egg 「卵」について本ブログをはじめとする各種メディアで何度か取り上げてきた.概観を得るために,まず『英語語源辞典』の記述を確認しておこう(OED の egg, n.' も参照).
記述の通り,古英語では本来的な ǣġ が用いられていたが,後期中英語より古ノルド語 (old_norse) 由来の egg がイングランド北部・東中部に現われ,本来形を置き換えていったというプロセスを経ている.また,Caxton の Eneydos (1490) の序文における,旧形と新形の共存・競合に関する英語史上有名な逸話についても触れられている.
egg をめぐるこの2つの話題について,これまで少なからぬコンテンツを作ってきたので,リンクをまとめておこう(ここ数ヶ月間,heltube こと「YouTube: heltube --- 英語史チャンネル」へのアクセスが増えてきているので,そちらを最初に挙げている).
(1) 古ノルド語由来の egg
・ heltube 「#182. egg 「卵」は古ノルド語からの借用語!」 (2025/01/18)
・ heldio 「#182. egg 「卵」は古ノルド語からの借用語!」 (2021/11/29)
・ hellog 「#340. 古ノルド語が英語に与えた影響の Jespersen 評」 ([2010-04-02-1])
・ hellog 「#2625. 古ノルド語からの借用語の日常性」 ([2016-07-04-1])
・ hellog 「#3982. 古ノルド語借用語の音韻的特徴」 ([2020-03-22-1])
・ hellog 「#4820. 古ノルド語は英語史上もっとも重要な言語」 ([2022-07-08-1])
・ inohota 「え?それも外来語? 英語ネイティヴたちも(たぶん)知らない借用語たち」 (2022/07/08)
(2) 新旧形をめぐる Caxton の逸話
・ heltube 「heldio #183. 卵を巡るキャクストンの有名な逸話」 (2025/01/19)
・ heldio 「#183. egges/eyren:卵を巡るキャクストンの有名な逸話」 (2021/11/30)
・ hellog 「#337. #337. egges or eyren」 ([2010-03-30-1])
・ hellog 「#4600. egges or eyren:なぜ奥さんは egges をフランス語と勘違いしたのでしょうか?」 ([2021-11-30-1])
・ hellog 「#4831. 『英語史新聞』2022年7月号外 --- クイズの解答です」 ([2022-07-19-1])
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
AからZまでのアルファベット文字のなかで,最も頻度の高い文字,低い文字は何か.この文字頻度 (letter_frequency) の話題については,「#308. 現代英語の最頻英単語リスト」 ([2010-03-01-1]) の下部に Letter Frequencies (rankings for various languages) へのリンクを挙げたとおり,様々な言語やコーパスでの順位表が作り出されている.例えば,BNC に依拠すると "etaoinsrhldcumfpgwybvkxjqz" の順位表が得られる.
Crystal (277) には,The Cambridge Encyclopedia (1st ed.) の全テキスト,150万語をコーパスとした文字頻度表が掲げられている.累積頻度順位 (Cumulative) のみならず,文学,宗教,政治,物理学,化学の各々のテーマごとの頻度や Morse code (morse_code) の頻度も合わせて示されている.以下のグラフは,X軸に沿って累積頻度順 (= "eatinorslhdcmufpgbywvkxjq") に文字を並べ,Y軸を各テーマ内での頻度割合(百分率)としたものである(頻度表はソース HTML を参照).
累積頻度順に照らしてテーマごとの特徴を見てみるとと,政治が最も標準的である.文学と政治がそれに続く.標準から遠ざかっていくのが,化学,物理学,そして Morse code となる.
個々の文字をみると興味深い点が多々ある.相対的に宗教では <h> が多く (holy?) <l> が少ないこと,文学では <w> が多いことは何を意味するのだろうか? 物理学や化学はラテン・ギリシア語系の単語が多く含まれているために,その他一般とは若干異なる文字頻度を示しているのかもしれない.人工的な Morse code は,他のテーマとは目に見えて異なる線を描いていることがわかる.
・ Crystal, D. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 3rd ed. CUP, 2018.
・ 日時:1月25日(土) 17:30--19:00
・ 場所:朝日カルチャーセンター新宿教室
・ 形式:対面・オンラインのハイブリッド形式(1週間の見逃し配信あり)
・ お申し込み:朝日カルチャーセンターウェブサイトより
今年度の朝カルシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」が,月に一度のペースで順調に進んでいます.主に『英語語源辞典』(研究社)を参照しながら,英語語彙史をたどっていくシリーズです.
1月25日(土)の夕刻に開講される第10回は,冬クール(3回分)の始まりとして「英語,世界の諸言語と接触する」と題して,近代英語期における世界中の諸言語からの借用語にフォーカスします.
ヨーロッパの近代英語期は,大航海時代で幕が開きます.イギリスは,スペインやポルトガルなどの列強には遅れたものの,何とか世界展開の足かがりをつかみ,2世紀半ほどの時間をかけてイギリス帝国を作り上げます.七つの海を支配したイギリスは,この過程を通じて世界中の言語と接触することになり,世界的語彙 (cosmopolitan_vocabulary) という滋養が,英語という言語に大量に流れ込んでくることになりました.英語語彙は,語源を追いかけていくだけで世界一周できるほどの豊かさを得たのです.英語界最大の辞書である OED (= Oxford English Dictionary) の編纂企画が打ち上げられたのは,上記過程の機の熟したイギリス帝国の絶頂時代,19世紀後半のことでした.今回の講座では,英語語彙史上とりわけ激動の時代というべき,この近代英語期における言語接触に注目します
本シリーズ講座の各回は独立していますので,過去回への参加・不参加にかかわらず,今回からご参加いただくこともできます.過去8回分については,各々概要をマインドマップにまとめていますので,以下の記事をご覧ください.
・ 「#5625. 朝カルシリーズ講座の第1回「英語語源辞典を楽しむ」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-20-1])
・ 「#5629. 朝カルシリーズ講座の第2回「英語語彙の歴史を概観する」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-24-1])
・ 「#5631. 朝カルシリーズ講座の第3回「英単語と「グリムの法則」」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-26-1])
・ 「#5639. 朝カルシリーズ講座の第4回「現代の英語に残る古英語の痕跡」をマインドマップ化してみました」 ([2024-10-04-1])
・ 「#5646. 朝カルシリーズ講座の第5回「英語,ラテン語と出会う」をマインドマップ化してみました」 ([2024-10-11-1])
・ 「#5650. 朝カルシリーズ講座の第6回「英語,ヴァイキングの言語と交わる」をマインドマップ化してみました」 ([2024-10-15-1])
・ 「#5669. 朝カルシリーズ講座の第7回「英語,フランス語に侵される」をマインドマップ化してみました」 ([2024-11-03-1])
・ 「#5704. 朝カルシリーズ講座の第8回「英語,オランダ語と交流する」をマインドマップ化してみました」 ([2024-12-08-1])
・ 「#5723. 朝カルシリーズ講座の第9回「英語,ラテン・ギリシア語に憧れる」をマインドマップ化してみました」 ([2024-12-27-1])
本講座の詳細とお申し込みはこちらよりどうぞ.『英語語源辞典』(研究社)をお持ちの方は,ぜひ傍らに置きつつ受講いただければと存じます(関連資料を配付しますので,辞典がなくとも受講には問題ありません).
第10回については,Voicy heldio でも「#1325. 1月25日(土)の朝カル講座「英語,世界の諸言語と接触する」としてご案内していますので,ぜひお聴きください.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
*
私が主なウェブメディア上で展開している英語史に関する主な情報発信プラットフォームを,タイムラインでまとめてみました.上記のインフォグラフィックのなかから,リンクで直接飛べます.以下にリストの形でも挙げておきます.
「#5731. heldio 2024年第4四半期のベスト回を決めるリスナー投票 --- 1月10日までオープン」 ([2025-01-04-1]) でご案内したとおり,昨年第4四半期における Voicy heldio のベスト配信回を決めるリスナー投票(1人10票まで)を実施しました.1月10日に投票が締め切られましたが,今回は25名のリスナーの皆さんよりご投票いただきました.ご協力ありがとうございました.
投票結果をまとめましたので本記事にて報告いたします(本日の heldio でも「#1324. heldio 2024年第4四半期のリスナー投票開票結果」として報告しています).今回はなかなかの混戦でした.以下に上位17位までの計18配信回を掲載します(全結果は本記事のソースHTMLをご覧ください).
