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review - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2022-05-16 14:45

2022-04-10 Sun

#4731. 『英語史新聞』新年度号外! --- 英語で書かれた英語史概説書3冊を紹介 [review][hel][bibliography][start_up_hel_2022][hel_education][heldio]

 4月1日に『英語史新聞』創刊号が発行されましたが,早くも新年度号外が出ました(笑).khelf(慶應英語史フォーラム)の顧問である泉類尚貴さん(福島高専)による,選りすぐりの英語で書かれた英語史概説書3冊のカジュアルな書評です.「#4722. 新年度の「英語史スタートアップ」企画を開始!」 ([2022-04-01-1]) を受けての,皆さんの英語史の学び始めを応援するための号外発行です.

『英語史新聞』新年度号外



 号外で推薦している3冊は,以下のものです.「#4727. 英語史概説書等の書誌(2022年度版)」 ([2022-04-06-1]) でも紹介している推しの概説書です.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
 ・ Brinton, Laurel J. and Leslie K. Arnovick. The English Language: A Linguistic History. Oxford: OUP, 2006.
 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

 本ブログの文章で推薦するだけでは推しが弱いと思い,泉類さんと Voicy 「英語の語源が身につくラジオ」 (heldio) にて対談してしまいました.「泉類尚貴先生との対談 手に取って欲しい原書の英語史概説書3冊」です.ぜひお聴きください.



 泉類さんとの昨年度の Voicy 対談として,「対談 英語史の入門書」および「対談 英語史×国際英語」(2021年10月19日)も関連しますので,どうぞ.

Referrer (Inside): [2022-05-06-1]

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2022-03-08 Tue

#4698. 池上俊一(著)『ヨーロッパ史入門 原形から近代への胎動』より「ゲルマンの習俗」について [review][history][germanic]

 西洋中世史家の池上俊一氏による『ヨーロッパ史入門 原形から近代への胎動』(岩波ジュニア新書)を読んでいる.専門家がかみ砕いて書いたジュニア向け本は良いものが多いが,本書もヨーロッパの本質を分かりやすくえぐっている.
 著者は「文化としてのヨーロッパ」という捉え方をしており,10世紀末から12世紀前半にかけて成立したそのヨーロッパの構成要素は「ギリシャ・ローマの知」「キリスト教の霊性」「ゲルマンの習俗」「ケルトの夢想」の4点であると主張する (212--13) .
 英語史との関わりでは,とりわけ「ゲルマンの習俗」の立ち位置に興味がわいてくる.文化としてのヨーロッパのなかで果たしてきた「ゲルマン」の役割は何か.これについて,池上 (40--42) より引用したい.

 ここで,習俗や技芸について,ゲルマン人が何を「ヨーロッパ」に伝えたのかについても考えてみましょう.ヨーロッパの人々の大半がキリスト教に改宗するようになるのは,四世紀以来の布教家の努力の賜物でした.しかしそれで住民たちのそれまでの信仰のあり方や心性が一変したわけではありません.異教的習俗・信仰と,それを否認する教会当局との長い長い争い,つばぜり合いが,その後もずっと続くのです.
 ゲルマン人たちは,自然を崇拝し,多神教を信じていました.彼らは,キリスト教に改宗してからも,じつは旧来の信心を守っており,いわば表面のメッキがかわっただけだったのです.聖人崇敬や聖遺物崇敬は,異教時代の大樹や巨石・泉信仰,それら自然物に宿る神々への帰依を,聖母マリアや他の聖人たちへの崇敬に置きかえたものでしたし,現にそうした樹木や巨石,泉などを破壊・除去した跡地に,教会が建てられたのです.また,キリスト教会暦,聖人暦などの暦も,異教の祭儀の時を置きかえたものでした.たとえばキリスト生誕を祝うクリスマスは,実はローマの「不敗の太陽」の祭儀の日の置きかえでした.
 キリスト教会が,ゲルマン人の習俗でなにより問題視したのは,福音(キリストの教え)に背馳する迷信行為でした.それは後に「贖罪規定書」というジャンルの作品にまとめて規定されることになりますが,自然物への願かけ・呪い・占いや,神の全能を損なうような行為が非難され罰せられました.
 しかしこれは,消えることのないマグマのように近代初頭まで地下にわだかまり,ときにおどろくような形で噴出します.〔中略〕「異端」や「魔女」はその典型ですが,多くは民俗伝統として,ふるまいや民話・迷信となって農村社会に残っていきます.
 ほかに,直接キリスト教に背馳するものではない,ゲルマン由来の要素もありました.家族・氏族・部族のしくみや習俗は,とくに貴族社会・騎士社会のベースになっていった点で重要です.ゲルマン人たちの紛争解決法としての復讐行為や,ジッペの間での戦い・フェーデ(後述,一族の義務たる血讐)は,中世の半ば以降にも残りましたし,その背景にあるジッペの名誉観念も中世の貴族・騎士たちに伝わりました.王・首長の統率下に一般自由人男子が入り,さまざまな贈与を受け保護されるかわりに,主君に忠誠を誓い彼のために戦うという「従士制」は,中世の封建的主従関係の柱として使われます.
 ようするに「ギリシャ・ローマの理知」とならんで「ゲルマンの習俗」も,その後,中世におけるヨーロッパの形成因となっていったわけです.
 工芸品をはじめとする技術や耕作・冶金・乗馬・武器のあつかいなどの実践的な知識も彼らはもたらしました.そしてそれら以上に,「言語」が重要な寄与でした.ローマの共通語ラテン語にゲルマン諸語が混ざって,ヨーロッパの各国語ができあがっていくのですから.


 引用の最後の部分に言語の話題が出てくる.もちろん英語も「ヨーロッパの各国語」の1つであり,まさに中英語期以降,ゲルマン語的要素とラテン語的要素の混交が激しく起こっていくことになったのである.

 ・ 池上 俊一 『ヨーロッパ史入門 原形から近代への胎動』 岩波書店〈岩波ジュニア新書〉,2021年.

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2022-01-14 Fri

#4645. 『三田評論』1月号の「“新書”で英語を学ぶ」の記事 [review]

 『三田評論』2022年1月号 (no. 1262) に「時の話題」の企画として「“新書”で英語を学ぶ」 (pp. 36--41) が掲載されています.2020年から2021年にかけて英語新書ブームを巻き起こした3名の著者による3本の記事です(オンライン版ではまだ閲覧できないようです).

 ・ 北村 一真(杏林大学外国語学部) 「英語の読解で拡がる世界」 (pp. 36--37)
 ・ 井上 逸兵(慶應義塾大学文学部) 「タテマエから知る英語のわかり方」 (pp. 38--39)
 ・ 今井 むつみ(慶應義塾大学環境情報学部) 「英語を自由に使うための“スキーマ”の習得」 (pp. 40--41)

 ブームとなった新書は各々以下の通りです.

 ・ 北村 一真 『英語の読み方 ー ニュース,SNS から小説まで』 中央公論新社〈中公新書〉,2021年.
 ・ 井上 逸兵 『英語の思考法 ー 話すための文法・文化レッスン』 筑摩書房〈ちくま新書〉,2021年.
 ・ 今井 むつみ 『英語独習法』 岩波書店〈岩波新書〉,2020年.

 これまでも日本人の英語学習熱は常に高かったといってよいですが,英語を学ぶための新書ブームがこのタイミングで来たというのはおもしろいことだと思っています.なぜなのでしょうか,たまたまなのでしょうか.この点について私も関心をもち,昨秋,井上先生とおしゃべりしました.Voicy の私のチャンネル「英語の語源が身につくラジオ」にて収録・配信しましたので,関心のある方はぜひどうぞ.

 ・ 「『英語の思考法』(ちくま新書)の著者、井上逸兵先生との対談」(9月17日放送)
 ・ 「対談 井上逸兵先生と「英語新書ブーム」を語る」(10月22日放送)

 『三田評論』の記事のなかで,井上先生は「コロナで「おうち時間」が増え,コロナ前のインバウンド歓待のムードも遠い昔に思え,「英会話」よりもじっくり腰をすえて本を読むという人が広い世代で増えたのかもしれない」 (p. 38) と述べています.
 英語の勉強と合わせて英語史の学習についても,じっくり腰をすえてみてはいかがでしょうか.

(後記 2022/03/03(Thu):上記の『三田評論』の記事がオンラインで自由に閲覧できるようになったようです.こちらからどうぞ.)

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2021-09-18 Sat

#4527. 英語の語順の歴史が概観できる論考を紹介 [word_order][syntax][elt][review]

 名古屋外国語大学の高橋佑宜氏より,ひつじ書房から先日出版された,田地野 彰(編)『明日の授業に活かす「意味順」英語指導 理論的背景と授業実践』(ひつじ書房,2021年)をご献本いただきました(ありがとうございます!).
 「意味順」による英語指導法というものについては,不勉強で知識がありませんでしたが,「意味順」の文法観が固定語順をもつ現代英語のような言語にとってしっくりくるものだということが,よく分かりました.
 英語史を専門とする立場からは,高橋氏の執筆した「第4章 英語史からみた『意味順』」をとりわけおもしろく読みました.固定語順をもたない古英語に「意味順」を適用すると,いったいどうなるのか.また,固定語順が芽生え,確立する中英語から近代英語にかけての動的な時代は「意味順」ではどうとらえられるのか.「意味順」を通時軸に乗せてみた理論的実験として読みました.
 この第4章は,趣旨としては「意味順」論考ではありますが,実は英語の語順の歴史を短く分かりやすく概説してくれる「英語語順史入門」になっています.英語統語論の歴史は研究の蓄積も豊富で(というよりも豊富すぎて),なかなか概観を得られないものですが,よく選ばれた先行研究への言及が随所にちりばめられており,このテーマの入門として読むことができると思います.ちょうど別件で語順の歴史について書いていたこともあり,私にとってタイムリーでした.
 語順問題を扱った hellog 記事として,以下を挙げておきます.他にも word_order の各記事をご参照ください.

