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sir_orfeo - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-11-15 10:34

2013-04-28 Sun

#1462. animal の初出年について [latin][oed][sir_orfeo]

 OED2, MED とそれらに基づいた語源辞典によると,「動物」を意味するラテン語,フランス語由来の名詞 animal の初出は,14世紀初期の The Auchinleck Manuscript に所収の Breton lay ロマンス Sir Orfeo (l. 364) とされている.MED より animal (n.) を見てみると,"Þe vousour was anow[rn]ed al Of ich maner diuers animal." と引用されている.
 しかし,OED Online は,この箇所で animal との読みは誤りであり,これは amel (enamel) の異形であるという立場をとっている.

Middle Eng. Dict. at animāl n. records an earlier example from the Auchinleck manuscript copy of Sir Orfeo, but more recent editors read this as aumal, hence showing AMEL n., an interpretation which is supported by the context and by the equivalent passage in other manuscripts.


 先日 Sir Orfeo を読んでいてこの問題に出くわした.Bliss 版では ll. 363--64 は次の通り.

Þe vousour was auowed al Of ich maner diuers aumal.


 様々な議論をまとめると,結論として OED Online の見解が妥当だと考える.まず,写本では問題の語の2つの a の間に minim は5本しかない.次に,15世紀の2写本での対応語を見ると,Ashmole では amell,Harley では metalle となっている.後者は意味を取って異なる語を採用しているが,「動物」の読みでないことは明らかだ.また,Bliss 版の批評をした D'Ardenne (58) も,aumal の語形を,古仏語の語形 amail, ēmail を参照しながら,十分にあり得る語形と考えている.
 もう1つ関連する議論は,animal の現われる時代的な分布である.D'Ardenne (58) は,この箇所を除外すると animal の英語での初例は16世紀であり,借用元と考えられるフランス語においても12世紀に例はあるものの16世紀までは稀であると述べている.しかし,この D'Ardenne の議論は今では必ずしも説得力はない.というのは,OED Online でも MED でも,animal は,この箇所を除外したとしても,14世紀終わりからいくつか現われているからだ.だが,ここまでの議論により,Sir Orfeo (l. 364) が animal の初出箇所ではないということは言えそうだ.
 語の初出年の問題は,その語の語史にかかわるミクロな問題と思われがちだが,共時的に語彙の一部を構成している限りにおいて語彙史の問題でもある.例えば,今回の問題は,「#127. deer, beast, and animal」 ([2009-09-01-1]) で取り上げた意味の場を巡る類義語の盛衰という問題にも若干の間接的な影響があるかもしれない.

 ・ Bliss, A. J., ed. Sir Orfeo. 2nd ed. Oxford: Clarendon, 1966.
 ・ Wrenn, C. L. "The Value of Spelling as Evidence." TPS 42 (1943): 14--39.
 ・ D'Ardenne, S. R. T. O. "Sir Orfeo by A. Bliss." RES NS 8 (1957): 57--59.

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2012-12-06 Thu

#1319. 多数を表わす sixty [numeral][sir_orfeo]

 Sir Orfeo の最初に,林檎の木の下で昼寝をして気の狂った Eurydice を連れ戻すために,多数の人々が駆けつけてくる場面がある.そこで,多数を表わすのに sexti という数が用いられている.Bliss 版,Auchinleck MS (ll. 89--90) より.

Kniȝtes vrn & leuedis also,
Damisels sexti & mo.


 対応する Harley 3810 の行は "Knyȝtys out went & ladyes also, / & damsellis fyfty & mony mo;" (ll. 86--87) ,Ashmole 61 の行は "Sexty knyȝtys & ȝit mo, / And also fele ladys þer-to," (ll. 77--78) とあり,数は60と50で揺れている.現代の我々にとって50はキリがよいが,60というのは中途半端の気味がある."and more" と付け足されているからには,厳密な数ではなく多数を表わす表現であると理解してよいが,この60という数は一体どこから出てきたのだろうか.
 中英語の詩ではこの種の適当な概数はよくあるように思われるので,それほど注目していなかったが,ちょうどこの箇所の "sixty" について,小論があるというので読んでみた.Tucker によると,中英語には多数を表わす "sixty" の用法の "plenty of evidence" (152) があるという.Tucker (153) は,Havelok, Sir Ferumbras, Otuel and Roland からの "sixty" およびその倍数の例を指摘しながら,次のように推測する.

