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最終更新時間: 2019-06-18 04:59

2017-04-30 Sun

#2925. autumn vs fall, zed vs zee [ame_bre][z]

 「#2916. 連載第4回「イギリス英語の autumn とアメリカ英語の fall --- 複線的思考のすすめ」」 ([2017-04-21-1]) で紹介した連載記事で,語彙の英米差の代表として autumn vs fall,そして追加的に zed vs zee のペアを取り上げた.その記事をまとめるにあたって,いくつかの文献を参照したので,ここに備忘録的に記しておきたい.
 まず,Burchfield (282) の fall の項目には,autumn との使い分け,及びその略史が端的に要約されていた.

fall. The third season for the year was called the autumn from the 14c. onwards, and also, in the British Isles, the fall of the leaf or simply the fall from the 16c. until about 1800. As time passed, autumn settled down as the regular term in Britain, whereas the fall of the leaf (less frequently the fall of the year) and then fall by itself gradually became standard in America from the late 17c. onwards. Autumn and fall are familiar names to everyone in each of the two countries, but in day-to-day speech autumn is the only standard from in BrE and fall is equally standard in AmE.


 小西 (486) では,アメリカ英語での autumn の用法について,次のように記述されている.

fall 季節の「秋」という意味での用法は,米国英語の用法で英国英語では autumn を用いる.なお米国でも autumn はまだ使われているが,文学的色彩を帯びている…….


 そして,記事を書く上でおおいにインスピレーションを得ることになったのは,Cassidy and Hall (190) の English redistributed と題する節である.

These four chief migrations [Virginia, Massachusetts, Pennsylvania, and Appalachia] shared English as their common language, but it was never homogeneous. Even the members of leading classes differed in geographical origin and the "commons" spoke their various home dialects. The London type of English accepted and required in education was probably "more [often] honored in the breach than the observance." Especially in the rural areas of America, old terms continued in use after they had fallen out of use in Britain; later English visitors heard them first in America and took them to be "Americanisms." By our definition they are indeed synchronic Americanisms, though historically survivals rather than innovations.
   For example, in England autumn --- a French word based on Latin --- had been introduced by at least the fourteenth century for what was popularly the fall of the leaf (recorded from the sixteenth century but probably much older). That English popular form became established in America --- characteristically abbreviated to simple fall --- and is now the regular spoken form throughout the United States though autumn has some formal written use. Thus a split developed: since autumn grew to be the term favored in England, fall, though British in origin, can be taken as a synchronic Americanism.
   The same kind of development may be seen in the name for the last letter of the alphabet, z. Though zed is now the regular English form, z had also been pronounced zee from the seventeenth century in England. Both forms were taken to America, but evidently New Englanders favored zee. When, in his American Dictionary of the English Language (1828), Noah Webster wrote flatly, "It is pronounced zee," he was not merely flouting English preference for zed but accepting an American fait accompli. The split had already come about and continues today.


 連載記事で用いた「複線的思考」というフレーズは,この "English redistributed" という表現の別の言い方にすぎない.英語を構成する多種多様なリソースは大西洋の両側で共有されていたのであり,異なっていたのは,どれとどれが組み合わさり,特にどれが優勢だったのか,というような細かな「分布」にすぎないのである.

 ・ Burchfield, Robert, ed. Fowler's Modern English Usage. Rev. 3rd ed. Oxford: OUP, 1998.
 ・ 小西 友七 編 『現代英語語法辞典』 三省堂,2006年.
 ・ Cassidy, Frederic G. and Joan Houston Hall. "Americanisms." The Cambridge History of the English Language. Vol. 6. Cambridge: CUP, 2001. 184--218.

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2017-04-21 Fri

#2916. 連載第4回「イギリス英語の autumn とアメリカ英語の fall --- 複線的思考のすすめ」 [notice][link][ame_bre][history][calendar][z][rensai][sobokunagimon]

 4月20日付で,英語史連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」の第4回の記事「イギリス英語の autumn とアメリカ英語の fall --- 複線的思考のすすめ」が公開されました.
 今回は,拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』の6.1節「なぜアメリカ英語では r をそり舌で発音するのか?」および6.2節「アメリカ英語はイギリス英語よりも「新しい」のか?」で扱った英語の英米差について,具体的な単語のペア autumn vs fall を取り上げて,歴史的に深く解説しました.言語を単線的思考ではなく複線的思考で見直そう,というのが主旨です.
 英語の英米差は,英語史のなかでもとりわけ人気のある話題なので,本ブログでも ame_bre の多く取り上げてきました.今回の連載記事で取り上げた内容やツールに関わる本ブログ内記事としては,以下をご参照ください.

