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french - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-03-19 07:57

2024-03-12 Tue

#5433. フランス語風 seduyse からラテン語風 seduce [etymological_respelling][french][latin][loan_word][waseieigo][borrowing][analogy]

 seduce (誘惑する)の語源はラテン語の動詞 sēdūcere に遡る.接頭辞 - は "away; without" ほどを意味し,基体の dūcere は "to lead" の意味である.合わせて「外へ導く」となり,「悪の道に導く;罪に導く;そそのかす;誘惑する」などの語義を発達させた.
 現代英語では「(性的に)誘惑する」の語義が基本だが,15世紀に初めて英語に入ってきたときには「自らの義務を放棄するように説得する」という道徳的な語義が基本だった.OED によると,初出は Caxton からの次の文である.

1477 Zethephius seduysed [French seduisoit] the peple ayenst him by tyrannye al euydente. (W. Caxton, translation of R. Le Fèvre, History of Jason (1913) 104)


 この初出での語形は seduysed となっており,当時のフランス語の seduisoit に引きつけられた綴字となっている.
 しかし,以下に挙げるもう1つの最初期の例文では,同じ Caxton からではあるが,語形は seduce となっている.

a1492 He [sc. the deuyll] procureth to a persone that he haue all the eases of his bodye, and may not begyle and seduce [Fr. seduire] hym by delectacyons and worldly pleasaunces. (W. Caxton, translation of Vitas Patrum (1495) ii. f. cclv/1


 これ以降の例文ではすべて現代的な seduce が用いられている.つまり最初例のみフランス語形を取り,それ以後はすべてラテン語形をとっていることになる.
 英語に借用されてきたのが,中英語期の最末期,あるいは初期近代英語期への入り口に当たる時期であることを考えると,英単語としての seduce の綴字は,ラテン語形を参照した語源的綴字 (etymological_respelling) の1例と見ることもできるかもしれない.当初はフランス語形を模していたものが,後からモデルをラテン語形に乗り換えた,という見方だ.あるいは,すでに英語に借用されていた adduce, conduce, deduce, educe, introduce, produce, reduce, subduce などの -duce 語からの類推作用が働いたのかもしれない.その場合には,英語内部で作り出された英製羅語の1例とみなせないこともない.
 フランス語風 seduyse からラテン語風 seduce への乗り換えはあくまで小さな変化にすぎないが,英語史的には深掘りすべき側面が多々ある.

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2024-02-22 Thu

#5414. dungeon の文化史と語源 [doublet][etymology][semantic_change][literature][french][latin][voicy][heldio]

 NewsPicks 上で岡本広毅先生(立命館大学)が連載している「RPGで知る西洋の歴史」の最新記事が公開されています.「ダンジョンと〈ゴシック〉への入り口---商人トルネコが覗いた闇」です.


「ダンジョンと〈ゴシック〉への入り口---商人トルネコが覗いた闇



 RPG 好きには「ダンジョン」 (dungeon) の響きはたまらないのではないでしょうか.その意味は「地下牢」?「洞窟」?「塔」? なぜ RPG にはダンジョンが付きものなの? ゴシック・ロマンスとの関係は? このような問いに答えてくれる文化史・文学史の記事です.
 記事でも言及されていますが,英単語 dungeon は古フランス語 donjon を借用したものです(1300年頃).古フランス語での原義は「主君の塔」ほどでしたが,それが後に牢獄として利用された背景から,「牢獄」,とりわけ「地下牢」の意味を発達させました.さらには RPG 的な「未知なる危険の潜む空間」(上記記事を参照)という語義にまで発展してきました.文化史的に味わうべき意味変化 (semantic_change) の好例ですね.
 さて,古フランス語 donjon は,さらに遡ると中世ラテン語の dominiōnem に行き着き,これは古典ラテン語の dominium に対応します.「君主の地位;統治権;領地」を意味しました.このラテン単語が直接英語に取り込まれたのが dominion 「領土;支配権」です.つまり,dungeondominion は2重語 (doublet) ということになります.
 関連する話題は,以下の hellog や heldio のコンテンツで取り上げていますので,ぜひどうぞ.

 ・ hellog 「#3899. ラテン語 domus (家)の語根ネットワーク」 ([2019-12-30-1])
 ・ hellog 「#3898. danger, dangerous の意味変化」 ([2019-12-29-1])
 ・ heldio 「#118. danger のもともとの意味は「権力」」
 ・ heldio 「#273. 「支配権」 ― 今だから知っておきたい danger の原義」
 ・ hellog 「#1953. Stern による意味変化の7分類 (2)」 ([2014-09-01-1])

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2024-02-04 Sun

#5396. フランス語とラテン語からの大量の語彙借用は英語の何をどう変えたか? [lexicology][french][latin][loan_word][word_formation][lexical_stratification][contact][semantic_change][derivation]

 英語語彙史においてフランス語やラテン語の影響が甚大であることは,折に触れて紹介してきた.何といっても借用された単語の数が万単位に及び,大きい.しかし,数や量だけの影響にとどまらない.大規模借用の結果として,英語語彙の質も,主に中英語期以降に,著しく変化した.その質的変化について,Durkin (224) が重要な3点を指摘している.

 ・ The derivational morphology of English was (eventually) completely transformed by the accommodation of whole word families of related words from French and Latin, and by the analogous expansion of other word families within English exploiting the same French and Latin derivational affixes (especially suffixes).
 ・ Not only was a good deal of native vocabulary simply lost, but many other existing words showed meaning changes (especially narrowing) as semantic fields were reshaped following the adoption of new words from French and Latin.
 ・ The massive borrowing of less basic vocabulary, especially in a whole range of technical areas, led to extensive and enduring layering or stratification in the lexis of English, and also to a high degree of dissociation in many semantic fields (e.g. the usual adjective corresponding in meaning to hand is the etymologically unrelated manual)


 1点目は,単語の家族 (word family) や語形成 (word_formation) そのものが,本来の英語的なものからフランス・ラテン語的なものに大幅に入れ替わったことに触れている.2点目は,本来語が死語になったり,意味変化 (semantic_change) を経たりしたものが多い事実を指摘している.3点目は,比較的程度の高い語彙の層が新しく付け加わり,語彙階層 (lexical_stratification) が生じたことに関係する.
 単純化したキーワードで示せば,(1) 語形成の変質,(2) 意味変化,(3) 語彙階層の発生,といったところだろうか.これらがフランス語・ラテン語からの大量借用の英語語彙史上の質的意義である.

 ・ Durkin, Philip. Borrowed Words: A History of Loanwords in English. Oxford: OUP, 2014.

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2023-11-28 Tue

#5328. 用語辞典でみる diglossia (5) [terminology][diglossia][bilingualism][sociolinguistics][hel_education][me][french][latin][prestige]

 専門用語をじっくり考えるシリーズ.diglossia (二言語変種使い分け)も第5弾となる.これまでの「#5306. 用語辞典でみる diglossia (1)」 ([2023-11-06-1]),「#5311. 用語辞典でみる diglossia (2)」 ([2023-11-11-1]),「#5315. 用語辞典でみる diglossia (3)」 ([2023-11-15-1]),「#5326. 用語辞典でみる diglossia (4)」 ([2023-11-26-1]) と比べながら,今回は Pearce の英語学用語辞典を参照する (143--44) ."diglossia" に当たると "polyglossia" の項目を見よとあり,ある意味で野心的である.

