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最終更新時間: 2024-03-19 07:57

2023-05-31 Wed

#5147. 「ゆる言語学ラジオ」出演第3回 --- 『ジーニアス英和辞典』第6版を読む回で触れられた諸々の話題 [yurugengogakuradio][notice][youtube][genius6][suffix][prefix][heldio][voicy][hel_contents_50_2023][khelf][consonant][japanese][loan_word][spelling][terminology]


 「ゆる言語学ラジオ」からこちらの「hellog~英語史ブログ」に飛んでこられた皆さん,ぜひ

   (1) 本ブログのアクセス・ランキングのトップ500記事,および
   (2) note 記事,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の人気放送回50選
   (3) note 記事,「ゆる言井堀コラボ ー 「ゆる言語学ラジオ」×「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」×「Voicy 英語の語源が身につくラジオ (heldio)」」
   (4) 「ゆる言語学ラジオ」に関係するこちらの記事群

をご覧ください.



 昨日5月30日(火)に,YouTube/Podcast チャンネル「ゆる言語学ラジオ」の最新回がアップされました.ゲストとして出演させていただきまして第3回目となります(ぜひ第1回第2回もご視聴ください).今回は「英語史の専門家と辞書を読んだらすべての疑問が一瞬で解決した#234」です.



 昨秋出版された『ジーニアス英和辞典』第6版にて,新設コラム「英語史Q&A」を執筆させていただきました(同辞典に関連する hellog 記事は genius6 よりどうぞ).今回の出演はその関連でお招きいただいた次第です.水野さん,堀元さんとともに同辞典をペラペラめくっていき,何かおもしろい項目に気づいたら,各々がやおら発言し,そのままおしゃべりを展開するという「ゆる言語学ラジオ」らしい企画です.雑談的に触れた話題は多岐にわたりますが,hellog や heldio などで取り上げてきたトピックも多いので,関連リンクを張っておきます.

[ 接尾辞 -esque (e.g. Rubenesque, Kafkaesque) ]

 ・ hellog 「#216. 人名から形容詞を派生させる -esque の特徴」 ([2009-11-29-1])
 ・ hellog 「#935. 語形成の生産性 (1)」 ([2011-11-18-1])
 ・ hellog 「#3716. 強勢位置に影響を及ぼす接尾辞」 ([2019-06-30-1])

[ 否定の接頭辞 un- (un- ゾーンの語彙) ]

 ・ hellog 「#4227. なぜ否定を表わす語には n- で始まるものが多いのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-11-22-1])
 ・ 大学院生による英語史コンテンツ 「#36. 語源の向こう側へ ~ in- と un- と a- って何が違うの?~」(目下 khelf で展開中の「英語史コンテンツ50」より)

[ カ行子音を表わす3つの文字 <k, c, q> ]

 ・ hellog 「#1824. <C> と <G> の分化」 ([2014-04-25-1])
 ・ heldio 「#255. カ行子音は c, k, q のどれ?」 (2022/02/10)

[ 日本語からの借用語 (e.g. karaoke, karate, kamikaze) ]

 ・ hellog 「#4391. kamikazebikini --- 心がザワザワする語の意味変化」 ([2021-05-05-1])
 ・ hellog 「#142. 英語に借用された日本語の分布」 ([2009-09-16-1])
 ・ hellog 「#3872. 英語に借用された主な日本語の借用年代」 ([2019-12-03-1])
 ・ hellog 「#4140. 英語に借用された日本語の「いつ」と「どのくらい」」 ([2020-08-27-1])
 ・ heldio 「#60. 英語に入った日本語たち」 (2021/07/31)

[ 動詞を作る en- と -en (e.g. enlighten, strengthen) ]

 ・ 「#1877. 動詞を作る接頭辞 en- と接尾辞 -en」 ([2014-06-17-1])
 ・ 「#3510. 接頭辞 en- をもつ動詞は品詞転換の仲間?」 ([2018-12-06-1])
 ・ 「#4241. なぜ語頭や語末に en をつけると動詞になるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-12-06-1])
 ・ heldio 「#62. enlighten ー 頭にもお尻にも en がつく!」 (2021/08/02)

[ 文法用語の謎:tense, voice, gender ]

 ・ heldio 「#644. 「時制」の tense と「緊張した」の tense は同語源?」 (2023/03/06)
 ・ heldio 「#643. なぜ受動態・能動態の「態」が "voice" なの?」 (2023/03/05)
 ・ hellog 「#1520. なぜ受動態の「態」が voice なのか」 ([2013-06-25-1])
 ・ hellog 「#1449. 言語における「範疇」」 ([2013-04-15-1])

[ minister の語源 ]

 ・ 「#4209. なぜ ministermini- なのに「大臣」なのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-11-04-1])

[ コラム「英語史Q&A」 ]

 ・ hellog 「#4892. 今秋出版予定の『ジーニアス英和辞典』第6版の新設コラム「英語史Q&A」の紹介」 ([2022-09-18-1])
 ・ heldio 「#532. 『ジーニアス英和辞典』第6版の出版記念に「英語史Q&A」コラムより spring の話しをします」 (2022/11/14)
 ・ hellog 「#4971. oftent は発音するのかしないのか」 ([2022-12-06-1])

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2022-08-04 Thu

#4847. biweekly は「2週間に1度」か「1週間に2度」か? [voicy][heldio][prefix][semantics][word_formation]

 「2」を表わすラテン語に由来する接頭辞 bi- を付した標題の単語は,両義的でややこしい.bi- が week に係ると解釈するならば「2週間(に1度)」だが,weekly に係るとするならば「(1週間に)2度」となる.同じ両義性の問題は bimonthly, biyearly, biannual などにも当てはまる.
 このややこしい単語の問題については,私の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」のリスナーの方に指摘していただいた(ありがとうございます!).昨日 Voicy で配信した「#429. イギリス英語 fortnight 「2週間」の語誌」でも触れているので,ぜひそちらもお聞きください.



 biweekly, bimonthly などの語の両義性については,語法辞書でも必ず指摘されており,どうやら悪名高い問題のようだ.3点ほど引用してみよう.

