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lalme - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2018-12-18 04:58

2016-03-21 Mon

#2520. 後期中英語の134種類の "such" の異綴字 [spelling][lme][lalme][corpus][scribe][me_dialect][frequency]

 「#53. 後期中英語期の through の綴りは515通り」 ([2009-06-20-1]),「#219. eyes を表す172通りの綴字」 ([2009-12-02-1]) に引き続き,英語史における著しい綴字の変異について.今回は,異綴字の種類の多さに定評のある(?) "such" を取り上げる.
 「#1622. eLALME」 ([2013-10-05-1]) で紹介した,後期中英語の方言地図 LALME の改訂・電子版 eLALME において,Item List 10 が "such" を扱っている.この一覧から異綴字を抜き出すと,不確かな例を除いて少な目に数えても,以下の134種類が挙がる(かっこ内の数値は文証される頻度).

asoche (1), aswyche (1), schch (1), schech (1), scheche (3), schiche (1), schoche (1), scht (1), schuc (1), schuch (3), schuche (4), schut (1), schute (1), sclik (2), sclike (1), sclyk (2), sclyke (2), scoche (1), scwche (1), sech (8), seche (39), sewyche (2), shich (1), shiche (1), shoch (1), shoche (1), shuch (5), shuche (3), shych (1), sic (6), sic- (1), sich (53), siche (101), sick (1), sɩͨh (1), sik (1), sik- (1), sike (2), silk (3), sli (1), slieke (1), slik (10), slike (26), slilk (2), slkyke (1), slyk (13), slyke (26), soch (12), soche (60), souche (3), sowche (2), soyche (1), squike (1), squilk (2), squylk (1), sqwych (1), sqwyche (1), sswiche (1), suc (1), succh (1), sucche (5), such (242), suche (375), suchee (1), sucheȝ (1), suchet (1), sucht (1), suchte (1), suech (4), sueche (6), suhc (1), suhe (1), suich (9), suiche (7), suilk (6), suilk- (1), suilke (3), suilkin (1), sulc (1), sulk (4), sulke (2), sutche (1), suth (1), suuch (1), suuche (1), suuech (1), suueche (1), suych (13), suyche (15), suylk (7), suylke (6), svche (1), sviche (1), swc (1), swch (7), swche (4), swech (19), sweche (48), swelk (4), swhiche (2), swhilke (2), swhych (2), swhyche (1), swic (2), swich (77), swiche (84), swichee (1), swilc (3), swilk (76), swilke (45), swilkes (1), swisɩͨhe (1), swlk (1), swlke (1), swuch (3), swuche (2), swych (56), swyche (65), swyeche (1), swyk (1), swyke (1), swyl (1), swylk (62), swylke (35), swylle (1), syc- (1), sych (23), syche (67), syge (1), syk (4), syk- (1), syke (5), sylk (3), sylke (2)


 方言の別を度外視して頻度の統計を取ると,トップ10が suche, such, siche, swiche, swich, swilk, syche, swyche, swylk, soche である.トップの2種類 suchesuch は現代英語を見慣れている者にとって,十分常識的にみえるだろう.実際,この2種類だけで617例が文証され,総1867例のほぼ3分の1を占める.また,トップの10種類だけで,ほぼ3分の2を占める.したがって,異綴字がこれだけ多くあるからといって,そのまま完全なる混沌に等しい,ということにはならない.このような事情は,中英語期に多種類の綴字が認められる多くの語について認められ,混沌のなかにもある程度の秩序らしきものがが宿っているといえる.そうだとしても,当時の書き手と読み手にとってはやはり不便な状況だったに違いない.この点については,「#1311. 綴字の標準化はなぜ必要か」 ([2012-11-28-1]),「#1450. 中英語の綴字の多様性はやはり不便である」 ([2013-04-16-1]) で論じた通りである.
 初期中英語や近現代の諸方言形を調べれば,もっと異綴字の種類は増すだろう.出典は失念したが,数え方にもよるものの,500種類ほどという数字を見かけたことがある・・・.

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2015-03-09 Mon

#2142. 中英語における3単現および複現の語尾の方言分布 [map][laeme][lalme][me_dialect][me][3sp][3pp][verb][conjugation][nptr]

 標題の問いに手っ取り早く答えるには,次の表で事足りる(Görlach (68) による表の一部より).

