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mora - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-04-20 10:59

2024-03-08 Fri

#5429. OED でみる言語学の術語としての mora [syllable][japanese][mora][phonology][prosody][terminology][oed]

 「#4621. モーラ --- 日本語からの一般音韻論への貢献」 ([2021-12-21-1]) で,日本語の音韻論上の単位としてモーラ (mora) の術語を導入した McCawley (1968) に触れた(Daniels, p. 63 を参照).
 McCawley は日本語の音韻論に mora の術語を導入した点でオリジナルだったものの,mora という概念を言語学に持ち込んだ最初の人ではない.OEDmora, NOUN1 によると,語義 3.b. が言語学用語としての mora であり,初出は1933年とある.以下にこの語義の項を引用する.

3.b. Linguistics. The smallest or basic unit of duration of a speech sound. 1933-

1933 In dealing with matters of quantity, it is often convenient to set up an arbitrary unit of relative duration, the mora. Thus, if we say that a short vowel lasts one mora, we may describe the long vowels of the same language as lasting, say, one and one-half morae or two morae. (L. Bloomfield, Language vii. 110)
1941 In many cases it will be found that an element smaller than the phonetic syllable functions as the accentual or prosodic unit; this unit may be called, following current practice, the mora... The term mora..is useful in avoiding confusion, even if it should turn out to mean merely phonemic syllable. (G. L. Trager in L. Spier et al., Language Culture & Personality 136)
1964 Each of the segments characterized by one of the successive punctual tones is called a mora. (E. Palmer, translation of A. Martinet, Elements of General Linguistics iii. 80)
1988 The terms 'bimoric' and 'trimoric' relate to the idea that these long vowels consist of two, respectively three, 'moras' or units of length, rather than the single 'mora' of short vowels. (Transactions of Philological Society vol. 86 137)


 McCawley が引用されていないのが残念である.いずれにせよ,mora が,権威ある辞書であるとはいえ専門辞書ではない OED で単純に定義できるほど易しい概念ではないもののようだ.関連して以下の記事も参照.

 ・ 「#4624. 日本語のモーラ感覚」 ([2021-12-24-1])
 ・ 「#4853. 音節とモーラ」 ([2022-08-10-1])

 ・ Daniels, Peter T. "The History of Writing as a History of Linguistics." Chapter 2 of The Oxford Handbook of the History of Linguistics. Ed. Keith Allan. Oxford: OUP, 2013. 53--69.
 ・ McCawley, James D. The Phonological Component of a Grammar of Japanese. The Hague: Mouton, 1968.

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2022-08-11 Thu

#4854. モーラ伯リズムと強勢拍リズム [syllable][mora][phonology][prosody][typology][japanese][rhythm][stress][world_englishes]

 昨日の記事「#4853. 音節とモーラ」 ([2022-08-10-1]) に引き続き,日英語の韻律を比較対照する.以下,窪薗 (27--28) を参照する.
 日本語はモーラ(音節)拍リズム (mora-timed/syllable-timed rhythm) をもち,英語は強勢拍リズム (stress-timed rhythm) をもつといわれる.
 日本語のモーラ(音節)拍リズムとは,同じ長さの単位(モーラや音節などの単位で,日本語の場合には典型的にモーラ)が連続して現われるもので,「連続のリズム」 (rhythm of succession) あるいは「機関銃リズム」 (machine-gun rhythm) とも呼ばれる.英語母語話者にとって,日本語のリズムは「ダダダダダダダダ」のように単調なものに聞こえるという.
 一方,英語の強勢拍リズムとは,強勢のある音節とない音節とが典型的に交互に現われるもので,「交替のリズム」 (rhythm of alternation) あるいは「モールス信号リズム」 (Morse-code rhythm) ともいわれる.日本語母語話者にとって,英語のリズムは強弱のメリハリのある音の塊の繰り返しと聞こえる.日英語の基本的なリズム感は,このように類型論的に対照的なため,お互いに違和感が大きい.
 現代英語が強勢伯リズムをもつことは間違いないが,英語史の観点からは,この事実ですら相対化して捉えておく必要がある.古英語は純粋な強勢伯リズムの言語ではなかったという議論もあるし,現代の世界英語でしばしば音節伯リズムが聞かれることも確かである.一方,英語に染みついた強勢伯リズムこそが,英語史を通じて豊富にみられる母音変化の原動力だったとする見解もある.英語史におけるリズム (rhythm) の役割は,思いのほか大きい.以下の記事も要参照.