bi-. This prefix, which was first used in contexts of time (biweekly, bimonthly, biyearly, etc.) in the 19C., is a cause of endless confusion. Each compound can mean 'occurring or continuing for two ---', 'appearing every two ---', or 'occurring twice a ---'. Because ambiguity is usually present, and cannot be resolved by the devising of rules, it is always better to use unambiguous equivalents, e.g. twice a week, twice-weekly; every two weeks, fortnightly; twice-yearly; every two years; etc. (Fowler's Modern English Usage)


bimonthly means either 'twice a month' or 'every two months'. Similarly, biweekly is either 'twice a week' or 'every fortnight'. It is therefore probably safer to spell it out as 'twice a month', 'fortnightly', etc. Semi-monthly and semi-weekly can only mean 'twice a month/week'. (Usage and Abusage)


 bimonthly, semimonthly, biannual, biennial 多くの評論家や文法家が bimonthly を「2か月に1回の」の意味で,semimonthly を「月に2回の」の意味で用いるべきだと主張している.例えば,Morris & Morris (1985) は,調査をした166名のうち書き言葉では92%が,話し言葉で91%が,これらの2つの語を同じように使うことに反対しているとしている.しかし,実際には semimonthly という語はあまり使われず,bimonthly がどちらの意味にも使われる傾向がある(semiweekly, biweekly についても同じ): A bimonthly magazine is issued six times a year.---SFID (隔月間の雑誌は年6回発行される)/The bimonthly meetings are on the first and third Wednesdays of each month.---Ibid. (月2回の会合は,各月の第1と第3の水曜日に行なわれる).ちなみに Peters (2004) では,semimonthly を用いるべきだとする.
 なお,biannual は「年2回の」の意味で,「2年に1回の」の意味では biennial を用いるが [Wood-Flavell-Flavell (1990)],意味が混同されることがあり,biannnual が biennial の意で用いられることがある [Peters (2004)].この混乱を避けるために,WDEU では biannual の代わりに semiannual を用いることをすすめている.『現代英語語法辞典』


 語法辞書を参照しているうちに,参照前よりもずっと混乱してきた.実に迷惑な単語だなぁ.
 関連して,接頭辞 bi- については「#538. monokinitrikini」 ([2010-10-17-1]) も参照.

 ・ Burchfield, Robert, ed. Fowler's Modern English Usage. Rev. 3rd ed. Oxford: OUP, 1998.
 ・ Partridge, Eric. Usage and Abusage. 3rd ed. Rev. Janet Whitcut. London: Penguin Books, 1999.
 ・ 小西 友七 編 『現代英語語法辞典』 三省堂,2006年.

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2021-07-16 Fri

#4463. 「印製英語」 [waseieigo][loan_translation][indian_english][prefix][esl]

 本ブログでは和製英語 (waseieigo) について様々な角度から論じてきた.世界中で英語が第2言語として用いられ,英語要素が各言語に取り込まれている状況下で,和製英語のほかに「○製英語」なるものが観察されたとしても不思議はない.実際,ざっと4世紀にわたって英語と付きあってきたインドで用いられるインド英語 (Indian English) をのぞいてみると「印製英語」というべき表現を多く見つけることができる.Sharma (2087) より,いくつか挙げてみよう.
 まず,インドの土着言語の表現を英語要素に移し替えた,翻訳借用 (loan_translation) やなぞり (calquing) による印製英語がある.結っていない髪の毛を指して open hair と呼んだり,「じっと監視・監督する」の意味で to stand on someone's hand という句を用いたりするケースだ.
 もととなる表現が土着言語になく,純粋に英語要素を用いて造語したものもある.eve-teasing (セクハラ),prepone (早める,繰り上げる),revert back (メッセージに返信する)などは,いかにも英語らしくみえるが,少なくとも英米標準英語では用いられない.prepone などは傑作というべきで,標準英語の postpone (延期する,繰り下げる)をモデルとして反意の接頭辞で置き換えた語である.標準英語ではなぜ用いられないのだろうかと逆に不思議に思ってしまうほど,形態的にも意味的にも分かりやすい.
 インド英語に限らず ESL (English as a Second Language) においては,多かれ少なかれこの種の「○製英語」というべき表現はありふれているに違いない.また,本ブログで繰り返し取り上げてきたように,英語史においても「英製羅語」「英製希語」「英製仏語」の表現が普通に生み出され,使用されてきた(cf. 「#4101. 「和製英語を含む○製△語」の記事セット」 ([2020-07-19-1])).古今東西,言語接触があるところでは「○製△語」の現象は日常茶飯だったのではないか.
 なお,「○製英語」を表わす英語の用語は特に存在しない.試しに作ってみると "indigenised English expressions" といったところだろうか.和製英語なら "indigenised English expressions in Japan(ese)",印製英語なら "indiginised English expressions in India(n English)" 辺りはいかがだろう.

 ・ Sharma, Devyani. "Second-Language Varieties: English in India." Chapter 132 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 2077--91.

Referrer (Inside): [2021-07-20-1]

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2021-04-08 Thu

#4364. 綴字も発音も意味もややこしい desert, dessert, dissert [latin][french][prefix][etymology][diatone][khelf_hel_intro_2021]

 標題は,その派生語も含め,頭が混乱してくる単語群です.綴字はややこしく似ているし,その割には発音は同じだったり異なっていたりする.意味も似ているような,そうでないような.こういう単語は学習する上で実に困ります.このややこしさは語源を遡ってもたいして解消しないのですが,新年度の英語史導入キャンペーン期間中ということもあり,歴史的にみてみたいと思います(cf. 「#4357. 新年度の英語史導入キャンペーンを開始します」 ([2021-04-01-1])).
 まずは,もっとも問題がなさそうで,知らなくてもよいレベルの単語である dissert v. /dɪˈsəːt/ から行きましょう.「論じる」を意味する動詞で,辞書では《古風》とのレーベルが貼られています.この単語のように綴字で <s> が重複する場合には,原則として無声音の /s/ となります(しかし,以下に述べるように,すぐに例外が現われます).この動詞から派生した名詞 dissertation 「学術論文(特に博士論文)」は知っておいてもよい単語ですね.
 語源としては,ラテン語で「論じる」を意味する動詞 dissertāre に遡ります.強意の接頭辞 dis- に,語幹 serere (言葉をつなぐ,作文する)から派生した反復形をつなげたもので,「しっかり言葉をつなぎあわせる」ほどが原義です(cf. 同語幹より series も).
 次に「デザート」を意味する dessert /dɪˈzəːt/も馴染み深い名詞だと思います.<ss> の綴字ですが,上記の早速の例外で,有声音 /z/ で発音されます.この単語は,フランス語の動詞 desservir (供した食事を片付ける)の過去分詞形に由来します.つまり「膳を下げられた」後に出されるもの,まさに「食後のデザート」なわけです.フランス語の除去の接頭辞 des- に servir (英語にも serve として入り「食事を出す」の意)という語形成なので,納得です.
 さらに次に進みます.「デザート」の dessert とまったく同じ発音ながらも,<s> が1つの desert なる厄介な単語があります.複雑な事情を整理するために,以下では,起源の異なる desert 1desert 2 の2種類を区別していきます.最初に desert 1 から話しましょう.desert 1 は「捨てる,放棄する」を意味する動詞です.例文として,She was deserted by her husband. (彼女は夫に捨てられた.)を挙げておきます.この動詞の語源はフランス語 déserter で,さらに遡るとラテン語 dēserere の反復形に行き着きます.語根は serere なので,上述の dissert とも共通ですが,今回の単語についている接頭辞は dis- ではなく de- です.つなげる (serere) ことを止める (de) という発想で「捨てる,見捨てる」というわけです.
 そして,この動詞 desert 1 が,そのままの形態で形容詞化し,さらに名詞化したのが「捨てられた(地)」としての「砂漠」です.英語では名前動後 (diatone) の傾向により,「砂漠」としての desert の発音は,強勢が第1音節に移って /ˈdɛzət/ となるので要注意です.
 desert 2 /dɪˈzəːt/ に移りましょう.こちらは名詞で「当然受けるべき賞罰」を意味します.上記のこれまでの語とはまったく異なる雰囲気ですが,これは別語源の deserve /dɪˈzəːv/ (?に値する)という動詞の過去分詞形に由来する名詞形だからです.当然のごとく値するべき物事,それが賞罰ということです.この元の deserve なる動詞はフランス語 deservir からの借用で,これ自身はラテン語 dēservīre に遡ります.今回の接頭辞 - は強意,語幹 servīre は「仕える」の意味で,後者は後に serve として英語に取り込まれました.「?に仕えることができるほどに相応しい」→「?に値する」といった意味の発展と考えられます.
 さて,混乱しやすい単語群の語源を遡ることで,かえって混乱したかもしれません(悪しからず).なお,最後に取り上げた動詞 deserve は,なかなか使い方の難しい動詞でもあります.The report deserves careful consideration., He deserves to be locked up for ever for what he did., Several other points deserve mentioning. など取り得る補文のヴァリエーションも豊富です.意味的な観点から探ってもおもしろい動詞だと思います.意味的な観点から,昨日「英語史導入企画2021」にて大学院生によるコンテンツ「"You deserve it." と「自業自得」」が公表されました.こちらもご一読ください.

