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swearword - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-04-20 10:27

2016-04-07 Thu

#2537. Jesus の語用化 [historical_pragmatics][pragmatics][taboo][interjection][swearword][invited_inference][subjectification][grammaticalisation]

 驚きや狼狽を表し,「ちくしょう,くそっ,なってこった」ほどと訳される間投詞としての Jesus がある.Godgoddamn などと同様の罵り言葉であり,明らかに宗教的な名前に起源をもつが,それが時とともに語用標識 (pragmatic marker) へと発展したものである.いうまでもなく元来 Jesus は神の子イエス・キリストを指すが,"Jesus, please help me." のように非宗教的な嘆願の文脈でもしばしば用いられたことから,祈り,呪い,罵りの場面と密接に関係づけられるようになった.その結果,単独で間投詞として用いられるに至り,この用法としては,もはやイエス・キリストを指示する機能はきわめて希薄である.ある特定の文脈で繰り返し用いられることにより,この語に当該の語用的な含意が染みついた語用化 (pragmaticalisation) の例である.以下,Jucker and Taavitsainen (134--38) に拠って,この現象を覗いてみよう.
 イエスの指示,嘆願における呼びかけ,そして間投詞としての Jesus の用法のグラデーションは,以下の例文により共時的にも感じ取ることができる (qtd. in Jucker and Taavitsainen 134).

 ・ I went through the motions, but I still prayed to Jesus at night, still went to church. (COCA, ABC_20/20, 2010)
 ・ Oh, Jesus please bless her. Here goes another one, little lady. (COCA, CNN_King, 1997)
 ・ He flicks on the TV. Nothing. Goddamn box. Not even plugged in. Jesus. He can't be prowling around looking for a socket. Shit. (COCA, Gologorsky, Beverly. The things we do to make it home, 1999)


 古英語でもイエスを指示したり,イエスに嘆願するのに Iesus の語が用いられていたが,宗教的な文脈に限られていた.しかし,中英語ではすでに非宗教的な文脈で用いられている.例えば,1377年には "Bi iesus, with here ieweles, howre iustices she shendeth." とあり,語用化の道,間投詞への道をすでに歩んでいることがうかがえる.語用化の前後で共通しているものは話者の運命を左右する何者かへの訴えかけであり,その者とは神だったり,上位の者だったり,運命だったりするわけだ.
 後期中英語より後では,罵り言葉としての Jesus の用法が明確になってくるが,それでも元来の用法との境目が曖昧な例は数多い.Jucker and Taavitsainen (136) は,曖昧な領域をまたぐこの語用化の道筋を誘導推論 (invited_inference) の観点から説明している.

The expression is regularly used with both the original meaning of religious invocation and the invited inference that the speaker also wants to communicate a certain amount of surprise and annoyance, and, therefore, the invited inference becomes part of the coded meaning of the expression, while the original meaning is increasingly backgrounded.


 語用化の過程は,文法化 (grammaticalisation) や主観化 (subjectification) とも密接に関わっており,実際 Jesus の経た変化は,話者の感情を伝えるようになった点で主観化の例とみることもできる.また,嘆願の呼びかけとして文頭に現われやすいことが,文の他の要素からの独立を促し,間投詞化を推し進めたととらえることもできそうである.

 ・ Jucker, Andreas H. and Irma Taavitsainen. English Historical Pragmatics. Edinburgh: Edinburgh UP, 2013.

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2012-01-15 Sun

#993. flat adverb についてあれこれ [flat_adverb][adverb][adjective][swearword][intensifier][metanalysis][hendiadys]

 年が明けて以来,flat_adverb についていくつか記事を書いてきた.調べているうちに諸々の話題が集まってきたので,雑記として書き残しておきたい.

 (1) 「主にくだけた口語で用いられ,本来の副詞より端的で力強い表現」(小西,p. 507);「単純形副詞がよく用いられるのは,文が比較的短く,幾分感情的色彩がある場合で,口語体ではより力強い表現として好まれる傾向がある: It hurts bad. / Take it easy. / Go slow.」(荒木, p. 522)
 (2) 米の口語・俗語で多用されることは既述だが,さらに例を挙げる(荒木,pp. 86, 91).ex. act brave, dance graceful, land safe, work regular, sit tight, mighty dangerous, reasonable busy, moderate good luck, everlasting cold, get ugly drunk, hustlingest busy; I see things different than I used to.; You are plain lucky.
 (3) 歌曲の題名などで臨時的に用いられる.ex. "Love Me Tender", "Treat me nice".
 (4) 副詞としての very の起源が示すとおり ([2012-01-12-1], [2012-01-13-1]) ,名詞を修飾する類義の形容詞の連続において,前の形容詞が後の形容詞を修飾する副詞として異分析される例がみられる (ex. an icy cold drink, a blazing hot fire) .さらに,名詞がなくとも独立して burning hot, soaking wet, dazzling white なども見られる(大塚,p. 589).
 (5) 形容詞と副詞が同形のペアには5種類あり,以下の iii, iv 辺りが典型的に flat adverb と呼ばれるものだろう (Huddleston and Pullum 568) .

i daily, hourly, weekly, deadly, kindly, likely
ii downright, freelance, full-time, non-stop, off-hand, outright, overall, part-time, three-fold, wholesale, worldwide
iii bleeding, bloody, damn(ed), fucking
iv clean, clear, dear, deep, direct, fine, first, flat, free, full, high, last, light, loud, low, mighty, plain, right, scarce, sharp, slow, sure, tight, wrong
v alike, alone, early, extra, fast, hard, how(ever), late, long, next, okay, solo

 (6) flat adverb と -ly adverb では,分裂文 (cleft sentence) で焦点化された場合の容認可能性が異なる.flat adverb は,動詞句と分断されることにより形態だけでは副詞とわかりにくくなるために,容認度が低くなるのではないか(荒木,p. 522).

