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race - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-05-22 10:30

2019-03-05 Tue

#3599. 言語と人種 (2) [comparative_linguistics][indo-european][family_tree][biology][race][language_myth]

 「#1871. 言語と人種」 ([2014-06-11-1]) の続編.先の記事では「言語=人種」という「俗説」に光を当てた.言語と人種を同一視することはできないと主張したわけだが,もっと正確にいえば,両者を「常に」同一視することはできない,というべきだろう.常に同一視する見方に警鐘を鳴らしたのであって,イコール関係が成り立つ場合もあるし,実際には決して少なくないと思われる.少なくないからこそ,一般化され俗説へと発展しやすいのだろう.
 近年の遺伝学や人類学の発展により,ホモ・サピエンスの数万年にわたるヨーロッパなどでの移動の様子がつかめるようになってきたが,それと関係づける形で印欧語の派生や展開を解釈しようという動きも出てきた.このような研究は,上記のような俗説に警鐘を鳴らす陣営からは批判の的となるが,言語と人種をペアで考えてもよい事例をたくさん挙げることにより,この批判をそらそうとしている.
 McMahon and McMahon (19--20) もそのような論客である.一般的にいって,遺伝子と言語の間に相関関係がないと考えるほうが不自然ではないかという議論だ.

. . . since we are talking here about the histories of populations, which consist of people who both carry genes and use languages, it might be more surprising if there were no correlations between genetic and linguistic configurations. The observation of this correlation, like so many others, goes back to Darwin . . . , who suggested that, 'If we possessed a perfect pedigree of mankind, a genealogical arrangement of the races of man would afford the best classification of the various languages now spoken throughout the world'. The norm today is to accept a slight tempering of this hypothesis, such that, 'The correlation between genes and languages cannot be perfect . . .', because both languages and genes can be replaced independently, but, 'Nevertheless . . . remains positive and statistically significant' . . . . This correlation is supported by a range of recent studies. For instance, Barbujani . . . reports that, 'In Europe, for example, . . . several inheritable diseases differ, in their incidence, between geographically close but linguistically distant populations', while Poloni et al. . . . show that a group of individuals fell into four non-overlapping classes on the basis of their genetic characteristics and whether they spoke an Indo-European, Khoisan, Niger-Congo or Afro-Asiatic language. In other words, there is a general and telling statistical correlation between genetic and linguistic features, which reflects interesting and investigable parallelism rather than determinism. Genetic and linguistic commonality now therefore suggests ancestral identity at an earlier stage: as Barbujani . . . observes, 'Population admixture and linguistic assimilation should have weakened the correspondence between patterns of genetic and linguistic diversity. The fact that such patterns are, on the contrary, well correlated at the allele-frequency level . . . suggests that parallel linguistic and allele-frequency change were not the exception, but the rule.


 McMahon and McMahon とて,言語と人種の相関係数が1であるとはまったく述べていない.0というわけはない,そこそこ高い値と考えるのが自然なのではないか,というほどのスタンスだろう.それはそれで間違っていないと思うが,「常に言語=人種」の俗説たることを押さえた上での上級者向けの議論ととらえる必要があるだろう.

 ・ McMahon, April and Robert McMahon. "Finding Families: Quantitative Methods in Language Classification." Transactions of the Philological Society 101 (2003): 7--55.

Referrer (Inside): [2019-03-06-1]

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2014-06-11 Wed

#1871. 言語と人種 [race][language_myth][indo-european][comparative_linguistics][evolution][origin_of_language]

 言語に関する根強い俗説の1つに,「言語=人種」というものがある.この俗説を葬り去るには,一言で足りる.すなわち,言語は後天的であり,人種は先天的である,と言えば済む(なお,ここでの「言語」とは,ヒトの言語能力という意味での「言語」ではなく,母語として習得される個別の「言語」である).しかし,人々の意識のなかでは,しばしばこの2つは分かち難く結びつけられており,それほど簡単には葬り去ることはできない.
 過去には,言語と人種の同一視により,関連する多くの誤解が生まれてきた.例えば,19世紀にはインド・ヨーロッパ語 (the Indo-European) という言語学上の用語が,人種的な含意をもって用いられた.インド・ヨーロッパ語とは(比較)言語学上の構築物にすぎないにもかかわらず,数千年前にその祖語を話していた人間集団が,すなわちインド・ヨーロッパ人(種)であるという神話が生み出され,言語と人種とが結びつけられた.祖語の故地を探る試みが,すなわちその話者集団の起源を探る試みであると解釈され,彼らの最も正統な後継者がドイツ民族であるとか,何々人であるとかいう議論が起こった.20世紀ドイツのナチズムにおいても,ゲルマン語こそインド・ヨーロッパ語族の首長であり,ゲルマン民族こそインド・ヨーロッパ人種の代表者であるとして,言語と人種の強烈な同一視がみられた.
 しかし,この俗説の誤っていることは,様々な形で確認できる.インド・ヨーロッパ語族で考えれば,西ヨーロッパのドイツ人と東インドのベンガル人は,それぞれ親戚関係にあるドイツ語とベンガル語を話しているとはいえ,人種として近いはずだと信じる者はいないだろう.また,一般論で考えても,どんな人種であれヒトとして生まれたのであれば,生まれ落ちた環境にしたがって,どんな言語でも習得することができるということを疑う者はいないだろう.
 このように少し考えれば分かることなのだが,だからといって簡単には崩壊しないのが俗説というものである.例えば,ルーマニア人はルーマニア語というロマンス系の言語を話すので,ラテン系の人種に違いないというような考え方が根強く抱かれている.実際にDNAを調査したらどのような結果が出るかはわからないが,ルーマニア人は人種的には少なくともスペイン人やポルトガル人などと関係づけられるのと同程度,あるいはそれ以上に,近隣のスラヴ人などとも関係づけられるのではないだろうか.何世紀もの間,近隣の人々と混交してきたはずなので,このように予想したとしてもまったく驚くべきことではないのだが,根強い俗説が邪魔をする.
 言語学の専門的な領域ですら,この根強い信念は影を落とす.現在,言語の起源を巡る主流派の意見では,言語の起源は,約数十万年前のホモ・サピエンスの出現とホモ・サピエンスその後の発達・展開と関連づけられて論じられることが多い.人種がいまだそれほど拡散していないと時代という前提での議論であるとはしても,はたしてこれは件の俗説に陥っていないと言い切れるだろうか.
 関連して,Trudgill (43--44) の議論も参照されたい.

 ・ Trudgill, Peter. Sociolinguistics: An Introduction to Language and Society. 4th ed. London: Penguin, 2000.

Referrer (Inside): [2019-03-05-1]

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