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stress - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2021-10-28 08:22

2021-07-23 Fri

#4470. アジア・アフリカ系の英語にみられるリズムと強勢の傾向 [prosody][phonology][stress][syllable][rhythm][world_englishes][new_englishes][variety][esl][diatone]

 現代世界には様々な英語変種があり,ひっくるめて World Englishes や New Englishes と呼ばれることが多い.アジアやアフリカには歴史的な経緯から ESL (English as a Second Language) 変種が多いが,多くのアジア・アフリカ系変種に共通して見られる韻律上の特徴がいくつか指摘されている.ここでは2点を挙げよう.1つは "syllable-timing" と呼ばれるリズム (rhythm) の性質,もう1つは語の強勢 (stress) の位置に関する傾向である.以下 Mesthrie and Bhatt (129) を参照して解説する.
 syllable-timing とは,リズムの観点からの言語類型の1つで,英米標準英語がもつ stress-timing に対置されるものである.前者は音節(モーラ)が等間隔で繰り返されるリズムで,日本語やフランス語がこれを示す.後者は強勢が等間隔で繰り返されるリズムで,標準英語やドイツ語がこれを示す(cf. 「#1647. 言語における韻律的特徴の種類と機能」 ([2013-10-30-1]),「#3644. 現代英語は stress-timed な言語だが,古英語は syllable-timed な言語?」 ([2019-04-19-1])).
 アジア・アフリカ系の諸言語には syllable-timing をもつものが多く,それらの基層の上に乗っている ESL 変種にも syllable-timing のリズムが持ち越されるということだろう.例えば,インド系南アフリカ英語,黒人系南アフリカ英語,東アフリカ英語,ナイジェリア英語,ガーナ英語,インド英語,パキスタン英語,シンガポール英語,マレーシア英語,フィリピン英語などが syllable-timing を示す.このリズム特徴から派生する別の特徴として,これらの変種には,母音縮約が生じにくく,母音音価が比較的明瞭に保たれるという共通点もある.世界英語の文脈では,syllable-timing のリズムはある意味では優勢といってよい.
 これらの変種には,語の強勢に関しても共通してみられる傾向がある.しばしば標準英語とは異なる位置に強勢が置かれることだ.realíse のように強勢位置が右側に寄るものがとりわけ多いが,カメルーン英語などでは adólescence のように左側に寄るものもみられる.また,これらの変種では標準英語の ábsent (adj.) 対 absént (v.) のような,品詞によって強勢位置が移動する現象 (diatone) はみられないという.
 全体的にいえば,基層言語の影響の下で韻律上の規則が簡略化したものといってよいだろう.これらは日本語母語話者にとって「優しい」韻律上の特徴であり,今後の展開にも注目していきたい.

 ・ Mesthrie, Rajend and Rakesh M. Bhatt. World Englishes: The Study of New Linguistic Varieties. Cambridge: CUP, 2008.

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2021-07-11 Sun

#4458. 固定的な強勢アクセント --- ゲルマン語の最大の特徴 [stress][germanic][indo-european]

 英語は,印欧語族 (indo-european) のなかの1派閥であるゲルマン語派 (germanic) に属する.ドイツ語,オランダ語,アイスランド語,フリジア語などと同派閥の言語である.この派閥の言語には,他の派閥には必ずしも観察されない共通の特徴がある.概論は「#182. ゲルマン語派の特徴」 ([2009-10-26-1]) に述べたとおりだが,その中でもとりわけ重要なのは,ゲルマン語においては,語に固定的な強勢アクセントが落ちるという事実である.
  では,「固定的な強勢アクセント」とは何か,まず強勢アクセント (stress accent) について考えてみよう.強勢アクセントとは,ある音節に注目したときに,それが強く発音されるか弱く発音されるかというエネルギーの強弱の観点からみたアクセントのことである.言語には,もう1つ別に高低アクセント (pitch accent) というものがある.日本語が高低アクセントの言語なので,強勢アクセントとの違いは理解しやすいと思われるが,要するに強さそのものよりも発音の高低(ピッチ)によって区別されるアクセントである.ピアノの演奏にたとえれば,同一のドの鍵盤をたたく力強さの強弱(フォルテかピアノか)によって変わるのが強勢アクセントであり,同じドといっても1オクターブ低いドと高いドとで交代するのが高低アクセントといったらよいだろうか.より詳しくは「#2627. アクセントの分類」 ([2016-07-06-1]) を参照されたい.
  次に,固定的なアクセントというのは,いかなる文脈においても,語の強勢は原則としてその語の決まった場所に落ちるということだ.例えば,visit, visits, visited, visiting などは,異なる屈折語尾がついているけれど,アクセントは変わりなく第1音節に落ちている.
  英語を学んでいると「語に固定的な強勢アクセントが落ちる」は当たり前のように思われるのだが,これは実は英語というよりもゲルマン語全体に共通する一大特徴なのである.そして,この音韻的な特徴は,歴史的にもゲルマン語の音韻論のみならず形態論や統語論にも甚大な影響を与えてきた.ゲルマン語的な特徴の多くが,実はこのアクセントに関する特徴の派生物といってもよいくらいなのである.
  これは,英語史研究者がつとに強調してきたことである.最近パラパラとめくっていた英語音韻論の古典書 Prins (33) にも,この趣旨の記述があったので紹介しておこう.
 

One of the chief characteristics of the Germanic languages was and still is their strong dynamic accent. Indo-European was characterised by a musical accent which was not fixed, and though in later time this was often replaced by a dynamic accent which was combined with the musical accent, this accent was still free at the time when the Germanic group of dialects began to differentiate from the other Indo-European dialects. The strong dynamic accent of Germanic was, however, fixed and generally fell on the stem or first syllable. This had important results for the vowels in the weaker-stressed syllables . . . .

 
  Prins の "dynamic accent" と "musical accent" という用語は,各々上記の「強勢アクセント」と「高低アクセント」と読み替えて差し支えない.英語 --- そしてゲルマン諸語 --- の歴史は,およそこの「固定的な強勢アクセント」に運命づけられていたといってもよい.それほど重要な特徴である.

 ・ Prins, A. A. A History of English Phonemes. 2nd ed. Leiden: Leiden UP, 1974.

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2020-12-23 Wed

#4258. harassment の強勢はどこに置きますか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][stress][pronunciation][ame_bre]

 今回の hellog ラジオ版は,いきなり皆さんに質問です.英単語 harass(ment) のアクセントはどこに置きますか? 第1音節の hárass(ment) でしょうか,あるいは第2音節の haráss(ment) でしょうか.答えは,音声解説をどうぞ.実はここに英語史の魅力が隠されています.



