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idiom - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-12-04 15:55

2024-10-27 Sun

#5662. 英語の慣用表現にみるフランス語の影 --- 月刊『ふらんす』の連載記事第8弾 [hakusuisha][french][loan_translation][idiom][rensai][furansu_rensai][phrase][phraseology][norman_conquest]


furansu_202411.png

  *

 10月25日,白水社の月刊誌『ふらんす』11月号が刊行されました.今年度,連載記事「英語史で眺めるフランス語」を寄稿しています.今回は連載第8回は「英語の慣用表現にみるフランス語の影」です.フランス語の影響は,英語の単語のみならず慣用表現あるいはイディオム (idiom) にまで及んでいます.3つの小見出しのもと,次のような趣旨で書いています.

 1. 慣用表現の「なぞり」
   1066年のノルマン征服以降,英語がフランス語から大きな言語的影響を受けた背景を振り返りつつ,語彙のみならず慣用表現や「言い回し」も借用されてきたことが指摘されます.とりわけ「なぞり」や翻訳借用 (loan_translation) の話題に注目します.
 2. フランス語から英語へとなぞられた慣用表現
   中心となる時期は,予想通りノルマン征服後(主に13--15世紀)です.フランス語の慣用表現が英語へそのまま,あるいは部分的に借用された事例を多く挙げています.
 3. フランス語的な英語表現は現代にも多く残る
   フランス語からのなぞり表現の多くが現在まで生き残り,現役で使用されている事実に注目します.中英語期の翻訳作業を通じて,英語はフランス語から豊かな表現形式を借用してきたのです.

 通常より一歩上を行くレベルの英語史におけるフランス語影響論となっていますので,ぜひ『ふらんす』11月号を手に取っていただければと思います.過去7回の連載記事も furansu_rensai の各記事で紹介してきましたので,どうぞご参照ください.

 なお,フランス語が英語の(語彙ではなく)慣用表現に与えた影響については,本ブログの以下の記事でも話題にしてきましたので,そちらもどうぞ.

 ・ 「#2351. フランス語からの句動詞の借用」 ([2015-10-04-1])
 ・ 「#2395. フランス語からの句の借用」 ([2015-11-17-1])
 ・ 「#2396. フランス語からの句の借用に対する慎重論」 ([2015-11-18-1])

 ・ 堀田 隆一 「英語史で眺めるフランス語 第8回 英語の慣用表現にみるフランス語の影」『ふらんす』2024年11月号,白水社,2024年10月25日.52--53頁.

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2024-07-18 Thu

#5561. イディオムとは何か? [idiom][terminology][collocation][semantics][syntax]



 先日,Voicy heldio で「#1139. イディオムとイディオム化 --- 秋元実治先生との対談 with 小河舜さん」をお届けしました.本編の冒頭で話題にしましたが,そもそもイディオム (idiom) とは何なのでしょうか?
 上記の配信回でも参照した秋元 (33--34) によると,イディオムの定義は次の通りです.

 イディオムの定義としては,意味上,統語上の基準に照らし合わせて,次のような特徴を持ち合わせたものと言える:
(i)  意味的不透明性,あるいは非合成性 (non-compositionality).イディオムの意味はその成分の総和から出てこない.よく知られている例として,
    kick the bucket = die
  がある.
(ii)  統語上の変形を許さない.すなわち,Chafe (1968) の言う 'transformational deficiency' である.上例のイディオムは「死ぬ」という意味では受動形は不可である:
    *The bucket was kicked by Sam.
(iii)  イディオム内の成分の語彙的代用はできない.すなわち,「語彙的完全無欠性」である.
    have a crush on → *have a smash on
 Numberg et al. (1994) はイディオム的意味が各成分に分配されていないイディオム(例:saw logs = snore)を 'idiomatic phrase',そしてイディオム的意味が各成分に分配されているイディオム(例:spill the beans = divulge the information) を 'idiomatic combination' と呼び,分けている.


 ただし,ある表現がイディオムかどうかというのは,上記の条件から予想されるように自動的に,あるいはカテゴリカルに決まるような代物ではありません.イディオム性 (idiomaticity) という連続体の概念を念頭に置く必要がありそうです.

 ・ 秋元 実治 『増補 文法化とイディオム化』 ひつじ書房,2014年.
 ・ Chafe, Wallace. "Idiomaticity as an Anomaly in the Chomskyan Paradigm." Foundations of Language 4 (1968): 107--27.
 ・ Numberg, Geoffrey, Ivan A. Sag and Thomas Wasow. "Idioms." Language 70 (1994): 481--538.

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2024-07-14 Sun

#5557. 秋元実治(著)『増補 文法化とイディオム化』(ひつじ書房,2014年) [toc][grammaticalisation][idiomatisation][idiom][composite_predicate][syntax][lexicology][frequency][lexicalisation][preposition][phrasal_verb][voicy][heldio]


秋元 実治 『増補 文法化とイディオム化』 ひつじ書房,2014年.



 先日,秋元実治先生(青山学院大学名誉教授)と標記の書籍を参照しつつ対談しました.そして,その様子を一昨日 Voicy heldio で「#1139. イディオムとイディオム化 --- 秋元実治先生との対談 with 小河舜さん」として配信しました.中身の濃い,本編で22分ほどの対談回なっております.ぜひお時間のあるときにお聴きください.



 秋元実治(著)『増補 文法化とイディオム化』(ひつじ書房,2014年)については,これまでもいくつかの記事で取り上げてきており,とりわけ「#1975. 文法化研究の発展と拡大 (2)」 ([2014-09-23-1]) で第1章の目次を挙げましたが,今回は今後の参照のためにも本書全体の目次を掲げておきます.近日中に対談の続編を配信する予定です.



改訂版はしがき
はしがき

理論編
  第1章  文法化
    1.1  序
    1.2  文法化とそのメカニズム
      1.2.1  語用論的推論 (Pragmatic inferencing)
      1.2.2  漂白化 (Bleaching)
    1.3  一方向性 (Unidirectionality)
      1.3.1  一般化 (Generalization)
      1.3.2  脱範疇化 (Decategorialization)
      1.3.3  重層化 (Layering)
      1.3.4  保持化 (Persistence)
      1.3.5  分岐化 (Divergence)
      1.3.6  特殊化 (Specialization)
      1.3.7  再新化 (Renewal)
    1.4  主観化 (Subjectification)
    1.5  再分析 (Reanalysis)
    1.6  クラインと文法化連鎖 (Grammaticalization chains)
    1.7  文法化とアイコン性 (Iconicity)
    1.8  文法化と外適応 (Exaptation)
    1.9  文法化と「見えざる手」 (Invisible hand) 理論
    1.10  文法化と「偏流」 (Drift) 論
  
  第2章  イディオム化
    2.1  序
    2.2  イディオムとは
    2.3  イディオム化
    2.4  イディオム化の要因
      2.4.1  具体的から抽象的
      2.4.2  脱範疇化 (Decategorialization)
      2.4.3  再分析 (Reanalysis)
      2.4.4  頻度性 (Frequency of occurrence)
    2.5  イディオム化,文法化及び語彙化

分析例
  第1章  初期近代英語における複合動詞の発達
    1.1  序
    1.2  先行研究
    1.3  データ
    1.4    複合動詞のイディオム的特徴
      1.4.1  Give
      1.4.2  Take
    1.5  ジャンル間の比較: The Cely LettersThe Paston Letters
    1.6  結論

  第2章  後期近代英語における複合動詞
    2.1  序
    2.2  先行研究
    2.3  データ
    2.4  構造の特徴
    2.5  関係代名詞化
    2.6  各動詞の特徴
      2.6.1  Do
      2.6.2  Give
      2.6.3  Have
      2.6.4  Make
      2.6.5  Take
    2.7  複合動詞と文法化
    2.8  結論
  
  第3章  Give イディオムの形成
    3.1  序
    3.2  先行研究
    3.3  データ及び give パタンの記述
    3.4  本論
      3.4.1  文法化とイディオム形成
      3.4.2  再分析と意味の漂白化
      3.4.3  イディオム化
      3.4.4  名詞性
      3.4.5  構文と頻度性
    3.4  本論
      3.4.1  文法化とイディオム形成
      3.4.2  再分析と意味の漂白化
      3.4.3  イディオム化
      3.4.4  名詞性
      3.4.5  構文と頻度性
    3.5  結論

