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最終更新時間: 2021-10-28 08:22

2021-08-28 Sat

#4506. World Englishes の全体的傾向3点 [world_englishes][variety][medium][register]

 Mair (116) によると,世界英語 (world_englishes) の研究者たちがおよそ合意している主たるトレンドが3つあるという.

1. Accent divides, whereas grammar unites (with the lexicon being somewhere in between)
2. There is divergence in speech, but convergence in writing.
3. Variation is suppressed in pubic and formal discourse, but pervasive in informal settings.


 このように言われると,直感的にいずれもその通りなのだろうと思われ,驚きはしない.ただ,ここで指摘されている世界英語の傾向は,世界英語コーパスなどによる客観的で実証的な研究によっておよそ裏付けられるという点が重要である.大雑把にいえば,話し言葉に典型的なインフォーマルな英語使用においては,諸変種間で大きな違いがみられるが,書き言葉に典型的なフォーマルな英語使用では,標準への指向がみられるということだ.
 この3点は,一見およそ似たようなことを述べているようにも思われるかもしれない.確かに互いに重なる部分があるのも事実である.しかし,各々は原則として異なる軸足に立った傾向の指摘となっていることに注意したい.1点目は,発音か文法か(語彙か)という言語部門に関するパラメータに基づいている.2点目は話し言葉か書き言葉かという媒体の問題に関係する.3点目は,社会語用論的なセッティング,端的にいえばフォーマルかインフォーマルかという言語使用の背景に注目している.
 話し言葉といえば,たいていインフォーマルであり,当然ながら発音の差異に関心が向くだろう.しかし,フォーマルな話し言葉の使用は学術講演や政治演説などで普通に観察されるし,そこでは発音と比べれば相対的に目立たないだけで当然ながら文法や語彙も関与しているのである.また,書き言葉といえばフォーマルとなることが多いが,チャットや会話のスクリプトのように必ずしもそうではない書き言葉の使用はいくらでもあるし,発音の変異を反映する非標準的なスペリング使用もみられる.
 3つのパラメータは,互いに重なるが原理的には独立したものとして理解しておくのが適切である.この点については「#230. 話しことばと書きことばの対立は絶対的か?」 ([2009-12-13-1]),「#2301. 話し言葉と書き言葉をつなぐスペクトル」 ([2015-08-15-1]),「#839. register」 ([2011-08-14-1]) などを参照されたい.

 ・ Mair, Christian. "World Englishes and Corpora." Chapter 6 of The Oxford Handbook of World Englishes. Ed. by Markku Filppula, Juhani Klemola, and Devyani Sharma. New York: OUP, 2017. 103--22.

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2021-07-02 Fri

#4449. ギリシア語の英語語形成へのインパクト [greek][loan_word][borrowing][compounding][compound][word_formation][register][combining_form]

 英語語彙史におけるギリシア語 (greek) の役割は,ラテン語,フランス語,古ノルド語のそれに比べると一般的には目立たないが,とりわけ医学や化学などの学術レジスターに限定すれば,著しく大きい.本ブログでも様々に取り上げてきたが,以下に挙げる記事などを参照されたい.

 ・ 「#516. 直接のギリシア語借用は15世紀から」 ([2010-09-25-1])
 ・ 「#552. combining form」 ([2010-10-31-1])
 ・ 「#616. 近代英語期の科学語彙の爆発」 ([2011-01-03-1])
 ・ 「#617. 近代英語期以前の専門5分野の語彙の通時分布」 ([2011-01-04-1])
 ・ 「#1694. 科学語彙においてギリシア語要素が繁栄した理由」 ([2013-12-16-1])
 ・ 「#3014. 英語史におけるギリシア語の真の存在感は19世紀から」 ([2017-07-28-1])
 ・ 「#3013. 19世紀に非難された新古典主義的複合語」 ([2017-07-27-1])
 ・ 「#3166. 英製希羅語としての科学用語」 ([2017-12-27-1])
 ・ 「#4191. 科学用語の意味の諸言語への伝播について」 ([2020-10-17-1])

 Joseph (1720) が,英語とギリシア語の歴史的な関係について次のように総論的にまとめている.

English and Greek share some affinity in that both are members of the Indo-European language family, but within Indo-European, they are not particularly closely related. Nor is it the case that at any point in their respective prehistories were speakers of Greek and speakers of English in close contact with one another, and such is the case throughout most of historical times as well. Thus the story of language contact involving English and Greek is actually a relatively brief one.
   However, the languages have not been inert over the centuries with respect to one another and some contact effects can be discerned. For the most part, these involve loanwords, as there are essentially no structural effects . . . and in many, if not most, instances, as the following discussion shows, the loans are either learned borrowings that do not even necessarily involve overt speaker-to-speaker contact, or ones that only indirectly involve Greek, being ultimately of Greek origin but entering English through a different source.


 近代英語期以降に,ギリシア語とその豊かな語形成が本格的に英語に入ってきたとき,確かにそれは専門的なレジスターにおける限定的な現象だったといえばそうではあるが,やはり英語の語形成に大きなインパクトを与えたといってよいだろう.極端な例として encephalograph (脳造影図)を取り上げると,これはギリシア語に由来する encephalon (脳) + graph (図)という2つの連結形 (combining_form) から構成される.これを基に encephalography, electroencephalography, electroencephalographologist などの関連語を「英語側で」簡単に生み出すことができたのである.
 化学用語においても然りで,1,3-dimethylamino-3,5-propylhexedrine といった(私の理解を超えるが)そのまま化学記号に相当する「複合語」を生み出すこともできる.ちなみに,完全にギリシア語要素のみからなる化学物質の名称として bromochloroiodomethane なる語がある (Joseph (1722)) .
 さらに,もう少し専門的な形態論の立場からいえば,ギリシア語要素による語形成は,本来の英語の語形成としては比較的まれだった並列複合語 (dvandva/copulative/appositional compound) の形成を広めたという点でも英語史的に意義がある.例えば otorhinolaryngologist (耳鼻咽喉科医)は,文字通り「鼻・耳・咽喉・科・医(者)」の意である.
 dvandva compound については,「#2652. 複合名詞の意味的分類」 ([2016-07-31-1]),「#2653. 形態論を構成する部門」 ([2016-08-01-1]) を参照.

 ・ Joseph, Brian D. "English in Contact: Greek." Chapter 109 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1719--24.

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2021-06-28 Mon

#4445. なぜ英語史において低地諸語からの影響が過小評価されてきたのか? [historiography][dutch][flemish][low_german][contact][loan_word][borrowing][purism][register][oed]

 昨日の記事「#4444. オランダ借用語の絶頂期は15世紀」 ([2021-06-27-1]) でも触れたように,英語史において低地諸語からの影響は過小評価されてきたきらいがある (cf. 「#3435. 英語史において低地諸語からの影響は過小評価されてきた」 ([2018-09-22-1])).これは英語史記述に関する小さからぬ問題と考えているが,なぜそうだったのだろうか.
 Hendriks (1660) によれば,過小評価されてきた理由の1つとして,オランダ語を代表とする低地諸語がいずれも英語と近縁言語であり,個々の単語の語源確定が困難である点を指摘している.積極的にオランダ語由来であると判定できない限り,英語本来語であるという保守的な判断が優先されるのも無理からぬことだ.英語史はまずもって英語の存在を前提とする学問である以上,この点において強気の議論を展開することは難しい.明らかに英語とは異質の語源であると判明しやすいフランス語(そして,ある程度そうである古ノルド語)と比べれば,この点は確かに理解できる.

[C]ontributions from the Scandinavian and French languages to the lexicon of English, for example, are discussed in terms of certainty, whereas contributions from the closely related varieties of "Low Dutch" or "Low German" are couched in terms of "probably" or "possibly" or are simply not discussed.


 しかし,それ以上に Hendriks が強調しているのは,従来の英語史の標準的参考書の背景に横たわる "purist language ideologies" (1659) である.Hendriks はさほど過激な物腰で論じていてるわけではないのだが,効果としては伝統的な英語史記述に対する強烈で辛辣な批判となっているといってよい.非常に注目すべき論考だと思う.
 Hendriks は議論を2点に絞っている.1つめは,OED の文学テキスト偏重への批判である.OED は伝統的に,中英語における複数言語の混交した "macaronic" なテキストをソースとして除外してきた.実際には,このような実用的で現実的なテキストこそが,まさにオランダ語などからの新語導入の契機を提供していたかもしれないという視点が,OED には認められなかったということである(ただし,目下編纂中の第3版においてはこの点で改善が見られるということは Hendriks (1669) 自身も言及している).
 もう1つは上記とも関連するが,OED は現代の標準英語に連なる英語変種にしか焦点を当ててこなかったという指摘だ.オランダ語からの借用語は,むしろ標準英語から逸脱したレジスター,例えば商業分野や通商分野の "macaronic" なレジスターでこそ活躍していたと想定されるが,OED なり英語史の標準的参考書では,そのような非標準的なレジスターはまともに扱われてこなかった.Hendriks (1662) 曰く,

Non-literary sources such as macaronic business writings, however, may be more likely to reflect the vernacular of London than the more pure literary texts selected to compile the atlas. Given the literary emphasis in the OED and the LALME, the range of topics which appear in these sources may be considerably restricted. The consequence of this is that entire semantic fields --- such as those pertaining to industrial or commercial relations, that is, fields where the significant contribution of Low Dutch to the English lexicon would be observed --- remain undocumented.


 さらに,近代英語期以降に限れば,OED は "Standard English" 以外のソースを軽視してきたという事実も指摘せざるを得ない.
 要するに,オランダ借用語が存在感を示してきたはずのレジスターが,OED を筆頭とする標準的レファレンスのソースには含まれてこなかったということなのだ.これは,英語史の historiography における本質的な問題と言わざるを得ない.

 ・ Hendriks, Jennifer. "English in Contact: German and Dutch." Chapter 105 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1659--70.

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2020-12-25 Fri

#4260. 言葉使いの正しさとは? --- ことばの正誤について [purism][register][dialect][language_change][prescriptivism]

 言葉使いに関して「正しい」「正しくない」と評価することは日常茶飯である.ら抜き言葉は正しくない.雰囲気の発音は「ふいんき」ではなく「ふんいき」が正しい.こんにち「わ」ではなく,こんにち「は」の書き方が正しい,等々.一般に言葉使いには規範的に正しい答えがあると信じられており,それに照らして正誤を判断するわけだ.
 しかし,言語学的にいえば --- 記述主義的にいえば --- 言葉使いに「正誤」の問題は存在しない.「正しくない」とおぼしきケースがあったとしても,それは「正しくない」というよりは,むしろ「通じない」や「ふさわしくない」に近いことが多い.
 Hughes et al. (16) は言葉使いの "correctness" について,3種類を区別している.

   The first type is elements which are new to the language. Resistance to these by many speakers seems inevitable, but almost as inevitable, as long as these elements prove useful, is their eventual acceptance into the language. The learner needs to recognize these and understand them. It is interesting to note that resistance seems weakest to change in pronunciation. There are linguistic reasons for this but, in the case of the RP accent, the fact that innovation is introduced by the social elite must play a part.
   The second type is features of informal speech. This, we have argued, is a matter of style, not correctness. It is like wearing clothes. Most people reading this book will see nothing wrong in wearing a bikini, but such an outfit would seem a little out of place in an office (no more out of place, however, than a business suit would be for lying on the beach). In the same way, there are words one would not normally use when making a speech at a conference which would be perfectly acceptable in bed, and vice versa.
   The third type is features of regional speech. We have said little about correctness in relation to these, because we think that once they are recognized for what they are, and not thought debased or deviant forms of the prestige dialect or accent, the irrelevance of the notion of correctness will be obvious.


 第1のものは,言語変化によってもたらされた新表現の類いである.純粋主義者を含めた言語について保守的な陣営から,しばしば「正しくない」とレッテルを貼られる語法などである.多くは時間とともに言語共同体のなかで広く受け入れられ,「正しい」語法へと格上げされていく.
 第2のものは,語法そのものの正誤の問題というよりは,用いる場面を間違えてしまうという,register の観点からの「ふさわしさ」の問題といえば分かりやすいだろうか.ビキニを着ることそれ自体は問題ないが,会社で着るのは問題だ,という比喩がとても分かりやすい.
 第3のものは,地域方言に関する誤解である.標準語使用が予期される文脈で地域方言の語法が用いられるとき誤解が生じることがあるが,後に単に地域方言の語法だったと分かり,誤解が解けさえすれば,言葉使いの正誤の問題とはみなさなくなるだろう.
 日常生活である言葉使いが「正しくない」と思ったとき,それが記述主義的な立場からどのように解釈できるか,冷静に考えてみるとおもしろい.

 ・ Hughes, Arthur, Peter Trudgill, and Dominic Watt. English Accents and Dialects: An Introduction to Social and Regional Varieties of English in the British Isles. 4th ed. London: Hodder Education, 2005.

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2020-11-17 Tue

#4222. 行為者接尾辞 -eer [suffix][agentive_suffix][loan_word][french][latin][register][stress][conversion]

 ゼミ生からのインスピレーションで,標記の行為者接尾辞 (agentive_suffix) に関心を抱いた.この接尾辞をもつ語はフランス語由来のものがほとんどであり,その来歴を反映して,語末音節を構成する接尾辞自身に強勢が落ちるという特徴がみられる.つまり語末の発音は /ˈɪə(r)/ となる.engineer, pioneer, volunteer をはじめとして,auctioneer, electioneer, gazetteer, mountaineer, profiteer などが挙がる.語源的には -ier もその兄弟というべきであり,cachier, cavalier, chevalier, cuirassier, financier, gondolier なども -eer 語と同じ特徴を有する.いずれもフランス語らしい振る舞いを示し,なぜ英語においてこのフランス語風の形式(発音と綴字)が定着したのだろうかという点で興味深い(cf. 「#594. 近代英語以降のフランス借用語の特徴」 ([2010-12-12-1]),「#1291. フランス借用語の借用時期の差」 ([2012-11-08-1])).
 Jespersen (§15.51; 243) より,-eer, -ier に関する解説を引用する.

