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最終更新時間: 2024-03-19 07:57

2023-10-29 Sun

#5298. イタリック語派をめぐって Taku さんと対談精読実況生中継しました --- heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズ [voicy][heldio][hel_education][link][notice][bchel][italic][latin][french][spanish][portuguese][italian][indo-european]

 10月26日(木)の夜に,帝京科学大学の金田拓さんとともに,Baugh and Cable の英語史書の「対談精読実況生中継」を Voicy heldio で配信しました.同書の第21節 Italic (イタリック語派)を題材に,英文を精読し,内容について様々な角度から議論と解説を行ないました.(一緒に講師を務めました Taku さん,対談内での重要かつ適切なコメントで盛り上げていただきましてありがとうございました!)
 配信している側の2人は確かに豊かで実りある時間を過ごすことができたのですが,お聴きのリスナーの方々はいかがでしたでしょうか? まだお聴きでない方もいるかと思いますので,ぜひお時間のあるときにどうぞ.生放送のアーカイヴは3回に分かれており,第1回は通常配信で,第2回と第3回はプレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪」 (helwa) にてお届けしています(第1回だけでも50分超の長尺です).第1回で関心が湧いた方は,ぜひ第2第,第3回へもお進みいただければと存じます(後者2回は有料となります).
 対談特別回だったこともあり,精読対象となったテキストを特別にこちらの PDF に上げておきます.できれば,オンライン読書会のシリーズ企画でもありますので,ぜひ本書そのものを入手し,今後も長くお付き合いください.

 (1) 「#879. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (21) Italic --- Taku さんとの実況中継(前半)」


 (2) 「【英語史の輪 #46】英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (21) Italic --- Taku さんとの実況中継(後半)」(10月分の helwa に含まれる有料配信です)


 (3) 「【英語史の輪 #47】最後にダメ押し,Taku さんとの実況中継第3弾 --- 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (21) Italic」(10月分の helwa に含まれる有料配信です)



 各回にはリスナーの皆さんからも今回の精読について様々なコメントが寄せられてきていますので,そちらもご覧ください.
 今回の対談精読実況生中継(第1回)は,先日の「#877. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (20) Albanian --- 小河舜さんとの実況中継」と同様に,サンプル回ということで一般公開した次第です.普段は週に1,2回のペースでお届けする有料配信のシリーズとなっています.ぜひ「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) より過去回のラインナップをご覧いただければと思います.今後,皆さんとともに本書を読み進めていけることを楽しみにしています.


Baugh, Albert C. and Thomas Cable. ''A History of the English Language''. 6th ed. London: Routledge, 2013.



 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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2022-12-15 Thu

#4980. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第22回「なぜヨーロッパの人は英語が上手なの?」 [notice][sobokunagimon][rensai][indo-european][comparative_linguistics][reconstruction][germanic][italic][french][latin][german][dutch][spanish][italian][heldio]

 『中高生の基礎英語 in English』の1月号が発売されました.連載「歴史で謎解き 英語のソボクな疑問」の第22回として「なぜヨーロッパの人は英語が上手なの?」に答えています.

『中高生の基礎英語 in English』2023年1月号



 この素朴な疑問は,大雑把でナイーヴな問いに響くかもしれません.ヨーロッパ人がみな英語が上手なわけではありませんし,アジアやアフリカを含めた世界の各地に英語が上手な人はたくさんいます.このことは承知の上で,今回の記事をなるべく多くの中高生に届けたいという思いから,あえてこのような表題を掲げた次第です.
 中高生に英語学習の早い段階でぜひとも知ってもらいたい重要なことがあります.それは,英語とヨーロッパの主要言語との関係です.将来大学などに進学して英語以外の言語を学ぶことになったとき,あるいは独学で他言語に挑んでみようと思い立ったとき,もしヨーロッパの諸言語を念頭においているのであれば,ぜひ英語,ドイツ語,オランダ語,フランス語,スペイン語,イタリア語などの相互関係について言語学・言語史的な観点から理解しておいてください.学習言語を選択する上で,とても大事な知識だからです.
 大学教員である私は日常的に大学生と付き合っていますが,彼らのなかには,英語史の授業などで英語とヨーロッパの諸言語との関係を初めて知ると,第2外国語として○○語ではなくフランス語/ドイツ語を選択しておけばよかった,などと口にする学生がいます.もう1年か2年早く諸言語間の関係を知っていたら△△語を選んでいたのに,と後悔しているようなのです.
 中高生の皆さんは,いずれ英語以外の言語を学ぶ可能性があるのであれば,英語と他の言語との関係について知っていたほうが得です.主体的に学習言語を選択できることになるからです.最終的にどの言語を選ぶにせよ,事前に多くの情報をもっておくに越したことはありません.
 英語やヨーロッパの主要言語は,いずれもインドヨーロッパ語族と呼ばれる言語家族の一員です.おおまかにいえば言語が互いに似ているのです.しかし,英語と比較してどの点でどのくらい似ているのか,あるいは似ていないのかは,言語ごとに異なります.
 ドイツ語とオランダ語は,英語とともにインドヨーロッパ語族のなかでもゲルマン語派という派閥に属しており,文法や発音において互いに似ているところがあります.しかし,実際にドイツ語やオランダ語に触れてみると,英語と同じ派閥に属しているわりには,それほど似ていないという印象を受けるかもしれません.似ているけれども似ていない,似ていないけれども似ている,といった妙な距離感です.
 一方,フランス語,スペイン語,イタリア語などは,長らくヨーロッパの共通語だったラテン語とともにインドヨーロッパ語族のなかでもイタリック語派という派閥に属しています.英語とは大きく異なる派閥なのですが,英語は歴史を通じてフランス語やラテン語から多くの単語を借りてきた経緯があるため,語彙に関しては実は共通しているものが非常に多いのです.したがって,これらの言語を学んでみると,表面的には英語とよく似ているという印象を受けます.
 英語は,ゲルマン語派にルーツをもつけれどもイタリック語派の影響を大きく受けながら発展してきた言語なのです.単純化していえば,英語はヨーロッパのいくつかの言語を混ぜ合わせたような混合言語といってよいでしょう.皆さんが英語の次に学ぶ言語を選択する際には,ぜひこのことを参考にしてみてください.
 今回の話題と関連する Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の放送回としては「#486. 英語と他の主要なヨーロッパ言語との関係 ー 仏西伊葡独語」がお勧めです.ぜひお聴きください.


