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auxiliary_verb - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-01-18 19:48

2019-01-15 Tue

#3550. 日本語用論学会関東地区講演会で may 祈願文について話します [notice][optative][auxiliary_verb][syntax][word_order][conference][may]

 とある経緯により,今週末の1月19日(土)の15時より慶應義塾大学三田キャンパス(南校舎446番教室)にて,日本語用論学会関東地区の講演会にてお話しすることになっています.タイトルは「英語の may 祈願文の起源と発達」です.事前申込不要,参加費無料ですので,ご関心の向きはお運びください.
 May the Force be with you! (フォースが共にあらんことを!)に代表される may を用いた祈願文の歴史については,ここ数年間,関心を持ち続けてきました.拙著『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』(研究社,2016年)の4.5節でも取り上げましたし,本ブログでも「#1867. May the Queen live long! の語順」 ([2014-06-07-1]),「#2256. 祈願を表わす may の初例」 ([2015-07-01-1]),「#2484. 「may 祈願文ができるまで」」 ([2016-02-14-1]) など optative の各記事で話題にしてきた通りです.
 なぜよりによって may という助動詞が用いられているのか,なぜ VS 語順になる必要があるのかなど,共時的に謎が多い問題なのですが,通時的にみるとある程度は理由が分かってきます.しかし,通時的にみても依然として不明な部分が多々残っており,研究の余地があります.本格的に調べてみようと思い立ったのは比較的最近ですので,今度の講演会ではこれまでに分かっていることをまとめたり,目下考えているところをお話しするということになりますが,この不可思議で魅力的な構文について,語用論的な視点も含めつつ議論してみたいと思っています.
 自身の拙い発表の宣伝はしにくいのですが,慶應大学文学部の同僚であり,日本語用論学会関東地区を仕切られている井上逸兵先生からのプッシュもあり紹介してみました.ちなみに井上先生は,昨年12月1--2日に開催の日本語用論学会第21回全国大会の2日目に行なわれた第1回 語用論グランプリにて,なんと総合優勝されました.強者です.こちらの右下の勝利の写真を参照.

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2019-01-08 Tue

#3543. 『現代英文法辞典』より optative (mood) の解説 [terminology][mood][optative][subjunctive][speech_act][auxiliary_verb]

 目下 may 祈願文と関連して optative (mood) 一般について調査中だが,備忘のために荒木・安井(編)『現代英文法辞典』 (963--64) より,同用語の解説記事を引用しておきたい

 optative (mood) (願望法,祈願法) インドヨーロッパ語において認められる法 (MOOD) の1つ.ギリシャ語には独自の屈折語尾を持つ願望法があるが,ラテン語やゲルマン語はでは願望法は仮定法 (SUBJUNCTIVE MOOD) と合流して1つとなった.ゲルマン語派に属する英語においては,OE以来形態的に独立した願望法はない.
 願望法が表す祈願・願望の意味は英語では通例いわゆる仮定法または法助動詞 (MODAL AUXILIARY) による迂言形によって表される: God bless you! (あたなに神のみ恵みがありますように)/ May she rest in peace! (彼女の冥福を祈る)/ O were he only here. (彼がここにいてくれさえしたらよいのに).多分このため,Trnka (1930, pp. 64, 67--74) は 'subjunctive' という用語の代わりに 'optative' を用いる.Kruisinga (Handbook, II. §1531) は動詞の語幹 (STEM) の用法の1つに願望用法があることを認め,この用法の語幹を願望語幹 (optative stem) と呼ぶ: Suffice it to say .... (...と言えば十分であろう).さらに,Quirk et al. (1985, §11.39) は仮定法の一種として願望仮定法 (optative subjunctive) を認め,願望仮定法は願望を表わす少数のかなり固定した表現に使われると述べている: Far be it from me to spoil the fun. (楽しみを台無しにしようなどという気は私にはまったくない)/ God save the Queen! (女王陛下万歳!)


 言語化された願望・祈願を適切に位置づけようとすると,必ず形式と機能の複雑な関係が問題となる上に,通時態と共時態の観点の違いも相俟って,非常に難しい課題となる.今ひとつの観点は,語用論的な立場から願望・祈願を発話行為 (speech_act) とみなして,この言語現象に対して何らかの位置づけを行なうことだろう.だが,語用論的な観点から行為としての願望あるいは祈願とは何なのかと問い始めると,容易に人類学的,社会学的,哲学的,宗教学的な問題へと発展してしまう.手強いテーマだ.
 関連して「#3538. 英語の subjunctive 形態は印欧祖語の optative 形態から」 ([2019-01-03-1]),「#3541. 英語の法の種類 --- Jespersen による形式的な区分」 ([2019-01-06-1]),「#3540. 願望文と勧奨文の微妙な関係」 ([2019-01-05-1]) も参照.

 ・ 荒木 一雄,安井 稔 編 『現代英文法辞典』 三省堂,1992年.

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2018-12-24 Mon

#3528. 法助動詞を重ねられた時代 [auxiliary_verb][grammaticalisation][speed_of_change][syntax]

 現代英語では,will, shall, can, may などの法助動詞を重ねて用いることはできない.法助動詞は1つのみで用いられ,その後に本動詞の原形が続くという形式しか許容されない.しかし,かつて法助動詞を2つ重ねることができた時代があった.
 中尾 (350) を参照した縄田 (89--90) より,中英語からの例を示そう.

a. Shall 「未来」 + Will 「意志」
   whase wilenn shall þiss boc efft oþerr sitþe written
   'whoever shall wish to write this book afterwards another time' (?c1200 Orm D. 95)
b. Shall 「未来」 + Can 「能力」
   I shal not konne answere.
   'I shall not be able to answer.' (c1386 Chaucer, C. T. B 2902)
c. Shall 「未来」 + May 「能力」
   Hu sal ani man ðe mugen deren?
   'How shall any man be able to injure thee?' (c1250 Gen & Ex 1818)
d. May 「可能性」 + Can 「能力」
   it may not kon worche þis work bot ȝif it be illuminid by grace
   'it may not be able to do this work unless it be illumined by grace' (?a1400 Cloud 116, 14)


 現在の法助動詞はもともとは一般動詞にすぎなかったが,歴史的に法助動詞へと文法化 (grammaticalisation) してきた経緯がある.しかし,一般動詞から法助動詞への範疇の移行は,一夜にして切り替えが生じたわけではなく,グラジュアルな過程だったために,その移行期においては上記のように両範疇の特性を合わせもったような「2つ重ね」が許容されたということだろう.しかし,近代英語以降,この構造は廃れていく.
 縄田論文では,この2重法助動詞を巡る問題について,個々の助動詞間で法助動詞化の速度が異なっていたことが背景にあると議論されている.異なる立場からの関連する議論としては,「#1406. 束となって急速に生じる文法変化」 ([2013-03-03-1]),「#1670. 法助動詞の発達と V-to-I movement」 ([2013-11-22-1]) を参照.