  第4章  2つのタイプの受動構文
    4.1  序
    4.2  先行研究
    4.3  データ
    4.4  イディオム化
    4.5  結論

  第5章  再帰動詞と関連構文
    5.1  序
    5.2  先行研究
    5.3  データ
      5.3.1  Content oneself with
      5.3.2  Avail oneself of
      5.3.3  Devote oneself to
      5.3.4  Apply oneself to
      5.3.5  Attach oneself to
      5.3.6  Address oneself to
      5.3.7  Confine oneself to
      5.3.8  Concern oneself with/about/in
      5.3.9  Take (it) upon oneself to V
    5.4  再帰動詞と文法化及びイディオム化
    5.5  再起動し,受動化及び複合動詞
      5.5.1  Prepare
      5.5.2  Interest
    5.6  結論

  第6章  Far from の文法化,イディオム化
    6.1  序
    6.2  先行研究
    6.3  データ
    6.4  文法化とイディオム化
      6.4.1  文法化
      6.4.2  意味変化と統語変化の関係:イディオム化
    6.5  結論

  第7章  複合前置詞
    7.1  序
    7.2  先行研究
    7.3  データ
    7.4  複合前置詞の発達
      7.4.1  Instead of
      7.4.2  On account of
    7.5  競合関係 (Rivalry)
      7.5.1  In comparison of/in comparison with/in comparison to
      7.5.2  By virtue of/in virtue of
      7.5.3  In spite of/in despite of
    7.6  談話機能の発達
    7.7  文法化,語彙化,イディオム化
    7.8  結論

  第8章  動詞派生前置詞
    8.1  序
    8.2  先行研究
    8.3  データ及び分析
      8.3.1  Concerning
      8.3.2  Considering
      8.3.3  Regarding
      8.3.4  Relating to
      8.3.5  Touching
    8.4  動詞派生前置詞と文法化
    8.5  結論
  
  第9章  動詞 pray の文法化
    9.1  序
    9.2  先行研究
    9.3  データ
    9.4  15世紀
    9.5  16世紀
    9.6  17世紀
    9.7  18世紀
    9.8  19世紀
    9.9  文法化
      9.9.1  挿入詞と文法化
      9.9.2  丁寧標識と文法化
    9.10  結論

  第10章  'I'm afraid' の挿入詞的発達
    10.1  序
    10.2  先行研究
    10.3  データ及びその文法
    10.4  文法化---Hopper (1991) を中心に
    10.5  結論

  第11章  'I dare say' の挿入詞的発達
    11.1  序
    11.2  先行研究
    11.3  データの分析
    11.4  文法化と文体
    11.5  結論

  第12章  句動詞における after と forth の衰退
    12.1  序
    12.2  For による after の交替
      12.2.1  先行研究
      12.2.2  動詞句の選択と頻度
      12.2.3  After と for の意味・機能の変化
    12.3  Forth の衰退
      12.3.1  先行研究
      12.3.2  Forth と共起する動詞の種類
      12.3.3  Out による forth の交替
    12.4  結論

  第13章  Wanting タイプの動詞間に見られる競合 --- desire, hope, want 及び wish を中心に ---
    13.1  序
    13.2  先行研究
    13.3  昨日変化
      13.3.1  Desire
      13.3.2  Hope
      13.3.3  Want
      13.3.4  Wish
    13.4  4つの動詞の統語的・意味的特徴
      13.4.1  従属節内における法及び時制
        13.4.1.1  Desire + that/Ø
        13.4.1.2  Hope + that/Ø
        13.4.1.3  Wish + that/Ø
      13.4.2  Desire, hope, want 及び wish と to 不定詞構造
      13.4.3  That の省略
    13.5  新しいシステムに至る変化及び再配置
    13.6  結論

結論

補章

参考文献

索引
  人名索引
  事項索引




 ・ 秋元 実治 『増補 文法化とイディオム化』 ひつじ書房,2014年.

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2023-03-11 Sat

#5066. 英語の前置詞としての sans [french][loan_word][preposition][shakespeare][connotation][idiom]

 この1週間は hellog でも Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」でも前置詞 (preposition) に注目する機会がたまたま多く,途中から「前置詞ウィーク」と呼んで発信していました.前置詞にご関心のある方は,ぜひこの数日間の記事や放送回を振り返っていただければと思います..
 今日も同じ流れで,意外性のある前置詞として sans を紹介します.without に相当するフランス語の前置詞でフランス語では sans /sɑ̃/ と発音されますが,英語としては綴字通りに /sænz/ と発音されます.フランス語からそのまま取り入れた慣用表現の前置詞句は,例えば sans doute 「疑いもなく」 /sɑ̃ duːt/ のように,フランス語風に発音されますが,そうでない場合には英語化した /sænz/ で発音されます.英語の文脈では,たいてい古風,あるいは冗談めかした connotation で用いられます.例文を挙げてみましょう.

 ・ Sans teeth, sans eyes, sans taste, sans everything. 「(老いぼれて)歯もなく,目もなく,味もなければ何もなし」(Shakespeare, As You Like It II. vii)
 ・ a wallet sans cash
 ・ There were no potatoes so we had fish and chips sans the chips.
 ・ He came to the door sans shirt.
 ・ She went to the party sans her husband.
 ・ She would not be happy with people seeing her sans makeup.
 ・ He was wearing running shoes, sans socks.


 こうしてみると,なかなか使ってみたくなる前置詞ですね.
 OED の sans, prep. によると,英語での初出は初期近代英語の Kyng Alisaunder です.

c1300 K. Alis. 134 Of gold he made a table Al ful of steorren, saun fable.


 ただし,Shakespeare 以前の用法はいずれも目的語としてフランス単語を伴っており,いわばフランス語の慣用表現をそのまま英語に取り込んだもののようです (ex. sans delay, sans doubt, sans fable, sans pity, sans return).英語において生産的な前置詞として発達したのは,かの言葉遊びの天才がユーモアを交えて再導入したからといってよさそうです.

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2023-02-22 Wed

#5049. 句動詞の多様な型 [phrasal_verb][syntax][word_order][verb][adverb][preposition][particle][idiom]

 英語には,動詞 (verb) と小辞 (particle) の組み合わせからなる句動詞 (phrasal_verb) が数多く存在している.とりわけ口語で頻出し,慣習的・比喩的な意味をもつものも多い.さらに統語構造上も多様な型を取り得るため,しばしば英語学習の障壁となる.
 例えば runup を組み合わせた表現を考えてみよう.統語的には4つのパターンに区分される.

 (1) A girl ran up. 「ある少女が駆け寄ってきた」
    ran up が全体として1つの自動詞に相当する.
 (2) The spider ran up the wall. 「そのクモは壁を登っていった」
   自動詞 ran と前置詞句 up the wall の組み合わせである.
 (3) The soldier ran up a flag. 「その兵士は旗を掲げた」
   ran up の組み合わせにより1つの他動詞に相当し,目的語を取る.この場合,小辞 up と名詞句の目的語 a flag の位置はリバーシブルで,The soldier ran a flag up. の語順も可能.ただし,目的語が it のような代名詞の場合には,むしろ The soldier ran it up. の語順のみが許容される.
 (4) Would you mind running me up the road? 「道路の先まで車に乗せていっていただけませんか」
   他動詞 run と前置詞句 up the road の組み合わせである.

 runup の組み合わせのみに限定しても,このように4つの型が認められる.他の動詞と他の小辞の組み合わせの全体を考慮すれば,型としては8つの型があり,きわめて複雑となる.

 ・ Cowie, A. P. and R Mackin, comps. Oxford Dictionary of Phrasal Verbs. Oxford: OUP, 1993.

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2022-11-23 Wed

#4958. stand on the shoulders of giants 「巨人の肩の上に立つ」 [proverb][idiom][sobokunagimon]

 学問にせよ何にせよ,人類は先人から得た知識を蓄積し,その上にさらなる知識を付け加えるという形で文明を進歩させてきた.このことを西洋では to stand on the shoulders of giants 「巨人の肩の上に立つ」と表現する.
 以下は「1人の巨人の左肩(のみ)に乗る小人」という状況のエッチングで,厳密には "a dwarf on a shoulder of a giant" というべき状況だが,この辺りはご愛敬で.

A Dwarf on the Shoulders of a Giant

 さて,この慣用句OED の shoulder, n. のもとに挙げられているのだが,実は2022年3月の OED の定期更新の際に新たに加えられたホヤホヤのエントリーなのである.この新エントリーについて,OED の広報記事 "Content warning: may contain notes on the OED March 2022 update" が次のようにコメントしている.

A new phrase entry in shoulder examines the use of to stand on the shoulders of giants to refer to the process of building on the discoveries and achievements of great predecessors, first recorded in the early seventeenth century in a variation on the proverb a dwarf (or child) standing on the shoulders of a giant sees farther than the giant, itself based on a twelfth-century Latin phrase attributed to Bernard of Chartres.


 OED に加えられたエントリーそのもの,および最初の3つの例文まで引用しておきたい.

   to stand on the shoulders of giants (and variants): to build on the discoveries, achievements, and understanding of the great scholars and thinkers of the past. Hence to stand on the shoulders of (any person or group): to benefit from the knowledge of one's predecessors.
      The phrase standing on the shoulders of giants is strongly associated with Sir Isaac Newton (1642--1727): see quot. 1676. Earlier in proverbial phrase a dwarf (also child, etc.) standing on the shoulders of a giant sees farther than the giant (now rare; in quot. 1608 as a simile).

[Originally after post-classical Latin nanos gigantium humeris insidentes dwarves sitting on the shoulders of giants (12th cent.; attributed by John of Salisbury to Bernard of Chartres).]

   1608 J. White Way to True Church 325 Doctors of these later times..insisting in the steps of the ancient Fathers..are like children standing on the shoulders of giants,..they see further then they [sc. the Fathers] themselues.
   1628 R. Burton Anat. Melancholy (ed. 3) To Reader 8 Though there were many Giants of old in Physick and Philosophy, yet I say with Didacus Stella, A Dwarfe standing on the shoulders of a Giant, may see farther then a Giant himselfe.
   1676 I. Newton Let. to R. Hooke 5 Feb. in Corr. (1959) I. 416 What Des-Cartes did was a good step. You have added much in several ways... If I have seen further it is by standing on ye sholders of Giants.


 この慣用句,ここまで調べてさすがに私のなかに定着しました.

(後記 2022/11/24(Thu)):今回の hellog 記事を受けて,翌11月24日に Voicy の heldio にて関連する話題をお届けしました.英語学習者からの質問に答える形で,おもしろい回になっていると思います.こちらよりお聴きください.)


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2022-09-30 Fri

#4904. mouth よもやま話 [etymology][th][fricative_voicing][conversion][metaphor][metonymy][bible][idiom]

 「口;口状のもの」を意味する mouth /maʊθ/ の周辺の話題をあれこれと.
 語源は古英語 mūþ (口)である.さらに遡れば印欧語根 *men- (to project) に遡り,口のことを突き出した体の部位ととらえたことに由来する.印欧語根にみられる *n は,古英語にかけて摩擦音の前で脱落したために残っていないが,対応するドイツ語 Mund (口)には残っている.同じ印欧語根からはフランス語を経由して mount (登る),mountain/Mt. 「山」なども派生している.
 mouth には動詞として「もぐもぐ言う;口先だけで言う」の意味もある.14世紀に名詞から品詞転換 (conversion) してできたもので,当初は「しゃべる」ほどの語義だった.
 なお,動詞としての発音は語末の摩擦音が有声化して /maʊð/ となることに注意.mouth 以外にも,th が名詞では無声音,動詞では有声音となる語は少なくない (ex. bath -- bathe, breath -- breathe, cloth -- clothe, sooth -- soothe, tooth -- teethe) .実はこの現象は th に限らず fs など他の摩擦音にも見られる.「#2223. 派生語対における子音の無声と有声」 ([2015-05-29-1]) を参照.
 mouthth が有声化するのは動詞用法の場合だけではない.名詞として複数形となる場合にも mouths /maʊðz/ のように有声化するので要注意である(ただし無声で発音される /maʊθs/ がまったくないわけではない).同様に baths, oaths, paths, truths, youths などでも /-ðz/ と発音されることが多い.詳しくは「#702. -ths の発音」 ([2011-03-30-1]) を参照.
 mouth について注目したい聖書由来のイディオムとして out of the mouths of babes (and sucklings) がある."Out of the mouth of babes and sucklings hast thou ordained strength because of thine enemies, that thou mightest still the enemy and the avenger" (The Book of Psalms 8:2) に由来する表現だが,現在では子供から思いがけず発せられる鋭い言葉をユーモラスに指す表現となっている.
 英語の mouth も日本語の「口」も,体の部位を表す身近な単語として両言語で意味拡張の様子がよく似ている.例えば,日本語の「河口」「噴火口」「洞穴の口」といった「口」のメタファーは,英語でも the mouth of a river/volcano/cave というようにそのまま対応する.一方,「口が悪い」「口を閉じる」は a foul mouth, shut one's mouth にそのまま対応するメトニミーである.

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2022-09-05 Mon

#4879. あらためてイディオムとは何か? [terminology][idiom]

 一般に,イディオム (idiom) とは,その意味が各成分の意味の総和からは出てこないような表現であるといわれる.このイディオムの定義は,これまでの hellog 記事でも前提としてきたものである.

 ・ 「#22. イディオムと英語史」 ([2009-05-20-1])
 ・ 「#910. 語の定義がなぜ難しいか (1)」 ([2011-10-24-1])
 ・ 「#1357. lexeme (語彙素)とは何か?」 ([2013-01-13-1])
 ・ 「#1990. 様々な種類の意味」 ([2014-10-08-1])
 ・ 「#3526. イディオムとは?」 ([2018-12-22-1])

 しかし,Cruse (37) によるとこの定義は循環論法的であり注意を要するという.おもしろい議論なので,こちらに引用したい.

A traditional definition of idiom runs roughly as follows: an idiom is an expression whose meaning cannot be inferred from the meanings of its parts. Although at first sight straightforward, there is a curious element of circularity in this definition. Does it indicate that the meaning of an idiom cannot be inferred from (or, more precisely, cannot be accounted for as a compositional function of) the meanings the parts carry IN THAT EXPRESSION? Clearly not --- so it must be a matter of their meanings in other expressions. But equally clearly, these 'other expressions' must be chosen with care: in considering to pull someone's leg, for instance, there is little point in referring to pull in to pull a fast one, or leg in He hasn't a leg to stand on. The definition must be understood as stating that an idiom is an expression whose meaning cannot be accounted for as a compositional function of the meanings its parts have when they are not parts of idioms. The circularity is now plain: to apply the definition, we must already be in a position to distinguish idiomatic from non-idiomatic expressions.
   Fortunately it is possible to define an idiom precisely and non-circularly using the notion of a semantic constituent. We shall require two thing of an idiom: first, that it be lexically complex --- i.e. it should consist of more than one lexical constituent; second, that it should be a single minimal semantic constituent.


 ちなみに引用内の pull someone's leg は「~をからかう」を意味するイディオムである.また,pull a fast one は「だます」,He hasn't a leg to stand on は「彼は拠って立つべき基礎を欠く」の意のイディオムである.
 結果として,循環論法にならないイディオムの端的な定義は "a lexical complex which is semantically simplex" (Cruse 37) ということになる.

 ・ Cruse, D. A. Lexical Semantics. Cambridge: CUP, 1986.