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2021-03-18 Thu

#4343. 接辞の補充法 [suppletion][prefix][suffix][plural]

 英語における補充法 (suppletion) の話題については,様々な記事で扱ってきた.go -- went, good -- better -- best, am -- was -- be, I -- my -- me など,系列変化において語幹の異なる成員がみられるケースである.
 通常,補充法といえば上記のように単語の語形全体に関していわれるものと理解していたが,いくつかの英語学辞典に当たってみると,語の一部を構成する接辞 (affix) に関していわれる例が挙げられていた.
 例えば,ox -- oxen という「不規則複数」について考えてみよう.規則的な複数形成であれば -es という接尾辞を付して *oxes となるはずである.ところが,実際にはこの一般的で規則的な -es は採用されず,異なる起源と形式をもつ -en が採用されている.つまり,単数接辞と複数接辞からなる名詞の数に関する規則的な系列変化を -ø -- -(e)s とすると,名詞 ox について対応する系列変化は -ø -- -en となり,規則的な系列変化から逸脱していることになる.このようなケースを指して,接辞の補充法とみることが可能だというわけだ.child -- children, datum -- data などの不規則複数も同様に考えられる.
 英語に様々に存在する「不規則形」について,その語形自体が不規則であるという見方が一般的だが,なるほど,接辞における補充法ととらえる見方もあるということに気づかされた.

 ・ 寺澤 芳雄(編) 『英語学要語辞典』 研究社,2002年.
 ・ 石橋 幸太郎(編) 『現代英語学辞典』 成美堂,1973年.

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2021-01-03 Sun

#4269. なぜ digital transformation を略すと DX となるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][abbreviation][grammatology][prefix][word_game][x][information_theory][preposition][latin]

 本年も引き続き,大学や企業など多くの組織で多かれ少なかれ「オンライン」が推奨されることになるかと思います.コロナ禍に1年ほど先立つ2018年12月に,すでに経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」 (PDF) を発表しており,この DX 路線が昨今の状況によりますます押し進められていくものと予想されます.
 ですが,digital transformation の略が,なぜ *DT ではなく DX なのか,疑問に思いませんか? DX のほうが明らかに近未来的で格好よい見映えですが,この X はいったいどこから来ているのでしょうか.
 実は,これは一種の言葉遊びであり文字遊びなのです.音声解説をお聴きください



 trans- というのはラテン語の接頭辞で,英語における throughacross に相当します.across に翻訳できるというところがポイントです.trans- → acrosscross → 十字架 → X という,語源と字形に引っかけた一種の言葉遊びにより,接頭辞 trans- が X で表記されるようになったのです.実は DX = digital transformation というのはまだ生やさしいほうで,XMIT, X-ing, XREF, Xmas, Xian, XTAL などの略記もあります.それぞれ何の略記か分かるでしょうか.
 このような X に関する言葉遊び,文字遊びの話題に関心をもった方は,ぜひ##4219,4189,4220の記事セットをご参照ください.X は実におもしろい文字です.

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2020-12-06 Sun

#4241. なぜ語頭や語末に en をつけると動詞になるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][suffix][prefix][verb][latin][loan_word]

 英語の動詞には接頭辞 en- をもつものが多くあります.encourage, enable, enrich, empower, entangle などです.一方,接尾辞 -en をもつ動詞も少なくありません.strengthen, deepen, soften, harden, fasten などです.さらに,語頭と語末の両方に en の付いた enlighten, embolden, engladden のような動詞すらあります.接頭辞にも接尾辞にもなる,この en とはいったい何者なのでしょうか.では,音声の解説をどうぞ.



 意外や意外,接頭辞 en- と接尾辞 -en はまったく別語源なのですね.接頭辞 en- は,ラテン語の接頭辞 in- に由来し,フランス語を経由して少しだけ変形しつつ,英語に入ってきたものです.究極的には英語の前置詞 in と同語源で,意味は「中へ」です.この接頭辞を付けると「中へ入る」「中へ入れる」という運動が感じられるので,動詞を形成する能力を得たのでしょう.名詞や形容詞,すでに動詞である基体に付いて,数々の新たな動詞を生み出してきました.
 一方,接尾辞 -en はラテン語由来ではなく本来の英語的要素です.古英語で他動詞を作る接尾辞として -nian がありましたが,その最初の n の部分が現代の接尾辞 -en の起源です.形容詞や名詞の基体に付いて新たな動詞を作りました.
 このように接頭辞 en- と接尾辞 -en は語源的には無関係なのですが,形式の点でも,動詞を作る機能の点でも,明らかに類似しており,関係づけたくなるのが人情です.比較的珍しいものの,enlighten のように頭とお尻の両方に en の付く動詞があるのも分かるような気がします.
 英語史や英単語の語源を学習していると,一見関係するようにみえる2つのものが,実はまったくの別物だったと分かり目から鱗が落ちる経験をすることが多々あります.今回の話題は,その典型例ですね.
 今回取り上げた接頭辞 en- と接尾辞 -en について,詳しくは##1877,3510の記事セットをご覧ください.

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2020-11-22 Sun

#4227. なぜ否定を表わす語には n- で始まるものが多いのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][indo-european][etymology][negative][prefix][clitic]

 英語の否定語には no を筆頭に not, none, nothing, no one, nobody, never, neither, nor など,n- で始まるものが非常に多く存在します.さらに周辺の諸言語を見渡せば,no に対応するフランス語は non ですし,ドイツ語では nein です.これは偶然ではありません.これらの諸言語の起源である印欧祖語においては否定が *ne で表わされ,それが子孫の言語にも受け継がれたということなのです(ただし,日本語の「ない」が n 音で始まるのは,まったくの偶然です).では,音声をお聴きください.