 ・ 「#132. 古英語から中英語への語順の発達過程」 ([2009-09-06-1])
 ・ 「#137. 世界の言語の基本語順」 ([2009-09-11-1])
 ・ 「#2975. 屈折の衰退と語順の固定化の協力関係」 ([2017-06-19-1])
 ・ 「#3124. 基本語順の類型論 (1)」 ([2017-11-15-1])
 ・ 「#3125. 基本語順の類型論 (2)」 ([2017-11-16-1])
 ・ 「#3128. 基本語順の類型論 (3)」 ([2017-11-19-1])
 ・ 「#3129. 基本語順の類型論 (4)」 ([2017-11-20-1])
 ・ 「#3127. 印欧祖語から現代英語への基本語順の推移」 ([2017-11-18-1])
 ・ 「#3131. 連載第11回「なぜ英語はSVOの語順なのか?(前編)」」 ([2017-11-22-1])
 ・ 「#3160. 連載第12回「なぜ英語はSVOの語順なのか?(後編)」」 ([2017-12-21-1])
 ・ 「#3733.『英語教育』の連載第5回「なぜ英語は語順が厳格に決まっているのか」」 ([2019-07-17-1])  ・
 ・ 「#4385. 英語が昔から SV の語順だったと思っていませんか?」 ([2021-04-29-1])

 ・ 田地野 彰(編) 『明日の授業に活かす「意味順」英語指導 理論的背景と授業実践』 ひつじ書房,2021年.
 ・ 高橋 佑宜 「第4章 英語史からみた『意味順』」田地野 彰(編)『明日の授業に活かす「意味順」英語指導 理論的背景と授業実践」 ひつじ書房,2021年.87-113頁.

Referrer (Inside): [2021-11-27-1]

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2021-09-17 Fri

#4526. 井上逸兵(著)『英語の思考法 ー 話すための文法・文化レッスン』 [review][politeness][japanese][face][pragmatics][sociolinguistics][t/v_distinction][heldio]

 去る7月に,ちくま新書より井上逸兵(著)『英語の思考法 ー 話すための文法・文化レッスン』が出版されました.著者は私の慶應義塾大学文学部英米文学専攻の同僚です(井上さん,ご献本いただきましてありがとうございます!).
 著者の井上氏には本日,私が6月から放送している「英語の語源が身につくラジオ」(heldio) に特別ゲストとして出演していただいています(←同僚としての役得に甘えました).新書についてのおしゃべりです.10分×2本の収録となっていますので,2本目もお聞き逃しなく! しかも,2本目の最後は5秒ほど時間が足りなくてお尻が切れています(泣).



 日本語(文化)には厄介なタテマエとホンネがありハッキリとものを言いにくいのに対して,英語(文化)ではそういうものがないのでハッキリ主張することが好ましい.これは,日本人の英語学習者の多くが感じていることではないでしょうか.しかし,井上氏が本書で軽妙なオヤジギャグと豊富な用例により次々と明らかにしていくのは,そうではないということです.英語(文化)にもタテマエとホンネはちゃんとある.ただし,日本語(文化)のそれとは違った形で存在している,ということです.
 では,どう違っているのかといえば,英語(文化)の基盤には「独立」「つながり」「対等」への志向があるということです.「個人として対等な関係を保ちながらつながりを求める」のが英語流ということですね.個性や独立心が比較的弱く,上下関係のつながりを重視する伝統的な日本語(文化)の発想とは,確かに大きく異なります.
 私が英語史の観点から抱いた関心は,英語的な「独立」「つながり」「対等」への志向は,いつ生まれたのだろうかということです.中世まではさほど強くなかったように思われるからです.おそらく近代に入ってからではないかと.社会的上下関係を内包する2人称代名詞の you/thou の区別が解消していくのも,近代期(17世紀以降)だった事実が思い出されます.
 本書の中心テーマは日英語文化比較やポライトネスといったところだと思いますが,英語学研究者としての著者の真骨頂は,副題の「文法・文化レッスン」に現われているように思われます.文法という言語学的な堅い代物にも,その担い手の社会に特有の文化や思考回路が色濃く反映されているのだという点です.
 一方,本書はすぐに使える英語の用例が豊富で,実用書的に読むこともできます.実際,私も英語を話したり書いたりするときに,早速いくつかの語法を活用しています.You lost me. とか Let me share with you . . . . とか.ですが,褒められたときに Can you tell my wife that? と返すのは,私には歯が浮いて言えなさそうです.
 笑いながら読める英語本です.ぜひご一読ください.

 ・ 井上 逸兵 『英語の思考法 ー 話すための文法・文化レッスン』 筑摩書房〈ちくま新書〉,2021年.

Referrer (Inside): [2022-03-17-1]

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2021-04-26 Mon

#4382. 『今さら聞けない英語学・英語教育学・英米文学』 --- 見開き2ページで1テーマ,研究テーマ探しにも [review][hel_education][terminology][verb][subjunctive][imperative][infinitive]

 日本英語英文学会30周年記念号として,こちらの本が出版されています(先日ご献本いただきまして,関係の先生方には感謝申し上げます).

 ・ 渋谷 和郎・野村 忠央・女鹿 喜治・土居 峻(編) 『今さら聞けない英語学・英語教育学・英米文学』 DTP出版,2020年.

 上記リンク先より目次が閲覧できますが,英語学・英語教育学・英米文学の各分野から,重要なキーワード,トピック,テーマが厳選されています.ページがきれいに偶数で揃っていることからも想像できる通り,すべての話題がページ見開きで簡潔に記述されているというのが本書の最大の特徴だと思います.ありそうでなかった試みとして,この工夫には感心してしまいました.各々の記述は簡潔ではあるものの,他の文献への参照も多く施されており,卒業論文やレポートなどの研究テーマ探しにもたいへん役立つのではないかと思いました(私自身もさっそくゼミ生などに紹介しました).
 英語学分野で取り上げられている話題を一覧すると,各著者の専門分野に応じて理論的なものから文献学的ものまで幅広くカバーされていますが,ここでは英語史の観点から2つほどピックアップしてみます.
 野村忠央氏による「定形性」(§52)は,動詞の定形 (finite form) と非定形 (non-finite form) という用語・概念に関する導入となっています.英語史において動詞の現在形,接続法(あるいは仮定法),命令形,不定詞は形態がおよそ「原形」に収斂してきた経緯がありますが,形態が同じだからといって機能が同じわけではないことが理論的かつ平易に解説されています.また,形が常に一定で変わらないのに「不定詞」という呼び方はおかしいのではないか,という誰しもが抱く疑問にも易しく答えています.
 定形とも非定形とも考えられそうな歴史上の「接続法現在」について,村上まどか氏が「仮定法原形」(§64)で取り上げているので,こちらも紹介します.I demand that the student go to school regularly. のような文における go の形態や関連する統語を巡る問題です.この問題についていくつかの参考文献を挙げながら解説し,この用法においては that 節が省略されにくいなどの興味深い事実を指摘しています.こちらも英語史上の重要問題です.
 上記2つの問題と関連する hellog からの記事セットをこちらにまとめましたので,関心のある方はどうぞ.
 本書で参照されている参考文献を利用して視野を広げていけば,よい研究テーマにたどり着く可能性があります.教育的配慮の行き届いた書としてお薦めします.

 ・ 渋谷 和郎・野村 忠央・女鹿 喜治・土居 峻(編) 『今さら聞けない英語学・英語教育学・英米文学』 DTP出版,2020年.

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2021-04-09 Fri

#4365. ピジン語やクレオール語に関心をもったらこれを! [pidgin][creole][hel_education][world_englishes][review][khelf_hel_intro_2021]

 授業で英語ベースのピジン語 (pidgin) やクレオール語 (creole) の話しをすると,多くの反響がある.私たちが知っている標準英語とはあまりに異なっており,必ず「それ、英語?」という反応が返ってくるのだ.英語の一種のようでありながら英語でない,あるいは逆に,英語ではないのに何となく英語ぽい,という中間的な存在が好奇心を誘うのだろう.
 本ブログでも,ピジン語やクレオール語については様々に扱ってきた.まず,入門編から応用編までを取りそろえたこちらの記事セットをお薦めしておこう.関連するすべての記事を読みたい方は,pidgincreole をどうぞ.
 ピジン語やクレオール語に関して書かれた本としては,英語史的な観点に立った入門編として,唐澤 一友(著)『世界の英語ができるまで』をお薦めする.英語史研究のトレンドともなってきている世界英語 (world_englishes) に焦点を当てた読みやすい著書である.
 4月6日に立ち上げた「英語史導入企画2021」の一環として,毎日ゼミ生から英語史コンテンツがアップされてきている.昨日公開されたコンテンツが,ピジン語とクレオール語に関する「それ、英語?」である.上述の唐澤氏の授業と著書に影響を受けたという学生によるピジン語とクレオール語の導入コンテンツで,非常に易しく書いてくれた.英語史の観点からピジン語・クレオール語に洞察を加えている箇所はとりわけ重要.ぜひ皆さんもご一読を.

 ・ 唐澤 一友 『世界の英語ができるまで』 亜紀書房,2016年.

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2021-03-04 Thu

#4329. 「英語史の知見を活かした英語教育」について参考文献をいくつか [hel][hel_education][elt][bibliography][academic_conference][review]

 英語史の知見を活かして英語を教えるには(あるいは学ぶには)どのような方法がよいのか.英語史と英語教育の接点を探る試みは,古くて新しい課題である.近年も,英語史を学ぶ意義は何かという問題意識と関連して,日本でも世界でも,再びこの課題が注目されるようになってきている.
 私自身が英語史研究者であると同時に英語教員でもあり,私の大学ゼミには英語教員を目指す学生が一定数いるということもあり,この問題には常に関心を抱いてきた.この分野についてまとまった論考を読むことのできる,近年出版された論文集や書籍を4点ほど紹介したい.

 (1) 家入葉子(編)『これからの英語教育――英語史研究との対話――』 (Can Knowing the History of English Help in the Teaching of English?). Studies in the History of English Language 5. 大阪洋書,2016年.
 (2) Heyes, Mary and Allison Burkette, eds. Approaches to Teaching the History of the English Language: Pedagogy in Practice. Oxford: OUP, 2017.
 (3) 片見 彰夫・川端 朋広・山本 史歩子(編)『英語教師のための英語史』 開拓社,2018年.
 (4) 「特集 英語史教育を考える――なぜ・どのように英語史を教えるのか」 Asterisk 第28巻,2020年.66--180頁.