 ・ 「#315. イギリス英語はアメリカ英語に比べて保守的か」 ([2010-03-08-1])
 ・ 「#1343. 英語の英米差を整理(主として発音と語彙)」 ([2012-12-30-1])
 ・ 「#1730. AmE-BrE 2006 Frequency Comparer」 ([2014-01-21-1])
 ・ 「#1739. AmE-BrE Diachronic Frequency Comparer」 ([2014-01-30-1])
 ・ 「#428. The Brown family of corpora の利用上の注意」 ([2010-06-29-1])
 ・ 「#964 z の文字の発音 (1)」 ([2011-12-17-1])
 ・ 「#965. z の文字の発音 (2)」 ([2011-12-18-1])
 ・ 「#2186. 研究社Webマガジンの記事「コーパスで探る英語の英米差 ―― 基礎編 ――」」 ([2015-04-22-1])

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2014-07-24 Thu

#1914. <g> の仲間たち [grammatology][grapheme][alphabet][consonant][g][yogh][z]

 英語史における <g> とその仲間の文字の関係は,とりわけ中英語期において,非常に複雑である.古英語期より,<g> という文字素 (grapheme) には,異文字 (allograph) として,平らな頭部をもつ <<Ӡ>> という字形 (insular <g>) と丸い閉じた頭部をもつ <<g>> という字形 (Carolingian <g>) があった.古英語では,前者が普通であり,後者は主としてラテン語を写すのに使われたにすぎない.当時の <g> は,後母音(字)の前では軟口蓋閉鎖音の /g/,前母音(字)の前では硬口蓋摩擦音の /j/ に対応した.<god> (God), <gear> (year) の如くである.しかし,写字生の中には2つの音価の混用を嫌い,/j/ に <i> を当てたり,二重字 <ge> を用いた者もいた.yoke に相当する語を <ioc>, <geoc> などと綴った例がある.
 ノルマン・コンクェストが起こり中英語期に入ると,<<g>> (Carolingian <g>) が一般化した.原則としてその音価は /g/ だったが,「#1651. jg」 ([2013-11-03-1]) で見たように /ʤ/ にも対応することがあった.一方,<<Ӡ>> (insular <g>) は,従来通り硬口蓋摩擦音 /j/ を表わし続けて残ったが,さらに軟口蓋摩擦音 /x/ をも表わすようになった.ここから,両音を中に含む yogh がその呼び名となった.yogh の字形は <<Ӡ>> (insular <g>) から,より数字の <3> やフランス語式の <z> に近い字形である <<ȝ>> へと発展し,中英語期を通じて広く行われたが,15世紀に各々の音価は <y> や <gh> の文字により置き換えられた.<ȝet> (yet), <ȝou> (you), <niȝt> (night), <liȝt> (light) を参照.
 しかし,この <<ȝ>> は,15世紀後半に印刷技術が導入されたときに,Scotland でちょっとしたひねりを加えられた.先に述べたように,その字形はフランス語式の <z> の字形に類似していたため,スコットランドの印刷家たちは見慣れない <<ȝ>> を <<z>> と混同してしまった.そこで,<<ȝ>> と綴るべきところに誤って <<z>> と綴る例が見られるようになる.<zeir> (year), <ze> (ye), <capercailzie> (capercailye) の如くである.固有名詞にもその混同の痕跡を残しており,「#447. Dalziel, MacKenzie, Menzies の <z>」 ([2010-07-18-1]) で見たとおりである.
 このように,insular <g> および yogh は,古英語以来,近代の入り口に至るまで,他の複数の文字と複雑に関わり合い,時に混乱を引き起こしながらも活躍した文字として,英語文字史の一時代を飾ったのである.以上,Horobin (86, 91) を参考にして執筆した.

 ・ Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013.