1. 「#1289. 佐久平千本ノック (1) --- 小中学生の皆からの素朴な疑問」 (52%)
2. 「#1298. 保坂先生とのアフタートークでコメント返し」 (44%)
3. 「#1221. 中高生への英語史導入のコツ --- 川上さんの「英語のなぜ5分版」やってます通信のご紹介」 (40%)
4. 「#1293. 助動詞 do の文法化 --- 保坂先生との対談」 (32%)
5. 「#1245. 保坂道雄先生との「文法化入門」対談 --- 「英語史ライヴ2024」より」 (28%)
5. 「#1280. 引用後の "..." said he という語順」 (28%)
5. 「#1284. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック at 目白大学 --- Part 1」 (28%)
5. 「#1292. 佐久平千本ノック (2) --- 小中学生の皆からの素朴な疑問」 (28%)
5. 「#1294. 著者と語る『World Englishes 入門』(昭和堂,2023年) --- 高橋真理子先生とのヨーロッパと中東の英語をめぐる対談」 (28%)
5. 「【生配信】ぜいぜいしながら heldio 緊急生配信」 (28%)
11. 「#1231. 著者と語る『World Englishes 入門』(昭和堂,2023年) --- 山口美知代先生とのカリブ海の英語をめぐる対談」 (24%)
11. 「#1250. 近代英語の魅力を語る 秋元先生・田辺先生・福元先生との対談 --- 「英語史ライヴ2024」より」 (24%)
11. 「#1254. 今村洋美先生・和田忍先生との『World Englishes 入門』対談 --- 「英語史ライヴ2024」より」 (24%)
11. 「#1270. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (60-1) Latin Influence of the Second Period --- 対談精読実況中継」 (24%)
11. 「#1290. 冠詞の文法化 --- 保坂先生との対談」 (24%)
11. 「#1308. 古英語・英語史の発信とその課題 --- 小河舜さんによるダイジェスト」 (24%)
17. 「#1234. 激論「AI時代の語学を考える」 --- 「英語史ライヴ2024」より」 (20%)
17. 「#1263. 英語史クイズの予習会 (2) --- 「英語史ライヴ2024」の裏番組より」 (20%)
第1位(得票率52%)に輝いたのは,「#1289. 佐久平千本ノック (1) --- 小中学生の皆からの素朴な疑問」 (52%)でした! heldio/helwa リスナーのみーさんにホストいただき,「小中学生のために英語史」という新鮮なテーマを掲げた千本ノック企画となりました.多くのリスナーの皆様が,企画の趣旨を理解し,評価してくれたものと解釈しています.同企画の続編である「#1292. 佐久平千本ノック (2) --- 小中学生の皆からの素朴な疑問」も第5位(得票率28%)に入っていますし,堂々のグランプリといってよいでしょう.
第2位(得票率44%)は「#1298. 保坂先生とのアフタートークでコメント返し」でした.昨年第4四半期は,保坂道雄先生(日本大学)との対談が相次ぎましたが,なんと4回の対談回がいずれも上位入賞です! 単独4位(得票率32%)の「#1293. 助動詞 do の文法化 --- 保坂先生との対談」,5位(28%)の「#1245. 保坂道雄先生との「文法化入門」対談 --- 「英語史ライヴ2024」より」,11位(24%)の「#1290. 冠詞の文法化 --- 保坂先生との対談」とランクインです.保坂先生による文法化についての分かりやすい解説が人気を集めました.
第3位(得票率40%)は「#1221. 中高生への英語史導入のコツ --- 川上さんの「英語のなぜ5分版」やってます通信のご紹介」でした.「やってます通信」(および「日曜英語史クイズ」)ですでにお馴染みの高校英語教員川上さんとの対談回でした.川上さんの「やってます通信」への思いへ支持が集まった結果かと思います.川上さんの「英語教育×英語史」への挑戦,これからも期待しています!
第5位タイ(得票率28%)は6件ありましたが,配信者としては嬉しいコンテンツが並んでいました.Baugh and Cable の英語史書精読会の流れで出された問いに関連する「#1280. 引用後の "..." said he という語順」,もう1つのエキサイティングな千本ノック企画より「#1284. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック at 目白大学 --- Part 1」,シリーズ対談の一環として「#1294. 著者と語る『World Englishes 入門』(昭和堂,2023年) --- 高橋真理子先生とのヨーロッパと中東の英語をめぐる対談」,年末のジョーク企画「【生配信】ぜいぜいしながら heldio 緊急生配信」に票が入りました.
第11位タイ(得票率24%)も6件,第17位タイ(20%)は2件ありましたが,これらすべてが対談回でした.
全体として今回のリスナー投票では,千本ノック企画,研究者との対談回,helwa メンバー活躍回,Baugh and Cable 精読関連回が人気だったことが分かります.heldio リスナー,helwa リスナー,出演者の方々皆の力でチャンネルが作り上げられていることを,改めて実感しました.日々支えていただきまして,ありがとうございます.今後も良質な英語史音声コンテンツをお届けしていきます.
以上,投票結果の報告でした.なお,同報告は heldio でも「#1324. heldio 2024年第4四半期のリスナー投票開票結果」として配信しています.この結果を参考に,まだお聴きでない回がありましたら,ぜひご聴取いただければ.
一昨日の記事「#5737. 語源,etymology, veriloquium」 ([2025-01-10-1]) と関連して,2つの音声コンテンツを配信した.
・ heltalk (stand.fm) 「ラテン語で「語源」を意味する veriloquium もカッコいいですね」 (2025/01/10)
・ heldio (Voicy) 「#1322. word-lore 「語誌」っていいですよね」 (2025/01/11)
「語源」周りの用語・概念は種類が豊富である.ここから,そもそも語源 (etymology) とは何か,という問いが生じてくるだろう.実際,この問いについてはこれまでも多方面から検討してきた.各メディアから関連する主立ったコンテンツへのリンクを示そう.
・ hellog 「#466. 語源学は技芸か科学か」 ([2010-08-06-1])
・ hellog 「#1791. 語源学は技芸が科学か (2)」 ([2014-03-23-1])
・ hellog 「#598. 英語語源学の略史 (1)」 ([2010-12-16-1])
・ hellog 「#599. 英語語源学の略史 (2)」 ([2010-12-17-1])
・ hellog 「#727. 語源学の自律性」 ([2011-04-24-1])
・ hellog 「#3847. etymon」 ([2019-11-08-1])
・ hellog 「#5123. 「単語の語源を言い当てる」とは何か? --- 本日開幕した「語源バトル」のルールをめぐって」 ([2023-05-07-1])
・ hellog 「#5630. 語源学とは何か? --- 『英語語源辞典』 (p. 1647) より」 ([2024-09-25-1])
・ hellog 「#5737. 語源,etymology, veriloquium」 ([2025-01-10-1])
・ heldio 「#706. 爆笑・語源バトル with まさにゃん&藤原くん」 (2023/05/07)
・ helwa 「【英語史の輪 #9】語源って何?」 (2023/06/30)
この問いには,民間語源 (folk_etymology) をめぐる議論も深く関わってくるだろう.この重要な話題については hellog 「#5594. 民間語源(解釈語源)の復権のために」 ([2024-08-20-1]) およびそこからのリンク先コンテンツを参照されたい.
定期的に考え続けたいお題である.
英語史における through の綴り方が515通りある件について,これまで様々なメディアで頻繁に話題にしてきた.
・ hellog 「#53. 後期中英語期の through の綴りは515通り」 ([2009-06-20-1])
・ hellog 「#54. through 異綴りベスト10(ワースト10?)」 ([2009-06-21-1])
・ hellog 「#193. 15世紀 Chancery Standard の through の異綴りは14通り」 ([2009-11-06-1])
・ hellog 「#3397. 後期中英語期の through のワースト綴字」 ([2018-08-15-1])
・ hellog 「#5006. YouTube 版,515通りの through の話し」 ([2023-01-10-1])
・ hellog 「#5126. 「ゆる言語学ラジオ」出演第2回で話題となった515通りの through の怪」 ([2023-05-10-1])
・ heldio 「#599. YouTube「515通りの through」回への補足」
・ heldio 「#709. なぜ同一単語に多くのスペリングが存在し得たのか? --- 「ゆる言語学ラジオ」出演第2回で話題となった515通りの through の怪」
・ helwa 「【英語史の輪 #210】いのほた「515通りの through 回」の深掘り解説」
・ YouTube 「いのほた言語学チャンネル」 「#91. ゆるーい中世の英語の世界では綴りはマイルール?!through のスペリングは515通り!堀田的ゆるさベスト10!」
・ YouTube 「いのほた言語学チャンネル」 「#283. 中世の英語に through のつづりが515通りあるのは言語変化の象徴!」
・ YouTube 「ゆる言語学ラジオ」 「#228. 「英語史の専門家が through の綴りを数えたら515通りあった話【喜怒哀楽単語2】」
私自身が様々なソースから集めてきた証拠に基づいて「515通り」という数字を挙げてきたわけだが,さらに時間と労力をかけて探せば,異なる綴字がもう少しは見つかるだろうということは分かっていた.そして今回,516番目の through を見つけた.特に意識して探していたわけではないので,「気付いた」ほどの表現が正確かもしれない.
昨年末に note にて「【2024年12月28日正午の英語史緊急速報】3人称複数代名詞 they をめぐってたいへんなことが起こっています」を書いた.Ormulum という初期中英語期のテキストに現われる they の初例について解説した記事だ.その補足解説として,heldio でも「#1319. they の初出例 --- 昨年末緊急企画より Ormulum を覗いてみよう」を配信した.
そこで取り上げた例文を改めて掲げよう.このなかに問題の through が一度出現する.
& swa þeȝȝ leddenn heore lif Till þatt teȝȝ wærenn alde. Þatt naffdenn ðeȝȝ þurrh þeȝȝre streon. Ne sune child. ne dohhterr.
今回見つけた綴字は þurrh である.Ormulum の作者 Orm の独特な綴字は英語史上も有名で,これについて「#2712. 初期中英語の個性的な綴り手たち」 ([2016-09-29-1]) や「#3954. 母音の長短を書き分けようとした中英語の新機軸」 ([2020-02-23-1]) の記事で取り上げてきた.この through の516番目の綴字は,いかにも Orm 的である.<u> で表わされる母音が短母音であることを示すのに,後続する <r> が2つ重ねられている.
私自身,これまでの研究で Ormulum におけるこの綴字には何度となく触れてきており,ある意味では目に馴染んでいたはずだが,以前に掲げていた515通りの through の一覧に,この綴字は含まれていなかった.516番目の綴字の「劇的な発見」ではなく,単純に「見落とし」や「拾い漏れ」といったほうがよいケースだが,それでも久しぶりに記録が更新されて嬉しい.