 SouthMidlandNorth
Present Indicative3sg.-(e)þ-(e)þ-(e)s
pl.-(e)þ-(e)n-(e)s


 これを地図上に示すと「#790. 中英語方言における動詞屈折語尾の分布」 ([2011-06-26-1]) の通りとなるが,より詳しい分布を得たいときには LAEME (初期中英語)と eLALME (後期中英語)を参照するのが便利である (cf. 「#1622. eLALME」 ([2013-10-05-1])) .以下では,両アトラスより得られた地図の画像を貼り付けよう(クリックするとより大きく綺麗な画像が得られる).まずは,1150--1325年をカバーする LAEME より,3単現(左)と複現(右)の語尾の分布をそれぞれ示す.

LAEME: 3sp 's' and 'th' LAEME: 3pp 's', 'th', 'n', 'e', and zero
LAEME: 3sp 's' and 'th' LAEME: pp 's', 'th', 'n', 'e', and zero


 両地図で北部に集まる赤丸が -s を,南部に集まる青四角が -th を表す.右の複現の語尾では東中部その他に黒三角が散在しているが,これは -n 語尾を表す.次に,複数代名詞と接する動詞の現在形が -e またはゼロの語尾をとる "Northern Present Tense Rule" (NPTR; cf. 「#689. Northern Personal Pronoun Rule と英文法におけるケルト語の影響」 ([2011-03-17-1]),nptr) の分布図を見よう.

LAEME: NPTR pp 'e' and zero
LAEME: NPTR pp 'e' and zero


 では次に後期中英語の分布に移る.eLALME では,語尾の種類ごとに別々の地図を作成した.まずは3単現から.

eLAEME: 3sp 's' eLAEME: 3sp 'th'
eLALME: 3sp 's' eLALME: 3sp 'th'


 前時代の分布をよく受け継いでおり,左図の通り -s が北部に,右図の通り -th が中部以南に分布しているのがわかる.複現については,-s, -th, -n, -e (or zero) の4種類について各々の地図を見てみよう.

eLAEME: pp 's' eLAEME: 3pp 'th'
eLALME: pp 's' eLALME: pp 'th'
eLAEME: pp 'n' eLAEME: 3pp 'th'
eLALME: pp 'n' eLALME: pp 'e' or zero


 こちらも前時代の分布をよく受け継いでおり,北部で -s (左上図),中部以南で -th (右上図)が優勢だが,中部で -n (左下図)が前時代よりも著しく拡張していることが見て取れる.全体的に,初期中英語と後期中英語の分布間で量的な差は見られるが,質的には大きな変化はないといってよいだろう.  *

 ・ Görlach, Manfred. The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997.

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2013-10-05 Sat

#1622. eLALME [me_dialect][lalme][preposition][map][web_service]

 昨日の記事「#1621. The Middle English Grammar Corpus (MEG-C)」 ([2013-10-04-1]) で触れたが,後期中英語の方言地図 LALME の改訂・電子版 eLALME が,今年,Edinburgh 大学よりオンラインで公開された.書籍版 LALME にあった誤りが訂正されるなど,改訂版といってよく,機能の豊富さや検索の便などで,今後は電子版が主として利用されてゆくことになると思われる.
 書籍版に対して種々の拡張がなされているが,Item Number などの対応番号が異なっているものもあるので注意を要する.例えば,between の異形の分布について,書籍版では Dot Maps 703--06, 1118--19 に6種類の分布図が掲載されているが,電子版では Item Number 89 のもとに16種類の分布図が掲載されている.実際,Dot Map の数は電子版になって1/3以上増えた.
 また,ユーザー定義の方言地図が描けるというのが目を見張る.「#1394. between の異形態の分布の通時的変化」 ([2013-02-19-1]) や昨日の記事 ([2013-10-04-1]) でも話題にした between の歴史的異形に関して,語末の子音群に x を含むタイプが後期中英語でどのように分布していたかを知りたい場合を想定しよう."User-defined Maps" の機能から,"Select one or more items" で "89 BETWEEN pr [North & Ireland]" を選んだ上で,"Select one or more forms" で x を含む形態のすべてにチェックを入れる.それから "Make map" をクリックすれば,以下のような Dot Map が得られるという仕組みである.既製の Dot Map よりも,条件を細かくチューニングできる.

Map of x-Type of BETWEEN by eLALME

 書籍版の Item Map に相当するものは,ウェブ上での地図製作技術の限界から,電子版では得られない.しかし,代替手段として,ユーザー定義地図のドットをクリックすることにより,その地点における言語項目の異綴字をポップアップさせることができる.これは既製の Dot Map では不可能なので,ユーザー定義地図の利用価値は高い.
 昨日紹介した LALME 系コーパス The Middle English Grammar Corpus (MEG-C) と合わせて,中英語方言研究もついに本格的にデジタル時代へ突入したといえるのではないか.
 なお,方言地図作成といえば自作の「#846. HelMapperUK --- hellog 仕様の英国地図作成 CGI」 ([2011-08-21-1]) もどうぞ.

