hellog〜英語史ブログ     ChangeLog 最新     カテゴリ最新     1 2 次ページ / page 1 (2)

shakespeare - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-07-18 08:44

2019-03-21 Thu

#3615. 初期近代英語の2重比較級・最上級は大言壮語にすぎない? [double_comparative][comparison][shakespeare][style][prescriptive_grammar][hc][adjective][superlative]

 初期近代に worser, more larger, more better, most worst, most unkindest などの2重比較級 (double_comparative) や2重最上級が用いられていたことは,英語史ではよく知られている.「#195. Shakespeare に関する Web resources」 ([2009-11-08-1]) でみたように,Shakespeare にも用いられており,英語史上の1つのネタである.
 しかし,注目度は高いものの,実際の使用頻度としては,たいしたことはないらしい.Kytö and Romaine (337) による Helsinki Corpus を用いた実証的な調査によると,2重比較級は全体の1%にすぎず,2重最上級でも2%にとどまるという.また,1640年より後には一切起こらないという.もちろん Helsinki Corpus もそれほど巨大なコーパスではないので別途確認が必要だろうが,どうやら実力以上に注目度が高いということのようだ.
 Adamson (552--53) は,Shakespeare や Jonson からの例を取り上げながら,2重比較級・最上級は,彼らの時代ですら,文体的効果を狙って意図的に用いられる類いの表現だったのではないかと勘ぐっている.

It's notable that such forms [= double comparatives and superlatives] can be found in consciously grandiloquent discourse, as with the double comparative of (16a), and that Ben Jonson explicitly claims the usage as an 'Englishe Atticisme, or eloquent Phrase of speech', perorating, as if to prove his point, on the double superlative of (16b):

(16) a) The Kings of Mede and Lyconia
        With a more larger list of sceptres (Shakespeare 1623/1606--7)

     b) an Englishe Atticisme, or eloquent Phrase of speech, imitating the manner of the most ancientest, and finest Grecians, who, for more emphasis, and vehemencies sake used [so] to speake. (Jonson 1640)


 その後,この用法は17後半から18世紀にかけての英語の評論家や規範文法家に断罪され,日の目を見ることはなくなった (cf. 「#2999. 標準英語から二重否定が消えた理由」 ([2017-07-13-1]),「#3036. Lowth の禁じた語法・用法」 ([2017-08-19-1]),「#3220. イングランド史上初の英語アカデミーもどきと Dryden の英語史上の評価」 ([2018-02-19-1])) .
 しかし,そうとは気付かれずに現在まで使い続けられている lesser や nearer などは,実は歴史的には2重比較級というべきものである (cf. 「#209. near の正体」 ([2009-11-22-1])) .

 ・Kytö, Merja and Suzanne Romaine. "Competing Forms of Adjective Comparison in Modern English." To Explain the Present: Studies in the Changing English Language in Honour of Matti Rissanen. Mémoires de la Société Néophilologique de Helsinki. 52. Ed. Terttu Nevalainen and Leena Kahlas-Tarkka. Helsinki: Société Néophilologique, 329--52.
 ・ Adamson, Sylvia. "Literary Language." 1476--1776. Vol. 3 of The Cambridge History of the English Language. Ed. Roger Lass. Cambridge: CUP, 1999. 539--653.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2019-02-14 Thu

#3580. シェイクスピアと欽定訳聖書の新旧語形 [bible][shakespeare][emode][verb][preterite][register]

 Shakespeare の諸作品と欽定訳聖書 (Authorized Version; King Jame Bible) はほぼ同じ時代に書かれていながらも,それぞれの英語は諸側面において異なっている(cf. 「#492. 近代英語期の強変化動詞過去形の揺れ」 ([2010-09-01-1]),「#1418. 17世紀中の its の受容」 ([2013-03-15-1]),「#3491. dreamtdreamed の用法の差」 ([2018-11-17-1])).一般的には Shakespeare は革新的,欽定訳聖書は保守的な言葉遣いが多いとされる.Crystal (275) より,この差異を例示してみたい.当時「旧形」と「新形」の間で揺れていた動詞形態の変異を中心に,典型的な例を集めたものである.

King JamesFirst Folio
old formnew formold formnew form
bare 175bore 1bare 10bore 25
clave 14cleft 2clave 0cleft 8
gat 20, gotten 25got 7gat 0, gotten 5got 115
goeth 135goes 0goeth 0goes 166
seeth 54sees 0seeth 0sees 40
spake 585spoke 0spake 48spoke 142
yonder 7yon 0, yond 0yonder 66yon 9, yond 45


 欽定訳聖書は,序文に "The old Ecclesiastical Words to be kept, viz., the Word Church not to be translated Congregations, &c." などと述べられていることから予想される通り,保守的な言葉遣いをよく残している.宗教の言語は得てして古めかしいこと,また Tyndale 訳聖書に表された1世紀ほど前の英語をモデルとしていることなどから,欽定訳聖書のこの傾向について特に不思議はないだろう(cf. 「#753. なぜ宗教の言語は古めかしいか」 ([2011-05-20-1])).
 一方,Shakespeare のような売れっ子劇作家の言葉遣いが,一般庶民の人々の生の言葉遣いに近似していたはずだということも,容易に理解できるだろう.同じ時代でも,使用域 (register),オーディエンス,目的などが異なれば,ここまで言語上の違いが出るものだということを示してくれる,英語史からの好例である.

 ・ Crystal, David. The Stories of English. London: Penguin, 2005.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2018-11-28 Wed

#3502. pronoun exchange [personal_pronoun][case][prescriptive_grammar][dialectology][shakespeare]

 人称代名詞について,文法的に目的格が求められるところで主格の形態が用いられたり,その逆が起こったりするケースを pronoun exchange と呼ぶ.最も有名なのは「#301. 誤用とされる英語の語法 Top 10」 ([2010-02-22-1]) でトップに輝いた between you and I である.前置詞に支配される位置なので1人称代名詞には目的格の me が適格だが,前置詞から少々離れているということもあり,ついつい I といってしまう類いの「誤用」である.
 しかし,誤用とはいっても,それは規範文法が確立した後期近代英語以後の言語観に基づく発想である.それ以前の時代には「正誤」の問題ではなく,いずれの表現も許容されていたという意味において「代替表現」にすぎなかった.実際,よく知られているように Shakespeare も Sweet Bassanio, ... all debts are cleared between you and I if I might but see you at my death. (The Merchant of Venice iii.ii) のように用いているのである.同様に,Yes, you have seen Cassio and she together. (Othello iv. ii) などの例もある.
 古い英語のみならず,現代の非標準諸方言でも,pronoun exchange はありふれた現象である.Gramley (196) を引用する.

Pronoun exchange, in which case is reversed, is widespread (SW, Wales, East Anglia, the North). This refers to the use of the subject pronoun for the object: They always called I "Willie," see; you couldn't put she [a horse] in a putt.. The converse is also possible. Compare 'er's shakin' up seventy; . . . what did 'em call it?; Us don't think naught about things like that. Subject forms are much more common as objects than the other way around (55% to 20%) . . . . In the North second person thou/thee often shows up as leveled tha in traditional dialects . . ., but not north of the Tyne or in Northumberland . . . . Today pronoun exchange is generally receding.