 さあ,いかがでしたでしょうか.いずれの音節に強勢を置くかというのは,英米差という空間的な問題のようにも見え,それはそれで間違っていないのですが,一方で時間的な問題でもあるという興味深い側面があるのです.アメリカ英語では haráss(ment) が優勢で,イギリス英語では hárass(ment) が優勢であるという大きな傾向は確かに見られます.しかし,それよりもおもしろいのは,いずれの英語でも若年層で haráss(ment) の発音が顕著であることです.このことが示唆するのは,現世代から次世代にかけて,ますます haráss(ment) が増えていくのではないかということです.私たちは1つの言語変化をリアルタイムで目の当たりにしているのです.
 英語史といっても,常に古英語から現代英語にかけての1500年というスケールで起こっている言語変化を話題にしているわけではありません.ここ数十年という短期間の変化も,立派な英語史の話題です.今回のような単語の強勢位置の揺れなど,いま観察できる variation というものは,まさに言語変化が起こっていることを示唆しているのです.こう考えると,英語史が生きた分野であるということが分かるかと思います.古い歴史を扱うだけが英語史ではないのです!
 今回の話題を通じて単語の強勢位置の揺れに関心をもった方は,ぜひ##342,321,366,488の記事セットをご覧ください.

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2020-11-17 Tue

#4222. 行為者接尾辞 -eer [suffix][agentive_suffix][loan_word][french][latin][register][stress][conversion]

 ゼミ生からのインスピレーションで,標記の行為者接尾辞 (agentive_suffix) に関心を抱いた.この接尾辞をもつ語はフランス語由来のものがほとんどであり,その来歴を反映して,語末音節を構成する接尾辞自身に強勢が落ちるという特徴がみられる.つまり語末の発音は /ˈɪə(r)/ となる.engineer, pioneer, volunteer をはじめとして,auctioneer, electioneer, gazetteer, mountaineer, profiteer などが挙がる.語源的には -ier もその兄弟というべきであり,cachier, cavalier, chevalier, cuirassier, financier, gondolier なども -eer 語と同じ特徴を有する.いずれもフランス語らしい振る舞いを示し,なぜ英語においてこのフランス語風の形式(発音と綴字)が定着したのだろうかという点で興味深い(cf. 「#594. 近代英語以降のフランス借用語の特徴」 ([2010-12-12-1]),「#1291. フランス借用語の借用時期の差」 ([2012-11-08-1])).
 Jespersen (§15.51; 243) より,-eer, -ier に関する解説を引用する.

   15.51 Words in -eer, -ier (stressed) -[ˈɪə] are mostly originally F words in -ier (generally from L -arius). Most of the OF words in -ier were adopted in ME with -er, and the stress was shifted to the first syllable . . . , as also in a few in which the i was kept . . . .
   A few words borrowed in ME times kept the final stress, and so did nearly all the later loans (many from the 16th and 17th c.). The established spelling of most of these, and of nearly all words coined on English soil, is -eer, as in auctioneer, cannoneer, charioteer (Keats 46), gazetteer, jargoneer (NED from 1913), mountaineer, muffineer, 'small castor for sprinkling salt or sugar on muffins' (NED 1806), muleteer [mjuˑliˈtiə], musketeer, pioneer, pistoleer (Carlyle Essays 251), routineer (Shaw D 54), and volunteer, but many of them preserved the F spelling, e.g. cavalier and chevalier, cuirassier, and finanicier.
   The recent motorneer, is coined on the pattern of engineer.
   Sh in some cases has initial-stressed -er-forms instead of -eer, e.g. ˈenginer, ˈmutiner (Cor I. 1.244), and ˈpioner.


 この解説に従えば,-eer は私たちもよく知る行為者接尾辞 -er の一風変わった兄弟としてとらえてよさそうだ.
 しかし, -eer には意味論的,語形成的に注目すべき点がある.まず,形成された行為者名詞は,軽蔑的な意味を帯びることが多いという事実がある.crotcheteer, garreteer, pamphleteer, patrioteer, privateer, profiteer, pulpiteer, racketeer, sonneteer などである.
 もう1つは,行為者名詞がそのまま動詞へ品詞転換 (conversion) する例がみられることだ.electioneer, engineer, pamphleteer, profiteer, pioneer, volunteer などである.これは上記の軽蔑的な語義とも密接に関係してくるかもしれない.なお,commandeer は,動詞としてしか用いられないという妙な -eer 語である.

 ・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part VI. Copenhagen: Ejnar Munksgaard, 1942.

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2020-09-16 Wed

#4160. なぜ th には「ス」の「ズ」の2つの発音があるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][pronunciation][consonant][voice][th][verners_law][stress][assimilation][phonetics]

 前回の hellog ラジオ版では「#4156. なぜ英語には s と微妙に異なる th のような発音しにくい音があるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-09-12-1]) という素朴な疑問を取り上げました.今回も引き続き th-sound に関する話題です.th の綴字に対応する発音には,清んだ /θ/ と濁った /ð/ の2種類があり得ます(音声学では各々を無声音と有声音と呼んでいます).では,どのようなときに無声音となり,有声音となるのでしょうか.単語ごとに1つひとつ暗記しなければならないのでしょうか.
 残念ながら,無声音と有声音の分布を完全に予測させる「規則」というものは存在しませんが,かなり有効な「傾向」は指摘できます.今回は歴史的な観点から2つの傾向を紹介したいと思います.では,以下の音声をどうぞ.



 以上,2つの傾向を紹介しました.ある単語に現われる th が無声音か有声音かは,その意味,語形,綴字から,ある程度は推し量ることができるということが分かったでしょうか.そして,各々の傾向には数百年から千年以上の歴史があるということも重要なポイントです.昔の発音の「クセ」が現代の発音のなかに残っていると思うと不思議な感じがしますね.
 今回の素朴な疑問とその周辺の話題について,ぜひ##842,858,3713,1365,702,3298,4069の記事セットをお読みください.

