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infinitive - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2022-12-02 14:05

2022-06-01 Wed

#4783. 懸垂不定詞? [participle][syntax][dangling_participle][infinitive]

 「#4754. 懸垂分詞」 ([2022-05-03-1]),「#4764. 慣用的な懸垂分詞の起源と種類」 ([2022-05-13-1]),「#4765. 慣習化して前置詞に近づいた懸垂分詞」 ([2022-05-14-1]) の記事にて,judging from/by ... の事例を念頭に懸垂分詞 (dangling_participle) の話題を取り上げた.主節の主語の共有を前提とする分詞構文から独立し,慣習化し,前置詞に近づいたものと解釈することができる.
 似たような例は不定詞にもみられる.独立不定詞と呼ばれる用法だ.定型句としてよくみられるが,この場合は避難の意味を込めて「懸垂不定詞」などと呼ばれることはないようだ(なぜだろうか?).

 ・ to be frank
 ・ to be honest with you
 ・ to be sure
 ・ to begin with
 ・ to do someone justice
 ・ to make a long story short
 ・ to make matters worse
 ・ to say the least of it
 ・ to tell the truth
 ・ so to speak

 先の2つめの記事 ([2022-05-13-1]) で,懸垂分詞の先駆的表現は古英語に認められるということだったが,懸垂不定詞の例についてはどうだろうか.Visser (§987) によると,中英語と近代英語では "extremely frequent" だが,古英語からは Wulfstan's Homilies より hrædest to secganne ("for that matter" ほどの意か)という例しか確認できないという.その例文を挙げておこう.

Wulfstan, Hom. (Napier) 27, 1, ðyder sculon wiccan and wigleras, hrædest to secganne ealle ða manfullan, ðe ær yfel worhton and noldan geswican ne wið god ðingian. | Idem 36, 7, ðonne wyrð ðæt wæter mid ðam halgan gaste ðurhgoten, and, hrædest to secganne eal, ðæt se sacerd deð ðurh ða halgan ðenunge gesawenlice, eal hit fulfremeð se halga gast gerynelice. | Idem 115, 3, ðider sculan ðeofas ... and, hrædest to secganne ealle ða manfullan.


 その後の歴史をみてみると,分詞と不定詞の間で揺れがみられたようである.例えば,現代では分詞を用いる speaking of ... が普通だが,中英語や近代英語では to speak of ... のように不定詞を用いる言い方があった.また,judging from/by ... についても,後期近代英語などからは不定詞を用いた to judge from/by ... の用例も一定数あがってくる.この辺りはコーパスで通時的に調べてみるとおもしろそうだ.

 ・ Visser, F. Th. An Historical Syntax of the English Language. 3 vols. Leiden: Brill, 1963--1973.

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2022-05-09 Mon

#4760. 過去分詞と現在分詞の由来は大きく異なる [infinitive][germanic][morphology][inflection][verb][oe][germanic][indo-european][etymology][suffix]

 「#4349. なぜ過去分詞には不規則なものが多いのに現在分詞は -ing で規則的なのか?」 ([2021-03-24-1]) という素朴な疑問と関連して,そもそも両者の由来が大きく異なる点について,Lass の解説を引用しよう.まず過去分詞について,とりわけ強変化動詞の由来に焦点を当てる (Lass 161) .

. . . its [= past participle] descent is not always very neat. To begin with, it is historically not really 'part of' the verb paradigm: it is originally an independent thematic adjective (IE o-stem, Gmc a-stem) formed off the verbal root. The basic development would be:
IE PGmc
*ROOT - o - nó->*ROOT - α -nα-


 強変化動詞に関する限り,過去分詞は動詞語根から派生したにはちがいないが,もともと動詞パラダイムに組み込まれていなかったということだ.形態的には,動詞からの独立性が強く,しかも動詞の強弱の違いにも依存した.
 一方,現在分詞には,歴史的に動詞の強弱の違いに依存しないという事情があった (Lass 163) .これについてはすでに「#4345. 古英語期までの現在分詞語尾の発達」 ([2021-03-20-1]) で引用したとおりである.
 「なぜ過去分詞には不規則なものが多いのに現在分詞は -ing で規則的なのか?」という疑問に向き合うに当たって,そもそも過去分詞と現在分詞の由来が大きく異なっていた点が重要となるだろう.

 ・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.

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2022-05-08 Sun

#4759. to 不定詞の起源,再訪 [infinitive][gerund][germanic][morphology][inflection][verb]

 to 不定詞の起源について,「#2502. なぜ不定詞には to 不定詞と原形不定詞の2種類があるのか?」 ([2016-03-03-1]) では次のように述べた.

to 不定詞」のほうは,古英語の前置詞 to に,上述の本来の不定詞を与格に屈折させた -anne という語尾をもつ形態(不定詞は一種の名詞といってもよいものなので,名詞さながらに屈折した)を後続させたもの


 これは,英語史の教科書などでよく見かける一般的な記述を要約し,提示したものである.ところが,これは必ずしも正確な説明ではないようだ.Los (144) に異なる解釈が提示されており,そちらのほうが比較言語学的に説得力がある.

The etymology of the to-infinitive is often given as a bare infinitive in the complement of a preposition to, but this leaves the gemination ('doubling') of the -n- in the to-infinitive unexplained. The gemination points to the presence of an earlier -j-, probably part of a nominalising suffix. This parallells (sic) the origin of the gerund . . . , and indicates that the to-infinitive is not built on the bare infinitive, which was a much earlier formation, but on a verbal stem, like any other nominalisation:

(57) to (preposition) + ber- (verbal stem) + -anja (derivational suffix) + -i (dative sg) → Common Germanic *to beranjōi, Old English: to berenne, Middle English: to beren/bere, PDE: to bear.


 確かに古英語の原形不定詞 beran を普通の名詞と見立てて与格に屈折させても *berane にこそなれ berenne にはならない.母音も異なるし,子音の重ね (gemination) も考慮にいれなければならないことに,改めて気づいた.

 ・ Los, Bettelou. A Historical Syntax of English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2015.

