は独自の言語と文化を守り続けてきた.島では現在に至るまでゴットランド語 (Gutnish, Gutnic) が用いられている.スウェーデン語の1方言とみなされることが多いが,スウェーデン語やデンマーク語とともに,北ゲルマン語群 (North Germanic) の東ノルド語 (East Norse) の独立したメンバーとみなすこともできる.(ゴットランド語の位置づけについては「#182. ゲルマン語派の特徴」 ([2009-10-26-1]),「#2239. 古ゲルマン諸語の分類」 ([2015-06-14-1]) を参照されたい.現代ゲルマン諸語の言語地図はこちらから.)
 12世紀までに,ゴットランドの商人たちはロシアのノヴゴロドに貿易拠点を構えて,バルト海の貿易ルートを掌握していた.島の随一の町 Visby にはドイツ商人が住むようになり,ハンザ同盟に組み込まれるに至って14世紀半ばまでおおいに繁栄した.
 しかし,1361年にデンマークのヴァルデマール4世が島を征服すると,バルト海の貿易ルートが変わり,ゴットランドは衰退していった.その後1645年にスウェーデンに譲渡されると,状況は好転していった.19世紀末にかけては,戦略的要衝として島が要塞化された.
 そして,21世紀の現在.島の住民は6万人ほどにすぎないが,今回の国際的緊張のなか,北欧における最前線の1つとなっている.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2022-05-09 Mon

#4760. 過去分詞と現在分詞の由来は大きく異なる [infinitive][germanic][morphology][inflection][verb][oe][germanic][indo-european][etymology][suffix]

 「#4349. なぜ過去分詞には不規則なものが多いのに現在分詞は -ing で規則的なのか?」 ([2021-03-24-1]) という素朴な疑問と関連して,そもそも両者の由来が大きく異なる点について,Lass の解説を引用しよう.まず過去分詞について,とりわけ強変化動詞の由来に焦点を当てる (Lass 161) .

. . . its [= past participle] descent is not always very neat. To begin with, it is historically not really 'part of' the verb paradigm: it is originally an independent thematic adjective (IE o-stem, Gmc a-stem) formed off the verbal root. The basic development would be:
IE PGmc
*ROOT - o - nó->*ROOT - α -nα-


 強変化動詞に関する限り,過去分詞は動詞語根から派生したにはちがいないが,もともと動詞パラダイムに組み込まれていなかったということだ.形態的には,動詞からの独立性が強く,しかも動詞の強弱の違いにも依存した.
 一方,現在分詞には,歴史的に動詞の強弱の違いに依存しないという事情があった (Lass 163) .これについてはすでに「#4345. 古英語期までの現在分詞語尾の発達」 ([2021-03-20-1]) で引用したとおりである.
 「なぜ過去分詞には不規則なものが多いのに現在分詞は -ing で規則的なのか?」という疑問に向き合うに当たって,そもそも過去分詞と現在分詞の由来が大きく異なっていた点が重要となるだろう.

 ・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2022-05-09 Mon

#4760. 過去分詞と現在分詞の由来は大きく異なる [infinitive][germanic][morphology][inflection][verb][oe][germanic][indo-european][etymology][suffix]

 「#4349. なぜ過去分詞には不規則なものが多いのに現在分詞は -ing で規則的なのか?」 ([2021-03-24-1]) という素朴な疑問と関連して,そもそも両者の由来が大きく異なる点について,Lass の解説を引用しよう.まず過去分詞について,とりわけ強変化動詞の由来に焦点を当てる (Lass 161) .

. . . its [= past participle] descent is not always very neat. To begin with, it is historically not really 'part of' the verb paradigm: it is originally an independent thematic adjective (IE o-stem, Gmc a-stem) formed off the verbal root. The basic development would be:
IE PGmc
*ROOT - o - nó->*ROOT - α -nα-


 強変化動詞に関する限り,過去分詞は動詞語根から派生したにはちがいないが,もともと動詞パラダイムに組み込まれていなかったということだ.形態的には,動詞からの独立性が強く,しかも動詞の強弱の違いにも依存した.
 一方,現在分詞には,歴史的に動詞の強弱の違いに依存しないという事情があった (Lass 163) .これについてはすでに「#4345. 古英語期までの現在分詞語尾の発達」 ([2021-03-20-1]) で引用したとおりである.
 「なぜ過去分詞には不規則なものが多いのに現在分詞は -ing で規則的なのか?」という疑問に向き合うに当たって,そもそも過去分詞と現在分詞の由来が大きく異なっていた点が重要となるだろう.

 ・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2022-05-08 Sun

#4759. to 不定詞の起源,再訪 [infinitive][gerund][germanic][morphology][inflection][verb]

 to 不定詞の起源について,「#2502. なぜ不定詞には to 不定詞と原形不定詞の2種類があるのか?」 ([2016-03-03-1]) では次のように述べた.

to 不定詞」のほうは,古英語の前置詞 to に,上述の本来の不定詞を与格に屈折させた -anne という語尾をもつ形態(不定詞は一種の名詞といってもよいものなので,名詞さながらに屈折した)を後続させたもの


 これは,英語史の教科書などでよく見かける一般的な記述を要約し,提示したものである.ところが,これは必ずしも正確な説明ではないようだ.Los (144) に異なる解釈が提示されており,そちらのほうが比較言語学的に説得力がある.

The etymology of the to-infinitive is often given as a bare infinitive in the complement of a preposition to, but this leaves the gemination ('doubling') of the -n- in the to-infinitive unexplained. The gemination points to the presence of an earlier -j-, probably part of a nominalising suffix. This parallells (sic) the origin of the gerund . . . , and indicates that the to-infinitive is not built on the bare infinitive, which was a much earlier formation, but on a verbal stem, like any other nominalisation:

(57) to (preposition) + ber- (verbal stem) + -anja (derivational suffix) + -i (dative sg) → Common Germanic *to beranjōi, Old English: to berenne, Middle English: to beren/bere, PDE: to bear.


 確かに古英語の原形不定詞 beran を普通の名詞と見立てて与格に屈折させても *berane にこそなれ berenne にはならない.母音も異なるし,子音の重ね (gemination) も考慮にいれなければならないことに,改めて気づいた.

 ・ Los, Bettelou. A Historical Syntax of English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2015.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow