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gender - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-03-19 07:57

2024-02-09 Fri

#5401. 文法上の性について60分間の対談精読実況生中継をお届けしました [bchel][gender][oe][noun][category][voicy][heldio][notice][hel_education]


 去る2月6日(火)午後4時半より Voicy heldio にて「#983. B&Cの第42節「文法性」の対談精読実況生中継 with 金田拓さんと小河舜さん」を生放送でお届けしました.Baugh and Cable による英語史の古典的名著 A History of the English Language (第6版)を原書で精読するシリーズの一環です.今回は特別ゲストとして金田拓さん(帝京科学大学)と小河舜さん(フェリス女学院大学ほか)をお招きして,対談精読実況生中継としてお届けしました.上記は,昨日の通常配信でアーカイヴとして公開したものです.60分間の長丁場ですが,ぜひお時間のあるときにお聴きください.
 2月5日(月)には,この hellog 上でも予告編となる記事「#5397. 文法上の「性」を考える --- Baugh and Cable の英語史より」 ([2024-02-05-1]) を公開しました.そちらの記事では今回注目した第42節 "Grammatical Gender" の原文を掲載していますので,それを眺めながらお聴きいただければと思います.そこからは,英語史における性 (gender) の話題に注目した重要な記事へのリンクも張っています.
 早々に配信を聴いてくださったコアリスナーの umisio さんが,まとめノートを作ってこちらのページで公開されています.ぜひ予習・復習のおともにご参照ください.


umisio note 2024028



 heldio で B&C の英語史を精読するシリーズのバックナンバー一覧は「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) でまとめています.全264節ある本の第42節にようやくたどり着いたところですので,まだまだ序盤戦です.皆さんには後追いでかまいませんので,このオンライン精読シリーズにご参加いただければ.まずは以下のテキストを入手してください!


Baugh, Albert C. and Thomas Cable. ''A History of the English Language''. 6th ed. London: Routledge, 2013.



 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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2024-02-05 Mon

#5397. 文法上の「性」を考える --- Baugh and Cable の英語史より [bchel][gender][oe][noun][category][voicy][heldio][notice][hel_education][link]

 昨年7月より週1,2回のペースで Baugh and Cable の英語史の古典的名著 A History of the English Language (第6版)を原書で精読する Voicy 「英語の語源が身につくラジオ」 (heldio) でのシリーズ企画を進めています.1回200円の有料配信となっていますが第1チャプターに関してはいつでも試聴可です.またときどきテキストも公開しながら無料の一般配信も行なっています.これまでのバックナンバーは「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1])にまとめてありますので,ご確認ください.


Baugh, Albert C. and Thomas Cable. ''A History of the English Language''. 6th ed. London: Routledge, 2013.



 今までに41節をカバーしてきました.目下,古英語を扱う第3章に入っています.次回取り上げる第42節 "Grammatical Gender" は,古英語の名詞に確認される文法上の「性」,すなわち文法性 (gender) に着目します.以下に同節のテキストを掲載しておきます(できれば本書を入手していただくのがベストです).

42. Grammatical Gender. As in Indo-European languages generally, the gender of Old English nouns is not dependent on considerations of sex. Although nouns designating males are often masculine, and those indicating females feminine, those indicating neuter objects are not necessarily neuter. Stān (stone) is masculine, and mōna (moon) is masculine, but sunne (sun) is feminine, as in German. In French, the corresponding words have just the opposite genders: pierre (stone) and lune (moon) are feminine, while soleil (sun) is masculine. Often the gender of Old English nouns is quite illogical. Words like mægden (girl), wīf (wife), bearn (child, son), and cild (child), which we should expect to be feminine or masculine, are in fact neuter, while wīfmann (woman) is masculine because the second element of the compound is masculine. The simplicity of Modern English gender has already been pointed out as one of the chief assets of the language. How so desirable a change was brought about will be shown later.


 文法性に関する話題は hellog でも gender のタグを付した多くの記事で取り上げてきました.そのなかから特に重要な記事へのリンクを以下に張っておきます.

 ・ 「#25. 古英語の名詞屈折(1)」 ([2009-05-23-1])
 ・ 「#26. 古英語の名詞屈折(2)」 ([2009-05-24-1])
 ・ 「#28. 古英語に自然性はなかったか?」 ([2009-05-26-1])
 ・ 「#487. 主な印欧諸語の文法性」 ([2010-08-27-1])
 ・ 「#1135. 印欧祖語の文法性の起源」 ([2012-06-05-1])
 ・ 「#2853. 言語における性と人間の分類フェチ」 ([2017-02-17-1])
 ・ 「#3293. 古英語の名詞の性の例」 ([2018-05-03-1])
 ・ 「#4039. 言語における性とはフェチである」 ([2020-05-18-1])
 ・ 「#4040. 「言語に反映されている人間の分類フェチ」の記事セット」 ([2020-05-19-1])
 ・ 「#4182. 「言語と性」のテーマの広さ」 ([2020-10-08-1])

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

Referrer (Inside): [2024-02-09-1]

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2023-06-23 Fri

#5170. 3人称単数代名詞の総称的用法 [pronoun][number][personal_pronoun][gender][generic][indefinite_pronoun]

 3人称単数代名詞の注意すべき用法として総称的 (generic) な使用がある.Quirk et al. (§§6.20, 21, 56) より3種類を挙げよう.

(1) he who . . .she who . . . のような後方照応の表現.文語的あるいは古風な響きをもつ.ちなみに,中性の *it that . . . や複数の *they who . . . はなく,各々 what . . .those who . . . が代用される.

 ・ He who hesitates is lost. ['The person who . . .'; a proverb]
 ・ She who must be obeyed. ['The woman who . . .']

(2) 総称的な単数名詞句を受ける形で(前方照応でも後方照応でも),通常のように3人称単数代名詞を用いることができる.

 ・ Ever since he found a need to communicate, man has been the 'speaking animal'.
 ・ A: Do you like caviar? B: I've never tasted it.
 ・ Music is my favourite subject. Is it yours?

(3) one は "people in general" を表わすフォーマルな表現.インフォーマルには you が用いられる.所有格形 one's と再帰形 oneself がある.しばしば実際上話者を指すこともある.

 ・ I like to dress nicely. It gives one confidence.
 ・ One would (You'd) think they would run a later bus than that!

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2023-04-01 Sat

#5087. 「英語史クイズ with まさにゃん」 in Voicy heldio とクイズ問題の関連記事 [masanyan][helquiz][link][silent_letter][etymological_respelling][kenning][oe][metonymy][metaphor][gender][german][capitalisation][punctuation][trademark][alliteration][sound_symbolism][goshosan][voicy][heldio]

 新年度の始まりの日です.学びの意欲が沸き立つこの時期,皆さんもますます英語史の学びに力を入れていただければと思います.私も「hel活」に力を入れていきます.
 実はすでに新年度の「hel活」は始まっています.昨日と今日とで年度をまたいではいますが,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて「英語史クイズ」 (helquiz) の様子を配信中です.出題者は khelf(慶應英語史フォーラム)会長のまさにゃん (masanyan),そして回答者はリスナー代表(?)の五所万実さん(目白大学; goshosan)と私です.ワイワイガヤガヤと賑やかにやっています.