 ・ McIntosh, Angus, M. L. Samuels, and M. Benskin. A Linguistic Atlas of Late Mediaeval English. 4 vols. Aberdeen: Aberdeen UP, 1986.

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2012-12-11 Tue

#1324. two の /w/ はいつ落ちたか [numeral][spelling][pronunciation][laeme][lalme]

 「#184. two の /w/ が発音されないのはなぜか」 ([2009-10-28-1]) で,two の発音に含まれる半母音 /w/ が,いつどのように脱落したかについて簡単に触れた.15〜16世紀に脱落したとされるが,綴字で確認する限りでは,方言によってはもっと早く中英語期に脱落していたことを示す証拠がある.
 まず,後期中英語について.LALME の Dot Map 548--57 に two の異綴りの方言分布が示されている.主要な異綴りについて概説すれば,twa タイプ (Dot Map 548) は北部方言に限定されているのに対して,最も普通の two タイプ (Dot Map 550) は北部を含むイングランド全域にまんべんなく例証される.問題の <w> の綴字を含まない to(o) タイプ (Dot Map 557) は,広く南部に見られ,とりわけ East Anglia や South-West Midland に濃く分布している.このように,後期中英語では,すでに w の落ちた形態がイングランド南半で珍しくなかったことがわかる.
 では,初期中英語ではどうだったろうか.LAEME で調べてみた.TO あるいは TO- の綴字をもつ "two" を取り出し,方言別,時代別に整理すると以下のようになった.

 C12bC13aC13bC14a
N   1
NEM   1
NWM    
SEM  286
SWM 11 
SW  420
SE    


 ちょうど LALME の Dot Map 557 で to(o) が比較的濃い分布を示していた地域に,TO(-) が集まっている.初期中英語から後期中英語への分布の連続性がよく表われている例といえるだろう.<w> をもたない綴字は,時代としてはおよそ13世紀後半以降に,南部諸方言を中心に始まったと考えてよさそうだ.対応する音声における /w/ の脱落も同様に考えるのが妥当だろう.
 中英語におけるこの語の数々の異綴りについては,MEDを参照.

 ・ McIntosh, Angus, M. L. Samuels, and M. Benskin. A Linguistic Atlas of Late Mediaeval English. 4 vols. Aberdeen: Aberdeen UP, 1986.

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2011-08-31 Wed

#856. LAEME text database のデータ点とテキスト規模 [map][laeme][lalme]

 LAEME text database で扱われている scribal texts の数は,LAEME Index of Sources (PDF) によると,ざっと168個だが,そのなかで地図上の位置が特定されているものは121個(約72%)である.位置情報は Ordinance Survey National Grid Reference として得られるし,各テキストについてタグ付けされている語数も得られるので,組み合わせれば,データ点ごとにどの程度の規模のテキストがコーパスとして利用できるか,地図上に表現することができることになる.この作業を,[2011-08-21-1]の記事「HelMapperUK --- hellog 仕様の英国地図作成 CGI」で公開した地図作成ツールを用いて行なった.以下が結果である.

LAEME data points and text sizes

 異なるデータ点は96を数え,データ点と関連づけられるテキスト(群)を構成する語数の平均値は6307語ほどである(タグ付けされた語数はこれより若干下回る).凡例として地図の右上に示した赤塗りの円の面積がこの平均語数に相当し,この面積を基準として,各データ点が,語数に相当する面積をもつ白抜きの赤丸として描かれている(参考までに,HelMapperUK に読み込ませたデータはこちら).
 地図を眺めて直感的にわかることは,データ点にせよ収録語数にせよ,South-West Midland と South-East Midland に随分と集中しているということである.これは,LAEME の編者の1人である Laing が自らの論文 "Never the twain shall meet" で注意を喚起している通りである.LAEME のテキストの位置特定は,LALME が編み出した "fit technique" という理論的手法に負っているが,この手法の成否の鍵は "anchor texts" と呼ばれる確実な出発点が多く手に入るかどうかという点にある.だが,残念なことに,後期中英語と異なり初期中英語では "anchor texts" が格段に少ない."anchor texts" は,後の理論的な位置特定に際して磁石のように機能するため,出発点が東や西に離れて分布していると,これから "fit" させようと思っているテキストも相対的に東西のどちらか側に引きつけられてしまうという結果になることが多い.Midland の中央にデータ点がまばらなのは,このような事情にも帰せられる.
 地図作成ツール HelMapperUK は,半ば LAEME の活用のために作ったようなものだが,LAEME 自体を分析するのにも利用できそうだ.
 なお,LAEME Index of Sources は先に貼り付けたリンク より PDF で入手できるが,その他にもLAEME のトップページ から Auxiliary Data Sets -> Index of Sources とたどると,様々なパラメータによりソーステキストの情報検索ができる.