 古英語で最も普通の否定副詞は,印欧祖語形と瓜二つの ne という形でした.これは接頭辞のようにも用いられたため,多くの n(e)- をもつ否定語が存在しました.語形成とともに例を挙げてみましょう.

 ・ ne + ought = nought, naught, not
 ・ ne + one = none, no
 ・ ne + ever = never
 ・ ne + either = neither
 ・ ne + or = nor

 そのほか否定の接頭辞である un- (ゲルマン語系), in- (ラテン語系), non- (ラテン語系), a- (ギリシア語系)も,やはり印欧祖語 *ne に遡ります (ex. unhappy, unable, unimportant; inaccurate, incomplete, infinite; non-smoker, non-stop, non-rhotic; agnostic, asymmetry, amoral) .
 今回の話題については,「#1904. 形容詞の no と副詞の no は異なる語源」 ([2014-07-14-1]) もご参照ください.

Referrer (Inside): [2023-05-31-1] [2023-02-25-1]

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2020-11-14 Sat

#4219. なぜ DXdigital transformation の略記となるのか? [sobokunagimon][abbreviation][grammatology][prefix][word_game][x][information_theory][latin]

 本日11月14日の朝日新聞朝刊のコラム「ことばサプリ」に,標題に関連する話題が掲載されています.この問題について事前に取材を受け調査した経緯がありますので,せっかくですし,このタイミングでその詳細を以下に記しておきたいと思います.  *




 日本でも日常生活のなかで「デジタルトランスフォーメーション」 (= digital transformation = DX ) という言葉を耳にしたり,目にしたりする機会が増えてきた.デジタルによる変革の推奨である.経済産業省が2018年12月に「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」 (PDF) を発表しており,DX という略称も表記もすでに国のお墨付きを得ていることになる.だが,そもそもなぜ digital transformation の略記が DX なのだろうか.確かに DT よりカッコよく見えるかもしれないが・・・.
 transformation (変形,変質)は,trans- (= across, through, over, beyond) + formation という語形成で,中英語期にフランス語を経由して入ってきたラテン語由来の単語である.ラテン語の接頭辞 trans- は,上記の通り英語でいうところの acrossthrough に相当し,実に後者 through とは印欧祖語のレベルで同根である.このように trans- 自体に「?を超えて(突き抜けて)」という含みがあるために,「変化,変形,変革,変換,変異」などと意味的に相性がよい.transcend, transfer, transfigure, transit, translate, transmit, transport, transpose 等の単語が思い浮かぶ.漢字でいえば「変」のもつ字義に近接する接頭辞といってよいだろう.変革の時代にはもてはやされるはずだ.
 さて,上記のように trans- はラテン語由来の接頭辞だが,英語に翻訳するとおよそ across に相当する.この across は「#4189. acrossa + cross」 ([2020-10-15-1]) で見たとおり,接頭辞 a- に「十字(架)」を意味する cross を付加した語である.ここで,十字(架)をかたどった文字としての X の出番となる.文字 X といえば英語の名詞・動詞 cross, cross といえば英語の前置詞 acrossacross といえばラテン語の接頭辞 trans- という理屈で,いつの間にか trans- が X で表記される慣習となってしまった.EnglandEngl& と記したり,See you later.CUL8R としたりするのと同じ一種の文字遊び (rebus) の類いといってよい.日本語の戯書にも通じる(cf. 「#2789. 現代英語の Engl&,中英語の 7honge」 ([2016-12-15-1]),「#2790. Engl&, 7honge と訓仮名」 ([2016-12-16-1]).
 X の文字は以上の経緯によりラテン語接頭辞 trans- と結びつけられたが,他にも (a)cross に結びつけられたり,Christ (英語の <ch> はギリシア語の <Χ> に対応することから)を表象したり,発音の類似から cryst- の略記としても用いられることがある.XMIT (= transmit), X-ing (= crossing), XREF (= cross-reference), Xmas (= Christmas), Xian (= Christian), XTAL (= crystal) の如くである.また,X はもっとストレートに ex- の略記でもある (ex. XL (= extra large), XOR (= exclusive-or)) .<x> の多機能性,恐るべし!
 英語において,x は「#3654. x で始まる英単語が少ないのはなぜですか?」 ([2019-04-29-1]) で論じたように,語頭で用いられることが少ない.したがって,たまに語頭に現われると,他の文字よりも「情報価値」が高い.否,語頭ならずとも x は目を引く.注目を集めるための宣伝文句やキャッチフレーズに最適なのである.しかも,未知を表わす x という用法もある(cf. 「#2918. 「未知のもの」を表わす x」 ([2017-04-23-1])).変革の時代には,未知への挑戦という意味でポジティヴに評価されるのも頷ける.
 日本語における DX という略称・表記は,上記のような背景をもちつつ,近年とみに持ち上げられるようになってきた.だが,英語においても同じように流行語的な位置づけにある略称・表記であるかどうかは疑問である.現代英語コーパスに当たってみると確かに使用例は認められ,そこそこ流行っている表現・概念であるとは言えるかもしれないが,英語圏において日本で盛り上がっているほどの特別な存在かどうかは怪しい.もう少し調査が必要である.

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2020-11-08 Sun

#4213. なぜ input は *imput と綴らないのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][spelling][pronunciation][prefix][assimilation][morpheme][consonant][latin][etymology]

 標題の語 input は,語源的には「接頭辞 in- + 動詞 put」のようにみえるので,一見すると何も問題がないように思われるかもしれません.しかし,impact, imperfect, imperil, impersonal, important などの綴字を思い浮かべてみれば,接頭辞 in- に続く基体が p で始まるものであれば,通常,接頭辞は im- の形を取ることが分かります.そうすると,なぜ input については,*imput と綴られないのだろうか,という疑問が湧いてきます.実に謎ですねぇ.解説をお聴きください.



 接頭辞 in- は,語源的には2種類を区別する必要があったのですね.1つは圧倒的多数派を形成するラテン語由来の in- (否定,あるいは「中」の意)で,もう1つは少数派として目立たない英語本来の in- (「中」の意)です.発音も見映えもほとんど同じですし,意味も「中」に関していえば重なっていますので,注意していないと騙されてしまいますが,異なる代物です.前者は基体の頭音に従って im-, il-, ir- などと化けるのが規則ですが,後者は決して化けません.input は少数派の後者に属するので,in- の部分は決して化けず,<in> + <put> という実に素直な綴字となっているのです.
 なお,「外」を意味する対義の接頭辞を考えてみると、ラテン語 in- には ex- が対応し、英語 in- には out- が対応します.これで、import/export はラテン語由来のペア、input/output は英語本来のペアとすぐに分かりますね.
 この問題について、もう少し詳しく知りたい方は「#3309. なぜ input は *imput と綴らないのか?」 ([2018-05-19-1]) をお読みください.