 ・ 「#669. 英語史クイズ with まさにゃん」
 ・ 「#670. 英語史クイズ with まさにゃん(続編)」



 実際,コメント欄を覗いてみると分かる通り,昨日中より反響をたくさんいただいています.お聴きの方々には,おおいに楽しんでいただいているようです.出演者のお二人にもコメントに参戦していただいており,場外でもおしゃべりが続いている状況です.こんなふうに英語史を楽しく学べる機会はあまりないと思いますので,ぜひ hellog 読者の皆さんにも聴いて参加いただければと思います.
 以下,出題されたクイズに関連する話題を扱った hellog 記事へのリンクを張っておきます.クイズから始めて,ぜひ深い学びへ!

 [ 黙字 (silent_letter) と語源的綴字 (etymological_respelling) ]

 ・ 「#116. 語源かぶれの綴り字 --- etymological respelling」 ([2009-08-21-1])
 ・ 「#192. etymological respelling (2)」 ([2009-11-05-1])
 ・ 「#1187. etymological respelling の具体例」 ([2012-07-27-1])
 ・ 「#580. island --- なぜこの綴字と発音か」 ([2010-11-28-1])
 ・ 「#1290. 黙字と黙字をもたらした音韻消失等の一覧」 ([2012-11-07-1])

 [ 古英語のケニング (kenning) ]

 ・ 「#472. kenning」 ([2010-08-12-1])
 ・ 「#2677. Beowulf にみられる「王」を表わす数々の類義語」 ([2016-08-25-1])
 ・ 「#2678. Beowulf から kenning の例を追加」 ([2016-08-26-1])
 ・ 「#1148. 古英語の豊かな語形成力」 ([2012-06-18-1])
 ・ 「#3818. 古英語における「自明の複合語」」 ([2019-10-10-1])

 [ 文法性 (grammatical gender) ]

 ・ 「#4039. 言語における性とはフェチである」 ([2020-05-18-1])
 ・ 「#3647. 船や国名を受ける she は古英語にあった文法性の名残ですか?」 ([2019-04-22-1])
 ・ 「#4182. 「言語と性」のテーマの広さ」 ([2020-10-08-1])

 [ 大文字化 (capitalisation) ]

 ・ 「#583. ドイツ語式の名詞語頭の大文字使用は英語にもあった」 ([2010-12-01-1])
 ・ 「#1844. ドイツ語式の名詞語頭の大文字使用は英語にもあった (2)」 ([2014-05-15-1])
 ・ 「#1310. 現代英語の大文字使用の慣例」 ([2012-11-27-1])
 ・ 「#2540. 視覚の大文字化と意味の大文字化」 ([2016-04-10-1])

 [ 頭韻 (alliteration) ]

 ・ 「#943. 頭韻の歴史と役割」 ([2011-11-26-1])
 ・ 「#953. 頭韻を踏む2項イディオム」 ([2011-12-06-1])
 ・ 「#970. Money makes the mare to go.」 ([2011-12-23-1])
 ・ 「#2676. 古英詩の頭韻」 ([2016-08-24-1])

Referrer (Inside): [2024-03-04-1]

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2023-01-22 Sun

#5018. khelf メンバーと4人でジェンダーとコロナ禍周りのキーワードで『ジーニアス英和辞典』の版比較 in Voicy [dictionary][genius6][gender][covid][voicy][heldio][language_change][sociolinguistics][lexicography][methodology]

 昨日の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 では,khelf(慶應英語史フォーラム)の大学院生メンバー3名とともに「#600. 『ジーニアス英和辞典』の版比較 --- 英語とジェンダーの現代史」をお届けしました.ジェンダーとコロナ禍に関するキーワードについて『ジーニアス英和辞典』の初版から最新の第6版までを引き比べ,英語史を専攻する4人があれやこれやとおしゃべりしています.意外な発見が相次いで,盛り上がる回となりました.30分ほどの長さです.ぜい時間のあるときにお聴きいただければと思います.Voicy のコメント機能により,ご感想などもお寄せいただけますと嬉しいです.



 今回比較した『ジーニアス英和辞典』の6つの版の出版年をまとめておきます.5--8年刻みで,おおよそ定期的に出版されており,1つのシリーズ辞典で英語の記述を通時的に追いかけることが可能となっています.

出版年
G11987年
G21993年
G32001年
G42006年
G52014年
G62022年


 昨年11月に発売開始となった最新版の『ジーニアス英和辞典』第6版については,hellog および heldio で何度か取り上げてきました.以下をご参照ください.

 ・ hellog 「#4892. 今秋出版予定の『ジーニアス英和辞典』第6版の新設コラム「英語史Q&A」の紹介」 ([2022-09-18-1])
 ・ hellog 「#4950. 最近の英語の変化のうねり --- 『ジーニアス英和辞典』第6版のまえがきより」 ([2022-11-15-1])
 ・ hellog 「#4975. 2重目的語を取る動詞,取りそうで取らない動詞」 ([2022-12-10-1])
 ・ heldio 「#532. 『ジーニアス英和辞典』第6版の出版記念に「英語史Q&A」コラムより spring の話しをします」
 ・ heldio 「#557. まさにゃん対談:supply A with B の with って要りますか? --- 『ジーニアス英和辞典』新旧版の比較」

Referrer (Inside): [2023-01-23-1]

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2022-06-26 Sun

#4808. なぜ女性に関する/対するタブーが多いのか? [gender][taboo][race][anthropology]

 タブー (taboo) という語を一般に広めた功績は,18世紀イングランドの大航海者 James Cook (1728--79),通称 Captain Cook に帰せられる(cf. 「#4162. taboo --- 南太平洋発、人類史上最強のパスワード」 ([2020-09-18-1]),「#4802. 絶対的タブーは存在しない」 ([2022-06-20-1])).例えば Cook は1768--71年のタヒチへの航海日誌にて,タヒチの女性は男性と一緒に食事をしないという風習に触れ,これを "Tabu" として言及している.
 この例をはじめとして,女性に「対して」課される種類のタブーは古今東西で非常に広くみられるようだ.同じように,女性に「関する」タブーやその周辺の話題にも事欠かない.例えば「#1908. 女性を表わす語の意味の悪化 (1)」 ([2014-07-18-1]) や「#1909. 女性を表わす語の意味の悪化 (2)」 ([2014-07-19-1]),「#908. bra, panties, nightie」 ([2011-10-22-1]),「#1483. taboo が言語学的な話題となる理由」 ([2013-05-19-1]),「#1507. taboo が言語学的な話題となる理由 (4)」 ([2013-06-12-1]) などからも,その匂いを感じ取ることができるだろう.
 一般に性 (gender) に関するタブーは普遍的であり,そのなかでもとりわけ女性に焦点が当てられることが多いということかと思われるが,なぜ男性ではなく女性なのだろうか.1つの見方によれば,多くの社会において女性へのタブーがみられることは,女性が男性よりも劣っているという一種の性的カースト制度・思想の反映と解釈できるのではないかという.Allan and Burridge (4) は,上記のタヒチのタブーの事例を念頭に,次のように述べている.