 引用で触れられている thou/thee については,拙論の連載 第10回 なぜ you は「あなた」でもあり「あなたがた」でもあるのか?の方言地図も参照されたい.同様に,sheer (< her) の pronoun exchange の例については,「#793. she --- 現代イングランド方言における異形の分布」 ([2011-06-29-1]) の方言地図を参照.
 考えてみれば,そもそも現代標準英語でも,2人称(複数)代名詞の主格の you は歴史的には pronoun exchange の例だったのである.you はもとは目的格の形態にすぎず,主格の形態は ye だったが,前者 you が主格のスロットにも侵入してきたために,後者 ye が追い出されてしまったという歴史だ.これについては「#781. How d'ye do?」 ([2011-06-17-1])「#800. you による ye の置換と phonaesthesia」 ([2011-07-06-1]),「#2077. you の発音の歴史」 ([2015-01-03-1]) を参照.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2018-11-17 Sat

#3491. dreamtdreamed の用法の差 [bible][shakespeare][johnson][verb][conjugation][preterite][participle]

 昨日の記事「#3490. dreamt から dreamed へ」 ([2018-11-16-1]) と関連して,標記の話題について.両形の用法の差を調べた研究があるようだが,明確な差はないようである.用法の差というよりも英米差といわれることが多い.アメリカ英語では dreamed が好まれ,イギリス英語では両形ともに用いられるといわれる(小西,p. 422).
 一方,Fowler's (231) によると "Dreamed, esp. as the pa.t. form, tends to be used for emphasis and in poetry." とあり,使用域による差があり得ることを示唆している.
 中英語の状況を MED で覗いてみると,過去形として「規則的な」 drēmed(e と「不規則的な」 drempte の両形が用いられてことがわかるが,過去分詞形としては規則形の記載しかない.なお,不規則形に語中音添加 (epenthesis) の p が加えられていることに注意 (cf. 「#739. glide, prosthesis, epenthesis, paragoge」 ([2011-05-06-1])) .
 初期近代英語で興味深いのは,Shakespeare では両形が用いられているが,AV には dreamt の例はないという事実だ(『英語語源辞典』).AV は Shakespeare に比べて文語的で古風な語法をよく保持しているといわれるので,当時は dreamed のほうが正統で正式という感覚があったのかもしれない.逆にいえば,dreamt が口語で略式的にすぎ,聖書にはふさわしくないと考えられたのかもしれない.
 なお,1775年の Johnson の辞書では "preter. dreamed, or dreamt" とあり,dreamed が筆頭に挙げられていることに触れておこう.

 ・ 小西 友七 編 『現代英語語法辞典』 三省堂,2006年.
 ・ Burchfield, Robert, ed. Fowler's Modern English Usage. Rev. 3rd ed. Oxford: OUP, 1998.
 ・ 寺澤 芳雄 (編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.

Referrer (Inside): [2019-02-14-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2018-11-10 Sat

#3484. 英詩の形式の変遷 [poetry][prosody][literature][alliteration][rhyme][meter][shakespeare]

 岡崎 (71) によれば,古英語以来,英詩の形式は,リズム,押韻方法,詩行構造,種類という点において大きな変化を遂げてきた.

 a. リズム:強弱から弱強へ
 b. 押韻:頭韻から脚韻へ
 c. 詩行構造:不定の長さ(音節数)から定まった長さ(音節数)へ
 d. 種類:単一の形式から多様な形式へ


 古英語期から中英語期へ,そして近代英語期以降へと,英詩の形式は確かに大変化に見舞われてきた.背景には,英語の音変化や外来の詩型からの影響というダイナミックな要因が関与している.それぞれの時代の代表的な詩型の種類と特徴を,岡崎の要約により示そう.

[ 古英語頭韻詩 ](p. 71)

 a. 1行(長行,long-line)は,二つの半行 (half-line) から構成されている.
 b. 半行の音節数は3音節以上だが,一定していない.
 c. 頭韻する分節音は,第1半行(前半)に最大二つ,第2半行(後半)に一つ.
 d. 半行中で頭韻する分節音を含む音節が強音部となり,強弱の韻律が実現される.

[ 中英語頭韻詩 ](p. 73)

 a. 音節数不定の長行が基本単位(の可能性が高い).
 b. 頭韻する子音を含む語が1行に最小で二つ,最大で四つ.三つの場合が多い.
 c. 頭韻詩ごとに個々の独自の詩型がある.

[ 中英語の様々な脚韻詩 ](p. 75)

 a. 8詩脚の脚韻付連句:1行16音節.弱強8詩脚.2行1組.第4詩脚のあとに行中休止 (caesura) .半行末で脚韻.
 b. アレグザンダー詩行 (Alexandrine) :1行12音節.弱強6詩脚.行末で脚韻.
 c. 弱強5歩格 (iambic pentameter) :1行10音節.弱強5詩脚.行末で脚韻.
 d. 弱強4歩格 (iambic tetrameter) :1行8音節.弱強4詩脚.行末で脚韻.
 e. 弱強3歩格 (iambic trimeter) :1行6音節.弱強3詩脚.アレグザンダー詩行を二分割したもの.
 f. (stanza) :複数行からなる詩行の意味上のまとまり.
 g. 2行連 (couplet) :2行から構成される詩行の意味上のまとまり.
 h. 尾韻 (tail rhyme) :6行1組で脚韻型が aabccb の詩.ラテン語の賛美歌から.
 i. 帝王韻 (rhyme royal) :7行連の弱強5歩格の詩で,脚韻型が abcbbcc.
 j. ボブ・ウィール連 (bob-wheel stanza) :5行の脚韻詩行で,第1行のボブは1強勢,それに続く4行のウィールの各行は3強勢.脚韻型は ababa.
 k. バラッド律 (ballad meter) :4行連 (quatrain) が基本の詩型.弱強4歩格と弱強3歩格の2行連二つから構成される.3歩格詩行の行末が脚韻.

[ 近代英語以降の脚韻詩 ](pp. 76--79)

 ・ 弱強(5歩)格 (iambic pentameter) を中心としつつも,弱弱強格 (anapestic meter),強弱格 (trochaic meter),強弱弱格 (dactylic meter),無韻詩 (blank verse),自由詩 (free verse) など少なくとも11種類の詩型が出現した.
 ・ 詩脚と実際のリズムの間に不一致 (mismatch) がある.詩脚のW位置に強勢音節が配置される不一致型には規則性があり,統語構造をもとに一般化できる.
 ・ Shakespeare のソネット:弱強5歩格「4行連×3+2行」という構成で,ababcdcdefefgg の脚韻型を示す.
 ・ 句またがり (enjambment) の使用:詩行末が統語節末に対応しない現象.行末終止行 (end-stopped line) と対比される.

 英詩の種類の豊富さは,歴史のたまものである.これについては「#2751. T. S. Eliot による英語の詩の特性と豊かさ」 ([2016-11-07-1]) も参照.