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2020-05-22 Fri

#4043. 2種類の区別すべき anti --- 形態音韻論の観点から [prefix][stress][productivity][loan_translation][combining_form][morpheme]

 昨日の記事「#4042. anti- は「アンティ」か「アンタイ」か --- 英語史掲示板での質問」 ([2020-05-21-1]) を受けて,接頭辞 anti- についてもう少し話しを続けたい.
 機能の点からいえば,接頭辞 anti- は典型的に新たな形容詞を作るのに生産的に用いられます.名詞から派生した形容詞とともに新たな形容詞を作ったり (ex. anti-social, anti-clerical, anti-clockwise) ,別の名詞を修飾する形容詞用法の名詞を作ったりします (ex. anti-missile, anti-war) .形態音韻論の点からいえば,上記に挙げたように,たいていの語において接頭辞 anti- それ自体は第1音節に第2強勢をもち,第1強勢は基体のもともと落ちていた音節に落ちます.そこで,この接頭辞は基体にあった強勢位置を保持するため "stress-neutral prefix" であると言われます.
 一方,antimony, antinomy, antiphony などでは, 形式的にも語源的にも確かに接頭辞 anti- を認めることができますが,第2音節(母音 /ɪ/)に強勢が落ち,後半部分には落ちません.つまり,この接頭辞は強勢位置を自らに引き寄せ,本質的な意味を担う後半部分から奪い取るという点で,"stress-shifting prefix" と言われます.ちなみに antibody は接頭辞が自らの第1音節(第2音節ではなく)に強勢を引き寄せており,例外的といえます(20世紀前期のドイツ語 Antikörper の翻訳借用 (loan_translation) という語形成が関与しているかもしれません).後半部分が,独立した語として立てない拘束形態素(あるいは連結形 (combining_form))であることが多いのもこのタイプの特徴です.また,接頭辞 anti- が含まれてはいるものの,分析的には意識されておらず,全体として語と認識されている感じが強いのも特徴です.語としての定着感もあります
 上記のように,anti- は「〜に抗する,反する」を意味する接頭辞として語形成に広く用いられてきましたが,そこから派生して成立した単語は言語学的な観点から2つのグループに分けられそうです.antibioticsantibody は,同じ anti- 語とはいっても,言語学的振る舞いが異なるのです.
 anti- の対義の接頭辞といってよい pro- もパラレルに考えることができます.pro-communist, pro-American, pro-student などの生産的に作られる語(典型的に綴字上はハイフンが付される)においては,接頭辞それ自身は第2強勢を伴って /ˌprəʊ/ と発音され,stress-neutral prefix として機能します.しかし,proceed, profession, provide などのように英語に長らく同化して定着感のある語においては,接頭辞は弱く /prə/ と発音され,「〜の側の,味方の」という強い意味も分析されておらず,語全体として1つの独立した単位と解釈されています(以上,Quirk et al. (1543) を参照).

(後記 2020/05/22(Fri):antimony は第2音節に強勢が落ちると記しましたが,実際にはこの語は第1音節に強勢が落ちるとの指摘をいただきました.その通りでしたので上記のように訂正しました.また antíphony と関連して ántiphon では強勢位置が変わるという指摘もいただきました.接頭辞にだけ注目していては解決しない問題だということがよく分かりました.ありがとうございます.)

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2020-02-13 Thu

#3944. prosodymeter の関係 [prosody][meter][terminology][stress][methodology]

 標題の2つの用語 prosody と {{cat('meter')} (or metre) の区別は意外と難しい.論者によっても各々の指示するものが異なっている場合もあるし,しばしば和訳にあたって両方とも「韻律」と訳される.一般的な解釈にしたがっていえば,いずれも強勢,抑揚,リズムなどに関連するが,prosody は話し言葉の世界に属する日常的な現象であり,meter は詩の世界に属する特殊な現象といえる.Minkova (323) は,両者の関係について示唆に富む説明を与えている.

The term prosody, as used here is restricted to stress phenomena in the spoken language, so 'prosody' is short for 'speech prosody' . . . . Meter describes the modes of versification, where linguistic material is arranged in specific recursive frames; as used here, 'meter' is short for 'verse or poetic meter'. Meter always draws on the prosodic structures available in the language. The two systems rely on the same fundamental distinctive categories and relations, though meter obeys verse-specific conventions such as repetition, alliteration and end-rhyme, and not all prosodic features have to be harnessed into a specific verse form. Nevertheless, there are important correspondences between the structure of verse and the structure of the ambient language. This makes meter a valuable source of information about language. The linguistic competence of the poet provides the raw material for verse; the way in which that material is manipulated to fit the metrical constraints of a particular tradition reveals the poet's, or the copyist's intuitions about prosody.

 
 英語史を含めた歴史言語学において,ここで述べられている prosody と meter の相互関係を理解しておくことは,とても重要である.多くの場合,現存するかつての書き言葉の資料に基づいて,対応する話し言葉の prosody を復元することは困難を極める.しかし,韻文資料から読み取れる meter を手がかりに,そこに反映されていると想定される一般的な話し言葉の prosody (のなにがしか)を,ある程度は復元できる可能性がある.prosody は meter に基本的材料を提供し,meter はそれを利用して詩を構成するとともに,prosody を伝えてくれる存在なのである.

 ・ Minkova, Donka. A Historical Phonology of English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2014.

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2020-01-16 Thu

#3916. 強弱音節の区別と母音変化の関係 [gvs][stress][vowel][sound_change][drift][metrical_phonology][meosl]

 昨日の記事「#3915. 大母音推移と周辺の母音変化の循環的な性質」 ([2020-01-15-1]) の最後に示唆したように,現代の歴史英語音韻論では,強勢の有無やリズムなどの韻律上の性質と母音変化の頻繁さの間には密接な関係があると考えられている.
 英語や他のゲルマン諸語では,周知のように,音節の強弱の区別,ひいては母音の強弱の区別が機能的に重視される.これにより,韻律上のリズムにも一定の型が出現することになり,その型に調和する形で母音もその質や量を変化・変異させてきたという議論だ.この見解については「#3387. なぜ英語音韻史には母音変化が多いのか?」 ([2018-08-05-1]),「#3466. 古英語は母音の音量を,中英語以降は母音の音質を重視した」 ([2018-10-23-1]),「#1402. 英語が千年間,母音を強化し子音を弱化してきた理由」 ([2013-02-27-1]) などで紹介してきたが,今回は英語史における主要な長母音変化に関する研究書を著わした Stenbrenden の結論部より,似た趣旨の議論を引用したい (318) .

. . . stressed syllables and vowels behave differently from unstressed syllables and vowels. Since stress in Gmc involves intensity (perceptual loudness and more muscular and respiratory force) in addition to pitch prominence, various articulatory features are a consequence of stress: stressed vowels are longer and usually more peripheral (in terms of the vowel space), fortis plosives have more aspiration, etc. Lack of stress, on the other hand, involves little muscular effort and perceptual 'softness', and often low/level pitch; unstress therefore has articulatory consequences like shorter and more centralised vowels (or at least loss of vowel contrasts . . .), vowel reduction, vowel and consonant elision, and little to no aspiration of fortis plosives, etc. Thus, what is known as the 'syncopation period' in early Gmc may be interpreted as only the beginning of a long process involving the gradual reduction and loss of unstressed vowels and syllables, the last major instance of which is witnessed (in English) in the loss of final schwa. Related to this reduction process are the lOE and ME processes that lengthen vowels in open syllables and shorten vowels in words of two or more syllables. Clearly, metrical considerations play a crucial role here . . . .