. . . we can look at this taboo in another way, as the function of a kind of caste system, in which women are a lower caste than men; this system is not dissimilar to the caste difference based on race that operated in the south of the United States of America until the later 1960s, where it was acceptable for an African American to prepare food for whites, but not to share it at table with them. This is the same caste system which permitted men to take blacks for mistresses but not marry them; a system found in colonial Africa and under the British Raj in India.


 上記のタヒチからの例は習慣・風習にまつわるタブーだが,世界の言語における言葉上のタブーについても「性的カースト」の観点から分析してみる価値がありそうだ.

 ・ Allan, Keith and Kate Burridge. Forbidden Words: Taboo and the Censoring of Language. Cambridge: CUP, 2006.

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2022-02-15 Tue

#4677. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第12回「単数の they って何?」 [notice][sobokunagimon][rensai][singular_they][number][agreement][personal_pronoun][gender]

 NHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」の3月号のテキストが発売されました.今回で連載「英語のソボクな疑問」も第12回となります.この1年間で読者の皆さんからも反響をいただきました.ありがとうございます.年度の締めとして,少々変わり種の話題を用意しました.「単数の they って何?」です.
 「みんな,自分が正しいと思っている」という意味で Everyone thinks they are right. という英文は可能ですが,何か違和感を感じませんか? そう,everyone は意味こそ「みんな」でも,文法的には単数扱いと習いましたね.とすれば,Everyone thinks he is right. とすればよいでしょうか.しかし,「みんな」は男性だけではないはずですので,he の使用にも違和感があります.であれば,Everyone thinks he or she is right. ほどが妥当でしょうか.ただ,まどろっこしくて舌をかみそうですね.結局,単複の問題は残りますが,ぐるっと一周して Everyone thinks they are right. 辺りに戻るのがよいのでは,という方向で落ち着きつつあります.「単数の they」 (singular_they) と呼ばれる用法です.

『中高生の基礎英語 in English』2022年3月号



 連載記事では,この「単数の they」について英語史の観点からできるかぎり分かりやすく解説しました.単なる文法の問題にとどまらず,社会的なテーマであり歴史的なトピックでもあることが理解ます.言葉の話題は,思いのほか広くて深いのですね.
 「単数の they」を深掘りしたいという方は,singular "they" に関する一連の記事セットをご参照ください.

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2022-02-07 Mon

#4669. heshe を区別しない世界英語の変種 [world_englishes][new_englishes][gender][category][variety][personal_pronoun][substratum_theory]

 現代の世界英語 (world_englishes) の多様性を前提とすれば,標題のような特性をもつ英語変種があったとしても驚かないだろう.3人称単数代名詞の使用において形態的に男女の区別をつけない変種,つまり標準英語のように heshe (および it)の区別を明確につけない変種があるのである.
 例えば,東アフリカ英語やマレーシア英語では,しばしば指示対象にかかわらず,いずれの3人称単数代名詞も用いられ得るという.Mesthrie and Bhatt (55--56) より,関係する箇所を引用する.

Gender has proved --- despite its minor role in English --- susceptible to variation in New Englishes. Some varieties use gender in pronouns differently. Platt, Weber and Ho . . . report that in some New Englishes where the background languages do not make a distinction between he, she and it, pronouns 'are often used indiscriminately'. They offer the following examples:

   41. My husband who was in England, she was by then my fiancé. (East Africa)
   42. My mother, he live in kampong. (Malaysia)

Since Bantu languages do not make sex-based distinction with pronouns, and the spoken forms of the Chinese languages of Singapore and Malaysia do not differentiate gender in 3rd person pronouns . . . , substrate influences may well be at work here.


 標準英語のみを知っている者にとって,これは驚くべき現象のように思われるかもしれない.しかし,英語史を研究している者にとっては,まったく驚くべきことではない.中英語では,方言にもよるが,しばしば he という3人称単数の代名詞形態が男性をも女性をも指示し得るからである.さらにひどい(!)場合には,(性を問わない)複数人称代名詞も同じ he で表わされたりする.中英語の場合には,意味論的な性の区別の消失ではなく,あくまで形態的な合一という原因により区別がつかなくなったということであり,上記の東アフリカ英語やマレーシア英語のケースとは事情が異なるのだが,「現代の World Englishes は広し」と叫ぶ前に「歴史的な英語諸変種もまた広し」と叫んでおきたい.

 ・ Mesthrie, Rajend and Rakesh M. Bhatt. World Englishes: The Study of New Linguistic Varieties. Cambridge: CUP, 2008.

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2022-01-17 Mon

#4648. 言語とジェンダーを巡る研究の3タイプ [gender][gender_difference][sociolinguistics][linguistic_ideology]

 昨日の記事「#4647. 言語とジェンダーを巡る研究の動向」 ([2022-01-16-1]) に引き続き,昨今の言語とジェンダーを巡る研究について.『日本語学大辞典』より「ジェンダー」の項を執筆している,この分野の第一人者である中村桃子氏によれば,同分野の研究には3つのタイプがあるという.

ジェンダー 社会文化的性差.1960年代にフェミニズムによって提案された.一般には「女らしさ,男らしさ」と呼ばれる.セックス(生物学的性別)と別にジェンダーを設定することにより,「女/男らしさ」は社会によってつくられ,ゆえに,変えられることを示した.多くの近代社会のジェンダーには,(1) 両極に2分されている,(2) 補い合う対をなす,(3) 非対称的な権力関係である(男が「主体」で,女は「他者」),(4) 人種・民族・階級・宗教・年齢など他の権力関係と交差している,などの特徴が認められる.しかし,セックスは生物学的事実でジェンダーは文化的構築物だとして両者を区別する考え方は,1980年代のポスト構造主義によって否定された.スコット (Joan Scott) は,ジェンダーとは「身体的差異に意味を付与する知」だと述べ,バトラー (Judith Butler) も,ジェンダーはセックスをあたかもその起源であるかのように遡及的に構築すると主張している.さらに,異性愛を規範とみなすセクシュアリティもジェンダーの2分法によって構築されていることが指摘され,セックスもセクシュアリティもジェンダーによって規定されていることが明らかになった.現在ジェンダーは人文社会科学に不可欠な重要概念である.言語とジェンダーの研究は,大きく3つに分けられる.第1は,ジェンダーに関する常識や知識(ジェンダー・イデオロギー)はどのように構築されたのかを明らかにする言説分析である.これは,常識や知識は言説によって作られるというフーコー (Michel Foucault) 等の指摘に基づいている.性差別表現や言葉によるセクハラなど,性差別を構成する言語の是正が提案された.また,女性語や男性語も,女性や男性が実際に使ってきた言葉使いではなく,言語に関わるジェンダー・イデオロギーとして捉え直され,言説による歴史的構築が研究されている.第2は,会話分析,談話分析,語用論などにより,ジェンダー・アイデンティティの構築過程を明らかにする分野である.初期の研究においては,ジェンダーを話し手の属性とみなす本質主義に基づいて,男女の話し方の違いを明らかにする性差研究が行われていた.しかし,人は,あらかじめ持っているアイデンティティを表現するためにことばを使っているのではなく,さまざまな話し方を使い分けることで多様なアイデンティティを表現していることが明らかになった.そこで,アイデンティティを言語行為の原因ではなく結果とみなす構築主義が提案された.ジェンダーは,言語行為によって作り上げるアイデンティティ,「ジェンダーする」行為の結果である.構築主義によれば,女性語のように特定のアイデンティティと結びついた言語要素は,女性に限らずだれもがアイデンティティ構築に利用できる言語資源として捉え直される.いつ,どのような言語資源をアイデンティティ構築に利用するのか,話し手の主体性が強調される.第3は,この主体的な言語行為が既存のジェンダー秩序を変革する方策を明らかにすることである.聞き手に理解してもらうためには,社会で共有されている言語資源を使うしかない.しかし社会には,限られたアイデンティティと結びついた言語資源しか用意されていない.その結果,話し手は,さまざまな言語資源を組み合わせたりずらしたりしながら,多様なアイデンティティを表現することになる.このような「ずれた言語行為」には,ジェンダーの支配関係を変化させる可能性がある.