今朝の Voicy heldio で「#1318. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (60-3) Latin Influence of the Second Period --- Taku さん対談精読実況中継」を配信しました.これは昨年末の12月26日(木)の夕方に生配信した対談精読実況中継のアーカイヴ版です.
今回の対談回はヘルメイトさんたちとの忘年会も兼ねていたので,賑やかです.今回は,前回に引き続き Taku さんこと金田拓さん(帝京科学大学)に司会をお願いしました.さらに,専門家として小河舜さん(上智大学)に加わっていただきました.ヘルメイトとしては,Grace さん,ykagata さん, lacolaco さん, Lilimi さん,ぷりっつさんが参加されました.8名でのたいへん充実した精読会となりました.
今回の精読箇所は第60節 "Latin Influence of the Second Period: The Christianizing of Britain" の第3段落です.さほど長くない1節でしたが,55分ほどかけて皆で「超」精読しました.文字通りに「豊かな」時間となりました.特に gradual という基本語の意味をめぐって,私はたいへん大きな学びを得ることができました.お時間のあるときに,ぜひ精読対象のテキストとなる1段落分の文章(Baugh and Cable, pp. 79--80 より以下に掲載)を追いつつ,超精読にお付き合いください.
The conversion of the rest of England was a gradual process. In 635 Aidan, a monk from the Scottish monastery of Iona, independently undertook the reconversion of Northumbria at the invitation of King Oswald. Northumbria had been Christianized earlier by Paulinus but had reverted to paganism after the defeat of King Edwin by the Welsh and the Mercians in 632. Aidan was a man of great sympathy and tact. With a small band of followers he journeyed from town to town, and wherever he preached he drew crowds to hear him. Within twenty years, he had made all Northumbria Christian. There were periods of reversion to paganism and some clashes between the Celtic and the Roman leaders over doctrine and authority, but England was slowly won over to the faith. It is significant that the Christian missionaries were allowed considerable freedom in their labors. There is not a single instance recorded in which any of them suffered *martyrdom* in the cause they espoused. Within a hundred years of the landing of Augustine in Kent, all England was Christian.
本節と関連の深い hellog 記事や heldio コンテンツは,「#5686. B&C の第60節 "Latin Influence of the Second Period" の第1段落を対談精読実況生中継しました」 ([2024-11-20-1]) に挙げたリンク集よりご参照ください.B&C の対談精読実況中継は,今後も時折実施していきたいと思います.
・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
heldio 2024年第4四半期のベスト回を決めるリスナー投票を,2025年1月3日(金)より1月10日(金) 23:59 までこちらの投票コーナーにて受け付けています(あるいは以下のQRコードよりどうぞ).ぜひ皆さんのマイベスト10を選んでいただければ幸いです.
上記の通り,本ブログの音声版・姉妹版ともいえる毎朝配信の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」より,今年第4四半期にお届けしてきた配信回(全93回)のなかからベスト回を決めるリスナー投票イベントを開催中です.1人10票まで投票できます.投票会場は10月8日(火)23:59 までオープンしていますので,この機会に聴き逃した過去配信回などを聴取いただき,マイベストの10件をじっくり選んでいただければと思います.
各配信回へのアクセスは,本記事末尾の一覧,あるいは音声コンテンツ一覧よりどうぞ.10月1日配信の「#1220. heldio 2024年第3四半期のベスト回を決めるリスナー投票 --- 10月8日までオープン」から12月31日配信の「#1311. 2024年 heldio 配信でよく聴かれた回ベスト10」までの93回分が投票の対象となります.
過去のリスナー投票企画については,ranking の記事をご覧ください.
昨日,同じ投票を呼びかける「#1314. heldio 2024年第4四半期のベスト回を決めるリスナー投票 --- 1月10日(金)までオープン」を配信しました.皆さん,奮ってご投票ください.
・ 「#1220. heldio 2024年第3四半期のベスト回を決めるリスナー投票 --- 10月8日までオープン」 (2024/10/01)
・ 「#1221. 中高生への英語史導入のコツ --- 川上さんの「英語のなぜ5分版」やってます通信のご紹介」 (2024/10/02)
・ 「#1222. helwa コンテンツの講評 --- 「英語史ライヴ2024」より」 (2024/10/03)
・ 「#1223. 私と heldio/helwa --- 「英語史ライヴ2024」裏番組より」 (2024/10/04)
・ 「#1224. なぜ doctor は -er ではなく -or なの? --- ゼミ合宿企画より」 (2024/10/05)
・ 「#1225. コメント返し 2024/10/06(Sun)」 (2024/10/06)
・ 「#1226. フランス語は英語の音韻感覚を激変させた --- 月刊『ふらんす』の連載記事第7弾」 (2024/10/07)
・ 「#1227. 古英語LINEスタンプのお披露目 --- 「英語史ライヴ2024」より」 (2024/10/08)
・ 「#1228. 川上さんの「英語のなぜ5分版」やってます通信 --- 第2弾」 (2024/10/09)
・ 「#1229. heldio 2024年第3四半期のリスナー投票開票結果」 (2024/10/10)
・ 「#1230. どの英語を教えればいいの? --- 「英語史ライヴ2024」裏番組より」 (2024/10/11)
・ 「#1231. 著者と語る『World Englishes 入門』(昭和堂,2023年) --- 山口美知代先生とのカリブ海の英語をめぐる対談」 (2024/10/12)
・ 「#1232. コメント返し 2024/10/13(Sun)」 (2024/10/13)
・ 「#1233. case が「格」? --- 文法用語を考える」 (2024/10/14)
・ 「#1234. 激論「AI時代の語学を考える」 --- 「英語史ライヴ2024」より」 (2024/10/15)
・ 「#1235. 著者と語る『World Englishes 入門』(昭和堂,2023年) --- 山口美知代先生との中華世界の英語をめぐる対談」 (2024/10/16)
・ 「#1236. mine を『英語語源辞典』で読み解く」 (2024/10/17)
・ 「#1237. 英語史でいちばん感動したことは何ですか? --- 「英語史ライヴ2024」裏番組より」 (2024/10/18)
・ 「#1238. 10月26日(土)の朝カル講座「英語,フランス語に侵される」に向けて」 (2024/10/19)
・ 「#1239. コメント返し 2024/10/20(Sun)」 (2024/10/20)
・ 「#1240. 『英語語源辞典』の「語源学解説」精読 (2) --- KDEE の編集方針を理解しよう」 (2024/10/21)
・ 「#1241. 著者と語る『ハリウッド映画と英語の変化』(開拓社,2024年) --- 山口美知代先生との対談」 (2024/10/22)
・ 「#1242. 川上さんの「英語のなぜ5分版」やってます通信 --- 第3弾」 (2024/10/23)
・ 「#1243. なぜ英語には単数形と複数形の区別があるの? --- 中学生のための英語史」 (2024/10/24)
・ 「#1244. 小河舜さんと古英語の句読点を語る --- Wulfstan のリズムと文体より」 (2024/10/25)
・ 「#1245. 保坂道雄先生との「文法化入門」対談 --- 「英語史ライヴ2024」より」 (2024/10/26)
・ 「#1246. コメント返し 2024/10/27(Sun)」 (2024/10/27)
・ 「#1247. 言語は数えられない!? --- khelf 藤原郁弥さんと青木輝さんとの激論」 (2024/10/28)
・ 「#1248. 月刊誌 Helvillian 創刊! --- helwa リスナー有志によるウェブマガジン」 (2024/10/29)
・ 「#1249. 古英語で「了解!」 --- 古英語LINEスタンプの文言解説シリーズ」 (2024/10/30)
・ 「#1250. 近代英語の魅力を語る 秋元先生・田辺先生・福元先生との対談 --- 「英語史ライヴ2024」より」 (2024/10/31)
・ 「#1251. 川上さんの「英語のなぜ5分版」やってます通信 --- 第4弾」 (2024/11/01)
・ 「#1252. 古英語LINEスタンプの gars (草)とは何? with 小河舜さん」 (2024/11/02)
・ 「#1253. コメント返し 2024/11/03(Sun)」 (2024/11/03)
・ 「#1254. 今村洋美先生・和田忍先生との『World Englishes 入門』対談 --- 「英語史ライヴ2024」より」 (2024/11/04)
・ 「#1255. 10月,Mond で5件の質問に回答しました」 (2024/11/05)
・ 「#1256. 英語史クイズの予習会 (1) --- 「英語史ライヴ2024」の裏番組より」 (2024/11/06)