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2022-01-04 Tue

#4635. "Great Complement Shift" 「大補文推移」 [gcs][gvs][syntax][verb][complementation][terminology][gerund][infinitive]

 英語史の最重要キーワードの1つである "Great Vowel Shift" (「大母音推移」; gvs)については本ブログでも多く取り上げてきたが,それにちなんで名付けられた統語論上の "Great Complement Shift" (「大補文推移」; gcs)については「#860. 現代英語の変化と変異の一覧」 ([2011-09-04-1]) でその名前に言及した程度でほとんど取り上げてきていなかった.これは,英語史上,動詞補分構造 (complementation) が大きく変化してきた現象を指す.この分野の第一人者である Rohdenburg (143) が,重要な論文の冒頭で次のように述べている.

Over the past few centuries, English has experienced a massive restructuring of its system of sentential complementation, which may be referred to as the Great Complement Shift.


 一括りに補文構造の大変化といっても,実際には様々な種類の変化が含まれている.それらが互いにどのような関係をもつのかは明らかにされていないが,Rohdenburg はまとめて GCS と呼んでいる.Rohdenburg (143--45) は,次のような通時的変化(あるいはそれを示唆する共時的変異)の例を挙げている.

 (1) She delighted to do it. → She delighted in doing it.
 (2) She was used/accustomed to do it. → He was used/accustomed to doing it.
 (3) She avoided/dreaded to go there. → She avoided/dreaded going there.
 (4) He helped (to) establish this system.
 (5) They gave us some advice (on/as to) how it should be done.
 (6) a. He hesitated (about) whether he should do it.
   b. He hesitated (about) whether to do it.
 (7) a. She was at a loss (about) what she should do.
   b. She was at a loss (about) what to do.
 (8) a. She advised to do it in advance.
   b. She advised doing it in advance.
   c. She advised that it (should) be done in advance.
 (9) a. He promised his friends to return immediately.
   b. He promised his friends (that) he would return immediately.

 統語論上これらを1つのタイプに落とし込むことは難しいが,動詞の補文として動名詞,不定詞,that 節,前置詞句などのいずれを取るのかに関して通時的変化が生じてきたこと,そして現在でもしばしば共時的変異がみられるということが,GCS の趣旨である.

 ・ Rohdenburg, Günter. "The Role of Functional Constraints in the Evolution of the English Complement System." Syntax, Style and Grammatical Norms: English from 1500--2000. Ed. Christiane Dalton-Puffer, Dieter Kastovsky, Nikolaus Ritt, and Herbert Schendl. Bern: Peter Lang, 2006. 143--66.

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2021-08-18 Wed

#4496. two laps to go 「残り2週」の to go [sobokunagimon][infinitive][bnc]

 先日,ゼミ生より陸上競技などで「残り2周」というのに英語では two laps to go などと言われるのを聞いたということで,to go の用法について質問があった.時間,距離,その他の量などについて「残り○○」として一般に用いられる日常的なフレーズだが,どのような由来なのだろうか.
 OED の go, v. を調べてみると,語義 9c の下にこの用法が挙げられていた.挙げられている最初期の3例文とともに,以下に引用する.

c. intransitive. In the infinitive, used as a postpositive clause. Of a period of time: to be left, remain; to be required to elapse. Hence of a quantity of something: to remain to be dealt with.
     Earliest in the context of marine racing.
      Formally coincident with some uses of sense 2a(b): cf. quot. 1905 at that sense.


1881 'Rockwood' Stories Sc. Sports 91 Fifteen seconds to go, and it is all anxiety. Five seconds gone, and yet she is not there.
1892 J. G. Blaine Let. 26 Feb. in Fur-seal Arbitration: App. Case U.S. before Tribunal I. 354 Our consul at Victoria, telegraphs to-day that there are---Forty-six schooners cleared to date. Six or seven more to go.
1909 H. Sutcliffe Priscilla of Good Intent xvi. 241 There were five minutes to go before the signal for the start.


 初例が19世紀後半ということなので,決して古い表現ではない.現代競技スポーツの文脈から生まれた表現と考えてよさそうで,今回のゼミ生の気づきも偶然ではなかったことになる.
 go 「行く」という動詞は,古英語期より「(ある時間,距離,量を)進む,経る,踏破する,カバーする」ほどの語義で用いられてきた.例えば,現代英語でも "One of my favorite things to do was ice-skate on the beautiful St. Lawrence river... I'd go for miles and miles." などといえる.この用法の go が時間,距離,量を表わす表現の後ろに形容詞用法の不定詞として置かれ,「残り○○」の慣用表現を形成することになったのだろう.
 ちなみに,BNCweb で "_CRD (more)? _NN* to go" と検索してみると422例が挙がってきた.単位の名詞は minutes, hours, days, weeks, months, years などの時間を表わすものが多いが,feet, yards, miles などの距離を表わすもの,また laps, holes, fenses, games などスポーツ競技を連想させるものも散見される.

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2021-04-26 Mon

#4382. 『今さら聞けない英語学・英語教育学・英米文学』 --- 見開き2ページで1テーマ,研究テーマ探しにも [review][hel_education][terminology][verb][subjunctive][imperative][infinitive]

 日本英語英文学会30周年記念号として,こちらの本が出版されています(先日ご献本いただきまして,関係の先生方には感謝申し上げます).

 ・ 渋谷 和郎・野村 忠央・女鹿 喜治・土居 峻(編) 『今さら聞けない英語学・英語教育学・英米文学』 DTP出版,2020年.

