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francophonie - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-04-22 18:03

2015-11-05 Thu

#2383. ポルトガル語とルゾフォニア [portuguese][lingua_franca][francophonie][linguistic_imperialism][socio_linguistics][geolinguistics]

 先日,ポルトガル(語)周辺の歴史についてあまりよく知らないままに「#2371. ポルトガル史年表」 ([2015-10-24-1]) や「#2372. ポルトガル語諸国共同体」 ([2015-10-25-1]) の記事を書いた.その後,関連する市之瀬敦(著)『ポルトガルの世界――海洋帝国の夢のゆくえ』を読んで視野が広がったので,今回は,ポルトガル語の世界的な拡がりについて,特に Lusofonia (ルゾフォニア) について,市之瀬を参照しつつ補足的に書き加えたい.

 (1) ポルトガル語諸国共同体 (CPLP) は,言語と文化を強調する点で,イギリス主導の The Commonwealth of Nations よりもフランス主導の La Francophonie に近い (cf. 「#1676. The Commonwealth of Nations」 ([2013-11-28-1]), 「#2192. La Francophonie (1)」 ([2015-04-28-1]),「#2193. La Francophonie (2)」 ([2015-04-29-1])) .しかし,言語や文化を軸とする国際機構の実効性については,懐疑的な見方もある.市之瀬 (113) は,次のような冷めた見解を紹介している.

経済関係をポルトガル語によって発展させるという考えに対し、アンゴラ人作家ペペテラは「最高の取り引きとはしょせん英語で行われるものであり、言語には重要性はない」と、ポルトガルの新聞「エスプレソ」のインタビューに答え、そう述べている。同じ言葉を話しながら取り引きができるのは格別なことであるかのような論調がCPLP発足当時、一部のメディアで見られたが、貿易とは互いの損得に基づくもっと冷徹なものであるだろう。ポルトガルにとり重要な貿易相手国はEU諸国であり、ブラジルもポルトガルやポルトガル語圏アフリカ諸国との貿易に多くは依存していないのである。


 (2) 「ルゾフォニア」という言葉は,サラザール時代に濫用されたため,その後やや忌避されてきたが,20世紀末になって再び蘇ってきた.その理由は「ルゾフォニア」が多義的で便利であるからだという.市之瀬 (127) は,少なくとも3つの語義を認めている.

まずは地理的な概念としてのルゾフォニア。ポルトガル語を母語あるいは公用語とする国々の集合体として理解しうる。それから、もっと感情的な絆に基づくルゾフォニア。共通の言語と文化と歴史を持つという認識が柱である。そして制度的な意味。ポルトガル語や文化を発展させるための組織全体に対する名称である。この多義性故に、ルゾフォニアという言葉はこの一〇年間ほどその使用頻度を拡大してきたが、それはブラジルとアフリカ諸国の政治情勢の変化と平行して進んできたのである。八〇年代後半ブラジルでは民政に移管し、アフリカ諸国にも民主化の流れが押し寄せた。/したがって、ルゾフォニアは文化的な「クレオール論」以上の意味でも使われるのである。つまり、そこには政治的な背景もあるのだ。例えば、八〇年代を通じて、ポルトガルの政府要人がしきりに口にしたのは、ポルトガルはヨーロッパとアフリカの掛け橋になる、あるいはブラジルを介し、ポルトガルはヨーロッパとラテン・アメリカの掛け橋となる、という二つの外交的「掛け橋論」であった。植民地支配が崩壊し、世界の大国の集まりで補助席しか座らせてもらえなくなったポルトガルにとり、自らのレゾンデートルとなる新しいミッションが必要だった。そして、それは周縁国に相応しい役割、「掛け橋」になることだったのである。


 (3) ポルトガル語圏の国・地域の各々は,言語地理学的に孤立している.市之瀬 (134) 曰く,

英語圏、フランス語圏、スペイン語圏という、世界に広がったヨーロッパ諸語が築く言語圏と比べ、ポルトガル語圏の特徴を一つ挙げるとすれば、ポルトガル語を公用語とする国はいずれも周辺にポルトガル語を使う国を持たないということである。ポルトガルはスペイン語とガリシア語に囲まれ、ブラジルはスペイン語に囲まれ、ポルトガル語圏アフリカ諸国は英語、フランス語あるいは海に囲まれる。ここから、ポルトガル語の防衛的性格が生まれる。そして、どの国に住む人々もポルトガル語にアイデンティティーの拠り所を求めるようになる。


 (4) 市之瀬 (138) は,18世紀にフランス語が,19世紀に英語が世界語としての地位を築く前に,ポルトガル語が世界各地で用いられていた事実を取り上げて,ポルトガル語は世界最初の地球語候補だったと述べている.ポルトガル語は,人類史上初の地球規模の lingua_franca になりかけたのである.

