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cognate - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-11-17 12:29

2019-10-09 Wed

#3817. hale の語根ネットワーク [etymology][oe][word_family][lexicology][old_norse][word_formation][affixation][derivation][cognate]

「#1783. whole の <w>」 ([2014-03-15-1]),「#3275. 乾杯! wassail」 ([2018-04-15-1]) の記事で触れたように,hail, hale, heal, holy, whole, wassail などは同一語根に遡る,互いに語源的に関連する語群である.古英語 hāl (完全な,健全な,健康な)からの派生関係をざっと見てみよう.
 まず,古英語 hāl の直接の子孫が,halewhole である.後者は,それ自体が基体となって wholesome, wholesale, wholly などが派生している.
 次に名詞接尾辞を付した古英語 hǣlþ からは,お馴染みの単語 health, healthy, healthful が現われている.
 動詞形 hǣlan からは heal, healer が派生した.また,行為者接尾辞を付した Hælend は「救済者(癒やす人)」を意味する重要な古英語単語だった.
 形容詞接尾辞を付加した hālig からは holy, holiness, holiday が派生している.hālig を元にして作られた動詞 hālgian からは,hallow, Halloween が現われている.
 一方,古英語 hāl に対応する古ノルド語の同根語 heill の影響化で,hail, hail from, hail fellow, wassail なども英語で用いられるようになった.
 古英語の語形成の豊かさと意味変化・変異の幅広さを味わうには,うってつけの単語群といえるだろう.以上,Crystal (22) より.

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 3rd ed. Cambridge: CUP, 2019.

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2018-03-29 Thu

#3258. 17世紀に作られた動詞派生名詞群の呈する問題 (1) [synonym][lexical_blocking][loan_word][borrowing][renaissance][inkhorn_term][emode][lexicology][word_formation][suffix][affixation][neologism][derivation][cognate]

 英国ルネサンス期の17世紀には,ラテン語やギリシア語を中心とする諸言語から大量の語彙が借用された.この経緯については,これまで「#478. 初期近代英語期に湯水のように借りられては捨てられたラテン語」 ([2010-08-18-1]),「#114. 初期近代英語の借用語の起源と割合」 ([2009-08-19-1]),「#1226. 近代英語期における語彙増加の年代別分布」 ([2012-09-04-1]) などの記事で様々な角度から取り上げてきた.この時代には,しばしば「同じ語」が異なった接尾辞を伴って誕生するという現象が見られた.例えば,すでに1586年に discovery が英語語彙に加えられていたところに,17世紀になって同義の discoverancediscoverment も現われ,短期間とはいえ競合・共存したのである(関連して,「#3157. 華麗なる splendid の同根類義語」 ([2017-12-18-1]) も参照).
 以下は,Bauer (186) が OED から収集した,17世紀に初出する動詞派生名詞の組である.

abutmentabuttal 
bequeathalbequeathment 
bewitcherybewitchment 
commitmentcommittalcommittance
composalcompositure 
comprisalcomprisementcomprisure
concumbenceconcumbency 
condolementcondolence 
conducenceconducency 
contrivalcontrivance 
depositationdepositure 
deprivaldeprivement 
desistancedesistency 
discoverancediscoverment 
disfigurationdisfigurement 
disprovaldisprovement 
disquietaldisquietment 
dissentationdissentment 
disseverationdisseverment 
encompassmentencompassure 
engraftmentengrafture 
exhaustmentexhausture 
exposalexposementexposure
expugnanceexpugnancy 
expulsationexpulsure 
extendmentextendure 
impartmentimparture 
imposalimposementimposure
insistenceinsisture 
interposalinterposure 
pretendencepretendment 
promotementpromoval 
proposalproposure 
redamancyredamation 
renewalrenewance 
reposancereposure 
reservalreservancy 
resistalresistment 
retrievalretrievement 
returnalreturnment 
securancesecurement 
subdualsubduement 
supportmentsupporture 
surchargementsurchargure 


 これらの語のなかには,現在でも標準的なものもあれば,すでに廃語となっているものもある.短期間しか用いられなかったものもあれば,広く受け入れられたものもある.17世紀より前か後に作られた同義の派生名詞と競合したものもあれば,そうでないものもある.この時代の後,現代に至るまでに,これらの2重語や3重語の並存状況が整理されていったケースもあれば,そうでないケースもある.整理のされ方が lexical_blocking の原理により説明できるものもあれば,そうでないものもある.つまり,これらの組について一般化して言えることはあまりないのである.
 17世紀に限らないとはいえ,とりわけこの世紀に,互いに意味を違えない派生名詞が複数作られ,競合・共存したという事実は何を物語るのだろうか.ラテン語やギリシア語から湯水のように語を借用した結果ともいえるし,それらから抽出した名詞派生接尾辞を利用して無方針に様々な派生名詞を造語していった結果ともいえる.しかし,Bauer (197) は社会言語学的な観点から,次のように示唆している.

Individual ad hoc decisions on relevant forms may or may not be picked up widely in the community. . . . [I]t is clear from the history which the OED presents that the need of the individual for a particular word is not always matched by the need of the community for the same word, with the result that multiple coinages are possible.


 いずれにせよ,この歴史的事情が,現代英語の動詞派生名詞の形態に少なからぬ不統一と混乱をもたらし続けていることは事実である.今後,整理されてゆくとしても,おそらくそれには数世紀という長い時間がかかることだろう.

