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diatone - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-10-12 05:27

2021-07-23 Fri

#4470. アジア・アフリカ系の英語にみられるリズムと強勢の傾向 [prosody][phonology][stress][syllable][rhythm][world_englishes][new_englishes][variety][esl][diatone]

 現代世界には様々な英語変種があり,ひっくるめて World Englishes や New Englishes と呼ばれることが多い.アジアやアフリカには歴史的な経緯から ESL (English as a Second Language) 変種が多いが,多くのアジア・アフリカ系変種に共通して見られる韻律上の特徴がいくつか指摘されている.ここでは2点を挙げよう.1つは "syllable-timing" と呼ばれるリズム (rhythm) の性質,もう1つは語の強勢 (stress) の位置に関する傾向である.以下 Mesthrie and Bhatt (129) を参照して解説する.
 syllable-timing とは,リズムの観点からの言語類型の1つで,英米標準英語がもつ stress-timing に対置されるものである.前者は音節(モーラ)が等間隔で繰り返されるリズムで,日本語やフランス語がこれを示す.後者は強勢が等間隔で繰り返されるリズムで,標準英語やドイツ語がこれを示す(cf. 「#1647. 言語における韻律的特徴の種類と機能」 ([2013-10-30-1]),「#3644. 現代英語は stress-timed な言語だが,古英語は syllable-timed な言語?」 ([2019-04-19-1])).
 アジア・アフリカ系の諸言語には syllable-timing をもつものが多く,それらの基層の上に乗っている ESL 変種にも syllable-timing のリズムが持ち越されるということだろう.例えば,インド系南アフリカ英語,黒人系南アフリカ英語,東アフリカ英語,ナイジェリア英語,ガーナ英語,インド英語,パキスタン英語,シンガポール英語,マレーシア英語,フィリピン英語などが syllable-timing を示す.このリズム特徴から派生する別の特徴として,これらの変種には,母音縮約が生じにくく,母音音価が比較的明瞭に保たれるという共通点もある.世界英語の文脈では,syllable-timing のリズムはある意味では優勢といってよい.
 これらの変種には,語の強勢に関しても共通してみられる傾向がある.しばしば標準英語とは異なる位置に強勢が置かれることだ.realíse のように強勢位置が右側に寄るものがとりわけ多いが,カメルーン英語などでは adólescence のように左側に寄るものもみられる.また,これらの変種では標準英語の ábsent (adj.) 対 absént (v.) のような,品詞によって強勢位置が移動する現象 (diatone) はみられないという.
 全体的にいえば,基層言語の影響の下で韻律上の規則が簡略化したものといってよいだろう.これらは日本語母語話者にとって「優しい」韻律上の特徴であり,今後の展開にも注目していきたい.

 ・ Mesthrie, Rajend and Rakesh M. Bhatt. World Englishes: The Study of New Linguistic Varieties. Cambridge: CUP, 2008.

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2021-04-08 Thu

#4364. 綴字も発音も意味もややこしい desert, dessert, dissert [latin][french][prefix][etymology][diatone][khelf_hel_intro_2021]

 標題は,その派生語も含め,頭が混乱してくる単語群です.綴字はややこしく似ているし,その割には発音は同じだったり異なっていたりする.意味も似ているような,そうでないような.こういう単語は学習する上で実に困ります.このややこしさは語源を遡ってもたいして解消しないのですが,新年度の英語史導入キャンペーン期間中ということもあり,歴史的にみてみたいと思います(cf. 「#4357. 新年度の英語史導入キャンペーンを開始します」 ([2021-04-01-1])).
 まずは,もっとも問題がなさそうで,知らなくてもよいレベルの単語である dissert v. /dɪˈsəːt/ から行きましょう.「論じる」を意味する動詞で,辞書では《古風》とのレーベルが貼られています.この単語のように綴字で <s> が重複する場合には,原則として無声音の /s/ となります(しかし,以下に述べるように,すぐに例外が現われます).この動詞から派生した名詞 dissertation 「学術論文(特に博士論文)」は知っておいてもよい単語ですね.
 語源としては,ラテン語で「論じる」を意味する動詞 dissertāre に遡ります.強意の接頭辞 dis- に,語幹 serere (言葉をつなぐ,作文する)から派生した反復形をつなげたもので,「しっかり言葉をつなぎあわせる」ほどが原義です(cf. 同語幹より series も).
 次に「デザート」を意味する dessert /dɪˈzəːt/も馴染み深い名詞だと思います.<ss> の綴字ですが,上記の早速の例外で,有声音 /z/ で発音されます.この単語は,フランス語の動詞 desservir (供した食事を片付ける)の過去分詞形に由来します.つまり「膳を下げられた」後に出されるもの,まさに「食後のデザート」なわけです.フランス語の除去の接頭辞 des- に servir (英語にも serve として入り「食事を出す」の意)という語形成なので,納得です.
 さらに次に進みます.「デザート」の dessert とまったく同じ発音ながらも,<s> が1つの desert なる厄介な単語があります.複雑な事情を整理するために,以下では,起源の異なる desert 1desert 2 の2種類を区別していきます.最初に desert 1 から話しましょう.desert 1 は「捨てる,放棄する」を意味する動詞です.例文として,She was deserted by her husband. (彼女は夫に捨てられた.)を挙げておきます.この動詞の語源はフランス語 déserter で,さらに遡るとラテン語 dēserere の反復形に行き着きます.語根は serere なので,上述の dissert とも共通ですが,今回の単語についている接頭辞は dis- ではなく de- です.つなげる (serere) ことを止める (de) という発想で「捨てる,見捨てる」というわけです.
 そして,この動詞 desert 1 が,そのままの形態で形容詞化し,さらに名詞化したのが「捨てられた(地)」としての「砂漠」です.英語では名前動後 (diatone) の傾向により,「砂漠」としての desert の発音は,強勢が第1音節に移って /ˈdɛzət/ となるので要注意です.
 desert 2 /dɪˈzəːt/ に移りましょう.こちらは名詞で「当然受けるべき賞罰」を意味します.上記のこれまでの語とはまったく異なる雰囲気ですが,これは別語源の deserve /dɪˈzəːv/ (?に値する)という動詞の過去分詞形に由来する名詞形だからです.当然のごとく値するべき物事,それが賞罰ということです.この元の deserve なる動詞はフランス語 deservir からの借用で,これ自身はラテン語 dēservīre に遡ります.今回の接頭辞 - は強意,語幹 servīre は「仕える」の意味で,後者は後に serve として英語に取り込まれました.「?に仕えることができるほどに相応しい」→「?に値する」といった意味の発展と考えられます.
 さて,混乱しやすい単語群の語源を遡ることで,かえって混乱したかもしれません(悪しからず).なお,最後に取り上げた動詞 deserve は,なかなか使い方の難しい動詞でもあります.The report deserves careful consideration., He deserves to be locked up for ever for what he did., Several other points deserve mentioning. など取り得る補文のヴァリエーションも豊富です.意味的な観点から探ってもおもしろい動詞だと思います.意味的な観点から,昨日「英語史導入企画2021」にて大学院生によるコンテンツ「"You deserve it." と「自業自得」」が公表されました.こちらもご一読ください.