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2020-05-22 Fri

#4043. 2種類の区別すべき anti --- 形態音韻論の観点から [prefix][stress][productivity][loan_translation][combining_form][morpheme]

 昨日の記事「#4042. anti- は「アンティ」か「アンタイ」か --- 英語史掲示板での質問」 ([2020-05-21-1]) を受けて,接頭辞 anti- についてもう少し話しを続けたい.
 機能の点からいえば,接頭辞 anti- は典型的に新たな形容詞を作るのに生産的に用いられます.名詞から派生した形容詞とともに新たな形容詞を作ったり (ex. anti-social, anti-clerical, anti-clockwise) ,別の名詞を修飾する形容詞用法の名詞を作ったりします (ex. anti-missile, anti-war) .形態音韻論の点からいえば,上記に挙げたように,たいていの語において接頭辞 anti- それ自体は第1音節に第2強勢をもち,第1強勢は基体のもともと落ちていた音節に落ちます.そこで,この接頭辞は基体にあった強勢位置を保持するため "stress-neutral prefix" であると言われます.
 一方,antimony, antinomy, antiphony などでは, 形式的にも語源的にも確かに接頭辞 anti- を認めることができますが,第2音節(母音 /ɪ/)に強勢が落ち,後半部分には落ちません.つまり,この接頭辞は強勢位置を自らに引き寄せ,本質的な意味を担う後半部分から奪い取るという点で,"stress-shifting prefix" と言われます.ちなみに antibody は接頭辞が自らの第1音節(第2音節ではなく)に強勢を引き寄せており,例外的といえます(20世紀前期のドイツ語 Antikörper の翻訳借用 (loan_translation) という語形成が関与しているかもしれません).後半部分が,独立した語として立てない拘束形態素(あるいは連結形 (combining_form))であることが多いのもこのタイプの特徴です.また,接頭辞 anti- が含まれてはいるものの,分析的には意識されておらず,全体として語と認識されている感じが強いのも特徴です.語としての定着感もあります
 上記のように,anti- は「?に抗する,反する」を意味する接頭辞として語形成に広く用いられてきましたが,そこから派生して成立した単語は言語学的な観点から2つのグループに分けられそうです.antibioticsantibody は,同じ anti- 語とはいっても,言語学的振る舞いが異なるのです.
 anti- の対義の接頭辞といってよい pro- もパラレルに考えることができます.pro-communist, pro-American, pro-student などの生産的に作られる語(典型的に綴字上はハイフンが付される)においては,接頭辞それ自身は第2強勢を伴って /ˌprəʊ/ と発音され,stress-neutral prefix として機能します.しかし,proceed, profession, provide などのように英語に長らく同化して定着感のある語においては,接頭辞は弱く /prə/ と発音され,「?の側の,味方の」という強い意味も分析されておらず,語全体として1つの独立した単位と解釈されています(以上,Quirk et al. (1543) を参照).

(後記 2020/05/22(Fri):antimony は第2音節に強勢が落ちると記しましたが,実際にはこの語は第1音節に強勢が落ちるとの指摘をいただきました.その通りでしたので上記のように訂正しました.また antíphony と関連して ántiphon では強勢位置が変わるという指摘もいただきました.接頭辞にだけ注目していては解決しない問題だということがよく分かりました.ありがとうございます.)

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2020-05-21 Thu

#4042. anti- は「アンティ」か「アンタイ」か --- 英語史掲示板での質問 [sobokunagimon][pronunciation][prefix]

 大学の英語史の授業のためにオープンしている電子掲示板に,次の質問が書き込まれました.

抗〇〇をあらわす接頭辞の発音

抗生物質,抗体など,抗〇〇をあらわす "anti" -という接頭辞の発音ですが,アンタイ…の場合とアンティ…の場合があります.
例1)抗生物質 antibiotics アンタイバイオティックス
 抗生物質の場合,アンタイバイオティックスという発音が多いように思います.
例2)抗体 antibody アンティボディ
 昨今の新型コロナウイルスに関する海外メディアの報道でよく耳にする抗体を意味する antibody は,アンティボディーと発音されており,アンタイボディという発音は聞いたことがない気がします.
 地域差でもなさそうな気がします.その後に続く単語に引きずられるなどの法則があるのでしょうか.

その後,自分でも調べてみました.一説にはアンタイは米国英語でアンティは英国英語などという主張もあるようですが,CNN の一つのニュースの中でキャスターがアンティバイオティックと発音し,医者がアンタイバイオティックと発音したりしています.究極どっちでもいいということなのでしょうが,気になります.


 これについて,必ずしも深く調べたわけではないのですが,次のような回答で返事したので,こちらにも繰り返しておきます.

 接頭辞 anti- の異なる発音についての質問をいただきました.
 実態はどうなのかその道の専門家に尋ねてみたいところですが,指摘できる大きな傾向としては,イギリス英語では「アンティ」が原則であり,アメリカ英語では「アンティ」も「アンタイ」もあり得るということです.アメリカ英語話者がいずれの発音を取るかは,話者によって,さらにはレジスター(TPO)によっても異なる場合があるのではないかと想像されます.また,個々の単語によっても傾向が異なると思います.言語学の金言の1つに "Every word has its own history." というものがありますが,今回のケースもまさにそれでしょう.
 また,世界的にアメリカ英語化の潮流が進んでおり,イギリス英語も例外ではなくそこに巻き込まれているので,イギリス英語話者の口から「アンタイ」が聞こえてきても驚きません.
 なお,antinomy, antiphony など接尾辞の第2音節に強勢が落ちる語については,その部分は常に「イ」となります.


 本格的に調査するならば,英語諸変種の各々について1つひとつの anti- 語がいかに発音されるか,特に両発音の揺れの分布を調べていくことが必要となりますが,そうなるとなかなか手のかかるプロジェクトです.しかし,素朴な疑問として非常におもしろい問いだと思います.