 この引用の最後で,中英語開音節長化 (Middle English Open Syllable Lengthening; meosl) などに触れており,いわゆる大母音推移 (gvs) にこそ触れていないものの,著者がそれらも含めてゲルマン語の漂流 (drift) を考えていることは間違いない.主要な母音変化の多くが何らかの形で関連しており,その意味ではすべてひっくるめて "chain shift" なのだという考え方である.

 ・ Stenbrenden, Gjertrud Flermoen. Long-Vowel Shifts in English, c. 1150--1700: Evidence from Spelling. Cambridge: CUP, 2016.

Referrer (Inside): [2020-03-01-1]

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2019-08-28 Wed

#3775. 英語は開音節を目指して音変化を起こしている [sound_change][phonetics][phonology][r][l][consonant][syllable][vowel][stress][rhythm][prosody]

 「#3719. 日本語は開音節言語,英語は閉音節言語」 ([2019-07-03-1]) でみたように,英語は類型論的にいえば有標の音節タイプである閉音節を多くもつ言語であることは事実だが,それでも英語の音変化の潮流を眺めてみると,英語は無標の開音節を志向していると考えられそうである.
 安藤・澤田は現代英語にみられる r の弾音化 (flapping; city, data などの t が[ɾ] となる現象),l の咽頭化 (pharyngealization; feel, help などの l が暗い [ɫ] となる現象),子音の脱落(attem(p)t, exac(t)ly, mos(t) people など)といった音韻過程を取り上げ,いずれも音節末の子音が関わっており,その音節を開音節に近づける方向で生じているのではないかと述べている.以下,その解説を引用しよう (70) .

 弾音化は,阻害音の /t/ を,より母音的な共鳴音に変える現象であり,これは一種の母音化 (vocalization) と考えられる.非常に早い話し方では,better [bɛ́r] のように,弾音化された /t/ が脱落することもある.また,/l/ の咽頭化では,舌全体を後ろに引く動作が加えられるが,これは本質的に母音的な動作であり,/l/ は日本語の「オ」のような母音に近づく.実際,feel [fíːjo] のように,/l/ が完全に母音になることもある.したがって,/l/ の咽頭化も,共鳴音の /l/ をさらに母音に近づける一種の母音化と考えられる.子音の脱落は,母音化ではないが,閉音節における音節末の子音連鎖を単純化する現象である.
 このように,三つの現象は,いずれも,音節末の子音を母音化したり,脱落させることによって,最後が母音で終わる開音節に近づけようとしている現象であり,機能的には共通していることがわかる.〔中略〕本質的に開音節を志向する英語は,さまざまな音声現象を引き起こしながら,閉音節を開音節に近づけようとしていると考えられる.


 これは音韻変化の方向性が音節構造のあり方と関連しているという説だが,その音節構造のあり方それ自身は,強勢やリズムといった音律特性によって決定されているともいわれる.これは音変化に関する壮大な仮説である.「#3387. なぜ英語音韻史には母音変化が多いのか?」 ([2018-08-05-1]),「#3466. 古英語は母音の音量を,中英語以降は母音の音質を重視した」 ([2018-10-23-1]) を参照.

 ・ 安藤 貞雄・澤田 治美 『英語学入門』 開拓社,2001年.

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2019-07-05 Fri

#3721. クラス I 接辞とクラス II 接辞 [affixation][derivation][morphology][phonology][assimilation][suffix][prefix][stress]

 英語の接辞 (affix) は,形態音韻論的な観点から2つの種類に区別される.それぞれクラス I 接辞,クラス II 接辞と呼ばれているが,両者は多くの点で対照的である.西原・菅原 (89--90) によって,まとめよう.

クラス Iクラス II
-al, -ard, -ative/-itive, -ian, -ic, -ion, -ity, -ous, in- など-er, -ful, -ingN, -ish, -less, -ly, -ness, -ship, -yADJ, un- など
(ア)強勢位置移動 (stress shift)ありなし
párent vs. paréntalpárent vs. párentless
Cánada vs. CanádianFíinland vs. Fínlander
átom vs. atómicyéllow vs. yéllowish
prohíbit vs. prohibítionóbvious vs. óbviously
májor vs. majórityácid vs. ácidness
móment vs. moméntouscítizen vs. cítizenship
(イ)三音節短母音化 (trisyllabic shortening)ありなし
divíne vs. divínitygréen vs. gréenishness
sáne vs. sánitybríne vs. bríniness
obscéne vs. obscénityráin vs. ráininess
deríve vs. derívativeróse vs. rósiness
(ウ)軟口蓋音軟音化 (velar softening)ありなし
electric vs. electricity, electriciantraffic vs. traffickingN
panic vs. panickyADJ
(エ)子音結合簡略化 (consonant cluster simplification)なしあり
elongate cf. longsinger
bombard cf. bombbomber
hymnalADJ cf. hymncrumby
condemnation cf. condemncondemner
(オ)接頭辞の鼻音同化 (nasal assimilation)ありなし
immoralunmoral
impatientunpack


 概ねクラス I 接辞は外来接辞で,単語の「内側」に付き,クラス II 接辞は本来接辞で,単語の「外側」に付くという特徴をもつ.前者は形態音韻論的な変化を引き起こす傾向があるのに対して,後者は形態音韻論的に中立的である.
 両者の違いは形態音韻論的な違いにとどまらず語彙層や綴字にも反映されており,様々な点で歴史言語学的な含蓄も持っている.

 ・ 西原 哲雄・菅原 真理子 「第4章 形態構造と音韻論」菅原 真理子(編)『音韻論』朝倉日英対照言語学シリーズ 3 朝倉書店,2014年.88--105頁.

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2019-06-30 Sun

#3716. 強勢位置に影響を及ぼす接尾辞 [suffix][stress][phonology][morphology][affixation][derivation]

 英語の接尾辞 (suffix) には,派生語と語幹との強勢位置の異動という観点から,大きく3種類が区別される.(1) 語幹の強勢位置が保持される強勢中立接尾辞 (stress-neutral suffix),(2) 語幹の強勢位置が移動する強勢移動接尾辞 (stress-shifting suffix, stress-affecting suffix),(3) 接尾辞自体が強勢をもつ強勢請負接尾辞 (stress-bearing suffix) あるいは強勢誘因接辞 (stress-attracting suffix) の3種である.以下,福島 (88--89) より,各種の接尾辞の例を示そう.