 ・ Bauer, Laurie. "Competition in English Word Formation." Chapter 8 of The Handbook of the History of English. Ed. Ans van Kemenade and Bettelou Los. Malden, MA: Blackwell, 2006. 177--98.

Referrer (Inside): [2018-06-27-1] [2018-03-30-1]

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2017-12-18 Mon

#3157. 華麗なる splendid の同根類義語 [cognate][synonym][lexicology][inkhorn_term][emode][borrowing][loan_word][renaissance][thesaurus][htoed][renaissance]

 「#576. inkhorn term と英語辞書」 ([2010-11-24-1]) の記事で,ルネサンス期のラテン語かぶれの華美を代表する単語の1つとして splendidious を挙げた.この語は現在では廃用となっているが,その意味は現代でも普通に用いられる splendid と同じ「華麗な,豪華な」である.前者はルネサンス華やかなりし15世紀から用いられており,後者も単語としては17世紀前半には初出している(ただし,語義によって初出年代が異なる).この15--17世紀には,語根も意味も同じくする splendid 系の単語がいくつも現われては消えていったのである.HTOED より splendid の項を覗いてみると,次のようにある.

02.04.05.03 (adj.) Splendid
   þurhbeorht OE ・ geatolic OE ・ torht OE ・ torhtlic OE ・ wrætlic OE ・ orgulous/orgillous a1400 ・ splendidious 1432/50--1653 ・ splendiferous c1460--1546 ・ splendent 1509-- ・ splendant 1590-- ・ splendorous 1591-- ・ splendidous 1605--1640 ・ transplendent 1622; 1854 ・ florid 1642--1725 ・ splendious 1654 ・ splendid 1815-- ・ splendescent 1848-- ・ nifty 1868-- ・ ducky 1897-- (colloq.) ・ many-splendoured a1907--


 歴史的に splendidious, splendiferous, splendent, splendant, splendorous, splendidous, splendious, splendid, splendescent, splendoured の10語が,互いに比較的近接した時期に現われ,大概は後に消えている(ただし,手持ちの英和辞書では,splendiferous, splendent, splendorous は見出しが立てられていた).
 基体(ラテン語あるいはフランス語由来)も意味も同じくする類義語 (synonym) がこのように複数あったところで,害こそあれ利はない.それで多くの語が競合し,自滅していったのだろう.
 Kay and Allan (15) も,この語群に言及しつつ次のように述べている.

Sometimes there was a degree of experimentation over the form of a new word. In the sixteenth and seventeenth centuries, the OED records the following forms meaning 'splendid': splendant, splendicant, splendidious, splendidous, splendiferous, splendious and splendorous. Splendid itself is first recorded in 1624. Unsurprisingly, most of these forms were short-lived; no language needs quite so many similar words for the same concept.


 対応する名詞についても HTOED より抜き出すと,"splendency a1591--1607 ・ splendancy 1591 ・ splendence 1604 ・ splendour 1774-- ・ splendiferousness 1934--" とやはり豊富である.

 ・ Kay, Christian and Kathryn Allan. English Historical Semantics. Edinburgh: Edinburgh UP, 2015.

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2017-08-22 Tue

#3039. 連載第8回「なぜ「グリムの法則」が英語史上重要なのか」 [grimms_law][consonant][loan_word][sound_change][phonetics][french][latin][indo-european][etymology][cognate][germanic][romance][verners_law][sgcs][link][rensai]

 昨日付けで,英語史連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」の第8回の記事「なぜ「グリムの法則」が英語史上重要なのか」が公開されました.グリムの法則 (grimms_law) について,本ブログでも繰り返し取り上げてきましたが,今回の連載記事では初心者にもなるべくわかりやすくグリムの法則の音変化を説明し,その知識がいかに英語学習に役立つかを解説しました.
 連載記事を読んだ後に,「#103. グリムの法則とは何か」 ([2009-08-08-1]) および「#102. hundredグリムの法則」 ([2009-08-07-1]) を読んでいただくと,復習になると思います.
 連載記事では,グリムの法則の「なぜ」については,専門性が高いため触れていませんが,関心がある方は音声学や歴史言語学の観点から論じた「#650. アルメニア語とグリムの法則」 ([2011-02-06-1]) ,「#794. グリムの法則と歯の隙間」 ([2011-06-30-1]),「#1121. Grimm's Law はなぜ生じたか?」 ([2012-05-22-1]) をご参照ください.
 グリムの法則を補完するヴェルネルの法則 (verners_law) については,「#104. hundredヴェルネルの法則」 ([2009-08-09-1]),「#480. fatherヴェルネルの法則」 ([2010-08-20-1]),「#858. Verner's Law と子音の有声化」 ([2011-09-02-1]) をご覧ください.また,両法則を合わせて「第1次ゲルマン子音推移」 (First Germanic Consonant Shift) と呼ぶことは連載記事で触れましたが,では「第2次ゲルマン子音推移」があるのだろうかと気になる方は「#405. Second Germanic Consonant Shift」 ([2010-06-06-1]) と「#416. Second Germanic Consonant Shift はなぜ起こったか」 ([2010-06-17-1]) のをお読みください.英語とドイツ語の子音対応について洞察を得ることができます.