 ・ Laing, Margaret. "Never the twain shall meet: Early Middle English --- The East-West Divide." Placing Middle English in Context. Ed. I. Taavitsainen et al. Berlin: Mouton de Gruyter, 2000. 97--124.
 ・ McIntosh, Angus, M. L. Samuels, and M. Benskin. A Linguistic Atlas of Late Mediaeval English. 4 vols. Aberdeen: Aberdeen UP, 1986.

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2011-08-21 Sun

#846. HelMapperUK --- hellog 仕様の英国地図作成 CGI [cgi][web_service][map][lalme][laeme][bre]

 中英語の方言を研究していると,LALME の Dot Map 風のイングランド地図を描けると便利だと思う機会がある.LALME の地図を用いるのであればコピーしたりスキャンしたりすればよいし,オンラインの LAEME であれば "Mapping" 機能から "Feature Maps" で特に注目すべき言語項目に関する地図はデジタル画像で得られる.後者では,"Create a Feature Map" なるユーザーによる地図作成機能もおいおい追加されるとのことで,中英語方言学のヴィジュアル化は今後も進展して行くと思われる.
 しかし,それでも様々な困難や不便はある.例えば,LAEME でも,自分の関心のある言語項目が LAEME 自体で扱われていなければ地図作成機能は役に立たないし(例えば,私の中英語名詞複数の研究では名詞の歴史的な文法性が重要だが,LAEME text database では性がタグ付けされていないのでフルには活用できなかった),LALME についてはそもそも地図がデジタル化されていず応用しにくい(地図のデジタル化,少なくともテキスト情報や座標情報のデジタル化が一刻も早く望まれる).
 それでも,手をこまねいて待っているわけには行かない.既存のツールと自分の関心は大概ずれているものであり,自ら研究環境を作る必要に迫られるのが常だからだ.中英語の方言地図に関する限り,LALMELAEME からテキストの方言付与情報さえ得られれば,自ら集めた言語項目に関するデータを地図上にプロットすることは十分に可能である.(需要は少ないと思われるが)その作業を少しでも簡便化するために,HelMapperUK なる CGI を作成してみた.英国のベースマップ上にデータポイントをプロットするという単機能に特化しており,凡例をつけるなどの付加機能はないが,ヴィジュアル化して概観をつかむという用途には十分と思われる.



 以下で使い方の説明をするが,その前に,まずこちらのデータファイルの内容を上のテキストボックスに上書きコピペして出力結果の確認をどうぞ.これは,拙著の複数形研究で分析した初期中英語テキストの分布で,赤丸が手作業で分析したもの,青四角が LAEME text database を援用して分析したもの,それぞれの形で小さいものはテキストの全体ではなく部分を分析したものを表わす.(実際,Hotta (55) の地図はおよそこのようにして描かれた.)

 では,使い方の説明(基本的に作者個人仕様のものを公開しているだけなのでインターフェースは洗練されていません,あしからず).テキストボックスにあらかじめ入力されているとおり,入力データは設定部 (Configuration) で始まる.以下が設定可能な変数.

 ・ 「map」変数には "England" か "UK" が入る.これで,出力される地図の範囲を決定.
 ・ 「scale」変数は,X方向とY方向への拡大率を指定.拡大なし (scale=1 1) だと,出力画像は 386 * 313 Pixels (England) ,529 * 557 Pixels (UK) の大きさ.
 ・ 「pattern + 数字」変数は,プロットに用いる記号を定義する.イコールの後にはスペース区切りで (1) 形 ("box", "circle", "cross", "diamond", "invertedtriangle", "plus", or "triangle") ,(2) その形を塗りつぶすか否か (ex. "fill" or "stroke") ,(3) 色 (ex. "aqua", "black", "blue", "cyan", "green", "lime", "magenta", "red"; 他の大抵の色名にも対応しているはずだが出力される画像に反映されない色もある) ,(4) 大きさ(線の長さや円の直径に相当する Pixels)の4項目の値を与える.パターンは好きなだけユーザー定義可能.