・ 「#1257. 川上さんの「英語のなぜ5分版」やってます通信 --- 第5弾」 (2024/11/07)
・ 「#1258. 古英語の4つの文字を紹介 with 小河舜さん」 (2024/11/08)
・ 「#1259. 印欧祖語には○○の単語がなかった!」 (2024/11/09)
・ 「#1260. コメント返し 2024/11/10(Sun)」 (2024/11/10)
・ 「#1261. five の経た音変化は同化,同化,同化」 (2024/11/11)
・ 「#1262. fifth の経た音変化は異化」 (2024/11/12)
・ 「#1263. 英語史クイズの予習会 (2) --- 「英語史ライヴ2024」の裏番組より」 (2024/11/13)
・ 「#1264. 『英語語源辞典』通読はキツい,無理!」 (2024/11/14)
・ 「#1265. 川上さんの「英語のなぜ5分版」やってます通信 --- 第6弾」 (2024/11/15)
・ 「#1266. chair と sit --- 『英語語源辞典』精読会 with lacolaco さんたち」 (2024/11/16)
・ 「#1267. コメント返し 2024/11/17(Sun)」 (2024/11/17)
・ 「#1268. khelf 杯「英語史クイズ大会」 --- 「英語史ライヴ2024」より」 (2024/11/18)
・ 「#1269. 東京ポニークラス慶友会での千本ノック (1)」 (2024/11/19)
・ 「#1270. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (60-1) Latin Influence of the Second Period --- 対談精読実況中継」 (2024/11/20)
・ 「#1271. B&C 60 の芝居がかった部分のレトリック --- 昨日お届けした精読回に反応いただきました」 (2024/11/21)
・ 「#1272. 川上さんの「英語のなぜ5分版」やってます通信 --- 第7弾」 (2024/11/22)
・ 「#1273. 「英語史ライヴ2024」のフィナーレ with 井上先生&3Ms」 (2024/11/23)
・ 「#1274. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (60-2) Latin Influence of the Second Period --- Taku さん対談精読実況中継」 (2024/11/24)
・ 「#1275. コメント返し 2024/11/25(Mon)」 (2024/11/25)
・ 「#1276. 東京ポニークラス慶友会での千本ノック (2)」 (2024/11/26)
・ 「#1277. 11月30日(土)の朝カル講座「英語,オランダ語と交流する」に向けて」 (2024/11/27)
・ 「#1278. 川上さんとの対談 (1) --- 「やってます通信」インタビュー」 (2024/11/28)
・ 「#1279. 英文法におけるフランス語の影響 --- 月刊『ふらんす』の連載記事第9弾」 (2024/11/29)
・ 「#1280. 引用後の "..." said he という語順」 (2024/11/30)
・ 「#1281. コメント返し 2024/12/01(Sun)」 (2024/12/01)
・ 「#1282. 月刊 Helvillian 第2号が公開されました --- ヘルメイトさんによる自主的なhel活」 (2024/12/02)
・ 「#1283. みーさんとの対談 --- 12月8日(日)の佐久平千本ノックに向けて」 (2024/12/03)
・ 「#1284. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック at 目白大学 --- Part 1」 (2024/12/04)
・ 「#1285. 川上さんの「英語のなぜ5分版」やってます通信 --- 第8弾」 (2024/12/05)
・ 「#1286. come と some の綴字のナゾ --- 縦棒回避と語尾の -e」 (2024/12/06)
・ 「#1287. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック at 目白大学 --- Part 2」 (2024/12/07)
・ 「#1288. 川上さんとの対談 (2) --- 「英語史クイズ」インタビュー」 (2024/12/08)
・ 「#1289. 佐久平千本ノック (1) --- 小中学生の皆からの素朴な疑問」 (2024/12/09)
・ 「#1290. 冠詞の文法化 --- 保坂先生との対談」 (2024/12/10)
・ 「#1291. 田中 智之・縄田 裕幸・柳 朋宏(著)『生成文法と言語変化』(開拓社,2024年)」 (2024/12/11)
・ 「#1292. 佐久平千本ノック (2) --- 小中学生の皆からの素朴な疑問」 (2024/12/12)
・ 「#1293. 助動詞 do の文法化 --- 保坂先生との対談」 (2024/12/13)
・ 「#1294. 著者と語る『World Englishes 入門』(昭和堂,2023年) --- 高橋真理子先生とのヨーロッパと中東の英語をめぐる対談」 (2024/12/14)
・ 「#1295. コメント返し 2024/12/15(Sun)」 (2024/12/15)
・ 「#1296. 川上さんの「英語のなぜ5分版」やってます通信 --- 第9弾」 (2024/12/16)
・ 「#1297. 12月21日(土)の朝カル講座「英語,ラテン・ギリシア語に憧れる」に向けて」 (2024/12/17)
・ 「#1298. 保坂先生とのアフタートークでコメント返し」 (2024/12/18)
・ 「#1299. 書き言葉の3つの機能」 (2024/12/19)
・ 「#1300. 高橋真理子先生とのアフタートーク --- 『World Englishes 入門』(昭和堂,2023年)の第8章「ヨーロッパと中東の英語」をめぐって」 (2024/12/20)
・ 「#1301. 超絶に単純な本来語要素からなる上級レベル動詞3選 --- atone, beget, don」 (2024/12/21)
・ 「#1302. コメント返し 2024/12/22(Sun)」 (2024/12/22)
・ 「#1303. 「言語化」してはいけないことがある --- タブーの存在」 (2024/12/23)
・ 「#1304. Yule! あるいは Merry Christmas!」 (2024/12/24)
・ 「#1305. 英語綴字におけるフランス語の影響 --- 月刊『ふらんす』の連載記事第10弾」 (2024/12/25)
・ 「#1306. 『英語語源辞典』の「語源学解説」精読 (3) --- 印欧語比較言語学の学史をたどる」 (2024/12/26)
・ 「#1307. 佐久平千本ノックの振り返り with みーさん」 (2024/12/27)
・ 「#1308. 古英語・英語史の発信とその課題 --- 小河舜さんによるダイジェスト」 (2024/12/28)
・ 「#1309. コメント返し 2024/12/29(Sun)」 (2024/12/29)
・ 「【生配信】ぜいぜいしながら heldio 緊急生配信」 (2024/12/29)
・ 「#1310. 『英語史新聞』第11号が公開されました with khelf メンバー」 (2024/12/30)
・ 「#1311. 2024年 heldio 配信でよく聴かれた回ベスト10」 (2024/12/31)
昨年末の12月30日,khelf(慶應英語史フォーラム)が制作している『英語史新聞』シリーズの第11号がウェブ上で公開されました.こちらよりPDFで自由に閲覧・ダウンロードできます.年末のドタバタに紛れての公開となりましたが,今回も力を込めて制作していますので,新年にゆっくりとお読みいただければ幸いです.
2022年4月1日の創刊号発行以来,着実に号を重ねてきました.編集委員会,レイアウト担当,執筆陣もそれぞれスキルアップし,毎回良質の英語史関連の記事をお届けできるようになってきています.いつも khelf のhel活 (helkatsu) を応援してくださっている読者の皆さんのおかげです.感謝申し上げるとともに,本年もよろしくお願いいたします.
さて,今回の第11号の記事のラインナップは以下の通りです.執筆陣には,学部3年生から大学院博士課程の学生まで,khelf の多様なメンバーが集まりました.
・ 英語史の今を訪ねて --- はじまりの地 Ebbsfleet (第1面)
イギリス留学から帰国した大学院生メンバー(古英語専攻)による,英語史旅行記なる新ジャンルの記事.Ebbsfleet とはどこ? 何があるの? どうして英語史と関係があるの? ぜひ読者の皆さんも,アングロサクソン時代にタイムスリップしてみてください.
・ The Englishes of STAR WARS(第2面)
壮大なスケールの英語史・社会言語学の記事.『スター・ウォーズ』ファンは唸ること間違いなし.ファンでなくとも,映画だけでこんなにおもしろく言語学できるのか,と驚くはずです.学部3年生による記事で,力作です.
・ 英語史ラウンジ by khelf 「第4回 寺澤盾先生 中編」(第3面)
英語史研究者にインタビューするシリーズの第4弾の中編となります.前回に引き続き,khelf メンバーのインタビュアー3名が寺澤盾先生(青山学院大学教授,東京大学名誉教授)にお話しを伺っています.寺澤先生の Ph.D を取得後,どのようなご研究をされてきたか,どのような姿勢で研究に向き合ってきたか,また書籍の出版について,お話しくださっています.
・ 英語史クイズ Basic(第4面)
前号より始まった英語史の基本を楽しく学ぶ新企画の第2弾です.英語史の始まりとされる,イングランドに活版印刷術を導入したウィリアム・カクストンが,印刷業に携わっていた期間は? 答え合わせをしつつ,詳しい解説を読んでいただければ.
今号の発行日である年末の12月30日に,heldio 配信回を通じて khelf メンバーとともに広報しています.「#1310. 『英語史新聞』第11号が公開されました with khelf メンバー」をお聴きください.
もし学校の授業などの公的な機会(あるいは,その他の準ずる機会)にて『英語史新聞』を利用される場合には,ぜひ上記 heldio 配信回のコメント欄より,あるいはこちらのフォームを通じてご一報くださいますと幸いです.khelf の活動実績となるほか,編集委員にとっても励みともなりますので,ご協力のほどよろしくお願いいたします.ご入力いただいた学校名・個人名などの情報につきましては,khelf の実績把握の目的のみに限り,記入者の許可なく一般に公開するなどの行為は一切行なわない旨,ここに明記いたします.フィードバックを通じ,khelf による「英語史をお茶の間に」の英語史活動(hel活)への賛同をいただけますと幸いです.
最後に『英語史新聞』のバックナンバー(号外を含む)も紹介しておきます.こちらも合わせてご一読ください(khelf HP のこちらのページにもバックナンバー一覧があります).
