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最終更新時間: 2022-01-15 08:19

2021-07-10 Sat

#4457. 英語の罵り言葉の潮流 [swearing][slang][asseveration][lexicology][semantic_change][taboo][euphemism][pc][sociolinguistics][pragmatics]

 英語史における罵り言葉 (swearing) を取り上げた著名な研究に Hughes がある.英語の罵り言葉も,他の言葉遣いと異ならず,各時代の社会や思想を反映しつつ変化してきたこと,つまり流行の一種であることが鮮やかに描かれている.終章の冒頭に,Swift からの印象的な2つの引用が挙げられている (236) .

   For, now-a-days, Men change their Oaths,
   As often as they change their Cloaths.
                                                               Swift

Oaths are the Children of Fashion.
                                                               Swift


 英語の罵り言葉の歴史には,いくつかの大きな潮流が観察される.Hughes (237--40) に依拠して,何点か指摘しておきたい.およそ中世から近現代にかけての変化ととらえてよい.

 (1) 「神(の○○)にかけて」のような byto などの前置詞を用いた誓言 (asseveration) は減少してきた.
 (2) 罵り言葉のタイプについて,宗教的なものから性的・身体的なものへの交代がみられる.
 (3) C. S. Lewis が "the moralisation of status word" と指摘したように,階級を表わす語が道徳的な意味合いを帯びる過程が観察される.例えば churl, knave, cad, blackguard, guttersnipe, varlet などはもともと階級や身分の名前だったが,道徳的な「悪さ」を含意するようになり,罵り言葉化してきた.
 (4) 「労働倫理」と関連して,vagabond, beggar, tramp, bum, skiver などが罵り言葉化した.この傾向は,浮浪者問題を抱えていたエリザベス朝に特徴的にみられた.
 (5) 罵り言葉と密接な関係をもつタブー (taboo) について,近年,性的なタイプから人種的なタイプへの交代がみられる.

 英語の罵り言葉の潮流を追いかける研究は「英語歴史社会語彙論」の領域というべきだが,そこには実に様々な論題が含まれている.例えば,上記にある通り,タブーやそれと関連する婉曲語法 (euphemism) の発展との関連が知りたくなってくる.また,典型的な語義変化のタイプといわれる良化 (amelioration) や悪化 (pejoration) の問題にも密接に関係するだろう.さらに,近年の political correctness (= pc) 語法との関連も気になるところだ.slang の歴史とも重なり,社会言語学的および語用論的な考察の対象にもなる.改めて懐の深い領域だと思う.

 ・ Hughes, Geoffrey. Swearing: A Social History of Foul Language, Oaths and Profanity in English. London: Penguin, 1998.

Referrer (Inside): [2021-07-22-1]

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2020-10-26 Mon

#4200. Hoosier --- インディアナ州民のニックネーム [onomastics][personal_name][ame][slang][etymology][oed][etymology][pc][coha]

 本年度の後期もオンライン授業が続いているが,先月のゼミ合宿で行なった即興英語史コンテンツ作成のイベント(cf. 「#4162. taboo --- 南太平洋発、人類史上最強のパスワード」 ([2020-09-18-1]))が苦しくも楽しかったので,学生と一緒にもう一度やってみた.その場で英単語を1つランダムに割り当てられ,それについて OED を用いて90分間で「何か」を書くという苦行.今回は,標題の未知の単語を振られ,見た瞬間に茫然自失.死にものぐるいの90分だった.その成果を,こちらに掲載.




 古今東西,ある国や地域の住民に軽蔑(ときに愛情)をこめたニックネームを付けるということは,広く行なわれてきた.とりわけ付き合いの多い近隣の者たちが,茶化して名前を付けるケースが多い.しかし,たとえ当初は侮蔑的なニュアンスを伴うネーミングだったとしても,言われた側も反骨と寛容とユーモアの精神でそれを受け入れ,自他ともに用いる呼称として定着することも少なくない.
 最も有名なのはアメリカ人を指す Yankee だろう.語源は諸説あるが,John に相当するオランダ語に指小辞を付した Janke が起源ではではないかといわれている.ニューヨーク(かつてオランダ植民地で「ニューアムステルダム」と称された)のオランダ移民たちが,コネチカットのイギリス移民を「ジョン坊主」と呼んで嘲ったことにちなむという説だ.
 Yankee ほど有名でもなく,由来もはっきりしない類例の1つとして,米国インディアナ州の住民につけられたニックネームがある.標題の Hoosier だ.OED によると,Hoosier, n. /huːʒiə/ と見出しが立てられており,(予想される通り)アメリカ英語で使用される名詞である.語義が2つみつかる.いくつかの例文とともに示そう.

1. A nickname for: a native or inhabitant of the state of Indiana.

 ・ 1826 in Chicago Tribune (1949) 2 June 20/3 The Indiana hoosiers that came out last fall is settled from 2 to 4 milds of us.
 ・ 1834 Knickerbocker 3 441 They smiled at my inquiry, and said it was among the 'hoosiers' of Indiana.
 ・ . . . .

2. An inexperienced, awkward, or unsophisticated person.

 ・ 1846 J. Gregg Diary 22 Aug. (1941) I. 212 Old King is one of the most perfect samples of a Hoosier Texan I have met with. Fat, chubby, ignorant, and loquacious as Sancho Panza..we could believe nothing he said.
 ・ 1857 E. L. Godkin in R. Ogden Life & Lett. E. L. Godkin (1907) I. 157 The mere 'cracker' or 'hoosier', as the poor [southern] whites are termed.
 ・ . . . .