 その後にデータ部 (Data points) が続く.1行に1データポイントで,各行はタブ区切りで (1) X座標,(2) Y座標,(3) 上で定義されたパターン名のいずれか ("pattern1" など)の3項目の値を与える(実際にはパターン名は省略可能.その場合,自動的に "pattern1" が用いられる.).座標系については,LALMELAEME で採用されている Ordinance Survey National Grid Reference の3桁ずつの座標系 (ex. "372 244") ,あるいは一般の経度・緯度 (ex. -2.408752393 52.09322081) のいずれも可能(自動で判定される).
 空行,あるいは "#" で始まるコメント行はデータとして無視される.

 出力結果は GIF 形式の画像として表われる.別途,EPS 形式のベクター画像としてもダウンロードできるようにした(こちらのファイルをいじれるのであれば,各種の設定を含めた細かいチューニングが可能).
 英国ベースマップの作成には,CIA World DataBank IIDCW Map Interface for Europe のデータを参照した.

(後記 2011/08/31(Wed):[2011-08-31-1]の記事「LAEME text database のデータ点とテキスト規模」で,HelMapperUK で作製した地図の実例を示した.)

 ・ McIntosh, Angus, M. L. Samuels, and M. Benskin. A Linguistic Atlas of Late Mediaeval English. 4 vols. Aberdeen: Aberdeen UP, 1986.
 ・ Laing, Margaret and Roger Lass, eds. A Linguistic Atlas of Early Middle English, 1150--1325. http://www.lel.ed.ac.uk/ihd/laeme1/laeme1.html . Online. Edinburgh: U of Edinburgh, 2007.
 ・ Hotta, Ryuichi. The Development of the Nominal Plural Forms in Early Middle English. Hituzi Linguistics in English 10. Tokyo: Hituzi Syobo, 2009.

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2011-06-26 Sun

#790. 中英語方言における動詞屈折語尾の分布 [me_dialect][inflection][suffix][participle][lalme][map][3pp][3sp]

 中英語の方言差を特徴づける形態素は数多くあるが,顕著なものの1つに現在分詞語尾がある.現代英語の -ing に相当する語尾だが,大きく分けて -ing, -ande, -ende, -inde の4種類があり,それぞれ特徴的な分布を示す.以下は,LALME の Dot Map 345--51 を参照して,およその分布を再現したものである.

Map of Present Participle Suffix in ME Dialects

 -ing はすでに England の全域に分布しており,方言特徴と呼ぶのはふさわしくないかもしれないが,その異形態として現われる -nd(e) 形の母音部分の差が方言をよく弁別する.-ande の分布は Northern から East Midlands にかけての地域(かつての Danelaw )に一致する.-ende は East Midlands ,-inde は South-West Midlands に集中する.ロンドン付近で複数の異形態が観察されるのは,その地がまさに諸方言の境であることを示している.
 現在分詞語尾の他には,直説法3人称単数現在語尾と直説法複数現在語尾が,方言特徴をよく表わすものとして知られている.この2項目の分布は残念ながら直接 LALME の Dot Map には与えられていない.いきおい図式的ではあるが,Burrow and Turville-Petre (31--32) の記述を参考に,地図化してみた.

Map of Present Indicative 3rd Person Singular Suffix in ME Dialects

Map of Present Indicative Plural Suffix in ME Dialects


 この3つの動詞屈折語尾に注目するだけでも,ある程度,中英語の方言の絞り込みができるだろう.

 ・ McIntosh, Angus, M. L. Samuels, and M. Benskin. A Linguistic Atlas of Late Mediaeval English. 4 vols. Aberdeen: Aberdeen UP, 1986.
 ・ Burrow, J. A. and Thorlac Turville-Petre, eds. A Book of Middle English. 3rd ed. Malden, MA: Blackwell, 2005.

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2011-02-19 Sat

#663. 中英語方言学における綴字と発音の関係 [lalme][laeme][me_dialect][spelling_pronunciation_gap][grammatology][graphemics][x]