 まず (1) について.英語史研究会の企画による論集.私も寄稿させていただいており,「#2566. 「3単現の -s の問題とは何か」」 ([2016-05-06-1]) に目次なども掲げたのでご参照ください.
 (2) は,本ブログでも何度か参照して関連する記事を書いてきた論集だが,英語圏での様々な英語史教育の理論と実践が紹介されている.日本とはまったく異なる観点・発想からの英語史教育論として,これはこれで新鮮.
 (3) は,英語史の分野の一線で活躍する論者たちによる論集で,タイトルが表わしている通りの内容.英語史の知識の具体的な活用事例が紹介されている.
 (4) は,古田直肇氏が企画した Asterisk 誌の特集記事群で,私も寄稿させていただいた.執筆者に現役教員や教員経験者が含まれており実践的な内容となっている.論考のラインナップを以下に示しておきたい.

 ・ 英語の授業に必要な英語史の基礎知識 (江藤 裕之)
 ・ リベラル・アーツとしての英語史 (織田 哲司)
 ・ 疑問解決手段としての英語史 (黒須 祐貴)
 ・ 英語史という“実学” (下永 裕基)
 ・ 大学で英語を学ぶということ (高山 真梨子)
 ・ 国際社会における英語史教育の必要性 (田本 真喜子)
 ・ 現代英語に重きをおいた英語史教育 (寺澤 盾)
 ・ 中学校・高等学校における英語史教育 (鴇崎 孝太郎)
 ・ 広い視野を教えてくれた英語史 (長瀬 浩平)
 ・ 故きを温ねて、文法のうつろいやすさを知る (中山 匡美)
 ・ 英語史教育における日英対照言語史の視点 (堀田 隆一)
 ・ 卓越は線の細部から (安原 章)

 この Asterisk の特集は,2019年9月22日に開かれた,駒場英語史研究会シンポジウム「これからの英語史教育を考える――英語史をトリビアに終わらせないために」(コーディネーター:古田直肇氏氏)の成果を部分的に取り込んだものとなっている.私自身が同シンポジウムで「英語史教育における日英対照言語史の視点」と題する発表を行なっているので,参考までにこちらにその時のハンドアウトを公開しておこう.
 以上の文献を参考に「英語史の知見を活かした英語教育」について考えてもらえれば幸いである.また,関連して「英語史を教える・学ぶ意義」について,次の記事も参照.

 ・ 「#4021. なぜ英語史を学ぶか --- 私的回答」 ([2020-04-30-1])
 ・ 「#3641. 英語史のすゝめ (1) --- 英語史は教養的な学問領域」 ([2019-04-16-1])
 ・ 「#3642. 英語史のすゝめ (2) --- 英語史は教養的な学問領域」 ([2019-04-17-1])
 ・ 「#24. なぜ英語史を学ぶか」 ([2009-05-22-1])
 ・ 「#1199. なぜ英語史を学ぶか (2)」 ([2012-08-08-1])
 ・ 「#1200. なぜ英語史を学ぶか (3)」 ([2012-08-09-1])
 ・ 「#1367. なぜ英語史を学ぶか (4)」 ([2013-01-23-1])
 ・ 「#2984. なぜ英語史を学ぶか (5)」 ([2017-06-28-1])
 ・ 「#4019. ぜひ英語史学習・教育のために hellog の活用を!」 ([2020-04-28-1])
 ・ 「#2470. 2015年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか?」 ([2016-01-31-1])
 ・ 「#3566. 2018年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか?」 ([2019-01-31-1])
 ・ 「#3922. 2019年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか?」 ([2020-01-22-1])
 ・ 「#4045. 英語に関する素朴な疑問を1385件集めました」 ([2020-05-24-1])
 ・ 「#4073. 地獄の英語史からホテルの英語史へ」 ([2020-06-21-1])

 ・ 家入葉子(編)『これからの英語教育――英語史研究との対話――』 (Can Knowing the History of English Help in the Teaching of English?). Studies in the History of English Language 5. 大阪洋書,2016年.
 ・ Heyes, Mary and Allison Burkette, eds. Approaches to Teaching the History of the English Language: Pedagogy in Practice. Oxford: OUP, 2017.
 ・ 片見 彰夫・川端 朋広・山本 史歩子(編)『英語教師のための英語史』 開拓社,2018年.
 ・「特集 英語史教育を考える――なぜ・どのように英語史を教えるのか」 Asterisk 第28巻,2020年.66--180頁.
 ・ 堀田 隆一 「英語史教育における日英対照言語史の視点」(ハンドアウト) 駒場英語史研究会シンポジウム「これからの英語史教育を考える――英語史をトリビアに終わらせないために」 於東京大学駒場キャンパス,2019年9月22日.

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2021-02-22 Mon

#4319. 河西良治教授退職記念論文集刊行会(編) 『言語研究の扉を開く』 開拓社,2021年. [notice][review][toc]

 敬愛する河西良治先生(中央大学文学部英語文学文化専攻教授)がこの3月でご退職されます.退職記念として,河西ゼミ門下生により編集された記念論文集『言語研究の扉を開く』が開拓社より出版されました.私自身も小論「英語の歴史にみられる3つの潮流」を寄稿させていただいたのですが,その拙論は別として,河西先生ご自身も含めた充実の執筆陣による多種多様な英語学の論文が集まっており,これからじっくり楽しんで読みたいと思っています.

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 以下,目次を掲げます.

[ 言語心理学・言語教育学 ]

  ・ 阿佐 宏一郎 「文字サイズと読み効率の言語心理学」
  ・ 歌代 崇史 「ティーチャートークの適切さの自動推定に向けた探求 --- 日本語教員養成課程において ---」
  ・ 木塚 雅貴 「英語科教員のための英語音声学」
  ・ Matthews, John 「Sounds of Language, Sounds of Speech: The Linguistics of Speaking in English but Hearing in Japanese」

[ 応用言語学 ]

  ・ 石崎 貴士 「Reconsidering the Input Hypothesis from a Connectionist Perspective: Cognitive Filtering and Incomprehensible Input」
  ・ 平川 眞規子 「日本人英語学習者によるテンスとアスペクトの意味解釈:単純形 -s vs. 現在進行形 -ing
  ・ 穂刈 友洋 「誤り研究への招待」
  ・ 村野井 仁 「第二言語習得と意味」
  ・ 若林 茂則 「第二言語の解明:統率束縛理論に基づく研究の成果と今後の研究の方向性」

[ 英語学 ]

  ・ 靭江 静 「日本語の「できる」と英語の can の語用論上の相違と語用論に基づいた指導の必要性」
  ・ 久米 啓介 「英語学習者の冠詞体系」
  ・ 倉田 俊二 「英語の自由間接話法と自由直接話法について」
  ・ 堀田 隆一 「英語の歴史にみられる3つの潮流」
  ・ 手塚 順孝 「顎・舌・唇:身体的特徴を加味した英語母音の一般化の可能性」

[ 理論言語学 ]

  ・ 新井 洋一 「That 時制節を焦点として導く疑似分裂文の特性と諸問題」
  ・ 井筒 勝信 「見えるもの、見えないもの:ミクロ類型論から見えて来るもの」
  ・ 北原 賢一 「コーパスを用いた言語研究の盲点 --- 同族目的語表現を巡って ---」
  ・ 篠原 俊吾 「ずらして見る --- メトニミー的視点 ---」
  ・ 星 英仁 「概念・志向システムによる意味解釈のメカニズム」
  ・ 山田 祥一 「断言と疑問の混交文 --- ウェブ上の言葉遊びに見られる特殊表現 ---」

  ・ 河西良治先生経歴と業績一覧

  ・ 「私の言語研究:言語と人生」 河西 良治


 ・ 河西良治教授退職記念論文集刊行会(編) 『言語研究の扉を開く』 開拓社,2021年.

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2021-01-21 Thu

#4287. 古代スラヴ語の運命 [slavic][old_slavic][balto-slavic][review][alphabet][history]

 昨年出版された服部著『古代スラヴ語の世界史』を読んだ.学生時代にロシア語を少しかじった程度でスラヴ系の言語(史)には疎いので,本ブログでもスラヴ語派 (slavic) に関してはあまり記事を書いてきていない.そのような者にとって,たいへん読みやすく学ぶことの多い著書だった.
 そもそも古代スラヴ語 (Old Slavic [Slavonic]) とは何か.服部 (114--16) を参照しつつ要約しよう.時代は9世紀半ばに遡る.当時のスラヴ世界には,多少の方言差はあったにせよ共通スラヴ語と呼べる口語が行なわれていたと考えられる.しかし,それは書き言葉に付されることはなかった.862年,ギリシア出身のコンスタンティノスとその兄メドティオスが,モラヴィア国(現在のチェコ東部)にスラヴ語でキリスト教を布教すべく,経典類のためのスラヴ文章語と,それを書き記すためのグラゴール文字を考案した(後者について「#1834. 文字史年表」 ([2014-05-05-1]) を参照).この新生スラヴ文章語こそが「古代スラヴ語」の正体である.
 この文章語による布教は当初は順調に進んだが,国内外の政治情勢ゆえに,885年のメトディオスの死後,無に帰した.しかし,弟子たちがブルガリアへ避難し,そこで首長ボリスの庇護を受けるに及んで,古代スラヴ語の伝統は新天地にて延命,いな発展を遂げる.先のグラゴール文字の機能的な長所を保ちつつ,人々が使い慣れていたギリシア文字の字形を導入し,あらたにキリル文字が作られた.ところがブルガリアもやがて滅亡し,古代スラヴ語は再び衰退の危機にさらされた.危機に陥った古代スラヴ語は,しかし,3度目の滞在地を見つけた.キエフ・ルーシである.989年にキエフ公ウラジーミルがキリスト教を国教化すると,この地にて古代スラヴ語が受け継がれることになった.
 しかし,10世紀末のこの段階までに,話し言葉としてのスラヴ語は相当の方言化を経ていた.キエフ・ルーシでも,人々の母方言と,共通文章語としての役割を果たしてきた古代スラヴ語との差が目立ってきていたのである.古代スラヴ語の経典類は,書写されていくにつれて母方言的な要素が多く混入し,いつしか純粋な古代スラヴ語と呼び得ないほどまでになった.この段階をもって,古代スラヴ語は「ロシア教会スラヴ語」や「古代ロシア文語」と呼ぶべきものに変化したと考えられている.古代スラヴ語は消滅したにはちがいないが,より正確には「ロシア教会スラヴ語」へ同化・吸収されていったといえる.
 古代スラヴ語は,このように9世紀後半から1100年ほどまでスラヴ人が用いた文章語であった.言語史の1コマといえばそうだが,歴史的な意義として服部 (5) は2点を挙げている.