 ・ 「#1647. 言語における韻律的特徴の種類と機能」 ([2013-10-30-1])
 ・ 「#3387. なぜ英語音韻史には母音変化が多いのか?」 ([2018-08-05-1])
 ・ 「#3644. 現代英語は stress-timed な言語だが,古英語は syllable-timed な言語?」 ([2019-04-19-1])
 ・ 「#4470. アジア・アフリカ系の英語にみられるリズムと強勢の傾向」 ([2021-07-23-1])
 ・ 「#4799. Jenkins による "The Lingua Franca Core"」 ([2022-06-17-1])

 ・ 窪薗 晴夫 「第1章 音韻論」『日英対照 英語学の基礎』(三原 健一・高見 健一(編著),窪薗 晴夫・竝木 崇康・小野 尚久・杉本 孝 司・吉村 あき子(著)) くろしお出版,2013年.

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2022-08-10 Wed

#4853. 音節とモーラ [syllable][mora][phonology][phonetics][prosody][typology][japanese]

 音韻論上,音節 (syllable) とモーラ (mora) は異なる単位である.モーラのほうが小さい単位であり,たいてい長母音や2重母音は音節としては1音節とカウントされるが,モーラとしては2モーラとカウントされる.日本語からの例から,両者の関係を整理しておこう(窪薗,p. 15).

単語 音節 モーラ
---------------------- ----------------------------- -----------
オバマ 3 (o.ba.ma) 3 (o-ba-ma)
ブッシュ 2 (bus.syu) 3 (bu-s-syu)
クリントン 3 (ku.rin.ton) 5 (ku-ri-n-to-n)
トヨタ 3 (to.yo.ta) 3 (to-yo-ta)
ホンダ 2 (hon.da) 3 (ho-n-da)
ニッサン 2 (nis.san) 4 (ni-s-sa-n)

 ロシアの言語学者 Trubetkoy によれば,世界の言語は「モーラ言語」と「音節言語」に分類できるという.これに従うと,日本語はモーラ言語,英語は音節言語ということになる.しかし,窪薗 (16--17) は,最小性制約 (minimality constraint) の事例に触れながら,次のように指摘している.

 人間の言語を音節言語とモーラ言語に分ける考え方は,言語間の違いをある程度捉えている一方で,音節とモーラを共存できない単位として捉えるという問題点をはらんでいる.実際には,英語のような「音節言語」にもモーラは必要であり,一方,日本語(標準語)のように「モーラ言語」とされる言語にも音節が不可欠となる.
 例えば英語では,1音節の語は多いが1モーラの語は許容されない.[pin] pin や [pi:] pea という2モーラの1音節語は存在するが,[pi] という1モーラの長さの1音節語は存在しない.偶然に存在しないのではなく,構造的に許容されないのである.……〔中略〕……最小性制約は英語のアルファベット発音にも表れており,アルファベットを1つずつ語として発音する場合には A は [æ] ではなく [ei],B も [b] や [bi] ではなく [bi:] と2モーラ(以上)の長さで発音される.
 一方,モーラ言語とされる日本語(標準語)の記述にも音節という単位が不可欠となる.例えば外来語の短縮形には〔中略〕「2モーラ以上」という条件だけでなく,「2音節以上」という条件も課される.チョコ(<チョコレート)やスト(<ストライキ)という2音節2モーラの短縮はあっても,*パン(<パンフレット)や*シン(<シンポジウム),*パー(<パーマエント(ウェーヴ))という短縮形が許容されないのはこのためである.2モーラの音節で始まる語は3モーラ目までを残して,2音節の短縮形(パンフ,シンポ,パーマ)が作り出される.


 ここから,音節とモーラは二律背反的な単位ではなく,1つの言語のなかで同居し,補完的な関係にある単位ととらえる必要があることが分かる.日本語の音節やモーラについては,以下の記事も参照.

 ・ 「#1023. 日本語の拍の種類と数」 ([2012-02-14-1])
 ・ 「#3719. 日本語は開音節言語,英語は閉音節言語」 ([2019-07-03-1])
 ・ 「#3720. なぜ英語の make は日本語に借用されると語末に母音 /u/ のついた meiku /meiku/ となるのですか?」 ([2019-07-04-1])
 ・ 「#4621. モーラ --- 日本語からの一般音韻論への貢献」 ([2021-12-21-1])
 ・ 「#4624. 日本語のモーラ感覚」 ([2021-12-24-1])

 ・ 窪薗 晴夫 「第1章 音韻論」『日英対照 英語学の基礎』(三原 健一・高見 健一(編著),窪薗 晴夫・竝木 崇康・小野 尚久・杉本 孝司・吉村 あき子(著)) くろしお出版,2013年.

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2021-12-24 Fri

#4624. 日本語のモーラ感覚 [syllable][phonology][japanese][mora]

 日本語の長音,促音,撥音のような特殊音素は,それだけでは一般音韻論が定めるところの音節 (syllable) を構成することはできないものの,日本語母語話者にとっては事実上の音節に相当する1単位として認められている.認められているというよりも,日本語の音韻の基盤そのものであり,これがなければ日本語の音韻論も和歌も俳句も成り立たないというほどの必須要素とされる.
 しかし,「?」「っ」「ん」で表わされる音素を,「あ」「か」「さ」と同じ単位(モーラ)とみなしましょうといったところで,日本語を第2言語として学習する者にとっては理解が難しいようである.『新版日本語教育事典』の p. 16 に次のような一節がある.

日本語教育の現場では,この特殊拍のモーラ感覚を教えることの困難さ,つまり,特殊拍を1モーラとしての長さで発音するにはどうしたらよいかを教えることお難しさが,つとに指摘されている.子音あるいは母音1つから成る特殊拍は,子音と母音から成る通常の自立拍(たとえば,「目」/me/,「差」/sa/など)より持続時間は短いものの,日本語話者には1モーラ分の長さをもつと知覚される.モーラという概念は,日本語のみで用いられるわけではないが,モーラ言語といわれる日本語では,モーラという音韻単位が不可欠であることが,音韻論,音響音声学,聴覚音声学,言語心理学,工学,脳科学など,さまざまな分野の研究から明らかにされている.


 日本語にとってのモーラとは何なのか.日本語学における大問題であり,私がこれ以上口を挟むわけにもいかない.しかし,母語としての直観を,客観的な言語学用語で説明し,言語学理論によって位置づけことの難しさを象徴する問題として,今回取り上げてみた.数日前の「#4621. モーラ --- 日本語からの一般音韻論への貢献」 ([2021-12-21-1]) の記事を参照.

 ・ 『新版日本語教育事典』 日本語教育学会 編,大修館書店,2005年.

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2021-12-21 Tue

#4621. モーラ --- 日本語からの一般音韻論への貢献 [syllable][phonology][grammatology][syllabary][hiragana][katakana][japanese][writing][terminology][mora]

 文字論研究史を概説している Daniels (63) に,日本語の仮名(平仮名と片仮名)がモーラに基づく文字であることが言及されている.この事実そのものは日本語学では当然視されており目新しいことでも何でもないが,音節 (syllable) ではなくモーラ (mora) という音韻論的単位が言語学に持ち込まれた契機が,ほかならぬ日本語研究にあったということを初めて知った.日本語の仮名表記や音韻論を理解・説明するのにモーラという概念は是非とも必要だが,否,まさにそのために導入された概念だったのだ.