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2011-12-18 Sun

#965. z の文字の発音 (2) [z][alphabet][ame_bre][alphabet][new_zealand_english][americanism]

 昨日の記事「#964 z の文字の発音 (1)」 ([2011-12-17-1]) の話題について,もう少し調べてみたので,その報告.
 アメリカ英語での zee としての発音について,Mencken (445) が次のように述べている.

The name of the last letter of the alphabet, which is always zed in England and Canada, is zee in the United States. Thornton shows that this Americanism arose in the Eighteenth Century.


 この記述だと,zee の発音はアメリカ英語独自の刷新ということになるが,昨日も触れたように,zee の発音は周辺的ではあったが近代英語期のイギリス英語にれっきとして存在していたのだから,誤った記述,少なくとも誤解を招く記述である.より正しくは,Cassidy and Hall (191) の記述を参考にすべきだろう.

Though zed is now the regular English form, z had also been pronounced zee from the seventeenth century in England. Both forms were taken to America, but evidently New Englanders favored zee. When, in his American Dictionary of the English Language (1828), Noah Webster wrote flatly, "It is pronounced zee," he was not merely flouting English preference for zed but accepting an American fait accompli. The split had already come about and continues today.


 昨日も記した通り,歴史的には z の発音の variation は英米いずれの変種にも存在したが,近代以降の歴史で,各変種の標準的な発音としてたまたま別の発音が選択された,ということである.アメリカ英語独自あるいはイギリス英語独自という言語項目は信じられているほど多くなく,むしろかつての variation の選択に際する相違とみるべき例が多いことに注意したい.
 なお,ニュージーランド英語では,近年,若年層を中心に,伝統的なイギリス発音 zed に代わって,アメリカ発音 zee が広がってきているという.Bailey (492) より引用しよう.

In data compiled in the 1980s, children younger than eleven offered zee as the name of the last letter of the alphabet while all those older than thirty responded with zed.


 ・ Mencken, H. L. The American Language. Abridged ed. New York: Knopf, 1963.
 ・ Cassidy Frederic G. and Joan Houston Hall. "Americanisms." The Cambridge History of the English Language. Vol. 6. Cambridge: CUP, 2001. 184--252.
 ・ Bailey, Richard W. "American English Abroad." The Cambridge History of the English Language. Vol. 6. Cambridge: CUP, 2001. 456--96.

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2011-12-17 Sat

#964. z の文字の発音 (1) [z][alphabet][ame_bre][spelling][alphabet]

 z に関しては,z の各記事で取り上げてきた.今回も,z の話題.
 z はアルファベット最後の文字だが,これには理由がある. z は,セム諸語やギリシア語(7番目の文字 ζ "zeta" として)では普通に用いられていた.しかし,ラテン語には必要とされなかったので,ローマ人は当初は取り入れていなかった.ところが,後にギリシア語の借用語を表記するのに用いられるようになったのがきっかけで,アルファベットの文字列の最後に加えられ,やがて市民権を得ることとなった (Crystal 2003) .現代では,z は言語によって様々な音価,様々な役割で用いられている.
 英語においては,-ize と -ise の対立がよく知られている.この対立は,大雑把にいって英米変種を区別するものとして知られているが([2010-02-26-1], [2010-03-07-1] の記事を参照),z にまつわるもう1つの重要な対立は,z 自身の文字としての発音に見られる.一般に,BrE では /zɛd/, AmE では /ziː/ と発音される.この違いは何によるものだろうか.
 OED によると,ノルマン征服以来,イギリスでは zed の発音が途切れることなく行なわれてきたと考えられる.17世紀前後には,†zad, †zard, izzard, ezod, uzzard などの異形も行なわれていた.このなかで,2音節形はギリシア語 ζ "zeta" の発達形に,ロマンス諸語で母音が語頭音添加 (prosthesis) されたものに由来する.
 ところが,優勢だった zed に対抗して,近代英語初期に音声学者が新しい発音を「発明」した.Alexander Gill の Logonomia Anglica (1619) では ez の発音が,Charles Butler の The English Grammar (1633) では ze の発音が提示されたのである.これは,y の文字の発音としてかつて yayi が提案されたのと同じように,アルファベットの他の文字の発音との平行性を実現するための,意図的な策,おそらくは教育的な配慮だったと考えられる.例えば,ze の発音により,zb, c, d, e, g, p, t, v のそれぞれの標準的な発音と脚韻を踏むことになる.
 このような流れで,zee の発音は zed と並んでイギリスでも部分的には行なわれるようになったようだが,後には衰退した.一方,2つの発音はアメリカへも持ち込まれ,後のアメリカでの選択は zee に軍配が上がった.z の発音にまつわる英米差は,多くの英語の英米差と同様,同じ選択肢のなかでの異なる選択に起因するものだとわかる.