このような歴史の中で見ると,古代スラヴ語とはどのような重要性を持つのであろうか.まず古代スラヴ語によってスラヴ人は初めて文字を手に入れ,文章を書き記すことを始めた.つまり,スラヴ人自身の言葉によって文献を書き残せるようになった歴史的意味は無視し難いであろう.次に,スラヴ人は,自分たちの言葉を通してキリスト教世界と関わりを持つことにより,その存在感を徐々に高めてゆくことになる.とりわけ,東方教会の圏内において,今日に繋がるような大きな存在となってゆくことは重要である.


 たいへん勉強になった.スラヴ語派,あるいはより広くバルト=スラヴ語派については,「#1469. バルト=スラブ語派(印欧語族)」 ([2013-05-05-1]) を参照.

 ・ 服部 文昭 『古代スラヴ語の世界史』 白水社,2020年.

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2020-11-24 Tue

#4229. Fertig による analogy の定義 [analogy][history_of_linguistics][terminology][review][morphology]

 言語学史上,類推作用 (analogy) については多くが論じられてきた.「音韻法則に例外なし」を謳い上げた19世紀の比較言語学者たちは analogy を言語変化の例外を集めたゴミ箱として扱った一方で,英語史を含め個別言語の言語史記述においては,analogy を引き合いに出さなければ諸問題を考察することすら不可能なほどに,概念・用語としては広く浸透した(cf. 「#555. 2種類の analogy」 ([2010-11-03-1]),「#1154. 言語変化のゴミ箱としての analogy」 ([2012-06-24-1])).analogy を巡る様々な立場の存在は,それが日常用語でもあり学術用語でもあるという点に関わっているように思われる.学術用語としても,言語学のみならず心理学や認知科学などで各々の定義が与えられており,比較するだけで頭が痛くなってくる.
 ここ数日の記事で引用している Fertig (12) は,言語学における analogy という厄介な代物を本格的に再考し,改めて導入しようとしている.読みながら多くのインスピレーションを受けているが,とりわけ重要なのは Fertig なりの analogy の定義である.これが本書の序盤 (12) に提示されるので,こちらに引用しておきたい.

(3a) analogy1 [general sense] is the cognitive capacity to reason about relationships among elements in one domain based on knowledge or beliefs about another domain. Specifically, this includes the ability to make predictions/guesses about unknown properties of elements in one domain based on knowledge of one or more other elements in that domain and perceived parallels between those elements and sets of known elements in another domain.
(3b) analogy2 [specific sense] is the capacity of speakers to produce meaningful linguistic forms that they may have never before encountered, based on patterns they discern across other forms belonging to the same linguistic system.
(3c) an analogical formation is a form (word, phrase, clause, sentence, etc.) produced by a speaker on the basis of analogy2.
(3d) associative interference is an analogical formation and/or a product of associative interference that deviates from current norms of usage.
(3f) an analogical change is a difference over time in prevailing usage within (a significant portion of) a speech community that corresponds to an analogical innovation or a set of related innovations.


 定義というのは,それだけ読んでもなぜそのようになっているのか,なぜそこまで精妙な言い回しをするのか分からないことも多いが,それはこの analogy についても当てはまる.Fertig の新機軸の1つは,従来の analogy 観に (3d) の項目を付け加えたことである.伝統的な「比例式」を用いた analogy の定義には当てはまらないが,別の観点からは analogy とみなせる事例を加えるために,新たに検討されたのが (3d) だった.
 もちろん Fertig の定義とて1つの定義,1つの学説にすぎず,精査していく必要があるだろう.

 ・ Fertig, David. Analogy and Morphological Change. Edinburgh: Edinburgh UP, 2013.

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2020-10-31 Sat

#4205. 國分功一郎(著)『中動態の世界 意志と責任の考古学』 [philosophy_of_language][voice][middle_voice][passive][review]

 國分功一郎(著)『中動態の世界 意志と責任の考古学』を読了した.「中動態」 (middle_voice) あるいは「中間態」とも呼ばれる,古くは印欧語族に広くみられた態 (voice) に関する哲学的考察である.
 現代人の多くには馴染みの薄い態であるが,古代ギリシア語では一般的によくみられ,現代の印欧諸語にも何らかの形で残滓が残っている.また,日本語の「自発」を表わす動詞の表現なども,中動態の一種といえる.本ブログでは「#232. 英語史の時代区分の歴史 (1)」 ([2009-12-15-1]),「#2185. 再帰代名詞を用いた動詞表現の衰退」 ([2015-04-21-1]),「#3331. 印欧祖語からゲルマン祖語への動詞の文法範疇の再編成」 ([2018-06-10-1]) 等でその名称には触れたものの,まともに取り上げたことはなかった話題である.
 本書を分かりやすく要約することは至難の業だが,著者の最大の主張は,私たちが当たり前のようにみなしている能動態と受動態の対立を疑ってみようという呼びかけである.能動態と受動態の対立に慣れきっていると,中動態は,文字通り中間的な,立ち位置のよく分からないどっちつかずの存在であるようにみえる.しかし,それは対立の軸がずれているからではないか.対立させるべきは,能動態と受動態を合わせた1つの態と,中動態というもう1つの態なのではないか.中動態は何かの中間なのではなく,むしろ能動態と鋭く対立する態なのではないか.本書では,前半からこのような目から鱗の落ちるような議論が展開される.pp. 82--83 より著者の主張を引用しよう(以下では原文の圏点は太字で示している).

中動態を定義するためには,われわれがそのなかに浸かってしまって能動対受動というパースペクティヴを一度括弧に入れたうえで,かつて中動態が置かれていたパースペクティヴを復元しなければならないのだった.より具体的に言えば,その作業は,中動態をそれ単独としてではなくて,能動態との対立において定義することを意味する.
 するとここにもう一つ別の課題が現れる.
 中動態が能動態との対立においてその意味を確定していたのならば,まったく同じように,能動態もまた中動態との対立においてその意味を確定していたはずである.だとしたら,中動態と対立していたときの能動態を,現在のパースペクティヴにおける能動態と同一視してはならないことになる.中動態を定義するためには,中動態と対立していた能動態も定義し直さなければならないはずだ.
 われわれがそのなかに浸っているパースペクティヴを括弧に入れるとは,そのようなことを意味する.中動態を問うためには,われわれが無意識に採用している枠組みわれわれ自身を規定している諸条件を問わねばならないのだ.


 このように従来の態の見方を転倒させるような洞察が本書の最後まで続く.そのなかには,印欧語では動詞構文より前に名詞構文があったのではないかという仮説もあれば,中動態こそが原初の態だったのではないかという仮説もある.あらためて言語における態とは何なのかを問わずにはいられなくなる論考である.

 ・ 國分 功一郎 『中動態の世界 意志と責任の考古学』 医学書院,2017年.

Referrer (Inside): [2020-11-06-1] [2020-11-02-1]

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2020-08-23 Sun

#4136. 高橋 英光(著)『英語史を学び英語を学ぶ』(開拓社)の書評 [review][hel_education]

 先日発売された『英語教育』9月号に,英語史の近著『英語史を学び英語を学ぶ --- 英語の現在と過去の対話』(高橋 英光(著),開拓社)に関する拙論書評が掲載されました.

『英語教育』2020年9月号



 書評内で本書を「読む英語史演習」と表現しましたが,実際,読んでみると大学の英語史演習の授粟に参加しているかのような錯覚に陥ります.前半の第I部は英語史通史の入門というべき趣旨で,ざっと読むことができます.その補章としてOED入門の解説が施されており,初めてOEDに触るという学習者には有用です.
 後半の第II部は,現代英語の諸問題を歴史的にみるという趣旨の内容で,とりわけ17,18章は著者が強調する認知言語学の視点からの記述で,文法変化と意味変化の話題が取り上げられています.
 各章末には要領よくまとめられた「要約」が付されているのもポイントです.この「要約」のみを横に読んでいくという学習法もありだと思います.
 全体的に,易しい英語史入門書という位置づけの書です.巻末の参考文献にはよく選ばれた論著が並んでいるので,芋づる式に読書していくとよいと思います.

 ・ 高橋 英光 『英語史を学び英語を学ぶ --- 英語の現在と過去の対話』 開拓社,2020年.
 ・ 堀田 隆一 「書評:高橋 英光 『英語史を学び英語を学ぶ --- 英語の現在と過去の対話』(開拓社)」 『英語教育』(大修館) 2020年9月号,2020年.93--94頁.