 3つのタイプにラベルを貼りつければ,次のようになるだろうか.

 (1) 社会のジェンダー・イデオロギーの構築に関する研究
 (2) 個人のジェンダー・アイデンティティの構築に関する研究
 (3) 既存のジェンダー秩序の変革に関する研究

 なお,英語史研究においては,古い時代の文献を主に扱うからだろうか,いまだに言語使用の男女差という「古典的」というべき話題が多いように思われる.

 ・ 日本語学会(編) 『日本語学大辞典』 東京堂,2018年.

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2022-01-16 Sun

#4647. 言語とジェンダーを巡る研究の動向 [gender][gender_difference][sociolinguistics][history_of_linguistics][hellog_entry_set][variation][anthropology]

 本ブログでは主に社会言語学の観点から言語とジェンダーの問題を様々に取り上げてきた.gendergender_difference の各記事,とりわけ私が厳選した「言語と性」に関する記事セットを参照されたい.
 言語とジェンダーを巡る研究は,言語使用の男女差という問題にとどまらない.むしろ,男女差の問題は昨今は流行らなくなってきている.言語におけるジェンダーは,初期の研究で前提とされてきたように固定的な属性ではなく,むしろ動的な属性であるととらえられるようになってきたことが背景にある.Swann et al. からの引用 (165--66) により,現代の研究の動向をつかんでおきたい.

language and gender The relationship between language and gender has long been of interest within SOCIOLINGUISTICS and related disciplines. Early twentieth-century studies in LINGUISTIC ANTHROPOLOGY looked at differences between women's and men's speech across a range of languages, in many cases identifying distinct female and male language forms (although at this point language and gender did not exist as a distinct research area). GENDER has also been a SOCIAL VARIABLE in studies of LANGUAGE VARIATION carried out since the 1960s, a frequent finding in this case being that, among speakers from similar social class backgrounds, women tend to use more standard or prestige language features and men more vernacular language features. There has been an interest, within INTERACTIONAL SOCIOLINGUISTICS, in female and male interactional styles. Some studies have suggested that women tend to use more supportive or co-operative styles and men more competitive styles, leading to male DOMINANCE of mixed-gender talk. Feminist researchers, in particular, have also been interested in SEXISM, or sexist bias, in language.
   Studies that focus simply on gender differences have been criticised by feminist researchers for emphasising difference (rather than similarity); seeing male speech as the norm and female speech as deviant; providing inadequate and often stereotypical interpretations of WOMEN'S LANGUAGE; and ignoring difference in POWER between female and male speakers.
   More recently (and particularly in studies carried out since the late 1980s and 1990s) gender has been reconceptualised to a significant extent. It is seen as a less 'fixed' and unitary phenomenon than hitherto, with studies emphasising, or at least acknowledging, considerable diversity among female and male speakers, as well as the importance of CONTEXT in determining how people use language. Within this approach, gender is also seen less as an attribute that affects language use and more as something that is performed (or negotiated and perhaps contested) in interactions . . . .


 前世紀末以降,ジェンダーによる言語使用の差異というよりも,言語によるジェンダーの生成過程のほうに研究の関心が移ってきた,と要約できるだろう.構造主義からポスト構造主義への流れ,とも表現できる.

 ・ Swann, Joan, Ana Deumert, Theresa Lillis, and Rajend Mesthrie, eds. A Dictionary of Sociolinguistics. Tuscaloosa: U of Alabama P, 2004.

Referrer (Inside): [2022-01-17-1]

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2021-09-07 Tue

#4516. なぜ言語には男女差があるのか --- Chambers の新説 [gender][gender_difference]

 標題は社会言語学で最も注目されてきた(そして現在も注目されている)話題の1つであり,本ブログでも様々に扱ってきた.「#1361. なぜ言語には男女差があるのか --- 征服説」 ([2013-01-17-1]),「#1362. なぜ言語には男女差があるのか --- タブー説」 ([2013-01-18-1]),「#1363. なぜ言語には男女差があるのか --- 女性=保守主義説」 ([2013-01-19-1]),「#3455. なぜ言語には男女差があるのか --- 3つの立場」 ([2018-10-12-1]) をはじめ,gendergender_difference の各記事を参照されたい.
 Sharma の論考を通じて知ったのだが,著名な社会言語学者 Chambers が言語と性に関して,従来の説を再構築した新説を発表しているらしい(新説とはいっても Chambers (2009) のもので,私がアップデートしていなかっただけ).Sharma (236) からの孫引きで失礼するが,Chambers (138) が2つの仮説を提示している.

a. GENDER-BASED VARIABILITY (social organization)
   "[I]n societies where gender roles are sharply differentiated such that one gender has wider social contacts and greater geographical range, the speech of the less circumscribed gender will include more variants from the contiguous social groups".
b. SEX-BASED DIFFERENCE (biology)
   "[T]he neuropsychological verbal advantage of females results in sociolinguistic discrepancies such that women use a larger repertoire of variants and command a wider range of styles than men of the same social groups even though gender roles are similar or identical".


 確かに従来の言語と性に関する説に比べて,社会学的にも生物学的よりも一般化された仮説の設定となっている.

 ・ Sharma, Devyani. "World Englishes and Sociolinguistics." Chapter 12 of The Oxford Handbook of World Englishes. Ed. by Markku Filppula, Juhani Klemola, and Devyani Sharma. New York: OUP, 2017. 232--51.
 ・ Chambers, J. Sociolinguistic Theory. Rev. ed. Oxford: Wiley-Blackwell, 2009.