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2020-02-15 Sat

#3946. 古英語の接頭辞 ge- の化石的生き残り [prefix][sound_change][etymology][german]

 古英語の語彙には,ge- という接頭辞がやたらと付加している.様々な品詞にまたがって ge- で始まる単語があまりに多いので,典型的な古英語辞書ではそのような語は g の項目には配置されず,ge- に続く語幹部分の頭文字の文字によって配置されるほどだ.現代ドイツ語の ge- /ɡe/ に相当するゲルマン系の古い接頭辞だが,古英語では /ɡe/ ではなく軟音化した /je/ として発音された.現代の初級古英語校訂本では,軟音の <g> を明示するために点を打って ġe- と表記されることも多い.
 この接頭辞は,古英語期までにすでに軟音化していたくらいだから,その後も弱化の一途を辿る運命であり,中英語には /je/ から /i/ 程度に弱化し,その後期ともなると広範囲で消失した.近代英語期には,接頭辞がそれとわかる形で残っている例は事実上皆無だったといってよいだろう.
 しかし,かつての ge- の痕跡が化石的に生き残っている単語も,実はちらほらと残っている.たとえば enough の語頭の <e> がそれである.古英語の genoh が,音形上ずいぶん薄められながらも,現代まで生き延びてきた例である.
 ほかに afford, alike, aware などの語頭の a- も,古英語の接頭辞 ge- に遡る.各々の古英語形は geforþian, gelīc, gewær である.
 また,古語といってよいが yclept (?と呼ばれる,?という名前の)という語の語頭の <y> もある.これは,古英語で「呼ぶ」を意味する clipian/cleopian という動詞の過去分詞形に由来する(ex. a giant yclept Barbarossa (赤ひげと呼ばれる巨人)).同じ過去分詞形の例としては,やはり古語だが yclad (= clothed) もある.これらは古英語の動詞の過去分詞に一般的に付加された接頭辞 ge- が生き残った,限りなく稀な例といってよい.
 この古英語接頭辞については,「#150. アメリカ英語へのドイツ語の貢献」 ([2009-09-24-1]),「#1253. 古ノルド語の影響があり得る言語項目」 ([2012-10-01-1]),「#1710. of yore」 ([2014-01-01-1]),「#3432. イギリス議会の起源ともいうべきアングロ・サクソンの witenagemot」 ([2018-09-19-1]) の各記事でも触れているので一読を.

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2019-07-05 Fri

#3721. クラス I 接辞とクラス II 接辞 [affixation][derivation][morphology][phonology][assimilation][suffix][prefix][stress]

 英語の接辞 (affix) は,形態音韻論的な観点から2つの種類に区別される.それぞれクラス I 接辞,クラス II 接辞と呼ばれているが,両者は多くの点で対照的である.西原・菅原 (89--90) によって,まとめよう.

クラス Iクラス II
-al, -ard, -ative/-itive, -ian, -ic, -ion, -ity, -ous, in- など-er, -ful, -ingN, -ish, -less, -ly, -ness, -ship, -yADJ, un- など
(ア)強勢位置移動 (stress shift)ありなし
párent vs. paréntalpárent vs. párentless
Cánada vs. CanádianFíinland vs. Fínlander
átom vs. atómicyéllow vs. yéllowish
prohíbit vs. prohibítionóbvious vs. óbviously
májor vs. majórityácid vs. ácidness
móment vs. moméntouscítizen vs. cítizenship
(イ)三音節短母音化 (trisyllabic shortening)ありなし
divíne vs. divínitygréen vs. gréenishness
sáne vs. sánitybríne vs. bríniness
obscéne vs. obscénityráin vs. ráininess
deríve vs. derívativeróse vs. rósiness
(ウ)軟口蓋音軟音化 (velar softening)ありなし
electric vs. electricity, electriciantraffic vs. traffickingN
panic vs. panickyADJ
(エ)子音結合簡略化 (consonant cluster simplification)なしあり
elongate cf. longsinger
bombard cf. bombbomber
hymnalADJ cf. hymncrumby
condemnation cf. condemncondemner
(オ)接頭辞の鼻音同化 (nasal assimilation)ありなし
immoralunmoral
impatientunpack


 概ねクラス I 接辞は外来接辞で,単語の「内側」に付き,クラス II 接辞は本来接辞で,単語の「外側」に付くという特徴をもつ.前者は形態音韻論的な変化を引き起こす傾向があるのに対して,後者は形態音韻論的に中立的である.
 両者の違いは形態音韻論的な違いにとどまらず語彙層や綴字にも反映されており,様々な点で歴史言語学的な含蓄も持っている.

 ・ 西原 哲雄・菅原 真理子 「第4章 形態構造と音韻論」菅原 真理子(編)『音韻論』朝倉日英対照言語学シリーズ 3 朝倉書店,2014年.88--105頁.

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2019-06-10 Mon

#3696. ボキャビルのための「最も役に立つ25の語のパーツ」 [elt][latin][greek][etymology][prefix][combining_form][lexicology]

 中田(著)『英単語学習の科学』に,先行研究に基づいた「最も役に立つ25の語のパーツ」が提示されている (76--77) .これは,3000?1万語レベルの英単語を分析した結果,とりわけ多くの語に含まれるパーツを取り出したものである.パーツのほとんどが,ラテン語やギリシア語の接頭字 (prefix) や連結形 (combining_form) である.

語のパーツとその意味具体例
spec(t) = 見るspectacle(見せ物),spectator(観客),inspect(検査する),perspective(視点),retrospect(回顧)
posit, pos = 置くimpose(負わせる,課す),opposite(反対の),dispose(配置する,処分する),compose(校正する,作る),expose(さらす)
vers, vert = 回すversus(対),adverse(反対の,不利な),diverse(多様な),divert(転換する),extrovert(外交的な)
ven(t) = 来るconvention(大会,しきたり,慣習),prevent(妨げる,予防する),avenue(通り),revenue(歳入),venue(場所)
ceive/ceipt, cept = とる(こと)accept(受け入れる,容認する),exception(例外),concept(概念),perceive(知覚する),receipt(レシート,受け取ること)
super- = 越えてsuperb(すばらしい),supervise(感得する),superior(上級の),superintendent(監督者),supernatural(超自然の,神秘的な)
nam, nom, nym = 名前surname(苗字),nominate(指名する),denomination(命名,単位),anonymous(匿名の),synonym(同義語)
sens, sent = 感じるsensible(分別のある),sensitive(敏感な),sensor(センサー),sensation(感覚),consent(同意,同意する)
sta(n), stat = 立つstable(安定した),status(地位),distant(離れた),circumstance(状況),obstacle(障害)
mis, mit = 送るpermit(許可する),transmit(送る),submit(提出する),emit(放射する),missile(ミサイル)
med(i), mid(i) = 真ん中intermediate(中級の),Mediterranean(地中海),mediocre(並みの),mediate(仲裁する),middle(中央,中間の)
pre, pris = つかむprison(刑務所),enterprise(事業),comprise(構成する),apprehend(捕らえる,理解する),predatory(捕食性の,食い物にする)
dictate, dict = 言うdictate(書き取らせる,命じる),dedicate(捧げる),predict(予言する),contradict(否定する,矛盾する),verdict(評決)
ces(s) = 行くaccess(アクセス,接近),excess(超過),recess(休憩),ancestor(先祖),predecessor(前任者)
form = 形formal(形式的な),transform(変形する),uniform(同形の,制服),format(形式),conform(一致する)
tract = 引くextract(抜粋,抜粋する),distract(気をそらす),abstract(要約,抽象的な),subtract(引く),tractor(トラクター,牽引車)
graph = 書くtelegraph(電報),biography(伝記),autograph(サイン),graph(グラフ),geography(地理)
gen = 生むgenuine(本物の),gene(遺伝子),genius(天才),indigenous(土着の,固有の),ingenuity(工夫)
duce, duct = 導くconduct(導く),produce(生み出す),reduce(減らす),induce(引き起こす,誘発する),seduce(誘惑する)
voca, vok = 声advocate(主張する,唱道者),vocabulary(語彙),vocal(声の,ボーカル),invoke(祈る),equivocal(あいまいな)
cis, cid = 切るprecise(正確な),excise(削除する),scissors(はさみ),suicide(自殺),pesticide(殺虫剤)
pla = 平らなplain(明白な,平原),plane(平面,平らな),plate(皿),plateau(高原,高原状態)
sec, sequ = 後に続くconsequence(結果),sequence(連続),subsequent(その次の),consecutive(連続した),sequel(続編)
for(t) = 強いfortress(要塞),effort(努力),enforce(実施する,強いる),reinforce(強化する),forte(長所)
vis = 見るvisible(目に見える),envisage(心に描く),revise(改訂する),visual(視覚の,映像),vision(視力,ビジョン)


 本ブログでも,必ずしもボキャビルを目的とした記事ではないが,接頭辞,接尾辞,連結形について多々取り上げてきた.prefix, suffix, combining_form などの記事をご覧ください.

 ・ 中田 達也 『英単語学習の科学』 研究社,2019年.

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2018-12-06 Thu

#3510. 接頭辞 en- をもつ動詞は品詞転換の仲間? [conversion][prefix][suffix][word_formation][derivation]

 接頭辞 en- をもつ動詞について「#1877. 動詞を作る接頭辞 en- と接尾辞 -en」 ([2014-06-17-1]) で取り上げた.今回は,この接頭辞について形態理論の観点から迫りたい.
 形態論では「右側主要部規則」 (right-hand head rule: RHR) という原則が一般的にみられ,それによると,形態的に複雑な語の主要部は右側の要素であるとされる.別の言い方をすれば,右側の要素が,語全体の品詞を決定するということでもある.たとえば,singer の主要部は右側の -er であり,これは行為者を表わす接頭辞であるから,語全体が名詞となる.peaceful の主要部はやはり右側の -ful であり,これにより語全体が形容詞となる.一般的にいえば,接尾辞は品詞決定能力をもっていることが多いということである.
 では,接頭辞についてはどうだろうか.接頭辞は定義上右側の要素となることはありえないので,品詞決定能力をもたないはずである.しかし,先の記事 ([2014-06-17-1]) で列挙したように,基体に接頭辞 en- を付して動詞を派生させたケースは少なくない.改めて挙げれば,基体が名詞,形容詞,動詞のものを含めて encase, enchain, encradle, enthrone, enverdure; embus, emtram, enplane;, engulf, enmesh; empower, encollar, encourage, enfranchise; embitter, enable, endear, englad, enrich, enslave; enfold, enkindle, enshroud, entame, entangle, entwine, enwrap など多数ある.これは,上記の一般論に反して「左側主要部規則」が適用されているかのように思われる.
 これに対する理論的な対処法の1つとして,基体における品詞転換 (conversion) あるいはゼロ派生の過程を想定するというものがある.形容詞の基体 rich に接頭辞 en- を付した動詞 enrich で考えてみよう.この対処法によれば,形容詞 rich には,まず動詞を派生させるゼロ接尾辞が付され,これにより表面的には形態の変わらぬまま動詞へ化ける.そして,その後,特に品詞決定能力をもつわけではない接頭辞 en- が付加されたにすぎないと考えるのである.このように解釈すれば,動詞を派生させるゼロ接尾辞がこの語の最も右側の要素となり,それが語全体の品詞決定能力をもつと仮定する,従来の右側主要部規則に適う.以上の3ステップの形態過程をまとめれば,次のようになるだろう(西原,p. 54).

 (i) lexicon: [rich] A
 (ii) suffixation: [[rich] A + 0] V]
 (iii) prefixation: [en + [rich] A + 0] V] V


 では,接頭辞 en- の機能はいったい何なのか,という疑問は残る.しかし,この理論的解決法は,embolden, enfasten, engladden, enlighten など,接尾辞 -en が付されてすでに動詞化している基体に対しても接頭辞 en- が付きうるケースについても整合性を保てる点ですぐれている.
 関連して,品詞転換やゼロ派生について conversion の各記事を参照されたい.

 ・ 西原 哲雄 「第2章 語の構造について ――形態論――」西原 哲雄(編)『言語学入門』朝倉日英対照言語学シリーズ 3 朝倉書店,2012年.39--63頁.

Referrer (Inside): [2023-05-31-1]

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2018-11-19 Mon

#3493. address の <dd> について (2) [etymological_respelling][latin][prefix][spelling]

 昨日の記事 ([2018-11-18-1]) に引き続いての話題.ラテン語の接頭辞 ad- は,続く語根の頭音に応じて ac-, af-, ag-, al-, ap-, as-, at- などと姿を変える.対応する音声の同化 (assimilation) ゆえの異形態 (allomorph) である.例として,accuse, affirm, aggression, allude, appeal, assemble, attend などが挙げられる.逆にいえば,語根の頭音との関係で音便が生じない場合に,基底形の ad- が用いられるということだ.address にせよ,上記の単語群にせよ,接頭辞の子音字が重なって綴られている.おそらくこれらのほとんどが語源的綴字 (etymological_respelling) なのではないかと睨んでいる.つまり,古フランス語や中英語では問題の子音字はおよそ1つだけで綴られていたが,初期近代英語期にかけて,語源であるラテン語形を参照して子音字をダブらせたのではないかと.
 この点について,Barnhart が断言的な記述を与えている.まずは,ズバリ address について.

The present spelling with -dd- is a refashioning of the prefix a- into ad- in English, after the Latin form, and occasionally occurs in Middle French.


 そして,より一般的な解説が ad- の見出しのもとに与えられている.

Words formed with ad- found in modern English do not always reflect a direct passage from Latin into English. The prefix ad- was transformed to a- in Old French, and so appeared in words that entered Middle English through Old French. In the 15th century many of these words were respelled with the ad- to restore the connection with Latin. . . . When the process went too far, as in advance, English acquired a d that had no historical justification.


 ・ Barnhart, Robert K. and Sol Steimetz, eds. The Barnhart Dictionary of Etymology. Bronxville, NY: The H. W. Wilson, 1988.

Referrer (Inside): [2019-11-18-1]

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2018-11-18 Sun

#3492. address の <dd> について (1) [etymological_respelling][latin][prefix][spelling][sobokunagimon]

 なぜ address では <dd> と重子音字が用いられているのかというナゾについての回答が,数日前のYahoo!知恵袋でバズっていた(住所という英単語adressとaddressどちらが正しいスペルでしょうか?).真の答えは,大名氏のツイートに端的に示されている通りだろう.初期近代英語期にバズった語源的綴字 (etymological_respelling) である.
 この発問の問題意識はわかる.フランス語や中英語では adresser, adressen などと <d> は1つであり,それでも良さそうなのに,現代英語ではなぜ <d> を重ねるのか.さらに語源的には同じラテン語の接頭辞 ad- を付したものでも,adapt, admire, adnominal, adopt, adverb などでは <d> が重なっていないという事情もある.
 Upward and Davidson (101) に,ラテン語の接頭辞 ad- の付加と関連して次の記述がみられる.