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2020-04-01 Wed

#3992. 英語史を学ぶなら Baugh and Cable の古典的名著を [hel_education][review]

 本日から新年度です.新型コロナウィルスの影響で大学の授業もレギュラーには始まりませんが,本年度も前向きの姿勢で英語史に取り組んでいきましょう.
 例年,私の英語史の授業では,Baugh and Cable による英語史の古典的名著 A History of the English Language を指定テキストとしています.現行のものは2013年に出た第6版で,和田 (2013) にレビューがあります.「#2182. Baugh and Cable の英語史第6版」 ([2015-04-18-1]) の記事もご覧ください.
 私自身も忘れていたのですが,およそ1年ほど前の『週刊読書人』第3290号(2019年5月24日)に同著を推薦書として挙げていました.こちらのページをご覧ください.その最後に「今の時代だからこそ広く読まれるべき,英語に関する教養書であり,同時に専門書でもあります」と書きましたが,これは本当です.よくできた教養書でありながら,英語史を専攻する者として何度目かに読んでも必ず何らかの発見があるのです.著者は,平易な文章を目指しつつも,その表面に様々なレベルの問題についてヒントを散りばめるのが上手なのだろうと思います.
 英語史に限らず「○○史」と銘打った歴史の教科書というのは,時系列での整理の仕方が命です.よくできた歴史の教科書は,章立てと目次が整理されています.もちろん通読は必要ですが,通読して流れを理解した上で,その目次をじっくり学習するというのがお薦めの学習法です.「#2089. Baugh and Cable の英語史概説書の目次」 ([2015-01-15-1]) をどうぞ.
 英語史のお薦めの本はほかにもあります.昨年度版ですが「#3635. 英語史概説書等の書誌(2019年度版)」 ([2019-04-10-1]) をご覧ください.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
 ・ 和田 忍 「新刊紹介 Albert C. BAUGH & Thomas CABLE, A History of the English Language, Sixth edition, Upper Saddle River, NJ, Pearson, 2013, 446+xviii p., $174.07」『西洋中世研究』第5号,2013年,159頁.

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2020-03-13 Fri

#3973. 『ビジュアル数学全史』の英語目次 [mathematics][toc][review][link]

 数学に関する年表・図鑑・事典が一緒になったような,それでいて読み物として飽きない『ビジュアル数学全史』を通読した.2009年の原著 The Math Book の邦訳である.250の話題の各々について写真や図形が添えられており,雑学ネタにも事欠かない.ゾクゾクさせる数の魅力にはまってしまった.この本の公式HPはこちら
 原著で読んでいたら数学用語にも強くなっていたかもしれないと思ったが,250のキーワードについては英語版の目次から簡単に拾える.ということで,以下に日英両言語版の目次をまとめてみた.ただ挙げるのでは芸がないので,本ブログの過去の記事と引っかけられそうなキーワードについては,リンクを張っておいた.数学(を含む自然科学)に関連する言語学・英語学・英語史の話題については,たまに取り上げてきたので.