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2021-04-10 Sat

#4366. 英語における言語と性の問題について [gender][gender_difference][sociolinguistics][link][khelf_hel_intro_2021][masanyan]

 標題の2つのキーワード「言語」と「性」と聞いてピンと来る場合にも,そのピンの種類には3通りがありそうです.まず,昨今の「性」にまつわる種々の用語問題を思い浮かべる人も少なくないでしょう.英語に関していえば,たとえば singular they の問題があります(cf. 「#1054. singular they」 ([2012-03-16-1])).また,昨秋 JAL が乗客に対して「レディース・アンド・ジェントルメン」の呼びかけをやめ「オール・パッセンジャーズ」へ切り替える決定をしたという事例もあります(cf. 「#4182. 「言語と性」のテーマの広さ」 ([2020-10-08-1])).
 しかし,むしろ言語学的な意味での性,いわゆる文法性 (grammatical gender) を思い浮かべる人もいると思います.特にフランス語,ドイツ語,ロシア語等の英語以外のヨーロッパの諸言語を学んだことがあれば,名詞に割り振られている文法上の性 (gender) のことが最初に想起される,という人も多いに違いありません.
 ほかには,日本語の「男言葉」と「女言葉」のように,話者によって言葉使いが変わる現象を指して,言語における性を考えるという向きもあるでしょう (cf. gender_difference) .
 上記3種類の「言語における性」は,確かに互いに異なる「性」の側面に注目していることは確かです.しかし,私はこれらすべてが精妙なやり方で関連し合っていると考えています.言語と性に関わる探究においては,上記のような一見異なる諸側面を分割しないないほうがよいだろうと考えています.
 このテーマは,多くの人が思っている以上に幅広いのです.この幅広さについては,私の厳選した「言語と性」に関する記事セットをご覧いただければと思います.ほかにも,gendergender_difference の記事も要参照.
 さて,この4月初めに立ち上げた「英語史導入企画2021」の一環として,昨日,慶應義塾大学大学院の学生より「コロナ(Covid-19)って男?女?」と題する,非常に興味深いコンテンツがアップロードされました.コンテンツの作者は,YouTube 「まさにゃんチャンネル」を運営する「まさにゃん」です(cf. 「#4005. オンラインの「まさにゃんチャンネル」 --- 英語史の観点から英単語を学ぶ」 ([2020-04-14-1])).まさにゃんは公的に活動している英語史の伝道師で,数週間前には母校の鳥取県立八頭高等学校にて英語史と英語学習に関する授業も担当したとのことです.上記のコンテンツも,英語における「言語と性」の問題を考えるきっかけを与えてくれる好コンテンツですので,こちらもどうぞ一読を.

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2021-03-28 Sun

#4353. 擬人法 [personification][metaphor][rhetoric][stylistics][terminology][literature][gender]

 擬人法 (personification) は,文学的・修辞的な技法として知られているが,専門用語というよりは一般用語としても用いられるほどによく知られた用語・概念でもある.広く認知されているがゆえに,学術的に扱おうとするとなかなか難しい種類の話題かもしれない.
 とりわけ言語学的に扱おうとする場合,どのようなアプローチが可能なのだろうか.この問題について本格的に考えたこともないので,まず取っ掛かりとして,種々の英語学辞典に当たってみた.最初は『英語学要語辞典』から.

personification 〔体〕(擬人化,擬人法) Fair science frowned not on his humble birth.---T. Gray, Elegy (美しき学問は彼の卑しい素性をいといはしなかった)のように,抽象概念や無生物に人間と同様の性質を与える修辞上の技巧.隠喩の一種で,英文学においては古英詩(特に謎詩)で用いられ始め,中世の道徳劇,寓意詩にもみられる.小説でもその用法は散見され,ゴシック小説では表現上の重要な特性とされている.なお,<+有生>など名詞の素性および選択規則という変形理論の適用により,擬人法を統一的に記述・説明することが可能である.


 次に『新英語学辞典』より.

 personification 〔修〕(擬人化,擬人法)
 無生物や抽象概念を生物扱いしたり,感情など人間特有の性質を持つものとして表現する修辞技巧.擬人化は prosopropeia とも呼ばれ,隠喩 (METAPHOR) の一種で詩で古くから用いられた.Leech (1969) は 'an angry sky' や 'graves yawned' のように,無生物に生物の属性を付与するものを the animistic metaphor, 'this friendly river' や 'laughing valeys' のように,人間以外のものに人間特有の性質を付与するものを the humanizing [anthropomorphic] metaphor と名づけている.I. A. Richards (1929) が指摘しているように,人間以外の生物や無生物に対して抱く感情や思考は,人間相互の感情や思考と共通するもので,従って日常の言語ではもっぱら人間について用いる形容詞・動詞・代名詞を人間以外のものに適用するのはきわめて自然と言えよう.
 擬人化は中世の寓意詩にまで遡ることができるが,その伝統を受けついだ Milton は "all things smil'd, With fragrance and with joy my heart oreflowd"---Paradise Lost 8: 265--66 のように,この修辞法を好んで用いた.擬古典主義の時代に入ると,Thomas Parnell, Richard Savage, Edward Young など,18世紀の詩人の言語の大きな特色となり,ますます装飾的な性格を帯びるようになった.しかし,やがてロマン派が台頭し,'the very language of men' を詩の言語たらしめることを標榜した Wordsworth は,慣習的な擬人化を 'a mechanical device of style' として斥けた (Preface to Lyrical Ballads, 1798).
 このように,擬人化は詩の言語の伝統的手法であって,散文における比喩表現は直喩 (SIMILE) の形式をとるのがふつうであるが,詩的な散文では効果的に用いられることがある.例えば,Thomas Hardy が Egdon Heath を描写している次のパラグラフでは,観察者の存在を暗示する appeared, seemed, could be imagined 以外の動詞は,闇夜の荒野を擬人化して描き出している: The place became full of watchful intentness now; for when other things sank brooding to sleep the heath appeared slowly to awake and listen. Every night its Titanic form seemed to await something; but it had waited thus, unmoved, during so many centuries, through the crises of so many things, that it could only be imagined to await one last crisis---the final overthrow.---The Return of the Native. Bk. I, Ch. I.


 英語における擬人法は,上記の通り,およそ修辞学的・文学史的な観点から話題にされてきたものであり,言語学的・意味論的なアプローチは稀薄だったように思われる.そもそも後者のアプローチとしては,どのようなものがあるのだろうか.探ってみる必要がありそうだ.関連して,「#2191. レトリックのまとめ」 ([2015-04-27-1]) の「擬人法」を参照.

 ・ 寺澤 芳雄(編) 『英語学要語辞典』 研究社,2002年.
 ・ 大塚 高信,中島 文雄(監修) 『新英語学辞典』 研究社,1982年.

Referrer (Inside): [2021-03-29-1]

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2020-12-24 Thu

#4259. クリスマスの小ネタ5本 [vowel][political_correctness][gender][preposition][christmas]

 クリスマスイブですね.クリスマスに関連する話題を5本お届けします.