 初期中英語の方言地図 LAEME の機能が向上してきた.その先輩でもあり生みの親でもある後期中英語の方言地図 LALME は,綴字と発音の関係を考察する上で重要な知見をもたらしてきた.中英語における綴字の地理的分布が,発音の地理的分布と同様に方言学的な価値をもっていることを明らかにした.それまでは,綴字は発音に従属する二次的な体系であり,綴字の地理的分布が本質的に重要な価値をもっているとはみなされていなかったが,LALME は綴字を独立して観察されるべき体系として位置づけたのである.綴字を発音から解放したとでも言おうか.
 中英語方言学は,1986年の LALME の登場によって意表を突かれながら,新たな段階に入ることになった.ここに一種の解放感ならぬ開放感があったことは確かである.文書でしか残されていない中英語の言語的実態,ことに発音の実態を蘇らせたいと思えば,綴字の問題に行き着いてしまう.綴字がどのくらい忠実に発音を表わしているのかは,まさに隔靴掻痒たる問題である.例えば,悪名高いものに現代英語の shall に対応する後期中英語 East Anglia 地方の綴字 xul, xal がある(この語の他の奇妙な綴字は MED を参照).この <x> の文字で表わされる音価は [ks] なのか [ʃ] なのか,あるいは別の音なのか.このような難問が立ちはだかるなかで,綴字と発音を一度切り離して考えてみよう,綴字の側だけでも独立して考察してみよう,という研究上の選択肢が与えられることとなった.
 しかし,発音の呪縛からの解放感は永久に続くわけではない.LALME の出版後,(時代としてはより古いが)その続編として LAEME のプロジェクトが始まったが,プロジェクトの後半から本格的に参加した歴史形態音韻論の理論家 Lass は,綴字と発音の関係を再考して次のように述べている.

The statement in LALME (vol. 1, 6) that the maps constitute 'a dialect atlas of written Middle English', and that texts are 'treated as examples of a system of written language in its own right' is often misinterpreted. The emphasis on the independent value of written evidence was particularly apposite two decades ago, given the post-Bloomfieldian view that was current then (and to a large extent still is) that writing is of no independent linguistic interest, but merely 'parasitic on' speech. But this must not be misunderstood and taken to imply that phonological interpretation is per se unnecessary. The LALME editors take no such line. They were fully aware of the potential phonological implications of their data. LALME is rich in phonological commentary, while the series of Dot Maps (vol. 1) crucially depends on acknowledging the relationship between sound and symbol. (Lass and Laing 11--12)


 これは,20年ほどの解放感の後で xul の音価は何かという悪夢のような問題に立ち返らなければならないという宣言だろうか.上の論文でなされている Lass and Laing の文字論,書記素論の考察は,初期中英語の綴字問題にとどまらず,現代英語の綴字と発音の関係にも光を与えるものであり,読み応えがある.

 ・ Lass, Roger and Margaret Laing. "Interpreting Middle English." Chapter 2 of "A Linguistic Atlas of Early Middle English: Introduction." Available online at http://www.lel.ed.ac.uk/ihd/laeme1/pdf/Introchap2.pdf .
 ・ McIntosh, Angus, M. L. Samuels, and M. Benskin. A Linguistic Atlas of Late Mediaeval English. 4 vols. Aberdeen: Aberdeen UP, 1986.

Referrer (Inside): [2015-07-25-1] [2011-02-20-1]

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2009-07-29 Wed

#93. third の音位転換はいつ起こったか (2) [metathesis][spelling][lalme][laeme]

 昨日の記事[2009-07-28-1]に引き続き,third の音位転換がいつ起こったか.今回は,後期中英語を守備範囲とする LALME を見てみる.北部方言に限っての異綴りリストなので,全体像はわからないものの,示唆的な分布である.

terd, thed, therd, therdde, therde, third, thirdde, thirde, thrd, thre, thred, thredd, thredde, threde, thrid, thridd, thridde, thride, thryd, thrydd, thrydde, thryde, thryde, thyrde, thyrd, trid, tyrd, þerd, þerde, þird, þirdde, þirde, þred, þred, þredde, þrede, þrid, þrid-, þridde, þride, þryd, þrydd, þrydde, þryde, þyrd, yerdde, yird, yirdde, yirde, yred, yredde, yrede, yrid, yridde, yride, yryd, yryde


初期中英語では音位転換はほとんど起こっていなかったが,後期中英語では音位転換を経た <母音 + r> が,3分の1強の綴りに確認される.特に頻度の高い綴りは,third, thrid, thridde, thryd, thyrd あたりだが,そのうちの二つが音位転換をすでに経ている綴りである.
 参考までに,オンライン版の Middle English Dictionary から thrid をのぞいて,異綴りを確認してみることを勧める.
 上記から,音位転換形は突然に広まったわけではなく,ゆっくりと確実に分布を広がってきたことが分かる.10世紀半ばの古英語の時代に ðirdda という音位転換形が用いられている例もあり,その頃から緩慢に分布を広げてきたのだろう.最終的に third に定着するのは近代英語期になってからだと想定されるが,確実なことは LAEMELALME に引き続き,初期近代英語のコーパスで異綴りの調査を行う必要がある.