 (5) 1930年代,40年代に,ブラジルでは「ブラジル語」論争が国会レベルでなされた.ブラジルの公用語は,ブラジル語なのか,あるいはポルトガル語のブラジル方言なのか.結果として,保守派エリートによる後者の見解が通り,ブラジル語は幻と消えた(市之瀬,pp. 145--46) .この議論は,アメリカ語なのか,英語のアメリカ方言なのかという類似した議論を思い出さずにいられない (cf. 「#468. アメリカ語を作ろうとした Webster」 ([2010-08-08-1])) .

 (6) ポルトガルは言語的に統合度が高いのは事実だが,この国の第2の公用語としてミランダ語 (Mirandese) が制定されている事実を見落としてはならない.この言語派,ポルトガルの北東部,スペイン領に食い込むかのような位置にある Miranda do Douro で12,000--15,000人によって話されている.市之瀬 (182) は次のようにミランダ語の独自性を解説している.

ミランダ語がそのオリジナリティーを主張するのは故なしというわけではない。アラブ人は七一一年イベリア半島に上陸、その後七年間でイベリア半島のほぼ全域を征服してしまったが、ミランダ・ド・ドロはアラブ人の勢力が及ばなかった数少ない地域の一つである。一三世紀、ミランダ地方にはスペイン側のレオン地方から移住が行われ、一種の飛び地のようになったのである。そこで話された(西)レオン語がミランダ語に発展したのであり、したがって、それはポルトガル語の方言でもなければ、スペイン語の方言でもなく、レオン語を介しラテン語に直接由来する言語である。ミランダ語はイベリア半島のロマンス諸語の誕生以来ずっとポルトガル領で話されてきた言語なのである。


 ・ 市之瀬 敦 『ポルトガルの世界――海洋帝国の夢のゆくえ』 社会評論社,2000年.

Referrer (Inside): [2015-11-06-1]

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2015-10-25 Sun

#2372. ポルトガル語諸国共同体 [portuguese][history][linguistic_imperialism][francophonie][map][lingua_franca]

 連日,「#2370. ポルトガル語からの語彙借用」 ([2015-10-23-1]),「#2371. ポルトガル史年表」 ([2015-10-24-1]) の記事で,ポルトガル語の話題を取り上げてきた.ポルトガル語は,ポルトガルの国語として約1千万人によって話されているが,何よりも2億人近くの人口を擁するブラジルで国語として話されていることの意味が大きい.ほかにも,歴史的な経緯により,ポルトガル語が用いられている国・地域はある.Angola, Brazil, Cape Verde Islands, East Timor, Equatorial Guinea, Guinea-Bissau, Mozambique, Portugal, São Tomé e Príncipe で公用語として用いられており,その他 EthnologuePortuguese によれば一部 Andorra, China-Macao, France, India でも話されている.
 ポルトガル語話者はポルトガルの旧名 Lusitania にちなんで,Lusophone と呼ばれ,また話者共同体は Lusosphere あるいは Lusofoniaルゾフォニア)と言及される.ポルトガル旧植民地はすべて独立し,帝国はすでに解消しているが,1996年にはポルトガル語諸国共同体 (Community of Portuguese Language Countries, or Comunidade dos Países de Língua Portuguesa (CPLP)) が結成されている(本部はリスボン).これは,イギリス主導の「#1676. The Commonwealth of Nations」 ([2013-11-28-1]) や,フランス主導の「#2192. La Francophonie (1)」 ([2015-04-28-1]),「#2193. La Francophonie (2)」 ([2015-04-29-1]) のポルトガル版とみることができ,ポルトガルの新植民地主義の現われと評価する向きもある.
 メンバー国は Angola, Brazil, Cape Verde, East Timor, Equatorial Guinea, Guinea-Bissau, Mozambique, Portugal, São Tomé e Príncipe の9カ国であり,他のいくつかのオブザーバー国も設置されている.実は日本も日系ブラジル人というコネクションをもつことから,2014年7月に CPLP のオブザーバー国となることが承認されている.これについては,2014年7月23日付の外務省による報道を参照されたい.