   15.51 Words in -eer, -ier (stressed) -[ˈɪə] are mostly originally F words in -ier (generally from L -arius). Most of the OF words in -ier were adopted in ME with -er, and the stress was shifted to the first syllable . . . , as also in a few in which the i was kept . . . .
   A few words borrowed in ME times kept the final stress, and so did nearly all the later loans (many from the 16th and 17th c.). The established spelling of most of these, and of nearly all words coined on English soil, is -eer, as in auctioneer, cannoneer, charioteer (Keats 46), gazetteer, jargoneer (NED from 1913), mountaineer, muffineer, 'small castor for sprinkling salt or sugar on muffins' (NED 1806), muleteer [mjuˑliˈtiə], musketeer, pioneer, pistoleer (Carlyle Essays 251), routineer (Shaw D 54), and volunteer, but many of them preserved the F spelling, e.g. cavalier and chevalier, cuirassier, and finanicier.
   The recent motorneer, is coined on the pattern of engineer.
   Sh in some cases has initial-stressed -er-forms instead of -eer, e.g. ˈenginer, ˈmutiner (Cor I. 1.244), and ˈpioner.


 この解説に従えば,-eer は私たちもよく知る行為者接尾辞 -er の一風変わった兄弟としてとらえてよさそうだ.
 しかし, -eer には意味論的,語形成的に注目すべき点がある.まず,形成された行為者名詞は,軽蔑的な意味を帯びることが多いという事実がある.crotcheteer, garreteer, pamphleteer, patrioteer, privateer, profiteer, pulpiteer, racketeer, sonneteer などである.
 もう1つは,行為者名詞がそのまま動詞へ品詞転換 (conversion) する例がみられることだ.electioneer, engineer, pamphleteer, profiteer, pioneer, volunteer などである.これは上記の軽蔑的な語義とも密接に関係してくるかもしれない.なお,commandeer は,動詞としてしか用いられないという妙な -eer 語である.

 ・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part VI. Copenhagen: Ejnar Munksgaard, 1942.

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2020-10-17 Sat

#4191. 科学用語の意味の諸言語への伝播について [scientific_name][scientific_english][lexicology][conceptual_metaphor][lexicology][register][loan_translation][borrowing][loan_word][latin]

 科学用語に限らず,宗教的な用語など普遍的・文明的な価値をもつ語彙とその意味は,言語境界を越えて広範囲に伝播する性質をもつ.ある言語から別の言語へと語彙がほぼそのまま借用されることもあれば,翻訳されて取り込まれることもあるが,後者の場合にも翻訳語が帯びる意味は,たいていオリジナルの語と等価である.というのは,言語境界を越えて伝播するのは,語それ自体というよりは,むしろその意味 --- 問題となっている普遍的・文明的な価値 --- だからだ.
 さらにいえば,単一の語のみならず関連する語彙がまとまって伝播することが多いという点では,実際に伝播しているのは,一見すると語彙やその意味のようにみえて,実はそれらの背後に潜んでいる概念メタファー (conceptual_metaphor) なのではないかという考え方もできる.
 以上は,Meillet (20--21) の著名な意味変化論を読んでいたときに,ふと気付いたことである.その1節を原文で引用しておきたい.

Le fait est particulièrement sensible dans les groupes composés de savants, ou bien où l'élément scientifique tient une place importante. Les savants, opérant sur des idées qui ne sauraient recevoir une existence sensible que parle langage, sont très sujets à créer des vocabulaire spéciaux dont l'usage se répand rapidement dans les pays intéressés. Et comme la science est éminemment internationale, les termes particuliers inventés par les savants sont ou reproduits ou traduits dans des groupes qui parlent les langues communes les plus diverses. L'un des meilleurs exemples de ce fait est fourni par la scholastique dont la langue a eu un caractère éminemment européen, et à laquelle l'Europe doit la plus grande partie de ce que, dans la bigarrure de ses langues, elle a d'unité de vacabulaire et d'unité de sens des mots. Un mot comme le latin conscientia a pris dans la langue de l'école un sens bien défini, et les groupes savants ont employé ce mot même en français } les nécessités de la traduction des textes étrangers et le désir d'exprimer exactement la même idée ont fait rendre la même idée par les savants germaniques au moyen de mith-wissei en, gothique, de gi-wizzani en vieux haut-allemand (allemand moderne gewissen). Souvent les mots techniques de ce genre sont trduits littéralement et n'ont guère de sens dans la langue où ils sont transférés; ainsi le nom de l'homme qui a de la pitié, latin misericors, a été traduit littéralement en gotique arma-hairts (allemand barm-herzig) et a passé du germanique en slave, par example russe milo-serdyj. Ce sont là de pures transcriptions cléricales de mots latins.


 英語における科学用語については「#616. 近代英語期の科学語彙の爆発」 ([2011-01-03-1]),「#617. 近代英語期以前の専門5分野の語彙の通時分布」 ([2011-01-04-1]),「#3166. 英製希羅語としての科学用語」 ([2017-12-27-1]) などで取り上げてきたが,今回の話題と関連して,とりわけ「#1694. 科学語彙においてギリシア語要素が繁栄した理由」 ([2013-12-16-1]) を参照されたい.

 ・ Meillet, Antoine. "Comment les mots changent de sens." Année sociologique 9 (1906). 1921 ed. Rpt. Dodo P, 2009.

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2020-10-13 Tue

#4187. Meillet が重視した意味変化の社会語用論的側面 [semantic_change][sociolinguistics][register][semantic_borrowing][language_change]

 「#4183. 「記号のシニフィエ充填原理」」 ([2020-10-09-1]) で引用した Meillet は,その重要論文において,意味変化 (semantic_change) に関する社会言語学な原理を強調している.単語は社会集団ごとに用いられ方が異なるものであり,その単語の意味も社会集団ごとの関心に沿って変化や変異することを免れない.そのようにして各社会集団で生じた新たな意味のいくつかが,元の社会集団へ戻されるとき,元の社会集団の立場からみれば,その単語のオリジナルの意味に,新しい意味が付け加わったようにみえるだろう.つまり,そこで実際に起こっていることは,意味変化そのものではなく,他の社会集団からの意味借用 (semantic_borrowing) なのだ,という洞察である.
 Meillet は,先行研究を見渡しても意味変化の確かな原理というものを見出すことはできないが,1つそれに近いものを挙げるとすれば上記の事実だろうと自信を示している.この「社会集団」を「言語が用いられる環境」として緩く解釈すれば,語の意味変化は,異なる意味が異なる使用域 (register) 間で移動することによって生じるものと理解することができる.これは,意味変化を社会語用論的な立場からみたものにほかならない.Meillet (27) が力説している部分を引用しておこう.

Il apparaît ainsi que le principe essentiel du changement de sens est dans l'existence de groupements sociaux à l'intérieur du milieu où une langue est parlée, c'est-à-dire dans un fait de structure sociale. Il serait assurément chimérique de prétendre expliquer dès maintenant toutes les transformations de sense par ce principe: un grand nombre de faits résisteraient et ne se laisseraient interpréter qu'à l'aide de suppositions arbitraires et souvent forcées; l'histoire des mots n'est pas assez faite pour qu'on puisse, sur aucun domaine, tenter d'épuiser tous les cas et démontrer qu'ils se ramènent sans aucun reste au principe invoqué, ce qui serait le seul procédé de preuve théoriquement possible; le plus souvent même ce n'est que par hypothèse qu'on peut tracer la courbe qu'a suivie le sens d'un mot en se transformant. Mais, s'il est vrai qu'un changement de sens ne puisse pas avoir lieu sans être provoqué par une action définie --- et c'est le postulat nécessaire de toute théorie solide en sémantique ---, le principe invoqué ici est le seul principe connu et imaginable dont l'intervention soit assez puissante pour rendre compte de la pluplart des faits observés; et d'autre part l'hypothèse se vérifie là où les circonstances permettent de suivre les faits de près.