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.

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2011-07-05 Tue

#799. 海賊複数の <z> [plural][netspeak][suffix][corpus][z][alphabet]

 複数形ウォッチャーとして,気になる複数接尾辞がある.発音は -s の場合と同様だが,綴字が <z> となる「z 複数」である.Crystal (137) が以下のように指摘していた.

New spelling conventions have emerged, such as the replacement of plural -s by -z to refer to pirated versions of software, as in warez, tunez, gamez, serialz, pornz, downloadz, and filez. (137)


 それぞれ発音の差異を伴わない完全に綴字上の異形態だが,いかがわしい効果は抜群である.このいかがわしさが何に由来するのかといえば,<z> の文字自体のもつ異様さだろう.[2010-07-17-1]の記事「しぶとく生き残ってきた <z>」で取りあげたように,<z> はきわめて影の薄い文字だが,<s> の明らかに期待されるところで <z> が前景化されるとやけに目立つ.
 しかし,「海賊複数」 ( plural of piracy ) とでも呼びたくなるこの <z> 接尾辞(字)の使用は,現在では NetSpeak での隠語としての使用に限定されているようだ.COCA ( Corpus of Contemporary American English ) の検索によると,warez で4例がヒットした( warez 以外の上掲の語はヒットなし).以下はそのうちの1例で,2004年の Houston Chronicle からの記事である.

CW Shredder - www.spyware info.com/merijn/ Developed by the same author as Hijack This!, CW Shredder removes a very common piece of spyware known as the Coolwebsearch Trojan. It takes advantage of a flaw in a key component of Windows - Microsoft's version of the Java Virtual Machine - to install itself via pop-ups often found on porn and illegal software (a.k.a. "warez") sites.


 他に BNCweb で "*z_NN2" として検索してみると,BOYZ が多数ヒットした.ただし,これはアメリカの人気グループ Boyz II Men やアメリカ英語 Boyz n the Hood への言及によるもので,海賊複数とは趣が異なる.とはいえ,固有名や商品名(の宣伝)に非標準的な綴字を用いることは商業広告では広く見られる現象であり(例えば Heinz 社の "Heinz Buildz Kidz" ),目立たせる効果を狙っている点では共通性が感じられる.
 ちなみに,Kirg(h)iz 「キルギス人」がヒットしたが,これはロシア語の綴字に準じたもので単複同形であるにすぎない(異形として Kirg(h)izes もあり).

 ・ Crystal, David. The English Language. 2nd ed. London: Penguin, 2002.

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2010-07-18 Sun

#447. Dalziel, MacKenzie, Menzies の <z> [alphabet][g][yogh][spelling_pronunciation][personal_name][z]

 昨日の記事[2010-07-17-1]で影の薄い文字 <z> の話題を取りあげたが,スコットランド系の人名について英語史上 <z> にまつわる興味深い話しがある ( Scragg, p. 23 ) .標題の三つの人名はいずれも <z> を含んでおり,発音はそれぞれ /ˈdælziəl/, /məˈkɛnzi/, /ˈmɛnziz/ と /z/ を伴って発音されるのだが,/z/ を伴わない伝統的な別の発音もあり得るのである.後者はそれぞれ /diˈɛl/, /məˈkɛni/ (現在ではほぼ廃用), /ˈmɪŋɪs/ と発音される.
 ちょうど小川さんが「おがわ」なのか「こかわ」なのか漢字からは判別がつかないように,Menzies さんは綴字だけでは /ˈmɛnziz/ なのか /ˈmɪŋɪs/ なのか分からないという状況がある(実際にスコットランドでは学校の同じクラスに,二つの異なる発音をもつ Menzies さんがいることがあるという).
 なぜこのような状況になっているかを理解するためには,中英語の綴字習慣を知る必要がある.古英語以来,"yogh" /joʊk, joʊx/ と呼ばれる文字 <ʒ> が硬口蓋摩擦音や軟口蓋摩擦音を表すのに用いられていた.具体的には [j], [x] などの音に対応し,後に音に応じて <y> や <gh> に置換されることとなった多用途の文字である.中英語では隆盛を誇った <ʒ> だが,近代英語期の印刷技術の発展に伴って衰退し,他の文字に置換されることとなった.特にスコットランドでは,発音と対応するからという理由ではなく字体が似ているからという理由で,<z> がしばしば置換候補となった.<z> の小文字の筆記体を思い浮かべれば,字体の類似は明らかだろう.人名などで <ʒ> → <z> の書き換えが起こった結果,現在の <Dalziel>, <MacKenzie>, <Menzies> という綴字が生まれた.
 逆にいえばもともとは <Dalʒel>, <MacKenʒie>, <Menʒes> などと綴られていたということであり,ここで <ʒ> が表す音はそれぞれ有声硬口蓋摩擦音 [j] や有声軟口蓋摩擦音 [ɣ] に近い音だったと考えられる.この発音がそのまま現在までに発展してきたのが上記で伝統的と述べた発音であり,<z> を伴う現代的な発音は綴字が <z> に切り替わってからの綴字発音 ( spelling-pronunciation ) ということになる.
 この話題については,BBC の記事 Why is Menzies pronounced Mingis? が非常におもしろい.
 字体が似ているがゆえに混用が起き,その混用の名残が現在にまで残っている同様の例としては,[2009-05-11-2]の記事で取りあげた "thorn" と <y> がある.

 ・ Scragg, D. G. A History of English Spelling. Manchester: Manchester UP, 1974.

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2010-07-17 Sat

#446. しぶとく生き残ってきた <z> [alphabet][phoneme][phonemicisation][minimal_pair][mulcaster][z]

 [2010-05-05-1], [2010-05-06-1]でアルファベットの <u> と <v> について述べたが,今日は英語で最も出番の少ない存在感の薄い文字 <z> を話題にする.
 <z> が最低頻度の文字であることは,[2010-03-01-1]で軽く触れた.BNC Word Frequency Listslemma.num による最頻6318語の単語リストから <z> を含む単語を抜き出してみると,以下の36語のみである.この文字のマイナーさがよくわかる.(順位表はこのページのHTMLソースを参照.)

size, organization, recognize, realize, magazine, citizen, prize, organize, zone, seize, gaze, freeze, emphasize, squeeze, gaze, amazing, crazy, criticize, horizon, hazard, breeze, characterize, ozone, horizontal, enzyme, bronze, jazz, bizarre, frozen, organizational, citizenship, dozen, privatization, puzzle, civilization, lazy



 <z> をもつ語のうちで最頻の size ですら総合716位という低さで,上位1000位以内に入っているのはこの語だけである.健闘しているのが,<z> を二つもっている jazzpuzzle である.
 <z> の分布について気づくことは,ギリシャ語由来の借用語が多いこと,-ize / -ization(al) がいくつか見られること ([2010-02-26-1], [2010-03-07-1]) ,単音節語に見られることが挙げられるだろうか.<z> が借用語,特にギリシャ語からの借用語と関連づけられているということは,この文字の固い learned なイメージを想起させる.<z> のもつ近寄りがたさや,それを含む語の頻度の低さとも関係しているだろう,一方で,今回の順位表には数例しか現れていないが,単音節語に <z> がよく出現することは craze, daze, laze, maze, doze, assize, freeze, wheeze などで例証される.心理や状態を表す語が多いようである.
 <z> は古英語にもあるにはあったが,Elizabeth などの固有名詞などに限られ,やはりマイナーだった.古英語では /z/ は音素としては存在していず,/s/ の異音として存在していたに過ぎないので,対応する文字 <z> を用いる必要がなかったということが理由の一つである.中英語になり <z> を多用するフランス語から大量の借用語が流入するにつれて <z> を用いる機会が増えたが,<v> の場合と異なり,それほど一般化しなかった.それでも priceprize などの minimal pair を綴字上でも区別できるようになったのは,<z> の小さな貢献だろう.しかし,このような例はまれで,現代でも <s> が /s/ と /z/ の両音を表す文字として活躍しており,例えば名詞としての house と動詞としての house が綴字上区別をつけることができないなどという不便があるにもかかわらず,<z> が出しゃばることはない.<z> の不人気は,Shakespeare でも言及されている ( Scragg, p. 8 ).

Thou whoreson zed! thou unnecessary letter! ( Shakespeare, King Lear, Act II, Scene 2 )


 Shakespeare と同時代人で綴字問題に関心を抱いた Richard Mulcaster ([2010-07-12-1]) は,<z> の不人気は字体が書きにくいことによると述べている.

Z, is a consonant much heard amongst vs, and seldom sene. I think by reason it is not so redie to the pen as s, is, which is becom lieutenant generall to z, as gase, amase, rasur, where z, is heard, but s, sene. It is not lightlie expressed in English, sauing in foren enfranchisments, as azur, treasur. ( The First Part of the Elementarie, p. 123 )


 英語史を通じて,<z> が脚光を浴びたことはない.しかし,存在意義が稀薄でありながら,しぶとくアルファベットから脱落せずに生き残ってきたのが逞しい.ギリシャ語借用語,特に -ize / -ization,そして一握りの単音節語という限られたエリアに支持基盤をもつ小政党のような存在感だ.

 ・ Scragg, D. G. A History of English Spelling. Manchester: Manchester UP, 1974.
 ・ Mulcaster, Richard. The First Part of the Elementarie. Menston: Scolar Reprint 219, 1582. (downloadable here from OTA)

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2010-03-07 Sun

#314. -ise か -ize か (2) [spelling][bre][bnc][lob][flob][corpus][suffix][z]

 [2010-02-26-1]の記事で取りあげた話題の続編.先日の記事では,単語によって比率は異なるものの,イギリス英語では -ise と -ize の両方の綴字が行われることを,BNC に基づいて明らかにした.高頻度20語については,おおむね -ise 綴りのほうが優勢ということだった.
 通時的な観点がいつも気になってしまう性質なので,そこで新たな疑問が生じた.-ise / -ize のこの比率は,過去から現在までに多少なりとも変化しているのだろうか.大昔までさかのぼらないまでも,現代英語の30年間の分布変化だけを見ても有意義な結果が出るかもしれないと思い,1960年代前半のイギリス英語を代表する LOB ( Lancaster-Oslo-Bergen corpus ) と1990年代前半のイギリス英語を代表する FLOB ( Freiburg-LOB corpus ) を比較してみることにした.
 それぞれのコーパスで,前回の記事で取りあげた頻度トップ20の -ise / -ize をもつ動詞について,その変化形(過去形,過去分詞形,三単現の -s 形,-ing(s) )を含めた頻度と頻度比率を出してみた(下表参照).

itemLOB: rate (freq)FLOB: rate (freq)
-ise-ize-ise-ize
recognise59.6% (99)40.4% (67)71.8% (127)28.2% (50)
realise63.2% (134)36.8% (78)68.7% (125)31.3% (57)
organise65.6% (42)34.4% (22)67.2% (43)32.8% (21)
emphasise37.7% (20)62.3% (33)62.9% (39)37.1% (23)
criticise52.0% (13)48.0% (12)80.0% (24)20.0% (6)
characterise0.0% (0)100.0% (4)56.3% (18)43.8% (14)
summarise35.3% (6)64.7% (11)64.7% (11)35.3% (6)
specialise56.3% (18)43.8% (14)81.8% (27)18.2% (6)
apologise68.8% (11)31.3% (5)70.6% (12)29.4% (5)
advertise100.0% (41)0.0% (0)100.0% (55)0.0% (0)
authorise77.4% (24)22.6% (7)68.2% (15)31.8% (7)
minimise90.0% (9)10.0% (1)80.0% (16)20.0% (4)
surprise100.0% (182)0.0% (0)100.0% (173)0.0% (0)
supervise100.0% (10)0.0% (0)100.0% (9)0.0% (0)
utilise70.0% (7)30.0% (3)83.3% (5)16.7% (1)
maximise50.0% (2)50.0% (2)50.0% (9)50.0% (9)
symbolise50.0% (3)50.0% (3)40.0% (4)60.0% (6)
mobilise66.7% (2)33.3% (1)20.0% (1)80.0% (4)
stabilise58.3% (7)41.7% (5)33.3% (3)66.7% (6)
publicise81.8% (9)18.2% (2)84.6% (11)15.4% (2)


 いずれも100万語規模のコーパスなので,トップ20とはいっても下位のほうの語の頻度はそれほど高くない.だが,全体的な印象としては,-ise の綴字が30年のあいだにじわじわと増えてきているようである.頻度比率に大きな変化の見られないものも確かにあるが,著しく伸びたものとして emphasise, criticise, characterise, summarise, specialise などがある.ただ,これはあくまで印象なので,全体的に,あるいは個別の単語について統計的な有意差があるのかどうかは別に検証する必要がある.また,LOB には characterise は一例も例証されないが characterisation は確認されたことからも,動詞だけでなく名詞形の -isation / -ization も合わせて調査する必要がある.さらには,対応するアメリカ英語の状況も調査し,イギリス英語の通時的変化(もしあるとすればであるが)と関係があるのかどうかを探る必要がある.

Referrer (Inside): [2011-12-17-1] [2010-07-17-1]

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2010-02-26 Fri

#305. -ise か -ize [spelling][ame_bre][bnc][corpus][suffix][z]

 私は,普段,英語を書くときにはイギリス綴りを用いている.英国留学中,指導教官に -ize / -ization の語を -ise / -isation に訂正されてから意識しだした習慣である.そのきっかけとなったこのペアは,一般には,アメリカ英語ではもっぱら -ize を用い,イギリス英語では -ise も用いられるとされる.
 イギリス英語での揺れの理由としては,アメリカ英語の影響や,接尾辞の語源としてギリシャ語の -izein に遡るために -ize がふさわしいと感じられることなどが挙げられるだろう.単語によって揺れ幅は異なるようだが,実際のところ,イギリス英語での -ise と -ize のあいだの揺れはどの程度あるのだろうか.
 この問題について,Tieken-Boon van Ostade (38) に BNC ( The British National Corpus ) を用いたミニ検査が示されていた.generalise, characterise, criticise, recognise, realise の5語で -ise と -ize の比率を調べたというものである.このミニ検査に触発されて,もう少し網羅的に揺れを調べてみようと思い立ち,BNC-XML で計399個の -ise / -ize に揺れのみられる動詞についてそれぞれの頻度を出してみた.以下は,-ise / -ize を合わせて頻度がトップ20の動詞である.ちなみに,399個の動詞についての全データはこちら

item-ise rate (freq)-ize rate (freq)-ise + -ize
recognise61.1% (9143)38.9% (5812)14955
realise63.2% (9442)36.8% (5492)14934
organise62.3% (5540)37.7% (3359)8899
emphasise60.0% (2998)40.0% (1998)4996
criticise54.9% (2054)45.1% (1688)3742
characterise52.2% (1398)47.8% (1278)2676
summarise61.4% (1164)38.6% (731)1895
specialise70.7% (1163)29.3% (481)1644
apologise68.8% (1084)31.2% (492)1576
advertise99.5% (1542)0.5% (7)1549
authorise64.5% (987)35.5% (543)1530
minimise65.4% (984)34.6% (521)1505
surprise99.9% (1345)0.1% (1)1346
supervise99.8% (1303)0.2% (3)1306
utilise68.9% (798)31.1% (360)1158
maximise63.2% (719)36.8% (418)1137
symbolise49.2% (324)50.8% (334)658
mobilise45.5% (286)54.5% (342)628
stabilise53.5% (334)46.5% (290)624
publicise69.4% (419)30.6% (185)604


 この表で advertise, surprise, supervise の3語については -ise が規則だとみなしてよいだろうが,それ以外は全体的に -ise がやや優勢なくらいで,イギリス英語でも -ize は十分に一般的であることがわかる.399語の平均を取ると,-ise の比率は51.6%となり,-ize とほぼ拮抗していることがわかる.詳しく調べれば個々の動詞の慣用というのがあるのかもしれないが,イギリス英語の綴り手としては,ひとまず「-ise に統一」と考えておくのも手かもしれない.

 ・Tieken-Boon van Ostade, Ingrid. An Introduction to Late Modern English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2009.

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