 上記リンク先より目次が閲覧できますが,英語学・英語教育学・英米文学の各分野から,重要なキーワード,トピック,テーマが厳選されています.ページがきれいに偶数で揃っていることからも想像できる通り,すべての話題がページ見開きで簡潔に記述されているというのが本書の最大の特徴だと思います.ありそうでなかった試みとして,この工夫には感心してしまいました.各々の記述は簡潔ではあるものの,他の文献への参照も多く施されており,卒業論文やレポートなどの研究テーマ探しにもたいへん役立つのではないかと思いました(私自身もさっそくゼミ生などに紹介しました).
 英語学分野で取り上げられている話題を一覧すると,各著者の専門分野に応じて理論的なものから文献学的ものまで幅広くカバーされていますが,ここでは英語史の観点から2つほどピックアップしてみます.
 野村忠央氏による「定形性」(§52)は,動詞の定形 (finite form) と非定形 (non-finite form) という用語・概念に関する導入となっています.英語史において動詞の現在形,接続法(あるいは仮定法),命令形,不定詞は形態がおよそ「原形」に収斂してきた経緯がありますが,形態が同じだからといって機能が同じわけではないことが理論的かつ平易に解説されています.また,形が常に一定で変わらないのに「不定詞」という呼び方はおかしいのではないか,という誰しもが抱く疑問にも易しく答えています.
 定形とも非定形とも考えられそうな歴史上の「接続法現在」について,村上まどか氏が「仮定法原形」(§64)で取り上げているので,こちらも紹介します.I demand that the student go to school regularly. のような文における go の形態や関連する統語を巡る問題です.この問題についていくつかの参考文献を挙げながら解説し,この用法においては that 節が省略されにくいなどの興味深い事実を指摘しています.こちらも英語史上の重要問題です.
 上記2つの問題と関連する hellog からの記事セットをこちらにまとめましたので,関心のある方はどうぞ.
 本書で参照されている参考文献を利用して視野を広げていけば,よい研究テーマにたどり着く可能性があります.教育的配慮の行き届いた書としてお薦めします.

 ・ 渋谷 和郎・野村 忠央・女鹿 喜治・土居 峻(編) 『今さら聞けない英語学・英語教育学・英米文学』 DTP出版,2020年.

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2021-03-24 Wed

#4349. なぜ過去分詞には不規則なものが多いのに現在分詞は -ing で規則的なのか? [sobokunagimon][participle][verb][infinitive][gerund][verb][conjugation][suffix]

 1年ほど前に,大学生より英語に関する素朴な疑問をたくさん提供してもらったことがある.そのなかの1つに,標題の趣旨の疑問があった(なお,疑問の原文は「なぜ現在分詞 -ing には過去分詞のような不規則動詞が存在しないのか」).つい最近この疑問について考え始めてみたのだが,まったくもって素朴ではない疑問であることに気づいた.おもしろいと思い,目下,院生・ゼミ生を総動員(?)して議論している最中である.
 この疑問の何がおもしろいかといえば,第1に,こんな疑問は思いつきもしなかったから.英語学習者は皆,動詞の活用に悩まされてきたはず.その割には,現在分詞(動名詞も同様だが)だけはなぜか -ing で一貫している.これは嬉しい事実ではあるが,ちょっと拍子抜け.どうしてそうなのだろうか.という一連の思考回路が見事なのだと思う.-ing にも綴字については若干の不規則はあるのだが,無視してよい程度の問題である(cf. 「#3069. 連載第9回「なぜ trytried となり,diedying となるのか?」」 ([2017-09-21-1])).
 このように素晴らしい発問だと感銘を受けて挑戦し始めたのはよいが,実は難問奇問.どうにも答えが出ない.そこで,なぜこの疑問が難しいのかをメタ的に考えてみた.2点ほどコメントしたい.

(1) お題は大学生から出された素朴な疑問.「なぜ A は不規則なのに B は規則的なのか?」という疑問形式となっているが,よく考えてみると,これは「素朴な」疑問から一歩も二歩も抜け出した,むしろかなり高度な問い方ではないか.英語初学者が発するような疑問は,たいてい「なぜ B は規則的なのに A は不規則なのか?」となるのが自然である.今回のケースでいえば「なぜ現在分詞は -ing で規則的なのに過去分詞には不規則なものが多いのか?」という発問のほうが普通ではないか.後者の疑問であれば,現在分詞の -ing が規則的であることは特に説明を要さず,過去分詞に不規則なものが多い理由を答えればよい.おそらく,こちらのほうが答えるにはより易しい質問となるだろう(ただし,これとて決して易しくはない).

(2) もともと現在分詞と過去分詞の2者を対比したところに発する疑問である.確かに両者とも名前に「分詞」 (participle) を含み,自然と比較対象になりやすいわけだが,比較対象をこの2種類に限定せず,より広く non-finite verb forms とすると,もう少し視界が開けてくるのではないか.具体的にいえば,現在分詞と過去分詞に加えて,動名詞と不定詞も考慮してみるのはどうだろうか.現在分詞と動名詞は形式上は常に一致しているので,実際上は新たに考慮に加えるべきは不定詞ということになる.不定詞というのは現代英語としては原形にほかならず,それが基点というべき存在なので,不規則も何もない(ただし be 動詞は別にしたほうがよさそうである).とすると,4種類ある non-finite verb forms のなかで,3種類までが規則的で,1種類のみ,つまり過去分詞のみが不規則ということになる.共時的にみる限り,上記 (1) で示唆したことと合わせて,「なぜ過去分詞形のみが不規則なのか?」と問い直すほうが,少なくとも回答のためには有益のように考える.

 ということで,当初の発問の切れ味に感じ入って,やや目がくらまされていたところがあるが,少なくとも考察にあたっては言い換えたほうの発問を基準とするのがよいと思っている.もちろんそれにしても難しい問題で,私自身もあるアイディアは持っているが,まったく心許ないので,もっと議論や調査を深めていきたいと思っている.本ブログの読者の皆さんにも1つの話題ということで提供した次第です.
 参考までに,現在分詞に関する過去の記事として,以下を挙げておきたい.

 ・ 「#790. 中英語方言における動詞屈折語尾の分布」 ([2011-06-26-1])
 ・ 「#2421. 現在分詞と動名詞の協働的発達」 ([2015-12-13-1])
 ・ 「#2422. 初期中英語における動名詞,現在分詞,不定詞の語尾の音韻形態的混同」 ([2015-12-14-1])
 ・ 「#4345. 古英語期までの現在分詞語尾の発達」 ([2021-03-20-1])
 ・ 「#4344. -in' は -ing の省略形ではない」 ([2021-03-19-1]

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2021-03-19 Fri

#4344. -in' は -ing の省略形ではない [consonant][phonetics][suffix][apostrophe][punctuation][participle][orthography][spelling][gerund][infinitive]