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2021-08-02 Mon

#4480. テニス用語の語源あれこれ [etymology][khelf_hel_intro_2021][idiom]

 今年度初頭の4月5日から5月30日まで開催していた「英語史導入企画2021」はすでに終了していますが,同企画の趣旨を汲んだ慶應義塾大学通信課程に所属の学生より,先日ぜひコンテンツを提供したいという申し出がありました.内容は,非常に身近で多くの読者にアピールすると思われる「テニス用語の語源」についての好コンテンツです.データベースに追加しましたので,ぜひご覧ください.
 イギリスは多くのスポーツの発祥地です.そのため,様々なスポーツの関連用語はもとより,各種スポーツの特性に基づいた慣用句などが,日常的な英語表現として育まれてきました.例えば,The ball is in your court. といえば「次に行動を起こすべきは(私ではなく)あなただ」を意味する慣用句ですが,これはテニスのプレイに由来するものです
 また,His idea is (way) out in left field. といえば「彼の意見は一風変わっている」を意味しますが,これは野球の左翼手(レフト)の位置が中心から外れていることに基づくイディオムです(ただし,野球の盛んなアメリカ英語限定です.イギリスでは通用しないようです).スポーツに由来する英語の語句や慣用表現は,思いのほかたくさんあります.
 このような話題に関心をもった方は,雑誌『英語教育』(大修館書店)の2019年度のバックナンバーをご覧ください.2019年4月号から2020年3月号の12回にわたり,桜美林大学の多々良直弘氏が「知っておきたいスポーツの英語」と題して,上記の趣旨にも沿う興味深いコラムを連載されています.毎回異なるスポーツ種目に注目していますが,テニス関連は2019年6月号で取り上げられています.参考まで.

Referrer (Inside): [2021-09-02-1]

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2021-05-27 Thu

#4413. 動詞の目的語としての無意味な it [personal_pronoun][verb][phrase][conversion][idiom]

 「英語史導入企画2021」より本日紹介するコンテンツは,院生による「映画『マトリックス』が英語にのこしたもの」.これだけでは何のことか分からないと思いますが,同映画から生まれた the red pillthe blue pill という口語表現に焦点を当てたコンテンツです.同コンテンツによれば「blue pill とは,世界の真実を知ることなく,自分が信じたいことだけを信じることができることを象徴し,一方,red pill は多少痛みを伴うような,厳しくつらい世の中の真実を知ることの象徴」とのこと.手近の辞書には未掲載でしたので,確かに新語(義)のようです.
 さらにこの名詞句が品詞転換により動詞化し,We need to red pill it Canadians. (つらい現実に目を向ける必要があるのだ,カナダ人たちよ.)のように使われるというので,驚きました.to blue pill it もあるようです.つい先日「#4405. ポップな話題としての「句動詞の品詞転換」」 ([2021-05-19-1]) と題する記事にて「句動詞の名詞・形容詞への品詞転換」の事例を取り上げたばかりですが,今回は「名詞句の動詞への品詞転換」という逆の事例ということになります.今回のコンテンツも知らないことばかりで勉強になりました.
 to red/blue pill it という新表現を見てふと思ったのですが,口語的な慣用句 (idiom) にしばしば現われる,動詞の目的語としての無意味な it というのは何なのでしょうかね.I made it. とか Take it easy. とか Damn it. とか.今回のケースのように口語的な文脈で新しく動詞化した語の場合には,そのまま裸で使うと落ち着きが悪いので,何となく it を添えて(他)動詞っぽさを出してみた,というような感じでしょうか.
 もちろん英語に実質的な意味をもたない it の用法があることはよく知られています.prop/dummy/empty/expletive/introductory/ambient it などと様々に称されていますが,要するに何らかの文法的な機能は果たしているけれども,実質的な指示対象をもたず意味が空っぽ(に近い)というべき it の用法のことです.ただし,そのなかでも to red/blue pill it のような動詞の目的語となる it の無意味さは著しいように思われます.実際,Quirk et al. (§6.17n) ではこの種の it に触れ,「完璧に空っぽ」と表現しています.

Perhaps the best case for a completely empty or 'nonreferring' it can be made with idioms in which it follows a verb and has vague implications of 'life' in general, etc:

   At last we've made it. ['achieved success']
   have a hard time of it ['to find life difficult']
   make a go of it ['to make a success of something']
   stick it out ['to hold out, to preserve']
   How's it going?
   Go it alone.
   You're in for it. ['You're going to be in trouble.']


 OED の it, pron., adj., and n.1 によると,語義8aのもとで問題の用法が取り上げられています.初出は以下の通り16世紀前半のようです.

8.
a. As a vague or indefinite object of a transitive verb, after a preposition, etc. Also as object of a verb which is predominantly intransitive, giving the same meaning as the intransitive use, and as object of many verbs formed (frequently in an ad hoc way) from nouns meaning 'act the character, use the thing, indicated'.
     Through verbs having corresponding nouns of the same form, as to lord, the construction seems to have been extended to other nouns as king, queen, etc. There may have been some influence from do it as a substitute, not only for any transitive verb and its object, but for an intransitive verb of action, as in 'he tried to swim, but could not do it', where it is the action in question.
   ?1520 J. Rastell Nature .iiii. Element sig. Eviv And I can daunce it gyngerly..And I can kroke it curtesly And I can lepe it lustly And I can torn it trymly And I can fryske it freshly And I can loke it lordly.
   . . . .


 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2021-05-14 Fri

#4400. 「犬猫」と cats and dogs の順序問題 [sound_symbolism][phonaesthesia][onomatopoeia][idiom][binomial][prosody][alliteration][phonetics][vowel][khelf_hel_intro_2021][clmet][coca][coha][bnc][sobokunagimon]

 目下開催中の「英語史導入企画2021」より今日紹介するコンテンツは,学部生よりアップされた「犬猿ならぬ犬猫の仲!?」です.日本語ではひどく仲の悪いことを「犬猿の仲」と表現し,決して「犬猫の仲」とは言わないわけですが,英語では予想通り(?) cats and dogs だという興味深い話題です.They fight like cats and dogs. のように用いるほか,喧嘩ばかりして暮らしていることを to lead a cat-and-dog life などとも表現します.よく知られた「土砂降り」のイディオムも「#493. It's raining cats and dogs.」 ([2010-09-02-1]) の如くです.
 これはこれとして動物に関する文化の日英差としておもしろい話題ですが,気になったのは英語 cats and dogs の語順の問題です.日本語では「犬猫」だけれど,上記の英語のイディオム表現としては「猫犬」の順序になっています.これはなぜなのでしょうか.
 1つ考えられるのは,音韻上の要因です.2つの要素が結びつけられ対句として機能する場合に,音韻的に特定の順序が好まれる傾向があります.この音韻上の要因には様々なものがありますが,大雑把にいえば音節の軽いものが先に来て,重いものが後に来るというのが原則です.もう少し正確にいえば,音節の "openness and sonorousness" の低いものが先に来て,高いものが後にくるという順序です.イメージとしては,近・小・軽から遠・大・重への流れとしてとらえられます.音が喚起するイメージは,音象徴 (sound_symbolism) あるいは音感覚性 (phonaesthesia) と呼ばれますが,これが2要素の配置順序に関与していると考えられます.
 母音について考えてみましょう.典型的には高母音から低母音へという順序になります.「#1139. 2項イディオムの順序を決める音声的な条件 (2)」 ([2012-06-09-1]) で示したように flimflam, tick-tock, rick-rack, shilly-shally, mishmash, fiddle-faddle, riffraff, seesaw, knickknack などの例が挙がってきます.「#1191. Pronunciation Search」 ([2012-07-31-1]) で ^([BCDFGHJKLMNPQRSTVWXYZ]\S*) [AEIOU]\S* ([BCDFGHJKLMNPQRSTVWXYZ]\S*) \1 [AEIOU]\S* \2$ として検索してみると,ほかにも chit-chat, kit-cat, pingpong, shipshape, zigzag などが拾えます.ding-dong, ticktack も思いつきますね.擬音語・擬態語 (onomatopoeia) が多いようです.
 では,これを cats and dogs の問題に適用するとどうなるでしょうか.両者の母音は /æ/ と /ɔ/ で,いずれも低めの母音という点で大差ありません.その場合には,今度は舌の「前後」という対立が効いてくるのではないかと疑っています.前から後ろへという流れです.前母音 /æ/ を含む cats が先で,後母音 /ɔ/ を含む dogs が後というわけです.しかし,この説を支持する強い証拠は今のところ手にしていません.参考までに「#242. phonaesthesia と 遠近大小」 ([2009-12-25-1]) と「#243. phonaesthesia と 現在・過去」 ([2009-12-26-1]) をご一読ください.対句ではありませんが,動詞の現在形と過去形で catch/caught, hang/hung, stand/stood などに舌の前後の対立が窺えます.
 さて,そもそも cats and dogs の順序がデフォルトであるかのような前提で議論を進めてきましたが,これは本当なのでしょうか.先に「英語のイディオム表現としては」と述べたのですが,実は純粋に「犬と猫」を表現する場合には dogs and cats もよく使われているのです.英米の代表的なコーパス BNCwebCOCA で単純検索してみたところ,いずれのコーパスにおいても dogs and cats のほうがむしろ優勢のようです.ということは,今回の順序問題は,真の問題ではなく見せかけの問題にすぎなかったのでしょうか.
 そうでもないだろうと思っています.18--19世紀の後期近代英語のコーパス CLMET3.0 で調べてみると,cats and dogs が18例,dogs and cats が8例と出ました.もしかすると,もともと歴史的には cats and dogs が優勢だったところに,20世紀以降,最近になって dogs and cats が何らかの理由で追い上げてきたという可能性があります.実際,アメリカ英語の歴史コーパス COHA でざっと確認した限り,そのような気配が濃厚なのです.
 「犬猫」か「猫犬」か.単なる順序の問題ですが,英語史的には奥が深そうです.