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2017-05-19 Fri

#2944. ship, skiff, skip(per) [doublet][etymology][phonetics][palatalisation][consonant][digraph][cognate][germanic][sgcs][loan_word][dutch]

 「#1511. 古英語期の sc の口蓋化・歯擦化」 ([2013-06-16-1]) でみたように,ゲルマン語の [sk] は後期古英語期に口蓋化と歯擦化を経て [ʃ] へと変化した.後者は,古英語では scip (ship) のように <sc> という二重字 (digraph) で綴られたが,「#2049. <sh> とその異綴字の歴史」 ([2014-12-06-1]) で説明したとおり,中英語期には新しい二重字 <sh> で綴られるようになった.
 ゲルマン諸語の同根語においては [sk] を保っていることが多いので,これらが英語に借用されると,英語本来語とともに二重語 (doublet) を形成することになる.英語本来語の shirt と古ノルド語からの skirt の関係がよく知られているが,標題に挙げた ship, skiff, skip(per) のような三重語ともいうべき関係すら見つけることができる.
 「船」を意味する古高地ドイツ語の単語は scif,現代ドイツ語では Schiff である.語末子音 [f] は,第2次ゲルマン子音推移 (sgcs) の結果だ.古高地ドイツ語 sciff は古イタリア語へ schifo として借用され,さらに古フランス語 esquif を経て中英語へ skif として小型軽装帆船を意味する語として入った.これが,現代英語の skiff である.フランス語の equip (艤装する)も関連語だ.
 一方,語頭の [sk] を保った中オランダ語の schip に接尾辞が付加した skipper は,小型船の船長を意味する語として中英語に入り,現在に至る.この語形の接尾辞部分が短縮され,結局は skip ともなり得るので,ここでみごとに三重語が完成である.skipper については,「#2645. オランダ語から借用された馴染みのある英単語」 ([2016-07-24-1]) も参照.
 なお,語根はギリシア語 skaptein (くり抜く)と共通しており,木をくりぬいて作った丸木船のイメージにつながる.

Referrer (Inside): [2018-07-22-1]

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2017-01-25 Wed

#2830. carnage (3) [etymology][indo-european][cognate][word_family]

 連日この語にこだわっているが,今回は純粋に語源の話を. carnage の語根が「肉」を意味するラテン語根 carn-, carō に遡ることは既に述べたが,さらに印欧語根まで遡ると,*(s)ker- にたどり着く.「#2477. 英語にみられる20進法の残滓」 ([2016-02-07-1]) の記事で score という語に関連して少し触れたが,この *(s)ker- は「切る」 (to cut) を原義とする.意味のつながりは「切り分けられた肉」ほどだろうか.昨日の記事 ([2017-01-24-1]) で述べたように,carnage 「殺戮」の「戮」には「ばらばらに切ってころす」の意味があることにも留意したい.
 印欧語根の意味がかくも基本的であるから,その語根ネットワークは幅広いはずである.語源辞典を調べてみると,次のような英単語群が究極的に同語根となる.

 ・ 古英語経由:scurf, shard, share, sharp, shear, shirt, short, shred, shroud, shrub
 ・ 古ノルド語経由:scar, score, scrap, scrape, scree, skerry, skirt
 ・ ラテン語経由:carnage, carnal, carnation, carnival, carnivorous, carrion, cenacle, charnel, coriaceous, cork, cortex, crone, cuirass, currier, curt, curtal, incarnate, kirtle
 ・ ギリシア語経由:coreopsis, corm

 ラテン・ギリシア語系には難解な語も多いが,本来語を含むゲルマン系のものは日常的な語も多い.
 ボキャビルのために,今回のような「語根ネットワーク」シリーズの他の記事として,「#695. 語根 fer」 ([2011-03-23-1]), 「#1043. mind の語根ネットワーク」 ([2012-03-05-1]), 「#1124. 地を這う賤しくも謙虚な人間」 ([2012-05-25-1]),「#1557. mickle, much の語根ネットワーク」 ([2013-08-01-1]),「#1602. star の語根ネットワーク」 ([2013-09-15-1]),「#1639. 英語 name とギリシア語 onoma (1)」 ([2013-10-22-1]),「#1708. *wer- の語根ネットワークと weird の語源」 ([2013-12-30-1]) もどうぞ.

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2015-08-11 Tue

#2297. 英語 flow とラテン語 fluere [latin][etymology][indo-european][cognate][comparative_linguistics][grimms_law]

 昨日の記事「#2296. flute の語源について」 ([2015-08-10-1]) でラテン語の動詞 fluere (to flow) の印欧語根 *bhleu- (to swell, well up, overflow) に触れた.この動詞の語根をもとにラテン語で様々な語彙が派生し,その多くが後に英語へ借用された.例を挙げれば,affluent, confluent, effluent, effluvium, efflux, fluctuate, fluent, fluid, flume, fluor, fluorescent, fluoride, fluoro-, flush, fluvial, flux, influence, influenza, influx, mellifluous, reflux, superfluous 等だ.
 同じ印欧語根 *bhleu- に由来する英語の本来語は存在しないが,ゲルマン系としては古ノルド語経由で bloat (to swell) が英語に入っている.この語の語頭子音 b- から分かるとおり,印欧語根の *bh はゲルマン語ではグリムの法則 (grimms_law) により b として現われる.一方,同じ *bh は,ラテン語では上に挙げた多くの例が示すように f へ変化している.結果としてみれば英語 b とラテン語 f が音韻的に対応することになり,このことは,別の語根からの例になるが bear vs fertile, bloom vs flower, break vs fragile, brother vs fraternal など数多く挙げることができる.
 さて,次に英語 flow について考えよう.上記のラテン語 fluere と意味も形態も似ているので,つい同根と勘違いしてしまうが,語源的には無縁である.英語の f は,グリムの法則を逆算すれば,印欧祖語で *p として現われるはずであり,後者はラテン語へそのまま p として受け継がれる.つまり,共時的には英語 f とラテン語 p が対応することになる (e.g. father vs paternal, foot vs pedal, fish vs Pisces) .実際,flow の印欧語根として再建されているのは *pleu- (to flow) である.
 *pleu- を起源とする英語本来語としては,fledge, flee, fleet, fley, flight, float, flood, flow, flutter, fly, fowl などが挙げられる.古ノルド語経由で英語に入ってきたものとしては,flit, flotilla がある.その他,(flèche, fletcher), flotsam, (flue [flew]), fugleman などもゲルマン語を経由してきた単語である.
 ラテン語では,印欧語根 *pleu- をもとに,例えば pluere (to rain) が生じたが,これに関連するいくつかの語が英語へ入った (e.g.pluvial, pulmonary) .ギリシア語でも印欧語根の子音を保ったが,Pluto, plut(o)-, plutocracy, pneumonia, pyel(o)- 等が英語に入っている.ケルト語から「滝」を表わす linn も同根である.
 上記のように,英語 flow とラテン語 fluere は,それぞれ印欧語根 *pleu- (to flow) と *bhleu- (to swell, well up, overflow) に遡り,語源的には無縁である.しかし,共時的には両単語は意味も形態も似ており,互いに関係しているはずと思うのも無理からぬことである.例えば,ともに「流入」を意味する inflowinflux が語源的に無関係といわれれば驚くだろう(反対語はそれぞれ outflowefflux である).古英語でも,ラテン語 fluere に対する訳語としてもっぱら本来語 flōwan (> PDE flow) を当てていたという事実があり,共時的に両者を結びつけようとする意識があったように思われる.
 比較言語学に基づいて語源を追っていると,flowfluere のように,互いに似た意味と形態をもっている語のペアが,実は語源的に無縁であるとわかって驚く機会が時折ある.典型的なのが,英語の have とラテン語 habēre (及びラテン語形に対応するフランス語 avoir)である.形態も似ているし「持っている」という主たる語義も共通であるから同根かと思いきや,語源的には無関係である.他にも『英語語源辞典』(pp. 1666--67) の「真の語源と見せかけの語源」を参照されたい

 ・ 寺澤 芳雄 (編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.

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2015-08-10 Mon

#2296. flute の語源について [etymology][blend][indo-european][cognate]

 7月28日付けで掲示板に質問をいただいた flute の語源について,少し調べてみたところを報告したい.
 様々な語源辞書を引き比べたところ,いずれも最終的にはおよそ語源不詳という結果に行き着いた.しかし,共通して不詳とされているのは語末子音 /t/ の部分であり,語頭子音群 /fl/ に関しては,ラテン語の動詞 flāre (to breathe; to blow) あるいは flagrāre (to flame) の語頭子音群と語源的に一致しており,いずれも印欧語根 *bhel- (to shine, flash, burn) に遡ると考えてよさそうだ.つまり,語頭部分に関する限り,ラテン語やその娘言語からの借用語 flagrant, flame, flamboyant, flamenco, flamingo などと語根を同じくするといえる.英語本来語でいえば,blow も同根である.フルートは「吹く」ものということだ.
 注意したいのは,この印欧語根 *bhel- は,affluent, fluent, fluid, influence などのラテン語根 fluere (to flow) とは直接には関係しないようだということである.こちらは,異なる印欧語根 *bhleu- (to swell, well up, overflow) に遡る.ただ,2つの印欧語根 *bhel- と *bhleu- のあいだに直接的な関係はなさそうだとはいっても,完全に無関係なのかどうかは,比較言語学の高度に専門的な部分なので私には踏み込むことができない(語源辞書には後者から前者へ cf. が付されていた).
 上では flute の語頭子音群について,やや込み入った説明を施したが,次に語末子音 /t/ について見てみよう.この語は,意味的に考えて flageolet (フラジオレット;高音の縦笛)と関係があるだろうということは認めてよさそうだ.flageolet は,同楽器を意味する古プロヴァンス語の形態 flaujol や古フランス語の形態 flageol, flajol に指小辞がついたものである.ここで問題は,古プロヴァンス語の flaujol などを出発点として,いかにして flute という形態が生じうるかである.Oxford 系の語源辞書を始め多くの辞書では,別の楽器 lute (リュート;琵琶に似た弦楽器)の古プロヴァンス語形 laüt を後ろに添えて複合語とした *flaujollaüt から作られた混成語 (blend) ではないかという提案がなされている.
 しかし,比較的よく支持されているようにみえるこの混成語説は,Barnhart の語源辞書では否定的に扱われている(以下に引用).端的にいえば,フルートとリュートは,ともに楽器であること以外の共通点はなく,語源的な絡みを想定するのは強引だろうという意見だ.そう言われると,確かに強引な気もする.

flute n. Before 1325 floute the musical instrument; earlier, implied in flouter a flutist (1225, as a surname); borrowed from Old French flaüte, fleüte, from Old Provençal flaüt, of uncertain origin; perhaps an alteration of flaujol (in Old French flajol) FLAGEOLET with some unknown form, but probably not lute as is often suggested, because in particular the lute was a stringed instrument held and played in a different manner that had no suggestion of the flute about it.


 全体としてまとめれば,flute の語末子音 /t/ の由来については何ともいえないが,語頭子音群 /fl/ については,「吹く」を意味するラテン語 flāre と同根であると言える(ただし,「流れる」を意味するラテン語 fluere とは同根ではない点に注意).