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2019-05-31 Fri

#3686. -ate 語尾,-ment 語尾をもつ動詞と名詞・形容詞の発音の違い [gvs][vowel][spelling][spelling_pronunciation_gap][stress][suffix][latin][diatone][-ate]

 昨日の記事「#3685. -ate 語尾をもつ動詞と名詞・形容詞の発音の違い」 ([2019-05-30-1]) に引き続き,-ate 語尾をもつ語の発音が,動詞では /eɪt/ となり名詞・形容詞では /ɪt/ となる件について.
 Carney でもこの問題が各所で扱われており,特に p. 398 にこの現象を示す単語リストが挙げられている.以下に再現しておこう.網羅的ではないと思われるが,便利な一覧である.

aggregate, animate, appropriate, approximate, articulate, associate, certificate, co-ordinate, correlate, degenerate, delegate, deliberate, duplicate, elaborate, emasculate, estimate, expatriate, graduate, importunate, incorporate, initiate, intimate, moderate, postulate, precipitate, predicate, separate, subordinate, syndicate


 Carney がこのリストを挙げているのは,品詞によって発音を替える類いの単語があるという議論においてである.他の種類としては,強勢音節を替える名前動後 (diatone) も挙げられているし,接尾辞 -ment をもつ語も話題にされている.名前動後という現象とその歴史的背景についてについては,すでに本ブログでも diatone の各記事で本格的に紹介してきたが,「品詞によって発音を替える」というポイントで -ate 語とつながってくるというのは,今回の発見だった.
 -ment 語については,動詞であれば明確な母音で /-mɛnt/ となるが,名詞・形容詞であれば曖昧母音化した /-mənt/ となる.Carney (398) より該当する単語のリストを挙げておこう.complement, compliment, document, implement, increment, ornament, supplement.

 ・ Carney, Edward. A Survey of English Spelling. Abingdon: Routledge, 1994.

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2018-07-10 Tue

#3361. 「名前動後」の出現は英語形態論史における小さな逆流 [diatone][typology][morphology][conversion][stress]

 récord (名詞)と recórd (動詞)のように,名詞と動詞を掛けもつ2音節語において強勢位置が「名前動後」となる現象 (diatone) について「#803. 名前動後の通時的拡大」 ([2011-07-09-1]),「#804. 名前動後の単語一覧」 ([2011-07-10-1]) などで取り上げてきた.「名前動後」を示す単語は16世紀後半から現代にかけて徐々に増えてきたが,この問題を,連日取り上げてきた英語形態論の類型的なシフトという観点から眺めてみるとおもしろい (cf. [2018-07-07-1], [2018-07-08-1], [2018-07-09-1]) .英語形態論は概略としては古英語から現代英語にかけて stem-based morphology → word-based morphology とシフトしてきたと解釈できるが,「名前動後」はこの全般的な潮流に対する小さな逆流とみることもできるからだ.
 record の例で考えていくと,中英語では名詞は recórd,動詞は recórd(en) であり,強勢位置は第2音節で一致していた.動詞の語尾 -en は消失しかかっていたが,その有無にかかわらず名詞・動詞ともに recórd という共通にして不変の語幹をもっていたので,両語の関係は事実上の品詞転換 (conversion) という形態過程により生じたものと考えることができる.ここで作用している形態論は,word-based morphology といってよいだろう.
 ところが,16世紀後半以降に名詞において強勢移動が生じたために,それまで共有されていた1つの語幹が,名詞語幹 récord と動詞語幹 recórd の2つに分かれることになった(現代の音形はそれぞれ /ˈrɛkəd/, /rɪˈkɔːd/).いまや可変の語幹に基づく stem-based morphology が機能していることになる.
 英語形態論の歴史は,全般的な潮流としては stem-based morphology → word-based morphology と解釈できるが,歴史の各段階で生じてきた個々の変化の結果として,部分的に word-based morphology → stem-based morphology の逆流を示すものもありうるということだろう.「古英語は stem-based morphology の時代,現代英語は word-based morphology の時代」のようにカテゴリカルに分類するのではなく,混在の程度の問題としてとらえるのが妥当である.

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2015-08-14 Fri

#2300. 句動詞の品詞転換と名前動後 [conversion][phrasal_verb][compound][word_formation][diatone][stress][lexical_diffusion]

 「#1695. 句動詞の品詞転換」 ([2013-12-17-1]) の最後に示唆したが,breakaway, sellout, writeoff などの句動詞から転換 (verb-particle conversion) した名詞と,increase, project, record などの動詞兼用の名詞との間には,注目すべき共通点がある.それは,いわゆる名前動後の強勢パターンをもっていることである.
 名前動後については,「#803. 名前動後の通時的拡大」 ([2011-07-09-1]),「#804. 名前動後の単語一覧」 ([2011-07-10-1]),「#805. 将来,名前動後になるかもしれない語」 ([2011-07-11-1]) をはじめ,diatone の各記事で話題にしてきた(論文としても公表しているので,「#2. 自己紹介」 ([2009-05-01-73]) の書誌を参照).しかし,verb-particle conversion における名前動後の強勢パターンは扱ったことはなかった.品詞転換の研究では,上記の共通点については早くから気づかれていたようで,例えば本格的な品詞転換の研究書を著わした Biese (246) は,次のように指摘している.

It is of interest to note that the structural type so often characteristic of both simple conversion-substantives and verb-adverb combinations converted into nouns is the same, e.g. very often of a form ‿-́ . . .; the simple conv.-subst. showing a light, unstressed first syllable and a heavy, stressed second syllable, while in the adverb groups a (mostly) short verb is followed by an adverb having the main stress of the word-group.


 おもしろいのは,2音節語に関して,íncrease (n.) vs incréase (v.) のような通常の名詞・動詞ペアではロマンス系借用語が多いということもあり,第1音節が意味の軽い接頭辞で,第2音節が意味の重い語根という構成を示すが,brékawày (n.) vs brèak awáy (v.) では構成が逆となっていることだ.もっとも,句動詞に用いられる動詞は軽い意味のものが多いことは事実だが,名前動後という共通の強勢パターンを示すのは注目すべきである.これは,名前動後という韻律上の現象が,語形成という過程の関与する形態論の問題というよりは,むしろ品詞の決定に関わる統語論や語彙論の問題であることを示唆するのではないか.
 名前動後という韻律は,初期近代英語以降に発達した比較的新しい現象だが,句動詞に由来する名前動後の強勢パターンはさらに新しい現象と思われる.
 品詞転換一般と名前動後の関係については,最近の記事「#2291. 名動転換の歴史と形態音韻論」 ([2015-08-05-1]) で触れたので参照されたい.

 ・ Biese, Y. M. Origin and Development of Conversions in English. Helsinki: Annales Academiae Scientiarum Fennicae, B XLV, 1941.