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2022-09-25 Sun

#4899. magazine は「火薬庫」だった! [etymology][arabic][french][false_friend][semantic_change][italian][spanish][portuguese][borrowing][loan_word]

 英仏語の "false friends" (= "faux amis") の典型例の1つに英語 magazine (雑誌)と仏語 magasin (店)がある.語形上明らかに関係しているように見えるのに意味がまるで違うので,両言語を学習していると面食らってしまうというケースだ(ただし,フランス語にも「雑誌」を意味する magazine という単語はある).
 OED により語源をたどってみよう.この単語はもとをたどるとアラビア語で「倉庫」を意味する mákhzan に行き着く.この複数形 makhāˊzin が,まずムーア人のイベリア半島侵入・占拠の結果,スペイン語やポルトガル語に入った.「倉庫」を意味するスペイン語 almacén,ポルトガル語 armazém は,語頭にアラビア語の定冠詞 al-, ar- が付いた形で借用されたものである.スペイン語での初出は1225年と早い.
 この単語が,通商ルートを経て,定冠詞部分が取り除かれた形で,1348年にイタリア語に magazzino として,1409年にフランス語に magasin として取り込まれた(1389年の maguesin もあり).そして,英語はフランス語を経由して16世紀後半に「倉庫」を意味するこの単語を受け取った.初出は1583年で,中東に出かけていたイギリス商人の手紙のなかで Magosine という綴字で現われている.

1583 J. Newbery Let. in Purchas Pilgrims (1625) II. 1643 That the Bashaw, neither any other Officer shall meddle with the goods, but that it may be kept in a Magosine.


 しかし,英語に入った早い段階から,ただの「倉庫」ではなく「武器の倉庫;火薬庫」などの軍事的意味が発達しており,さらに倉庫に格納される「貯蔵物」そのものをも意味するようになった.
 次の意味変化もじきに起こった.1639年に軍事関係書のタイトルとして,つまり「専門書」ほどの意味で "Animadversions of Warre; or, a Militarie Magazine of the trvest rvles..for the Managing of Warre." と用いられたのである.「軍事知識の倉庫」ほどのつもりなのだろう.
 そして,この約1世紀後,ついに私たちの知る「雑誌」の意味が初出する.1731年に雑誌のタイトルとして "The Gentleman's magazine; or, Trader's monthly intelligencer." が確認される.「雑誌」の意味の発達は英語独自のものであり,これがフランス語へ1650年に magasin として,1776年に magazine として取り込まれた.ちなみに,フランス語での「店」の意味はフランス語での独自の発達のようだ.
 英仏語の間を行ったり来たりして,さらに各言語で独自の意味変化を遂げるなどして,今ではややこしい状況になっている.しかし,「雑誌」にせよ「店」にせよ,軍事色の濃い,きな臭いところに端を発するとは,調べてみるまでまったく知らなかった.驚きである.

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2019-02-20 Wed

#3586. 外来複数形 [plural][latin][greek][french][italian]

 英語の不規則複数形をとる名詞には,外来複数形と呼ばれる一群がある.主として近代英語以降にラテン語,ギリシア語,フランス語,イタリア語などから借用された学術・専門語で,原語における複数形を保っているものだ.現代にかけて,英語の規則的な語尾 -(e)s を取るようになったものも少なくないが,それらも含めて代表的な単語を,『徹底例解ロイヤル英文法』に依拠して以下に示そう.
 特にラテン系 -us 名詞に見られる20世紀中の規則複数化の流れについては,Hotta の拙論を参照(関連して,「#121. octopus の複数形」 ([2009-08-26-1]),「#161. rhinoceros の複数形」 ([2009-10-05-1]) も).

1. ラテン語系の名詞
  1.1 -us で終わる語
    a) -us [əs] → -i [aɪ]
      alumnus (男子卒業生) → alumni
      bacillus (バチルス菌) → bacilli
      esophagus (食堂) → esophagi
      locus (軌跡) → loci, loca
      stimulus (刺激) → stimuli
    b) 規則複数語尾 -es をつけるもの
      apparatus (装置) → apparatuses
      bonus (ボーナス) → bonuses
      campus (校庭) → campuses
      caucus (幹部会議) → caucuses
      chorus (コーラス) → choruses
      circus (サーカス) → circuses
      impetus (起動力) → impetuses
      minus (負の数,マイナス符号) → minuses
      prospectus (学校などの案内) → prospectuses
      sinus (洞) → sinuses
      status (地位) → statuses
    c) -us → -i の変化と -es の両様のもの
      cactus (サボテン) → cacti, cactuses
      cirrus (巻雲) → cirri, cirruses
      cumulus (積雲) → cumuli, cumuluses
      focus (焦点) → foci, focuses
      fungus (きのこなどの菌類) → fungi, funguses
      genius (守護神;天才) → genii (守護神),geniuses (天才)
      nimbus (乱雲) → nimbi, nimbuses
      nucleus (原子核) → nuclei, nucleuses
      radius (半径) → radii, radiuses
      stratus (層雲) → strati, stratuses
      syllabus (教授細目) → syllabi, syllabuses
      terminus (末端,終着駅) → termini, terminuses
    d) その他
      corpus (集大成,言語資料) → corpora, corpuses
      genus (属) → genera, genuses
  1.2 -a で終わる語
    a) -a [ə] → -ae [iː]
      alga (藻) → algae
      alumna (女子卒業生) → alumnae
      larva (幼虫) → larvae
    b) 規則複数語尾 -s をつけるもの
      area (地域) → areas
      arena (闘技場) → arenas
      dilemma (ジレンマ) → delemmas
      diploma (学位免状) → diplomas [まれに diplomata もあり]
      drama (ドラマ) → dramas
      era (時代) → eras
    c) -a → -ae と -s の両様のもの
      antenna (触角;アンテナ) → antennae (触覚), antennas (アンテナ)
      formula (公式) → formulae, formulas
      nebula (星雲) → nebulae, nebulas
      vertebra (脊椎) → vertebrae, vertebras
  1.3 -um で終わる語
    a) -um [əm] → -a [ə]
      addendum (付録) → addenda
      bacterium (バクテリア) → bacteria
      corrigendum (ミスプリント) → corrigenda (正誤表)
      datum (データ) → data
      desideratum (切実な要求) → desiderata
      erratum (誤植) → errata (正誤表)
      ovum (卵子) → ova
    b) 規則複数語尾 -s をつけるもの
      album (アルバム) → albums
      chrysanthemum (菊) → chrysanthemums
      forum (討論会) → forums [まれに fora もあり]
      museum (博物館) → museums
      premium (割り増し金) → premiums
      stadium (スタジアム) → stadiums [まれに stadia もあり]
    c) -um → -a と -s の両様のもの
      aquarium (水族館) → aquaria, aquariums
      curriculum (教育課程) → curricula, curriculums
      maximum (最大限) → maxima, maximums
      medium (媒介物) → media, mediums [media が単数形,medias が複数形という用法もあり]
      memorandum (メモ) → memoranda, memorandums
      millennium (千年間) → millennia, millenniums
      minimum (最小限) → minima, minimums
      moratorium (支払い猶予期間) → moratoria, moratoriums
      podium (指揮台,葉柄) → podia, podiums
      referendum (国民投票) → referenda, referendums
      spectrum (スペクトル) → spectra, spectrums
      stratum (地層) → strata, stratums
      symposium (シンポジウム) → symposia, symposiums
      ultimatum (最後通告) → ultimata, ultimatums
  1.4 -ex, -ix で終わる語
    a) -ex [ɛks], -ix [ɪks] → -ices [ɪsiːz]
      codex (古写本) → codices
    b) -ex, -ix → -ices と -es の両様のもの
      apex (頂点) → apices, apexes
      appendix (付録,虫垂) → appendices, appendixes [「虫垂」の意味の複数形は appendixes]
      index (指標) → indices, indexes [「索引」の意味の複数形は indexes]
      matrix (母体,行列) → matrices, matrixes
      vortex (渦) → vortices, vortexes
2. ギリシャ語系の名詞の複数形
  2.1 -is [ɪs] で終わる語
    a) 語尾は -es [iːz] になる。
      analysis (分析) → analyses
      axis (軸) → axes [ax(e) 「斧」の複数 (発音は [ɪz])ともなることに注意]
      basis (理論的基礎) → bases [base 「基地」の複数 (発音は [ɪz])ともなることに注意]
      crisis (危機) → crises
      diagnosis (診断) → diagnoses
      ellipsis (省略) → ellipses [ellipse 「長円」の複数 (発音は [ɪz])ともなることに注意]
      hypothesis (仮説) → hypotheses
      oasis (オアシス) → oases
      paralysis (麻痺) → paralyses
      parenthesis (丸かっこ) → parentheses
      synopsis (概要) → synopses
      synthesis (総合,合成) → syntheses
      thesis (論文) → theses
    b) 規則複数語尾 -es をつけるもの
      metropolis (首都,大都会) → metropolises
  2.2 -on で終わる語
    a) -on [ən] → -a [ə]
      criterion (判断の基準) → criteria
      phenomenon (現象) → phenomena
    b) 規則複数語尾 -s をつけるもの
      electron (電子) → electrons
      neutron (中性子) → neutrons
      proton (陽子) → protons
    c) -on → -a と -s の両様のもの
      automaton (自動装置,ロボット) → automata, automatons
      ganglion (神経節) → ganglia, ganglions
3. フランス語系の名詞の複数形
  3.1 -eau, -eu → -eaux, -eux
    adieu [əˈdjuː] (別れ) → adieux [əˈdjuːz] または adieus
    bureau [ˈbjʊəroʊ] (事務局) → bureaux [ˈbjʊəroʊz] または bureaus
    plateau [ˈplætou] (高原) → plateaux [ˈplætoʊz] または plateaus
    tableau [ˈtæbloʊ] (絵) → tableaux [ˈtæbloʊz] または tableaus
  3.2 単複同 (ただし複数のときのみ -s [z] を発音する)
    corps (団) → corps
    chassis [ˈʃæsi(ː)] (自動車の車台,シャシー) → chassis
    faux pas [foʊ pɑː] (エチケットに反する失敗) → faux pas
    rendezvous [ˈrɑːndəˌvuː] (約束による会合) → rendezvous
4. イタリア語系の名詞の複数形
  4.1 -o → -i
    libretto (脚本) → libretti [-iː] または librettos
    tempo (テンポ) → tempi [-iː] または tempos
    virtuoso (巨匠) → virtuosi [-iː] または virtuosos
  4.2 規則複数語尾 -s をつけるもの
    solo (独奏[唱]) → solos
    soprano (ソプラノ) → sopranos

 ・ 綿貫 陽(改訂・著);宮川幸久, 須貝猛敏, 高松尚弘(共著) 『徹底例解ロイヤル英文法』 旺文社,2000年.
 ・ Hotta, Ryuichi. "Thesauri or Thesauruses? A Diachronic Distribution of Plural Forms for Latin-Derived Nouns Ending in -us." Journal of the Faculty of Letters: Language, Literature and Culture. 106 (2010): 117--36.

Referrer (Inside): [2019-04-13-1]

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2018-09-26 Wed

#3439. St. Ives の「通り」の表現 [toponym][loan_word][french][latin][old_norse][italian]

 英語の通りの名前に用いられる「通り」に相当する名詞は,種類が豊富である.日本語では「?通り」「?道」「?街道」がある程度だが,英語では様々な語源に由来する種々の名前が用いられる.以下は,デイヴィスとレヴィットの英語地名の著書 (8--9) で紹介されている Cambridgeshire の町,St. Ives に見られる数々の「通り」を表わす語を語源ごとに整理した一覧である.

[ 英語 ]
  mews (うま屋,あるいは鳥小屋のあった通り),road (馬場,ride の母音交替による名詞形),lane (小路),yard,row (家の列),hill,way,walk,drove (家畜の群を追う際に通る道,drive の名詞形),grove (小森,神の森),lea,ley (共に,農地,耕地)

[ フランス語(<ラテン語<ギリシア語) ]
  place, gardens, court, avenue, square, crescent (三日月形の通り),close (袋小路),terrace (山の手に建てられた家並み),passage,market (市場のある通り)

[ ラテン語 ]
  street, circus (そこから道が放射状に延びている広場)

[ 古ノルド語 ]
  gate (通り,あるいは門)

[ イタリア語 ]
  villa (領主の邸宅のある通り)

 St. Ives では,1つの町のなかに様々な言語に由来する「通り」の表現が混在している.St. Ives が特別なわけではなく,むしろイギリスの町並みと地名を象徴する1例にすぎないととらえるべきだろう.地名の1つひとつに,その土地の歴史が刻まれているのだ.地名学の魅力を感じさせる.

 ・ デイヴィス,C. S.・J. レヴィット(著),三輪 伸春(監訳),福元 広二・松元 浩一(訳) 『英語史でわかるイギリスの地名』 英光社,2005年.

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2016-11-16 Wed

#2760. イタリアとフランスのアカデミーと,それに相当する Johnson の力 [prescriptivism][academy][johnson][italian][french][dictionary][lexicography][popular_passage]

 昨日の記事「#2759. Swift によるアカデミー設立案が通らなかった理由」 ([2016-11-15-1]) と関連して,英語アカデミー設立案にインスピレーションを与えたイタリアとフランスの先例と,それに匹敵する Johnson の辞書の価値について論じたい.
 イギリスが英語アカデミーを設立しようと画策したのは,すでにイタリアとフランスにアカデミーの先例があったから,という理由が大きい.近代ヨーロッパ諸国は国語を「高める」こと (cf. 「#2741. ascertaining, refining, fixing」 ([2016-10-28-1])) に躍起であり,アカデミーという機関を通じてそれを実現しようと考えていた.先鞭をつけたのはイタリアである.イタリアには様々なアカデミーがあったが,最もよく知られているのは1582年に設立された Accademia della Crusca である.この機関は,1612年に Vocabolario degli Accademici della Crusca という辞書を出版し,何かと物議を醸したが,その後も改訂を重ねて,1691年には3冊分,1729--38年版では6冊分にまで成長した (Baugh and Cable 257) .
 フランスでは,1635年に枢機卿 Richelieu がある文学サロンに特許状を与え,その集団(最大40名)は l'Académie française として知られるようになった.この機関は,辞書や文法書を編集することを目的の1つとして掲げており,作業は遅々としていたものの,1694年には辞書が出版されるに至った (Baugh and Cable 257) .
 このように,イタリアやフランスでは17世紀中にアカデミーの力により業績が積み上げられていたが,同じ頃,イギリスではアカデミー設立の提案すらなされていなかったのである.その後,1712年に Swift により提案がなされたが,結果として流れた経緯については昨日の記事で述べた.しかし,さらに後の1755年には,アカデミーによらず,Johnson 個人の力で,イタリア語やフランス語の辞書に匹敵する英語の辞書が出版されるに至った.Johnson の知人 David Garrick は,次のエピグラムを残している (Baugh and Cable 267) .

And Johnson, well arm'd like a hero of yore,
Has beat forty French, and will beat forty more.


 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

Referrer (Inside): [2019-03-03-1]

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2015-11-07 Sat

#2385. OED による,古典語およびロマンス諸語からの借用語彙の統計 (2) [oed][statistics][lexicology][loan_word][borrowing][latin][greek][french][italian][spanish][portuguese][romancisation]

 「#2357. OED による,古典語およびロマンス諸語からの借用語彙の統計」 ([2015-10-10-1]),「#2369. 英語史におけるイタリア語,スペイン語,ポルトガル語からの語彙借用の歴史」 ([2015-10-22-1]) で,Culpeper and Clapham (218) による OED ベースのロマンス系借用語の統計を紹介した.論文の巻末に,具体的な数値が表の形で掲載されているので,これを基にして2つグラフを作成した(データは,ソースHTMLを参照).1つめは4半世紀ごとの各言語からの借用語数,2つめはそれと同じものを,各時期の見出し語全体における百分率で示したものである.

Classical and Romance Loanwords in OED

Classical and Romance Loanwords (%) in OED

 関連する語彙統計として,「#2162. OED によるフランス語・ラテン語からの借用語の推移」 ([2015-03-29-1]) で触れた Wordorigins.org"Where Do English Words Come From?" も参照.

 ・ Culpeper Jonathan and Phoebe Clapham. "The Borrowing of Classical and Romance Words into English: A Study Based on the Electronic Oxford English Dictionary." International Journal of Corpus Linguistics 1.2 (1996): 199--218.

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2015-10-22 Thu

#2369. 英語史におけるイタリア語,スペイン語,ポルトガル語からの語彙借用の歴史 [italian][spanish][portuguese][loan_word][borrowing][statistics][lexicology]

 「#2357. OED による,古典語およびロマンス諸語からの借用語彙の統計」 ([2015-10-10-1]) で少々触れたように,英語史上,フランス語に比して他の3つのロマンス諸語からの語彙借用は影が薄い.イタリア語,スペイン語,ポルトガル語の各言語からの借用語の例は,主に近代以降について「#1411. 初期近代英語に入った "oversea language"」 ([2013-03-08-1]) や「#756. 世界からの借用語」 ([2011-05-23-1]) で触れた.中英語にも,およそフランス語経由ではあるが,イタリア語やポルトガル語に起源をもつ語の借用があった (「#2329. 中英語の借用元言語」 ([2015-09-12-1])) .
 Culpeper and Clapham (210) は,比較的マイナーなこれらのロマンス諸語からの語彙借用の歴史について,OED による語彙統計をもとに,次のように端的にまとめている.