 ・Laing, Margaret and Roger Lass, eds. A Linguistic Atlas of Early Middle English, 1150--1325. http://www.lel.ed.ac.uk/ihd/laeme1/laeme1.html . Online. Edinburgh: U of Edinburgh, 2007.
 ・McIntosh, Angus, Michael Louis Samuels, Michael Benskin, eds. A Linguistic Atlas of Late Mediaeval English. Aberdeen: Aberdeen UP, 1986.

Referrer (Inside): [2016-04-11-1]

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2009-07-28 Tue

#92. third の音位転換はいつ起こったか [metathesis][spelling][lalme][laeme]

 [2009-06-27-1]で取りあげたが,音位転換 ( metathesis ) の代表例の一つに third がある.古英語の綴り þridda から,また現代英語の対応する基数詞 three の綴りから分かるとおり,本来は <ir> ではなく <ri> という順序だった.ところが,後に音の位置が転換し,現代標準語の綴りに落ち着いた.
 では,いつこの音位転換が起こったのか.[2009-06-21-1]で紹介した LAEMELALME という中英語の綴りを準網羅的に集積した資料を用いれば大体のことはわかる.今回は,初期中英語 ( Early Middle English ) を守備範囲とする LAEME で調べてみた.
 LAEMEオンラインで利用できるので,実際に以下の手順を試してもらいたい.TAG DICTIONARY -> Numbers とたどって右側のブラウザに現れる長いリストが,数詞の異綴り集である.記号の読み方は多少慣れる必要があるが,"3/qo" が「3の序数詞」つまり third に対応するタグなので,これをキーワードに検索をかければ,13行ほどがヒットする.異綴りを整理すると,以下の通り.

dridde, Dridðe, thred, thrid, thridde, thride, thrid/de, trhed, tridde, tridde, þerdde, þr/idde, þred, þredde, þri/de, þrid, þrid/de, þrid/den, þridda, þriddan, Þridde, þridde, þridden, þride, þridðe, þrid/de, þrirde, þri[d]/de, ðridde, Ðridde, ðride, yridde, yridden


以上から,音位転換が起こっているのは þerdde くらいで,まだまだ初期中英語期の段階では <ri> が圧倒的だということがわかる.
 蛇足だが,我が家における最近の音位転換のヒット作は「竜のお仕事」(←「タツノオトシゴ」)である.だが,これだけ配置替えされてしまっては,単純に音位転換と呼べるのかどうかは不明である.

 ・Laing, Margaret and Roger Lass, eds. A Linguistic Atlas of Early Middle English, 1150--1325. http://www.lel.ed.ac.uk/ihd/laeme1/laeme1.html . Online. Edinburgh: U of Edinburgh, 2007.
 ・McIntosh, Angus, Michael Louis Samuels, Michael Benskin, eds. A Linguistic Atlas of Late Mediaeval English. Aberdeen: Aberdeen UP, 1986.

Referrer (Inside): [2016-04-11-1] [2009-07-29-1]

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2009-07-16 Thu

#79. 手話言語学からの inspiration [sign_linguistics][double_articulation][origin_of_language][lalme][laeme]

 今日は,英語史に直接かかわる話ではないが,言語の起源や言語変化を考える際にヒントを与えてくれる手話言語学 ( sign linguistics ) という分野を紹介したい.紹介するといっても,私もつい先日その存在を知ったばかりなので,非常におこがましいが,許していただきたい.経緯を述べれば,今月号の『月刊言語』が手話言語学の特集を組んでおり,それを読んで inspiration をかき立てられただけの話である.
 手話言語学の中身については何もわからないが,それが言語の起源や機能を考える際に,多くの示唆を与えてくれそうだという匂いは感じることができた.どのような点で示唆的なのか.神田和幸氏による以下のポイントが分かりやすい (10).