[ 強勢中立接尾辞 ]

 ・ -dom: ˈfreedom, ˈkingdom
 ・ -en: ˈthicken, ˈwiden
 ・ -ful: ˈcheerful, ˈpocketful
 ・ -ish: ˈchildish, ˈfoolish

[ 強勢移動接尾辞 ]

 A. 主強勢が接尾辞の直前の音節におかれるもの

 ・ -fic: scienˈtific, speˈcific
 ・ -ic: alˈlergic, eˈlectric
 ・ -ics: matheˈmatics, phoˈnetics
 ・ -ion: diˈversion, exˈpansion
 ・ -ity: faˈtality, hospiˈtality

 B. 主強勢が接尾辞の2つ前の音節におかれるもの

 ・ -cide: ˈgenocide, ˈhomicide
 ・ -fy: ˈmodify, ˈsatisfy
 ・ -gon: ˈhexagon, ˈpentagon
 ・ -tude: ˈattitude, ˈsolitude

 C. 主強勢が接尾辞の1つ前または2つ前の音節におかれるもの

 ・ -al: uniˈversal, geoˈlogical
 ・ -ar: faˈmiliar, ˈsingular
 ・ -ide: diˈoxide, ˈfluoride
 ・ -is: syˈnopsis, ˈemphasis
 ・ -ive: exˈpensive, comˈpetitive
 ・ -ous: treˈmendous, harˈmonious

[ 強勢請負接尾辞 ]

 ・ -ade: blockˈade, gingeˈrade
 ・ -eer: engiˈneer, volunˈteer
 ・ -ese: officiaˈlese, Japaˈnese
 ・ -esque: gardeˈnesque, pictuˈresque

 ・ 福島 彰利 「第5章 強勢・アクセント・リズム」服部 義弘(編)『音声学』朝倉日英対照言語学シリーズ 2 朝倉書店,2012年.84--103頁.

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2019-05-31 Fri

#3686. -ate 語尾,-ment 語尾をもつ動詞と名詞・形容詞の発音の違い [gvs][vowel][spelling][spelling_pronunciation_gap][stress][suffix][latin][diatone][-ate]

 昨日の記事「#3685. -ate 語尾をもつ動詞と名詞・形容詞の発音の違い」 ([2019-05-30-1]) に引き続き,-ate 語尾をもつ語の発音が,動詞では /eɪt/ となり名詞・形容詞では /ɪt/ となる件について.
 Carney でもこの問題が各所で扱われており,特に p. 398 にこの現象を示す単語リストが挙げられている.以下に再現しておこう.網羅的ではないと思われるが,便利な一覧である.

aggregate, animate, appropriate, approximate, articulate, associate, certificate, co-ordinate, correlate, degenerate, delegate, deliberate, duplicate, elaborate, emasculate, estimate, expatriate, graduate, importunate, incorporate, initiate, intimate, moderate, postulate, precipitate, predicate, separate, subordinate, syndicate


 Carney がこのリストを挙げているのは,品詞によって発音を替える類いの単語があるという議論においてである.他の種類としては,強勢音節を替える名前動後 (diatone) も挙げられているし,接尾辞 -ment をもつ語も話題にされている.名前動後という現象とその歴史的背景についてについては,すでに本ブログでも diatone の各記事で本格的に紹介してきたが,「品詞によって発音を替える」というポイントで -ate 語とつながってくるというのは,今回の発見だった.
 -ment 語については,動詞であれば明確な母音で /-mɛnt/ となるが,名詞・形容詞であれば曖昧母音化した /-mənt/ となる.Carney (398) より該当する単語のリストを挙げておこう.complement, compliment, document, implement, increment, ornament, supplement.

 ・ Carney, Edward. A Survey of English Spelling. Abingdon: Routledge, 1994.

Referrer (Inside): [2019-08-16-1]

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2019-05-30 Thu

#3685. -ate 語尾をもつ動詞と名詞・形容詞の発音の違い [gvs][vowel][spelling][spelling_pronunciation_gap][stress][analogy][suffix][latin][sobokunagimon][-ate]

 標記について質問が寄せられました.たとえば appropriate は動詞としては「私用に供する」,形容詞としては「適切な」ですが,各々の発音は /əˈproʊpriˌeɪt/, /əˈproʊpriˌɪt/ となります.語末音節の母音が,完全な /eɪt/ が縮減した /ɪt/ かで異なっています.これはなぜでしょうか.
 動詞の /eɪt/ 発音は,綴字と照らし合わせればわかるように,大母音推移 (gvs) の効果が現われています.<-ate> という綴字で表わされる本来の発音 /-aːt(ə)/ が,初期近代英語期に生じた大母音推移により /eɪt/ へと変化したと説明できます.しかし,同綴字で名詞・形容詞の -ate 語では,そのような発音の変化は起こっていません.そこで生じた変化は,むしろ母音の弱化であり,/ɪt/ へと帰結しています.
 この違いは,大母音推移以前の強勢音節のあり方の違いに起因します.一般的にいえば,appropriate のような長い音節の単語の場合,動詞においては後方の音節に第2強勢が置かれますが,形容詞・名詞においては置かれないという傾向があります.appropriate について具体的にいえば,動詞としては第4音節の -ate に(第2)強勢が置かれますが,名詞・形容詞としてはそれが置かれないということになります.
 ここで思い出すべきは,大母音推移は「強勢のある長母音」において作用する音過程であるということです.つまり,-ate 語の動詞用法においては,(第2強勢ではありますが)強勢が置かれるので,この条件に合致して /-aːt(ə)/ → /eɪt/ が起こりましたが,名詞・形容詞用法においては,強勢が置かれないので大母音推移とは無関係の歴史を歩むことになりました.名詞・形容詞用法では,本来の /-aːt(ə)/ が,綴字としては <-ate> を保ちながらも,音としては強勢を失うとともに /-at/ へと短化し,さらに /-ət/ や /-ɪt/ へと曖昧母音化したのです.
 このような経緯で,-ate 語は品詞によって発音を違える語となりました.いったんこの傾向が定まり,パターンができあがると,その後は実際の発音や強勢位置にかかわらず,とにかく確立したパターンが類推的に適用されるようになりました.こうして,-ate 語の発音ルールが確立したのです.
 関連して,「#1242. -ate 動詞の強勢移行」 ([2012-09-20-1]),「#2731. -ate 動詞はどのように生じたか?」 ([2016-10-18-1]) もご参照ください.-age 語などに関しても,ほぼ同じ説明が当てはまると思います.中尾 (310, 313) も要参照.

 ・ 中尾 俊夫 『音韻史』 英語学大系第11巻,大修館書店,1985年.