Map of CPLP

Referrer (Inside): [2015-11-05-1]

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2015-04-29 Wed

#2193. La Francophonie (2) [french][statistics][demography][francophonie][map]

 昨日に引き続き,La Francophonie について.La Francophonie の公式サイト数で見るフランコフォニー に,フランス語に関する人口統計を含む様々な数字が掲載されている.これらの数字は,OIF (Organisation internationale de la Francophonie) による2014年の報告(4年ごとに更新される)に基づくものという.数字をいくつか示そう.

 ・ La Francophonie は80の国・地域が参加する連合(54の加盟国,23のオブザーバー,3の準加盟国)
 ・ フランス語は英語とともに5大陸で話されている言語である
 ・ 世界に2億7400万人のフランス語話者(うち5大陸で2億1200万人が日常言語として使用)
 ・ 世界で1億2500万人のフランス語学習者(7600万人が教育言語として,4900万人が外国語として学習)
 ・ ヨーロッパで7700万人の日常的なフランス語話者,及び5200万人のフランス語能力を有する者
 ・ 世界で5番目によく話される言語
 ・ 世界で3番目の業務用言語(ヨーロッパでは2番目)
 ・ 世界で4番目のインターネット用言語
 ・ 世界で2番目に国際機関で用いられている言語

 上記のサイトにはフランス語に関連する世界地図もいくつか掲載されている.以下に貼り付けよう.

Estimation de francophones

Le monde de la Francophonie

Le monde de la Francophonie et Commonwealth

 上の2つ目の地図にあるように,La Francophonie には54の加盟国 (États de gouvernements membres de l'OIF),23のオブザーバー (États observateurs), 3の準加盟国 (États associés) の計80の国・地域が参加している.地域ごとに名前を挙げよう.

Afrique de l'Ouest

  • Bénin
  • Burkina Faso
  • Cap-Vert
  • Côte d'Ivoire
  • Ghana (État associé)
  • Guinée
  • Guinée Bissau
  • Mali
  • Niger
  • Sénégal
  • Togo
Afrique centrale et océan Indien
  • Burundi
  • Cameroun
  • Centrafrique
  • Congo
  • Congo RD
  • Gabon
  • Guinée équatoriale
  • Rwanda
  • Sao Tomé et Principe
  • Tchad
  • Comores
  • Djibouti
  • Madagascar
  • Maurice
  • Mozanbique (État observateur)
  • Seychelles
Afrique du Nord et Moyen-Orient
  • Egypte
  • Émirats arabes unis (État observateur)
  • Liban
  • Maroc
  • Mauritanie
  • Tunisie
  • Quatar (État associé)
Amérique --- Caraïbe
  • Canada
  • Canada Nouveau-Brunswick
  • Canada Québec
  • Costa Rica (État observateur)
  • Mexique (État observateur)
  • République dominicaine (État observateur)
  • Dominique
  • Haïti
  • Sainte-Lucie
  • Uruguay (État observateur)
Asie --- Pacifique
  • Cambodge
  • Laos
  • Thaïlande (État observateur)
  • Vanuatu
  • Vietnam
Europe
  • Albanie
  • Andorre
  • Arménie
  • Autriche (État observateur)
  • Belgique
  • Bosnie herzégovine (État observateur)
  • Bulgarie
  • Chypre (État associé)
  • Estonie (État observateur)
  • Croatie (État observateur)
  • Ex-Rép. yougoslave de Macédoine
  • France
  • Géorgie (État observateur)
  • Grèce
  • Hongrie (État observateur)
  • Kosovo (État observateur)
  • Lettonie (État observateur)
  • Lituanie (État observateur)
  • Luxembourg
  • Moldavie
  • Monaco
  • Montégnégro (État observateur)
  • Pologne (État observateur)
  • Réep. Tchèque (État observateur)
  • Roumanie
  • Serbie (État observateur)
  • Slovaquie (État observateur)
  • Slovénie (État observateur)
  • Suisse
  • Ukraine (État observateur)
  • Fédération Wallonie-Bruxelles

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2015-04-28 Tue

#2192. La Francophonie (1) [french][history][linguistic_imperialism][francophonie]