 Meillet の上記の考え方については,「#1973. Meillet の意味変化の3つの原因」 ([2014-09-21-1]) でも指摘した.また,関連する議論として「#2246. Meillet の "tout se tient" --- 社会における言語」 ([2015-06-21-1]),「#2161. 社会構造の変化は言語構造に直接は反映しない」 ([2015-03-28-1]) も参照されたい.

 ・ Meillet, Antoine. "Comment les mots changent de sens." Année sociologique 9 (1906). 1921 ed. Rpt. Dodo P, 2009.

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2020-06-18 Thu

#4070. 18世紀の語彙的低迷のなぞ [lexicology][lexicography][oed][register]

 「#2995. Augustan Age の語彙的保守性」 ([2017-07-09-1]) で触れ,「#203. 1500--1900年における英語語彙の増加」 ([2009-11-16-1]) より確認されるように,18世紀は語彙の増加が相対的に低迷していた時期といわれる.前時代に語彙を借用しすぎたという事情もあるし,18世紀自体が言語文化的に保守的だったということも指摘されている.
 18世紀の語彙的低迷は主として OED に基づいて得られた洞察であることから,OED の語彙収集方法や編纂技術上の限界から,語彙が低迷しているように「見える」にすぎず,さらにデータを掘って調査を進めていけば,実は語彙的低迷の事実などなかったのではないか,という可能性も浮上してきそうだ.
 しかし,Durkin (1154) は,以下のように巨大な18世紀のテキスト・データベース ECCO の力を借りてもやはり18世紀の語彙的低迷は本当のことらしいと考えている.

The availability of databases of historical texts is changing all the time, and is having a truly transforming effect on the OED's historical lexicography. There remain some areas of difficulty and of controversy. Notoriously, the coverage of 18th-century vocabulary in the first and second editions of the OED is not so comprehensive as its coverage of other periods . . . ; however, availability of the majority of surviving printed 18th-century material in electronically searchable form (especially through Eighteenth-Century Collections Online [ECCO], Gage Gengage Learning 2009) suggests that there is genuinely a dip in lexical productivity in the 18th century, at least in those varieties and registers which are reflected by surviving printed sources. In many instances where the documentation of the OED presented a gap in the 18th century, it remains impossible to fill this gap, even with the help of such resources as ECCO. Exploring and explaining this further will be a major task for English historical lexicology.


 ただし,引用でも示唆されているように,低迷うんぬんが話題となっているのは,あくまで英語の標準書き言葉における新語の語彙量であることには注意しておきたい.それ以外の使用域 (register) ではどうだったかは,別の問題となる.

 ・ Durkin, Philip. "Resources: Lexicographic Resources." Chapter 73 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 1149--63.

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2019-10-01 Tue

#3809. "Rise up, rebel, revolt --- how the English language betrays class and power" [lexical_stratification][lexicology][register][sociolinguistics][diglossia]

 The Guardian にて,英語語彙の3層構造に関する標題の記事が挙げられていた(記事はこちら).  *
 英語語彙の3層構造については本ブログでも「#2977. 連載第6回「なぜ英語語彙に3層構造があるのか? --- ルネサンス期のラテン語かぶれとインク壺語論争」」 ([2017-06-21-1]) やそこから張ったリンク先の記事でいろいろと解説し議論してきたので,ここで詳しく繰り返すことはしない.概要のみ述べておくと,英語語彙は3段のピラミッドを構成しており,一般には最下層に英語本来語が,中間層にフランス借用語が,最上層にラテン借用語が収まっている.これは歴史的な言語接触の遺産であるとともに,中世から初期近代のイングランド社会において英語話者,フランス語話者,ラテン語話者の各々がいかなる社会階層に属していたかを映し出す鏡でもある.非常に単純化していえば,下層から上層に向かって,"those who work" or "workers", "those who fight" or "clerks", "those who pray" or "the powerful"という集団が所属していたということになる.
 標題の記事の内容は,この伝統的な階層区分について,EU離脱などを巡って分断している現代イギリス社会にも対応物があるという趣旨であり,それによると最下層が "workers" というのは変わらないが,中間層は "the middle class" に,最上層は "the clerkly class" に対応するという."the clerkly class" に含まれるのは,"academics, thinktankers, lawyers, writers, many artists, scientists, journalists and students, some comedians and politicians, even some entrepreneurs, as well as actual clerics --- anyone whose sense of self depends on an abstract frame of reference" ということらしい.
 記事の書き手は,中世の社会階層,現代の社会階層,英語の語彙階層の平行性(および,ときに非平行性)を指摘しながら現代イギリス社会を批評しており,議論の内容は言語学的というよりは,明らかに政治的である.しかし,語彙の3層構造について1つ重要なことを述べている."[French and Latin] seeped into what we call English and made themselves at home, giving the language its fantastical redundancy, creating something half-Germanic, half-Romance. Trilinguality was internalised." というくだりだ.もともとは社会的な現象である diglossia における上下関係が,いかにして意味論・語用論的な register の上下関係へと「言語内化」するのか,というのが私の長らくの問題意識なのだが,ここでさらっと "internalised" と述べられている現象の具体的なプロセスこそが知りたいのである.
 未解決の問題ではあるが,関連する話題を以下のような記事で扱ってきたので,ご参照を.

 ・ 「#1583. swine vs pork の社会言語学的意義」 ([2013-08-27-1])
 ・ 「#1491. diglossia と borrowing の関係」 ([2013-05-27-1])
 ・ 「#1489. Ferguson の diglossia 論文と中世イングランドの triglossia」 ([2013-05-25-1])
 ・ 「#1380. micro-sociolinguistics と macro-sociolinguistics」 ([2013-02-05-1])

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2019-02-14 Thu

#3580. シェイクスピアと欽定訳聖書の新旧語形 [bible][shakespeare][emode][verb][preterite][register]

 Shakespeare の諸作品と欽定訳聖書 (Authorized Version; King Jame Bible) はほぼ同じ時代に書かれていながらも,それぞれの英語は諸側面において異なっている(cf. 「#492. 近代英語期の強変化動詞過去形の揺れ」 ([2010-09-01-1]),「#1418. 17世紀中の its の受容」 ([2013-03-15-1]),「#3491. dreamtdreamed の用法の差」 ([2018-11-17-1])).一般的には Shakespeare は革新的,欽定訳聖書は保守的な言葉遣いが多いとされる.Crystal (275) より,この差異を例示してみたい.当時「旧形」と「新形」の間で揺れていた動詞形態の変異を中心に,典型的な例を集めたものである.