 洋楽の歌詞を含め英語の詩を読んでいると,現在分詞語尾 -ing の代わりに -in' を見かけることがある.口語的,俗語的な発音を表記する際にも,しばしば -in' に出会う.アポストロフィ (apostrophe) が用いられていることもあり,直感的にいえばインフォーマルな発音で -ing から g が脱落した一種の省略形のように思われるかもしれない.しかし,このとらえ方は2つの点で誤りである.
 第1に,発音上は脱落も省略も起こっていないからである.-ing の発音は /-ɪŋ/ で,-in' の発音は /-ɪn/ である.最後の子音を比べてみれば明らかなように,前者は有声軟口蓋鼻音 /ŋ/ で,後者は有声歯茎鼻音 /n/ である.両者は脱落や省略の関係ではなく,交代あるいは置換の関係であることがわかる.
 後者を表記する際にアポストロフィの用いられるのが勘違いのもとなわけだが,ここには正書法上やむを得ない事情がある.有声軟口蓋鼻音 /ŋ/ は1音でありながらも典型的に <ng> と2文字で綴られる一方,有声歯茎鼻音 /n/ は単純に <n> 1文字で綴られるのが通例だからだ.両綴字を比べれば,-ing から <g> が脱落・省略して -in' が生じたようにみえる.「堕落」した発音では語形の一部の「脱落」が起こりやすいという直感も働き,-in' が省略形として解釈されやすいのだろう.表記上は確かに脱落や省略が起こっているようにみえるが,発音上はそのようなことは起こっていない.
 第2に,歴史的にいっても -in' は -ing から派生したというよりは,おそらく現在分詞の異形態である -inde の語尾が弱まって成立したと考えるほうが自然である.もっとも,この辺りの音声的類似の問題は込み入っており,簡単に結論づけられないことは記しておく.
 現在分詞語尾 -ing の歴史は実に複雑である.古英語から中英語を通じて,現在分詞語尾は本来的に -inde, -ende, -ande などの形態をとっていた.これらの異形態の分布は「#790. 中英語方言における動詞屈折語尾の分布」 ([2011-06-26-1]) で示したとおり,およそ方言区分と連動していた.一方,中英語期に,純粋な名詞語尾から動名詞語尾へと発達していた -ing が,音韻上の類似から -inde などの現在分詞語尾とも結びつけられるようになった(cf. 「#2421. 現在分詞と動名詞の協働的発達」 ([2015-12-13-1])).さらに,これらと不定詞語尾 -en も音韻上類似していたために三つ巴の混同が生じ,事態は複雑化した(cf. 「#2422. 初期中英語における動名詞,現在分詞,不定詞の語尾の音韻形態的混同」 ([2015-12-14-1])).
 いずれにせよ,「-in' は -inde の省略形である」という言い方は歴史的に許容されるかもしれないが,「-in' は -ing の省略形である」とは言いにくい.
 関連して,「#1764. -ing と -in' の社会的価値の逆転」 ([2014-02-24-1]) も参照されたい.

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2020-08-04 Tue

#4117. It's very kind of you to come.of の用法は歴史的には「行為者」 [preposition][syntax][infinitive][construction][adjective][semantics][passive]

 昨日の記事「#4116. It's very kind of you to come.of の用法は?」 ([2020-08-03-1]) の続編.共時的にはすっきりしない of の用法だが,歴史的にみるとおよそ解決する.今回は,この構文と of の用法について歴史的にひもといて行こう.
 OED の of, prep. によると,この用法の of は,"V. Indicating the agent or doer." という大区分の下で語義16に挙げられている.

16. Indicating the doer of something characterized by an adjective: following an adjective alone, as foolish, good, rude, stupid, unkind, wise, wrong (or any other adjective with which conduct can be described); †following an adjective qualifying a noun, as a cruel act, a cunning trick, a kind deed, an odd thing; †following a past participle qualified by an adverb, as cleverly managed, ill conceived, well done.
   Usually followed by to do (something), as in it was kind of you (i.e. a kind act or thing done by you) to help him etc., and less frequently by †that, both constructions introducing the logical subject or object of the statement, e.g. It was kind of him to tell me = His telling me was a thing kindly done by him.


 「行為者」の of といわれても,にわかには納得しがたいかもしれない.標題の文でいえば,確かに youcome の意味上の主語であり,したがって行為者ともいえる.しかし,それであれば for 句を用いた It is important for him to get the job. (彼が職を得ることは重要なことだ.)にしても,himget の意味上の主語であり行為者でもあるから,offor の用法の違いが出ない.2つの前置詞が同一の用法をもつこと自体はあり得るにせよ,なぜそうなるのかの説明が欲しい.
 OED からの引用に記述されている歴史的背景を丁寧に読み解けば,なぜ「行為者の of」なのかが分かってくる.この用法の of の最初期の例は,どうやら形容詞の直後に続くというよりも,形容詞を含む名詞句の直後に続いたようなのである.つまり,It's a very kind thing of you to come. のような構文が原型だったと考えられる.だが,この原型の構文も初出は意外と遅く,初期近代英語期に遡るにすぎない.以下,OED より最初期の数例を挙げておこう.

1532 W. Tyndale Expos. & Notes 73 Is it not a blind thing of the world that either they will do no good works,..or will..have the glory themselves?
a1593 C. Marlowe Jew of Malta (1633) iv. v 'Tis a strange thing of that Iew, he lives upon pickled grasshoppers.
1603 W. Shakespeare Hamlet iii. ii. 101 It was a brute parte of him, To kill so capitall a calfe.
1668 H. More Divine Dialogues ii. 383 That's a very odd thing of the men of Arcladam.
1733 J. Tull Horse-hoing Husbandry 266 Is it not very unfair of Equivocus to represent [etc.]?
1766 H. Brooke Fool of Quality I. iv. 145 Indeed, it was very naughty of him.


 最初の4例は「形容詞を含む名詞句 + of」となっている.of を "(done) by" ほどの「行為者の of」として読み替えれば理解しやすいだろう.ここで思い出したいのは,受け身の動作主を表わす前置詞は,現代でこそ by が一般的だが,中英語から初期近代英語にかけては,むしろ of が幅を利かせていた事実だ.当時は現代以上に of = "done by",すなわち「行為者の of」の感覚が濃厚だったのである(cf. 「#1350. 受動態の動作主に用いられる of」 ([2013-01-06-1]),「#1333. 中英語で受動態の動作主に用いられた前置詞」 ([2012-12-20-1]),「#2269. 受動態の動作主に用いられた byof の競合」 ([2015-07-14-1])).
 しかし,上に挙げた最後の2例については,すでに統語的省略が生じて「形容詞 + of」の構文へと移行しており,本来の「行為者の of」の感覚も薄れてきているように見受けられる.標題の構文は,原型の構文がこのように省略され形骸化しながらも,現代まで継承されてきたものにほかならないのである.