Polyglossia A situation in which two or more languages exist side by side in a multilingual society, but are used for different purposes. Typically, one of the languages (usually labelled the 'H' or 'high' variety) has greater prestige than the others, and is used in formal, public contexts such as education and administration. The other languages in a polyglossic situation (usually labelled the 'L' or 'low' varieties) tend to be used in informal, private contexts (and also in popular culture). England was a triglossic society, with English as the 'L' variety, and French and Latin as 'H' varieties. As French died out, England became diglossic in English and Latin (which was maintained as the language of education and the Church).


 最後に英語史における triglossia と diglossia (そして polyglossia)が言及されているのは,さすが「英語学」用語辞典である.英語史における polyglossia を論じる際には,このように中英語期の言語事情が持ち出されることが多いが,この場合に1つ注意が必要である.
 このような議論では,中英語期のイングランドが triglossia の社会としてとらえられることが多いが,英語,フランス語,ラテン語の3言語のすべてを扱えるのは,ピラミッドの最上層を構成する一部の宗教的・知的エリートのみである.英語とフランス語の2言語の使い手となれば,もう少しピラミッドの下方まで下がるが,とうていピラミッドの全体には及ばない.つまり,中英語期イングランド社会の3層構造のピラミッドを指して,ゆるく triglossia や diglossia ということができたとしても,イングランド社会の構成員の全員(あるいは大多数)が,複数言語を操るわけではないということだ.むしろ,英語のみを操るモノリンガルが圧倒的多数を占めるということは銘記しておいてよい.
 ここで思い出したいのは,典型的な diglossia 社会の状況である.それによると,とりわけ H 変種の習得の程度については程度の差はあるとはいえ,当該社会の全員(あるいは大多数)が L と H のいずれの言語変種をも話せるというが前提だった.スイス・ドイツ語と標準ドイツ語,口語アラビア語と古典アラビア語,ハイチクレオール語とフランス語等々の例が挙げられてきた.
 この典型的な diglossia 社会に照らすと,中英語期イングランドは本当に diglossia/triglossia と呼んでよいのだろうかという疑問が湧く.緩い用語使いは,diglossia という概念の活用の益となるのか害となるのか,この辺りが私の問題意識である.

 ・ Pearce, Michael. The Routledge Dictionary of English Language Studies. Abingdon: Routledge, 2007.

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2023-10-29 Sun

#5298. イタリック語派をめぐって Taku さんと対談精読実況生中継しました --- heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズ [voicy][heldio][hel_education][link][notice][bchel][italic][latin][french][spanish][portuguese][italian][indo-european]

 10月26日(木)の夜に,帝京科学大学の金田拓さんとともに,Baugh and Cable の英語史書の「対談精読実況生中継」を Voicy heldio で配信しました.同書の第21節 Italic (イタリック語派)を題材に,英文を精読し,内容について様々な角度から議論と解説を行ないました.(一緒に講師を務めました Taku さん,対談内での重要かつ適切なコメントで盛り上げていただきましてありがとうございました!)
 配信している側の2人は確かに豊かで実りある時間を過ごすことができたのですが,お聴きのリスナーの方々はいかがでしたでしょうか? まだお聴きでない方もいるかと思いますので,ぜひお時間のあるときにどうぞ.生放送のアーカイヴは3回に分かれており,第1回は通常配信で,第2回と第3回はプレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪」 (helwa) にてお届けしています(第1回だけでも50分超の長尺です).第1回で関心が湧いた方は,ぜひ第2第,第3回へもお進みいただければと存じます(後者2回は有料となります).
 対談特別回だったこともあり,精読対象となったテキストを特別にこちらの PDF に上げておきます.できれば,オンライン読書会のシリーズ企画でもありますので,ぜひ本書そのものを入手し,今後も長くお付き合いください.

 (1) 「#879. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (21) Italic --- Taku さんとの実況中継(前半)」


 (2) 「【英語史の輪 #46】英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (21) Italic --- Taku さんとの実況中継(後半)」(10月分の helwa に含まれる有料配信です)


 (3) 「【英語史の輪 #47】最後にダメ押し,Taku さんとの実況中継第3弾 --- 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (21) Italic」(10月分の helwa に含まれる有料配信です)



 各回にはリスナーの皆さんからも今回の精読について様々なコメントが寄せられてきていますので,そちらもご覧ください.
 今回の対談精読実況生中継(第1回)は,先日の「#877. 英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む (20) Albanian --- 小河舜さんとの実況中継」と同様に,サンプル回ということで一般公開した次第です.普段は週に1,2回のペースでお届けする有料配信のシリーズとなっています.ぜひ「#5291. heldio の「英語史の古典的名著 Baugh and Cable を読む」シリーズが順調に進んでいます」 ([2023-10-22-1]) より過去回のラインナップをご覧いただければと思います.今後,皆さんとともに本書を読み進めていけることを楽しみにしています.


Baugh, Albert C. and Thomas Cable. ''A History of the English Language''. 6th ed. London: Routledge, 2013.



 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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2023-10-10 Tue

#5279. Z の推し活 [notice][z][alphabet][ame_bre][greek][latin][french][academy][shakespeare][consonant][youtube][grapheme][link][spelling][helsta]

 一昨日配信した YouTube の「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」の最新回は「#169. なぜ Z はアルファベットの最後に追いやられたのか? --- 時代に翻弄された日陰者 Z の物語」です.歴史的に「日陰者 Z」と称されてきたかわいそうな文字にスポットライトを当て,12分ほど集中して語りました.これで Z が多少なりとも汚名返上できればよいのですが.



 z の文字については,この hellog,および Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」等の媒体でも,様々に取り上げてきました.Z の汚名返上のために助力してきた次第ですが,さすがに Z に関する話題はこれ以上見つからなくなってきましたので,ネタとしてはいったん打ち切りになりそうです.
 これまでの Z の推し活の履歴を列挙します.



