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aphaeresis - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2020-02-19 07:19

2020-02-07 Fri

#3938. 語頭における母音の前の h ばかりが問題視され,子音の前の h は問題にもされなかった [h][sound_change][consonant][aphaeresis][phonotactics]

 昨日の記事「#3937. hospitalhumbleh も200年前には発音されていなかった?」 ([2020-02-06-1]) で,語頭が <h> で綴られていながら /h/ で発音されない小さな語群があること,またその語群のメンバーも通時的に変化してきたことをみた.そのような例外的な振る舞いを示す語群が,なぜ,どのようにして選ばれてきたのかは不明であり,今のところ恣意的(社会言語学的恣意性とでもいおうか)というよりほかないように思われる.
 選択の恣意性ということでいえば,もう1つ関連する現象がある.上記の例外の対象や h-dropping の非難が差し向けられる対象は,主にラテン語,フランス語,ギリシア語からの借用語の語頭における母音の前の h であることだ.換言すれば,h の消失や復活が社会的威信の問題となるかどうかは語源や音環境に依存しているということだ(語源との関連については「#3936. h-dropping 批判とギリシア借用語」 ([2020-02-05-1]) を参照).語源や音環境が異なるケースでは,そもそも h は問題にすらなっていないという事実がある.
 具体的にいえば,本来語の語頭において子音の前に現われる h である.古英語では hring (= "ring"), hnappian (= "to nap"), hlot (= "lot"; cf. 「#2333. a lot of」 ([2015-09-16-1])),hwīt (= "white") などの語頭の子音連鎖が音素配列上あり得たが,初期中英語期の11--12世紀に h が弱化・脱落し始めた (Minkova 108--09) .この音変化については「#3386. 英語史上の主要な子音変化」 ([2018-08-04-1]) で少し触れた程度だが,英語史上の母音の前位置での h の消失(あるいは不安定さ)とも無関係ではない.子音連鎖における h の消失は,現代の発音にも綴字にも痕跡を残さないくらいに完遂したが,hw- (後に <wh-> と綴られることになる)のみは例外といえるだろう.これについては「#1795. 方言に生き残る wh の発音」 ([2014-03-27-1]),「#3630. なぜ who はこの綴字でこの発音なのか?」 ([2019-04-05-1]),「#1783. whole の <w>」 ([2014-03-15-1]) を参照されたい.
 いずれにせよ,古英語に存在した語頭の「h + 子音」は,近代英語までに完全に消失し,音素配列的にも社会言語学的にも問題とすらなり得なかった.近代英語までに問題となり得るべく残ったのは,それ自身が長い歴史をもつ「h + 母音」における h だった.そこに音素上の問題,そしていかにも近代英語的な懸案事項である語種の問題,および社会言語学的威信の問題が絡まって,現在にまで続く「h を巡る難問」が立ち現われてきたのである.
 h を巡る問題は,このように英語史上の原因があるといえばあるのだが,究極的には恣意的と言わざるを得ない.音韻史上の必然的なインプットが,社会言語学的に恣意的なアウトプットに利用された,という風に見えるのである.

 ・ Minkova, Donka. A Historical Phonology of English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2014.

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2019-04-15 Mon

#3640. 語頭音(節)省略による2重語 [doublet][aphaeresis][shortening][abbreviation]

 英語史には,語頭音(節)省略 (aphaeresis) と呼ばれる音韻形態過程を示すの事例は少なくない.it is'tis, beneath'neath, advantagevantage, racooncoon, acutecute などである.さらに「#548. example, ensample, sample は3重語」 ([2010-10-27-1]) のような例もある.
 しばしば,このような過程のビフォーとアフターの両形が互いに意味を違えつつ併存することがあり,その場合には語源を同じくする2重語 (doublet) が生じたことになる.すでに挙げた (ad)vantage(a)cute がその例だが,他にもいくつか挙げてみよう.

 ・ complot (共謀)/ plot (陰謀)
 ・ defence (防衛)/ fence (囲い)
 ・ disport (気晴らし;楽しませる)/ sport (運動,スポーツ)
 ・ distrain (差し押さえる)/ strain (引っ張る,緊張させる)

 私たちにもなじみ深い sport =「スポーツ」の語義は,比較的新しい発達である.原形 disport は14世紀後半の Chaucer の時代に Anglo-French から借用した単語で,当初は「娯楽;気晴らし」の語義で用いられた.語頭音節省略形 sport もすぐに発達したが,語義が「運動ゲーム」へ変化するのは16世紀前半からであり.しかもこの語義の本格的な使用は19世紀後半になってからである.
 この種の2重語はボキャビルにも活用できる.「#1723. シップリーによる2重語一覧」 ([2014-01-14-1]) や「#1724. Skeat による2重語一覧」 ([2014-01-15-1]) も活用されたい.

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2010-10-27 Wed

#548. example, ensample, sample は3重語 [doublet][triplet][etymological_respelling][etymology][aphaeresis]

 現代英語に残る標題の3語は,語源を一にする3重語 ( triplet ) である.ラテン語の emere "take" に接頭辞 ex- "out" が付加された派生語 eximere がもととなり,exemplum "something taken out" が生じた.意味は「多数の中から取り出されたもの」から「手本,模範;見本,標本」へと変化した.
 ラテン語 exemplum は後に子音変化し essample としてフランス語へ入った.このフランス語の essample,あるいはさらに子音変化したアングロ・フレンチの ensample などの形態が1290年頃に英語へ借用され,後者は中英語期中に特に広く使われた.ensample は古風な響きはあるが,現在でも用いられている.
 一方,1384年頃に大本のラテン語形を参照した example も別途英語に入ってきた ( cf. etymological_respelling ) .ensampleexample は特に意味の相違なく用いられていたが,後者の方が早くから頻度としては優勢になったようである.
 さらにその一方で,1325年以前という早い段階から語頭音消失 ( aphaeresis ) による sample も英語で現われ出す.こうして,中英語後期からは3重語が併存する状況となった.
 関連語としては,exempt 「免除する」がある.これはラテン語 eximere の過去分詞 exemptus が英語に入ったもので,「取り出す」→「外へ排除する」→「免除する」という意味のつながりを示す.

Referrer (Inside): [2019-04-15-1]

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