King JamesFirst Folio
old formnew formold formnew form
bare 175bore 1bare 10bore 25
clave 14cleft 2clave 0cleft 8
gat 20, gotten 25got 7gat 0, gotten 5got 115
goeth 135goes 0goeth 0goes 166
seeth 54sees 0seeth 0sees 40
spake 585spoke 0spake 48spoke 142
yonder 7yon 0, yond 0yonder 66yon 9, yond 45


 欽定訳聖書は,序文に "The old Ecclesiastical Words to be kept, viz., the Word Church not to be translated Congregations, &c." などと述べられていることから予想される通り,保守的な言葉遣いをよく残している.宗教の言語は得てして古めかしいこと,また Tyndale 訳聖書に表された1世紀ほど前の英語をモデルとしていることなどから,欽定訳聖書のこの傾向について特に不思議はないだろう(cf. 「#753. なぜ宗教の言語は古めかしいか」 ([2011-05-20-1])).
 一方,Shakespeare のような売れっ子劇作家の言葉遣いが,一般庶民の人々の生の言葉遣いに近似していたはずだということも,容易に理解できるだろう.同じ時代でも,使用域 (register),オーディエンス,目的などが異なれば,ここまで言語上の違いが出るものだということを示してくれる,英語史からの好例である.

 ・ Crystal, David. The Stories of English. London: Penguin, 2005.

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2019-02-05 Tue

#3571. 謎の多い be 動詞の否定形 ain't (1) [be][conjugation][negative][register]

 be 動詞の否定形の1形態として ain't がある.非標準的とみなされるが,口語ではしばしば用いられる.am not, aren't, isn't のいずれにも相当するため,性と数を考慮しない,ある意味で「夢のような」 be 動詞の形態である.いな be 動詞にとどまらず,have not, has not の非標準的な異形としても用いられ,実に守備範囲が広い.黒人英語,いわゆる AAVE では,don't, doesn't, didn't の代用ともなり,著しい万能性を示す.今回は be 動詞の否定形としての ain't に話しを絞る.
 ain't は非標準的とされており,その使用は規範的な立場から非難されることが多い.しかし,口語では教養ある人々の間でも頻用され,とりわけ1人称単数の疑問形 am I not? の代わりとしての ain't I は許容される度合いが高い (ex. I'm going too, ain't I?) .また,100年ほど前には,上流階級でも普通に用いられていた旨が Crystal (35) に述べられている.

Today, ain't is considered non-standard, but it's widespread throughout the English-speaking world---probably used far more often than the standard equivalent---and a century ago it was actually acceptable upper-class speech, turning up frequently in the novels of the period. Here's the lawyer Mr Wharton arguing with his sister-in-law over his daughter's future, in Anthony Trollope's The Prime Minister (1875): 'I ain't thinking of her marrying'. And towards the end of the novel the Duke of Omnium himself asks someone: 'I hope you ain't cold'.


 ain't は18世紀後半より広く用いられているが,その起源については諸説ある.共時的な用法に関しても,通時的な発達に関しても謎の多い魅力的なトピックである.関連して American Heritage Dictionary の Notes より,ain't を参照.

 ・ Crystal, David. The Story of Be. Oxford: OUP, 2017.

Referrer (Inside): [2019-02-06-1]

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2018-10-01 Mon

#3444. 英語史は,英語の時空間内の無数の点をそれらしく結んでいこうとする行為 [historiography][register][dialect][variety][philology][writing][medium]

 英語史研究において,しばしば見過ごされるが,きわめて基本的な事実として,現存する文献資料のムラの問題がある.時代によって文献資料の量や種類に大きな差があるという事実だ.
 種類の差といっても,それ自体にも様々なタイプがある.時代によって,文献が書かれている方言が異なる場合もあれば,主立った書き手たちの階級や性など,社会的属性が異なる場合もある.時代によって,媒体も発展してきたし,文章のジャンルも広がってきた.書き表される位相の種類にも,時代によって違いがみられる.
 現存する文献資料の言語が,時代によって多種多様であるということは,その言語の歴史を通じての「定点観測」が難しいということである.地域方言に限定して考えても,主たる方言,すなわち「中央語」の方処は,後期古英語期ではウェストサクソンであり,初期中英語期では存在せず,後期中英語期以降はロンドンである.つまり,1つの方処に立脚して一貫した英語史を描くことはできない.
 時代ごとに書き言葉の担い手も変わってきた.中世ではものを書くのは,ほぼ聖職者や王侯貴族に限られていたが,中世後期からは,より広く世俗の人々にものを書き記す機会が訪れるようになり,近現代にかけては教育の発展とともに書き言葉は庶民に開かれていった.書き言葉の担い手という側面においても,定点観測の英語史を描くことは難しい.
 では,普段当たり前のように使う「英語の歴史」とは何を指すのだろうか.「英語」そのものと同じように「英語の歴史」も,かなりの程度,フィクションなのだろうと思う.英語史は,単なる英語という言語に関する事実の時系列的な記述ではなく,本来は互いに結びつけるには無理のある時空間内の無数の点を,ある程度の見栄えのする図形へと何とか結びつける営為なのではないか.ただし,ポイントはそれらの点をランダムに結ぶわけではないということだ.そこには,自然に見えるための工夫がほしい.自然に見えるということは,おそらく真実の何某かを反映しているはずだ,という希望をもちながら.

Referrer (Inside): [2018-10-02-1]

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2018-05-28 Mon

#3318. 言語変化の最中にある新旧変異形を巡って [language_change][variation][subjunctive][purism][register][language_change]

 伝統文法では be 動詞の仮定法過去形として,1人称単数および3人称単数で was ならぬ were が用いられる.If I were you . . .as it were の如くである.しかし,このような決り文句や形式的な文体での使用を離れれば,くだけた言い方では直説法に引っ張られて was も用いられるようになってきていると言われる(例えば,I wouldn't do that, if I was you.I wish I was dead! など).
 伝統的な価値観の論者であれば,このような was の用法を「誤用」と感じ,その使用者を「堕落した」話者とみなすかもしれない.一方,言語変化を進歩とみる論者は,was の使用の増加によって,奇妙な振る舞いをする仮定法(過去形)が失われていくことを喜ぶかもしれない.ほかには,「万物は流転する」「行く河の流れは絶えずして」と達観して言語変化を眺める人もあるだろう.一般論として,言語変化の最中にある(とおぼしき)新旧変異形は,互いに異なる含蓄的意味 (connotation) やニュアンスを獲得し,様々な社会的・文体的な価値を帯びることが多い.
 この一般論を,もう少し丁寧に説明しよう.A → B という言語変化が生じている最中には,当然ながら A と B が共に用いられる期間がある.今回の場合であれば,仮定法過去の If I were . . . (= A) と If I was . . . (= B) の両方が用いられる期間がある.この共用期間にはそれなりの長さがあり,初期,中期,末期などの局面が区別されるが,局面に応じて A と B のあいだには社会的・文体的価値や使用域において各種の差異が生じることが多い.ある局面では,A には正統の手堅さが,B には新参物としての軽佻浮薄な響きが感じられるかもしれない.別の局面では,A は教養を,B は無教養を標示するかもしれない.また別の局面では,A は旧時代の雰囲気をまとった古色蒼然たるおもむきを,B は新時代を予見させる若々しさを喚起させるかもしれない.しかし,最終的に A が消え,B のみが可能となったとき,それまでの各局面での両者のライバル関係は,(思い出せば懐かしい?)過去のドラマとなっており,すでに世代交代は完了しているのである.
 If I were/was . . . の例にかぎらず,言語変化とはそのようなものだろう.しかし,当該の変化のさなかで共時的に生きている話者にとっては,新旧両形の対立は現在進行中のリアルなドラマなのであり,そこに保守,革新,その他諸々の立場が錯綜するのもまた常なのではないだろうか.