The effect of Italian borrowing can be seen from the 15th century onwards. Italy was, and still is, famous for style in architecture and dress. It was also perceived an authority in matters to do with etiquette. Travellers to Italy --- often young sons dispatched to acquire some manners --- inevitably brought back Italian words. Italian borrowing is strongest in the 18th century (1.7% of recorded vocabulary), and is mostly related to musical terminology. Spanish and Portuguese borrowing commences in the 16th century, reflecting warfare, commerce, and colonisation, but at no point exceeds 1% of vocabulary recorded within a particular period.


 まず,イタリア語からの借用語がある程度著しくなるのは,15世紀からである.「#1530. イングランド紙幣に表記されている Compa」 ([2013-07-05-1]) で言及したように,13世紀後半以降,16世紀まで,イタリアの先進的な商業・金融はイングランド経済に大きな影響を与えてきた.それが言語的余波となって顕われてきたのが,15世紀辺りからと解釈することができる.その後,イタリア借用語は18世紀の音楽用語の流入によってピークを迎えた.
 一方,スペイン語とポルトガル語は,イタリア語よりもさらに目立たず,そのなかで比較的著しいといえるのは16世紀に限定される.当時,海洋国家として名を馳せた両雄の言語的な現われといえるだろう.
 各言語からの語彙借用の様子は,統計的にみれば以上の通りだが,質的な違いを要約すると次の通りになる (Strang 124--26) .

 (1) イタリア人は世界を開拓したり植民したりする冒険者ではなく,あくまでヨーロッパ内の旅人であった.したがって,イタリア語が提供した語彙も,ヨーロッパ的なものに限定されるといってよい.ルネサンスの発祥地ということもあり,芸術,音楽,文学,思想の分野の語彙を多く提供したことはいうまでもないが,文物を通してというよりは広い意味での旅人の口を経由して,それらの語彙が英語へ流入したとみるべきだろう.語形としては,あたかもフランス語を経由したような形態を取っていることが多い.
 (2) 一方,スペイン語の流入は,イングランド女王 Mary とスペイン王 Philip II の結婚による両国の密な関係に負うところが多く,スペイン本土のみならず,新大陸に由来する語彙の少なくないことも特徴である.
 (3) スペイン語以上に世界的な借用語を提供したのは,15--16世紀に航海術を発達させ,世界へと展開したポルトガルの言語である.ポルトガル語は,新大陸のみならず,アフリカやアジアからも多くの語彙をヨーロッパに持ち帰り,それが結果として英語にもたらされた.

 具体的な借用語の例は,「#1411. 初期近代英語に入った "oversea language"」 ([2013-03-08-1]) を参照されたい.

 ・ Culpeper Jonathan and Phoebe Clapham. "The Borrowing of Classical and Romance Words into English: A Study Based on the Electronic Oxford English Dictionary." International Journal of Corpus Linguistics 1.2 (1996): 199--218.
 ・ Strang, Barbara M. H. A History of English. London: Methuen, 1970.

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2015-10-10 Sat

#2357. OED による,古典語およびロマンス諸語からの借用語彙の統計 [oed][statistics][lexicology][loan_word][borrowing][latin][greek][french][italian][spanish][portuguese][romancisation]

 標題に関する,OED2 の CD-ROM 版を用いた本格的な量的研究を発見した.Culpeper and Clapham によるもので,調査方法を見るかぎり,語源欄検索の機能を駆使し,なるべく雑音の混じらないように腐心したようだ.OED などを利用した量的研究の例は少なくないが,方法論の厳密さに鑑みて,従来の調査よりも信頼のおける結果として受け入れてよいのではないかと考える.もっとも,筆者たち自身が OED を用いて語彙統計を得ることの意義や陥穽について慎重に論じており,結果もそれに応じて慎重に解釈しなければいけないことを力説している.したがって,以下の記述も,その但し書きを十分に意識しつつ解釈されたい.
 Culpeper and Clapham の扱った古典語およびロマンス諸語とは,具体的にはラテン語,ギリシア語,フランス語,イタリア語,スペイン語,ポルトガル語を中心とする言語である.数値としてある程度の大きさになるのは,最初の4言語ほどである.筆者たちは,OED 掲載の2,314,82の見出し語から,これらの言語を直近の源とする借用語を77,335語取り出した.これを時代別,言語別に整理し,タイプ数というよりも,主として当該時代に初出する全語彙におけるそれらの借用語の割合を重視して,各種の語彙統計値を算出した.
 一つひとつの数値が示唆的であり,それぞれ吟味・解釈していくのもおもしろいのだが,ここでは Culpeper and Clapham (215) が論文の最後で要約している主たる発見7点を引用しよう.

   (1) Latin and French have had a profound effect on the English lexicon, and Latin has had a much greater effect than French.
   (2) Italian, Spanish, and Portuguese are of relatively minor importance, although Italian experienced a small boost in the 18th century.
   (3) The general trend is one of decline in borrowing from Classical and Romance languages. In the 17th century, 39.3% of recorded vocabulary came from Classical and Romance languages, whereas today the figure is 15%.
   (4) Latin borrowing peaked in 1600--1675, and Latin contributed approximately 7000 words to the English lexicon during the 16th century.
   (5) Greek, coming after Latin and French in terms of overall quantity, peaked in the 19th century.
   (6) French borrowing peaked in 1251--1375, fell below the level of Latin borrowing around 1525, and thereafter declined except for a small upturn in the 18th century. French contributed over 11000 words to the English lexicon during the Middle English period.
   (7) Today, borrowing from Latin may have a slight lead on borrowing from French.


 この7点だけをとっても,従来の研究では曖昧だった調査結果が,今回は数値として具体化されており,わかりやすい.(1) は,フランス語とラテン語で,どちらが量的に多くの借用語彙を英語にもたらしてきたかという問いに端的に答えるものであり,ラテン語の貢献のほうが「ずっと大きい」ことを明示している.(7) によれば,そのラテン語の優位は,若干の差ながらも,現代英語についても言えるようだ.関連して,(6) から,最大の貢献言語がフランス語からラテン語へ切り替わったのが16世紀前半であることが判明するし,(4) から,ラテン語のピークは16世紀というよりも17世紀であることがわかる.
 (3) では,近代以降,新語における借用語の比率が下がってきていることが示されているが,これは「#879. Algeo の新語ソース調査から示唆される通時的傾向」([2011-09-23-1]) でみたことと符合する.(2) と (5) では,ラテン語とフランス語以外の諸言語からの影響は,全体として僅少か,あるいは特定の時代にやや顕著となったことがある程度であることもわかる.
 英語史における借用語彙統計については,cat:lexicology statistics loan_word の各記事を参照されたい.本記事と関連して,特に「#2162. OED によるフランス語・ラテン語からの借用語の推移」 ([2015-03-29-1]) を参照.

 ・ Culpeper Jonathan and Phoebe Clapham. "The Borrowing of Classical and Romance Words into English: A Study Based on the Electronic Oxford English Dictionary." International Journal of Corpus Linguistics 1.2 (1996): 199--218.

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2015-09-12 Sat

#2329. 中英語の借用元言語 [borrowing][loan_word][me][lexicology][contact][latin][french][greek][italian][spanish][portuguese][welsh][cornish][dutch][german][bilingualism]

 中英語の語彙借用といえば,まずフランス語が思い浮かび (「#1210. 中英語のフランス借用語の一覧」 ([2012-08-19-1])),次にラテン語が挙がる (「#120. 意外と多かった中英語期のラテン借用語」 ([2009-08-25-1]), 「#1211. 中英語のラテン借用語の一覧」 ([2012-08-20-1])) .その次に低地ゲルマン語,古ノルド語などの言語名が挙げられるが,フランス語,ラテン語の陰でそれほど著しくは感じられない.
 しかし,実際のところ,中英語は上記以外の多くの言語とも接触していた.確かにその他の言語からの借用語の数は多くはなかったし,ほとんどが直接ではなく,主としてフランス語を経由して間接的に入ってきた借用語である.しかし,多言語使用 (multilingualism) という用語を広い意味で取れば,中英語イングランド社会は確かに多言語使用社会だったといえるのである.中英語における借用元言語を一覧すると,次のようになる (Crespo (28) の表を再掲) .

LANGUAGESDirect IntroductionIndirect Introduction
Latin--- 
French--- 
Scandinavian--- 
Low German--- 
High German--- 
Italian through French
Spanish through French
Irish--- 
Scottish Gaelic--- 
Welsh--- 
Cornish--- 
Other Celtic languages in Europe through French
Portuguese through French
Arabic through French and Spanish
Persian through French, Greek and Latin
Turkish through French
Hebrew through French and Latin
Greek through French by way of Latin


 「#392. antidisestablishmentarianism にみる英語のロマンス語化」 ([2010-05-24-1]) で引用した通り,"French acted as the Trojan horse of Latinity in English" という謂いは事実だが,フランス語は中英語期には,ラテン語のみならず,もっとずっと多くの言語からの借用の「窓口」として機能してきたのである.
 関連して,「#114. 初期近代英語の借用語の起源と割合」 ([2009-08-19-1]),「#516. 直接のギリシア語借用は15世紀から」 ([2010-09-25-1]),「#2164. 英語史であまり目立たないドイツ語からの借用」 ([2015-03-31-1]) も参照.

 ・ Crespo, Begoña. "Historical Background of Multilingualism and Its Impact." Multilingualism in Later Medieval Britain. Ed. D. A. Trotter. Cambridge: D. S. Brewer, 2000. 23--35.

Referrer (Inside): [2015-10-22-1]

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2014-07-06 Sun

#1896. 日本語に入った西洋語 [loan_word][borrowing][japanese][lexicology][borrowing][portuguese][spanish][dutch][italian][russian][german][french]

 日本語に西洋語が初めて持ち込まれたのは,16世紀半ばである.「#1879. 日本語におけるローマ字の歴史」 ([2014-06-19-1]) でも触れたように,ポルトガル人の渡来が契機だった.キリスト教用語とともに一般的な用語ももたらされたが,前者は後に禁教となったこともあって定着しなかった.後者では,アルヘイトウ(有平糖)(alfeloa) ,カステラ (Castella),カッパ (capa),カボチャ(南瓜,Cambodia),カルサン(軽袗,calsãn),カルタ (carta),コンペイトウ(金平糖,confeitos),サラサ(更紗,saraça),ザボン (zamboa),シャボン (sabão),ジバン(襦袢,gibão),タバコ(煙草,tabaco),チャルメラ (charamela),トタン (tutanaga),パン (pão),ビイドロ (vidro),ビスカット(ビスケット,biscoito),ビロード (veludo),フラスコ (frasco),ブランコ (blanço),ボオロ (bolo),ボタン (botão) などが残った.16世紀末にはスペイン語も入ってきたが,定着したものはメリヤス (medias) ぐらいだった.
 近世中期に蘭学が起こると,オランダ語の借用語が流れ込んでくる.自然科学の語彙が多く,後に軍事関係の語彙も入った.まず,医学・薬学では,エーテル (ether),エキス (extract),オブラート (oblaat),カルシウム (calcium),カンフル (kamfer, kampher),コレラ (cholera),ジギタリス (digitalis),スポイト (spuit),ペスト (pest),メス (mes),モルヒネ (morphine).科学・物理・天文では,アルカリ (alkali),アルコール (alcohol),エレキテル (electriciteit),コンパス (kompas),ソーダ (soda),テレスコープ (telescoop),ピント (brandpunt),レンズ (lenz).生活関係では,オルゴール (orgel),ギヤマン (diamant),コーヒ (koffij),コック (kok),コップ(kop; cf. 「#1027. コップとカップ」 ([2012-02-18-1])),ゴム (gom),シロップ (siroop),スコップ (schop),ズック (doek),ソップ(スープ,soep),チョッキ (jak),ビール (bier),ブリキ (blik),ペン (pen),ペンキ (pek), ポンプ (pomp),ホック (hoek),ホップ (hop),ランプ (lamp).軍事関係では,サーベル (sabel),ピストル (pistool),ランドセル (ransel).
 明治時代には西洋語のなかでは英語が優勢となってくるが,明治初期にはいまだ「コップ」「ドクトル」などオランダ借用語の使用が幅を利かせていた.しかし,大正中期以降は英語系が大半を占めるようになり,オランダ風の「ソップ」が英語風の「スープ」へ置換されたように,発音も英語風へと統一されてくる.英語以外の西洋語としては,大正から昭和にかけてドイツ語(主に医学,登山,哲学関係),フランス語(主に芸術,服飾,料理関係),イタリア語(主に音楽関係),ロシア語も見られるようになった.それぞれの例を挙げてみよう.

 ・ ドイツ語:ノイローゼ(Neurose),カルテ(Karte),ガーゼ(Gaze),カプセル(Kapsel),ワクチン(Vakzin),イデオロギー(Ideologie),ゼミナール(Seminar),テーマ(Thema),テーゼ(These),リュックサック(Rucksack),ザイル(Seil),ヒュッテ(Hütte),オブラート (Oblate), クレオソート (Kreosot).
 ・ フランス語:デッサン(dessin),コンクール(concours),シャンソン(chanson),ロマン(roman),エスプリ(esprit),ジャンル(genre),アトリエ(atelier),クレヨン(crayon),ルージュ(rouge),ネグリジェ(néglige),オムレツ(omelette),コニャック(cognac),シャンパン(champagne),マヨネーズ(mayonnaise)
 ・ イタリア語:オペラ(opera),ソナタ(sonata),テンポ(tempo),フィナーレ(finale),マカロニ(macaroni),スパゲッティ(spaghetti)
 ・ ロシア語:ウォッカ(vodka),カンパ(kampaniya),ペチカ(pechka),ノルマ(norma)

 今日,西洋語の8割が英語系であり,借用の対象となる英語の変種としては太平洋戦争をはさんで英から米へと切り替わった.
 以上,佐藤 (179--80, 185--86) および加藤他 (74) を参照して執筆した.関連して,「#1645. 現代日本語の語種分布」 ([2013-10-28-1]),「#1526. 英語と日本語の語彙史対照表」 ([2013-07-01-1]),「#1067. 初期近代英語と現代日本語の語彙借用」 ([2012-03-29-1]) の記事も参照されたい.

 ・ 佐藤 武義 編著 『概説 日本語の歴史』 朝倉書店,1995年.
 ・ 加藤 彰彦,佐治 圭三,森田 良行 編 『日本語概説』 おうふう,1989年.

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2014-04-29 Tue

#1828. j の文字と音価の対応について再訪 [phonetics][french][latin][italian][spelling][pronunciation][consonant][j][grapheme]

 「#1650. 文字素としての j の独立」 ([2013-11-02-1]) の記事の最後の段落で,<j> (= <i>) = /ʤ/ の対応関係が生まれた背景について触れた.ラテン語から古フランス語への発展期に,有声硬口蓋接近音 [j] が有声後部歯茎破擦音 [ʤ] へ変化したという件だ.この音韻変化と「#1651. jg」 ([2013-11-03-1]) の記事の内容に関連して,田中 (138--39) によくまとまった記述があったので,引用する(OED の記述もほぼ同じ内容).

 6世紀少し前に,後期ラテン語において,上述の [j] 音はしばしば発声上圧縮され,前舌面および舌尖を [j] の位置よりさらに高めることによってその前に d 音を発生させ iūstus > d-iūstus, māior > mā-d-ior, [dj] を経て [ʤ] に assibilate された。一方 g の古い喉音は前母音の前で口蓋化して [ʤ] に変わっていたので,consonantal i と 'soft' g はロマンス諸語では同一の音価をもつようになった。
 イタリア語では,consonantal i から発展した新しい音 [ʤ] は e, i の前には g,そして a, o, u の前には gi- によって書き変えられることになって,j の綴りは捨てられた。〔中略〕
 しかし,フランス語では i 文字は発展した音価をもってそのまま保存され,従って consonantal i と 'soft' g は等値記号であり,その差異は語の起源によるだけである。
LOFIt.ModE
iūstusiustegiustojust
iūdic-cemiugegiudicejudge
IēsusIesuGesùJesus
māiormairemaggioremajor
gestagestegestogest (jest)

Norman Conquest 後,consonantal i はその古代フランス語の音価 [ʤ] をもって英語に輸入された。フランス語ではその後 [ʤ] はその第一要素を失って [ʒ] に単純化されたが,英語は今日に至るまでフランス起源の語においてその原音を保存している。


 加えて,アルファベット <J> の呼称 /ʤeɪ/ について,田中 (141) の記述を引用しておこう.

J は古くは jy [ʤai] と呼ばれて左どなりの同族文字 I [ai] と押韻し,そしてフランス名 ji と呼応した。この呼び名は今でもスコットランドその他において普通である。近代イギリス名(17世紀)ja あるいは jay [ʤei] は,その a [ei] を右どなりの k に負う (O. Jespersen, B. L. Ullman) 。ドイツ名 jot [jɔt] は,16世紀に j が初めて i から分化した時,セム名 yōd から取られた。


 ・ 田中 美輝夫 『英語アルファベット発達史 ―文字と音価―』 開文社,1970年.

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2013-07-05 Fri

#1530. イングランド紙幣に表記されている Compa [abbreviation][italian][renaissance][etymology]

Fifty-Pound Banknote

 これはイングランドの50ポンド札の写しである.上方から左中程にかけて,"I PROMISE TO PAY THE BEARER ON DEMAND THE SUM OF FIFTY POUNDS For the Gov:r and Comp:a of the BANK of ENGLAND" という文が読める."Gov:r" は governor,"Comp:a" は company の略だが,このような略記は一般にはお目にかからない.特に companyco と省略されるのが普通であり,compa は珍しいだろう.実際に,OED (compa | Compa, n.) を参照すると,現在では紙幣における表記としての使用がほぼ唯一の使用例であるという.

1940 G. Crowther Outl. Money i. 25 Every Bank of England note..bears the legend, 'I Promise to pay the Bearer on Demand the sum of One Pound' ..signed, 'For the Govr'. and Compa. of the Bank of England' by the Chief Cashier.


 これを Company (< ME compaignie < AF compainie = OF compa(i)gnie) の略記であると解釈することに異論はないが,歴史的にはイングランドに銀行業をもたらしたイタリアとの関連で,イタリア語の同根語 compagnia の影響を認めてもよいかもしれない.Praz (35) は,次のように述べている.

Banking, as is well known, was first introduced into England by Italians; first by Sienese, then, after the middle of the thirteenth century, by Florentine merchants; Venice appeared on the scene at the beginning of the fourteenth century. Italian merchants were protected by Wolsey and Thomas Cromwell; they began to lose ground only during the age of Elizabeth. . . . The abbreviation Comp:a on the Bank of England notes is nothing else but a faint echo of the vanished glory of many an Italian Compagnia or firm.


 「#1411. 初期近代英語に入った "oversea language"」 ([2013-03-08-1]) の最後に触れた通り,ロマンス諸語からの借用の多くは,フランス語を経由するなどしてフランス語化した形態で英語に入ってくることが多かった.語の借用過程は主として形態を参照しながら探るのが歴史言語学の定石だが,語源学や語誌研究においては形態以外の項目にも注意を払うと,新たな洞察が得られて実り豊かである.

 ・ Praz, Mario. "The Italian Element in English." Essays and Studies 15 (1929): 20--66.

Referrer (Inside): [2015-10-22-1]

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2013-03-08 Fri

#1411. 初期近代英語に入った "oversea language" [emode][renaissance][inkhorn_term][lexicology][loan_word][french][italian][spanish][portuguese]

 「#1407. 初期近代英語期の3つの問題」 ([2013-03-04-1]) の記事で,この時代の英語が抱えていた3つ目の問題として "the enrichment of the vocabulary so that it would be adequate to meet the demands that would be made upon it in its wiser use" を挙げた.この3日間の記事 ([2013-03-05-1], [2013-03-06-1], [2013-03-07-1]) で,古典語からの大量の語彙借用という潮流によって反動的に引き起こされたインク壺語論争や純粋主義者による古語への回帰の運動について見てきた.異なる陣営から "inkhorn terms" や "Chaucerisms" への批判がなされたわけだが,もう1つ,あまり目立たないのだが,槍玉に挙げられた語彙がある."oversea language" と呼ばれる,ラテン語やギリシア語以外の言語からの借用語である.大量の古典語借用へと浴びせられた批判のかたわらで,いわばとばっちりを受ける形で,他言語からの借用語も非難の対象となった.
 「#151. 現代英語の5特徴」 ([2009-09-25-1]) や「#110. 現代英語の借用語の起源と割合」で触れたように,現代英語は約350の言語から語彙を借用している.初期近代英語の段階でも英語はすでに50を超える言語から語彙を借用しており (Baugh and Cable, pp. 227--28) ,「#114. 初期近代英語の借用語の起源と割合」 ([2009-08-19-1]) で見たように,ラテン語とギリシア語を除けば,フランス語,イタリア語,スペイン語が優勢だった.
 以下,Baugh and Cable (228--29) よりロマンス諸語からの借用語を示そう.まずは,フランス語から入った借用語のサンプルから.

alloy, ambuscade, baluster, bigot, bizarre, bombast, chocolate, comrade, detail, duel, entrance, equip, equipage, essay, explore, genteel, mustache, naturalize, probability, progress, retrenchment, shock, surpass, talisman, ticket, tomato, vogue, volunteer


 次に,イタリア語からは建築関係の語彙が多い.赤字のものはフランス語化して入ってきたイタリア語起源の語である.

algebra, argosy, balcony, battalion, bankrupt, bastion, brigade, brusque, cameo, capricio (caprice), carat, cavalcade, charlatan, cupola, design, frigate, gala, gazette, granite, grotesque, grotto, infantry, parakeet, piazza, portico, rebuff, stanza, stucco, trill, violin, volcano


 スペイン語(およびポルトガル語)からは,海事やアメリカ植民地での活動を映し出す語彙が多い.赤字はフランス語化して入ったもの.

alligator, anchovy, apricot, armada, armadillo, banana, barricade, bastiment, bastinado, bilbo, bravado, brocade, cannibal, canoe, cavalier, cedilla, cocoa, corral, desperado, embargo, escalade, grenade, hammock, hurricane, maize, mosquito, mulatto, negro, palisade, peccadillo, potato, renegado, rusk, sarsaparilla, sombrero, tobacco, yam


 上に赤字で示したように,フランス語経由あるいはフランス語化した形態で入ってきた語が少なからず確認される.これは,イタリア語やスペイン語から,同じような語彙が英語へもフランス語へも流入したからである.その結果として,異なるロマンス諸語の語形が融合したかのようにみえる例が散見される.例えば,英語 galleon は F. galion, Sp. galeon, Ital. galeone のどの語形とも一致しないし,gallery もソースは Fr. galerie, Sp., Port., Ital. galeria のいずれとも決めかねる.同様に,pistol は F. pistole, Sp., Ital. pistola のいずれなのか,cochineal は F. cochenille, Sp. cochinilla, Ital. cocciniglia のいずれなのか,等々.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.

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