 ・ Barnhart, Robert K. and Sol Steimetz, eds. The Barnhart Dictionary of Etymology. Bronxville, NY: The H. W. Wilson, 1988.

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2015-07-22 Wed

#2277. 「行く」の意味の repair [etymology][latin][loan_word][homonymy][doublet][indo-european][cognate]

 repair (修理する)は基本語といってよいが,別語源の同形同音異義語 (homonym) としての repair (行く)はあまり知られていない.辞書でも別の語彙素として立てられている.
 「修理する」の repair は,ラテン語 reparāre に由来し,古フランス語 réparer を経由して,中英語に repare(n) として入ってきた.ラテン語根 parāre は "to make ready" ほどを意味し,印欧祖語の語根 *perə- (to produce, procure) に遡る.この究極の語根からは,apparatus, comprador, disparate, emperor, imperative, imperial, parachute, parade, parasol, pare, parent, -parous, parry, parturient, prepare, rampart, repertory, separate, sever, several, viper, parent, prepare などの語が派生している.
 一方,「行く」の repair は起源が異なり,後期ラテン語 repatriāre が古フランス語で repairier と形態を崩して,中英語期に repaire(n) として入ってきたものである.したがって,英語 repatriate (本国へ送還する)とは2重語を構成する.語源的な語根は,patria (故国)や pater (父)であるから,「修理する」とは明らかに区別される語彙素であることがわかる.印欧祖語 *pəter- (father) からは,ラテン語経由で expatriate, impetrate, padre, paternal, patri-, patrician, patrimony, patron, perpetrate が,またギリシア語経由で eupatrid, patriarch, patriot, sympatric が英語に入っている.
 現代英語の「行く」の repair は,古風で形式的な響きをもち,「大勢で行く,足繁く行く」ほどを意味する.いくつか例文を挙げよう.最後の例のように「(助けなどを求めて)頼る,訴える,泣きつく」の語義もある.

 ・ After dinner, the guests repaired to the drawing room for coffee.
 ・ (humorous) Shall we repair to the coffee shop?
 ・ He repaired in haste to Washington.
 ・ May all to Athens backe againe repaire. (Shakespeare, Midsummer Night's Dream iv. i. 66)
 ・ Thither the world for justice shall repaire. (Sir P. Sidney tr. Psalmes David ix. v)


 中英語からの豊富な例は,MEDrepairen (v) を参照されたい.

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2015-01-04 Sun

#2078. young + -th = youth? [suffix][phonetics][cognate][consonant]

 抽象名詞を作る接尾辞 -th については「#14. 抽象名詞の接尾辞-th」 ([2009-05-12-1]),「#16. 接尾辞-th をもつ抽象名詞のもとになった動詞・形容詞は?」 ([2009-05-14-1]),「#595. death and dead」 ([2010-12-13-1]),「#1787. coolth」 ([2014-03-19-1]) で取り上げてきた.音韻変化や類推などの複雑な経緯により,基体と -th を付した派生語との関係が発音や綴字の上では見えにくくなっているものも多いが,そのような例の1つに young -- youth のペアがある.long -- length, strong -- strength では,語幹末の ng が保たれているのに,young の名詞形では鼻音が落ちて youth となるのは何故か.
 古英語では基体となる形容詞は geong,派生名詞は geoguþ であり,後者ではすでに鼻音が脱落している.ゲルマン諸語での同根語をみてみると,Old Saxon juguð, Dutch jeugd, Old High German jugund, German jugend と鼻音の有無で揺れているが,低地ゲルマン諸語で名詞形の鼻音が落ちているようだ.西ゲルマン祖語では *jugunþin が再建されている(ラテン語 juvenis (adj.), juventa (n.) も参照).Partridge によると,"OE geong has derivative geoguth or geogoth---a collective n---prob an easing of *geonth" とあり,発音の便のために問題の鼻音が落ちたということらしい.詳しくは未調査だが,印欧祖語の段階より young の語幹末の振る舞いは longstrong のそれとは異なるものだったようだ.なお,14世紀初頭には形容詞 young からの素直な類推による youngth に相当する形態も行われている.
 ちなみに OED によると,古英語 geoguþ は,動詞 dugan (to be good or worth) の名詞形 duguþ (worth, virtue, excellence, nobility, manhood, force, a force, an army, people) とゲルマン語の段階で類推関係にあった可能性があるという.古英語 duguþ は中英語へは douth として伝わったが,1400年頃を最終例として廃用となった.

 ・ Partridge, Eric Honeywood. Origins: A Short Etymological Dictionary of Modern English. 4th ed. London: Routledge and Kegan Paul, 1966. 1st ed. London: Routledge and Kegan Paul; New York: Macmillan, 1958.

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2013-10-22 Tue

#1639. 英語 name とギリシア語 onoma (1) [etymology][indo-european][loan_word][cognate][word_family]

 10月5日付けで「素朴な疑問」に寄せられた疑問より.

Online Etymology Dictionaryでnameを調べますと、"PIE *nomn-"とあり、ほとんどの言語において"n"で始まっていますが、Greekなど一部で"n"の前に母音があるのを不思議に思いました。何か訳があるのだろうと思います。ご教示いただけるとうれしいです。


 英語 name は基礎語として,多くの印欧諸語に同族語 (cognate) がみられる.以下は,OED より同族語の例一覧である.