 ・ 岡崎 正男 「第4章 韻律論の歴史」 服部 義弘・児馬 修(編)『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.71--88頁.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2018-10-15 Mon

#3458. 標準口語英語の確立 [speech][standardisation][variety][sociolinguistics][cockney][shakespeare][bible][emode]

 英語史における標準化 (standardisation) の話題といえば,第1義的に書き言葉の標準化が念頭に置かれているように思われる.本ブログでも,書き言葉の標準化については様々に紹介してきたが,話し言葉の標準化については扱いが薄かった.「#3356. 標準発音の整備は18世紀後半から」 ([2018-07-05-1]) では発音の標準化を取り上げており,これは話し言葉の標準化の話題の一部を成しはするものの,「話し言葉」と「発音」とは同一ではない.話し言葉には,発音以外に文法や語彙などその他の側面もある.
 話し言葉の標準化について,松浪ほかの「標準口語英語の確立」 (93) に記されている概要を引用する.

書き言葉の標準英語は既に15世紀前半頃までに,ロンドンを中心に形成され,その後教育の普及にともなって急速に広まったと考えられているが,話し言葉の標準語はまだその頃にはなく,EModE 期になって確立した.16世紀になって宮廷を中心に上流階級,文人,大学等で使われた話し言葉が標準語として確立した.これはロンドンで活躍した支配階級の言葉であるから階級方言であって,同じロンドンでも,下層階級の言葉は標準語とは別物で,後にコックニー (Cockney) として発達した.まだ,文法も辞書もない時代のことで,この標準語は,現代語からみれば発音・文法両面で統一性に欠けた,ある意味で自由奔放な英語でもあった.このような英語の状況を背景に登場し,活躍したのが,いうまでもなく英文学史上最大の作家シェイクスピア (William Shakespeare, 1564--1616) である.この大詩人の英語は〔中略〕欽定訳聖書と並んで,近代英語の2つの源泉と呼ばれている.


 ポイントは,話し言葉の標準化が,書き言葉の標準化よりも1世紀ほど遅れて始まったことである.また,その基盤となった変種がロンドンの支配階級の口語だったことも重要である.標準化の最初期には,その変種とて一様ではなく,相当程度の変異を許容する「緩い」ものだったといってよいが,少なくとも現代の標準口語英語の源泉をそこに見出すことができる.私たちの学んでいる「英会話」は,500年前のロンドンの上流サークルのおしゃべりに起源をもつということである.

 ・ 松浪 有 編,小川 浩,小倉 美知子,児馬 修,浦田 和幸,本名 信行 『英語の歴史』 大修館書店,1995年.

Referrer (Inside): [2018-11-20-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2018-08-24 Fri

#3406. Levenshtein distance [cgi][web_service][spelling][shakespeare][levenshtein_distance]

 文字列の類似度や相違度を測る有名な指標の1つに,標題の "Levenshtein distance" というものがある,「#3397. 後期中英語期の through のワースト綴字」 ([2018-08-15-1]),「#3398. 中英語期の such のワースト綴字」 ([2018-08-16-1]),「#3399. 綴字の類似度計算機」 ([2018-08-17-1]) でも前提としてきた指標であり,「#1163. オンライン語彙データベース DICT.ORG」 ([2012-07-03-1]) でもこの指標を利用して類似綴字語を取り出すオプションがある.
 考え方は難しくない.もとの文字列から目標の文字列に変換するには,いくつの編集工程(挿入,削除,置換)が必要かを数えればよい.例えば,kitten から sitting へ変換するには,kitten →(ks に置換)→ sitten →(ei に置換)→ sittin →(g を挿入)→ sitting という3工程を踏む必要があるので,両綴字間の Levenshtein distance は3ということになる.通常は挿入,削除,置換の編集工程にそれぞれ1の値を割り当てるが,各々に異なる値を与える計算の仕方もある.
 以下に,通常の重みづけで Levenshtein distance を計測する CGI を置いておく.試しに「#1720. Shakespeare の綴り方」 ([2014-01-11-1]) より25種類の異綴字を取り出して,カンマ区切りなどで下欄に入力してみてください(要するに以下をコピペ).Shakespeare, Schaksp, Shackespeare, Shackespere, Shackspeare, Shackspere, Shagspere, Shakespe, Shakespear, Shake-speare, Shakespere, Shakespheare, Shakp, Shakspe〜, Shakspear, Shakspeare, Shak-speare, Shaksper, Shakspere, Shaxberd, Shaxpeare, Shaxper, Shaxpere, Shaxspere, Shexpere

Input a batch of spellings separated by a newline, tab, or comma, with the first spelling being used as the basis of comparison.
Order of output: As input Sort by Levenshtein distance



 綴字間の類似度や相違度の計測は,曖昧検索やスペリングチェックなどの実用的な目的にも応用されている.標準的な綴字がなかった古い英語の研究にも,ときに役立つことがありそうだ.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2018-08-17 Fri

#3399. 綴字の類似度計算機 [cgi][web_service][spelling][shakespeare][levenshtein_distance]

 この2日間の記事「#3397. 後期中英語期の through のワースト綴字」 ([2018-08-15-1]),「#3398. 中英語期の such のワースト綴字」 ([2018-08-16-1]) で,異綴字間の類似性を計算するスクリプトを利用して,throughsuch の様々な綴字を比較した.このスクリプトは,ある程度使い勝手があるかもしれないと思い,より汎用的な形で CGI を組んでみた.
 ところが,スクリプトの内部的な仕様の関係でサーバ上で動かないということが発覚.残念無念.公開しても無意味であることを承知のうえ,以下に置いておこうと思います(せっかく作ったのだし,私自身のローカルPCでは動いているので・・・).すみません.

Input a batch of spellings separated by a newline, tab, or comma, with the first spelling being used as the basis of comparison.
Order of output: As input Sort by similarity



 と,これではあんまりなので,Shakespeare の異綴字を比較した結果を披露しておきます.「#1720. Shakespeare の綴り方」 ([2014-01-11-1]) で挙げた25種類の異綴字 Shakespeare, Schaksp, Shackespeare, Shackespere, Shackspeare, Shackspere, Shagspere, Shakespe, Shakespear, Shake-speare, Shakespere, Shakespheare, Shakp, Shakspe〜, Shakspear, Shakspeare, Shak-speare, Shaksper, Shakspere, Shaxberd, Shaxpeare, Shaxper, Shaxpere, Shaxspere, Shexpere を入力して,ソートさせると,次のような出力が得られた.

SimilaritySpellings
1.0000Shakespeare
0.9565Shackespeare, Shake-speare, Shakespheare
0.9524Shakespear, Shakespere, Shakspeare
0.9091Shackespere, Shackspeare, Shak-speare
0.9000Shakspear, Shakspere
0.8571Shackspere
0.8421Shakespe, Shaksper
0.8000Shagspere, Shaxpeare, Shaxspere
0.7368Shaxpere, Shexpere
0.7000Shakspe〜
0.6667Schaksp, Shaxper
0.6250Shakp
0.5263Shaxberd


 類似度が0.7以下のものは,およそ省略である.0.7を超えるものは,およそ許せるように感じられるのがおもしろい.