 ・音声言語を獲得できない聾者が手話を発生させるのはなぜか
 ・動物にもサインが分かりやすいのはなぜか
 ・音声言語が通じない人間同士が身振りで伝えようとするのはなぜか
 ・音声言語を発しながら無意識にジェスチャーするのはなぜか

 つまり,音声言語の発生に先行して身振り言語が発生していたことは容易に想像され,その身振り言語が体系的に整理されたものが手話言語と考えれば,手話言語研究が言語起源説に貢献しうるということは自明のように思われる.
 浅学非才をさらけ出すが,手話言語は音声言語に匹敵する非常に複雑で精緻な内部体系をもっているということも初めて知った.手話言語に語彙があり文法があることは漠然と知っていても,形態論があり,なんと音韻論(に相当するもの)もあるというから驚きだ.アンドレ・マルティネのいう言語の二重分節 ( double articulation ) が手話言語にも歴然と存在するという.
 2008年5月3日に発効した,国際連合の「障害のある人の権利に関する条約」の第二条「定義」の項で,手話などの非音声言語も音声言語と同様に「言語」と位置づける旨が明記されているという(条約の英文はこちら).手話言語は,名実ともに,歴とした言語なのだそうだ.
 本ブログの趣旨に近い話題をあげれば,音声言語の方言や言語変化に相当するものが手話言語にもあるという.考えてみれば,手話言語に方言や通時的変化があっても確かに不思議ではない.日本手話言語地図の作成が計画されているというのもうなずける.
 手話言語学は,「言語=音声言語」という従来の前提からは生まれ得ない,言語の本質に迫る新たな視点を提供してくれる,発想の種になるかもしれない.中英語の綴り字の変異を地図上にプロットした LALMELAEME ([2009-06-21-1]) が英語史研究に新時代をもたらしてきたことを考えると,視覚言語にもっと注目が集まってもよい.「言語=音声言語」という犯すべからざる言語学の大前提を少し揺るがしてみるのも面白いのではないか.その意味で,手話言語学は,音声言語ではなく文字言語にどっぷり浸かっている文献学研究にとっても心強い仲間になるかもしれない.

 ・McIntosh, Angus, Michael Louis Samuels, Michael Benskin, eds. A Linguistic Atlas of Late Mediaeval English. Aberdeen: Aberdeen UP, 1986.
 ・Laing, Margaret and Roger Lass, eds. A Linguistic Atlas of Early Middle English, 1150--1325. http://www.lel.ed.ac.uk/ihd/laeme1/laeme1.html . Online. Edinburgh: U of Edinburgh, 2007.

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2009-06-21 Sun

#54. through 異綴りベスト10(ワースト10?) [spelling][lalme][laeme][oed][me_dialect]

 昨日[2009-06-20-1]の記事で through の綴りが後期中英語期だけでも515通りあったことを紹介した.そこで書き忘れたのだが,どこからこのような情報が得られるかということである.まさか,丹念に中英語のテキストをしらみつぶしに読んで,一つ一つ through とおぼしき形態をせっせと収集したというわけではない.また,電子コーパスとして全テキストが検索可能になっていたとしても,lemmatise(見出し語化)されていなければ,そもそも検索欄にどの綴り字を入力すればいいのかが不明である.
 方法の一つとして Oxford English Dictionary ( OED ) の利用がある.この究極の英英辞書は,古英語から現代英語までの各単語の異綴りを数多く掲載している.確かに汎用的に使える方法だが,OEDthrough を引いてみると,せいぜい数十の異綴りしか得られない.
 もう一つの方法は,A Linguistic Atlas of Late Mediaeval English ( LALME ) の利用である.これは,選ばれた基本語の異綴りがブリテン島の地図の上にプロットされている「方言地図」である.時代は後期中英語に限られているものの,異綴り研究にとっては究極のツールである.今回の through の異綴りも LALME ですでにまとめられているリストを打ち込んだだけである.LALME の初期中英語期の姉妹編として LAEME なるものもあり,こちらはオンラインで利用可能なので,ぜひ試されたい(URLは末尾).
 さて,515通りの列挙を眺めていると目がチカチカしてくるが,その中で私の独断と偏見で選ぶベスト10(ワースト10ともいえる)を,突っ込みを入れながら挙げてみよう.

 1. yhurght (←ほぼ yoghurt
 2. trghug (←ほぼ発音不可能)
 3. thrwght (←母音字なし,その一)
 4. thwrw (←母音字なし,その二)
 5. thrvoo (←vって・・・)
 6. throw (←違う単語になってる)
 7. threw (←その過去形まである)
 8. yora (←どうしてこうなるの?)
 9. ȝour (←なぜ?)
 10. through (←ちゃんとあるじゃない!)

 ・McIntosh, Angus, Michael Louis Samuels, Michael Benskin, eds. A Linguistic Atlas of Late Mediaeval English. Aberdeen: Aberdeen UP, 1986.
 ・Laing, Margaret and Roger Lass, eds. A Linguistic Atlas of Early Middle English, 1150--1325. http://www.lel.ed.ac.uk/ihd/laeme1/laeme1.html . Online. Edinburgh: U of Edinburgh, 2007.

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