[ hellog ]

 ・ 「#305. -ise か -ize か」 ([2010-02-26-1])
 ・ 「#314. -ise か -ize か (2)」 ([2010-03-07-1])
 ・ 「#446. しぶとく生き残ってきた <z>」 ([2010-07-17-1])
 ・ 「#447. Dalziel, MacKenzie, Menzies の <z>」 ([2010-07-18-1])
 ・ 「#799. 海賊複数の <z>」 ([2011-07-05-1])
 ・ 「#964. z の文字の発音 (1)」 ([2011-12-17-1])
 ・ 「#965. z の文字の発音 (2)」 ([2011-12-18-1])
 ・ 「#1914. <g> の仲間たち」 ([2014-07-24-1])
 ・ 「#2916. 連載第4回「イギリス英語の autumn とアメリカ英語の fall --- 複線的思考のすすめ」」 ([2017-04-21-1])
 ・ 「#2925. autumn vs fall, zed vs zee」 ([2017-04-30-1])
 ・ 「#4990. 動詞を作る -ize/-ise 接尾辞の歴史」 ([2022-12-25-1])
 ・ 「#4991. -ise か -ize か問題 --- 2つの論点」 ([2022-12-26-1])
 ・ 「#5042. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第24回(最終回)「アルファベット最後の文字 Z のミステリー」」 ([2023-02-15-1])

heldio (Voicy) ]

 ・ 「#171. z と r の発音は意外と似ていた!」 (2021/11/18)
 ・ 「#540. Z について語ります」 (2022/11/22)
 ・ 「#541. Z は zee か zed か問題」 (2022/11/23)

[ helsta (stand.fm) ←数日前に始めました ]

 ・ 「#3. 動詞を作る接尾辞 -ize の裏話」 (2023/10/08)




 ただし,いずれ Z に関する新ネタを仕込むことができれば,もちろん Z の汚名返上活動に速やかに戻るつもりです.皆様,これからも Z にはぜひとも優しく接してあげてくださいね.

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2023-09-21 Thu

#5260. 喜びに満ちた delicious の同根類義語 [eebo][synonym][me][cognate][lexicology][borrowing][loan_word][latin][french][oed][thesaurus][htoed][voicy][heldio]



 今週の月・火と連続して,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」(毎朝6時に配信)にて delicious とその類義語の話題を配信しました.

 ・ 「#840. delicious, delectable, delightful」
 ・ 「#841. deleicious の歴史的類義語がたいへんなことになっていた」

 かつて「#283. delectabledelight」 ([2010-02-04-1]) と題する記事を書いたことがあり,これとも密接に関わる話題です.ラテン語動詞 dēlectāre (誘惑する,魅了する,喜ばせる)に基づく形容詞が様々に派生し,いろいろな形態が中英語期にフランス語を経由して借用されました(ほかに,それらを横目に英語側で形成された同根の形容詞もありました).いずれの形容詞も「喜びを与える,喜ばせる,愉快な,楽しい;おいしい,美味の,芳しい」などのポジティヴな意味を表わし,緩く類義語といってよい単語群を構成していました.
 しかし,さすがに同根の類義語がたくさんあっても競合するだけで,個々の存在意義が薄くなります.なかには廃語になるもの,ほとんど用いられないものも出てくるのが道理です.
 Historical Thesaurus of the Oxford English Dictionary (= HTOED) で調べてみたところ,歴史的には13の「delicious 語」が浮上してきました.いずれも語源的に dēlectāre に遡りうる同根類義語です.以下に一覧します.

 ・ †delite (c1225--1500): Very pleasant or enjoyable; delightful.
 ・ delightable (c1300--): Very pleasing or appealing; delightful.
 ・ delicate (a1382--1911): That causes pleasure or delight; very pleasing to the senses, luxurious; pleasurable, esp. in a way which promotes calm or relaxation. Obsolete.
 ・ delightful (a1400--): Giving or providing delight; very pleasant, charming.
 ・ delicious (c1400?-): Very pleasant or enjoyable; very agreeable; delightful; wonderful.
 ・ delectable (c1415--): Delightful; extremely pleasant or appealing, (in later use) esp. to the senses; very attractive. Of food, drink, etc.: delicious, very appetizing.
 ・ delighting (?a1425--): That gives or causes delight; very pleasing, delightful.
 ・ †delitous (a1425): Very pleasant or enjoyable; delightful.
 ・ delightsome (c1484--): Giving or providing delight; = delightful, adj. 1.
 ・ †delectary (?c1500): Very pleasant; delightful.
 ・ delighted (1595--1677): That is a cause or source of delight; delightful. Obsolete.
 ・ dilly (1909--): Delightful; delicious.
 ・ delish (1915--): Extremely pleasing to the senses; (chiefly) very tasty or appetizing. Sometimes of a person: very attractive. Cf. delicious, adj. A.1.

 廃語になった語もあるのは確かですが,意外と多くが(おおよそ低頻度語であるとはいえ)現役で生き残っているのが,むしろ驚きです.「喜びを与える,愉快な;おいしい」という基本義で普通に用いられるものは,実際的にいえば delicious, delectable, delightful くらいのものでしょう.
 このような語彙の無駄遣い,あるいは類義語の余剰といった問題は,英語では決して稀ではありません.関連して,「#3157. 華麗なる splendid の同根類義語」 ([2017-12-18-1]),「#4969. splendid の同根類義語のタイムライン」 ([2022-12-04-1]),「#4974. †splendidious, †splendidous, †splendious の惨めな頻度 --- EEBO corpus より」 ([2022-12-09-1]) もご覧ください.

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2023-07-19 Wed

#5196. 「ゆる言語学ラジオ」出演第4回 --- 『英単語ターゲット』より英単語語源を語る回 [yurugengogakuradio][notice][youtube][etymology][indo-european][germanic][latin][french][greek]


 「ゆる言語学ラジオ」からこちらの「hellog~英語史ブログ」に飛んでこられた皆さん,ぜひ

   (1) 本ブログのアクセス・ランキングのトップ500記事,および
   (2) note 記事,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の人気放送回50選
   (3) note 記事,「ゆる言井堀コラボ ー 「ゆる言語学ラジオ」×「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」×「Voicy 英語の語源が身につくラジオ (heldio)」」
   (4) 「ゆる言語学ラジオ」に関係するこちらの記事群

をご覧ください.



 昨日7月18日(火)に,YouTube/Podcast チャンネル「ゆる言語学ラジオ」の最新回がアップされました.これまで3回ゲストとして出演させていただきまして,今回は第4回目となります.「英単語帳の語源を全部知るために,研究者を呼びました【ターゲット1900 with 堀田先生】#247」です.どうぞご覧ください.



 最後のほうでも力説しているように,「英語史」は決して狭い学問領域ではなく,英語を学ぶ皆が英語に抱く疑問のほとんどについて,何か言うべきことをもっている頼もしい存在です.ぜひこの機会に英語史の存在を(再)認識していただければ.
 過去の3回の出演回も合わせてご視聴ください.
 
 ・ 第1弾 「#227. 歴史言語学者が語源について語ったら,喜怒哀楽が爆発した【喜怒哀楽単語1】」(5月6日)
 ・ 第2弾 「#228. 「英語史の専門家が through の綴りを数えたら515通りあった話【喜怒哀楽単語2】」(5月9日)
 ・ 第3弾:「#234. 英語史の専門家と辞書を読んだらすべての疑問が一瞬で解決した」(5月30日)

Referrer (Inside): [2024-01-01-1]

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2023-05-22 Mon

#5138. 句比較の発達と言語接触 [comparison][adjective][suffix][superlative][contact][synthesis_to_analysis][latin][french][grammaticalisation][german][dutch]