Referrer (Inside): [2018-08-24-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2018-08-01 Wed

#3383. to 不定詞と原形不定詞の揺れの歴史 [infinitive][verb][syntax][emode][shakespeare]

 「#2502. なぜ不定詞には to 不定詞 と原形不定詞の2種類があるのか?」 ([2016-03-03-1]) で述べたように,to 不定詞 と原形不定詞は,互いに起源は異なるものの,歴史の過程でほぼ同じ機能を共有するようになり,しばしば競合と揺れを示してきた.なぜある統語環境では一方が要求され,別の環境では他方が要求されるのか.通時的にも共時的にも研究されており,ある程度の傾向は見出せるものの,絶対的な規則を見つけ出すことは難しい.
 現代英語の例を考えると,「#971. 「help + 原形不定詞」の起源」 ([2011-12-24-1]) で触れたように,help の後の不定詞はどちらの形態でも許容されるという状況がある.また,「#970. Money makes the mare to go」 ([2011-12-23-1]) で見たように,使役構文においては能動文では原形不定詞を用いるが,受動文では to 不定詞を用いるといったチグハグな統語現象が見られる.これらも,両不定詞形の競合と揺れの歴史を反映していると解釈することができるだろう.
 この問題について,中島 (237--38) は次のように述べている.

 今日の用法が確立するまでには長い間用法が動揺しており,また以前は to のない不定詞が今よりひろく用いられた.エリザベス朝でも
   you ought not walk (Cæsar, I. i. 3)/you were wont be civil (Othello, II. iii. 190) などの用例があり,そのほか Shakespeare では
   I command her come to me/entreat her hear me but a word/let one be sent to pray Achilles see us
など command, entreat, pray, desire, charge のような動詞のあとでも to のない不定詞が見出される.逆に今なら to の不要なところに入れている場合もある.It makes my heart to groan のように.しかし今でも諺には Money makes the mare to go (地獄の沙汰も金次第)の用法が残っているし,help は両方の構造が可能である.I helped him (to) find his things. それから同一の文中で同じ関係に立つ二つの不定詞の中,後者が to をとることが行われる.〔中略〕Shakespeare の
    and would no more endure
   This wooden slavery than to suffer
   The flesh-fly blow my mouth. (Tempest, III. i. 61--63)
も同種の例である.


 2種類の不定詞の問題は,今なお完全には解決していない.

 ・ 中島 文雄 『英語発達史 改訂版』岩波書店,2005年.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2018-01-27 Sat

#3197. 初期近代英語期の主要な出来事の年表 [timeline][history][emode][chronology][monarch][caxton][reformation][book_of_common_prayer][bible][renaissance][shakespeare][johnson]

 Algeo and Pyles の英語史年表シリーズの第3弾は初期近代英語期 (153--55) .著者らは初期近代英語期を1500--1800年として区切っていることに注意.「#3193. 古英語期の主要な出来事の年表」 ([2018-01-23-1]) と「#3196. 中英語期の主要な出来事の年表」 ([2018-01-26-1]) も参照.

1476William Caxton brought printing to England, thus both serving and promoting a growing body of literate persons. Before that time, literacy was confined to the clergy and a handful of others. Within the next two centuries, most of the gentry and merchants became literate, as well as half the yeomen and some of the husbandmen.
1485Henry Tudor ascended the throne, ending the civil strife called the War of the Roses and introducing 118 years of the Tudor dynasty, which oversaw vast changes in England.
1497John Cabot went on a voyage of exploration for a Northwest Passage to China, in which he discovered Nova Scotia and so foreshadowed English territorial expansion overseas.
1534The Act of Supremacy established Henry VIII as "Supreme Head of the Church of England," and thus officially put civil authority above Church authority in England.
1549The first Book of Common Prayer was adopted and became an influence on English literary style.
1558At the age of 25, Elizabeth I became queen of England and, as a woman with a Renaissance education and a skill for leadership, began a forty-five-year reign that promoted statecraft, literature, science, exploration, and commerce.
1577--80Sir Francis Drake circumnavigated the globe, the first Englishman to do so, and participated in the defeat of the Spanish Armada in 1588, removing an obstacle to English expansion overseas.
1590--1611William Shakespeare wrote the bulk of his plays, from Henry VI to The Tempest.
1600The East India Company was chartered to promote trade with Asia, leading eventually to the establishment of the British Raj in India.
1604Robert Cawdrey published the first English dictionary, A Table Alphabeticall.
1607Jamestown, Virginia, was established as the first permanent English settlement in America.
1611The Authorized or King James Version of the Bible was produced by a committee of scholars and became, with the Prayer Book and the works of Shakespeare, one of the major examples of and influences on English literary style.
1619The first African slaves in North America arrived in Virginia.
1642--48The English Civil War or Puritan Revolution overthrew the monarchy and resulted in the beheading of King Charles I in 1649 and the establishment of a military dictatorship called the Commonwealth and (under Oliver Cromwell) the Protectorate, which lasted until the Restoration of King Charles II in 1660.
1660The Royal Society was founded as the first English organization devoted to the promotion of scientific knowledge and research.
1670The Hudson's Bay Company was chartered for promoting trade and settlement in Canada.
ca. 1680The political parties---Whigs (named perhaps from a Scots term for 'horse drivers' but used for supporters of reform and parliamentary power) and Tories (named from an Irish term for 'outlaws' but used for supporters of conservatism and royal authority), both terms being originally contemptuous---became political forces, thus introducing party politics as a central factor in government.
1688The Glorious Revolution was a bloodless coup in which members of Parliament invited the Dutch prince William of Orange and his wife, Mary (daughter of the reigning English king, James II), to assume the English throne, resulting in the establishment of Parliament's power over that of the monarchy.
1702The first daily newspaper was published in London, followed by an extension of such publications throughout England and the expansion of the influence of the press in disseminating information and forming public opinion.
1719Daniel Defoe published Robinson Crusoe, sometimes identified as the first modern novel in English, although the evolution of the genre was gradual and other works have a claim to that title.
1755Samuels Johnson published his Dictionary of the English Language, a model of comprehensive dictionaries of English
1775--83The American Revolution resulted in the foundation of the first independent nation of English speakers outside the British Isles. Large numbers of British loyalists left the former American colonies for Canada and Nova Scotia, introducing a large number of new English speakers there.
1788The English first settled Australia near modern Sydney.


 初期近代英語期は,外面史的には英語の世界展開の種が蒔かれた時代であり,社会言語学的には種々の機能的な標準化が進んだ時代だったとまとめられるだろう.

 ・ Algeo, John, and Thomas Pyles. The Origins and Development of the English Language. 5th ed. Thomson Wadsworth, 2005.

Referrer (Inside): [2018-02-04-1] [2018-01-30-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2017-12-26 Tue

#3165. 英製羅語としての conspicuousexternal [waseieigo][latin][borrowing][loan_word][derivation][etymology][suffix][adjective][emode][neologism][lexicology][word_formation][shakespeare]

 標題と関連する話題は,「#1493. 和製英語ならぬ英製羅語」 ([2013-05-29-1]),「#1927. 英製仏語」 ([2014-08-06-1]),「#2979. Chibanian はラテン語?」 ([2017-06-23-1]) や,waseieigo の各記事で取り上げてきた.
 Baugh and Cable (222) で,初期近代期に英語がラテン単語を取り込む際に施した適応 (adaptation) が論じられているが,次のような1文があった.

. . . the Latin ending -us in adjectives was changed to -ous (conspicu-us > conspicuous) or was replaced by -al as in external (L. externus).