Referrer (Inside): [2018-06-03-1]

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2018-04-02 Mon

#3262. 後期中英語の標準化における "intensive elaboration" [lme][standardisation][latin][french][register][terminology][lexicology][loan_word][lexical_stratification]

 「#2742. Haugen の言語標準化の4段階」 ([2016-10-29-1]) や「#2745. Haugen の言語標準化の4段階 (2)」 ([2016-11-01-1]) で紹介した Haugen の言語標準化 (standardisation) のモデルでは,形式 (form) と機能 (function) の対置において標準化がとらえられている.それによると,標準化とは "maximal variation in function" かつ "minimal variation in form" に特徴づけられる現象である.前者は codification (of form),後者は elaboration (of function) に対応すると考えられる.
 しかし,"elaboration" という用語は注意が必要である.Haugen が標準化の議論で意図しているのは,様々な使用域 (register) で広く用いることができるという意味での "elaboration of function" のことだが,一方 "elaboration of form" という別の過程も,後期中英語における標準化と深く関連するからだ.混乱を避けるために,Haugen が使った意味での "elaboration of function" を "extensive elaboration" と呼び,"elaboration of form" のほうを "intensive elaboration" と呼んでもいいだろう (Schaefer 209) .
 では,"intensive elaboration" あるいは "elaboration of form" とは何を指すのか.Schaefer (209) によれば,この過程においては "the range of the native linguistic inventory is increased by new forms adding further 'variability and expressiveness'" だという.中英語の後半までは,書き言葉の標準語といえば,英語の何らかの方言ではなく,むしろラテン語やフランス語という外国語だった.後期にかけて英語が復権してくると,英語がそれらの外国語に代わって標準語の地位に就くことになったが,その際に先輩標準語たるラテン語やフランス語から大量の語彙を受け継いだ.英語は本来語彙も多く保ったままに,そこに上乗せして,フランス語の語彙とラテン語の語彙を取り入れ,全体として序列をなす三層構造の語彙を獲得するに至った(この事情については,「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1]) や「#2977. 連載第6回「なぜ英語語彙に3層構造があるのか? --- ルネサンス期のラテン語かぶれとインク壺語論争」」 ([2017-06-21-1]) の記事を参照).借用語彙が大量に入り込み,書き言葉上,英語の語彙が序列化され再編成されたとなれば,これは言語標準化を特徴づける "minimal variation in form" というよりは,むしろ "maximal variation in form" へ向かっているような印象すら与える.この種の variation あるいは variability の増加を指して,"intensive elaboration" あるいは "elaboration of form" と呼ぶのである.
 つまり,言語標準化には形式上の変異が小さくなる側面もあれば,異なる次元で,形式上の変異が大きくなる側面もありうるということである.この一見矛盾するような標準化のあり方を,Schaefer (220) は次のようにまとめている.

While such standardizing developments reduced variation, the extensive elaboration to achieve a "maximal variation in function" demanded increased variation, or rather variability. This type of standardization, and hence norm-compliance, aimed at the discourse-traditional norms already available in the literary languages French and Latin. Late Middle English was thus re-established in writing with the help of both Latin and French norms rather than merely substituting for these literary languages.


 ・ Schaefer Ursula. "Standardization." Chapter 11 of The History of English. Vol. 3. Ed. Laurel J. Brinton and Alexander Bergs. Berlin/Boston: De Gruyter, 2017. 205--23.

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2018-02-23 Fri

#3224. Thomas Harman, A Caveat or Warening for Common Cursetors (1567) [dictionary][slang][lexicology][lexicography][renaissance][register]

 昨日の記事「#3223. George Andrews, A Dictionary of the Slang and Cant language (1809)」 ([2018-02-22-1]) で,英語史上初の俗語・隠語の用語集,Thomas Harman の A Caveat or Warening for Common Cursetors (1567) に言及した.英語史上初の英英辞書,Robert Cawdrey の A Table Alphabeticall に30年以上も先駆けて出版されたというのは驚くべきことに思われるかもしれない.普通の英英辞書よりも,裏世界の用語集のほうが早いというのは,何だかおもしろい.
 しかし,ルネサンス期以前のイングランドにおける辞書編纂の経緯を振り返ってみると,むしろこの流れは自然である.まず,ある言語について最初に作られる辞書・用語集は,ほぼ間違いなく外国語辞書,つまり bilingual dictionaries/glossaries である.実際,羅英辞書,仏英辞書,伊英辞書などが英語史上,先に現われている.このことは,考えてみれば当然である.何といっても,理解できない言語の単語を母語の単語で教えてくれるのが,辞書の第1の役割である.すでによく知っている母語の単語を母語で言い換えたり説明したりする monolingual dictionaries/glossaries は,現代でこそ価値あるものと了解されているが,近代初期にあっては,いまだその意義は人々にピンとこなかったろう.
 そして,外国語辞書に準ずるものとして,次に裏世界の俗語・隠語 (canting language) の用語集が編まれることになった.善良な一般市民にとって,canting language は外国語も同然である.したがって,A Caviat もある種の bilingual glossary だったと言ってよいのである.
 続けて,1604年に英語史上初の「普通の英英辞書」と先ほど言及した A Table Alphabeticall が出版されたが,実際には「普通」の英単語を集めたものではなく,主としてラテン借用語などからなる「難語」を集めたものだった.これも見方によっては bilingual dictionary とも言えるものである.その後,17世紀を通じて英語に関する辞書がたくさん出版されたが,いずれも難語辞書であり,bilingual dictionaries の域を出てはいなかったとも考えられる(cf. 「#609. 難語辞書の17世紀」 ([2010-12-27-1])).
 上記の経緯を勘案すると,いたずらぽい見方をして,英語史上初の英英辞書・用語集は A Caviat であると宣言することもできるかもしれないのだ.この点について,Blank (231) を引用したい.

In fact the original English-English dictionaries, long preceding those produced in the seventeenth century, were glossaries of the canting language. As Thomas Harman and his followers often noted, cant was otherwise known in the period as 'pedlar's French', a term which again reinforced notions of its 'foreign' nature. Harman's popular pamphlet A Caveat or Warening for Common Cursetors (1567) describes the underworld language as a 'leud, lousey language of these lewtering Luskes and lasy Lorrels . . . a vnknowen toung onely, but to these bold, beastly, bawdy Beggers, and vaine Vacabondes'. As a measure of social precaution, he included a glossary intended to expose the 'vnknowen toung', thereby translating the 'leud, lousey' language into 'common' English:

Nab,a pratling chete,quaromes,
a head.a tounge.a body.
  
Nabchet,Crashing chetes,prat,
a hat or cap.teeth.a buttocke.


and so on through a list that includes 120 terms.


 ・ Blank, Paula. "The Babel of Renaissance English." Chapter 8 of The Oxford History of English. Ed. Lynda Mugglestone. Oxford: OUP, 2006. 212--39.