 形容詞・副詞の比較級・最上級の作り方には, -er/-est 語尾を付す形態的な方法と more/most を前置する統語的な方法がある.それぞれを「屈折比較」と「句比較」と呼んでおこう.これについては,hellog,heldio,その他でも様々に紹介してきた.「#4834. 比較級・最上級の歴史」 ([2022-07-22-1]) に関連リンクをまとめているので参照されたい.
 英語やロマンス諸語の歴史では,屈折比較から句比較への変化が生じてきた.印欧語族に一般に観察される「総合から分析へ」 (synthesis_to_analysis) の潮流に沿った事例として見られることが多い.この変化は,比較構文の成立という観点からは文法化 (grammaticalisation) の1例ともとらえられる.
 今回は Heine and Kuteva による言語接触に関わる議論を紹介したい.英語やいくつかの言語において歴史的に句比較が発達した1要因として,ロマンス諸語との言語接触が関係しているのではないかという仮説だ.英語がフランス語やラテン語の影響のもとに句比較を発達させたという仮説自体は古くからあり,上記のリンク先でも論じてきた通りである.Heine and Kuteva は,英語のみならず他の言語においても言語接触の効果が疑われるとし,言語接触が決定的な要因だったとは言わずとも "an accelerating factor" (96) と考えることは可能であると述べている.英語を含めて4つの事例が挙げられている (96) .

a. Analytic forms were still rare in Northern English in the fifteenth century, while in Southern English, which was more strongly exposed to French influence, these forms had become current at least a century earlier . . . .
b. In German, the synthetic comparative construction is still well established, e.g. schön 'beautiful', schön-er ('beautiful-COMP') 'more beautiful'. But in the dialect of Luxembourg, which has a history of centuries of intense contact with French, instances of an analytic comparative can be found, e.g. mehr schön ('more beautiful', presumably on the model of French plus beau ('more beautiful') . . . .
c. The Dutch varieties spoken in Flanders, including Algemeen Nederlands, have been massively influenced by French, and this influence has also had the effect that the analytic pattern with the particle meer 'more' is used increasingly on the model of French plus, at the expense of the inherited synthetic construction using the comparative suffix -er . . . .
d. Molisean has a 500-years history of intense contact with the host language Italian, and one of the results of contact was that the speakers of Molisean have given up the conventional Slavic synthetic construction by replicating the analytic Italian construction, using veče on the model of Italian più 'more' as degree marker. Thus, while Standard Croatian uses the synthetic form lyepši 'more beautiful', Molisean has più lip ('more beautiful') instead . . . .


 このようなケースでは,句発達の発達は,言語接触によって必ずしも推進 ("propel") されたとは言えないものの,加速 ("accelerate") したとは言えるのではないか,というのが Heine and Kuteva の見解である.

 ・ Heine, Bernd and Tania Kuteva. "Contact and Grammaticalization." Chapter 4 of The Handbook of Language Contact. Ed. Raymond Hickey. 2010. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2013. 86--107.

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2023-04-12 Wed

#5098. 英語史を学び始めようと思っている方へ hellog と heldio のお薦め回一覧(2023年度版) [voicy][heldio][hel_education][link][notice][elt][etymology][french][start_up_hel_2023]

 年度始めですので,英語史の学びを後押しする記事を書くことが多くなっています.昨年の夏に「#4873. 英語史を学び始めようと思っている方へ」 ([2022-08-30-1]) の記事を書き,今回はそれと重なるところも多いのですが,改めて2023年度版ということで,英語史の学びに役立つ 「hellog~英語史ブログ」の記事や Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」の放送回へのリンクをまとめてみました.

[ そもそも本ブログの執筆者(堀田隆一)は何者? ]



 ・ heldio 「#408. 自己紹介:英語史研究者の堀田隆一です」 (2022/07/13)
 ・ note 上のプロフィールもご覧ください

[ hellog と heldio の歩き方 ]

 ・ hellog 「#5097. hellog の読み方(2023年度版)」 ([2023-04-11-1])
 ・ hellog 「#5093. heldio の聴き方(2023年度版)」 ([2023-04-07-1])

[ まずは英語史の学びのモチベーションアップから ]



 ・ heldio 「#444. 英語史を学ぶとこんなに良いことがある!」 (2022/08/18)
 ・ heldio 「#650. 英語史の知恵が AI に負けない3つの理由」 (2023/03/12)
 ・ heldio 「#112. 英語史って何のため?」 (2021/09/21)
 ・ hellog 「#4728. 2022年度「英語史」講義の初回 --- 慶應義塾大学文学部英米文学専攻の必修科目「英語史」が始まります」 ([2022-04-07-1])
 ・ hellog 「#5096. 『英語史新聞』第5号が発行されました」 ([2023-04-10-1])
 ・ hellog 「#4556. 英語史の世界にようこそ」 ([2021-10-17-1])
 ・ heldio 「#139. 英語史の世界にようこそ」 (2021/10/17)
 ・ hellog 「#24. なぜ英語史を学ぶか」 ([2009-05-22-1])
 ・ heldio 「#112. 英語史って何のため?」 (2021/09/21)
 ・ hellog 「#4361. 英語史は「英語の歴史」というよりも「英語と歴史」」 ([2021-04-05-1])
 ・ hellog 「#1199. なぜ英語史を学ぶか (2)」 ([2012-08-08-1])
 ・ hellog 「#1200. なぜ英語史を学ぶか (3)」 ([2012-08-09-1])
 ・ hellog 「#1367. なぜ英語史を学ぶか (4)」 ([2013-01-23-1])
 ・ hellog 「#2984. なぜ英語史を学ぶか (5)」 ([2017-06-28-1])
 ・ hellog 「#4021. なぜ英語史を学ぶか --- 私的回答」 ([2020-04-30-1])
 ・ hellog 「#3641. 英語史のすゝめ (1) --- 英語史は教養的な学問領域」 ([2019-04-16-1])
 ・ hellog 「#3642. 英語史のすゝめ (2) --- 英語史は教養的な学問領域」 ([2019-04-17-1])
 ・ hellog 「#4073. 地獄の英語史からホテルの英語史へ」 ([2020-06-21-1])

[ 英語史入門の文献案内 ]



 ・ heldio 「#140. 対談 英語史の入門書」 (2021/10/18)
 ・ hellog 「#5094. 英語史概説書等の書誌(2023年度版)」 ([2023-04-08-1])
 ・ hellog 「#4557. 「英語史への招待:入門書10選」」 ([2021-10-18-1])
 ・ hellog 「#4731. 『英語史新聞』新年度号外! --- 英語で書かれた英語史概説書3冊を紹介」 ([2022-04-10-1])
 ・ heldio 「#313. 泉類尚貴先生との対談 手に取って欲しい原書の英語史概説書3冊」 (2022/04/09)
 ・ hellog 「#3636. 年度初めに拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』を紹介」 ([2019-04-11-1])
 ・ heldio 「#315. 和田忍先生との対談 Baugh and Cable の英語史概説書を語る」 (2022/04/10)
 ・ hellog 「#4133. OED による英語史概説」 ([2020-08-20-1])

[ かつて英語史に入門した「先輩」からのコメント ]



 ・ heldio 「#607. 1年間の「英語史」の講義を終えて」 (2023/01/28)
 ・ hellog 「#5020. 2022年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか?」 ([2023-01-24-1])
 ・ hellog 「#4661. 2021年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか?」 ([2022-01-30-1])
 ・ hellog 「#3922. 2019年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか?」 ([2020-01-22-1])
 ・ hellog 「#3566. 2018年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか?」 ([2019-01-31-1])
 ・ hellog 「#2470. 2015年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか?」 ([2016-01-31-1])