 これらの英単語は,ある意味では借用された語ともいえるが,ある意味では英語が自ら形成した語ともいえる.「英製羅語」と呼ぶのがふさわしい例ではないだろうか.
 OED によれば,conspicuous は,ラテン語 conspicuus に基づき,英語側でやはりラテン語由来の形容詞を作る接尾辞 -ous を付すことによって新たに形成した語である.16世紀半ばに初出している.

1545 T. Raynald tr. E. Roesslin Byrth of Mankynde Hh vij These vaynes doo appeare more conspicuous and notable to the eyes.


 実はこの接尾辞を基体(主としてラテン語由来だが,その他の言語の場合もある)に付加して自由に新たな形容詞を作るパターンはロマンス諸語に広く見られたもので,フランス語で -eus を付したものが,14--15世紀を中心として英語にも -ous の形で大量に入ってきた.つまり,まずもって仏製羅語というべきものが作られ,それが英語にも流れ込んできたというわけだ.例として,dangerous, orgulous, adventurous, courageous, grievous, hideous, joyous, riotous, melodious, pompous, rageous, advantageous, gelatinous などが挙げられる(OED の -ous, suffix より).
 また,英語でもフランス語に習う形でこのパターンを積極的に利用し,自前で conspicuous のような英製羅語を作るようになってきた.同種の例として,guilous, noyous, beauteous, slumberous, timeous, tyrannous, blusterous, burdenous, murderous, poisonous, thunderous, adiaphorous, leguminous, delirious, felicitous, complicitous, glamorous, pulchritudinous, serendipitous などがある(OED の -ous, suffix より).
 標題のもう1つの単語 externalconspicuous とよく似たパターンを示す.この単語は,ラテン語 externus に基づき,英語側でラテン語由来の形容詞を作る接尾辞 -al を付すことによって形成した英製羅語である.初出は Shakespeare.

a1616 Shakespeare Henry VI, Pt. 1 (1623) v. vii. 3 Her vertues graced with externall gifts.
a1616 Shakespeare Antony & Cleopatra (1623) v. ii. 340 If they had swallow'd poyson, 'twould appeare By externall swelling.


 反意語の internal も同様の事情かと思いきや,こちらは一応のところ post-classical Latin として internalis が確認されるという.しかし,この語のラテン語としての使用も "14th cent. in a British source" ということなので,やはり英製の匂いはぷんぷんする.英語での初例は,15世紀の Polychronicon

?a1475 (?a1425) tr. R. Higden Polychron. (Harl. 2261) (1865) I. 53 The begynnenge of the grete see is..at the pyllers of Hercules..; after that hit is diffusede in to sees internalle [a1387 J. Trevisa tr. þe ynnere sees; L. maria interna].


 「○製△語」は決して珍しくない.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

Referrer (Inside): [2018-06-27-1] [2017-12-27-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2017-05-27 Sat

#2952. Shakespeare も使った超強調の副詞 too too [reduplication][intensifier][adverb][preposition][iconicity][shakespeare]

 「あまりに」を意味する強調の副詞 too を重複 (reduplication) させ,強調の度合いをさらに強めた too too なる副詞がある.too 自身が前置詞・副詞 to の音韻形態的・意味的な強形というべき語であり,それを重ねた too too においては,強調まさに極まれり,といったところだろうか.Shakespeare でも O that this too too sallied flesh would melt. (Hamlet 1. 2. 129) として用いられており,現在でも口語で She is too-too kind. などと用いられる.
 OED によると,かつては1語で toto, totoo, tootoo などと綴られたこともあったというが,形容詞や副詞の程度を強める副詞としての初出はそれほど古くなく,初期近代の1542年からの例が挙げられている(ただし,動詞を強める副詞としては a1529 に初出あり).

1542 N. Udall tr. Erasmus Apophthegmes f. 271, It was toto ferre oddes yt a Syrian born should in Roome ouer come a Romain.


 この表現の発生の動機づけは,長々と説明する必要もないだろう.重複とは繰り返しであり,繰り返しは意味的強調に通じる.重複と強調は,iconicity (図像性)の点で,きわめて自然で密接な関係を示す.とりわけ感情のこもりやすい口語においては,言語現象として日常茶飯事といえる(関連して「#65. 英語における reduplication」 ([2009-07-02-1]) を参照).
 なお,上にも述べたように強調の副詞 too 自体が,前置詞・副詞 の強形である.古英語では to は単独で「その上,さらに」の意の副詞として用いることもでき,形容詞などと共起すると「あまりに〜」の副詞の意味を表わすことができた.主として,母音部を弱く短く発音すれば前置詞に,強く長く発音すれば強調の副詞として機能したのである.役割の分化にもかかわらず,綴字上は同じ to で綴られ続けたが,16世紀頃から強調の副詞のほうは too と綴られるようになり,独立した.
 起源を一にする語の強形と弱形が独立して別の語と認識されるようになる過程は,英語史でも少なからず生じている.「#55. through の語源」 ([2009-06-22-1]),「#86. one の発音」 ([2009-07-22-1]),「#693. as, so, also」 ([2011-03-21-1]),「#2077. you の発音の歴史」 ([2015-01-03-1]) を参照.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2017-05-22 Mon

#2947. A's X is better than B という構造 [genitive][syntax][shakespeare][variation]

 A's X という表現の後で,B's X を意味するものとして,X が省略された B's という表現を用いるケースは近現代にも見られる.例えば,A's X and B'sA's X is better than B's のような構造だ.しかし,このような場合に,2つ目の要素 B に所有格の 's すらつけず,単に B とだけ述べる表現も,近代までは普通に見られた.例えば,A's X and BA's X is better than B のような構造だ.これでは論理的に XB を比べていることになり,おかしな構造といえばそうなのだが,現実には中英語から近代英語まで広く行なわれていた.
 Jespersen (302) は中英語からの例として以下を挙げている.

 ・ His top was dokked lyk a preest biforn (like that of a p.) [Ch., A., 589]
 ・ Hys necke he made lyke no man. [Guy of Warw., 8054]

 この構造は近代にも続くが,特に Shakespeare で多用されているという報告がある.Jespersen (302--03) が多くの例とともにこの見解を紹介しているので,引用しよう.

   Al. Schmidt has collected a good many examples of this phenomenon from Shakespeare. He considers it, however, as a rhetorical figure rather than a point of grammar; thus he writes (Sh. Lex., p. 1423): "Shakespeare very frequently uses the name of a person or thing itself for a single particular quality or point of view to be considered, in a manner which has seduced great part of his editors into needless conjectures and emendations". I pick out some of his quotations, and add a few more from my own collections:---

 ・ Her lays were tuned like the lark (like the lays of the lark) [Pilgr., 198]
 ・ He makes a July's day short as December (as a December's day) [W. T., i., 2, 169]
 ・ Iniquity's throat cut like a calf [2 H. VI., iv., 2, 29]
 ・ Mine hair be fixed on end as one distract [2 H. VI., iii., 2, 318]
 ・ I know the sound of Marcius' tongue from every meaner man [Cor., i., 6, 27]
 ・ My throat of war be turned into a pipe small as an eunuch [ibid., iii., 2, 114]


 歴史的には,上記の A's X is better than B の構造と並んで,現代風の A's X is better than B's もありえたので,両構造は統語的変異形だったことになる.問題は,上の引用でも触れられている通り,この変異が Shakespeare などにおいて自由変異だったのか,あるいは修辞的な差異を伴っていたのかである.もし 's という小さな形態素の有無が文法と文体の接触点となりうるのであれば,文献学上のエキサイティングな話題となるだろう.