The term 'mora' was introduced into modern linguistics by McCawley (1968) to render a term (equivalent to 'letter') for the characters in the two Japanese 'syllabaries' ('kana'), hiragana and katakana, which denote not merely the (C)V syllables of the language but also a syllable-closing nasal or length.


 モーラと音節が異なる単位であることは,以下の例からも分かる.要するに,長音,促音,撥音のような特殊音素は,独立した音節にはならないが独立したモーラにはなる.

 ・ 「ながさき」 (Nagasaki) は4モーラで4音節
 ・ 「おおさか」 (Ōsaka) は4モーラで3音節
 ・ 「ロケット」 (roketto) は4モーラで3音節
 ・ 「しんぶん」 (shimbun) は4モーラで2音節

 音節とは異なるが,日本語母語話者にとっては明らかに独立した部品とみなされているもう1つの音韻論的単位,それが日本語のモーラである.仮名の各文字には,およそきれいに1つのモーラが対応している.

 ・ Daniels, Peter T. "The History of Writing as a History of Linguistics." Chapter 2 of The Oxford Handbook of the History of Linguistics. Ed. Keith Allan. Oxford: OUP, 2013. 53--69.
 ・ McCawley, James D. The Phonological Component of a Grammar of Japanese. The Hague: Mouton, 1968.

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2012-02-14 Tue

#1023. 日本語の拍の種類と数 [syllable][japanese][mora]

 [2012-02-12-1]の記事「#1021. 英語と日本語の音素の種類と数」では,音素という単位で両言語の一覧を掲げたが,音節という単位ではどうだろうか.今回は,日本語の拍の一覧表を示したい.以下,出典は金田一 (90) .

aiueojajujo(je)wa(wi)(we)wo
hahihuhehohjahjuhjo(hje)(hwa)(hwi)(hwe)(hwo)
gagigugegogjagjugjo (gwa)   
kakikukekokjakjukjo (kwa)   
ŋaŋiŋuŋeŋoŋjaŋjuŋjo     
da(di)(du)dedo (dju)      
ta(ti)(tu)teto (tju)      
naninunenonjanjunjo     
babibubebobjabjubjo     
papipupepopjapjupjo     
mamimumemomjamjumjo     
zazizuzezozjazjuzjo(zje)    
sasisusesosjasjusjo(sje)    
(ca)cicu(ce)(co)cjacjucjo(cje)    
rarirurerorjarjurjo     
 NTR         


 括弧を付したものは,主として外来語や感動詞に現われるもの.注意すべきものとして,(wha) = ファ,ci = チ,cu = ツ,(ca) = ツァ,cja = チャ.

 日本語の音声の単位として,音素より大きな塊を示す用語として,音節 (syllable) ,拍,モーラ (mora) などがあるが,この用語の使い方は研究者によってまちまちである.ここでは,拍と呼んでおくことにする.これによると,日本語は,近年の外来語に現われる音節を別とすると,112の拍をもつことになる.鼻濁音を音素としてもたない話者は,ここから8拍を差し引く必要がある.o と wo については,「お」と「を」は共通語ではともに /o/ として区別されないが,「青うございます」と「淡うございます」などでは対立が生じるので,別の拍として認定する.
 金田一 (104) によれば,ハワイ語は,子音が8個,母音5個で,理論上45音節が区別される.中国語は北京標準語で411音節.そして,英語だが,可能な音節数が著しく多いことが知られている ([2012-02-02-1]の記事「#1011. なぜ言語には「閉鎖子音+母音」の組み合わせが多いか?」を参照).日本語学者で英語学者の楳垣実によれば,英語の音節は3万個以下ということはなく,トルンカという学者によれば,86,165個があり得るというから驚きだ.このトルンカの言及には,いずれ当たってみたい.

 ・ 金田一 春彦 『日本語 新版(上)』 岩波書店,1988年.

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