[ とりわけ語源に関心がある方へ ]

 ・ hellog 「#3546. 英語史や語源から英単語を学びたいなら,これが基本知識」 ([2019-01-11-1])
 ・ hellog 「#3698. 語源学習法のすゝめ」 ([2019-06-12-1])
 ・ hellog 「#4360. 英単語の語源を調べたい/学びたいときには」 ([2021-04-04-1])
 ・ hellog 「#3381. 講座「歴史から学ぶ英単語の語源」」 ([2018-07-30-1])
 ・ hellog 「#600. 英語語源辞書の書誌」 ([2010-12-18-1])

[ とりわけ英語教育に関心がある方へ ]



 ・ heldio 「#310. 山本史歩子先生との対談 英語教員を目指す大学生への英語史のすすめ」 (2022/04/06)
 ・ hellog 「#4329. 「英語史の知見を活かした英語教育」について参考文献をいくつか」 ([2021-03-04-1])
 ・ hellog 「#4619. 「英語史教育」とは?」 ([2021-12-19-1])

[ とりわけフランス語学習に関心がある方へ ]



 ・ heldio 「#327. 新年度にフランス語を学び始めている皆さんへ,英語史を合わせて学ぶと絶対に学びがおもしろくなると約束します!」 (2022/04/23)
 ・ heldio 「#329. フランス語を学び始めるならば,ぜひ英語史概説も合わせて!」 (2022/04/25)
 ・ heldio 「#368. 英語とフランス語で似ている単語がある場合の5つのパターン」 (2022/06/03)
 ・ hellog 「#4787. 英語とフランス語の間には似ている単語がたくさんあります」 ([2022-06-05-1])
 ・ heldio 「#370. 英語語彙のなかのフランス借用語の割合は? --- リスナーさんからの質問」 (2022/06/05)
 ・ heldio 「#26. 英語語彙の1/3はフランス語!」 (2021/06/27)
 ・ heldio 「#486. 英語と他の主要なヨーロッパ言語との関係 ー 仏西伊葡独語」 (2022/09/29)

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2023-03-22 Wed

#5077. publish 「出版する」は朗読文化と結びついていた [printing][manuscript][latin][french][etymology]

 昨日の記事「#5076. キリスト教の普及と巻子本から冊子本へ --- 高宮利行(著)『西洋書物史への扉』より」 ([2023-03-21-1]) で紹介した髙宮利行(著)『西洋書物史への扉』より,今回は publish の文化史の話題をお届けする.
 publish はラテン語の形容詞 pūblicus (public) の動詞形 pūblicāre に由来し,フランス語における変形を経て14世紀に英語に入ってきた.意味は語源に従って「公にする」であり,それが「書き物として公にする」を経て,現代的な「出版する」へと発展した.
 私たちは,publish と聞くとまず印刷物を思い浮かべるだろう.しかし,この単語は実際には印刷術の発明以前にも用いられていた.もともとは,むしろ声に出して文章を読み上げる朗読文化と結びついていた.髙宮 (75--76) を引用する.

古代や中世のヨーロッパ社会にあっては,詩人や作家による新作の朗読は,「出版」という概念と結びついていた.出版にあたる英語の動詞は publish であるが,これはもともと意見や書物を公 (public) にするという意味であり,印刷術を用いて同一作品を多くの部数で一度に出版する以前から存在した.作者が自作を原稿から朗読し,そこにいるパトロンから転写の許しを頂戴することが,近代以前の出版形態だったといってよい.例えば,一二世紀のイングランド王ヘンリー二世に仕えた歴史家の司祭ギラルドゥス・カンブレンシス(ウェールズのジェラルド)は,ジョン王子に随行した体験をもとに,一一八八年に『アイルランド地誌』(青土社,一九九六)を完成した.まもなく彼は,大学制度の芽が出始めたオクスフォードで,三日間を費やしてラテン語原稿を読み続けた.現存する写本には「本文を朗唱する前に」という序文と,「ヘンリー二世陛下へのご挨拶」という第二の序文が付されている.


 つまり,publish は「出版する」というよりも「お披露目する」に近かったということになる.現代では自作コンテンツを様々な媒体で publish できるようになっているが,この単語のもともとの語源や背景を押さえておくと味わい深い.

 ・ 髙宮 利行 『西洋書物史への扉』 岩波書店〈岩波新書〉,2023年.

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2023-03-11 Sat

#5066. 英語の前置詞としての sans [french][loan_word][preposition][shakespeare][connotation][idiom]

 この1週間は hellog でも Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」でも前置詞 (preposition) に注目する機会がたまたま多く,途中から「前置詞ウィーク」と呼んで発信していました.前置詞にご関心のある方は,ぜひこの数日間の記事や放送回を振り返っていただければと思います..
 今日も同じ流れで,意外性のある前置詞として sans を紹介します.without に相当するフランス語の前置詞でフランス語では sans /sɑ̃/ と発音されますが,英語としては綴字通りに /sænz/ と発音されます.フランス語からそのまま取り入れた慣用表現の前置詞句は,例えば sans doute 「疑いもなく」 /sɑ̃ duːt/ のように,フランス語風に発音されますが,そうでない場合には英語化した /sænz/ で発音されます.英語の文脈では,たいてい古風,あるいは冗談めかした connotation で用いられます.例文を挙げてみましょう.

 ・ Sans teeth, sans eyes, sans taste, sans everything. 「(老いぼれて)歯もなく,目もなく,味もなければ何もなし」(Shakespeare, As You Like It II. vii)
 ・ a wallet sans cash
 ・ There were no potatoes so we had fish and chips sans the chips.
 ・ He came to the door sans shirt.
 ・ She went to the party sans her husband.
 ・ She would not be happy with people seeing her sans makeup.
 ・ He was wearing running shoes, sans socks.


 こうしてみると,なかなか使ってみたくなる前置詞ですね.
 OED の sans, prep. によると,英語での初出は初期近代英語の Kyng Alisaunder です.

c1300 K. Alis. 134 Of gold he made a table Al ful of steorren, saun fable.


 ただし,Shakespeare 以前の用法はいずれも目的語としてフランス単語を伴っており,いわばフランス語の慣用表現をそのまま英語に取り込んだもののようです (ex. sans delay, sans doubt, sans fable, sans pity, sans return).英語において生産的な前置詞として発達したのは,かの言葉遊びの天才がユーモアを交えて再導入したからといってよさそうです.

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2023-03-09 Thu

#5064. notwithstanding [preposition][participle][grammaticalisation][conjunction][adverb][loan_translation][french][latin]

 昨日の記事「#5063. 前置詞は名詞句以外の補文を取れるし「後置詞」にすらなり得る」 ([2023-03-08-1]) で取り上げた前置詞 notwithstanding 「~にもかかわらず」について,もう少し掘り下げてみたい.前置詞 (preposition) でありながら目的語の後に置かれることもあるという変わり種だ.notwithstanding + NP と NP + notwithstanding の例文を各々挙げてみよう.