 「#1676. The Commonwealth of Nations」 ([2013-11-28-1]) のフランス(語)版と呼んでよいものに,La Francophonie (フランス語圏連邦)がある.雑誌「ふらんす」の4月号に,「世界に拡がるフランコフォニー Le Monde de la Francophonie」と題する記事をみかけた.その30頁に次のように説明がある.  *

「フランス語の振興と文化的・言語的多様性の振興」「平和、民主主義、人権の推進」「教育と研究の支援」「持続的発展に繋がる協力の開発」を使命とする国際フランコニー機構 (OIF: Organisation internationale de la Francophonie) 。世界80に及ぶ構成国と地域は5大陸すべてに分布するが、そのすべてがフランス語を公用語とする「フランス語圏」というわけではない。「フランコフォニー」とは、フランス語を共通の価値観として上記使命のもと2年ごとにサミットを行ない、さまざまな活動に取り組む国際的組織である。


 言葉尻をとらえるようだが,上の引用内で「フランス語を共通の価値観として」というくだりが理解できない.個別言語に何らかの価値があるとか,個別言語にある価値観が付随しているとかいうことは理解できる.フランス語は素晴らしい言語である,論理的な言語である,平和の言語である等々の価値づけのことだ.フランス語に対するこれらの価値づけが妥当かどうかということではなく,個別言語には往々にしてこのような価値づけがなされるものだという意味で,言語に価値観が付随していることは理解できる.しかし,上の引用では,フランス語に価値観が付随していると述べているのではなく,フランス語という個別言語を「価値観とし」とある.しかも,「共通の価値観とし」とまで述べている.これは一体何を意味するのだろうか.個別言語を価値観とするという言い方は,その表現の奥で何かをすりかえているような気がして,うさんくささを感じざるを得ない.The Commonwealth of Nations も La Francophonie も,言語の求心力を利用して緩やかな国際クラブを作ろうという趣旨だと思われるが,そこに政治性が強く付与されるようになると,イギリスやフランスによる新植民地主義であるとの懸念が生じる.La Francophonie には反英語帝国主義の旗手という側面もあるが,一歩誤れば,それ自身が言語帝国主義 (linguistic_imperialism) の信奉者・実践者となる危うさも帯びているように思う.
 国際政治体としての La Francophonie の淵源は1960年代にあるが,その後,いくつかの段階を経て発展してきた.最初の国際サミットは,1986年にミッテラン大統領の呼びかけによりヴェルサイユで開催された.以後,およそ2年に1度のペースでサミットが開かれている.La Francophonie と OIF の沿革について,Perret のフランス語史のコラム (71) を引用しよう.

La Francophonie et la francophonie

La Francophonie (avec une majuscule), organisation plus politique que linguistique, est née au debut des années 1960 de la volonté de quelques dirigeants de nations francophones devenues indépendeantes, comme Hamani Diori, Habib Bourguiba, Norodom Shihanouk et Leopold Sédar Senghor, malgré les réticences de la France, alor peu désireuse de s'impliquer dans un «Commonwealth français». De Conférence des états francophones (1969) en Organisation commune africaine et malgache (1966) et en Agence de coopération culturelle et technique (1970), l'idée prit corps et le gouvernement canadien finit par accepter que le Québec et le Nouveau-Brunswick soient inclus dans l'organisation naissante. Les sommets francophones ont commencé à se réunir à partir de 1986; ils ne regroupent pas seulement des États dont l'une des langues officielle est le français, mais aussi des régions, des «États associés» et des «États observateur», si bien que cette Organisation internationale de la francophonie compte en son sein des pays non francophones comme l'Albanie, la Bulgarie, La Guinée-Bissau, la Guinée-Équatoriale, la Macédoine, la Moldavie, le Mozambique, la Pologne, la Roumanie, Saint-Thomas-et-Prince, la Serbie et l'Ukraine, pays qui ont choisi le français comme langue d'enseignement, première ou seconde, et/ou comme langue internationale. Aussi ne parle-t-on plus d'États francophones mais d'États ayant le français en partage.


 より詳しい歴史については,La Francophonie の公式サイトより Une histoire de la francophonie - Organisation internationale de la Francophonie に詳しい.

 ・ Perret, Michèle. Introduction à l'histoire de la langue française. 3rd ed. Paris: Colin, 2008.

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