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2021-04-15 Thu

#4371. 価値なきもの イチジク,エンドウ,ピーナッツ,ネギ,マメ,ワラ [negative][idiom][collocation][proverb][khelf_hel_intro_2021]

 英語における「取るに足りないもの」の物尽し.

価値なきもの
イチジク,エンドウ,ピーナッツ,
ネギ,マメ,ワラ


 この物尽しの果実・野菜・豆などを表わす植物名を英単語に置き換え,not worth a に後続させると,いずれも「?ほどの価値もない,取るに足りない」を意味する慣用句 (idiom) となる.not worth a fig/pea/peanut/leek/bean/straw の如くだ.
 私などは,ワラを除いて,すべて旨い食べ物ではないか,とりわけ酒のつまみに良さそうではないか(イチジクはよしておこう)と評価したいところだが,英語文化においてはどうやら軽視される存在のようだ.
 日本語では,例えば「豆」は接頭辞として「豆電球」「豆台風」などと用いるが,物理的に小さいことを示しこそすれ,軽視のコノテーションは感じられない.また,日本語の「溺れる者は藁をも掴む」という諺は,窮地に陥っている人はワラのように頼りにならないものにも救いを求めるものだという教えで,一見すると「ワラ=取るに足りない」が成立しそうだが,この諺は実は英語の A drowning man will catch at a straw. の直訳にすぎず,日本語発の諺ではない.この辺りの感覚は,日英語でかなり異なるらしい.
 英語のこのような「価値なきもの」を表わす種々の慣用句の役割は「文彩的否定」(figurative negation)呼ばれるという.これは「英語史導入企画2021」の一環として昨日アップされた院生によるコンテンツ「否定と植物」から学んだことである.文彩的否定の表現には様々な「取るに足りない」植物の名前が用いられてきたようで,歴代引き合いに出されてきた植物としては cress (カラシナ)や sloe (リンボク)なども含まれ,何だかよく分からないリストとなっている.
 同コンテンツによると,このような表現は中英語期に続々と生まれたという.植物のみならず動物,昆虫,魚なども引き合いに出されたというから,こうした名詞の一覧を整理してみれば,英語文化において何が軽視されてきたかが概観できそうである.たいへん洞察に富むコンテンツ.

Referrer (Inside): [2021-04-16-1]

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2018-12-22 Sat

#3526. イディオムとは? [idiom][terminology]

  イディオム (idiom) とは何か? 複数の語からなる単位で,全体の意味が各構成要素の意味の総和とはならないもの,というのが基本的な理解だろう.しかし,イディオムには他にも様々な特質がある.Chafe を引いている秋元 (38) に拠り,4つの特質を挙げてみよう.

1. イディオムの意味は各成分の意味の総和からは出てこない. ([T]he meaning of an idiom is not some kind of amalgamation of the meanings of the parts of that structure.)
2. イディオムの多くは変形操作を許さない. ([M]ost if not all idioms exhibit certain transformational deficiencies.)
3. イディオムの中には非統語的構造を持つものがある. ([T]here are some idioms which are not syntactically well-formed.)
4. イディオムがイディオム的意味と文字通りの意味を持っている場合,テキスト頻度上,前者の方が通常多い. ([A]n idiom which is well-formed will have a literal counterpart, but the text frequency of the latter is usually much lower than that of the corresponding idiom.)


 2 でいわれる「変形操作」について説明しておこう.leave no legal stone unturned のように修飾語句を加えたり,touch a couple of nerves のように数量化したり,Those strings, he wouldn't pull for you のように話題化のために倒置したり,We thought tabs were being kept on us, but they weren't, のように代名詞指示できるなどの統語的操作のことである.ただし,変形操作をどの程度拒否・許容するかは個々のイディオムによって異なり,イディオムの特質とはいえ程度問題である.変形操作の許容度が低いものから高いものへ,次の3種類のイディオムがある(秋元,p. 39).

 I. Fixed idioms: eat one's words, kick the bucket, make a fool of, . . .
 II. Mobile idioms: break the ice, spill the beans, make much of, . . .
 III. Metaphors: add fuel to the fire, make headway, pay attention, . . .

 
  ・ 秋元 実治 「第2章 文法化と意味変化」『文法化 --- 新たな展開 ---』秋元 実治・保坂 道雄(編) 英潮社,2005年.27--58頁.
  ・ Chafe, Wallace. "Idiomaticity as an Anomaly in the Chomskyan Paradigm". Foundations of Language 4 (1968): 107--27.

Referrer (Inside): [2022-09-05-1]

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2016-11-27 Sun

#2771. by and large [idiom][etymology]

 標題は「概して, 一般的に, 全般的に見て」を意味するイディオムである.以下の例文のように,文頭に使われることが多い.

 ・ By and large I think the emphasis should be on recruiting the right people.
 ・ By and large, I enjoyed my time at school.
 ・ By and large, the papers greet the government's new policy document with a certain amount of scepticism.
 ・ Charities, by and large, do not pay tax.
 ・ There are a few small things that I don't like about my job, but by and large it's very enjoyable.

 なぜ bylarge を結びつけて「概して」の意味になるのだろうか.
 実は,いずれももともとは航海で用いられる表現である.by はここでは「風に向かって」 (by the wind) ほどを意味する副詞ととらえられる.前置詞 by は「?に向かって」 (toward) を意味することがあり,例えば do well by a friend (友だちによくしてやる),do one's duty by one's parents (両親に本分を尽す),Do to others as you would be done by. (人にしてもらいたいように人に尽くせ),North by East (東寄りの北)などに用例を見いだすことができる.一方,large は「風から離れて」を意味する副詞として用いられている.この意味では to go largeto sail large などと使われることが多い.この対をなす bylarge は,いずれも航海用語として17世紀初頭に初出している.
 さて,この2語を結びつけた by and large というイディオムも,少し遅れて1669年に初出している.当時の意味は,予想される通り「船が風に向かったり離れたりして」 ("to the wind and off it") ほどだった.これが,やがて「あちこち,全般にわたって」 ("in one direction and another, all ways") の意味で1706年に現われ,さらに現在の「概して」 ("in a general aspect, without entering into details, on the whole") の意味で1833年に用いられている.意味の一般化の例と言っていいだろう.以下にそれぞれの意味の初出例を OED より挙げておこう.

 ・ 1669 S. Sturmy Mariners Mag. 17 Thus you see the ship handled in fair weather and foul, by and learge.
 ・ 1707 E. Ward Wooden World Dissected 35 Tho' he trys every way, both by and large, to keep up with his Leader.
 ・ 1833 J. Neal Down-easters I. 23 A man who feels rather perplexed on the whole, take it by and large.