・ 『英語史新聞』第1号(創刊号)(2022年4月1日)
・ 『英語史新聞』号外第1号(2022年4月)(2022年4月10日)
・ 『英語史新聞』第2号(2022年7月11日)
・ 『英語史新聞』号外第2号(2022年7月)(2022年7月18日)
・ 『英語史新聞』第3号(2022年10月3日)
・ 『英語史新聞』第4号(2023年1月11日)
・ 『英語史新聞』第5号(2023年4月10日)
・ 『英語史新聞』第6号(2023年8月14日)
・ 『英語史新聞』第7号(2023年10月30日)
・ 『英語史新聞』第8号(2024年3月4日)
・ 『英語史新聞』第9号(2024年5月12日)
・ 『英語史新聞』第10号(2024年9月8日)
・ 『英語史新聞』号外第3号(2024年9月)(2024年9月8日)
謹賀新年.本年も「英語史をお茶の間に」をモットーに,英語史の魅力を広く伝える「hel活」 (helkatsu) を展開していきます.こちらの「hellog~英語史ブログ」を引き続き毎日公開していくほか,姉妹版・音声版の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 も毎朝6時に更新していきます(さらにプレミアム限定配信チャンネル「英語史の輪 (helwa)」もよろしくお願いします).
年初ということで,昨年の hellog の振り返りをします.これまでに公開してきた全記事を対象に,昨年1年間で最もよく読まれた記事は12月30日付のアクセス・ランキング (access ranking) のトップ500記事をご覧いただければと思います.過年度版は「#5362. 2023年によく読まれた hellog 記事は?」 ([2024-01-01-1]),「#4997. 2022年によく読まれた記事」 ([2023-01-01-1]),「#4632. 2021年によく読まれた記事」 ([2022-01-01-1]),「#4267. 2020年によく読まれた記事」 ([2021-01-01-1]),「#3901. 2019年によく読まれた記事」 ([2020-01-01-1]) をご参照ください.
以下は,昨年中に執筆・公開された記事に限定して,どの記事が最もよく読まれたかのランキングの上位50位までとなります(準備では173位まで出しており,51位以下は本記事のソースHTMLをご覧ください).お正月の読み物としてどうぞ.
・ 「#5444. 古英語の原文を読む --- 597年,イングランドでキリスト教の布教が始まる」 ([2024-03-23-1]) (1017回閲覧)
・ 「#5613. 本日開催「英語史ライヴ2024」」 ([2024-09-08-1]) (460回閲覧)
・ 「#5463. 2024年度の「英語史」講義が始まります --- 慶應義塾大学文学部英米文学専攻の必修科目」 ([2024-04-11-1]) (409回閲覧)
・ 「#5464. 『ライトハウス英和辞典 第7版』のオンライン版が公開」 ([2024-04-12-1]) (394回閲覧)
・ 「#5462. 英語史概説書等の書誌(2024年度版)」 ([2024-04-10-1]) (372回閲覧)
・ 「#5408. 3人称代名詞はゲルマン祖語の共通基語に遡れない」 ([2024-02-16-1]) (337回閲覧)
・ 「#5414. dungeon の文化史と語源」 ([2024-02-22-1]) (318回閲覧)
・ 「#5438. 紙の辞書の魅力 --- 昨秋出版の『ライトハウス英和辞典 第7版』より」 ([2024-03-17-1]) (310回閲覧)
・ 「#5434. 「変なアルファベット表」完成」 ([2024-03-13-1]) (285回閲覧)
・ 「#5467. OED の3月アップデートで日本語からの借用語が23語加わった!」 ([2024-04-15-1]) (239回閲覧)
・ 「#5454. 小学生にも英語史? --- 田地野彰(編著)『小学生から知っておきたい英語の?ハテナ』(Jリサーチ出版,2024年)」 ([2024-04-02-1]) (235回閲覧)
・ 「#5597. ことばの意味の外延と内包 」 ([2024-08-23-1]) (232回閲覧)
・ 「#5499. 古英語の数詞」 ([2024-05-17-1]) (209回閲覧)
・ 「#5465. khelf 企画「英語史コンテンツ50+」が今年度もスタートしました」 ([2024-04-13-1]) (202回閲覧)
・ 「#5485. なぜ who は「フー」と発音されるのか?」 ([2024-05-03-1]) (197回閲覧)
・ 「#5443. blow - blew - blown --- 古英語強変化動詞第7類」 ([2024-03-22-1]) (195回閲覧)
・ 「#5377. YouTube で「近代言語学の祖」と称される Sir William Jones を紹介しました」 ([2024-01-16-1]) (179回閲覧)
・ 「#5506. be to do 構文は古英語からあった」 ([2024-05-24-1]) (175回閲覧)
・ 「#5468. piggyback は「おんぶ」でもあり「肩車」でもある!?」 ([2024-04-16-1]) (170回閲覧)
・ 「#5430. 行為者接尾辞 -er は本来は動詞ではなく名詞の基体についた」 ([2024-03-09-1]) (169回閲覧)
・ 「#5397. 文法上の「性」を考える --- Baugh and Cable の英語史より」 ([2024-02-05-1]) (166回閲覧)
・ 「#5450. heldio の人気シリーズ復活 --- 「ゼロから学ぶはじめての古英語 --- Part 4 with 小河舜さん and まさにゃん」」 ([2024-03-29-1]) (166回閲覧)
・ 「#5363. 2023年のリスナー投票による heldio の推し配信回ベスト10が決定!」 ([2024-01-02-1]) (162回閲覧)
・ 「#5593. 2024年度の夏期スクーリング「英語史」講義が始まります」 ([2024-08-19-1]) (155回閲覧)
・ 「#5431. 指示詞 that は定冠詞 the から独立して生まれた」 ([2024-03-10-1]) (153回閲覧)
・ 「#5398. ヘロドトスにみる言語の創成」 ([2024-02-06-1]) (148回閲覧)
・ 「#5415. 語彙記載項 (lexical entry) には何が記載されているか?」 ([2024-02-23-1]) (146回閲覧)
・ 「#5477. なぜ仏英語には似ている単語があるの? --- 月刊『ふらんす』の連載記事第2弾」 ([2024-04-25-1]) (131回閲覧)
・ 「#5391. 「いのほたチャンネル」リニューアル初回は「グリムの法則」」 ([2024-01-30-1]) (127回閲覧)
・ 「#5424. 第7回 HiSoPra* 研究会のお知らせ」 ([2024-03-03-1]) (127回閲覧)
・ 「#5608. 「英語史ライヴ2024」の番組表(最新版)を公開」 ([2024-09-03-1]) (126回閲覧)
・ 「#5636. 9月下旬,Mond で10件の疑問に回答しました」 ([2024-10-01-1]) (124回閲覧)
・ 「#5436. 私の『英語語源辞典』推し活履歴 --- 2024年3月15日版」 ([2024-03-15-1]) (123回閲覧)
・ 「#5383. 5種類の語彙化」 ([2024-01-22-1]) (122回閲覧)
・ 「#5402. 2023年度に提出された卒論論文と修士論文の題目」 ([2024-02-10-1]) (119回閲覧)
・ 「#5504. 接尾辞 -ive を OED で読む」 ([2024-05-22-1]) (119回閲覧)
・ 「#5384. 言語学史の名著の目次」 ([2024-01-23-1]) (118回閲覧)
・ 「#5378. 歴史的に正しい民間語源?」 ([2024-01-17-1]) (117回閲覧)
・ 「#5412. 原初の言語は複雑だったのか,単純だったのか?」 ([2024-02-20-1]) (117回閲覧)
・ 「#5449. 月刊『ふらんす』で英語史連載が始まりました」 ([2024-03-28-1]) (115回閲覧)
・ 「#5385. methinks にまつわる妙な語形をいくつか紹介」 ([2024-01-24-1]) (114回閲覧)
・ 「#5427. 「英語史クイズ」の heldio 生放送をお届けしました」 ([2024-03-06-1]) (114回閲覧)
・ 「#5362. 2023年によく読まれた hellog 記事は?」 ([2024-01-01-1]) (113回閲覧)
・ 「#5439. 英語辞書から集めた tautology (類語反復,トートロジー)の事例」 ([2024-03-18-1]) (112回閲覧)
・ 「#5508. be to do 構文の古英語での用法は原則として受動態的だった」 ([2024-05-26-1]) (109回閲覧)
・ 「#5420. 保坂道雄(著)『文法化する英語』(開拓社,2014年) --- 英語の文法化の入門書」 ([2024-02-28-1]) (108回閲覧)
・ 「#5585. 『子供の科学』9月号で小5生からの「なぜ,日本語と英語では語順が違うのですか?」に回答しました」 ([2024-08-11-1]) (108回閲覧)
・ 「#5461. この4月,皆さんの「hel活」がスゴいことになっています」 ([2024-04-09-1]) (106回閲覧)
・ 「#5568. 9月8日(日)「英語史ライヴ2024」を開催します」 ([2024-07-25-1]) (106回閲覧)
・ 「#5621. 『文藝春秋』10月号にて慶應義塾大学文学部英米文学専攻が紹介されています」 ([2024-09-16-1]) (106回閲覧)
新年は学び始めにふさわしい時期です.英語史に関心をもった方,さらに関心をもちたい方は「#5098. 英語史を学び始めようと思っている方へ hellog と heldio のお薦め回一覧(2023年度版)」 ([2023-04-12-1]) とそこからリンクを張っている記事群をご参照ください.
なお,昨年の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 の聴取ランキングは,昨日大晦日の記事「#5727. 2024年 heldio 配信でよく聴かれた回ベスト30」 ([2024-12-31-1]) にて取り上げています.
本年も,hellog, heldio ともにお付き合いのほど,よろしくお願いいたします.
今年も日々本ブログおよび姉妹版の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 をご参照いただきました.Voicy より heldio のアナリティクスが取れましたので,今年の一昨日までの全364回について,聴取数によるランキングを作成しました.上位30回まで挙げます(全結果は本記事のソースHTMLをご覧ください).