'Fifty'---or 'half a hundred' would seem more natural to the modern reader: are these prevailing 'sixties' a relic of the old duodecimal reckoning familiar in the Scandinavian 'Long Hundred' of 120?


 MED には特に関連する記述はなかったが,OED では sixty, adj. and n の項で,B. n. 1b として次の句が登録されている.初例は1848年である.

b. like sixty, with great force or vigour; at a great rate. colloq. or slang. (Cf. FORTY adj. b.)


 そこに参照のある forty の項を見ると,"Used indefinitely to express a large number. like forty (U.S. colloq.): with immense force or vigour, 'like anything'. とあり,Shakespeare が初例となっている.
 中英語の「多数」の "sixty" と近現代の like sixty に連続性があるかどうかは疑わしいが,古今東西,特定の数のもつ含意というのは様々であり,興味深い.関連して,「#84. once, twice, thrice」 ([2009-07-20-1]) の thrice- 複合語を参照.

 ・ Bliss, A. J., ed. Sir Orfeo. 2nd ed. Oxford: Clarendon, 1966.
 ・ Tucker, Susie I. "'Sixty' as an Indefinite Number in Middle English." The Review of English Studies 25 (1949): 152--53.

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2012-11-25 Sun

#1308. learn の「教える」の語義 [antonymy][polysemy][etymology][sir_orfeo][ormulum]

 learn には,《古・非標準的》という限定された使用域ながらも「教える,わからせる」の語義がある.He learned me how to skate.I'll learn you. (思い知らせてやるぞ)などの例文が挙げられる.[2011-09-12-1]の記事で紹介した EDD Onlinebeta-version によれば,learn の語義4として "To teach, instruct; freq. used ironically as a threat of punishment." とあり,他の語義よりも豊富に例文が挙がっている.
 「学ぶ」と「教える」は視点が180度異なり,一種の反意ともみなせるが,それが learn という語のなかに共存している.[2010-11-14-1]の記事で紹介した「#566. contronym」のもう一つの例だろう.興味深いことに,両語義を合わせもつ語は,オランダ語 leren やフランス語 apprendre にもみられる.
 語源をたどると,印欧語幹は *leis- "track, furrow" に遡る.語形成を経て *laisjan から,Gmc *liznōjan に至り,ここから OE leornian "to learn" が発展した.Gmc *liznōjan とは OE (ġe)lǣran "to teach" も別に関係しており,lore (教え,指導,知識)もその派生語である."track, furrow" が語幹の原義であるということは,learn の意味の根源は「歩む道を導く」辺りにありそうだ.
 古英語では,leornian "learn" と (ġe)lǣran "to teach" が区別されていた.しかし,中英語になり,lernen が "teach" の語義も帯びるようになった.OED および MED によると,初例は,1200年くらいの Ormulum である.

Uss birþþ itt [the Gospel] þurth sekenn, To lokenn watt itt lernet uss Off sawle nede. (19613)


 「教える」の語義で再帰代名詞とともに用いれば,現代英語の teach oneself と同様に,「学ぶ,自学する」の意味となる.Sir Orfeo (Bliss版,Auchinleck MS, ll. 30--33)の l. 31 の例では,再帰代名詞は強意ではなく文字通り再帰だろう.一方,l. 33 の lerned は「学ぶ」である.

Him-self he lerned for-to harp,
& leyd þer-on his wittes scharp;
He lerned so, þer no-þing was
A better harpour in no plas.


 関連して,形容詞 learned (学識のある,博学な)は1300年くらいが初出だが,その本来の意味は「教わった,教育を受けた」であり,learn の「教える」の語義の過去分詞である.12世紀以来用いられている lered およびドイツ語 gelehrt も同義である.

 ・ Bliss, A. J., ed. Sir Orfeo. 2nd ed. Oxford: Clarendon, 1966.