Referrer (Inside): [2020-06-26-1]

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2018-02-22 Thu

#3223. George Andrews, A Dictionary of the Slang and Cant language (1809) [lexicology][lexicography][slang][register]

 19世紀前半には数十の俗語辞書が編纂されたが,その目的の1つに,ハイカルチャーな語彙しか収録しなかった Johnson の辞書を補完するという狙いがあったろう.しかし,今回取り上げる George Andrews による A Dictionary of the Slang and Cant language (1809) には,もっと「啓蒙的」な役割があった.それは,泥棒の俗語・隠語を世に広く知らしめることにより,犯罪抑止を狙うというものだった.ある種の社会正義を目指した書といってよいかもしれない.Crystal (68) によると,この辞書の売り文句として,次のような宣伝が書かれていたという.

One great misfortune to which the Public are liable, is, that Thieves have a Language of their own; by which means they associate together in the streets, without fear of being over-heard or understood.
   The principal end I had in view in publishing this DICTIONARY, was, to expose the Cant Terms of their Language, in order to the more easy detection of their crimes; and I flatter myself, by the perusal of this Work, the Public will become acquainted with their mysterious Phrases; and be better able to frustrate their designs.


 Crystal (68) に再掲されている,いくつかの見出し語と定義を以下に挙げよう.19世紀初頭の泥棒の隠語だが,おそらく現在の泥棒には通じないのだろうなあ・・・.

Adam Tylerspickpockets' accomplices
badgershawkers
bullies, bully-huffs, bully-rookshired ruffians
bloodsroisterers
buffershorse killers (for the skins)
beau-trapswell-dressed sharpers
cloak-twitcherscloak-snatchers (from off people's shoulders)
clapperdogeons (also spelled clapperdudgeon)beggars
coinerscounterfeiters
cadgersbeggars
duffershawkers
diverspickpockets
dragsmenvehicle thieves
filerscoin-filers
fencersreceivers of stolen goods
footpadshighwaymen who rob on foot
gammonerspickpockets' accomplices
ginglers (also jinglers)horse-dealers
kencrackershousebreakers
knackerstricksters
lully-priggerslinen-thieves
millershousebreakers
priggersthieves
rum-paddershighwaymen
strollerspedlars
sweetenerscheats, decoys
spicersfootpads
smasherscounterfeiters
swadlers (also swadders)pedlars
whidlers (also whiddlers)informers
water-padsrobbers of ships


 なお,英語史上の俗語・隠語辞書の走りは,1567年の Thomas Harman による用語集 A Caveat or Warening for Common Cursetors とされる.通常の英語辞書の嚆矢が Robert Cawdrey による1604年の「#603. 最初の英英辞書 A Table Alphabeticall (1)」 ([2010-12-21-1]) であることを考えると,辞書編纂業においても暗黒世界は先進的(?)だったのかと感じ入る次第である.
 slang, cant, argot, jargon などの用語については「#2410. slang, cant, argot, jargon, antilanguage」 ([2015-12-02-1]) を参照.また,隠語の性質については「#2166. argot (隠語)の他律性」 ([2015-04-02-1]),「#3076. 隠語,タブー,暗号」 ([2017-09-28-1]) もどうぞ.

 ・ Crystal, David. Evolving English: One Language, Many Voices. London: The British Library, 2010.

Referrer (Inside): [2018-02-23-1]

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2018-01-09 Tue

#3179. 「新古典主義的複合語」か「英製羅語」か [neo-latin][latin][greek][word_formation][lexicology][loan_word][compounding][derivation][lmode][scientific_english][scientific_name][neologism][waseieigo][terminology][register]

 新古典主義的複合語 (neoclassical compounds) とは,aerobiosis, biomorphism, cryogen, nematocide, ophthalmopathy, plasmocyte, proctoscope, rheophyte, technocracy のような語(しばしば科学用語)を指す.Durkin (346--37) によれば,この類いの語彙は早くは1600年前後から確認され,例えば polycracy (1581), pantometer (1597), multinomial (1608) がみられる.しかし,爆発的に量産されるようになったのは,科学が急速に発展した後期近代英語期,とりわけ19世紀になってからのことである(「#616. 近代英語期の科学語彙の爆発」 ([2011-01-03-1]),「#3013. 19世紀に非難された新古典主義的複合語」 ([2017-07-27-1]),「#3014. 英語史におけるギリシア語の真の存在感は19世紀から」 ([2017-07-28-1]),「#3166. 英製希羅語としての科学用語」 ([2017-12-27-1]) を参照).
 新古典主義的複合語について強調しておくべきは,それが借用語ではなく,あくまで英語(を始めとするヨーロッパの諸言語)において形成された語であるという点だ.確かにラテン語やギリシア語などの古典語をモデルとしてはいるが,決してそこから借用されたわけではない.その意味では英単語ぽい体裁をしていながらも英単語ではない「和製英語」と比較することができる.新古典主義的複合語の舞台は英語であるから,つまり「英製羅語」といってよい.しかし,英製羅語と和製英語とのきわだった相違点は,前者が主として国際的で科学的な文脈で用いられるが,後者はそうではないという事実にある.すなわち,両者のあいだには使用域において著しい偏向がみられる.Durkin は,新古典主義的複合語について次のように述べている.

. . . these formations typically belong to the international language of science and move freely, often with little or no morphological adaptation, between English, French, German, and other languages of scientific discourse. They are often treated in very different ways in different traditions of lexicography and lexicology; however, those terms that are coined in modern vernacular languages are certainly not loanwords from Latin or Greek, even though they may be formed from elements that originated in such loanwords. (347)


. . . Latin words and word elements have become ubiquitous in modern technical discourse, but frequently in new compound or derivative formations or with new meanings that have seldom if ever been employed in contextual use in actual Latin sentences. (349)


 これらの造語を指して「新古典主義的複合語」と呼ぶか「英製羅語」と呼ぶかは,たいした問題ではない.しかし,和製英語の場合には「英語主義的複合語」と呼ばないのはなぜだろうか.この違いは何に起因するのだろうか.

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2017-05-06 Sat

#2931. 新しきは古きを排除するのではなく選択肢を増やす [language_change][register][semantic_change][printing]

 カーランスキー(著)『紙の世界史』を読んだ.紙の歴史については「#2465. 書写材料としての紙の歴史と特性」 ([2016-01-26-1]) でも扱ったが,密接に関連する印刷術のテクノロジーと合わせて,紙が人類の文明に偉大な貢献をなしたことは疑いようがない.
 カーランスキーの紙の歴史の叙述は一級品だが,テクノロジーの歴史に関する一般的な原理の指摘も示唆に富んでいる (11) .

テクノロジーの歴史から学ぶべき重要なこと,一般に誤った推論がなされていることはほかにもある.新しいテクノロジーは古いテクノロジーを排除するというのがそのひとつだ.これはめったには起こらない.パピルスは紙が導入されてからも地中海沿岸を中心とする地域で何世紀も使われつづけた.羊皮紙はいまだに使われている.ガスや電気ストーブが発明されても暖炉がなくなることはなかった.印刷ができるようになっても人はペンで書くことをやめなかった.テレビはラジオを駆逐しなかった.映画は劇場をなくせなかった.ホームビデオも映画館をなくせなかった.が,今挙げたものはどれも誤った予測をたてられた.電卓がそろばんの使用を終わらせることさえできなかったのに.そして,商業的成功を約束された電球の特許がトーマス・エジソンに与えられた一八七九年から一世紀以上経った現在でも,アメリカ合衆国だけで四百社の蝋燭製造業者が存在し,およそ七千人の従業員を雇い,年間で二十億ドル以上を売り上げている.二十一世紀の最初の十年には蝋燭の売り上げが伸びたほどだ.むろん蝋燭の使い途は大きく変わったけれども.同様のことは羊皮紙の製造法や用途についても起こった.新たなテクノロジーは古いテクノロジーを排除するというより選択肢を増やすのだ.コンピュータはまちがいなく紙の役割を変えるだろうが,紙が消えることはけっしてない.


