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phraseology - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-10-19 07:12

2015-11-18 Wed

#2396. フランス語からの句の借用に対する慎重論 [french][loan_translation][borrowing][contact][phraseology][ormulum][old_norse][phrasal_verb]

 「#2351. フランス語からの句動詞の借用」 ([2015-10-04-1]) と昨日の記事「#2395. フランス語からの句の借用」 ([2015-11-17-1]) で話題にしたように,英語は中英語期にフランス語の単語のみならず句や表現を借用してきたと主張されてきた.一方,この主張に対して慎重な立場を取る論者もいる.その1人が Sypherd である.Sypherd はフランス語法借用説を主張する Sykes による論文 French Elements in Middle English (1899) を厳しく批判し,慎重論を展開した.
 Sypherd の論の進め方は明解である.Sykes がフランス語の影響があると指摘している英語の句や表現の多くが,Sykes の取り上げている諸文献よりも早い時期に書かれた Ormulum に現われていることを,実証的に示したのである.Ormulum は,East Midland 方言で1200年頃に書かれたとされる長大な宗教詩で,方言的にも時代的にもフランス語の影響が少ないとされるテキストである.このテキストは,むしろ古ノルド語の言語的影響を強く示すものとして知られている.そこで,Sypherd (6--7) は,Sykes のいう「フランス語法」とは,むしろ古ノルド語法とすら考えられるのではないかと,逆手を取る.

Now, if in the Ormulum, a poem free from French influence, these phrases which Mr. Sykes ascribes to the Old French occur with considerable frequency, we are surely justified in denying the overwhelming French phrasal influence on Middle English. Furthermore, the justification of this denial is strengthened when we find that in Old-Norse literature anterior to or contemporary with Orm there exist in comparative abundance many of the identical phrases found in the Ormulum and in other Middle-English literature. And finally, though I do not urge it, the probability of considerable Old-Norse phrasal influence on Orm demands consideration, especially if we bear in mind the following facts: (1) the marked Old-Norse influence in general on Orm; (2) the Old-Norse literature in which these phrases occur in homiletic, sermonic; (3) much of the literature antedates the Ormulum.


 もちろん,Sypherd はこの後論文のなかで,古ノルド語の文献から問題の英語の語法におよそ対応する表現を取り出して,提示してゆく.対象となったのは "bear witness", "take baptism", "take flesh, humanity", "take death", "take example", "take heed, take keep, take ȝeme", "take end", "take wife", "take rest", "take cross" に相当する句動詞であり,種類は必ずしも多くないが,議論と例示は全体として盤石で説得力がある.
 昨日の記事の末尾でも述べたように,句の借用を実証することは案外難しい.Sypherd も,論文の読後感としては,フランス語からの借用とする説そのものを鋭く批判しているように聞こえるが,おそらく主張したいのは,そのような説には慎重に向き合うべきであり,別の可能性も考慮すべきである,ということだろう.

 ・ Sypherd, W. Owen. "Old French Influence on Middle English Phraseology." Modern Philology 5 (1907): 85--96.

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2015-11-17 Tue

#2395. フランス語からの句の借用 [french][loan_translation][borrowing][contact][phraseology][proverb][methodology]

 「#2351. フランス語からの句動詞の借用」 ([2015-10-04-1]) の話題と関連して,Prins の論文 "French Influence in English Phrasing" を紹介する.Prins はこの論文で,フランス語の影響が想定される英語の表現が多数あることを,豊富な具体例を挙げながら主張する.Prins の言葉をそのまま借りると,". . . besides the numerous isolated words which English has borrowed from French, there are also a great many cases in which complete phrases and turns of speech, proverbs and proverbial sayings were taken over from French and incorporated in the English language" (28) ということである.
 論文の大半は,フランス語と英語の文献から集めた文脈つきの対応表現リストである.本記事では,その一覧を再現するのは控え,Prins が結論として指摘している3点を要約するにとどめたい.1点目は,フランス語由来と目される英語の句・表現が,14世紀にピークを迎えているという事実である.前の記事 ([2015-10-04-1]) で参照した Iglesias-Rábade も述べていたように,単体のフランス借用語のピークと時間的におよそ符合するという事実が重要である.ただし,Iglesias-Rábade は句の借用のピークを14世紀後半とみているのに対して,Prins は14世紀前半とみているという違いがある.Prins (81) が挙げている統計表を再現しておこう.

PeriodItemsN. B.
1000--11001 
1100--12000 
1200--130013(3 of which ins S. E. Leg.. c 1290)
1300--140029(during the first half of the century twice as as many as during the second. Brunne comes in for 8, Cursor Mundi for 5, Chaucer for 4 items)
1400--150012(of which 5 in Caxton)
1500--16008 
1600--17003 
1700--18001 
1800--19001 


 次に,上掲の表に示される数の句の多くが,現代まで残っているという事実が指摘されている.現在までに廃用あるいは古風となっているものは15個にすぎず,残りの53個は現役で,"part and parcel of every day speech" (81--82) であるという.残存率は77.9%と確かに高い.
 3点目として,借用された句の意味領域に注目すると,様々ではあるが,主たるところを挙げれば戦争関係が17個,騎士道が11個,法律が9個となる.文学史的にはフランス語の散文の文体が英語に恩恵を与えたのは15世紀後半といわれることが多いが,これらの表現の借用も文体的な含みがあることを考えれば,問題の恩恵は実際にはもっと早い時期から始まっていたと考えることができるかもしれない.
 問題の多くの句は,フランス語の句の翻訳借用 (loan_translation) として提示されている.つまり,英語側の表現には,フランス借用語ではなく英語本来語の含まれているものが多い.そのような場合には,本当にフランス語からの「なぞり」なのか,あるいは英語で自前で作り上げられた表現なのか,確定するのが難しいケースもままある.単語単体ではなく,複数の単語を組み合わせた句や表現の借用に関する研究は,文法的な借用の研究とともに,方法として難しいところがある.