 ・ Jespersen, Otto. Progress in Language with Special Reference to English. 1894. London and New York: Routledge, 2007.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2016-08-14 Sun

#2666. 初期近代英語の不安定な句読法 [punctuation][emode][printing][manuscript][shakespeare][writing][orthography][standardisation]

 15世紀後半に印刷術 (printing) がもたらされた後,続く16世紀の間に標準的な正書法への模索が始まったが,その際の懸案事項は綴字にとどまらず句読法 (punctuation) にも及ぶことになった.
 先立つ中世の手書き写本の時代には,各種の句読記号が,統語意味的な目的というよりは音読のためのガイドとして様々に用いられていた.多くは印刷の時代以降に消えてしまったが,その数は30種類を超えた.現在使われているのと同形の句読記号もあったが,中世の写本ではその機能は必ずしも現代のものと同じではなかった.この中世の奔放な状況が,印刷時代の到来を経て徐々に整理へと向かい出したが,その過程は緩慢としており,初期近代英語期中にもいまだ安定を示さなかった.
 初期の印刷業者は基本的には写本にあった句読記号を再現しようとしたが,対応する活字がないものもあり,選択を迫られることも多かった.一般的には,</> (virgule) や <.> (point) は広く認められた(</> の機能は現在の <,> (comma) に相当し,1520年代から現在のような <,> に置き換えられるようになったが,印刷業者によっては両者ともに用いるものもあった).
 初期の印刷では,ほかに <:> (colon), <¶> (paragraph mark), <//> (double virgule) なども用いられ,新しい句読記号としては <( )> (parentheses), <;> (semicolon), <?> (question mark) なども導入されたが,定着には時間を要した.例えば,<;> などは,Coverdales による1538年の新約聖書の献題に現われこそするが,イングランドで用いられるようになるのは1570年代以降といってよい.
 17世紀に入っても,いまだ句読法の不安定は続いた.例えば,Shakespeare の First Folio (1623) でも,疑問符と感嘆符,コロンとセミコロンの使い分けは一貫していなかったし,アポストロフィ (apostrophe) やハイフン (hyphen) も予期しないところに現われた (ex. advan'st (= advanced), cast-him (= cast him)) .この不安定さは現代の Shakespeare の校訂にも反映しており,異なる版が異なる句読点を採用するという事態になっている.
 アポストロフィについて一言加えておこう.この句読記号は近代の新機軸であり,省略を示すために用いられ出したのは1559年からである.なお,現在のアポストロフィの用法として所有格を表わす <'s> での使用があるが,この発達はずっと遅れて18世紀のことである.
 このように,現代では正書法の一環として用法が定まっている種々の句読記号も,初期近代英語ではいまだ定着していなかった.このことは,印刷術導入の衝撃がいかに革命的だったか,印刷業者が新時代に適応するのにいかに試行錯誤したのかを示す1つの指標とみなすことができるのではないか.以上,Crystal (261) を参照して執筆した.
 関連して,「#574. punctuation の4つの機能」 ([2010-11-22-1]),「#575. 現代的な punctuation の歴史は500年ほど」 ([2010-11-23-1]),「#582. apostrophe」 ([2010-11-30-1]) も参照されたい.

 ・ Crystal, David. The Stories of English. London: Penguin, 2005.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2016-01-01 Fri

#2440. flowerflour (2) [doublet][spelling][shakespeare][johnson][orthography][standardisation]

 年が明けました.2016年も hellog を続けます.新年の一発目は,以前にも「#183. flowerflour」 ([2009-10-27-1]) で取り上げた話題でお届けします.
 この2つの単語は,先の記事で説明したように,もともと1つの語のなかの2つの異なる語義だった.しかし,おそらく語義が離れすぎてしまったために,多義語としてではなく同音異義語として認識されるようになり,少なくとも綴字上は区別するのがふさわしいと感じられるようになったのだろう,近代英語期には綴り分ける傾向が生じていた.
 さて,この語が「花」の意味でフランス語から借用されたのは13世紀初頭のことである.MEDflour (n.(1)) によれば,"c1230(?a1200) *Ancr. (Corp-C 402) 92a: & te treou .. bringeð forð misliche flures .. uertuz beoð .. swote i godes nease, smeallinde flures." が初例である.一方,関連する「小麦粉(=粉のなかの最も上等の「華」)」の意味でも13世紀半ばには英語で初例が現われている.MEDflour (n.(2)) によれば," a1325(c1250) Gen. & Ex. (Corp-C 444) 1013: Kalues fleis and flures bred..hem ðo sondes bed." が初例となっている.見出し語の綴字や例文の綴字を見ればわかるように,当初はいずれの語義においても <flour> や <flur> が普通だった.
 その後,近代英語では両語義の関係が不明瞭となり,「花」が「小麦粉」から分化して,中英語以来のマイナーな異綴字であった <flower> を採用するようになった.綴字上の棲み分けは意外と遅く18世紀頃のことだったが,その後も19世紀までは「小麦粉」が <flower> と綴られるなどの混用がみられた.綴り分けるか否かは,個人によっても異なっていたようで,Shakespeare や Cruden の Concordance to the Bible (1738) では現在のような区別が付けられていたが,Johnson の辞書では,いまだ flower という1つの見出しのもとに両語義が収められている.OED の flour, n. の語源欄でも "Johnson 1755 does not separate the words, nor does he recognize the spelling flour." と述べられているが,Horobin (150) が指摘しているように Johnson の辞書の biscotin の定義のなかでは "A confection made of flour, sugar, marmalade, eggs. Etc." のように <flour> が使用されている.綴り分けが定着するには,ある程度の時間がかかったということだろう.標準綴字の定着,正書法の確立は,かくも心許なく緩慢な過程である.

 ・ Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2015-10-16 Fri

#2363. hapax legomenon [hapax_legomenon][terminology][lexicology][lexicography][word_formation][productivity][bible][zipfs_law][frequency][corpus][shakespeare][chaucer]