Referrer (Inside): [2022-01-09-1]

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2020-08-03 Mon

#4116. It's very kind of you to come.of の用法は? [preposition][syntax][infinitive][construction][adjective][semantics][apposition]

 標題のように,いくつかの形容詞は「of + 人」という前置詞句を伴う.

 ・ It's very kind of you to come. (わざわざ来てもらってすみません.)
 ・ It was foolish of you to spend so much. (そんなにお金を使って馬鹿ねえ.)
 ・ It was wrong of him to tell lies. (嘘をついて,彼もよくなかったね.)
 ・ It is wise of you to stay away from him. (君が彼とつき合わないのは賢明だ.)
 ・ It was silly of me to forget my passport. (パスポートを忘れるとはうかつだった.)

 典型的に It is ADJ of PERSON to do . . . . という構文をなすわけだが,PERSON is ADJ to do . . . . という構文もとることができる点で興味深い.たとえば標題は You're very kind to come. とも言い換えることができる.この点で,より一般的な「for + 人」を伴う It is important for him to get the job. (彼が職を得ることは重要なことだ.)の構文とは異なっている.後者は *He is important to get the job. とはパラフレーズできない.
 標題の構文を許容する形容詞 --- すなわち important タイプではなく kind タイプの形容詞 --- を挙げてみると,careful, careless, crazy, greedy, kind, mad, nice, silly, unwise, wise, wrong 等がある (Quirk et al. §§16.76, 16.82).いずれも意味的には人の行動を評価する形容詞である.別の角度からみると,標題の文では kind (親切な)なのは「来てくれたこと」でもあり,同時に「あなた」でもあるという関係が成り立つ.
 一方,上述の important (重要な)を用いた例文では,重要なのは「職を得ること」であり,「彼」が重要人物であるわけではないから,やはり両タイプの意味論的性質が異なることが分かるだろう.つまり,important タイプの for を用いた構文とは異なり,kind タイプの of を用いた構文では,kind of you の部分が you are kind という意味関係を包含しているのである.
 とすると,この前置詞 of の用法は何と呼ぶべきか.一種の同格 (apposition) の用法とみることもできるが,どこか納まりが悪い(cf. 「#2461. an angel of a girl (1)」 ([2016-01-22-1]),「#2462. an angel of a girl (2)」 ([2016-01-23-1])).「人物・行動評価の of」などと呼んでもよいかもしれない.いずれにせよ,歴史的に探ってみる必要がある.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

Referrer (Inside): [2022-01-09-1] [2020-08-04-1]

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2020-07-29 Wed

#4111. He dares do . . . は誤用か,あるいは許容される混交か [auxiliary_verb][verb][preterite-present_verb][conjugation][infinitive][3sp][contamination][shakespeare]

 昨日の記事「#4110. dare --- 助動詞なのか動詞なのかハッキリしなさい」 ([2020-07-28-1]) に引き続き,法助動詞とも一般動詞ともいえない中途半端な振る舞いを示す dare について.Shakespeare の Macbeth より,I dare do all that may become a man, Who dares do more, is none. という文を参照したが,この語法は現代でも確認される.Partridge (87) は,これを明らかに誤用とみている.

dare is used in two ways: as a full verb (dares to, dared to, didn't dare to) and as an auxiliary like can or must. The latter occurs correctly only in negatives ('I daren't go'), in questions, and in subordinate clauses ('whether I dared go'). The two patterns are not to be mixed. Write either 'whether she dares to go' or 'whether she dare go' but not 'whether she dares go'.


 一方,小西 (363) は次のように述べている.

本動詞用法で後に続く不定詞の to は省略することができる: Nobody dares (to) criticize his decision.---OALD5 (だれひとりとして彼の決定にとやかく言おうとしない).これは助動詞用法と混交した型なので,例えば Partridge-Whitcut (1994) などは誤用と見なしているが,今では標準的な語法 [Benson et al. (1997); Quirk et al. (1985: 138)].類例: I wouldn't dare have a party in my flat in case the neighbours complain.---CIDE (隣近所から苦情があるといけないので,僕のアパートでパーティーをやろうとは思わない).なお Eastwood (1994: 128) は,米国人は概して to を伴う方の型を用いると述べている.


 つまり,論者にもよるとはいえ,共時的には2つの構文の混交 (contamination) であるとして,特に stigma が付されているわけではないようだ.BNCweb で "dares _V?I" などと検索してみると17例がヒットしたが,確かにすべてがインフォーマルという文脈でもない.
 通時的な観点からいえば,法助動詞から一般動詞へと転身しつつある最中の中途半端な状況ということになろうか.目下変化している最中とはいえ,遅くとも16世紀に始まった変化であることを考えると,すでにかれこれ500年ほどの時間が流れていることになる.構文の変化も,なかなか息が長い.
 直3単現などでしっかり人称屈折し,かつ原形不定詞を従える(助)動詞というのは,現代英語ではいくつかのイディオムを別にすれば,dare(s) のほかには do(es)help(s) くらいだろうか.いずれにせよレアである.

 ・ Partridge, Eric. Usage and Abusage. 3rd ed. Rev. Janet Whitcut. London: Penguin Books, 1999.
 ・ 小西 友七 編 『現代英語語法辞典』 三省堂,2006年.