 ・ Prins, A. A. "French Influence in English Phrasing." Neophilologus 32 (1948): 28--39, 73--83.

Referrer (Inside): [2018-08-22-1] [2015-11-18-1]

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2015-10-04 Sun

#2351. フランス語からの句動詞の借用 [french][loan_translation][borrowing][contact][phrasal_verb][phraseology]

 中英語期におけるフランス語彙借用については,本ブログでも「#117. フランス借用語の年代別分布」 ([2009-08-22-1]),「#1210. 中英語のフランス借用語の一覧」 ([2012-08-19-1]) ほか french loan_word の各記事で様々に扱ってきた.しかし,フランス語からの句動詞 (phrasal_verb) の借用,より正確には翻訳借用 (loan_translation or calque) についてはあまり取り上げてこなかったので,ここで話題にしたい.
 フランス語の句動詞をはじめとする複数語からなる各種表現が,少なからず英語に翻訳借用されてきたことについては,種々の先行研究でも触れられてきた.例えば,Iglesias-Rábade の参照した F. H. Sykes (French Elements in Middle English. Oxford: 1899.) や A. A. Prins (French Influence in English Phrasing. Leiden: 1952.) によれば,623ほどの句がフランス語由来と推定できるとしている (ex. take lond (< OF prendre terre (disembark))) .しかし,実証的な研究は少なく,本当にフランス語の表現のなぞりなのかどうか,実は英語における自然な発達としてとらえることも可能ではないか,など議論が絶えない.
 そこで,Iglesias-Rábade は nime(n)/take(n) を用いた句動詞表現に的を絞り,この動詞が "light verb" あるいは "operator" として作用し,その後に動詞派生名詞あるいは前置詞+動詞派生名詞を伴う構文を MED より拾い出したうえで,当時のフランス語に対応表現があるかどうかを確認する実証的な研究をおこなった.研究対象となる2つの構文を厳密に定義すると,以下の通りである.

 (1) Verbal phrases made of a 'light' V(erb) + deverbal noun: e.g. take(n) ende, take(n) dai, nime(n) air
 (2) The 'light' verb nime(n)/take(n) + a 'prepositional' deverbal: e.g. take(n) in gree, take(n) to herte, take(n) in cure

 (1) の型については,306の句が収集され,そのうち49個がフランス語からの意味借用であり,156個がフランス語に似た表現がみつかるというものであるという (Iglesias-Rábade 96) .(1) の型については,型自体は古英語からあるものの,フランス語の多くの句によって英語での種類や使用が増したとはいえるだろうとしている (99) .

. . . this syntactic pattern acquired great popularity in lME with extensive use and a varied typology. I do not claim that this construction is a French imprint, because it occurred in OE, but in my opinion French contributed decisively to the use of this type of structure consisting of a light verb translated from French + a deverbal element which bears the action and the lexical meaning and which usually kept the French form and content.


 (2) の型については,Iglesias-Rábade (99) は,型自体も一部の句を除けば一般的に古英語に遡るとは言いにくく,概ねフランス語(あるいはラテン語)の翻訳借用と考えるのが妥当だとしている.

This pattern, too, dates from OE, though it was restricted to the verb niman + an object preceded by on, e.g. on gemynd niman ('to bear in mind'). However, this construction came to be much more frequent in lME, particularly with sequences which had no prototype in OE, and, more intriguingly, most of them were a calque in both form and content from French and/or Latin.


 興味深いのは,いずれの型についても,句の初出が14世紀後半から15世紀にかけてピークを迎えるということだ.単体のフランス借用語も数的なピークが14世紀後半に来たことを考えると,その少し後を句の借用のピークが追いかけてきたように見える.実際,句に含まれる名詞は借用語であることが多い.Iglesias-Rábade (104) は,より一般化して "It seems plausible that the introduction of foreign single words precedes the incorporation of foreign phrases, turns of speech, proverbial sayings and idioms." ととらえている.
 これらの句が英語に入ってきた経路について,Iglesias-Rábade は,英仏語の2言語使用者が日常の話し言葉においてもたらしたというよりは,翻訳文書において初出することが多いことから,主として書き言葉経由で流入したと考えている (100).結論として,p. 104 では次のように述べられている.

To conclude, I believe that English had borrowed from French an important bulk of phrases and turns of speech which today are considered to be part of daily speech. In my opinion phrasal structures of this type must have been rather artificial and removed from everyday speech when they first appeared in late ME works. I base this conclusion on the fact that such phrases were not common in a contemporary specimen of colloquial speech, the Towneley Plays . . . . I thus suggest that most of them made their way into English via literature and the translation process, rather than through the natural process of social bilingual speech. It is worth noting that most ME literature is based on French patterns or French matter. Most of this phrasal borrowing was the natural product of translation and composition.


 Iglesias-Rábade の議論を受け入れて,これらのフランス語の句が書き言葉を経由した借用だったとして,次の疑問は,それが後に話し言葉へ浸透していったのは,いかなる事情があってのことだろうか.
 関連して,「#2349. 英語の復権期にフランス借用語が爆発したのはなぜか (2)」 ([2015-10-02-1]) と,そこに張ったリンク先の記事も参照.

 ・ Iglesias-Rábade, Luis. "French Phrasal Power in Late Middle English." Multilingualism in Later Medieval Britain. Ed. D. A. Trotter. Cambridge: D. S. Brewer, 2000. 93--130.

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