Cognate with Old Frisian nama, noma (West Frisian namme), Middle Dutch name, naem (Dutch naam), Old Saxon namo (Middle Low German nāme, nām), Old High German namo, nammo (Middle High German name, nam, German Name), Old Icelandic nafn, namn, Norn (Shetland) namn, Old Swedish nampn, namn (Swedish namn), Danish navn, Gothic namo, and further with Sanskrit nāman, Avestan nāman-, ancient Greek ὄνομα, classical Latin nōmen, Early Irish ainm (Irish ainm), Old Welsh anu (Welsh enw, henw), Old Church Slavonic imw (genitive imene), Russian imja (genitive imeni), Old Prussian emmens, etc.


 ゲルマン諸語,ラテン語を始めとして多くの言語で語頭の n を示す.これ以外にも Tocharian A ñom, Tocharian B ñem, Hittite lāman (先行する nāman からの語頭子音の異化により)なども,語頭 n をもつ仲間とみてよい.しかし,ギリシア語 ὄνομα を筆頭に,上記引用の後半に挙がっている数例では n の前に母音が示されている.この母音は何なのだろうか.
 この問題を考察するに先だって,name の語根ネットワークで英語語彙を広げておこう (以下,Watkins 59 より).まずは,ゲルマン祖語の namōn- から古英語の nama を経て,現代英語の基礎語 name がある.次に,ラテン語 nōmen (name, reputation) から,nominal, nominate, noun; agnomen, binomial, cognomen, denominate, ignominy, misnomer, nomenclator, nuncupative, praenomen, pronoun, renown など多くの語が英語に借用されている.そして,ギリシア語 onoma, onuma からは,onomastic, -onym, -onymy; allonym, anonymous, antonomasia, eponym, eponymous, euonymus, heteronymous, homonymous, matronymic, metonymy, onomatopoeia, paronomasia, paronymous, patronymic, pseudonym, synonymous が入っている.最後に,古アイルランド語 ainm から moniker (name (humorously)) が英語に取り込まれた.
 上記のように英単語にもギリシア語系の onoma が多く反映されているので,この最初の o が何であるのかは確かに気になるところである.『英語語源辞典』では,Gk ónomao- は語頭添加音 (prosthesis) ではないかとしているが,印欧語比較言語学ではまた別の議論が展開されている.それについては,明日の記事で.

 ・ Watkins, Calvert, ed. The American Heritage Dictionary of Indo-European Roots. 2nd Rev. ed. Boston: Houghton Mifflin, 2000.
 ・ 寺澤 芳雄 (編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.

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2013-09-15 Sun

#1602. star の語根ネットワーク [etymology][indo-european][loan_word][cognate][word_family]

 「#1597. starstella」 ([2013-09-10-1]) で star の諸言語における同根語を挙げたが,今回は star と印欧語根を同じくする英単語群をさらに列挙したい.
 ゲルマン語系からは,本来語の star が残っているにすぎない.印欧祖語で接尾辞つきの *stēr-lā- に由来するラテン語 stella からは,stellar, stellate, constellation などが入ったことは既述のとおりである.他にも,stellion (星状うろこを尾にもつトカゲ),stellify ([神話などで人を]星に変える)などがある.一方,印欧祖語の基底形 *əster- に由来するギリシア語の astēr やその派生形 astron からは,aster, asteriated, asterisk, asterism, asteroid, astral, astro- (ex. astrology, astronomer, astronomy); astraphobia, disaster などが英語に入った.ペルシャ語 sitareh (star) からは,固有名詞 Esther が借用された.
 disaster と星が関係しているのに興味を覚えるかもしれない.中世の占星術では,惑星の運行が人の運命・運勢に決定的な影響を及ぼすものと考えられていた.幸運をもたらす惑星が近くにないとき,つまり dis- (away from) + aster (star) のとき,人は災難に遭うものと信じられたのである.
 本ブログでの他の「語根ネットワーク」シリーズとしては,「#695. 語根 fer」 ([2011-03-23-1]), 「#1043. mind の語根ネットワーク」 ([2012-03-05-1]), 「#1124. 地を這う賤しくも謙虚な人間」 ([2012-05-25-1]),「#1557. mickle, much の語根ネットワーク」 ([2013-08-01-1]) を参照.

 ・ Watkins, Calvert, ed. The American Heritage Dictionary of Indo-European Roots. 2nd Rev. ed. Boston: Houghton Mifflin, 2000.
 ・ 福島 治 編 『英語派生語語源辞典』 日本図書ライブ,1992年.
 ・ ジョーゼフ T. シップリー 著,梅田 修・眞方 忠道・穴吹 章子 訳 『シップリー英語語源辞典』 大修館,2009年.

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2013-08-01 Thu

#1557. mickle, much の語根ネットワーク [etymology][indo-european][suffix][cognate][word_family]

