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chinese - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-03-28 10:57

2019-12-08 Sun

#3877. 日本語の漢字は中国語の漢字よりも表意的 [kanji][chinese][japanese][writing][grammatology][orthography]

 すべての文字体系は表語を指向してきたし,少なくともその方向で発展してきた,と私は考えている.それは,多少なりとも表音を犠牲にしても,という意味である.一方,すべての文字体系は,音との対応をその本質としているという見方もある.後者を主張する DeFrancis は "the universal phonological principle" を掲げているが (Cook 10) ,日本語における漢字を考えると,この「原則」はほとんど当てはまらないように思われる.日本語の漢字は表音的であるというよりもむしろ表意的であり,その表意性は実のところ中国語の漢字よりも高いと考えられるのだ.
 中国語の漢字は,圧倒的多数の形声文字に代表されるように,その97%が何らかの音符を含んでいるといわれる (Cook 10) .漢字は表語文字の代表選手といわれるが,意外と表音的な性質も高いのだ.ところが,日本語の漢字は,中国語の場合と異なる.確かに日本語においても形声文字は圧倒的多数を占めるが,異なる時代に異なる発音で日本に入ってきた複雑な歴史をもつために,その読み(いわゆる音読み)は一つに尽きないことが多い.さらに訓読みにいたっては,漢字のなかに発音の直接的なヒントはない.つまり,日本語の漢字は,中国語の漢字よりもより表意性の極に近いことになる.そこへ "the universal phonological principle" を掲げられてしまうと,日本語の漢字は "universal" から逸脱した変態ということになってしまい,日本語漢字ユーザーとしては非常に落ち着かない.Cook (10) の次の指摘が重要である.

If this universal phonological principle were true, Chinese too would have a sound-based core. The links between Japanese kanji and pronunciation may be more tenuous because of the differing periods at which kanji were borrowed from Chinese, whether they brought the Chinese word with them into Japanese or linked the character to a native Japanese word and so on. Japanese kanji may be a purer example of a meaning-based writing system than Chinese characters . . . because they are further separated from contemporary spoken words.


 ・ Cook, Vivian. The English Writing System. London: Hodder Education, 2004.
 ・ DeFrancis, J. The Chainese Language: Fact and Fantasy. Honolulu: U of Hawaii P, 1984.

Referrer (Inside): [2019-12-09-1]

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2019-11-17 Sun

#3856. 漢字は表意文字か表語文字か [kanji][grammatology][sign][chinese][terminology]

 標題については「#2341. 表意文字と表語文字」 ([2015-09-24-1]) で取り上げたほか,「#422. 文字の種類」 ([2010-06-23-1]) や「#2344. 表意文字,表語文字,表音文字」 ([2015-09-27-1]) でも関連する話題に触れてきた.答えを先にいえば「表語文字」ということになるが,今回は『漢辞海』の付録 (1626) の説明を引こう.たいへん分かりやすい説明である.

漢字はいかなる文字か
 漢字は,中国語を表記するために工夫された文字であるが,文字としてはいかなる特質を持った文字であろうか.
 文字は,一般的に絵画文字 (pictogram),表意文字 (ideogram),表音文字 (phonegram 〔ママ〕) などに大きく分類され,漢字は「表意文字」の代表的な文字とされる.しかしこれは実は曖昧な認定と言わざるを得ない.「表音文字」にしても,音素文字 (alphabet) と日本語の仮名のような音節文字 (syllabogram) に区分する必要がある.そこでより厳密に漢字について考えてみると,文字としての漢字一字一字が意味を表してはいるが,実は漢字の表示する意味は,無構造言語(孤立語)単音節語という言語的特質を持つ中国語の単語としての意味を表わしているということなのである.要するに,漢字は意味を表示するのみではなく,中国の言葉を構成する単位としての単語の語形・発音・意味の全体を表記する文字なのである.すなわち漢字は単語そのものを表示する表語文字 (logogram) として具体化されたものなのである.


 文字論において表意文字,表音文字,表語文字などの用語を使う際の注意点として,(1) 文字表記という行為の究極の狙い,(2) 特定の文字体系の原理やポリシー,(3) 特定の文字の機能や用法という3つのうち,いずれのレベルで議論しているかを明確にすべきということがある.
 (1) に関していえば,おそらく古今東西のほぼすべての文字体系の究極の狙いは表語といってよいだろう.(2) については,絵文字であれば表意文字体系,仮名であれば表音文字体系,漢字であれば上述のように表語文字体系という答えになろう.(3) のレベルでは,漢字が全体としては表語文字体系であるとはいえ,特定の漢字が表音的に用いられることはあるし,表音文字体系の仮名についても「を」という特定の仮名文字を取り上げれば,それは表語文字的な機能を担っているといえる.

 ・ 戸川 芳郎(監修),佐藤 進・濱口 富士雄(編) 『全訳 漢辞海』 三省堂,2000年.

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