 1. アリの体内距離計:Ant Odometer (c. 150 million BC)
 2. 数をかぞえる霊長類:Primates Count (c. 30 million BC)
 3. セミと素数:Cicada-Generated Prime Numbers (c. 1 million BC)
 4. 結び目:Knots (c. 100,000 BC)
 5. イシャンゴ獣骨:Ishango Bone (c. 18,000 BC)
 6. キープ:Quipu (c. 3000 BC) (cf. 「#2389. 文字体系の起源と発達 (1)」 ([2015-11-11-1]),「#3838. 「文字を有さずとも,かなり高度な文明と文化をつくり上げることは可能」」 ([2019-10-30-1]))
 7. サイコロ:Dice (c. 3000 BC)
 8. 魔方陣:Magic Squares (c. 2200 BC)
 9. プリンプトン322:Plimpton 322 (c. 1800 BC)
 10. リンド・パピルス:Rhind Papyrus (c. 1650 BC)
 11. 三目並べ:Tic Tac Toe (c. 1300 BC)
 12. ピタゴラスの定理とピタゴラス三角形:Pythagorean Theorem and Triangles (c. 600 BC)
 13. 囲碁:Go (548 BC)
 14. ピタゴラス教団の誕生:Pythagoras Founds Mathematical Brotherhood (530 BC)
 15. ゼノンのパラドックス:Zeno's Paradoxes (c. 445 BC)
 16. 弓形の求積法:Quadrature of the Lune (c. 440 BC)
 17. プラトンの立体:Platonic Solids (350 BC)
 18. アリストテレスの『オルガノン』:Aristotle's Organon (c. 350 BC)
 19. アリストテレスの車輪のパラドックス:Aristotle's Wheel Paradox (c. 320 BC)
 20. ユークリッドの『原論』:Euclid's Elements (300 BC)
 21. アルキメデスの『砂粒』『牛』『ストマキオン』:Archimedes: Sand, Cattle & Stomachion (c. 250 BC)
 22. 円周率 π:pi (c. 250 BC)
 23. エラトステネスのふるい:Sieve of Eratosthenes (c. 240 BC)
 24. アルキメデスの半正多面体:Archimedean Semi-Regular Polyhedra (c. 240 BC)
 25. アルキメデスのらせん:Archimedes' Spiral (225 BC)
 26. ディオクレスのシッソイド:Cissoid of Diocles (c. 180 BC)
 27. プトレマイオスの『アルマゲスト』:Ptolemy's Almagest (c. 150)
 28. ディオファントスの『算術』:Diophantus's Arithmetica (250)
 29. パッポスの六角形定理:Pappus's Hexagon Theorem (c. 340)
 30. バクシャーリー写本:Bakhshali Manuscript (c. 350)
 31. ヒュパティアの死:The Death of Hypatia (415)
 32. ゼロ:Zero (c. 650)
 33. アルクィンの『青年たちを鍛えるための諸命題』:Alcuin's Propositiones ad Acuendos Juvenes (c. 800) (cf. 「#1309. 大文字と小文字」 ([2012-11-26-1]),「#2871. 古英語期のスライド年表」 ([2017-03-07-1]),「#3820. なぜアルフレッド大王の時代までに学問が衰退してしまったのか?」 ([2019-10-12-1]))
 34. アル=フワーリズミーの『代数学』:al-Khwarizmi's Algebra (830) (cf. 「#2918. 「未知のもの」を表わす x」 ([2017-04-23-1]))
 35. ボロミアン環:Borromean Rings (834)
 36. 『ガニタサーラサングラハ』:Ganita Sara Samgraha (850)
 37. サービトの友愛数の公式:Thabit Formula for Amicable Numbers (c. 850)
 38. 『算術について(インド式計算について諸章よりなる書)』:Kitab al-fusul fi al-hisab al-Hindi (c. 953)
 39. オマル・ハイヤームの『代数学』:Omar Khayyam's Treatise (1070)
 40. アッ=サマウアルの『代数の驚嘆』:Al-Samawal's The Dazzling (c. 1150)
 41. そろばん:Abacus (c. 1200)
 42. フィボナッチの『計算の書』:Fibonacci's Liber Abaci (1202)
 43. チェス盤上の麦粒:Wheat on a Chessboard (1256)
 44. 調和級数の発散:Harmonic Series Diverges (c. 1350)
 45. 余弦定理:Law of Cosines (c. 1427)
 46. 『トレヴィーゾ算術書』:Treviso Arithmetic (1478)
 47. 円周率の級数公式の発見:Discovery of Series Formula for Pi (c. 1500)
 48. 黄金比:Golden Ratio (1509)
 49. 『ポリグラフィア』:Polygraphiae Libri Sex (1518)
 50. 航程線:Loxodrome (1537)
 51. カルダノの『アルス・マグナ』:Cardano's Ars Magna (1545)
 52. 『スマリオ・コンペンディオソ』:Sumario Compendioso (1556)
 53. メルカトール図法:Mercator Projection (1569)
 54. 虚数:Imaginary Numbers (1572) (cf. 「#2120. 再建形は虚数である」 ([2015-02-15-1]))
 55. ケプラー予想:Kepler Conjecture (1611)
 56. 対数:Logarithms (1614)
 57. 計算尺:Slide Rule (1621)
 58. フェルマーのらせん:Fermat's Spiral (1636)
 59. フェルマーの最終定理:Fermat's Last Theorem (1637)
 60. デカルトの『幾何学』:Descartes' La Geometrie (1637)
 61. カージオイド:Cardioid (1637)
 62. 対数らせん:Logarithmic Spiral (1638)
 63. 射影幾何学:Projective Geometry (1639)
 64. トリチェリのトランペット:Torricelli's Trumpet (1641)
 65. パスカルの三角形:Pascal's Triangle (1654)
 66. ニールの放物線:The Length of Neile's Semicubical Parabola (1657)
 67. ヴィヴィアーニの定理:Viviani's Theorem (1659)
 68. 微積分の発見:Discovery of Calculus (c. 1665)
 69. ニュートン法:Newton's Method (1669)
 70. 等時曲線問題:Tautochrone Problem (1673)
 71. 星芒形:Astroid (1674)
 72. ロピタルの『無限小解析』:L'Hopital's Analysis of the Infinitely Small (1696)
 73. 地球を取り巻くロープのパズル:Rope around the Earth Puzzle (1702)
 74. 大数の法則:Law of Large Numbers (1713)
 75. オイラー数 e:Euler's Number, e (1727)
 76. スターリングの公式:Stirling's Formula (1730)
 77. 正規分布曲線:Normal Distribution Curve (1733)
 78. オイラー・マスケローニの定数:Euler-Mascheroni Constant (1735)
 79. ケーニヒスベルクの橋渡り:Konigsberg Bridges (1736)
 80. サンクトペテルブルクのパラドックス:St. Petersburg Paradox (1738)
 81. ゴールドバッハ予想:Goldbach Conjecture (1742)
 82. アニェージの『解析教程』:Agnesi's Instituzioni Analitiche (1748)
 83. オイラーの多面体公式:Euler's Formula for Polyhedra (1751)
 84. オイラーの多角形分割問題:Euler's Polygon Division Problem (1751)
 85. 騎士巡回問題:Knight's Tours (1759)
 86. ベイズの定理:Bayes' Theorem (1761)
 87. フランクリン魔方陣:Franklin Magic Square (1769)
 88. 極小曲面:Minimal Surface (1774)
 89. ビュフォンの針:Buffon's Needle (1777)
 90. 36人の士官の問題:Thirty-Six Officers Problem (1779)
 91. 算額の幾何学:Sangaku Geometry (c. 1789)
 92. 最小二乗法:Least Squares (1795)
 93. 正十七角形の作図:Constructing a Regular Heptadecagon (1796)
 94. 代数学の基本定理:Fundamental Theorem of Algebra (1797)
 95. ガウスの『数論考究』:Gauss's Disquisitiones Arithmeticae (1801)
 96. 三桿分度器:Three-Armed Protractor (1801)
 97. フーリエ級数:Fourier Series (1807)
 98. ラプラスの『確率の解析的理論』:Laplace's Theorie Analytique des Probabilites (1812)
 99. ルパート公の問題:Prince Rupert's Problem (1816)
 100. ベッセル関数:Bessel Functions (1817)
 101. バベッジの機械式計算機:Babbage Mechanical Computer (1822)
 102. コーシーの『微分積分学要論』:Cauchy's Le Calcul Infinitesimal (1823)
 103. 重心計算:Barycentric Calculus (1827)
 104. 非ユークリッド幾何学:Non-Euclidean Geometry (1829)
 105. メビウス関数:Mobius Function (1831)
 106. 群論:Group Theory (1832)
 107. 鳩の巣原理:Pigeonhole Principle (1834)
 108. 四元数:Quaternions (1843)
 109. 超越数:Transcendental Numbers (1844)
 110. カタラン予想:Catalan Conjecture (1844)
 111. シルヴェスターの行列:The Matrices of Sylvester (1850)
???112. ?????峨?????鐚?Four-Color Theorem (1852)
 113. ブール代数:Boolean Algebra (1854)
 114. イコシアン・ゲーム:Icosian Game (1857)
 115. ハーモノグラフ:Harmonograph (1857)
 116. メビウスの帯:The Mobius Strip (1858)
 117. ホルディッチの定理:Holditch's Theorem (1858)
 118. リーマン予想:Riemann Hypothesis (1859)
 119. ベルトラミの擬球面:Beltrami's Pseudosphere (1868)
 120. ワイエルシュトラース関数:Weierstrass Function (1872)
 121. グロの『チャイニーズリングの理論』:Gros's Theorie du Baguenodier (1872)
 122. コワレフスカヤの博士号:The Doctorate of Kovalevskaya (1874)
 123. 15パズル:Fifteen Puzzle (1874)
 124. カントールの超限数:Cantor's Transfinite Numbers (1874)
 125. ルーローの三角形:Reuleaux Triangle (1875)
 126. 調和解析機:Harmonic Analyzer (1876)
 127. リッティ・モデルIキャッシュレジスター:Ritty Model I Cash Register (1879)
 128. ベン図:Venn Diagrams (1880)
 129. ベンフォードの法則:Benford's Law (1881)
 130. クラインのつぼ:Klein Bottle (1882)
 131. ハノイの塔:Tower of Hanoi (1883)
 132. フラットランド:Flatland (1884)
 133. 四次元立方体:Tesseract (1888)
 134. ペアノの公理:Peano Axioms (1889)
 135. ペアノ曲線:Peano Curve (1890)
 136. 壁紙群:Wallpaper Groups (1891)
 137. シルヴェスターの直線の問題:Sylvester's Line Problem (1893)
 138. 素数定理の証明:Proof of the Prime Number Theorem (1896)
 139. ピックの定理:Pick's Theorem (1899)
 140. モーリーの三等分線定理:Morley's Trisector Theorem (1899)
 141. ヒルベルトの23の問題:Hilbert's 23 Problems (1900)
 142. カイ二乗検定:Chi-Square (1900) (cf. 「#696. Log-Likelihood Test」 ([2011-03-24-1]))
 143. ボーイ曲面:Boy's Surface (1901)
 144. 床屋のパラドックス:Barber Paradox (1901)
 145. ユングの定理:Jung's Theorem (1901)
 146. ポアンカレ予想:Poincare Conjecture (1904)
 147. コッホ雪片:Koch Snowflake (1904)
 148. ツェルメロの選択公理:Zermelo's Axiom of Choice (1904)
 149. ジョルダン曲線定理:Jordan Curve Theorem (1905)
 150. トゥーエ-モース数列:Thue-Morse Sequence (1906)
 151. ブラウアーの不動点定理:Brouwer Fixed-Point Theorem (1909)
 152. 正規数:Normal Number (1909)
 153. ブールの『代数の哲学と楽しみ』:Boole's Philosophy and Fun of Algebra (1909)
 154. 『プリンキピア・マテマティカ』:Principia Mathematica (1910-1913)
 155. 毛玉の定理:Hairy Ball Theorem (1912)
 156. 無限の猿定理:Infinite Monkey Theorem (1913)
 157. ビーベルバッハ予想:Bieberbach Conjecture (1916)
 158. ジョンソンの定理:Johnson's Theorem (1916)
 159. ハウスドルフ次元:Hausdorff Dimension (1918)
 160. ブルン定数:Brun's Constant (1919)
 161. グーゴル:Googol (c. 1920) (cf. 「#888. 語根創成について一考」 ([2011-10-02-1]))
 162. アントワーヌのネックレス:Antoine's Necklace (1920)
 163. ネーターの『イデアル論』:Noether's Idealtheorie (1921)
 164. 超空間で迷子になる確率:Lost in Hyperspace (1921)
 165. ジオデシック・ドーム:Geodesic Dome (1922)
 166. アレクサンダーの角付き球面:Alexander's Horned Sphere (1924)
 167. バナッハ-タルスキのパラドックス:Banach-Tarski Paradox (1924)
 168. 長方形の正方分割:Squaring a Rectangle (1925)
 169. ヒルベルトのグランドホテル:Hilbert's Grand Hotel (1925)
 170. メンガーのスポンジ:Menger Sponge (1926)
 171. 微分解析機:Differential Analyzer (1927)
 172. ラムゼー理論:Ramsey Theory (1928)
 173. ゲーデルの定理:Godel's Theorem (1931)
 174. チャンパノウン数:Champernowne's Number (1933)
 175. 秘密結社ブルバキ:Bourbaki: Secret Society (1935)
 176. フィールズ賞:Fields Medal (1936)
 177. チューリングマシン:Turing Machines (1936)
 178. フォーデルベルクのタイリング:Voderberg Tilings (1936)
 179. コラッツ予想:Collatz Conjecture (1937)
 180. フォードの円:Ford Circles (1938)
 181. 乱数発生器の発達:The Rise of Randomizing Machines (1938)
 182. 誕生日のパラドックス:Birthday Paradox (1939)
 183. 外接多角形:Polygon Circumscribing (c. 1940)
 184. ボードゲーム「ヘックス」:Hex (1942)
 185. ピッグ・ゲームの戦略:Pig Game Strategy (1945)
 186. ENIAC:ENIAC (1946) (cf. 「#889. acronym の20世紀」 ([2011-10-03-1]))
 187. フォン・ノイマンの平方採中法:Von Neumann's Middle-Square Randomizer (1946)
 188. グレイコード:Gray Code (1947)
 189. 情報理論:Information Theory (1948) (cf. information_theory)
 190. クルタ計算機:Curta Calculator (1948)
 191. チャーサール多面体:Csaszar Polyhedron (1949)
 192. ナッシュ均衡:Nash Equilibrium (1950)
 193. 海岸線のパラドックス:Coastline Paradox (c. 1950)
 194. 囚人のジレンマ:Prisoner's Dilemma (1950)
 195. セル・オートマトン:Cellular Automata (1952)
 196. マーティン・ガードナーの数学レクリエーション:Martin Gardner's Mathematical Recreations (1957)
 197. ギルブレスの予想:Gilbreath's Conjecture (1958)
 198. 球面の内側と外側をひっくり返す:Turning a Sphere Inside Out (1958)
 199. プラトンのビリヤード:Platonic Billiards (1958)
 200. 外接ビリヤード:Outer Billiards (1959)
 201. ニューコムのパラドックス:Newcomb's Paradox (1960)
 202. シェルピンスキ数:Sierpinski Numbers (1960)
 203. カオスとバタフライ効果:Chaos and the Butterfly Effect (1963) (cf. chaos_theory)
 204. ウラムのらせん:Ulam Spiral (1963)
 205. 連続体仮説の非決定性:Continuum Hypothesis Undecidability (1963)
 206. スーパーエッグ:Superegg (c. 1965)
 207. ファジィ論理:Fuzzy Logic (1965)
 208. インスタント・インサニティ:Instant Insanity (1966)
 209. ラングランズ・プログラム:Langlands Program (1967)
 210. スプラウト・ゲーム:Sprouts (1967)
 211. カタストロフィー理論:Catastrophe Theory (1968)
 212. トカルスキーの照らし出せない部屋:Tokarsky's Unilluminable Room (1969)
 213. ドナルド・クヌースとマスターマインド:Donald Knuth and Mastermind (1970)
 214. エルデーシュの膨大な共同研究:Erdos and Extreme Collaboration (1971)
 215. 最初の関数電卓HP-35:HP-35: First Scientific Pocket Calculator (1972)
 216. ペンローズ・タイル:Penrose Tiles (1973)
 217. 美術館定理:Art Gallery Theorem (1973)
 218. ルービック・キューブ:Rubik's Cube (1974)
 219. チャイティンのオメガ:Chaitin's Omega (1974)
???220. 莇??憜????逸??Surreal Numbers (1974)
 221. ペルコの結び目:Perko Knots (1974)
 222. フラクタル:Fractals (1975) (cf. 「#3123. カオスとフラクタル」 ([2017-11-14-1]))
 223. ファイゲンバウム定数:Feigenbaum Constant (1975)
 224. 公開鍵暗号:Public-Key Cryptography (1977) (cf. 「#2699. 暗号学と言語学」 ([2016-09-16-1]),cat('cryptology'))
 225. シラッシ多面体:Szilassi Polyhedron (1977)
 226. 池田アトラクター:Ikeda Attractor (1979) (cf. 「#3111. カオス理論と言語変化 (1)」 ([2017-11-02-1]),「#3123. カオスとフラクタル」 ([2017-11-14-1]))
 227. スパイドロン:Spidrons (1979)
 228. マンデルブロー集合:Mandelbrot Set (1980) (cf. 「#3123. カオスとフラクタル」 ([2017-11-14-1]),「#3132. 暗号学と言語学 (2)」 ([2017-11-23-1]))
 229. モンスター群:Monster Group (1981)
 230. n次元球体内の三角形:Ball Triangle Picking (1982)
 231. ジョーンズ多項式:Jones Polynomial (1984)
 232. ウィークス多様体:Weeks Manifold (1985)
 233. アンドリカの予想:Andrica's Conjecture (1985)
???234. ABC篋???鰹??The ABC Conjecture (1985)
 235. 読み上げ数列:Audioactive Sequence (1986)
???236. Mathematica鐚?Mathematica (1988)
 237. マーフィーの法則と結び目:Murphy's Law and Knots (1988)
 238. バタフライ曲線:Butterfly Curve (1989)
 239. オンライン整数列大辞典:The On-Line Encyclopedia of Integer Sequences (1996)
 240. エターニティ・パズル:Eternity Puzzle (1999)
 241. 四次元完全魔方陣:Perfect Magic Tesseract (1999)
 242. パロンドのパラドックス:Parrondo's Paradox (1999)
 243. ホリヘドロンの解決:Solving of the Holyhedron (1999)
 244. ベッドシーツ問題:Bed Sheet Problem (2001)
 245. オワリ・ゲームの解決:Solving the Game of Awari (2002)
 246. テトリスはNP完全:Tetris is NP-Complete (2002)
 247. 天才数学者の事件ファイル:NUMB3RS (2005)
 248. チェッカーの解決:Checkers is Solved (2007)
 249. 例外型単純リー群E8の探求:The Quest for Lie Group E8 (2007)
 250. 数学的宇宙仮説:Mathematical Universe Hypothesis (2007)