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2015-08-05 Wed

#2291. 名動転換の歴史と形態音韻論 [diatone][conversion][i-mutation][derivation][affixation][prosody][germanic]

 英語史およびゲルマン語史において,名詞と動詞の相互転換の方法はいろいろあった.まず,接辞添加 (affixation) により他品詞を派生する方法があった.古英語でいえば,名詞 lufu (love) に動詞語尾を付して lufian (to love) とするタイプである.現代英語にも light (n.) と lighten (v.) のようなペアが見られ,その生産性の程度は別として,この方法それ自体は確認される (cf. 「#1877. 動詞を作る接頭辞 en- と接尾辞 -en」 ([2014-06-17-1])) .
 次に,上のように添加された接辞が音韻的に弱化し,ついには消失してしまったものがある.これは,共時的にみれば,品詞転換 (conversion) あるいはゼロ派生 (zero-derivation) と呼ばれるものである.中英語以降の love が1例であり,名詞と動詞は形態音韻上まったく区別がない.
 次に,添加された接辞が音韻的に摩耗したという点ではゼロ派生と同じだが,その接辞の痕跡が語幹の一部に亡霊のように残っているというケースがある.典型的なタイプの1つは,house /haʊs/ (n.) vs house /haʊz/ (v.) のように語幹末子音が無声・有声を示すものである.語幹母音の長短も加わって,breath /brɛθ/ (n.) vs breathe /briːð/ (v.) のような対立を示すものも少なくない (cf. 「#2223. 派生語対における子音の無声と有声」 ([2015-05-29-1]), 「#979. 現代英語の綴字 <e> の役割」 ([2012-01-01-1])) .
 「かつての接辞の痕跡」のもう1つの典型的なタイプは,i-mutation である.i-mutation とは,接辞に i/j などの前舌高母音要素があるときに,先行する語幹母音がつられて前寄りあるいは高い位置へ寄せられる歴史的な音韻過程である (cf. 「#157. foot の複数はなぜ feet か」 ([2009-10-01-1])) .接辞が後に消失してしまうと,手がかりは語幹母音の変異のみということになる.food (n.) vs feed (v.), tooth (n.) vs teethe (v.) などの例だ.
 純粋なゼロ派生により名詞と動詞の音韻形態がほぼ完全に一致したケースでも,多音節語の場合に,強勢位置の変異により品詞が区別がされるものがある.diatone の各記事で扱ってきた「名前動後」がその例であり,récord (n.) vs recórd (v.), íncrease (n.) vs incréase (v.) など数多く存在する (cf. 「#804. 名前動後の単語一覧」 ([2011-07-10-1])) .
 上で見てきたように,英語史およびゲルマン語史において,接辞転化,ゼロ派生,語幹末子音の無声・有声の対立,i-mutation,名前動後は,それぞれ形式的には区別される現象だが,機能的にみれば品詞を転換させるという共通の役割を共有してきたといえる.形式的には関連のないようにみえる i-mutation とゼロ派生と名前動後が,歴史上,補完的に機能してきたということは興味深い.非常に間接的な因果関係ではあろうが,古英語以前に i-mutation の生産性が衰退したことと,近代英語でゼロ派生や名前動後が出現し,生産的となったこととはリンクしているのだ.
 以上の洞察を与えてくれたのは,Biese (250--51) である.以下に引用しておこう.

[W]e must mention another feature in the development of English sound-changes that was to become important to the process of conversion. In Old English there existed a great number of denominative verbs derived from the corresponding nouns by a suffix causing an i-umlaut, i.e. word-pairs of the following character were very common: scrȳdan?scrūd, hiertan?heorte, rȳman?rūm.
   We may regard this differentiation of nouns and verbs in OE. as a phenomenon on the same lines as the stress-distinction . . . . Now, while in the other Germanic languages the umlaut remained a living featuring principle in the field of word-formation, it soon ceased to be an integral principle of English word-formation. Even in early Middle English the umlaut as a living feature of the language, e.g. as used in forming denominatives from new substantives, had disappeared. Moreover, during the development of English a lot of levelling took place in word-pairs that had originally been distinguished by umlaut. In other cases one of the two words, the subst. or adjective on the other hand or the verb on the other, became obsolete. This feature in the development of the structure of the English language was necessarily very favourable to the spread of the process of forming new words by the method of direct conversion.


 ・ Biese, Y. M. Origin and Development of conversions in English. Helsinki: Annales Academiae Scientiarum Fennicae, B XLV, 1941.

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2015-05-29 Fri

#2223. 派生語対における子音の無声と有声 [phonetics][oe][consonant][analogy][diatone][derivation][word_formation][conversion][homonymic_clash]

 大名 (53--54) が述べているように,「派生関係にある語で,語末子音が一方が有声音で他方が無声音ならば,有声音は動詞のほうである」という規則がある.以下がその例だが,いずれも摩擦音が関与しており,ほとんどが動詞と名詞の対である.

 ・ [f] <f> vs [v] <v>: life--live, proof--prove, safe--save, belief--believe, relief-relieve, thief--thieve, grief--grieve, half--halve, calf--calve, shelf--shelve
 ・ [s] <s> vs [z] <s>: close--close, use--use, excuse--excuse, house--house, mouse--mouse, loss--lose
 ・ [s] <s> vs [z] <z>: grass--graze, glass--glaze, brass--braze
 ・ [c] <s> vs [z] <s>: advice--advise, device--devise, choice--choose
 ・ [θ] <th> vs [ð] <th>: bath--bathe, breath--breathe, cloth--clothe, kith--kithe, loath--loathe, mouth--mouth, sheath-sheathe, sooth--soothe, tooth--teethe, wreath--wreathe

 close--close のように問題の子音の綴字が同じものもあれば,advice--advise のように異なるものもある (cf. 「#1153. 名詞 advice,動詞 advise」 ([2012-06-23-1])) .また,動詞は語尾に e をもつものも少なくない (cf. 「#979. 現代英語の綴字 <e> の役割」 ([2012-01-01-1])) .<th> に関わるものについては,先行する母音の音価も異なるものが多い.
 これらの対の語末子音の声 (voicing) の対立には,多くの場合,歴史的な音韻過程が関与している.しかし,ある程度「名詞は無声,動詞は有声」のパターンが確立すると,これが基盤となって類推作用 (analogy) により類例が増えたということもあるだろう.それぞれの対の成立年代などを調査する必要がある.
 互いに派生関係にある名詞と動詞のあいだの音韻形態が極めて類似している場合に,同音衝突 (homonymic_clash) を避けるために声の対立を利用したのではないかと考えている.同じ動機づけは,強勢位置を違える récord vs recórd のような「名前動後」のペア (diatone) にも観察されるように思われる.

 ・ 大名 力 『英語の文字・綴り・発音のしくみ』 研究社,2014年.

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2013-12-17 Tue

#1695. 句動詞の品詞転換 [conversion][phrasal_verb][compound][word_formation][diatone]

 近代英語以降,品詞転換 (conversion) が生産力を増してきた経緯については,「#190. 品詞転換」 ([2009-11-03-1]) や「#1414. 品詞転換はルネサンス期の精力と冒険心の現われか?」 ([2013-03-11-1]) などの記事で取り上げてきた.品詞転換のなかでも,特に現代英語になってはやり出したのが,句動詞の名詞への転換である.「#420. 20世紀後半にはやった二つの語形成」 ([2010-06-21-1]) では,sell-out, write-off, call-up, take-over, breakdown などの例を挙げ,複合による語形成という観点からこれらを headless compounds あるいは exocentric compounds と呼んだが,句動詞からの転換ととらえたほうがわかりやすいかもしれない.ただし,対応する句動詞がない love-in, think-in などの名詞もあるので,その場合には転換とは考えられず,直接の複合による語形成ということになる.
 ほとんどの場合,句動詞は本来語の要素を用いるので,ロマンス系形の派生語と比べると,直接的に心に響く.力強く感情的で,気取らない口語風といえばよいだろうか.Potter (171) も次のように述べている.

Among the commonest of recent shifts are those of Germanic-derived phrasal verbs into nouns. These new forms are felt to be more forceful and vigorous than those Latin-derived synonyms which they so often supplant.