Referrer (Inside): [2013-11-30-1]

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2012-11-23 Fri

#1306. for the nonce [etymology][inflection][metanalysis][terminology][sir_orfeo][oed][dative][genitive][ormulum]

 for the nonce (さしあたって,当座は;当分)という句がある.The team is called "the Lions," at least for the nonce. のように使われる.この表現には,定冠詞 the のかつての屈折形の名残がみられ,語源的に興味深い.
 現在の形態に直接につながる初例は,1200年くらいの作とされる Ormulum において forr þe naness として現われる.第3語の語頭の n は,直前の定冠詞の初期中英語での単数与格屈折形 þen の語末の n異分析 (metanalysis) されたものであり,語幹の一部と再解釈されて現在に至っている.かつての単数与格屈折語尾が意外なところで化石的に生き残っている例である.
 この句は,形態的にも意味的にも現代英語でいう *for the once に対応するかのように見えるが,歴史的には第3語を once あるいは one's[2009-07-18-1]の記事「#81. oncetwice の -ce とは何か」を参照)に相当する初期中英語の属格に基づく表現に直接由来すると解するには難点がある.OED によれば,属格形は確かに間接的には関与するだろうが,この句は,むしろ古英語に見られる to þam anum や その初期中英語版 to þan ane などと比較されるべき,one の与格を含む表現として始まったのではないかという.後に定着した属格形は,与格形が置換されたものと考えられる.置換の理由としては,「一度」を意味するのに属格に由来する anes, ones と並んで,与格に由来する ane, ene も用いられたことから,両者の交替が自然だったのではないか.
 中英語では,異分析が生じる前の形態と生じた後の形態が共存しており,MED には ōnes (adv.) の語義5と nōnes (n.(1)) の語義1の両方に,この句が登録されている.後者によれば,現在に伝わる「臨時に」と「当座は」の語義のほかに,強意語として "indeed" ほどの語義や,韻律的な埋め草としての意味の希薄な用法があると記載されている.強意あるいは埋め草としての例を,Bliss 版 Sir Orfeo (Auchinleck MS, ll. 51--56) から引こう.

Þe king hadde a quen of priis
Þat was y-cleped Dame Heurodis,
Þe fairest leuedi, for þe nones,
Þat miȝt gon on bodi & bones,
Ful of loue & of godenisse;
Ac no man may telle hir fairnise.


 句として以外にも,nonce には「臨時の」という形容詞としての用法がある.名詞とともに一種の複合語を形成して,言語学の術語として nonce-word (臨時語),nonce-form (臨時形)などと使う.この用法の初例は,OED の編纂者 James Murray が1884年に OED 初版の説明書きに用いたときである.

1884 N.E.D. Fasc. 1, p. x, Words apparently employed only for the nonce, are, when inserted in the Dictionary, marked nonce-wd.


 OED にこの旨が詳しく記載されているのだから,OED による自作自演の用法といってよいだろう.

 ・ Bliss, A. J., ed. Sir Orfeo. 2nd ed. Oxford: Clarendon, 1966.

Referrer (Inside): [2015-10-16-1] [2014-11-11-1]

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2012-11-10 Sat

#1293. Sir Orfeo の関連サイト [link][romance][sir_orfeo][literature][auchinleck]

 大学院の授業で,"Breton lay" と呼ばれるジャンルに属する中英語ロマンス Sir Orfeo を,Burrow and Turville-Petre 版に基づいて読み始める.比較として,Bliss, Sisam, Treharne による版を使用.

 ・ Bliss, A. J., ed. Sir Orfeo. 2nd ed. Oxford: Clarendon, 1966.
 ・ Burrow, J. A. and Thorlac Turville-Petre, eds. A Book of Middle English. 3rd ed. Malden, MA: Blackwell, 2005.
 ・ Sisam, Kenneth, ed. Fourteenth Century Verse and Prose. Oxford: OUP, 1921.
 ・ Treharne, Elaine, ed. Old and Middle English c. 890--c. 1450: An Anthology. 3rd ed. Malden, Mass.: Wiley-Blackwell, 2010.

 Web上で関連するリソースを探したので,以下にまとめておく.

 ・ Page from the Online Database of the Middle English Verse Romances: 中英語ロマンスの総合サイトより粗筋と刊本の情報.
 ・ Page from Middle English Compendium HyperBibliography: MED よりテキスト情報.
 ・ Page from Wikipedia

 ・ Text and Manuscript from the Auchinleck Manuscript: Auchinleck 版のテキストと写本画像.研究書誌はこちら
 ・ Text: Laskaya and Salisbury's edition (based on Auchinleck): イントロや研究書誌はこちら.Auchinleck MS については,「#744. Auchinleck MS の重要性」 ([2011-05-11-1]) も参照.
 ・ Text: Shuffleton's edition (based on Ashmole): イントロはこちら
 ・ Introduction and Text: Hostetter's edition

 ・ Modern English translation in the Hannah Scot Manuscripts
 ・ Modern English translation by Hunt

Referrer (Inside): [2014-05-18-1]

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