・ Pickover, Clifford A. The Math Book: From Pythagoras to the 57th Dimension, 250 Milestones in the History of Mathematics. New York: Sterling, 2009.
・ ピックオーバー,クリフォード(著),根上 生也・水原 文(訳) 『ビジュアル数学全史』 岩波書店,2017年.

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2019-12-28 Sat

#3897. Alternative Histories of English [hel_education][review][history][sociolinguistics][world_englishes][variety]

 この2日間の記事 ([2019-12-26-1], [2019-12-27-1]) で「歴史の if」について考えてみた.反実仮想に基づいた歴史の呼び方の1つとして alternative history があるが,この表現を聞いて思い出すのは,著名な社会言語学者たちによって書かれた英語史の本 Alternative Histories of English である.
 この本は,実際のところ,反実仮想に基づいたフィクションの英語史書というわけではない.むしろ,事実の記述に基づいた堅実な英語史記述である.ただし,現在広く流通している,いわゆる標準英語のメイキングに注目する「正統派」の英語史に対して,各種の非標準英語,すなわち "Englishes" の歴史に光を当てるという趣旨での「もう1つの歴史」というわけである.
 しかし,本書は(過去ではないが)未来に関するある空想に支えられているという点で,反実仮想と近接する部分が確かにある.このことは,2人の編者 Watts and Trudgill が執筆した "In the year 2525" と題する序論にて確認できる.以下に引用しよう.

   If the whole point of a history of English were, as it sometimes appears, to glorify the achievement of (standard) English in the present, then what will speakers in the year 2525 have to say about our current textbooks? We would like to suggest that orthodox histories of English have presented a kind of tunnel vision version of how and why the language achieved its present form with no consideration of the rich diversity and variety of the language or any appreciation of what might happen in the future. Just as we look back at the multivariate nature of Old English, which also included a written, somewhat standardised form, so too might the observer 525 years hence look back and see twentieth century Standard English English as being a variety of peculiarly little importance, just as we can now see that the English of King Alfred was a standard form that was in no way the forerunner of what we choose to call Standard English today.
   There is no reason why we should not, in writing histories of English, begin to take this perspective now rather than wait until 2525. Indeed, we argue that most histories of English have not added at all to the sum of our knowledge about the history of non-standard varieties of English --- i.e. the majority --- since the late Middle English period. It is one of our intentions that this book should help to begin to put that balance right. (1--2)


 正統派に属する伝統的な英語史の偏狭な見方を批判した,傾聴に値する文章である."alternative history" は,この2日間で論じてきたように,原因探求に効果を発揮するだけでなく,広く流通している歴史(観)を相対化するという点でも重要な役割を果たしてくれるだろう.
 本書の出版は2002年だが,それ以降,英語の非標準的な変種や側面に注目する視点は着実に育ってきている.関連して「#1991. 歴史語用論の発展の背景にある言語学の "paradigm shift"」 ([2014-10-09-1]) の記事も参照されたい.なお,このような視点を英語史に適用する試みは,いまだ多くないのが現状である.

 ・ Watts, Richard and Peter Trudgill, eds. Alternative Histories of English. Abingdon: Routledge, 2002.

Referrer (Inside): [2021-12-04-1]

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2019-10-29 Tue

#3837. 鈴木董(著)『文字と組織の世界史』 --- 5つの文字世界の発展から描く新しい世界史 [writing][grammatology][religion][review][history]

 昨年出版された鈴木董(著)『文字と組織の世界史 新しい「比較文明史」のスケッチ』は,文字の観点からみた世界史の通史である.一本の強力な筋の通った壮大な世界史である.文字,言語,宗教,そして統治組織という点にこだわって書かれており,言語史の立場からも刺激に富む好著である.
 本書の世界史記述は,5つの文字世界の歴史的発展を基軸に秩序づけられている.その5つの文字世界とは何か.第1章より,重要な部分を抜き出そう (19--20) .

〔前略〕唯一のグローバル・システムが全世界を包摂する直前というべき一八〇〇年に立ち戻ってみると,「旧世界」のアジア・アフリカ・ヨーロッパの「三大陸」の中核部には,五つの大文字圏,文字世界としての文化世界が並存していた.
 すなわち,西から東へ「ラテン文字世界」,「ギリシア・キリル文字世界」,「梵字世界」,「漢字世界」,そして上述の四つの文字世界の全てに接しつつ,アジア・アフリカ・ヨーロッパの三大陸にまたがって広がる「アラビア文字世界」の五つである.「新世界」の南北アメリカの両大陸,そして六つ目の人の住む大陸というべきオーストラリア大陸は,その頃までには,いずれも西欧人の植民地となりラテン文字世界の一部と化していた.
 ここで「旧世界」の「三大陸」中核部を占める文字世界は,文化世界としてとらえなおせば,ラテン文字世界は西欧キリスト教世界,ギリシア・キリル文字世界は東欧正教世界,梵字世界は南アジア・東南アジア・ヒンドゥー・仏教世界,漢字世界は東アジア儒教・仏教世界,そしてアラビア文字世界はイスラム世界としてとらええよう.そして,各々の文字世界の成立,各々の文化世界内における共通の古典語,そして文明と文化を語るときに強要される文明語・文化語の言語に用いられる文字が基礎を提供した.
 すなわち西欧キリスト教世界ではラテン語,東欧正教世界ではギリシア語と教会スラヴ語,南アジア・東南アジア・ヒンドゥー・仏教世界では,ヒンドゥー圏におけるサンスクリットと仏教圏におけるパーリ語,東アジア儒教・仏教世界では漢文,そしてイスラム世界においてはアラビア語が,各々の文化世界で共有された古典語,文明語・文化語であった.


 5つの文字世界の各々と地域・文化・宗教・言語の関係は密接である.改めてこれらの相互関係に気付かせてくれた点で,本書はすばらしい.  *
 本ブログでも,文字の歴史,拡大,系統などについて多くの記事で論じてきた.とりわけ以下の記事を参照されたい.

 ・ 「#41. 言語と文字の歴史は浅い」 ([2009-06-08-1])
 ・ 「#422. 文字の種類」 ([2010-06-23-1])
 ・ 「#423. アルファベットの歴史」 ([2010-06-24-1])
 ・ 「#1849. アルファベットの系統図」 ([2014-05-20-1])
 ・ 「#1822. 文字の系統」 ([2014-04-23-1])
 ・ 「#1853. 文字の系統 (2)」 ([2014-05-24-1])
 ・ 「#2398. 文字の系統 (3)」 ([2015-11-20-1])
 ・ 「#2416. 文字の系統 (4)」 ([2015-12-08-1])
 ・ 「#2399. 象形文字の年表」 ([2015-11-21-1])
 ・ 「#1834. 文字史年表」 ([2014-05-05-1])
 ・ 「#2414. 文字史年表(ロビンソン版)」 ([2015-12-06-1])
 ・ 「#2344. 表意文字,表語文字,表音文字」 ([2015-09-27-1])
 ・ 「#2386. 日本語の文字史(古代編)」 ([2015-11-08-1])
 ・ 「#2387. 日本語の文字史(近代編)」 ([2015-11-09-1])
 ・ 「#2389. 文字体系の起源と発達 (1)」 ([2015-11-11-1])
 ・ 「#2390. 文字体系の起源と発達 (2)」 ([2015-11-12-1])
 ・ 「#2577. 文字体系の盛衰に関わる社会的要因」 ([2016-05-17-1])
 ・ 「#2494. 漢字とオリエント文字のつながりはあるか?」 ([2016-02-24-1])

 ・ 鈴木 董 『文字と組織の世界史 新しい「比較文明史」のスケッチ』 山川出版社,2018年.

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2019-10-05 Sat

#3813. Crystal の英語百科事典の構成原理 [review]

 「#3805. The Cambridge Encyclopedia of the English Language 第3版の Part I 「英語史」の目次」 ([2019-09-27-1]) で紹介した Crystal の The Cambridge Encyclopedia of the English Language (第3版)の第1章 (2--3) では,"Modelling English" と題して本書の構成原理に関する説明が施されている.これは著者が長年培ってきた言語観の表明であり,英語観のエッセンスでもある.さらにいえば,20世紀半ばまでの言語学の潮流と,それ以降のトレンドを別個に扱いつつも,両者を融合しようという試みともなっている.著者もヤーヌスに譬えているとおり,英語の「構造」 (Structure) と「用法」 (Use) という両側面を知ることは,ともに大事だろう.
 Crystal の構成原理を具体的に示せば,次の通りである.