1. 「#980. 赤ちゃんは無言語状態で育てられても言語を習得できるのか? --- 目白大学の学生から寄せてもらった素朴な疑問」(547回)(2024-02-05配信)
2. 「#1171. 自己紹介 --- 英語史研究者の堀田隆一です」(528回)(2024-08-13配信)
3. 「#1166. なぜ英語ではいつも主語が必要なの? --- 中学生のための英語史」(507回)(2024-08-08配信)
4. 「#945. なぜ言語は変化するのか?」(490回)(2024-01-01配信)
5. 「#1067. 449年,アングロ・サクソンの渡来 --- 『アングロサクソン年代記』の該当テキストより古英語音読」(478回)(2024-05-02配信)
6. 「#1093.「はじめての古英語」生放送(第7弾) with 小河舜さん&まさにゃん --- Bede を読む (4)」(382回)(2024-05-28配信)
7. 「#947. なぜ言語は変化しないのか?」(352回)(2024-01-03配信 )
8. 「#1030. 「はじめての古英語」生放送 with 小河舜さん&まさにゃん --- Bede を読む」(347回)(2024-03-26配信)
9. 「#1124. 「はじめての古英語」第9弾 with 小河舜さん&まさにゃん&村岡宗一郎さん」(331回)(2024-06-27配信)
10. 「#1107. 「はじめての古英語」生放送(第8弾) with 小河舜さん&まさにゃん --- Bede を読む (5)」(325回)(2024-06-11配信)
11. 「#948. なぜ現在分詞形容詞は1語だと名詞の前に置き,2語以上の塊になると名詞の後ろに置くの?」(323回)(2024-01-04配信)
12. 「#1201. 早朝の素朴な疑問「千本ノック」 with 小河舜さん --- 「英語史ライヴ2024」より」(318回)(2024-09-12配信)
13. 「#1054. 年度初めの「英語に関する素朴な疑問 千本ノック」生放送 with 小河舜さん」(317回)(2024-04-19配信)
14. 「#1243. なぜ英語には単数形と複数形の区別があるの? --- 中学生のための英語史」(305回)(2024-10-24配信)
15. 「#1057. 「はじめての古英語」生放送 with 小河舜さん&まさにゃん --- Bede を読む (2)」(300回)(2024-04-22配信)
16. 「#1005. and の意味って考えたことありますか?」(290回)(2024-03-01配信)
17. 「#1172. なぜ have, do の3単現形は has, does と変則的なのですか? --- 中学生のための英語史」(286回)(2024-08-14配信)
18. 「#1087. 英語の料理用語はフランス語とともにあり」(282回)(2024-05-22配信)
19. 「#1033. figure を中心に「ゆる言語学ラジオ」『ターゲット1900』(9) の単語の語源を勝手に補う回」(277回)(2024-03-29配信)
20. 「#1031. 英語は数量を表わすのに属格を好む? --- 前置詞 of を理解するために」(273回)(2024-03-27配信)
21. 「#1066. ノルマン征服 --- Ten Sixty-Six」(273回)(2024-05-01配信)
22. 「#1011. 「変なアルファベット表」の完成と公開 with 寺澤志帆さん」(270回)(2024-03-07配信)
23. 「#1003. There is an apple on the table. --- 主語はどれ?」(269回)(2024-02-28配信)
24. 「#1026. なぜ now と know は発音が違うの?」(259回)(2024-03-22配信)
25. 「#1046. 山口美知代『ハリウッド映画と英語の変化』(開拓社,2024年)」(258回)(2024-04-11配信)
26. 「#991. while の文法化」(257回)(2024-02-16配信)
27. 「#1197. khelf 主催「英語史ライヴ2024」が始まります」(257回 )(2024-09-08配信)
28. 「#990. 文法化とは何か?」(255回)(2024-02-15配信)
29. 「#988. ぎゅうぎゅうの単語とすかすかの単語 --- 内容語と機能語」(253回)(2024-02-13配信)
30. 「#1016. schedule の発音は「スケジュール」か「シェデュール」か? --- 「変なアルファベット表」の S の項目より」(251回)(2024-03-12配信)
1位は,私にとっては(専門外の話題だったので)意外性がありました.上位には「中学生のための英語史」「はじめての古英語」「千本ノック」などのシリーズものが入っています.素朴な疑問系の配信回も堅調です.
対談回としては,25位に「#1046. 山口美知代『ハリウッド映画と英語の変化』(開拓社,2024年)」が入っています.イベント系としては,27位に「#1197. khelf 主催「英語史ライヴ2024」が始まります」が見えます.
上記のランキングのダイジェストは,本日の heldio 「#1311. 2024年 heldio 配信でよく聴かれた回ベスト10」でも配信していますので,どうぞお聴きください.
ランキング上位回で聞き逃しているもの,内容を忘れているものがあれば,ぜひ年末年始のお時間のあるときにまとめ聴きしていただければ.年明けには,2024年第4四半期のリスナー投票も実施したいと思っています.
日々 hellog をお読みくださっている皆様,2024年もお世話になりました.来年も何卒よろしくお願いいたします.
12月21日に,今年度の朝日カルチャーセンター新宿教室でのシリーズ講座の第9回が開講されました.今回は「英語,ラテン・ギリシア語に憧れる」と題して,古典語への傾倒が顕著だった16--17世紀の初期近代英語期に注目しました.この時期,知識が増大し学問も発展したために新しい語彙が大量に必要となり,そのニーズに応えるべくラテン語やギリシア語の単語や要素が持ち出されたのでした.結果として,古典語に基づく借用語や新語がおびただしく導入され,英語語彙は空前の拡張を遂げることになります.
今回も,対面およびオンラインで多くの方々にご参加いただきました.ありがとうございます.講座の内容を,markmap というウェブツールによりマインドマップ化して整理してみました(画像としてはこちらからどうぞ).受講された方は復習用に,そうでない方は講座内容を垣間見る機会としてご活用ください.
音象徴 (sound_symbolism) は,言語学では伝統的に周辺的な扱いを受けてきた.この件については「#1269. 言語学における音象徴の位置づけ」 ([2012-10-17-1]) をはじめとする一連の記事で取り上げてきた.
そのような中で,Jespersen は異色である.1922年の論文で,英語やその他の言語における [i] の音象徴について熱っぽく論じているのだ.論文の冒頭から熱い.
Sound symbolism plays a greater role in the development of languages than is admitted by most linguists. In this paper I shall attempt to show that the vowel [i], high-front-unround, especially in its narrow or thin form, serves very often to indicate what is small, slight, insignificant, or weak. (283)
[i] が「小さい」と結びつけられる音象徴は広く知られており,本ブログでも「#242. phonaesthesia と 遠近大小」 ([2009-12-25-1]) で触れた.Jespersen は,この論文のなかで,多くの例を挙げながら [i] の「小ささ」についてグイグイと議論していく.
特におもしろいのは, little という,この話題との関連で真っ先に思い浮かぶ英単語についての論考である."Semantic and Phonetic Changes" と題する第7節で,次のように述べている.
The influence on sound development is first seen in the very word little. OE. lytel shows with its y, that the vowel must originally have been u, and this is found in OSax. luttil, OHG. luzzil; cf. Serb. lud 'little' and OIr. lútu 'little finger' (Falk and Torp); but then the vowel in Goth. leitils (i.e. lītils and ON. lítinn is so difficult to account for on ordinary principles that the NED. in despair thinks that the two words are "radically unconnected". I think we have here an effect of sound symbolism. The transition in E. from y to it of course is regular, being found in innumerable words in which sound symbolism cannot have played any role, but in modern English we have a further slight modification of the sound which tends to make the word more expressive, I refer to the form represented in spelling as "leetle". In Gill's Logonomia (1621, Jiriczek's reprint 48), where he mentions the "particle" tjni (j is his sign for the diphthong in sign) he writes "a lïtle tjni man" with ï (his sign for the vowel in seen), though elsewhere he writes litle with short i. NED. under leetle calls it "a jocular imitation of a hesitating (?) or deliberately emphatic pronunciation of little". Payne mentions from Alabama leetle "with special and prolonged emphasis on the î sound to indicate a very small amount". I suspect that what takes place is just as often a narrowing or thinning of the vowel sound as a real lengthening, just as in Dan. bitte with narrow or thin [i], see above. To the quotations in NED. I add the following: Dickens Mutual Fr. 861 "a leetle spoilt", Wells Tono-B. 1. 92 "some leetle thing", id. War and Fut. 186 "the little aeroplane ... such a leetle thing up there in the night".---It is noteworthy that in the word for the opposite notion, where we should according to the usual sound laws expect the vowel [i] (OE. micel, Sc. mickle, Goth. mikils) we have instead u: much, but this development is not without parallels, see Mod. E. Gr. I. 3. 42. In Dan. dial, mög(el) for the same word the abnormal vowel is generally ascribed to the influence of the labial m; in both forms the movement away from i may have been furthered by sound-symbolic feeling. (301--02)
「[i] = 小さい」という音象徴について,little の母音はポジティヴに,対義語 much の母音はネガティヴに反応し音変化を経てきた,という鋭い洞察だ.もともとの語源形との関連で音象徴を論じるのみならず,音変化の動機づけとしての音象徴を考察していくこともまた重要なのではないかと気付かされた.
・ Jespersen, O. "Symbolic Value of the Vowel I." Philologica 1 (1922). Reprinted in Linguistica: Selected Papers in English, French and German. Copenhagen: Levin & Munksgaard, 1933. 283--303.