  ・ 中尾 俊夫 『英語史 II』 英語学大系第9巻,大修館書店,1972年.
  ・ 縄田 裕幸 「第4章 分散形態論による文法化の分析 --- 法助動詞の発達を中心に ---」『文法化 --- 新たな展開 ---』秋元 実治・保坂 道雄(編) 英潮社,2005年.75--108頁.

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2018-12-12 Wed

#3516. 仮定法祈願と may 祈願の同居 [optative][subjunctive][auxiliary_verb][construction_grammar][may]

 昨日の記事「#3515. 現代英語の祈願文,2種」 ([2018-12-11-1]) でみたように,現代英語の祈願構文には,仮定法を利用するものと may を用いるものの2種が存在する.歴史的には前者のほうが古いが,いずれも文語的で定型的という特徴を有しており,同じ文脈でともに生じることもある.たとえば,May they get home safely, Heaven help us! のような事例がある.ほかに両祈願構文の同居している例が,細江 (159fn) に挙げられている.

 ・ God help her; May God help her!---Trollope;
 ・ Long life to them both! May Edward the Atheling reign, but Harold the Earl rule!--Lord Lytton.


 2つめの例で,細江は,後半の Harold the Earl rule! を仮定法祈願と解釈しているようだが,may の繰り返しを避けたという統語的解釈も可能だろうか.もしそうであれば同居の事例として挙げるのはふさわしくないことになるが,この "May SV, but SV!" という構造を別の角度からみれば,等位接続された2つの仮定法祈願の先頭に may が立っていると解釈することもできる.つまり,may は,歴史的に衰退してきた仮定法の機能・形式を補強するために先頭に付された祈願標識 (optative marker) であると捉えることができるだろう.これは,構文化の1例とみることもできる.

 ・ 細江 逸記 『英文法汎論』3版 泰文堂,1926年.

Referrer (Inside): [2018-12-13-1]

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2018-12-11 Tue

#3515. 現代英語の祈願文,2種 [optative][subjunctive][auxiliary_verb][syntax][word_order][punctuation][may]

 細江 (158--59) によれば,現代英語には,現在または未来の「ひたすらな願い」を表わす祈願法 (optative) の形式として,2種が認められる.1つは仮定法(歴史的な接続法 (subjunctive))を用いる方法(以下の (a)),もう1つは語頭に may を立てて「主語+動詞」を続ける方法である(以下の (b)).それぞれを示そう.

(a) 通常主語を文頭に立て,叙想法現在の動詞を述語とする.ただし,この際強勢のため形容詞・副詞などを先に立て主語と述語とを転置することも多い.たとえば,
   Thy kingdom come. Thy will be done.---Matthew, vi. 10.
   God bless and reward you for all your kindness.---Stowe.
   God forgive me!---Miss Mulock.
   Long live the Duke!---Charles Reade.
   Mine be a cot beside the hill!---Rogers.
   So be it, O Queen!---H. Hoggard.
   So help me God!---Hardy.
 このようなものは昔は常に用いられた形ではあるが,現今では詩および少数の固定した言い方のほかはあまり多く用いられない.しかし,ここに一つ特に注意すべきは,次のような呪罵の語では今なお普通に用いられるということである.
   Murrain take thee!---Scott.
   Devil take me!---Lamb.
   Generosity be hanged!---Thackeray.
   Dauphin be damned!---Shaw.
(b) 前記の場合,叙想法代用として may+不定詞を用いる.この場合に may はいつも主語より前に立つものである.たとえば,
   May no evil dream disturb my rest!---Evening Hymn.
   May he rest in peace!---Irving.
   So may it be for ages!---William Morris.


 仮定法の利用にせよ法助動詞 may の利用にせよ,法 (mood) が強く関わっていることがわかる.しばしば,祈願「法」 (optative mood) と呼ばれる所以である.また,(a) の場合は随意だが,(b) の場合は必ず語順の倒置が起こるという点も特徴的だ.これは,通常の叙述ではなく祈願という有標の発話行為であることを示すマーカーとして機能しているものではないかと思われる.書き言葉では,通常感嘆符 (exclamation mark) を伴うという特徴もある.
 なお,may に対応するドイツ語の mögen の接続法第1式も,may と同様の統語的振る舞いを示す.たとえば,Möge das neue Jahr viel Glück bringen! (新しい年が多幸でありますように!」,Möge er glücklich werden! (彼に幸あれ!)など.

 ・ 細江 逸記 『英文法汎論』3版 泰文堂,1926年.

Referrer (Inside): [2018-12-13-1] [2018-12-12-1]

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2018-11-30 Fri

#3504. 助動詞の NICE features [auxiliary_verb][preterite-present_verb][syntax]

 be, do, have などの1次助動詞はもとより may, must, can, will, shall, ought (to), need, dare, used to などの法助動詞も含めたすべての助動詞には,共通する4つの統語・形態・音韻的特徴がある.頭文字をとって NICE features と称される.Coates (1983: 4) を参照している Gramley (186) より引用しよう.

N direct Negation (should > shouldn't)
I Inversion in questions (I will > Will I?)
C Code or reduced forms (I may go > so may you, i.e. without repeating the main verb go)
E Emphatic affirmation (Must we run? Yes, we múst)


 統語的にはほかにも,伝統的な助動詞は後ろに to 不定詞を従えないという特徴もある.
 形態的にも類似点が多い.may, can, will, shall からは,新しい弱変化過去形が作られてきたという共通点がある (cf. 「#66. 過去現在動詞」 ([2009-07-03-1])).また,いずれも不定詞,現在分詞,過去分詞の形態を欠いている.
 意味的には多種多様ではあるが,話者の態度や判断,いわゆる modality に関わるものが多い.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.
 ・ Coates, J. The Semantics of the Modal Auxiliaries. London: Croom Helm, 1983.

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2018-09-11 Tue

#3424. 祈願の might (2) [syntax][word_order][auxiliary_verb][optative][may]

 昨日の記事 ([2018-09-10-1]) の記事に続いて,祈願の might の話題.該当の構文が,Visser (III, §1681) に "Faire myght thee befalle!" タイプとして取り上げられている.古英語から現代英語までの例文が挙っており,O(h)!that が先行する例を含め,構文の発達を考える上で貴重な一覧となっている.以下に引用する.

・ Ælfred, Boeth. (Sedgefield) 34, 6, Eala ðæt ure tida nu ne mihtan weorðan swilce!
・ Blickl. Hom. 69, 7, To hwon sceolde ðeos smyrenes ðus beon to lose ȝedon? eaþe heo mehte beon ȝeseald to þrim hunde peneȝa.
・ c1400--50 Alexander (Ashm.) 1605, 'Ay moȝt he lefe' quod ilka man twyse (OED).
・ c1460 Towneley Myst. 33, Faire myght the[e] befalle!
・ c1460 Wakefield Miracle Play of the Crucifixion (Everym.) Libr. p. 104, That shall I do, so might I thrive!
・ Ibid. p. 105, 29, as might thou the!
・ Ibid. p. 115, 9, as ever might I thrive!
・ 1530 Palsgrave 84, The optative mode which they vse whan they wisshe a dede to be done, as 'bien parle il', well speke he, or well myght he speke.
・ 1575 Gammer Gurton (in: Manly, Spec. II) V, ii, 8, fye on him, wretch! And euil mought he thee for it (Or mought = mote?).
・ 1589--9 Ben Jonson, The Case Is Altered (Everym.) II, i p. 678, That I might live alone once with my gold! O, 'tis sweet companion!
・ 1596 Shakesp., Merch. of Ven. II, ii, 98, Lord worshipt might be, what a beard hast thou got.
・ 1852 M. Arnold, To Marguerite, Cont'd 18, Oh might our marges meet again! (OED).
・ c1920 W. W. Gibson, Waters of Lethe (Coll. Poems 1926), O that we too might stand Amid unrustling reeds, That banner with dark plumes the shadowy strand! . . . O that we two might glide With eager eyes . . . Into the mist that veils the further side!
・ 1931 R. L. Binyon, Prayer (Coll. Poems 1931), O might my love that in one heart has found such hope to cherish . . . O might it grow Till in this clear profound Part of thy peace were seen (Kr).


 例文を全体的に見渡すと,might の祈願文は may の祈願文とおよそ同様の統語構造で用いられており,昨日の記事で OED に依拠して紹介した「条件節の倒置」説だけでは,might 構文の発達の全容は説明づけられないように思われる.
 1530年の例文には構文に関するメタなコメントが含まれており,注目に値する.そこでは,might 構文が接続法の代替表現として解されている.

 ・ Visser, F. Th. An Historical Syntax of the English Language. 3 vols. Leiden: Brill, 1963--1973.

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2018-09-10 Mon

#3423. 祈願の might (1) [syntax][word_order][auxiliary_verb][optative][oed][may]

 現代英語では廃れているといってよいが,中英語から近代英語にかけて,祈願の may ならぬ祈願の might という用法があった.OED の may, v.1 の語義24で取り上げられているのを読んで知った.OED より引用しよう.

24. Used (since Middle English with inversion of verb and subject) in exclamatory expressions of wish (sometimes when the realization of the wish is thought hardly possible). poet. Perhaps Obsolete.
     This appears to have developed from the hypothetical use (sense 20a).

c1325 (?c1225) King Horn (Harl.) (1901) 166 (MED) Crist him myhte blesse.
c1450 (?a1400) Wars Alexander (Ashm.) 1607 (MED) Ay moȝt [a1500 Trin. Dub. mot] he lefe, ay moȝt he lefe, þe lege Emperoure!
1600 Shakespeare Merchant of Venice ii. ii. 88 Lord worshipt might he be, what a beard hast thou got.
1720 Pope tr. Homer Iliad VI. xxiv. 261 Oh!..might I..these Barbarities repay!
1852 M. Arnold To Marguerite in Empedocles 97 Now round us spreads the watery plain---Oh might our marges meet again!


 祈願の might の出現と発達に関連して,祈願の may がどのように関与しているのか,していないのかは,おもしろい問題である.上記の OED の説明として言及されている語義20aというのは条件節における用法であり,つまり If S might V の代替表現としての Might S V という統語構造のことを指す.may 祈願文についてこのような発達の説明は聞いたことがないので,つまるところ,OEDmightmay の祈願文はそれぞれ異種の経路で発達したと考えていることになる.確かに,1720年の might I の例のように1人称単数が主語に用いられるケースは may 祈願文では見たことがなく,このような might の用法は厳密にいえば「祈願」とは別の発話行為を表わしているのかもしれない.
 ただし,might には倒置されていない用例も見られることから,「条件節の倒置」説だけではすべてを説明することはできなさそうだ.あるいは,その後の段階で may の祈願文と合流したという可能性もあるかもしれない.祈願の might は現代までに事実上の廃用となっているというが,なぜ廃用となったのかにも興味がある.

Referrer (Inside): [2018-09-11-1]

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2018-09-04 Tue

#3417. 祈願の may は従属節における用法から発達した [syntax][word_order][auxiliary_verb][optative][oed][may]

 「#1867. May the Queen live long! の語順」 ([2014-06-07-1]),「#2256. 祈願を表わす may の初例」 ([2015-07-01-1]),「#2484. 「may 祈願文ができるまで」」 ([2016-02-14-1]) でもすでに触れてきたが,祈願の may の構文の成立過程の1つは,従属節における用法(I wish that S may V のような構文)からの発達に求めることができる.少なくとも OED はそのように考えており,松瀬 (82) も Stage 3 から Stage 4 への推移において同じ発達があったとみているようだ.ただ,OED ではその時期を中英語から近代英語への過渡期に置いているのに対して,松瀬はもう少し早めの中英語期に置いているという違いがある.
 祈願の may の構文の原型とされる従属節における用法について,OED では古英語から現代英語までの例を,may, v.1 の語義9bに挙げている.以下に引用する.

b. In clauses depending on such verbs as beseech, desire, demand, hope, wish, and their allied nouns. . . .

   OE Ælfric Catholic Homilies: 1st Ser. (Royal) (1997) x. 258 Hwæt wilt ðu þæt ic þe do? He cwæð: drihten þæt ic mage geseon.
   1432 Charter Educ. Henry VI in Paston Lett. (1872) I. 32 The said Erle desireth..that he may putte hem from..occupacion of the Kinges service.
   1549 Bk. Common Prayer (STC 16267) Celebr. Holye Communion f. xxiv Graunt that they maie both perceaue and knowe what thinges they ought to do.
   1636 in M. Kytö Variation & Diachrony (1991) 111 I desire they may goe for shares and victuall them selves.
   1771 [T. Smollett Humphry Clinker I. 197 But, perhaps, I mistake his complaisance; and I wish I may, for his sake.]
   1782 W. Cowper Conversation in Poems 218 He humbly hopes, presumes it may be so.
   1908 W. McDougall Introd. Social Psychol. p. vii I hope that the book may be of service to students of all the social sciences.
   1970 N.Y. Times 21 Sept. 42/2 Through the new page.., we hope that a contribution may be made toward stimulating new thought.
   1984 Guardian 27 Jan. 26 They found a shovel raising hopes that the lost men may have dug themselves into a snow hole.


 一方,問題の主節における祈願の may の構文については,OED は語義12のもとで挙げており,初例を1521年としている.一部「#1867. May the Queen live long! の語順」 ([2014-06-07-1]) でも掲載したが,語義12の全体を引用しておこう.

12. Used (with inversion of verb and subject) in exclamatory expressions of wish (synonymous with the simple present subjunctive, which (exc. poet. and rhetorically) it has superseded).
   This use developed from sense 9b, as is shown by early examples, such as quot. 1521, in which the subject precedes may, and antecedent formulae (e.g. quot. 1501) which have a that-clause.

   [1501 in A. W. Reed Early Tudor Drama (1926) 240 Wherfore that it may please your good lordship, the premisses tenderly considered to graunt a Writ of subpena to be directed [etc.].]
   1521 Petition in Hereford Munic. MSS (transcript) (O.E.D. Archive) I. ii. 5 Wherefore it may please you to ennacte [etc.; cf. 1582--3 Hereford Munic. MSS (transcript) II. 265 Maye [it] pleas yo(ur)r worshipes to caule].
   1570 M. Coulweber in J. W. Burgon Life Gresham II. 360 For so much as I was spoyled by the waye in cominge towards England by the Duke of Alva his frebetters, maye it please the Queenes Majestie [etc.].
   1590 Marlowe Tamburlaine: 1st Pt. sig. A5v Long liue Cosroe mighty Emperour. Cosr. And Ioue may neuer let me longer liue, Then I may seeke to gratifie your loue.
   1593 Shakespeare Venus & Adonis sig. Diijv Long may they kisse ech other for this cure.
   1611 M. Smith in Bible (King James) Transl. Pref. sig. ⁋3 Long may he reigne.
   1637 Milton Comus 32 May thy brimmed waves for this Their full tribute never misse.
   1647 Prol. to Fletcher's Womans Prize in F. Beaumont & J. Fletcher Comedies & Trag. sig. Qqqqq2/1 A merry Play. Which this may prove.
   1712 T. Tickell Spectator No. 410. ⁋6 But let my Sons attend, Attend may they Whom Youthful Vigour may to Sin betray.
   1717 Entertainers No. 2. 7 Much good may it do the Dissenters with such Champions.
   1786 C. Simeon in W. Carus Life (1847) 71 May this be your blessed experience and mine.
   1841 Dickens Old Curiosity Shop i. viii. 121 'May the present moment,' said Dick,.. 'be the worst of our lives!'
   1892 Catholic News 27 Feb. 5/5 May this smash-up of his facts remain as a warning to him.
   1946 W. H. Auden Litany & Anthem for S. Matthew's Day May we worship neither the flux of chance, nor the wheel of fortune.
   1986 B. Gilroy Frangipani House vii. 30 May your soul never wander and may you find eternal peace.


 1712年の例で,Let my Sons attend, Attend may they という部分で勧告の let と祈願の may が言い換えのように並置されているのが示唆的である.「#2478. 祈願の may と勧告の let の発達の類似性」 ([2016-02-08-1]),「#3416. 祈願の may と勧告の let の意味論的類似性」 ([2018-09-03-1]) を参照.

 ・ 松瀬 憲司 「"May the Force Be with You!"――英語の may 祈願文について――」『熊本大学教育学部紀要』64巻,2015年.77--84頁.

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2018-09-03 Mon

#3416. 祈願の may と勧告の let の意味論的類似性 [pragmatics][semantics][syntax][word_order][speech_act][auxiliary_verb][optative][may]

 「#2478. 祈願の may と勧告の let の発達の類似性」 ([2016-02-08-1]) で,両構文の意外とも思える類似性について歴史的な観点から紹介した.現代英語の共時的観点からも,Huddleston and Pullum (944) が両者の意味論的な類似性に言及している.

[Optative may C]onstruction . . . , which belongs to somewhat formal style, has may in pre-subject position, meaning approximately "I hope/pray". There is some semantic resemblance between this specialised use of may and that of let in open let-imperatives, but syntactically the NP following may is clearly subject . . . . The construction has the same internal form as a closed interrogative, but has no uninverted counterpart.


 maylet が「意味論」的に似ているという点は首肯できる(ここでいう「意味論」は語用論も含んだ「意味論」だろう).発話行為としての「祈願」を行なえば,次に「勧告」したくなるのが人情だろうし,「勧告」の前段階として「祈願」は付きもののはずだ.
 一方,「統語」的には,続く名詞句が主格に置かれるか目的格に置かれるかという点で明らかに区別されると指摘されている.確かに,両者はおおいに異なる.しかし,maylet を,対応する発話行為を表わす語用標識ととらえ,その後に来る名詞句の格の区別は無視すれことにすれば,いずれも「語用標識+名詞句(+動詞の原形)」となっていることは事実であり,統語的にも似ていると議論することはできる.少なくとも表面的な統語論においては,そうみなせる.
 maylet も,文頭の動詞原形で命令を標示したり,文頭の Oh で感嘆を標示したりするのと同様の語用論的な機能を色濃くもっていると考えることができるかもしれない.「#2923. 左と右の周辺部」 ([2017-04-28-1]) という観点からも迫れそうな,語用論と統語論の接点をなす問題のように思われる.

 ・ Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: CUP, 2002.

Referrer (Inside): [2018-09-04-1]

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2018-09-02 Sun

#3415. 「主語+助動詞」が「助動詞+主語」となる場合 (3) [syntax][auxiliary_verb][inversion][word_order][optative][subjunctive][imperative][may]

 一昨日と昨日の記事 ([2018-08-31-1], [2018-09-01-1]) に補足する.Biber et al (§11.2.3.4, p. 918) によると「主語+助動詞」が「助動詞+主語」となる環境には,先の記事で挙げたものに加えて,もう2種類(以下の A と C)ある.祈願の may の構文 (B) について調べている途中に出くわしたものなので,それと合わせて3点を引用する.A と B は古い用法の残存ということなので,ぜひ歴史的な観点から迫っていきたい構文の問題だ.

11.2.3.4 Special cases of inversion in independent clauses
   Some uses of inversion are highly restricted and usually confined to more or less fixed collocations. Types A and B described below are remnants of earlier uses and carry archaic literary overtones.

A Formulaic clauses with subjunctive verb forms
   The combination of the inflectionless subjunctive and inversion gives the highlighted expressions below an archaic and solemn ring:
      Be it proclaimed in all the schools Plato was right! (FICT)
      If you want to throw your life away, so be it, it is your life, not mine. (FICT)
      "I, Charles Seymour, do swear that I will be faithful, and bear true allegiance to Her Majesty Queen Elizabeth, her heirs and successors according to law, so help me God." (FICT)
      Long Live King Edmund! (FICT)
      Suffice it to say that the DTI was the supervising authority for such fringe banks. (NEWS)
 
B Clauses opening with the auxiliary may
   The auxiliary may is used in a similar manner to express a strong wish. This represents a more productive pattern:
      May it be pointed out that the teacher should always try to extend the girls helping them to achieve more and more. (FICT†)
      May God forgive you your blasphemy, Pilot. Yes. May he forgive you and open your eyes. (FICT†)
      The XJS may be an ageing leviathan but it is still a unique car. Long may it be so! (NEWS)
      Long May She Reign! (NEWS)

C Imperative clauses
   Imperative clauses may contain an expressed subject following don't . . . .


 A と B の意味的・統語的類似性に注目すべきである.ともに命令,勧告,祈願などの「強い希望」が感じられる.歴史的には,may などの法助動詞は屈折による接続法の代用として発達してきた側面があり,両者が意味的に近い関係にあることは当然といえば当然である.だが,こうして現代英語にも古風な表現としてではあれ共存しており,かつ統語的にも倒置が生じるという点で振る舞いが似ているのは,非常に興味深い.

 ・ Biber, Douglas, Stig Johansson, Geoffrey Leech, Susan Conrad, and Edward Finegan. Longman Grammar of Spoken and Written English. Harlow: Pearson Education, 1999.

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2018-09-01 Sat

#3414. 「主語+助動詞」が「助動詞+主語」となる場合 (2) [syntax][auxiliary_verb][inversion][word_order][optative][may]

 昨日の記事 ([2018-08-31-1]) に引き続いての話題.Huddleston and Pullum より,現代英語でデフォルトの語順が倒置されて「助動詞+主語」となる9つのケースを紹介した.この9つを大きく2つのタイプに分けると,非主語の句が前置されることにより倒置が引き起こされるものと,そうでないものとに振り分けられる.前者はさらに2分され,そのような句がある場合に必ず倒置しなければならないケースと,倒置が任意であるケースとが区別される.Huddleston and Pullum (97) よりまとめよう.

UNTRIGGEREDTRIGGERED
obligatoryoptional
Closed interrogativesOpen interrogativesExclamatives
Conditional inversionInitial negativeOther fronted elements
Optative mayInitial only
Initial so/such


 とりわけ興味深いのは "UNTRIGGERED" に属する3種である.ある種の名詞句によって "TRIGGER" され(得)るものについては,ある種の引き金があるから倒置されるのだと表面的には納得することができる(より深く追求すれば,それはそれで謎ではあるが).しかし,UNTRIGGERED の3種については,表現としての引き金があるわけでもなく,そのような構文ではただ単に倒置されなければならないのだ,という規則だけがあるように思われる.とはいえ,純粋に統語的な問題なのだろうか.そこに語用的な動機づけはないのだろうか.
 "UNTRIGGERED" の3種のうち,"Closed interrogatives" には「主語+助動詞」を取る肯定文の相方があり,"Conditional inversion" にも「if +主語+助動詞」という相方がある.ところが,"Optative may" については標準的な相方というべき構文がない.祈願の may が主語の前に立つというのは,どうも統語的には極めて特異のようである.これについては「#1867. May the Queen live long! の語順」 ([2014-06-07-1]),「#2256. 祈願を表わす may の初例」 ([2015-07-01-1]),「#2478. 祈願の may と勧告の let の発達の類似性」 ([2016-02-08-1]),「#2484. 「may 祈願文ができるまで」」 ([2016-02-14-1]) で扱ってきたので,ご参照を.

 ・ Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: CUP, 2002.

Referrer (Inside): [2018-09-02-1]

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2018-08-31 Fri

#3413. 「主語+助動詞」が「助動詞+主語」となる場合 (1) [syntax][auxiliary_verb][inversion][word_order][exclamation][optative][may]

 現代英語の最も普通の語順は「主語+(助)動詞」である.ただし,いくつかのケースでは,統語的,意味的,語用的な動機づけにより,この語順が倒置 (inversion) されることがあり「(助)動詞+主語」となり得る.ここでは動詞を助動詞に限定した上で,どのようなケースがあるか,Huddleston and Pullum (94--96) の分類から要約してみよう.

 (1) 閉じた疑問文 (Closed interrogatives)
   - Can she speak French?
   - Does she speak French?

 (2) 開かれた疑問文 (Open interrogatives)
   - What did she tell you?
   - Where did you go after that?
   - What is she doing?

 (3) 感嘆文 (Exclamatives) (ただし,主語+助動詞の語順も可能)
   - What a fool have I been?
   - How hard did she try?

 (4) 否定要素が前置される場合 (Initial negative)
   - Not one of them did he find useful.
   - Nowhere does he mention my book.

 (5) only が前置される場合 (Initial only)
   - Only two of them did he find useful.
   - Only once had she complained.

 (6) so/such が前置される場合 (Initial so/such)
   - So little time did we have that we had to cut corners.
   - Such a fuss would he make that we'd all agree.
   - You got it wrong and so did I.

 (7) その他の要素が前置される場合 (Other fronted elements)
   - Thus had they parted the previous evening.
   - Many another poem could I speak of which sang itself into my heart.
   - The more wives he had, the more children could he beget.
   - Well did I remember the crisis of emotion into which he was plunged that night.

 (8) 条件節 (Conditional inversion)
   - Had he seen the incident he'd have reported it to the police.

 (9) 祈願の may (Optative may)
   - May you both enjoy the long and happy retirement that you so richly deserve.
   - May the best man win!
   - May you be forgiven!

 こう見てみると,現代英語でもデフォルトの「主語+助動詞」が倒置されて「助動詞+主語」となる機会は,諸々合わせれば,種類としても頻度として必ずしも少なくないように思えてくる.だが,多いというのは言い過ぎだろう.むしろ,通常と違っているという低頻度性や異質性を利用して,語用的に有用な何かを行なっているのだと考えておきたい.

 ・ Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: CUP, 2002.

Referrer (Inside): [2018-09-02-1] [2018-09-01-1]

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2018-06-13 Wed

#3334. 接続法現在の代わりの should は古英語からあった [auxiliary_verb][subjunctive]

 典型的なアメリカ語法の I advised that John eat more. とイギリス語法の I advised that John should eat more. の差異やその歴史的背景について,「#325. mandative subjunctiveshould」 ([2010-03-18-1]),「#326. The subjunctive forms die hard.」 ([2010-03-19-1]),「#345. "mandative subjunctive" を取り得る語のリスト」 ([2010-04-07-1]),「#3042. 後期近代英語期に接続法の使用が増加した理由」 ([2017-08-25-1]) などで取り上げてきた.
 歴史的事実を確認すれば,接続法現在を用いるタイプと法助動詞 should を用いるタイプは,両方とも古英語より使用がみられる.その後も中英語,近代英語と両タイプは併存しており,分布の英米差が言われるようになったのは,あくまで近現代についての分布に関してのみである.まずはこの事実を確認しておきたい.
 Visser (III, §1546) には,'He commaunded, that the ouen shulde be made seuen tymes hoter' が,should 使用のタイプの代表例としてタイトルに挙げられており,その他,古英語から現代英語にかけての多数の類例が列挙されている.以下,各時代からランダムに取り出して提示する.

 ・ Genesis 800, he unc self bebead þæt wit unc wite warian sceolden.
 ・ Menelogium 48, fæder onsende . . . heahengel his, se hælo abead Marian mycle, þæt heo meotod sceolde cennan, kyninga betst.
 ・ Ælfric, Hom. i, 310, God bebead Moyse . . . þæt he and eall Israhela folc sceoldon offrian . . . an lamb anes ȝeares.

 ・ c1200 St. Katherine 1439, Hat eft þe keiser þat me schulde Katherine bringen biforen him.
 ・ c1352 Minot, Poems (ed. Hall) iii, 53, He cumand þan þat men suld fare Till Ingland.
 ・ 1440 Visitations Relig. Houses Diocese Lincoln (ed. Thompson) 176, Laghe and your constytucyons forbeden that any nunne shulde were any vayles of sylke.

 ・ 1593 Shakesp., Rich. II, IV, i, 129, forfend it, God, That in a christian climate souls refin'd Should show so heinous, black, obscene a deed.
 ・ 1749 Fielding, Tom Jones (Everym.) Vol. II p. 130, the ostler took great care that his corn should not be consumed.
 ・ 1888 Henry James, The Aspern Papers (Everym.) 268, Heaven forbid I should ask you.
 
 ・ 1928 Virginia Woolf, Orlando (1928) 64, prescribing . . . that he should lie in bed all day.
 ・ 1961 Angus Wilson, The Old Men at the Zoo (Penguin) 195, he suggested that I should go down with him for a day or two.
 ・ 1963 Iris Murdoch, The Unicorn (Avon Bks.) 67, Who decided I should come and why?


 ・ Visser, F. Th. An Historical Syntax of the English Language. 3 vols. Leiden: Brill, 1963--1973.

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2018-05-15 Tue

#3305. なぜ can の否定形は cannot と1語で綴られるのか? [sobokunagimon][negative][spelling][auxiliary_verb][clitic][punctuation][pronunciation]

 標題の疑問が寄せられた.実際には,助動詞 can の否定形としては標題の cannot のほか,can'tcan not の3種類がある.一般には1語であるかのように綴られる can'tcannot が圧倒的に多いが,分かち書きされた can not もあるにはある.ただし,後者が用いられるのは,形式的な文章か,あるいは強調・対照・修辞が意図されている場合のみである.
 まず,主に Fowler's を参照し,can'tcannot について現代英語での事実を確認しておこう.can't の発音は,イギリス英語で /kɑːnt/, アメリカ英語で /kænt/ となるが,特に子音の前ではしばしば語末の t が落ちて,/kɑːn/, /kæn/ のようになる.肯定形の can とは異なり,否定形では弱形は存在しない.一方,cannot は英米音でそれぞれ /ˈkæn ɒt/, /ˈkæn ɑːt/ となるが,実際には can't として発音される場合もある.
 can'tcannot の使い分けは特になく,いずれかを用いるかは個人の習慣によるところが大きいとされる.ただし,原則として cannot が使われるケースとして,「〜せざるを得ない」を意味する cannot but do や cannot help doing の構文がある.逆に,口語で「努力してはみたが〜することができないようだ」を意味する can't seem to do では,もっぱら can't が用いられる.
 歴史的には cannot のほうが古く,後期中英語から使用例がある(OED では a1425 が初出).can't も後期中英語で使われていた可能性は残るが,まともに出現してくるのは17世紀からのようだ.can't は Shakespeare でも使われていない.
 さて,標題の疑問に戻ろう.実際のところよく分からないのだが,1つ考えられそうなところを述べておく.can't は子音の前で t が落ちる傾向があると上述したが,とりわけ後続音が t, d, n のような歯茎音の場合には,その傾向が強いと推測される.すると,肯定形と否定形が同形となってしまい,アクセントによる弁別こそまだ利用可能かもしれないが,誤解を招きやすい.その点では,cannot の2音節発音は,少なくとも2音節目の母音の存在が否定形であることを保証しているために,有利である.また,完全形 can not とは形式的にも機能的にも区別されるべき省略形には違いないため,綴字上も省略形にふさわしく1語であるかのように書かれる,ということではないか.他の助動詞の否定形の音韻・形態とその歴史も比較してみる必要がありそうだ.

 ・ Burchfield, Robert, ed. Fowler's Modern English Usage. Rev. 3rd ed. Oxford: OUP, 1998.

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2018-04-24 Tue

#3284. be 動詞の特殊性 [be][inflection][inflection][clitic][verb][auxiliary_verb]

 be 動詞が特殊な動詞であることは,改めて言うまでもないように思われる.他の動詞にないような複雑な屈折を示す,共時的には実にへんてこな動詞だ.実際に,「#3279. 年度初めの「素朴な疑問」を3点」 ([2018-04-19-1]) の3点目にも挙げたように,be 動詞は多くの英語学習者に激しい「なぜ?」を引き起こす.
 be 動詞に執拗にこだわった Crystal の著書 The Story of Be の序章 (p. xi--xii) では,be 動詞の特殊性が列挙されている.

 (1) be 動詞は,英語の他のあらゆる動詞よりも多様な変化形をもつ.walk ならば walk, walks, walked, walked と4種類の異なる形を示し,go ならば go, goes, going, gone, went の5種類の異なる形を示すが,be では be, am, is, are, was, were, being, been の8種類が区別される.さらに歴史的にいえば,be 語形の多様性は目のくらむほどである.
 (2) すべての他の動詞では,現在形において有標の形態をもつのは3人称単数の -s のみだが,be 動詞では上記のように1,2,3人称のそれぞれにおいて異なる形態を示す.
 (3) be では,強勢のある発音 (be, been) と強勢のない発音 (bi, bin, bn) が区別される.
 (4) (接語的)代名詞と接続して,twas (< it was), wast (< was it) のように融合する.また,you're, I'm, aren't, weren't などの縮約形を示す.同様の縮約を示すのは,ほかに havedo のみである (ex. hasn't, don't) .
 (5) be 動詞は3つの非常に異なる文法機能をもつ.1つ目に「存在する」を意味する一般動詞として,2つ目に進行形や受動態を作る助動詞として,3つ目に連結詞 (copula) としてである.他の動詞でここまで多彩な機能を有するものはない.

 Crystal の締めくくりは,次の如く.

It is thus hardly surprising to find that, over the past 1,500 years, be has developed a wide range of meanings and uses, and a wider range of variant forms than any other English verb. It is the second most frequent word in English, after the. If any verb deserves its own story, it is this one.


 ・ Crystal, David. The Story of Be. Oxford: OUP, 2017.

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2018-04-12 Thu

#3272. 文法化の2つのメカニズム [metaphor][metonymy][analogy][reanalysis][syntax][grammaticalisation][language_change][auxiliary_verb]

 文法化 (grammaticalisation) の典型例として,未来を表わす助動詞 be going to の発達がある (cf. 「#417. 文法化とは?」 ([2010-06-18-1]),「#2106.「狭い」文法化と「広い」文法化」 ([2015-02-01-1]),「#2575. 言語変化の一方向性」 ([2016-05-15-1]) ) .この事例を用いて,文法化を含む統語意味論的な変化が,2つの軸に沿って,つまり2つのメカニズムによって発生し,進行することを示したのが,Hopper and Traugott (93) である.2つのメカニズムとは,syntagm, reanalysis, metonymy がタッグを組んで構成するメカニズムと,paradigm, analogy, metaphor からなるメカニズムである.以下の図を参照.

          --------------------------------------------------------------------------- Syntagmatic axis
                                                                                 Mechanism: reanalysis
                                                                                                 |
          Stage I          be                  going            [to visit Bill]                  |
                           PROG                Vdir             [Purp. clause]                   |
                                                                                                 |
          Stage II         [be going to]       visit Bill                                        |
                           TNS                 Vact                                              |
             (by syntactic reanalysis/metonymy)                                                  |
                                                                                                 |
          Stage III        [be going to]       like Bill                                         |
                           TNS                 V                                                 |
             (by analogy/metaphor)                                                               |
                                                                                     Paradigmatic axis
                                                                                    Mechanism: analogy

 Stage I は文法化する前の状態で,be going はあくまで「行っている」という字義通りの意味をなし,それに目的用法の不定詞 to visit Bill が付加していると解釈される段階である.
 Stage II にかけて,この表現が統合関係の軸 (syntagm) に沿って再分析 (reanalysis) される.隣接する語どうしの間での再分析なので,この過程にメトニミー (metonymy) の原理が働いていると考えられる.こうして,be going to は,今やこのまとまりによって未来という時制を標示する文法的要素と解釈されるに至る.
 Stage II にかけては,それまで visit のような行為の意味特性をもった動詞群しか受け付けなかった be going to 構文が,その他の動詞群をも受け入れるように拡大・発展していく.言い換えれば,適用範囲が,動詞語彙という連合関係の軸 (paradigm) に沿った類推 (analogy) によって拡がっていく.この過程にメタファー (metaphor) が関与していることは理解しやすいだろう.文法化は,このように第1メカニズムにより開始され,第2メカニズムにより拡大しつつ進行するということがわかる.
 文法化において2つのメカニズムが相補的に作用しているという上記の説明を,Hopper and Traugott (93) の記述により復習しておこう.

In summary, metonymic and metaphorical inferencing are comlementary, not mutually exclusive, processes at the pragmatic level that result from the dual mechanisms of reanalysis linked with the cognitive process of metonymy, and analogy linked with the cognitive process of metaphor. Being a widespread process, broad cross-domain metaphorical analogizing is one of the contexts within which grammaticalization operates, but many actual instances of grammaticalization show that conventionalizing of the conceptual metonymies that arise in the syntagmatic flow of speech is the prime motivation for reanalysis in the early stages.


 ・ Hopper, Paul J. and Elizabeth Closs Traugott. Grammaticalization. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.

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2018-03-25 Sun

#3254. 高頻度がもたらす縮小効果と保存効果 [frequency][grammaticalisation][auxiliary_verb][suppletion][zipfs_law]

 言語項目は,高頻度であればあるほど形態がすり減って縮小するということはよく知られている.一方,言語項目は高頻度であればあるほど,新たな形態に取って代わられることが少なく,古い形態を保持しやすいこともしられている.高頻度性がもたらすそれぞれの効果は,"Reduction Effect" (縮小効果),"Conservation Effect" (保存効果)と呼ばれている (Hopper and Traugott 127--28) .
 縮小効果は,文法化 (grammaticalisation) と関連が深い.代表的な例は,「#64. 法助動詞の代用品が続々と」 ([2009-07-01-1]) で示したような新種の法助動詞群である.used to [ju:stə], have to [hæftə], have got to [hævgɑtə], (be) supposed to [spoʊstə], (be) going to [gɑnə] などの音形が,オリジナルの音形からすり減って縮小しているのが確認される.この効果は,「#1101. Zipf's law」 ([2012-05-02-1]) や「#1102. Zipf's law と語の新陳代謝」 ([2012-05-03-1]) で取り上げた Zipf's law とも関係するだろう (cf. zipfs_law) .頻度と音形の長さには相関関係があるのだ(ただし,頻度と文法化の間には予想されるほどの関係はないと論じる,「#2176. 文法化・意味変化と頻度」 ([2015-04-12-1]) で紹介したような立場もあることを付け加えておこう).縮小効果の一般論としては,「#1091. 言語の余剰性,頻度,費用」 ([2012-04-22-1]) も参照されたい.
 保存効果は,共時的には究極の不規則性を体現する形態,とりわけ補充法 (suppletion) の形態が,あちらこちらに残存していることから確認できる.人称代名詞の変化や be 動詞の活用など,超高頻度語においては古い形態がよく保持され,共時的にきわめて予測不可能な形態を示す.この点については,「#43. なぜ go の過去形が went になるか」 ([2009-06-10-1]),「#1482. なぜ go の過去形が went になるか (2)」 ([2013-05-18-1]),「#2090. 補充法だらけの人称代名詞体系」 ([2015-01-16-1]),「#2600. 古英語の be 動詞の屈折」 ([2016-06-09-1]),「#694. 高頻度語と不規則複数」 ([2011-03-22-1]) を参照.もちろん保存効果は形態のみならず語順などの統語現象にも見られるので,言語について一般にいえることだろう.