 ・ Lat AD- attached to a stem beginning with D results in Lat and ModE -DD-: add (< Lat addere), addiction, address, adduce. (OFr and ME often wrote such words with single D.)
 ・ D has been doubled in developments from Fr where there has been a stress shift to the first syllable in ModE: boudin > podyng > pudding, sodein > sodayn > sudden.
 ・ Some words with single medial D (e.g. hideous, medal, model, study) were occasionally written with DD in EModE.


 2点目と3点目の記述からわかることは,強勢位置に応じて,現代的な「綴字規則」どおりに子音字を重ねたり重ねなかったりする例が近代英語期に見られたということだ.一方,目下の話題に直接触れている1点目では,中英語や古フランス語では強勢位置の考慮がなされていたようだが,近代英語以降にはなされておらず,むしろラテン語の綴字に引きずられた結果であることが示されている.結果として成立した address, addict, adduce などの綴字は,強勢位置や母音の長さなどを反映する表音的な綴字というよりは,ad- までが接頭辞であり,それ以降の部分が語根であることを示す表形態素的な綴字というべきだろう.そして,それは語源的な綴字でもあった.
 英語史の教科書などでは,接頭辞 ad- を参照して d を復元した語源的綴字の典型例として admonish, advance, advantage, adventure, advise などがしばしば挙げられる(最後の語については「#1153. 名詞 advice,動詞 advise」 ([2012-06-23-1]) を参照).しかし,語根がすでに d で始まる今回のような語において,接頭辞にまで d を復元し,結果として <dd> となる事例にはこれまで気づかなかった.むしろ,これこそラテン語の模倣欲が炸裂した語源的綴字の好例ということができるかもしれない.とまれ,一般的に ad- 語において語源的綴字として d が挿入された事例は,これまで私が思っていたよりもかなり多いようである.

 ・ Upward, Christopher and George Davidson. The History of English Spelling. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2011.

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2018-06-27 Wed

#3348. 初期近代英語期に借用系の接辞・基体が大幅に伸張した [word_formation][prefix][suffix][neologism][french][latin][loan_word][lexicology][renaissance][emode]

 Wersmer (64, 67) や Nevalainen (352, 378, 391) を参照した Cowie (610--11) によれば,接辞を用いた新語形成において,本来系の接辞を利用したものと借用系のものと比率が,初期近代英語期中に大きく変化したという.

The relative frequency of nonnative affixes to native affixes in coined words rises from 20% at the beginning of the Early Modern English period to 70% at the end of it . . . . The proportion of Germanic to French and Latin bases in new coinages falls from about 32% at the beginning of the Early Modern period to some 13% at the end . . . . Together these measures confirm the emergence of non-native affixes as independent English morphemes over the Early modern period. They also seem to contradict claims that the native affixes in Early Modern English are just as, if not more productive, than ever . . . , although it is always less likely that words coined with native affixes would be recorded in a dictionary . . . .


 この時期の初めには借用系は20%だったが,終わりには70%にまで増加している.一方,基体に注目すると,借用系に対する本来系の比率は,期首で32%ほど,期末で13%ほどに落ち込んでいる.全体として,初期近代英語期中に,借用系の接辞および基体が目立つようになってきたことは疑いない.ただし,引用の最後の但し書きは重要ではある.
 関連して,「#1226. 近代英語期における語彙増加の年代別分布」 ([2012-09-04-1]),「#3165. 英製羅語としての conspicuousexternal」 ([2017-12-26-1]),「#3166. 英製希羅語としての科学用語」 ([2017-12-27-1]),「#3258. 17世紀に作られた動詞派生名詞群の呈する問題 (1)」 ([2018-03-29-1]),「#3259. 17世紀に作られた動詞派生名詞群の呈する問題 (2)」 ([2018-03-30-1]) を参照.

 ・ Wersmer, Richard. Statistische Studien zur Entwicklung des englischen Wortschatzes. Bern: Francke, 1976.
 ・ Nevalainen, Terttu. "Early Modern English Lexis and Semantics." 1476--1776. Vol. 3 of The Cambridge History of the English Language. Ed. Roger Lass. Cambridge: CUP, 1999. 332--458.
 ・ Cowie, Claire. "Early Modern English: Morphology." Chapter 38 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 604--20.

Referrer (Inside): [2019-11-24-1]

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2018-05-19 Sat

#3309. なぜ input は *imput と綴らないのか? [spelling][pronunciation][prefix][assimilation][morpheme][consonant][sobokunagimon]

 接頭辞 in- は,原則として後続する基体がどのような音で始まるかによって,デフォルトの in- だけでなく, imb, m, p の前), il- (l の前), ir- (r の前), i- (g の前)などの異形態をとる.意味としては,接頭辞 in- には「否定」と「中に」の2つが区別されるが,異形態の選択については両方とも同様に振る舞う.それぞれ例を挙げれば,inactive, inconclusive, inspirit; imbalance, immature, immoral, imperil, implode, impossible; illegal, illicit, illogical; irreducible, irregular, irruptive; ignoble, ignominy, ignorant などである.
 in- の末尾の子音が接続する音によって調音点や調音様式を若干変異させる現象は,子音の同化 (assimilation) として説明されるが,子音の同化という過程が生じたのは,ほとんどの場合,借用元のラテン語(やフランス語)においてであり,英語に入ってくる際には,すでにそのような異形態をとっていたというのが事実である.むしろ,英語側の立場からは,それらの借用語を後から分析して,接頭辞 in- を切り出したとみるのが妥当である.ただし,いったんそのような分析がなされて定着すると,以降 in- はあたかも英語固有の接頭辞であるかのように振る舞い出し,異形態の取り方もオリジナルのラテン語などと同様に規則的なものととらえられるようになった.
 ラテン語由来の「否定」と「中に」を意味する接頭辞 in- は上記のように振る舞うが,注意すべきは英語本来語にも「中に」を意味する同形態の in が存在することだ.前置詞・副詞としての英語の in が接頭辞として用いられる場合には,上記のラテン語の接頭辞 in- のように異形態をとることはない.つまり,in- は不変化である.標題の単語 inputin- は,反対語の outputout- と比べれば分かるとおり,あくまで本来語の接頭辞 in- である.したがって,*imput とはならない(ちなみにラテン語で out- に対応するのは ex- である).この観点から in-between, in-place, inmate なども同様に説明できる.
 ただし,発音上は実際のところ子音の同化を起こしていることも多く,input と綴られていても,/ˈɪnpʊt/ に加えて /ˈɪmpʊt/ も行なわれている.

Referrer (Inside): [2020-11-08-1] [2019-05-22-1]

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