(1) Christmas は,Christ + mass (キリストのミサ)という成り立ちです.英語 mass は低母音,フランス語 messe は中母音,語源の(後期)ラテン語 missa は高母音となり,言語ごとにチグハグ.ということは,日本語「ミサ」はラテン語系統(スペイン語やポルトガル語も同様に高母音)とみてよいですね.

(2) クリスマスにお似合いの「雪だるま」は,単数形 snowman [ˈsnəʊ mæn] に対して複数形 snowmen [-men].何の問題もなさそうですね.ところが,クリスマスカードを配達してくれる「郵便集配人」は,単数形 postman [ˈpoʊst mən] に対して複数形 postmen [-mən].-man 複合語の単複形の母音は厄介です.

(3) 性に関する PC (= political_correctness) により,chairmanchair(person) に,そして salesmansalesperson になったりしたけれど,さすがに snowman は *snowperson にならなかったですね.しかし,『ジーニアス英和大辞典』には snow figure という見出し語があり驚いた!

(4) at は時間的にも空間的にも狭い場合に,それに対して on は相対的に広い場合に用いると習うことが多いと思います.しかし,at Christmas は広く「クリスマスシーズンに」(12月24日から1月1日くらいまで)を指し,on Christmas は狭く「12月25日に」を指します.前者 at Christmastide (cf. 「#4246. Christmastide」 ([2020-12-11-1])) のことで,後者は on Christmas Day のことだからですが,何だかチグハグです.

(5) クリスマスの挨拶といえば Merry Christmas.しかし,イギリス英語ではしばしば Happy Christmas とも.また,キリスト教色を避けて Happy Holidays もあります.

 皆さん,よいクリスマスを!

Referrer (Inside): [2022-12-24-1]

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2020-10-21 Wed

#4195. なぜ船や国名は女性代名詞 she で受けられることがあるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][gender][personal_pronoun][personification][pc]

 今でも英文法書などで触れられる機会があるからでしょうか,標題の質問はよく問われます.船や国名は無生物ですから,人称代名詞としては中性の人称代名詞 it で受けるのが適切のように思われますが,ときに女性の人称代名詞 she で受けられます.

 ・ There were over two thousand people aboard the Titanic when she left England.
 ・ Look at my sports car. Isn't she a beauty?
 ・ France increased her exports by 10 per cent.
 ・ After India became independent, she chose to be a member of the Commonwealth.

 英語の歴史を少しかじっている方は,古英語には,フランス語やドイツ語などに現在も存在している文法性 (grammatical gender) があったということを知っているかと思います.古英語ではすべての名詞が男性,女性,中性のいずれかに振り分けられており,しかもその名詞の指示対象の生物学的な性とは必ずしも一致していなかったという,厄介な名詞分類があったのです.すると,船や国家を受ける she も古英語時代の文法性の名残ではないかと疑われるかもしれません.
 しかし,そうではありません.「船」についていえば古英語の sċip (ship) は中性名詞でしたし,bāt (boat) も男性名詞でした.つまり,古英語の文法性は無関係です.では,なぜ現代英語では she が用いられることがあるのでしょうか.解説をどうぞ.



 古英語で機能していた文法性は,中英語期にかけて崩壊していきます.この中英語期に,大陸の文学・文化の影響を受けて,前時代の文法性とは独立した「擬人性」という別種のジェンダーが発達することになったのです.船を始めとする乗り物や道具,そして国家などは,その舵取り役は歴史を通じて主に男性が担ってきました.船首や為政者である男性は,船や国家を「連れ合い」「愛人」「支配・制御すべきもの」として女性に見立てたということかもしれません.
 ただし,近年の英語ではこの慣習は失われてきており,とりわけ公的な言葉使いとしては避けられるようになってきていることは付け加えておきましょう.
 ということで,標題の素朴な疑問に対しては,中英語期以降に発達した「擬人性」の伝統を受け継いできたから,と答えておきます.この話題について深く知りたい方は,ぜひ ##3647,852,853,854,1912,1028,1517の記事セット をどうぞ.

Referrer (Inside): [2023-01-01-1] [2022-01-01-1]

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2020-10-08 Thu

#4182. 「言語と性」のテーマの広さ [sociolinguistics][hellog_entry_set][political_correctness][personal_pronoun][gender][gender_difference][taboo][slang][personification]

 いよいよ始まった今学期の社会言語学の授業では「言語と性」という抜き差しならぬテーマを扱う.このテーマから連想される話題は多岐にわたる.あまりに広い範囲を覆っているために,一望するのが困難なほどである.実際に,授業の履修生に連想される話題を箇条書きで挙げてもらったところ,のべ1,000件を優に超える話題が集まった.重複するものも多く,整理すればぐんと減るとは思われるが,それにしても凄い数だ(←皆さん,協力ありがとう).その一部を覗いてみよう.

 ・ (英語を除く)主要な印欧諸語にみられる文法性 (grammatical gender)
 ・ 代名詞にみられる性差
 ・ 職業名や称号を巡るポリティカル・コレクトネス (political_correctness)
 ・ LGBTQ と言語
 ・ 擬人化された名詞の性
 ・ 人名における性
 ・ 「男言葉」と「女言葉」
 ・ 性に関するスラングやタブー語
 ・ 性別によるコミュニケーションの取り方の違い
 ・ イントネーションの性差

 そもそも,古今東西すべての言語で,「男」 (man) と「女」 (woman) という2つの単語が区別されて用いられている点からして,もう言語における性の話しは始まっているのである.最先端の関心事である LGBTQ やポリティカル・コレクトネスの問題に迫る以前に,すでに性は言語に深く刻まれている.
 最先端の話題ということでいえば,10月2日の読売新聞朝刊で,JAL が乗客に対する「レディース・アンド・ジェントルメン」の呼びかけをやめ「オール・パッセンジャーズ」へ切り替える決定をしたとの記事を読んだ.人間の関心事としては最重要なものの1つとして認識される性,それが人間に特有の言語という体系に埋め込まれていないわけがないのである.
 「言語と性」のテーマの広さを味わうところから議論を始めたいと思っている.こちらの hellog 記事セットをどうぞ.

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2020-05-19 Tue

#4040. 「言語に反映されている人間の分類フェチ」の記事セット [fetishism][gender][category][taxonomy][hellog_entry_set]

 昨日の記事「#4039. 言語における性とはフェチである」 ([2020-05-18-1]) で,言語における性 (gender) とは,かつての言語共同体の抱いていた独自の世界観(=物の見方のフェチ)を反映した名詞の分類法であるという趣旨で議論を展開した.実は,性に限らず文法カテゴリー (category) というものは,およそそのような人間の分類フェチの現われたものではないかと考えている.文法から離れても,語彙の分類などはまさにフェチのたまものだ.
 本ブログでは,この観点から様々な記事を書いてきたので,この辺りで記事セットをまとめておきたい.