 ・ Hopper, Paul J. and Elizabeth Closs Traugott. Grammaticalization. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.

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2018-03-11 Sun

#3240. Singapore English における used to (過去)ならぬ use to (現在) [singapore_english][auxiliary_verb][corpus][ice]

 「#735. なぜ助動詞 used to に現在形がないか」 ([2011-05-02-1]) の記事で,「〜したものだった」を意味する used to という過去の助動詞がありながら,なぜ「(現在)〜する習慣がある」ほどを意味する現在の助動詞 use to がないのかについて考えた.そこでは,use to は実際のところ歴史的には文証されるのだが,現在までに廃用となったと述べた.
 しかし,Milroy and Milroy (89) に次のような言及を見つけ,へぇーと感じた.

One syntactic feature which is very characteristic of Singaporean English and appears to be gaining currency, even in written varieties, is the expression use to as a mark of habitual aspect. Thus, all Europeans use to go there is glossed as 'Europeans commonly go there'.


 ということで,「#518. Singapore English のキーワードを抽出」 ([2010-09-27-1]) で利用した Singapore English のコーパス (ICE-SIN) で調べてみたら,2例のみではあるが,関係する例文が見つかった.1つめの例は,Singlish の使用について複数の話者が討論している文脈からの例である.どのような場面で Singlish を用いるかという話題のなかで,話者 B が「(Singlish を)話すのが普通という時と場所があると思う」と述べている.

C: There are many informal situations in the home where Singlish is used. You see I feel very much that this discussion is kind of passe really is uh we're we're being a bit old-fashioned here in discussing discussing Singlish in the first place
B: No I think there's a time and place where I use to speak
D: There is a time and place precisely


 もう1つの例文は,"Fortunately for me, nice and satisfied clients use to write me complimentary letters." である.前後の文脈が現在・習慣を表わすものであることは確認済みであり,過去の used to の発音・綴字上の代用としての use to ではない.
 なお,同コーパスでは,当然のことながら過去の used to の例も数多くヒットする.

 ・ Milroy, Lesley and James Milroy. Authority in Language: Investigating Language Prescription and Standardisation. 4th ed. London and New York: Routledge, 2012.

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2018-02-18 Sun

#3219. 中英語に関する歴史語用論の話題 [me][pragmatics][historical_pragmatics][syntax][passive][grammaticalisation][invited_inference][implicature][subjunctive][auxiliary_verb][standardisation]

 古英語に関する歴史語用論の話題として,最近の2つの記事で触れた(cf. 「#3208. ポライトネスが稀薄だった古英語」 ([2018-02-07-1]),「#3211. 統語と談話構造」 ([2018-02-10-1])).およそ speech_act, politeness, discourse_analysis, information_structure に関する問題だった.今回は Traugott の概説にしたがって,中英語に関する歴史語用論の話題として,どのようなものがあるかを覗いてみたい.
 Traugott は,ハンドブックの冒頭で3つを指摘している (466) .

 (1) "the shift from information-structure-oriented word order in Old English to 'syntacticized' order in Middle English; this in tern led, at the end of the period, to new strategies for marking topic and focus in special ways."
 (2) "the development of auxiliary verbs in contexts where implied abstract temporal, modal, or aspectual meanings of certain concrete verbs became salient"
 (3) "the appearance of a large set of new discourse types, from romances to drama, scientific writings, and letters"

 (1) は語用論と統語論のインターフェースに関わる精緻な問題といってよい.古英語から中英語にかけて屈折が衰退し,語順が固定化していったことにより,以前は比較的自由な語順を利用して情報構造を整えるという方略をもっていたものが,今や語順に頼ることができなくなったために,別の手段に訴えかけなければならなくなったということである.例えば,後期中英語に,行為者を標示する by 句を伴う受動態の構文が発達してきたことは,このような情報構造上の要請に起因する部分があるかもしれない.もしこの仮説が受け入れられるのであれば,語用論的な要因こそがくだんの統語変化の引き金となったと言えることになろう.
 (2) も統語的な含みをもち,(1) と間接的に関連すると思われるが,主に本動詞から助動詞への発達(いわゆる典型的な文法化 (grammaticalisation) の事例)を説明するのに,文脈に助けられた含意 (implicature) や誘導推論 (invited_inference) などの道具立てをもってする研究を指す.中英語期には屈折の衰退による接続法・仮定法の衰退により,統語的な代替手段として法助動詞が発達するが,この発達にも語用論的なメカニズムが関与している可能性がある.
 (3) は新種の談話の出現である.時代が下るにつれ,以前の時代にはなかったジャンルやテキスト・タイプが現われてくることは中英語期に限った現象ではないが,中英語でも確かに新種が生み出された.Traugott はロマンス,演劇,科学的文章,手紙といったジャンルを指摘しているが,その他にもフランス語(およびラテン語)の影響を受けた,あるいは混合した多言語使用の散文や韻文なども挙げられるだろう.
 ほかに中英語後期には英語の書き言葉の標準化 (standardisation) も起こり始めており,誰がいつどこで標準変種を用いたのか,用いなかったのかといった社会語用論的な問題も議論の対象となるだろう.

 ・ Traugott, Elizabeth Closs. "Middle English: Pragmatics and Discourse" Chapter 30 of English Historical Linguistics: An International Handbook. 2 vols. Ed. Alexander Bergs and Laurel J. Brinton. Berlin: Mouton de Gruyter, 2012. 466--80.

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