 ・ Notwithstanding some members' objections, I think we must go ahead with the plan.
 ・ Notwithstanding his love of luxury, his house was simple inside.
 ・ They started notwithstanding the bad weather.
 ・ His relations with colleagues, differences of opinion notwithstanding, were unfailingly friendly.
 ・ Injuries notwithstanding, he won the semi-final match.
 ・ She is an intolerable person, her excellent work notwithstanding.

 意味としては,in spite ofdespite が積極的で強めの反対を含意するのに対し,notwithstanding は障害があることを暗示する程度で弱い.また,格式張った響きをもつ.
 副詞として Notwithstanding, the problem is a significant one. のように単体で用いられるほか,接続詞として I went notwithstanding (that) he told me not to. のような使い方もある.
 OED によると,この単語は1400年頃に初出し,アングロノルマン語や古フランス語の non obstant,あるいは古典時代以降のラテン語の non obstante のなぞりとされる.要するに,現在分詞の独立分詞構文として「○○が障害となるわけではなく」ほどを意味した慣用表現が,文法化 (grammaticalisation) し前置詞として独り立ちしたという経緯である.この前置詞の目的語は,由来としてはもとの分詞構文の主語に相当するために,前に置かれることもあるというわけだ.
 前置詞のほか,副詞,接続詞としての用法も当初から現われている.いくつか例を挙げてみよう.

 ・ c1400 Bk. to Mother (Bodl.) 113 (MED) And ȝut notwiþstondinge al þis..religiouse men and wommen trauelen..to make hem semliche to cursed proude folk.
 ・ 1490 W. Caxton tr. Eneydos vi. 23 This notwystondyng, alwaye they be in awayte.
 ・ c1425 J. Lydgate Troyyes Bk. (Augustus A.iv) iv. 5474 Not-wiþstondynge þat he trouþe ment, ȝit for a worde he to exile went.
 ・ ?a1425 tr. Catherine of Siena Orcherd of Syon (Harl.) (1966) 22 (MED) Which synne worþily askide and disceruede a peyne þat schulde haue noon eende, notwiþstondynge þe deede of synne had eende.
 ・ 1425 Rolls of Parl. IV. 274/1 Which proves notwithstondyng, yat hie and myghti Prince my Lord of Glouc'..and your oyer Lordes..will not take upon hem declaration for my said place.

 なお,問題の前置詞のもととなる動詞 withstand の接頭辞 with は,現在普通の「~といっしょに」の意味ではなく,古い「~に対抗して」ほどの意味を表わしている.

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2023-03-02 Thu

#5057. because の語源と歴史的な用法 [conjunction][etymology][french][loan_word][phrase][hybrid][expletive][infinitive][syntax]

 理由を表わす副詞節を導く because は英語学習の早い段階で学ぶ,きわめて日常的で高頻度の語である.しかし,身近すぎて特別な感情も湧いてこない表現にこそ,おもしろい歴史が隠れていることが少なくない.
 because を分解すると by + cause となる.前者は古英語から続く古い前置詞であり,後者はフランス語からの借用語である.もともとは2語からなる前置詞句だったが,それが形式的にも機能的にも合一したのがこの単語である.その観点からすると,1種の混成語 (blend) とみてよい.
 以下 OED を参照して,because の来歴を紹介しよう.この語の英語での初出は14世紀初めのことである.Bi cause whi (= "because why") のように用いられているのがおもしろい.

c1305 Deo Gratias 37 in Early Eng. Poems & Lives Saints (1862) 125 Þou hast herd al my deuyse, Bi cause whi, hit is clerkes wise.


 ほかに because that のように that を接続詞マーカーとして余剰的に用いる例も,後期近代英語から初期近代英語にかけて数多くみられる(「#2314. 従属接続詞を作る虚辞としての that」 ([2015-08-28-1])).そもそも cause は名詞にすぎないので,節を導くためには同格の that の支えが必要なのである.because that の例を3つ挙げよう.

 ・ c1405 (c1395) G. Chaucer Franklin's Tale (Hengwrt) (2003) l. 253 By cause that he was hir neghebour.
 ・ 1611 Bible (King James) John vii. 39 The Holy Ghost was not yet giuen; because that Iesus was not yet glorified.
 ・ 1822 Ld. Byron Heaven & Earth i. iii, in Liberal 1 190 I abhor death, because that thou must die.


 接続詞としての because は定義上後ろに節が続くが,現代にも残る because of として句を導く用法も早く14世紀半ばから文証される.初例は Wyclif からである.

1356 J. Wyclif Last Age Ch. (1840) 31 Þe synnes bi cause of whiche suche persecucioun schal be in Goddis Chirche.


 もう1つ興味深いのは,because の後ろに to 不定詞が続く構造である.現代では残っていない構造だが,16世紀より2例が挙げられている.意味が「理由」ではなく「目的」だったというのもおもしろい.

 ・ 1523 Ld. Berners tr. J. Froissart Cronycles I. ccxxxix. 346 Bycause to gyue ensample to his subgettes..he caused the..erle of Auser to be putte in prison.
 ・ 1546 T. Langley tr. P. Vergil Abridgem. Notable Worke i. xv. 28 a Arithmetike was imagyned by the Phenicians, because to vtter theyr Merchaundyse.


 because はさらに歴史的に深掘りしていけそうな単語である.これまでも以下の記事でこの単語に触れてきたので,ご参照を.

 ・ 「#1542. 接続詞としての for」 ([2013-07-17-1])
 ・ 「#1744. 2013年の英語流行語大賞」 ([2014-02-04-1])
 ・ 「#2314. 従属接続詞を作る虚辞的な that」 ([2015-08-28-1])
 ・ 「#3036. Lowth の禁じた語法・用法」 ([2017-08-19-1])
 ・ 「#4569. because が表わす3種の理由」 ([2021-10-30-1])

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2023-02-28 Tue

#5055. 英語史における言語接触 --- 厳選8点(+3点) [contact][loan_word][borrowing][latin][celtic][old_norse][french][dutch][greek][japanese][link]

 英語が歴史を通じて多くの言語と接触 (contact) してきたことは,英語史の基本的な知識である.各接触の痕跡は,歴史の途中で消えてしまったものもあるが,現在まで残っているものも多い.痕跡のなかで注目されやすいのは借用語彙だが,文法,発音,書記など語彙以外の部門でも言語接触のインパクトがあり得ることは念頭に置いておきたい.
 英語の言語接触の歴史を短く要約するのは至難の業だが,Schneider (334) による厳選8点(時代順に並べられている)が参考になる.

 ・ continental contacts with Latin, even before the settlement of the British Isles (i.e., roughly between the second and fourth centuries AD);
 ・ contact with Celts who were the resident population when the Germanic tribes crossed the channel (in the fifth century and thereafter);
 ・ the impact of Latin through Christianization (beginning in the late sixth and seventh centuries);
 ・ contact with Scandinavian raiders and later settlers (between the seventh and tenth centuries);
 ・ the strong exposure to French as the language of political power after 1066;
 ・ the massive exposure to written Latin during the Renaissance;
 ・ influences from other European languages beginning in the Early Modern English period; and
 ・ the impact of colonial contacts and borrowings.