 Potter (172--73) が挙げている例を列挙すると,breakaway, breakdown, breakout, breakthrough, breakup, buildup, dropout, followup, frameup, getaway, getby, getout, gettogether, getup, hideout, holdup, hookup, layout, leadin, leftover, letup, makeup, payoff, rakeoff, sellout, setback, setup, shakeup, shareout, showdown, stepup, takeoff, takeover, throwaway, walkout, walkover となるが,電子辞書で検索すると他にいくらでも出てくる.例えば,OALD8 で -away を後方一致検索すると,+breakaway, castaway, +cutaway, getaway, +giveaway, hideaway, layaway, +runaway, stowaway, takeaway, tearaway などがヒットする.+ を付したものは限定形容詞としても用いられ,他にも形容詞としてのみ用いられる flyaway, foldaway, soaraway, throwaway なども見つかる.句動詞→形容詞の転換例も少なくないようで,むしろ名詞への転換よりも時間的に先行しているものもある.
 away にとどまらずに主要な前置詞で同じように後方一致検索をかけて関連語の一覧を作ろうと思ったが,これは少々時間がかかりそうなので,今回は見送っておく.初出年代を逐一チェックする必要があるが,後期近代英語から現代英語にかけての時期に出現したものが多そうである.
 句動詞からの転換の生産力そのものが研究対象になるほか,名前動後 (diatone) の強勢パターンの観点からも,句動詞由来の名詞・形容詞は要注目である.

 ・ Potter, Simon. Changing English. London: Deutsch, 1969.

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2013-07-28 Sun

#1553. Consonant Extrametricality と名前動後 [diatone][consonant][stress][phonology][metrical_phonology]

 韻律音韻論 (metrical phonology) によると,英語には Consonant Extrametricality (CE) という韻律規則がある.端的にいえば,語末の子音は,語の韻律を考慮するうえで勘定に入れないとする規則である."[+cons] ──→ [+ex] / ─── ] word" と公式化される.
 語末子音を勘定に入れずに,最終音節の rhyme 以下が2モーラ以上となる(つまり分岐する)場合には,原則としてそこに強勢が置かれる.Hogg and McCully (109--10) より例を引こう.

(a)(b)(c)
obey /obée/torment /tɔrmént/astonish /astɔ'nɪʃ/
polite /poláit/perhaps /perháps/decrepit /dikrépit/
humane /hjuuméyn/august /ɔɔgúst/normal /nɔ'rmal/
petite /petíit/divert /daivért/consider /kɔnsíder/


 ただし,これは名詞以外の品詞において有効な規則である.英語の多音節語の名詞では一般に強勢が第1音節に引きつけられるため,強勢が最終音節に残るには,より厳しい条件が課せられる.例えば,(b) からの例で,動詞 torment と形容詞 august はともに語末子音1つを韻律外としても,まだ rhyme 以下が分岐するので,第2音節に強勢が落ちる.ところが,名詞 torment と名詞 August では第1音節に強勢が移るので,この事実をうまく説明できる条件と規則を考える必要がある.
 最もわかりやすいのは,最終子音群のすべてを韻律外とする説明である.Katamba (236--37) は,canoe, bamboo, bazaar, settee; police, alert, debate, cartoon などの例を挙げながら,次のようにまとめている.

. . . with regard to the disyllabic noun stress rule, only the nucleus of the second syllable is projected. The noun stress rule only 'sees' the syllable nucleus: if the nucleus branches (i.e. contains a long vowel or diphthong), stress is on the final syllable. Otherwise, stress is on the initial syllable.


 これは,名詞の場合には最終音節の最終子音1つだけでなく最終子音群のすべてを韻律外とみなせ,という規則だ.そして,その子音群を除外した上でもまだ rhyme 以下が分岐する(つまり長母音や2重母音を含む)場合にのみ,その最終音節に強勢が落ちるとする.この条件に合わなければ,強勢は先行音節へと移動してゆく.これにより,名詞 torment と名詞 August は,それぞれ /tɔ'rment/, /ɔ'ɔgust/ と正しく分析されることになる.
 この韻律音韻論の分析に従えば,いわゆる名前動後 (diatone) を構成する多くの語の強勢パターンは,Consonant Extrametricality と品詞(非名詞か名詞か)の2点を参照して記述できることになる ([2011-07-10-1]) .しかし,名前動後には強勢位置の変異や変化を示す語はあるし (ex. control (n.), retard (n.); [2012-04-23-1]) ,予想に当てはまらない語も少なくない (ex. discount, exploit, increase) .この分析が完全な説明能力をもたないことを示すのは簡単だが,共時的のみならず通時的な傾向を示唆するものと理解するのであれば,名前動後の語彙拡散を記述する上で,ある程度有効な分析となるかもしれない.

 ・ Hogg, Richard and C. B. McCully. Metrical Phonology: A Coursebook. Cambridge: CUP, 1987.
 ・ Katamba, Francis. An Introduction to Phonology. New York: Longman, 1989.

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2012-09-17 Mon

#1239. Frequency Actuation Hypothesis [frequency][phonetics][language_change][lexical_diffusion][stress][diatone][-ate]

 語彙拡散 (lexical diffusion) として進行する音韻変化の道筋や順序が語の頻度と相関しているらしいことは,古くは19世紀末から指摘されてきた.実際に,Phillips (1984: 321) に挙げられているように,頻度の高い語から順に変化を遂げるという音韻変化は数々例証されてきた.一方で,頻度の低い語から順に変化を遂げる例も確認されており,頻度と語彙拡散の順序の関係については,いまだに疑問が多い.この問題について,Phillips は,南部アメリカ英語における glide deletion ,中英語の unrounding ,近代英語の名前動後(diatonic stress shift; diatone の記事を参照)という,頻度の低い順に進行するとされる3つの音韻変化を取り上げて,"Frequency Actuation Hypothesis" を提唱した.これは,"physiologically motivated sound changes affect the most frequent words first; other sound changes affect the least frequent words first" (1984: 336) というものである(前者は surface phonetic form に働きかける変化,後者は underlying phonetic form に働きかける変化を指す).
 しかし,Phillips は1998年の -ate で終わる動詞の強勢位置の移動に関する研究において,この生理的に動機づけられていない音韻変化が,予想されるように頻度の低い順には進まず,むしろ頻度の高い順に進んでいることを明らかにした.そこで,改訂版 Frequency Actuation Hypothesis を唱えた.

[F]or segmental changes, physiologically motivated sound changes affect the most frequent words first; other sound changes affect the least frequent words first. For suprasegmental changes, changes which require analysis (e.g., by part of speech or by morphemic element) affect the least frequent words first, whereas changes which eliminate or ignore grammatical information affect the most frequent words first. (1998: 231)


 つまり,強勢の移動のような超分節の音韻変化に関しては,話者による分析が入るか入らないかで,頻度と順序の関係が逆転するというわけである.なぜそうなるのかについて,Phillips は Bybee (117--19) の "lexical strength" という考え方を持ち出している.
 私は必ずしもこの議論に納得していない.また,Phillips の主張とは異なり,名前動後が頻度の高い順に進行したことを示すデータも独自に得ている.頻度と変化の順序についての研究は緒に就いたばかりであり,研究の余地は多分に残されている.

 ・ Phillips, Betty S. "Word Frequency and the Actuation of Sound Change." Language 60 (1984): 320--42.
 ・ Phillips, Betty S. "Word Frequency and Lexical Diffusion in English Stress Shifts." Germanic Linguistics. Ed. Richard Hogg and Linda van Bergen. Amsterdam: John Benjamins, 1998. 223--32.
 ・ Bybee, Joan L. Morphology: A Study of the Relation between Meaning and Form. Amsterdam: John Benjamins, 1985.