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2020-07-28 Tue

#4110. dare --- 助動詞なのか動詞なのかハッキリしなさい [auxiliary_verb][verb][preterite-present_verb][conjugation][infinitive][3sp][contamination][shakespeare]

 法助動詞 dare は,現代の法助動詞のなかでも needused to と並んで影の薄い存在である.歴史的にみれば非常に古い過去現在動詞 (preterite-present_verb) であり,その点では can, may, shall などの仲間ともいえるのだが,比較すると圧倒的に忘れられがちな日陰者である.
 もともとは過去現在動詞であるから,古英語でも直説法3単現形では現在の -s に相当するような子音語尾をいっさい取らなかった.実際,不定形 durran に対して,直3単現では dear(r) などの形態を示した.また,直後に別の動詞の目的語が続く場合には,そちらは動詞の不定形(いわゆる現代英語の原形不定詞に相当する形)を取った (ex. c1000 Ælfric Genesis xliv. 34 Ne dear ic ham faran. (= "I dare not go home.")) .つまり,can, may, shall などとまったく同じ振る舞いを示していたのであり,厳密にはアナクロな言い方かもしれないが,現代英語的な観点から言えば純然たる法助動詞だったのである.
 しかし,16世紀以降,直3単現で darythdares のような,法助動詞らしからぬ「3単現の -s」を示す形態が現われ,一般動詞へと部分的に転身していく.たとえば,OED によると Shakespeare の Macbeth (1623) の i. vii. 46--7 に,I dare do all that may become a man, Who dares do more, is none. のような事例が確認される.「部分的に転身」といったのは,現代でも dare は一般動詞でもあるし,特に否定文や疑問文では法助動詞としての用法も保っているからだ.
 この Shakespeare からの例文でおもしろいのは,「3単現の -s」の存在が示唆するように法助動詞から一般動詞へと転身を遂げていたかのようにみえるものの,続く目的語としての動詞の形態はあくまで原形不定詞 do であり,to 不定詞 to do ではないことだ.つまり,dare は形態的には一般動詞化しているが,統語的にはいまだ法助動詞の性質を保っていたということである.
 そして,驚くことにその状況は現代でも大きく異ならない.現代英語では一般動詞としての He dares to do . . . が普通であることはもとより,法助動詞としての He dare do . . . も稀だがあり得る.しかし,それに加えて Shakespeare 張りの中途半端な He dares do . . . も可能なのである.
 『ジーニアス大辞典』の dare の項から引用した下図の中間列を参照されたい.共時的には文法的 contamination というべき例なのだろうが,いやはや不思議な(助)動詞である.

The Conjugation of the Verb

Referrer (Inside): [2020-07-29-1]

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2020-07-22 Wed

#4104. なぜ He is to blame. は He is to be blamed. とならないのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][voice][infinitive]

 hellog ラジオ版,第9回目です.be to blame は受験英語では「責めを負うべきである,責任がある,悪い」の意で熟語として暗記することになっているので,普通は深く考えないと思いますが,よく考えると変です.主語の He は誰かに非難される人であって,誰かを非難する人ではないからです.英語は interestinginterested のような分詞形容詞においてもそうですが,動詞の意味について能動と受動を厳しく区別するというのが建前ではなかったのでしょうか.
 関連してややこしいのは,やはり受験英語で暗記することになっている be to do という熟語との関係です.「予定」「運命」「義務・命令」「可能」「意志」などの用語で種々の用法が説明されますが,この熟語では,いずれの用法においても,確かに文の主語が do するという「態」 (voice) の関係なのです.

 ・ 「予定」用法: The concert is to be held this evening.
 ・ 「運命」用法: He was never to see his family again.
 ・ 「義務・命令」用法: You are not to smoke in this room.
 ・ 「可能」用法: The camera was not to be found.
 ・ 「意志」用法: If we are to get there by noon, we had better hurry.

 ということは「彼は責めを負うべきだ」は,やはり He is to be blamed. のほうが適切で,He is to blame. はおかしいということになりそうです.
 しかし,歴史的にみれば,後者で正しいのです.英語は能動態や受動態など「態」にうるさいと述べましたが,古い英語では,特に今回のような不定詞(および動名詞)に関するかぎり,態の意識はずっと緩かったのです.では,こちらの音声をどうぞ.



 熟語というのはたいてい古くから固定化されてきた定型句であることが多いので,今回の be to blame も,「態」に緩かった古き良き時代の名残だったわけです.ぜひ関連する以下の記事もご覧ください(##3611,3604,3605の記事セット).

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2020-01-23 Thu

#3923. 中英語の「?しながら来る」などの移動の様態を表わす不定詞構文 [infinitive][participle][syntax][construction][me]

 現代英語では「?しながら来る/行く」を意味する場合には,典型的に「come/go + 現在分詞」 が用いられる.移動動詞の後に現在分詞を添えて,移動の様態を示す用法である.以下に BNCweb からランダムに例を挙げよう.

 ・ Jack came rushing down from his room on the top floor and . . . .
 ・ The question came sneaking into her mind . . . .
 ・ She had contrarily thought that if he really cared he would have come running after her.
 ・ A great mammoth of an American truck went thundering past, forcing me on to the dirt shoulder.
 ・ He gulped and went rushing on.
 ・ . . . the crowd of silver helmets went flooding in pursuit, . . . .


 古英語期の特に韻文や,続く中英語の時代には,このような場合に現在分詞ではなく不定詞が用いられるのが一般的だった.とりわけ移動動詞として come が使われる場合に例が多くみられる.Mustanoja (536--37) より例を挙げよう.いずれも to を伴わない不定詞であることがポイントである.

 ・ þer comen seilien . . . scipes (Lawman A 25525)
 ・ þer com a wolf gon after þan (Fox & Wolf 108)
 ・ in him com ur Lord gon (Judas 25)
 ・ He comme flie too felde (Alis. Macedoine 995)
 ・ wiþ þat came renne sire Bruyllant (Ferumbras 2333)
 ・ nece, ysee who comth here ride (Ch. TC ii 1253)
 ・ on his hunting as he cam ride (Gower CA i 350)


 静止動詞というべき liestand にも類例がみられるが,これらの動詞については to を伴わない不定詞の例もあれば,to を伴う不定詞の例もみられる (Mustanoja 537) .この場合,不定詞は様態ではなく目的を表わす用法として解釈できる例もあり,両義的だ.

 ・ feowertene niht fulle þere læe þa verde þeos wederes abiden (Lawman A 28238)
 ・ ne þurve þa cnihtes . . . careles liggen slæpen (Lawman A 18653)
 ・ hu mynecene slapan liggen (Wint. Ben. Rule 63)
 ・ the fraunchise of holi churche hii laten ligge slepe ful stille (Pol. Songs 325)
 ・ þanne he lieþ to slepen, Sal he nevre luken þe lides of hise eȝen (Best. 15)
 ・ on a bed of gold she lay to reste Til that the hote sonne gan to weste (Ch. PF 265)
 ・ faire in the soond, to bathe hire myrily, Lith Pertelote (Ch. CT B NP 4457)
 ・ --- and in my barm ther lith to wepe Thi child and myn, which sobbeth faste (Gower CA iii 302)
 ・ ennȝless stanndenn aȝȝ occ aȝȝ To lofenn Godd (Orm. 3894)
 ・ --- he stood for to biholde (Ch. TC i 310)


 中英語後期になると「come + 不定詞」で様態を表わす用法は衰退していき,現代につらなる「come + 現在分詞」が取って代わるようになる.もっとも,後者の構文も古英語以来知られていないわけではなかったことを付け加えておきたい.