 よく選ばれている8点だと思うが,私としてはここに3点ほど付け加えたい.1つは,伝統的な英語史では大きく取り上げられないものの,中英語期以降に長期にわたって継続したオランダ語との接触である.これについては「#4445. なぜ英語史において低地諸語からの影響が過小評価されてきたのか?」 ([2021-06-28-1]) やその関連記事を参照されたい.
 2つ目は,上記ではルネサンス期の言語接触としてラテン語(書き言葉)のみが挙げられているが,古典ギリシア語(書き言葉)も考慮したい.ラテン語ほど目立たないのは事実だが,ルネサンス期以降,ギリシア語の英語へのインパクトは大きい.「#516. 直接のギリシア語借用は15世紀から」 ([2010-09-25-1]) および「#4449. ギリシア語の英語語形成へのインパクト」 ([2021-07-02-1]) を参照.
 最後に日本語母語話者としてのひいき目であることを認めつつも,主に19世紀後半以降,英語が日本語と意外と濃厚に接触してきた事実を考慮に入れたい.これについては「#126. 7言語による英語への影響の比較」 ([2009-08-31-1]),「#2165. 20世紀後半の借用語ソース」 ([2015-04-01-1]),「#3872. 英語に借用された主な日本語の借用年代」 ([2019-12-03-1]),「#4140. 英語に借用された日本語の「いつ」と「どのくらい」」 ([2020-08-27-1]) を参照.
 Schneider の8点に,この3点を加え,私家版の厳選11点の完成!

 ・ Schneider, Edgar W. "Perspectives on Language Contact." Chapter 13 of English Historical Linguistics: Approaches and Perspectives. Ed. Laurel J. Brinton. Cambridge: CUP, 332--59.

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2023-02-07 Tue

#5034. ヘボン式ローマ字表記は本当に英語に毒されている? [youtube][notice][romaji][digraph][h][spelling][orthography][french][norman_conquest][link][alphabet]

 一昨日公開された YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」の最新回では,英語史の観点から日本語を表記するためのローマ字について,とりわけヘボン式ローマ字について語っています.「最近よく見かける shi,chi,ji などのローマ字表記は,実は英語的ではない!」です.17分弱の動画となっております.どうぞご視聴ください.



 今回依拠したローマ字使用に関するデータは,昨年9月30日に文化庁より公開された,2021年度の「国語に関する世論調査」の結果です.詳細は「令和3年度「国語に関する世論調査」の結果について」 (PDF) よりご確認いただけます.
 日本語を表記するためのローマ字の使用については,これまでも様々な議論があり,本ブログでも romaji の記事群で多く取り上げてきました.今回の YouTube 動画ととりわけ関連の深い記事へのリンクを張っておきますので,合わせてご参照ください.

 ・ 「#3427. 訓令式・日本式・ヘボン式のローマ字つづり対照表」 ([2018-09-14-1])
 ・ 「#1892. 「ローマ字のつづり方」」 ([2014-07-02-1])
 ・ 「#1879. 日本語におけるローマ字の歴史」 ([2014-06-19-1])
 ・ 「#2550. 宣教師シドッチの墓が発見された?」 ([2016-04-20-1])
 ・ 「#4905. 「愛知」は Aichi か Aiti か?」 ([2022-10-01-1])
 ・ 「#4925. ローマ字表記の揺れと英語スペリング慣れ」 ([2022-10-21-1])
 ・ 「#1893. ヘボン式ローマ字の <sh>, <ch>, <j> はどのくらい英語風か」 ([2014-07-03-1])
 ・ 「#3251. <chi> は「チ」か「シ」か「キ」か「ヒ」か?」 ([2018-03-22-1])

 日本語社会がいかにしてローマ字というアルファベット文字体系を受容し,改変し,手なずけようとしてきたかを振り返ることは,これから英語を始めとする世界中の言語や文字とどう付き合っていくかを考える上でも大事なことだと考えます.今回の動画を通じて,日本語を表記するためのローマ字使用について改めて考えてみてはいかがでしょうか.

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2023-02-04 Sat

#5031. 接尾辞 -ism の起源と発達 [suffix][greek][latin][french][polysemy][productivity][hellog_entry_set][neologism][lmode][derivation][derivative][word_formation]

 現代英語で -ism という接尾辞 (suffix) は高い生産性をもっている.racism, sexism, ageism, lookism など社会差別に関する現代的で身近な単語も多い.宗教とも相性がよく Buddhism, Calvinism, Catholicism, Judaism などがあるかと思えば,政治・思想とも親和性があり Liberalism, Machiavellism, Platonism, Puritanism などが挙げられる.
 上記のように「主義」の意味のこもった単語が多い一方で,aphorism, criticism, mechanism, parallelism などの通常の名詞もあり一筋縄ではいかない.また AmericanismBritishism などの「○○語法」の意味をもつ単語も多い(cf. 「#2241. Dictionary of Canadianisms on Historical Principles」 ([2015-06-16-1])).そして,今では接尾辞ではなく独立した語としての ism も存在する(cf. 「#2576. 脱文法化と語彙化」 ([2016-05-16-1])).
 接尾辞 -ism の語源はギリシア語 -ismos である.ギリシア語の動詞を作る接尾辞 -izein (英語の -ize の原型)に対応する名詞接尾辞である.現代英語の文脈では,動詞を作る -ize に対応する名詞接尾辞といえば -ization が思い浮かぶが,語源的にいえば -ism のほうがより由緒の正しい名詞接尾辞ということになる.(英語の -ize/-ise を巡る問題については,こちらの記事セットを参照.)
 ギリシア語 -ismos がラテン語,フランス語にそれぞれ -ismus, -isme として借用され,それが英語にも入ってきて,近代英語期以降に多用されるようになった.とりわけ後期近代英語期に,この接尾辞の生産性は著しく高まり,多くの新語が出現した.Görlach (121) は -ism について次のように述べている.

The 19th century can be seen as a battleground of ideologies and factions; at least, such is the impression created by the frequency of derivatives ending in -ism (often from a personal name, and accompanied by -ist for the adherent, and -istic/-ian for adjectival uses). The year 1831 alone saw the new words animism, dynamism, humorism, industrialism, narcotism, philistinism, servilism, socialism and spiritualism (CED).


 世界の思想上の分断が進行している21世紀も -ism の生産性が衰えることはなさそうだ.

 ・ Görlach, Manfred. English in Nineteenth-Century England: An Introduction. Cambridge: CUP, 1999.

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2023-02-01 Wed

#5028. 英語の季節語の歴史のおさらい [youtube][notice][semantic_change][lexicology][metonymy][calendar][french]

 日曜日に公開された YouTube チャンネル「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」の最新回は,(タイトルが長くてすみません)「かつて英語には「夏」と「冬」しかなかった。「春」や「秋」はどうやってうまれた?」です.20分ほどの動画となっています.どうぞご覧ください.



 今回の英語の季節語の話題は,本ブログを含め別のメディアで何度も繰り返し取り上げてきたもので,特に新しいトピックではありません.補足的な情報や関連する話題も含めて,様々な角度から注目してきましたので,ここでリンクを整理しておきたいと思います.