 確かに,紙に印刷された書籍が現われたあとも長らく羊皮紙はとりわけ正式な文書にふさわしい素材だとみなされ続け,18世紀末のアメリカ独立宣言においても羊皮紙で書かれるべきことが説かれたほどである.
 昨今,紙の書籍と電子書籍の競合についての議論が盛んだが,カーランスキー (461--62) は上記のテクノロジー観をさらに押し進めて,次のように述べる.

デジタル時代に消えてゆくであろうものを予測するまえに,口承文化が今も生き残っているということを思い出してみるのもいいだろう.新刊本の販売促進で最初におこなわれるイベントが著者による朗読会であったりするのは,人には耳で聞いたものを読みたくなる傾向があるからだろう.オーディオブックも人気となっている.


 なるほど,古いテクノロジーは新しいテクノロジーにより置き換えられるというよりは,独特な機能を保持・獲得しつつ,存続してゆくことが多いものかもしれない.これは,ちょうど古い語が新しい語に置き換えられるのではなく,語義,用法,使用域を特化させてしぶとく生き残っていく様にも似ている.古きものは社会の一線からは退くかもしれないが,完全に廃棄されてしまうわけではなく,むしろ選択肢の一つとして積み重ねられていき,生活や表現のヴァリエーションを豊かにしていくものなのだろう.

 ・ マーク・カーランスキー(著),川副 智子(訳)『紙の世界史 歴史に突き動かされた技術』 徳間書店,2016年.

Referrer (Inside): [2020-11-16-1] [2017-11-07-1]

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2017-01-12 Thu

#2817. 名詞構文と形式性 [noun][hypostasis][style][register][rhetoric][discourse_analysis]

 ヒトラーが演説の天才だったことはよく知られている.陰でオペラ歌手による発声法の指導まで受けていたというから,完全に演説の政治的価値を見て取っていたことがわかる.ヒトラーの演説を,その政治家としてのキャリアの各段階について,言語学的およびパラ言語学的に分析した著書に,高田著『ヒトラー演説』がある.言語学的分析に関しては,ヒトラー演説150万語からなる自作コーパスを用いた語彙調査が基本となっており,各時代について興味深い分析結果が示されている.
 とりわけ私が関心をもったのは,ナチ政権期前半に特徴的に見られる名詞 Ausdruck (表現),Bekenntnis (公言),Verständnis (理解)と関連した名詞構文の多用に関する分析である(高田,p. 161--62).いずれも動詞から派生した名詞であり,「名詞的文体(名詞構文)」に貢献しているという.名詞構文とは,「列車が恐ろしく遅れたこと」を「列車の恐ろしい遅延」と名詞を中心として表現するもので,英語でいえば (the fact) that the train was terribly delayedthe terrible delay of the train の違いである.
 思いつくところで名詞構文の特徴を挙げれば,(1) 密度が濃い(あるいはコンパクト),(2) 形式的で書き言葉らしい性格が付される,(3) 実体化 (hypostasis) の作用により意味内容が事実として前提されやすい,ということがある(「#1300. hypostasis」 ([2012-11-17-1]) も参照).これは,ドイツ語,英語,日本語などにも共通する特徴と思われる.
 名詞構文においては,対応する動詞構文ではたいてい明示される人称,時制,相,態,法などの文法範疇が標示されないことが多く,その分情報量が少ない.ということは,細かいニュアンスが捨象されたり曖昧のままに置かれるということだが,形式としては高密度でコンパクト,かつ格式張った響きを有するので,内容と形式の間に不安定なギャップが生まれる.外見はしっかりしていそうで中身は曖昧,というつかみ所のないカプセルと化す.それを使用者は「悪用」することができるというわけだ.政治家や役人が名詞構文をレトリックとして好んで使う所以である.
 高田の分析によれば,ヒトラーの場合には「このような形式性,書きことばらしさは,ナチ政権期前半においてさまざまな国家的行事における演説に荘厳な印象を与えるためのものであった」 (161--63) という.

 ・ 高田 博行 『ヒトラー演説』 中央公論新社〈中公新書〉,2014年.

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2016-12-19 Mon

#2793. コンテクストの種類 (2) [context][register][pragmatics][communication]

 「#2122. コンテクストの種類」 ([2015-02-17-1]) で扱った話題について再考する.言語におけるコンテクスト (context) と一言でいっても,その内容や分類法については様々な立場がある.今回は,Crystal (322--23) の与えている3要素を紹介しよう.

 ・ Setting: The time and place in which a communicative act occurs, such as in church, during a meeting, at a distance, or upon leave-taking.
 ・ Participants: The number of people who take part in an interaction, and the relationships between them, such as the addressee(s) and bystander(s).
 ・ Activity: The type of activity in which a participant is engaged, such as cross-examining, debating or having a conversation.


 それぞれ,言語行動に関する when/where, who, what におよそ相当すると考えてよいだろう.これら3要素の組み合わせにより広い意味での「文脈」が定まり,それにより,話者は言語使用に際して何らかの制限が課されることになる.どのような点について制限されるかといえば,例えば次の4項目が考えられる.

 ・ Channel: They influence the medium chosen for the communication (e.g. speaking, writing, signing, whistling, singing, drumming) and the way it is used.
 ・ Code: They influence the formal systems of communication shared by the participant, such as spoken English, written Russian, American Sign Language, or some combination of these.
 ・ Message form: They influence the structural patterns that identify the communication, both small-scale (the choice of specific sounds, words, or grammatical constructions) and large-scale (the choice of specific genres).
 ・ Subject matter: They influence the content of the communication, both what is said explicitly and what is implied.


 これらを総合すると,例えばキリスト教の説教師が置かれる典型的なコンテクストは,次のようなものとなる.説教師 (participant) が,日曜日の朝に教会 (setting) で,信徒の集団 (participants) に向かって,英語の独り言 (code) という話し言葉 (channel) で,説教 (activity) を行なう.その際,宗教を語るにふさわしい文体や構成 (message form) で,精神的な話題 (subject matter) について語るだろう.逆からみれば,このようなすべての要件が合わさると,いかにも「説教」というコンテクストができあがるともいえる.
 当然ながら,コンテクストは,使用域 (register) やジャンル (genre) の問題とも不可分である(「#839. register」 ([2011-08-14-1]) を参照).また,より広い立場から,「#1996. おしゃべりに関わる8要素 SPEAKING」 ([2014-10-14-1]) や「#1326. 伝え合いの7つの要素」 ([2012-12-13-1]) も関連するだろう.

 ・ Crystal, David. How Language Works. London: Penguin, 2005.

Referrer (Inside): [2016-12-20-1]

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