 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

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2019-09-17 Tue

#3795. 『英語教育』の連載第7回「なぜ不定詞には to 不定詞 と原形不定詞の2種類があるのか」 [rensai][notice][infinitive][syntax][sobokunagimon]

 9月14日に,『英語教育』(大修館書店)の10月号が発売されました.英語史連載「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」の第7回となる今回の話題は,「なぜ不定詞には to 不定詞 と原形不定詞の2種類があるのか」です.
 そもそも不定詞とは何か,なぜそのような呼び名がついているのかから始まり,to 不定詞と原形不定詞の2種類が区別されている歴史的理由,それぞれの用法の守備範囲とその変遷,そして現在にまで続く両不定詞のせめぎ合いを扱いました.後半では,She made me laugh. のように能動態の使役文に用いられる原形不定詞が,受動態の文になると I was made to laugh by her. のように to 不定詞に変わるのはなぜかという素朴な疑問にも迫ります.

『英語教育』2019年10月号



 本ブログでも,不定詞については infinitive の各記事ですでに取り上げてきましたので,連載記事と合わせてご覧ください.

 ・ 堀田 隆一 「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ 第7回 なぜ不定詞には to 不定詞 と原形不定詞の2種類があるのか」『英語教育』2019年10月号,大修館書店,2019年9月14日.62--63頁.

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2019-08-01 Thu

#3748. 不定詞マーカー atado 「騒動」 [infinitive][preposition][old_norse][etymology][shakespeare][semantic_change][lalme][map]

 「#3741. 中英語の不定詞マーカー forto」 ([2019-07-25-1]) で触れたように,中英語には toforto などと並んで,不定詞マーカーとして at という語も稀に用いられた.この語は馴染みのある前置詞 at とは別物で,古ノルド語の不定詞マーカー at を借用したものとされる.ただし両形態とも結局のところ語源を一にするので,語の借用というよりは,用法の借用というべき事例かもしれない.OED の at, prep. によると,不定詞マーカーとしての用法について次のように記述がある.

VI. With the infinitive mood.
†39. Introducing the infinitive of purpose (the original function also of to; cf. French rien à faire, nothing to do, nothing at do, nothing ado n. and adj.2). Obsolete exc. dialect.
   Corresponding to Old Norse at (Danish at, Swedish att) in gefa at eta to give one at eat, i.e. to eat; but not, like it, used with the simple infinitive; the nearest approach to which was in the phrase That is at say = French c'est à dire.


 MEDat adv. with infinitive を参照すると,at do, at ete, at kep, at sai のような決まった動詞とともに用いられる傾向があるという.MED より最初期の例をいくつか挙げておこう.

 ・ c1280 Chart.in Birch Cart.Sax.2.326: Yat ye land of seint Wilfrai..fre sal be ay; At na nan..In yair Herpsac sal have at do.
 ・ c1300 Horn (LdMisc 108)906: Þe hondes gonnen at erne [Hrl: to fleon] In to þe schypes sterne.
 ・ c1330(?a1300) Tristrem (Auch)543: Ynouȝ þai hadde at ete.
 ・ c1330(?c1300) Guy(1) (Auch)2495: Þat he cum wiþ þe at ete.
 ・ (1399) RParl.3.451a: The Answers of certeins Lordes, that is atte saye, of the forsayd Ducs of Aumarle [etc.].


 古ノルド語の用法に由来するということから察せられるように,不定詞マーカー at は北部方言によくみられた.eLALME の Item 81 として取り上げられており,以下の Dot Map が得られる.明確に北部的な分布だ.

eLALME Dot Map for AT

 ちなみに名詞 ado 「騒動;面倒」は at do の約まったものに由来する.シェイクスピアの喜劇 Much Ado About Nothing 『空騒ぎ』は,要するに much to do about nothing ということである.「すべきこと」→「面倒な仕事」→「騒動」ほどの意味の発展を経たと考えられる.初出は以下の通りで,すでに「騒動;衝突」ほどの意味で使われている.

c1380 Firumb.(1) (Ashm 33)5648: Olyuer wyþ a corde bond him fast, Ac arst was muche ado.

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2019-07-25 Thu

#3741. 中英語の不定詞マーカー forto [infinitive][preposition][grammaticalisation][pchron][caxton]

 現代英語で不定詞マーカーといえば to である.別に原形不定詞というものもあるが,こちらはゼロのマーカーととらえられる.to 不定詞は原形不定詞と並んで古英語から用いられてはいたが,一気に拡大したのは後期古英語から初期中英語にかけての時期である (Mustanoja 514) .
 中英語期までに to は完全に文法化 (grammaticalisation) を成し遂げ,形態・機能ともに弱化したこともあり,それを補強するかのように前置詞 for を前置した2音節の forto/for to が新たな不定詞マーカーとして用いられるようになった.MEDfortō adv. & particle (with infinitive) によると,初例は Peterborough Chronicle からであり,中英語の最初期から使用されていたことがわかる.

a1131 Peterb.Chron. (LdMisc 636) an.1127: Se kyng hit dide for to hauene sibbe of se earl of Angeow.


 この新しい不定詞マーカー forto はかなりの頻度で用いらるようになったが,結局は to と同様に弱化の餌食となっていった.衰退の時期は14世紀から15世紀とみられ,Elizabeth 朝までにはほぼ廃用となった(非標準変種では現在も使われている).ただし,中英語期を通じて両者の揺れは観察され,Caxton の Morte Darthur では,時代錯誤的に forto のほうが優勢なくらいだった.
 付け加えれば,中英語期には toforto に比べてずっと稀ではあったが,単体の fortill, for till, at といった別の不定詞マーカーもあった (Mustanoja 515) .現代と異なり,不定詞の形は様々だったのである.