Referrer (Inside): [2019-08-16-1] [2019-05-31-1]

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2019-04-27 Sat

#3652. naturemature は1文字違いですが,なんで発音がこんなに異なるのですか? [sobokunagimon][pronunciation][spelling_pronunciation_gap][stress][gsr][rsr][gvs][phonetic_change]

 学生から出されたおもしろい質問です.意識したことはありませんでした.スペリングでは語頭に <n> と <m> の違いがあるだけですが,発音はそれぞれ /ˈneɪʧə/ と /məˈʧʊə/ となり大きく異なっています.比例的なスペリングでありながら発音が異なるということは,両者が1対1で対応しているわけではなく,複雑な関係を有していることの証左です.
 両単語はそれぞれラテン語の nātūra (本質)と mātūrus (時宜を得た)にさかのぼります.ラテン語の段階では,両単語に関してスペリングも発音も比例的な関係にあり,現代英語のような異なりはみられませんでした.ところが,これらが借用語として英語に入ってきた後に,事件が起こります.
 ラテン語 nātūra は,古フランス語の nature を経て,中英語期の13世紀後半に natur(e) として英語に入ってきました.英語に入ってきた当初は,古フランス語風に /naːˈtyːr/ と第2音節に強勢をおいて発音されていましたが,徐々に発音様式が英語化してくることになりました.発音の英語化とは,大雑把にいえば,強勢が第1音節に置かれるようになり,強勢の置かれなくなった第2音節を構成する音が弱化・短化する過程を指します.これにより /naːˈtyːr/ は /ˈnaːtyːr/ となり,さらに近代英語期にかけて大母音推移 (gvs) を含むいくつかの音変化を経て現代の /ˈneɪʧə/ にまで発展したのです.
 一方,ラテン語 mātūrus は,15世紀半ばに直接英語に mature として借用されました.英語での当初の発音は /maːˈtyːr/ に近いものだったと思われます.ところが,この単語については,その後 nature では起こった発音様式の英語化,すなわち強勢位置の前移動が起こらなかったのです.その結果,強勢の置かれない第1音節は弱まることになり,現代英語の /məˈʧʊə/ の発音に至ったのです.
 つまり,naturemature の分水嶺は,英語に借用された後に発音様式の英語化が起こったか,起こらなかったかだったのです.では,なぜ nature では英語化が起こり,mature では起こらなかったのでしょうか.これは簡単には答えられませんが,一般論としては,早い時期に借用された語であればあるほど,現在までに英語化するのに十分な時間が確保されており,実際に英語化している可能性が高いということはいえます.nature は13世紀後半,mature は15世紀半ばの借用ですから,この時間差が関係している可能性はあります.また,借用時期が近代英語期に近づけば近づくほど,ラテン語やフランス語からの借用語は,原語の発音様式のままにとどまる傾向が強いことも知られています.
 ラテン語・フランス語の強勢規則 (Romance Stress Rule; rsr) と英語の強勢規則 (Germanic Stress Rule; gsr) とは水と油の関係であり,これらが借用語において競合したときに何が起こるかという問題については,「#718. 英語の強勢パターンは中英語期に変質したか」 ([2011-04-15-1]) や「#200. アクセントの位置の戦い --- ゲルマン系かロマンス系か」 ([2009-11-13-1]) をご覧ください.

Referrer (Inside): [2019-05-22-1]

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2019-04-19 Fri

#3644. 現代英語は stress-timed な言語だが,古英語は syllable-timed な言語? [prosody][phonology][stress][vowel][typology][syllable][poetry]

 「#1647. 言語における韻律的特徴の種類と機能」 ([2013-10-30-1]) でみたように,英語は stress-timed なリズム,日本語は syllable-timed (or mora-timed) なリズムをもつ言語といわれる.前者は強勢が等間隔で繰り返されるリズムで,後者は音節(モーラ)が等間隔で繰り返されるリズムである.英語に近隣の言語でいえばドイツ語は stress-timed で,フランス語やスペイン語は syllable-timed である.
 このように共時的な類型論の観点からは諸言語をいずれかのリズムかに振り分けられるが,通時的にみると各言語のリズムは不変だったのだろうか,あるいは変化してきたのだろうか.
 英語に関していえば,ある見方からは確かに変化してきたといえる.現代英語の stress-timed リズムの基盤にあるのは曖昧母音 /ə/ の存在である.強勢のある明確な音価と音量をもつ母音と,弱く短く発音される曖昧母音とが共存しているために,前者を核とした韻律の単位が定期的に繰り返されることになるのだ.しかし,古英語では曖昧母音が存在しなかったので,stress-timed リズムを成立させる基盤が弱かったことになる.古英語はむしろ syllable-timed リズムに近かったともいえるのである.Cable (23--24) の議論を聞こう.

To begin with, Old English did not have reduced vowels. The extensive system of inflectional endings depended on the full values of the short vowels, especially [ɑ], [ɛ], [u], and [ɔ]; and in polysyllabic words these and other short vowels were not reduced to schwa. The surprising effect is that in its lack of reduced vowels Old English can be said to have similarities with the phonological structure of a syllable-based language like Spanish. In this respect, both Old English and Spanish differ from Late Middle English and Modern English. Consequently, Old English can be hypothesized to have more of the suprasegmental structure of syllable-based languages---that is, the impression of syllable-timing---despite our thinking of Old English as thoroughly Germanic and heavily stressed.


 Cable は,古英語が完全な syllable-timed な言語だと言っているわけではない.強勢ベースのリズムの要素もあるし,音節ベースのそれもあるとして,混合的なリズムだと考えている.上の節に続く文章も引用しておこう.

These deductions and hypotheses from theoretical and experimental phonology are supported in the most recent studies of the meter of Old English poems. Beowulf has never been thought of as a poem in syllabic meter. Yet the most coherent way to imagine Old English meter is as a precisely measured mix of "accentual" elements (as the meter has traditionally been understood), "syllabic" elements (which may seem more appropriate for French verse), and "quantitative" elements (which are most familiar in Greek and Latin). (Cable 24)


 ・ Cable, Thomas. "Restoring Rhythm." Chapter 3 of Approaches to Teaching the History of the English Language: Pedagogy in Practice. Introduction. Ed. Mary Heyes and Allison Burkette. Oxford: OUP, 2017. 21--28.

Referrer (Inside): [2021-07-23-1]

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2018-12-05 Wed

#3509. 韻律音韻論からみたアクセント移動 [metrical_phonology][stress][phonology][prosody]

 現代英語で fifteen は /fɪfˈtiːn/ のように第2音節にアクセントが落ちるが,fifteen boys となると /ˌfɪftiːn ˈbɔɪz/ のように boys に最も強いアクセントが置かれる一方,fifteen においては第2音節よりも第1音節のほうが相対的に強くなる.これは,第1アクセントであれ第2アクセントであれ,2つのアクセントが隣接音節に連続して現われるのを避けるために,アクセント位置の調整機能が作動したためであると説明される.
 このアクセント位置の調整機能を韻律音韻論 (metrical_phonology) の立場から定式化しようとすると,例えば次のようになる(高橋,pp. 34--35).まず fifteen 単体についての図を (1) に挙げよう.

(1) fifteen

 *語の主アクセント
**語アクセント
fifti:n音節


 この図は fifteen の韻律グリッドを示している.アクセントを記述するのに,何段階かの階層を用意するのが韻律音韻論の特徴である.ここでは「語アクセント」と「語の主アクセント」という2つの階層が用意されている.各音節を垂直方向にみて,より多く星印が付されている音節に,より強いアクセントが置かれるという決まりだ.つまり,fifteen は第2音節がより強く,第1音節がそれより弱いということになる.
 次に,boys を加えて名詞句としてみよう.

(2) fifteen boys (調整前)

  *句アクセント
 **語の主アクセント
***語アクセント
fifti:nboiz音節


 (1) の横方向に boys の1音節分を加え,縦方向に「句アクセント」の階層を上乗せした韻律グリッドである.英語の名詞句では主要部 boys に最も強いアクセントが置かれるが,それは3つの星印で示されている.しかし, 英語の韻律上の規則として,隣接する2音節がともに2つ(以上)の星印をもっていることは許容されない(と考えておく).これにより,赤の星印で示したように,隣接する4つのマス目に星印が配置されるのはルール違反となる.そこで,違反を回避する方法が模索される.いくつかの可能性があるが,ここでは左上の赤い星印が1マス左にずれると想定しておく.すると,この調整により次の (3) の韻律グリッドが生成される.

(3) fifteen boys (調整後)

  *句アクセント
* *語の主アクセント
***語アクセント
fifti:nboiz音節


 これは,実際の fifteen boys のアクセントの種類と位置を正確に表現している韻律グリッドとなる.以上のステップが唯一の可能性ではないが,少なくとも妥当性の高い仮説の1つではあろう.以上が,韻律音韻論でアクセント(移動)の問題を扱う際の基本的な考え方である.

 ・ 高橋 幸雄 「第1章 音の構造について ――音声学・音韻論――」西原 哲雄(編)『言語学入門』朝倉日英対照言語学シリーズ 3 朝倉書店,2012年.9--38頁.

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2018-11-09 Fri

#3483. アクセントによって方言差をつける日本語とつけない英語 [stress][prosody][japanese][sociolinguistics]

 服部 (67) は,英語と日本語における音声上の重要な相違点として,アクセント体系の利用の仕方を挙げている.

一般に,英語は強さ(強勢)アクセントの言語,日本語は高さ(ピッチ)アクセントの言語といわれる.英語をはじめとする強勢アクセントの言語では,強勢体系は英語の各種変種・方言間でほとんど変わらない.つまり,ある語の強勢位置が方言によって異なるということは,少数の例外を除けば,ほとんどない.一方,日本語のような高さアクセントの言語では,各語のアクセント型は方言によって著しく異なるというのが実態である.この差がいかなる原因で生じるのかは判然としない.今後の研究が俟たれるところである.


 なるほど地域方言をはじめとする諸変種の区別化にアクセントが利用される度合いは,確かに日本語では高く,英語では低いと思われる.変種の「訛り」は典型的に発音に現われるものと思われるが,発音といってもそこには分節音の目録,異音の種類,イントネーション,アクセントなど様々なものが含まれ,区別化のために何をどの程度利用するかは,言語ごとに異なるだろう.しかし,引用した文章によれば,アクセントの種類と変種区別のためのアクセント利用度の間には相関関係があるということらしい.
 強勢には様々な機能がある.「#926. 強勢の本来的機能」 ([2011-11-09-1]) でみたように対比による語の同定という機能が中心的であるという構造主義的な立場もあるが,実際には「#1647. 言語における韻律的特徴の種類と機能」 ([2013-10-30-1]) の記事でみた多種多様な役割があるだろう.そのなかでも「変種の区別化」は,後者の記事の (viii) で挙げられている機能の一部だろう.つまり,「個人を同定する.韻律は,話者の社会言語学的な所属や話者の用いる使用域 (register) を指示する (indexical) 機能をもつ」ということだ.では,なぜ(高さアクセントを用いる)日本語は,とりわけこの役割を強勢に担わせているのだろうか.確かによく分からない.アクセントがいかなる社会言語学的役割を担うかについての広い類型論的調査が必要だろう.
 関連して「#1503. 統語,語彙,発音の社会言語学的役割」 ([2013-06-08-1]),「#2672. イギリス英語は発音に,アメリカ英語は文法に社会言語学的な価値を置く?」 ([2016-08-20-1]) を参照.また,言語におけるアクセントのタイプの違いについては「#2627. アクセントの分類」 ([2016-07-06-1]) を参照.

 ・ 服部 義弘 「第3章 音変化」 服部 義弘・児馬 修(編)『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.47--70頁.

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2018-08-05 Sun

#3387. なぜ英語音韻史には母音変化が多いのか? [sound_change][phonology][prosody][vowel][diphthong][consonant][isochrony][stress]

 昨日の記事「#3886. 英語史上の主要な子音変化」 ([2018-08-04-1]) で言及した別の記事「#1402. 英語が千年間,母音を強化し子音を弱化してきた理由」 ([2013-02-27-1]) と関連して,なぜ英語音韻史において母音変化は著しく,子音変化は目立たないのかという問題について考えてみたい.
 Ritt (224) はこの傾向を "rhythmic isochrony" と "fixed lexical stress on major class lexical items" の2点に帰している.つまり,英語に内在するリズム構造,あるいは音律特性により,母音が強化し,子音が弱化するという方向付けがなされているという見解だ.
 服部 (67) によれば,英語は各韻脚 (foot) がほぼ等しい時間で発音される脚韻拍リズム (foot-timed rhythm) の言語に属する(ちなみに日本語は音節泊 (syllable-timed rhythm) あるいはモーラ泊 (mora-timed rhythm) という相対するタイプの言語).一般に脚韻拍の言語は,母音推移,連鎖的推移,二重母音化,母音弱化など母音にまつわる推移が相対的にずっと多いことが知られている.各脚韻の等時性を保持するために,強勢音節はとりわけ強く,無強勢音節はとりわけ弱く発音されるという対照的な傾向が生じ,なかんずく母音が変化にさらされやすくなるという事情があるようだ.
 より一般的な観点からいえば,言語のリズム構造は,その言語の音韻変化に思いのほか大きな影響を及ぼしており,ある程度まではその方向性を決定しているとすらいえるのかもしれない.服部 (48) は次のように論じている.