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2012-06-01 Fri

#1131. 2音節の名詞と動詞に典型的な強勢パターン [stress][diatone][statistics]

 「名前動後」の現象について,diatone の各記事で触れてきた.Kelly and Bock の研究によれば,2音節語における名前動後の強勢パターンは,一般的な強勢位置の傾向を反映しているという.すなわち,2音節の名詞では第1音節に強勢のおちる強弱型 (trochaic) ,2音節の動詞では第2音節に強勢の落ちる弱強型 (iambic) が普通とされる.この傾向は stress typicality と呼ばれるが,率でいえばどの程度の傾向を示すのだろうか.
 Amano は,Kelly and Bock や Sereno の調査結果を参照しながら,MRC Psycholinguistic Database を用いた独自の調査をおこなった.調査間の比較が可能となるように,純粋な名詞(他の品詞機能をもたないもの)と純粋な動詞に限定しての数え上げだが,次のような結果となった.他の調査と合わせて,Amano (86) の調査の統計を挙げよう.

researchercategoryresult
Sereno (1986)nounout of 1425 nouns, 93% are trochaic
verbout of 523 verbs, 76% are iambic
Kelly & Bock (1988)nounout of 3202 nouns, 94% are trochaic
verbout of 1021 verbs, 69% are iambic
Amano (2009)nounout of 5766 nouns, 92.92% are trochaic
verbout of 1184 verbs, 72.65% are iambic

(注記.Sereno の値は Brown Corpus によるものであり,Amano (86) より孫引きしたものである.しかし,直接 Sereno の原典に当たったところ,名詞が92%,動詞が85%と異なる値が示されていた.)

 調査間に大きな差異はなく,名詞の約93%が trochaic,動詞の約73%が iambic という事実が確認された.対比的に評価すれば,品詞ごとに stress typicality があることは,疑いえない.なぜこのような傾向があるのかという問題については,Kelly and Bock および Amano で論じられている.要約すれば,2音節名詞を強弱型に,2音節動詞を弱強型にそれぞれはめ込むことにより,周囲の語とともに,強勢と無強勢の交替のリズムを作りやすくなるからである.名詞は無強勢の冠詞が前置されることが多いので,あわせて「弱強弱」となりやすく,動詞は1音節の屈折語尾(-ing および語幹の一定の音声環境のもとでの ed や -es)を伴う頻度が名詞よりも高いので,あわせて「弱強弱」となりやすい,等々.
 名前動後の問題を考える際にも,2音節語の名詞・動詞に関するこの一般的な傾向を念頭に置いておく必要があるだろう.

 ・ Kelly, Michael H. and J. Kathryn Bock. "Stress in Time." Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance 14 (1988): 389--403.
 ・ Sereno, J. A. "Stress Pattern Differentiation of Form Class in English." The Journal of the Acoustical Society of America 79 (1986): S36.
 ・ Amano, Shuichi. "Rhythmic Alternation and the Noun-Verb Stress Difference in English Disyllabic Words." 『名古屋造形大学名古屋造形芸術大学短期大学部紀要』 15 (2009): 83--90.

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2012-04-23 Mon

#1092. 2重の品詞転換と名前動後 [diatone][conversion][productivity][word_formation]

 英語の品詞転換 (conversion) あるいはゼロ派生 (zero-derivation) としては,名詞と動詞のあいだの例が多いが,この過程が2度繰り返される例がある.[2011-07-30-1]の記事「#824. smoke --- 2重の品詞転換」で, smoke が「煙」→「煙を吸う」→「喫煙」という過程を経たのではないかという説を紹介したが,2音節語において強勢の移動を伴う種類の過程をも品詞転換とみなすことにするのであれば,abstráct (抽象する),ábstract (抽象;要約),ábstract (要約する),の相互関係も類例に加えられる([2011-11-08-1]の記事「#925. conversion の方向は共時的に同定できるか?」の (3) を参照).
 強勢の移動により品詞が交替するという現象は,現代英語では「名前動後」として知られており,本ブログでも diatone の各記事で話題にしてきた.abstract の例は,初期近代英語期に発達した conversion と diatone という2つの過程を最大限に活用した語形成ということができ,すぐれて効率的である.私が diatone の研究中に調べた類例としては以下の語がある.それぞれの転換の方向や順序は未確認だが,3者の関係は smokeabstract と似ている.

 ・ discóunt (考慮に入れない),díscount (割引き),díscount (割引する)
 ・ éxtract (抽出物),éxtract (抽出する),extráct (抜粋する)
 ・ combíne (結合する),cómbine (コンバイン),cómbine (コンバインで収穫する)
 ・ concréte (凝結させる),cóncrete (コンクリート),cóncrete (コンクリートで固める)
 ・ contráct (病気にかかる;縮ませる),cóntract (契約),cóntract (契約する)
 ・ contról (制御する),contról (制御),cóntrol (制御装置)
 ・ retárd (遅らせる),retárd (遅れ),rétard (知恵遅れの人)


 このような例は数こそ多くないが,今後も活用される可能性があるのではないか.英語史の流れのなかで,静かに生産的となってきた語形成法といえそうだ.関連して,大石 (169--70) 及び Hotta (59) を参照.

 ・ 大石 強 『形態論』 開拓社,1988年.
 ・ Hotta, Ryuichi. "Noun-Verb Stress Alternation: An Example of Continuing Lexical Diffusion in Present-Day English." Journal of the Faculty of Letters: Language, Literature and Culture 110 (2012): 36--63.

Referrer (Inside): [2013-07-28-1]

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2011-11-09 Wed

#926. 強勢の本来的機能 [stress][prosody][diatone]

 言語において強勢の機能は何か.Martinet (105--06) によれば,それは複数あるが,最も基本的な機能は "contrastive" あるいはより正確に "culminative" であるという.拙訳とともに,関連箇所を引用する.

La fonction de l'accent est essentiellement contrastive, c'est-à-dire qu'il contribue à individualiser le mot ou l'unité qu'il caractérise par rapport aux autres unités du même énoncé; une langue a un accent; et non des accents. Lorsque, dans une langue donnée, l'accent se trouve toujours sur la première ou la dernière syllabe du mot, cette individualisation est parfaite puisque le mot est ansi bien distingué de ce qui précède ou ce qui suit. Lá où la place de l'accent est imprévisible, doit être apprise pour chaque mot et ne marque pas la fin et le début de l'unité accentuelle, l'accent a une fonction dite culminative: il sert à noter la présence dans l'énoncé d'un certain nombre d'articulations importante; il facilite ainsi l'analyse du message. Que sa place soit prévisible ou non, l'accent permet, en faisant varier l'importance respective des mises en valeur successives, de préciser ce message.

強勢の機能は本質的に対比の機能である.すなわち,強勢は,それに特徴づけられている語や単位を,同じ発話内の他の単位との対比により個別化することに貢献する.したがって,言語は1つの強勢をもつのであり,複数の強勢をもつものではない.所与の言語において,強勢が常に語の最初あるいは最終の音節に落ちるとき,語は先行するものや後続するものから明確に区別されるのであるから,この個別化の機能は完全となる.強勢の位置が予測不能であり,単語ごとに学習されねばならず,強勢を受ける単位の最後と最初を明示しない場合には,強勢は頂点表示と呼ばれる機能をもつ.つまり,強勢は,発話の中にいくつかの重要な調音が存在するということを気づかせる働きをしているのであり,それによってメッセージの分析を容易にしているのである.強勢の位置が予測可能であれ不可能であれ,強勢は,連続する音価それぞれの重要性を違えさせながら,このメッセージを明確にしてくれる.