 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

Referrer (Inside): [2019-08-01-1]

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2019-03-17 Sun

#3611. なぜ He is to blame.He is to be blamed. とならないのか? [infinitive][syntax][passive][voice][construction][sobokunagimon]

 標題の He is to blame. は「彼は責められるべきだ;彼には責任がある」という意味のフレーズだが,厳密に態 (voice) を考慮すれば,「彼」は「責められる」立場であるから He is to be blamed. と不定詞も受け身になるべきだと思われるかもしれない.実際,後者でも意味は通じるし,もちろん文法的なのだが,慣習的なフレーズとしては前者が用いられる.なぜだろうか.
 これは,動名詞について解説した「#3604. なぜ The house is building. で「家は建築中である」という意味になるのか?」 ([2019-03-10-1]) と「#3605. This needs explaining. --- 「need +動名詞」の構文」 ([2019-03-11-1]) とも関係する.動名詞と同様に不定詞 (infinitive) も動詞の名詞化という機能をもっている.動名詞や不定詞により動詞が名詞化すると,もともとの動詞がもっていた態の対立は中和し,能動・受動の区別なく用いられるようになる.to blame は,したがってこの形で能動的に「非難すべき」ともなり得るし,受動的に「非難されるべき」ともなり得るのである.区別が中和されているということは,文脈によりいずれにも解釈し得るということでもある.He is to blame. の場合には,意味上,受け身として解釈されるというわけだ.There is a house to let.I have something to say. のような「形容詞的用法」の不定詞も,態の中和という発想に由来する(中島,p. 238).
 ただし,不定詞(や動名詞)の態の中和は,あくまでそれが強い名詞性を保っていた時代の特徴である.近代以降,不定詞(や動名詞)はむしろ動詞的な性格を強めてきており,中和されていた態の対立が復活してきている.その結果,慣習的ではないとはいえ He is to be blamed. も文法的に許容されるようになった.標題のような構文は,古い時代の特徴を伝える生きた化石のような存在なのである.

 ・ 中島 文雄 『英語発達史 改訂版』岩波書店,2005年.

Referrer (Inside): [2022-01-01-1] [2019-05-22-1]

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2018-08-01 Wed

#3383. to 不定詞と原形不定詞の揺れの歴史 [infinitive][verb][syntax][emode][shakespeare]

 「#2502. なぜ不定詞には to 不定詞 と原形不定詞の2種類があるのか?」 ([2016-03-03-1]) で述べたように,to 不定詞 と原形不定詞は,互いに起源は異なるものの,歴史の過程でほぼ同じ機能を共有するようになり,しばしば競合と揺れを示してきた.なぜある統語環境では一方が要求され,別の環境では他方が要求されるのか.通時的にも共時的にも研究されており,ある程度の傾向は見出せるものの,絶対的な規則を見つけ出すことは難しい.
 現代英語の例を考えると,「#971. 「help + 原形不定詞」の起源」 ([2011-12-24-1]) で触れたように,help の後の不定詞はどちらの形態でも許容されるという状況がある.また,「#970. Money makes the mare to go」 ([2011-12-23-1]) で見たように,使役構文においては能動文では原形不定詞を用いるが,受動文では to 不定詞を用いるといったチグハグな統語現象が見られる.これらも,両不定詞形の競合と揺れの歴史を反映していると解釈することができるだろう.
 この問題について,中島 (237--38) は次のように述べている.

 今日の用法が確立するまでには長い間用法が動揺しており,また以前は to のない不定詞が今よりひろく用いられた.エリザベス朝でも
   you ought not walk (Cæsar, I. i. 3)/you were wont be civil (Othello, II. iii. 190) などの用例があり,そのほか Shakespeare では
   I command her come to me/entreat her hear me but a word/let one be sent to pray Achilles see us
など command, entreat, pray, desire, charge のような動詞のあとでも to のない不定詞が見出される.逆に今なら to の不要なところに入れている場合もある.It makes my heart to groan のように.しかし今でも諺には Money makes the mare to go (地獄の沙汰も金次第)の用法が残っているし,help は両方の構造が可能である.I helped him (to) find his things. それから同一の文中で同じ関係に立つ二つの不定詞の中,後者が to をとることが行われる.〔中略〕Shakespeare の
    and would no more endure
   This wooden slavery than to suffer
   The flesh-fly blow my mouth. (Tempest, III. i. 61--63)
も同種の例である.


 2種類の不定詞の問題は,今なお完全には解決していない.

 ・ 中島 文雄 『英語発達史 改訂版』岩波書店,2005年.

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2017-07-06 Thu

#2992. 中英語における不定詞補文の発達 [me][infinitive][syntax][tense][passive]

 中英語期では,不定詞補文が著しく発達した.Los (Los, Bettelou. The Rise of the to-Infinitive. Oxford: OUP, 2005.) を参照した Sawada (28) に簡潔にまとめられているように,その発達には,(1) 原形不定詞の生起する環境が狭まる一方で to 不定詞の頻度が顕著に増したという側面と,(2) 古英語では見られなかった種々の新しい不定詞構造が現われたという側面がある.(2) については,5種類の新構造が指摘される.以下に,現代英語からの例文とともに示そう.

 (a) 受動態の to 不定詞: The clothes need to be washed.
 (b) 完了の have を伴う to 不定詞: He expected to have finished last Wednesday.
 (c) 独立して否定される to 不定詞: They motioned to her not to come any further.
 (d) いわゆる不定詞付き対格構文における to 不定詞: They believed John to be a liar.
 (e) 分離不定詞 (split infinitive): to boldly go where no one has gone before.

 このような近現代的な to 不定詞構造が生まれた背景には,対応する that 節による補語の衰退も関与している.というよりは,結果的には that 節の果たした節として種々の機能が,複雑な構造をもつ to 不定詞に取って代わられた過程と理解すべきだろう.しかし,この置換は一気に生じたわけではなく,受動態などの複雑な意味・構造が関わる場合には that 節の補文がしばらく保たれたことに注意すべきである.

 ・ Sawada, Mayumi. "The Development of a New Infinitival Construction in Late Middle English: The Passive Infinitive after Suffer." Studies in Middle and Modern English: Historical Variation. Ed. Akinobu Tani and Jennifer Smith. Tokyo: Kaitakusha, 2017. 27--47.

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