音変化の発端は実際の発話において生じる.もちろん,発話内で生じた音の変容がすべて音変化として確立するわけではないが,発端はあくまで実時間上の発話内で生じると考えられる.発話に際して,特定の形態・統語構造を持った語彙項目(の連鎖)が実際の発話において当該言語のリズム構造 (rhythmic structure) に写像される.リズム構造その他の音律 (prosody) 特性は幼児の言語獲得において分節音より早く獲得されることが知られており,部分的には胎児の段階から獲得が始まるとされている.この事実からも明らかなように,リズム(および,その他の音律)構造は,一般に考えられている以上に,分節音体系と深く結びついており,われわれが発話する際には,特定のリズム構造に合わせて分節音連鎖を配置していると想定される.その際,脚韻(foot,強勢音節から次の強勢音節の直前までを一まとめにした単位)や音節 (syllable) などのリズム上の単位の知覚しやすさや分節音連鎖の調音の容易さを高めるような形で各種音韻過程が働く.多くの規則的音変化の要因は言語音の調音と知覚の要請によって動機づけられているといってよい.


 これは「堅牢なリズム構造と,それに従属する柔軟な分節音」という斬新な音韻観に基づく音韻論である.

 ・ Ritt, Nikolaus. "How to Weaken one's Consonants, Strengthen one's Vowels and Remain English at the Same Time." Analysing Older English. Ed. David Denison, Ricardo Bermúdez-Otero, Chris McCully, and Emma Moore. Cambridge: CUP, 2012. 213--31.
 ・ 服部 義弘 「第3章 音変化」服部 義弘・児馬 修(編)『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.47--70頁.

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2018-07-10 Tue

#3361. 「名前動後」の出現は英語形態論史における小さな逆流 [diatone][typology][morphology][conversion][stress]

 récord (名詞)と recórd (動詞)のように,名詞と動詞を掛けもつ2音節語において強勢位置が「名前動後」となる現象 (diatone) について「#803. 名前動後の通時的拡大」 ([2011-07-09-1]),「#804. 名前動後の単語一覧」 ([2011-07-10-1]) などで取り上げてきた.「名前動後」を示す単語は16世紀後半から現代にかけて徐々に増えてきたが,この問題を,連日取り上げてきた英語形態論の類型的なシフトという観点から眺めてみるとおもしろい (cf. [2018-07-07-1], [2018-07-08-1], [2018-07-09-1]) .英語形態論は概略としては古英語から現代英語にかけて stem-based morphology → word-based morphology とシフトしてきたと解釈できるが,「名前動後」はこの全般的な潮流に対する小さな逆流とみることもできるからだ.
 record の例で考えていくと,中英語では名詞は recórd,動詞は recórd(en) であり,強勢位置は第2音節で一致していた.動詞の語尾 -en は消失しかかっていたが,その有無にかかわらず名詞・動詞ともに recórd という共通にして不変の語幹をもっていたので,両語の関係は事実上の品詞転換 (conversion) という形態過程により生じたものと考えることができる.ここで作用している形態論は,word-based morphology といってよいだろう.
 ところが,16世紀後半以降に名詞において強勢移動が生じたために,それまで共有されていた1つの語幹が,名詞語幹 récord と動詞語幹 recórd の2つに分かれることになった(現代の音形はそれぞれ /ˈrɛkəd/, /rɪˈkɔːd/).いまや可変の語幹に基づく stem-based morphology が機能していることになる.
 英語形態論の歴史は,全般的な潮流としては stem-based morphology → word-based morphology と解釈できるが,歴史の各段階で生じてきた個々の変化の結果として,部分的に word-based morphology → stem-based morphology の逆流を示すものもありうるということだろう.「古英語は stem-based morphology の時代,現代英語は word-based morphology の時代」のようにカテゴリカルに分類するのではなく,混在の程度の問題としてとらえるのが妥当である.

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2018-06-20 Wed

#3341. ラテン・フランス借用語は英語の強勢パターンを印欧祖語風へ逆戻りさせた [rsr][gsr][stress][germanic][indo-european][gradation][vowel][morphology]

 中英語期以降,ラテン語やフランス語からの借用語が英語語彙に大量に取り込まれたことにより,英語の強勢パターンが大きく変容したことについて「#718. 英語の強勢パターンは中英語期に変質したか」 ([2011-04-15-1]) や「#200. アクセントの位置の戦い --- ゲルマン系かロマンス系か」 ([2009-11-13-1]) で取り上げてきた.
 この変容は,Germanic Stress Rule (gsr) の上に新たに Romance Stress Rule (rsr) が付け加わったものと要約することができるが,さらに広い歴史的視点からみると,印欧祖語的な強勢パターンへの回帰の兆しともみることができる.印欧祖語では可変だった語の強勢位置が,ゲルマン祖語では語頭音節に固定化したが,ラテン語やフランス語との接触により,再び可変となってきた,と解釈できるからだ.そして,その可変の強勢は,基体と派生語の間で母音の質と量をも変異させることにもなった.最後の現象は,印欧祖語の形態論を特徴づける母音変異 (gradation or ablaut) にほかならない.
 Kastovsky (129--30) が,濃密な文章でこの見方について紹介している.

[T]here are . . . typological innovations like the vowel and/or consonant alternations in sane : sanity, serene : serenity, Japán : Jàpanése, hístory : históric : hìstorícity, eléctric : elètrícity, close : closure resulting from the integration of non-native (Romance, Latin and Net-Latin) word-formation patterns into English with a concomitant variable stress system, which reverses the original typological drift towards a non-alternating relation between bases and derivatives and is reminiscent of Indo-European, where variable stress/accent produced variable vowel quality/quantity (ablaut).


 Kastovsky は,英語の形態論の歴史を類型論的に捉えるべきことを主張しているが,これは単なる共時的な類型論にとどまらず,歴史類型論ともいうべき壮大な視点の提案でもあるように思われる.
 上で触れた2つの強勢規則については,「#1473. Germanic Stress Rule」 ([2013-05-09-1]) と「#1474. Romance Stress Rule」 ([2013-05-10-1]) を参照.

 ・ Kastovsky, Dieter. "Linguistic Levels: Morphology." Chapter 9 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 129--47.

Referrer (Inside): [2018-07-08-1] [2018-07-07-1]

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