Modelling English
 Structure
  Event
   Text
  Core
   Grammar
   Lexicon
  Transmission
   Phonology
   Graphology
   Sign
 Use
  Temporal variation
   Long term
   Short term
  Regional variation
  Personal variation
  Social variation


 よく考えられた構成原理だが,手放しでは受け入れられないようにも思う.このモデルによると,英語の歴史は「英語の使用における時間軸上の変異」という見方になるが,これには違和感がある.英語史上の言語変化は,確かに共時的な概念である「構造」においてとらえるのは難しいかもしれないが,だからといって「使用」に含めるのは妥当とは思えない.「使用」に属するものとして「地域変異」「個人変異」「社会変異」と同列に「時間変異」を設けるというのは,理論的には分からないでもないのだが,相当に質の異なる変異である.話者個人の一生内で起こる言語変化を扱う "Short term" のもつ,半ば通時的で半ば共時的な性質をちらつかせることで,「使用」と「変異」に引きつけようとしたのだろうが,数世紀にわたる "Long term" という時間幅について「使用」や「変異」を考えるのは苦しい,というのが率直な印象だ.
 これに続く第2章「英語史」をもって本書の展開が本格的に始まることを考えると,"Structure", "Use" と並んで,単純に "History" と置けばよいように思うのだが,いかがだろうか(英語史を専攻する者の欲目?).

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 3rd ed. Cambridge: CUP, 2019.

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2019-09-27 Fri

#3805. The Cambridge Encyclopedia of the English Language 第3版の Part I 「英語史」の目次 [toc][review][demography]

 Crystal による英語百科事典 The Cambridge Encyclopedia of the English Language が16年振りに改版された.新しい第3版の序文で,この15年の間に英語に関して多くのことが起こったと述べられているとおり,百科事典として,質も量も膨らんでいる.特に本文の2章から7章を構成する Part I は,120ページ近くに及ぶ英語史の話題の宝庫となっている.その部分の目次を眺めるだけでも楽しめる.以下に掲載しよう.

PART I The History of English
2 The Origins of English


3 Old English
   Early Borrowings
   Runes
   The Old English Corpus
   Literary Texts
   The Anglo-Saxon Chronicle
   Spelling
   Sounds
   Grammar
   Vocabulary
   Late Borrowings
   Dialects


4 Middle English
   French and English
   The Transition From Old English
   The Middle English Corpus
   Literary Texts
   Chaucer
   Spelling
   Sounds
   Grammar
   Vocabulary
   Latin borrowings
   Dialects
   Middle Scots
   The Origins of Standard English


5 Early Modern English
   Caxton
   Transitional Texts
   Renaissance English
   The Inkhorn Controversy
   Shakespeare
   The King James Bible
   Spelling and Regularization
   Punctuation
   Sounds
   Original Pronunciation
   Grammar
   Vocabulary
   The Academy Issue
   Johnson


6 Modern English
   Transition
   Grammatical Trends
   Prescriptivism
   American English
   Breaking the Rules
   Variety Awareness
   Scientific Language
   Literary Voices
   Dickens
   Recent Trends
   Current Trends
   Linguistic Memes


7 World English
   The New World
   American Dialects
   Canada
   Black English Vernacular
   Australia
   New Zealand
   South Africa
   West Africa
   East Africa
   South-East Asia and the South Pacific
   A World Language
   Numbers of Speakers
   Standard English
   The Future of English
   English Threatened and as Threat
   Euro-Englishes


 現代を扱う第7章の "World English" が充実している.たとえば英語話者の人口統計がアップデートされており,現時点での総計は23億人を少し超えているという (115) .ちなみに第2版での数字は20億だった.

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 3rd ed. Cambridge: CUP, 2019.

Referrer (Inside): [2019-10-05-1]

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2019-06-08 Sat

#3694. 朝尾 幸次郎(著)『英語の歴史から考える英文法の「なぜ」』 [sobokunagimon][review][toc][hel_education]

 今年3月に出版された朝尾 幸次郎(著)『英語の歴史から考える英文法の「なぜ」』が広く読まれているようだ.拙著の『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』(中央大学出版部,2011年)や『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』(研究社,2016年)と同趣旨の本ということもあり関心をもって手に取ってみたが,実に読みやすく,分かりやすい.
 内容をどこまで掘り下げているかという観点からいえば,この新刊書は浅掘りである.しかし,「まえがき」 (iv) にあるように,著者は英語史の事前知識を想定しないという立場をとっており,その趣旨からすると,むしろ詳しすぎない程度に記述を抑えているセンスは素晴らしいと言ってよいだろう.本書が手に取ってもらいやすい理由である.
 著者が実例を挙げることを重視したと述べているとおり,本文にも〈英文法こぼれ話〉にも,読者の興味を引く例が掲載されている.ところどころに,見事なキャッチフレーズやセンスの光る解説がみられる.「英語は歴史的かなづかい」のような言い方もその1つだ.
 以下に目次を付そう.章節のタイトルがそのまま素朴な疑問になっているものが多い.本ブログでも扱ってきた話題が多く取り上げられているので,ブログ内をキーワード検索などして記事も眺めていただければと思うが,同じ問題でも,人が変われば眺め方も変わるものである.本書の解説を読んでみて,私自身の手持ちの解説とは異なり,ナルホドと思ったケースも多々あった.是非ご一読を.



 1 英語の始まり
  1.1 ブリテン島の攻防
  1.2 現代英語
  1.3 近代英語
  1.4 中英語
  1.5 古英語
  〈英文法こぼれ話〉 日比谷公園のルーン文字
 2 「てにをは」はどこにある
  2.1 「は」はどこにある
  2.2 屈折の話
  2.3 英語は聞き取りにくい
  〈英文法こぼれ話〉 アポストロフィー大論争
 3 代名詞にだけ主格・目的格があるのはなぜ
  3.1 古い姿を残す1人称代名詞
  3.2 単数にも複数にも you を使うのはなぜ
  3.3 文法性を捨てた3人称代名詞
  3.4 同じ起源だった who, what, why
  3.5 主格と目的格のせめぎあい
  〈英文法こぼれ話〉 who と whom,どちらを使う
 4 屈折はなぜ消えた
  4.1 英語消滅の危機
  4.2 消えた屈折
  4.3 代名詞の they はどこから来た
  〈英文法こぼれ話〉 ポアロはことばの名探偵
 5 格はどこへ行った
  5.1 主語・目的語は何でわかる
  5.2 なぜ It's me. と言うのか
  5.3 なぜ There is/are と言うのか
  5.3 なぜ go home と言うのか
 6 〈3単現〉だけでない動詞の謎
  6.1 不規則動詞は例外か
  6.2 〈3単現〉に -(e)s をつけるのはなぜ
  6.3 be 動詞が無秩序なのはなぜ
  〈英文法こぼれ話〉 『トム・ソーヤーの冒険』に現れる古英語の〈3単現〉
 7 未来形はどこにある
  7.1 「未来形」の謎
  7.2 will が未来を表すのはなぜ
  7.3 shall が未来を表すのはなぜ
 8 仮定法は仮定を表すのか
  8.1 なじみの薄い「法」
  8.2 ものの見方・とらえ方
  8.3 従節に現れる仮定法現在
  8.4 影の薄い仮定法
  8.5 過去形で現在を表すのはなぜ
  8.6 命令文に動詞の原形を使うのはなぜ
 8 仮定法は仮定を表すのか
  9.1 can に〈3単現〉の -s をつけないのはなぜ
  9.2 仮定法の意味を担うようになった may
  9.3 なぜ must には過去形がないのか
  9.4 could, might の将来
 10 覚えきれない単語の謎
  10.1 英語史上最大の危機
  10.2 こんなに語彙が多いのはなぜ
  10.3 不思議な綴り字の謎
  〈英文法こぼれ話〉 U・V・W の謎
 11 前置詞 of の意味はなぜ混乱している
  11.1 「の」では理解できない
  11.2 前置詞 of が所有格の意味を表すのはなぜ
  11.3 所有格と of のどちらを使う
 12 英語は歴史的かなづかい
  12.1 母音を目で見る
  12.2 姿を変えた英語の母音
  12.3 規則的に不規則な英語の綴り字
  〈英文法こぼれ話〉 ghoti の謎
 13 A の謎:可算・不可算はどうして決まる
  13.1 数詞から生まれた不定冠詞
  13.2 可算・不可算はだれが決めた
  13.3 形あるもの・ないもの
  13.4 なぜ a few と言うのか
  〈英文法こぼれ話〉 歴史に残った不定冠詞のつけ忘れ
 14 定冠詞の謎:the はつけるの,つけないの
  14.1 指示代名詞から生まれた定冠詞
  14.2 認識の共有
  14.3 輪郭をつくる
  14.4 とりたて
  〈英文法こぼれ話〉 ハックルベリー・フィンとトム・ソーヤー
 15 関係代名詞に that と wh- があるのはなぜ
  15.1 that を接続詞に使うのはなぜ
  15.2 that, who, which, what を関係代名詞に使うのはなぜ
  15.3 関係代名詞は省略されたのか
  〈英文法こぼれ話〉 二重否定は肯定か
 16 that で程度・結果を表すのはなぜ
  16.1 なぜ so/such ... that と言うのか
  16.2 なぜ so that ... で結果・目的を表すのか
  16.3 なぜ that が「そんなに」と言う意味になるのか
 17 不定詞に to がつくのはなぜ
  17.1 なぜ「不定詞」と言うのか
  17.2 不定詞に to がつくのはなぜ
  17.3 疑問文・否定文に do/does/did が現れるのはなぜ
  〈英文法こぼれ話〉 明治時代の助動詞 do
 18 不定詞は何を表す:to 不定詞と原形不定詞
  18.1 to 不定詞の意味はどこから生まれる
  18.2 動名詞と to 不定詞,何が違う
  18.3 知覚動詞と使役動詞:原形不定詞を使うのはなぜ
 19 現在完了形に have を使うのはなぜ
  19.1 現在完了はなぜ〈have+過去分詞〉なのか
  19.2 完了・結果・経験・継続の意味になるのはなぜ
  19.3 なぜ have to という言い方をするのか
 20 進行形は進行を表すのか
  20.1 進行形はなぜ〈be+...ing〉なのか
  20.2 クローズアップで見せる進行形
  20.3 なぜ be going to という言い方をするのか

 あとがきに替えて――『オックスフォード英語辞典』を使う



 ・ 朝尾 幸次郎 『英語の歴史から考える英文法の「なぜ」』 大修館,2019年.

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