 第1語義は「インディアナ州の住民」,第2語義は「世間知らずの垢抜けない田舎者」ほどである.上述の通り,軽蔑の色彩のこもった小馬鹿にするような呼称であることが感じられるだろう.初出は19世紀の前半とみられる.
 語源に関しては OED に "Origin unknown" (語源不詳)とあり,残念な限りなのだが,ここで諦めるわけにはいかない.米国のことであれば,OED よりも情報量の豊富なはずの,百科辞典的な特色を備える The American Heritage Dictionary of the English Language に頼ればよい.早速当たってみると,しめしめ,1つの説が紹介されていた.その概要を解説しよう.
 語源は闇に包まれているが,イングランドのカンバーランド方言で19世紀に「とてつもなく大きいもの」を意味する hoozer という訛語が文証される.これが変形した形で米国に持ち込まれたのが Hoosier ではないかという説だ.一方,後者の初出年である1826年よりも後のことではあるが,Dictionary of Americanisms には "a big, burly, uncouth specimen or individual; a frontiersman, countryman, rustic",要するに「田舎者の大男」の語義で現われていることが確認され,OED の第2語義にぴったり通じる.
 実際,19世紀前半は Hoosier を含め米国各州の住民に次々と侮蔑的なニックネームがつけられた時代である.インディアナ州についても,おそらく近隣州の住民などが名付けの奇想を練っていたのだろう.詳しいルートこそ分からないが,そこへ Hoosier (田舎者の大男)がスルッと入り込んだようだ.テキサス州民の Beetheads (ビート頭),アラバマ州民の Lizards (トカゲ),ネブラスカ州民の Bugeaters (虫食い野郎),そしてミズーリ州民の Pukes (へど)などの名(迷)悪言が生まれたが,これらに比べれば Hoosier はひどい方ではない.
 昨今は PC (= political correctness) の時代である.特定の国であれ地域であれ,そこの住民を侮蔑的なニュアンスを帯びた名前で呼ぶ慣習は,下火になりつつある.地域のスポーツチームのニックネームとして,ノースカロライナ州の Tarheels (ヤニの踵)やオハイオ州の Buckeyes (トチノキ)などに残る以外には用いられなくなってきている.
 試しに Corpus of Historical American English により "[Hoosier]" として検索してみると,1870年代から1920年代にかけて浮き沈みはありつつも相対的に多く用いられていたようだが,20世紀後半にかけては低調である.

Hoosier by COHA

 ただし,国民・地域住民への侮蔑的なあだ名が忌避されるようになってきているとはいえ,「公には」という限定つきである.実際には,そこいらの街角で,日々のおしゃべりのなかで,からかいの言葉は使われ続けるものである.憎まれっ子が世にはばかるように,憎まれ語も実はアンダーグラウンドで世にはばかっているのである.

 ・ The American Heritage Dictionary of the English Language. 4th ed. Boston: Houghton Mifflin, 2006.
 ・ Corpus of Historical American English. Available online at https://www.english-corpora.org/coha/. Accessed 20 October 2020.
 ・ The Oxford English Dictionary Online. Oxford: Oxford University Press, 2020. Available online at http://www.oed.com/. Accessed 20 October 2020.

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2020-10-21 Wed

#4195. なぜ船や国名は女性代名詞 she で受けられることがあるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][gender][personal_pronoun][personification][pc]

 今でも英文法書などで触れられる機会があるからでしょうか,標題の質問はよく問われます.船や国名は無生物ですから,人称代名詞としては中性の人称代名詞 it で受けるのが適切のように思われますが,ときに女性の人称代名詞 she で受けられます.

 ・ There were over two thousand people aboard the Titanic when she left England.
 ・ Look at my sports car. Isn't she a beauty?
 ・ France increased her exports by 10 per cent.
 ・ After India became independent, she chose to be a member of the Commonwealth.

 英語の歴史を少しかじっている方は,古英語には,フランス語やドイツ語などに現在も存在している文法性 (grammatical gender) があったということを知っているかと思います.古英語ではすべての名詞が男性,女性,中性のいずれかに振り分けられており,しかもその名詞の指示対象の生物学的な性とは必ずしも一致していなかったという,厄介な名詞分類があったのです.すると,船や国家を受ける she も古英語時代の文法性の名残ではないかと疑われるかもしれません.
 しかし,そうではありません.「船」についていえば古英語の sċip (ship) は中性名詞でしたし,bāt (boat) も男性名詞でした.つまり,古英語の文法性は無関係です.では,なぜ現代英語では she が用いられることがあるのでしょうか.解説をどうぞ.



 古英語で機能していた文法性は,中英語期にかけて崩壊していきます.この中英語期に,大陸の文学・文化の影響を受けて,前時代の文法性とは独立した「擬人性」という別種のジェンダーが発達することになったのです.船を始めとする乗り物や道具,そして国家などは,その舵取り役は歴史を通じて主に男性が担ってきました.船首や為政者である男性は,船や国家を「連れ合い」「愛人」「支配・制御すべきもの」として女性に見立てたということかもしれません.
 ただし,近年の英語ではこの慣習は失われてきており,とりわけ公的な言葉使いとしては避けられるようになってきていることは付け加えておきましょう.
 ということで,標題の素朴な疑問に対しては,中英語期以降に発達した「擬人性」の伝統を受け継いできたから,と答えておきます.この話題について深く知りたい方は,ぜひ ##3647,852,853,854,1912,1028,1517の記事セット をどうぞ.

Referrer (Inside): [2022-01-01-1]

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