Referrer (Inside): [2016-12-25-1]

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2016-06-06 Mon

#2597. Book of Common Prayer (1549) [bible][history][literature][book_of_common_prayer][idiom]

 「祈祷書」(英国教会の礼拝の公認式文)として知られる The Book of Common Prayer の初版は,1549年に編纂された.宗教改革者にしてカンタベリー大主教の Thomas Crammer (1489--1556) を中心とする当時の主教たちが編纂し出版したものであり,その目的は,書き言葉においても話し言葉においても正式とみなされる英語の祈祷文を定めることだった.正式名称は The Booke of the Common Prayer and administracion of the Sacramentes, and other Rites and Ceremonies after the Use of the Churche of England である.
 この祈祷書は,Queen Mary と Oliver Cromwell による弾圧の時代を除いて,現在まで連綿と用いられ続けている.現在一般に用いられているのは初版から約1世紀後,1661--62年に改訂されたものであるが,初版の大部分をよくとどめているという点で,完全に連続性がある.この祈祷書は5世紀近くもの繰り返し唱えられてきたために,人口に膾炙した文言も少なくない.特によくに知られているのは結婚式での文句だが,その他の常套句も多い.Crystal (36) より,以下にいくつか挙げてみよう.

[ 結婚式関係 ]

 ・ all my worldly goods
 ・ as long as ye both shall live
 ・ for better or worse
 ・ for richer for poorer
 ・ in sickness and in health
 ・ let no man put asunder
 ・ now speak, or else hereafter forever hold his peace
 ・ thereto I plight thee my troth
 ・ till death us do part
 ・ to have and to hold
 ・ to love and to cherish
 ・ wedded wife/husband
 ・ with this ring I thee wed

[ その他 ]

 ・ all perils and dangers of this night
 ・ ashes to ashes
 ・ battle, murder and sudden death
 ・ bounden duty
 ・ dust to dust
 ・ earth to earth
 ・ give peace in our time
 ・ good lord, deliver us
 ・ peace be to this house
 ・ read, mark, learn and inwardly digest
 ・ the sins of the fathers
 ・ the world, the flesh and the devil


 祈祷書に関連して,「#745. 結婚の誓いと wedlock」 ([2011-05-12-1]),「#1803. Lord's Prayer」 ([2014-04-04-1]) も参照されたい.また,聖書からの常套句としては「#1439. 聖書に由来する表現集」 ([2013-04-05-1]) を参照.

 ・ Crystal, David. Evolving English: One Language, Many Voices. London: The British Library, 2010.

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2014-10-08 Wed

#1990. 様々な種類の意味 [semantics][pragmatics][derivation][inflection][word_formation][idiom][suffix]

 「#1953. Stern による意味変化の7分類 (2)」 ([2014-09-01-1]) で触れたが,Stern は様々な種類の意味を区別している.いずれも2項対立でわかりやすく,後の意味論に基礎的な視点を提供したものとして評価できる.そのなかでも論理的な基準によるとされる種々の意味の区別を下に要約しよう (Stern 68--87) .

 (1) actual vs lexical meaning. 前者は実際の発話のなかに生じる語の意味を,後者は語(や句)が文脈から独立した状態で単体としてもつ意味をさす.後者は辞書的な意味ともいえるだろう.文法書に例文としてあげられる文の意味も,文脈から独立しているという点で,lexical meaning に類する.通常,意味は実際の発話のなかにおいて現われるものであり,単体で現われるのは上記のように辞書や文法書など語学に関する場面をおいてほかにない.actual meaning は定性 (definiteness) をもつが,lexical meaning は不定 (indefinite) である.

 (2) general vs particular meaning. 例えば The dog is a domestic animal. の主語は集合的・総称的な意味をもつが,That dog is mad. の主語は個別の意味をもつ.すべての名前は,このように種を表わす総称的な用法と個体を表わす個別的な用法をもつ.名詞とは若干性質は異なるが,形容詞や動詞にも同種の区別がある.

 (3) specialised vs referential meaning. ある語の指示対象がいくつかの性質を有するとき,話者はそれらの性質の1つあるいはいくつかに焦点を当てながらその語を用いることがある.例えば He was a man, take him for all in all. という文において man は,ある種の道徳的な性質をもっているものとして理解されている.このような指示の仕方がなされるとき,用いられている語は specialised meaning を有しているとみなされる.一方,He had an army of ten thousand men. というときの men は,各々の個性がかき消されており,あくまで指示的な意味 (referential meaning) を有するにすぎない.厳密には,referential meaning は specialised meaning と対立するというよりは,その特殊な現われ方の1つととらえるべきだろう.前項の particular meaning と 本項の specialised meaning は混同しやすいが,particular meaning は語の指示対象の範囲の限定として,specialised meaning は語の意味範囲の限定としてとらえることができる.

 (4) tied vs contingent meaning. 前者は語と言語的文脈により指示対象が決定する場合の意味であり,後者はそれだけでは指示対象が決定せず話者やその他の状況をも考慮に入れなければならない場合の意味である.前者は意味論的な意味,後者は語用論的な意味といってもよい.

 (5) basic vs relational meaning. 語が「語幹+接尾辞」から成っている場合,語幹の意味は basic,接尾辞の意味は relational といわれる.例えば,ラテン語 lupi は,狼という基本的意味を有する語幹 lup- と単数属格という統語関係的意味 (syntactical relational meaning) を有する接尾辞 -i からなる.統語関係的意味は接尾辞によって表わされるとは限らず,語幹の母音交替 ( Ablaut or gradation ) によって表わされたり (ex. ring -- rang -- rung) ,語順によって表わされたり (ex. Jack beats Jill. vs Jill beats Jack.) もすれば,何によっても表わされないこともある.一方,派生関係的意味 (derivational relational meaning) は,例えば like -- liken -- likeness のシリーズにみられるような -en や -ness 接尾辞によって表わされている.大雑把にいって,統語関係的意味と派生関係的意味は,それぞれ屈折接辞と派生接辞に対応すると考えることができる.

 (6) word- vs phrase-meaning. あらゆる種類の慣用句 (idiom) や慣用的な文 (ex. How do you do?) を思い浮かべればわかるように,句の意味は,しばしばそれを構成する複数の単語の意味の和にはならない.

 (7) autosemantic vs synsemantic meaning. 聞き手にイメージを喚起させる意図で発せられる表現(典型的には文や名前)は,autosemantic meaning をもつといわれる.一方,前置詞,接続詞,形容詞,ある種の動詞の形態 (ex. goes, stands, be, doing) ,従属節,斜格の名詞,複合語の各要素は synsemantic meaning をもつといわれる.

 ・ Stern, Gustaf. Meaning and Change of Meaning. Bloomington: Indiana UP, 1931.

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2013-04-05 Fri

#1439. 聖書に由来する表現集 [bible][idiom]

 1611年に刊行された『欽定訳聖書』(The Authorised Version あるいは The King James Version (Bible) [KJV])は近代英語の性質を決定したと言われることもあり,現代英語の表現に大きな影響を与えた.初期近代英語の所産としては,Shakespeare と並んで英語史上の意義が大きい.
 2010年に出版された Crystal の著書では,KJV に由来する表現の多くが現代英語に残っており,各種のキャッチコピーやダジャレに利用されている状況が,延々と解説される.著書の巻末に,聖書由来として取り上げられた現代英語に残る表現の索引がつけられていた (pp. 303--11) .これを表現集としてまとめておけば何かに役に立つだろうと思い,リストを作った.本当は聖書の章節への参照がつけられればよかったのだが,それには時間がかかりそうだったので,表現のみを記す.ただし,データファイルでは Crystal の著書で言及されているページへの参照をつけているので,より詳しく調べたいときにはご参照を.
 索引行としては671行あるが,索引の作り方ゆえに重複も多く,表現そのもので数えれば388個ほど(これにも類似表現が含まれるので,厳密にいえばもっと少ない).このリストをアルファベット順に下に掲げる.

a time to ..., Adam and Eve, add fuel to the fire, against us ... with us, all things are pure, all things to all men, Alpha and Omega, apple of [one's] eye, Armageddon, as [one] reaps sow, as [one] sows reap, Babel, baptism of/by fire, bear [one's] burden, bear [one's] burden/cross, bear/take up [one's] cross, begat, behold the man, better to give than receive, better to give than to receive, blessed are ..., blind leading the blind, blood upon [one's] head, bondage, born again, bottomless pit, bread, bread alone, bread from heaven, bread of life, bread upon the waters, brotherly love, build a house on sand, burning bush, camel through the eye of a needle, can anything good come out of, can't take it with you, cast bread upon the waters, cast pearls before swine, cast the first stone, cast thy bread upon waters, cast/throw the first stone, charity covers a multitude of sins, cheerful giver, coals of fire, coals of fire on [one's] head, coat of many colours, come to pass, covet, cradle to the grave, crumbs from the table, David and Goliath, day of my distress, death where is thy sting, deep waters, den of thieves, die by the sword, divide the sheep from the goats, do thou likewise, do unto others, double-edged sword, dreamer of dreams, drink and be merry, drop in the ocean, drop of/in a bucket, dust thou art, east of Eden, eat drink and be merry, eat [one's] words, eating [one's] words, every creeping thing, every thing there is a season, eye for an eye, eye hath not seen, eye of a needle, faith can move mountains, fall flat on [one's] face, fall from grace, false witness, fatted calf, feet of clay, few are chosen, fight the good fight, filthy lucre, fire and brimstone, first fruits, five loaves and two fishes, flat on [one's] face, flesh and blood, flesh is weak, fleshpots, flies in amber, fly in the ointment, forbidden fruit, forty days, forty days and forty nights, forty nights, fruitful and multiply, fruits, fuel to the fire, garment, get thee behind me Satan, giants in the earth, giants in the earth in those days, gift blindeth the wise, gird [one's] loins, give thanks unto the Lord, give up the ghost, gnashing of teeth, go and do thou likewise, go down to the sea in ships, go the extra mile, go the second/extra mile, God and mammon, God forbid, God save the king, golden calf, good and faithful servant, good cheer, good come out of Nazareth, good Samaritan, good shepherd, grave where is thy victory, graven image, great whore, greater love, greatest in the kingdom, greatest/least in the kingdom, hair, hair of [one's] head, hairy garment, hands, harden [one's] heart, harvest is great, heal thyself, heal thyself physician, heap coals of fire on [one's] head, heap mischiefs, heaven and earth shall pass away, hide light under a bushel, holier than thou, honour, horribly afraid, house of bondage, how are the mighty fallen, I am that I am, in our image, in the beginning was the Word, in the twinkling of an eye, itching ears, Jesus wept, Job's comforter, Job's/miserable comforter, jot or tittle, judge not, kick against the pricks, kingdom divided, kingdom divided against itself, know for a certainty, know not what they do, know that my redeemer liveth, labourers are few, Lamb of God, land of Nod, last shall be first, laugh [one] to scorn, law unto [oneself], leading the blind, least in my father's house, left and right hand, left hand knows what the right hand does, leopard changing his spots, lesser light, let my people go, let not the sun go down on your wrath, let there be light, let thy words be few, let us now praise famous men, let [one's] light shine, lick the dust, light, light in the firmament, lights in the firmament, lion's whelp, lions' den, live and move and have our being, live/die by the sword, loaves and fishes, Lord is my shepherd, lost sheep, love thy neighbour as thyself, making many books, making many books there is no end, man after [one's] own heart, manna, many are called, many are called but few are chosen, many mansions, meek shall inherit the earth, milk and honey, millstone, millstone around neck, miserable comforters, molten calf, money answers all things, money is the root of all evil, mote, mote in [one's] eye, mouth(s) of babes, much study is a weariness of the flesh, multitude of sins, my brother's keeper, my kingdom is not of this world, my name is Legion, name of the Lord thy God, new wine in old bottles, no man can serve two masters, no peace for the wicked, no respecter of persons, no room at the inn, no small stir, nothing new under the sun, oint, old as ..., old as the hills, old serpent, old wine in new bottles, old wives' tales, on [one's] own head be it, out of the depths, out of the mouth(s) of babes, passeth all understanding, patience of a saint, patience of Job, peace, pearl of great price, peculiar treasure, Philistines, pillar of fire, pillar of salt, play the fool, play the mad man, play the men, powers that be, prick, pricks in [one's] eyes, pride goes before a fall, prophet not honoured, prophet not honoured in his own country, publish it not in the streets, publish it not in the streets of ..., put words in [one's] mouth, race is not to the swift, rain, reap the whirlwind, render unto Caesar, rest, resurrection and the life, right and left hand, riotous living, rivers of Babylon, rod for [one's] back, rod of iron, root and branch, root of the matter, sabbath was made for man, Saint (as proper name), saith the Lord vengeance is mine, salt of the earth, Satan behind me, scales fall from [one's] eyes, scapegoat, see eye to eye, see through a glass darkly, seeds fall by the wayside, seek and ye shall find, separate the sheep from the goats, serve two masters, set teeth on edge, set [one's] house in order, shake the dust from [one's] feet, sheep to the slaughter, sheep's clothing, shibboleth, shining light, shout it from the housetops, shout it from the rooftops, sick of the palsy, sign, signs and wonders, signs of the times, skin of my teeth, sour grapes, sow the wind, spare the rod, speak in tongues, speak Lord for thy servant heareth, spirit is willing, spirit is willing but the flesh is weak, stiff-necked, still as a stone, still small voice, sting, stony ground, strength and song, strength to strength, stumbling-block, suffer fools gladly, suffer little children, sufficient unto the day, sufficient unto the day is the evil, sweet savours, swords into plowshares, tables of stone, take root, take the name of the Lord thy God in vain, take up [one's] cross, take [one's] name in vain, tell it not in ..., ten commandments, than thou, thief in the night, thirty pieces of silver, thorn in [one's] flesh, thorn in [one's] flesh/side, thorn in [one's] side, thou shalt not, threescore years and ten, throw the first stone, thy servant heareth, times and/or seasons, to every thing there is a season, tomorrow we shall die, tomorrow will take care of itself, touch the hem of [one's] garment, treasure(s) in heaven, tree of knowledge, turn the other cheek, turn the world upside down, twinkling of an eye, two (heads) are better than one, two by two, two heads are better than one, two mites, two or three are gathered together, two-edged sword, unclean unclean, unto the pure all things are pure, unto us ... is born, unto us a child is born, unto us is born, upon this rock, valley of the shadow of death, vanity of vanities, vile bodies, virgin shall be with child, voice crying in the wilderness, wages of sin is death, wandering stars, wash [one's] hands, way of all flesh, way truth and life, weariness of the flesh, weeping and wailing, weeping and wailing and gnashing of teeth, what God hath joined together, what hath God wrought, what I have written, what I have written I have written, what shall it profit a man, wheels within wheels, where is thy victory grave, where two or three are gathered together, whips and scorpions, white as snow, whited sepulchres, widow's mite, wine maketh merry, wineskins, wish I'd never been born, wit's end, with us ... against us, woe is me, Word was made flesh, words shall not pass away, writing on the wall, ye of little faith, yoke is easy


 ・ Crystal, David. BEGAT: The King James Bible and the English Language. Oxford: Oxford UP, 2010.

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2013-01-13 Sun

#1357. lexeme (語彙素)とは何か? [lexeme][terminology][semantics][morphology][word][idiom][word][morpheme]

 lexeme (語彙素)はこのブログでもたまに出してきた術語だが,正確に定義しようとすると難しい.「#22. イディオムと英語史」 ([2009-05-20-1]) でも説明を濁してきた.今回は,ずばり定義とまではいかないが,いくつかの英語学辞典等を参照して,どのような言語単位であるかを整理したい.lexeme に迫るにはいくつかのアプローチがある.

 (1) morpheme (形態素)や word (語)と比較される形式の単位として.morpheme の定義は,「#886. 形態素にまつわる通時的な問題」 ([2011-09-30-1]) で触れたように,決定版はないが,Bloomfield の古典的な定義によれば "a linguistic form which bears no partial phonetic-semantic resemblance to any other form" (Section 10.2) である.word の定義は,##910,911,912,921,922 で取り上げたように,さらに難しい.だが,いずれも意味を有する形式的な単位であることには違いない.lexeme も同様に形式の単位である.その形式には意味も付随しているが,lexeme はあくまでその形式と意味の融合体である記号のうちの形式の部分を指す.では,morpheme, word, lexeme のあいだの違いはどこにあるのか.例えば,understand は1語だが,2つの形態素 under- と -stand から成るといえる.しかし,その語の意味は2つの形態素の意味の和にはなっておらず,意味上は全体として1つの塊と見なさざるを得ない.ここでは,形式の単位と意味の単位とがきれいに対応していないということになる.同様に,put up with というイディオムは,3形態素かつ3語から成っているが,意味の単位としてはやはり1つの塊である.ここでも,形式の単位と意味の単位とが食い違っている.そこで,understandput up with も分解できない1つの意味をもつのだから,形式的にも対応する1つの単位を設定するのが妥当ではないかという考え方が生じる.これが lexeme である.今や UNDERSTAND や PUT UP WITH は,それぞれ1つの lexeme として参照することができるようになった(lexeme は大文字で表記するのが慣例).
 (2) 1つの語類のみに属する基底形として.water には名詞と動詞がある.つまり,同じ語ではあるが,異なる2つの語類に属していることになる.名詞としての water と動詞としての water を別扱いすることができるように,word とは異なる lexeme という単位を立てると便利である.単数形 water や複数形 waters は 名詞 lexeme としての WATER の実現形であり,原形 water,三単現形 waters,過去形 watered,-ingwatering などは動詞 lexeme としての WATER の実現形である.
 (3) 実現される異なる語形をまとめあげるための代表形として.go, goes, went, going, going はそれぞれ形態こそ異なるが,基底にある lexeme は GO である.この観点からの lexeme は,headword, citation form, lemma などと呼び替えることも可能である.

 直感的にいえば,辞書において,見出しあるいは追い込み見出しとして登録されており,意味が与えられていれば便利だと思われるような形式の単位といっておけばよさそうだが,厳密な定義は難しい.学者(学派)によって様々な定義が提起されているという点では,morpheme, word, lexeme のような言語単位を表わす術語の扱いは厄介である.なお,lexeme という単位を意識して編纂された野心的な学習者用英英辞書として,Cambridge International Dictionary of English (1995) を挙げておこう.

 ・ Bloomfield, Leonard. Language. 1933. Chicago and London: U of Chicago P, 1984.
 ・ Pearce, Michael. The Routledge Dictionary of English Language Studies. Abingdon: Routledge, 2007.

Referrer (Inside): [2022-09-05-1]

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2012-08-17 Fri

#1208. フランス語の英文法への影響を評価する [french][syntax][inflection][synthesis_to_analysis][norman_conquest][me][word_order][idiom][contact][french_influence_on_grammar]

 中英語期,フランス語は英語の語彙に著しい影響を及ぼした.また,綴字においても相当の影響を及ぼした.しかし,形態や統語など文法に及ぼした影響は大きくない.
 中英語に起こった文法変化そのものは,きわめて甚大だった.名詞,形容詞,代名詞,動詞の屈折体系は,語尾音の消失や水平化や類推作用により簡略化しながら再編成された.文法性はなくなった.語順がSVOへ固定化していった.しかし,このような文法変化にフランス語が直接に関与したということはない.
 たしかに,慣用表現 (idiom) や語法といった広い意味での統語論で,フランス語の影響(の可能性)をいくつか指摘することはできる (Baugh and Cable, p. 167 の注15を参照).しかし,フランス語が英語語彙の分野に及ぼした影響とは比べるべくもない.全体として,フランス語の英語統語論への直接的な影響は僅少である.
 しかし,間接的な影響ということであれば,[2012-07-11-1]の記事「#1171. フランス語との言語接触と屈折の衰退」で取り上げたフランス語の役割を強調しなければならない.フランス語の英文法への影響は,屈折の摩耗と語順の固定可の潮流を円滑に進行させるための社会言語学的な舞台を整えた点にこそ見いだされる.Baugh and Cable (167) の評価を引用する.

It is important to emphasize that . . . changes which affected the grammatical structure of English after the Norman Conquest were not the result of contact with the French language. Certain idioms and syntactic usages that appear in Middle English are clearly the result of such contact. But the decay of inflections and the confusion of forms that constitute the truly significant development in Middle English grammar are the result of the Norman Conquest only insofar as that event brought about conditions favorable to such changes. By removing the authority that a standard variety of English would have, the Norman Conquest made it easier for grammatical changes to go forward unchecked. Beyond this it is not considered a factor in syntactic changes.


 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.

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2012-07-04 Wed

#1164. as far as in me lies [idiom][preposition][chaucer][impersonal_verb]

 Chaucer の The Canterbury Tales より,The Parson's Tale を読んでいて,次の箇所で立ち止まった(Riverside版より).語り手である教区主任司祭が,呪いの悪徳について説いている箇所である.

And over alle thyng men oghten eschewe to cursen hire children, and yeven to the devel hire engendrure, as ferforth as in hem is. Certes, it is greet peril and greet synne. (l. 621)


 引用の赤で強調した as ferforth as in hem is という副詞節の意味がわからない.参照した翻訳はいずれも「できる限り」と訳出しているが,なぜそのような意味が出るのかが不明だった.そこで,一緒に読んでいた仲間と考えたり調べたりしていたが,一人が,これは現代英語の as far as in me lies なる慣用表現に相当することを突き止めた.これは,"as far as lies in my power" とも言い換えられ,つまるところ "as far as I can", "to the best of my ability" ほどの意味であるということだ.大英和辞典には載っているし,『NEW斎藤和英大辞典』にも「及ぶ限り力を尽そう」に対応する I will do all that in me lies. というような類例が見つかる.ただし,Chaucer の例文に見られるような中英語の構文は,人称主語が立っておらず,非人称構文とみなすべきだろう.
 OED では,lie, v.1 で語義 12c. のもとに次のようにある.初例はc1350.

to lie in (a person): to rest or centre in him; to depend upon him, be in his power (to do). Now chiefly in phr. as far as in (me, etc.) lies. Also, to lie in one's power, to lie in (or †on) one's hands.


 MED では,lien (v. (1)) の語義 11(c) のもとに,"~ in, to be within the bounds of possibility for (sb., his power, his knowledge, etc.);" とある.MED から集めた関連する例文を挙げよう.lie の代わりに be が使われているものも少なくない.

 ・ (1433) RParl. 4.423a: My Lorde of Bedford..be his grete wisdome and manhede..hath nobly doon his devoir to ye kepyng yerof..as ferforth as in hym hath bee.
 ・ (1447) Reg.Spofford in Cant.Yk.S.23 290: Ye shall..trewlie serve all the kynges writtes als ferforth as hit shall be in your konnyng.
 ・ (?a1450) Proc.Privy C. 6.319: Ye shall swere þat, as ferforth as in you shall be, ye aswell in visityng and overseeing as in writing and subscribing of billes, the articles abovesaide and eueriche of þeim that touche ye shall trewely justely and faithfully observe.
 ・ a1450(?c1421) Lydg. ST (Arun 119) 2366: As ferforth as it lith in me, Trusteth right wel 3e shul no faute fynde.
 ・ a1500(a1450) Gener.(2) (Trin-C O.5.2) 3109: It lithe in me The Sowdon to distroye.


 この前置詞 in の用法は内在・性格・素質・資格とでも呼ぶべき用法で,現代英語では次のような例文で確認される.

 ・ in the capacity of interpreter = in my capacity as interpreter (通訳の資格で)
 ・ He had something of the hero in his nature. (彼には多少豪傑肌のところがあった.)
 ・ He doesn't have it in him to cheat. (彼は不正をするような人ではない.)
 ・ I didn't think he had it in him (to succeed). (彼にそんな事ができるとは思わなかった.)
 ・ He has no malice in him. = It is not in him to be malicious. (彼には意地悪なところがない.)
 ・ I have found a friend in him. (私は彼という友を見出した.)
 ・ Our country has lost a great scholar in Dr. Fletcher. (我が国はフレッチャー博士という大学者を失った.)
 ・ I have tried every means in my power. (力に及ぶ限りの手段を尽した.)

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