 「#564. Many a little makes a mickle」 ([2010-11-12-1]) と「#1410. インク壺語批判と本来語回帰」 ([2013-03-07-1]) の記事で,現在では古風とされる「多量」を意味する mickle という語について述べた.現代英語の much に連なる古英語 myċel と同根であり,第2子音の変形,あるいは古ノルド語 mikill の借用を経て,中英語の主として中部・北部方言において /k/ をもつようになった形態である.中英語以降は,南部方言で普通だった much が優勢になり,mickle を追い出しつつ標準語へ入った.なお,上述の古英語 myċel と古ノルド語 mikill は,接尾辞付きのゲルマン祖語 *mik-ila- に遡る.
 ゲルマン祖語よりもさらに遠く語源を遡ると,これらの「大きい,多い」を表わす語は,印欧祖語 *meg- にたどり着く.この語根から派生した語はおびただしく,その多くが様々な経路を通じて英語に入ってきている.
 接尾辞付きの印欧祖語 *mag-no より発展したラテン語 magnus (great) に基づいた語で,英語に入ったものとしては,magnate, magnitude, magnum; magnanimous, magnific, magnificent, magnifico, magnify, magniloquent などがある.
 比較級語尾をつけた印欧祖語 *mag-yos- (ラテン語 māior)からは,major, major-domo, majority, majuscule, mayor があり,それを名詞化した形態をもとに maestoso, majesty, maestro, magisterial, magistral, magistrate, master, mister, mistral, mistress も借用された.また,最上級語尾をつけた印欧祖語 *mag-samo- (ラテン語 maximus) からは,maxim, maximum が入っている.
 女性語尾をつけた印欧祖語 *mag-ya- からは,ラテン語の女神 Maia が生まれており,英語としては may (《古》少女,娘)が同根である.
 別の接尾辞をつけた印欧祖語 *meg-ə-(l-) は,ギリシア語を経由して,acromegaly, omega などのみならず,mega-, megalo- を接頭辞としてもつ多くの語が英語に入った.ギリシア語の最上級 megistos をもとにした語としては,almagest, Hermes Trismegistus が入っている.
 サンスクリット語の同根の mahā-, mahat- からは,Mahabharata, maharajah, maharani, maharishi, mahatma, Mahayana, mahout が英語に伝わっている.
 mickle, much の同根語については,スペースアルクの語源辞典も参照.他の語根のネットワークを扱った記事としては,「#695. 語根 fer」 ([2011-03-23-1]), 「#1043. mind の語根ネットワーク」 ([2012-03-05-1]), 「#1124. 地を這う賤しくも謙虚な人間」 ([2012-05-25-1]) を参照.

 ・ Watkins, Calvert, ed. The American Heritage Dictionary of Indo-European Roots. 2nd Rev. ed. Boston: Houghton Mifflin, 2000.

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2012-05-25 Fri

#1124. 地を這う賤しくも謙虚な人間 [etymology][folk_etymology][loan_word][cognate][word_family]

 印欧祖語で "earth" を意味する *dhghem- の派生語はおびただしい.天の神に対する,地の「人間」 (L homo) ,地は低きものという連想による「低い,賤しい,謙遜な」 (L humilis) 辺りを基本として,*dhghem- 単語群が生まれ,様々な経路で現代英語の語彙にも入り込んでいる.
 ラテン語あるいは他のロマンス諸語から借用したものは,もっとも数が多い.対応する形態素の子音は h または h の脱落した無音である.ex. bonhomie, exhumation, exhume, exhume, homage, hombre, homicide, homicide, Hominidae, hominoid, homo, Homo sapiens, homunculus, human, human, humane, humane, humanism, humanist, humanistic, humanitarian, humanitarianism, humanities, humanity, humanization, humanize, humankind, humanly, humble, humble, humbly, humiliate, humiliate, humiliating, humiliation, humility, humility, humus, inhume, ombre, omerta, transhumance.
 ギリシア語に由来するものは,形態素の頭の子音が /kh/ <ch> となっている(ただし,ラテン語を経由して g のものもある).ex. autochthon, chamae-, chamaephyte, chameleon, chamomile, chthonic, germander.
 次に,土壌に関する専門用語 chernozem (チェルノーゼム,黒土), sierozem (シーロゼム,灰色土),また zemstvo (ゼムストボオ,帝政ロシアの地方自治体機関)は,対応する古ロシア語の z をもつ形態素から派生した語を借用したものである.同じく z をもつ zamindar (徴税請負人)はペルシア語からである.
 最後に,英語本来語に遡れるものとしては bridegroom の第2要素がある.この語は,[2011-09-29-1]の記事「#885. Algeo の新語ソースの分類 (3)」の 50 で,folk_etymology (民間語源)の例として挙げられているもので,*dhghem- と直接の語源的関係はないが,間接的には関わっている.古英語で「人」を表わす語は様々あったが,その1つに *dhghem- に由来する guma があった.これと brȳd (花嫁)が合わさって複合語 brȳdguma (花嫁の人(男)=花婿)が古英語から用いられていた.他のゲルマン諸語にも,オランダ語 bruidegom,ドイツ語 Bräutigam,古ノルド語 brúðgumi などの同根語が確認される.この古英語形は,中英語へも bridgome などの形で受け継がれたが,15世紀には一旦廃れた.代わりに, bride が花嫁のみならず花婿も表わす語として用いられるようになった.そして,16世紀になって聖書のなかで bridegroom が突如として初出する.これが,後続の聖書や Shakespeare に継承され定着した.
 15世紀に語源的な bridgome が消えて,16世紀に bridegroom が生じた経緯については不明な点が多い.第2要素 -gome が音声的な類似および意味の適合(groom は「若者」を意味した)から -groom に置換されたという一種の民間語源説が有力だが,bride が一時単独で「花婿」を表わした事実を考えると,-gome と -groom の置換ではなく,bride (花婿)と groom (若者)が新しく複合したのではないかという説もある.
 本記事の内容と類似した語根ネットワークの話題については,[2012-03-05-1]の記事「#1043. mind の語根ネットワーク」も参照.

 ・ Watkins, Calvert, ed. The American Heritage Dictionary of Indo-European Roots. 2nd Rev. ed. Boston: Houghton Mifflin, 2000.