 しかし,Martinet (106) は,英語などの言語では強勢の位置によって語を区別する (distinctive) 例があり,これは強勢の副次的な機能を示すものであるとも述べている.強勢の位置によって品詞の変わる increase, permit の類 (diatone) がその典型だ.しかし,強勢を示すすべての言語に共通する特徴として考えるのであれば,強勢の主たる機能は "contrastive" あるいは "culminative" といってしかるべきだろう.このような言語一般の大局観を通じて,英語における強勢の特徴が浮き彫りになるように思われる.

 ・ Martinet, André. Éléments de linguistique générale. 5th ed. Armand Colin: Paris, 2008.

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2011-11-08 Tue

#925. conversion の方向は共時的に同定できるか? [conversion][word_formation][diatone][semantic_change][affix]

 [2009-11-03-1]の記事「#190. 品詞転換」ほか conversion の諸記事では,conversion を主として歴史的過程として解釈してきたが,共時的な語彙間の関係として解釈することもできる.ただし,その場合にも conversion の方向は意識されているように思われる.conversion を zero-derivation と考えると,その出発点を基体 (base) ,到着点を派生形 (derivative) と呼び分けることができるが,形態的には同一である base と derivative を共時的に区別する手がかりはどこにあるのだろうか.大石 (167--73) および Lieber (49--50) を参照し,主要な方法について要約しよう.

 (1) 意味を参照する方法.名詞と動詞の用法をもつ net を例に取ると,名詞としての「網」を基準とすると,動詞形は "put into a net" として容易に定義できるが,その逆は簡単ではない.名詞としての net がより一般的な意味をもっているということであり,こちらを基準と考えるべき共時的な根拠を提供している.反対に,動詞から名詞への転換を表わす(通時的に確認されている)例としては,washthrow がある.それぞれの名詞の意味は,対応する動詞を X とすると "an instance of X-ing" として定義されるのが普通であり,逆にこの典型に適合していれば動詞から名詞への転換である可能性が高い.
 (2) 接辞(特に接尾辞)を参照する方法.問題の語形に,特定の品詞と典型的に結びつけられる接辞がすでに付加されている場合には,その品詞としての用法が基準であると考えられる.例えば,commission は典型的な名詞接尾辞をもっているので,名詞用法が基準で,動詞用法が派生であると想定される.
 (3) 純粋な conversion ではないが,強勢の交替を伴う名前動後 (diatone の語では,原則として基体は動詞であると考えられる.Sherman (53) が述べている通り,第1音節に強勢をもつのが普通である名詞が基体である場合には,動詞化したときに強勢の交替が生じる確率は低い ("the creation of stress alternation is more likely to occur as stress-retraction in an oxytonic pair than to occur as stress-advancement in a paroxytonic pair") .関連して,abstráct (抽出する)→ ábstract (抜粋)→ ábstract (抜粋する)のように2段階の conversion ([2011-07-30-1]の記事「#824. smoke --- 2重の品詞転換」を参照)を経た語に注意.
 (4) 固有名詞が基体となっている場合には,比較的,区別がつきやすい.boycott (ボイコットする), lynch (リンチを加える), meander (曲がりくねる), shanghai (意識を失わせて船に連れ込んで水夫にする), japan (漆を塗る)など.
 (5) 閉じた語類と開いた語類が conversion の関係にある場合,前者から後者への方向の転換である可能性が高い.But me no buts. (しかし,しかしと言うな)など.
 (6) 動詞から作られた派生名詞以外では,名詞は項をとることができないという性質に基づく方法.the robber of the bank は可能だが,*the thief of the bank は不可能である.これは,thief が派生名詞でなく本来の名詞だからであると考えられる.この性質を利用すると,his release by the governmentthe government's release of the prisoners では release は項をとっているので派生名詞だと判断される.
 (7) conversion にかかわるゼロ接辞は,理論上クラスII接辞であると議論することができるため,クラスI接辞が付加できるかどうかで基体の区別が可能である.figure は形容詞接尾辞 -al を付加して figural が派生されるので,本来的には名詞であると考えられる.picture は,動詞接尾辞 -ize を付加して picturize が派生されるので,本来的には動詞であると考えられる,等々.

 ・ Lieber, Rochelle. Introducing Morphology. Cambridge: CUP, 2010.
 ・ 大石 強 『形態論』 開拓社,1988年.

Referrer (Inside): [2012-04-23-1]

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2011-10-13 Thu

#899. Web3 の permissiveness [lexicography][webster][dictionary][variation][diatone]

 この2日間の記事 ([2011-10-11-1], [2011-10-12-1]) で,米国最大の英語辞書 Web3 の特徴を見てきた.出版当時の評価を一言で表わせば,現代の英語辞書史上,最も descriptive で,最も permissive な辞書だったということになるだろう.
 こと発音記述に関しては,昨日の記事で記した通り「変種を詳しく示し,非標準音も併記(30種を超える場合もある);優先発音を必ずしも明示せず」であり,何でもありという印象を受ける.実際に,最近,問題のある語のアクセント位置を複数の辞書によって調べるという作業を行なっていたのだが,Web3 の variation の豊富さは群を抜いていた.Web3 が規範的な発音を知るという目的に向いていないことを痛切に感じた.
 具体的に述べると,本ブログでも何度か扱ってきた強勢の「名前動後」化が疑われる語について (see diatone) ,この1世紀の間の強勢の変化を辞書によって追おうとした.英米両変種を扱ったが,アメリカ英語からは以下の4つの辞書で強勢の記述を比較した.

 ・ Web1913 = Webster's Revised Unabridged Dictionary. Ed. Noah Porter. Online version published on 9 January 1997 at http://machaut.uchicago.edu/websters . Merriam, 1913.
 ・ PDAE = Kenyon, John Samuel and Thomas Albert Knott, eds. A Pronouncing Dictionary of American English. Springfield, Mass.: Merriam, 1951.
 ・ Web3 = Gove, Philip Babcock, ed. Webster's Third New International Dictionary of the English Language, Unabridged. Springfield, MA: G. & C. Merriam, 1961. (In this survey I used the CD-ROM version [2000] based on the 1961 unabridged edition.)
 ・ AHD4 = The American Heritage Dictionary of the English Language. 4th ed. \ Boston: Houghton Mifflin, 2006.

 以下は,名前動後化の傾向を示唆する14語について,辞書ごとに強勢の記述をまとめたものである."o" は "oxytone"(後の音節に強勢あり),"p" は "paroxytone" (前の音節に強勢あり)を示す.Web3 では,"p, o" や "o, p" が多く,どちらに強勢をおいても可と言わんばかりである.調査の姿勢としては,とりわけ規範的な発音を重視するという方針があったわけではないのだが,正直なところ,ここまで permissive な記述を示されると解釈に差し支えると,困った次第である.結局,論文 (forthcoming) では辞書の規範主義と記述主義について一言述べずにはいられなかった・・・.

WORDPOSWeb1913PDAEWeb3AHD4
declinenounooo, po
declineverboooo
dismountnoun--oop
dismountverboooo
disputenounooo, po
disputeverboooo
employnounooo, po
employverboooo
entailnounooo, po
entailverboooo
rebuffnounooo, po
rebuffverboooo
replaynoun--op, op
replayverb--ooo
reportnounooo, po
reportverboooo
retortnounoooo, p
retortverboooo
retouchnounoop, oo, p
retouchverboooo
revisenounooop, o
reviseverboooo
romancenounoo, po, po, p
romanceverbooo, po
surmisenounoo, po, po
surmiseverboooo
trajectnounopp--
trajectverboooo

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2011-09-05 Mon

#861. 現代英語の語強勢の位置に関する3種類の類推基盤 [diatone][stress][prosody][analogy][gsr][rsr]

 英単語の強勢にまつわる歴史は非常に込み入っている.[2009-11-13-1]の記事「アクセントの位置の戦い --- ゲルマン系かロマンス系か」や[2011-04-15-1]の記事「英語の強勢パターンは中英語期に変質したか」で言及にしたように,中英語以降,Germanic Stress Rule と Romance Stress Rule の関係が複雑化してきたことが背景にある.しかし,語強勢の話題が複雑なのは,通時的な観点からだけではない.現代英語を共時的に見た場合でも,多様な analogy による強勢位置の変化と変異が入り乱れており,強勢の位置に統一的な説明を与えるのが難しい.そして,現代英語の語強勢に関する盤石な理論はいまだ存在しないのである.
 では,韻律論の理論化を妨げているとされる多様な analogy には,どのようなものがあるのだろうか.Strang (55--56) によれば,主要なものは3種類ある.

 (1) GSR に基づく,強勢の前寄り化の一般的な傾向.
   "a tendency to move the stress toward the beginning of a word, as in; /ˈædʌlt/ beside /əˈdʌlt/, /ˈækjʊmɪn/ beside /əˈkjuːmɪn/, /ˈsɒnərəs/ beside /səˈnɔːrəs/" (55).
 (2) 名前動後の語群に基づく機能分化的な傾向(diatone の各記事を参照).
   "Variable stress-placement is exploited for grammatical purposes, in a series of items with root stress in nominals (usually nouns and substantival modifiers) and second-syllable stress in verbs, e.g., absent, concert, desert, perfect, record, subject . . ." (55).
 (3) word-family の構成要素間に生じる強勢位置の吸引力.
   ". . . [analogical pull] of the word family an item belongs to. . . Word-analogy is responsible for variations such as applicable, subsidence (first-syllable stress, or a variant with a second-syllable stress on the model of apply, subside. Secret, borrowed in ME with second-syllable stress, has shifted to first syllable stress; its derivative secretive (a 15c formation), kept the older stress as late as OED, but is now tending to follow the example of the commoner secret, with first-syllable stress" (56).

 3種類の類推は互いに排他的ではなく,むしろ干渉しあうことがある.例えば,名詞と動詞の機能をもつ romance は現代英語では双方ともに第2音節に強勢の落ちるのが主流だったが,アメリカ英語では名前動語化の流れがある.そのように聞くと (2) の影響が作用していると言えそうだが,動詞も合わせて強勢が前化している証拠も部分的にある.とすると,(1) の類推が作用している言えなくもない.(3) の観点からは,romance の強勢前化傾向が引き金となって,romancer, romancist, romantic, romanticism などの強勢が前へ引きつけられるという可能性が,今後生じてくるということだろうか.個々の単語(ファミリー)の問題だとすると,確かに強勢位置のルール化は難しそうだ.

 ・ Strang, Barbara M. H. A History of English. London: Methuen, 1970.

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2011-07-20 Wed

#814. 名前動後ならぬ形前動後 [stress][diatone][statistics][derivation][prefix][suffix][phonaesthesia][-ate]

 同綴りで品詞によって強勢位置の交替する語 (diatone) の典型例である「名前動後」については,[2009-11-01-1], [2009-11-02-1], [2011-07-07-1], [2011-07-08-1], [2011-07-10-1], [2011-07-11-1]の一連の記事で論及してきた.主に名詞と動詞の差異を強調してきたが,形容詞もこの議論に関わってくる([2011-07-07-1]の記事では関連する話題に言及した).強勢位置について,形容詞は原則として名詞と同じ振る舞いを示し,動詞と対置される.いわば「形前動後」である.
 形前動後の事実は,まず統計的に支持される.Bolinger (156--57) によれば,3万語の教育用語彙集からのサンプル調査によると,多音節語について,形容詞の91%が non-oxytonic (最終音節以外に強勢がある)だが,動詞の63%が oxytonic (最終音節に強勢がある)であるという.単音節語については,強勢の位置が前か後ろかを論じることはできないしその意味もないが,単純に動詞と形容詞の個数の比率を取ると動詞が60.7%を占める.単音節語の強勢は通常 oxytonic と解釈されるので,この比率は形容詞に比して動詞の oxytonic な傾向を支持する数値といえよう.
 形前動後という強勢位置の分布に関連して,Bolinger は両品詞の語形成上の差異に言及している.形容詞は接尾辞によって派生されるものが多いが (ex. -ant, -ent, -ean, -ial, -al, -ate, -ary, -ory, -ous, -ive, -able, -ible, -ic, -ical, -ish, -ful) ,動詞は接頭辞による派生が多い (ex. re-, un-, de-, dis-, mis-, pre-) .例外的にそれ自身に強勢の落ちる -ose のような形容詞接尾辞もあるが,例外的であることによってかえって際立ち,音感覚性 (phonaesthesia) に訴えかける 増大辞 ( augmentative ) としての機能を合わせもつことになっている(増大辞については[2009-08-30-1]の記事「投票と風船」も参照).bellicose, grandiose, jocose, otiose, verbose などの如くである.
 当然のことながら,強勢のない接尾辞により派生された多くの形容詞は必ず non-oxytonic となるし,強勢のない接頭辞により派生された多くの動詞は強勢が2音節目以降に置かれることになり oxytonic となる可能性も高い.この議論を発展させるには,各接辞の生産性や派生語の実例数を考慮する必要があるが,接辞による派生パターンの相違が形前動後の出現に貢献したということであれば大いに興味深い.また,名詞の派生も,形容詞の派生と同様に,接頭辞ではなく接尾辞を多用することを考えれば,名前動後の説明にも同じ議論が成り立つのではないだろうか.

 ・ Bolinger, Dwight L. "Pitch Accent and Sentence Rhythm." Forms of English: Accent, Morpheme, Order. Ed. Isamu Abe and Tetsuya Kanekiyo. Tokyo: Hakuou, 1965. 139--80.

Referrer (Inside): [2012-06-29-1]

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2011-07-11 Mon

#805. 将来,名前動後になるかもしれない語 [stress][diatone][lexical_diffusion]

 昨日の記事「名前動後の単語一覧」 ([2011-07-10-1]) では現代英語における「名前動後」の語を示したが,一昨日の記事「名前動後の通時的拡大」([2011-07-09-1]) から示唆されるように,現在「名後動後」を示している oxytone の語も今後「名前動後」化してゆく可能性が大いにある.Sherman は,2音節語に限れば215語がその候補として挙げられるとしており,その一覧を示している (実際に数えると213語のみ) .その一覧を以下に再現.

abuse, accord, account, advance, affront, alarm, amount, appeal, approach, array, arrest, assault, assent, assign, attack, attaint, attempt, attire, award, bastille, bespeak, blockade, brigade, brocade, canoe, career, caress, carouse, cartoon, cascade, cashier, chagrin, chicane, collapse, command, compare, conceit, concern, consent, control, croquet, crusade, cuirass, debate, debauch, decay, decease, decline, decree, default, defeat, delay, delight, demand, demean, demise, demur, derout, design, desire, despair, devise, direct, distain, disease, disgrace, disguise, disgust, dislike, dismay, dismount, dispatch, display, dispraise, dispute, disquiet, dissent, dissolve, distress, distrust, disuse, divide, divine, divorce, dragoon, eclipse, effect, embrace, employ, entail, escape, escheat, essoin, estate, esteem, exchange, excuse, exempt, exhaust, express, festoon, finesse, galosh, garage, garotte, guitar, halloo, harpoon, hello, hollo, hurrah, incuse, japan, lament, lampoon, machine, manure, marcel, maroon, massage, misprize, misrule, mistake, mistrust, misuse, neglect, obstruct, parade, parole, patrol, pirouette, police, pomade, pontoon, preserve, profane, ratoon, ravine, rebuff, rebuke, rebus, receipt, recruit, reform, refrain, regale, regard, regret, release, remand, remark, remove, repair, repeal, replay, reply, report, repose, reprieve, reproach, repulse, repute, request, reserve, resist, resolve, resort, respect, respond, result, retard, retort, retouch, retreat, retrieve, return, reveal, revenge, reverse, revert, review, revise, revoke, revolt, revolve, reward, romance, salaam, salute, secure, shampoo, siamese, silhouette, stampede, stockade, supply, support, suppose, surmise, surprise, surround, syringe, taboo, tattoo, tehee, traject, travail, trepan, trephine, trustee, vandyke, veneer, vignette


 このリストをそのまま Frequency Sorter に流し込むと,頻度の高い語が多く含まれていることが分かる.上位500語までにランクインする語を拾うと,effect, result, report, police, control, return, support が挙がる.これらもいつの日か「名前動後」の仲間入りを果たすことになるのだろうか.
 語彙拡散 (Lexical Diffusion) の観点からは,どの語がいちはやく名前動後化しやすいかという条件を突きとめることが重要となる.接頭辞による区別や,語としてのあるいは品詞ごとの頻度が関与するのかもしれないが,これは今後の調査課題となろう.

 ・ Sherman, D. "Noun-Verb Stress Alternation: An Example of the Lexical Diffusion of Sound Change in English." Linguistics 159 (1975): 43--71.

Referrer (Inside): [2015-08-14-1] [2011-07-20-1]

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2011-07-10 Sun

#804. 名前動後の単語一覧 [diatone][stress][prefix]

 「名前動後」あるいは diatone について diatone の各記事で話題にしてきたが,[2009-11-01-1]の記事「名前動後の起源」で示した名前動後の語の一覧(30語)よりも包括的な一覧があると便利である.そこで,Sherman (57--67) に掲載されている SOED から取り出された 150の disyllabic diatones の一覧を,以下に再現したい.

abstract, accent, addict, address, affix, affect, alloy, ally, annex, assay, bombard, cement, collect, combat, commune, compact, compound, compress, concert, concrete, conduct, confect, confine, conflict, conscript, conserve, consort, content, contest, contract, contrast, converse, convert, convict, convoy, costume, decoy, decrease, defect, defile, descant, desert, detail, dictate, digest, discard, discharge, discord, discount, discourse, egress, eject, escort, essay, excerpt, excise, exile, exploit, export, extract, ferment, impact, import, impress, imprint, incense, incline, increase, indent, infix, inflow, inlay, inlet, insert, inset, insult, invert, legate, misprint, object, outcast, outcry, outgo, outlaw, outleap, outlook, outpour, outspread, outstretch, outwork, perfume, permit, pervert, post-date, prefix, prelude, premise, presage, present, produce, progress, project, protest, purport, rampage, rebate, rebel, rebound, recall, recast, recess, recoil, record, recount, redraft, redress, refill, refit, refund, refuse, regress, rehash, reject, relapse, relay, repeat, reprint, research, reset, sojourn, subject, sublease, sub-let, surcharge, survey, suspect, torment, transfer, transplant, transport, transverse, traverse, undress, upcast, upgrade, uplift, upright, uprise, uprush, upset


 一覧を眺めるとわかるように,接頭辞ごとの塊で例が挙げられている.多くが「接頭辞+語根」という語形成で成っており,その大部分がラテン・フランス借用語だが,out- や up- という本来語の接頭辞を含む派生語も17語 (11.33%) ある.また,in- や mis- は英語にもフランス語にも共有されている接頭辞である.このように見ると「接頭辞+語根」から成る2音節語は,本来語か借用語かにかかわらず「名前動後」の重要なソースとなりうることがわかる.

 ・ Sherman, D. "Noun-Verb Stress Alternation: An Example of the Lexical Diffusion of Sound Change in English." Linguistics 159 (1975): 43--71.

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2011-07-09 Sat

#803. 名前動後の通時的拡大 [stress][diatone][drift][speed_of_change][lexical_diffusion]

 「名前動後」の起源について[2009-11-01-1], [2009-11-02-1], [2011-07-07-1], [2011-07-08-1]の記事で議論してきたが,その通時的拡大の事実についてはまだ紹介していなかった.
 Sherman は,SOEDWeb3 の両辞書に重複して確認される名詞と動詞が同綴り (homograph) である語を取り出し,そのなかで強勢交替を示す語を分別した.音節数別に内訳を示すと,以下の通りとなる (Sherman 51) .


potential diatonicsactual diatonics
disyllabic N-V pairs1,315150 (11.41%)
trisyllabic44270 (15.84%)
polysyllabic1,757220 (12.52%)


 対象を2音節語に限定すると,1315語あるが,そのなかで強勢交替を示すものは実は150語 (11.41%) にすぎない.強勢交替を示さない1165語について見てみると,名詞・動詞ともに強勢が第2音節に置かれている oxytone は215語,第1音節に置かれている paroxytone は950語で後者が圧倒している.「名前動後」は現実以上に話題として強調されすぎており,実際には「名前動前」が支配的だという結果が出た.
 近代期以降の通時的観察によると,「名後動後」という oxytone の語が,名詞について強勢を前寄りに繰り上げるという方向での変化が多いという (Sherman 53, 55) .「名前動後」の diatone を表わす2音節語は近代英語期からゆっくりと確実に分布を広げてきており,20世紀半ばまでに150語に達している.以下の「名前動後」の通時的推移を表わすグラフは,Sherman (54) のグラフに基づいて再作成したものである(ただし,19世紀と20世紀についての数値は "tentative" とされている),

Lexical Diffusion of Diatones


 Sherman の研究は,語彙拡散 (Lexical Diffusion) の例を提供していると考えられるかもしれない重要な研究である.この曲線が,語彙拡散の予想するS字曲線に沿っているのかどうかはまだ判然としないが,この数百年の潮流を観察すれば,今後も名前動後が少しずつ増えてゆくだろうことは容易に予想される.
 この論文は何度か読んでいるが,研究の計画・手法,使用する資料,事実の提示法,論旨にいたるまで実によくできており,スリル感をもって読ませる好論である.

 ・ Sherman, D. "Noun-Verb Stress Alternation: An Example of the Lexical Diffusion of Sound Change in English." Linguistics 159 (1975): 43--71.

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