 *It was slow that he drove the car into the garage. vs It was slowly that he drove the car into the garage.
 *It was loud that they argued. vs It was loudly that they argued.

 ただし,flat adverb が等位接続されたり別の語で修飾されると,副詞であることが明確になり,容認されやすい.ex. It was loud and clear that he spoke.; It was extremely loud that they argued.
 (7) A and B と形容詞を等位接続すると,A-ly B ほどの意となる二詞一意 (hendiadys) の例も,形容詞の副詞化という現象の一種としてとらえることができそうだ(大塚,pp. 531, 589).ex. nice and cool (= "nicely cool"), good and tired (="well tired"), rare and hungry (="quite hungry").

 ・ 小西 友七 編 『現代英語語法辞典』 三省堂,2006年.
 ・ 荒木 一雄,安井 稔 編 『現代英文法辞典』 三省堂,1992年.
 ・ Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: CUP, 2002.
 ・ 石橋 幸太郎 編 『現代英語学辞典』 成美堂,1973年.
 ・ 大塚 高信,中島 文雄 監修 『新英語学辞典』 研究社,1987年.

Referrer (Inside): [2016-08-19-1]

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2012-01-14 Sat

#992. 強意語と「限界効用逓減の法則」 [intensifier][adverb][semantic_change][bleaching][euphemism][flat_adverb][thesaurus][synonym][swearword]

 [2012-01-12-1], [2012-01-13-1]の記事で,副詞としての very の起源と発達について見てきた.強意の副詞には,very の場合と同様に,本来は実質的な語義をもっていたが,それが徐々に失われ,単に程度の激しさを示すだけとなったものが少なくない.awfully, hugely, terribly などがそれである.意味変化の領域では,意味の漂白化 (bleaching) が起こっていると言われる.
 おもしろいのは,このような強意の副詞がいったん強意の意味を得ると,今度は使い続けれられるうちに,意味の弱化をきたすことが多いことである.ちょうど修辞的な慣用句が使い古されて陳腐になると,本来の修辞的効果が弱まるのと同じように,強意語もあまりに頻繁に用いられると本来の強意の効果が目減りしてしまうのである.
 効果の目減りということになれば,経済用語でいう「限界効用逓減の法則」 (the law of diminishing marginal utility) が関与してきそうだ.限界効用逓減の法則とは「ある財の消費量の増加につれて,その財を一単位追加することによる各個人の欲望満足(限界効用)の程度は徐々に減る」という法則である.卑近な例で言えば,ビールは1杯目はおいしいが,2杯目以降はおいしさが減るというのと原理は同じである(ただし,私個人としては2杯目だろうが3杯目だろうがビールは旨いと思う).強意語は,意味における限界効用逓減の法則を体現したものといえるだろう.
 さて,強意語から強意が失われると,意図する強意が確実に伝わるように,新たな強意語が必要となる.こうして,薄められた古い表現は死語となったり,場合によっては使用範囲を限定して,語彙に累々と積み重ねられてゆく一方で,強意のための語句が次から次へと新しく生まれることになる.この意味変化の永遠のサイクルは,婉曲表現 (euphemism) においても同様に見られるものである.
 では,新しい強意語はどこから湧いてくるのだろうか.婉曲表現の場合には,[2010-08-09-1]の記事「#469. euphemism の作り方」で見たように,そのソースは様々だが,強意語のソースとしては特に口語・俗語において flat adverb (##982,983,984) や swearword が目立つ.新しい強意語には誇張,奇抜,語勢が要求されるため,きびきびした flat adverb やショッキングな swearword が選ばれやすいのだろう.前者では awful, dead, exceeding, jolly, mighty, real, terrible, uncommon,後者では damn(ed), darn(ed), devilish, fucking, goddam, hellish などがある.
 HTOED (Historical Thesaurus of the Oxford English Dictionary) で強意副詞を調べてみると,この語群の移り変わりの激しさがよくわかる."the external world > relative properties > quantity or amount > greatness of quantity, amount, or degree > high or intense degree > greatly or very much [adverb]" とたどると,536語が登録されているというからものすごい.その下位区分で,very の synonym として分類されているものに限っても以下の47語がある.壮観.

full (c888), too (c888), well (c888), swith (971), right (?c1200), much (c1225), wella (c1275), wol(e (a1325), gainly (a1375), endly (c1410), very (1448), jolly (1549), veryvery (1649), good (a1655), strange (1667), bloody (1676), ever so (1690-2), real (1771), precious (1775), quarely (1805), trés (1819), freely (1820), powerful (a1822), heap (1832), almighty (1834), all-fired (1837), gradely (1850), hard (1850), heavens (1858), veddy (1859), some (1867), spanking (1886), socking (1896), hefty (1898), velly (1898), dirty (1920), oh-so (1922), snorting (1924), hellishing (1931), thumpingly (1948), mega (1968), mondo (1968), mucho (1978), seriously (1981), well (1986), way (1987), stonking (1990)

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