 昨日の記事「#2362. haplology」 ([2015-10-15-1]) でギリシア語の haplo- (one, single) に触れたが,この語根に関連してもう1つ文献学や辞書学の用語としてしばしば出会う hapax (legomenon) を取り上げよう.ある資料のなかで(タイプ数えではなくトークン数えで)1度しか用いられていない語(句)を指す.ギリシア語の hapax (once) + legomenon (something said) からなる複合語だ.複数形は hapax legomena という.
 "nonce word" を hapax legomenon と同義としている辞書もあるが,前者は「臨時語」と訳され「その時限りに用いる語」を指す.nonce-word は新語の臨時的な生産性を念頭に用いられることが多いのに対し,hapax legomenon は文献に現われる回数が1度であることに焦点が当てられているという違いが感じられる.nonce (その場限りの)という語の語源については,「#1306. for the nonce」 ([2012-11-23-1]) を参照.
 hapax legomenon は,聖書の注釈との関連で,しばしば言及されてきた歴史がある.OED によると英語における初例は1692年のことで,"J. Dunton Young-students-libr. 242/1 There are many words but once used in Scripture, especially in such a sence, and are called the Apax legomena." とある.
 文献学や語源学において,hapax legomenon はしばしば問題となる.その語の語源はおろか,意味すら不明であることが少なくない.語彙論や辞書学では,それを一人前の「語」として認めてよいのか,何かの間違いではないか,辞書に掲載すべきか否か,という頭の痛い問題がある (see 「#912. の定義がなぜ難しいか (3)」 ([2011-10-26-1])) .一方で,語形成やその生産性という観点からは,hapax legomenon は重要な考察対象となる.というのは,1度だけ臨時的に出現するためには,話者の生産的な語形成機構が前提とされなければならないからである (see 「#938. 語形成の生産性 (4)」 ([2011-11-21-1])) .
 だが,実際のところ halax legomenon は決して少なくない.このことは,ジップの法則に照らせば驚くべきことではないだろう (see 「#1101. Zipf's law」 ([2012-05-02-1]), 「#1103. GSL による Zipf's law の検証」 ([2012-05-04-1])) .英語の例としては,Chaucer の用いたnortelrye (education) や Shakespeare の honorificabilitudinitatibus, また Dickens の sassigassity (audacity?) などが挙げられる.

Referrer (Inside): [2016-09-23-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2015-07-28 Tue

#2283. Shakespeare のラテン語借用語彙の残存率 [shakespeare][inkhorn_term][loan_word][lexicology][emode][renaissance][latin][greek]

 初期近代英語期のラテン語やギリシア語からの語彙借用は,現代から振り返ってみると,ある種の実験だった.「#45. 英語語彙にまつわる数値」 ([2009-06-12-1]) で見た通り,16世紀に限っても13000語ほどが借用され,その半分以上の約7000語がラテン語からである.この時期の語彙借用については,以下の記事やインク壺語 (inkhorn_term) に関連するその他の記事でも再三取り上げてきた.

 ・ 「#478. 初期近代英語期に湯水のように借りられては捨てられたラテン語」 ([2010-08-18-1])
 ・ 「#1409. 生き残ったインク壺語,消えたインク壺語」 ([2013-03-06-1])
 ・ 「#114. 初期近代英語の借用語の起源と割合」 ([2009-08-19-1])
 ・ 「#1226. 近代英語期における語彙増加の年代別分布」 ([2012-09-04-1])

 16世紀後半を代表する劇作家といえば Shakespeare だが,Shakespeare の語彙借用は,上記の初期近代英語期の語彙借用の全体的な事情に照らしてどのように位置づけられるだろうか.Crystal (63) は,Shakespeare において初出する語彙について,次のように述べている.

LEXICAL FIRSTS

・ There are many words first recorded in Shakespeare which have survived into Modern English. Some examples:

   accommodation, assassination, barefaced, countless, courtship, dislocate, dwindle, eventful, fancy-free, lack-lustre, laughable, premeditated, submerged

・ There are also many words first recorded in Shakespeare which have not survived. About a third of all his Latinate neologisms fall into this category. Some examples:

   abruption, appertainments, cadent, exsufflicate, persistive, protractive, questrist, soilure, tortive, ungenitured, unplausive, vastidity


 特に上の引用の第2項が注目に値する.Shakespeare の初出ラテン借用語彙に関して,その3分の1が現代英語へ受け継がれなかったという事実が指摘されている.[2010-08-18-1]の記事で触れたように,この時期のラテン借用語彙の半分ほどしか後世に伝わらなかったということが一方で言われているので,対応する Shakespeare のラテン語借用語彙が3分の2の確率で残存したということであれば,Shakespeare は時代の平均値よりも高く現代語彙に貢献していることになる.
 しかし,この Shakespeare に関する残存率の相対的な高さは,いったい何を意味するのだろうか.それは,Shakespeare の語彙選択眼について何かを示唆するものなのか.あるいは,時代の平均値との差は,誤差の範囲内なのだろうか.ここには語彙の数え方という方法論上の問題も関わってくるだろうし,作家別,作品別の統計値などと比較する必要もあるだろう.このような統計値は興味深いが,それが何を意味するか慎重に評価しなければならない.

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2015-05-09 Sat

#2203. twentieth の綴字と発音 [suffix][numeral][shakespeare]

 序数詞を作る接尾辞に -th がある.最初の3つの序数詞 first, second, third は「#67. 序数詞における補充法」 ([2009-07-04-1]) でみたように語尾が特殊であり,fifth, twelfth も「#1080. なぜ five の序数詞は fifth なのか?」 ([2012-04-11-1]) でみたように基数詞の語幹末子音が無声化している点で例外的にみえるが,その他は基本的には基数詞に -th をつければよい.fourth, tenth, hundredth, millionth のごとく規則的である.
 しかし,規則のなかの不規則と呼びうるものに,twentieth から ninetieth までの8つの -ieth 語尾がある.twentieth でいえば,発音は */ˈtwentiθ/ ならぬ /ˈtwentiəθ/ であり,序数詞語尾の e が発音されるために,全体として3音節となることに注意したい.なぜ素直に twenty + th の綴字および発音にならないのだろうか.
 古英語では,20, 30, 40 . . . の基数詞は twēntiġ, þrītiġ, fēowertiġ のように,半子音 ġ で終わっていた.これらの基数詞を序数詞にするには,つなぎ母音を頭にもつ接尾辞の異形態 -oða, -oðe を付加し,twēntiġoða, þrītiġoða, fēowertiġoða のようにした.基数詞においては,後にこの半子音は先行する母音 /i/ に吸収されて消失したが,序数詞においては,この半子音と接尾辞のつなぎ母音の連鎖が曖昧母音 /ə/ として生き残ったものと考えられる.つまり,twentieth のやや不規則な綴字と発音は,歴史的には,10の倍数を表わす基数詞が,語尾にある種の子音的な ġ を保持していたことに部分的に起因するといえる.
 しかし,実際の歴史的発展は,古英語から現代英語にかけて上の説明にあるように直線的だったわけではないようだ.というのは,古英語でもつなぎ母音のない twentigþa のような綴字はあったし,中英語では twentiþe, twentythe などの素直な綴字も普通にみられたからだ (cf. MED twentīeth (num.)) .むしろ,現在の形態は,16世紀になってから顕著になってきた.例えば,Shakespeare では,Quarto 版では twentith,1st Folio 版では twentieth (MV 4.1.329, Ham 3.4.97) と綴られており,通時的変化を示唆している.おそらくは,時代によって,方言によって,つなぎ母音の有無はしばしば交替したと思われ,初期近代英語期における語形の標準化の流れのなかで,つなぎ母音のある形態が選択されたということなのではないか.
 以下,参考までに OED による序数詞接尾辞 -th, suffix2 の解説を貼りつけておく.

