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最終更新時間: 2025-06-06 08:58

2024-05-13 Mon

#5495. インド憲法第343条に記載されている連邦の公用語 [hindi][india][statistics][official_language][demography]

 1950年に定められたインド憲法(英語版)の第343条の第1項によれば,連邦の公用語 (official_language) はデーヴァナーガリー文字 (Devanagari) で書かれたヒンディー語 (hindi) とされている.しかし,向こう15年間は英語の暫定的使用も認める,という但し書き条項が加えられていた.さらに,その15年の後にも,英語を引き続き公的に使用することができる選択肢は開かれていた.インドの公用語をめぐる問題は,すでに憲法制定時より,このように奥歯に物が挟まったような言い方で始まっていたということだ.英語版より343条を引用しよう.

   343. Official language of the Union.---(1) The official language of the Union shall be Hindi in Devanagari script.
   The form of numerals to be used for the official purposes of the Union shall be the international form of Indian numerals.
   (2) Notwithstanding anything in clause (1), for a period of fifteen years from the commencement of this Constitution, the English language shall continue to be used for all the official purposes of the Union for which it was being used immediately before such commencement:
   Provided that the President may, during the said period, by order authorise the use of the Hindi language in addition to the English language and of the Devanagari form of numerals in addition to the international form of Indian numerals for any of the official purposes of the Union.
   (3) Notwithstanding anything in this article, Parliament may by law provide for the use, after the said period of fifteen years, of---
      (a) the English language, or
      (b) the Devanagari form of numerals,
      for such purposes as may be specified in the law.


 憲法上の記載の順序でいえば,ヒンディー語が筆頭の公用語である.実際,インド国内ではヒンディー語は話者が最も多く,2020年の時点で約6億人以上を数えるという(大石(編),p. 70).さらにいえば,ヒンディー語は,世界の中でも3番目に話者の多い超大言語である.2020年のこちらのニュース記事によると,Ethnologue による統計に基づき,次のような解説がなされている.

Hindi is the 3rd most spoken language of the world in 2019 with 615 million speakers. The 22nd edition of the world language database Ethnologue stated English at the top of the list with 1,132 million speakers. Chines Mandarin is at the second position with 1,117 million speakers.


 今後もインドの人口増加と連動してヒンディー語の話者人口は増えていくものと思われる.インドのダイナミックな言語事情からは目を離せない.
 関連して Ethnologue の言語話者人口について「#3009. 母語話者数による世界トップ25言語(2017年版)」 ([2017-07-23-1]) を,多言語国家の公用語の話題として「#3291. 11の公用語をもつ南アフリカ共和国」 ([2018-05-01-1]) を参照.

 ・ 大石 晴美(編) 『World Englishes 入門』 昭和堂,2023年.

Referrer (Inside): [2025-01-01-1]

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2020-12-30 Wed

#4265. なぜアメリカでは英語が主たる言語として話されているのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][sociolinguistics][history][ame][official_language][history][koine][dialect_levelling][sociolinguistics]

 標題は,問うまでもないと思われるような疑問かもしれませんが,当たり前の事実こそ,その背景を探ることに意味がある,というケースは少なくありません.現在では,英語といえば英国よりも先に米国のことを思い浮かべる人が多いと思いますが,歴史的には米国は後発の英語国です.17世紀初頭にイギリスの植民地としてスタートした,英語を用いる地域としては歴史の浅い国です.
 米国が著しい移民の国であることはよく知られています.アイルランドを含むイギリス諸島からの移民にとどまらず,17世紀後半からはドイツなどヨーロッパ諸国からの移民も多くやってきましたし,19世紀後半からはアジアやアフリカ,そして20世紀には世界中から人々が押し寄せました.世界中の異なる言語を話す人々が,アメリカンドリームを抱いて米国を目指したのです.
 とすると,英語を筆頭としつつも複数の異なる言語が並び立ち,名実ともに多言語国家となる可能性もあったはずです.事実,米国では多言語使用は認められていますし行なわれてもいますが,現実的にいえば,英語が圧倒的に有力な唯一の言語であるといえるでしょう.これはなぜなのでしょうか.歴史的に考えてみましょう.



 様々な言語の話者が次々と米国に移民としてやってきたことは確かですが,最初期に移民文化の下敷きを作ったのは,何といってもイングランド,スコットランド,アイルランドなどイギリス諸島出身の人々,つまり英語話者でした.最初に敷かれた英語インフラが,後々まで影響を及ぼしたということです.まず第一に,この事実が効いています.
 もう1つ,西部開拓に代表されるパイオニア精神に裏付けられた移民たちの移動性・可動性 (mobility) も効いています.社会のなかで広く動く人々というのは,言語を含む文化を平準化する人々でもあります.そのような社会では,各々の土地に固有の言語や方言が発達しにくく,むしろ全体として平板化していきます.もともと多くのシェアをもっていた英語はそのような平板化のマグネットとして機能し,対する他の諸言語は拡散する機会を得られなかったのです.
 さらにいえば,他の諸言語の存在感が薄められつつ英語一辺倒の社会へ収斂していく過程において,英語内部の方言差すら平板化していきました (dialect_levelling) .イギリス英語に比べてアメリカ英語に地域による方言差が少ないのも,移民社会という事情が関与しています.
 この辺りは,歴史社会言語学的にたいへんおもしろい話題です.関心をもった方は,##2784,158,591の記事セットをご覧ください.

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