ギリシア語が英語に与えた語彙的影響は,ラテン語やフランス語のそれに比べると見劣りするように思われるかもしれないが,実際にはきわめて大きい.語彙そのものというより,むしろ語形成 (word_formation) に与えた影響が大きい,といったほうが適切かもしれない.とりわけ連結形 (combining_form) を用いた科学系の複合語の形成は,ギリシア語の偉大な貢献である.
Durkin (231) は,英語史におけるギリシア語の影響について,広い視野から次のように述べている.
Between C5 and C8-9, the Greek liberal arts education was revived, first by the Ostrogoths, later by the Carolingians, and Greek gained special prestige. Writers liberally sprinkled their woks with Greek words, many of which found their way into other languages of Europe, including Old English. Particularly noteworthy are the glossarial poems from Canterbury with words like apoplexis, liturgia, spasmus. Since then, Greek medical doctrine and the terms associated with it became the major part of English medical lexis . . . . More general scientific vocabulary from Greek has mushroomed since C18 . . . .
. . . .
Greek influence on English, then, is restricted to the lexicon, (limited) derivation, and compounding. Words entered English initially through Roman borrowings, then through direct borrowing from Ancient Greek writers, more recently through word formation (combining roots and affixes) in English.
ギリシア語の英語への影響には,3パターンあるいは3段階があったとまとめてよいだろう.
(1) ラテン語を経由して(中世から)
(2) 直接ギリシア語から(近代以降)
(3) ギリシア語「要素」を用いた英語内での造語(近代以降,特に18世紀以降;「科学用語新古典主義的複合語」 (neo-classical compounds) あるいは「英製希語」と呼んでもよいか)
いずれのパターンについても,ギリシア語に付された威信 (prestige) を反映して学術用語の造語が圧倒的である.関連する話題として,以下の hellog 記事も参照.
・ 「#516. 直接のギリシア語借用は15世紀から」 ([2010-09-25-1])
・ 「#552. combining form」 ([2010-10-31-1])
・ 「#616. 近代英語期の科学語彙の爆発」 ([2011-01-03-1])
・ 「#617. 近代英語期以前の専門5分野の語彙の通時分布」 ([2011-01-04-1])
・ 「#1694. 科学語彙においてギリシア語要素が繁栄した理由」 ([2013-12-16-1])
・ 「#3014. 英語史におけるギリシア語の真の存在感は19世紀から」 ([2017-07-28-1])
・ 「#3013. 19世紀に非難された新古典主義的複合語」 ([2017-07-27-1])
・ 「#3166. 英製希羅語としての科学用語」 ([2017-12-27-1])
・ 「#3179. 「新古典主義的複合語」か「英製羅語」か」 ([2018-01-09-1])
・ 「#3368. 「ラテン語系」語彙借用の時代と経路」 ([2018-07-17-1])
・ 「#4191. 科学用語の意味の諸言語への伝播について」 ([2020-10-17-1])
・ 「#4449. ギリシア語の英語語形成へのインパクト」 ([2021-07-02-1])
・ 「#5718. ギリシア語由来の主な接尾辞,接頭辞,連結形」 ([2024-12-22-1])
・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.
・ 日時:12月21日(土) 17:30--19:00
・ 場所:朝日カルチャーセンター新宿教室
・ 形式:対面・オンラインのハイブリッド形式(1週間の見逃し配信あり)
・ お申し込み:朝日カルチャーセンターウェブサイトより
今年度の朝カルシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」が,月に一度のペースで順調に進んでいます.主に『英語語源辞典』(研究社)を参照しながら,英語語彙史をたどっていくシリーズです.
1週間後に開講される第9回では主に初期近代英語期におけるラテン語およびギリシア語の語彙的影響を評価します.16--17世紀の初期近代英語期は英国ルネサンスの時代に当たり,古典語への傾倒が顕著でした.知識が増大し学問も発展したために新しい語彙が大量に必要となり,そのニーズに応えるべくラテン語やギリシア語の単語や要素が持ち出されたのです.結果として,古典語に基づく借用語や新語がおびただしく導入され,英語語彙は空前の拡張を遂げることになります.
今回の講座では,古典語からの借用語に主に注目し,この時期の語彙拡大の悲喜劇を観察してみたいと思います.ぜひ皆さんもこの時代にもたらされたラテン・ギリシア語系のオモシロ単語を探してみてください.
本シリーズ講座の各回は独立していますので,過去回への参加・不参加にかかわらず,今回からご参加いただくこともできます.過去8回分については,各々概要をマインドマップにまとめていますので,以下の記事をご覧ください.
・ 「#5625. 朝カルシリーズ講座の第1回「英語語源辞典を楽しむ」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-20-1])
・ 「#5629. 朝カルシリーズ講座の第2回「英語語彙の歴史を概観する」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-24-1])
・ 「#5631. 朝カルシリーズ講座の第3回「英単語と「グリムの法則」」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-26-1])
・ 「#5639. 朝カルシリーズ講座の第4回「現代の英語に残る古英語の痕跡」をマインドマップ化してみました」 ([2024-10-04-1])
・ 「#5646. 朝カルシリーズ講座の第5回「英語,ラテン語と出会う」をマインドマップ化してみました」 ([2024-10-11-1])
・ 「#5650. 朝カルシリーズ講座の第6回「英語,ヴァイキングの言語と交わる」をマインドマップ化してみました」 ([2024-10-15-1])
・ 「#5669. 朝カルシリーズ講座の第7回「英語,フランス語に侵される」をマインドマップ化してみました」 ([2024-11-03-1])
・ 「#5704. 朝カルシリーズ講座の第8回「英語,オランダ語と交流する」をマインドマップ化してみました」 ([2024-12-08-1])
本講座の詳細とお申し込みはこちらよりどうぞ.『英語語源辞典』(研究社)をお持ちの方は,ぜひ傍らに置きつつ受講いただければと存じます(関連資料を配付しますので,辞典がなくとも受講には問題ありません).
(以下,後記:2024/12/17(Tue))
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
11月30日に,今年度の朝日カルチャーセンター新宿教室でのシリーズ講座の第8回が開講されました.今回は「英語,オランダ語と交流する」と題して,英語史ではあまり注目されることのないオランダ語との言語接触について論じました.企画時には90分の講義に値するテーマかどうか自問していましたが,資料を準備する段になって,それが杞憂であることがわかりました.対面およびオンラインで,多くの方々にご参加いただき,ありがとうございました.
講座の内容を,markmap というウェブツールによりマインドマップ化して整理してみました(画像としてはこちらからどうぞ).受講された方は復習用に,そうでない方は講座内容を垣間見る機会としてご活用ください.
今朝の Voicy heldio で「#1274. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (60-2) Latin Influence of the Second Period --- Taku さん対談精読実況中継」を配信しました.これは4日前に配信した「#1270. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (60-1) Latin Influence of the Second Period --- 対談精読実況中継」の続編です(hellog でも同趣旨の記事 [2024-11-20-1] を公開しています).
「対談精読実況中継」なるものは,「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) の一環として,時々ゲストをお招きしつつお届けしているのですが,今回は前回に引き続き MC として金田拓さん(帝京科学大学)にご出演いただきました.Voicy のコラボ収録(オンライン)機能を初めて利用してみたのですが,音声も十分にクリアです.
今回の精読箇所は第60節 "Latin Influence of the Second Period: The Christianizing of Britain" の第2段落です.さほど長くない1節を,Taku さんと60分近くかけてじっくりと読みました.実に豊かな精読タイムでした.イングランドのキリスト教化がいかに困難だったか,そしていかにラッキーだったかを解説するくだりです.お時間のあるときに,ぜひ対象テキスト(Baugh and Cable, p. 79 より以下に掲載)を追いながら「超」精読のおもしろさを堪能していただければ.
It is not easy to appreciate the difficulty of the task that lay before this small band. Their problem was not so much to substitute one ritual for another as to change the philosophy of a nation. The religion that the Anglo-Saxons shared with the other Germanic tribes seems to have had but a slight hold on the people at the close of the sixth century; but their habits of mind, their ideals, and the action to which these gave rise were often in sharp contrast to the teachings of the New Testament. Germanic philosophy exalted physical courage, independence even to haughtiness, and loyalty to one's family or leader that left no wrong unavenged. Christianity preached meekness, humility, and patience under suffering and said that if a man struck you on one cheek you should turn the other. Clearly it was no small task that Augustine and his forty monks faced in trying to alter the age-old mental habits of such a people. They might even have expected difficulty in obtaining a respectful hearing. But they seem to have been men of exemplary lives, appealing personality, and devotion to purpose, and they owed their ultimate success as much to what they were as to what they said. Fortunately, upon their arrival in England one circumstance was in their favor. There was in the kingdom of Kent, in which they landed, a small number of Christians. But the number, though small, included no less a person than the queen. Æthelberht, the king, had sought his wife among the powerful nation of the Franks, and the princess Bertha had been given to him only on condition that she be allowed to continue undisturbed in her Christian faith. Æthelberht set up a small chapel near his palace in Kentwarabyrig (Canterbury), and there the priest who accompanied Bertha to England conducted regular services for her and the numerous dependents whom she brought with her. The circumstances under which Æthelberht received Augustine and his companions are related in the extract from Bede given §47 earlier. Æthelberht was himself baptized within three months, and his example was followed by numbers of his subjects. By the time Augustine died seven years later, the kingdom of Kent had become wholly Christian.
本節と関連の深い hellog 記事や heldio コンテンツは,「#5686. B&C の第60節 "Latin Influence of the Second Period" の第1段落を対談精読実況生中継しました」 ([2024-11-20-1]) に挙げたリンク集よりご参照ください.B&C の対談精読実況中継は,今後も時折実施していきたいと思います.