 ・ 「言語に反映されている人間の分類フェチ」の記事セット

 なお,日本語のフェチとはフェティシズムの略で,手元にあった『広辞苑第六版』を引くと「呪物崇拝」「物神崇拝」「異性の衣類・装身具などに対して,異常に愛着を示すこと.性的倒錯の一種.」とある.英語の fetishism のもととなる fetish (n.) については,OALD8 によると以下の通り.

1 (usually disapproving) the fact that a person spends too much time doing or thinking about a particular thing
 ・ She has a fetish about cleanliness.
 ・ He makes a fetish of his work.
2 the fact of getting sexual pleasure from a particular object
 ・ to have a leather fetish
3 an object that some people worship because they believe that it has magic powers


 言語のカテゴリーについて私がインフォーマルに用いている「フェチ」という表現は,「ある言語共同体の特有の思考法や分類法が言語上に反映されたもの」ほどの意である.

Referrer (Inside): [2024-02-05-1]

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2020-05-18 Mon

#4039. 言語における性とはフェチである [fetishism][gender][category][sobokunagimon][cognate][sociolinguistics][cognitive_linguistics][sapir-whorf_hypothesis][hellog_entry_set]

 言語における文法上の性 (grammatical gender) は,それをもたない日本語や英語の話者にとっては実に不可解な現象に映る.しかし,印欧語族ではフランス語,スペイン語,ドイツ語,ロシア語,ラテン語などには当たり前のように見られるし,英語についても古英語までは文法性が機能していた.世界を見渡しても,性をもつ言語は多々あり,4つ以上の性をもつ言語も少なくない.
 古英語の例で考えてみよう.古英語では個々の名詞が原則として男性 (masculine),女性 (feminine),中性 (neuter) のいずれかに振り分けられているが,その区分は必ずしも生物学的な性,すなわち自然性 (natural gender) とは一致しない.女性を意味する wīf (形態的には現代の wife に連なる)は中性名詞ということになっているし,同じく「女性」を意味する wīfmann (現代の woman に連なる)はなんと男性名詞である.「女主人」を意味する hlǣfdiġe (現代の lady に連なる)は女性名詞なので安堵するが,無生物であるはずの stān (現代の stone)は男性名詞であり,lufu (現代の love)は女性名詞である.分類基準がよく分からない(cf. 「#3293. 古英語の名詞の性の例」 ([2018-05-03-1])).
 古英語の話者を捕まえて,いったいなぜなのかと尋ねることができたとしても,返ってくる答えは「わからない,そういうことになっているから」にとどまるだろう.現代のフランス語話者にも尋ねてみるとよい.なぜ太陽 soleil は男性名詞で,月 lune は女性名詞なのかと.そして,ドイツ語話者にも尋ねてみよう.なぜ逆に太陽 Sonne が女性名詞で,月 Mund が男性名詞なのかと.いずれの話者も納得のいく答えを返せないだろうし,言語学者にも答えられない.
 言語の性とは何なのか.私は常々標題のように考えてきた.言語における性とはフェチなのである.もう少し正確にいえば,言語における性とは人間の分類フェチが言語上に表わされた1形態である.
 人間には物事を分類したがる習性がある.しかし,その分類の仕方については個人ごとに異なるし,典型的には集団ごとに,とりわけ言語共同体ごとに異なるものである.それぞれの分類の原理はその個人や集団が抱いていた世界観,宗教観,人生観などに基づくものと推測されるが,それらの当初の原理を現在になってから復元することはきわめて困難である.現在にまで文法性が受け継がれてきたとしても,かつての分類原理それ自体はすでに忘れ去られており,あくまで形骸化した形で,この語は男性名詞,あの語は女性名詞といった文法的な決まりとして存続しているにすぎないからだ.
 世界観,宗教観,人生観というと何やら深遠なものを想起させるが,そのような真面目な分類だけでなく,ユーモアやダジャレなどに基づくお遊びの分類も相当に混じっていただろう.そのような可能性を勘案すれば,性とはフェティシズム (fetishism),すなわちその言語集団がもっていた物の見方の癖くらいに理解しておくのが妥当だろう.いずれにせよ現在では真には理解できず,復元もできないような代物なのだ.自分のフェチを他人が理解しにくく,他人のフェチを自分が理解しにくいのと同じようなものだ.
 言語学用語としての gender を「性」と訳してきたことは,ある意味で不幸だった.英単語 gender は,ラテン語 genus が古フランス語 gendre を経て中英語期にまさに文法用語として入ってきた単語である.genus の原義は「種族,種類」ほどであり,現代フランス語で対応する genre は「ジャンル,様式」である.英語本来語である kind 「種類」も,実はこれらと同根である.確かに人類にとって決して無関心ではいられない人類自身の2分法は男女の区別だろう.最たる gender がとりわけ男女という sex の区別に適用されたこと自体は自然である.しかし,こと言語の議論について,これを「性」と解釈し翻訳してしまったのは問題だった.gender, genre, kind は,もともと男女の区別に限らず,あらゆる観点からの物事の区別に用いられるはずであり,いってみれば単なる「種類」を意味する普通名詞なのである.これを男性と女性(およびそのいずれでもない中性)という sex に基づく種類に限ってしまったために,なぜ「石」が男性名詞なのか,なぜ「愛」が女性名詞なのか,なぜ「女性」が中性名詞や男性名詞なのかという混乱した疑問が噴出することになってしまった.
 この問題への解決法は「gender = 男女(中)性の区別」というとらえ方から解放され,A, B, C でもよいし,イ,ロ,ハでもよいし,甲,乙,丙でも何でもよいので,さして意味もない単なる種類としてとらえることだ.古英語では「石」はAの箱に入っている,「愛」はBの箱に入っている等々.なまじ意味のある「男」や「女」などのラベルを各々の箱に貼り付けてしまうから,話しがややこしくなる.
 このとらえ方には異論もあろう.上では極端な例外を挙げたものの,多くの文法性をもつ言語で,男性(的なもの)を指示する名詞は男性名詞に,女性(的なもの)を指示する名詞は女性名詞に属することが多いことは明らかだからだ.だからこそ「gender = 男女(中)性の区別」の解釈が助長されてきたのだろう.しかし,それではすべてを説明できないからこそ,一度「gender = 男女(中)性の区別」の見方から解放されてみようと主張しているのである.男女の違いは確かに人間にとって関心のある区別だろう.しかし,過去に生きてきた無数の人間集団は,それ以外にも現在では推し量ることもできないような変わった関心,独自のフェティシズムをもって物事を分類してきたのではないか.それが形骸化したなれの果てが,フランス語,ドイツ語,あるいは古英語に残っている gender ということではないか.
 私は gender に限らず言語における文法カテゴリー (category) というものは,基本的にはフェティシズムの産物だと考えている.人類言語学 (anthropological linguistics),社会言語学 (sociolinguistics),認知言語学 (cognitive_linguistics),「サピア=ウォーフの仮説」 (sapir-whorf_hypothesis) などの領域にまたがる,きわめて広大な言語学上のトピックである.
 gender の話題ついては,gender の記事群のほか,改めて「言語における性の問題」の記事セットも作ってみた.こちらも合わせてどうぞ.

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2020-04-13 Mon

#4004. 古英語の3人称代名詞の語頭の h [h][oe][personal_pronoun][indo-european][germanic][etymology][paradigm][number][gender]

 古英語の3人称代名詞の屈折表について「#155. 古英語の人称代名詞の屈折」 ([2009-09-29-1]) でみたとおりだが,単数でも複数でも,そして男性・女性・中性をも問わず,いずれの形態も h- で始まる.共時的にみれば,古英語の h- は3人称代名詞マーカーの機能を果たしていたといってよいだろう.ちょうど現代英語で th- が定的・指示的な語類のマーカーであり,wh- が疑問を表わす語類のマーカーであるのと同じような役割だ.
 非常に分かりやすい特徴ではあるが,皮肉なことに,この特徴こそが中英語にかけて3人称代名詞の屈折体系の崩壊と再編成をもたらした元凶なのである.古英語では,h- に続く部分の母音等の違いにより性・数・格をある程度区別していたが,やがて屈折語尾の水平化が生じると,性・数・格の区別が薄れてしまった.たとえば古英語の (he), hēo (she), hīe (they) が,中英語では(方言にもよるが)いずれも hi などの形態に収斂してしまった.h- そのものは変化しなかったために,かえって混乱を来たすことになったわけだ.かつては「非常に分かりやすい特徴」だった h- が,むしろ逆効果となってしまったことになる.
 そこで,この問題を解決すべく再編成のメカニズムが始動した.h- ではない別の子音を語頭にもつ she が女性単数主格に,やはり異なる子音を語頭にもつ they が複数主格に進出し,後期中英語までに古形を置き換えたのである(これらに関する個別の問題については「#713. "though" と "they" の同音異義衝突」 ([2011-04-10-1]),「#827. she の語源説」 ([2011-08-02-1]),「#974. 3人称代名詞の主格形に作用した異化」 ([2011-12-27-1]),「#975. 3人称代名詞の斜格形ではあまり作用しなかった異化」 ([2011-12-28-1]),「#1843. conservative radicalism」 ([2014-05-14-1]),「#2331. 後期中英語における3人称複数代名詞の段階的な th- 化」 ([2015-09-14-1]) を参照).
 さて,古英語における h- は共時的には3人称代名詞マーカーだったと述べたが,通時的にみると,どうやら単数系列の h- と複数系列の h- は起源が異なるようだ.つまり,h- は古英語期までに結果的に「非常に分かりやすい特徴」となったにすぎず,それ以前には両系列は縁がなかったのだという.Lass (141) を参照した Marsh (15) は,単数系列の h- は印欧祖語の直示詞 *k- にさかのぼり,複数系列の h- は印欧祖語の指示代名詞 *ei- ? -i- にさかのぼるという.後者は前者に基づく類推 (analogy) により,後から h- を付け足したということらしい.長期的にみれば,この類推作用は古英語にかけてこそ有用なマーカーとして恩恵をもたらしたが,中英語にかけてはむしろ迷惑な副作用を生じさせた,と解釈できるかもしれない.
 なお,上で述べてきたことと矛盾するが「#467. 人称代名詞 it の語頭に /h/ があったか否か」 ([2010-08-07-1]) という議論もあるのでそちらも参照.

 ・ Marsh, Jeannette K. "Periods: Pre-Old English." Chapter 1 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1--18.
 ・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.

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2020-04-10 Fri

#4001. want の英語史 --- 語末の t [old_norse][loan_word][borrowing][inflection][adjective][gender][impersonal_verb]

 連日 want という語を英語史的に掘り下げる記事を書いている(過去記事は [2020-04-08-1][2020-04-09-1]).今回は語末の t について考えてみたい.
 英語史の教科書などでは,want のような日常的な単語が古ノルド語からの借用語であるというのは驚くべきこととしてしばしば言及される.また,語末の t が古ノルド語の形容詞の中性語尾であることも指摘される(cf. 「#1253. 古ノルド語の影響があり得る言語項目」 ([2012-10-01-1])).しかし,この t を巡っては意外と込み入った事情がある.
 「#3999. want の英語史 --- 語源と意味変化」 ([2020-04-08-1]) で触れたように,英語の名詞 want と動詞 want とは語幹こそ確かに同一だが,入ってきた経路は異なる.名詞 want は,古ノルド語の形容詞 vanr (欠いた)が中性に屈折した vant という形態が名詞的に用いられるようになったものである.一方,動詞 want は古ノルド語の動詞 vanta (欠く,欠いている)に由来する.つまり,語根に対応する wan の部分こそ共通とみてよいが,語末の t に関しては,名詞の場合には形容詞の中性語尾に由来するといわなければならず,動詞の場合には(未調査だが)また別に由来があるということになる.したがって,wantt は形容詞の中性語尾であるという教科書的な指摘は,名詞としての want にのみ当てはまるということだ.
 動詞の t については別途調べることにし,ここでは教科書で言及される,名詞の t が形容詞の中性語尾に由来する件について掘り下げたい.すでに述べたように,古ノルド語 vanr は形容詞で「?を欠いている」 (lacking) を意味した(古英語の形容詞 wana と同根語).古ノルド語では,これが be 動詞と組み合わさって非人称構文を構成した.OED の want, adj. and n.2 の語源欄に,次のように記述がある.

Old Icelandic vant (neuter singular adjective) is used predicatively in expressions of the type vera vant to be lacking, typically with the person lacking something in the dative and the thing that is lacking in the genitive and with vant thus behaving similarly to a noun (compare e.g. var þeim vettugis vant they were lacking nothing, they had want of nothing, or var vant kýr a cow was missing, there was want of a cow).


 形容詞としての vanr (中性形 vant)は,つまり "was VANT to them of nothing" (彼らにとって何も欠けていなかった)のように主語のない非人称構文において用いられていたということである.この用法がよほど高頻度だったのだろうか,古ノルド語話者と接触した英語話者は,中性に屈折した vant それ自体があたかも語幹であるかのように解釈し,語頭子音を英語化しつつ t 語尾込みの want を「欠乏,不足」を意味する名詞として受容したと考えられる.
 語の借用においては,受け入れ側の話者が相手言語の文法に精通していないかぎり,屈折語尾を含めて語幹と勘違いして,「原形」として取り込んでしまう例はいくらでもあったろう.実際,形容詞の中性語尾に由来する t をもつ他の例として,scant (乏しい), thwart (横切って), wight (勇敢な),†quart (健康な)などが挙げられる.
 関連して,フランス語の不定詞語尾 -er を含んだまま英語に取り込まれた cesser, detainer, dinner, merger, misnomer, remainder, surrender なども,ある意味で類例といえるだろう.これにつていは「#220. supper は不定詞」 ([2009-12-03-1]),「#221. dinner も不定詞」 ([2009-12-04-1]) を参照.

Referrer (Inside): [2020-04-11-1]

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