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2012-03-05 Mon

#1043. mind の語根ネットワーク [etymology][indo-european][cognate][word_family]

 [2012-03-01-1]の記事「#1039. 「心」と -ment」でラテン語 mens (心)を取りあげた.この語は印欧祖語の *men- (考える)に遡り,予想される通り,この語幹から派生した語はおびただしい.そして,多くが直接あるいは間接に英語の語彙にも定着している.現代英語に確認される *men- 派生語の一部を,借用元言語別に図示してみよう.これらは,『英語語源辞典』の印欧語根表から取り出した語群である.

IE stem men- and Its Word Family

 これらの語それ自体が基体となって,さらに派生や複合により関連語が形成されているので,*men- に由来する単語の家族は相当な大きさになる.福島先生の『英語派生語語源辞典』により,できるかぎり挙げてみると,上の語群と重複もあるが,以下の通り.

commemorate, commemoration, memory, memoir, memorandum, memo, memorial, immemorial, immemorially, memorable, memorability, memorabilia, immemorable, memorialize, memorize, memorization, memento, mental, mentally, mentality, mention, mentionable, mentor, mnemonic, mnemonics, amentia, amnesia, amnesty, comment, commentary, commentation, dement, dementia, mind, mindful, mindfully, mindless, remember, remembrance, remind, reminder, reminisce, reminiscence, reminiscent; admonish, admonition, demonstrate, demonstrate, demonstrative, monition, monitor, monster, monstrous, monstrosity, remonstrate, remonstrance; vehement, vehemence


 ある印欧語根を選ぶと,このような語源的な word family の図がさっと表示されるようなツールがあるとよいのだが・・・.

 ・ 寺澤 芳雄 (編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.
 ・ 福島 治 編 『英語派生語語源辞典』 日本図書ライブ,1992年.
 ・ Watkins, Calvert, ed. The American Heritage Dictionary of Indo-European Roots. 2nd Rev. ed. Boston: Houghton Mifflin, 2000.

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2011-03-23 Wed

#695. 語根 fer [etymology][loan_word][latin][grimms_law][morphology][cognate][word_family]

 先日,fer という語根についてブログ上で質問があった.「ferという語根は印欧語のpor(前)、bher(宿す)から由来するとのことなのですが、これら2つの『fer』はどのように異なるのでしょうか?」
 ここで英語の語根として言及されている fer は,実際には2種類が区別される.1つはラテン・フランス語語由来(より広くロマンス系)のもの,もう1つは英語本来語由来(より広くゲルマン系)のもの.2つはまったく別ものとして考える必要がある.
 まずは前者から.fer を語根に含む語はフランス語経由ではあっても原則としてラテン語由来と考えてよく,その数はおびただしい.『英語派生語語源辞典』 (413--19) やスペースアルクの語源辞典を参照してまとめると,派生語を含めてざっと64語が挙がった.

afferent, circumference, circumferential, confer, conference, defer, deference, deferential, deferment, differ, difference, different, differential, differentially, differentiate, differently, efferent, fertile, fertility, fertilization, fertilize, fertilizer, indifference, indifferency, indifferent, indifferently, infer, inferable, inference, inferential, infertile, infertility, insufferable, insufferably, interfere, interference, interferon, offer, offering, prefer, preferable, preferably, preference, preferential, preferentially, preferment, proffer, refer, referee, reference, referendary, referendum, referent, referential, suffer, sufferable, sufferance, suffering, transfer, transferable, transferee, transference, transferor, vociferous


 英語語彙にこの派生語群が存在するのは,歴史的にラテン借用が多かったからという以前に,語根であるラテン語の fer (動詞形 ferre )が「運ぶ,産む」という一般的な意味を担っていたことが大きい.ラテン語 ferre は印欧祖語 *bher- 「運ぶ,産む」へと再建される.*bh はラテン語では摩擦音 /f/ へと変化したが,ゲルマン語ではグリムの法則 ( Grimm's Law ) によって /b/ へと変化した ([2009-08-07-1], [2009-08-08-1]) .対応する古英語の beran は「運ぶ」の意味をいまだ濃厚に残していたが,現代英語の bear では「運ぶ」の語義よりも「産む,(実を)結ぶ」の語義が中心となっており,前者の語義の頻度はかつてほど高くない.
 本来語 bear とラテン借用語 offer などの関係を図式化すると以下のようになる.

Etymological Relationship between offer and bear

 次に,ラテン語根としての fer とは別に,よく似た英語本来の要素 fVr がある( V は母音).(ゲルマン祖語の語根としては *fura のような後舌母音をもつ形態が再建されており,現代標準英語でも語根 fer として明確に切り出せる例はないので,fer を英語本来の語根と呼ぶのは適切ではないだろう.)この語根を起源にもつ語としては before, far, first, for, forth, from などが挙げられる.ゲルマン語の /f/ はグリムの法則を逆にたどってゆくと印欧祖語では *p であり,この子音を保持しているラテン語の対応形が proper ということになる.この接頭辞を伴ったラテン派生語も多くが英語に借用されている ( ex. produce, profess; perform, persuade ) .
 まとめると,fer と関連付けられる語根には2種類あり,その区別はゲルマン語とロマンス語,本来語と借用語,グリムの法則の適用と不適用といった対立軸に基づいている.英語の語彙や語形成は,あらためてややこしい.

 ・ 福島 治 編 『英語派生語語源辞典』 日本図書ライブ,1992年.

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