 ・ hellog 「#1221. 季節語の歴史」 ([2012-08-30-1])
 ・ hellog 「#1438. Sumer is icumen in」 ([2013-04-04-1])
 ・ hellog 「#2916. 連載第4回「イギリス英語の autumn とアメリカ英語の fall --- 複線的思考のすすめ」」 ([2017-04-21-1])
 ・ 外部記事:「イギリス英語の autumn とアメリカ英語の fall --- 複線的思考のすすめ」(=連載「現代英語を英語史の視点から考える」の第4回)
 ・ hellog 「#2925. autumn vs fall, zed vs zee」 ([2017-04-30-1])
 ・ hellog 「#3448. autumn vs fall --- Johnson と Pickering より」 ([2018-10-05-1])
 ・ Voicy heldio 「#69. winter は「冬」だけでなく「年」を表わす」
 ・ Voicy heldio 「#532. 『ジーニアス英和辞典』第6版の出版記念に「英語史Q&A」コラムより spring の話しをします」
 ・ Voicy heldio 「#533. 季節語の歴史」



 もう1つ関連してフランス語における季節語の歴史事情について,三省堂のことばのコラムシリーズの「歴史で謎解き!フランス語文法(フランス語教育 歴史文法派)」より「第39回 フランス語の季節名の語源はなに?」がお薦めです.

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2023-01-30 Mon

#5026. 接尾辞 -age [suffix][french][latin][word_formation][noun][borrowing][loan_word]

 -age は名詞を作る接尾辞 (suffix) として一見目立たなそうだが,意外と基本的な単語にも用いられている.例えば percentage, marriage, usage, passage, storage, shortage, mileage, voltage, baggage, postage, luggage, breakage, bondage, anchorage, shrinkage, orphanage 等をみれば頷けるだろう.
 語源としては,古典時代以降のラテン語 -agium に遡る場合もあれば,同じく古典時代以降のラテン語の別の語尾 -aticum(古典ラテン語の形容詞語尾 -āticus の中性形より)がフランス語に -age として伝わったものに由来する場合もある.いずれももとより名詞を作る接尾辞として機能していた.
 この接尾辞をもつ単語は早くも初期中英語期にフランス語やラテン語から借用されていたが,後期中英語期になると peerage, mockage など英語内部で語形成されたものも現われ,この傾向は近代英語期になるととりわけ強くなった.現代英語においてもある程度の生産性を有する接辞で,1949年には signage などの語が作られている.
 この接尾辞の主な意味を語例とともに挙げてみよう.

 1. 集合: cellarage, leafage, luggage, surplusage, trackage, wordage
 2. 動作・過程: coverage, haulage, stoppage
 3. 結果: breakage, shrinkage, usage
 4. 率・数量: acreage, dosage, leakage, mileage, outage, slippage
 5. 家・場所: orphanage, parsonage, steerage
 6. 状態: bondage, marriage, peonage
 7. 料金: postage, towage, wharfage

 このように -age は英語では原則として名詞を作る接尾辞だが,ラテン語の形容詞語尾 -āticus より機能を受け継ぎ,珍しく形容詞としてフランス語より入ってきた savage という語を挙げておこう.

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2022-12-26 Mon

#4991. -ise か -ize か問題 --- 2つの論点 [spelling][suffix][z][greek][latin][french][verb][oed][academy][orthography]

 昨日の記事「#4990. 動詞を作る -ize/-ise 接尾辞の歴史」 ([2022-12-25-1]),および以前の「#305. -ise か -ize か」 ([2010-02-26-1]),「#314. -ise か -ize か (2)」 ([2010-03-07-1]) の記事と合わせて,改めて -ise か -ize かの問題について考えたい.今回は文献参照を通じて2つほど論点を追加する.
 昨日の記事で,OED が -ize の綴字を基本として採用している旨を紹介した.<z> を用いるほうがギリシア語の語源に忠実であり,かつ <z> ≡ /z/ の関係がストレートだから,というのが採用の理由である.しかし,この OED の主張について,Carney (433) が -ise/-ize 問題を解説している箇所で疑問を呈している.有用なので解説全体を引用しておこう.

17 /aɪz/ in verbs as <-ise>, <-ize>

The <-ize> spelling reflects a Greek verbal ending in English words, such as baptize, organize, which represent actual Greek verbs. There are also words that have been made up to imitate Greek, in later Latin or in French (humanise), or within English itself (bowdlerise). Some printers adopt a purist approach and spell the first group with <-ize> and the second group with <-ise>, others have <-ize> for both.
   Since this difference is opaque to the ordinary speller, there is pressure to standardize on the <s> spelling, as French has done. To standardize with a <z> spelling as American spelling has done has disadvantages, because there are §Latinate verbs ending in <-ise> which have historically nothing to do with this suffix: advertise, apprise, circumcise, comprise, supervise, surmise, surprise. If you opt for a scholarly <organize>, you are likely to get an unscholarly *<supervize>. The OED argues that the pronunciation is /z/ and that this justifies the <z> spelling. But this ignores the fact that <s>≡/z/ happens to be the commonest spelling of /z/. To introduce more <z> spellings would probably complicate matters for the speller.


 もう1つの論点は,イギリス英語の -ise はフランス語式の綴字を真似たものと理解してよいが,その歴史的な詳細については調査の必要があるという点だ.というのは,フランス語でも長らく -ize は使われていたようだからだ.ここで,フランス語でいつどのように -ise の綴字が一般化したのかが問題となる.また,(イギリス)英語がいつどのように,そのようなフランス語での -ise への一般化に合わせ,-ise を好むようになったのかも重要な問いとなる.Upward and Davidson (170--71) の解説の一部がヒントになる.

          The suffix -IZE/-ISE

There are some 200 verbs in general use ending in the suffix -ISE/-IZE, spelt with Z in American usage and s or z in British usage. The ending originated in Gr with z, which was transmitted through Lat and OFr to Eng beginning in the ME period.

・ Three factors interfered with the straightforward adoption of z for all the words ending in /aɪz/:
   - The increasing variation of z/s in OFr and ME.
   - The competing model of words like surprise, always spelt with s (-ISE in those words being not the Gr suffix but part of a Franco-Lat stem).
   - Developments in Fr which undermined the z-spelling of the Gr -IZE suffix; for example, the 1694 edition of the authoritative dictionary of the Académie Française standardized the spelling of the Gr suffix with s (e.g. baptiser, organiser, réaliser) for ModFr in accordance with the general Fr rule for the spelling of /z/ between vowels as s, and the consistent use of -ISE by ModFr from then on gave weight to a widespread preference for it in British usage. American usage, on the other hand, came down steadfastly on the side of -IZE, and BrE now allows either spelling.


 英語の -ise/-ize 問題の陰にアカデミー・フランセーズの働きがあったというのはおもしろい.さらに追求してみたい.

 ・ Carney, Edward. A Survey of English Spelling. Abingdon: Routledge, 1994.
 ・ Upward, Christopher and George Davidson. The History of English Spelling. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2011.

Referrer (Inside): [2023-10-10-1]

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