・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
・ 日時:11月30日(土) 17:30--19:00
・ 場所:朝日カルチャーセンター新宿教室
・ 形式:対面・オンラインのハイブリッド形式(1週間の見逃し配信あり)
・ お申し込み:朝日カルチャーセンターウェブサイトより
今年度の朝カルシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」が,月に一度のペースで順調に進んでいます.主に『英語語源辞典』(研究社)を参照しながら,英語語彙史をたどっていくシリーズです.
1週間後に開講される第8回ではオランダ語と英語の言語接触に迫ります.後期中英語期には,イングランドはオランダを含む低地帯 (the Low Countries) との商業的な交流が盛んで,言語的にも濃い接触があったと考えられています.しかし,伝統的な英語史記述においては,オランダ語との言語接触は,ラテン語,フランス語,古ノルド語などとの言語接触に比べて注目度が低く,大々的に話題にされることはほとんどありません.重要なオランダ借用語をいくつか挙げて終わり,ということが一般的です.しかし,オランダ語の英語への影響は潜在的には一般に考えられている以上に大きく,講座1回分の議論の価値は十分にあると思われます.
今回の講座では,ゲルマン語派におけるオランダ語(および関連諸言語・方言)の位置づけを確認しつつ,同言語が英語の語彙やその他の部門に与えた影響について議論します.また,背景としての英蘭関係史にも注目します.さらに,オランダ単語が日本語語彙に多く入り込んでいる事実にも注目したいと思います.
本シリーズ講座の各回は独立していますので,過去回への参加・不参加にかかわらず,今回からご参加いただくこともできます.過去7回分については,各々概要をマインドマップにまとめていますので,以下の記事をご覧ください.
・ 「#5625. 朝カルシリーズ講座の第1回「英語語源辞典を楽しむ」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-20-1])
・ 「#5629. 朝カルシリーズ講座の第2回「英語語彙の歴史を概観する」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-24-1])
・ 「#5631. 朝カルシリーズ講座の第3回「英単語と「グリムの法則」」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-26-1])
・ 「#5639. 朝カルシリーズ講座の第4回「現代の英語に残る古英語の痕跡」をマインドマップ化してみました」 ([2024-10-04-1])
・ 「#5646. 朝カルシリーズ講座の第5回「英語,ラテン語と出会う」をマインドマップ化してみました」 ([2024-10-11-1])
・ 「#5650. 朝カルシリーズ講座の第6回「英語,ヴァイキングの言語と交わる」をマインドマップ化してみました」 ([2024-10-15-1])
・ 「#5669. 朝カルシリーズ講座の第7回「英語,フランス語に侵される」をマインドマップ化してみました」 ([2024-11-03-1])
本講座の詳細とお申し込みはこちらよりどうぞ.『英語語源辞典』(研究社)をお持ちの方は,ぜひ傍らに置きつつ受講いただければと存じます(関連資料を配付しますので,辞典がなくとも受講には問題ありません).
(以下,後記:2024/11/27(Wed))
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
heldio/helwa リスナーの川上さんが,ご自身の X アカウントにて「英語史クイズ」を展開し始めています.第2問は(すでに解答と解説も公開されていますが)なかなか難しいこちらのクイズでした.
アルフレッド大王に関する記述として誤ったものを選んでください,という4択問題でした.その4つめの選択肢として「デーン人(ヴァイキング)にキリスト教を信仰させた」がありました.この選択肢は多くの回答者に選ばれていたのですが,解説を読めば分かる通り,これは正解ではないのです.つまり「デーン人(ヴァイキング)にキリスト教を信仰させた」は事実なのです.
厳密にいえば,この辺りの事情については複雑で不明なことも多いのですが,概ね事実であると考えてよい根拠や推論を,『ヴァイキングからノルマン人へ』より2カ所を引用したいと思います.まず第2章「ヴァイキング」の pp. 86--87 より.
しかしながらこのプロセス([引用者注]ヴァイキングのイングランド定住のプロセス)は,ヴァイキングをイングランド人にとっての単なる襲撃者から共生する隣人へと変えるにあたって特筆すべき意味をもっていた.移動を繰り返している段階のデーン人は,現地集団に敗北したときに,現地社会から課されるべき道徳上や商業上の慣習を受けいれることはできなかったであろう.しかしいったん彼らが土地を与えられて定住し,軍隊秩序ではなく現地の政治秩序にしたがって生活せざるをえなくなると,ある種の強制を受けいれることになる.宗教的強制はその最たるものであり,改宗がアルフレッド大王の主たる目的の一つであったことは明白である.彼ら異教を奉ずる厄介者が,洗礼を受け入れキリスト教的行動様式という道徳コードーー神と王への恭順ならびに隣人を愛する責務ーーを学んだのであれば,やがて平和な共生が実現することになるだろう.
私たちはすでに,アルフレッド王がガスルムに洗礼を受け入れるようにいかに要求したのかを知っている.彼は十数年後に同様の改宗をヘステンにも試みたが,うまくはいかなかった.ただしヘステンの息子たちは,アルフレッド王と〔王の娘婿でマーシアの主人〕エアルドールマン・エセルレッドが後押しすることによって改宗を受け入れた.このようにしてキリスト教徒となった指導者たちは,異教を打ち捨てるように彼らの部下たちにすすんで強制したかもしれない.それでは彼らは実際に実行したのだろうか.そしてこのような改宗プログラムを推し進める試みは,どれほどの成功を収めたのだろうか.キリスト教を受け入れるプロセスに関して,イングランド東部にはほとんど何の証拠もない.しかしキリスト教がスカンディナヴィア人にどのような影響を与えたのかを測る基準がないわけではない.第一の証拠は墓地である.異教の墓地が確認される範囲は限られており,イングルビーとレプトンを別にすれば南部と東部には皆無に近かった.そのため,八七〇年代にその地域に定住したものですら異教の埋葬慣行を維持することができなかったことがわかる.第二の証拠は銭貨である.イースト・アングリアには九〇〇年以前に聖エドマンドの銭貨が出現するが,それはおそらくデーン人支配者の一人の手になるものである.この事実は,エドマンド崇敬が彼の死から一世代もたたないうちに盛んになっていたという事実を伝えると同時に,「大軍勢」の指導者の子孫のあいだにもキリスト教の殉教者に対する尊崇の念が現れていたことを教えてくれる.そしてデーンローでも,一〇世紀半ばまでには教会組織が復活し機能していたと考えられる.この事実は,一〇世紀の前半にアルフレッド王の後継者たちがデーンローを征服することにより,デーン人系の新参の定住者がキリスト教信仰とその慣習を受容し現地社会に急速に同化することになったという説明の裏付けともなるだろう.
続いて,古英語期のキリスト教の浸透を論じる5章の p. 213 より引用します.
ヴァイキングたちがなぜ,どのようにキリスト教を受け入れたのかはよくわかっていない.政治的に強制されたから,というのが一つの答えではある.ガスルム〔「大軍勢」の王,八九〇年死去〕とその配下の主だった者たちは,八七八年の敗戦の後,アルフレッド王との間の和平の条件の一つとして洗礼を受けた.ダブリンとヨークを断続的に支配したオーラフ(アムリーブ)・クアラーン(九八一年死去)は,九四三年にイングランドで,エドマンド王を代父として洗礼を受けた.そして,オークニー伯シガードは,改宗したばかりのノルウェー王オーラフ・トリュッグヴァソンにより九九五年に洗礼を受けることを強制された.これら政治的リーダーたちの改宗は,彼らに従う者たちがそれに倣って改宗するという点で重要ではあった.しかしながら,定住者のあるコミュニティ全体に対して司牧を行うためには,その定住者たちに洗礼を施す司祭が必要であり,したがって教会の存在が必要であった.つまり,ヴァイキングの改宗は,それを可能にした教会組織の存在を暗示しているかに見える,ということである.しかしながら,逆説的に,ダブリンのようなアイルランドのスカンディナヴィア人飛び領地よりも,デーンロー地域東部の方が,改宗はより迅速に行われたのである.後者の教会組織の方が,アイルランド(ダブリン近郊も含む)のそれよりも,明らかにより混乱していたにもかかわらず,である.このことは,デーンロー地域では,司教座教会やミンスターが途絶や移転の憂き目を見た後も地方教会が存続しており,その司祭らが伝道活動を行った,ということを示すのかもしれない.またあるいは,ウェセックスから聖職者が送り込まれて,伝道活動を行ったのかもしれない.対照的に,アイルランドの聖職者たちには(そしてまた,ヴァイキングと同盟を結ぶことに何の痛痒も感じていなかったアイルランドの王たちにも),異教の「よそ者たち」を改宗させようという気がおそらくなかった.ノーサンブリアや,マーシア東部,そしてイースト・アングリアと比べて,それら「よそ者」の定住地域ははるかに狭く,その数も少なかったのである.加えるに,改宗時期の違いは,ヴァイキングたちが異教とキリスト教とのせめぎあいに対して,グループごとに異なった対応をしたのだということを示している,ということも言えよう.
アルフレッド大王が,ヴァイキングたち全体の改宗にどれだけ直接の影響を及ぼしたかを正確に測ることは難しいものの,相当なインパクトがあったことは確かのようです.今後の川村さんの英語史クイズにも注目していきましょう!
・ デイヴィス,ウェンディ(編)・鶴島 博和(日本語版監修・監訳) 『ヴァイキングからノルマン人へ』 オックスフォード ブリテン諸島の歴史 第3巻.慶應義塾大学出版会,2025年.
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