Forming ordinal numbers; in modern literary English used with all simple numbers from fourth onward; representing Old English -þa, -þe, or -oða, -oðe, used with all ordinals except fífta, sixta, ellefta, twelfta, which had the ending -ta, -te; in Sc., north. English, and many midland dialects the latter, in form -t, is used with all simple numerals after third (fourt, fift, sixt, sevent, tent, hundert, etc.). In Kentish and Old Northumbrian those from seventh to tenth had formerly the ending -da, -de. All these variations, -th, -t, -d, represent an original Indo-European -tos (cf. Greek πέμπ-τος, Latin quin-tus), understood to be identical with one of the suffixes of the superlative degree. In Old English fífta, sixta, the original t was retained, being protected by the preceding consonant; the -þa and -da were due to the position of the stress accent, according to Verner's Law.
   The ordinals from twentieth to ninetieth have -eth, Old English -oða, -oðe. In compound numerals -th is added only to the last, as 1/1345, the one thousand three hundred and forty-fifth part; in his one-and-twentieth year.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2015-03-08 Sun

#2141. 3単現の -th → -s の変化の概要 [verb][conjugation][emode][language_change][suffix][inflection][3sp][bible][shakespeare][schedule_of_language_change]

 「#1857. 3単現の -th → -s の変化の原動力」 ([2014-05-28-1]) でみたように,17世紀中に3単現の屈折語尾が -th から -s へと置き換わっていった.今回は,その前の時代から進行していた置換の経緯を少し紹介しよう.
 古英語後期より北部方言で行なわれていた3単現の -s を別にすれば,中英語の南部で -s が初めて現われたのは14世紀のロンドンのテキストにおいてである.しかし,当時はまだ稀だった.15世紀中に徐々に頻度を増したが,爆発的に増えたのは16--17世紀にかけてである.とりわけ口語を反映しているようなテキストにおいて,生起頻度が高まっていったようだ.-s は,およそ1600年までに標準となっていたと思われるが,16世紀のテキストには相当の揺れがみられるのも事実である.古い -th は母音を伴って -eth として音節を構成したが,-s は音節を構成しなかったため,両者は韻律上の目的で使い分けられた形跡がある (ex. that hateth thee and hates us all) .例えば,Shakespeare では散文ではほとんど -s が用いられているが,韻文では -th も生起する.とはいえ,両形の相対頻度は,韻律的要因や文体的要因以上に個人または作品の性格に依存することも多く,一概に論じることはできない.ただし,dothhath など頻度の非常に高い語について,古形がしばらく優勢であり続け,-s 化が大幅に遅れたということは,全体的な特徴の1つとして銘記したい.
 Lass (162--65) は,置換のスケジュールについて次のように要約している.

In the earlier sixteenth century {-s} was probably informal, and {-th} neutral and/or elevated; by the 1580s {-s} was most likely the spoken norm, with {-eth} a metrical variant.


 宇賀治 (217--18) により作家や作品別に見てみると,The Authorised Version (1611) や Bacon の The New Atlantis (1627) には -s が見当たらないが,反対に Milton (1608--74) では dothhath を別にすれば -th が見当たらない.Shakespeare では,Julius Caesar (1599) の分布に限ってみると,-s の生起比率が dohave ではそれぞれ 11.76%, 8.11% だが,それ以外の一般の動詞では 95.65% と圧倒している.
 とりわけ16--17世紀の証拠に基づいた議論において注意すべきは,「#1856. 動詞の直説法現在形語尾 -eth は17世紀前半には -s と発音されていた」 ([2014-05-27-1]) で見たように,表記上 -th とあったとしても,それがすでに [s] と発音されていた可能性があるということである.
 置換のスケジュールについては,「#1855. アメリカ英語で先に進んでいた3単現の -th → -s」 ([2014-05-26-1]) も参照されたい.

 ・ Lass, Roger. "Phonology and Morphology." The Cambridge History of the English Language. Vol. 3. Cambridge: CUP, 1999. 56--186.
 ・ 宇賀治 正朋 『英語史』 開拓社,2000年.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

2014-11-09 Sun

#2022. 言語変化における個人の影響 [neolinguistics][geolinguistics][dialectology][idiolect][chaucer][shakespeare][bible][literature][neolinguistics][language_change][causation]

 「#1069. フォスラー学派,新言語学派,柳田 --- 話者個人の心理を重んじる言語観」 ([2012-03-31-1]),「#2013. イタリア新言語学 (1)」 ([2014-10-31-1]),「#2014. イタリア新言語学 (2)」 ([2014-11-01-1]),「#2020. 新言語学派曰く,言語変化の源泉は "expressivity" である」 ([2014-11-07-1]) の記事で,連日イタリア新言語学を取り上げてきた.新言語学では,言語変化における個人の役割が前面に押し出される.新言語学派は各種の方言形とその分布に強い関心をもった一派でもあるが,ときに村単位で異なる方言形が用いられるという方言量の豊かさに驚嘆し,方言細分化の論理的な帰結である個人語 (idiolect) への関心に行き着いたものと思われる.言語変化の源泉を個人の表現力のなかに見いだそうとしたのは,彼らにとって必然であった.
 しかし,英語史のように個別言語の歴史を大きくとらえる立場からは,言語変化における話者個人の影響力はそれほど大きくないということがいわれる.例えば,「#257. Chaucer が英語史上に果たした役割とは?」 ([2010-01-09-1]) や「#298. Chaucer が英語史上に果たした役割とは? (2) 」 ([2010-02-19-1]) の記事でみたように,従来 Chaucer の英語史上の役割が過大評価されてきたきらいがあることが指摘されている.文学史上の役割と言語史上の役割は,確かに別個に考えるべきだろう.
 それでも,「#1412. 16世紀前半に語彙的貢献をした2人の Thomas」 ([2013-03-09-1]) や「#1439. 聖書に由来する表現集」 ([2013-04-05-1]) などの記事でみたように,ある特定の個人が,言語のある部門(ほとんどの場合は語彙)において限定的ながらも目に見える貢献をしたという事実は残る.多くの句や諺を残した Shakespeare をはじめ,文学史に残るような文人は英語に何らかの影響を残しているものである.
 英語史の名著を書いた Bradley は,言語変化における個人の影響という点について,新言語学派的といえる態度をとっている.

It is a truth often overlooked, but not unimportant, that every addition to the resources of a language must in the first instance have been due to an act (though not necessarily a voluntary or conscious act) of some one person. A complete history of the Making of English would therefore include the names of the Makers, and would tell us what particular circumstances suggested the introduction of each new word or grammatical form, and of each new sense or construction of a word. (150)

Now there are two ways in which an author may contribute to the enrichment of the language in which he writes. He may do so directly by the introduction of new words or new applications of words, or indirectly by the effect of his popularity in giving to existing forms of expression a wider currency and a new value. (151)


 Bradley は,このあと Wyclif, Chaucer, Spenser, Shakespeare, Milton などの名前を連ねて,具体例を挙げてゆく.
 しかし,である.全体としてみれば,これらの個人の役割は限定的といわざるを得ないのではないかと,私は考えている.圧倒的に多くの場合,個人の役割はせいぜい上の引用でいうところの "indirectly" なものにとどまり,それとて英語という言語の歴史全体のなかで占める割合は大海の一滴にすぎない.ただし,特定の個人が一滴を占めるというのは実は驚くべきことであるから,その限りにおいてその個人の影響力を評価することは妥当だろう.言語変化における個人の影響は,マクロな視点からは過大評価しないように注意し,ミクロな視点からは過小評価しないように注意するというのが穏当な立場だろうか.

 ・ Bradley, Henry. The Making of English. New York: Dover, 2006. New York: Macmillan, 1904.

Referrer (Inside): [2015-03-06-1]

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow